IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エンシュウ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-レーザ焼入れ装置 図1
  • 特開-レーザ焼入れ装置 図2
  • 特開-レーザ焼入れ装置 図3
  • 特開-レーザ焼入れ装置 図4
  • 特開-レーザ焼入れ装置 図5
  • 特開-レーザ焼入れ装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028063
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】レーザ焼入れ装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/09 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
C21D1/09 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133521
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000121202
【氏名又は名称】エンシュウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕文
(72)【発明者】
【氏名】村木 武志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】高林 真宏
(57)【要約】
【課題】被加工物に対してレーザ光を照射した際に過熱されることを防止して焼入れ処理の精度を向上させることができるレーザ焼入れ装置を提供する。
【解決手段】レーザ焼入れ装置100は、レーザ光源110の作動を制御するレーザ駆動部114を備えている。レーザ駆動部114は、レーザ光Lの強度(出力値)を制御するレーザ制御部114aと、焼入れ出力値を記憶する出力値記憶部114bと、操作パネル114cとを備えている。焼入れ出力値は、被加工物WKの表面を焼入れ温度まで加熱することができるレーザ光Lの強度に対する大きさで構成されている。レーザ焼入れ装置100は、焼入れ出力値設定サブプログラムを実行することで焼入れ出力値を出力値記憶部114bに記憶する。レーザ焼入れ装置100は、被加工物WKに対してレーザ光Lを照射する際、出力値記憶部114bに記憶されている焼入れ出力値によってレーザ光Lを出射する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の表面にレーザ光による光スポットを形成して同表面の焼入れ加工を行うレーザ焼入れ装置において、
前記レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射される前記レーザ光の出力を制御する制御装置と、
前記被加工物の表面を焼入れ温度まで加熱することができる前記レーザ光の出力値である焼入れ出力値を記憶する焼入れ出力値記憶部とを備え、
前記制御装置は、
前記焼入れ出力値で前記被加工物に対して前記レーザ光の出射を開始することを特徴とするレーザ焼入れ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したレーザ焼入れ装置において、
前記焼入れ出力値は、
前記被加工物の表面の温度を前記焼入れに必要な温度を維持できる値であることを特徴とするレーザ焼入れ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したレーザ焼入れ装置において、
前記出力値記憶部は、
前記被加工物の種類ごと、前記光スポットの大きさごと、前記光スポットの送り速度ごとおよび焼入れ温度ごとのうちの少なくとも1つについて前記焼入れ出力値を複数記憶することを特徴とするレーザ焼入れ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載したレーザ焼入れ装置において、さらに、
前記レーザ光源から照射されて前記光スポットが形成された対象物の表面の温度を表す温度検出信号を出力する対象物温度検出器を備え、
前記制御装置は、
前記被加工物と同一または同種の前記対象物に対して前記焼入れ温度まで加熱できない出力値で前記レーザ光源から前記レーザ光を出射させる小出力レーザ光出射ステップと、
前記対象物温度検出器が出力する前記温度検出信号を用いて検出した温度が前記焼入れ温度に達するまでの間、前記レーザ光源から出射する前記レーザ光の出力値を増加させるレーザ出力増加ステップと、
前記対象物温度検出器が出力する前記温度検出信号を用いて検出した温度が前記焼入れ温度に達したときの前記レーザ光の出力値を前記焼入れ出力値として前記出力値記憶部に記憶することを特徴とするレーザ焼入れ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したレーザ焼入れ装置において、さらに、
前記レーザ光源から照射されて前記光スポットが形成された前記被加工物の表面の温度を表す温度検出信号を出力する被加工物温度検出器を備え、
前記制御装置は、
前記レーザ光源に対してレーザの駆動電力を供給するレーザ駆動部に設けられており、前記被加工物温度検出器が出力する前記温度検出信号を用いて前記レーザ光が照射された前記被加工物の表面の温度が前記焼入れ温度を維持するように前記レーザ駆動部の作動を制御することを特徴とするレーザ焼入れ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載したレーザ焼入れ装置において、
前記制御装置は、
前記被加工物に対する前記レーザ光の出力値の変更履歴を記憶することを特徴とするレーザ焼入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対してレーザ光を照射することにより被加工物に対して焼入れ処理を行うレーザ焼入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素鋼などの被加工物の表面にレーザ光を照射することによりレーザ光を照射した部分をオーステナイト状態まで加熱して焼入れ処理を行うレーザ焼入れ装置が知られている。この場合、被加工物におけるオーステナイト状態まで加熱された部分の急冷は、レーザ光が通過した後における被加工物の内部や周辺への熱拡散および熱伝導によって自己的に行われる。例えば、下記特許文献1には、レーザ光を照射した被加工物の加熱部分の温度に応じてレーザ光の出力を増減させるようにしたレーザ焼入れ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3-56615号公報
