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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028495
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】エキスパンションジョイント
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/68 20060101AFI20230224BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20230224BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
E04B1/68 100Z
E04B1/94 R
E04B1/80 100P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134232
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】592131663
【氏名又は名称】井上商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 繁
(72)【発明者】
【氏名】正津 弘喜
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001DE01
2E001FA11
2E001FA16
2E001HF11
2E001PA01
(57)【要約】
【課題】断熱効果が優れた材料を合理的に用いることにより良好な断熱効果を得るエキスパンションジョイントを構成する。
【解決手段】少なくとも2枚の耐火シート11に挟み込まれ、少なくとも2枚の耐火シート11よりも幅方向の長さが短い板状の真空断熱材12と、耐火シート11と真空断熱材12とが重ね合わされた積層物Axのうち、真空断熱材12の幅方向での端部から外方に延出する少なくとも2枚の耐火シート11を重ね合わせ状態に保持する保持部材Apと、積層物Axのうち重ね合わせ状態の少なくとも2枚の耐火シート11の保持部材Apで保持された部分を、保持部材Apを介して躯体に支持する支持部材Aqと、を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の2つの躯体の躯体間隙に設置されるエキスパンションジョイントであって、
少なくとも2枚の耐火シートと、
少なくとも2枚の前記耐火シートに挟み込まれ、少なくとも2枚の前記耐火シートよりも幅方向の長さが短い板状の真空断熱材と、
前記耐火シートと前記真空断熱材とが重ね合わされた積層物のうち、前記真空断熱材の前記幅方向での端部から外方に延出する少なくとも2枚の前記耐火シートを重ね合わせ状態に保持する保持部材と、
前記積層物のうち重ね合わせ状態の少なくとも2枚の前記耐火シートの前記保持部材で保持された部分を、前記保持部材を介して前記躯体に支持する支持部材と、を備えているエキスパンションジョイント。
【請求項2】
前記保持部材が、重ね合わせ状態の少なくとも2枚の前記耐火シートに貫通するリベットで構成され、
前記支持部材が、前記耐火シートのうち前記リベットが貫通する部位に連結される保持プレート部、及び、前記躯体の外側面を覆う位置に配置される固定プレート部が一体的に形成されたフレームと、前記躯体の前記外側面に配置された前記固定プレート部を貫通して前記躯体に固定されるアンカー部材とを備えている請求項1に記載のエキスパンションジョイント。
【請求項3】
前記躯体のうち、前記躯体間隙に面する間隙側面から前記外側面に亘る角部に配置されるアングル状の遮熱材を備え、
前記遮熱材のうち、前記構造物の前記外側面を覆う位置に前記フレームの前記固定プレート部を配置した状態で、前記固定プレート部と、前記遮熱材とに前記アンカー部材を貫通させて前記躯体に固定している請求項2に記載のエキスパンションジョイント。
【請求項4】
