(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028068
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】軌条車両構体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B61D 17/00 20060101AFI20230224BHJP
B61D 17/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
B61D17/00 C
B61D17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133527
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹下 泰史
(72)【発明者】
【氏名】江角 昌邦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】森田 庸介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章弘
(57)【要約】
【課題】信頼性に優れ、軽量でありながら、透過音の車内への侵入を有効に抑制できる透過損失の大きい構体を備えた軌条車両構体の製造方法を提供する。
【解決手段】床面をなす台枠と、前記台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、前記台枠を構成する上床パネルと、を有する軌条車両構体の製造方法において、前記軌条車両構体は、鉄系材料から形成された鉄系面板と、前記鉄系面板の車内側に置かれ、アルミ系材料から形成されたアルミ系骨部材と、を有しており、前記鉄系面板と前記アルミ系骨部材とを密着させ、摩擦撹拌用の工具を、密着した前記アルミ系骨部材の部位側から当接させ、前記工具の軸回りに回転させながら接合線を重ね合わせるように移動させて、前記鉄系面板と前記アルミ系骨部材とを摩擦撹拌接合する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面をなす台枠と、
前記台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、
前記台枠を構成する上床パネルと、
を有する軌条車両構体の製造方法であって、
前記軌条車両構体は、
鉄系材料から形成された鉄系面板と、
前記鉄系面板の車内側に置かれ、アルミ系材料から形成されたアルミ系骨部材と、
を有しており、
前記鉄系面板と前記アルミ系骨部材とを密着させ、
摩擦撹拌用の工具を、密着した前記アルミ系骨部材の部位側から当接させ、前記工具の軸回りに回転させながら接合線を重ね合わせるように移動させて、前記鉄系面板と前記アルミ系骨部材とを摩擦撹拌接合する
ことを特徴とする軌条車両構体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載される軌条車両構体の製造方法において、
前記側構体は、前記鉄系面板と前記アルミ系骨部材とを有し、
前記アルミ系骨部材は、前記アルミ系骨部材の長手方向に交差する断面形状がシルクハット型であって一対の縁部を有しており、
前記鉄系面板に前記縁部を密着させ、
前記工具を反時計軸回りに回転させながら、第1方向に沿って進行させて、前記縁部を前記鉄系面板に摩擦撹拌接合した第1接合線を形成し、
前記工具を反時計軸回りに回転させつつ、前記第1方向と反対方向の第2方向に沿って、前記第1接合線を前記工具の進行方向左側に見ながら進行させて、前記縁部を前記鉄系面板に摩擦撹拌接合した第2接合線を形成し、
幅方向における前記第1接合線の一部と前記第2接合線の一部とは重なっている
ことを特徴とする軌条車両構体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載される軌条車両構体の製造方法において、
前記台枠は、前記アルミ系骨部材であって、前記台枠の幅方向に沿って布設される複数の横梁と、前記鉄系面板であって、前記横梁の上面に載置される鉄系床板と、を有しており、
前記鉄系床板に前記横梁を密着させ、
前記工具を反時計軸回りに回転させながら、第1方向に沿って進行させて、前記横梁を前記鉄系面板に摩擦撹拌接合した第1接合線を形成し、
前記工具を反時計軸回りに回転させつつ、前記第1方向と反対方向の第2方向に沿って、前記第1接合線を前記工具の進行方向左側に見ながら進行させて、前記横梁を前記鉄系面板に摩擦撹拌接合した第2接合線を形成し、
幅方向における前記第1接合線の一部と前記第2接合線の一部とは重なっている
