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特開2023-28127コア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法、及び半導体ナノ粒子複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028127
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】コア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法、及び半導体ナノ粒子複合体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20230224BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20230224BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230224BHJP
【FI】
C09K11/08 A ZNM
C09K11/08 G
B82Y20/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133629
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三津家 由子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋和
(72)【発明者】
【氏名】森山 喬史
(72)【発明者】
【氏名】城戸 信人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
(72)【発明者】
【氏名】中村 真子
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA01
4H001CA02
4H001CC09
4H001CC13
4H001CF01
(57)【要約】
【解決課題】2種類以上のシェル前駆体を用いてコア/シェル型構造の半導体ナノ粒子を製造させる場合において、簡便であり、且つ、光学特性に優れたコア/シェル型構造の半導体ナノ粒子を製造することができる半導体ナノ粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加して、該コア粒子の存在下で、該原料カルボン酸亜鉛塩と該VI族元素前駆体を反応させることにより、該コア粒子の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させるシェル形成工程を有し、該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上であり、該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9であること、を特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加して、該コア粒子の存在下で、該原料カルボン酸亜鉛塩と該VI族元素前駆体を反応させることにより、該コア粒子の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させるシェル形成工程を有し、
該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上であり、
該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9であること、
を特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記コア粒子が、In及びPを含有することを特徴とする請求項1記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記原料カルボン酸亜鉛塩の添加量が、前記コア粒子中のInに対する前記原料カルボン酸亜鉛塩中のZnのモル比(Zn/In)で、5~50となる添加量であることを特徴とする請求項1又は2記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記原料カルボン酸亜鉛塩と前記VI族元素前駆体の反応を、ハロゲン元素の存在下で行うことを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
コア/シェル型半導体ナノ粒子と、該コア/シェル型半導体ナノ粒子の表面に配位しているリガンドと、を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体であって、
前記シェルは少なくともZnを含み、
前記リガンドとして、カルボン酸を含み、
リガンドとして含まれる全カルボン酸のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80質量%以上であり、
リガンドとして含まれる全カルボン酸の平均分岐度が1.1~2.9であること、
を特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体。
【請求項6】
前記コアが、In及びPを含有することを特徴とする請求項5記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体。
【請求項7】
前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の発光ピーク波長が590~650nmであることを特徴とする請求項5又は6記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体。
【請求項8】
前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅(FWHM)が37.0nm以下であることを特徴とする請求項5~7いずれか1項記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体。
【請求項9】
前記シェルは、更に、Se及びSのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5~8いずれか1項記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体。
【請求項10】
前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の量子効率(QY)が90.0%以上であることを特徴とする請求項5~9いずれか1項記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体。
【請求項11】
前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に配位している全リガンドのうち、前記カルボン酸の割合が1.0~15.0質量%であることを特徴とする請求項5~10いずれか1項記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア/シェル型の半導体ナノ粒子の製造方法及び半導体ナノ粒子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイの波長変換材料として、微小な粒径の半導体ナノ粒子(量子ドット:QD)が用いられている。このような半導体ナノ粒子は、量子閉じ込め効果を発現しうる微小な粒子であり、ナノ粒子のサイズによって、バンドギャップの幅が変わる。そして、光励起、電荷注入等の手段によって半導体粒子内に形成された励起子は、再結合によりバンドギャップに応じたエネルギーの光子を放出するので、半導体ナノ粒子の結晶サイズを調整することにより、発光波長を制御することが可能となり、所望の波長の発光を得ることができる。
【0003】
現在、半導体ナノ粒子としては、コア/シェル型構造の半導体ナノ粒子が多く用いられている。コア/シェル構造を採ることで、コア表面のダングリングボンドを埋め、表面欠陥を減らす効果が得られるからである。
【0004】
このようなコア/シェル型構造の半導体ナノ粒子としては、III-V族系コアとII-VI族系シェルからなる半導体ナノ粒子が用いられている。ところが、III-V族系コアとII-VI族系シェルでは、格子定数の違いにより、欠陥準位が形成され易く、欠陥準位が形成された半導体ナノ粒子は、欠陥準位を介した励起子の非発光再結合が起こるため、光学特性が低下し易い。そのため、III-V族系コアの表面上に、欠陥準位の発生を抑えたII-VI族系シェルを形成させることが重要である。
【0005】
