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特開2023-28166量子情報処理方法、古典コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラム
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  • 特開-量子情報処理方法、古典コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028166
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】量子情報処理方法、古典コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/00 20220101AFI20230224BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G06N10/00
G06F7/38 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133701
(22)【出願日】2021-08-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「光・量子を活用した Society 5.0 実現化技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】518253439
【氏名又は名称】株式会社QunaSys
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲田 昌也
(72)【発明者】
【氏名】今井 良輔
(72)【発明者】
【氏名】菅野 恵太
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕也
(57)【要約】
【課題】量子コンピュータを用いてオブザーバブルの期待値を効率的に得る。
【解決手段】古典コンピュータ110が、複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、量子コンピュータ120によって測定された複数の計算基底の各々の測定値を取得する。そして、古典コンピュータ110が、複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムのうちの古典コンピュータが実行する量子情報処理方法であって、
複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、
量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の各々の測定値を取得し、
複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、
重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
処理を古典コンピュータが実行する量子情報処理方法。
【請求項2】
前記N量子ビットの状態|ψ>は、複数の計算基底と複数の計算基底の各々に対する展開係数α(n=0,1,・・・,2-1)とに基づき、複数の展開係数αを重みとする計算基底の線形結合によって表現され、
前記期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する際に、R個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fと、計算基底|z>に対する展開係数αzr及び計算基底|zr’>に対する展開係数αzr’に基づき計算されるαzrα zr’と、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>とに基づいて、以下の式(A1)に従って、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
請求項1に記載の量子情報処理方法。
【数1】

(A1)
【請求項3】
古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムが実行する量子情報処理方法であって、
複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、
量子コンピュータが、複数の計算基底の各々を測定することにより、複数の計算基底の測定値を取得し、
古典コンピュータが、量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の測定値を取得し、
古典コンピュータが、複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、
古典コンピュータ又は量子コンピュータが、計算基底|z>と計算基底|zr’>との組み合わせ毎に複数の遷移行列要素<z|O|zr’>を計算し、
古典コンピュータが、重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
量子情報処理方法。
【請求項4】
以下の式(A2)によって表されるオブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を、以下の式(A1)を用いて近似計算する際に、
量子コンピュータが、N量子ビットの状態|ψ>を、以下の式(A3)に従って複数の展開係数αと複数の計算基底|n>(n=0,1,・・・,2-1)とによって表現する際の前記計算基底|n>の測定をL回繰り返すことにより、前記計算基底|n>の測定値の系列{x}=x(1),x(2),・・・,x(L)を取得し、
古典コンピュータが、前記測定値の系列{x}に基づいて、前記測定値の系列{x}のうちの、出現回数が多いR個の前記測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の前記測定値を選択し、R個の前記測定値の各々を高い順に並べた値{z}=z(1),z(2),・・・,z(R)を設定し、{z}に含まれる前記R個の測定値の出現回数T(r=1,・・・,R)を計算し、以下の式(A4)に従って、|αzrの近似値である重み係数fを計算し、
古典コンピュータ又は量子コンピュータが、前記{z}に基づいて、以下の式(A1)の遷移行列要素<z|O|zr’>(r=1,・・・,R;r’=1,・・・,R)を計算し、
量子コンピュータが、N量子ビットの状態|φA,r>に対する射影演算子|φA,r><φA,r|を測定することにより、前記射影演算子|φA,r><φA,r|の測定結果を取得し、N量子ビットの状態|φB,r>に対する射影演算子|φB,r><φB,r|を測定することにより、前記射影演算子|φB,r><φB,r|の測定結果を取得し、
古典コンピュータが、前記射影演算子|φA,r><φA,r|の測定結果に基づいて、前記射影演算子|φA,r><φA,r|の期待値Aを計算し、前記射影演算子|φB,r><φB,r|の測定結果に基づいて、前記射影演算子|φB,r><φB,r|の期待値Bを計算し、
古典コンピュータが、前記重み係数fと、前記期待値Aと、前記期待値Bとに基づいて、以下の式(A5)に従って、αz1αzr に相当する干渉重みgを近似計算し、前記重み係数fと、前記干渉重みgとに基づいて、以下の式(A6)に従って、αzrαzr’ を近似計算し、前記干渉重みgに相当する前記αz1αzr と、前記αzrαzr’ と、前記遷移行列要素<z|O|zr’>とに基づいて、以下の式(A1)に従って、前記期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
請求項3に記載の量子情報処理方法。
【数2】

(A1)

(A2)

(A3)

(A4)

(A5)