を特徴とする軌条車両構体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載される軌条車両構体の製造方法において、
前記台枠は、
前記台枠の幅方向に沿って布設される複数の横梁と、
前記横梁の上面に載置される上床パネルと、
を有しており、
前記上床パネルは、前記アルミ系骨部材であって、前記上床パネルの外枠をなす略コ字状のアルミ系枠骨部材と、前記鉄系面板であって、前記アルミ系枠骨部材に接続される鉄系床面板と、を有しており、
前記鉄系床面板に前記アルミ系枠骨部材を密着させ、
前記工具を反時計軸回りに回転させながら、第1方向に沿って進行させて、前記アルミ系枠骨部材を前記鉄系床面板に摩擦撹拌接合した第1接合線を形成し、
前記工具を反時計回りに回転させつつ、前記第1方向と反対方向の第2方向に沿って、前記第1接合線を前記工具の左側に見ながら進行させて、前記アルミ系枠骨部材を前記鉄系床面板に摩擦撹拌接合した第2接合線を形成し、
幅方向における前記第1接合線の一部と前記第2接合線の一部とは重なっている
ことを特徴とする軌条車両構体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌条車両構体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、床面をなす台枠と、台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、台枠の長手方向の両端部に立設される妻構体と、側構体および妻構体の上端部に載置される屋根構体と、からなる六面体の鉄道車両構体を有する。一般に、鉄系のステンレス板は、耐候性および耐食性に優れるが、比較的比重が大きいというデメリットも有する。そこで、ステンレス板のデメリットを補うべく、比較的比重が小さいアルミ合金製の強度を担う主要部と、ステンレス製外板と、を組み合わせた鉄道車両構体が開発されている。
【0003】
特許文献1に、ステンレス板をアルミニウム合金製の押出し形材に摩擦攪拌接合することにより、鉄道車両構体を製造する方法が開示されている。かかる技術によれば、アルミニウム合金製の押出し中空形材を車内側から摩擦攪拌接合し、側構体の車外側にはステンレス板を車内側から中空形材突き合わせ部に摩擦攪拌接合することで、車体の側構体を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、高速走行する鉄道車両等に用いられる軌条車両構体を構成する部材は、軽量化のために部材の厚さ寸法を小さくしている。しかしながら、軽量化を訴求する結果、車外の騒音が軌条車両の六面体の構体を構成する屋根構体や、側構体や、台枠を透過して車内に侵入しやすくなり、これが透過音として認識されることで乗客に不快感を与えるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、信頼性に優れ、軽量でありながら、透過音の車内への侵入を有効に抑制できる透過損失の大きい構体を備えた軌条車両構体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の(装置)の一つは、
床面をなす台枠と、
前記台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、
前記台枠を構成する上床パネルと、
を有する軌条車両構体の製造方法であって、
前記軌条車両構体は、
鉄系材料から形成された鉄系面板と、
前記鉄系面板の車内側に置かれ、アルミ系材料から形成されたアルミ系骨部材と、
を有しており、
前記鉄系面板と前記アルミ系骨部材とを密着させ、
摩擦撹拌用の工具を、密着した前記アルミ系骨部材の部位側から当接させ、前記工具の軸回りに回転させながら接合線を重ね合わせるように移動させて、前記鉄系面板と前記アルミ系骨部材とを摩擦撹拌接合することにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性に優れ、軽量でありながら、透過音の車内への侵入を有効に抑制できる透過損失の大きい構体を備えた軌条車両構体の製造方法を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、鉄道車両の長手方向に交差する断面図(
図1のA-A断面)である。
【
図3】
図3は、鉄道車両の側構体の長手方向に交差する断面図(
図2のB部)である。
【
図4】
図4は、鉄道車両の側構体の高さ方向に交差する断面図(
図3のD-D断面)である。
【
図5】
図5は、鉄道車両の側構体を製造する過程を示す模式図(
図3のC矢視図)である。
【
図6】
