(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028072
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】面状発熱体
(51)【国際特許分類】
H05B 3/20 20060101AFI20230224BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
H05B3/20 379
C12M1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133546
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】591023734
【氏名又は名称】坂口電熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山森 詠未
【テーマコード(参考)】
3K034
4B029
【Fターム(参考)】
3K034AA02
3K034AA06
3K034AA09
3K034AA15
3K034AA34
3K034BA08
3K034BA13
3K034BB10
3K034BB13
3K034BC12
3K034JA09
4B029BB01
4B029DD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安価で、故障しにくく、効率的な加熱が可能な面状発熱体を提供すること。
【解決手段】ポリエチレンからなる第一および第二の絶縁層21,22と、前記第一および第二の絶縁層の間に封止された発熱体本体10と、を有し、前記発熱体本体が、紙基材11と該紙基材上に形成された抵抗発熱塗工層12とを備え、前記紙基材が、前記抵抗発熱塗工層の発熱領域と隣接する非発熱領域110を備える面状発熱体1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンからなる第一および第二の絶縁層と、
前記第一および第二の絶縁層の間に封止された発熱体本体と、
を有し、
前記発熱体本体が、紙基材と該紙基材上に形成された抵抗発熱塗工層とを備え、
前記紙基材が、前記抵抗発熱塗工層の発熱領域と隣接する非発熱領域を備えることを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
前記非発熱領域の少なくとも一部が、前記抵抗発熱塗工層が形成されていない非塗工領域であることを特徴とする請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
前記非発熱領域が、前記紙基材の周縁の少なくとも一部であることを特徴とする請求項1または2に記載の面状発熱体。
【請求項4】
前記紙基材の坪量が、40g/m2以上300g/m2以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項5】
前記抵抗発熱塗工層が、水膨潤性合成マイカを含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の面状発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック等の導電性粒子とバインダー樹脂とを含む発熱塗料が塗工されてなる抵抗発熱層を有する面状発熱体が、床暖房、除霜、階段融雪、配管ヒータ等の様々な分野で利用されている。例えば、本発明者らは、特許文献1において、加熱時の温度ムラが少なく安定した加熱を効率良く行える面状発熱体、特許文献2において、従来のものと比較して高温の発熱が可能な水性発熱塗料とこれを利用した面状発熱体を提案している。
【0003】
ここで、面状発熱体として、より安価なものが求められている。例えば、微生物やヒト由来細胞等の培養は、コンタミネーション(雑菌の混入・増殖による汚染)の発生を防ぐために、1回しか利用しない(シングルユース)容器を用いる場合が多い。これらの培養は、特定の温度域(例えば、ヒト由来細胞では37℃近傍であり、42℃以上となると細胞が破壊される)で行う必要があるが、加熱源として、効率的な加温が可能な投げ込み式でありながらも、コンタミネーションの起こりにくいシングルユースが可能である安価なものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-110757号公報
【特許文献2】PCT/JP2021/014503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安価で、故障しにくく、効率的な加熱が可能な面状発熱体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解消するためのものであり、具体的な手段は以下の通りである。
1.ポリエチレンからなる第一および第二の絶縁層と、