(A6)
【請求項5】
古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムのうちの古典コンピュータに実行させるための量子情報処理プログラムであって、
複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、
量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の各々の測定値を取得し、
複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、
重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
処理を古典コンピュータに実行させるための量子情報処理プログラム。
【請求項6】
古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムのうちの古典コンピュータであって、
複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、
量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の各々の測定値を取得し、
複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、
重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
古典コンピュータ。
【請求項7】
古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムであって、
複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、
量子コンピュータが、複数の計算基底の各々を測定することにより、複数の計算基底の測定値を取得し、
古典コンピュータが、量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の測定値を取得し、
古典コンピュータが、複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、
古典コンピュータ又は量子コンピュータが、計算基底|z>と計算基底|zr’>との組み合わせ毎に複数の遷移行列要素<z|O|zr’>を計算し、
古典コンピュータが、重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
ハイブリッドシステム。
【請求項8】
複数の古典コンピュータと複数の量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムであって、
複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、
複数の量子コンピュータのうちの1以上の量子コンピュータが、複数の計算基底の各々を測定することにより、複数の計算基底の測定値を取得し、
複数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータが、量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の測定値を取得し、
複数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータが、複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、
複数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータ又は複数の量子コンピュータのうちの1以上の量子コンピュータが、計算基底|z>と計算基底|zr’>との組み合わせ毎に複数の遷移行列要素<z|O|zr’>を計算し、
数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータが、重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、
ハイブリッドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、量子情報処理方法、古典コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
Noisy Intermediate-Scale Quantum(NISQ)デバイスを用いて量子計算を実行するための変分量子アルゴリズムが知られている(例えば、非特許文献1,2を参照)。変分量子アルゴリズムを実行するためには、観測対象の物理量(以下、単に「オブザーバブル」とも称する。)の期待値を量子コンピュータで計算する必要がある。
【0003】
量子コンピュータを用いてオブザーバブルの期待値を計算する際には、量子コンピュータによって状態が生成された後にその状態が測定される。そして、量子コンピュータによる状態の測定結果に基づきオブザーバブルの期待値が計算される。なお、量子コンピュータによる1回の状態の生成とそれに対する状態の測定とから構成される一連の処理は「ショット」とも称される。
【0004】
変分量子アルゴリズムを量子化学計算に適用する場合、状態の測定の統計揺らぎを十分小さくするために必要なショット数が過大となる場合がある。例えば、非特許文献3は、実際の分子のエネルギーを求める量子化学計算問題を考察し、量子化学分野で要求されるエネルギーの精度よりも統計揺らぎを小さくするためには膨大なショット数が必要であり、エネルギーの期待値を一回取得するだけで数日かかってしまうという結果を示している。このため、例えば、非特許文献4では、複数のパウリ演算子を同時に測定するなどして、全体でのショット数を減らすための試みがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Peruzzo, A., McClean, J., Shadbolt, P. et al. “A variational eigenvalue solver on a photonic quantum processor”. Nat Commun 5, 4213 (2014).
【非特許文献2】“Hybrid Quantum-Classical Algorithms and Quantum Error Mitigation”, Suguru Endo, Zhenyu Cai, Simon C. Benjamin, Xiao Yuan, Journal of the Physical Society of Japan, 90, 032001 (2021)
【非特許文献3】Gonthier, J. F., Radin, M. D., Buda, C., Doskocil, E. J., Abuan, C. M., and Romero, J. “Identifying challenges towards practical quantum advantage through resource estimation: the measurement roadblock in the variational quantum eigensolver”.
【非特許文献4】Rubin, N. C., Babbush, R., and McClean J., “Application of fermionic marginal constraints to hybrid quantum algorithms”. New J. Phys. 20, 053020 (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
開示の技術は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、量子コンピュータを用いてオブザーバブルの期待値を効率的に得ることができる、量子情報処理方法、古典コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本開示の一態様の量子情報処理方法は、古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムのうちの古典コンピュータが実行する量子情報処理方法であって、複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の各々の測定値を取得し、複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算し、重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する、処理を古典コンピュータが実行する量子情報処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、量子コンピュータを用いてオブザーバブルの期待値を効率的に得ることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態のハイブリッドシステム100の概略構成の一例を示す図である。
図2】古典コンピュータ110、制御装置121、及びユーザ端末130として機能するコンピュータの概略ブロック図である。
図3】本実施形態のハイブリッドシステム100が実行するシーケンスの一例を示す図である。
図4】本実施形態のハイブリッドシステム100が実行するシーケンスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して開示の技術の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
<実施形態に係るハイブリッドシステム100>
【0012】
図1に、実施形態に係るハイブリッドシステム100を示す。本実施形態のハイブリッドシステム100は、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120とユーザ端末130とを備える。古典コンピュータ110と量子コンピュータ120とユーザ端末130とは、図1に示されるように、一例としてInternet Protocol(IP)ネットワークなどのコンピュータネットワークを介して接続されている。
【0013】
本実施形態のハイブリッドシステム100においては、量子コンピュータ120が古典コンピュータ110からの要求に応じて所定の量子計算を行い、当該量子計算の計算結果を古典コンピュータ110へ出力する。古典コンピュータ110はユーザ端末130へ量子計算に応じた計算結果を出力する。これにより、ハイブリッドシステム100全体として所定の計算処理が実行される。
【0014】
古典コンピュータ110は、通信インターフェース等の通信部111と、プロセッサ、CPU(Central processing unit)等の処理部112と、メモリ、ハードディスク等の記憶装置又は記憶媒体を含む情報記憶部113とを備え、各処理を行うためのプログラムを実行することによって構成されている。なお、古典コンピュータ110は1又は複数の装置ないしサーバを含むことがある。また、当該プログラムは1又は複数のプログラムを含むことがあり、また、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録して非一過性のプログラムプロダクトとすることできる。
【0015】
量子コンピュータ120は、一例として、古典コンピュータ110から送信される情報に基づいて量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射するための電磁波を生成する。そして、量子コンピュータ120は、生成された電磁波を、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射することにより、量子回路を実行する。
【0016】
図1の例では、量子コンピュータ120は、古典コンピュータ110と通信を行う制御装置121と、制御装置121からの要求に応じて電磁波を生成する電磁波生成装置122と、電磁波生成装置122からの電磁波照射を受ける量子ビット群123とを備える。量子コンピュータ120のうちの電磁波生成装置122及び量子ビット群123は、QPU(Quantum processing unit)でもある。なお、本実施形態において「量子コンピュータ」とは、古典ビットによる演算を一切行わないことを意味するものではなく、量子ビットによる演算を含むコンピュータをいう。
【0017】
制御装置121は、古典ビットにより演算を行う古典コンピュータであり、古典コンピュータ110において行うものとして本明細書にて説明する処理の一部又は全部を代替的に行う。例えば、制御装置121は、量子回路を予め記憶又は決定しておき、量子回路U(θ)のパラメータθを受信したことに応じて、量子ビット群123において量子回路U(θ)を実行するための量子ゲート情報を生成してもよい。
【0018】
ユーザ端末130は、古典ビットにより演算を行う古典コンピュータである。ユーザ端末130は、ユーザから入力された情報を受け付け、当該情報に応じた処理を実行する。
【0019】
古典コンピュータ110、制御装置121、及びユーザ端末130は、例えば、図2に示すコンピュータ50で実現することができる。コンピュータ50はCentral processing unit(CPU)51、一時記憶領域としてのメモリ52、及び不揮発性の記憶部53を備える。また、コンピュータ50は、外部装置及び出力装置等が接続される入出力interface(I/F)54、及び記録媒体に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するread/write(R/W)部55を備える。また、コンピュータ50は、インターネット等のネットワークに接続されるネットワークI/F56を備える。CPU51、メモリ52、記憶部53、入出力I/F54、R/W部55、及びネットワークI/F56は、バス57を介して互いに接続される。
【0020】
実施形態のハイブリッドシステム100は、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を効率的に計算する。以下、実施形態のハイブリッドシステム100が実行する処理の前提事項について説明する。
【0021】
[1.問題設定と背景]
【0022】
量子コンピュータ上に生成されたN量子ビットの状態|ψ>を考える。なお、状態|ψ>は2のN乗個の成分を持つ縦ベクトルである。本実施形態では、特定の量子回路Uを用いて|ψ>=U|0>と表すことが可能であり、量子コンピュータ上において状態|ψ>を繰り返し生成することが可能であるものとする。なお、|0>は初期化されたN量子ビットの状態を表す。
【0023】
本実施形態のハイブリッドシステム100が実行する量子情報処理方法は、以下の式(1)に示される、オブザーバブルOの期待値を量子コンピュータ上で効率的に測定するための方法である。
【0024】
【数1】

