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特開2023-28333DAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法
<図1>
  • 特開-DAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法 図1
  • 特開-DAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法 図2
  • 特開-DAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法 図3
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  • 特開-DAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028333
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】DAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133971
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA17
5H730AS08
5H730BB27
5H730BB82
5H730BB88
5H730DD02
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE13
5H730FD21
5H730FG02
(57)【要約】
【課題】両端が直列接続されたDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータにおいてコンデンサ電圧バランスを均等にする。
【解決手段】DAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータは、1次側直流電源DC1と、2次側直流電源DC2と、第1ユニット~第mユニットと、を備える。1次側直流電源DC1、2次側直流電源DC2の正極と負極との間に第1ユニット~前記第mユニットの1次側直流コンデンサC1、2次側直流コンデンサC2が直列接続される。1次側直流コンデンサC1、2次側直流コンデンサC2にそれぞれ第1インバータ、第2インバータが接続される。第1インバータの交流側と第2インバータの交流側との間にトランスTrが接続される。各ユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が等しくなるように各ユニットの第1インバータと第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次側直流電源と、2次側直流電源と、前記1次側直流電源と前記2次側直流電源との間に接続された第1ユニット~第m(m:2以上の整数)ユニットと、を備えたDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータであって、
前記1次側直流電源の正極と負極との間に直列接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの1次側直流コンデンサと、
前記2次側直流電源の正極と負極との間に直列接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの2次側直流コンデンサと、
前記第1ユニット~前記第mユニットの前記1次側直流コンデンサにそれぞれ接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの第1インバータと、
前記第1ユニット~前記第mユニットの前記2次側直流コンデンサにそれぞれ接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの第2インバータと、
前記第1ユニット~前記第mユニットの前記第1インバータの交流側にそれぞれ1次巻線が接続され、前記第1ユニット~前記第mユニットの前記第2インバータの交流側にそれぞれ2次巻線が接続された前記第1ユニット~前記第mユニットのトランスと、
前記第1,第2インバータのゲート信号を生成する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
各ユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が等しくなるように各ユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御することを特徴とするDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項2】
前記制御部は、
第k(k=1~mの整数)ユニットの1次側直流コンデンサ電圧と第kユニットのアンバランス電圧指令値の和から1次側直流コンデンサ電圧平均値を減算し、第kユニットの1次側電圧偏差を算出する第1減算器と、
第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧と第kユニットの前記アンバランス電圧指令値の和から2次側直流コンデンサ電圧平均値を減算し、第kユニットの2次側電圧偏差を算出する第2減算器と、
前記トランスの巻数比が1次巻線:2次巻線=1:nの時に、前記2次側電圧偏差に-1/nを乗算し、または、前記2次側電圧偏差に-1を乗算し、前記1次側電偏差にnを乗算する巻数比乗算器と、
電力指令値が第1閾値よりも大きい場合は前記1次側電圧偏差を増幅し、前記電力指令値が第2閾値よりも小さい場合は前記2次側電圧偏差を増幅し、前記電力指令値が第2閾値以上第1閾値未満の場合は前記1次側電圧偏差または前記2次側電圧偏差のどちらか、あるいは両方の和を増幅し、あるいは0を第kユニットの位相として出力する第1アンプと、
前記第kユニットの位相に位相指令値を加算して位相差指令値として出力する第2加算器と、
を備え、前記位相差指令値に基づいて第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータを制御することを特徴とする請求項1記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項3】
第kユニットの前記アンバランス電圧指令値を0とすることを特徴とする請求項2記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項4】
前記制御部は、
第k(k=1~mの整数)ユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が他のユニットに比べて大きい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が小さくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御し、
第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が他のユニットに比べて小さい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が大きくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御することを特徴とする請求項1記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項5】
前記制御部は、
第k(k=1~mの整数)ユニットの電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が他のユニットに比べて大きい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が小さくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御し、
第kユニットの電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が他のユニットに比べて小さい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が大きくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御することを特徴とする請求項1記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項6】
前記制御部は、
第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値と、前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値の全ユニットの平均値と、の第1エネルギー偏差を算出する第7減算器と、
前記第1エネルギー偏差を増幅し第kユニットの前記アンバランス電圧指令値として出力する第2アンプと、
を備えたことを特徴とする請求項2記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項7】
前記制御部は、
前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットの運転力率を低下させることを特徴とする請求項1または4記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項8】
前記制御部は、
電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットの運転力率を低下させることを特徴とする請求項1または5記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項9】
前記制御部は、
第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値と、全ユニットのうち前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値の最小値と、の偏差である第2エネルギー偏差を算出する第9減算器と、
前記第2エネルギー偏差を増幅する第3アンプと、
第kユニットの1次側パルス幅指令値と第kユニットの2次側パルス幅指令値のうち小さい方に前記第3アンプの出力を加算する第7加算器と、
前記第7加算器の出力を上限値、下限値内に制限する第1リミッタと、
前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を算出する第10減算器と、
第kユニットの前記1次側パルス幅指令値と第kユニットの前記2次側パルス幅指令値のうち大きい方から、前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を減算する第11減算器と、
前記第11減算器の出力を上限値、下限値内に制限する第2リミッタと、
第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第2リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第1リミッタの出力を出力する第4スイッチと、
第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第1リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第2リミッタの出力を出力する第5スイッチと、