前記第一および第二の絶縁層の間に封止された発熱体本体と、
を有し、
前記発熱体本体が、紙基材と該紙基材上に形成された抵抗発熱塗工層とを備え、
前記紙基材が、前記抵抗発熱塗工層の発熱領域と隣接する非発熱領域を備えることを特徴とする面状発熱体。
2.前記非発熱領域の少なくとも一部が、前記抵抗発熱塗工層が形成されていない非塗工領域であることを特徴とする1.に記載の面状発熱体。
3.前記非発熱領域が、前記紙基材の周縁の少なくとも一部であることを特徴とする1.または2.に記載の面状発熱体。
4.前記紙基材の坪量が、40g/m2以上300g/m2以下であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の面状発熱体。
5.前記抵抗発熱塗工層が、水膨潤性合成マイカを含有することを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の面状発熱体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の面状発熱体は、紙とポリエチレンを主要材料としているため、非常に安価である。ポリエチレンは他の材質と融着しにくい素材であるが紙とは融着可能である。本発明の面状発熱体は、ポリエチレンからなる絶縁層と紙基材を備える発熱体本体とが強固に融着しており層間剥離が生じにくい。ポリエチレンは加熱により変形が生じやすい材料であるが、本発明の面状発熱体は、紙基材が抵抗発熱塗工層の発熱領域と隣接する非発熱領域を備えており、この非発熱領域がポリエチレンの変形を抑える支持体として機能することにより、ポリエチレンの変形に伴う発熱体塗料の割れを抑えることができる。また、ポリエチレンが変形(収縮)して面状発熱体の加熱面を内側として丸くなることを防止することができるため、加熱面と接触する液体が十分に交換されて均一に加熱することができる。
本発明の面状発熱体は、ガンマ線照射による滅菌が可能である。そのため、微生物や細胞培養における投げ込みヒータとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施態様例である面状発熱体の分解図。
【
図2】本発明の面状発熱体における発熱体本体の変形例を示す図。
【
図3】本発明の面状発熱体における発熱体本体の変形例を示す図。
【
図4】本発明の面状発熱体における発熱体本体の変形例を示す図。
【
図5】本発明の面状発熱体における発熱体本体の変形例を示す図。
【
図6】本発明の面状発熱体における発熱体本体の変形例を示す図。
【
図7】本発明の面状発熱体における発熱体本体の変形例を示す図。
【
図8】実施例1、比較例1で得た面状発熱体の加熱後の抵抗値変化率と水温を示すグラフ。
【
図9】実施例1、比較例1で得た面状発熱体の加熱前後の状態を示す図。
【
図10】実施例2、比較例2で得た面状発熱体の加熱前後の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、本発明の一実施態様例である面状発熱体の分解図を示す。なお、
図1に示す面状発熱体は一実施態様に過ぎず、本発明の面状発熱体はこれに限定されない。
一実施態様である面状発熱体1は、ポリエチレンからなる第一および第二の絶縁層21、22と、紙基材11と紙基材11上に形成された抵抗発熱塗工層12とを備える発熱体本体10とを有する。発熱体本体10は、熱融着した第一及び第二の絶縁層21、22の間に封止される。
【0010】
・第一、第二の絶縁層
第一、第二の絶縁層21、22はポリエチレンからなる。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)等を特に制限することなく使用することができる。絶縁層の厚さは、伝熱性の点から薄い方が好ましいが、薄くなりすぎると強度が低下して破れやすくなるため、100μm以上であることが好ましい。また、内部に存在する段差に対して薄すぎると、熱融着時にこの段差に追従できずに穴が開いてしまう場合があるため、絶縁層の厚さは熱融着して封止する際に内部に存在する段差の0.8倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましく、1.2倍以上であることが更に好ましい。また、絶縁層は、部分ごとに異なる厚さとすることもでき、例えば、抵抗加熱塗工層を覆う絶縁層を他の部分よりも薄くすることもできる。さらに、絶縁層は、例えばポリエチレンからなる培養槽の壁面や底面と一体化することもできる。
【0011】
・発熱体本体
発熱体本体10は、紙基材11と紙基材11上に形成された抵抗発熱塗工層12とを備える。抵抗発熱塗工層12上にはその両端に導電部13a、bが設けられており、導電部13a、bにはリード線14a、bが接続されている。紙基材11は抵抗発熱塗工層12の発熱領域と隣接し、抵抗発熱塗工層12が塗工されていない非塗工領域からなる非発熱領域110を備える。
【0012】
「紙基材」
