(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028397
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】電気化学測定装置、電気化学測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
G01N27/416 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134077
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 和憲
(72)【発明者】
【氏名】中釜 達朗
(72)【発明者】
【氏名】柳川 輝
(72)【発明者】
【氏名】増野 彰紀
(57)【要約】
【課題】より多様な測定条件の下で電気化学測定を実行すること。
【解決手段】参照電極を基準電位にして、作用電極と対極との間の電位差を変化させることにより測定する三電極法に利用可能な電気化学測定装置であって、測定対象の物質を含む電解質溶液である第1溶液を保持する第1保持部と、前記物質の濃度が前記第1溶液よりも低い電解質溶液である第2溶液を保持する第2保持部と、を備える。前記第1溶液に第1作用電極および第1対極が浸漬され、前記第2溶液に前記参照電極が浸漬され、前記参照電極と前記第1対極とが同電位となるように電気的に接続される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照電極を基準電位にして、作用電極と対極との間の電位差を変化させることにより測定する三電極法に利用可能な電気化学測定装置であって、
測定対象の物質を含む電解質溶液である第1溶液を保持する第1保持部と、
前記物質の濃度が前記第1溶液よりも低い電解質溶液である第2溶液を保持する第2保持部と、
を備え、
前記第1溶液に第1作用電極および第1対極が浸漬され、
前記第2溶液に前記参照電極が浸漬され、
前記参照電極と前記第1対極とが同電位となるように電気的に接続された電気化学測定装置。
【請求項2】
前記第2溶液に第2作用電極が浸漬され、
前記第1作用電極と前記第2作用電極とが同電位となるように電気的に接続された請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項3】
前記第2溶液に第2対極が浸漬され、
前記第1対極と前記第2対極とが同電位となるように電気的に接続された請求項1又は請求項2に記載の電気化学測定装置。
【請求項4】
測定対象の物質を含む電解質溶液である第1溶液と、前記物質の濃度が前記第1溶液よりも低い電解質溶液である第2溶液とを用いる三電極法による電気化学測定方法であって、
前記第1溶液に作用電極および対極を浸漬し、
前記第2溶液に参照電極を浸漬し、
前記参照電極と前記対極とが同電位となるように電気的に接続する電気化学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学測定装置、電気化学測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学測定に関する研究は、基礎科学としての電気化学を発展させる上で重要であるだけではなく、電池、ディスプレイ、センサ等、産業分野への応用も可能であるため、非常に重要視されている。
【0003】
電気化学測定に関する技術の一例として、例えば、特許文献1に関する電気化学測定部が挙げられる。この電気化学測定部は、フロー測定用であり、1対の参照電極と作用電極を有するセルに別の作用電極を有する別のセルを1もしくは2以上連結したフロー測定用の電気化学測定部であり、前記電気化学測定部の上流側と下流側に1対の導電性材料よりなる電極を有し、この1対の導電性材料よりなる電極を同電位に保ち対極として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
しかし、この電気化学測定部は、参照電極を試料に浸漬する必要があるため、特殊な参照電極が使用可能である測定条件又は当該参照電極を正常に使用することができる測定条件の下でしか電気化学測定を実行することができない。また、仮に連結されたセル以外の槽等に参照電極を挿入し、セルと当該槽等とを塩橋、液絡等で接続した場合、これらの塩橋、液絡等を正常に使用することができる測定条件の下でしか電気化学測定を実行することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、より多様な測定条件の下で電気化学測定を実行することができる電気化学測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、参照電極を基準電位にして、作用電極と対極との間の電位差を変化させることにより測定する三電極法に利用可能な電気化学測定装置であって、測定対象の物質を含む電解質溶液である第1溶液を保持する第1保持部と、前記物質の濃度が前記第1溶液よりも低い電解質溶液である第2溶液を保持する第2保持部と、を備え、前記第1溶液に第1作用電極および第1対極が浸漬され、前記第2溶液に前記参照電極が浸漬され、前記参照電極と前記第1対極とが同電位となるように電気的に接続された電気化学測定装置である。