前記トランスの巻数比が1次巻線:2次巻線=1:nの時に、第kユニットの1次側交流電流検出値を1/n倍し、または、第kユニットの2次側交流電流検出値をn倍する第1乗算器と、
前記第4スイッチの出力に、第kユニットの1次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を加算して第kユニットの1次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第3加算器と、
前記第4スイッチの出力から、第kユニットの1次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を減算して第kユニットの1次側のマイナス側パルス幅指令値として出力する第5減算器と、
前記第5スイッチの出力に、第kユニットの2次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を加算して第kユニットの2次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第4加算器と、
前記第5スイッチの出力から、第kユニットの2次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を減算して第kユニットの2次側のマイナス側パルス幅指令値として出力する第6減算器と、
を備えたことを特徴とする請求項2、3、6のうち何れかに記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項10】
前記制御部は、
前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットが出力する電流の直流成分を大きくすることを特徴とする請求項7記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項11】
前記制御部は、
電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットが出力する電流の直流成分を大きくすることを特徴とする請求項8記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項12】
第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値と、全ユニットのうち前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値の最小値と、の偏差である第2エネルギー偏差を算出する第9減算器と、
前記第2エネルギー偏差を増幅する第3アンプと、
第kユニットの1次側パルス幅指令値と第kユニットの2次側パルス幅指令値のうち小さい方に前記第3アンプの出力を加算する第7加算器と、
前記第7加算器の出力を上限値、下限値内に制限する第1リミッタと、
前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を算出する第10減算器と、
第kユニットの前記1次側パルス幅指令値と第kユニットの前記2次側パルス幅指令値のうち大きい方から、前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を減算する第11減算器と、
前記第11減算器の出力を上限値、下限値内に制限する第2リミッタと、
前記第2リミッタの入力値と出力値の差分を算出する第12減算器と、
第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第2リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第1リミッタの出力を出力する第4スイッチと、
第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第1リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第2リミッタの出力を出力する第5スイッチと、
前記トランスの巻数比が1次巻線:2次巻線=1:nの時に、第kユニットの1次側交流電流検出値を1/n倍し、または、第kユニットの2次側交流電流検出値をn倍する第1乗算器と、
前記第2リミッタの入力値と出力値の差分から、第kユニットの1次側交流電流検出値の直流成分を減算する第3減算器と、
前記第2リミッタの入力値と出力値の差分の符号を反転した値から、第kユニットの2次側交流電流検出値の直流成分を減算する第4減算器と、
前記第4スイッチの出力に、前記第3減算器の出力を増幅した値を加算して第kユニットの1次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第3加算器と、
前記第4スイッチの出力から、前記第3減算器の出力を増幅した値を減算して第kユニットの1次側のマイナス側パルス幅指令値として出力する第5減算器と、
前記第5スイッチの出力に、前記第4減算器の出力を増幅した値を加算して第kユニットの2次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第4加算器と、
前記第5スイッチの出力から、前記第4減算器の出力を増幅した値を減算して第kユニットの2次側マイナス側パルス幅指令値として出力する第6減算器と、
を備えたことを特徴とする請求項2、3、6のうち何れかに記載のDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータ。
【請求項13】
1次側直流電源と、
2次側直流電源と、
前記1次側直流電源と前記2次側直流電源との間に接続された第1ユニット~第m(m:2以上の整数)ユニットと、
前記1次側直流電源の正極と負極との間に直列接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの1次側直流コンデンサと、
前記2次側直流電源の正極と負極との間に直列接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの2次側直流コンデンサと、
前記第1ユニット~前記第mユニットの前記1次側直流コンデンサにそれぞれ接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの第1インバータと、
前記第1ユニット~前記第mユニットの前記2次側直流コンデンサにそれぞれ接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの第2インバータと、
前記第1ユニット~前記第mユニットの前記第1インバータの交流側にそれぞれ1次巻線が接続され、前記第1ユニット~前記第mユニットの前記第2インバータの交流側にそれぞれ2次巻線が接続された前記第1ユニット~前記第mユニットのトランスと、
前記第1,第2インバータのゲート信号を生成する制御部と、
を備えたDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータの制御方法であって、
前記制御部は、
各ユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が等しくなるように各ユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御することを特徴とするDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力をインバータにより交流電力に変換し、トランスを用いて絶縁し、別のインバータで直流に変換するデュアルアクティブブリッジ(DAB)方式の双方向絶縁型DC/DCコンバータの直列接続における電圧バランス制御に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1、特許文献1~3は補助コンバータを用いてコンデンサ電圧のバランスを制御する方式である。補助コンバータを用いることでいかなる条件においてもコンデンサ電圧の偏差を非常に小さく保つことができる。
【0003】
非特許文献1,特許文献1は補助コンバータとしてDAB方式のコンバータを、特許文献2はチョッパを、特許文献3は共振回路と倍電圧整流回路を用いている。特許文献3の補助コンバータは受動素子のみで構成されているため、別途制御手段を用いることなくコンデンサ電圧をバランスさせることができる。
【0004】
特許文献4は、DABユニットの一端にブリッジセルを接続し、ブリッジセルのカスケード接続構成を電源に接続した構成である。ブリッジセルのカスケード接続構成ではコンデンサ電圧のバランス制御方法が確立されていて、また、電源が交流でも対応できる。電源が直流のみの場合はブリッジセルをチョッパセルに置換することで半導体素子数を少なくすることができる。DABユニットのもう一端には切替機を接続し、負荷の台数や容量に応じて自由にDABユニットの並列台数を切り替えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2017/163508
【特許文献2】特開2017-017868号公報
【特許文献3】特開2017-017869号公報
【特許文献4】特開2019-213424号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石橋卓治、地道拓志、森修、「大規模洋上風力発電の直流送配電システム向け高圧大容量DC/DC変換器の回路方式と制御法」、電気学会論文誌D、2018年、138巻1号、p58-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1、特許文献1~3の構成では、追加した補助コンバータの分だけ部品点数・コスト・装置容積が増加してしまう。特許文献1ではM直列構成に対してM-1台の補助コンバータが必要となる。
【0008】
非特許文献1では入力3直列3並列・出力9直列の構成に対し2台の補助コンバータが必要となる。また、補助コンバータの容量設計も問題となる。
【0009】
例えば、非特許文献1では半導体損失のばらつきとリアクトルのばらつきを考慮した設計例が記載されている。しかし、これ以外の例えば直流コンデンサの経年劣化による漏れ電流増加には対応できず、バランス維持が不可能となる。余裕を持って容量を設計すると、コストや装置容積が増加してしまう。また、非特許文献1、特許文献1,2の構成では補助回路の制御手段が別途必要となり、検出器や制御基板の分だけコストが増加してしまう。
【0010】
特許文献3の構成であれば制御手段が不要である。しかし、調整電圧の設計が困難である。調整電圧が過剰であれば、コンデンサ電圧がバランスされていても補助コンバータを介して上下のDABユニットを電流が循環し続け損失が増加してしまう。調整電圧が不足しているとコンデンサ電圧のバランスが大きく崩れてから電流が補助コンバータを流れ始め、コンデンサ電圧の偏差が拡大してしまう。
【0011】
特許文献4では、一端に接続するブリッジセル・チョッパセルの分だけ部品点数・コスト・装置容積が増加してしまう。また、もう一端には切替機も必要となりこれも部品点数・コスト・装置容積増加の原因となる。特に切替機ではユニットM台・負荷M台に対してM×M個のスイッチが必要となり、部品点数が大幅に増加する。スイッチを機械接点にすれば寿命が問題となり、直流電流に対応した遮断器は大型・高コストである。半導体スイッチを用いる場合は電圧降下による損失増加が問題となる。
【0012】