コア粒子の表面にシェルを形成させる方法としては、SILAR法が知られている。SILAR法は、コア粒子に対し、シェル前駆体を交互に添加し、添加したシェル前駆体を粒子表面で反応させることで、シェルを形成させる方法である。例えば、コア粒子に、先ず、Zn前駆体を添加し、次いで、S前駆体を添加し、次いで、Zn前駆体を添加し、次いで、S前駆体を添加し、・・・とのように、シェルの原料となる2種類のシェル前駆体をコア粒子に交互に接触させて、粒子表面に、2種類のシェル前駆体の層を交互に形成させ、それら2種類のシェル前駆体を反応させることにより、シェルを形成させる。
また、特許文献1には、シェル形成用のZn前駆体として、オレイン酸亜鉛、ヘキサン酸亜鉛、オクタン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛などを用いる記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2019-515338号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Renguo Xieら、J.AM.CHEM.SOC.,127,7480-7488(2005年)
【非特許文献2】Ken-Tye Yongら、ACS Nano, 3, 502-510(2009年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、SILAR法では、各前駆体層の形成において、前駆体の添加量に厳密な制御が求められており、前駆体の添加量が少な過ぎると、十分なシェルが形成されず、光学特性が低下してしまい、一方で、前駆体の添加量が多過ぎると、過剰分の前駆体により、粒子の変質や副生成物の生成が起こってしまうとの問題がある。
【0009】
また、粒子に対し、2種類のシェル前駆体を別々に且つ複数回交互に接触させるため、半導体ナノ粒子の製造方法が煩雑になるという問題もある。
【0010】
従って、本発明の目的は、2種類以上のシェル前駆体を用いてコア/シェル型構造の半導体ナノ粒子を製造させる場合において、簡便であり、且つ、光学特性に優れたコア/シェル型構造の半導体ナノ粒子を製造することができる半導体ナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明者等は、コア粒子の分散液に添加して、コア粒子の表面でVI族元素前駆体と反応させるII族元素前駆体として、特定の炭素数且つ分岐度のカルボン酸の亜鉛塩を用いることにより、II族元素前駆体とIV族元素前駆体とを、別々に且つ複数回交互に接触させる操作を行わなくとも、つまり、II族元素前駆体とVI族元素前駆体との全量を、一度にコア粒子に接触させて反応させても、光学特性に優れたコア/シェル型の半導体ナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加して、該コア粒子の存在下で、該原料カルボン酸亜鉛塩と該VI族元素前駆体を反応させることにより、該コア粒子の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させるシェル形成工程を有し、
該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上であり、
該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9であること、
を特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、前記コア粒子が、In及びPを含有することを特徴とする(1)のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、前記原料カルボン酸亜鉛塩の添加量が、前記コア粒子中のInに対する前記原料カルボン酸亜鉛塩中のZnのモル比(Zn/In)で、5~50となる添加量であることを特徴とする(1)又は(2)のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、前記原料カルボン酸亜鉛塩と前記VI族元素前駆体の反応を、ハロゲン元素の存在下で行うことを特徴とする(1)~(3)いずれかのコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、コア/シェル型半導体ナノ粒子と、該コア/シェル型半導体ナノ粒子の表面に配位しているリガンドと、を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体であって、
前記シェルは少なくともZnを含み、
前記リガンドとして、カルボン酸を含み、
リガンドとして含まれる全カルボン酸のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80質量%以上であり、
リガンドとして含まれる全カルボン酸の平均分岐度が1.1~2.9であること、
を特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体を提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、前記コアが、In及びPを含有することを特徴とする(5)のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体を提供するものである。
【0018】
また、本発明(7)は、前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の発光ピーク波長が590~650nmであることを特徴とする(5)又は(6)のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体を提供するものである。
【0019】
また、本発明(8)は、前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅(FWHM)が37.0nm以下であることを特徴とする(5)~(7)いずれかのコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体を提供するものである。
【0020】
また、本発明(9)は、前記シェルは、更に、Se及びSのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする(5)~(8)いずれかのコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体を提供するものである。
【0021】
また、本発明(10)は、前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の量子効率(QY)が90.0%以上であることを特徴とする(5)~(9)いずれかのコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体を提供するものである。
【0022】
また、本発明(11)は、前記コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に配位している全リガンドのうち、前記カルボン酸の割合が1.0~15.0質量%であることを特徴とする(5)~(10)いずれかのコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、2種類以上のシェル前駆体を用いてコア/シェル型構造の半導体ナノ粒子を製造させる場合において、簡便であり、且つ、光学特性に優れたコア/シェル型構造の半導体ナノ粒子を製造することができる半導体ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加して、該コア粒子の存在下で、該原料カルボン酸亜鉛塩と該VI族元素前駆体を反応させることにより、該コア粒子の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させるシェル形成工程(以下、シェル形成工程(1)とも記載する。)を有し、
該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80質量%以上であり、
該原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9であること、
を特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法である。
【0025】
なお、以下において数値範囲を示す符号「~」は、特に断らない限り、符号「~」の前後に記載された数値を含む範囲を示す。つまり、〇~△とは、〇以上且つ△以下を表す。
【0026】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、シェル形成工程(1)を有する。そして、シェル形成工程(1)は、コア粒子の分散液に、少なくとも原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加して、コア粒子の存在下で、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体を反応させることにより、コア粒子の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させる工程である。
