(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028452
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ちの改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20230224BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230224BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230224BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20230224BHJP
A61K 36/736 20060101ALI20230224BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230224BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230224BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P17/00
A61P43/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K36/65
A61K36/736
A61P43/00 121
A61Q19/00
A61K8/9789
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134152
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南雲 潤一郎
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AC122
4C083AC302
4C083AC482
4C083CC02
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE06
4C083EE12
4C088AB12
4C088AB51
4C088AB58
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
4C088ZC02
4C088ZC41
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、肌の透明感、くすみ、キメ、毛穴目立ちの改善剤を提供することである。
【解決手段】
カリクレインとは、セリンプロテアーゼのひとつである。本発明におけるKLK5およびKLK7は、皮膚に存在するカリクレインファミリーの一つであり、角質層の接着構造であるコルネオデスモゾームを分解することで角層を剥離させる役割を有する酵素である。トランスグルタミナーゼとは、タンパク質中のグルタミンとリジンとの間にイソペプチド結合を形成する酵素である。ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物を組み合わせると、KLK5、KLK7およびTGM1遺伝子の予期せぬ発現上昇が認められた。
すなわち、ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物を含有することを特徴とする、肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ち改善剤、である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物を含有することを特徴とする、肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ちの改善剤。
【請求項2】
角層剥離を促進することによる、請求項1記載の改善剤。
【請求項3】
ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物を含有することを特徴とする、KLK5、KLK7またはTGM1の産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ちの改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢や日光暴露などの外部刺激によって透明感の低下、くすみ、キメの低下、毛穴目立ち、バリア機能低下等の症状が現れる。その原因のひとつに皮膚最外層の表皮の形成異常が挙げられる。表皮の大部分は角化細胞から構成されるが、角化細胞は表皮の最下層で分裂し、角化と呼ばれる過程を経ながら成熟し、最終的に角質層を形成し垢となって剥がれ落ちる(非特許文献1)。
【0003】
角質層はコルネオデスモゾームという構造で接着しているが、角質層が垢となって剥がれ落ちる過程で、コルネオデスモゾーム構造が分解される。その分解には、セリンプロテアーゼであるカリクレイン5(KLK5)、KLK7の関与が報告されている(非特許文献2)。KLK5、KLK7の産生量または活性が低下すると角層剥離が円滑に進まず角層が肥大し、肌の透明感低下、くすみ、キメの低下、毛穴目立ちを引き起こすと考えられる。
【0004】
また、角質層のコルニファイドセルエンベロープと呼ばれる構造はトランスグルタミナーゼ1(TGM1)などの酵素によってインボルクリンやロリクリンなどが架橋されることで完成される(非特許文献3)。完成されたコルニファイドセルエンベロープは、外的の侵入を防いだり、体の内側からの水分蒸散を防ぐことなどのバリアとして働いている(非特許文献2)。したがって、TGM1の産生量やその活性が低下すると、肌のバリア機能低下が引き起こると考えられる。
【0005】
ところで、加齢や日光暴露した皮膚において蓄積することが報告されているカルボニルタンパク質がTGM1発現量を減少させることが報告されている(特許文献1)。また、KLK5はシミ部位における発現低下が報告されていることから(非特許文献4)、日光暴露とKLK5発現低下の関与が示唆される。さらにKLK7は老化によって皮膚における発現量が減少することが報告されている(特許文献2)。したがってTGM1、KLK5、KLK7の産生量を亢進することは、日光暴露や老化による透明感の低下、くすみ、キメの低下、バリア機能低下、毛穴目立ちに対して有効な手段と考えられる。
【0006】
