(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027995
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】粉末油脂組成物、加熱調理された菓子用生地の安定化剤、加熱調理された菓子用生地、及び加熱調理された菓子
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20230224BHJP
A23D 9/013 20060101ALI20230224BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20230224BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20230224BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20230224BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20230224BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23D9/013
A21D2/16
A21D2/14
A21D2/26
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133411
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】金子 翔
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG03
4B026DH03
4B026DH05
4B026DK01
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4B032DK21
4B032DK23
4B032DK41
4B032DP08
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、加熱調理された菓子用の生地の安定性を向上させる技術を提供することである。
【解決手段】本発明は、粉末油脂組成物であって、前記粉末油脂組成物が、第1の油脂と、乳蛋白質含有成分とを含む第1の粉末油脂を含み、前記第1の油脂が、ヤシ油及び/又はパーム核油を含み、前記粉末油脂組成物が、加熱調理された菓子用である、粉末油脂組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末油脂組成物であって、
前記粉末油脂組成物が、第1の油脂と、乳蛋白質含有成分とを含む第1の粉末油脂を含み、
前記第1の油脂が、ヤシ油及び/又はパーム核油を含み、
前記粉末油脂組成物が、加熱調理された菓子用である、
粉末油脂組成物。
【請求項2】
前記第1の油脂に対する前記乳蛋白質含有成分の質量比が0.12以上である、請求項1に記載の粉末油脂組成物。
【請求項3】
さらに、前記第1の粉末油脂が、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含み、
前記第1の油脂に対する前記モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの質量比が0.025以上である、請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物。
【請求項4】
さらに、前記粉末油脂組成物が、前記第1の粉末油脂とは異なる第2の粉末油脂を含み、
前記第2の粉末油脂が、第2の油脂を含み、
前記第2の油脂が、20℃で液状の油脂である、
請求項1から3のいずれかに記載の粉末油脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の粉末油脂組成物を含む、加熱調理された菓子用生地の安定化剤。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の粉末油脂組成物を含む、加熱調理された菓子用生地。
【請求項7】
請求項6に記載の生地から得られた、加熱調理された菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂組成物、加熱調理された菓子用生地の安定化剤、加熱調理された菓子用生地、及び加熱調理された菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末油脂は、液状又は固形状の油脂と比較して、他の粉体原料や水と混合しやすく、乳化を必要としない等の利点を持つため、幅広い分野で利用されている。
粉末油脂は、例えば、各種食品等に配合され得る(例えば、特許文献1乃至4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04-88939号公報
【特許文献2】特開2007-289116号公報
【特許文献3】特開2017-158499号公報
【特許文献4】特開2017-205059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者は、加熱調理された菓子(ケーキ等)において、その生地の材料として粉末油脂等の油脂製品を配合した場合、該生地中から気泡が抜けやすくなる恐れがあることを見出した。
