(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028491
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】熱処理炉
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20230224BHJP
C21D 1/74 20060101ALI20230224BHJP
C21D 1/76 20060101ALI20230224BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230224BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20230224BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
C21D9/00 S
C21D1/74 U
C21D1/76 J
C21D1/74 R
H01F41/02 B
C21D9/46 501A
C21D8/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134222
(22)【出願日】2021-08-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000157072
【氏名又は名称】関東冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154357
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 愼一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 謙介
(72)【発明者】
【氏名】神田 輝一
(72)【発明者】
【氏名】高原 康輔
(72)【発明者】
【氏名】大下 浩
【テーマコード(参考)】
4K033
4K042
5E062
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033QA02
4K033RA03
4K033SA04
4K033UA01
4K033UA02
4K042AA25
4K042BA10
4K042BA12
4K042CA15
4K042DA03
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC05
4K042DE05
4K042DF01
4K042EA01
5E062AA06
5E062AC15
(57)【要約】
【課題】
歪取り焼鈍前に、脱脂専用の加熱装置又は真空装置を設けることなく、モーターコアの脱脂を行うことを可能にする構成を提供する。
【解決手段】
本開示の一態様に係る熱処理炉は、モーターコアの脱脂用の脱脂室14と、前記脱脂室が直接連通する加熱室であって、変成ガス生成装置によって発生した変成ガスを炉内雰囲気ガスとして、前記脱脂室を通過した前記モーターコアを焼鈍するように構成された加熱室19と、前記加熱室の前記変成ガスが前記脱脂室に向けて流れるように構成されたガス流れ形成部GFとを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターコアの脱脂用の脱脂室と、
前記脱脂室が直接連通する加熱室であって、変成ガス生成装置によって発生した変成ガスを炉内雰囲気ガスとして、前記脱脂室を通過した前記モーターコアを焼鈍するように構成された加熱室と、
前記加熱室の前記変成ガスが前記脱脂室に向けて流れるように構成されたガス流れ形成部と
を備えた、熱処理炉。
【請求項2】
前記ガス流れ形成部は、
前記脱脂室の少なくとも半分を上下に隔てる隔壁であって、該隔壁の下側の下側空間は前記加熱室に直接連通し、前記隔壁の上側の上側空間は前記下側空間を介して前記加熱室と連通する、隔壁と、
前記上側空間に空気を導く空気導入部材と、
前記上側空間に設けられたガス出口と
を備えている、
請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
複数の前記空気導入部材の各々は、前記モーターコアの搬送方向に延びるように設けられていて、かつ、前記隔壁における前記上側空間と前記下側空間とをつなぐ空間を経て前記上側空間に向けて延びている、
請求項2に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記脱脂室の上流端においてフレームカーテン形成装置が更に設けられている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記脱脂室は、前記変成ガス生成装置で生じた変成ガスが前記加熱室に流れる前に流れる熱交換器を更に備えている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項6】
前記モーターコアの搬送方向において前記脱脂室より上流側に位置する前記モーターコアに向けて風を送る送風機が更に設けられている、
請求項1から5のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項7】
前記送風機は、送風において前記熱処理炉側の放散熱を用いて温風を生じさせるように設けられている、
請求項6に記載の熱処理炉。
【請求項8】
前記加熱室が直接連通する冷却室であって、前記変成ガスを炉内雰囲気ガスとして、前記加熱室を通過した前記モーターコアを冷却するように構成された冷却室を更に備えている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱処理炉に関し、特にモーターコアの歪取り焼鈍における熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機器、例えば、変圧器等の静止器又はモーター等の回転器において、電磁鋼板が使用されている。例えば、モーターの鉄心(コア)は、所定の厚さの無方向性電磁鋼板を、金型を用いてステータ形状又はロータ形状に打ち抜き、積層させることにより製造される。