【0027】
シェル形成工程(1)において、シェル層が形成されるコア粒子は、コア/シェル型の半導体ナノ粒子のコア粒子として用いられているものであれば、特に制限されず、好ましくはIn及びPを含有するコア粒子であり、特に好ましくはIn、P及びハロゲンを含有するコア粒子である。コア粒子がIn及びPを含有することが、環境負荷が小さく、かつ光学特性が高い半導体ナノ粒子が得られる点で好ましい。また、コア粒子がハロゲンを含有することで、コア粒子ならびに半導体ナノ粒子の光学特性を高めることができる点で好ましい。コア粒子に含有されるハロゲンとしては、F、Cl、Br、Iが挙げられる。これらのうち、ハロゲンとしては、Cl、Brが、半値幅が狭くなる点で好ましい。また、コア粒子は、他にGa、Al、Zn、N、S、Si、Ge等の元素を含有していてもよい。
【0028】
コア粒子のCd含有量は、100質量ppm以下、好ましくは80質量ppm以下、特に好ましくは50質量ppm以下である。
【0029】
コア粒子の平均粒径は、特に制限されないが、好ましくは1.0nm~5.0nmである。コア粒子の平均粒径が上記範囲であることにより、450nmの励起光を緑色~赤色の発光に変換することができる。なお、本発明において、コア粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察される粒子画像について、10個以上の粒子の粒径を面積円相当径(Heywood径)で算出することにより求められる。
【0030】
コア粒子を合成する方法は、特に制限されず、適宜選択される。本発明において、In前駆体、P前駆体、ハロゲン前駆体は以下の通りである。
【0031】
In前駆体としては、特に制限されず、例えば、酢酸インジウム、プロピオン酸インジウム、ミリスチン酸インジウム、オレイン酸インジウム等のカルボン酸インジウム、フッ化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウム等のハロゲン化インジウム、インジウムチオラート、トリアルキルインジウム等が挙げられる。
【0032】
P前駆体としては、特に制限されず、例えば、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン、トリス(トリメチルゲルミル)ホスフィン、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジオクチルアミノ)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、PHガス等が挙げられる。なお、P前駆体として、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンを用いる場合、Siが半導体ナノ粒子中に組み込まれる場合もあるが、本発明の作用を害するものではない。
【0033】
ハロゲン前駆体としては、特に制限されず、例えば、HF、HCl、HBr、HI、塩化オレイル、臭化オレイル、塩化オクタノイル、臭化オクタイノイル、オレオイルクロリド等のカルボン酸ハロゲン化物、塩化亜鉛、塩化インジウム、塩化ガリウム等のハロゲン化金属が挙げられる。
【0034】
In及びPを含有するコア粒子の合成方法としては、以下の方法が挙げられる。なお、以下に述べるコア粒子の合成方法は例示であって、コア粒子としては、以下の合成方法により合成されたものに限定されるものではない。コア粒子は、例えば、In前駆体とP前駆体とを反応させることにより合成される。先ず、In前駆体及び溶媒を混合し、必要に応じて、分散剤及び/又は添加剤を添加したIn前駆体溶液を真空下、あるいは窒素雰囲気下で混合し、一旦100~300℃で、6~24時間加熱した後、P前駆体を添加して、200~400℃で、数秒(例えば、2、3秒)~60分間加熱後、冷却することにより、コア粒子が分散しているコア粒子分散液が得られる。次いで、コア粒子分散液にハロゲン前駆体を添加し、25~350℃で、数秒(例えば、2、3秒)~60分間加熱後、冷却することにより、粒子の表面の一部にハロゲンを有するハロゲン添加コア粒子分散液が得られる。
【0035】
分散剤としては、特に制限されず、例えば、カルボン酸類、アミン類、チオール類、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類、ホスフィン類、ホスホン酸類などが挙げられる。分散剤は、溶媒を兼ねることもできる。溶媒としては、特に制限されず、例えば、1-オクタデセン、ヘキサデカン、スクアラン、オレイルアミン、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。添加剤としては、上記のS前駆体、Zn前駆体、ハロゲン前駆体等が挙げられる。
【0036】
シェル形成工程(1)に係るコア粒子の分散液は、コア粒子が分散媒に分散されている分散液である。コア粒子が分散されている分散媒としては、特に制限されず、1-オクタデセン、ヘキサデカン、スクアラン、スクアレン、ミネラルスピリット、流動パラフィン、トリオクチルアミン、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、トルエン、ヘキサン、ジフェニルエーテル等が挙げられ、これらは1種単独であっても、2種以上の併用であってもよく、好ましくは1-オクタデセン、ヘキサデカン、スクアラン、スクアレン、ミネラルスピリット及び流動パラフィンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0037】
シェル形成工程(1)に係る原料カルボン酸亜鉛は、コア粒子の分散液に添加する亜鉛前駆体であり、シェル形成工程(1)において、VI元素前駆体と反応する亜鉛前駆体である。
【0038】
原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合は、80.0質量%以上、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%である。つまり、原料カルボン酸亜鉛塩を形成している全カルボン酸に占める、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が、80.0質量%以上、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%である。原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が上記範囲であることにより、光学特性が高い半導体ナノ粒子が得られる。
【0039】
炭素数8~10のカルボン酸としては、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、ノナン酸、イソノナン酸、ネオノナン酸、デカン酸、イソデカン酸、ネオデカン酸が挙げられ、これらのカルボン酸から選ばれる1種または2種以上を所定の平均分岐度になるように組み合わせて用いる。2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸を主成分として2種類以上のカルボン酸を組み合わせて用いることが望ましい。
【0040】
本発明において、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうちの炭素数が8~10のカルボン酸の割合は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフ質量分析などを用いて、カルボン酸の種類の同定と量が測定され、その測定結果により割合が算出される。例えば、原料カルボン酸亜鉛塩の製造原料のカルボン酸(原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸が2以上のカルボン酸からなる場合は、それらカルボン酸の混合物)、すなわち、亜鉛化合物と反応させて原料カルボン酸亜鉛塩にする前のカルボン酸(原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸が2以上のカルボン酸からなる場合は、それらカルボン酸の混合物)をガスクロマトグラフィーで分析する場合、カルボン酸を一部採取してメチルエステル化処理を行い、ガスクロマトグラフィーに導入し、350℃以上で加熱を行い、キャリアガスと共にカラムを通した後、検出器にて得られたシグナルのリテンションタイムとピーク面積よりカルボン酸の種類と量の同定を行い、その結果より、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうちの炭素数が8~10のカルボン酸の割合を算出することができる。また、例えば、コア粒子の分散液に添加する前の原料カルボン酸亜鉛塩を一部採取して、塩酸、硝酸などの強酸を加えてカルボン酸を分離した後にメチルエステル化処理を行い、ガスクロマトグラフィーの試料気化室に導入し、350℃以上で加熱を行い、キャリアガスと共にカラムを通した後、検出器にて得られたシグナルのリテンションタイムとピーク面積よりカルボン酸の種類と量の同定を行い、その結果より、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうちの炭素数が8~10のカルボン酸の割合を算出することができる。