DAB方式のコンバータは入力側と出力側が絶縁されているため、複数台を直並列に接続することができる。並列に接続して大電流の直流電力の変換と絶縁を行うほか、一端を直列に接続することで高圧の電力から低圧大電流の電力への双方向の変換も行うことができる。また、DABユニットを1台設計しそれを量産すれば、複数台を直並列に接続することで高圧・大電力の変換に対応することができる。
【0013】
その際に問題となるのが、直列に接続した一端のコンデンサ電圧バランスである。電圧バランスが崩れると特定のDABユニットに電圧責務が集中し、ユニットの過熱やスイッチングサージによる素子の破壊・過電圧による部品の破壊といった問題が生じる。もう一端が並列接続であれば、並列側を経由して別ユニットへの直流コンデンサの電荷を移動でき、直列コンデンサ電圧バランスを維持できる。
【0014】
しかし、両端が直列接続の場合は電荷の移動が同一ユニット内に限られてしまい、バランス維持は困難である。
【0015】
以上示したようなことから、両端が直列接続されたDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータにおいて、コンデンサ電圧バランスを均等にすることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、1次側直流電源と、2次側直流電源と、前記1次側直流電源と前記2次側直流電源との間に接続された第1ユニット~第m(m:2以上の整数)ユニットと、を備えたDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータであって、前記1次側直流電源の正極と負極との間に直列接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの1次側直流コンデンサと、前記2次側直流電源の正極と負極との間に直列接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの2次側直流コンデンサと、前記第1ユニット~前記第mユニットの前記1次側直流コンデンサにそれぞれ接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの第1インバータと、前記第1ユニット~前記第mユニットの前記2次側直流コンデンサにそれぞれ接続された前記第1ユニット~前記第mユニットの第2インバータと、前記第1ユニット~前記第mユニットの前記第1インバータの交流側にそれぞれ1次巻線が接続され、前記第1ユニット~前記第mユニットの前記第2インバータの交流側にそれぞれ2次巻線が接続された前記第1ユニット~前記第mユニットのトランスと、前記第1,第2インバータのゲート信号を生成する制御部と、を備え、前記制御部は、各ユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が等しくなるように各ユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御することを特徴とする。
【0017】
また、その一態様として、前記制御部は、第k(k=1~mの整数)ユニットの1次側直流コンデンサ電圧と第kユニットのアンバランス電圧指令値の和から1次側直流コンデンサ電圧平均値を減算し、第kユニットの1次側電圧偏差を算出する第1減算器と、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧と第kユニットの前記アンバランス電圧指令値の和から2次側直流コンデンサ電圧平均値を減算し、第kユニットの2次側電圧偏差を算出する第2減算器と、前記トランスの巻数比が1次巻線:2次巻線=1:nの時に、前記2次側電圧偏差に-1/nを乗算し、または、前記2次側電圧偏差に-1を乗算し、前記1次側電偏差にnを乗算する巻数比乗算器と、電力指令値が第1閾値よりも大きい場合は前記1次側電圧偏差を増幅し、前記電力指令値が第2閾値よりも小さい場合は前記2次側電圧偏差を増幅し、前記電力指令値が第2閾値以上第1閾値未満の場合は前記1次側電圧偏差または前記2次側電圧偏差のどちらか、あるいは両方の和を増幅し、あるいは0を第kユニットの位相として出力する第1アンプと、前記第kユニットの位相に位相指令値を加算して位相差指令値として出力する第2加算器とを備え、前記位相差指令値に基づいて第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータを制御することを特徴とする。
【0018】
また、その一態様として、第kユニットの前記アンバランス電圧指令値を0とすることを特徴とする。
【0019】
また、他の態様として、前記制御部は、第k(k=1~mの整数)ユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が他のユニットに比べて大きい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が小さくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御し、第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が他のユニットに比べて小さい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が大きくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御することを特徴とする。
【0020】
また、他の態様として、前記制御部は、第k(k=1~mの整数)ユニットの電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が他のユニットに比べて大きい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が小さくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御し、第kユニットの電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が他のユニットに比べて小さい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が大きくなるよう第kユニットの前記第1インバータと前記第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御することを特徴とする。
【0021】
また、他の態様として、前記制御部は、第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値と、前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値の全ユニットの平均値と、の第1エネルギー偏差を算出する第7減算器と、前記第1エネルギー偏差を増幅し第kユニットの前記アンバランス電圧指令値として出力する第2アンプと、を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、他の態様として、前記制御部は、前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットの運転力率を低下させることを特徴とする。
【0023】
また、他の態様として、前記制御部は、電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットの運転力率を低下させることを特徴とする。
【0024】
また、他の態様として、前記制御部は、第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値と、全ユニットのうち前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値の最小値と、の偏差である第2エネルギー偏差を算出する第9減算器と、前記第2エネルギー偏差を増幅する第3アンプと、第kユニットの1次側パルス幅指令値と第kユニットの2次側パルス幅指令値のうち小さい方に前記第3アンプの出力を加算する第7加算器と、前記第7加算器の出力を上限値、下限値内に制限する第1リミッタと、前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を算出する第10減算器と、第kユニットの前記1次側パルス幅指令値と第kユニットの前記2次側パルス幅指令値のうち大きい方から、前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を減算する第11減算器と、前記第11減算器の出力を上限値、下限値内に制限する第2リミッタと、第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第2リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第1リミッタの出力を出力する第4スイッチと、第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第1リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第2リミッタの出力を出力する第5スイッチと、前記トランスの巻数比が1次巻線:2次巻線=1:nの時に、第kユニットの1次側交流電流検出値を1/n倍し、または、第kユニットの2次側交流電流検出値をn倍する第1乗算器と、前記第4スイッチの出力に、第kユニットの1次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を加算して第kユニットの1次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第3加算器と、前記第4スイッチの出力から、第kユニットの1次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を減算して第kユニットの1次側のマイナス側パルス幅指令値として出力する第5減算器と、前記第5スイッチの出力に、第kユニットの2次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を加算して第kユニットの2次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第4加算器と、前記第5スイッチの出力から、第kユニットの2次側交流電流検出値の直流成分を増幅した値を減算して第kユニットの2次側のマイナス側パルス幅指令値として出力する第6減算器と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
また、他の態様として、前記制御部は、前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットが出力する電流の直流成分を大きくすることを特徴とする。
【0026】
また、他の態様として、前記制御部は、電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が全ユニットのうち最小以外のユニットで、当該ユニットが出力する電流の直流成分を大きくすることを特徴とする。
【0027】