今までに、清酒抽出物に高含有含まれるチオレドキシンが皮膚におけるKLK7を産生促進すること(特許文献3)、ローズマリーの抽出物がKLK7活性促進し、角層剥離を促進すること(特許文献4)、マロニエエキスがKLK5を増加させ、角層剥離を促進し、透明感の肌へ導くことが知られている(非特許文献4)
モモやボタンピにTGM産生促進作用があることや、シャクヤクとモモとシソの組み合わせにKLK7産生促進作用があることは既に知られている(特許文献5~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-038168号公報
【特許文献2】特開2013-174608号公報
【特許文献3】特開2016-3198号公報
【特許文献4】特開2020-111540号公報
【特許文献5】特開2021-31417号公報
【特許文献6】特開2008-7411号公報
【特許文献7】特開2015-143205号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】清水宏(2011) あたらしい皮膚科学 第2版 3ページ
【非特許文献2】日本香粧品学会誌、Vol.38、No.1、pp22-27(2014)
【非特許文献3】清水宏(2011) あたらしい皮膚科学 第2版 8-9ページ
【非特許文献4】富士フイルム株式会社、2020年11月24日付ニュースリリース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は肌の透明感、くすみ、キメ、毛穴目立ちの改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで発明者らは鋭意検討した結果、ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物を組み合わせると、KLK5、KLK7およびTGM1遺伝子の予期せぬ発現上昇が認められることを見出した。そして、これら抽出物を組み合わせると、肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ちを改善する作用が期待できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物を含有することを特徴とする、肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ち改善剤、
(2)角層剥離を促進することによる、請求項1記載の改善剤、
(3)ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物を含有することを特徴とする、KLK5、KLK7またはTGM1の産生促進剤、
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、肌の透明感、くすみ、キメ又は毛穴目立ちの改善剤を提供することができる。また、KLK5、KLK7またはTGM1産生促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、試験例における、ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、およびモモ抽出物単独ならびにそれら成分の混合物が表皮角化細胞におけるKLK5の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【
図2】
図2は、試験例における、ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、およびモモ抽出物単独ならびにそれら成分の混合物が表皮角化細胞におけるKLK7の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【
図3】
図3は、試験例における、ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、およびモモ抽出物単独ならびにそれら成分の混合物が表皮角化細胞におけるTGM1の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるハマメリス抽出物は、ハマメリス(学名Hamamelis virginiana)の葉から得られる抽出物である。ボタンピ抽出物は、ボタンピ(学名Paeonia suffruticosa)の根皮から得られる抽出物である。モモ抽出物は、モモ(学名Prunus persica)の葉から得られる抽出液である。
【0015】
本発明における肌の透明感とは、肌表面の反射光、肌内部の反射光により肌色がきれいにみえる状態のことである。
本発明における肌のくすみとは、顔全体、眼のまわり又は頬などで生じ、肌の赤みが減少して黄みが増し、肌のつやが減少したり、皮膚表面の凸凹などが原因で影ができ、明度が低下して暗くみえる状態である。
本発明における肌のキメとは、皮膚表面に規則的に走る浅い線状の溝と、その溝により区画される多角形(皮野)により決定される表面紋様のことである。
【0016】
本発明における肌の毛穴目立ちとは、皮膚表面の毛孔(毛穴)の面積増加、毛穴形状が長くなる、角化物などがたまり黒褐色状となるなどによって、毛穴が目立つ状態のことである。
【0017】
本発明における改善とは、ある状態を良い状態にすること或いは悪い状態になることを防ぐことである。
【0018】
カリクレインとは、セリンプロテアーゼのひとつである。本発明におけるKLK5およびKLK7は、皮膚に存在するカリクレインファミリーの一つであり、角質層の接着構造であるコルネオデスモゾームを分解することで角層を剥離させる役割を有する酵素である。上記角層を剥離させる役割を有するKLK5およびKLK7の活性を促進することで、肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ちを改善できる。
【0019】
トランスグルタミナーゼとは、タンパク質中のグルタミンとリジンとの間にイソペプチド結合を形成する酵素である。本発明におけるTGM1は皮膚に存在するトランスグルタミナーゼファミリーの一つであり、インボルクリンやロリクリンなどが架橋することで、表皮のコルニファイドセルエンドロープ構造形成に関与している。
【0020】
本発明におけるKLK5、KLK7またはTGM1産生促進とは、KLK5、KLK7またはTGM1のmRNAまたはタンパク質の発現亢進のことである。
【0021】