【0041】
原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度は、1.1~2.9、好ましくは1.3~2.7、特に好ましくは1.5~2.5である。つまり、原料カルボン酸亜鉛塩を形成する全カルボン酸を測定したときの平均分岐度は、1.1~2.9、好ましくは1.3~2.7、特に好ましくは1.5~2.5である。原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が上記範囲であることで、有機系炭化水素溶媒への溶解性が高く、作業性が向上し、また、半導体ナノ粒子の製造時、本発明のカルボン酸亜鉛塩をZn前駆体として用いることで、高い光学特性を有する半導体ナノ粒子が得られる。平均分岐度が上記範囲であることで、カルボン酸亜鉛塩がある程度の嵩をもちコア粒子の表面で他のシェルを形成する前駆体と反応するためであると考えられる。
【0042】
本発明において、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度は、カルボン酸の主鎖からアルキル基の分岐度を表す。まず、測定試料をガスクロマトグラフィーなどにより分析し、得られた組成比からカルボン酸の平均分子量(14n+32)を算出する。測定試料をH-NMRで分析し、得られるNMRチャートから、カルボン酸の全てのアルキル鎖の水素を示す化学シフトの積分値を2n-1とし、一級炭素の水素を示す化学シフトδ=0.7~1.1ppmの積分値を3で除した値をそのカルボン酸におけるメチル基の数とする。分岐度は、得られたメチル基の数から主鎖構造の末端メチル基の数である1を引くことにより算出される。例えば、原料カルボン酸亜鉛塩の製造原料のカルボン酸(原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸が2以上のカルボン酸からなる場合は、それらカルボン酸の混合物)、すなわち、亜鉛化合物と反応させて原料カルボン酸亜鉛塩にする前のカルボン酸(原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸が2以上のカルボン酸からなる場合は、それらカルボン酸の混合物)を一部採取し、H-NMRで分析し、得られるNMRチャートから得られたメチル基の数から主鎖構造の末端メチル基の数である1を引くことにより算出される。また、例えば、コア粒子の分散液に添加する前の原料カルボン酸亜鉛塩を一部採取して塩酸、硝酸などの強酸を加えて製造原料のカルボン酸を分離した後、H-NMRで分析し、得られるNMRチャートから得られたメチル基の数から主鎖構造の末端メチル基の数である1を引くことにより算出される。
【0043】
原料カルボン酸亜鉛塩は、カルボン酸と亜鉛原料との反応により得られる。カルボン酸亜鉛塩は一般的に直接法と複分解法と呼ばれる製造方法があるが、本発明においてはいずれの方法を採用してもよい。直接法は溶融カルボン酸と金属酸化物または金属水酸化物との直接の反応によりカルボン酸金属塩を得る方法である。一方、副分解法は、カルボン酸アルカリ金属塩の水溶液と無機金属塩との反応によりカルボン酸金属塩を得る方法である。原料カルボン酸亜鉛塩は、直接法あるいは複分解法のいずれの製法を採用しても良いが、カルボン酸亜鉛への水分が混入し難い点で、直接法によるカルボン酸亜鉛塩がさらに好ましい。
【0044】
2種類以上のカルボン酸からなる亜鉛塩を作製する場合、あらかじめ分岐度のわかっているカルボン酸を混合し、分岐度を調整した後作製してもよいし、該カルボン酸亜鉛作製後に混合して分岐度を調整してもよいが、製造性の観点からあらかじめカルボン酸を混合しておく方が好ましい。また、カルボン酸亜鉛塩の作製を、半導体ナノ粒子の製造に用いられる溶媒中で製造してもよい。
【0045】
シェル形成工程(1)において、コア粒子の分散液に添加するVI族元素前駆体、言い換えると、亜鉛前駆体と反応させるVI族元素前駆体としては、Se前駆体、S前駆体、Te前駆体が挙げられ、VI族元素前駆体は、1種単独であっても、2種以上の併用であってもよく、少なくともSe前駆体を含むことが好ましい。つまり、亜鉛前駆体と反応させるVI族元素前駆体は、Se前駆体のみのように、VI元素のうちのいずれか1種の元素の前駆体であってもよいし、あるいは、例えば、Se前駆体とS前駆体の併用、Se前駆体とTe前駆体の併用、Se前駆体とS前駆体とTe前駆体の併用等のように、VI元素のうちの2種以上の元素の前駆体の組み合わせであってもよい。
【0046】
シェル形成工程(1)において、Se前駆体としては、特に制限されず、例えば、セレン化トリアルキルホスフィン、セレノール等が挙げられる。Se前駆体としては、セレン化トリアルキルホスフィンが好ましい。Se前駆体は、1種単独であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0047】
シェル形成工程(1)において、S前駆体としては、特に制限されず、例えば、硫化トリオクチルホスフィン、硫化トリブチルホスフィン等の硫化トリアルキルホスフィン、チオール類、ビス(トリメチルシリル)スルフィド等が挙げられる。S前駆体としては、硫化トリオクチルホスフィンが好ましい。S前駆体は、1種単独であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0048】
シェル形成工程(1)において、Te前駆体としては、特に制限されず、例えば、テルル化トリオクチルホスフィン等が挙げられる。Te前駆体としては、テルル化トリオクチルホスフィンが好ましい。Te前駆体は、1種単独であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0049】
シェル形成工程(1)において、VI族元素前駆体として、Se前駆体のみを用いる場合には、亜鉛及びSeを含有するシェル層が形成され、また、Se前駆体及びS前駆体を併用する場合には、亜鉛、Se及びSを含有するシェル層が形成される。また、Se前駆体及びTe前駆体を併用する場合には、亜鉛、Se及びTeを含有するシェル層が形成される。また、Se前駆体、S前駆体及びTe前駆体を併用する場合には、亜鉛、Se、S及びTeを含有するシェル層が形成される。
【0050】
シェル形成工程(1)では、コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加して、コア粒子の存在下で、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体を反応させることにより、コア粒子の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させる方法としては、特に制限されず、コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体の両方が添加され、コア粒子の存在下で、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体の反応が行われる方法であればよい。
【0051】
そして、シェル形成工程(1)では、コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加して、コア粒子の存在下で、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体を反応させることにより、コア粒子の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させる。
【0052】
シェル形成工程(1)において、コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加するとき、コア粒子の分散液の温度は、180~320℃の範囲で、適宜選択される。原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体を反応させるときのコア粒子の分散液の温度が、上記範囲にあることにより、添加した原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体がコア粒子上において、欠陥準位を介した励起子の非発光再結合が起こりにくいシェルを形成することができ、優れた光学特性を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子を得ることができる。
【0053】