また、他の態様として、第kユニットの前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値と、全ユニットのうち前記1次側直流コンデンサと前記2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値の最小値と、の偏差である第2エネルギー偏差を算出する第9減算器と、前記第2エネルギー偏差を増幅する第3アンプと、第kユニットの1次側パルス幅指令値と第kユニットの2次側パルス幅指令値のうち小さい方に前記第3アンプの出力を加算する第7加算器と、前記第7加算器の出力を上限値、下限値内に制限する第1リミッタと、前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を算出する第10減算器と、第kユニットの前記1次側パルス幅指令値と第kユニットの前記2次側パルス幅指令値のうち大きい方から、前記第1リミッタの入力値と出力値の差分を減算する第11減算器と、前記第11減算器の出力を上限値、下限値内に制限する第2リミッタと、前記第2リミッタの入力値と出力値の差分を算出する第12減算器と、第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第2リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第1リミッタの出力を出力する第4スイッチと、第kユニットの前記1次側パルス幅指令値が第kユニットの前記2次側パルス幅指令値よりも大きい場合、前記第1リミッタの出力を出力し、それ以外の場合前記第2リミッタの出力を出力する第5スイッチと、前記トランスの巻数比が1次巻線:2次巻線=1:nの時に、第kユニットの1次側交流電流検出値を1/n倍し、または、第kユニットの2次側交流電流検出値をn倍する第1乗算器と、前記第2リミッタの入力値と出力値の差分から、第kユニットの1次側交流電流検出値の直流成分を減算する第3減算器と、前記第2リミッタの入力値と出力値の差分の符号を反転した値から、第kユニットの2次側交流電流検出値の直流成分を減算する第4減算器と、前記第4スイッチの出力に、前記第3減算器の出力を増幅した値を加算して第kユニットの1次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第3加算器と、前記第4スイッチの出力から、前記第3減算器の出力を増幅した値を減算して第kユニットの1次側のマイナス側パルス幅指令値として出力する第5減算器と、前記第5スイッチの出力に、前記第4減算器の出力を増幅した値を加算して第kユニットの2次側のプラス側パルス幅指令値として出力する第4加算器と、前記第5スイッチの出力から、前記第4減算器の出力を増幅した値を減算して第kユニットの2次側マイナス側パルス幅指令値として出力する第6減算器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、両端が直列接続されたDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータにおいて、コンデンサ電圧バランスを均等にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態1~4におけるDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータの主回路構成を示す図。
図2】実施形態1~4の位相差指令値演算部を示すブロック図。
図3】実施形態1,2のパルス幅指令値演算部を示すブロック図。
図4】実施形態1~4のゲート信号生成部を示すブロック図。
図5】第kユニットの1次側交流電圧V1kと第kユニットの2次側交流電圧V2kとゲート信号T2k1,T2k2,T2k3,T2k4の例を示す図。
図6】1次側から2次側へ電力を伝送するときの1次側直流コンデンサ電圧の影響を示す図。
図7】2次側から1次側へ電力を伝送するときの1次側直流コンデンサ電圧の影響を示す図。
図8】実施形態2のアンバランス電圧指令値演算部を示すブロック図。
図9】実施形態3のパルス幅指令値演算部を示すブロック図。
図10】実施形態4のパルス幅指令値演算部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本願発明におけるDAB方式双方向絶縁型DC/DCコンバータの実施形態1~4を図1図10に基づいて詳述する。
【0031】
[実施形態1]
本発明は図1の回路に適用することを前提とする。左側を1次側、右側を2次側としてm台のDABユニットを両側とも直列接続した構成である。1次側直流電源DC1と2次側直流電源DC2の間には第1~第mユニットが接続される。
【0032】
1次側直流電源DC1の両端間には、第1~第mユニットの1次側直流コンデンサC1が直列接続される。各ユニットの1次側直流コンデンサC1の両端間には、それぞれ第1,第2スイッチング素子S1,S2が直列接続される。また、各ユニットの1次側直流コンデンサC1の両端間には、第3,第4スイッチング素子S3,S4が直列接続される。第1~第4スイッチング素子S1~S4を第1インバータとする。
【0033】
2次側直流電源DC2の両端間には、第1~第mユニットの2次側直流コンデンサC2が直列接続される。各ユニットの2次側直流コンデンサC2の両端間には、それぞれ第5,第6スイッチング素子S5,S6が直列接続される。また、各ユニットの2次側直流コンデンサC2の両端間には、第7,第8スイッチング素子S7,S8が直列接続される。第5~第8スイッチング素子S5~S8を第2インバータとする。
【0034】
なお、図1では、第1~第8スイッチング素子にコンデンサが並列接続されているが、このコンデンサは省略することも可能である。
【0035】
第1,第2スイッチング素子S1,S2の接続点にはリアクトルL1の一端が接続される。第3,第4スイッチング素子S3,S4の接続点にはリアクトルL2の一端が接続される。第5,第6スイッチング素子S5,S6の接続点にはリアクトルL3の一端が接続される。第7,第8スイッチング素子S7,S8の接続点にはリアクトルL4の一端が接続される。
【0036】
リアクトルL1の他端とリアクトルL2の他端との間にはトランスTrの1次巻線が接続される。リアクトルL3の他端とリアクトルL4の他端との間にはトランスTrの2次巻線が接続される。第1インバータ、第2インバータ、トランスTrで1つのユニットとする。本実施形態1では、第1~第m(m:2以上の整数)ユニットを備えるものとする。
【0037】
図1では、第1インバータ,第2インバータとトランスTrと間に直列にリアクトルL1~L4を接続しているが、リアクトルL1~L4の代わりにトランスTrの漏れインダクタンスとしてもよい。また、リアクトルL1~L4とトランスTrの漏れインダクタンスの両方としてもよい。
【0038】
なお、1次側直流電源DC1の電圧をVdc1,2次側直流電源DC2の電圧をVdc2,第1~第mユニットの1次側直流コンデンサC1の1次側直流コンデンサ電圧をVdc11~Vdc1m,第1~第mユニットの2次側直流コンデンサC2の2次側直流コンデンサ電圧をVdc21~Vdc2m,第kユニットの1次側交流電圧をV1k、第kユニットの2次側交流電圧をV2k、第kユニットの1次側交流電流をi1k、第kユニットの2次側交流電流をi2kとする。ここで、k=1~mの整数とする。
【0039】
図2~4に本実施形態1における図1の回路構成の第kユニットの制御部のブロック図を示す。制御部は第1,第2インバータのゲート信号を生成する。図2は第kユニットの位相差指令値(θk)演算部のブロック図である。
【0040】
第1ローパスフィルタLPF1は、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kから基本波の2倍の周波数のリプルやノイズなどを除去する。
【0041】
1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgは1次側直流コンデンサ電圧Vdc11~Vdc1mの合計または1次側直流電圧Vdc1のどちらかをユニットの台数mで割った値である。
【0042】
第1減算器1は、第1ローパスフィルタLPF1を適用した第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kと第kユニットのアンバランス電圧指令値Vdck*の和から1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgを減算し、第kユニットの1次側電圧偏差を求める。本実施形態1では、Vdck*=0である。
【0043】
第2ローパスフィルタLPF2は、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kから基本波の2倍の周波数のリプルやノイズなどを除去する。2次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc2avgは2次側直流コンデンサ電圧Vdc21~Vdc2mの合計または2次側直流電圧Vdc2のどちらかをユニットの台数mで割った値である。
【0044】
第2減算器2は、第2ローパスフィルタLPF2を適用した第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kと第kユニットのアンバランス電圧指令値Vdck*の和から2次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc2avgを減算し、第kユニットの2次側電圧偏差を求める。
【0045】
図2のP*は、1次側と2次側間で伝送される電力指令値である。電力指令値P*がプラスならば電力は1次側から2次側に伝送され、マイナスならば電力は2次側から1次側に伝送される。電力指令値P*は外部から与えられる他、1次側直流電圧Vdc1または2次側直流電圧Vdc2どちらかの電圧制御や電流制御によって得られる場合もある。
【0046】
第1比較器3は、電力指令値P*がプラスであるか否かを判断する。巻数比演算器4は、第2減算器2の出力(2次側電圧偏差)にトランスTrの巻数比の逆数に-1を乗算した値を乗算する。また、巻数比演算器4は、第2減算器2の出力(2次側電圧偏差)に-1を乗算し、第1減算器1の出力(1次側電圧偏差)にトランスTrの巻数比nを乗算してもよい。ここで、トランスTrの巻数比は1次側:2次側=1:nとする。
【0047】
第1スイッチSW1は、電力指令値P*がプラスならば第kユニットの1次側電圧偏差を、電力指令値P*が零またはマイナスならば巻数比演算器4の出力を出力する。
【0048】
第1スイッチSW1の頻繁な切り替わりを防ぐため、電力指令値P*が零付近ならば直前のスイッチの状態を維持させヒステリシス特性を持たせてもよい。また、電力指令値P*が零ならば、第kユニットの1次側電圧偏差と第kユニットの2次側電圧偏差の平均値を出力してもよい。
【0049】
第1アンプ5は、第1スイッチSW1の出力を増幅し第kユニットの位相θkbを出力する。今回は例として以下の2つを併用する。
【0050】
比例アンプP1は、第1スイッチSW1の出力に比例した値を出力する。ゲイン付き一次遅れフィルタ5aは、第1スイッチSW1の出力の低周波数成分を増幅する。
【0051】
第1加算器6は、以上2つのアンプ出力を加算して位相θkbを出力する。第2加算器7は、位相θkbに別途与えられる位相指令値θ*を加算し、第kユニットの位相差指令値θkを出力する。
【0052】
位相指令値θ*は直流側の電流や電圧のフィードバック制御によって与えられる場合もある。電力指令値P*と第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1k,第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kから計算により求める場合もある。