(1)
【0025】
[2.従来の期待値の測定方法と課題]
【0026】
オブザーバブルOの期待値の従来の測定方法は、以下のステップにより構成される。
【0027】
(1)オブザーバブルOのパウリ演算子への分解
N量子ビット上のオブザーバブルOは、以下のパウリ演算子の線形結合により表現される。
【0028】
【数2】
【0029】
オブザーバブルOは、以下の式(2)に示されるように、パウリ演算子Pの線形結合によって表現される。
【0030】
【数3】

(2)
【0031】
ここで、I,X,Y,Zは恒等演算子と1量子ビットのパウリ行列である。また、上記式(2)におけるcは展開係数であり、Mはパウリ演算子の総数である。上記式(2)に基づくと、演算子であるオブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>は、以下の式(3)によって表される。
【0032】
【数4】

(3)
【0033】
(2)パウリ演算子の期待値の測定
次に、量子コンピュータによって上記式(3)の右辺の各項<ψ|P|ψ>が測定される。<ψ|P|ψ>はパウリ演算子の期待値である。パウリ演算子の期待値<ψ|P|ψ>は、量子コンピュータにおける標準的な測定操作によって得られる。具体的には、状態|ψ>を量子コンピュータ上に1回生成し、パウリ演算子Pに応じた測定操作が行われると、+1及び-1の何れかの結果が確率的に得られる。なお、その確率は|ψ>とPとの組み合わせによって決定される。
【0034】
状態をl回生成して得られたl個の測定結果の平均が、期待値<ψ|P|ψ>として利用される。なお、l個の測定結果の各々は+1及び-1の何れかの値である。
【0035】
例えば、状態が100回生成され、+1が30回得られ、-1が70回得られた場合には、その期待値は(30-70)/100=-0.4と推定される。
【0036】
なお、測定結果は確率的であるため、推定された期待値<ψ|P|ψ>には統計揺らぎが存在する。この統計揺らぎは、+1又は-1を得るための試行回数lに対して1/√lで小さくなる。なお、上述したように、量子コンピュータの分野では、状態を生成して測定を行うという一連の処理は「ショット」とも称される。このため、以下では、lを単に「ショット数」とも称する。
【0037】
(3)パウリ演算子の期待値の加算処理
次に、上記(2)で得られた期待値<ψ|P|ψ>の値に基づいて、上記式(3)が計算されることにより、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>が計算される。
【0038】
このように、NISQデバイスはオブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を直接測定することはできないものの、パウリ演算子の期待値<ψ|P|ψ>は容易に測定可能であるため、パウリ演算子の期待値<ψ|P|ψ>に基づきオブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>が計算される。
【0039】
[3.課題]
NISQデバイスを用いて量子化学計算を実行する際に変分量子アルゴリズムを用いる場合、測定の統計揺らぎを十分小さくするのに必要なショット数の総和l+・・・+lが過大となる場合が多い。この場合には、現実的な時間内に量子化学計算が終了しない、という場合がある。特に、量子ビット数Nが大きな系では、非常に多く(M=O(N)個)のパウリ演算子の期待値を測定する必要がある。そこで、本実施形態では、オブザーバブルOの期待値を効率的に計算する方法を提案する。
【0040】
[4.本実施形態の期待値の測定方法]
オブザーバブルOの状態|ψ>による期待値は、以下の式(4)によって表される。
【0041】
【数5】

(4)
【0042】
一般に、状態|ψ>は完全系に属する基底ベクトルの線形結合として表される。完全系の候補としては様々な可能性があるが、以下では、議論を具体的に進めるために完全系として計算基底|n>(n=0,1,・・・,2-1)を用いる。状態|ψ>は、計算基底|n>により以下の式(5)のように展開される。
【0043】
【数6】

(5)
【0044】
ここで、展開係数αは、状態|ψ>と計算基底|n>との内積により計算される複素数である。
【0045】
【数7】

(6)
【0046】
上記式(6)におけるαは確率振幅とも称され、その絶対値の2乗である|αは確率を表す。このため、状態|ψ>が量子コンピュータ上に用意され、その状態|ψ>に対して標準的な測定操作が行われた場合、測定結果としてn=0,1,・・・,2-1の何れかの値が確率的に得られる。そして|αは測定結果がある特定の値nとなる確率を表す。
【0047】
なお、逆に、量子コンピュータ上に状態|ψ>を用意して計算基底|n>へ射影測定する、というような操作を繰り返すことにより測定結果nの頻度分布が得られ、その頻度分布から真の確率である|αの値を推定することが可能となる。
【0048】
ここで、状態|ψ>に付随する量である確率振幅αを用いて、期待値<ψ|O|ψ>を書き直すことができる。計算基底|n>(n=0,1,・・・,2-1)が完全系を成すことを表す次式を用いた場合、以下の式(7)が導出される。
【0049】
【数8】


(7)
【0050】
なお、上記式(7)の最終行においては、α=0又はα=0となる項は含まれないものとする。上記式(7)は、|α|αを重みとして、<m|O|n>/(αα )を足し上げることにより、オブザーバブルOの状態|ψ>での期待値が得られることを意味する。以下で説明するように、<m|O|n>は古典コンピュータによって効率的に計算することが可能である。また、αα は量子コンピュータを用いて測定することが可能である。このため、量子コンピュータを用いて測定された|α及びαα と、古典コンピュータを用いて計算された<m|O|n>とを組み合わせることにより、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>が得られる。
【0051】
具体的には、計算基底|n>と計算基底|m>との組み合わせに対応する遷移行列要素<m|O|n>は、上記式(2)で与えられたオブザーバブルOのパウリ演算子Pによる分解により、次式のように展開される。
【0052】
【数9】
【0053】
上記式における<m|P|n>は古典コンピュータによって効率良く計算可能である。なお、古典コンピュータによって効率良く計算可能とは、量子ビット数に対して線形時間で計算可能であることを意味する。そして、遷移行列要素<m|O|n>は、古典コンピュータにより計算された<m|P|n>を足し合わせることにより得られる。
【0054】
次に、αα について説明する。m=nの場合、αα =|αとなるため、前述したように|ψ>の計算基底|n>でのサンプリングによって量子コンピュータを用いて測定することが可能となる。一方、m≠nの場合には、量子コンピュータ上での別の測定操作が必要となる。この点について説明するためには、以下の変換が必要となる。
【0055】
【数10】