さらに、本発明者は、生地から気泡が抜けると、気泡が残った層と、気泡が抜けた層とに分かれやすく、生地の安定性を害し得ることも併せて見出した。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、加熱調理された菓子用の生地の安定性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定の油脂及び乳蛋白質含有成分を含む粉末油脂によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) 粉末油脂組成物であって、
前記粉末油脂組成物が、第1の油脂と、乳蛋白質含有成分とを含む第1の粉末油脂を含み、
前記第1の油脂が、ヤシ油及び/又はパーム核油を含み、
前記粉末油脂組成物が、加熱調理された菓子用である、
粉末油脂組成物。
【0008】
(2) 前記第1の油脂に対する前記乳蛋白質含有成分の質量比が0.12以上である、(1)に記載の粉末油脂組成物。
【0009】
(3) さらに、前記第1の粉末油脂が、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含み、
前記第1の油脂に対する前記モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの質量比が0.025以上である、(1)又は(2)に記載の粉末油脂組成物。
【0010】
(4) さらに、前記粉末油脂組成物が、前記第1の粉末油脂とは異なる第2の粉末油脂を含み、
前記第2の粉末油脂が、第2の油脂を含み、
前記第2の油脂が、20℃で液状の油脂である、
(1)から(3)のいずれかに記載の粉末油脂組成物。
【0011】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の粉末油脂組成物を含む、加熱調理された菓子用生地の安定化剤。
【0012】
(6) (1)から(4)のいずれかに記載の粉末油脂組成物を含む、加熱調理された菓子用生地。
【0013】
(7) (6)に記載の生地から得られた、加熱調理された菓子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加熱調理された菓子用の生地の安定性を向上させる技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0016】
<粉末油脂組成物>
本発明の粉末油脂組成物は、粉末油脂組成物であって、該粉末油脂組成物が、第1の油脂と、乳蛋白質含有成分とを含む第1の粉末油脂を含み、該第1の油脂が、ヤシ油及び/又はパーム核油を含み、該粉末油脂組成物が、加熱調理された菓子用である。
本発明の粉末油脂組成物は、第1の粉末油脂のみからなるものであってもよく、第1の粉末油脂にくわえ、その他の成分(例えば、後述する第2の粉末油脂等)を含むものであってもよい。
【0017】
本発明者は、意外にも、上記の第1の粉末油脂によれば、加熱調理された菓子用の生地の安定性を向上させることができる点を見出した。その理由は定かではないが以下のように推察される。
第1の油脂、すなわちヤシ油やパーム核油は、トリグリセリドの構成脂肪酸としてラウリン酸を多く含むことが知られる。
本発明者は、このような油脂から得られる粉末油脂を菓子用の生地に配合すると、該生地の耐熱性を向上させることができるという知見を見出した。生地の耐熱性が高いほど、加熱による脱泡(生地から気泡が抜けること)が抑制されるため、生地の安定性が向上する。
したがって、本発明は、主に、粉末油脂を構成する油脂の作用により生地の安定性向上効果を奏するものと推察される。
また、上記の作用は、第1の粉末油脂にモノグリセリン有機酸脂肪酸エステルが含まれる場合や、第1の粉末油脂と第2の粉末油脂とを組み合わせて用いた場合等に、より増強されることが併せて見出された。
【0018】
本発明において、「加熱調理された菓子」とは、加熱処理を含む調理方法によって得られる菓子を意味する。
【0019】
本発明において、「加熱調理された菓子用の生地」とは、菓子の調理方法における、加熱処理の対象を意味する。該生地を加熱処理に供することで、加熱調理された菓子が得られる。
【0020】
本発明において、「加熱調理された菓子用の生地の安定性を向上させる」とは、本発明の粉末油脂組成物を生地に配合することで、該生地における排液量(脱泡した生地量)が、本発明の粉末油脂組成物を該生地に配合しない場合と比較して少ないことを意味する。
【0021】
加熱調理された菓子用の生地の安定性は、実施例に示した方法(排液量の測定)で特定できる。
【0022】
本発明によれば、加熱調理された菓子用の生地の安定性だけではなく、該生地のキメをも向上させ得る。
本発明において、「加熱調理された菓子用の生地のキメを向上させる」とは、本発明の粉末油脂組成物を加熱調理された菓子用の生地に配合することで、該生地におけるキメが、本発明の粉末油脂組成物を該生地に配合しない場合と比較して良好であることを意味する。
【0023】
加熱調理された菓子用の生地のキメは、実施例に示した方法(色差の測定)で特定できる。
【0024】
以下、本発明の粉末油脂組成物の構成について詳述する。
【0025】
(第1の粉末油脂)
第1の粉末油脂は、第1の油脂と、乳蛋白質含有成分とを含む。第1の粉末油脂は、第1の油脂と、乳蛋白質含有成分とからなるものであってもよく、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0026】
本発明の粉末油脂組成物に含まれる第1の粉末油脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
[第1の油脂]