【0053】
ここでは、位相θkb,位相指令値θ*,第kユニットの位相差指令値θkはプラスの時に第kユニットの1次側交流電圧V1kの位相が第kユニットの2次側交流電圧V2kに対して進みとなり、電力は1次側から2次側に伝送されるものとする
図3にパルス幅指令値(W1kp,W1km,W2kp,W2km)演算部のブロック図を示す。
【0054】
第3ローパスフィルタLPF3は、第kユニットの1次側交流電流検出値i1kの直流成分を抽出する。
【0055】
第1乗算器8は、第kユニットの2次側交流電流検出値i2kに巻数比nを乗算する。第4ローパスフィルタLPF4は、第1乗算器8の出力(n×i2k)から直流成分を抽出する。
【0056】
なお、図3では、第kユニットの2次側交流電流検出値i2kにトランスTrの巻数比nを乗算したが、第kユニットの1次側交流電流検出値i1kに巻数比nの逆数(1/n)を乗算してもよい。ここで、トランスTrの巻数比は1次側:2次側=1:nとする。
【0057】
第3減算器9は、直流成分指令値から第3ローパスフィルタLPF3の出力を減算し偏差を求める。第4減算器10は、直流成分指令値から第4ローパスフィルタLPF4の出力を減算し偏差を求める。実施形態1,2,3では、直流成分指令値は零である。
【0058】
PIアンプ11は、第3減算器9で求めた偏差を増幅する。PIアンプ12は、第4減算器10で求めた偏差を増幅する。
【0059】
第3加算器13は、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1kと、第kユニットの1次側交流電流検出値i1kを入力としたPIアンプ11の出力を加算し、第kユニットの1次側のプラス側パルス幅指令値W1kpを出力する。
【0060】
第5減算器14は、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1kから、第kユニットの1次側交流電流検出値i1kを入力としたPIアンプ11の出力を減算し、第kユニットの1次側のマイナス側パルス幅指令値W1kmを出力する。
【0061】
第4加算器15は、第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kと、第kユニットの2次側交流電流検出値i2kを入力としたPIアンプ12の出力を加算し、第kユニットの2次側のプラス側パルス幅指令値W2kpを出力する。
【0062】
第6減算器16は、第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kから、第kユニットの2次側交流電流検出値i2kを入力としたPIアンプ12の出力を減算し、第kユニットの2次側のマイナス側パルス幅指令値W2kmを出力する。
【0063】
図4にゲート信号生成部のブロック図を示す。
【0064】
第2乗算器17は、第kユニットの位相差指令値θkを0.5倍する。第3乗算器18は、第2乗算器17の出力(0.5θk)に-1を乗算して符号を反転させる。
【0065】
ゲート生成器19は、第2乗算器17の出力(0.5θk)と、前述した第kユニットの1次側のプラス側パルス幅指令値W1kp、第kユニットの1次側のマイナス側パルス幅指令値W1kmを入力し、デッドタイムを付加してゲート信号T1k1,T1k2,T1k3,T1k4を出力する。ゲート信号T1k1が第1スイッチング素子S1を、ゲート信号T1k2は第2スイッチング素子S2を、ゲート信号T1k3は第3スイッチング素子S3を、ゲート信号T1k4は第4スイッチング素子S4を制御する。
【0066】
ゲート生成器20は、第3乗算器18の出力(-0.5θk)と、第kユニットの2次側のプラス側パルス幅指令値W2kp、第kユニットの2次側のマイナス側パルス幅指令値W2kmを入力し、デッドタイムを付加してゲート信号T2k1,T2k2,T2k3,T2k4を出力する。ゲート信号T2k1が第5スイッチング素子S5を、ゲート信号T2k2は第6スイッチング素子S6を、ゲート信号T2k3は第7スイッチング素子S7を、ゲート信号T2k4は第8スイッチング素子S8を制御する。
【0067】
図5に第kユニットの1次側交流電圧V1kと第kユニットの2次側交流電圧V2kとゲート信号T2k1,T2k2,T2k3,T2k4の例を示す。この例では第kユニットの位相差指令値θkはプラスであり、第kユニットの1次側交流電圧V1kの位相が第kユニットの2次側交流電圧V2kに対して進み、電力は1次側から2次側に伝送される。
【0068】
本実施形態1では、ある程度の電力伝送が行われている条件下でのコンデンサ電圧のバランス制御を示す。図6図7を用いてバランス制御の方針を説明する。
【0069】
図6は、図1から1次側のみを抽出したものである。電力は1次側から2次側に伝送され、各ユニットの伝送電力は等しいとする。第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kは1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgよりも過剰であり、第mユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1mが1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgよりも不足している場合を考える。
【0070】
DABユニットは直列接続であるため、各ユニットを流れる直流電流は一定である。第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kは他のユニットの1次側直流コンデンサ電圧よりも大きいため、第kユニットが入力する電力も増加する。しかし、第kユニットが2次側に伝送する電力は他のユニットと等しいため、入力電力は過剰となり1次側直流コンデンサC1に充電され、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kはさらに増加してしまう。
【0071】
第mユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1mは他のユニットの1次側直流コンデンサ電圧よりも小さく、第mユニットが入力する電力は減少する。他のユニットと等しい電力を伝送するには第mユニットの1次側直流コンデンサC1を放電することになり、第mユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1mはさらに減少してしまう。
【0072】
以上より、電力が1次側から2次側に伝送される場合、1次側直流コンデンサC1の電圧バランスは不安定であり、制御を必要とする。
【0073】
一方、図7に示すように電力が2次側から1次側に伝送される場合を考える。図7図1から1次側のみを抽出したものである。第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kは他のユニットの1次側直流コンデンサ電圧よりも大きく、第kユニットが出力する電力も増加する。しかし、第kユニットが2次側から受け取る電力は他のユニットに等しいため、出力電力に対して入力電力は不足しその分は第kユニットの1次側直流コンデンサC1の放電によって補われる。そのため第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kは減少する。
【0074】
第mユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1mは他のユニットの1次側直流コンデンサ電圧よりも小さく、第mユニットが出力する電力も減少する。第mユニットが2次側から受け取る電力は他のユニットに等しいため、第mユニットが2次側から受け取る電力は出力に対して過剰となり、過剰分は第mユニットの1次側直流コンデンサC1に充電され第mユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1mは増加する。
【0075】
以上より、電力が2次側から1次側に伝送される場合、1次側直流コンデンサC1の電圧バランスは安定であり、ある程度の偏差は生じるが制御不要で自発的にバランスする。このバランス効果は伝送電力が大きくなるほど高くなるが、伝送電力が小さければバランスしにくくなり偏差が大きくなる。伝送電力が零であればバランス効果もなくなり不安定になる。
【0076】
本実施形態1では、電力指令値P*がプラスで電力が1次側から2次側に伝送される場合には1次側直流コンデンサ電圧をバランスさせる。図2に示すように、電力指令値P*がプラスの場合第1スイッチSW1は上側に切り替わり、第1アンプ5には第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kと1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgとの偏差が入力される。
【0077】
第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kが過剰ならば偏差はプラスであり、第1アンプ5で増幅された位相θkbもプラスとなる。その結果、第kユニットの1次側交流電圧V1kの位相は第kユニットの2次側交流電圧V2kに対して進み、その位相差は他のユニットよりも大きくなる。第kユニットでは他のユニットよりも大きな電力が1次側から2次側に伝送され、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kが減少し偏差が小さくなる。
【0078】
第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kが不足していれば偏差はマイナスとなる。第kユニットが1次側から2次側に伝達する電力は他のユニットよりも小さくなり、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kが増加する。
【0079】
以上の動作により1次側コンデンサ電圧がバランスする。一方で、1次側コンデンサ電圧のバランスに必要な電荷は2次側コンデンサから供給するため2次側のコンデンサ電圧バランスは悪化する。
【0080】
しかし、前述したように2次側のコンデンサ電圧バランスは安定である。そのためある程度の偏差は生じるが、2次側コンデンサ電圧はユニットから伝送される電力と出力される電力の均衡がとれるところに収束する。
【0081】
電力指令値P*が零またはマイナスで電力が2次側から1次側に伝送される場合には2次側のコンデンサ電圧をバランスさせる。電力指令値P*がマイナスの場合は第1スイッチSW1は下側に切り替わり、第1アンプ5には第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kと2次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc2avgとの偏差が入力される。
【0082】
第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kが過剰ならば偏差はマイナスになり第1アンプ5で増幅された位相θkbもマイナスとなる。第kユニットの1次側交流電圧V1kの位相は第kユニットの2次側交流電圧V2kに対して遅れ、位相差は他のユニットよりも大きくなる。第kユニットでは他のユニットよりも大きな電力が2次側から1次側に伝送され、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kが減少する。
【0083】
