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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028003
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】油圧ブレーカ用バルブアジャスタ
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20230224BHJP
   F16K 3/24 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
E02F9/22 P
F16K3/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133433
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】594149398
【氏名又は名称】古河ロックドリル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】戸村 光宏
(72)【発明者】
【氏名】原 秀治
【テーマコード(参考)】
2D003
3H053
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB04
2D003BA01
2D003BA02
2D003BB01
3H053AA25
3H053BA03
3H053BB02
3H053CA05
3H053DA11
(57)【要約】
【課題】油圧ブレーカの運転圧力を容易に仕様圧力に設定し得る油圧ブレーカ用バルブアジャスタを提供する。
【解決手段】バルブアジャスタ40は、ブレーカ本体10側で低圧回路127に接続される排出通路128に介装されるスリーブ50と、スリーブ50に軸方向での螺合位置を調整可能に内装されるアジャスタ60と、を有し、スリーブ50先端の絞り部61が排出通路128内に位置するように装着されるとともに絞り部61がプラグ50の絞り流路部51を開閉する位置に配置され、アジャスタ60の螺合位置を軸方向で調整することにより、絞り流路部51の開口量を変えるように構成され、絞り流路部51は、複数段階の流路が軸方向に離隔して設けられ、アジャスタ60の螺合位置に応じて、スリーブ50に設けられた複数段階の絞り流路部51が順に連通して低圧回路127への通過流量を段階的に変えるように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から供給される圧油の油量を調整するためにブレーカ本体に装着される油圧ブレーカ用バルブアジャスタであって、
前記ブレーカ本体側で低圧回路に接続する連通路に介装される円筒状のスリーブと、該スリーブに軸方向での螺合位置を調整可能に螺着されるアジャスタと、を有し、
前記スリーブは、自身先端に複数段階の絞り流路が軸方向に離隔し且つ絞り流路相互の間では非連通部が形成されるとともに、該複数段階の絞り流路が前記連通路内に位置するように前記ブレーカ本体に装着され、
前記アジャスタは、前記螺合位置に応じて、自身先端の絞り部が前記複数段階の絞り流路による各段の流路を順に連通させて前記低圧回路への通過流量を段階的に変えるように構成されている油圧ブレーカ用バルブアジャスタ。
【請求項2】
前記複数段階の流路の各段は、前記スリーブの軸方向の移動によっていずれか一の段からこれに隣り合ういずれか他の段へと前記低圧回路への連通状態が移行するときには、前記アジャスタの軸方向移動量が、前記プラグに対する前記アジャスタの螺合位置が一回転以上の回転移動をした位置となるように設定されている請求項1に記載の油圧ブレーカ用バルブアジャスタ。
【請求項3】
前記スリーブ先端に設けられた複数段階の絞り流路の各段は、各段での同周上の位置にて周方向に離隔して径方向に通ずる複数の連通孔の組によって構成されている請求項1または2に記載の油圧ブレーカ用バルブアジャスタ。
【請求項4】
前記スリーブの基端部には、前記スリーブに対する軸方向での自身の螺合位置が調整されたときに、前記複数段階の絞り流路の各段の連通位置に対応して前記スリーブの基端部から順に突設されて視認可能な位置に、各段の設定位置を示す目印が軸方向に並んで設けられている請求項1~3のいずれか一項に記載の油圧ブレーカ用バルブアジャスタ。