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示されたレーザ焼入れ装置においては、被加工物に対してレーザ光の照射直後に加熱部分の温度が焼入れに適した温度よりも高くなるオーバーシュートが生じて被加工物が溶融してしまうことがあり、焼入れ処理の精度が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、被加工物に対してレーザ光を照射した際に過熱されることを防止して焼入れ処理の精度を向上させることができるレーザ焼入れ装置を提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、被加工物の表面にレーザ光による光スポットを形成して同表面の焼入れ加工を行うレーザ焼入れ装置において、レーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光源から出射されるレーザ光の出力を制御する制御装置と、被加工物の表面を焼入れ温度まで加熱することができるレーザ光の出力値である焼入れ出力値を記憶する焼入れ出力値記憶部とを備え、制御装置は、焼入れ出力値で被加工物に対してレーザ光の出射を開始することにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、レーザ焼入れ装置は、被加工物の表面を焼入れ温度まで加熱することができるレーザ光の出力値である焼入れ出力値でレーザ光の照射を開始するため、被加工物におけるレーザ光の照射部分が焼入れ温度を超えて過熱されることを防止することができ、焼入れ処理の精度を向上させることができる。また、本発明に係るレーザ焼入れ装置によれば、被加工物の表面を迅速に焼入れ温度まで加熱することができる。
【0008】
ここで、被加工物の表面を焼入れ温度まで加熱することができる焼入れ出力値とは、レーザ光の出力を変化させることなく被加工物の表面を焼入れ温度の下限以上かつ上限以下まで加熱することができる出力である。この場合、焼入れ出力値は、被加工物の表面を焼入れ温度まで加熱した後、この温度を維持できる出力値と経時的に焼入れ温度以下に低下してしまう出力値とがある。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記レーザ焼入れ装置において、焼入れ出力値は、被加工物の表面の温度を焼入れに必要な温度を維持できる値であることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、レーザ焼入れ装置は、焼入れ出力値が被加工物の表面の温度を維持できる値に設定されているため、被加工物における焼入れ部分の温度が焼入れ温度に達した後においても焼入れ温度を維持するための制御がなくても精度のよい焼入れ処理を行うことができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記レーザ焼入れ装置において、出力値記憶部は、被加工物の種類ごと、光スポットの大きさごと、光スポットの送り速度ごとおよび焼入れ温度ごとのうちの少なくとも1つについて焼入れ出力値を複数記憶することにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、レーザ焼入れ装置は、出力値記憶部が被加工物の種類ごと、光スポットの大きさ、光スポットの送り速度ごとおよび焼入れ温度ごとのうちの少なくとも1つについて焼入れ出力値を複数記憶しているため、被加工物の種類または焼入れ処理の仕様に応じた焼入れ出力値を適宜選択して焼入れ処理を行うことができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記レーザ焼入れ装置において、さらに、レーザ光源から照射されて光スポットが形成された対象物の表面の温度を表す温度検出信号を出力する対象物温度検出器を備え、制御装置は、被加工物と同一または同種の対象物に対して焼入れ温度まで加熱できない出力値でレーザ光源からレーザ光を出射させる小出力レーザ光出射ステップと、対象物温度検出器が出力する温度検出信号を用いて検出した温度が焼入れ温度に達するまでの間、レーザ光源から出射するレーザ光の出力値を増加させるレーザ出力増加ステップと、対象物温度検出器が出力する温度検出信号を用いて検出した温度が焼入れ温度に達したときのレーザ光の出力値を焼入れ出力値として出力値記憶部に記憶することにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、レーザ焼入れ装置は、被加工物と同一または同種の対象物に対して焼入れ温度まで加熱できない出力値から焼入れ温度に達するまでの間レーザ光の出力値を増大させていき、焼入れ温度に達した際の出力値を焼入れ出力値として取得しているため、精度のよい焼入れ出力値を得ることができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記レーザ焼入れ装置において、さらに、レーザ光源から照射されて光スポットが形成された被加工物の表面の温度を表す温度検出信号を出力する被加工物温度検出器を備え、制御装置は、レーザ光源に対してレーザの駆動電力を供給するレーザ駆動部に設けられており、被加工物温度検出器が出力する温度検出信号を用いてレーザ光が照射された被加工物の表面の温度が焼入れ温度を維持するようにレーザ駆動部の作動を制御することにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、レーザ焼入れ装置は、レーザ光の出射強度の制御をレーザ駆動部内で行うため、被加工物の焼入れ部分の温度状況に応じて出射強度の制御を迅速に行うことができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記レーザ焼入れ装置において、制御装置は、被加工物に対するレーザ光の出力値の変更履歴を記憶することにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、レーザ焼入れ装置は、被加工物に対するレーザ光の出力値の変更履歴を記憶するため、被加工物の加工内容を記録として残して後日の追跡を可能とするトレーサビリティ性を向上させることができる。また、本発明に係るレーザ焼入れ装置においては、レーザ光の出力値の変更履歴を確認することでレーザ光の出射時における焼入れ出力値の妥当性を検証することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ装置の構成を模式的に示したブロック図である。
図2図1に示すレーザ焼入れ装置が試験片または被加工物の各表面に形成する光スポットに対して温度検出器が温度を測定する位置を模式的に示す説明図である。