第1の油脂は、ヤシ油及び/又はパーム核油を含む。ヤシ油及びパーム核油のいずれも、ラウリン酸の含有量が高い油脂として知られる。
第1の油脂は、ヤシ油及び/又はパーム核油からなるものであってもよく、さらに別の油脂を含んでいてもよい。
第1の油脂は、好ましくは、ヤシ油及び/又はパーム核油からなる。
【0028】
ヤシ油とは、ココヤシの果実から得られる油脂である。
ヤシ油としては、未加工のヤシ油であってもよく、加工されたヤシ油であってもよい。
ヤシ油の加工方法としては、分別、硬化、エステル交換等が挙げられる。ヤシ油に対しては1種又は2種以上の加工を行ってもよい。
【0029】
加工されたヤシ油としては、ヤシ硬化油(ヤシ極度硬化油等)、ヤシ分別油、ヤシ油のエステル交換油等が挙げられる。これらのうち、本発明の効果が奏されやすいという観点からヤシ硬化油が好ましく、ヤシ極度硬化油がより好ましい。
【0030】
パーム核油とは、アブラヤシの種子から得られる油脂である。
パーム核油としては、未加工のパーム核油であってもよく、加工されたパーム核油であってもよい。
パーム核油の加工方法としては、分別、硬化、エステル交換等が挙げられる。パーム核油に対しては1種又は2種以上の加工を行ってもよい。
【0031】
加工されたパーム核油としては、パーム核硬化油(パーム核極度硬化油等)、パーム核分別油、パーム核油のエステル交換油等が挙げられる。これらのうち、本発明の効果が奏されやすいという観点から、パーム核硬化油(パーム核極度硬化油)やパーム核極度硬化油のエステル交換油が好ましく、パーム核極度硬化油がより好ましい。
【0032】
第1の粉末油脂における、ヤシ油及び/又はパーム核油の含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、ヤシ油及び/又はパーム核油の含有量の下限は、第1の粉末油脂に対して、好ましくは15.0質量%以上、より好ましくは25.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、ヤシ油及び/又はパーム核油の含有量の上限は、第1の粉末油脂に対して、好ましくは60.0質量%以下、より好ましくは50.0質量%以下である。
なお、第1の粉末油脂に、ヤシ油及びパーム核油の両方が配合される場合、その配合比は特に限定されず、ヤシ油及びパーム核油の総量が上記範囲内であればよい。
【0033】
[第1の粉末油脂における乳蛋白質含有成分]
乳蛋白質含有成分は、第1の粉末油脂における粉末化基材に相当し、粉末油脂の構造(カプセル型構造等)の形成や、粉末油脂の乳化安定性の維持に寄与する。
【0034】
乳蛋白質含有成分は、特に限定されないが、乳蛋白質そのものであってもよく、乳蛋白質とともに乳蛋白質以外を含む成分であってもよい。
乳蛋白質そのものとしては、カゼインタンパク、ホエイタンパク等が挙げられる。
乳蛋白質とともに乳蛋白質以外を含む成分としては、乳構成蛋白質(カゼインナトリウム、カゼインカリウム等)及びその酵素分解物(乳ペプチド等)、ミルクプロテインコンセントレート、トータルミルクプロテイン、並びにこれらの加水分解物等が挙げられる。
乳蛋白質含有成分としては、上記のうち、カゼインナトリウム、乳ペプチドが好ましい。
【0035】
乳蛋白質含有成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
第1の粉末油脂における、乳蛋白質含有成分の含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳蛋白質含有成分の含有量の下限は、第1の粉末油脂に対して、好ましくは4.0質量%以上、より好ましくは6.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳蛋白質含有成分の含有量の上限は、第1の粉末油脂に対して、好ましくは14.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下である。
なお、第1の粉末油脂に、複数の種類の乳蛋白質含有成分が配合される場合、その配合比は特に限定されず、乳蛋白質含有成分の総量が上記範囲内であればよい。
【0037】
本発明において「乳蛋白質含有成分の含有量」とは、正味の乳蛋白質の含有量を意味する。
例えば、乳蛋白質含有成分として、乳蛋白質とともに乳蛋白質以外を含む成分を使用する場合、乳蛋白質量として換算した値が上記乳蛋白質含有成分の含有量の範囲内であればよい。
【0038】
[第1の粉末油脂におけるその他の成分]
第1の粉末油脂に含まれ得るその他の成分としては、粉末油脂に通常配合され得る任意の成分が挙げられる。
このような成分としては、乳化剤、糖質、水、乳蛋白質以外の乳由来原料、香料、抗酸化剤等が挙げられる。
【0039】
[[乳化剤]]
第1の粉末油脂に乳化剤が含まれていると、粉末油脂の乳化安定性を向上させやすいという観点から好ましい。
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等が挙げられる。
乳化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記のうち、第1の粉末油脂にモノグリセリン有機酸脂肪酸エステルが含まれていると、加熱調理された菓子用の生地の安定性をより向上させ得るという観点から好ましい。
モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等が挙げられる。
【0041】