【0008】
本発明の他の態様は、測定対象の物質を含む電解質溶液である第1溶液と、前記物質の濃度が前記第1溶液よりも低い電解質溶液である第2溶液とを用いる三電極法による電気化学測定方法であって、前記第1溶液に作用電極および対極を浸漬し、前記第2溶液に参照電極を浸漬し、前記参照電極と前記対極とが同電位となるように電気的に接続する電気化学測定方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より多様な測定条件の下で電気化学測定を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る電気化学測定装置の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る電気化学測定装置の構成例を示す図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係る電気化学測定装置の構成例を示す図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
【
図7】比較用の電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
【
図8】比較用の電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電気化学測定装置の構成例を示す図である。
図1に示すように、電気化学測定装置1は、第1保持部11と、第1作用電極12と、第1対極13と、第2保持部21と、第2作用電極22と、参照電極30と、電位制御部40とを備える。
【0012】
第1保持部11は、測定物質の濃度が第1閾値以上である第1溶液L1を保持している電解槽である。第1溶液L1は、濃度が0.1M(モーラー)の硫酸ナトリウム水溶液であり、測定物質の一例として25.0mM(ミリモーラー)のフェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6])が溶解している電解質溶液である。また、ここで言う第1閾値は、例えば、2.5mMであり、後述する第2閾値よりも大きな閾値であり、当該第2閾値よりも十分に大きな閾値であることが好ましい。さらに、第1保持部11内に参照電極30が存在しないため、第1溶液L1が高温、高圧等の条件下にあってもよいし、第1保持部11が微小な電解槽であってもよい。
【0013】
第1作用電極12は、第1溶液L1に浸漬されている電極である。例えば、第1作用電極12は、円柱状の白金電極であり、側面が円筒状の被覆12Cで覆われている。被覆12Cは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:Poly Ether Ether Ketone)で作成されており、第1作用電極12の側面と被覆12Cとの間に第1溶液L1が浸入しないよう、第1作用電極12の側面に密着している。また、第1作用電極12の端面は、電気化学測定装置1を使用した電気化学測定が実行される前に研磨されており、第1溶液L1と接触している。
【0014】
第1対極13は、第1溶液L1に浸漬されている電極である。例えば、第1対極13は、円柱状の白金電極である。
【0015】
第2保持部21は、測定物質の濃度が第2閾値以下である第2溶液L2を保持している電解槽である。第2溶液L2は、濃度が0.1M(モーラー)の硫酸ナトリウム水溶液であり、測定物質の一例であるフェロシアン化カリウムが溶解していない。つまり、第2溶液L2は、電解質として硫酸ナトリウムを含む電解質溶液である。また、ここで言う第2閾値は、上述した第1閾値よりも小さな閾値であり、当該第1閾値よりも十分に小さな閾値であることが好ましく、ゼロであってもよい。
【0016】
第2作用電極22は、第2溶液L2に浸漬されている電極である。例えば、第2作用電極22は、円柱状の白金電極であり、側面が円筒状の被覆22Cで覆われている。被覆22Cは、例えば、ポリエーテルエーテルケトンで作成されており、第2作用電極22の側面と被覆22Cとの間に第2溶液L2が浸入しないよう、第2作用電極22の側面に密着している。また、第2作用電極22の端面は、電気化学測定装置1を使用した電気化学測定が実行される前に研磨されており、第2溶液L2と接触している。
【0017】
参照電極30は、第2溶液に浸漬されている基準電極である。例えば、参照電極30は、銀‐塩化銀電極であり、銀の表面を塩化銀で被覆した部材をガラス管に保持された塩化物水溶液に浸漬させた構造を有する。