【0003】
しかしながら、打ち抜き加工では、コア材の端部及びカシメ積層の場合はそのカシメ部を中心に、塑性歪みや弾性歪みといったような所謂歪みが残留する場合がある。そのため、これらの歪みを除去する目的で、モーターコアを、窒素ガス、アルゴンガス又はブタンガスなどを不完全燃焼させ発生させた一酸化炭素などの非酸化性雰囲気ガス中で700~800℃程度の温度まで加熱した後に、徐冷するという歪取り焼鈍が従来から行われている。この徐冷は、鉄損を改善するべくその冷却時にモーターコアに歪みが生じることを避けるために、及び、その寸法精度悪化を防ぐために、行われる。例えば、徐冷用の徐冷室には、攪拌ファン、空冷管、ヒーター等の全て若しくは一部が設けられる。この徐冷では、25℃/時程度の冷却速度が推奨されている。
【0004】
一方、モーターコアの打ち抜き加工つまりプレス時に油が使用され、その油はその後にモーターコアの表面に付着しているので、焼鈍前に脱脂を行うことが望まれる。このように焼鈍対象の被熱処理物の表面に付着した油成分を除去するために、化学薬品を用いたり、真空状態にしたり、加熱したりすることが提案され、例えば真空装置を作動させたり、加熱装置を作動させたりすることが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-306490号公報
【特許文献2】特開2014-74566号公報
【特許文献3】特開2017-166721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、特段加熱装置又は真空装置を用いずに、打ち抜き加工等の過程でモーターコアの表面に付着した油成分を除去する脱脂を行い、その後に連続して焼鈍を行うことを可能にする構成を見出した。本開示は、歪取り焼鈍前に、脱脂専用の加熱装置又は真空装置を設けることなく、モーターコアの脱脂を行うことを可能にする構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る一様態は、
モーターコアの脱脂用の脱脂室と、
前記脱脂室が直接連通する加熱室であって、変成ガス生成装置によって発生した変成ガスを炉内雰囲気ガスとして、前記脱脂室を通過した前記モーターコアを焼鈍するように構成された加熱室と、
前記加熱室の前記変成ガスが前記脱脂室に向けて流れるように構成されたガス流れ形成部と
を備えた、熱処理炉
を提供する。
【0008】
上記構成を備える熱処理炉によれば、加熱室の変成ガスが脱脂室に流れ、その変成ガスの熱で脱脂室の被熱処理物であるモーターコアを加熱することができる。よって、歪取り焼鈍前に、脱脂専用の加熱装置又は真空装置を設けることなく、脱脂室でモーターコアの脱脂を行うことが可能になる。
【0009】
好ましくは、前記ガス流れ形成部は、前記脱脂室の少なくとも半分を上下に隔てる隔壁であって、該隔壁の下側の下側空間は前記加熱室に直接連通し、前記隔壁の上側の上側空間は前記下側空間を介して前記加熱室と連通する、隔壁と、前記上側空間に空気を導く空気導入部材と、前記上側空間に設けられたガス出口とを備えている。この構成により、加熱室からの変成ガスが下側空間を介して上側空間側に向けて流れることを促すことができ、そして上側空間において変成ガスの更なる燃焼を生じさせることが可能になる。
【0010】
好ましくは、複数の前記空気導入部材の各々は、前記モーターコアの搬送方向に延びるように設けられていて、かつ、前記隔壁における前記上側空間と前記下側空間とをつなぐ空間を経て前記上側空間に向けて延びている。この構成により、より好適に、上側空間において変成ガスの更なる燃焼を生じさせることが可能になる。
【0011】
好ましくは、前記脱脂室の上流端においてフレームカーテン形成装置が更に設けられている。この構成により、下側空間から上側空間への変成ガスの流れを更に助けることが可能になる。
【0012】
好ましくは、前記脱脂室は、前記変成ガス生成装置で生じた変成ガスが前記加熱室に流れる前に流れる熱交換器を更に備えている。この構成により、変成ガス生成装置で生じた変成ガスの熱を脱脂室のガスに伝えることが可能になる。
【0013】
好ましくは、前記モーターコアの搬送方向において前記脱脂室より上流側に位置する前記モーターコアに向けて風を送る送風機が更に設けられている。この構成によれば、送風機により更にモーターコアの脱脂を促すことが可能になる。この送風機は、送風において前記熱処理炉側の放散熱を用いて温風を生じさせるように設けられているとよい。これは省エネルギーの点でも優れ、脱脂をより促すことを可能にする。
【0014】
好ましくは、前述の熱処理炉は、前記加熱室が直接連通する冷却室であって、前記変成ガスを炉内雰囲気ガスとして、前記加熱室を通過した前記モーターコアを冷却するように構成された冷却室を更に備えている。この構成によれば、加熱室を通過したモーターコアをより好適に冷却することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本開示の上記様態によれば、上記構成を備える熱処理炉が提供され、これにより、歪取り焼鈍前に、脱脂専用の加熱装置又は真空装置を設けることなく、モーターコアの脱脂を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る熱処理炉の構成を示す概略構成図である。
【
図2】
図1の熱処理炉の加熱室の搬送方向での断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿った断面図である。
【