第1の粉末油脂における、乳化剤の含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳化剤の含有量の下限は、第1の粉末油脂に対して、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは7.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳化剤の含有量の上限は、第1の粉末油脂に対して、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは18.0質量%以下である。
なお、第1の粉末油脂に、複数の種類の乳化剤が配合される場合、その配合比は特に限定されず、乳化剤の総量が上記範囲内であればよい。
【0042】
第1の粉末油脂における、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの含有量の下限は、第1の粉末油脂に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの含有量の上限は、第1の粉末油脂に対して、好ましく7.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
なお、第1の粉末油脂に、複数の種類のモノグリセリン有機酸脂肪酸エステルが配合される場合、その配合比は特に限定されず、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの総量が上記範囲内であればよい。
【0043】
[[糖質]]
糖質としては、特に限定されないが、例えば、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、多糖類(デキストリン、デンプン等)、増粘多糖類、糖アルコール等が挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、多糖類(デキストリン、デンプン等)が好ましく、デキストリンがより好ましい。
【0044】
デキストリンは、デンプンを化学的又は酵素的方法により低分子化したデンプン部分加水分解物であり、市販品等を使用できる。デキストリンの原料としては、例えば、植物(コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦等)由来のデンプンが挙げられる。
デキストリンとして、具体的には、水あめ、粉あめ、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、焙焼デキストリン、分岐サイクロデキストリン、難消化性デキストリン等が挙げられる。
デキストリンのDEは、特に限定されないが、5以上40以下であってもよい。
乾燥粉末化前の乳化液の粘度の増加を抑制でき、良好な粉末油脂を得やすいという観点から、デキストリンのDEは10以上35以下が好ましい。
【0045】
本発明において「DE(Dextrose Equivalent)」とは、デキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標であり、デキストリン中の還元糖の含有量(単位:%)を示す値である。DE値が大きいほど、デキストリンの鎖長が短いことを意味する。DE値はウィルシュテッターシューデル法により測定することができる。
【0046】
デンプンとしては、例えば、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプン等が挙げられる。
カルボキシメチルデンプンとしては、原料(コーン、ワキシーコーン、馬鈴薯、タピオカ等)をエーテル化処理したものが挙げられる。
【0047】
増粘多糖類としては、例えば、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン等が挙げられる。
【0048】
[[水]]
第1の粉末油脂中には水分が含まれていてもよいが、含まれていなくともよい。第1の粉末油脂中に水分が含まれている場合、その含量は、第1の粉末油脂全体に対して、好ましくは5.0質量%以下である。
【0049】
(第1の粉末油脂における各成分の配合比)
本発明の効果をより奏しやすくする観点から、第1の粉末油脂の構成成分は以下のいずれか、又は全てを満たすように調整することが好ましい。
【0050】
加熱調理された菓子用の生地の安定性だけではなく、該生地のキメをも向上させ得るという観点から、第1の油脂に対する乳蛋白質(正味の乳蛋白質の含有量)の質量比(乳蛋白質/第1の油脂)は、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.12以上、さらに好ましくは0.17以上である。
第1の油脂に対する乳蛋白質(正味の乳蛋白質の含有量)の質量比の上限は特に限定されないが、好ましくは0.30以下である。
【0051】
加熱調理された菓子用の生地の安定性だけではなく、該生地のキメをも向上させ得るという観点から、第1の油脂に対するモノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの質量比(モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル/第1の油脂)は、好ましくは0.025以上、より好ましくは0.040以上である。
第1の油脂に対するモノグリセリン有機酸脂肪酸エステルの質量比の上限は特に限定されないが、好ましくは0.075以下である。
【0052】
(第1の粉末油脂の製造方法)
第1の粉末油脂は、粉末油脂の製造方法として知られる任意の方法によって製造することができる。
【0053】
