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特開2023-28130膜形成用組成物、硬化膜、及び被覆部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028130
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】膜形成用組成物、硬化膜、及び被覆部材
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20230224BHJP
   C08F 2/46 20060101ALI20230224BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20230224BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20230224BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230224BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230224BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230224BHJP
   C08F 220/02 20060101ALI20230224BHJP
   C08F 220/38 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F2/46
C09D4/02
C09D7/40
C09D7/65
C09D7/63
C09D7/20
C08F220/02
C08F220/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133634
(22)【出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 基晋
(72)【発明者】
【氏名】小林 信幸
【テーマコード(参考)】
4J011
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011PA69
4J011PB06
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA03
4J011QA12
4J011QA13
4J011QA22
4J011QA40
4J011QB24
4J011SA01
4J011SA61
4J011UA01
4J011VA01
4J038CG142
4J038CH032
4J038FA111
4J038FA122
4J038FA161
4J038JA17
4J038JA25
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA09
4J038NA01
4J038NA06
4J038PA17
4J038PB05
4J038PC06
4J100AL08Q
4J100AL67P
4J100BA56Q
4J100CA03
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】粒子を含有する硬化膜を作製するために使用でき、この硬化膜中で粒子が凝集しにくいとともに硬化膜の表面が親水性を発現しやすい膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】膜形成用組成物は、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と、カルボキシル基及びカルボン酸塩基を除くイオン性官能基とを有する第一重合性化合物(A1)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつイオン性官能基を有さない第二重合性化合物(A2)と、粒子(B)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する分散剤(C)とを、含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と、カルボキシル基及びカルボン酸塩基を除くイオン性官能基とを有する第一重合性化合物(A1)と、
1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつイオン性官能基を有さない第二重合性化合物(A2)と、
粒子(B)と、
1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する分散剤(C)とを、含有する、
膜形成用組成物。
【請求項2】
前記第一重合性化合物(A1)における前記イオン性官能基は、スルホン酸基とスルホン酸塩基とのうち少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
前記粒子(B)の平均粒径は5μm以上20μm以下である、
請求項1又は2に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
前記粒子(B)は、ポリメチルメタクリレート粒子を含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
前記分散剤(C)は、1分子中に1つのカルボキシル基を有する化合物(C1)を含有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
有機溶媒(D)を更に含有し、
前記有機溶媒(D)のSP値は前記分散剤(C)よりも大きい、