紙基材11は、その面上に発熱塗料を塗工して均一な抵抗発熱塗工層12を形成できるものであれば特に制限することなく使用することができるが、抵抗発熱塗工層12、および絶縁層21、22との密着性に優れるため、非塗工紙が好ましい。また、紙基材11の坪量は、40g/m2以上300g/m2以下であることが好ましい。紙基材11の坪量が40g/m2未満では発熱塗料の裏抜けが生じる場合があり、300g/m2を超えると紙基材11が剛直になりすぎて、力が加わって屈曲等する際に紙基材11の端部で絶縁層21、22との剥離や絶縁層の破れが生じやすくなる場合がある。
【0013】
「抵抗発熱塗工層」
抵抗発熱塗工層12は、少なくとも導電材、バインダー樹脂を含有する発熱塗料を紙基材11上に塗工し、乾燥することにより形成される。発熱塗料は、水系、有機溶媒系のいずれでも良いが、水性塗料であることが、作業者及び環境への負荷が小さく、また火災や爆発の危険性がなく安全性に優れているため好ましい。
【0014】
導電材としては、抵抗発熱塗工層に従来使用されているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、炭素繊維等の炭素系導電材、金、銀、銅、ニッケル等の金属系導電材、炭化タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、炭化チタン等のセラミック系導電材等を利用することができる。これらの中で、粒径が小さいものを安価で入手可能なため、炭素系導電材が好ましい。導電材は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
導電材は、抵抗発熱塗工層の固形分100重量部に対して30重量部以上70重量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0015】
バインダー樹脂としては、発熱塗料中に溶解、または分散が可能なものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂等の1種または2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、耐熱性に優れるため、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂のいずれか1種以上が好ましい。
バインダー樹脂は、抵抗発熱塗工層の固形分100重量部に対して15重量部以上50重量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0016】
発熱塗料が水性塗料である場合、水膨潤性合成マイカを含有することが好ましい。水膨潤性合成マイカは、その層間に水を取り込み膨潤する。そして、膨潤したマイカを含む水性塗料は、せん断応力が加わると粘度が低下し、応力が加わらなくなると粘度が高くなるチキソトロピー性を示す。そのため、水膨潤性合成マイカを含む水性発熱塗料は、塗布しやすく、塗布後に液垂れしにくいため、均一な抵抗発熱塗工層を形成することが容易となる。
水膨潤性合成マイカを含有する場合、水膨潤性合成マイカは、抵抗発熱塗工層の固形分100重量部に対して3重量部以上40重量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0017】
水膨潤性合成マイカは、レーザー回折散乱法により測定される体積分布から導かれる平均粒子径(メディアン径)が、2μm以上20μm以下であることが好ましい。この平均粒子径が、上記範囲内であると、水性発熱塗料への分散性、塗工性に優れ、また、均一な塗膜(抵抗発熱塗工層)が形成されやすい。この平均粒子径は、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0018】
発熱塗料は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、分散剤、レベリング剤、消泡剤、硬化剤等の添加剤を配合することができる。
発熱塗料は、その塗工方法等に適した粘度となるように、固形分濃度を調整する。固形分濃度としては、その塗工方法等により求める粘度等に応じ、例えば、5重量%以上50重量%以下程度とすることができる。
【0019】
抵抗発熱塗工層12は、発熱塗料を紙基材11に塗布し、乾燥させることにより、形成することができる。抵抗発熱塗工層11は、単一の発熱塗料から形成してもよく、組成の異なる複数種類の発熱塗料を塗り分けて形成してもよい。また、単層または重ね塗りされた複数層であってもよい。抵抗発熱塗工層11を、組成の違う発熱塗料で塗り分ける、または、厚さを異ならせる等により、抵抗値の低い領域と抵抗値の高い領域とをパターン化し、発熱特性をパターン化することができる。
【0020】