シェル形成工程(1)において、コア粒子の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩を添加するときの添加時間は、5~600分の範囲で適宜選択される。コア粒子の分散液への原料カルボン酸亜鉛塩の溶液又は原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体の溶液の添加時間が上記範囲にあることにより、添加したシェルの前駆体がコア粒子表面で効率よくシェルを形成することができる。
【0054】
シェル形成工程(1)において、コア粒子の分散液に、VI族元素前駆体を添加するときの添加時間は、5~600分の範囲で適宜選択される。コア粒子の分散液へのVI族元素前駆体の溶液又はVI族元素前駆体の溶液の添加時間が上記範囲にあることにより、添加したシェルの前駆体がコア粒子表面で効率よくシェルを形成することができる。
【0055】
シェル形成工程(1)では、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体の反応を、分散剤の存在下で行うことができる。コア粒子の分散液中に存在させる分散剤としては、オレイルアミン、トリオクチルアミン等のアミン類や、オレイン酸等のカルボン酸類、ドデカンチオール等のチオール類が挙げられる。分散剤の使用量は、適宜選択されるが、好ましくはコア粒子のInに対するモル比で5~200、さらに好ましくはコア粒子のInに対するモル比で10~100である。
【0056】
シェル形成工程(1)では、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体の反応を、ハロゲン前駆体の存在下で行うことができる。ハロゲン前駆体としては、特に制限されず、例えば、HF、HCl、HBr、HI、塩化オレイル、臭化オレイル、塩化オクタノイル、臭化オクタイノイル等のカルボン酸ハロゲン化物、塩化亜鉛、塩化インジウム、塩化ガリウム等のハロゲン化金属が挙げられる。ハロゲンの使用量は、適宜選択されるが、好ましくはコア粒子のInに対するモル比で0.3~100.0、さらに好ましくはコア粒子のInに対するモル比で0.3~30.0である。シェル形成工程(1)において、コア粒子の分散液中に、ハロゲン前駆体を存在させることにより、コア粒子の表面又はシェル層中にハロゲンが存在するコア/シェル型半導体ナノ粒子が得られる。
【0057】
シェル形成工程(1)では、上記の他に、必要に応じて、カルボン酸類、アミン類、チオール類、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類、ホスフィン類、ホスホン酸類等を、コア粒子の分散液中に存在させて、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体の反応を行ってもよい。
【0058】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法では、シェル形成工程(1)に用いるコア粒子として、コア粒子の合成を行った後、生成したコア粒子を精製せずに、生成したコア粒子を用いることができる。つまり、シェル形成工程(1)に用いるコア粒子として、精製工程を経ていないコア粒子を用いることができる。言い換えると、コア粒子の合成を行った後のコア粒子が分散している反応液を、シェル形成工程(1)に用いるコア粒子の分散液として用いることができる。シェル形成工程(1)では、シェル層の形成に、亜鉛前駆体として、特定の炭素数及び分岐度のカルボン酸の亜鉛塩を用いており、このカルボン酸の亜鉛塩とVI族元素前駆体とが、コア粒子の表面で反応し易いため、シェル形成の際に、分散媒中の不純物が、シェル層に取り込まれ難くなり、且つ、コア表面に欠陥準位の発生を抑えたシェルが形成されることが可能となると発明者らは推察している。そのため、シェル形成工程(1)に用いるコア粒子として、精製工程を経ていないコア粒子を用いることができる。
【0059】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法では、シェル形成工程(1)においてシェル層を形成させるのに、シェルの形成に用いる原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体の全量を、一度にコア粒子の分散液に添加するだけでよいので、簡便である。そして、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法では、コア粒子の分散液に添加して、コア粒子の表面でVI族元素前駆体と反応させるII族元素前駆体として、特定の炭素数及び分岐度のカルボン酸の亜鉛塩である原料カルボン酸亜鉛塩を用いることにより、II族元素前駆体とVI族元素前駆体とを、別々に且つ複数回交互に接触させる操作を行わなくとも、つまり、II族元素前駆体とVI族元素前駆体との全量を、一度にコア粒子に接触させて反応させても、光学特性に優れたコア/シェル型の半導体ナノ粒子が得られる。特に、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、シェル形成工程(1)において、II族元素前駆体とVI族元素前駆体との全量を、一度にコア粒子に接触させて反応させても、光学特性に優れたコア/シェル型の半導体ナノ粒子が得られるとの効果が高くなる。
【0060】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、シェル形成工程(1)において、コア粒子の分散液に、VI族元素前駆体と、原料カルボン酸亜鉛塩と、を添加して、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体を反応させること、及び原料カルボン酸亜鉛塩を、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%であり、且つ、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9、好ましくは1.3~2.7、特に好ましくは1.5~2.5である原料カルボン酸亜鉛塩とすることにより、発光スペクトルの半値幅(FWHM)が小さく且つ量子効率(QY)が高いコア/シェル型の半導体ナノ粒子が得られる。
【0061】
一般に、コア/シェル型の半導体ナノ粒子の製造においては、発光ピーク波長λmaxが500~560nmの緑色発光用のコア/シェル型の半導体ナノ粒子に比べ、発光ピーク波長λmaxが590~650nmの赤色発光用のコア/シェル型の半導体ナノ粒子は、粒子径が大きいために、発光スペクトルの半値幅(FWHM)が小さく且つ量子効率(QY)が高いコア/シェル型の半導体ナノ粒子が得られ難い。
【0062】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法では、シェル形成工程(1)において、コア粒子の分散液に、VI族元素前駆体と、原料カルボン酸亜鉛塩と、を添加して、原料カルボン酸亜鉛塩とVI族元素前駆体を反応させること、及び原料カルボン酸亜鉛塩を、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%であり、且つ、原料カルボン酸亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9、好ましくは1.3~2.7、特に好ましくは1.5~2.5である原料カルボン酸亜鉛塩とすることにより、発光ピーク波長λmaxが590~650nmの赤色発光用のコア/シェル型の半導体ナノ粒子の製造においても、発光スペクトルの半値幅(FWHM)が小さく且つ量子効率(QY)が高いコア/シェル型の半導体ナノ粒子が得られる。メカニズムは定かではないが、特定の炭素数且つ分岐度のカルボン酸の亜鉛塩が半導体ナノ粒子のコア粒子の表面に配置されやすく、コア粒子の表面に配置された特定の炭素数且つ分岐度のカルボン酸の亜鉛塩とVI族元素前駆体が反応することで、コア粒子の表面に欠陥準位の発生を抑えたII-VI族系シェルを形成させることができるのではないかと推察している。
【0063】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法では、シェル形成工程(1)を行った後、生成したコア/シェル型構造の粒子を、目的生成物としてのコア/シェル型半導体粒子として得てもよいし、あるいは、更に、生成したコア/シェル型の粒子を用いて、1回又は2回以上のシェル形成工程を行って、2層以上のシェルが形成されているコア/シェル型半導体ナノ粒子を得てもよい。つまり、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、シェル形成工程(1)に加え、シェル形成工程(1)を行い得られる亜鉛及びVI族元素を含有するコア/シェル型の粒子に、シェルを形成させるシェル形成工程を1回又は2回以上を有していてもよい。更に1回又は2回以上行うシェル形成工程としては、上記シェル形成工程(1)と同様の方法が挙げられる。つまり、コア粒子に代えて、コア粒子の表面に1層以上のシェルが形成されているコア/シェル型の粒子を用いる他は、シェル形成工程(1)と同様にシェル形成工程を行うことができる。また、更に1回又は2回以上行うシェル形成工程としては、上記シェル形成工程(1)と同様の方法以外の方法であってもよい。
