(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028097
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】水性ペン用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230224BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133579
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲典
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD03
4J039AD09
4J039BA04
4J039BC09
4J039BC10
4J039BC61
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE28
4J039CA06
4J039EA10
4J039EA14
4J039GA26
(57)【要約】
【課題】顔料の凝集がなく、乾燥速度が遅くならず、インキ粘度が高められている、顔料の添加量が少ない水性ペン用インキ組成物を提供すること。
【解決手段】沸点200℃未満の水溶性有機溶剤、沸点200℃以上の水溶性有機溶剤、顔料及び水を含み、水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、沸点200℃未満の水溶性有機溶剤が10.0質量%以上25.0質量%以下、沸点200℃以上の水溶性有機溶剤が5.0質量%以上15.0質量%以下、顔料が0.05質量%以上3.0質量%以下、含まれる、水性ペン用インキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点200℃未満の水溶性有機溶剤、沸点200℃以上の水溶性有機溶剤、顔料及び水を含み、
水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、
沸点200℃未満の水溶性有機溶剤が10.0質量%以上25.0質量%以下、
沸点200℃以上の水溶性有機溶剤が5.0質量%以上15.0質量%以下、
顔料が0.05質量%以上3.0質量%以下、
含まれる、水性ペン用インキ組成物。
【請求項2】
水性ペン用インキ組成物の塗膜のL*a*b*表色系における明度L*値が30以上80以下である、請求項1に記載の水性ペン用インキ組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水性ペン用インキ組成物を含有する中芯を備える、水性ペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ペン用インキ組成物に関する。特に、顔料の含有量が少ない水性ペン用インキ組成物であり、サインペンやマーキングペンに有用な水性ペン用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性ペン用インキ組成物としては、各種の色調のものが知られている。これらのうち、グレー系の色調の水性ペン用インキ組成物を調製する際は、顔料分散体の含有量を少なくする必要がある。一方で、顔料分散体の含有量が少ないと、水性ペン用インキ組成物の粘度が適切なものとならない場合がある。
このため、水性ペン用インキ組成物の粘度を高めるための一般的な方法の一つとして、増粘剤を添加することが行われている。しかしながら、例えば粘度が100mPa・s未満の低粘度の水性ペン用インキ組成物の場合には、増粘剤が顔料凝集剤として作用し、顔料の凝集が発生するおそれがある。
また、高沸点・高粘度の水溶性有機溶剤を添加することで、水性ペン用インキ組成物の粘度を高めることが可能である。しかしながら、乾燥速度が遅くなるという問題がある。
【0003】
特許文献1には、着色剤、水、ノニオン性界面活性剤を含む筆記具用水性インキ組成物が記載されている。具体的には、カーボンブラック、ノニオン性界面活性剤、グリセリン、プロピレングリコール、水等を含む水性ボールペン用の顔料インキが記載されている。この水性ボールペン用の顔料インキは、顔料の含有量が多く、グレー系の色調インキではない。
【0004】
特許文献2には、水、着色剤、グリセリルグルコシドを含む筆記具用水性インキ組成物が記載されている。具体的には、青色顔料、水溶性有機溶剤(グリセリン及びエチレングリコール)、水等を含む水性マーキングペン用の顔料インキが記載されている。この水性ボールペン用の顔料インキは、顔料の含有量が多く、淡色系の色調インキではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-256758号公報
【特許文献2】特開2018-178113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、顔料の凝集がなく、乾燥速度が遅くならず、インキ粘度が高められている、顔料の添加量が少ない水性ペン用インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記の水性ペン用インキ組成物により、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下のとおりである。
[1] 沸点200℃未満の水溶性有機溶剤、沸点200℃以上の水溶性有機溶剤、顔料及び水を含み、水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、
沸点200℃未満の水溶性有機溶剤が10.0質量%以上25.0質量%以下、
沸点200℃以上の水溶性有機溶剤が5.0質量%以上15.0質量%以下、
顔料が0.05質量%以上3.0質量%以下、