【請求項5】
前記複数段階の絞り流路は、前記プラグの先端面での第一の同周上の位置に冠状に形成された第一段流路と、該第一段流路よりも軸方向基端側に離隔した第二の同周上の位置に設けられた第二段流路と、該第二段流路よりも軸方向基端側に離隔した第三の同周上の位置に設けられた第三段流路と、を有するとともにこれら三段の流路相互の間には流路を有しない請求項1~4のいずれか一項に記載の油圧ブレーカ用バルブアジャスタ。
【請求項6】
前記第一段流路は、前記スリーブに対して前記スリーブが最も締めこまれた位置にあっても、前記プラグの絞り流路による前記低圧回路への通過流量を全閉とはしない最小流量を維持するように形成されている請求項5に記載の油圧ブレーカ用バルブアジャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ブレーカに係り、特に、この種の油圧ブレーカの作動油の油量をブレーカ本体側で調整するためのバルブアジャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ブレーカは、油圧ショベル等の作業機械のアームに換装されて使用される(例えば特許文献1参照)。
油圧ショベルから油圧ブレーカへの供給動力である吐出油量は、油圧ショベルのポンプ特性(即ちポンプ容量、ポンプ効率、油量設定)に左右される。そのため、油圧ブレーカの性能を十分に発揮させるには、油圧ブレーカの運転圧力を常に仕様値に維持する必要がある。
【0003】
そこで、油圧ブレーカでは低圧回路側に絞りを設けている。この種の配置位置としては、例えば、ピストン後室と低圧回路とをバルブを介して接続し、このバルブから低圧回路に接続する連通路である排出通路と低圧回路との交点にて通路を絞ることで低圧回路側への圧油の通過流量を制限して所期の運転圧力を確保している。
絞りの形式は、可変絞りの場合は、バルブアジャスタと呼ばれるカートリッジ形式の絞りを、上記のように、ブレーカ本体側のバルブの排出通路の途中に配し、排出通路の開口面積を変化させて低圧回路への通過流量を調整している。また、固定絞りの場合は、都度、絞り径の異なる絞りにて低圧回路への通過流量を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-146976号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、従来のバルブアジャスタは、図10(a)に例示するように、プラグ150と、プラグ150に内装されるアジャスタ160と、を有し、アジャスタ160の先端が、排出通路128に突設されて低圧回路127へと流れるピストン後室からの圧油の可変絞りを形成している。
従来のバルブアジャスタは、プラグ150に対するアジャスタ160の軸方向での螺合位置を調整する(同図の矢印は軸方向での螺合位置を調整するイメージを示す。)。これにより、同図(b)に示すように、排出通路128内にアジャスタ160の先端が突設される程度によってアジャスタ開口度に対して低圧回路への通過流量を比例的に変える開度調整構造になっている。
【0006】
しかし、アジャスタの螺合位置に応じて排出通路内に突設される程度で低圧回路への通過流量が比例的に変わる構造の場合、アジャスタのネジ込み回転数によるばらつきがあり、可変絞りとして排出通路に突設される程度の調整で確実に所期の通過流量に設定することは難しく、運転圧力の安定性に影響するという問題がある。また、固定絞りの場合は、複数種類の絞りをもつ必要があり、種々のショベルに搭載するレンタル機に対応する上で煩わしさがあるという問題がある。
【0007】
さらに、油圧ブレーカを使用する顧客の中には、標準吐出油量で油圧ブレーカを運転するだけでなく、燃費を重視して吐出油量を最小に設定して運転する場合や、逆に、急速施工を重視して吐出油量を大油量に設定して運転する場合がある。