【0064】
例えば、コア粒子の表面に2層のシェルが形成されているコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法としては、シェル形成工程(1)と、シェル形成工程(1)を行い得られる「コア粒子と該コア粒子の表面に形成されている1層のシェルとからなる粒子」の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加し、該「コア粒子と該コア粒子の表面に形成されている1層のシェルとからなる粒子」の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させるシェル形成工程(2)と、を有することを特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子製造方法が挙げられる。
【0065】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法において、上記シェル形成工程(1)を行った後に、1回又は2回以上のシェル形成工程を行った場合、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子の表面には、シェル形成工程(1)において、亜鉛前駆体として用いた原料カルボン酸亜鉛塩に由来する分岐鎖を有するカルボン酸が、配位している。コア/シェル型半導体ナノ粒子の表面に配位する分岐鎖を有するカルボン酸は、コア/シェル型半導体ナノ粒子の分散媒への分散性を高めるリガンドとして機能する。
【0066】
また、コア粒子の表面に(n+1)層のシェルが形成されているコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法としては、シェル形成工程(1)と、先のシェル形成工程を行い得られる「コア粒子と該コア粒子の表面に形成されている1層以上のシェルとからなる粒子」の分散液に、原料カルボン酸亜鉛塩及びVI族元素前駆体を添加し、該「コア粒子と該コア粒子の表面に形成されている1層以上のシェルとからなる粒子」の表面に、亜鉛及びVI族元素を含有するシェルを形成させるシェル形成工程(x)をn回繰り返す工程と、を有することを特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子製造方法が挙げられる。
【0067】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法において、上記シェル形成工程(1)を行った後に、1回又は2回以上のシェル形成工程(x)を繰り返し行った場合、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子の表面には、シェル形成工程(1)及びシェル形成工程(x)において、亜鉛前駆体として用いた原料カルボン酸亜鉛塩に由来するカルボン酸が、配位している。コア/シェル型半導体ナノ粒子の表面に配位するカルボン酸は、コア/シェル型半導体ナノ粒子の分散媒への分散性を高めるリガンドとして機能する。
【0068】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子製造方法では、シェル形成工程を行うことにより生成したコア/シェル型半導体ナノ粒子を、精製することができる。例えば、アセトン等の極性転換溶媒を添加することによって、コア/シェル型半導体ナノ粒子を溶液から析出させることができる。そして、析出したコア/シェル型半導体ナノ粒子を、ろ過又は遠心分離によって回収することができる。また、未反応の出発物質及び他の不純物を含むろ液又は上澄み液を、再利用することができる。次いで、回収した半導体ナノ粒子を、さらなる溶媒で洗浄し、再び溶解させることができる。この精製操作を、例えば、2~4回、あるいは、所望の純度に到達するまで、繰り返すことができる。他の精製方法としては、例えば、凝集、液液抽出、蒸留、電着、サイズ排除クロマトグラフィー、限外ろ過等が挙げられる。精製では、これらの精製方法を、1種単独で又は複数を組み合わせて行うことができる。
【0069】
さらに、上記のようにして得たコア/シェル型半導体ナノ粒子の表面を、リガンドで修飾してもよい。リガンドでの修飾方法は、リガンド交換法など公知の方法が用いられる。
【0070】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子は、少なくとも1層のシェル層を有するコア/シェル型構造の粒子である。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子において、コア粒子の表面に形成されているシェル層、すなわち、コア粒子側から見て1層目のシェル層は、シェル形成工程(1)を行い形成されたシェル層である。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子において、形成されているシェル層の数は、少なくとも1層であり、好ましくは1~4層である。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子が2層以上のシェル層を有する場合、コア粒子から見て2層目以降のシェル層を形成する方法は、如何なる方法であってもよいが、コア粒子に代えてシェル層の形成対象として、先のシェル層形成工程により1層以上のシェル層が形成されたコア/シェル型の粒子とする以外はシェル層形成工程(1)と同様に行うシェル形成方法が好ましい。
【0071】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子において、コアは、環境負荷が小さく、かつ光学特性が高い半導体ナノ粒子が得られる観点から、In及びPを含有するコアが好ましい。
【0072】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子の平均粒径は、特に制限されず、好ましくは1.0~20.0nm、特に好ましくは1.0~10.0nmである。
【0073】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子は、リガンドとして、少なくとも、原料カルボン酸亜鉛塩を形成していたカルボン酸が、コア/シェル型半導体ナノ粒子に配位しており、また、コア/シェル型半導体ナノ粒子をリガンドで修飾した場合には、原料カルボン酸亜鉛塩に由来するカルボン酸以外のリガンドが、コア/シェル型半導体ナノ粒子に配位していてもよい。よって、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子は、コア/シェル型半導体ナノ粒子と、コア/シェル型半導体ナノ粒子の表面に配位しているリガンドと、を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体であり、リガンドとして、少なくとも原料カルボン酸亜鉛塩に由来するカルボン酸を含む。また、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の製造方法を行い得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子は、シェルは少なくとも、亜鉛とセレンを含む。
【0074】
すなわち、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体は、コア/シェル型半導体ナノ粒子と、該コア/シェル型半導体ナノ粒子の表面に配位しているリガンドと、を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体であって、
前記シェルは少なくともZnを含み、
前記リガンドとして、カルボン酸を含み、
リガンドとして含まれる全カルボン酸のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上であり、
リガンドとして含まれる全カルボン酸の平均分岐度が1.1~2.9であること、
を特徴とするコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体である。また、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体のシェルは、更に、Se及びSのうちの少なくとも1種を含むことができる。
【0075】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体は、リガンドとして、少なくともカルボン酸を含む。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体では、リガンドとして含まれる全カルボン酸のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%である。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体では、リガンドとして含まれる全カルボン酸の平均分岐度が1.1~2.9、好ましくは1.3~2.7、特に好ましくは1.5~2.5である。