請求項1から5のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項7】
前記第一重合性化合物(A1)と前記第二重合性化合物(A2)とのモル比は、1:1から1:40の範囲内である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項8】
前記膜形成用組成物中の固形分に対する前記粒子(B)の割合は、30質量%以上60質量%以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項9】
前記第一重合性化合物(A1)と前記分散剤(C)とのモル比は、1:1から1:40の範囲内である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の膜形成用組成物の硬化物である、
硬化膜。
【請求項11】
基材と、前記基材を覆う被膜とを備え、
前記被膜が請求項10に記載の硬化膜であり、又は前記被膜の最外層が前記硬化膜である、
被覆部材。
【請求項12】
前記基材は、木質材である、
請求項11に記載の被覆部材。
【請求項13】
床材である、
請求項11又は12に記載の被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜形成用組成物、硬化膜、及び被覆部材に関し、詳しくは重合性化合物を含有する膜形成用組成物、前記膜形成用組成物の硬化物である硬化膜、及び前記硬化膜を備える被覆部材に関する。
【背景技術】
【0002】
基材から汚れを除去しやすくするために、基材の表面に親水性の被覆膜が設けられることがある。例えば特許文献1には、水素イオン等の1価カチオンとアルカリ土類金属イオン等の2価カチオンとアニオン性親水基を有する特定構造の1価の有機アニオンとを有する単量体(I)、及び2以上の(メタ)アクリロイル基を有しスルホン酸基、カルボキシル基及びリン酸基を有さない多価単量体(II)を、特定のモル比で含む単量体組成物から、外表面にアニオン性親水基が集中した構造の単層膜を形成することが、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5943918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、親水性の硬化膜の開発のために独自の研究を進め、その過程で、硬化膜の意匠性を高めるために硬化膜に粒子を配合させることを検討した。
【0005】
しかし、発明者の調査によると、特許文献1に記載のような組成物に粒子を配合すると粒子が凝集することで組成物の貯蔵安定性が低下しやすい。また、粒子を分散させるために組成物に分散剤を更に加えると硬化膜の表面が親水性を発現しないことがある。
【0006】
本開示の課題は、粒子を含有する硬化膜を作製するために使用でき、この硬化膜中で粒子が凝集しにくいとともに硬化膜の表面が親水性を発現しやすい膜形成用組成物、この膜形成用組成物の硬化物である硬化膜、及びこの硬化膜を備える被覆部材を、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る膜形成用組成物は、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基及びカルボン酸塩基を除くイオン性官能基とを有する第一重合性化合物(A1)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつイオン性官能基を有さない第二重合性化合物(A2)と、粒子(B)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する分散剤(C)とを、含有する。
【0008】
本開示の一態様に係る硬化膜は、前記膜形成用組成物の硬化物である。
【0009】
本開示の一態様に係る被覆部材は、基材と、前記基材を覆う被膜とを備える。前記被膜が前記硬化膜であり、又は前記被膜の最外層が前記硬化膜である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によると、粒子を含有する硬化膜を作製するために使用でき、膜形成用組成物中で粒子が凝集しにくく、かつ膜形成用組成物から硬化膜を作製すると硬化膜の表面が親水性を発現しやすい膜形成用組成物、この膜形成用組成物の硬化物である硬化膜、及びこの硬化膜を備える被覆部材が、得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。以下の実施形態は、本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0012】
本実施形態に係る膜形成用組成物は、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と、カルボキシル基及びカルボン酸塩基を除くイオン性官能基とを有する第一重合性化合物(A1)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつイオン性官能基を有さない第二重合性化合物(A2)と、粒子(B)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する分散剤(C)とを、含有する。なお、(メタ)アクリレート基とは、アクリレート基(CH=CHCOO-)とメタクリレート基(CH=C(CH)COO-)とのうち、少なくとも一方のことである。
【0013】
このため、膜形成用組成物中で粒子(B)が凝集しにくく、かつ膜形成用組成物から硬化膜を作製すると硬化膜の表面が親水性を発現しやすい。
【0014】
