(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028291
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】橋梁
(51)【国際特許分類】
E01D 2/04 20060101AFI20230224BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
E01D2/04
E01D1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133906
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 辰雄
(72)【発明者】
【氏名】大場 誠道
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA08
2D059BB39
2D059CC03
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】高い性能を持つ橋梁を提供する。
【解決手段】橋軸方向に延びる、コンクリート断面を持つプレキャストコンクリート構造の桁であって、前記コンクリート断面に対してプレテンション方式で圧縮応力を与える1次鋼材と、前記コンクリート断面に対してポストテンション方式で前記圧縮応力を増加させる2次鋼材と、を有する桁を備える、橋梁。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に延びる、コンクリート断面を持つプレキャストコンクリート構造の桁であって、
前記コンクリート断面に対してプレテンション方式で圧縮応力を与える1次鋼材と、
前記コンクリート断面に対してポストテンション方式で前記圧縮応力を増加させる2次鋼材と、を有する桁を備える、橋梁。
【請求項2】
前記桁を支持する支持部をさらに備え、
前記1次鋼材は、前記支持部近傍において前記桁の上部に配置される、請求項1に記載の橋梁。
【請求項3】
前記2次鋼材は、前記桁の断面図心線に対して対称に配置される、請求項1または2に記載の橋梁。
【請求項4】
前記桁に固定された、プレストレストコンクリート構造のプレキャスト造床版をさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の橋梁。
【請求項5】
前記橋軸方向に直交する方向における前記床版の端部を、超高強度繊維補強コンクリートを用いて周辺構造物と接合する第1接合部をさらに備える、請求項4に記載の橋梁。
【請求項6】
前記橋軸方向に隣り合う前記床版を、超高強度繊維補強コンクリートを用いて接合する第2接合部をさらに備える、請求項4または5に記載の橋梁。
【請求項7】
前記桁は、複数のセグメントを有し、
前記第2接合部は、前記複数のセグメントの接合位置に対して前記橋軸方向にずれた位置に設けられる、請求項6に記載の橋梁。
【請求項8】
橋軸方向に延びる、コンクリート断面を持つプレキャストコンクリート構造の桁を有する橋梁の施工方法であって、
1次鋼材を用いて前記コンクリート断面に対してプレテンション方式で圧縮応力を与える工程と、
2次鋼材を用いて前記コンクリート断面に対してポストテンション方式で前記圧縮応力を増加させる工程と、を有する施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁をプレストレストコンクリート構造として施工することが従来から行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】土木学会 コンクリート委員会 超高強度繊維補強コンクリート研究小委員会編、「超高強度繊維補強コンクリートの設計・施工指針(案)」、社団法人 土木学会、平成16年9月28日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、コンクートに加えた圧縮応力が、プレストレスの導入に伴う不静定力(二次力ともいう)によって減少する場合がある。この結果、コンクリートに十分な圧縮応力が与えられず、必要な性能を得られなくなる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は一態様として、橋軸方向に延びる、コンクリート断面を持つプレキャストコンクリート構造の桁であって、前記コンクリート断面に対してプレテンション方式で圧縮応力を与える1次鋼材と、前記コンクリート断面に対してポストテンション方式で前記圧縮応力を増加させる2次鋼材と、を有する桁を備える、橋梁を提供する。