【0076】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体において、コア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に配位している全リガンドのうち、カルボン酸の割合が、好ましくは1.0~15.0質量%、特に好ましくは1.0~8.0質量%である。
【0077】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体は、シェル形成工程(1)において、シェル前駆体がコア粒子の表面で反応しやすいため、コア表面に欠陥準位の発生を抑えたシェルが形成される。そのため、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の発光スペクトルの半値幅(FWHM)は、好ましくは37.0nm以下、特に好ましくは35.0nm以下である。また、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体の量子効率(QY)は、好ましくは90.0%以上、特に好ましくは93.0%以上である。
【0078】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に係るコア/シェル型半導体ナノ粒子、すなわち、リガンドが配位されているコア/シェル型半導体ナノ粒子は、少なくとも1層のシェル層を有するコア/シェル型構造の粒子である。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に係るコア/シェル型半導体ナノ粒子において、コア粒子の表面に形成されているシェル層、すなわち、コア粒子側から見て1層目のシェル層は、少なくともZn及びVI族元素(好ましくはSe又はS)を含む。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に係るコア/シェル型半導体ナノ粒子において、形成されているシェル層の数は、少なくとも1層であり、好ましくは1~4層である。本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に係るコア/シェル型半導体ナノ粒子が、2層以上のシェル層を有する場合、コア粒子から見て2層目以降のシェル層は、好ましくはZn及びVI族元素、特に好ましくはZn及びSe又はSを含有する。
【0079】
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子複合体に係るコア/シェル型半導体ナノ粒子において、コアは、環境負荷が小さく、かつ光学特性が高い半導体ナノ粒子が得られる観点からIn及びPを含有するコアが好ましい。
【0080】
<測定>
半導体ナノ粒子の元素分析については、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)又は蛍光X線分析装置(XRF)を用いて元素分析を行うことができる。ICP測定では、精製した半導体ナノ粒子を硝酸で溶解し加熱後、水で希釈してICP発光分析装置(島津製作所製、ICPS-8100)を用いて検量線法で測定する。XRF測定では、分散液をろ紙に含浸させたものをサンプリングホルダに入れ、蛍光X線分析装置(リガク製、ZSX100e)を用いて定量分析を行う。
【0081】
また、半導体ナノ粒子の光学特定については、蛍光量子効率測定システム(大塚電子製、QE-2100)、可視紫外分光光度計(日本分光製、V-670)を用いて測定することができる。半導体ナノ粒子を分散媒に分散させた分散液に、励起光を当てて発光スペクトルを得る。ここで得られた発光スペクトルより再励起されて蛍光発光した分の再励起蛍光発光スペクトルを除いた再励起補正後の発光スペクトルより、ピーク波長(λmax)、蛍光量子効率(QY)と半値幅(FWHM)を算出する。分散媒としては、例えば、ノルマルヘキサンやオクタデセン、トルエン、アセトン、PGMEAが挙げられる。測定に用いられる励起光は450nmの単一光とし、分散液としては、吸収率が20~30%になるように半導体ナノ粒子の濃度を調整したものが用いられる。一方、吸収スペクトルについては、半導体ナノ粒子を分散媒に分散させた分散液に、紫外~可視光を当てて測定することができる。
【0082】
また、コア/シェル型半導体ナノ粒子に配位しているリガンドについては、ガスクロマトグラフィーを用いて種類の同定とモル分率を算出することができる。コア/シェル型半導体ナノ粒子を試料気化室に導入し、350℃以上で加熱を行い、キャリアガスと共にカラムを通した後、検出器にて得られたシグナルのリテンションタイムとピーク面積より各リガンドの種類と量の同定を行う。得られた各リガンドの種類と量から、コア/シェル型半導体ナノ粒子に配位するリガンドの存在種類、存在比率を算出することができる。
【0083】
なお、本明細書の記載の構成、方法、手順、処理等は、例示であって、本発明を限定するものではなく、本発明の範囲において、多数の変形形態が適用可能である。
【0084】
本発明の半導体ナノ粒子の製造に用いられるカルボン酸亜鉛塩は、カルボン酸の亜鉛塩であり、
該カルボン酸の亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が80.0質量%以上であり、
該カルボン酸の亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9であること、
を特徴とする半導体ナノ粒子の製造に用いられるカルボン酸亜鉛塩である。
【0085】
本発明の半導体ナノ粒子の製造に用いられるカルボン酸亜鉛塩は、コア/シェル型半導体ナノ粒子の製造において、シェルの形成に用いられる。本発明の半導体ナノ粒子の製造に用いられるカルボン酸亜鉛塩は、カルボン酸の亜鉛塩であり、カルボン酸の亜鉛塩を形成するカルボン酸全体のうち、炭素数が8~10のカルボン酸の割合が、80.0質量%以上、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%であり、且つ、カルボン酸の亜鉛塩を形成するカルボン酸全体の平均分岐度が1.1~2.9、好ましくは1.3~2.7、特に好ましくは1.5~2.5である。
【0086】
以下、本発明を具体的な実験例に基づき説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例0087】
<カルボン酸亜鉛の製造>
以下の方法に従って、分岐カルボン酸亜鉛塩の作製を行った。カルボン酸としては、3,5,5-トリメチルヘキサン酸(東京化成工業株式会社製試薬;純度>98.0%)、ネオデカン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製試薬)、2-エチルヘキサン酸(東京化成工業株式会社製試薬;純度>99.0%)、デカン酸(日油株式会社製NAAー102)を用いた。それぞれのカルボン酸の炭素数組成の分析結果を表1、カルボン酸配合比を表2に示す。
【0088】
ネオデカン酸(158g、0.91mol)、2-エチルヘキサン酸(91.8g、0.64mol)、デカン酸(47.1g、0.27mol)を40℃で加温しながら撹拌し、カルボン酸混合物を調製した。調製したカルボン酸混合物と酸化亜鉛(58.8g、0.90mol)を、水分定量受器を備えたセパラブルフラスコに投入して撹拌し、窒素雰囲気下で170℃に加熱した。発生した水は水分定量受器から除去し、170℃で2時間保持した。1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩1を得た。
【0089】
3,5,5-トリメチルヘキサン酸(144g、0.91mol)、ネオデカン酸(158g、0.91mol)を40℃で加温しながら撹拌し、カルボン酸混合物を調製した。調製したカルボン酸混合物と酸化亜鉛(58.8g、0.90mol)を、水分定量受器を備えたセパラブルフラスコに投入して撹拌し、窒素雰囲気下で170℃に加熱した。発生した水は水分定量受器から除去し、170℃で2時間保持した。1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩2を得た。
【0090】
3,5,5-トリメチルヘキサン酸(71.9g、0.45mol)、ネオデカン酸(237g、1.36mol)を40℃で加温しながら撹拌し、カルボン酸混合物を調製した。調製したカルボン酸混合物と酸化亜鉛(58.8g、0.90mol)を、水分定量受器を備えたセパラブルフラスコに投入して撹拌し、窒素雰囲気下で170℃に加熱した。発生した水は水分定量受器から除去し、170℃で2時間保持した。1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩3を得た。