図3図1に示すレーザ焼入れ装置における総合制御装置が実行する焼入れ出力値設定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図4図1に示すレーザ焼入れ装置におけるレーザ制御部が実行する焼入れ出力値設定サブプログラムの処理の流れの一部を示すフローチャートである。
図5図1に示すレーザ焼入れ装置におけるレーザ制御部が実行する焼入れ出力値設定サブプログラムの処理の流れの他の一部を示すフローチャートである。
図6図1に示すレーザ焼入れ装置におけるレーザ制御部が実行するレーザ出力調整プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(レーザ焼入れ装置100の構成)
以下、本発明に係るレーザ焼入れ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るレーザ焼入れ装置100の構成を模式的に示したブロック図である。なお、本明細書において参照する図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このレーザ焼入れ装置100は、コンピュータ制御(NC制御)によって炭素鋼などの金属材からなる被加工物WK上にレーザ光Lを照射して表層に焼入れ処理を行うレーザを用いた熱処理装置である。
【0021】
レーザ焼入れ装置100は、テーブル101を備えている。テーブル101は、被加工物WKを着脱自在に保持する板状の載置台であり、XY送り装置102によって支持されている。XY送り装置102は、後述する総合制御装置120による作動制御によってテーブル101を同一平面内にて互いに直交する図示X軸方向および図示Y軸方向の2軸方向にそれぞれ変位させるための機械装置であり、送りねじ機構を備えて構成されている。
【0022】
この場合、送りねじ機構は、雄ねじが形成されて図示X軸方向および図示Y軸方向にそれぞれ延びる送りねじ軸(図示せず)と、これらの各雄ねじに噛み合う雌ねじがそれぞれ形成されてテーブル101に直接的または間接的に連結されるナット部(図示せず)とをそれぞれ備えて構成されている。なお、図1においてX軸方向は左右方向であり、Y軸方向は紙面の奥行方向である。
【0023】
この送り機構における図示X軸方向および図示Y軸方向にそれぞれ延びる送りねじ軸には、図示しない送りモータがそれぞれ接続されている。これらの各送りモータは、各送りねじ軸を正回転方向および逆回転方向にそれぞれ回転駆動する電動モータ(本実施形態においてはサーボモータ)であり、総合制御装置120によって作動がそれぞれ制御される。
【0024】
テーブル101の上方には、レーザ光源110が設けられている。レーザ光源110は、テーブル101上に保持された被加工物WKに対してレーザ光Lを出射して加熱するための光学装置であり支持具112によって支持されている。本実施形態においては、波長が940nm、出力が2kWの半導体レーザで構成されている。このレーザ光源110は、レーザ駆動部114を介して総合制御装置120によって作動制御されて、被加工物WKの表面に一辺が5mm四方の方形の光スポットSPを形成する。
【0025】
なお、光スポットSPの形状および大きさ、レーザの種類および出力は、焼入れ処理の仕様に応じて適宜設定されるものであり、本実施形態に限定されるものではない。このレーザ光源110には、温度検出器111が設けられている。
【0026】
温度検出器111は、被加工物WKの表面における前記光スポットSPが照射された部分の温度に対応する電気信号である温度検出信号をレーザ駆動部114に出力する温度検出装置である。本実施形態においては、温度検出器111は、レーザ光源110が出射するレーザ光の光軸と同軸上で温度を検出する放射温度計で構成されている。この温度検出器111は、レーザ光源110の側方に取り付けられている。
【0027】
この場合、温度検出器111は、温度の測定範囲が被加工物WKの表面における前記光スポットSPが形成された領域内における任意の位置に測定位置MPを調整することができる。本実施形態においては、温度検出器111は、図2に示すように、温度の測定位置MPが被加工物WKの表面における光スポットSPが形成された領域内における光スポットSPの進行方向の後方側(光スポットSPの中心よりも光スポットSPの進行方向の後方側)に位置するように調整される。この場合、温度の測定位置MPは、被加工物WKの表面における光スポットSPが形成された領域内における光スポットSPの進行方向に対して最後尾部分が好適である。
【0028】
支持具112は、テーブル101の上方でレーザ光源110を支持するための金属製の部品であり、Z送り装置113によって支持されている。この支持具112は、テーブル101に対するレーザ光源110のテーブル101の表面に対する角度を変更可能な状態でレーザ光源110を支持する。
【0029】
Z送り装置113は、総合制御装置120による作動制御によってテーブル101を図示X軸方向および図示Y軸方向にそれぞれ直交する図示Z軸方向(図示上下方向)に変位させるための機械装置であり、送りねじ機構を備えて構成されている。なお、本実施形態においては、レーザ光源110に対してテーブル101が図示X軸方向および図示Y軸方向に変位し、テーブル101に対してレーザ光源110が図示Z軸方向に変位するように構成した。しかし、テーブル101とレーザ光源110とは、互いに相対変位するように構成されていればよいため、少なくともどちらか一方が他方に対して変位するように構成されていればよい。
【0030】
レーザ駆動部114は、図示しない外部電源から供給される電力を総合制御装置120の作動制御に応じてレーザ光源110に供給することによってレーザ光源110の作動を制御するためのドライバとして機能する定電流電源である。このレーザ駆動部114は、総合制御装置120からの指示に従って前記定電流電源の作動を制御するCPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されたレーザ制御部114aを備えている。
【0031】
レーザ制御部114aは、レーザ光Lの出射の可否およびレーザ光Lの出力強度をそれぞれ独立して制御してレーザ光源110からレーザ光Lを連続発振させる。また、レーザ制御部114aは、焼入れ出力値を記憶しておくための出力値記憶部114bを備えている。ここで、焼入れ出力値は、被加工物WKに対してレーザ光源110からレーザ光Lを出射する際における出射開始時のレーザ光Lの強度を規定する出力値である。この焼入れ出力値は、レーザ制御部114aが図4および図5にそれぞれ示す焼入れ出力値設定サブプログラムを実行することで出力値記憶部114bに記憶される。また、レーザ制御部114aは、図6に示すレーザ出力制御プログラムを実行して被加工物WKの焼入れ処理中におけるレーザ光Lの出力制御を行う。
【0032】