【0018】
電位制御部40は、例えば、ポテンショスタットであり、
図1に示すように、第1作用電極12、第1対極13、第2作用電極22及び参照電極30と電気的に接続されている。例えば、電位制御部40は、導線50により第1作用電極12及び第2作用電極22と電気的に接続されている。換言すれば、電位制御部40は、導線50により第1作用電極12と電気的に接続し、第2作用電極22と第1作用電極12とは導線50により電気的に接続している。つまり、第1作用電極12と第2作用電極22とが同電位となるように電気的に接続されている。また、電位制御部40は、導線60により第1対極13及び参照電極30と電気的に接続されている。また、電位制御部40は、導線70により参照電極30及び第1対極13に電気的に接続されている。換言すれば、電位制御部40は、導線60により第1対極13と電気的に接続し、導線70により参照電極30と電気的に接続し、参照電極30と第1対極13とは導線60(又は導線70)により電気的に接続している。つまり、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続されている。
【0019】
なお、導線50の形状、材質、配置等は、任意であり、自由に設計されてよい。導線60や導線70についても同様である。
【0020】
以上の電気的な接続により、電位制御部40は、第1作用電極12の電位を掃引し、電気化学測定装置1による電気化学測定、例えば、サイクリックボルタンメトリー(CV:Cyclic Voltammetry)を実行する。
【0021】
図2は、本発明の第1実施形態に係る電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
図2の横軸は、第1作用電極12の電位を示している。
図2に縦軸は、第1作用電極12に流れる電流を示している。つまり、
図2は、電気化学測定装置1により得られたサイクリックボルタモグラムを示している。
【0022】
電位制御部40は、開始電位0.0Vから最大電位+0.7Vまで第1作用電極12の電位を増加させた後、最大電位+0.7Vから最小電位-0.4Vまで第1作用電極12の電位を減少させ、最小電位-0.4Vから開始電位0.0Vまで第1作用電極12の電位を増加させる処理を3回繰り返している。この場合、電位制御部40は、常に一定の掃引速度20mV/sで第1作用電極12の電位を掃引している。なお、開始電位は、電極反応が起こらない電位である。
図2は、上記3回繰り返し処理のうち2回目の繰り返し処理のときの結果を示している。
【0023】
図2において第1作用電極12の電位が増加している場合、第1作用電極12の端面では、二価の鉄イオン(Fe
2+)の酸化反応が起こり、三価の鉄イオン(Fe
3+)と電子(e
-)が発生している。
【0024】
この酸化反応により発生した電子(e-)は、第1作用電極12内に流れ込む。そして、第1作用電極12の電位が+0.24Vに到達しつつある時には当該酸化反応の反応速度が急激に増加することにより、第1作用電極12の端面に流れ込む電子(e-)が急激に増加するため、プラス方向の電流が急激に増加する。
【0025】
この酸化反応により発生した三価の鉄イオン(Fe3+)は、第1作用電極12の端面近傍に滞留する。そして、第1作用電極12の電位が+0.24Vを上回って+0.24Vから離れ始めた時には第1作用電極12の端面近傍に存在する化学種の大半が三価の鉄イオン(Fe3+)となっていることにより、第1作用電極12内に流れ込む電子(e-)が急激に減少するため、プラス方向の電流が急激に減少する。
【0026】
したがって、
図2に示したサイクリックボルタモグラムの+0.24V付近に上向きのピークが表れていると考えられる。なお、
図2において第1作用電極12の電位が増加している場合、第1対極13の表面では、第1作用電極12に流れ込んだ電子(e
-)により何らかの還元反応が起こる。例えば、水(H
2O)の還元反応が起こり、水素(H
2)と水酸化物イオン(OH
-)が生じる。
【0027】
図2において第1作用電極12の電位が減少している場合、第1作用電極12の端面では、三価の鉄イオン(Fe
3+)の還元反応が起こり、二価の鉄イオン(Fe
2+)が発生している。
【0028】
この還元反応で三価の鉄イオン(Fe3+)が取得する電子(e-)は、第1作用電極12の端面から供給される。そして、第1作用電極12の電位が+0.147Vに到達しつつある時には当該還元反応の反応速度が急激に増加することにより、第1作用電極12の端面から供給される電子(e-)が急激に増加するため、マイナス方向の電流が急激に増加する。
【0029】