粉末油脂の製造方法としては、例えば、水相と、油相とを含む乳化物を調製し、該乳化物を乾燥させる方法が挙げられる。水相及び油相は、各相を構成する成分を、撹拌機等を用いて適宜混合撹拌することで得られる。
【0054】
乳化物は、水相及び油相から乳化物を製造できる任意の方法によって得られる。このような方法としては、水相を撹拌しながら油相を添加する方法、油相を撹拌しながら水相を添加する方法、水相及び油相を同時に添加して混合する方法等が挙げられる。
乳化物を、適宜、均質化工程、及び加熱殺菌工程等に供した後、乾燥工程に供することで粉末油脂が得られる。
【0055】
乳化物を構成する原材料の配合順序等は、特に限定されない。
例えば、水相は、水溶性成分(乳蛋白質や糖質等)を、室温で水に分散後、加熱しながら撹拌するか、又は、水溶性成分を加熱した水に分散及び撹拌することで得られる。
次いで、得られた水相を、撹拌槽に設置された撹拌装置(ホモミキサー等)で撹拌しながら、加熱溶解させた油相を滴下することで乳化物が得られる。
通常は、第1の油脂は油相に分布し、乳蛋白質含有成分は水相に分布する。
【0056】
乳化物の均質化は、乳化物を圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズを微細化すること等を包含する。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、30~250kgf/cm2程度の圧力を乳化物にかけて均質化し、油滴サイズを微細化してもよい。
【0057】
乳化物の乾燥方法としては、水分を乾燥させること(つまり水分含量を低下させること)ができる通常の方法を用いることができ、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等が挙げられる。これらのうち、製造の簡便さと製造コストの安さの観点、及び得られる粉末油脂の粒子サイズが均一になりやすいため固結しづらいという観点から噴霧乾燥が好ましい。
【0058】
乳化物を噴霧乾燥によって乾燥粉末化する場合には、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧してもよい。かかる場合、噴霧乾燥された粉末は、噴霧乾燥機の槽内底部に堆積されるので、該粉末を取り出すことによって、粉末油脂を製造することができる。
噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。
【0059】
乳化物の形態は、粉末油脂を調製可能な形態であれば特に限定されないが、例えば、水中油型(O/W)乳化物、水中油中水型(W/O/W)乳化物等が挙げられる。第1の粉末油脂の製造に際して調製する乳化物は、粉末油脂の保存安定性を高めやすいという観点から、水中油型乳化物が好ましい。
水中油型乳化物を乾燥した場合、乾燥乳化物の再溶解時の油滴のメディアン径は、好ましくは0.3~2μmであり、より好ましくは0.5~1.5μmである。
【0060】
乳化物の組成は、水分含量が高い点以外は、粉末油脂と同様である。
乳化物において、水とその他の原材料との配合比は、特に限定されないが、例えば、乳化物を構成する水分以外の合計量100質量部に対して、水を50質量部以上200質量部以下に調整してもよい。
【0061】
[水相]
乳化物を構成する水相には、水性溶媒(水等)、及び、第1の粉末油脂を構成する水溶性成分(乳蛋白質含有成分等)が少なくとも含まれる。
【0062】
水相の組成は、最終的に得られる第1の粉末油脂の組成が上記の要件を満たすように設定すればよく、水性溶媒、及び、第1の粉末油脂を構成する水溶性成分が含まれていれば特に限定されない。水相の組成は水性溶媒の含量に応じて大きく変動し得るため、水相の各成分の含量は、油相(特に、油相中の油脂)の総量に対して設定してもよい。
【0063】
乳化物作製の際における、水性溶媒とその他の原材料との配合比は、特に限定されないが、例えば、乳化物を構成する全成分において、水性溶媒以外の全ての原材料の合計量100質量%に対して水性溶媒を50質量%以上200質量%以下の範囲内にすることができる。
【0064】
[油相]
油相の組成は、最終的に得られる第1の粉末油脂の組成が上記の要件を満たすように設定すればよく、第1の油脂が含まれていれば特に限定されない。油相には、第1の油脂以外の成分(第1の油脂以外の油脂、油溶性成分等)が含まれていてもよい。
【0065】
第1の油脂の製造に際して調製する乳化物において、水相と油相との割合(質量比)は、好ましくは、水相:油相=60:40~80:20である。
【0066】
(粉末油脂組成物のその他の成分)
本発明の粉末油脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、第2の粉末油脂(後述する。)、乳化脂、流動状ショートニング、起泡剤等を含んでいてもよい。これらの成分の種類や配合量は、得ようとする効果等に応じて適宜選択できるが、後述する第2の油脂を含むことが好ましい。
これらの成分は、加熱調理された菓子用生地の製造工程における任意の工程で、生地に配合すればよい。
例えば、生地の製造工程において、これらの成分と第1の粉末油脂とを別々に配合してもよく、これらの成分を、第1の粉末油脂と予め混合してから(つまり、第1の粉末油脂と同時に)配合してもよい。
【0067】
(第2の粉末油脂)
本発明の粉末油脂組成物は、第1の粉末油脂にくわえ、その他の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、第1の粉末油脂とは異なる第2の粉末油脂が挙げられる。
【0068】