このレーザ制御部114aには、操作パネル114cが接続されている。操作パネル114cは、作業者からの指示を受け付けてレーザ制御部114aに入力するスイッチ群からなる入力装置(図示せず)およびレーザ制御部114aの作動状況を表示する液晶表示装置(図示せず)を備えたレーザ制御部114a専用の入出力インターフェースである。
【0033】
総合制御装置120は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、レーザ焼入れ装置100の全体の作動を総合的に制御するとともに、作業者によって用意される図示しない焼入れ処理プログラム(所謂NC(Numerical Control)プログラム)に従ってレーザ光源110からレーザ光Lを出射させながらテーブル101とレーザ光源110とを相対変位させることにより被加工物WKの熱処理加工を制御する。
【0034】
この総合制御装置120は、図3に示す焼入れ出力値設定プログラムを実行することで焼入れ出力値の初期値を設定する。また、この総合制御装置120は、総合制御装置120に対して作業者からの操作を受付けるための操作スイッチ群からなる操作盤121、作業者に対して総合制御装置120の作動状況を表示するための液晶ディスプレイからなる表示装置122をそれぞれ備えている。
【0035】
(レーザ焼入れ装置100の作動)
次に、上記のように構成したレーザ焼入れ装置100の作動について説明する。まず、被加工物WKに対して焼入れ処理を行う作業者は、被加工物WKに対して焼入れ処理を行う際に使用する焼入れ出力値を特定する。ここで、焼入れ出力値の特定は、図3に示すように、作業者が焼入れ出力値設定プログラムを実行することで行われる。
【0036】
具体的には、作業者は、レーザ制御部114aに対して焼入れ温度および焼入れ出力値の初期値をそれぞれ設定するとともに被加工物WKと同じ金属材料からなる試験片TPを用意してテーブル101上にセットした後、総合制御装置120に対して焼入れ出力値設定プログラムの実行を指示する。この場合、試験片TPは、被加工物WKと同一または同種の金属材料で表面性状および形状が同一の材料であり、本発明に係る対象物に相当する。
【0037】
なお、ここで、同種の金属材料とは、比較する2つの金属材料において主成分(最も含有量が多い元素)が同じ材料である。例えば、純鉄と炭素鋼とは鉄(Fe)を主成分としている点で同種の金属材料である。また、同一の材料とは、必ずしも完全同一のみを意味するものではなく、多少異なる部分があるとしても異なる部分が無視できる程度に互いに同視できる材料であり実質的に同一とみることができる材料である。また、表面性状とは、表面の凹凸、表面粗さまたは表面の色である。
【0038】
また、焼入れ温度は、試験片TPの組織がオーステナイト状態となって焼入れ処理が適正に行われる特定された1つの温度または温度範囲である。したがって、作業者は、試験片TPの焼入れ温度を操作パネル114cを介してレーザ制御部114aに対して入力する。本実施形態においては、作業者は、試験片TPを焼入れすることができる最低温度および最高温度からなる焼入れ温度範囲をレーザ制御部114aに対して入力する。この場合、作業者は、試験片TPを焼入れすることができる最低温度および最高温度をそれぞれ入力してもよいが、ある特定の温度とその特定の温度に対して許容される範囲(例えば、±10℃)とを入力することもできる。焼入れ温度は、例えば、炭素工具鋼鋼材(SK材)および低合金工具鋼材(SKS材)の場合には800℃程度、合金工具鋼材(SKD材)の場合には1000℃~1050℃程度、高速度工具鋼材(SKH材)の場合には1200℃以上が好適である。
【0039】
また、焼入れ出力値の初期値とは、レーザ光源110が試験片TPに対して最初にレーザ光Lを照射する際の出力値であり、試験片TPの焼入れ温度まで加熱することができない大きさの値である。したがって、作業者は、試験片TPに対して焼入れ温度まで加熱することができないレーザ光Lの強度となる出力値を操作パネル114cを介してレーザ制御部114aに対して入力する。
【0040】
なお、作業者は、試験片TPにおける焼入れ処理の開始位置、試験片TPに対するレーザ光源110の焦点距離および試験片TPの送り速度(換言すれば、光スポットSPの送り速度)などの試験片TPに対する焼入れ処理に必要な他のパラメータについても総合制御装置120に適宜設定するが、これらのパラメータについては本発明に直接関らないためその説明は省略する。
【0041】
総合制御装置120は、焼入れ出力値設定プログラムの実行をステップS100にて開始して、ステップS102にて、試験片TPに対する焼入れ処理を開始する。具体的には、総合制御装置120は、XY送り装置102およびZ送り装置113の各作動をそれぞれ制御して試験片TPをレーザ光源110に対して位置決めした後、レーザ駆動部114に対してレーザ光Lの出射を指示する。この指示に応答してレーザ駆動部114のレーザ制御部114aは、図4および図5にそれぞれに示す焼入れ出力値設定サブプログラムの実行を開始するが、この焼入れ出力値設定サブプログラムの説明は後述する。
【0042】
次に、総合制御装置120は、ステップS104にて、焼入れ処理の終了を判定する。このステップS104における焼入れ処理の終了の判定処理は、試験片TPに対する焼入れ処理の完了を判定する処理である。この場合、総合制御装置120は、試験片TPにおける焼入れ部分の最終位置までレーザ光Lが移動したことを検出することによって焼入れ処理の終了を判定する。
【0043】
したがって、総合制御装置120は、レーザ光Lが焼入れ部分の最終位置に到達するまで「No」と判定し続けて焼入れ処理の終了指示の検出を待つ。一方、総合制御装置120は、レーザ光Lが焼入れ部分の最終位置に到達した場合には「Yes」と判定してステップS106に進む。
【0044】
次に、総合制御装置120は、ステップS106にて、焼入れ終了処理を実行する。具体的には、総合制御装置120は、レーザ駆動部114に対してレーザ光Lの照射の停止を指示するとともに、XY送り装置102およびZ送り装置113の各作動をそれぞれ終了させる。
【0045】
そして、総合制御装置120は、ステップS108にて、この焼入れ出力値設定プログラムの実行を終了する。したがって、作業者は、テーブル101上から試験片TPを撤去して焼入れ出力値の設定作業を終了する。
【0046】
一方、この焼入れ出力値設定プログラムのステップS102にて、総合制御装置120からレーザ光Lの出射の指示を受けたレーザ駆動部114のレーザ制御部114aは、図4および図5にそれぞれ示す焼入れ出力値設定サブプログラムの実行をステップS200にて開始して、ステップS202にて、レーザ光源110からレーザ光Lを出射させる。
【0047】
