(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028547
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】エアブレーキ用チューブ
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20230224BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20230224BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
F16L11/04
B32B1/08 B
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134309
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富永 啓太
(72)【発明者】
【氏名】古山 義紘
(72)【発明者】
【氏名】眞井 良二
【テーマコード(参考)】
3H111
4F100
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111BA34
3H111CB03
3H111CB14
3H111DA11
3H111DA26
3H111DB11
3H111DB19
4F100AK46A
4F100AK46B
4F100AK47A
4F100AK47B
4F100AK47J
4F100BA02
4F100DA11
4F100JK01
4F100JK13
4F100JK17
(57)【要約】
【課題】高温環境下での耐圧性と車両への配策作業性との両立が可能なエアブレーキ用チューブを提供する。
【解決手段】エアブレーキ用チューブ10Aは、複層構造を有し、125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きく23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複層構造を有し、
125℃でのフープ応力が9.72MPaより大きく23℃での引張弾性率が650MPaより小さい、
エアブレーキ用チューブ。
【請求項2】
前記複層構造は、無可塑ポリアミド系樹脂からなる内層と、前記内層の外側に設けられ可塑化ポリアミド系樹脂からなる外層と、を有し、
前記内層と前記外層の肉厚の合計に対する前記内層の肉厚の割合は、5%以上40%以下であり、
前記無可塑ポリアミド系樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPaより大きく25MPa以下であり、
前記可塑化ポリアミド系樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPa以下であり、
前記無可塑ポリアミド系樹脂及び前記可塑化ポリアミド系樹脂は、融点が190℃以上、又はISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度が50℃以上である、
請求項1記載のエアブレーキ用チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアブレーキ用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス等に使用されるエアブレーキシステムには、金属製配管やポリアミド系樹脂チューブが使用される。軽量化や配策作業の容易化の観点から、ポリアミド系樹脂チューブの使用が増大している。
【0003】
エアブレーキ用チューブは、高温環境下で高圧エアの流通に用いられるため、耐熱性と耐圧性とが求められる。ドイツ工業規格であるDIN74324では、最も耐熱・耐圧要求の高い規格として、最大使用温度が100℃、最大使用圧力が1250kPaに定められている。近年では、エアブレーキ用チューブ付近の高温化が進み、より高温の環境下に対応した規格として、国際工業規格であるISO7628では、最大使用温度が125℃、最大使用圧力が1250kPaに定められている。
【0004】
ISO7628で定められる最大使用温度での耐圧性を向上するために、ポリアミド系樹脂からなる最内層と、ポリエステル系エラストマからなる外層と、最内層と外層との間に設けられた接着層と、を有する多層チューブが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、DIN74324でチューブ用の材料として規定されるポリアミド系樹脂よりも融点が高いポリエステル系エラストマを外層に用いることにより、高温環境下での耐圧性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるポリエステル系エラストマは、一般的にエアブレーキ用チューブとして適用されるポリアミド系樹脂と比較して剛性が高い。そのため、特許文献1に開示されるようにポリエステル系エラストマからなる層を含む多層チューブは、ポリアミド系樹脂からなる単層チューブに比べ、柔軟性が低い。その結果、トラックやバス等の車両への配策作業が著しく困難になる。従来、エアブレーキ用チューブとして一般的に適用されているDIN74324に準じるポリアミド系樹脂からなる単層チューブは、ISO7628のカテゴリー3に規定される125℃環境下での耐圧強度を満たすことができない。一方、DIN74324に準じるポリアミド系樹脂よりも剛性の高いポリアミド系樹脂を適用することにより、ISO7628のカテゴリー3に規定される125℃環境下での耐圧強度を満たすことができるが、この場合、剛性の高いポリアミド系樹脂を適用しているため、車両への配策作業が著しく困難になる。
【0007】
本発明は、高温環境下での耐圧性と車両への配策作業性との両立が可能なエアブレーキ用チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエアブレーキ用チューブは、複層構造を有し、125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きく23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きいため、DIN74324に準じるポリアミド系樹脂からなる単層チューブの125℃環境下での耐圧性よりも高い耐圧性を125℃環境下で有する。また、23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さいため、ISO7628のカテゴリー3に規定される125℃環境下での耐圧強度を満たすことができる剛性の高いポリアミド系樹脂からなる単層チューブの23℃環境下での柔軟性よりも高い柔軟性を23℃環境下で有する。したがって、高温環境下での耐圧性と車両への配策作業性との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るエアブレーキ用チューブを示す断面図である。