【0007】
また、本発明は一態様として、橋軸方向に延びる、コンクリート断面を持つプレキャストコンクリート構造の桁の施工方法であって、1次鋼材を用いて前記コンクリート断面に対してプレテンション方式で圧縮応力を与える工程と、2次鋼材を用いて前記コンクリート断面に対してポストテンション方式で前記圧縮応力を増加させる工程と、を有する施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い性能を持つ橋梁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態における橋梁の斜視図と一部拡大図である。
【
図2】実施形態による橋梁の上面図あり、桁のセグメント配置を示す。
【
図3】実施形態における橋梁の断面図である。なお、支間中央断面においては、配筋を図示している。
【
図4】実施形態による拡幅部施工工程のフローである。
【
図5】実施形態におけるプレキャスト部材の施工状態を示す図であり、(a)中央部のセグメント、(b)端部のセグメント、及び(c)床版を示す。なお、左側に側面図を、右側に断面図を示す。
【
図6】実施形態における拡幅部の施工状況を示す図であり、(a)端部のセグメント設置、(b)中央部セグメント設置、(c)床版固定、及び(d)c図におけるd枠の拡大図を示す。
【
図7】(a)実施形態及び(b)先行文献における、桁断面にかかる圧縮応力を比較する図である。
【
図8】変形例における桁の断面図であり、桁に設置されたシース及び2次鋼材の形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本発明の実施形態である橋梁1を、以下に説明する。橋梁1は、少なくとも一部においてプレストレストコンクリート構造を有する。なお、以下の説明では、橋梁1が延びる方向を橋軸方向とし、これに直交する方向を橋軸直角方向とする。
【0011】
橋梁1は、最も古く施工された既設部2、次に施工された既設部3、及び、既設部2と既設部3との間に構築された拡幅部4を主に備える。既設部2、既設部3、及び拡幅部4は、いずれも橋軸方向に延びる。
【0012】
既設部2は、桁21と、桁21の上面に形成された平板状の床版22と、桁21を支持する橋脚23と、を備える。
【0013】
既設部3は、既設部2と同様に、桁31と、桁31の上面に形成された平板状の床版32と、桁31を支持する橋脚33と、を備える。
【0014】
拡幅部4は、既設部2及び既設部3それぞれに対して接合され、既設部2及び既設部3を拡幅する橋梁として機能する。拡幅部4は、
図1~4、
図5、6に示すように中空断面を有する橋梁であり、U字型の断面を持つ桁41、床版42、縦接合部43、横接合部44、及び、桁41を支持する橋脚45を備える。
【0015】
桁41は、同断面形状の、プレキャストコンクリート構造を持つ複数のセグメントを橋軸方向に接合することによって形成される。桁41は、橋脚45の間、すなわち支間の中央部に位置するセグメント41Aと、支点近傍に位置するセグメント41Bとを備える。セグメント41Bは、橋脚45に支持されるセグメントであり、セグメント41Aは、2つのセグメント41Bの間に固定される(
図2、
図3、
図6)。桁41(つまりセグメント41A、41B)の断面は、図心線41Cを規定する。
【0016】
セグメント41A、41Bは、それぞれ、コンクリート部411、シース412、1次鋼材413、2次鋼材414、及びアンカー415を備える(
図3、
図5)。コンクリート部411には、主筋及び用心鉄筋等の配筋が施されている。
【0017】
シース412は、2次鋼材414を内部に通す、略橋軸方向に延びる管であり、コンクリート部411に埋設される(
図3、