第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kが不足していれば偏差はプラスとなる。第kユニットが1次側から2次側に伝送する電力は他のユニットよりも小さくなり、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kが増加する。
【0084】
1次側直流コンデンサC1の電圧バランスは制御を行わないが自発的に安定となる。
【0085】
図2の第1アンプ5には積分器を使用していない。この理由を説明する。積分器は直流のゲインが無限となり、直流の偏差を零にして制御対象であるコンデンサ電圧を指令値に等しくするという特徴がある。
【0086】
しかし、今回の制御対象である図1では、ユニットコンデンサ電圧の合計(1次側ではVdc1)は接続された電圧源や別途用意する直流電流一定制御など外部の要因によって決定する。そのためm-1台のユニットコンデンサ電圧が決定すれば、残り1台のコンデンサ電圧は必然的に決定される。制御対象の自由度はm-1であるが、これにm個の制御器で制御を行うと自由度が不足し制御が不安定になる。
【0087】
特に検出器に誤差がある場合には、あるユニットの積分アンプが誤差も含めた偏差を零にしようと出力を増加し、それが他のユニットの偏差を増加させることになりそのユニットの積分アンプが出力を増加、とアンプ出力が際限なく増加してしまう恐れがある。
【0088】
その対策として、直流のゲインを有限に抑えわずかではあるが残った偏差を許容するように比例アンプP1とゲイン付き一次遅れフィルタ5aで制御を行う。他の対策としては、m-1台のユニットで図2のアンプをPIアンプに置換したバランス制御を行い、残りのユニット(例えば第1ユニット)では図2のバランス制御を行わず位相θ1bを零で固定してもよい。
【0089】
図2では電力指令値P*が零の場合は2次側直流コンデンサ電圧をバランスさせるが、1次側直流コンデンサ電圧をバランスさせてもよい。無負荷での待機状態など電力指令値P*が零に近く頻繁に符号が変わる場合には、位相θkbの急変の頻発を防ぐために第1スイッチSW1の切り替わりにヒステリシス特性を持たせてもよい。
【0090】
本実施形態1では、各ユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が等しくなるように各ユニットの第1インバータと第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御する。
【0091】
1次側電圧偏差と2次側電圧偏差の平均値を第1アンプ5に入力して制御を行ってもよい。すなわち、第1アンプ5は、電力指令値P*が第1閾値よりも大きい場合は1次側電圧偏差を増幅し、電力指令値P*が第2閾値よりも小さい場合は2次側電圧偏差を増幅し、電力指令値P*が第2閾値以上第1閾値未満の場合は1次側電圧偏差または2次側電圧偏差のどちらか、あるいは両方(平均値)の和を増幅し、あるいは0を第kユニットの位相θkbとして出力する。
【0092】
ただし、本実施形態1単独では電力指令値P*=0においてコンデンサ電圧をバランスすることができない。この問題には、後述する実施形態3と組み合わせる必要がある。
【0093】
本実施形態1は、伝送される電力の絶対値が十分大きければ制御を行わない側のコンデンサ電圧のバランス偏差を十分小さく保つことができる。しかし、負荷が軽くなり伝送電力の絶対値が小さくなると偏差が大きくなってしまうという問題がある。
【0094】
以上示したように、本実施形態1によれば、ある程度伝送電力が大きな条件では1次側・2次側両方の直流コンデンサ電圧のバランスを保つことができる。
【0095】
また、特定のユニットへの電圧責務集中を防ぎ、過電圧による過熱や部品の破損、サージによるスイッチング素子の破損を防ぐことができる。
【0096】
また、部品の耐圧を高くする必要がなくなりコストを下げることができる。また、従来技術に比べて補助回路が不要のため、コスト低減の他に装置を小型化できる。
【0097】
[実施形態2]
図8に、本実施形態2における第kユニットのアンバランス電圧指令値(Vdck*)演算部のブロック図を示す。
【0098】
第5ローパスフィルタLPF5は、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kの基本波の2倍の周波数のリプルやノイズなどを除去して直流成分を抽出する。第6ローパスフィルタLPF6は、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kの直流成分を抽出する。
【0099】
第4乗算器21は、第5ローパスフィルタLPF5を適用した第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kの自乗を求める。第5乗算器22は、第6ローパスフィルタLPF6を適用した第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kの自乗を求める。
【0100】
第6乗算器23は、第4乗算器21の出力に、1次側コンデンサ容量C1を2で割った値を乗算する。第7乗算器24は、第5乗算器22の出力に、2次側コンデンサ容量C2を2で割った値を乗算する。
【0101】
第5加算器25は、第6,第7乗算器23,24の出力を加算し、第kユニットの両側に接続された1次側直流コンデンサC1と2次側直流コンデンサC2に蓄積されたエネルギー合計値Ekを求める。
【0102】
第7減算器26は、エネルギー合計値Ekと、全ユニットの1次側直流コンデンサC1と2次側直流コンデンサC2に蓄積されたエネルギー合計値の平均値Eavgと、の偏差である第1エネルギー偏差を求める。
【0103】
第2アンプ27は、第7減算器26の出力にゲインG2をかけて増幅する。ゲインG2は固定値とするほか、図8に示したように、ゲイン調整器28において、電力指令値P*が零付近の時は小さくするなど、電力指令値P*に基づいて値を変化させてもよい。第2アンプ27の出力がアンバランス電圧指令値Vdck*となる。
【0104】
本実施形態2では、実施形態1の問題点の1つである軽負荷時の偏差を小さくする方法を説明する。
【0105】
本実施形態2では、まず第kユニットの1次側直流コンデンサC1と2次側直流コンデンサC2に蓄積されたエネルギー合計値Ekを求める。次に、同様に求めた各ユニットのエネルギー合計値の平均値Eavgとエネルギー合計値Ekとの偏差を計算する。これをゲインG2で増幅し、得られた値を第kユニットのアンバランス電圧指令値Vdck*とする。
【0106】
本実施形態2の動作を説明する。例としてP*>0で1次側直流コンデンサ電圧が制御対象とする。このとき、Vdc11~Vdc1mは実施形態1の制御によりほぼ等しい値となるため、1次側直流コンデンサの蓄積エネルギーはほぼ等しくなる。
【0107】
エネルギー合計値Ekには、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kの大きさが反映される。第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kが2次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc2avgよりも大きい場合、エネルギー合計値Ekもエネルギー合計値の平均値Eavgより大きくなり、アンバランス電圧指令値Vdck*はプラスとなる。
【0108】
このアンバランス電圧指令値Vdck*が図2の第1,第2減算器1,2に入力される。第1減算器1は、第1ローパスフィルタLPF1を適用した第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kと第kユニットのアンバランス電圧指令値Vdck*の和から1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgを減算し、第kユニットの1次側電圧偏差を求める。
【0109】
第2減算器2は、第2ローパスフィルタLPF2を適用した第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kと第kユニットのアンバランス電圧指令値Vdck*の和から2次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc2avgを減算し、第kユニットの2次側電圧偏差を求める。
【0110】
その結果、バランス制御の指令値(Vdc1avg-Vdck*)は小さくなり第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kも減少する。各ユニットを流れる直流電流は一定であるため、第kユニットが1次側直流電圧Vdc1から受け取る電力は減少する。第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kは制御対象であるため、受け取る電力の減少は第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kの大きさに反映され、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kは減少し2次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc2avgに近づけることができる。
【0111】
P*<0で2次側コンデンサ電圧が実施形態1の制御対象の場合、エネルギー合計値Ekには第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kの大きさが反映される。第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kが1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgよりも小さい場合、エネルギー合計値Ekもエネルギー合計値の平均値Eavgより小さくなり、アンバランス電圧指令値Vdck*はマイナスとなる。
【0112】
このアンバランス電圧指令値Vdck*が図2の第1,第2減算器1,2に入力され、前述のように演算が行われる。その結果、バランス制御の指令値(Vdc2avg-Vdck*)は大きくなり第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kも増加する。第kユニットが2次側直流電圧Vdc2から受け取る電力は増加し、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kを増加させ1次側直流コンデンサ電圧平均値Vdc1avgに近づけることができる。
【0113】
本実施形態2では、P*>0における1次側およびP*<0における2次側、すなわち電力伝送の上流側のコンデンサ電圧バランス偏差を意図的に少しだけ発生させる。これにより、P*>0における2次側およびP*<0における1次側、すなわち下流側のコンデンサ電圧バランス偏差を改善することができる。
【0114】
本実施形態2では、第k(k=1~mの整数)ユニットの1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値Ekが他のユニットに比べて大きい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が小さくなるよう第kユニットの第1インバータと第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御し、第kユニットの1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値Ekが他のユニットに比べて小さい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が大きくなるよう第kユニットの第1インバータと第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御する。