この還元反応により発生した二価の鉄イオン(Fe2+)は、第1作用電極12の端面近傍に滞留する。そして、第1作用電極12の電位が+0.147Vを下回って+0.147Vから離れ始めた時には第1作用電極12の端面近傍に存在する化学種の大半が二価の鉄イオン(Fe2+)となっていることにより、第1作用電極12の端面から電子(e-)を取得する三価の鉄イオン(Fe3+)が減少しているため、マイナス方向の電流が急激に減少する。
【0030】
したがって、
図2に示したサイクリックボルタモグラムの+0.147V付近に下向きのピークが表れていると考えられる。なお、
図2において第1作用電極12の電位が減少している場合、第1対極13の表面では、第1作用電極12により供給された電子(e
-)により発生した電荷の偏りを相殺する方向に水の電気分解の可逆反応が進行する。
【0031】
また、
図2に示したサイクリックボルタモグラムの+0.24V付近の上向きのピークと+0.147V付近の下向きのピークの中間の電位(+0.1935)は、二価の鉄イオン(Fe
2+)及び三価の鉄イオン(Fe
3+)の可逆半波電位に近似することができる。さらに、この電位は、標準酸化還元電位に近似され得る。
【0032】
以上、第1実施形態に係る電気化学測定装置1について説明したが、電気化学測定装置1では、第1保持部11に参照電極30を浸漬させる必要がないため、参照電極30が正常に使用され得ない条件下(例えば、1溶液L1が高温、高圧等であるという条件下、第1保持部11が微小であるという条件下)であっても測定物質の電気化学測定を実行することができる。
【0033】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る電気化学測定装置の構成例を示す図である。
図3に示すように、電気化学測定装置2は、第1保持部11と、第1作用電極12と、第1対極13と、第2保持部21と、第2作用電極22と、第2対極23と、参照電極30と、電位制御部41とを備える。第2実施形態の電気化学測定装置2が備える第1保持部11、第1作用電極12、第1対極13、第2保持部21、第2作用電極22及び参照電極30については、
図1に示した第1実施形態の電気化学測定装置1が備える第1保持部11、第1作用電極12、第1対極13、第2保持部21、第2作用電極22及び参照電極30と同一であるため、説明の一部又は全部を省略する。また、第2実施形態の第1保持部11が保持する第1溶液L1、第2実施形態の第2保持部21が保持する第2溶液L2についても、第1実施形態の第1保持部11が保持する第1溶液L1、第1実施形態の第2保持部21が保持する第2溶液L2と同一であるため、説明の一部又は全部を省略する。
【0034】
第2対極23は、第2溶液L2に浸漬されている電極である。例えば、第2対極23は、円柱状の白金電極である。第2対極23は、導線60に接続されている。つまり、第2対極23は、導線60により第1対極13及び参照電極30と電気的に接続されている。
【0035】
電位制御部41は、例えば、ポテンショスタットであり、
図3に示すように、第1作用電極12、第1対極13、第2作用電極22、第2対極23及び参照電極30に電気的に接続されている。例えば、電位制御部41は、導線50により第1作用電極12及び第2作用電極22と電気的に接続されている。換言すれば、電位制御部41は、導線50により第1作用電極12と電気的に接続し、第2作用電極22と第1作用電極12とは導線50により電気的に接続している。つまり、第1作用電極12と第2作用電極22とが同電位となるように電気的に接続されている。また、電位制御部41は、導線60により第1対極13、第2対極23及び参照電極30と電気的に接続されている。また、電位制御部41は、導線70により参照電極30、第2対極23及び第1対極13に電気的に接続されている。換言すれば、電位制御部41は、導線60により第1対極13と電気的に接続し、導線70により参照電極30と電気的に接続し、参照電極30と第1対極13と第2対極23とは導線60(又は導線70)により電気的に接続している。つまり、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続され、かつ、第1対極13と第2対極23とが同電位となるように電気的に接続されている。
【0036】
以上の電気的な接続により、電位制御部41は、第1作用電極12の電位を掃引し、電気化学測定装置2による電気化学測定、例えば、サイクリックボルタンメトリーを実行する。
【0037】
図4は、本発明の第2実施形態に係る電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
図4の横軸は、第1作用電極12の電位を示している。
図4に縦軸は、第1作用電極12に流れる電流を示している。つまり、
図4は、電気化学測定装置2により得られたサイクリックボルタモグラムを示している。
【0038】
図4に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件と同様である。すなわち、