この場合、レーザ制御部114aは、前記レーザ制御部114aに予め設定された焼入れ出力値の初期値によってレーザ光源110からレーザ光Lを出射させる。この焼入れ温度まで加熱することができないレーザ光Lの強度となる出力値でレーザ光Lの出射を開始する工程が、本発明に係る小出力レーザ光出射ステップに相当する。
【0048】
これにより、試験片TP上には、試験片TPを焼入れ温度にまで加熱することができない強度のレーザ光Lによる光スポットSPが形成される。また、レーザ制御部114aは、温度検出器111の作動を制御して光スポットSP内における試験片TPの表面温度を表す温度検出信号を入力して試験片TPの表面温度の検出を開始する。そして、総合制御装置120は、XY送り装置102の作動を制御して試験片TPをレーザ光源110に対して変位させることによって試験片TP上における光スポットSPの位置を変位させる。また、光スポットSPの変位の方向は、実際の被加工物WKに対する焼入れ処理における光スポットSPの変位方向と必ずしも同一である必要はないが同一であることが好ましい。
【0049】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS204にて、レーザ光の停止指示の有無を判定する。このステップS204におけるレーザ光の停止指示の有無の判定処理は、試験片TPに対する焼入れ処理の終了によるレーザ光Lの停止指示の有無を判定する処理である。この場合、レーザ光Lの停止指示は、試験片TPにおける焼入れ部分に対するレーザ光Lの照射の完了の検出によって行われる。
【0050】
したがって、レーザ制御部114aは、レーザ光Lの停止指示を検出するまで「No」と判定し続けてステップS206に進む。一方、レーザ制御部114aは、レーザ光Lの停止指示を検出した場合には「Yes」と判定して図5の「5-1」に示すステップS226に進む。
【0051】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS206にて、温度エラー回数カウンタ値を「0」にリセットする。この場合、温度エラー回数カウンタ値は、後述する加工位置温度が焼入れ温度範囲内になかった加工位置温度エラーの回数を計数するための整数値である。
【0052】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS208にて、試験片TP上における光スポットSPの形成位置(すなわち、焼入れ処理の位置)における温度(以下、「加工位置温度」ということがある)が焼入れ温度に達したか否かを判定する。具体的には、レーザ制御部114aは、温度検出器111から出力される温度検出信号を用いて試験片TP上における光スポットSPの形成位置における温度を特定するとともに、この光スポットSPの形成位置の温度が前記レーザ制御部114aに予め設定された焼入れ温度に達したか否かを判定する。
【0053】
この場合、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度に達して焼入れ温度範囲内である場合には「Yes」と判定して図5の「5-2」に示すステップS216に進む。一方、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲内にない場合には「No」と判定してステップS210に進む。この場合、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲よりも低いのかまたは高いのかを表す情報を記憶する。このステップS208における判定処理において、加工位置温度が焼入れ温度範囲内になかったと判定された場合が加工位置温度エラーである。
【0054】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS210にて、加工位置温度エラーの回数が所定の回数に達したか否かを判定する。ここで、所定の回数は、作業者によって操作パネル114cを介してレーザ制御部114aに予め設定される。本実施形態においては、所定回数は、3回に設定されている。レーザ制御部114aは、温度エラー回数カウンタ値が所定の数値以下である場合には「No」と判定してステップS212に進んで温度エラー回数カウンタ値をインクリメント処理(「1」を加算する処理)した後、ステップS208に戻る。
【0055】
一方、レーザ制御部114aは、温度エラー回数カウンタ値が所定の数値を超えた場合には「Yes」と判定してステップS214に進む。すなわち、このステップS210による処理は、加工位置温度エラーが突発的または偶然など一時的に生じたエラーなのか、加工位置温度エラーが継続的に生じている確実なエラーなのかを判定するための処理である。
【0056】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS214にて、焼入れ出力値の更新処理を行う。このステップS214による焼入れ出力値の更新処理は、前記ステップS208で記憶した焼入れ温度に対する加工位置温度の高低に応じて焼入れ出力値の値を変更する処理である。具体的には、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度に対して低い場合には焼入れ出力値に所定の値を加算して新たな焼入れ出力値とし、加工位置温度が焼入れ温度に対して高い場合には焼入れ出力値から所定の値を減算して新たな焼入れ出力値とする。
【0057】
この場合、焼入れ出力値に対して加えるまたは減ずる所定の値は、加工位置温度を所定の温度だけ上昇または低下させることができる大きさに設定される。本実施形態においては、焼入れ出力値に対して加えるまたは減ずる所定の値は、1Wに設定されている。この所定の値は、レーザ制御部114aに固定的に設定されていてもよいし、作業者が任意に設定することができるようにしてもよい。なお、焼入れ出力値に対して加えるまたは減ずる所定の値は、焼入れ出力値に加える値と減ずる値とで絶対値で同じ値でもよいし互いに異なる値でもよい。このステップS216による焼入れ出力値の更新処理によってレーザ光源110から出力されるレーザ光Lの強度が変更される。
【0058】
このステップS214による焼入れ出力値の更新処理においては、焼入れ出力値の当初の値が試験片TPの表面を焼入れ温度まで加熱することができない大きさに設定されているため、試験片TPの表面温度が焼入れ温度に達するまでの間、焼入れ出力値が増加することになる。そして、焼入れ出力値が焼入れ温度に達したときのレーザ光Lの出力値を焼入れ出力値として出力値記憶部114bに記憶している。すなわち、ステップS208およびステップS214の各処理が、本発明に係るレーザ出力増加ステップに相当する。このステップS214を実行した後、レーザ制御部114aは、ステップS204に戻る。
【0059】