【0115】
本実施形態2では、第2アンプ27の入力が電力伝送の下流側コンデンサ電圧ではなくユニットの1次側直流コンデンサC1と2次側直流コンデンサC2に蓄積されたエネルギー合計値としている。その理由を説明する。P*>0の場合、第2アンプ27の入力をVdc2k-Vdc2avgとすることも考えられる。
【0116】
しかし、例えば第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kが大きい場合、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kを小さくすることで第kユニットの2次側直流コンデンサC2が受け取る電力を減少させる。しかし、第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kを下げるには第kユニットの1次側直流コンデンサC1を放電することになる。放電された電荷はDABコンバータを経由して第kユニットの2次側直流コンデンサC2に移動するため、第kユニットの2次側直流コンデンサ電圧Vdc2kはさらに増加してしまう。
【0117】
すると、前述の動作により第kユニットの1次側直流コンデンサ電圧Vdc1kをさらに小さくしようとしてしまう。そのため、制御系が不安定になりやすくなり、ゲインG2には大きな値を設定できず効果は非常に小さくなってしまう。
【0118】
一方、1次側直流コンデンサC1と2次側直流コンデンサC2に蓄積されたエネルギー合計値Ekならばコンデンサ電圧とは異なり電荷を移動しても一定であるため、制御系は安定しやすく高いゲインを設定でき十分な効果を得ることができる。
【0119】
前述したように、第2アンプ27の入力をエネルギー合計値Ekとした方が望ましいが、第2アンプ27の入力を下流側の直流コンデンサ電圧としてもよい。この場合、第kユニットの電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が他のユニットに比べて大きい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が小さくなるよう第kユニットの第1インバータ、第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御し、第kユニットの電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が他のユニットに比べて小さい場合に第kユニットの電力伝送の上流側の直流コンデンサ電圧が大きくなるよう第kユニットの第1インバータ、第2インバータが出力する交流電圧の位相差を制御する。
【0120】
本実施形態2では負荷があれば効果を得られるが、無負荷では電力伝送の上流側のコンデンサ電圧を変更しても受け取る電力が零で差が生じないため、効果が得られない。そのため、電力指令値P*が零付近の場合はゲインG2を零にして不要な偏差を発生させないようにしてもよい。
【0121】
本実施形態2は、実施形態1と組み合わせることで伝送される電力の絶対値が小さくてもコンデンサ電圧のバランス偏差を十分小さく保つことができる。しかし、無負荷の場合では制御手段を喪失し偏差が大きくなってしまうという問題がある。
【0122】
実施形態1と実施形態2を併用することにより、伝送電力が小さな条件においても1次側・2次側両方の直流コンデンサの電圧バランスを保つことができる。
【0123】
実施形態1に比べると、バランスを均等にできた側は少しだけバランスが悪化してしまうが、実施形態1では偏差が生じてしまった側の電圧バランスを改善することができる。
【0124】
これにより、部品の耐圧を実施形態1よりも小さくできる。実施形態3を単独で、または実施形態1と併用した場合と比較して、伝送電力が小さな条件での損失を低くすることができる。
【0125】
[実施形態3]
図9に本実施形態3のパルス幅指令値(W1kp,W1km,W2kp,W2km)演算部のブロック図を示す。図9図3に対して以下の点が異なる。
【0126】
本実施形態3では、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1k,第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kは以下のように求めることを想定している。
【0127】
1次側直流電圧Vdc1と巻線比を考慮した2次側直流電圧Vdc2/nを比較し、電圧が小さい方のパルス幅指令値は、例えば0.7~1程度の1に近い固定値とする。または、電力指令値P*が零に近いときは小さく、電力指令値P*が零から離れるほど大きくなる上限を0.7~1程度とした可変値としてもよい。
【0128】
また、電圧が大きい方のパルス幅指令値は以下の(1)式のW1とする。なお、(1)式のW2は電圧が小さい方のパルス幅指令値である。また、(1)式のθは、電力指令値P*と、2次側直流電圧Vdc2と2次側直流電流Idc2の積をローパスフィルタでノイズを除去した値と、の偏差をPIアンプで増幅した値である。
【0129】
【数1】
【0130】
第8減算器29は、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1kから第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kを減算する。第2比較器30は、第8減算器29の出力を入力し、W1k>W2kかどうかを判定する。第2比較器30は、後述するスイッチの頻繁な切り替わりを避けるためヒステリシス特性を持たせてもよい。
【0131】
第2スイッチSW2は、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1k,第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kを入力し、W1k>W2kならW2k、W1k≦W2kならW1k、すなわちW1kとW2kのうち小さい方を出力する。第3スイッチSW3は、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1k,第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kを入力し、W1k>W2kならW1k、W1k≦W2kならW2k、すなわちW1kとW2kのうち大きい方を出力する。
【0132】
第9減算器31は、第kユニットの1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値Ekと、各ユニットの1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値のうち全ユニット中の最小値Eminと、の偏差である第2エネルギー偏差を求める。
【0133】
第2エネルギー偏差を増幅する第3アンプ32は、今回は例として以下の2つを併用する。比例アンプP2は、第9減算器31で求めた第2エネルギー偏差に比例した値を出力する。ゲイン付き一次遅れフィルタ32aは、第9減算器31で求めた第2エネルギー偏差の低周波数成分を増幅する。第6加算器33は、比例アンプP2の出力とゲイン付き一次遅れフィルタ32aの出力を加算する。
【0134】
第7加算器34は、第3アンプ32の出力と第2スイッチSW2の出力を加算する。第1リミッタ35は第7加算器34の出力を制限する。第1リミッタ35の上限は通常1,下限は0.2など零よりも大きな値である。上限は1より少し小さな値としてもよい。
【0135】
第10減算器36は、第1リミッタ35の入力と出力の差分を求め、第1リミッタ35を超過した値を出力する。第11減算器37は、第3スイッチSW3の出力から第10減算器36の出力を減算する。第2リミッタ38は、第11減算器37の出力を制限する。第2リミッタ38の上限・下限の設定は、第1リミッタ35と同様である。
【0136】
第4スイッチSW4は、第1リミッタ35,第2リミッタ38両方の出力を入力し、W1k>W2kならば第2リミッタ38の出力を出力し、それ以外ならば第1リミッタ35の出力を出力する。
【0137】
第4スイッチSW4の出力する値は、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1kと第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kの大小関係に依存せず、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1kにアンプ出力が加算された値である。
【0138】
第5スイッチSW5は、第1リミッタ35,第2リミッタ38両方の出力を入力し、W1k>W2kならば第1リミッタ35の出力を出力し、それ以外ならば第2リミッタ38の出力を出力する。
【0139】
第5スイッチSW5の出力する値は、第kユニットの1次側パルス幅指令値W1kと第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kの大小関係に依存せず、第kユニットの2次側パルス幅指令値W2kからアンプ出力が減算された値である。
【0140】
第3加算器13は、第4スイッチSW4の出力に第kユニットの1次側交流電流検出値i1kの直流成分をPIアンプ11で増幅した値を加算し、1次側のプラス側パルス幅指令値W1kpとして出力する。第5減算器14は、第4スイッチSW4の出力から第kユニットの1次側交流電流検出値i1kの直流成分をPIアンプ11で増幅した値を減算し、1次側のマイナス側パルス幅指令値W1kmとして出力する。
【0141】
第4加算器15は、第5スイッチSW5の出力に第kユニットの2次側交流電流検出値i2kの直流成分をPIアンプ12で増幅した値を加算し、2次側のプラス側パルス幅指令値W2kpとして出力する。第6減算器16は、第5スイッチSW5の出力から第kユニットの2次側交流電流検出値i2kの直流成分をPIアンプ12で増幅した値を減算し、2次側のマイナス側パルス幅指令値W2kmとして出力する。
【0142】
本実施形態3では、これまでの実施形態1,2の問題点であった無負荷時のコンデンサ電圧のバランス偏差を小さくする方法を説明する。
【0143】
本実施形態3の動作を説明する。まず、実施形態2と同様に第kユニットの1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値Ekを計算し入力する。また、各ユニットの1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値のうち全ユニット中の最小値Eminを求め、第kユニットのエネルギー合計値Ekとの偏差である第2エネルギー偏差を第3アンプ32に入力する。
【0144】
第3アンプ32の出力に基づいて第kユニットの1次側交流電圧V1k,第kユニットの2次側交流電圧V2kのパルス幅を操作する。操作は、まずパルス幅の狭い方を広げ、リミッタを超過したらパルス幅の広い方を狭くする。
【0145】