そのため、同一クラスの油圧ショベルに対しても、選択肢として、小油量、標準、大油量の概ね3種類の油量に対し、運転圧力を容易に仕様圧力に設定できることが求められる。また、リース機における油圧ブレーカをセッティングする場合であっても、容易に仕様圧力に設定できるものが求められる。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、油圧ブレーカの運転圧力を容易に仕様圧力に設定し得るバルブアジャスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る油圧ブレーカ用バルブアジャスタは、外部から供給される圧油の油量を調整するためにブレーカ本体に装着される油圧ブレーカ用バルブアジャスタであって、前記ブレーカ本体側で低圧回路に接続する連通路に介装される円筒状のスリーブと、該スリーブに軸方向での螺合位置を調整可能に螺着されるアジャスタと、を有し、前記スリーブは、自身先端に複数段階の絞り流路が軸方向に離隔し且つ絞り流路相互の間では非連通部が形成されるとともに、該複数段階の絞り流路が前記連通路内に位置するように前記ブレーカ本体に装着され、前記アジャスタは、前記螺合位置に応じて、自身先端の絞り部が前記複数段階の絞り流路による各段の流路を順に連通させて前記低圧回路への通過流量を段階的に変えるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アジャスタの螺合位置に応じて、スリーブに設けられた複数段階の絞り流路が順に連通して低圧回路への通過流量を段階的に変えることができる。そのため、油圧ブレーカの運転圧力を容易に仕様圧力に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る油圧ブレーカの一実施形態におけるブレーカ本体の構成例を示す模式的縦断面図であり、同図では、ピストンの後退行程の状態を示している。
図2図1におけるバルブアジャスタ部分の分解拡大図である。
図3】実施形態のバルブアジャスタを構成するスリーブの斜視図である。
図4】実施形態のバルブアジャスタを構成するアジャスタの斜視図である。
図5】実施形態のバルブアジャスタによる調整状態を説明する図であり、同図はアジャスタの全閉状態を示している。
図6】実施形態のバルブアジャスタによる調整状態を説明する図であり、同図はスリーブの開口量が一段目の状態を示している。
図7】実施形態のバルブアジャスタによる調整状態を説明する図であり、同図はスリーブの開口量が二段目の状態を示している。
図8】実施形態のバルブアジャスタによる調整状態を説明する図であり、同図はスリーブの開口量が三段目の状態(全開状態)を示している。
図9】実施形態のアジャスタの開口度と通過流量との関係を示すグラフである。
図10】従来のバルブアジャスタを説明する図であり、同図(a)は従来のバルブアジャスタの開度調整部を示す模式的縦断面図、(b)は従来のアジャスタの開口度と通過流量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0013】
[油圧ブレーカ]
まず、本実施形態のバルブアジャスタが装着される油圧ブレーカ(ブレーカ本体)について説明する。
本実施形態の油圧ブレーカは、油圧ショベル等の作業機械のアームに換装されて使用されるものであり、図1に示すブレーカ本体10が、不図示のブラケットを介して作業機械のアームに装着される。
【0014】
同図に示すように、ブレーカ本体10は、円筒状のピストン15と、ピストン15を摺嵌するシリンダ11と、を備える。シリンダ11は、軸方向前方のシリンダライナ16および後方のシールリテーナ17によって、ピストン15を軸方向に前進後退可能に摺嵌される。シリンダ11とピストン15との間には、前方のピストン前室11aと後方のピストン後室11bとが所定の段形状等によって画成される。シリンダ11の後端には、内部にガス室が画成されたバックヘッド13が装着されている。
【0015】
シリンダ11の前部にはフロントヘッド12が同軸に装着され、フロントヘッド12には、チゼル14がピストン15と同軸上に支持される。フロントヘッド12、シリンダ11およびバックヘッド13は、バックヘッド13の後端から挿入されたスルーボルト20によって一体に連結される。
【0016】
シリンダ11の側部には、アキュムレータ21およびバルブハウジング101が同一の側に備えられている。バルブハウジング101の内部には弁室空間105が形成されており、弁室空間105にバルブ106を収容するコントロールバルブ30が設けられる。弁室空間105は、ポンプP側の高圧回路124を介して常時高圧接続されるとともに、弁室空間105の側部には、必要な制御通路が弁室空間105に連通するように適所に接続される。