図5】空気と燃料ガスとの混合割合と、それを燃焼したときに発生する変成ガスの成分割合との関係を示すグラフである。
【
図6】
図1の熱処理炉における前室の断面模式図である。
【
図7】
図1の熱処理炉における前室のフードを上流側から見た図である。
【
図8】
図1の熱処理炉における被熱処理物の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】本開示の第2実施形態に係る熱処理炉の一部の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示に係る実施形態を添付図に基づいて説明する。同一の部品(又は構成)には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0018】
図1に、本開示の第1実施形態に係る熱処理炉10の概略構成を示す。この熱処理炉10は、搬送手段によりモーターコアである被熱処理物Wが搬送される方向(以下、「搬送方向」又は「長手方向」)に向けて、搬入テーブル12、脱脂室である前室14、第1加熱室16、第2加熱室18、冷却室20、後室(出口室)22、及び搬出テーブル24等が、連続的に設けられている。搬入テーブル12は、被熱処理物Wの搬送方向において前室14より上流側にあり、搬入テーブル12上の被熱処理物Wに向けて風を送る送風機26が設けられている。なお、第1加熱室16及び第2加熱室18を備えて加熱室19は構成され、これらの加熱室16、18は更に一体的に統合されてもよい。
【0019】
熱処理炉10には、被熱処理物Wを熱処理炉10内を通して搬送方向に搬送する搬送手段として、モーター28で駆動されるメッシュベルトコンベア30が配置されている。なお、搬送手段は、メッシュベルトコンベア30に限定されるものではなく、種々の既知の構成を有して構成されてもよい。
【0020】
第1加熱室16及び第2加熱室18は、
図2に示すように直接連通して設けられ、それぞれ
図3及び
図4に示すように、搬送方向に直交する断面視で矩形であり、周囲がセラミックファイバーから成る断熱壁32で囲まれて形成されている。断熱壁32は、
図3及び
図4に示すように、熱処理炉1の両側外壁34及び上下部外壁36、38等の内面に貼り付けられて形成されている。なお、断熱壁32は、セラミックファイバーからなることに限定されず、例えば耐熱煉瓦で構成されてもよい。
【0021】
第1加熱室16及び第2加熱室18には、
図2から
図4に示すように、搬送方向に直交する方向(幅方向)に向けて延びる複数本の横桁材40が、下側の断熱壁32上において両側外壁34間に架設されている。さらに、第1加熱室16及び第2加熱室18を通して搬送方向に向けて延びる複数本の縦桁材42が、横桁材40上に配置されている。横桁材40と縦桁材42は、互いに交叉して配置され、支持構造44を形成している。横桁材40と縦桁材42が互いに交叉して配置された支持構造44は、モーターコアである被熱処理物Wを載せて走行するメッシュベルトコンベア30を下方から支持する。
【0022】
第1加熱室16及び第2加熱室18内には、
図1~
図4に示すように、上側の断熱壁32の下方に幅方向に延びる複数本のヒーター46が、搬送方向に間隔をおいて配置されている。さらに、第2加熱室18内については、
図1、
図2及び
図4に示すように、下側の断熱壁32の上方であって、縦桁材42の下方の部分に幅方向に延びる複数本のヒーター46が、搬送方向に間隔をおいて配置されている。これらヒーター46で、被熱処理物Wは加熱され、所定の熱処理が実行される。
【0023】
後述する変成ガスの導入口48は、
図1では加熱室19の第2加熱室18に対して1つ設けられているが、1つだけでなく複数設けられてもよく、さらに第2加熱室18だけでなく、第1加熱室16、冷却室20等にも設けられてもよい。ここでは、導入口48は、第2加熱室18の下流端近くに設けられている。後述するガス流れ形成部GFにより加熱室19の変成ガスが脱脂室である前室14に向けて流れることが促されることで、第2加熱室18に供給された変成ガスは、第2加熱室18から第1加熱室16へ、更に前室14へと積極的に上流に向けて流れるように供給されるようになる。また、導入口48は第2加熱室18の下流端近くに設けられているので、第2加熱室18の隣の冷却室20にも変成ガスが十分に供給可能になる。
【0024】
なお、第1加熱室16及び第2加熱室18を含む加熱室19並びに加熱室19を介して冷却室20に連通してそれらとともに被熱処理物Wが搬送されるトンネルつまり炉内を構成する前室14への、その前室14の上流側からの大気の流入を抑制するように、カーテン形成装置の一種であるフレームカーテン形成装置50(
図1及び
図6参照)が設けられている。フレームカーテン形成装置50は、バーナ装置50aを備えている。バーナ装置50aを前室14の上流端、具体的には前室14の上流側入口の下方部分に位置付け、バーナ装置50aによりメッシュベルルコンベア30の下方から上方に向けて火炎を生じさせることで、火炎によるカーテンつまりフレームカーテンが形成される。なお、フレームカーテン形成装置50は、この構成に限定されず、他の構成を備えてもよい。また、例えば、カーテン形成装置は、フレームカーテン形成装置50のように燃焼ガスつまりフレームカーテンを形成する構成以外に、不活性ガス及び/又は窒素ガスなどを少なくとも一部に使用してガス状のカーテンを形成するように構成されてもよい。
【0025】
さて、第1加熱室16内には、変成ガス生成用のガスバーナ52が設けられている。このガスバーナ52については、本発明者らがすでに提案した構成(特許文献2及び3参照)と略同じであるので、ここでは、その概要のみを、
図1、
図2及び
図3に基づいて記載する。なお、ガスバーナ52は雰囲気ガス生成装置、特にここでは変成ガス生成装置の一例である。
【0026】