抵抗発熱塗工層12は、通電により発熱するものであり、通電時に発熱する領域が発熱領域である。抵抗発熱塗工層12は、有線または無線により通電する必要がある。一実施態様である面状発熱体1は、抵抗発熱塗工層12の両端に導電性インク等からなる導電部13a、bを設け、この導電部13a、bに電源と繋がるリード線14a、bが導電性ペースト等により接続されている。導電性インク、導電性ペーストとしては、銅、銀等の導電性粒子を含むもののうち、求める塗布性、密着性、固定性等の性質を満足するものを使用することができる。リード線14a、bとしては、銅線、ニッケル線、銅めっきニッケル撚り線等の金属線、銅メッキアラミド繊維等を特に制限することなく利用することができるが、製造工程における熱融着時の圧力で潰れて平坦となることができるため、複数本の繊維の集合体であることが好ましい。なお、抵抗発熱塗工層12に通電するための方法はこれに限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、導電性ペーストに代えて導電性粘着テープを用いることもできる。
リード線14a、bは、面状発熱体1の外部へ異なる場所から導いてもよく、同一の場所から導いてもよい。また、面状発熱体1の内部に熱電対等の温度センサーを封止する場合、このセンサーのコードも異なる場所、同一の場所のどちらからも外部へ導くことができる。
【0021】
・非発熱領域
一実施態様である面状発熱体1は、抵抗発熱塗工層12の発熱領域と隣接し、抵抗発熱塗工層12が塗工されていない非塗工領域からなる非発熱領域110を備える。絶縁層21、22の材質であるポリエチレンは、熱により膨張収縮等の変形が起こりやすい。面状発熱体1は、紙基材11に設けられた非発熱領域110が、ポリエチレンの変形を抑制する支持体として機能するため、ポリエチレンが変形しにくく、面状発熱体1の変形を抑えることができる。
これに対し、紙基材が非発熱領域を備えない場合は、ポリエチレンの変形に追従して抵抗発熱塗工層に割れが生じる場合や、発熱面を内側にして丸まる場合がある。そして、抵抗発熱塗工層に割れが生じると、その部分は電気が通ることができないため、一部に電気が集中して異常加熱が生じてポリエチレンの溶融やショート(短絡)が発生してしまう。また、発熱面を内側にして丸まると、投げ込みヒータとして液体に投入した場合に、加熱面と接触する液体が十分に交換されず、加熱ムラが生じてしまう。
【0022】
面状発熱体1において、非発熱領域110は、抵抗発熱塗工層12のリード線14a、bと接続される側の辺に設けられているが、本発明の面状発熱体における非発熱領域の位置はこれに限定されない。
図2~7に、発熱体本体の変形例を示す。
図2に示す発熱体本体210は、抵抗発熱塗工層12のリード線14a、bと反対側の辺にも非塗工領域からなる非発熱領域110を備える。
図3に示す発熱体本体310は、抵抗発熱塗工層12が分割されており、その間に非発熱領域110を備える。
図4に示す発熱体本体410は、導電部13a、bが抵抗発熱塗工層12の一部にのみ設けられており、抵抗発熱塗工層の発熱しない領域からなる非発熱領域110(
図4の点線の右側)を備える。
図5に示す発熱体本体510は、導電部13a、bが抵抗発熱塗工層12の内側寄りに設けられており、導電部13a、bの外側に抵抗発熱塗工層の発熱しない領域からなる非発熱領域110を備える。
図6に示す発熱体本体610は、導電部13a、bから伸びる櫛状電極131a、bを備え、導電部12と抵抗発熱塗工層12との間に非発熱領域110を備える。また、櫛状電極131aは非発熱領域でもある。
図7に示す発熱体本体710は、導電部13a、b間に中間導電部132を備え、抵抗発熱塗工層12が四角格子型に設けられており、その間に非発熱領域110を備える。
図1~7に示すように、非発熱領域110が紙基材11の周縁の少なくとも一部であることが、変形をより抑制できるため好ましい。また、
図3、7に示すように、非発熱領域110と抵抗発熱塗工層12とが交互に配置されていると、全体的に変形を抑制することができる。
【0023】
本発明の面状発熱体は、発熱体本体を、ポリエチレンからなる第1、第2の絶縁層の間に挟み込んだ状態で圧力を加えながら加熱し、発熱体本体を熱融着した第一と第二の絶縁層の間に封止することにより製造することができる。ポリエチレンは、他の材料と融着が困難な素材であるが、紙とは熱融着することができる。そして、発熱体本体が紙基材を備えることにより、ポリエチレンからなる絶縁層と発熱体本体とを熱融着により密着することができる。この際、上記したように、例えば、抵抗発熱塗工層を覆う絶縁層を薄くして伝熱性を維持しながら、リード線を覆う絶縁層をより厚くして段差の大きな箇所でのポリエチレンが破れることを防止することもできる。
【0024】
本発明の面状発熱体の用途は特に制限されないが、ポリエチレンの融点が95~140℃程度であるため、加熱温度がそれ以下の用途に用いることができ、例えば、液体の投げ込みヒータとして適している。さらに、本発明の面状ヒータは放射線照射により劣化しにくく、ガンマ線照射による滅菌処理が可能であるため、細胞や微生物の培養液を加熱する投げ込みヒータとして特に適している。