2次側直流電圧Vdc2が小さく2次側パルス幅指令値W2k=0.7~1、1次側直流電圧Vdc1が大きく1次側パルス幅指令値W1k=(1)式とし、かつ第kユニットの直流コンデンサ蓄積エネルギー合計値Ekが最小ではない場合を例に本実施形態3の動作を説明する。このとき、第kユニットの2次側インバータ出力電圧のパルス幅は広く設定され交流側は力率1で動作する。1次側インバータ出力電圧はパルス幅が狭く設定されトランスやリアクトルに供給する無効電力をすべて分担する。
【0146】
これにより1次側交流電流検出値i1k,2次側交流電流検出値i2kを小さくして銅損や導通損を低減する。ここで、パルス幅の狭い第kユニットの1次側インバータ出力電圧のパルス幅を広げることで、交流側に供給される無効電力は過剰になり、第kユニットの2次側インバータは進み力率で運転する。
【0147】
不要な無効電力のやりとりが発生することにより1次側交流電流検出値i1k,2次側交流電流検出値i2kの振幅が増加し銅損や導通損も増加、コンデンサ電圧の放電を促す。
【0148】
第kユニットの1次側インバータ出力電圧のパルス幅を1まで広げてもコンデンサ電圧の放電が不十分な場合、第kユニットの2次側インバータ出力電圧のパルス幅を狭くする。これにより交流側に供給される無効電力をさらに大きくし、コンデンサ電圧をさらに小さくすることができる。
【0149】
コンデンサ蓄積エネルギーが最小のユニットはパルス幅の変更が行われず、2次側パルス幅指令値W2k=0.7~1、1次側パルス幅指令値W1k=(1)式と同じ動作になり、損失を小さくしてコンデンサの放電を抑制する。以上の動作によりコンデンサ電圧のバランスを改善する。
【0150】
本実施形態3では、1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値Ekが最小以外のユニットで、当該ユニットの出力する無効電力が大きくなるように(運転力率を低下させるように)1次側パルス幅指令値W1kと2次側パルス幅指令値W2kのうち小さい方のパルス幅を広げ、または、大きい方のパルス幅を狭め、または両方行って、1次側パルス幅指令値W1kと2次側パルス幅指令値W2kを補正し、1次側のプラス側パルス幅指令値W1kp、1次側のマイナス側パルス幅指令値W1km、2次側のプラス側パルス幅指令値W2kp、2次側のマイナス側パルス幅指令値W2kmとして出力する。
【0151】
また、第kユニットの電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が最小以外のユニットで、当該ユニットの出力する無効電力が大きくなるように(運転力率を低下させるように)1次側パルス幅指令値W1kと2次側パルス幅指令値W2kのうち小さい方のパルス幅を広げ、または、大きい方のパルス幅を狭め、または両方行って、1次側パルス幅指令値W1kと2次側パルス幅指令値W2kを補正し、1次側のプラス側パルス幅指令値W1kp、1次側のマイナス側パルス幅指令値W1km、2次側のプラス側パルス幅指令値W2kp、2次側のマイナス側パルス幅指令値W2kmとして出力してもよい。
【0152】
本実施形態3では、パルス幅に第1,第2リミッタ35,38を設定している。第1,第2リミッタ35,38の上限は通常1であるが、0.7~0.95程度に設定してもよい。第1,第2リミッタ35,38の下限を0に設定すると交流側電圧が出力されず電力伝送ができなくなり制御不能に陥る。そのため例えば0.2程度など0より大きな値に設定する。
【0153】
本実施形態3ではパルス幅の操作として狭い方を広げることを優先しているが、逆に広い方を狭くすることを優先してもよい。また、両方を均等に操作してもよい。
【0154】
本実施形態3の第3アンプ32のゲインP2,ゲインG2は一定としている。しかし、実施形態1,2により負荷がある状態ならば実施形態3を適用しなくてもコンデンサ電圧をバランスさせることができる。そのため、電力指令値P*が0でなければゲインを0に切り替えてもよく、損失を抑えることができる。電力指令値P*の絶対値が0.1以上などある程度大きな条件でゲインを0に設定してもよく、軽負荷でも意図的に損失を発生させることで効率は少し低下してしまうがコンデンサ電圧バランスの偏差を小さくすることもできる。ゲインの切り替えにはヒステリシス特性を持たせてもよく、電力指令値P*の絶対値に基づきゲインを変化させてもよい。
【0155】
実施形態3では意図的に損失を発生させるため、当然ユニットの熱責務が増加する。しかし、実施形態3の適用は無負荷あるいは軽負荷を想定し、このときの損失としては銅損・導通損・スイッチング損は非常に小さく鉄損を始めとする無負荷損が大半を占め、無負荷損が最大のユニットに合わせて他のユニットの損失を揃えているに過ぎず、損失の増加は小さい。
【0156】
例えば、トランスTrの鉄心にひびが入り該当箇所の磁束密度が増加しヒステリシス損が増加した、積層鋼板の絶縁が衝撃で破損し渦電流損が増加した、経年劣化でコンデンサの漏れ電流が増加した、などの異常による極端な損失増加が発生しない限り、冷却機構の大型化は不要である。
【0157】
本実施形態3によれば、伝送電力が零の条件においても1次側・2次側両方の直流コンデンサの電圧バランスを保ち運転を継続することができる。無負荷で待機する状況が頻発する用途においてもこの構成のコンバータを適用することができる。
【0158】
実施形態1や実施形態2と併用することで、伝送電力がある条件において損失は増加してしまうが直流コンデンサの電圧バランスの偏差をより小さくできる。
【0159】
また、ある程度伝送電力が大きな条件では本実施形態3の制御ゲインを小さくすることで本実施形態3を無効化し、効率低下を防ぐことができる。また、後述する実施形態4とは異なり直流側に発生するリプルは基本波周波数の2倍となるので、小さなフィルタで除去できる。
【0160】
[実施形態4]
図10に本実施形態4のパルス幅指令値(W1kp,W1km,W2kp,W2km)演算部のブロック図を示す。図10図9に対して以下の点が異なる。
【0161】
本実施形態4では、第12減算器39を追加している。第12減算器39は、第2リミッタ38の入力と出力の差分を求め、第2リミッタ38を超過した値を出力する。
【0162】
この第12減算器39の出力は、第kユニットの1次側交流電流の直流成分指令値とし、第3減算器9で用いる。また、第12減算器39の出力の符号を反転した信号は、第kユニットの2次側交流電流の直流成分指令値とし、第4減算器10で用いる。
【0163】
第3減算器9は第12減算器39の出力から第3ローパスフィルタLPF3の出力を減算する。第4減算器10は第12減算器39の出力の符号を反転した値から第4ローパスフィルタLPF4の出力を減算する。
【0164】
実施形態3は、パルス幅を変化させることで損失を意図的に増加させ無負荷時のコンデンサ電圧のバランス偏差を小さくする。しかし、変化させることのできるパルス幅に制限があり、上記のようなこれを上回るコンデンサ電圧バランス外乱が発生した場合には対処できない。
【0165】
本実施形態4は、無負荷においてより大きなバランス外乱が発生した場合でもコンデンサ電圧のバランス偏差を小さくする方法を説明する。
【0166】
実施形態3では、狭い方のパルス幅を広げる操作を行うが、操作量がリミッタを超過した分については広い方のパルス幅を狭くする操作を行い、ここでもリミッタを超過したらその分は操作を行わない。
【0167】
本実施形態4では、広い方のパルス幅を狭くする操作についてもリミッタを超過した分を検出し、超過分を第kユニットの1次側交流電流検出値i1k,第kユニットの2次側交流電流検出値i2kの直流成分の指令値とした。
【0168】
第kユニットの1次側交流電流検出値i1k,第kユニットの2次側交流電流検出値i2kに直流成分を重畳することでより大きな損失を発生させコンデンサを放電することができる。
【0169】
与える直流成分指令値は、第kユニットの1次側交流電流検出値i1kと第kユニットの2次側交流電流検出値i2kで逆向きに設定した。本実施形態4では、第1乗算器8は、1次側交流電流検出値i1kを1/n倍、または、2次側交流電流検出値i2kをn倍する。これにより高周波トランス内部の鉄心で1次側・2次側両方の電流により発生する磁束の直流成分が互いに打ち消し合うため、鉄心の磁気飽和を防ぐことができる。
【0170】
本実施形態4では、1次側直流コンデンサと2次側直流コンデンサに蓄積されたエネルギー合計値Ekが全ユニット中最小以外のユニットで、当該ユニットが出力する電流の直流成分が大きくなるように1次側パルス幅指令値W1kと2次側パルス幅指令値W2kを補正し、1次側のプラス側パルス幅指令値W1kp、1次側のマイナス側パルス幅指令値W1km、2次側のプラス側パルス幅指令値W2kp、2次側のマイナス側パルス幅指令値W2kmとして出力する。
【0171】
また、電力伝送の下流側の直流コンデンサ電圧が最小以外のユニットで、当該ユニットが出力する電流の直流成分が大きくなるように1次側パルス幅指令値W1kと2次側パルス幅指令値W2kを補正し、1次側のプラス側パルス幅指令値W1kp、1次側のマイナス側パルス幅指令値W1km、2次側のプラス側パルス幅指令値W2kp、2次側のマイナス側パルス幅指令値W2kmとして出力してもよい。
【0172】
本実施形態4では、損失を発生させる手段として交流側の無効電力増加の優先度を高く、交流電流への直流重畳の優先度を低くした。この理由を説明する。無効電力を増加すると、直流側には基本波周波数の2倍のリプルが発生する。直流重畳の場合は基本波周波数に等しい周波数のリプルが発生する。リプル周波数が低いと、同じコンデンサ容量でも電圧リプルの振幅が大きくなる、除去に大型のフィルタが必要になる、といった問題が生じる。そのため、発生するリプル周波数の高い手段を優先した。
【0173】
本実施形態4の適用が必要なほど大きなバランス外乱としては、トランスやコンデンサの異常の他、ユニット内への異物混入による放電、ユニットの絶縁破壊などが考えられる。そこで、第kユニットの1次側交流電流検出値i1k,第kユニットの2次側交流電流検出値i2kの直流成分指令値を積算してその値をメンテナンスなどで定期的に確認、積算値の大きなユニットが存在すれば他のユニットに劣化や異常が発生したと考え、最も積算値の小さなユニットを交換し故障を未然に防ぐといった運用を行うことも考えられる。
【0174】
本実施形態4によれば、伝送電力が零の条件においてより大きなバランス外乱が発生した場合でも1次側・2次側両方の直流コンデンサの電圧バランスを保ち運転を継続することができる。
【0175】
また、直流側には基本波周波数に等しい周波数のリプルが発生してしまうが、これを最小限に抑えることができる。
【0176】
なお、本発明は非特許文献1に示されているような複数台のDAB方式コンバータの一端がすべて直列接続され、もう一端が直列・並列接続を組み合わせた構成にも適用することができる。この場合、複数台のDAB方式コンバータのうち一端が直列に、もう一端が並列に接続した単位ユニットが複数直列接続されていると見なし、単位ユニット内部の直列コンデンサ電圧バランス制御は既存の制御法を適用する。各単位ユニットのコンデンサ電圧のバランス制御は本発明を適用する。
【0177】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0178】
DC1,DC2…1次側直流電源,2次側直流電源
C1,C2…1次側直流コンデンサ,2次側直流コンデンサ
L1~L4…リアクトル
Tr…トランス
LPF1~LPF4…第1~第4ローパスフィルタ
1,2…第1,第2減算器
3…第1比較器
4…巻数比演算器
SW1~SW5…第1~第5スイッチ
5…第1アンプ
6,7…第1,第2加算器
図1
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