ガスバーナ52は、第1加熱室16内においてメッシュベルトコンベア30の下方に配置されており、ラジアントチューブから成るバーナ本体54と、供給筒部56と、供給筒部56の周囲に形成された排気通路部58と、原料ガス供給筒部60と、原料ガス供給筒部60内に設けられたスパークロッド62とを備えている。
【0027】
バーナ本体54内に、パイロット用原料ガス源64から燃焼用のパイロット用原料ガスを原料ガス供給筒部60を通して供給するとともに、供給筒部56から空気と原料ガス(つまり燃料ガス)が予め混合された予混合ガスを採り入れてバーナ本体54内に供給する。原料ガスは、ブタン、プロパン等が使用される。
【0028】
そして、バーナ本体54内においてパイロット用原料ガスを、点火手段であるスパークロッド62にスパーク用電源66で電圧を印加して、点火することにより燃焼させる。点火による燃焼後は、予混合ガスによって燃焼が維持される。
【0029】
このガスバーナ52による燃焼熱で、第1加熱室16内に搬入される被熱処理物Wが加熱される。この燃焼によって生じる変成ガスは、排気通路部58を通過し、採り入れる予混合ガスを、予熱部68において予熱し、ガスバーナ52から排出される。このようにして生成された変成ガスは、例えば発熱型変成ガスであるDXガスであり、CO、CO
2、H
2、H
2O、N
2を含んでいる(
図5参照)。
【0030】
ガスバーナ52から排出された変成ガスは、
図1に示すように、変成ガス供給路70を通して導入口48から加熱室18に供給される。変成ガス供給路70には、順次、水冷熱交換器72、冷凍脱水機74が配置されている。
【0031】
変成ガスは、変成ガス供給路70を通過する過程で、水冷熱交換器72で40℃程度に下げられ、冷凍脱水機74において5℃程度に下げられかつ脱水され、第2加熱室18内に送られる。
【0032】
なお、第1加熱室16、第2加熱室18及び冷却室20は、この順序で搬送方向に並び、互いに連通している。従って、冷凍脱水機74は、第2加熱室18に加えて冷却室20にも接続し、上記のとおり降温され脱水された変成ガスを、冷凍脱水機74から第2加熱室18及び冷却室20に直接的に行き渡るように供給してもよい。
【0033】
なお、変成ガス供給路70に配置されるのは、水冷熱交換器72及び冷凍脱水機74に限定されず、所望の熱処理に応じた機器が配置されるとよい。例えば、水冷熱交換器72及び冷凍脱水機74のいずれか一方又は両方に代えて、或いはそれらに加えて、CO2吸着装置が設けられてもよい。
【0034】
さて、上記第1及び第2加熱室16、18を備える加熱室19の上流側に連通する前室14は、変成ガス燃焼装置76を備えている。変成ガス燃焼装置76を備えて、ガス流れ形成部GFは構成されている。ガス流れ形成部GFは、加熱室19の変成ガスが脱脂室である前室14に向けて流れるように構成されている。変成ガス燃焼装置76は、
図6及び
図7に示すように、隔壁78と、空気導入パイプ80と、排ガス出口82とを備えている。変成ガス燃焼装置76を備えた前室14の具体的な構成を、以下説明する。
【0035】
前室14は、
図6に示すように、その室内が、搬送方向に延びるほぼ水平な隔壁78によって、上下に仕切られている。隔壁78は、前室14の少なくとも半分、ここでは搬送方向下流側の前室14の少なくとも半分、より具体的には搬送方向下流側の前室14の少なくとも70%を上下に隔てる。隔壁78を設けることで、前室14は、隔壁78の上側の空間(上側空間)78uと隔壁78の下側の空間(下側空間)78dとに概ね分けられる。下側空間78dは加熱室19の第1加熱室16に直接連通し、上側空間78uは下側空間78dを介して加熱室19と連通する。隔壁78の下方つまり下側空間78dは、
図6に示さないがメッシュベルトコンベア30が配置された搬入室84となっていて、第1加熱室16に直接的に連通する。
【0036】
隔壁78の上方の上側空間78uは、セラミックファイバーの断熱壁32で囲まれた変成ガス燃焼室86となっている。変成ガス燃焼室86の搬送方向の先端側(
図6の右端側)は閉じられており、上方に向けて排ガス出口82が設けられている。変成ガス燃焼室86での燃焼により生じた排ガスは、排ガス出口82から排気される。
【0037】
前室14の搬送方向の基端部つまり上流側端部は、被熱処理物Wの搬入口88となっているが、その基端部つまり上流側端部には、
図6及び
図7に示すようなフード90が取り付けられている。フード90の下部には被熱処理物Wを前室14に搬入するための開口92が設けられており、その上部には排ガス部94が形成されている。
【0038】
排ガス部94の上方には、上方に向けて排ガス出口95が設けられている。また、排ガス部94を貫通するように、1本又は複数本の、ここでは3本の空気導入パイプ80が、変成ガス燃焼室86内に向けてフード90の前壁96に取り付けられている。空気導入パイプ80は上側空間78uに空気を導く空気導入部材である。複数の空気導入パイプ80の各々は、モーターコアである被熱処理物Wの搬送方向に延びるように設けられていて、かつ、隔壁78における上側空間78uと下側空間78dとをつなぐ空間78mを経て上側空間78uに向けて延びている。
図6に示すように、各空気導入パイプ80の先端部(
図6における右側の端部)は熱処理炉10の搬送方向で隔壁78の上流側端部よりも下流側にまで延びている。しかし、空気導入パイプ80の先端部は熱処理炉10の搬送方向で隔壁78の上流側端部と同じ位置又はその手前までで終端するように設計されてもよい。空気導入パイプ80の先端部の延出長さは、変成ガスの隔壁78の下方から上方への流れを円滑にするように設計されるとよい。
【0039】