第2の粉末油脂は、第2の油脂を含む。本発明の粉末油脂組成物がこのような第2の粉末油脂を含むことで、加熱調理された菓子用の生地の安定性がより高まりやすくなる。
第2の粉末油脂は、第2の油脂からなるものであってもよく、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0069】
本発明の粉末油脂組成物に含まれる第2の粉末油脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
[第2の油脂]
第2の油脂は、20℃で液状の油脂であり、第1の油脂とは異なる油脂である。
【0071】
第2の油脂としては、ナタネ油、パーム分別軟質油、大豆油、亜麻仁油、エゴマ油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、乳脂分別軟質油等が挙げられる。
第2の油脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
第2の粉末油脂における、第2の油脂の含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、第2の油脂の含有量の下限は、第2の粉末油脂に対して、好ましくは30.0質量%以上、より好ましくは40.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、第2の油脂の含有量の上限は、第2の粉末油脂に対して、好ましくは65.0質量%以下、より好ましくは55.0質量%以下である。
なお、第2の粉末油脂に、複数の種類の第2の油脂が配合される場合、その配合比は特に限定されず、第2の油脂の総量が上記範囲内であればよい。
【0073】
[第2の粉末油脂における乳蛋白質含有成分]
第2の粉末油脂には、必要に応じて乳蛋白質含有成分が含まれていてもよい。
第2の粉末油脂に含まれる乳蛋白質含有成分としては、上記[第1の粉末油脂における乳蛋白質含有成分]と同様のものを使用できる。
【0074】
第2の粉末油脂における、乳蛋白質含有成分の含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳蛋白質含有成分の含有量の下限は、第2の粉末油脂に対して、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳蛋白質含有成分の含有量の上限は、第2の粉末油脂に対して、好ましくは13.0質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下である。
【0075】
[第2の粉末油脂におけるその他の成分]
第2の粉末油脂には、上記[第1の粉末油脂におけるその他の成分]と同様の成分が含まれていてもよい。
【0076】
第2の粉末油脂には乳化剤が含まれていてもよく、その含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳化剤の含有量の下限は、第2の粉末油脂に対して、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上、さらに好ましくは15.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、乳化剤の含有量の上限は、第2の粉末油脂に対して、好ましくは30.0質量%以下、より好ましくは25.0質量%以下である。
【0077】
(第2の粉末油脂の製造方法)
第2の粉末油脂は、上記(第1の粉末油脂の製造方法)と同様に製造できる。
【0078】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の粉末油脂組成物の製造方法は特に限定されず、粉末油脂組成物を構成する各成分を任意の順序で混合、撹拌等することで得られる。
ただし、粉末油脂組成物が第1の粉末油脂のみからなる場合、第1の粉末油脂自体が粉末油脂組成物に相当する。
【0079】
本発明の粉末油脂組成物における第1の粉末油脂の含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、第1の粉末油脂の含有量の下限は、粉末油脂組成物に対して、好ましくは20.0質量%以上、より好ましくは40.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、第1の粉末油脂の含有量の上限は、粉末油脂組成物に対して、好ましくは100質量%以下、より好ましくは70.0質量%以下である。
なお、粉末油脂組成物に、複数の種類の第1の粉末油脂が配合される場合、その配合比は特に限定されず、第1の粉末油脂の総量が上記範囲内であればよい。
【0080】
本発明の粉末油脂組成物に第1の粉末油脂及び第2の粉末油脂が含まれる場合、その配合比は特に限定されない。
本発明の粉末油脂組成物における、第1の粉末油脂と第2の粉末油脂との割合(質量比)は、好ましくは、第1の粉末油脂:第2の粉末油脂=3:1~1:5であり、より好ましくは、第1の粉末油脂:第2の粉末油脂=2:1~1:4である。
なお、粉末油脂組成物に、複数の種類の第2の粉末油脂が配合される場合、その配合比は特に限定されず、第2の粉末油脂の総量が上記比率を満たせばよい。
【0081】
<粉末油脂組成物の用途>
本発明の粉末油脂組成物は、加熱調理された菓子用の生地に配合することで、該生地の安定性を向上させ、さらにはキメをも向上させ得る。
生地としては、加熱調理された菓子の製造に用いることが知られる任意のものを使用でき、その組成や製法は特に限定されない。