含まれる、水性ペン用インキ組成物。
[2] 水性ペン用インキ組成物の塗膜のL*a*b*表色系における明度L*値が30以上80以下である、[1]に記載の水性ペン用インキ組成物。
[3] [1]又は[2]に記載の水性ペン用インキ組成物を含有する中芯を備える、水性ペン。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、顔料の凝集がなく、乾燥速度が遅くならず、インキ粘度が高められている、顔料の添加量が少ない水性ペン用インキ組成物が提供される。この水性ペン用インキ組成物は、マーキングペンやサインペン、特に、中芯式の水性ペン用インキ組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[水性ペン用インキ組成物]
本発明の水性ペン用インキ組成物は、少なくとも、沸点200℃未満の水溶性有機溶剤、沸点200℃以上の水溶性有機溶剤、顔料及び水を含み、さらに、樹脂エマルション、界面活性剤、分散剤、防腐剤、防カビ剤を含み得る。以下、各成分について詳細に説明する。
【0010】
<沸点200℃未満の水溶性有機溶剤>
沸点200℃未満の水溶性有機溶剤は、20℃での水に対する溶解度が1g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは100g/L以上、最も好ましくは任意の割合で均一に混和し、沸点が200℃未満である有機溶剤である。例えば、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの炭素数1~6の低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等を挙げることができる。これらは1種類を単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0011】
モノアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0012】
多価アルコールの炭素数1~6の低級アルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0013】
これらのうち、エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールが好ましい。
沸点200℃未満の水溶性有機溶剤の含有量は、水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、10.0質量%以上、好ましくは15.0質量%以上であり、25.0質量%以下、好ましくは20.0質量%以下である。沸点200℃未満の水溶性有機溶剤の含有量が10.0質量%未満の場合、水性ペン用インキ組成物の保存安定性が低下するおそれがある。沸点200℃未満の水溶性有機溶剤の含有量が25.0質量%を超える場合、水性ペン用インキ組成物のインキ乾燥速度、保存安定性が低下するおそれがある。
【0014】
<沸点200℃以上の水溶性有機溶剤>
沸点200℃以上の水溶性有機溶剤は、20℃での水に対する溶解度が1g/L以上、好ましくは5g/L以上、より好ましくは100g/L以上、最も好ましくは任意の割合で均一に混和し、沸点が200℃以上である有機溶剤である。例えば、多価アルコール類、多価アルコールのアルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有溶剤類等を挙げることができる。これらは1種類を単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0015】
多価アルコール類としては、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、グリセリン等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0016】
多価アルコールのアルキルエーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0017】
エステル類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0018】
窒素含有溶剤類としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ε-カプロラクタム、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミド等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0019】
これらのうち、グリセリン及び/又は1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
沸点200℃以上の水溶性有機溶剤の含有量は、水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、5.0質量%以上であり、15.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以下である。沸点200℃以上の水溶性有機溶剤の含有量が5.0質量%未満の場合、水性ペン用インキ組成物の保存安定性が低下するおそれがある。沸点200℃以上の水溶性有機溶剤の含有量が15.0質量%を超える場合、水性ペン用インキ組成物のインキ乾燥速度が低下するおそれがある。
【0020】
<顔料>
顔料としては、無機顔料、体質顔料、有機顔料、着色樹脂球等、従来水性ペン用インキ組成物に用いられてきた種々の顔料の1種類以上を、所望の色調となるように使用できる。