上記構成の変成ガス燃焼装置76を備えてガス流れ形成部GFは構成されているので、熱処理炉10で、特に第2加熱室18及び第1加熱室16で炉内雰囲気ガスとして使用された変成ガスは、変成ガス燃焼室86側に引っ張られ、搬送方向において下流側から上流側に向けて流れる。そして、その変成ガスは、脱脂室である前室14の搬入室84の基端側つまり上流側から変成ガス燃焼室86内に流入し、変成ガス燃焼装置76において、空気導入パイプ80から導入される空気と反応して、変成ガス燃焼室86内で、燃焼するような構成となっている。そしてその燃焼されたガスつまり排ガスは、主に排ガス出口82から排出される。排ガスは排ガス出口95から排出されてもよい。
【0040】
なお、排ガス出口82及び排ガス出口95には、排ガスの浄化処理用の浄化装置、例えば触媒装置が配置されるとよい。
【0041】
更に、
図6に示すように、フード90の開口92の下側には、上述のバーナ装置50aが設けられている。したがって、フレームカーテン形成装置50のバーナ装置50aによるフレームカーテンで、搬送方向において前室14に向けて下流側から上流側に流れる変成ガスがそのまま熱処理炉10の入口から排出されることは防がれ、また下流側からの変性ガスの流れが補助的に促される。
【0042】
搬送方向において、この脱脂室となる前室14よりも上流側に位置するモーターコアである被熱処理物Wに向けて風を送る前述の送風機26が更に設けられている。送風機26は、前室14、第1加熱室16及び第2加熱室18のようにトンネルを構成しないで開いている搬入テーブル12に図示しない支持具で支持されて設けられている。この送風機26による送風は、常温の風で行っても、加熱した風つまり熱風で行ってもよいが、ここで常温の風で行われる。なお、モーターコアの脱脂効果の点から、送風機26は熱風を送るようにヒーター及びファンを備えて構成されるとよいが、ここでは省エネルギーの観点からヒーターを備えないで常温の風を送るように構成される。このとき、更に補助的な脱脂効果を期待し、かつ、省エネルギーの観点から、送風機26は、送風において熱処理炉10側の放散熱を用いて温風を生じさせるように設けられていると更によい。これは、例えば、被熱処理物Wの搬入口88の外側において上流側に向けて風を送るように送風機26を設けることで実現できる。このように、送風機26は搬入テーブル12そのものに設けられることに限定されず、他の箇所に設けることも可能である。また、例えば、ガスバーナ52の周囲、例えば排気通路部58、熱処理炉10の加熱室19の出口部又は冷却室20の上流端などに熱交換器を設け、そこで取り出された熱を送風機26で利用するようにしてもよい。送風機26はこのような構成に限定されず、更に種々の構成を備えることができる。例えば、送風機26は、熱処理炉10に一体的に設けられても、熱処理炉10に着脱自在に又は可動に設けられてもよく、前室14の上流側のモーターコアにおける脱脂を促すように配置される種々の構成を有することができる。
【0043】
冷却室20は、第2加熱室18を通過した被熱処理物Wを所定の冷却速度で冷却するように、図示しないが冷却手段、例えば水冷システムを備える。
【0044】
なお、上記構成の熱処理炉10において種々の変更が可能であり、例えば以下のような変更が行われてもよい。第1加熱室16と第2加熱室18との間に仕切扉は設けられていないが、設けられてもよい。同様に、第2加熱室18と冷却室20との間にも仕切扉は設けられていないが、設けられてもよい。
【0045】
前述のように加熱室19の第1加熱室16と第2加熱室18のそれぞれに設けられた各ヒーター46は、設置された部屋の温度が対応する目標温度になるように制御される。このヒーター46及び/又はガスバーナ52などの各作動を制御するべく、制御装置が設けられ、炉内温度、炉内雰囲気ガスなどが所望の状態になるように制御されるとよい。
【0046】
制御装置の制御のため、熱処理炉10には種々のセンサが設けられ得る。酸素分圧を測定可能な酸素センサが設けられているとよいが、他にも温度を測定する温度センサなど種々のセンサが設けられ得る。例えば、水素分圧を測定する水素センサ、熱処理炉10
内の露点を測定する露点センサ、一酸化炭素分圧を測定可能なCOセンサ、二酸化炭素分圧を測定可能なCO2センサ等が設けられていてもよい。
【0047】
熱処理炉10では、被熱処理物Wは、搬入テーブル12に乗せられ、送風機26からの風にさらされ、入口である開口92に入り、前室14、第1加熱室16、第2加熱室18及び冷却室20を順に通過し、後室22の出口から出て、搬出テーブル24に至るように搬送される。熱処理炉10では、加熱室18の下流に、徐冷室無しで、冷却室20が直接的につながる。したがって、第1加熱室16及び第2加熱室18を備える加熱室19を出た被熱処理物Wは冷却室20で直ぐに冷却される。なお、従来からある、一般的なモーターコアの焼鈍を行う熱処理炉では、加熱室18の下流側かつ冷却室20の上流側に、被熱処理物Wを徐冷するために徐冷室が設けられていて、熱処理炉10でもこの徐冷室は設けられることができる。
【0048】
なお、冷却室20の長手方向つまり搬送方向の長さは、冷却室20での被熱処理物Wの目標とする冷却速度に応じて設計されるとよい。また、冷却室20を複数の冷却部に分けて、それら冷却部を搬送方向に連結することで冷却室20が構成されてもよい。
【0049】
熱処理炉10では、冷却室20の下流端に出口が設けられている。つまり、冷却室20は、ブルーイング処理室無しで熱処理炉10の出口につながる。つまり、本開示の一実施形態に係る熱処理炉10は、歪取り焼鈍の後、連続的にブルーイング処理を実施するものではない。しかし、冷却室20の下流側にブルーイング処理室を有することを排除するものではない。即ち、冷却室20の下流側にブルーイング処理室が設けられてもよい。ブルーイング処理とは、焼鈍炉の降温時に水蒸気等の高露点ガスを吹込み、鋼板表面に酸化膜を生成させる処理である。より具体的には、350℃~550℃の処理室で高露点ガスを投入し、被熱処理物の表面に酸化鉄(II)(FeO)や四酸化三鉄(Fe3O4)等の酸化被膜を生成させる処理をいう。なお、ブルーイング処理は、打ち抜き端面の耐食性や防錆性を上げるため等を目的に施される。ただし、加熱室18から冷却室20において炉内雰囲気ガスとして水分を含むDXガスを用いることで、ブルーイング処理を行わずとも、ブルーイング処理を行ったのと同等の効果を得ることができるが、ここでのその詳細な説明は省略する。