上述の効果が発現する機序は、十分には明らかになっていないが、次のとおりであると推定される。なお、この推定される機序は、本実施形態を制限するものではない。膜形成用組成物から膜が形成されると、第一重合性化合物(A1)はイオン性官能基を有するのに対して、第二重合性化合物(A2)はイオン性官能基を有さないことから、第一重合性化合物(A1)が膜の表層に偏在しやすくなる。この状態で第一重合性化合物(A1)及び第二重合性化合物(A2)が重合して硬化膜が作製されると、硬化膜の表面に、第一重合性化合物(A1)に由来するイオン性官能基が偏在しやすくなる。これにより、硬化膜の表面が親水性を発現しやすい。また、膜形成組成物中では、分散剤(C)の(メタ)アクリロイル基が粒子(B)の表面に吸着し、かつ分散剤(C)のカルボキシル基が電離して生じるカルボキシラートアニオン基が粒子(B)の表面に導入される。このとき、分散剤(C)が1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有するため、分散剤(C)の分子が粒子(B)に吸着しやすく、そのため粒子(B)の表面にカルボキシラートアニオン基が導入されやすい。このカルボキシラートアニオン基間に生じる斥力により、粒子(B)が凝集しにくくなる。このとき、分散剤(C)が第一重合性化合物(A1)、第二重合性化合物(A2)のいずれとも相溶すると、第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)とが分離しにくくなって硬化膜の表面に親水性が発現しにくい。しかし、本実施形態では、分散剤(C)は、分子中に(メタ)アクリロイル基を2以上有することから、第一重合性化合物(A1)と相溶しにくい。そのため、分散剤(C)は、硬化膜の親水性の発現を阻害することなく、粒子(B)を分散させることができる。
【0015】
膜形成用組成物の組成について、より詳しく説明する。
【0016】
第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)との各々は、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよい。
【0017】
第一重合性化合物(A1)は、1分子中に1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A11)を含有することが好ましい。この場合、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。これは第一重合性化合物(A1)と分散剤(C)とが、より相溶しにくくなるためであると推定される。
【0018】
第一重合性化合物(A1)におけるイオン性官能基は、例えば有機酸基及び有機酸基の塩のうち少なくとも一方を含む。より具体的には、親水性官能基は、例えばスルホン酸基、スルホン酸塩基、リン酸基、及びリン酸塩基よりなる群から選択される少なくとも一種を含む。イオン性官能基は、スルホン酸基とスルホン酸塩基とのうち少なくとも一方を含むことが好ましい。この場合、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。第一重合性化合物(A1)におけるイオン性官能基には、カルボキシル基及びカルボン酸塩基は含まれない。すなわち、第一重合性化合物(A1)は、カルボキシル基を有さず、カルボン酸塩基も有さない。
【0019】
第一重合性化合物(A1)は、例えばメタクリル酸3-スルホプロピルカリウム、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、及びスチレンスルホン酸カリウムよりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお、第一重合性化合物(A1)が含有しうる成分は、前記のみには制限されない。
【0020】
一方、第二重合性化合物(A2)における1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は、3以上であればより好ましい。この場合、硬化膜の硬度が高まりやすい。また、この(メタ)アクリロイル基の数は、例えば6以下である。この場合、硬膜膜にひび割れが生じにくい。
【0021】
第二重合性化合物(A2)のSP値が11.3未満であることも好ましい。この場合、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。SP値とは、溶解度パラメータ(Solubility Parameter)のことである。このSP値は、11.2以下であればより好ましい。またこのSP値は、例えば7以上である。
【0022】
第二重合性化合物(A2)は、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリル化合物、及び多官能ウレタン(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお、第二重合性化合物(A2)が含有しうる成分は、前記のみには制限されない。
【0023】
第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)とのモル比は、1:1から1:40の範囲内であることが好ましい。この場合、硬化膜の表面が、親水性を、より発現しやすい。第一重合性化合物(A1)1モルに対して、第二重合性化合物(A2)が10モル以上であればより好ましく、20モル以上であれば更に好ましい。また、第一重合性化合物(A1)1モルに対して、第二重合性化合物(A2)が30モル以下であればより好ましい。
【0024】