(8)
【0056】
ここで、Am,n,Bm,nは次式によって表される。
【0057】
【数11】

(9)
【0058】
なお、Am,n,Bm,nは、射影測定によって量子コンピュータを用いて推定することが可能である。このため、Am,n,Bm,nと別に測定された重み|αとを組み合わせることにより、αα の値を計算することが可能となる。
【0059】
一般には、αα が複素位相を持つため、上記式(7)の和において、異なる項が打ち消し合ったり強め合ったりする。このため、以下では、αα を「干渉重み」と称する。
【0060】
上述のようにして得られた、|α、Am,n,Bm,n、及び<m|O|n>の値を組み合わせることにより、以下の式(10)に従って期待値<ψ|O|ψ>が計算される。
【0061】
【数12】

(10)
【0062】
なお、2×2個の指数的に大きな数の項を足し上げることになるため、計算コスト上の困難が生じるようにも思われる。しかしながら、量子化学計算等の解きたい問題の種類によっては、経験的に足し上げるべき項の数は大きく減少することがわかる。
【0063】
例えば、量子化学の問題では、基底状態又は低エネルギー励起状態等のようなハミルトニアンの固有状態での期待値計算を行う場合が多く、そういった状態は多くの系においてHartree-Fock状態に相当する確率振幅が主要であり、他の成分が相対的に小さいことが知られている。
【0064】
また、対象とする系における保存量の存在(例えば、電子数の保存及びスピンの保存等)等から固有状態は基底全体のうち限られた部分にしか有限の振幅を持たないことが数理的にわかっている。このため、重み|αはnに関して特定の要素でのみ有意な値を持ち、その他の要素では零又は量子コンピュータでの期待値の推定において統計的に無視できるほど小さい値である。そのため、m,nについての和を取る際には、はじめからそのような基底は無視することができる。したがって、無視できない重みを与えるような、ある特定の計算基底のペア(m,n)に対してのみ、遷移行列要素<m|O|n>を評価すれば良いことになる。
【0065】
また、そのようなペア(m,n)に対して干渉重みαα を求める際、さらにその一部の(m,n)に対してのAm,n,Bm,nを測定すれば十分であることがわかる。
【0066】
このことを確認するために、任意のl(ただし、α≠0)に対して成り立つ以下の恒等式(11)を考える。
【0067】
【数13】

(11)
【0068】
上記式(11)において、例えばl=0とすると、干渉重みαα 及び重み|αの値が既知であれば、他の全ての干渉重みαα の値を上記式(11)から得ることができる。したがって、αα の値を上記式(8)により求めるために、A0,n,B0,nの測定さえしておけば、それ以外のAm,n,Bm,nについての測定は不要であることがわかる。
【0069】
上述した点を纏めると、本実施形態では、状態|ψ>の確率振幅α(n=0,1,・・・,2-1)を用いて、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を次式によって表す。
【0070】
【数14】
【0071】
そして、本実施形態では、量子コンピュータによって測定された重み|α及び干渉重みαα と、古典コンピュータによって計算された<m|O|n>とを組み合わせることにより、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する。
【0072】
なお、その際には、本方法の重要な応用対象である量子化学の問題においては、多くの興味ある場合において状態|ψ>が計算基底|n>に関して偏りを持つため、重み|αがある限られたnについてのみゼロではない有意な値を取るという洞察を行い、上記式(10)の和で足し上げるべき項の数が大きく減少することを特定した。
【0073】
[提案方法の従来方法に対する優位性]
【0074】
本実施形態では、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を測定する際に、オブザーバブルOをパウリ演算子Pで展開して測定することに代えて、状態|ψ>の計算基底|n>(n=0,1,・・・,2-1)での展開を行い、「多数のパウリ演算子の測定」の問題を回避した。これにより、本実施形態ではA0,n,B0,n等の測定が必要となるものの、量子化学計算でしばしば現れる偏った状態|ψ>に対しては、重み|αが有意な値を取るようなある特定(以下R個とする)の計算基底|n>だけを考慮すれば良いため、測定すべき量の数が比較的少数で済む。
【0075】
このため、本実施形態の方法を用いる場合、量子コンピュータ上での測定は以下のようになる。
【0076】
(1)状態|ψ>の計算基底|n>でのサンプリングを繰り返すことにより、重み|αを測定する。
(2)ある特定のnに対してA0,nを測定する。nに応じてR-1種類の測定が必要となる。
(3)ある特定のnに対してB0,nを測定する。nに応じてR-1種類の測定が必要となる。
【0077】
このため、本実施形態の方法によれば、合計で1+2(R-1)種類の測定が必要となる。これに対し、従来手法では、オブザーバブルOの展開において出現するパウリ演算子の個数に対応してM種類の測定が必要である。量子化学のハミルトニアンを考えるとパウリ演算子の数がM=O(N)と非常に大きいのに対して、本実施形態の方法ではRがこれよりもはるかに小さいことが経験的にわかっているため、必要な測定の種類も大きく減少することになる。したがって、ハミルトニアンHの期待値<ψ|H|ψ>を測定する際には、統計揺らぎを十分小さくするために必要なショット数の総和も大きく減少させることができる。
【0078】
[本方法に対応するアルゴリズムの説明]
【0079】
本実施形態のハイブリッドシステム100が実行するアルゴリズムの全体の流れは以下の通りである。
【0080】
1.量子コンピュータ120が、N量子ビットの状態|ψ>を生成する。そして、量子コンピュータ120が、状態|ψ>を計算基底|n>でサンプリングをし、その測定値として0,1,・・・,の何れかの値を得る。量子コンピュータ120は、状態|ψ>の生成と計算基底|n>の測定とをL回繰り返すことにより、測定値の系列{x}=x(1),x(2),・・・,x(L)を得る。
【0081】
2.古典コンピュータ110が、測定値の系列{x}から出現頻度の高いR個の測定値を選択する。なお、古典コンピュータ110は、測定値の系列{x}から出現頻度が所定値以上であるR個の測定値を選択するようにしてもよい。次に、古典コンピュータ110が、選択したR個の測定値の各々に基づいて、出現頻度が高い順に並べた値の系列{z}=z(1),z(2),・・・,z(R)を設定する。次に、古典コンピュータ110が、{z}に含まれるR個の測定値の出現回数T(r=1,・・・,R)を計算する。そして、古典コンピュータ110が、以下の式(12)に従って、重み係数fを計算する。
【0082】
【数15】