前記躯体間隙に設置された前記積層物を覆うカバーを、前記躯体間隙を覆う領域に配置している請求項1~3の何れか一項に記載のエキスパンションジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスパンションジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、グラスウールなどのコア材としての真空断熱材をフィルムで包装して断熱材を構成し、この断熱材に幅方向の両端部に塩化ビニル樹脂製の支持材を取り付けてエキスパンションジョイントを構成している。このように構成されるエキスパンションジョイントでは、平面視で断熱材をU字状に湾曲させて両躯体の間隙に挿入し、一対の支持材の夫々を対応する両躯体に固定することで躯体間隙への設置を実現している。
【0003】
この特許文献1では、支持材が、互いに屈曲した主面部と取り付け面部とを有する形状であり、主面部の延出端に断熱材の辺縁部を挟み込む状態で接続する構造を有している。このような構造であるため、断熱材の両辺縁部に支持材を接続し、断熱材をU字状に湾曲させた状態で躯体の外側面に取り付け面部を配置し、この取り付け面部を貫通するようにアンカーボルトを躯体の取り付け面に打ち込むことにより、エキスパンションジョイントを固定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-196693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大型の建築物では、複数の躯体を所定の間隙を有して隣接する位置関係で建て、該間隙を塞ぐようにエキスパンションジョイントが備えられる。このエキスパンションジョイントは、地震による隣接する躯体の相対位置関係の変位を許容するように柔軟な素材が用いられている。
【0006】
エキスパンションジョイントは、耐火性能を必要とするものであるが、特許文献1に記載されるようにグラスウールなどのコア材をフィルムで包装した真空断熱材で成る断熱材を用いる構成では、断熱材が単一であり、断熱性能が充分でないことが懸念される。
【0007】
近年、ファイバーグラスを多孔質構造の芯材を板状に成形し、この芯材をラミネートフィルムに封入することで断熱性能に優れた製品(真空断熱材)が市販され、このような構成の断熱材を用いることも考えられる。しかしながら、この構成の真空断熱材は、板状であり、U字状に湾曲させた状態での使用が少し困難であるため、エキスパンションジョイントの構成部材として使用されていなかった。
【0008】
このような理由から、断熱効果が優れた材料を合理的に用いることにより良好な断熱効果を得るエキスパンションジョイントが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエキスパンションジョイントの特徴構成は、構造物の2つの躯体の躯体間隙に設置されるエキスパンションジョイントであって、少なくとも2枚の耐火シートと、少なくとも2枚の前記耐火シートに挟み込まれ、少なくとも2枚の前記耐火シートよりも幅方向の長さが短い板状の真空断熱材と、前記耐火シートと前記真空断熱材とが重ね合わされた積層物のうち、前記真空断熱材の前記幅方向での端部から外方に延出する少なくとも2枚の前記耐火シートを重ね合わせ状態に保持する保持部材と、前記積層物のうち重ね合わせ状態の少なくとも2枚の前記耐火シートの前記保持部材で保持された部分を、前記保持部材を介して前記躯体に支持する支持部材と、を備えている点にある。
【0010】
この特徴構成によると、耐火シートが板状の真空断熱材を挟み込み、耐火シートのうち真空断熱材の幅方向での端部より外方に延出する部位を保持部材が重ね合わせ状態で保持する。そして、この保持部材によって支持部材を重ね合わせ状態の耐火シートに固定し、更に、この支持部材を躯体で支持することで、耐火シートと真空断熱材とを重ね合わせた積層物を躯体間隙に設置できる。
また、この特徴構成では、例えば、3枚の耐火シートを用い、3枚の耐火シートが作る2つの間隙の夫々に真空断熱材を配置することにより、2枚の真空断熱材を3枚の耐火シートで挟み込む形態で用いることも可能である。これにより、必要とする性能に応じて耐火シートの枚数と真空断熱材の枚数を決めることも可能である。
【0011】