図4に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位、最大電位、最小電位、掃引速度、及び、処理の繰り返し回数は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位(0.0V)、最大電位(+0.7V)、最小電位(-0.4V)、掃引速度(20mV/s)、及び、処理の繰り返し回数(3回)と同一であり、
図4に示したサイクリックボルタモグラムは、
図2に示したサイクリックボルタモグラムと同様、3回繰り返し処理のうち2回目の繰り返し処理のときの結果を示している。
【0039】
図4に示したサイクリックボルタモグラムは、+0.194V付近に上向きのピークを有し、+0.099V付近に下向きのピークを有している。
図4に示したサイクリックボルタモグラムの+0.194V付近の上向きのピークと+0.099V付近の下向きのピークの中間の電位は、+0.1465である。
【0040】
以上、第2実施形態に係る電気化学測定装置2について説明したが、第1実施形態に係る電気化学測定装置1と同様、電気化学測定装置2では、第1保持部11に参照電極30を浸漬させる必要がないため、参照電極30が正常に使用され得ない条件下であっても測定物質の電気化学測定を実行することができる。
【0041】
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3実施形態に係る電気化学測定装置の構成例を示す図である。
図5に示すように、電気化学測定装置2は、第1保持部11と、第1作用電極12と、第1対極13と、第2保持部21と、第2対極23と、参照電極30と、電位制御部42とを備える。第3実施形態の電気化学測定装置3が備える第1保持部11、第1作用電極12、第1対極13、第2保持部21及び参照電極30については、
図1に示した第1実施形態の電気化学測定装置1が備える第1保持部11、第1作用電極12、第1対極13、第2保持部21及び参照電極30と同一であるため、説明の一部又は全部を省略する。また、第3実施形態の電気化学測定装置3が備える第2対極23については、第2実施形態の電気化学測定装置2が備える第2対極23と同一であるため、説明の一部又は全部を省略する。また、第3実施形態の第1保持部11が保持する第1溶液L1、第3実施形態の第2保持部21が保持する第2溶液L2についても、第1実施形態の第1保持部11が保持する第1溶液L1、第1実施形態の第2保持部21が保持する第2溶液L2と同一であるため、説明の一部又は全部を省略する。
【0042】
電位制御部42は、例えば、ポテンショスタットであり、
図5に示すように、第1作用電極12、第1対極13、第2対極23及び参照電極30に電気的に接続されている。例えば、電位制御部42は、導線50により第1作用電極12と電気的に接続されている。また、電位制御部42は、導線60により第1対極13、第2対極23及び参照電極30と電気的に接続されている。また、電位制御部42は、導線70により参照電極30、第2対極23及び第1対極13に電気的に接続されている。換言すれば、電位制御部42は、導線60により第1対極13と電気的に接続し、導線70により参照電極30と電気的に接続し、参照電極30と第1対極13と第2対極23とは導線60(又は導線70)により電気的に接続している。つまり、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続され、かつ、第1対極13と第2対極23とが同電位となるように電気的に接続されている。
【0043】
以上の電気的な接続により、電位制御部42は、第1作用電極12の電位を掃引し、電気化学測定装置3による電気化学測定、例えば、サイクリックボルタンメトリーを実行する。
【0044】
図6は、本発明の第3実施形態に係る電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
図6の横軸は、第1作用電極12の電位を示している。
図6に縦軸は、第1作用電極12に流れる電流を示している。つまり、
図4は、電気化学測定装置3により得られたサイクリックボルタモグラムを示している。
【0045】
図6に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件と同様である。すなわち、
図6に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位、最大電位、最小電位、掃引速度、及び、処理の繰り返し回数は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位(0.0V)、最大電位(+0.7V)、最小電位(-0.4V)、掃引速度(20mV/s)、及び、処理の繰り返し回数(3回)と同一であり、
図6に示したサイクリックボルタモグラムは、