【0021】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、酸化亜鉛、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、群青、紺青、アルミニウム粉やブロンズ粉等の金属粉、タルク、シリカ、アルミナ、マイカ、アルミナシリケート等の体質顔料、蛍光顔料、ガラスフレーク、光輝性顔料等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、フタロシアニン系、アゾ系、キナクドリン系、アンスラキノン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、ジオキサン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、インドレノン系、アゾメチン系等の着色顔料、蛍光顔料等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0022】
着色樹脂球としては、球状、不定形、中空、扁平状等の樹脂球を、任意の色調を呈する無機顔料、有機顔料又は染料の1種類以上で着色したものである。着色樹脂球を形成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリメタクリレート、ベンゾグアナミン、メラミン樹脂、ナイロン等が挙げられる。
着色樹脂球に色調を付与する無機顔料、有機顔料としては、前記無機顔料や有機顔料からなる群より選ばれた1種類以上が挙げられる。また、着色樹脂球に色調を付与する染料としては、水溶性染料が好ましく、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、例えば、アントラキノン系、メチン系、カルボニウム系、金属錯塩系等の着色染料・蛍光染料等からなる群より選ばれた1種類以上が挙げられる。
【0023】
本発明の水性ペン用インキ組成物の塗膜の色調は、淡色系の色調であることが好ましい。このため、水性ペン用インキ組成物の塗膜のL*a*b*表色系における明度L*値は30以上80以下となるようにすることが好ましい。
特に、水性ペン用インキ組成物の塗膜がグレー系の色調となるように、顔料としてカーボンブラック等の黒色顔料のみを含むことが好ましい。また、わずかに青、赤、緑、紫、黄等の色調を有するグレー系の色調となるように、顔料として、カーボンブラック等の黒色顔料に加えて、青、赤、緑、紫、黄等の色調の顔料を含んでいることが好ましい。
【0024】
顔料の含有量は、水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、0.05質量%以上であり、好ましくは0.15質量%以上であり、3.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下である。顔料の含有量が0.05質量%未満の場合、水性ペン用インキ組成物の色調が薄くなりすぎ目的とする色調とならず発色が悪化するおそれがある。顔料の含有量が3.0質量%を超える場合、インキ組成物の色調が濃くなりすぎ目的とする色調とならないおそれがある。
【0025】
<水>
水性ペン用インキ組成物は、構成成分を溶解させるため、溶剤として機能する水を含有する。水としては、例えば、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水又は純水が用いられる。好ましくは、純水、イオン交換水又は蒸留水等が用いられる。
【0026】
水の含有量は、水性ペン用インキ組成物中の各成分の含有量、粘度等に応じて適宜調整することができる。水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、例えば25.0質量%以上、好ましくは30.0質量%以上であり、45.0質量%以下、好ましくは40.0質量%以下である。水の含有量が25.0質量%未満の場合、水性ペン用インキ組成物の粘度が高くなり、筆記時のインキ流出量が不適切となってカスレ等が発生するおそれがあり、保存安定性が低下するおそれがある。水の含有量が45.0質量%を超えると、水性ペン用インキ組成物の粘度が低くなり、筆記時のインキ流出量が不適切となって滲みが発生するおそれがあり、インキ漏れが発生するおそれがある。
【0027】
<樹脂エマルション>
本発明の水性ペン用インキ組成物は、粘度を高めるとともに、適宜の筆記面上に筆記後に溶剤が揮散した際、筆跡を筆記面に定着させるために、常温で造膜性を有する樹脂エマルションを含有することが好ましい。
樹脂エマルションとしては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂のエマルションが挙げられる。
【0028】
アクリル系樹脂エマルションとしては、例えば、ダウ・ケミカル日本社製のPRIMALシリーズ、BASF社製のRheovisシリーズ等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
スチレン-(メタ)アクリル系樹脂エマルションとしては、例えば、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ、ジャパンコーティングレジン社製のモビニールシリーズ等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
スチレン-マレイン酸系樹脂エマルションとしては、例えば星光PMC社製のXシリーズ等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
酢酸ビニル系樹脂エマルションとしては、例えば、ニカゾールシリーズ等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0029】