【0017】
コントロールバルブ30は、軸方向前後の受圧面積差によってバルブ106が軸方向で進退して制御通路を切り替えて、上記ピストン後室11bがタンクT側の低圧回路127に接続されるとピストン15が後退し、ピストン後室11bが高圧回路124に接続されるとピストン15が前進するようになっている。なお、本実施形態の油圧ブレーカ10における、打撃装置や個々の構成部材の作動機序は基本的には公知であるのでより詳細な説明は省略する。
【0018】
[バルブアジャスタ]
以下、本実施形態のバルブアジャスタ40について詳しく説明する。
ここで、上述の油圧ブレーカは、作業機械の機体側から供給される圧油の油量を調整するために、図1に示すように、ブレーカ本体10側のバルブハウジング101には、低圧回路127に接続する連通路としてバルブ106の排出通路128が設けられ、この排出通路128に連通するように形成された装着穴101dにバルブアジャスタ40が装備される。
【0019】
図2に示すように、本実施形態のバルブアジャスタ40は、ブレーカ本体10の低圧回路127に介装される絞り流路部51を有する円筒状のスリーブ50と、スリーブ50に軸方向での螺合位置を調整可能に内装されるアジャスタ60と、緩み止め用のナット70と、を有する。
本実施形態のバルブアジャスタ40の配置個所は、例えば、バルブハウジング101におけるピストン後室11bから接続される、バルブ106の排出通路128と低圧回路127との交差路部分に連通するように設けられた装着穴101d装着され、油量特性の信頼性を確保する上で好適な配置個所とされている。なお、本明細書において、バルブアジャスタ40の軸方向において、低圧回路127に接続する排出通路128の側を「先端側」と呼び、排出通路128の側とは反対の側を「基端側」と呼ぶ。
【0020】
より詳しくは、スリーブ50は、同図に示すように、中空円筒状の部材であって、先端側から順に、絞り流路部51、雄ねじ部52、Oリング装着溝53およびナット部54を有する。中空円筒状の内部には、先端側にはインロー雌部55が絞り流路部51の外径と同軸に軸方向に貫通形成され、ナット部54の内部には雌ねじ56が設けられている。なお、Oリングの図示は省略する。
【0021】
図3に斜視図を示すように、スリーブ50の絞り流路部51には、複数段階の絞り流路51a~cが軸方向に離隔して設けられている。なお、同図ではねじ形状の図示は省略している。複数段階の絞り流路51a~cは、図5に示すように、排出通路128内に絞り流路部51が位置するようにスリーブ50がバルブハウジング101の装着穴101dに装着される。
【0022】
ここで、本実施形態では、スリーブ50先端の絞り流路部51は、スリーブ50先端に設けられた複数段(本実施形態の例では三段)の流路51a,51b,51cを有する。絞り流路51a~cの各段51a,51b,51cは、各段51a,51b,51cでの同周上の位置にて周方向に離隔して径方向に通ずる複数の半円弧状溝若しくは貫通孔の組によって構成される。
【0023】
すなわち、複数段階の絞り流路51a~cのうち、先端の第一段流路51aは、絞り流路部51の先端面での第一の同周上の位置に形成された複数の半円弧状溝の組から構成され、複数の半円弧状溝が周方向に離隔して径方向に沿って放射状に形成されることで冠状をなしている。
本実施形態の例では、第一段流路51aは、周方向に離隔して径方向に沿って放射状に貫通する8箇所の半円弧状溝によって連通孔が構成されている。よって、周方向で隣り合う半円弧状溝相互の溝中心間の角度は45°になっている。
【0024】
また、複数段階の絞り流路51a~cのうち、真ん中の第二段流路51bは、第一段流路51aよりも軸方向基端側に離隔した第二の同周上の位置に設けられ、複数の小径な連通孔が周方向に離隔して放射状に設けられ、これら複数の貫通孔の組によって構成されている。
本実施形態の例では、第二段流路51bは、第一段流路51aでの半円弧状溝の溝中心とは周方向に22.5°だけ位相をずらした位置において、周方向に離隔して径方向に沿って放射状に貫通する8箇所の貫通孔によって構成されている。よって、周方向で隣り合う貫通孔相互の孔中心間の角度は45°になっている。
【0025】