ここで、特許文献1の図6のように支持材(6)に形成された湾曲凹面部(66)と、この支持材(6)に取り付けられた発泡樹脂材(8)とで端部を挟み込む形態で真空断熱材を支持することも想像できる。しかしながら、このような構成では、例えば、地震によって躯体の間隔が拡大した場合に、真空断熱材が支持部材(6)から脱落することや、湾曲凹面部(66)、発泡樹脂材(8)の接触部分において真空断熱材の表面を傷つけ断熱効果を低下させることも考えられた。これに対し、本特徴構成では耐火シートを介して真空断熱材を支持するため、積層物を脱落させる不都合を招くことがなく、真空断熱材の表面を傷めないため、真空断熱材の断熱性能を低下させることもない。
【0012】
特に、この構成では、複数の耐火シートと真空断熱材とを用いることにより熱の遮断効果を向上させるだけでなく、真空断熱材が板状であって折り曲げることや湾曲させることが容易でない場合であっても、例えば、積層物の一部だけを折り曲げた状態で躯体間隙に設置し、真空断熱材の幅方向での端部から延出する耐火シートを、支持部材を介して躯体に支持する形態で積層物を隙間なく躯体間隙に設置することも可能となる。
従って、断熱効果が優れた材料を合理的に用いることにより良好な断熱効果を得るエキスパンションジョイントが構成された。
【0013】
上記構成に加えた構成として、前記保持部材が、重ね合わせ状態の少なくとも2枚の前記耐火シートに貫通するリベットで構成され、前記支持部材が、前記耐火シートのうち前記リベットが貫通する部位に連結される保持プレート部、及び、前記躯体の外側面を覆う位置に配置される固定プレート部が一体的に形成されたフレームと、前記躯体の前記外側面に配置された前記固定プレート部を貫通して前記躯体に固定されるアンカー部材とを備えても良い。
【0014】
これによると、フレームの保持プレート部と、重ね合わせ状態の耐火シートとをリベットで固定し、フレームの固定プレート部を躯体の外側面に配置し、この固定プレート部に貫通するアンカー部材を躯体に固定することで、フレームを介してエキスパンションジョイントの両端を躯体に支持することが可能となる。
【0015】
上記構成に加えた構成として、前記躯体のうち、前記躯体間隙に面する間隙側面から前記外側面に亘る角部に配置されるアングル状の遮熱材を備え、前記遮熱材のうち、前記構造物の前記外側面を覆う位置に前記フレームの前記固定プレート部を配置した状態で、前記固定プレート部と、前記遮熱材とに前記アンカー部材を貫通させて前記躯体に固定しても良い。
【0016】
これによると、躯体の間隙側面から外側面に亘る角部に遮熱材を、躯体の角部に備え、フレームの固定プレート部を遮熱材に重ね、固定プレート部と遮熱材とにアンカー部材を貫通させて躯体に固定することにより、固定プレート部を躯体の外面に直接的に接触させることなく、躯体に支持する状態となる。このように固定プレート部と躯体外面とが直接接触しないため、躯体とフレームとの間での熱伝導を制限し、ヒートブリッジ現象の抑制が可能となる。
【0017】
上記構成に加えた構成として、前記躯体間隙に設置された前記積層物を覆うカバーを、前記躯体間隙を覆う領域に配置しても良い。
【0018】
これによると、躯体間隙に設置された積層物をカバーで保護することが可能となり、このカバーによって断熱効果の向上も可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一対の躯体とエキスパンションジョイントの断面図である。
図2】躯体に対するエキスパンションジョイントの支持構成を分解して示す断面図である。
図3】別実施形態(a)のエキスパンションジョイントの一端側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1図2に示すように、建築物(構造物の一例)のRCコンクリートで成る2つの躯体1,1が、所定の間隔を隔てて隣接する位置関係で配置され、このように隣り合う2つの躯体1,1の間の所定の間隔である躯体間隙G(クリアランス)にエキスパンションジョイントAが設置されている。
【0021】
前述したうように、エキスパンションジョイントAは、建築物の躯体間隙G(クリアランス)に設置されるものであり、耐火性能が求められる場合には、耐火帯が躯体間隙Gの内部に耐火帯が併せて用いられる。また、屋根、外壁のエキスパンションジョイントAには耐水性能が求められるため、止水補助シート(ゴムシート)が併せて用いられる。
【0022】