【実施例0025】
「実施例1」
カーボンブラックと、ポリイミド系樹脂を含む水性の発熱塗料に、水膨潤性合成マイカ(平均粒子径5μm以下)と脱イオン水を配合し、遊星式攪拌・脱泡装置(倉敷紡績株式会社製、マゼルスター KK-1000W)を用い、高粘度材料の標準的な攪拌脱泡のプログラムで6分間撹拌して、カーボンブラック37.2重量%、ポリイミド系樹脂33.9重量%、水膨潤性合成マイカ8.0重量%、水20.8重量%の水性発熱塗料を調製した。
調製した水性発熱塗料を、紙基材(菅公工業株式会社 ケント紙(非塗工紙) ベ051、坪量43g/m2)に、ドクターブレードで幅150mm、長さ220mm、厚さ20μmで塗布し、200℃で1時間焼成した。次いで、長さ方向に80mm間隔で銀ペーストを幅5mmで塗布し、さらに130℃で1時間焼成して導電部を形成した。長さ方向の両端に導電部が位置するように長さ方向90mm、幅方向の端部に1cm幅で非塗工領域が位置するように幅方向90mmで裁断し、紙基材が、抵抗発熱塗工層の発熱領域と隣接する非塗工領域からなる非発熱領域を有する発熱体本体(90mm×90mm)を得た。
【0026】
発熱体本体の非発熱領域以外を厚さ200μmのポリエチレンで上下から挟み込み、シリコンラバースポンジの緩衝材を挟んで130℃10分間熱融着した。
熱融着後、露出している非発熱領域の導電部に、リード線をポリエチレンテープで固定するとともに、リード線先端と導電部とをAgペーストで接続した。また、非発熱領域にφ2.5の穴を開け、熱電対先端を穴と重ねてPEテープで固定した。
この非発熱領域を、700μmのポリエチレンで上下から挟み込み、シリコンラバースポンジの緩衝材を挟んで130℃10分間熱融着した。紙基材の端部から5mm以上離れた部分で裁断し、第一、第二の絶縁層のそれぞれの厚さがリード線等が封止された非発熱領域を含む部分が1400μm、抵抗発熱塗工層を含む部分が400μmである面状発熱体を得た。
【0027】
「比較例1」
発熱体本体を裁断して形成する際に、非発熱領域を有さないように裁断した以外は実施例1と同様にして面状発熱体を得た。
【0028】
実施例1、比較例1で得られた面状発熱体を、それぞれ20℃の水300mlに沈め、0.2W/cm
2印加し、通電直後と比較した30分後の抵抗値変化率と、面状発熱体が有する熱電対で30分後の水温を測定した。その後、新たに20℃の水に取り替え、0.3W/cm
2、0.4W/cm
2、0.5W/cm
2のワット密度となるように印加した以外は同様にして、抵抗値変化率と、水温を測定した。結果を
図8に示す。また、この実験による加熱前後の面状発熱体の状態を
図9に示す。
【0029】
実施例1、比較例1で得られた面状発熱体は、いずれも良好な防水性と発熱特性を示した。
本発明である紙基材が非発熱領域を備える実施例1で得られた面状発熱体は、ポリエチレンの変形が抑えられ、加熱前後で形状にほとんど変化はなかった。
それに対し、紙基材が非発熱領域を備えない比較例1で得られた面状発熱体は、加熱後に加熱面を内側とする大きな反りが残った。本実験では、最大で0.5W/cm2の印加で水温も50℃程度までしか昇温していないが、より高温に加熱した場合には、ポリエチレンの変形による抵抗発熱塗工層の割れや、加熱面を内側として丸まってしまうことが示唆された。
【0030】
「実施例2」
紙基材(菅公工業株式会社 ケント紙(非塗工紙) ベ051、坪量43g/m2)に、10mm幅の粘着テープを10mm間隔で貼付した。実施例1で調製した水性発熱塗料を、この紙基材の粘着テープを貼付した面に、ドクターブレードで幅150mm、長さ220mm、厚さ20μmで塗布し、乾燥後粘着テープを剥離した後、200℃で1時間焼成した。次いで、幅方向に80mm間隔で銀ペーストを幅5mmで塗布し、さらに130℃で1時間焼成して導電部を形成した。長さ方向の両端に導電部が位置するように長さ方向110mm、幅方向90mmで裁断し、紙基材が、抵抗発熱塗工層の発熱領域と隣接する非塗工領域からなる非発熱領域を有する発熱体本体を得た。
この発熱体本体を用いた以外は、実施例1と同様にして面状発熱体を得た、
【0031】
「比較例2」
紙基材の抵抗発熱塗工層が形成されていない部分をくり抜いた以外は、実施例2と同様にして面状発熱体を得た。
【0032】
実施例2、比較例2で得られた面状発熱体を、それぞれ20℃の水1000mlに沈め、0.2W/cm
2印加した。加熱前後の面状発熱体の状態を
図10に示す。 本発明である紙基材が非発熱領域を備える実施例2で得られた面状発熱体は、ポリエチレンの変形が抑えられ、加熱前後で形状にほとんど変化はなかった。
それに対し、紙基材の非発熱領域がくり抜かれており、非発熱領域を備えない比較例2で得られた面状発熱体は、加熱前から内側に軽く反っており、第一、第二の絶縁層であるポリエチレンが熱融着工程で既に変形が生じていた。また、加熱後には、より反りが大きくなった。