【
図2】第2実施形態に係るエアブレーキ用チューブを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に示す各実施形態は、本発明の一例であり、本発明はこれに限られるものではない。各実施形態に関する以下の説明において、同様の構成については同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
1.第1実施形態
図1に、第1実施形態に係るエアブレーキ用チューブ10Aの断面図を示す。エアブレーキ用チューブ10Aは、複層構造を有している。複層構造は、中空の内層12と、内層12の外側に設けられた外層14Aと、を有する。
【0013】
内層12及び外層14Aの材料は、エアブレーキ用チューブ10Aの125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きくなるように、また、エアブレーキ用チューブ10Aの23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さくなるように選定される。
【0014】
ここで、耐圧性及び柔軟性の指標について、詳述する。
【0015】
<耐圧性>
耐圧性の指標は、より高温の環境下に対応した規格として定められたISO7628の破壊圧力に基づいて定める。ISO7628のカテゴリー3では、最大使用温度として定められている125℃環境下での破壊圧力が2.5MPaに定められている。破壊圧力2.5MPaを、DIN73378に規定されるフープ応力換算式を用いてフープ応力に換算する。換算されたフープ応力が、耐圧性の指標となる。
【0016】
DIN73378では、フープ応力換算式は次のように規定されている。
σ=p・(d-s)/(2・s) ・・・・・(式1)
σ:フープ応力(MPa)
p:破壊圧力(MPa)
d:チューブ外径(mm)
s:チューブ肉厚(mm)
【0017】
ISO7628やDIN74324には、チューブ呼び径ごとにチューブ外径及びチューブ肉厚、並びにそれらの寸法公差が定められている。一般的に使用されるチューブ呼び径に対して、寸法公差内で最も破壊されやすい条件となるチューブ外径及びチューブ肉厚から、DIN73378のフープ応力換算式を用いてフープ応力σを求めると、破壊圧力2.5MPaに対応するフープ応力は、9.72MPaとなる。つまり、フープ応力9.72MPaが耐圧性を満足するか否かの基準値となる。
【0018】
<柔軟性>
柔軟性の指標には、変形のしにくさを表す引張弾性率を用いる。引張弾性率は、低いほど柔軟性が高いことを意味する。柔軟性を満足するか否かの基準値となる引張弾性率は、DIN74324のPHLYとして規定される耐圧性を満足するポリアミド1010(PA1010)樹脂からなる単層チューブの引張弾性率の測定結果を用いる。
【0019】
引張弾性率の測定では、長さ170mmに切断したDIN74324のPHLYとして規定される耐圧性を満足するポリアミド1010樹脂からなる単層チューブのサンプルを、23℃/50%RH環境下にて24時間以上静置した後、日本産業規格であるJIS K7161-1に規定される引張試験装置に、つかみ具間距離が115mmになるようにセットする。23℃/50%RH環境下にて、JIS K7161-1に則って、1mm/minの試験速度で引張試験を開始し、引張荷重とつかみ具間距離の増加量を計測する。
【0020】
計測された引張荷重とチューブサンプルの初期断面積とから、JIS K7161-1に規定される次の引張応力計算式を用いて引張応力を求める。
σ=F/A ・・・・・(式2)
σ:引張応力(MPa)
F:引張荷重(N)
A:チューブサンプルの初期断面積(mm2)
【0021】
また、計測されたつかみ具間距離の増加量と初期のつかみ具間距離とから、JIS K7161-1に規定される次の呼びひずみ計算式を用いて呼びひずみを求める。
εt=Lt/L ・・・・・(式3)
εt:呼びひずみ(無次元)
L:初期のつかみ具間距離(mm)
Lt:つかみ具間距離の増加量(mm)
【0022】
得られた引張応力と呼びひずみとから、JIS K7161-1に規定される次の引張弾性率計算式を用いて引張弾性率を求める。
Et=(σ2-σ1)/(ε2-ε1)・・・・・(式4)
Et:引張弾性率(MPa)
σ1:呼びひずみε1が0.0005における引張応力(MPa)
σ2:呼びひずみε2が0.0025における引張応力(MPa)
【0023】
DIN74324のPHLYとして規定される耐圧性を満足するポリアミド1010樹脂からなる単層チューブの23℃/50%RH環境下での引張弾性率は650MPaである。つまり、引張弾性率650MPaが柔軟性を満足するか否かの基準値となる。
【0024】
以上のように、耐圧性の基準値は、フープ応力9.72MPaであり、柔軟性の基準値は、引張弾性率650MPaである。エアブレーキ用チューブ10Aの内層12及び外層14Aの材料は、エアブレーキ用チューブ10Aの125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きくエアブレーキ用チューブ10Aの23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さくなるように選定される。
【0025】
本実施形態では、内層12を無可塑ポリアミド系樹脂とし、外層14Aを可塑化ポリアミド系樹脂とする。これにより、可塑化ポリアミド系樹脂である外層14Aの耐圧性が内層12の無可塑ポリアミド系樹脂により補完され、無可塑ポリアミド系樹脂である内層12の柔軟性が外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂により補完される。
【0026】
内層12を無可塑ポリアミド系樹脂とすることにより、外層14Aを無可塑ポリアミド系樹脂とした場合と比較して、内層12の肉厚を薄くしつつ耐圧性を高めることができる。したがって、外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂の肉厚を厚くすることができ、可塑化ポリアミド系樹脂による柔軟性の補完効果を高めることができる。