更に、耐火帯と止水補助シートとを共に用いる場合には、カバー材、止水補助シート、耐火帯が、この順序で外側から内側に配置される。このように求められた性能に合わせてカバー材、止水補助シート、耐火帯を用いた構成の総称をエキスパンションジョイントAと称している。
【0023】
このエキスパンションジョイントAは、大型の建築物のように複数の躯体1を所定の間隔で隣接する位置関係で建てた場合に、躯体間隙Gに対する冷気の侵入や暖気の侵入を防止するものである。また、このエキスパンションジョイントAは、例えば、地震によって隣接する躯体1,1の相対位置関係が変化した場合でも、この変位を許容するように柔軟に変形し得る材料で構成されている。
【0024】
図1に示すように、躯体間隙Gを塞ぐ位置にエキスパンションジョイントAを設置した場合には、躯体1,1の躯体間隙Gの外部を覆う位置にアルミニウムやステンレス等の金属製で板状のカバー20が備えられる。この実施形態では、カバー20とエキスパンションジョイントAとの間にゴムシート3が配置される。
【0025】
以下の説明では、躯体1(建築物)の上下方向に沿う方向を、エキスパンションジョイントAの縦方向(図1では紙面に垂直となる方向)と称し、躯体1(建築物)の水平方向に沿う方向をエキスパンションジョイントAの幅方向と称している(図1を参照)。
【0026】
尚、本実施形態では、隣接する位置関係で縦方向に伸びる2つの躯体1の躯体間隙G(クリアランス)に設置されるエキスパンションジョイントAを想定しており、上下方向を縦方向と称しているが、躯体間隙Gは縦方向に伸びるものに限らないため、この縦方向は、クリアランスが伸びる方向と同じ意味である。これと同様に、本実施形態では、前述した想定に基づき躯体間隙Gの水平方向を幅方向と称しているが、例えば、クリアランスが躯体1の屋根部分に配置されることも含めて考えると、この幅方向はクリアランス幅方向と同じ意味となる。
【0027】
〔エキスパンションジョイント〕
図1図2に示すように、エキスパンションジョイントAは、2枚の耐火シート11と、2枚の耐火シート11に挟み込まれる1枚の真空断熱材12と、真空断熱材12の幅方向の両側の端部から延出する2枚の耐火シート11を重ね合わせ状態に保持する保持部材Apと、保持部材Apで保持された2枚の耐火シート11の幅方向での両端部を躯体1に支持する支持部材Aqとを有している。
【0028】
このエキスパンションジョイントAは、2枚の耐火シート11と、この2枚の耐火シート11に挟み込まれる1枚の真空断熱材12とを積層物Axと称している。この積層物Axでは、真空断熱材12として、その幅方向の長さが、2枚の耐火シート11の幅方向での長さより短いものが用いられているため、真空断熱材12の幅方向の両端から2枚の耐火シート11が延出しており、この延出した部位が保持部材Apで重ね合わせ状態に保持されている。
【0029】
特に、このエキスパンションジョイントAでは、積層物Axの両端部位を滑らかな円弧状に湾曲させることにより、第1耐火シート11aと第2耐火シート11bとの間に真空断熱材12を密着状態で配置している。
【0030】
2枚の耐火シート11と、1枚の真空断熱材12と、1枚のゴムシート3との縦方向の寸法は、躯体1の縦方向の寸法に等しいことが理想であるが、これらは、縦方向で繋ぎ合わせて用いられる。
【0031】
このエキスパンションジョイントAでは、保持部材Apとして、複数のリベット13を用いており、この複数のリベット13を縦方向に並ぶように配置し、2枚の耐火シート11に貫通させることにより、これらを重ね合わせ状態で保持する。
【0032】
また、このエキスパンションジョイントAでは、支持部材Aqとして、リベット13を介して2枚の耐火シート11を保持するフレーム14と、このフレーム14を躯体1の外面側に支持する(固定する)アンカー部材15とが用いられている。尚、フレーム14は、耐火シート11を保持する保持プレート部14aと、アンカー部材15によって躯体1に固定される固定プレート部14bとを一体形成した構造を有している。これらの構成の詳細は後述する。
【0033】
フレーム14と、後述する遮熱材16との夫々は、複数のものを縦方向で連なる位置に配置して用いられる。
【0034】