図6は、骨部材を車外面板に接合する過程であって、骨部材の一方の縁部を1本の接合線で接合した直後の縁部付近の断面図である。
【
図7】
図7は、骨部材を車外面板に接合する過程であって、骨部材の他方の縁部を2本の接合線で接合した直後の縁部付近の断面図である。
【
図8】
図8は、上床パネルの構成を示す上面模式図である。
【
図9】
図9は、上床パネルの断面図(
図8のG-G断面)である。
【
図10】
図10は、側構体および上床パネルの接合工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して、本発明の実施の形態を説明する。まず、説明に供する各方向を定義する。軌条車両の長手方向またはレール方向をx方向、軌条車両の幅方向または枕木方向をy方向、軌条車両の高さ方向をz方向とし、以下、単にx方向、y方向、z方向と記す。
【0011】
軌条車両は、敷設される軌道に沿って運行される車両であり、鉄道車両、モノレール車両、路面電車、新交通車両等を含む。軌条車両の代表例として、鉄道車両を取り上げて本発明の実施の形態を説明する。また、本明細書中、「鉄系材料」とは、少なくともFeを含み、好ましくはさらにCを含む材料をいう。また、「アルミ系材料」とは、少なくともAlを含む材料をいう。
【0012】
図1は鉄道車両の側面図であり、
図2は鉄道車両の長手方向に交差する断面図(
図1のA-A断面)である。鉄道車両1は、六面体をなす構体3を有しており、構体3のx方向の両端部は、軌道(レール)90の上を転動する車輪を有する台車2に支持される。
【0013】
構体3は、床面をなす台枠7と、台枠7のy方向の両端部に立設される側構体6と、台枠7のx方向の両端部に立設される妻構体9と、側構体6および妻構体9の上端部(z方向の端部)に載置される屋根構体5と、からなる6面体である。妻構体9にほぼ平行に、乗客等が乗降する出入口を有するデッキ部と座席のある客室部とを仕切る仕切り壁69が備えられ、仕切り壁69には乗客等の移動に供される仕切り扉76が備えられる。
【0014】
構体3は、プラットホーム92の高さとほぼ同じ高さ位置で、y方向に沿って延在する一対の側構体6を接続するとともに、x方向に沿って離散的に備えられる複数の横梁12を有する。横梁12の上方に支持部材(図示なし)を介して上床パネル72を備え、上床パネル72の上面に座席70等が載置される。上床パネル72を支持するとともに台枠7を構成する横梁12の下方には、台車2、変圧器、主回路機器、補助電源装置、空気圧縮機等の各種電気品が備えられる。
【0015】
図3は、鉄道車両の側構体の長手方向に交差する断面図(
図2のB部)であり、
図4は、鉄道車両の側構体の高さ方向に交差する断面図(
図3のD-D断面)である。屋根構体5と側構体6とは、基本的に同様の構成であるため、代表例として側構体6の構成を
図3から
図7を示しながら説明し、屋根構体5の説明を省略する。
【0016】
側構体6は、車外面板6aと、車外面板6aを車内側から支持する骨部材(柱)6bと、から構成される。骨部材6bは、z方向に交差する断面形状がシルクハット状の部材であり、すなわち断面がコ字状の本体の両側縁から、板状である一対の縁部6bhが対向して延在している。骨部材6bを構成する一対の縁部6bhは、車外面板6aに当接配置された後、後述する方法で摩擦撹拌接合によって、車外面板6aの車内側の面に接続される。
【0017】
図5は、鉄道車両の側構体を製造する過程を示す模式図(
図3のC矢視図)である。
図5に示す側構体6の製造過程を示す模式図は、定盤上に載置した車外面板6aの車内側の面(上面)に、骨部材6bを位置決めした後、摩擦撹拌接合で骨部材6bを車外面板6aに接続する過程を示すものである。
【0018】
図示はしないが、摩擦撹拌接合に供する工具Tは、円筒状の大径部の先端に、大径部の軸と同軸上に円筒状の小径部を有する同軸の2段円筒状形状である。工具Tの小径部をその軸周りに回転させながら骨部材6bの縁部6bhの内部に埋没させるとともに、工具Tの大径部の端面が縁部6bhの上面に位置する態様で、縁部6bhの長手方向に沿って所定の送り速度(接合速度)で進行する過程で、骨部材6bは車外面板6aに接合される。工具Tが進行した軌跡に沿って、後述するように接合線L1(L2)が生じる。
【0019】
<製作方法>
図6は、骨部材を車外面板に接合する過程であって、骨部材の一方の縁部を1本の接合線で接合した直後の縁部付近の断面図である。
図7は、骨部材を車外面板に接合する過程であって、骨部材の他方の縁部を2本の接合線で接合した直後の縁部付近の断面図である。
図6に示す一方の縁部6bhも、他方の縁部6bhと同様に、2本の接合線で接合されるが、接合する上での課題とその課題が解決される過程を説明するために、比較例として1本の接合線L1のみで接合した直後の断面図を示す。