一方、前記ステップS208における光スポットSPの形成位置における加工位置温度の判定処理にて加工位置温度が焼入れ温度に達したと判定された場合においては、レーザ制御部114aは、ステップS216にて、適温経過時間の計測処理を開始する。ここで、適温経過時間は、加工位置温度が焼入れ温度に達してからの経過時間である。したがって、レーザ制御部114aは、自身が内蔵するタイマー機能を使って時間の計測を開始する。
【0060】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS218にて、適温経過時間が所定の時間経過したか否かの判定処理を実行する。具体的には、レーザ制御部114aは、前記ステップS216にて計測を開始した適温経過時間が予め設定した時間に達していない場合には、この判定処理にて「No」と判定してステップS220に進む。一方、レーザ制御部114aは、適温経過時間が予め設定した時間に達した場合には、この判定処理にて「Yes」と判定してステップS224に進む。そして、レーザ制御部114aは、ステップS224にて、適温経過時間の値をリセットしてステップS224に進む。
【0061】
すなわち、このステップS218による適温経過時間の判定処理は、加工位置温度が焼入れ温度に所定の時間だけ維持されているか否かを判定する処理である。なお、ここで所定の時間は、作業者によって予めレーザ制御部114aに設定される。この所定時間は、特に限定されるものではないが、本発明者らの実験によれば0.1秒以上かつ1秒以下が好適である。
【0062】
次に、レーザ制御部114aは、適温経過時間が予め設定した時間に達していない場合には、ステップS220にて、光スポットSPの形成位置における加工位置温度が焼入れ温度に達したか否かを判定する。このステップS220における判定処理は、前記ステップS208における判定処理と同じ処理であるため、その説明を省略する。このステップS220における判定処理は、適温経過時間が所定の時間に達するまでの間に加工位置温度が焼入れ温度から外れることを検出するための処理である。
【0063】
この判定処理において、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲内である場合には「Yes」と判定してステップS218に戻る。一方、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲内にない場合には「No」(すなわち、「加工位置温度エラー」)と判定してステップS222に進む。この場合、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲よりも低いのかまたは高いのかを表す情報を記憶する。そして、レーザ制御部114aは、ステップS222にて、適温経過時間の値をリセットして図4の「4-1」にステップS214に戻る。
【0064】
一方、レーザ制御部114aは、前記ステップS204にてレーザ光Lの停止指示を検出した場合、または前記ステップS220における判定処理にて適温経過時間が予め設定した時間に達したと判定した場合には、ステップS226にて、レーザ駆動部114の作動を制御してレーザ光Lの出射を停止させる。
【0065】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS228にて、焼入れ出力値の確定処理を実行する。具体的には、レーザ制御部114aは、現時点の焼入れ出力値をこの焼入れ出力値設定サブプログラムの実行結果としての焼入れ出力値として出力値記憶部114bに記憶する。すなわち、この焼入れ出力値設定サブプログラムにおいては、試験片TPに照射するレーザ光の出力値を変化させる過程において、加工位置温度が焼入れ温度に所定の時間だけ維持された最初のレーザ光Lの出力値を焼入れ出力値として記憶する。
【0066】
そして、レーザ制御部114aは、ステップS230にて、この焼入れ出力値設定サブプログラムの実行を終了する。その後、総合制御装置120は、前記したように、ステップS112にてこの焼入れ出力値設定プログラムの実行を終了する。
【0067】
次に、作業者は、被加工物WKの焼入れ処理を行う。具体的には、作業者は、被加工物WKを用意してテーブル101上にセットした後、総合制御装置120に対して焼入れ処理の実行を指示する。この指示に応答して総合制御装置120は、焼入れ処理プログラムの実行を開始して被加工物WKに対して焼入れ処理を行う。
【0068】
具体的には、総合制御装置120は、XY送り装置102およびZ送り装置113の各作動をそれぞれ制御して被加工物WKをレーザ光源110に対して位置決めした後、レーザ駆動部114に対してレーザ光Lの出射を指示する。そして、総合制御装置120は、テーブル101上にセットした被加工物WKに対してレーザ光源110からレーザ光Lを出射させて光スポットSPを形成した状態でテーブル101の位置を図示X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向にそれぞれ変位させることで被加工物WKにおける作業者が指示した部分に焼入れ処理を行う。
【0069】
この焼入れ処理の実行過程において、レーザ駆動部114におけるレーザ制御部114aは、図6に示すレーザ出力調整プログラムを実行する。レーザ出力調整プログラムは、焼入れ処理プログラムの実行過程において被加工物WK上に照射するレーザ光LのON-OFF制御および強度制御をそれぞれ行う。具体的には、レーザ制御部114aは、レーザ出力制御プログラムの実行をステップS300にて開始して、ステップS302にて、レーザ駆動部114の作動を制御してレーザ光Lを出射させる。
【0070】
この場合、レーザ制御部114aは、前記した焼入れ出力値設定サブプログラムの実行によって設定した焼入れ出力値によってレーザ光源110からレーザ光Lを出射させる。これにより、被加工物WK上には、加工位置温度が焼入れ温度まで加熱することができる強度の光スポットSPが形成される。本発明者らの実験によれば、被加工物WKにおける加工位置温度を0.5秒~1秒で焼入れ温度まで加熱することができることを確認した。また、レーザ制御部114aは、温度検出器111の作動を制御して光スポットSP内における試験片TPの表面温度を表す温度検出信号を入力して試験片TPの表面温度の検出を開始する。
【0071】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS304にて、焼入れ処理の終了を判定する。このステップS304における焼入れ処理の終了の判定処理は、被加工物WKに対する焼入れ処理の終了を判定する処理である。この場合、レーザ制御部114aは、被加工物WKにおける焼入れ部分の最終位置までレーザ光Lが移動したことを検出することによって焼入れ処理の終了を判定する。
【0072】