図5)。シース412は、セグメント41A、41Bの橋軸直角方向断面において、断面の図心位置にほぼ一致するように設置される。本実施形態では、シース412は複数箇所に設置されるが、この場合、シース412全体での図心は、桁41(つまりセグメント41A、41B)の断面における図心線41C上に位置する。
【0018】
コンクリート部411の上部には、アンカー415の下部が固定される(
図3)。アンカー415には様々な部材が用いられる。例えば、アンカー415として頭付きアンカーボルトが採用され得る。アンカー415の上部は、床版42に固定される。このようにアンカー415を介して、床版42と桁41は接合される。
【0019】
1次鋼材413は、略橋軸方向に延び、プレテンション方式によるプレストレスをコンクリート部411の断面(以下、コンクリート断面と称する)に付与する鋼材である。なお、
図3においては1次鋼材413を黒丸で示す。1次鋼材413には張力が加えられており、1次鋼材413はコンクリート部411との付着を介して、コンクリート部411に圧縮応力を付加する。
【0020】
1次鋼材413は、セグメント41Aの下部に配置され、セグメント41Bにおいては部材の上部に配置される(
図2、
図3、
図6)。正の曲げモーメント(部材下側に引張応力を生じさせる曲げモーメント)がかかるセグメント41Aと、その逆の負の曲げモーメントがかかるセグメント41Bとでその配置位置を変えることで、1次鋼材413は、コンクリート部411の適切な位置に圧縮応力を加えている。なお、
図5では1次鋼材413を一部省略して示している。
【0021】
2次鋼材414は、1本ずつシース412に挿入され、張力が掛けられた状態で桁41に固定される。それぞれの2次鋼材414は、2つの橋脚45にまたがって、すなわち1つの支間に亘って連続して設置される。2次鋼材414の両端部は、セグメント41Bの端部に固定される。2次鋼材414の配置は、シース412とほぼ同じである。つまり、2次鋼材414は、それぞれ略橋軸方向に延びるように直線状に配置される。また、断面で見たとき、2次鋼材414全体での図心は、セグメント41A、41Bの図心線41C上に位置する(
図3、
図5)。換言すれば、2次鋼材414は、セグメント41A、41Bの断面図心線41Cに対して略対称となるように配置される。このため、2次鋼材414全体での張力中心は、概して図心線41C上に位置する。
【0022】
加えて、セグメント41A、41Bのそれぞれの端部には、接合キー416が設けられる(
図5)。接合キー416は、セグメント41A及びセグメント41Bを接合し、せん断力及び橋軸方向圧縮力を両セグメント間に伝達する。接合キー416の構造は、設計条件に応じて適宜選択される。したがって、接合キー416は鋼製であってもよいが、本実施形態ではコンクリート製接合キーが用いられるものとする。セグメント41A、41Bの間(すなわち対向する接合キー416の間)は、必要に応じて無収縮モルタルによって間詰めされる。
【0023】
床版42は、平板状に形成されたプレキャストコンクリート部材であり、桁41の上面にアンカー415を介して固定される(
図3、
図5、
図6)。床版42は、プレテンション方式によるプレストレストコンクリート構造を有する。床版42の部材断面には、PC鋼材である鋼材421によって、圧縮応力が加えられている。鋼材421は、床版42の断面に対してほぼ一様な圧縮応力を付与できるように配置される。なお、
図5では1次鋼材413の位置、本数などを簡略に示している。
【0024】
縦接合部43は、床版22と床版42との間、及び床版32と床版42との間において、橋軸方向に延びるように形成される。
図1及び
図2に示すように、縦接合部43は、床版22と床版42の橋軸直角方向端部とを接合し、また、床版32と床版42の橋軸直角方向端部とを接合する。縦接合部43は、配筋431及びコンクリート部432によって形成された鉄筋コンクリート部材である。
【0025】
配筋431は、少なくとも、床版22の端部及び床版42の端部それぞれから、橋軸直角方向に突出して定着を取る鉄筋を複数本備える(
図3)。
【0026】