また、複数段階の絞り流路51a~cのうち、基端側の第三段流路51cは、第二段流路51bよりも軸方向基端側に離隔した第三の同周上の位置に設けられ、複数の小径な連通孔が周方向に離隔して放射状に設けられ、これら複数の貫通孔の組によって構成されている。
本実施形態の例では、第三段流路51cは、第二段流路51bでの貫通孔の孔中心とは周方向に22.5°だけ位相をずらした位置において、周方向に離隔して径方向に沿って放射状に貫通する8箇所の貫通孔によって構成されている。よって、周方向で隣り合う貫通孔相互の孔中心間の角度は45°になっている。
【0026】
一方、アジャスタ60は、図2および図4に斜視図を示すように、中実円筒状の軸部材であって、先端側から順に、中実円筒状の絞り部61、Oリング装着溝62、インロー雄部63および雄ねじ部64を有する。Oリングの図示は省略する。
アジャスタ60は、図5に示すように、自身先端の絞り部61が絞り流路部51での絞り流路51a~cの開口量を変えるようにスリーブ50に同軸に内装される。スリーブ60先端の絞り部61は、円筒状のスリーブ50の絞り流路部51内に張り出しているため、常に両持ち状態で支持される。
【0027】
絞り部61およびインロー雄部63は同径であって、スリーブ50のインロー雌部55に対して軸方向にスライド移動可能にインロー嵌合される。そして、雄ねじ部64は、スリーブ50のナット部54内の雌ねじ56に螺合されるとともに、ナット70がナット部54の基端側から螺着されてスリーブ50に螺合された位置が保持されるようになっている。
【0028】
アジャスタ60は、スリーブ50に対する自身のねじ込み量を変えて絞り部61を軸方向にスライド移動させ、スリーブ50先端の絞り流路部51に形成されている複数段階の絞り流路51a~cを順に塞いだり開いたりして低圧回路127への通過流量を調節することができる。
本実施形態のバルブアジャスタ40では、通過流量が、(1)小油量(約15%減)(2)標準油量、(3)大油量(約15%増)になるように、図9に示す、ステップ状の油量特性を確保している。
【0029】
ここで、本実施形態では、アジャスタ60の基端部には、図4および図5に示すように、スリーブ50に対する軸方向での自身の螺合位置が調整されたときに、複数段階の流路51a,51b,51cの各段の連通位置に対応してプラグ50の基端部から順に突設されて視認可能な位置に、各段51a,51b,51cの設定位置を示す目印が軸方向に並んで設けられている。
本実施形態では、段階的な流量特性の各段51a,51b,51cに確実に乗るまでの、スリーブ60を回すための目印となる3つの段面を設けている(E:Economy、P:Power、HP:High Power)。
【0030】
このような構成によって、本実施形態のアジャスタ60は、スリーブ50に対する軸方向での自身の螺合位置が調整され、これにより、その螺合位置に応じて、複数段階の絞り流路部51による各段の流路51a,51b,51cを順に連通させて低圧回路127への開口量を段階的に変えられるようになっている。
これにより、本実施形態では、油量調整のための排出通路128側の絞りを、小径の連通孔を放射状にかつ多段に配したスリーブ50とアジャスタ60とを使用し、低圧回路127側への通路面積を選択して3種の油量調整を実現している。
【0031】
特に、本実施形態では、図5から図8にバルブアジャスタによる調整状態示すように、複数段階の流路51a,51b,51cの各段は、アジャスタ60の軸方向の移動によっていずれか一の段からこれに隣り合ういずれか他の段へと低圧回路127への連通状態が移行するときには、アジャスタ60の軸方向移動量が、スリーブ50に対するアジャスタ60の螺合位置が一回転以上の回転移動をした位置となるように設定される。
【0032】
ここで、一般的に、油圧ブレーカは、16MPa~18MPaの運転圧力で適切に動くように設計される。本実施形態のブレーカ本体10では、運転圧力の狙いの範囲として、17MPa±1MPaを想定して、18MPaで所期性能を発揮し、18MPaを基準として-2MPa~0MPaを設定している。そのため、18MPa~17MPaで所期性能を発揮するように設定される各運転圧力の狙い目をおいている。
【0033】