(12)
【0083】
なお、以下の式に示されるように、重み係数fは、上記式(10)に現れる重み|αの近似値でもある。
【0084】
【数16】
【0085】
3.古典コンピュータ110が、{z}に基づいて、遷移行列要素<z|O|zr’>(r=1,・・・,R;r’=1,・・・,R)を計算する。
【0086】
4.量子コンピュータ120が、N量子ビットの状態|φA,r>に対する射影演算子|φA,r><φA,r|を測定することにより、射影演算子|φA,r><φA,r|の測定結果を取得する。古典コンピュータ110が、射影演算子|φA,r><φA,r|の測定結果に基づいて、射影演算子|φA,r><φA,r|の期待値A(r=2,・・・,R)を計算する。なお、状態|φA,r>は次式によって表される。また、各rについてL’回の測定が行われる。
【0087】
【数17】
【0088】
5.量子コンピュータ120が、N量子ビットの状態|φB,r>に対する射影演算子|φB,r><φB,r|を測定することにより、射影演算子|φB,r><φB,r|の測定結果を取得する。古典コンピュータ110が、射影演算子|φB,r><φB,r|の測定結果に基づいて、射影演算子|φB,r><φB,r|の期待値B(r=2,・・・,R)を計算する。なお、状態|φB,r>は次式によって表される。また、各rについてL’’回の測定が行われる。
【0089】
【数18】
【0090】
6.古典コンピュータ110が、重み係数f(r=1,・・・,R)と、期待値A(r=2,・・・,R)と、期待値B(r=2,・・・,R)とを組み合わせることにより、以下の式(13)に従って、干渉重みgを近似計算する。
【0091】
【数19】

(13)
【0092】
なお、干渉重みgは次式によっても表される。
【0093】
【数20】
【0094】
古典コンピュータ110が、上記式(11)から得られる次式に従って、干渉重みの他の成分αzrαzr’ を計算する。
【0095】
【数21】

【0096】
7.古典コンピュータ110が、干渉重みgに相当するαz1αzr と、干渉重みの他の成分αzrαzr’ と、<z|O|zr’>とに基づいて、以下の式(14)に従って、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する。
【0097】
【数22】

(14)
【0098】
[量子コンピュータを用いて射影演算子の期待値を推定する方法]
【0099】
次に、量子コンピュータを用いて射影演算子の期待値を推定する方法について説明する。射影演算子とは、P=Pを満たすような線形演算子である。特に、PがP=|φ><φ|であるとき、Pを状態|φ>に対する射影演算子であるという。射影演算子Pの状態|ψ>での期待値は、以下の式(15)によって表される。
【0100】
【数23】

(15)
【0101】
以下では、上記式(15)における確率pを推定する方法を説明する。
まず、状態|φ>を計算基底の単一成分で表される状態|n>へ変換する量子回路Uを用意する。なお、N量子ビットの任意の量子状態|Φ>は計算基底|k>(k=0,1,・・・,2-1)を用いて、以下の式(16)によって表される。
【0102】
【数24】

(16)
【0103】
ここで、|φ>が計算基底の単一の成分のみで表せるとは、上記式(16)におけるα,α,・・・のうち1つだけが1であり、他は全て0という意味である。状態|φ>と状態|n>と量子回路Uとは、以下の式(17)によって表される。
【0104】
【数25】

(17)
【0105】
このような量子回路Uは存在し得る。仮に状態|φ>がはじめから|n>のように計算基底の単一成分で表されている場合には変換の必要が無く、何もしない回路(U=I)を考えればよい。確率pの定義である上記式(15)と上記式(17)とを組み合わせることにより、以下の式(18)が得られる。
【0106】
【数26】

(18)
【0107】
計算基底が量子ビットごとのZ演算子の同時固有状態であることと、量子論の原理(例えば、Bornの規則)とにより、確率pは状態U|ψ>上で量子ビットをZ基底で測定したとき測定結果nとなる確率であることがわかる。
【0108】
この確率の推定は次のように行われる。まず、状態|ψ>が生成される。そして、その状態に量子回路Uを作用させる。最後に、Z基底よる測定が行われ測定結果が得られる。ここまでを一連の処理とし、この処理をl回繰り返すことにより測定結果が収集される。そして、l個の測定のうち結果nを得た回数l’が求められ、その比l’/lがpの推定値とされる。なお、計算基底の2成分のみで表される状態|φ>は、以下の式(19)によって表される。
【0109】
【数27】

(19)
【0110】
本実施形態の方法においては、上記式(19)における状態|φ>に対する射影演算子の期待値を推定する場面が多い。そのような場合には、以下の式(20)で表される量子回路Uを用意するのが好ましい。
【0111】
【数28】

(20)
【0112】
上記式(20)が表すような作用をする量子回路の構成法は一意ではないが、様々な手法によって構成することが可能である。
【0113】
[実施形態のハイブリッドシステム100の動作]
【0114】
次に、実施形態のハイブリッドシステム100の具体的な動作について説明する。ハイブリッドシステム100の各装置において、図3及び図4に示される各処理が実行される。
【0115】
ハイブリッドシステム100は、以下の式(A1)によって表されるオブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を、以下の式(A2)を用いて近似計算する。
【0116】
【数29】

(A1)

(A2)
【0117】
なお、N量子ビットの状態|ψ>は、以下の式(A3)に従って、複数の展開係数αと複数の計算基底|n>(n=0,1,・・・,2-1)とによって表現される。具体的には、複数の計算基底|n>の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される。
【0118】
【数30】