コンクリート部432は、繊維補強コンクリート、特に超高強度繊維補強コンクリート(UFC)造とすることが望ましい。UFCは様々な特性を持つ材料であるが、非特許文献1では、UFCの引張強度を5N/mm2以上と規定している。
【0027】
このように高い引張強度を有する材料であるため、コンクリート部432にUFCを用いる場合、他のコンクリート材料に比較して、配筋431の定着長さを短くすることが可能である。定着長さを短くすることで、縦接合部43の幅を短くし、工事の施工範囲を小さくすることができる。
【0028】
施工範囲を小さくすることによって、工事の中断及び復旧、また、交通の開放が容易となる。例えば工期が複数日にまたがる場合などにおいて、工事休止中の交通を可能とする場合がある。この場合、施工範囲に仮舗装を実施し、または施工範囲を敷鉄板で覆うことによって、工事休止中における車両等の通行を可能とすることが一般的である。施工範囲が小さければ、仮舗装または鉄板敷設を行う範囲も小さくすることができ、工事休止のための準備、工事復旧にかかる作業も少なくすることができる。そのため、工期の短縮やコストの削減が可能となる。
【0029】
横接合部44は、床版42の間において、略橋軸直角方向に延びるように形成される。横接合部44は、
図1に示すように、床版42同士を橋軸方向に接合する機能を有する。横接合部44は、配筋441及びコンクリート部442によって形成された鉄筋コンクリート部材である(
図6(d))。
【0030】
横接合部44は、
図1及び
図6(c)に示すように、セグメント41A、41Bの接合位置とは異なる位置に設けられる。横接合部44の位置をセグメント41A、41Bの接合位置から橋軸方向にずらすことにより、横接合部44に過大なひずみが発生することが回避される。これは、横接合部44にひびが発生するなどの不具合を防止し、橋梁1の品質維持に貢献する。
【0031】
配筋441は、少なくとも、床版42から橋軸方向に突出して定着を取る鉄筋またはアンカーを複数本備える。
【0032】
コンクリート部442は、繊維補強コンクリート、特にUFC造とすることが望ましい。UFCを用いることにより、縦接合部43と同様、配筋441の定着長さを短くし、横接合部44の幅及び施工範囲を小さくすることができる。その結果、縦接合部43の説明として上述したように、工期短縮等の様々な効果が得られる。
【0033】
橋脚45は、桁41を支持する部材である。橋脚45は、
図2に示すように、橋脚23、33とは独立して設置されており、設置位置及び橋脚間距離のいずれについても、橋脚23、33とは必ずしも一致しない。橋脚45による桁41の支持方法及び支点の形状は、例えば剛接合や、支承を介したピン、ローラー、ヒンジ支持など、条件に応じて適宜選択される。
【0034】
<工程>
上記のように構成される拡幅部4について、施工手順を以下に説明する。施工手順は、
図4に示すように、S1からS7の工程によって構成される。
【0035】
〔桁、床版製作〕
まず、セグメント41A、41B、及び床版42が製作される(S1)。製作は、製造設備の整った工場、または、これと同等の施工条件を持ったヤードで実行される。セグメント41A、41B、及び床版42は、
図5に示すように、いずれもプレテンション方式によるプレキャストコンクリート部材として製作される。
【0036】
セグメント41A、41Bの製作では、1次鋼材413及びシース412が設計上の位置に配置され、さらに1次鋼材413にジャッキ等の装置を用いて張力を掛けた状態のまま、コンクリートが打設される(
図5(a)、
図5(b))。床版42の製作においても同様に、鋼材421に張力を掛けた状態で、コンクリートが打設される(
図5(c))。
【0037】
コンクリートの強度発現後、1次鋼材413に掛けられた張力が解放されるが、その後も3~6か月程度の養生期間が設けられる(S2)。養生期間を設けることにより、コンクリートのクリープまたは乾燥収縮によるひずみの進展が収束する。
【0038】
〔現場での施工〕
セグメント41A、41B及び床版42の製作後、または製作と並行して、現場での拡幅部4の施工が進められる。
【0039】
まずセグメント41Bが橋脚45上に設置され(S3、
図6(a))、次にセグメント41Aが、セグメント41Bの間に設置される(S4、