上述したように、本実施形態のバルブアジャスタ40では、各運転圧力の狙い目に対して、絞り流路部51に、複数段階の流路51a,51b,51cとして、スリーブ50の先端面での第一の同周上の位置に冠状に形成された第一段流路51aと、第一段流路51aよりも軸方向基端側に離隔した第二の同周上の位置に設けられた第二段流路51bと、第二段流路51bよりも軸方向基端側に離隔した第三の同周上の位置に設けられた第三段流路51cと、を有する三段の構成を採用した。
本実施形態のバルブアジャスタ40では、いずれの段においても運転圧力を定格圧力に入れることができる。そして、これに対応して、本実施形態のバルブアジャスタ40によれば、アジャスタ60のステップ位置の目印に、アジャスタ60の雄ねじ部64の端部に3つの段面を設けており、Economy/Power/High Powerで設定されている段を容易に識別可能となっている。
【0034】
[動作および作用効果]
次に、本実施形態のバルブアジャスタ40の動作および作用効果について説明する。
この種の油圧ブレーカにおいて、油圧ショベル等の作業機械のアームの先端に油圧ブレーカを装着する場合、油圧ブレーカの仕様に基づき、作業機械が供給する油圧を最適に設定して、油圧ブレーカが適正に作動できる状態に調整する。
【0035】
作業機械のアーム先端に装着された油圧ブレーカでの作業において、適正な運転圧力を超過して使用した場合、作業スピードは向上するものの、消耗品類の早期摩耗や過負荷に伴い、ランニングコストの低下を招くこととなる。また、適正な運転圧力以外で使用した場合、オイルシール類の早期劣化等により油漏等が生じ易くなる。よって、適正な運転圧力に設定することが重要である。
【0036】
ここで、油圧ブレーカ10の運転圧力は、投入動力に対して、内蔵するピストン15の打撃回数に関係する消費油量によって決まる。逆に、油圧ショベル側の吐出油量のセッティングが小油量、標準、大油量のいずれであるかを知れば、油圧ブレーカ側の定格圧を維持し得る低圧回路側の絞り量を一義的に決めることができる。
【0037】
すなわち、図1に示す、ピストン15の後退行程において、ピストン後室11bの圧油はコントロールバルブ30を介して低圧回路127側に流入する。このとき、バルブアジャスタ40の役割は、低圧回路127側への流量を絞ってピストン15の後退速度を下げて打撃数を減らし所期の運転圧力を確保することにある。
仮に、バルブアジャスタが排出通路128に装着されていないとした場合、ブレーカ本体10の運転圧力が低くなるため、ブレーカ本体10の挙動が不安定になったり、目的の出力が得られなくなる。つまり、油圧ショベルに着目すると、油圧ショベルの出力は以下の[式1]で表される。
(油圧ショベルの出力)=(流量)*(圧力) [式1]
【0038】
ブレーカ本体10に低圧側への抵抗(つまりバルブアジャスタ)が無いと作動油が制限なく低圧側へ流れてしまう。そのため、油圧ショベルから与える圧力(運転圧力)が低くなる。また、油圧ブレーカに着目すると、以下の[式2]に示すように、油圧ブレーカではブレーカ本体10での1打撃エネルギ(ドリフタでは打撃数)を増やして出力を上げる。
(油圧ブレーカの出力)=(打撃数)*(打撃エネルギ) [式2]
【0039】
油圧ブレーカでは、1打撃エネルギを確保するために受圧面積を大きくしている。そのため、低圧側に抵抗を設けないと作動油が制限なく低圧側へ流れてしまう。その結果、ドリフタのように後退速度が上がるため打撃数が増加する。
【0040】
打撃数が増加すると(消費油量)=(打撃数)*(1打撃消費油量)の関係から、消費油量が増えるため流量が増加する。流量が増えると、上記油圧ショベルの出力の[式1]から作動油の圧力が下がってしまう。
1)バルブアジャスタによる絞りでの通過流量が少なければ、ピストン後室11bでの油の通過抵抗が増えるため、ピストン15の後退速度が低下して油圧ブレーカの打撃数が減る。
2)逆に、バルブアジャスタによる絞りでの通過流量が多ければ、ピストン後室11bでの油の通過抵抗が減るため、ピストン15の後退速度が増加して油圧ブレーカの打撃数が増える。
そこで、バルブアジャスタは、作動油が低圧側に流れすぎないように、ブレーカ本体10側で低圧側への流量を絞って適正な運転圧力を確保することが役割となる。
【0041】