【0082】
本発明の粉末油脂組成物を配合した生地を加熱調理することで、加熱調理された菓子が得られる。
加熱処理としては、焼成、蒸し、揚げ等が挙げられる。
【0083】
加熱調理された菓子の種類は特に限定されないが、焼き菓子、蒸し菓子、揚げ菓子等が挙げられる。
【0084】
焼き菓子としては特に限定されないが、ケーキ(スポンジケーキ、パウンドケーキ、バターケーキ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフル等)、クッキー、ビスケット、パイ、プリン等が挙げられる。
【0085】
蒸し菓子としては特に限定されないが、蒸しケーキ等が挙げられる。
【0086】
揚げ菓子としては特に限定されないが、ケーキドーナツ等が挙げられる。
【0087】
本発明の効果が特に奏されやすいという観点から、本発明の粉末油脂組成物を配合する生地は、ケーキ用の生地であることが好ましい。
【0088】
本発明の粉末油脂組成物を配合する生地には、加熱調理された菓子の材料として知られる任意の材料が含まれていてもよい。
このような材料としては、穀粉、糖質、乳、乳製品、蛋白質、卵(全卵、黄身、白身)、卵加工品、ベーキングパウダー、水、塩類、乳化剤、本発明の粉末油脂以外の粉末油脂、イースト(酵母)、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、アーモンドパウダー、ココナッツパウダー、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバー等が挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0089】
穀粉としては、特に限定されないが、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉、焙煎小麦粉等)、大麦粉、全粒粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、雑穀(アワ、ヒエ、アマランサス等)、ジャガイモ粉、大豆粉等が挙げられる。
【0090】
糖質としては、特に限定されないが、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、甘味料として知られる糖質(オリゴ糖、糖アルコール、ステビア、アスパルテーム等)、多糖類(デンプン、デンプン分解物、難消化性デキストリン)等が挙げられる。
【0091】
乳としては、牛乳、アーモンドミルク、ココナッツミルク、ライスミルク、オーツミルク等が挙げられる。
【0092】
乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、醗酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)、ホエイプロテインコンセントレート(WPC)、ホエイプロテインアイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。
【0093】
蛋白質としては、植物蛋白質(大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、ソラ豆蛋白質、小麦蛋白質等)等が挙げられる。
【0094】
本発明の粉末油脂組成物を配合する生地は、穀粉を含むことが好ましい。穀粉を含む生地は、生地からの脱泡が認められやすいところ、本発明によれば、加熱時の生地からの脱泡を抑制でき、生地の安定性が高まる。
【0095】
生地中の本発明の粉末油脂組成物の含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、本発明の粉末油脂組成物の含有量の下限は、生地に対して、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、本発明の粉末油脂組成物の含有量の上限は、生地に対して、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下である。
【0096】
生地中に穀粉が含まれる場合、その含有量は特に限定されない。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、穀粉の含有量の下限は、生地に対して、好ましくは18.0質量%以上、より好ましくは20.0質量%以上である。
本発明の効果が奏されやすいという観点から、穀粉の含有量の上限は、生地に対して、好ましくは35.0質量%以下、より好ましくは33.0質量%以下である。
【0097】
<加熱調理された菓子用生地の安定化剤>
本発明は、本発明の粉末油脂組成物を含む、加熱調理された菓子用生地の安定化剤を包含する。該安定化剤によれば、加熱調理された菓子用の生地に配合することで、該生地の安定性を向上させることができる。
該安定化剤は、本発明の粉末油脂組成物からなるものであってもよい。
【0098】
<加熱調理された菓子用生地>
本発明は、本発明の粉末油脂組成物を含む、加熱調理された菓子用生地を包含する。
【0099】
<加熱調理された菓子用生地>
本発明は、本発明の加熱調理された菓子用生地から得られた、加熱調理された菓子を包含する。
【実施例0100】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
<粉末油脂組成物の作製>
各粉末油脂組成物は、以下の方法で作製した。
(1)油脂を70℃に調温後、(組成に含まれる場合)乳化剤を添加し、油相を調製した。