耐火シート11は、AES(Alkaline Earth Silicate )繊維を用いたクロスや、AESクロスの表面に耐熱被覆を形成した構成等の耐火帯として用いられるものである。特に、表面側(図1では下側)の耐火シート11を第1耐火シート11aと称し、裏面側(図1では上側)の耐火シート11を第2耐火シート11bと称する。すなわち、第1耐火シート11aは躯体1,1と接触しておらず、第2耐火シート11bは後述する接触領域Ayで躯体1,1と接触している。
【0035】
この2枚の耐火シート11では、図2に示すように、第1耐火シート11aの第1シート厚Taより、第2耐火シート11bの第2シート厚Tbが大きい値に設定されている。尚、真空断熱材12として、任意の厚みのものを使用することが可能であるが、この真空断熱材12として、第1シート厚Taより厚く、第2シート厚Tbより薄いものが用いられている。
【0036】
真空断熱材12は、ファイバーグラスで構成される多孔質構造の芯材を薄板状に成形し、この芯材をラミネートフィルムに封入することで断熱性能に優れた断熱材として構成されるものである。この真空断熱材12はVIP(Vacuum Insulation Panel )とも称されるものであり真空状態を利用することで、熱伝導率を極めて低減した断熱材となる。前述した積層物Axは、真空断熱材12の表面と、2枚の耐火シート11の内面とを両面テープ等で貼り付けることで、これらが一体化されている。
【0037】
また、2枚の耐火シート11と真空断熱材12とを重ね合わせた積層物Axは、エキスパンションジョイントAの本体を構成するものである。この積層物Axでは、真空断熱材12の幅方向での長さが、耐火シート11の幅方向での長さより短いものが用いられている。
【0038】
このように、エキスパンションジョイントAは、積層物Axの両端部を大きい半径で湾曲させることで、この両端部に躯体1の間隙側面1bに沿う姿勢(平行となる姿勢)の接触領域Ayを形成している。
【0039】
尚、第2耐火シート11bは両端部において滑らかな円弧となるように湾曲させることにより、積層物Axの内部において真空断熱材12との間に空間を形成している。
【0040】
〔エキスパンションジョイント:支持部材〕
図1図2に示すように、リベット13(保持部材Ap)は、真空断熱材12の幅方向の端部より外方に延出し、重ね合わせ状態にある2枚の耐火シート11(第1耐火シート11aと第2耐火シート11b)を貫通する位置に配置されている。つまり、リベット13は真空断熱材12を貫通しない位置に配置されている。
【0041】
前述したように支持部材Aqは、フレーム14と、アンカー部材15とで構成されている。フレーム14は、ステンレス等の金属板が用いられ、リベット13が貫通する保持プレート部14aと、アンカー部材15が貫通する固定プレート部14bと、積層物Axの端部を躯体1の間隙側面1bに押圧する圧着プレート部14cとが一体形成されている。また、フレーム14の保持プレート部14aと固定プレート部14bとが作る角度θを88度程度の角度となるように折り曲げている。
【0042】
特に、フレーム14の保持プレート部14aと、重ね合わせ状態の2枚の耐火シート11とにリベット13を貫通させ、これらを固定することにより積層物Axの幅方向での両端にフレーム14が取り付けられている。図面には示していないが、エキスパンションジョイントAを躯体1に支持する場合には、多数のフレーム14が、積層物Axの縦方向に沿って配置される。
【0043】
図1図2に示すように、積層物Axのうち真空断熱材12に重なる部位の第1耐火シート11aが、幅方向での端部近くの領域で真空断熱材12の厚みに応じて重ね合わせ状態にある2枚の耐火シート11よりも段状に膨らむため、この膨らみに沿うように、フレーム14の保持プレート部14aに連なる部位に段状に膨らむ圧着プレート部14cが形成されている。
【0044】
このような構成から、リベット13でフレーム14を耐火シート11に固定した状態において、フレーム14の圧着プレート部14cが第1耐火シート11aの外面から真空断熱材12に圧力を作用させる。
【0045】
特に、フレーム14の保持プレート部14aと固定プレート部14bとが作る角度θを90度以下(好ましくは88度)に設定することにより、図1に示すように固定プレート部14bを、躯体1の外側面1aに沿う姿勢で固定した場合には、保持プレート部14aに連なる圧着プレート部14cが耐火シート11の外面から真空断熱材12に圧力を継続的に作用させ、積層物Axの接触領域Ay(第2耐火シート11bの外面)が躯体1の間隙側面1bから浮き上がる不都合を抑制する。