【0020】
図6は、俯瞰した時に反時計回り方向32に回転する工具Tをx方向に進めながら、一方の縁部6bhを車外面板6aに接合する過程を模式的に示したものである。この時、摩擦撹拌接合部のx方向に交差する断面において、工具Tの進行方向30を向いた時に、工具Tの進行方向左側(+y方向の側、工具Tの回転方向32と工具Tの進行方向30とが反対となる部位)に、フッキング欠陥F1が生じる場合がある。このフッキング欠陥F1は、縁部6bhと車外面板6aとの接合部の撹拌が十分でないために生じ、したがって接合されてはいるが所定の接合強度を満たしていないことが多い。
【0021】
このため、縁部6bhを車外面板6aから引き剥がす方向の力が作用した時に、縁部6bhの接合線L1の進行方向左側(+y方向)の縁部のフッキング欠陥F1が起点となって両者が分離するおそれがあった。フッキング欠陥F1に起因する課題は、
図7に示すように、接合線L1の一方の縁に接合線L2の一部が重なる態様で、骨部材6bを車外面板6aに摩擦撹拌接合することによって、解消することができる。
【0022】
具体的に、上記課題の解消法について説明する。まず、工具Tを反時計回りに回転させながら+x方向(第1方向)に進行させ、骨部材6bを車外面板6aに摩擦撹拌接合することで、接合線L1を形成する。次に、同一の工具Tを反時計回りに回転させながら-x方向(第2方向)に、接合線L1を工具Tの進行方向左側に見ながら進行させ、骨部材6bを車外面板6aに摩擦撹拌接合することで、接合線L2を形成する。この時、幅方向における接合線L2の一部が接合線L1の一部に重なるように、骨部材6bを車外面板6aに摩擦撹拌接合する。接合線L2と接合線L1とは、長手方向全体にわたって重なっていると好ましい。
【0023】
上述した方法によって、互いにずれた接合線L1と接合線L2とに沿って、骨部材6bを車外面板6aに摩擦撹拌接合することによって、接合線L1の+y方向の縁部に形成されるフッキングFlと、接合線L2の-y方向の縁部に形成されるフッキング欠陥F2と、が重なりあう。このため、接合線F1と接合線L2とを巨視的に1本の接合線と見た場合に、接合線の+y方向の縁部および-y方向の縁部(接合線の両側)に、接合強度が安定する接合部位を配することができる。
【0024】
したがって、骨部材6bを車外面板6aから引き剥がす方向の力を加える場合であっても、巨視的にみた接合線の両側のいずれの側も、分離する起点となりにくいので、骨部材6bを車外面板6aに強固に接続できる。
【0025】
骨部材6bを軽量性に優れるアルミ等の軽合金で構成し、車外面板6aを高い強度と耐食性および耐候性を有するステンレス板(鉄系板)とすると、全てをステンレス板で形成した場合に比して側構体6全体の軽量化を図れる。一方、車外面板6aに大きな質量の素材を配置することによって、側構体6に大きな透過損失を付与することできるので、側構体6を透過して車内へ侵入する車外騒音を低減することができる。したがって、本実施形態によれば、信頼性に優れ、軽量でありながら、透過音の車内への侵入を抑制できる透過損失の大きい構体からなる軌条車両構体を提供することができる。
【0026】
図8は、上床パネルの構成を示す上面模式図であり、一部を切り欠いて示している。
図9は、上床パネルの断面図(
図8のG-G断面)である。上床パネル72は、外枠を形成するとともに略コ字状の断面形状を有する骨部材72bと、骨部材72bの一方の縁部72b1に摩擦撹拌接合される鉄系面板72aと、骨部材72bの他方の縁部72b2に、機械締結部72dによって締結される裏板72cと、骨部材72bと面板72aと裏板72cと、で囲まれる領域に備えられる吸音材72eと、から構成される。
【0027】
<製作方法>
上床パネル72は、まず、定盤の上に所定の形状に切り出された面板72aを配置した後、面板72aに、骨部材72bの縁部72b1が当接するように、骨部材72bを位置決めする。
【0028】
その後、摩擦撹拌接合用の工具を骨部材72bに当接させながら、俯瞰した時に反時計回り(左軸回り)に回転させつつ、工具の進行方向30が示す方向に沿って進行させ、骨部材72bと面板72aとを摩擦撹拌接合して、接合線L1を形成する。
【0029】
次に、俯瞰した時に反時計回り(左軸回り)に回転する工具を骨部材72bに当接させながら、工具の進行方向左側に既に接合した接合線L1を見る態様で進行させ、骨部材72bを面板72aに摩擦撹拌接合して、接合線L2を形成する。このとき、接合線L2の中心線が接合線L1の中心線より外側に位置するようにして、接合線L1の一部と接合線L2の一部とが重なり合う。
【0030】