このような作用機序下において、上述したように、従来のバルブアジャスタは、低圧回路に接続する連通路内に突設される絞り部の程度で通過流量が比例的に変わる構造なので、スリーブのネジ込み回転数によるばらつきがあり、絞り部で確実に所期の通過流量に設定することは難しく、運転圧力の安定性に影響するという問題がある。また、固定絞りの場合は、複数種類の絞りをもつ必要があり、種々のショベルに搭載するレンタル機に対応する上で煩わしさがあるという問題がある。
【0042】
これに対し、本実施形態のバルブアジャスタ40では、上述したように、スリーブ50は、自身先端に複数段階の絞り流路51a~cが軸方向に離隔して設けられるとともに、絞り流路51a~cが、低圧回路127に接続される排出通路128に内に位置するようにブレーカ本体10に装着され、アジャスタ60は、自身先端の絞り部61が絞り流路51a~cの開口量を変えるようにスリーブ50に同軸に内装されるとともに、スリーブ50に対する軸方向での自身の螺合位置が調整されることにより、螺合位置に応じて、複数段階の絞り流路51a~cを順に連通させて低圧回路127への通過流量を段階的に変える構成を採用する。
【0043】
詳しくは、図5にアジャスタ60の全閉状態を示す。同図の状態では、通過流量は、図9における符号1の状態になる。本実施形態の第一段流路51は、スリーブ50に対してアジャスタ60が最も締めこまれた位置にあっても、スリーブ50の絞り流路部51の開口量を全閉とはしない最小流量を維持するように形成されている。本実施形態のバルブアジャスタ40による絞りの最小通過油量は、スリーブ50の絞り流路部51の外周先端部から排出通路128側に接続することで設定される。
【0044】
この状態からアジャスタ60の螺合位置を軸方向基端側に移動させると、冠状の第一段流路51aの凹円弧溝が徐々に開口するので、図9の符号1から符号2に示す状態に通過流量が次第に増えていく。その後、図6に示す、第二段流路51bの連通直前となる符号3に示すまでは流路に変化が生じないため、通過流量は小(E)の状態に保たれる。
【0045】
このとき、本実施形態の例では、第一段流路51aから第二段流路51bが排出通路128に連通するときのアジャスタ60の軸方向移動量は、アジャスタ60の螺合位置が一回転以上の回転移動をした位置とされている。アジャスタ60のステップ位置の目印は、図6に示すように、E:Economyが目視可能な状態にナット70の上端面から突設される。
【0046】
その後、この状態からスリーブ60の螺合位置を軸方向基端側に更に移動させると、第二段流路51bが徐々に開口するため、図9の符号3から符号4に示す状態に通過流量が次第に増えていく。その後、図7に示す、第三段流路51cの連通直前となる符号5に示すまでは流路に変化が生じないため、通過流量は標準(P)の状態に保たれる。
【0047】
このとき、本実施形態の例では、第二段流路51bから第三段流路51cが排出通路128に連通するときのアジャスタ60の軸方向移動量は、アジャスタ60の螺合位置が一回転以上の回転移動をした位置とされている。アジャスタ60のステップ位置の目印は、図7に示すように、(P:Power)が目視可能な状態にナット70の上端面から突設される。
【0048】
その後、この状態からアジャスタ60の螺合位置を軸方向基端側に更に移動させると、第三段流路51cが徐々に開口するため、図9の符号5から符号6に示す状態に通過流量が次第に増えていく。その後、図8に示す、第三段流路51cの全開となる符号6に示す状態以降は流路に変化が生じないため、通過流量は大(HP:High Power)の状態に保たれる。
【0049】
このとき、本実施形態の例では、第三段流路53が排出通路128に全開状態で連通するときまでのアジャスタ60の軸方向移動量は、アジャスタ60の螺合位置が一回転以上の回転移動をした位置とされている。アジャスタ60のステップ位置の目印は、図8に示すように、(HP:High Power)が目視可能な状態にナット70の上端面から突設される。
【0050】
このように、本実施形態のバルブアジャスタ40によれば、アジャスタ60の螺合位置に応じて、スリーブ50に設けられた複数段階の絞り流路51a~cが順に連通して低圧回路127への通過流量を段階的に変えることができるため、油圧ブレーカの運転圧力を容易に仕様圧力に設定できる。
【0051】