したがって、レーザ制御部114aは、レーザ光Lが焼入れ部分の最終位置に到達するまで「No」と判定し続けてステップS306に進む。一方、レーザ制御部114aは、レーザ光Lが焼入れ部分の最終位置に到達した場合には「Yes」と判定してステップS318に進む。
【0073】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS306にて、温度エラー回数カウンタ値を「0」にリセットする。この場合、温度エラー回数カウンタ値は、加工位置温度が焼入れ温度範囲内でなかった加工位置温度エラーの回数を計数するための整数値である。
【0074】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS308にて、被加工物WK上における光スポットSPの形成位置(すなわち、焼入れ処理の位置)における温度である加工位置温度が焼入れ温度範囲内にあるか否かを判定する。具体的には、レーザ制御部114aは、温度検出器111から出力される温度検出信号を用いて被加工物WK上における光スポットSPの形成位置における温度を特定するとともに、この光スポットSPの形成位置の温度が焼入れ温度範囲内にあるか否かを判定する。
【0075】
この場合、焼入れ温度範囲は、前記レーザ制御部114aに予め設定された焼入れ温度の範囲である。したがって、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲内である場合には「Yes」と判定してステップS304に戻る。一方、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲内にない場合には「No」と判定してステップS310に進む。この場合、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度範囲よりも低いのかまたは高いのかを表す情報を記憶する。このステップS308における判定処理において、加工位置温度が焼入れ温度範囲内になかったと判定された場合が加工位置温度エラーである。
【0076】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS310にて、加工位置温度エラーの回数が所定の回数に達したか否かを判定する。ここで、所定の回数は、作業者によってレーザ制御部114aに操作パネル114cを介して予め設定される。本実施形態においては、所定回数は、3回に設定されている。レーザ制御部114aは、温度エラー回数カウンタ値が所定の数値以下である場合には「No」と判定してステップS212に進んで温度エラー回数カウンタ値をインクリメント処理(「1」を加算する処理)した後、ステップS308に戻る。
【0077】
一方、レーザ制御部114aは、温度エラー回数カウンタ値が所定の数値を超えた場合には「Yes」と判定してステップS314に進む。すなわち、このステップS310による処理は、加工位置温度エラーが突発的または偶然など一時的に生じたエラーなのか、加工位置温度エラーが継続的に生じている確実なエラーなのかを判定するための処理である。
【0078】
次に、レーザ制御部114aは、ステップS314にて、焼入れ出力値の更新処理を行う。このステップS314による焼入れ出力値の更新処理は、前記ステップS308で記憶した焼入れ温度に対する加工位置温度の高低に応じて焼入れ出力値の値を変更する処理である。具体的には、レーザ制御部114aは、加工位置温度が焼入れ温度に対して低い場合には焼入れ出力値に所定の値を加算して新たな焼入れ出力値とし、加工位置温度が焼入れ温度に対して高い場合には焼入れ出力値から所定の値を減算して新たな焼入れ出力値として出力値記憶部114bに記憶する。
【0079】
この場合、焼入れ出力値に対して加えるまたは減ずる所定の値は、加工位置温度を所定の温度だけ上昇または低下させることができる大きさに設定される。本実施形態においては、焼入れ出力値に対して加えるまたは減ずる所定の値は、1Wに設定されている。この所定の値は、レーザ制御部114aに固定的に設定されていてもよいし、作業者が任意に設定することができるようにしてもよい。なお、焼入れ出力値に対して加えるまたは減ずる所定の値は、焼入れ出力値に加える値と減ずる値とで絶対値で同じ値でもよいし互いに異なる値でもよい。
【0080】
このステップS314による焼入れ出力値の更新処理によってレーザ光源110から出力されるレーザ光Lの強度が変更される。そして、レーザ制御部114aは、ステップS304に戻る。これにより、被加工物WK上に照射されるレーザ光Lの強度は、常に焼入れ温度を維持するように調整される。このステップS314を実行した後、レーザ制御部114aは、ステップS304に戻る。
【0081】
一方、前記ステップS304におけるレーザ光Lの停止指示の判定処理にてレーザ光Lの停止指示を検出した場合においては、レーザ制御部114aは、ステップS316にて、レーザ駆動部114の作動を制御してレーザ光Lの出射を停止させてS318にてこのレーザ光Lの出力制御プログラムの実行を終了する。この場合、総合制御装置120は、焼入れ処理プログラムの実行を終了して被加工物WKに対する焼入れ処理を終了する。したがって、作業者は、テーブル101上から被加工物WKを撤去して焼入れ作業を終了する。
【0082】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、レーザ焼入れ装置100は、被加工物WKの表面を焼入れ温度まで加熱することができるレーザ光Lの出力値である焼入れ出力値でレーザ光Lの照射を開始するため、被加工物WKにおけるレーザ光Lの照射部分が焼入れ温度を超えて過熱されることを防止することができ、焼入れ処理の精度を向上させることができる。
【0083】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例の説明および参照する図においては、上記実施形態と同様の構成部分について同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0084】
例えば、上記実施形態においては、レーザ焼入れ装置100は、被加工物WKに照射するレーザ光Lの焼入れ出力値を焼入れ出力値設定サブプログラムを実行することで取得した。しかし、被加工物WKに照射するレーザ光Lの焼入れ出力値は、焼入れ出力値設定サブプログラムを実行する以外の方法で特定することもできる。被加工物WKに照射するレーザ光Lの焼入れ出力値は、例えば、被加工物WKの過去の焼入れ処理の経験に基づいて特定してもよいし、レーザ焼入れ装置100の仕様、被加工物WKの仕様および焼入れ処理の処理条件に基づいて理論的に特定することもできる。
【0085】