上述した方法によって、接合線L1と接合線L2とに沿って、骨部材72bを面板72aに摩擦撹拌接合することによって、接合線L1に形成されるフッキングFlと、接合線L2に形成されるフッキングF2と、が重なりあうため、接合線F1と接合線F2とを巨視的に1本の接合線と見た場合に、接合線の幅方向の両端部(接合線の両側)に、接合強度が安定する接合部位を配することができる。
【0031】
したがって、骨部材72bを面板72aから引き剥がす方向の力を加える場合であっても、巨視的にみた接合線の両側のいずれの側も、分離する起点となりにくいので、骨部材72bを面板72aに強固に接続できる。
【0032】
必要に応じて、吸音材72eを面板72aと骨部材72bとで囲まれる領域に備えた後、裏板72cを骨部材72bの縁部72b2の上面に位置決めして、リベット等の機械締結部72dで、裏板72cを骨部材72bに接合する。
【0033】
骨部材72bを軽量性に優れるアルミ等の軽合金で構成し、面板72aを高い強度と耐食性および耐候性を有するステンレス板(鉄系板)とすると、全てをステンレス板で形成した場合に比して上床パネル72全体の軽量化を図れる。一方、面板72aに大きな質量の素材を配置することによって、上床パネル72に大きな透過損失を付与することできるので、上床パネル72を透過して車内へ侵入する車外騒音を低減することができる。
【0034】
したがって、信頼性に優れ、軽量でありながら、上床パネル72の下方に、音源となりやすい台車2、および、各種電気品が配置されていても、その透過音の車内への侵入を抑制できる透過損失の大きい構体からなる軌条車両構体を提供することができる。
【0035】
なお、上述した上床パネル72に代えて、アルミ系骨部材としてのアルミ合金製の横梁(床梁)12に、鉄系面板としての鉄系床板を重ねた後、横梁12の側から摩擦撹拌接合用の工具Tを挿入して、上床パネル72と同様の接合形態によって、上床を構成しても良い。
【0036】
より具体的には、鉄系床板に横梁12を密着させ、工具Tを反時計軸回りに回転させながら、第1方向に沿って進行させて、横梁12を鉄系面板に摩擦撹拌接合した第1接合線L1を形成する。さらに工具Tを反時計軸回りに回転させつつ、前記第1方向と反対方向の第2方向に沿って、第1接合線L1を工具Tの進行方向左側に見ながら進行させて、横梁12を鉄系面板に摩擦撹拌接合した第2接合線L2を形成する。このとき、幅方向における第1接合線L1の一部と第2接合線L2の一部とは重なるようにする。
【0037】
図10は、側構体および上床パネルの接合工程を示すフローチャートである。
ステップS10において、側構体6および上床パネル72の接合工程製造を開始する。まず、ステップS20において、面板6a、72aを定盤上に配置する。次に、ステップS30において、面板6a、72aに骨部材6b、72bを位置決めする。
【0038】
その後、ステップS40において、左軸回りに回転する工具を骨部材6b、72bに当接させながら、工具の進行方向30の向きに進行させて、面板6a、72aと骨部材6b、72bとを摩擦撹拌接合して、第1接合線L1を形成する。さらに、ステップS50において、左軸回りに回転する工具を骨部材6b、72bに当接させながら、その進行方向(31)左側に接合線L1を見る態様で進行させて、面板6a、72aと骨部材6b、72bとを摩擦撹拌接合して、第2接合線L2を形成する。ステップS60で、接合工程を終了する。
【0039】
上記のステップを備える製造方法で製造された側構体または上面パネルを有する軌条車両は、軽量であるとともに透過音の車内への侵入を抑制できる透過損失の大きい特徴を有する。
【0040】
なお、本発明は以上の実施形態に限られない。例えば、摩擦撹拌用の工具を、反時計回りに回転する例をあげたが、時計回りに回転させてもよい。ただし、その場合には、第2接合線に沿って工具を移動させる際に、第1接合線を進行方向右側に見ながら工具を移動させる必要がある。
【符号の説明】
【0041】
1…鉄道車両、 2…台車、
3…構体、 5…屋根構体、
6…側構体、 6a…車外面板、
6b…骨部材(柱)、 6bh…縁部、
9…妻構体、 12…横梁、
30、31…工具の進行方向を示す矢印、
32…工具の回転方向を示す矢印、
69…仕切り壁、 70…座席、
72…上床パネル、 72a…面板、
72b…骨部材、 72b1、72b2…縁部、
72c…裏板、 72d…機械締結部(リベット)、
72e…吸音材、 74…客室仕切り壁、
76…仕切り扉、 90…軌道、
92…プラットホーム、 L1、L2…接合線、
F1、F2…フッキング欠陥、 T…工具(ツール)、
x…長手方向(レール方向)、 y…幅方向(枕木方向)、
z…高さ方向