(A3)
【0119】
まず、ステップS100において、ユーザ端末130は、ユーザから入力された、計算対象に関する情報である計算対象情報と、計算方法に関する情報である計算方法情報とを、古典コンピュータ110へ送信する。
【0120】
計算対象情報には、例えば、計算対象の物理量に対応するオブザーバブルOに関する情報等が含まれている。計算方法情報には、例えば、量子回路に関する情報、及び測定ショット数に関する情報等が含まれている。なお、量子回路に関する情報には、後述する重み係数fを計算するために用いられる、状態|ψ>を生成する量子回路Uの構造に関する情報、後述する干渉重み係数gを計算するために用いられる量子回路Uの構造に関する情報等が含まれている。また、測定ショット数に関する情報には、後述する計算基底|n>の測定回数を表すLと、後述する射影演算子の期待値を計算するための測定回数を表すL’及びL’’とが含まれている。
【0121】
次に、ステップS102において、古典コンピュータ110は、ユーザ端末130から送信された計算対象情報及び計算方法情報を受信する。そして、ステップS102において、古典コンピュータ110は、計算方法情報のうちの量子回路Uの構造に関する情報に基づいて、量子回路Uの構造を決定する。また、ステップS102において、古典コンピュータ110は、計算方法情報のうちの計算基底|n>の測定回数を表すLに基づいて、測定ショット数を決定する。
【0122】
ステップS104において、古典コンピュータ110は、量子計算に必要な各種情報を量子コンピュータ120へ送信する。具体的には、古典コンピュータ110は、ステップS102で決定された量子回路Uの構造及び測定ショット数と、ステップS102で受信した計算方法情報及び計算対象情報とを、量子コンピュータ120へ送信する。
【0123】
ステップS106において、制御装置121は、ステップS104で古典コンピュータ110から送信された各種情報を受信する。
【0124】
ステップS108において、制御装置121は、ステップS106で受信した各種情報に応じた量子計算を量子コンピュータ120に実行させる。量子コンピュータ120は、制御装置121による制御に応じて、上記式(A3)の計算基底|n>の測定をL回繰り返すことにより、計算基底|n>の測定値の系列{x}=x(1),x(2),・・・,x(L)を取得する。
【0125】
具体的には、量子コンピュータ120は、制御装置121の制御に応じて、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射するための電磁波を生成する。そして、量子コンピュータ120は、生成された電磁波を、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射し、状態|ψ>を生成する量子回路Uを実行する。量子回路Uに含まれる各量子ゲートのゲート操作は対応する電磁波波形へと変換され、生成された電磁波が電磁波生成装置122によって量子ビット群123に照射される。そして、量子コンピュータ120は、測定により得られた測定結果を出力する。
【0126】
ステップS110において、制御装置121は、ステップS108で得られた測定結果を、古典コンピュータ110へ送信する。
【0127】
ステップS112において、古典コンピュータ110は、ステップS110で制御装置121から送信された測定結果を受信する。次に、古典コンピュータ110は、測定結果である計算基底|n>の測定値の系列{x}=x(1),x(2),・・・,x(L)に基づいて、測定値の系列{x}のうちの、出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択する。
【0128】
また、ステップS112において、古典コンピュータ110は、R個の測定値の各々を高い順に並べた値{z}=z(1),z(2),・・・,z(R)を設定する。次に、古典コンピュータ110は、{z}に含まれるR個の測定値の出現回数T(r=1,・・・,R)を計算する。そして、古典コンピュータ110は、以下の式(A4)に従って、上記式(A1)の|αzrを近似した値である重み係数fを計算する。
【0129】
【数31】

(A4)
【0130】
ステップS114において、古典コンピュータ110は、ステップS112で設定された{z}に基づいて、上記式(A2)の、計算基底|z>と計算基底|zr’>との組み合わせ毎の複数の遷移行列要素<z|O|zr’>(r=1,・・・,R;r’=1,・・・,R)を計算する。
【0131】
ステップS116において、古典コンピュータ110は、計算方法情報のうちの量子回路Uの構造に関する情報に基づいて、量子回路Uの構造を決定する。また、ステップS116において、古典コンピュータ110は、計算方法情報のうちの射影演算子の期待値を計算するための測定回数を表すL’及びL’’に基づいて、測定ショット数を決定する。
【0132】
図4に示すステップS118において、古典コンピュータ110は、量子計算に必要な各種情報を量子コンピュータ120へ送信する。具体的には、古典コンピュータ110は、ステップS116で決定された量子回路Uの構造及び測定ショット数と、N量子ビットの状態|φA,r>に対する射影演算子|φA,r><φA,r|に関する情報、及びN量子ビットの状態|φB,r>に対する射影演算子|φB,r><φB,r|に関する情報とを、量子コンピュータ120へ送信する。なお、量子回路Uは、射影演算子|φA,r><φA,r|の期待値と射影演算子|φB,r><φB,r|の期待値を得るための量子回路である。なお、これらの量子回路に関しては、Aに関してr毎に量子回路が必要であり、Bに関してr毎に量子回路が必要である。このため、2(R-1)種類の量子回路が必要となる。
【0133】
ステップS120において、制御装置121は、ステップS118で古典コンピュータ110から送信された各種情報を受信する。
【0134】
ステップS122において、制御装置121は、ステップS120で受信した各種情報に応じた量子計算を量子コンピュータ120に実行させる。量子コンピュータ120は、制御装置121による制御に応じて、射影演算子|φA,r><φA,r|の測定をL’回繰り返すことにより、射影演算子|φA,r><φA,r|の測定結果を取得する。また、量子コンピュータ120は、制御装置121による制御に応じて、射影演算子|φB,r><φB,r|の測定をL’’回繰り返すことにより、射影演算子|φB,r><φB,r|の測定結果を取得する。
【0135】
具体的には、量子コンピュータ120は、制御装置121の制御に応じて、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射するための電磁波を生成する。そして、量子コンピュータ120は、生成された電磁波を、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射し、量子回路Uを実行する。量子回路Uに含まれる各量子ゲートのゲート操作は対応する電磁波波形へと変換され、生成された電磁波が電磁波生成装置122によって量子ビット群123に照射される。そして、量子コンピュータ120は、測定により得られた測定結果を出力する。
【0136】
ステップS124において、制御装置121は、ステップS122で得られた測定結果を、古典コンピュータ110へ送信する。
【0137】
ステップS126において、古典コンピュータ110は、ステップS124で制御装置121から送信された測定結果を受信する。次に、古典コンピュータ110は、射影演算子|φA,r><φA,r|の測定結果に基づいて、射影演算子|φA,r><φA,r|の期待値Aを計算する。また、古典コンピュータ110は、射影演算子|φB,r><φB,r|の測定結果に基づいて、射影演算子|φB,r><φB,r|の期待値Bを計算する。
【0138】
ステップS128において、古典コンピュータ110は、ステップS112で計算された重み係数fと、ステップS126で計算された期待値A及び期待値Bとに基づいて、以下の式(A5)に従って、上記式(A2)のαz1αzr に相当する干渉重みgを近似計算する。
【0139】
【数32】