図6(b))。
【0040】
次に2次鋼材の緊張が実施される(S5)。支保工などに支持させることにより、セグメント41Aが設計上定められた位置に配置された後、シース412の中に2次鋼材414が挿入される。2次鋼材414は、複数のセグメント41A、41Bにまたがって、1つの支間で連続するように配置される(
図6(b))。挿入完了後、ジャッキ等の装置により2次鋼材414に対して張力が掛けられ、2次鋼材414端部のセグメント41Bへの固定と、シース412へのグラウト注入が実施される。さらに必要に応じて、セグメント41A、41Bの間に間詰めが実施される。セグメント41Aの設置が完了すると、セグメント41Aを支持していた支保工が取り外される。
【0041】
次に床版42が桁41に接合される(S6)。床版42は、アンカー415を介して桁41の上部に固定される。さらに、床版42の間にUFCが打設されることにより、横接合部44が形成される(
図6(c)、(d))。横接合部44により、橋軸方向に隣接する床版42が互いに接合される。
【0042】
さらに、床版42の橋軸直角方向端部と、床版22、32との間にUFCが打設され、縦接合部43が形成される(S7)。縦接合部43により、床版42と床版22、及び、床版42と床版32がそれぞれ剛接合される。
【0043】
上記の工程S1~S7を各支間で実行することにより、拡幅部4の施工が進捗する。
【0044】
<効果>
上記実施形態における桁41は、コンクリート断面を持つプレキャストコンクリート構造の桁であり、コンクリート断面に対してプレテンション方式によって圧縮応力を与える1次鋼材413と、コンクリート断面に対してポストテンション方式によって圧縮応力を増加させる2次鋼材414とを有する。
【0045】
このような施工方法、構造が採用されることにより、桁41のコンクリート断面には、
図7(a)に示すように、1次鋼材413と2次鋼材414によって圧縮応力が二段階で増加される。
【0046】
拡幅部4は周囲を拘束され、拡幅部4自身のクリープと乾燥収縮による収縮ひずみの拘束により(反作用的に)大きな引張力が発生する。そのため、桁41と床版42に付与された圧縮応力は、上記の引張力により大きく減少する。
【0047】
本実施形態では、桁41において圧縮応力の減少が発生しても、2次鋼材414によって圧縮応力が付加される。そのため、圧縮応力の減少を補い、設計上の性能を満たした桁41が得られる。
【0048】
また、圧縮応力の一部が施工前に1次鋼材413によって付与されるため、2次鋼材414にかかる張力は一般的な橋梁に比較して少ない。加えて、1次鋼材413による応力付与はプレテンション方式によるものであり、十分な養生期間を設けることで、クリープ及び乾燥収縮によるひずみの進展を現場搬入前に一定程度収束させておくことができる。したがって、既設部2及び既設部3の拘束によって生じる引張力を抑制することができる。
【0049】
一方、従来技術(特許文献1)では、桁断面に対する圧縮応力の付与は1回の作業だけで実施され、床版の圧縮応力も桁部材には寄与しない(
図7(b))。この施工方法及び構造では、1回の緊張作業だけで必要な圧縮応力の全てを導入する必要があるため、鋼材に導入される張力を大きくする必要がある。このため、プレストレスの導入によって桁に発生する不静定力も大きい。加えて、鋼材のリラクゼーションやコンクリートのクリープに起因する圧縮応力の低下も大きなものとなるため、設計上要求される圧縮応力を桁に与えることは容易ではない。
【0050】
また不静定力や既設部の拘束に対向するために桁断面を大きくしてプレストレス量を増大させる方法を採用すると、既設部と拡幅部のたわみ剛性の差が大きくなり、既設桁にねじりなどの影響が生じてしまう。この問題を避けるためには、既設桁と同様な桁高(小さな断面)とする必要があるが、こうするとPC鋼材の配置に自由度がなくなり、構造を成立させることができない。本実施形態ではこのような問題点を解決している。
【0051】