水性ペン用インキ組成物が樹脂エマルションを含有する場合の含有量は、特に限定されない。水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、樹脂エマルション固形分が例えば5.0質量%以上、好ましくは7.0質量%以上であり、例えば15.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以下である。樹脂エマルション固形分の含有量が5.0質量%未満の場合、水性ペン用インキ組成物の粘度が低くなり、筆記時のインキ流出量が不適切となって滲みが発生するおそれがあり、インキ漏れが発生するおそれがある。樹脂エマルション固形分の含有量が15.0質量%を超える場合、水性ペン用インキ組成物の粘度が高くなり、筆記時のインキ流出量が不適切となってカスレ等が発生するおそれがあり、キャップオフ性が低下するおそれがある。
【0030】
<分散剤>
本発明の水性ペン用インキ組成物は、インキの保存安定性を向上させ、インキ粘度を高め、顔料の分散性を向上させるために、分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、水性ペン用インキ組成物の塗膜を形成するためのビヒクル・定着剤として機能するものでもよい。
分散剤としては、特に限定されず、市販のものを用いることができる。例えば、水溶性及び/又は水分散性樹脂や界面活性剤等を用いることができる。
【0031】
水溶性及び/又は水分散性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、マレイン酸系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルアルコ-ル系樹脂、水溶性ウレタン系樹脂、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂が挙げられる。
【0032】
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性界面活性剤からの任意のものである。例えば、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルキルスルホコハク酸、アルキルフェニルリン酸エステル等のアニオン系界面活性剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ソルビタンエステル類、アルキルリン酸エステル等のノニオン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤、等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
本発明においては、これらの分散剤のうち、湿潤・浸透機能、乳化機能及び分散機能を有するノニオン系界面活性剤、特に、リン原子を含む界面活性剤(例えば、フォスファノール(東邦化学工業社製商品名)が好ましく用いられる。
【0033】
水性ペン用インキ組成物が分散剤を含有する場合の含有量は、特に限定されない。水性ペン用インキ組成物全量を100質量%として、分散剤の固形分が、例えば10.0質量%以上であり、例えば20.0質量%以下、好ましくは15.0質量%以下である。分散剤の固形分の含有量が10.0質量%未満の場合、水性ペン用インキ組成物の保存安定性が低下するおそれがあり、筆記時のインキ流出量が不適切となってインキ漏れが発生するおそれがある。分散剤の固形分の含有量が15.0質量%を超える場合、水性ペン用インキ組成物の粘度が高くなり、筆記時のインキ流出量が不適切となってカスレ等が発生するおそれがある。
【0034】
<その他の添加剤>
本発明の水性ペン用インキ組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、水性ペン用インキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、湿潤剤、染料、滑剤、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、染料、蛍光増白剤、粘度調整剤(増粘剤)、pH調整剤等からなる群より選ばれる1種類以上を、必要に応じて、適宜の量で用いることができる。
【0035】
界面活性剤としては、例えば、<分散剤>において記載したのと同様の界面活性剤等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
防腐剤、防カビ剤としては、例えば、防腐防黴剤として、ベンゾイソチアゾリン系防腐防黴剤、ペンタクロロフェノール系防腐防黴剤、クレゾール系防腐防黴剤、プロピレングリコール系防腐防黴剤、ヨウ素系防腐防黴剤等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0036】
染料としては、通常の染料インク組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料、造塩染料、樹脂に染料を染着した染料等の中から任意のもの、及びこれらの水溶液等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0037】
また、その他の添加剤としては、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤;ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、サポニン等の防錆剤;尿素、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤;消泡剤;酸化防止剤等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