【0050】
ここで、被熱処理物Wについて説明する。被熱処理物の出発原料は、電磁鋼板であり、より具体的な実施例においては、モーターの鉄心(モーターコア)等に使用される無方向性電磁鋼板である。変圧器の鉄心等に使用される方向性電磁鋼鈑のときもあり得る。電磁鋼板は、軟磁性材料であり、磁気特性に優れていること、特に、鉄損が低いことが求められる。
【0051】
無方向性電磁鋼鈑は、一般的に、製銑、製鋼、熱間圧延、冷間圧延と続いた後、連続焼鈍による一次再結晶、結晶粒成長処理が施されて製造される。製造された無方向性電磁鋼板は、所定の打ち抜き加工が行われ、例えばその型内で複数枚積層されて、積層材を形成する。電磁鋼板は、溶接、接着及び/又はカシメ等の方法により積層される。これにより、熱処理炉10で歪取り焼鈍処理が施される被熱処理物としての低鉄損のモーターコアを得ることができる。しかし、被熱処理物は、この方法で製造されるものに限定されない。また、後述するように熱処理されるモーターコアは、このように積層されたものに限定されず、積層されていないものであってもよい。
【0052】
なお、本開示に係る熱処理炉で熱処理される及び/又は本開示に係る熱処理方法を供する電磁鋼板の組成については、特に制限はない。例えば、JISC2552で規定される鋼板、JISC2553で規定される鋼板、JISC2555で規定される鋼板等が好ましく使用することができる。また、使用する電磁鋼鈑の板厚については、特に限定されない。
【0053】
さて、熱処理炉10での上記被熱処理物の熱処理方法について
図8に基づいて説明する。
図8に、本実施形態に係る熱処理方法の一例のフローチャートを示す。
【0054】
図8に示すように、本実施形態に係る熱処理方法は、
被熱処理物としてのモーターコアを脱脂する第1工程(ステップS801)と、
第1工程を経たモーターコアを炉内雰囲気ガスとして変成ガスを用いて焼鈍する第2工程(ステップS803)と、
前記第2工程で得られたモーターコアを、炉内雰囲気ガスとして変成ガスを用いて、所定の冷却速度で冷却する第3工程(ステップS805)と
を有する。
【0055】
第1工程(ステップS801)は、モーターコアつまり被熱処理物Wの脱脂を行う工程であり、脱脂工程と称する。第1工程は、送風による脱脂工程つまりA工程(ステップS801a)と、加熱による脱脂工程つまりB工程(ステップS801b)とを含む。
【0056】
A工程(ステップS801a)では、被熱処理物Wに向けて送風機26で風を送ることで脱脂を促すことが行われる。この送風は、常温の風で行っても、加熱した風つまり熱風で行ってもよいが、ここでは常温の風で行われる。モーターコアの打ち抜き工程つまりプレス時に用いられる油は、一般的に揮発性が良いものが使用されるので、常温の風でも十分な脱脂効果が期待できる。例えば、そのようなモーターコアの表面に付着した油は、例えば25℃の温度に放置することで2~3時間で概ね蒸発する。そして、送風機26は、前室14、第1加熱室16及び第2加熱室18のようにトンネルを構成しないで開いている搬入テーブル12に図示しない支持具で支持されて設けられているので、送風機26による送風で被熱処理物Wの表面に付着した油成分を自然蒸発させて脱脂を促すことができる。
【0057】
B工程(ステップS801b)では、前室14で、上記積層されたモーターコアつまり被熱処理物Wを所定の温度帯(以下、所定の第1温度帯)の温度で加熱し、それによる脱脂を促す工程である。このB工程を含む第1工程は、被熱処理物Wであるモーターコアに付着したプレス油など油成分の除去を主目的に行われる。なお、前述のA工程は設けられず、第1工程はB工程のみで構成されてもよい。また、第1工程は、A工程及びB工程のB工程又は両方以外に更なる脱脂用の工程を含んでもよい。なお、第1温度帯は、被熱処理物Wの特性に影響を与えない温度域であり、例えば500℃以下に設定される。上記ガス流れ形成部の変性ガス燃焼装置76は、前室14の下側空間78dをこのような温度にするように設計されている。
【0058】
第2工程(ステップS803)は、加熱室19で、上記積層されたモーターコアを焼鈍(熱処理)する工程である。打ち抜き加工やカシメ等を用いた成型では、塑性歪みや残留応力に由来する鉄心の局所的な歪みを生じさせる。そのため、歪みを除去するために、この第2工程では、焼鈍処理を行う。この第2工程では、モーターコアの歪取り焼鈍における温度で、好ましくは均熱温度で、モーターコアは所定時間加熱される。第1加熱室16では均熱温度までの昇温が主に行われ、第2加熱室18では均熱加熱処理が実質的に行われる。焼鈍条件としては、特に限定されないが、通常、モーターコアを、750℃~850℃程度の温度で30分乃至2時間程度保持する。このように、第2工程での温度帯(以下、所定の第2温度帯)は、前述の第1温度帯よりも高い。なお、ここでは、次に説明する第3工程で、モーターコアを徐冷ではなく、例えば300℃/時間を超えた冷却速度で冷却するので、第2工程での熱処理を焼鈍又は焼鈍処理と称し、第2工程を焼鈍工程と称する。
【0059】
第3工程(ステップS805)は、冷却室20で、上記第2工程で焼鈍処理されたモーターコアを、焼入れにならない所定の冷却速度で、ここでは1時間当たり300℃を超える冷却速度で冷却する工程である。この第3工程を、ここでは冷却工程と称する。冷却室20は加熱室19の下流側に加熱室19と直接連通して設けられているので、この第3工程(冷却工程)は、第2工程(焼鈍工程)の直後に実施される。
【0060】