また、本実施形態のバルブアジャスタ40によれば、複数段階の絞り流路51a~cの各段は、アジャスタ60の軸方向の移動によっていずれか一の段からこれに隣り合ういずれか他の段へと排出通路128に連通する状態が移行するときには、アジャスタ60の軸方向移動量が、スリーブ50に対するアジャスタ60の螺合位置が一回転以上の回転移動をした位置となるように設定されているので、段階的に変える各段51a,51b,51cの設定位置を明確に区別する上で好適である。
【0052】
また、本実施形態のバルブアジャスタ40では、プラグ先端に設けられた複数段階の流路の各段51a,51b,51cは、各段51a,51b,51cでの同周上の位置にて周方向に離隔して径方向に通ずる複数の貫通孔の組によって構成されているので、スリーブ50のネジ込み回転数によるばらつきがあって、排出通路128に対するスリーブ50の締結時の周方向での位置ずれが生じても、放射状の分割数に応じた位相毎に同一形状の流路が設定されるため、位置ずれを実質的に許容することができる。
【0053】
また、本実施形態のバルブアジャスタ40では、アジャスタ60の基端部には、スリーブ50に対する軸方向での自身の螺合位置が調整されたときに、複数段階の流路の各段51a,51b,51cの連通位置に対応してスリーブ50の基端部から順に突設されて視認可能な位置(つまり、本実施形態の例ではナット70の端面よりも突設する位置)に、各段51a,51b,51cの設定位置を示す目印が軸方向に並んで設けられているので、油圧ブレーカの運転圧力を容易に仕様圧力に設定する上で作業性に優れている。
【0054】
特に、本実施形態のバルブアジャスタ40では、複数段階の流路51a,51b,51cは、スリーブ50の先端面での第一の同周上の位置に冠状に形成された第一段流路51aと、第一段流路51aよりも軸方向基端側に離隔した第二の同周上の位置に設けられた第二段流路51bと、第二段流路51bよりも軸方向基端側に離隔した第三の同周上の位置に設けられた第三段流路51cと、を有するので、油圧ショベル側の吐出油量のセッティングが小油量、標準、大油量のいずれであるかを知れば、油圧ブレーカ側の定格圧を維持し得る低圧回路127側への絞り量を一義的に決定可能な構成として極めて優れている。
【0055】
また、本実施形態のバルブアジャスタ40では、第一段流路51aは、スリーブ50に対してアジャスタ60が最も締めこまれた位置にあっても、スリーブ50の絞り流路の開口量を全閉とはしない最小流量を維持するように形成されているので、安全設計思想(フールプルーフ/フェイルセイフ)に鑑み、アジャスタ60を完全に締めこんだ状態で運転した場合であっても安全性が確保されている。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のバルブアジャスタ40によれば、スリーブ50先端の絞り流路として、複数段階の流路51a,51b,51cが軸方向に離隔して設けられ、アジャスタ60の螺合位置に応じて、複数段階の流路51a,51b,51cが順に排出通路128に連通することで、低圧回路127への通過流量を段階的に変えることができる。
【0057】
そのため、油圧ブレーカが異なる作業機械の機体に換装された場合に、当該機体に適合する絞り量の設定が容易であり、また、適合する絞り量に設定する再現性を高めることができる。なお、本発明に係る油圧ブレーカ用バルブアジャスタは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
10 ブレーカ本体
11 シリンダ
11a ピストン前室
11b ピストン後室
12 フロントヘッド
13 バックヘッド
14 チゼル
15 ピストン
16 シリンダライナ
17 シールリテーナ
20 スルーボルト
21 アキュムレータ
30 コントロールバルブ
40 バルブアジャスタ
50 スリーブ
51 絞り流路部
51a 第一段流路
51b 第二段流路
51c 第三段流路
52 雄ねじ部
53 Oリング装着溝
54 ナット部
55 インロー雌部
56 雌ねじ
60 アジャスタ
61 絞り部
62 Oリング装着溝
63 インロー雄部
64 雄ねじ部
65 目印
70 ナット
101 バルブハウジング
101d 装着孔
105 弁空間
106 バルブ
124 高圧回路
127 低圧回路
128 排出通路(連通路)
150 プラグ
160 アジャスタ
P 油圧ポンプ
T タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10