また、上記実施形態においては、焼入れ出力値は、被加工物WKの表面の温度を焼入れに必要な時間維持できる値とした。これにより、レーザ焼入れ装置100は、被加工物WKにおける焼入れ部分の温度が焼入れ温度に達した後においても少なくとも焼入れに必要な時間だけ焼入れ温度を維持するための制御がなくても精度のよい焼入れ処理を行うことができる。しかし、焼入れ出力値は、被加工物WKの表面の温度を焼入れに必要な時間維持できない値であってもよい。例えば、焼入れ出力値を被加工物WKの表面の温度を焼入れ温度の下限温度または上限温度に加熱する値とする場合がある。これらの場合、レーザ焼入れ装置100は、上記実施形態のように、レーザ出力制御プログラムを実行することで焼入れ部分の温度が焼入れ温度に達した後においても焼入れに必要な時間だけ焼入れ温度を維持することができる。
【0086】
また、上記実施形態においては、焼入れ出力値設定サブプログラムは、試験片TPに照射するレーザ光の出力値を変化させる過程において、加工位置温度が焼入れ温度に所定の時間だけ維持された最初のレーザ光Lの出力値を焼入れ出力値にするように構成した。すなわち、焼入れ出力値設定サブプログラムは、試験片TPに対して照射するレーザ光Lの強度(出力値)が所定の時間変更されず安定した場合に、その時点の出力値を焼入れ出力値にするように構成した。しかし、焼入れ出力値設定サブプログラムは、上記実施形態以外の手法によって焼入れ出力値を決定するように構成することもできる。
【0087】
例えば、焼入れ出力値設定サブプログラムは、試験片TPに対して照射するレーザ光Lの強度(出力値)を変更する過程において常に最も大きな出力値であるか否かを監視して焼入れ出力値を更新しながら記憶して、焼入れ出力値設定サブプログラムの実行を終了する際にレーザ光Lの出力値のうちで最も大きな出力値を焼入れ出力値にするように構成することもできる。
【0088】
また、焼入れ出力値設定サブプログラムは、試験片TPに対して照射するレーザ光Lの強度(出力値)を変更する毎に各出力値の変更の履歴を記憶しておき、焼入れ出力値設定サブプログラムの実行を終了する際に各出力値の変更の履歴のうちで最も大きな出力値を焼入れ出力値にするように構成することもできる。
【0089】
また、上記実施形態においては、焼入れ出力値設定サブプログラムは、複数回(3回)に亘って測定した加工位置温度が焼入れ温度から外れている場合に焼入れ出力値を更新するように構成した(ステップS208、S212、S214)。しかし、焼入れ出力値設定サブプログラムは、1回の測定による加工位置温度が焼入れ温度から外れている場合に焼入れ出力値を更新するように構成することもできる。すなわち、焼入れ出力値設定サブプログラムは、ステップS208、S212、S214の各処理を省略して構成することもできる。なお、レーザ出力調整プログラムについても、焼入れ出力値設定サブプログラムと同様に、ステップS306、S310、S312の各処理を省略して構成することもできる。
【0090】
また、上記実施形態においては、レーザ焼入れ装置100は、1つの種類の被加工物WKに対する焼入れ出力値を記憶するように構成した。しかし、レーザ焼入れ装置100は、被加工物WKの種類ごと、光スポットSPの大きさごとおよび焼入れ加工深さごとのうちの少なくとも1つについて焼入れ出力値を複数記憶しておくこともできる。これによれば、レーザ焼入れ装置100は、被加工物WKの種類または焼入れ処理の仕様に応じた焼入れ出力値を適宜選択して焼入れ処理を行うことができる。
【0091】
また、上記実施形態においては、レーザ焼入れ装置100は、出力値記憶部114bをレーザ駆動部114に設けてレーザ制御部114aが焼入れ出力値設定サブプログラムおよびレーザ出力調整プログラムを実行するように構成した。すなわち、レーザ制御部114aが、本発明に係る制御装置に相当する。これにより、レーザ焼入れ装置100は、レーザ光Lの出力値の制御をレーザ駆動部114内で行うため、被加工物WKの焼入れ部分の温度状況に応じて出射強度の制御を迅速に行うことができる。しかし、レーザ焼入れ装置100は、出力値記憶部114bを総合制御装置120に設けて総合制御装置120が焼入れ出力値設定サブプログラムおよびレーザ出力調整プログラムを実行するように構成することもできる。すなわち、総合制御装置120が、本発明に係る制御装置に相当する。この場合、温度検出器111は、総合制御装置120に対して温度検出信号を出力するように構成する。
【0092】
また、上記実施形態においては、温度検出器111は、試験片TPおよび被加工物WKの各表面における光スポットSPが形成された領域内における光スポットSPの進行方向の後方側(光スポットSPにおける半分より進行方向後ろ側)の温度を測定位置MPとして検出するように構成した。これにより、温度検出器111は、光スポットSP内で十分に加熱された試験片TPおよび被加工物WKの温度を検出することができ、温度検出精度を向上させることができる。しかし、温度検出器111は、試験片TPおよび被加工物WKの各表面における光スポットSPが形成された領域内の温度を検出するように構成されていればよい。
【0093】
また、上記実施形態においては、温度検出器111は、試験片TPおよび被加工物WKにおける光スポットSPが形成された部分の温度を検出した。すなわち、温度検出器111は、本発明に係る対象物温度検出器および被加工物温度検出器にそれぞれ相当し、これら2つの検出器を兼ねている。しかし、温度検出器111は、本発明に係る対象物温度検出器および被加工物温度検出器についてそれぞれ別個独立して設けられてもよいことは当然である。
【0094】
また、上記実施形態においては、レーザ焼入れ装置100は、焼入れ出力値設定サブプログラムおよびレーザ出力調整プログラムにおいて焼入れ出力値の変更履歴を記憶しないように構成した。しかし、レーザ焼入れ装置100は、焼入れ出力値設定サブプログラムおよび/またはレーザ出力調整プログラムにおいて焼入れ出力値の変更履歴を記憶する出力値変更履歴記憶ステップを実行することで被加工物WKの加工内容を記録として残して後日の追跡を可能とするトレーサビリティ性を向上させることができる。また、作業者は、レーザ光Lの出力値の変更履歴を確認することでレーザ光Lの出射時における焼入れ出力値の妥当性を検証することもできる。
【符号の説明】
【0095】
WK…被加工物、TP…試験片、L…レーザ光、SP…光スポット、MP…温度検出器による温度の測定位置、
100…レーザ焼入れ装置、
101…テーブル、102…XY送り装置、
110…レーザ光源、111…温度検出器、112…支持具、113…Z送り装置、114…レーザ駆動部、114a…レーザ制御部、114b…出力値記憶部、114c…操作パネル、
120…総合制御装置、121…操作盤、122…表示装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6