(2)水を60℃に調温後、(組成に含まれる場合)乳蛋白質含有成分、及びデキストリンを添加し、水相を調製した。
(3)水相を60℃に維持し、水相をホモミキサーで撹拌しながら油相の全量を添加し、水中油型に乳化させた。この操作により、表1の全配合100質量部に対し、50質量部の水が入った乳化液を得た。
(4)得られた乳化液を、圧力式ホモジナイザーを用いて150kg/cm2の圧力で処理し、均質化させた。
(5)均質化させた乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することにより粉末化して粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。なお、表1及び2はスプレードライ後の粉末油脂の配合組成を示す。
【0102】
表1及び2中、「粉末油脂中の乳蛋白総量」の欄には、粉末油脂中の正味の乳蛋白質の含有量の総量を示した。
表1及び2中、「乳蛋白質/第1の油脂」の欄には、「第1の油脂」の含有量に対する「粉末油脂中の乳蛋白総量」の質量比を示した。
表1及び2中、「有機酸MG/第1の油脂」の欄には、「第1の油脂」の含有量に対する「モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル」の含有量の質量比を示した。
【0103】
<スポンジケーキ用の生地の作製>
上記で得られた各粉末油脂組成物を用いて、下記の方法によりスポンジケーキ用の生地を作製した。使用した粉末油脂組成物と、得られたスポンジケーキ用の生地との対応関係は、表3乃至6に示すとおりである。
【0104】
全卵150質量部、薄力粉100質量部、砂糖110質量部、粉末油脂組成物25.0質量部、ベーキングパウダー1質量部、水30質量部をミキサーボールに投入し、ミキサー(商品名「KitchenAid KSM5WH」、株式会社エフ・エム・アイ社製)によって、speed4で6~8分間撹拌し、スポンジケーキ用の生地を得た。
得られたスポンジケーキ用の生地(未焼成)及びスポンジケーキ(焼成後)を、以下の評価に供した。
【0105】
ただし、「実施例33」においては、粉末油脂組成物25.0質量部の代わりに、粉末油脂組成物12.5質量部及び、乳化脂10.0質量部を用いた。
「比較例1」においては、粉末油脂組成物25.0質量部の代わりに、乳化脂10.0質量部を用いた。
【0106】
<スポンジケーキ用の生地の評価>
各スポンジケーキ(加熱調理された菓子に相当する。)用の生地(未焼成)について、生地の安定性を、以下に基づき評価した。
【0107】
(スポンジケーキ用の生地の安定性の評価)
各スポンジケーキ用の生地(未焼成)をメスシリンダーに100g流し入れ、次いで、65℃で90分間静置し、気泡が抜けた生地の体積を測定し、これを排液量(ドレイン量)として特定した。なお、排液量は、静置開始後30分、60分、90分経過後の各時点で測定した。
排液量の測定結果を、表3乃至6の「排液量」の欄に示す。
【0108】
また、排液量の多寡は、生地の安定性の指標であり、排液量が少ないほど生地の安定性が高いことを意味する。
そこで、下記の評価基準に基づき、生地の安定性を評価した。その結果を、表3乃至6の「生地の安定性」の欄に示す。
【0109】
[評価基準]
◎:いずれの測定時点においても、排液量が0ml超30ml以下(生地に対して20.0質量%以下)である。
○:いずれかの測定時点において、排液量が30ml超50ml以下(生地に対して20.0質量%超33.0質量%以下)である。
△:いずれかの測定時点において、排液量が50ml超70ml以下(生地に対して33.0質量%超46.0質量%以下)である。
×:いずれかの測定時点において、排液量が70ml超(生地に対して46.0質量%超)である。
【0110】
<スポンジケーキの焼成>
上記で得られた各スポンジケーキ用の生地(350g)を、6号丸型に入れて170℃のオーブンで、38分間焼成し、スポンジケーキを得た。
各スポンジケーキ(焼成後)について、キメを、以下に基づき評価した。
【0111】
(スポンジケーキのキメの評価)
ハンター白色度試験に基づき、反射測定用セルに、スポンジケーキ(焼成後)を5.0g入れ、分光色差計(商品名「Spectrophotometer SE6000」、日本電色工業株式会社)によってスポンジケーキの明度(L*)及び色度(b*)を測定した。
測定は反射条件にて行い、光源はD65、視野は2°に設定した。
各スポンジケーキの「L*」及び「b*」の値を表3乃至6に示す。
【0112】
また、「L*」の値が高く、かつ「b*」の値が低いほど、キメが細かくなり得る。したがって、「L*」の値から「b*」の値を引いた値(「L*-b*」)が高いほど、生地のキメが細かいことを意味する。
そこで、各スポンジケーキにおける「L*-b*」に関する下記の評価基準に基づき、生地のキメを評価した。
その結果を、表3乃至6の「スポンジケーキのキメ」の欄に示す。
【0113】
[評価基準]
◎:「L*-b*」が53超である。
○:「L*-b*」が48超53以下である。
△:「L*-b*」が43超48以下である。
×:「L*-b*」が43以下である。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
表3乃至5に示されるとおり、本発明の要件を全て満たす粉末油脂組成物を含む生地は、生地の安定性が優れていた。さらに、本発明の要件を全て満たす粉末油脂組成物を含む生地は、スポンジケーキのキメも優れていた。
【0121】
他方で、本発明の要件を満たさない粉末油脂組成物を含む生地は、生地の安定性に劣り、さらにはスポンジケーキのキメも劣っていた。