粒子(B)について、説明する。硬化膜の表面は、粒子(B)がある位置で盛り上がりやすくなり、そのため粒子(B)は硬化膜の表面を凹凸状にしやすい。これにより硬化膜の外観の光沢が抑制されやすく、そのため硬化膜の表面に自然な外観が付与されて硬化膜の表面の意匠性が高まりやすい。本実施形態では、硬化膜内で粒子(B)が凝集しにくいことから、硬化膜中で粒子(B)が良好に分散しやすく、そのため硬化膜の表面に適度な凹凸が形成されやすい。
【0025】
粒子(B)は、例えば無機粒子及び有機樹脂粒子のうち、少なくとも一方を含有する。無機粒子の例としてシリカ粒子が挙げられるが、無機粒子はこれに限られない。有機樹脂粒子の例として、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系重合体からなる粒子及びポリスチレンなどのビニル系重合体からなる粒子が挙げられるが、有機樹脂粒子はこれらには限られない。
【0026】
特に粒子(B)は、ポリメチルメタクリレート粒子を含有することが好ましい。この場合、粒子(B)が、より分散されやすい。これは、分散剤(C)の(メタ)アクリロイル基がポリメチルメタクリレート粒子に吸着しやすいためであると、推定される。
【0027】
粒子(B)の平均粒径は5μm以上20μm以下であることが好ましい。この場合、粒子(B)が特に良好に分散しやすく、かつ硬化膜の表面の光沢が効果的に抑制されやすい。この平均粒径は、10μm以上であればより好ましい。なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法で測定される粒度分布から算出される算術平均径である。
【0028】
膜形成用組成物中の固形分に対する粒子(B)の割合は、30質量%以上60質量%以下であることが好ましい。この割合が30質量%以上であることで硬化膜の光沢が、より抑制されやすく、かつこの割合が60質量%以下であることで粒子(B)がより凝集しにくくなる。この粒子(B)の百分比は、35質量%以上であればより好ましい。またこの粒子の百分比は、45質量%以下であればより好ましい。
【0029】
分散剤(C)は、上述のとおり、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する。1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は、3以上であればより好ましく、5以上であれば更に好ましい。また、この(メタ)アクリロイル基の数は、例えば10以下である。
【0030】
分散剤(C)は、1分子中に1つのカルボキシル基を有する化合物(C1)を含有することが好ましい。この場合、硬化膜の表面に親水性がより発現しやすい。これは、1分子中のカルボキシル基が1個のみである化合物(C1)によって、分散剤(C)と第一重合性化合物(A1)とが、より相溶しにくくなるためであると、推定される。
【0031】
分散剤(C)のSP値が11.3未満であることも好ましい。この場合、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。このSP値は、10.9以下であればより好ましい。またこのSP値は、例えば10以上である。
【0032】
分散剤(C)は、例えばジペンタエリスリトールペンタアクリレートコハク酸変性物(SP値10.9)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートフタル酸変性物(SP値11.1)及びペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸変性物(SP値11.1)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお、分散剤(C)が含有しうる成分は、前記のみには制限されない。
【0033】
第一重合性化合物(A1)と分散剤(C)とのモル比は、1:1から1:40の範囲内であることが好ましい。第一重合性化合物(A1)1モルに対して分散剤(C)が1モル以上であれば、粒子(B)がより凝集しにくい。また、第一重合性化合物(A1)1モルに対して分散剤(C)が40モル以下であれば、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。これは、第一重合性化合物(A1)が分散剤(C)に溶け込みにくくなるためであると推定される。第一重合性化合物(A1)1モルに対して分散剤(C)が1.5モル以上であればより好ましく、3モル以上であれば更に好ましい。また、第一重合性化合物(A1)1モルに対して分散剤(C)が6モル以下であればより好ましい。
【0034】
膜形成用組成物は、第一重合性化合物(A1)、第二重合性化合物(A2)及び分散剤(C)以外の、重合性不飽和基を有する化合物(以下、化合物(A3)という)を含有しないことが好ましい。膜形成用組成物が化合物(A3)を含有する場合、第一重合性化合物(A1)、第二重合性化合物(A2)、分散剤(C)及び化合物(A3)の合計に対する、化合物(A3)の百分比は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であればより好ましく、3質量%以下であれば更に好ましい。
【0035】
膜形成用組成物は、ラジカル重合開始剤を含有してもよい。この場合、膜形成用組成物の反応硬化性が高まりやすい。
【0036】
ラジカル重合開始剤は、熱ラジカル重合開始剤と光ラジカル重合開始剤とのうち、少なくとも一方を含有できる。ラジカル重合開始剤が熱ラジカル重合開始剤を含有すれば膜形成用組成物は熱硬化性を有することができ、ラジカル重合開始剤が光ラジカル重合開始剤を含有すれば膜形成用組成物は光硬化性を有することができる。
【0037】