更に、潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤としては、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、N-アシルアミノ酸系界面活性剤、ジカルボン酸型界面活性剤、β-アラニン型界面活性剤、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α-リポ酸、N-アシル-L-グルタミン酸とL-リジンとの縮合物やその塩等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
また、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピペリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、N-ビニル-ε-カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
【0038】
<L*a*b*表色系における色度a*値、色度b*値及び明度L*値>
L*a*b*表色系は、JIS Z 8781-4で規定される三次元の近似的な均等色空間における色相と彩度を示す色度a*値、色度b*値及び明度L*値で構成される。
明度L*値は、0に近づくほど黒色味が強く100に近づくほど白色味が強いことを表す。明度L*値が30以上80以下である場合は、グレー色調領域である。
色度a*値は、プラス側で値が大きいほど赤色味が強く、マイナス側で値が大きいほど緑色味が強いことを表す。
色度b*値は、プラス側で値が大きいほど黄色味が強く、マイナス側で値が大きいほど青色味が強いことを表す。
【0039】
本発明の水性ペン用インキ組成物の塗膜の、L*a*b*表色系における色相と彩度を示す色度a*値、色度b*値及び明度L*値の範囲は、特に限定されない。
グレー色調領域の場合、明度L*値の範囲は、例えば30以上、好ましくは35以上、より好ましくは40以上であり、例えば80以下、好ましくは70以下、より好ましくは65以下である。
グレー色調領域の場合、色度a*値の範囲は、例えば-20.0以上、好ましくは-15.0以上、より好ましくは-6.0以上であり、例えば+20.0以下、好ましくは+15.0以下、より好ましくは-0.5以下である。例えば、色度a*値が-6.0以上-0.5以下の範囲にあると無彩色のグレー色調範囲となり、例えば-20.0に近くなるほど緑色味を帯びたグレー色調範囲となり、例えば+20.0に近くなるほど赤色味を帯びたクレー色調範囲となる。
グレー色調領域の場合、色度b*値の範囲は、例えば-20.0以上、好ましくは-15.0以上、より好ましくは+3.0以上であり、例えば+20.0以下、好ましくは+15.0以下、より好ましくは+10.0以下である。例えば色度b*値が+3.0以上+10.0以下の範囲にあると無彩色のグレー色調範囲となり、例えば-20.0に近くなるほど青色味を帯びたグレー色調範囲となり、例えば+20.0に近くなるほど黄色味を帯びたクレー色調範囲となる。
L*a*b*表色系における明度L*値の測定方法は、例えば、後記実施例に記載されている方法が挙げられる。
【0040】
<粘度>
本発明の水性ペン用インキ組成物の粘度は、特に限定されず、適宜設定できる。特に、水性ペン用インキ組成物の粘度が100mPa・s以下であることが好ましい。例えば1.0mPa・s以上、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上であり、例えば35.0mPa・s以下、好ましくは15.0mPa・s以下、より好ましくは6.0mPa・s以下(E型回転粘度計(例えば、東機産業社製、TVE型粘度計、1°34‘コーン、50rpm))の範囲とすることができる。水性ペン用インキ組成物の粘度が1.0mPa・s未満であると、筆記具先端からのインキの流出が過剰となり的確に筆跡を形成できないおそれがある。粘度が35.0mPa・sを超えると、粘度が高くなりすぎ、筆記具先端からインキが流出しなくなるおそれがあり、また、インキの取扱性、沈降安定性、筆跡のカスレ、製造コスト等の点で問題となるおそれがある。
【0041】
<水性ペン用インキ組成物の製造方法>
本発明の水性ペン用インキ組成物の製造方法は、特に限定されない。公知の水性インキ組成物の製造方法をいずれも用いることができる。
例えば、水性ペン用インキ組成物を構成する全ての成分を容器に投入し、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ヘンシェルミキサー、ホモミキサー、プロペラ撹拌機、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ニーダー、ディゾルバー等の混合・撹拌装置を用いて混合・撹拌して分散させ、水性ペン用インキ組成物を作製できる。
【0042】
例えば、水性ペン用インキ組成物の一部の成分、例えば、顔料、水溶性有機溶剤、水、分散剤等を容器に投入し、前記装置により混合・撹拌装置を用いて混合・撹拌して分散させて顔料分散体を製造した後に、その余の成分を投入し混合・撹拌して、水性ペン用インキ組成物を作製できる。
水性ペン用インキ組成物の作製に際しては、濾過、遠心分離、脱泡等の操作を行い粗大粒子、気体、気泡を除いてもよい。水性ペン用インキ組成物の作製時に加熱、冷却、加圧、減圧、不活性ガス置換等の手段を採用することもできる。さらに、水性ペン用インキ組成物作製後にエージング工程を行ってもよい。
【0043】
[水性ペン]
本発明の水性ペン用インキ組成物を備える水性ペンは、繊維芯又はプラスチック芯からなるペン先と、インキ収容部とを備え、前記水性ペン用インキ組成物が前記インキ収容部に収容されている水性ペンである。
本発明の水性ペン用インキ組成物は、水性マーキングペンや水性サインペン、特に、中芯式の水性ペン用インキ組成物として好適に用いることができる。