第3工程での、上記冷却速度は、1時間当たり300℃を超えた速度(すなわち、300℃/時<冷却速度)であるとよい。1時間当たり300℃を超える冷却速度にすることで、当該処理に要する時間を短くすることができる。また、1時間当たり300℃を超える冷却速度とするためには、単なる冷却手段のみならず、強制冷却をする設備(例えば強制冷却用ファン)をも付加的に設置するとよい。なお、冷却速度は、例えば700℃/時以下の冷却速度、600℃/時以下の冷却速度、又は500℃/時以下の冷却速度とされてもよい。なお、第3工程の一部又は全部で、徐冷、例えば25℃/時程度の冷却速度での冷却が行われること、及び、25℃/時から300℃/時の間の冷却速度での冷却が行われることを本開示は排除するものではない。
【0061】
そして、第3工程での、冷却室20におけるその冷却速度でのモーターコアの冷却は、少なくとも、第2工程(焼鈍工程)における温度、好ましくは均熱温度(例えば850℃)から500℃の温度帯において実行される。ただし、上記冷却速度は、このような温度帯における平均の冷却速度である。なお、300℃/時を超える冷却速度でのモーターコアの冷却は、第2工程における温度から300℃の温度帯で行われてもよい。
【0062】
なお、上述したように、本実施形態に係る熱処理方法は、上述の工程(
図8参照)以外に更にブルーイング処理を施すことを排除するものではない。即ち、第3工程の後にブルーイング処理が行われてもよい。第3工程の後にブルーイング処理が行われないとき、300℃/時を超える冷却速度でのモーターコアの冷却は、第2工程における温度乃至300℃の温度帯で行われるとよい。なお、これらは、第3工程の後にブルーイング処理が行われるときに、第2工程における温度から500℃よりも低い300℃までの温度帯でのその冷却速度でのモーターコアの冷却を排除するものではない。
【0063】
そして、第1工程のうちのB工程での脱脂、第2工程での焼鈍及び第3工程での冷却では、炉内雰囲気ガスとして発熱型変成ガスが用いられる。発熱型変成ガスとしては、例えばDXガスを挙げることができる。なお、熱処理炉10で用いられる変成ガスはDXガスに限定されず、例えば吸熱型変成ガス(例えばRXガス)であることを排除するものではない。
【0064】
ただし、第3工程における冷却室20での冷却時には、冷却室20における系内の冷却雰囲気の酸素分圧を、
3/2Fe+O2=1/2Fe3O4の酸素平衡分圧及び2Fe+O2=2FeOの酸素平衡分圧のうち、低い方の酸素平衡分圧以上、
4/3Fe+O2=2/3Fe2O3の酸素平衡分圧以下、
とすることが好ましい。これは、モーターコアの酸化を好適にコントロールするためであり、酸化鉄の標準生成自由エネルギーを表したエリンガム図から理解できよう。この雰囲気を実現するように、変成ガス生成装置であるガスバーナ52の作動などは制御されるとよい。
【0065】
上記構成の熱処理炉10によれば、脱脂室である前室14が上記構成のガス流れ形成部GFを備えて構成される。それにより、加熱室19の変成ガスが搬送方向において下流側から上流側に向けてつまり前室14に向けて流れることができる。この変成ガスは、モーターコアの焼鈍に用いられた雰囲気ガスであるので高温である。よって前室14をモーターコアである被熱処理物Wが通過することでその脱脂が行われる。このように、脱脂室である前室14には、脱脂専用の加熱装置つまりヒーター又は真空装置、例えば真空ポンプが設けられない。したがって、熱処理炉10は省エネルギーの点で非常に優れる。
【0066】
また、脱脂室である前室14は加熱室19に連通するので、加熱室19から輻射熱を受けることができる。これにより、前室14をモーターコアである被熱処理物Wが通過することでその脱脂が更に行われる。
【0067】
更に、脱脂室である前室14が上記構成のガス流れ形成部GFを備えて構成されるので、前室14の変成ガス燃焼室86で変成ガスが空気と反応して燃焼が生じる。この燃焼により更に前室14は加熱され、前室でのモーターコアである被熱処理物Wの脱脂が更に促される。
【0068】
また、燃焼室19からの変成ガスは前室14の隔壁78の下側空間78dに相当する搬入室84からその上側空間78uに相当する変成ガス燃焼室86に流れ、好ましくは燃焼されて、排ガス出口82、95から排出される。したがって、前室14で揮発した油等は、前室14内に滞留することもなく、また燃焼室19側に向けて流れることも防ぐことができる。これにより、脱脂専用の加熱装置又は真空装置を設ける必要が更になくなる。
【0069】
なお、前室14の上流側に送風機26が設けられて、送風機26による風によりモーターコアである被熱処理物Wの焼鈍前の脱脂が更に促される。送風機26は、一般に、ヒーターよりもエネルギーを必要としないことが広く知られている。この送風機26を採用しても、脱脂専用の加熱装置や真空装置を設けて脱脂を行う場合に比べて、熱処理炉10は省エネルギーに優れることは明らかである。
【0070】
次に、本開示の第2実施形態に係る熱処理炉について
図9に基づいて説明する。第2実施形態に係る熱処理炉は、ガスバーナ52から排出された変成ガスの熱を脱脂室である前室14において活用可能にする構成を有する点で、上記第1実施形態の熱処理炉10と相違し、その他の点では、熱所処理炉10と同じ構成を備える。そこで、以下では、第2実施形態の熱処理炉における熱処理炉10との相違点についてのみ説明し、その他の説明は省略する。
【0071】
ガスバーナ52で生成した変成ガスは例えば900℃近い温度を有する。第1実施形態の熱処理炉10では、そのガスを水冷熱交換器72及び冷凍脱水機74を介して冷やしそのガス中の水分をある程度まで除く。このときの排熱を有効に活用するべく、
図9に示すように、前室6には熱交換器97、98が設けられている。
図9は前室14の一部の搬送方向に直交する断面視である。熱交換器97、98は、前室14の下側空間78dを定める壁部に設けられている。