図2に示したサイクリックボルタモグラムと同様、3回繰り返し処理のうち2回目の繰り返し処理のときの結果を示している。
【0046】
図6に示したサイクリックボルタモグラムは、+0.204V付近に上向きのピークを有し、+0.095V付近に下向きのピークを有している。
図6に示したサイクリックボルタモグラムの+0.204V付近の上向きのピークと+0.095V付近の下向きのピークの中間の電位は、+0.1495である。
【0047】
以上、第3実施形態に係る電気化学測定装置3について説明したが、第1実施形態に係る電気化学測定装置1や第2実施形態に係る電気化学測定装置2と同様、電気化学測定装置3では、第1保持部11に参照電極30を浸漬させる必要がないため、参照電極30が正常に使用され得ない条件下であっても測定物質の電気化学測定を実行することができる。
【0048】
(比較)
図7及び
図8は、比較用の電気化学測定装置により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。
【0049】
図7は、第1実施形態に係る電気化学測定装置1、第2実施形態に係る電気化学測定装置2及び第3実施形態に係る電気化学測定装置3と比較するための比較用の電気化学測定装置の一例として、一般的な三電極法を採用している電気化学測定装置(電気化学測定装置Aと称する場合がある)により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。なお、ここで言う一般的な三電極法とは、第1~第3実施形態における第1保持部11(第1溶液L1)に相当するものしか存在せず(つまり、第1~第3実施形態における第2保持部21(第2溶液L2)に相当するものが存在せず)、第1保持部11に相当する保持部に、作用電極、対極及び参照電極を浸漬する三電極法である。
【0050】
図7に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおいて電解槽に保持されている溶液は、濃度が0.1M(モーラー)の硫酸ナトリウム水溶液であり、測定物質の一例として25.0mM(ミリモーラー)のフェロシアン化カリウム(K
4[Fe(CN)
6])が溶解している電解質溶液である。つまり、
図7に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおいて電解槽に保持されている溶液は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおいて第1保持部11に保持されている溶液と同様である。
【0051】
また、
図7に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件と同様である。すなわち、
図7に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位、最大電位、最小電位、掃引速度、及び、処理の繰り返し回数は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位(0.0V)、最大電位(+0.7V)、最小電位(-0.4V)、掃引速度(20mV/s)、及び、処理の繰り返し回数(3回)と同一であり、
図7に示したサイクリックボルタモグラムは、
図2に示したサイクリックボルタモグラムと同様、3回繰り返し処理のうち2回目の繰り返し処理のときの結果を示している。
【0052】
図7に示したサイクリックボルタモグラムは、+0.258V付近に上向きのピークを有し、+0.174V付近に下向きのピークを有している。
図7に示したサイクリックボルタモグラムの+0.258V付近の上向きのピークと+0.174V付近の下向きのピークの中間の電位は、+0.216である。
【0053】
図2に示した第1実施形態に係る電気化学測定装置1によるサイクリックボルタモグラムや
図4に示した第2実施形態に係る電気化学測定装置2によるサイクリックボルタモグラムや
図6に示した第3実施形態に係る電気化学測定装置3によるサイクリックボルタモグラムは、
図7に示した電気化学測定装置Aによるサイクリックボルタモグラムに類似している。つまり、電気化学測定装置1(電気化学測定装置2、電気化学測定装置3も同様)は、一般的な三電極法を採用している電気化学測定装置により実行されるサイクリックボルタンメトリーに比較的近いサイクリックボルタンメトリーを実行していると考えられる。なお、電気化学測定装置1~電気化学測定装置3は、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続されている点が共通する。
【0054】