水性マーキングペンとしては、例えば、フェルトペンともいわれる筆記具であって、繊維束、焼結体又はプラスチックよりなるペン先を有すると共に、本体内にフェルトや繊維束からなる所謂中芯にインキを含浸させてなるインキ貯蔵手段を備え、このようなインキ貯蔵手段からペン先に毛細管現象を利用してインキを供給し、筆記を可能とする筆記具、所謂中芯式マーキングペンが挙げられる。また、筒状の本体内にインキをそのまま貯蔵し、このインキをペン先に供給するようにした非中芯式又は所謂フリー・インキ型マーキングペンが挙げられる。
本発明による水性ペン用インキ組成物は、このようなマーキングペンのいずれにも好適に用いられる。
【実施例0044】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0045】
実施例に記載した水性ペン用インキ組成物を構成する各成分としては、それぞれ以下のものを使用した。
・カーボンブラック:Cabot社製、MONARCH 800
・青色顔料:DIC社製、FASTOGEN BLUE FDB71
・スチレン-(メタ)アクリル系樹脂A:BASFジャパン社製、Joncryl 683
・スチレン-(メタ)アクリル系樹脂B:星光PMC社製、ハイロス X-1
・アクリルエマルション:ジャパンコーティングレジン社製、モビニール 790
・防腐剤:ロンザジャパン社製、プロクセル XL-2
・防カビ剤:大阪ガスケミカル社製、コートサイドPH2
・界面活性剤:ポリオキシエチレンノニルフェニルリン酸(東邦化学工業社製、ホスファノール)
【0046】
[実施例1~4、比較例1~4]
<顔料分散体Aの調製>
カーボンブラック 25.0部、エチレングリコール 20.0部、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂A 25.0部、防腐剤 0.1部、防カビ剤 0.1部、及びイオン交換水 29.8部を、ビーズミルで混合し、顔料分散体Aを調製した。
【0047】
<顔料分散体Bの調製>
青色顔料 25.0部、ブチルセロソルブ 5.0部、エチレングリコール 20.0部、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂B 25.0部、及びイオン交換水 25.0部を、ビーズミルで混合し、ミルベースBを調製した。
得られたミルベースB 68.0部に、防腐剤 0.1部、防カビ剤 0.1部、及びイオン交換水 31.8部を加えて撹拌機で混合し、顔料分散体Bを調製した。
【0048】
<水性ペン用インキ組成物の作製>
(実施例1)
顔料分散体A 3.3部、顔料分散体B 1.2部、グリセリン 5.0部、エチレングリコール 20.0部、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂B 15.0部、アクリルエマルションA 7.0部、界面活性剤 0.1部、防腐剤 0.1部、防カビ剤 0.1部、尿素 15.0部、及びイオン交換水 33.2部を撹拌機で混合し、高速遠心機にてインキ中の粗大粒子を取り除き、実施例1に係る水性ペン用インキ組成物を作製した。
【0049】
(実施例2~4、比較例1~3)
水性ペン用インキ組成物の構成成分を表1に示すものとしたほかは、実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1~3に係る水性ペン用インキ組成物をそれぞれ作製した。
【0050】
<水性ペンの作製>
ペン本体(サクラクレパス製の中芯式サインペン)にチップを装着し、キャップをつける。実施例1~4及び比較例1~3の水性ペン用インキ組成物を、それぞれ中芯に充てんした後にペン本体に入れ、尾栓をつけて水性ペンを作製した。
【0051】
<評価>
実施例1~4及び比較例1~3の水性ペン用インキ組成物の評価を以下のように行った。結果を表1又は表2に併せて示す。
【0052】
<粘度>
E型回転粘度計(東機産業社製、TVE型粘度計)を用い、測定条件を、1°34‘コーン、50rpm、20℃として、粘度を測定した。結果を表1に示す。
本発明においては、粘度が4.5mPa・s±1.5mPa・sの場合に合格とした。
【0053】
<乾燥速度>
温度20℃、湿度65%とした部屋で、作製した水性サインペンを用いて、上質紙上に1秒毎に1つずつ100個のV字を筆記した。
筆記後に、筆記した紙に対して片アート紙の光沢のある面を重ね、500gの分銅で片アート紙の上から筆記線を5回なぞった。
片アート紙を外し、最後に筆記したV字から何秒前のV字まで片アート紙に転写されているかをカウントし、その秒数を乾燥速度(秒)とした。結果を表1に示す。
本発明においては、乾燥速度が60秒以内の場合に合格とした。
【0054】
<L*値>
実施例1、3及び比較例1の水性ペン用インキ組成物を用いて作製したサインペンから中芯を取り出し、中芯と水性ペン用インキ組成物を分離した。本実施態様では、遠心分離機により分離を行った。
水性ペン用インキ組成物を、バーコーターを用いて上質紙上に塗布した。使用したバーコーターのロッドナンバーを9とし、稼働速度を3cm/sとした。
塗膜を1日以上乾燥させた後に、分光光度計(日本電色社製、SE-2000)を用い、塗膜のL*値、a*値及びb*値を測色した。結果を表2に示す
【0055】
【0056】
【0057】
表1及び表2から、実施例1~4に係る本発明の水性ペン用インキ組成物は、沸点200℃未満の水溶性有機溶剤、沸点200℃以上の水溶性有機溶剤及び顔料の含有量をそれぞれ特定の範囲とすることで、色調、粘度及び乾燥速度の全ての点で優れた特性を有することがわかる。一方で、沸点200℃未満の水溶性有機溶剤及び沸点200℃以上の水溶性有機溶剤の含有量が特定の範囲外である場合、色調、粘度及び乾燥速度のいずれか1以上の点で満足のいくものではないことがわかる。また、比較例3のように顔料の量が多い場合には、明度L*値が低くなることがわかる。