図1に示すように、第2実施形態の熱処理炉でも2つのガスバーナ52が設けられているので、2つの熱交換器97、98を備える。ここでは、一方のガスバーナ52の変成ガスは一方の熱交換器97に供給され、他方のガスバーナ52の変成ガスは他方の熱交換器98に供給される。しかし、これは熱交換器の数を限定するものではない。また、ガスバーナの数と熱交換器の数は異なってもよい。
【0072】
熱交換器97、98のそれぞれには、対応するガスバーナ52の変性ガス供給路70が接続されている。変性ガス供給路70におけるガスバーナ52と水冷熱交換器72との間に、熱交換器97、98はそれぞれ設けられている。したがって、高温の変性ガスの熱は、下側空間78dのガスつまり変性ガスに伝えられ、変性ガスの加熱つまりモーターコアの脱脂に用いられるようになる。
【0073】
このように、第2実施形態の熱処理炉によれば、熱交換器97、98を備えるので、水冷熱交換器72及び冷凍脱水機74で冷却及び脱水される前の変性ガスの熱を下側空間78dつまり搬入室84の変成ガスを加熱するために用いることができる。よって、より好適に、前室14での脱脂を促すことができる。このように、第2実施形態の熱処理炉は、変成ガスの排熱をより有効に活用するので、上記熱処理炉10に比べて、更に省エネルギーに優れる。
【0074】
以下、実施例について説明する。
【0075】
(実験例1)
実施例のサンプルとして、上記のごとく用意した複数のモーターコアに対して、上記第1実施形態の構成を概ね備える熱処理炉で以下の処理を行った。この熱処理炉は、送風機26を備えないこと以外は、上記熱処理炉10と同じ構成を備える。具体的には、用意した複数のモーターコアの各々に対して、脱脂室である前室14で脱脂を行い(第1工程)、それに続けて加熱室19で焼鈍し(第2工程)、その後冷却室20で冷却(第3工程)することで、歪み取り焼鈍処理を行った。なお、第1工程における前室14での脱脂用の加熱は所定の第1温度帯である200℃~300℃の温度、ここでは約250℃で第1所定時間、ここでは約10分行った。また、第2工程における加熱室19の第2加熱室18での熱処理温度は、所定の第1温度帯よりも高い所定の第2温度帯である750℃~850℃の温度とし、第3工程における冷却速度は熱処理温度から500℃の温度帯において、1時間当たり350℃程度の冷却速度とした。また、発熱型変成ガスであるDXガスを雰囲気ガスとして用いた。こうして、実施例1から6のモーターコアを得た。
【0076】
(評価)
この熱処理炉の処理の前後におけるモーターコアについて、その特性として鉄損を評価した。
【0077】
モーターコアの鉄損の測定装置として、総研電気株式会社製のステータコア磁気特性試験装置「DAC-LST-3」を用い、磁束密度を1T、測定周波数を300Hzとして測定を行った。
【0078】
表1に、本実施例1~6のモーターコアの鉄損値(W/kg)を示す。
【0079】
【0080】
表1に示されるように、焼鈍の第2工程の前に脱脂の第1工程を行った実施例では、熱処理炉10での処理で、鉄損値が小さくなり、明らかな改善が認められた。なお、これは、加熱室19での焼鈍後に徐冷したときの鉄損値の変化と同様であった。
【0081】
(実験例2)
実験例1の熱処理炉において、被熱処理物であるモーターコアを油に浸し、そのモーターコアを脱脂室から加熱室に順に流し、その油の揮発による雰囲気ガスの変化を調べた。油としては、日本工作油株式会社製の「G-6339F」を用いた。この油(G-6339F)は、非常に代表的な工作油であり、特にモーターコアのプレス油として幅広く使われているものである。そして、この実験では、第1加熱室16及び第2加熱室18を概ね800℃になるように各ヒーター16の作動を制御した。また、発熱型変成ガスであるDXガスを雰囲気ガスとして用いた。
【0082】
(評価)
実験例2では、複数のモーターコアを試験片として用い、各モーターコアを脱脂室から加熱室に順に流した。そのときの第1加熱室16の炉内雰囲気16a(
図2参照)及び第2加熱室18の炉内雰囲気18a(
図2参照)を採取し、その雰囲気16a、18aのCO
2濃度及びCO濃度をCO
2センサ及びCOセンサでそれぞれ測定した。
【0083】
第1加熱室16の炉内雰囲気16aのCO2濃度(%)及びCO濃度(%)の測定結果を表2に示す。また、第2加熱室18の炉内雰囲気18aのCO2濃度(%)及びCO濃度(%)の測定結果を表3に示す。表2及び表3のそれぞれにおいて、「処理前」とは被熱処理物であるモーターコアの処理前を指し、「処理中」とはそのモーターコアがそこにあるときを指し、「処理後」とはそのモーターコアがそこを通過して所定時間経過後を指す。ただし、「処理前」における測定値の平均(Average)を1.00として、この値を基準とした各測定値に相当する値を表2及び表3のそれぞれに示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表2及び表3に示すように、処理中及び処理後でのCO2濃度及びCO濃度はそれぞれ処理前のそれらと大きく違わず、ほぼ同じ値を有した。これは、上記ガス流れ形成部GFにより炉内雰囲気ガスの上流側への流れが生じ、よって油の揮発を好適に生じさせつつ炉内雰囲気ガスを絶えず好適な状態に保つことができることを示すものであろう。
【0087】
以上、本開示の代表的な実施形態等について説明したが、本開示はそれらに限定されず、種々の変更が可能である。本願の特許請求の範囲によって定義される本開示の精神および範囲から逸脱しない限り、種々の置換、変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
10 熱処理炉
14 前室(脱脂室)
16 第1加熱室
18 第2加熱室
19 加熱室
20 冷却室
26 送風機
76 変成ガス燃焼装置
78 隔壁
80 空気導入パイプ
82 排ガス出口
86 変成ガス燃焼室
95 排ガス出口
97、98 熱交換器
GF ガス流れ形成部