図8は、第1実施形態に係る電気化学測定装置1、第2実施形態に係る電気化学測定装置2及び第3実施形態に係る電気化学測定装置3と比較するための比較用の電気化学測定装置の他の例として、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように接続されていない電気化学測定装置(電気化学測定装置Bと称する場合がある)により実行されたサイクリックボルタンメトリーの結果の一例を示す図である。具体的には、電気化学測定装置Bは、第1作用電極12及び第1対極13が第1溶液L1に浸漬され、第2作用電極22、第2対極23及び参照電極30が第2溶液L2に浸漬されている点は、第2実施形態に係る電気化学測定装置2と共通するが、参照電極30が第2対極23や第1対極13に接続されていない点が、参照電極30が第2対極23や第1対極13に接続されている電気化学測定装置2とは異なる。
【0055】
図8に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおいて第1保持部11及び第2保持部21に保持されている溶液は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおいて第1保持部11及び第2保持部21に保持されている溶液(第1溶液L1、第2溶液L2)と同様である。
【0056】
また、
図8に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときの条件と同様である。すなわち、
図8に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位、最大電位、最小電位、掃引速度、及び、処理の繰り返し回数は、
図2に示したサイクリックボルタモグラムを得るときにおける開始電位(0.0V)、最大電位(+0.7V)、最小電位(-0.4V)、掃引速度(20mV/s)、及び、処理の繰り返し回数(3回)と同一であり、
図7に示したサイクリックボルタモグラムは、
図2に示したサイクリックボルタモグラムと同様、3回繰り返し処理のうち2回目の繰り返し処理のときの結果を示している。
【0057】
図8に示したサイクリックボルタモグラムは、+0.382V付近に上向きのピークを有し、+0.286V付近に下向きのピークを有している。
図8に示したサイクリックボルタモグラムの+0.382V付近の上向きのピークと+0.286V付近の下向きのピークの中間の電位は、+0.334である。
【0058】
図2に示した第1実施形態に係る電気化学測定装置1によるサイクリックボルタモグラムや
図4に示した第2実施形態に係る電気化学測定装置2によるサイクリックボルタモグラムや
図6に示した第3実施形態に係る電気化学測定装置3によるサイクリックボルタモグラムは、
図8に示した電気化学測定装置Bによるサイクリックボルタモグラムよりも、
図7に示した電気化学測定装置Aによるサイクリックボルタモグラムに類似している。例えば、電気化学測定装置1等によるサイクリックボルタモグラムにおける標準酸化還元電(+0.1935,+0.1465,+0.1495)は、電気化学測定装置Bによるサイクリックボルタモグラムにおける酸化還元電位(+0.334)よりも、電気化学測定装置Aによるサイクリックボルタモグラムにおける酸化還元電位(+0.2160)に近い。つまり、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続されている電気化学測定装置1~電気化学測定装置3の方が、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続されていない電気化学測定装置Bよりも正確に電気化学測定を実行することができる。
【0059】
以上、本発明の各実施形態(第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態)について図面を参照して説明したが、第1実施形態の電気化学測定装置1(第2実施形態の電気化学測定装置2、第3実施形態の電気化学測定装置3も同様)によれば、参照電極30が正常に使用され得ない条件下(例えば、1溶液L1が高温、高圧等であるという条件下、第1保持部11が微小であるという条件下)であっても測定物質の電気化学測定を実行することができる。従って、電気化学測定装置1、電気化学測定装置2又は電気化学測定装置3(以下、電気化学測定装置1等)は、超高圧下にある溶液内で起こる化学反応のメカニズムの研究、超高温下で使用されるロボットに搭載される電池の挙動に関する研究等、様々な研究分野及び産業分野においても有用である。
【0060】
また、第1実施形態の電気化学測定装置1(第2実施形態の電気化学測定装置2、第3実施形態の電気化学測定装置3も同様)は、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続されているため、参照電極30と第1対極13とが同電位となるように電気的に接続されていない場合よりも、より正確に電気化学測定を実行することができる。
【0061】
上述したように各実施形態として説明した内容は、少なくとも、下記構成(電気化学測定装置、電気化学測定方法)を含む。