熱ラジカル重合開始剤は、例えばアゾ化合物と有機過酸化物とのうち、少なくとも一方を含有する。アゾ化合物は、例えばアゾビスイソブチロニトリル等を含有する。有機過酸化物は、例えばα,α´-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、α,α´-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、過酸化ベンゾイル、3,3´,5,5´-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシノルマルオクトエート、t-アミルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジーt-アミルパーオキサイド、及び1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。なお、熱ラジカル重合開始剤が含有しうる化合物は、前記のみには制限されない。
【0038】
光ラジカル重合開始剤は、例えば芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。なお、光ラジカル重合開始剤が含有しうる化合物は、前記のみには制限されない。
【0039】
第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)との合計に対するラジカル重合開始剤の割合は、例えば1質量%以上10質量%以下である。
【0040】
膜形成用組成物は、有機溶媒(D)を含有してもよい。有機溶媒(D)は、膜形成用組成物中で第一重合性化合物(A1)及び第二重合性化合物(A2)のいずれも溶解させていることが好ましい。この場合、膜形成用組成物中では第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)とが分離しにくいため、膜形成用組成物の組成が安定しやすい。
【0041】
有機溶媒(D)のSP値は分散剤(C)よりも大きいことが好ましい。この場合、有機溶媒(D)が第一重合性化合物(A1)を溶解させやすいため、膜形成用組成物の組成が安定しやすい。
【0042】
有機溶媒(D)のSP値が11.3以上であることも好ましい。この場合も、有機溶媒(D)が第一重合性化合物(A1)を溶解させやすいため、膜形成用組成物の組成が安定しやすい。有機溶媒(D)のSP値は、11.7以上であればより好ましい。また、有機溶媒(D)のSP値は、例えば13以下である。
【0043】
有機溶媒(D)は、両親媒性溶媒と呼ばれる溶媒であることが好ましい。両親媒性溶媒を用いると、第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)とが膜形成用組成物中で安定して溶解しやすいため、膜形成用組成物の均一性が高まりやすい。有機溶媒(D)は、例えばメタノール(SP値13.8)、エタノール(SP値12.6)、エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値12.0)、イソプロピルアルコール(SP値11.6)及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値11.3)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお、有機溶媒(D)が含む成分は、前記のみには制限されない。
【0044】
膜形成用組成物は、本実施形態の効果を大きく阻害しない範囲内で、適宜の添加剤を更に含有してもよい。
【0045】
本実施形態に係る硬化膜は、膜形成用組成物の硬化物である。例えば膜形成用組成物を膜状に成形してから、膜形成用組成物中の第一重合性化合物(A1)及び第二重合性化合物(A2)を重合させることで、硬化膜を作製できる。この場合、例えば適宜の下地の上に膜形成用組成物をスプレーコート法、バーコート法などの適宜の方法で塗布して、膜を形成する。続いて、膜形成用組成物が有機溶媒(D)を含有する場合は、膜を乾燥させる。続いて、膜形成用組成物の性状に応じた適宜の方法で膜中の第一重合性化合物(A1)及び第二重合性化合物(A2)を重合させて膜を硬化させることで、硬化膜が作製される。このように硬化膜が作製される過程では、まず膜から有機溶媒(D)が除去されるに従って膜中で第一重合性化合物(A1)が第二重合性化合物(A2)から分離して膜の表面に向けて移動し、更に膜が硬化されることで、硬化膜の表面に第一重合性化合物(A1)に由来するイオン性官能基が偏在し、これにより硬化膜の表面に親水性が発現しやすくなると、推定される。なおこのとき、分散剤(C)は、第一重合性化合物(A1)よりも第二重合性化合物(A2)と親和性が高いため、第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)とが分離するときに、分散剤(C)と粒子(B)は、第二重合性化合物(A2)と一緒に、第一重合性化合物(A1)から分離しやすい。そのため、粒子(B)及び分散剤(C)は硬化膜内において硬化膜の表面から離れた位置に分布しやすい。
【0046】
硬化膜の厚みは、例えば3μm以上50μm以下であるが、これに制限されない。
【0047】
本実施形態に係る被覆部材は、基材と、基材を覆う被膜とを備える。被膜が上記の硬化膜であり、又は被膜の最外層が上記の硬化膜である。被覆部材は、硬化膜によって良好な意匠性を有することができ、かつこの硬化膜の表面には親水性が発現しやすい。
【0048】
基材の材質に制限はなく、例えば基材は木質材であってもよく、金属材であってもよく、セラミック材であってもよく、樹脂材であってもよい。基材が木質材である場合、被覆部材の表面の光沢が抑制されやすいことで、被覆部材が木質材による自然な質感を有しやすい。基材が木質材である場合、基材は無垢材であってもよく、合板であってもよく、パーティクルボードであってもよい。木質材は、例えば突板である。
【0049】