(A5)
【0140】
ステップS130において、古典コンピュータ110は、ステップS112で計算された重み係数fと、ステップS128で計算された干渉重みgとに基づいて、以下の式(A6)に従って、干渉重みの他の成分αzrαzr’ を近似計算する。
【0141】
【数33】


(A6)
【0142】
ステップS132において、古典コンピュータ110は、ステップS128で計算された干渉重みgに相当するαz1αzr と、ステップS130で計算されたαzrαzr’ と、ステップS114で計算された<z|O|zr’>とに基づいて、上記式(A2)に従って、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する。
【0143】
ステップS134において、古典コンピュータ110は、ステップS132で得られた計算結果であるオブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>をユーザ端末130へ送信する。
【0144】
ステップS136において、ユーザ端末130は、古典コンピュータ110から送信された計算結果を受信する。
【0145】
以上説明したように、実施形態のハイブリッドシステムのうちの古典コンピュータは、複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合に、量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の各々の測定値を取得する。そして、古典コンピュータは、複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算する。そして、古典コンピュータは、重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する。これにより、量子コンピュータを用いてオブザーバブルOの期待値を効率的に得ることができる。
【0146】
また、古典コンピュータと量子コンピュータとの間の適切な役割分担により、オブザーバブルOの期待値を効率的に得ることができる。
【実施例0147】
次に、実施例について説明する。本実施例では、量子化学計算の問題を例に取り、本実施形態の手法と従来手法の数値的な比較結果を示す。具体的には、様々な分子のハミルトニアンHとその基底状態|ψ>を用いて、期待値<ψ|H|ψ>の測定における統計揺らぎの大きさを理論的に評価し(後述する手法を参照)、統計揺らぎを量子化学で要求される精度(10-3Hartree)以下にするために必要なショット数の総和を、二つの手法に対して求めた。その結果を以下の表1に示す。量子ビット数の小さなHに対しては総ショット数をわずかに削減するが、LiHやHOにおいては、本手法により総ショット数が大幅に削減されることが分かる。
【0148】
なお、Rは、本手法の上記式(14)の和において含まれる有意な計算基底の数であるが、具体的には、以下の不等式(21)を満たすような最小の自然数Rの値として数値的に求めた。
【0149】
【数34】

(21)
【0150】
上記式(21)に示されるようなRを用いると、本手法で求められたエネルギー期待値(EIS)は、FCI法により求められる厳密値(EFCI)を量子化学で要求される精度(両者のズレが10-3 Hartree 以下)で再現されることを確かめた。
【0151】
【表1】
【0152】
上記表には、様々な分子のハミルトニアンHの基底状態|ψ>での期待値<ψ|H|ψ>の測定における統計揺らぎの大きさを10-3Hartree以下にするために必要なショット数の総和が示されている。各分子に対して、Nは量子ビット数、Mはハミルトニアンに含まれるパウリ演算子の総数である。Rは、本手法の和の上記式(14)で含めた有意な計算基底の数である。
【0153】
IS-EFCIは本手法で求めたエネルギー期待値(EIS)とFCI法で求めた厳密な値(EFCI)との差(単位はHartree)である。EFCIを求めるのに量子化学計算ソフトウェアのPySCFを使用した。この計算を実施する際には既知のSTO―3G基底関数を使用した。
【0154】
[オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>の測定における統計誤差の見積もり]
オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>の測定値には、統計的な揺らぎが生じる。ここでは、ショット数に対する揺らぎの大きさの理論的な見積もりについて説明する。
【0155】
本方式において必要となる測定は、|ψ>の|n>への射影測定L回、A(r=2,・・・,R)を得るためのそれぞれL’回の測定、B(r=2,・・・,R)を得るためのそれぞれL’’回の測定である。各々の測定由来の統計誤差を定量化した後、誤差伝播公式により期待値<ψ|O|ψ>の統計誤差を導出する。
【0156】
[|ψ>の|n>への射影測定]
|ψ>を|n>(n=0,1,...,2-1)でL回射影測定したとする。このとき、|n>がl回出現したとする。一度の測定において|n>が出現する確率は、p=|<n|ψ>|である。各nの出現回数l,l,...,ln_max(n_max=2-1)を確率変数とみなすと、その確率分布は以下の多項分布で与えられる。
【0157】
【数35】
【0158】
は実際に観測される値であるが、これに対応する確率変数をLと表すことにする。その期待値と分散は次式によって表される。
【0159】
【数36】
【0160】
なお、Lに関しては以下の制限がある。
【0161】
【数37】
【0162】
このため、LとL(n≠m)の共分散がノンゼロになる。
【0163】
【数38】
【0164】
なお、p=|<n|ψ>|の推定量を次式とすると、その分散と共分散は以下の式で与えられる。
【0165】
【数39】

【0166】
観測された|n>の出現回数lを用いることにより、pの推定値としてp=l/Lが得られるが、その標準偏差は以下で与えられる。
【0167】
【数40】
【0168】
上述したように、以下の式を導入したが、これは以下のpの近似を与える。
【0169】
【数41】

【0170】
したがって、fの統計誤差を以下で近似することができる。
【0171】
【数42】

(22)
【0172】
また、共分散についても同様に、以下で近似することができる。
【0173】
【数43】

(23)
【0174】
(AとBの測定)
まず、以下の測定について考える。
【0175】
【数44】
【0176】
各rについて、状態|ψ>のとある基底(およびこれと正規直交な基底のセット)での射影測定を繰り返すことによりAを推定することができる。なお、状態|ψ>のとある基底というのは、次式によって表される。
【0177】
【数45】
【0178】
各々の測定結果は、上記基底が出るかそれ以外かの二択であるため、上記基底が出現する回数は二項分布により記述される。L’回の測定が行われ、上記基底がl’回出現したとすると、Aの推定値はA=l’/L’で与えられる。また、その標準偏差は、次式によって表される。
【0179】
【数46】

(24)
【0180】
各rについて独立な測定を行う必要があるため、共分散はゼロである。次式によって表されるBに対しても同様に測定および推定を行うことができる。
【0181】
【数47】
【0182】
各rについてL’’回測定を行ったとすると、Bの標準偏差は次式によって表される。
【0183】
【数48】