【0062】
[1]参照電極を基準電位にして、作用電極と対極との間の電位差を変化させることにより測定する三電極法に利用可能な電気化学測定装置であって、測定対象の物質を含む電解質溶液である第1溶液(第1溶液L1)を保持する第1保持部(第1保持部11)と、前記物質の濃度が前記第1溶液よりも低い電解質溶液である第2溶液(第2溶液L2)を保持する第2保持部(第2保持部21)と、を備え、前記第1溶液に第1作用電極(第1作用電極12)および第1対極(第1対極13)が浸漬され、前記第2溶液に前記参照電極(参照電極30)が浸漬され、前記参照電極(参照電極30)と前記第1対極(第1対極13)とが同電位となるように電気的に接続された電気化学測定装置(
図1に示した電気化学測定装置1、
図3に示した電気化学測定装置2、
図5に示した電気化学測定装置3)。
[2]前記第2溶液に第2作用電極(第2作用電極22)が浸漬され、前記第1作用電極(第1作用電極12)と前記第2作用電極(第2作用電極22)とが同電位となるように電気的に接続された[1]に記載の電気化学測定装置(電気化学測定装置1、電気化学測定装置2)。
[3-1]前記第2溶液に第2対極(第2対極23)が浸漬され、前記第1対極(第1対極13)と前記第2対極(第2対極23)とが同電位となるように電気的に接続された[1]に記載の電気化学測定装置(電気化学測定装置2、電気化学測定装置3)。
[3-2]前記第2溶液に第2対極(第2対極23)が浸漬され、前記第1対極(第1対極13)と前記第2対極(第2対極23)とが同電位となるように電気的に接続された[2]に記載の電気化学測定装置(電気化学測定装置2)。
[4]第1保持部(第1保持部11)が保持する測定対象の物質を含む電解質溶液である第1溶液(第1溶液L1)と、前記物質の濃度が前記第1溶液よりも低い電解質溶液であって第2保持部(第2保持部21)が保持する第2溶液(第2溶液L2)とを用いる三電極法による電気化学測定方法であって、前記第1溶液に作用電極(第1作用電極12)および対極(第1対極13)を浸漬し、前記第2溶液に参照電極(参照電極30)を浸漬し、前記参照電極(参照電極30)と前記対極(第1対極13)とが同電位となるように電気的に接続する電気化学測定方法(電気化学測定装置1~電気化学測定装置3の何れかの電気化学測定装置による電気化学測定方法)。
【0063】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、各実施形態において説明したものに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、置換及び設計変更の少なくとも一つを加えることができる。また、各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0064】
例えば、上述した実施形態では、第1溶液L1及び第2溶液L2が撹拌されていない場合に電気化学測定装置1等が電気化学測定を実行する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、電気化学測定装置1等は、第1溶液L1及び第2溶液L2の少なくとも一方が撹拌されている場合に電気化学測定を実行してもよい。
【0065】
また、上述した実施形態では、第1保持部11及び第2保持部21が槽である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、第1保持部11は、内部を第1溶液L1が流れる管状の部材であってもよい。同様に、第2保持部21は、内部を第2溶液L2が流れる管状の部材であってもよい。さらに、これらの場合、第1溶液L1を管内に流すために加圧することが必要になる場合があるため、電気化学測定装置1等と同様の原理を使用した電気化学測定が有効になることが想定される。
【0066】
また、上述した実施形態では、第1溶液L1及び第2溶液L2が電解質溶液である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、第1溶液L1及び第2溶液L2の少なくとも一方は、イオン液体であってもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、第2溶液L2に測定物質が溶解していない場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、第2溶液L2に測定物質が溶解していてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,2,3…電気化学測定装置、11…第1保持部、L1…第1溶液、12…第1作用電極、13…第1対極、21…第2保持部、L2…第2溶液、22…第2作用電極、23…第2対極、30…参照電極、40,41,42…電位制御部、50,60,70…導線