本発明に用いるハマメリス抽出液の市販品としてはハマメリス抽出液BG-J(丸善製薬製)、ボタンピ抽出液の市販品としてはボタンピ抽出液BG(丸善製薬製)、モモ抽出液の市販品としては山梨モモ葉抽出液BG30(丸善製薬製)等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いるハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物及びモモ抽出物は、多価アルコール(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなど)を含有する溶媒により抽出したものである。多価アルコールに加えて、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などを含有していても良く、このうち多価アルコールと水からなる混液で抽出することが最も好ましい。多価アルコールとしては、好ましくは1,3-ブチレングリコール、又はプロピレングリコールが挙げられるが、1,3-ブチレングリコールが最も好ましい。水と1,3-ブチレングリコールからなる溶媒で抽出する場合、溶媒中における1,3-ブチレングリコールの含有量は、30~70体積%が好ましい。
【0023】
投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられ、好ましくは皮膚に適用する外用である。本発明を外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。
【0024】
これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0025】
本発明は、ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物およびモモ抽出物を組み合わせることにより、表皮におけるKLK5、KLK7またはTGM1の発現を顕著に促進する。したがって、本発明のハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物およびモモ抽出物の組み合わせを用いることにより、角層剥離酵素であるKLK5又はKLK7の発現を顕著に促進し、角層剥離を通じて肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ちの改善に効果的に寄与する。あるいは、KLK5、KLK7またはTGM1産生を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。
【0026】
本発明の肌の透明感、くすみ、キメ、又は毛穴目立ちの改善用であることや、KLK5、KLK7またはTGM1の産生促進剤であることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0027】
本発明のハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物およびモモ抽出物の含有量は、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、配合比率それぞれ組成物全体に対して0.000001~10質量%、好ましくは0.0001~5質量%、より好ましくは0.001~1質量%である。
【実施例0028】
(試験例1)表皮角化細胞に対するKLK5、KLK7およびTGM1遺伝子発現変動の評価
表皮角化細胞(倉敷紡績)を培地Humedia-KG2(倉敷紡績,添付サプリメントを添加)にて、2500 cells/cm2になるように12穴プレートに播種し、37℃、CO2 5%にセットしたインキュベーター内で培養した。翌日、培地を吸引除去し、更に2日間培養した。12穴プレートへの播種から3日目に、被験物質を含有する培地に交換し、更に1日培養した。被験物質は、抽出物単独群については0.33 v/v%となるように培地に溶解させた。混合物群については、それぞれの抽出物を重量比で1:1:1となるように混合したものを、1.0 v/v%となるように培地に溶解させた。培養終了後、培地を除去し、ライセートバッファーを添加して細胞を溶解し、細胞溶解液を回収した。細胞溶解液より、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いて添付のプロトコールに従いRNAを回収し、これを鋳型として、Prime Script RT Master mix(タカラバイオ)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAから、リアルタイムPCRシステム(Step One Plus、サーモフィッシャーサイエンティフィック)により、RPLP0、KLK5、KLK7、TGM1それぞれのmRNAの発現量を測定し(SYBR Green法)、KLK5、KLK7、TGM1の発現量をRPLP0発現量により補正した。プライマーは、次の型番のものを用いた。RPLP0:HA234224、KLK5:HA102824、KLK7:HA198521、TGM1: HA171645(いずれもタカラバイオ)。測定したmRNA発現量をcontrol群(被験物質を含有していない培地)と比較し、被験物質によるKLK5、KLK7、TGM1遺伝子発現変動を評価した。
【0029】
<試験結果>
結果を
図1~
図3に示す。抽出物単独群については、control群と比較して遺伝子発現変動が確認されなかった。一方、混合物群については、各抽出物の含有濃度が抽出物単独群と同一(0.33 v/v%)であるにも関わらず、各遺伝子発現量の顕著な増加が確認された。各抽出物を混合することで、予期せぬ遺伝子発現上昇効果が発揮されたと考えられた。
従って、ハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物、及びモモ抽出物の混合物は、透明感、くすみ、キメ又は毛穴目立ちの改善剤として有用である。あるいはKLK5、KLK7またはTGM1発現を促進する成分をスクリーニングする際に、陽性対照薬として用いることができる。
<製剤例:ローション剤>
本発明のハマメリス抽出物、ボタンピ抽出物およびモモ抽出物を含有することを特徴とするKLK5、KLK7またはTGM1産生促進剤は、例えば、透明感、くすみ、キメ又は毛穴目立ちといった皮膚症状を改善するため、あるいは、KLK5、KLK7またはTGM1発現を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。