被膜は、硬化膜のみを含み、又は硬化膜を含む複数の層を含む。被膜が複数の層を含む場合、複数の層のうちの最外層が硬化膜である。このため、被覆部材において、硬化膜の表面が外部に露出している。
【0050】
被膜が複数の層を含む場合、被膜における、硬化膜と基材との間に介在し、かつ硬化膜に接する層(以下、下地膜ともいう)は、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつイオン性官能基を有さない重合性化合物(E)を含有する組成物の硬化物であることが好ましい。この場合、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。これは、下地膜と第二重合性化合物(A2)との親和性が高くなるとともに下地膜と第一重合性化合物(A1)との親和性が低くなり、そのため下地膜の上に硬化膜がされる過程で、下地膜の上に硬化性組成物の膜が形成されると、第一重合性化合物(A1)が下地膜から離れて膜の表面に移動しやすくなるためであると、推定される。
【0051】
重合性化合物(E)における1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は、3以上であればより好ましい。また、この(メタ)アクリロイル基の数は、例えば6以下である。
【0052】
重合性化合物(E)のSP値が11.3未満であることも好ましい。この場合、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。このSP値は、11.2以下であればより好ましい。また、このSP値は、例えば7以上である。
【0053】
重合性化合物(E)は、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリル化合物及び多官能ウレタン(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。なお、重合性化合物(E)が含有しうる成分は、前記のみには制限されない。
【0054】
下地膜の組成は、上記のみは制限されない。すなわち、例えば下地膜は、SP値が11.3以上の重合性化合物を含有する組成物の硬化物であってもよい。下地膜の厚みは、例えば50μm以上600μm以下である。
【0055】
本実施形態の被覆部材の用途に制限はない。被覆部材は、例えば建材、家具材、各種化粧材などに、適用できる。
【0056】
例えば、被覆部材を床材に適用できる。この場合、床材の表面は自然な外観を有し、かつこの表面に親水性が発現しやすい。
【実施例0057】
以下、本実施形態の、より具体的な実施例について説明する。なお、本実施形態は、下記の実施例のみには制限されない。
【0058】
1.膜形成用組成物の調製
表1に示す原料を混合して膜形成用組成物を調製した。原料の詳細は次のとおりである。なお、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレートは、本実施形態における分散剤には該当しないが、実施例との対比のため、便宜上、分散剤に分類している。
【0059】
(1)第一重合性化合物
-メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム:スルホン酸基を有する単官能アクリルモノマー。
【0060】
(2)第二重合性化合物
-ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:SP値10.4。多官能アクリルモノマー。
-U-6LPA:新中村化学工業株式会社製の品番U-6LPA。SP値11.2。多官能ウレタンアクリレートオリゴマー。
-A-NOD-N:新中村化学工業株式会社製の品番A-NOD-N。SP値9.4。二官能アクリルモノマー。
【0061】
(3)粒子
-MBX-12:積水化成品工業株式会社製の品番MBX-12。平均粒径12μmのポリメチルメタクリレート粒子。
【0062】
(4)分散剤
-ジペンタエリスリトールペンタアクリレートコハク酸変性物:SP値10.9。カルボキシル基を有する多官能アクリルモノマー(分散剤(C))。
-フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート:SP値11.9。カルボキシル基を有する単官能アクリルモノマー(分散剤(C)とは異なる化合物)。
【0063】
(5)開始剤
-H0091:光重合開始剤。東京化成工業株式会社製の品番H0091。
【0064】
(6)有機溶媒
-エチレングリコールモノメチルエーテル:両親媒性溶媒。SP値12.0。
【0065】
2.硬化膜の作製
100mm×100mm×2mmtの寸法の黒色の基材(住友化学株式会社製の品名スミペックスR)の上、膜形成用組成物をロールコータで塗布することで、15g/mの膜を形成した。膜に90℃の熱風を10分間吹き付けることで乾燥させた。続いて、メタルハライドランプから膜へピーク波長365nmの紫外線を積算光量300mJ/cmの条件で照射することで膜を硬化させ、硬化膜を作製した。
【0066】
3.評価
(1)親水性
30μLのイオン交換水の液滴を硬化膜の表面上に適下し、接触角計(協和界面科学株式会社製の型番DMo-701)を用いて、水の接触角を測定した。その結果を表1に示す。
【0067】
(2)安定性
三洋貿易株式会社が販売するタービスキャンを用い、透明容器に膜形成用組成物を入れた状態で、容器底部の後方光反射率を測定した。透明容器に膜形成用組成物を入れた直後の反射率と、透明容器に膜形成用組成物を入れてから20℃で6時間経過した時点での反射率とを測定し、これらから、反射率の差を算出した。その結果を表1に示す。反射率の差が大きいほど、粒子が凝集して沈降しやすいと評価できる。
【0068】