【0046】
カバー20は、図1に示すように、外面を覆う位置に配置されるアルニニウム製のカバー材21と、このカバー材21の両端部から躯体1の方向の突出する姿勢で形成されたシール部22と、カバー材21の内面側(躯体1に対向する側)に連結するホルダー23と、一対のトーションスプリング24とを備えている。
【0047】
2つ躯体1の夫々に備えたアンカー部材15の外端にブラケット25が固定され、トーションスプリング24は、一方の端部をブラケット25に係合させ、他方の端部をホルダー23に係合さることにより、トーションスプリング24の付勢力によってシール部22を躯体1の外面に接触させるように構成されている。
【0048】
〔施工形態〕
エキスパンションジョイントAを、躯体間隙Gに設置する場合には、図1図2に示すように、隣合う2つの躯体1,1に対し、夫々の躯体1の外側面1aから躯体1の間隙側面1bに亘る角部に密着する状態でアングル状の遮熱材16が備えられる。
【0049】
この遮熱材16は、アングル状の鋼材に裏面(躯体1側の面)に遮熱材を形成したものであり、リベット13やフレーム14から伝わる熱を遮断するように機能する。尚、遮熱材16は、鋼材等の金属の両面に遮熱材を貼付したものでも良く、金属と比較して充分に熱伝導率が低い樹脂材で構成されるものでも良い。
【0050】
また、2枚の耐火シート11に挟み込まれる真空断熱材12を重ね合わせた積層物Axの幅方向の両端部分を湾曲させことで両端部に躯体1の間隙側面1bに沿う姿勢の接触領域Ayを形成し、この両端部の重ね合わせ状態にある2枚の耐火シート11にリベット13によりフレーム14を取り付け、この積層物Axを躯体間隙Gに挿入する。
【0051】
このように積層物Axを躯体間隙Gに挿入した状態では、積層物Axの両端の湾曲によって形成される接触領域Ayが、一対の躯体1の間隙側面1bに接触する状態に達する。また、積層物Axが躯体間隙Gに挿入されることにより、フレーム14の固定プレート部14bを遮熱材16の外面(躯体1の外側面1aに重複する位置の外面)に重なる位置に配置される。このとき、リベット13は、遮熱材16の外面(躯体1の間隙側面1bに重複する位置の外面)に重なる位置に配置される。これにより、リベット13やフレーム14から伝わる熱は遮熱材16により遮断させ、躯体1に伝導されることはない。
【0052】
次に、フレーム14の固定プレート部14bの外面にEPDM等のゴムシート3の幅方向での両端部分を重ね合わせ、更に、このゴムシート3の幅方向の外面近くにカバー20の幅方向の両端を重ね、これらの重ね合わせ部分に貫通するようにアンカー部材15を貫通させるように躯体1に固定することになる。この後に、躯体間隙Gを覆う位置にカバー20を設置することで施工が完了する。
【0053】
〔実施形態の作用効果〕
このように、エキスパンションジョイントAが、2枚の耐火シート11と、これらの間に挟み込まれる真空断熱材12を備えているため、熱の遮断性能を向上させ、耐火性能を向上させ、良好な遮音性能も現出する。また、真空断熱材12が湾曲させることが容易でなくとも、この真空断熱材12の幅方向での両端部を滑らかに湾曲させることにより躯体間隙Gへの設置を実現している。
【0054】
前述したように、真空断熱材12は芯材をラミネートフィルムに封入した構造であり、性能を維持するためにラミネートフィルムの保護を必要とする。エキスパンションジョイントAは、2枚の耐火シート11の間に真空断熱材12を挟み込んだ構造であるため、このエキスパンションジョイントAを製作する際には、真空断熱材12の外面を耐火シート11が保護する。また、エキスパンションジョイントAを設置する場合にも耐火シート11が真空断熱材12の外面を保護するため取り扱を容易にして簡単な取り付けを実現している。
【0055】
このエキスパンションジョイントAでは、積層物Axの両端部を滑らかに湾曲させることにより躯体1の間隙側面1bに接触する接触領域Ayが第2耐火シート11bに形成されている。そして、固定プレート部14bを、躯体1の外側面1aに沿う姿勢で固定した場合には、保持プレート部14aに連なる圧着プレート部14cが接触領域Ayを間隙側面1bに接触させる方向に圧力を継続的に作用させ、接触領域Ayを間隙側面1bに密着させる状態を維持し、この部位に隙間が形成される不都合を抑制する。