加えて、従来技術では、橋梁拡幅工事は既設部を供用した上で交通規制(車線規制等)を実施しながらの施工となることが多い。従来の橋梁拡幅において、拡幅部は現場打ちで施工されるため、施工位置で3~6か月程度の養生期間が必要になり、この養生期間中交通規制を継続する必要がある。本実施形態ではプレキャストコンクリート構造を採用することで、現場以外の仮置きヤードで養生を実施することが可能となり、交通規制期間の短縮効果がある。また、養生期間を3~6か月に限定せず、それ以上の長期養生の実施が交通規制によらず可能になり、プレキャストコンクリート構造の採用だけでも通常以上にクリープ及び乾燥収縮による影響を低減する効果が期待できる。
【0052】
上記実施形態において橋梁1は、桁41を支持する橋脚45(本発明の支持部に相当)を備える。橋脚45の近傍において、1次鋼材413は、桁41の上部に配置される。
【0053】
上記構成とすることにより、桁41に発生する曲げモーメントの向き及びその大きさに対応して効果的に1次鋼材を配置し、適切な量、分布の圧縮応力をコンクリート断面に対して与えることが可能となる。 実施形態において、2次鋼材414は、桁41の断面図心線41Cに対して対称に配置される。
【0054】
上記構成では、2次鋼材414の張力の中心がコンクリート断面の図心線41C上または近傍に位置する。2次鋼材414は、コンクリート断面に一様な圧縮応力を付与し、プレストレスによる不静定力の影響を低減することができる。
【0055】
実施形態において縦接合部43(第1接合部に相当)は、橋軸直角方向における床版42の端部を、超高強度繊維補強コンクリートを用いて床版22、32(周辺構造物に相当)と接合する。
【0056】
上記のようにUFCを用いて床版42の端部を接合することにより、プレストレスの導入できない縦接合部43においても強度または耐久性を向上させることができる。また上述の通り、縦接合部43の幅及び施工範囲を小さくし、工期短縮などの効果を得ることができる。
【0057】
実施形態において横接合部44(第2接合部に相当)は、橋軸方向に隣り合う前記床版を、超高強度繊維補強コンクリートを用いて接合する。
【0058】
上記のようにUFCを用いて床版42同士を接合することにより、プレストレスの導入できない横接合部44においても強度または耐久性を向上させることができる。また上述の通り、横接合部44の幅及び施工範囲を小さくし、工期短縮などの効果を得ることができる。
【0059】
実施形態において横接合部44は、セグメント41A、41Bの接合部に対して橋軸方向にずれた位置に設けられる。
【0060】
このような構成とすることにより、横接合部44に過大な変位またはひずみが発生することが回避される。横接合部44にひびが発生するなどの不具合を防止し、橋梁1における耐久性などの品質を向上させることができる。
【0061】
<変形例>
上記構成では、2次鋼材414は、コンクリート断面の図心線41Cに沿って直線状に設置された。本発明はこの構成に限定されず、
図8に示すように、2次鋼材414を桁41に発生する曲げモーメントの大きさ及び向きに対応させて、曲線状に配置してもよい。
【0062】
実施形態において桁41はU字型の断面を持っていたが、本発明は桁の断面形状及び構造を限定するものではない。桁の構造はT桁、箱桁、合成桁など設計条件に合わせて適宜設定し得る。また、実施形態では桁41が連続桁である場合について説明したが、桁41は単純桁であってもよい。この場合、支間全長に亘って1次鋼材413を桁41の下部に配置するなど、1次鋼材413及び2次鋼材414の形状及び位置は、曲げモーメントの向き及び大きさに合わせて適切に設計される。図心線についても、桁の形状に合わせて設定される。
【0063】
実施形態では、桁41はセグメント41A、41Bを接合することによって施工された。この施工方法に代えて、桁41は1つのプレキャスト部材として製作されてもよい。
【0064】
実施形態において橋梁1は、既設部2、既設部3、及び拡幅部4を備えていたが、既設部3は必須の構成ではない。すなわち、橋梁1が既設部3を備えず、既設部2と、既設部2を拡幅する拡幅部4とによって構成されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
橋梁1
既設部2
既設部3
拡幅部4
桁41
セグメント41A、41B
床版42
縦接合部43
横接合部44
橋脚45