(3)外観
HORIBA IG-331光沢計を用い、計測光の入射角及び検出角をいずれも60°に設定して、硬化膜の光沢値を測定した。その結果、いずれの実施例及び比較例においても、光沢値が7から8%の範囲内であり、光沢が抑制されていた。
【0069】
【表1】
【0070】
これらの結果によると、比較例1では、第一重合性化合物及び第二重合性化合物が使用されているものの、分散剤が使用されていないために、硬化膜の表面は親水性を有するものの、膜形成用組成物の中で粒子が凝集して沈降しやすく、膜形成用組成物の貯蔵安定性が悪いと、評価できる。また、実施例1は、第一重合性化合物、第二重合性化合物及び分散剤が使用されているために、硬化膜の表面が親水性を有し、かつ膜形成用組成物の中で粒子が凝集しにくく、膜形成用組成物の貯蔵安定性に優れると、評価できる。また、比較例2は、分散剤が1分子中に一つのアクリロイル基しか有さないために、硬化膜の表面は親水性を有するものの、膜形成用組成物の中で粒子が凝集して沈降しやすく、膜形成用組成物の貯蔵安定性が悪いと、評価できる。また、比較例3は、比較例2よりも分散剤の量を増大しているために粒子の凝集は抑制されるが、第一重合性化合物と分散剤とが相溶しやすくなることで硬化膜の表面の親水性が低下してしまったものと評価できる。
【0071】
上記の実施形態及び実施例から明らかなように、本開示の第一の態様に係る膜形成用組成物は、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と、カルボキシル基及びカルボン酸塩基を除くイオン性官能基とを有する第一重合性化合物(A1)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつイオン性官能基を有さない第二重合性化合物(A2)と、粒子(B)と、1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する分散剤(C)とを、含有する。
【0072】
第一の態様によると、膜形成用組成物中で粒子(B)が凝集しにくく、かつ膜形成用組成物から硬化膜を作製すると硬化膜の表面が親水性を発現しやすい。
【0073】
本開示の第二の態様では、第一の態様において、第一重合性化合物(A1)における前記イオン性官能基は、スルホン酸基とスルホン酸塩基とのうち少なくとも一方を含む。
【0074】
第二の態様によれば、硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。
【0075】
本開示の第三の態様では、第一又は第二の態様において、粒子(B)の平均粒径は5μm以上20μm以下である。
【0076】
第四の態様によると、粒子(B)が特に良好に分散しやすく、かつ硬化膜の表面の光沢が効果的に抑制されやすい。
【0077】
本開示の第四の態様では、第一から第三のいずれか一の態様において、粒子(B)は、ポリメチルメタクリレート粒子を含有する。
【0078】
第四の態様によると、粒子(B)が、より分散されやすい。
【0079】
本開示の第五の態様では、第一から第四のいずれか一の態様において、分散剤(C)は、1分子中に1つのカルボキシル基を有する化合物(C1)を含有する。
【0080】
第五の態様によると、硬化膜の表面に親水性がより発現しやすい。
【0081】
本開示の第六の態様では、第一から第五のいずれか一の態様において、膜形成用組成物は、有機溶媒(D)を更に含有し、有機溶媒(D)のSP値は分散剤(C)よりも大きい。
【0082】
第六の態様によると、有機溶媒(D)が第一重合性化合物(A1)を溶解させやすいため、膜形成用組成物中では第一重合性化合物(A1)と第二の化合物(A2)とが分離しにくく、そのため膜形成用組成物の組成が安定しやすい。
【0083】
本開示の第七の態様では、第一から第六のいずれか一の態様において、第一重合性化合物(A1)と第二重合性化合物(A2)とのモル比は、1:1から1:40の範囲内である。
【0084】
第七の態様によると、硬化膜の表面が、親水性を、より発現しやすい。
【0085】
本開示の第八の態様では、第一から第七のいずれか一の態様において、膜形成用組成物中の固形分に対する粒子(B)の割合は、30質量%以上60質量%以下である。
【0086】
第八の態様によると、硬化膜の光沢が、より抑制されやすく、膜形成用組成物中で粒子(B)がより凝集しにくくなる。
【0087】
本開示の第九の態様では、第一から第八のいずれか一の態様において、第一重合性化合物(A1)と分散剤(C)とのモル比は、1:1から1:40の範囲内である。
【0088】
第九の態様によると、膜形成用組成物中で粒子(B)がより凝集しにくく、かつ硬化膜の表面に親水性が、より発現しやすい。
【0089】
本開示の第十の態様に係る硬化膜は、第一から第九のいずれか一の態様に係る膜形成用組成物の硬化物である。
【0090】
第十の態様によると、硬化膜の光沢が抑制されやすく、かつ硬化膜の表面に親水性が発現しやすい。
【0091】
本開示の第十一の態様に係る被覆部材は、基材と、基材を覆う被膜とを備える。被膜が第十の態様に係る硬化膜であり、又は被膜の最外層が硬化膜である。
【0092】
第十一の態様によると、被覆部材の表面の光沢が抑制されやすく、かつ被覆部材の表面に親水性が発現しやすい。
【0093】
本開示の第十二の態様では、第十一の態様において、基材は、木質材である。
【0094】
第十二の態様によると、被覆部材の表面の光沢が抑制されやすいことで被覆部材が木質材による自然な質感を有しやすい。
【0095】
本開示の第十三の態様では、第十一又は第十二の態様において、被覆部材が床材である。
【0096】
第十三の態様によると、床材の表面の光沢が抑制されやすく、かつ床材の表面に親水性が発現しやすい。