【0056】
このようにエキスパンションジョイントAを設置する場合には、カバー20と、ゴムシート3と、固定プレート部14bと、遮熱材16とにアンカー部材15を貫通させ、躯体1に固定することで、2枚の耐火シート11と真空断熱材12とを重ね合わせた積層物Axだけでなく、ゴムシート3と、カバー20とを同時に躯体1に支持することが可能となり、部品点数を増大させることなく、施工を行える。
【0057】
また、エキスパンションジョイントAを躯体間隙Gに設置した状態で、躯体間隙Gの開口部分がカバー20で覆われることにより、カバー20が外部からの雨水や塵埃等の侵入を抑制し、躯体間隙Gに雨水や塵埃が侵入した場合でも、内部のゴムシート3が、積層物Axへの接触を抑制し断熱効果を高く維持する。
【0058】
また、遮熱材16を躯体1の角部に備え、この遮熱材16の外面に固定プレート部14bが接触する状態で配置されるため、躯体1の外側面1aと、固定プレート部14bとが直接接触することがなく、躯体1とフレーム14との間での熱伝導を制限しヒートブリッジ現象を抑制する。この遮熱材16が躯体1の間隙側面1bを覆う位置にも配置されるため、リベット13の端部が躯体1に対して接触することがなく、この部位においても、躯体1とフレーム14との間でのヒートブリッジ現象を抑制する。
【0059】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0060】
(a)図3に示すように、積層物Axの両端部位を複数回(図3では、45度つず2回)折り曲げることにより、この両端部位において第1耐火シート11aと真空断熱材12との間、及び、第2耐火シート11bと真空断熱材12との間に隙間を形成している。つまり、真空断熱材12は所定の半径で湾曲させることは容易でないため、複数回の折り曲げによって積層物Axの両端部に躯体1の間隙側面1bに沿う姿勢(平行となる姿勢)の接触領域Ayを形成している。
【0061】
(b)耐火シート11を、3枚以上の複数枚用い、複数枚の耐火シート11の何れかの間に真空断熱材12を配置する。このように構成することにより一層断熱性能と耐火性能との向上が可能となる。
【0062】
(c)耐火シート11は1枚だけも良く、このように1枚の耐火シート11を用いた場合には、その耐火シート11に真空断熱材12を貼着により固定することや、例えば、1枚の耐火シート11と、耐熱性に優れたシートを用い、これらの間に真空断熱材12を挟み込むことも考えられる。
【0063】
(d)耐火シート11を、3枚以上の複数枚用いる場合には、耐火シート11の間の複数の空間の夫々に真空断熱材12を挟み込んだ積層物Axを構成することも考えられる。このように構成することにより、例えば、比較的薄く湾曲も可能となる真空断熱材12を複数用いることで、積層物Axの全体を容易に湾曲させることも可能となる。
このように2枚以上の耐火シート11を用い、耐火シート11の間の複数の空間(間隙)に真空断熱材12を配置できるため、必要とする性能に対応して、耐火シート11と真空断熱材12との枚数を任意に設定することも可能となる。
【0064】
(e)保持部材Apとして複数のリベット13を用いる構成に代えて複数のビスとナットとを用いても良い。このようにビスとナットとを用いるものでは、例えば、メンテナンスを行う際にフレーム14と積層物Axとの分離も容易に行える。
【0065】
(f)フレーム14は、実施形態に示した形状に限るものではない。また、アンカー部材15は釘状のものであっても良い。
【0066】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、エキスパンションジョイントに利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 躯体(構造物)
1a 外側面
1b 間隙側面
11 耐火シート
12 真空断熱材
13 リベット(保持部材)
14 フレーム(支持部材)
14a 保持プレート部
14b 固定プレート部
15 アンカー部材(支持部材)
16 遮熱材
20 カバー
A エキスパンションジョイント
Ax 積層物
Ay 接触領域
Ap 保持部材
Aq 支持部材
G 躯体間隙
図1
図2
図3