(25)
【0184】
[<O>の統計誤差]
上記式(14)により以下の期待値<O>の推定量を構成したが、この量は測定量fr(r=1,...,R)、A、B(r=2,...,R)の関数とみなすこともできる。
【0185】
【数49】
【0186】
したがって、誤差伝搬の公式を適用することにより、<O>の統計誤差σ<O>を以下のように見積もることができる。
【0187】
【数50】
【0188】
なお、本開示の技術は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0189】
例えば、上記実施形態において、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120との間の情報の送受信はどのようになされてもよい。例えば、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120との間における、量子回路のパラメータの送受信及び測定結果の送受信等は、所定の計算が完了する毎に逐次送受信が行われてもよいし、全ての計算が完了した後に送受信が行われてもよい。
【0190】
また、上記実施形態では、ユーザ端末130から古典コンピュータ110へ計算対象情報が送信され、古典コンピュータ110が計算対象情報に応じた計算を実行する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。ユーザ端末130は、IPネットワークなどのコンピュータネットワークを介して古典コンピュータ110又は古典コンピュータ110がアクセス可能な記憶媒体又は記憶装置に計算対象情報を送信してもよいが、記憶媒体又は記憶装置に記憶して古典コンピュータ110の運営者に渡し、当該運営者が古典コンピュータ110に当該記憶媒体又は記憶装置を用いて計算対象情報を入力するようにしてもよい。
【0191】
また、上記実施形態では、電磁波の照射によって量子回路が実行される場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、異なる方式によって量子回路が実行されてもよい。
【0192】
また、上記実施形態では、量子コンピュータ120が量子計算を実行する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、量子コンピュータの挙動を模擬する古典コンピュータによって量子計算が実行されてもよい。
【0193】
また、上記実施形態において、量子コンピュータ120が実行する処理を古典コンピュータ110が実行するようにしてもよい。または、上記実施形態において、古典コンピュータ110が実行する処理を量子コンピュータ120が実行するようにしてもよい。例えば、上記実施形態においては、古典コンピュータ110が、計算基底|z>と計算基底|zr’>との組み合わせ毎に複数の遷移行列要素<z|O|zr’>(r=1,・・・,R;r’=1,・・・,R)を計算する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、量子コンピュータ120が複数の遷移行列要素<z|O|zr’>(r=1,・・・,R;r’=1,・・・,R)を計算するようにしてもよい。
【0194】
また、上記実施形態では、異なる組織によって古典コンピュータ110及び量子コンピュータ120が管理されている場合を想定しているが、古典コンピュータ110及び量子コンピュータ120は同一の組織によって一体として管理されていてもよい。この場合には、量子計算情報の古典コンピュータ110から量子コンピュータ120への送信及び量子コンピュータ120から古典コンピュータ110への測定結果の送信は不要となる。また、この場合には、量子コンピュータ120の制御装置121において上述の説明における古典コンピュータ110の役割を担うことが考えられる。
【0195】
なお、上記実施形態においては、「××のみに基づいて」、「××のみに応じて」、「××のみの場合」というように「のみ」との記載がなければ、本明細書においては、付加的な情報も考慮し得ることが想定されていることに留意されたい。一例として、「aの場合にbする」という記載は、明示した場合を除き、「aの場合に常にbする」ことを必ずしも意味しない。
【0196】
また、上記実施形態において、「最適化する」又は「最適化されたパラメータ」等の表現が用いられている場合には、これら「最適化」の表現は、最適な状態に近づけることを意味することに留意されたい。このため、ある関数が最小となるようなパラメータを得ようとする場合、当該関数を最適化して得られたパラメータは、当該関数が最小となるような大局解ではなく、局所解である場合も想定されることに留意されたい。
【0197】
また、何らかの方法、プログラム、端末、装置、サーバ又はシステム(以下「方法等」)において、本明細書で記述された動作と異なる動作を行う側面があるとしても、開示の技術の各態様は、本明細書で記述された動作のいずれかと同一の動作を対象とするものであり、本明細書で記述された動作と異なる動作が存在することは、当該方法等を本開示の技術の各態様の範囲外とするものではない。
【0198】
また、本願明細書中において、プログラムが予めインストールされている実施形態として説明したが、当該プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。
【0199】
また、本実施形態のハイブリッドシステムの各構成要素は、単一のコンピュータ又はサーバによって実現しなければならないものではなく、ネットワークによって接続された複数のコンピュータに分散して実現されてもよい。
【0200】
例えば、上記実施形態の古典コンピュータが実行する処理は、ネットワークによって接続された複数の古典コンピュータが分散して処理するようにしてもよい。または、例えば、上記各実施形態の量子コンピュータが実行する処理は、ネットワークによって接続された複数の量子コンピュータが分散して処理するようにしてもよい。この場合には、少なくとも1以上の古典コンピュータと少なくとも1以上の量子コンピュータとによってハイブリッドシステムが構成される。
【0201】
例えば、複数の古典コンピュータと複数の量子コンピュータとによってハイブリッドシステムが構成され、複数の計算基底の線形結合によってN量子ビットの状態|ψ>が表現される場合には、複数の量子コンピュータのうちの1以上の量子コンピュータが、複数の計算基底の各々を測定することにより、複数の計算基底の測定値を取得する。そして、複数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータが、量子コンピュータによって測定された複数の計算基底の測定値を取得する。次に、複数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータが、複数の計算基底の各々の測定値に基づいて、複数の測定値から出現回数が多いR個の測定値又は出現回数が所定値以上であるR個の測定値を選択し、選択されたR個の測定値の出現回数に基づいて、出現回数に応じたR個の計算基底|z>(r=1,・・・,R)に対する重み係数fを計算する。次に、複数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータ又は複数の量子コンピュータのうちの1以上の量子コンピュータが、計算基底|z>と計算基底|zr’>との組み合わせ毎に複数の遷移行列要素<z|O|zr’>を計算する。そして、複数の古典コンピュータのうちの1以上の古典コンピュータが、重み係数fと重み係数fr’との組み合わせを重みとする、複数の遷移行列要素<z|O|zr’>の重み付け和によって、オブザーバブルOの期待値<ψ|O|ψ>を近似計算する。
【符号の説明】
【0202】
100 ハイブリッドシステム
110 古典コンピュータ
111 通信部
112 処理部
113 情報記憶部
120 量子コンピュータ
121 制御装置
122 電磁波生成装置
123 量子ビット群
130 ユーザ端末
図1
図2
図3
図4