【0091】
ネオデカン酸(316g、1.82mol)と酸化亜鉛(58.8g、0.90mol)を、水分定量受器を備えたセパラブルフラスコに投入して撹拌し、窒素雰囲気下で170℃に加熱した。発生した水は水分定量受器から除去し、170℃で2時間保持した。1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩4を得た。
【0092】
ネオデカン酸(261g、1.50mol)、デカン酸(54.6g、0.32mol)を40℃で加温しながら撹拌し、カルボン酸混合物を調製した。調製したカルボン酸混合物と酸化亜鉛(58.8g、0.90mol)を、水分定量受器を備えたセパラブルフラスコに投入して撹拌し、窒素雰囲気下で170℃に加熱した。発生した水は水分定量受器から除去し、170℃で2時間保持した。1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩5を得た。
【0093】
3,5,5-トリメチルヘキサン酸(95.8g、0.61mol)、2-エチルヘキサン酸(17.8g、0.12mol)、デカン酸(188g、1.09mol)を40℃で加温しながら撹拌し、カルボン酸混合物を調製した。調製したカルボン酸混合物と酸化亜鉛(58.8g、0.90mol)を、水分定量受器を備えたセパラブルフラスコに投入して撹拌し、窒素雰囲気下で170℃に加熱した。発生した水は水分定量受器から除去し、170℃で2時間保持した。1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩6を得た。
【0094】
3,5,5-トリメチルヘキサン酸(288g、1.82mol)と酸化亜鉛(58.8g、0.90mol)を、水分定量受器を備えたセパラブルフラスコに投入して撹拌し、窒素雰囲気下で170℃に加熱した。発生した水は水分定量受器から除去し、170℃で2時間保持した。1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩7を得た。
【0095】
デカン酸(316g、1.82mol)、水(2000g)をセパラブルフラスコに仕込み、60℃に加熱した。次いで48.0wt%水酸化ナトリウム水溶液(154g、1.82mol)を加え20分間撹拌した後、25.0wt%硫酸亜鉛水溶液(650g、2.00mol)を60分間かけて滴下した。滴下終了後、得られたカルボン酸亜鉛スラリーを吸引ろ過し、1000gの水で3回水洗した。得られたケーキについて棚段乾燥機内に60℃で36時間静置した後、室温(25℃)まで冷却し、カルボン酸亜鉛塩8を得た。
【0096】
<カルボン酸亜鉛塩の測定>
上記で得られたカルボン酸亜鉛塩1~8について、物性の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0097】
(C8~10カルボン酸比率)
表1のカルボン酸の炭素数組成、および表2のカルボン酸配合比から、カルボン酸亜鉛塩1~8のC8~10カルボン酸比率(質量%)を算出した。
【0098】
(平均分岐度)
表1のカルボン酸の分岐度、および表2のカルボン酸配合比から、カルボン酸亜鉛塩1~8の平均分岐度を算出した。
【0099】
(金属含有量;Zn含有量)
カルボン酸亜鉛塩1~8を0.1gを精秤し、磁製ルツボ中で650℃にて4時間加熱して有機物を除去した。残渣に塩酸1mlを加えて溶解させ、水を加えて100mlとした。この溶液を試料として、原子吸光光度法により金属含有量(Zn含有量)を測定した。
【0100】
(粘度)
カルボン酸亜鉛塩1~8について、動的粘弾性測定装置(アントンパール社製、モジュラーコンセプトレオメータMCR302)を用いて動的粘度の測定を行った。カルボン酸亜鉛をレオメータのホットプレート上に乗せて130℃に加熱し、サンプルカバーで保温した。コーンプレート(CP25-2)を用いて回転数1.0rpmから1000rpmまで掃引したときの動的粘度を測定し、回転数が150rpmのときの130℃粘度(Pa・s)を算出した。その後、温度を50℃に下げ、同様に回転数1.0rpmから1000rpmまで掃引したときの動的粘度を測定し、回転数が150rpmのときの50℃粘度(Pa・s)を算出した。
【0101】
(粘度変化率)
130℃粘度(Pa・s)と50℃粘度(Pa・s)の差を取り、50℃粘度(Pa・s)で除した値に100を乗することで、温度変化に対する粘度変化率を算出した。
粘度変化率(%)=((130℃粘度(Pa・s)-50℃粘度(Pa・s))/50℃粘度(Pa・s))×100
【0102】
以下の方法に従って、半導体ナノ粒子及び半導体ナノ粒子複合体の作製を行い、得られた半導体ナノ粒子及び半導体ナノ粒子複合体の光学特性を測定した。
【0103】
<コア粒子の合成>
酢酸インジウム(0.5mmol)、ミリスチン酸(1.5mmol)、ミリスチン酸亜鉛(0.2mmol)、オクタデセン(10mL)を、二つ口フラスコに投入し、フラスコ内を真空にして、真空下(<10Pa)で120℃に加熱し、真空度が10Paを下回った時点から、30分間保持した後、フラスコ内に窒素を導入し、室温(25℃)まで冷却して、In前駆体を得た。
また、窒素雰囲気のグローブボックス内で、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンを、モル濃度が0.2Mとなるように、トリ-n-オクチルホスフィンと混合し、P前駆体を得た。
次いで、室温(25℃)、窒素雰囲気下で、In前駆体に2mLのP前駆体を注入し、30℃/分で300℃まで昇温した。300℃で、2分間保持した後、反応液を室温まで冷却して、反応液を、InPコア粒子の分散液として得た。
【0104】
<亜鉛前駆体の溶液>
亜鉛のモル濃度が0.3Mとなるように、表2に記載のカルボン酸亜鉛塩とオクタデセンを混合し、100℃で1時間真空引きした後、窒素置換して室温(25℃)まで冷却して、各亜鉛前駆体の溶液を得た。
【0105】
<Se前駆体の溶液>
粉末セレン100mmolとトリ-n-オクチルホスフィン50mLを、窒素雰囲気下で混合し、セレン粉末が完全に溶けるまで撹拌して、Se前駆体の溶液を得た。
【0106】
<S前駆体の溶液>
粉末硫黄100mmolとトリ-n-オクチルホスフィン50mLを、窒素雰囲気下で混合し、硫黄粉末が完全に溶けるまで撹拌して、S前駆体の溶液を得た。
【0107】
<コア/シェル半導体ナノ粒子の製造>
(実施例1)
InPコア粒子の分散液10mL(In:0.4mmol)にトリオクチルアミン5mLを加え、InPコア粒子の分散液を230℃まで昇温した。次いで、InPコア粒子の分散液が230℃に到達した時点で、表4に示す亜鉛前駆体の溶液20mL及びSe前駆体の溶液2.0mLを、1分以内で添加し、InPコア粒子の分散液を300℃まで1℃/分で昇温した。次いで、InPコア粒子の分散液が300℃に到達した時点から180分後に、加熱を終了し、室温(25℃)まで冷却して、コア/シェル半導体ナノ粒子の分散液(反応液)を得た。
次いで、得られたコア/シェル半導体ナノ粒子の分散液にアセトンを加え、半導体ナノ粒子を凝集させた。次いで、遠心分離(4000rpm、10分間)後、上澄みを除去し、コア/シェル半導体ナノ粒子をヘキサンに再分散させた。これを繰り返して、精製されたコア/シェル半導体ナノ粒子を得た。
得られたコア/シェル半導体ナノ粒子の光学特性を測定した。その結果を表5に示す。
なお、半導体ナノ粒子の光学特性の測定では、励起波長は450nmの単一波長とした。以下の半導体ナノ粒子の光学特性の測定についても同じである。
【0108】
<コア/シェル/シェル半導体ナノ粒子の製造>
(実施例2~7、比較例1~2)
上記の各実施例又は比較例と同様に行い、コア/シェル半導体ナノ粒子の分散液(反応液)を得た。次いで、得られたコア/シェル半導体ナノ粒子の分散液(反応液)を、300℃まで加熱した。300℃に到達後、コア/シェル半導体ナノ粒子の分散液(反応液)に、表4に示す亜鉛前駆体の溶液を0.2mL/分の速度で、Se前駆体の溶液及びS前駆体の溶液を0.03mL/分の速度で、添加を同時に開始し、亜鉛前駆体の溶液及びS前駆体の溶液の添加を開始してから100分後に、両者の添加を同時に終了した(添加時間:100分間)。次いで、添加が終了した時点から180分後に、加熱を終了し、室温(25℃)まで冷却して、コア/シェル/シェル半導体ナノ粒子を得た。分散液(反応液)を得た。
次いで、得られたコア/シェル/シェル半導体ナノ粒子の分散液にアセトンを加え、半導体ナノ粒子を凝集させた。次いで、遠心分離(4000rpm、10分間)後、上澄みを除去し、コア/シェル/シェル半導体ナノ粒子をヘキサンに再分散させた。これを繰り返して、精製されたコア/シェル/シェル半導体ナノ粒子を得た。
得られたコア/シェル/シェル半導体ナノ粒子の光学特性を測定した。その結果を表5に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】