【0027】
内層12と外層14Aの肉厚の合計に対する内層12の肉厚の割合(以下、単に「内層12の肉厚の割合」とも称する)が大きすぎると、内層12の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性が外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂により補完されず、柔軟性を満足することができなくなる。そこで、内層12の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性が外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂により補完されるように、内層12の肉厚の割合を設定する。なお、内層12の肉厚の割合を5%より小さくすると、内層12を安定して成形することが困難になるため、内層12の肉厚の割合は5%以上であることが好ましい。
【0028】
内層12の無可塑ポリアミド系樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が大きすぎると、外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂が内層12の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性を補完しきれず、柔軟性を満足することができなくなる。同様に、外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が大きすぎると、外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂が内層12の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性を補完しきれず、柔軟性を満足することができなくなる。また、内層12の無可塑ポリアミド系樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が小さすぎると、内層12の無可塑ポリアミド系樹脂が外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂の耐圧性を補完しきれず、耐圧性を満足することができなくなる。そこで、内層12の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性が外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂により補完されかつ外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂の耐圧性が内層12の無可塑ポリアミド系樹脂により補完されるように、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力をそれぞれ設定する。
【0029】
ポリアミド系樹脂において、常温から高温にかけての応力低下は、融点又は荷重たわみ温度に依存する。具体的には、融点又は荷重たわみ温度が低いほど、常温から高温にかけての応力低下が大きい。そのため、内層12及び外層14Aに用いられるポリアミド系樹脂の融点又は荷重たわみ温度が低すぎると、23℃から125℃にかけての応力低下により高温環境下での耐圧性を満足することができなくなる。そこで、23℃から125℃にかけての内層12及び外層14Aの応力低下が小さくなるように、融点又は荷重たわみ温度を設定する。
【0030】
荷重たわみ温度としては、ISO75に規定される荷重たわみ温度を用いることができる。ISO75は、合成樹脂の耐熱性を評価する試験法の1つである。ISO75では、荷重たわみ温度は、試験片に1.80MPaの曲げ応力をかけて120℃/hrの速度で昇温させ、曲げひずみの増加分が0.2%になったときの温度として規定されている。
【0031】
エアブレーキ用チューブ10Aでは、無可塑ポリアミド系樹脂からなる内層12の肉厚の割合を5%以上40%以下とし、内層12を、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPaより大きく25MPa以下となる無可塑ポリアミド系樹脂とし、外層14Aを、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPa以下となる可塑化ポリアミド系樹脂とし、内層12の無可塑ポリアミド系樹脂及び外層14Aの可塑化ポリアミド系樹脂を、融点が190℃以上、又はISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度が50℃以上になるようにすることで、エアブレーキ用チューブ10Aの125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きくエアブレーキ用チューブ10Aの23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さくなる。したがって、高温環境下での耐圧性と車両への配策作業性との両立が可能となる。
【0032】
2.第2実施形態
図2に、第2実施形態に係るエアブレーキ用チューブ10Bの断面図を示す。エアブレーキ用チューブ10Bは、外層14Bが、内層12の外側に設けられた第1外層16と、第1外層16の外側に設けられた第2外層18と、を有する点において、エアブレーキ用チューブ10A(
図1参照)と相違する。換言すれば、エアブレーキ用チューブ10Bは、内層12と第1外層16と第2外層18とからなる3層構造を有している。
【0033】
エアブレーキ用チューブ10Bにおいても、内層12、第1外層16及び第2外層18の材料は、エアブレーキ用チューブ10Bの125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きくエアブレーキ用チューブ10Bの23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さくなるように選定される。
【0034】
エアブレーキ用チューブ10Bにおいても、無可塑ポリアミド系樹脂からなる内層12の肉厚の割合を5%以上40%以下とし、内層12を、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPaより大きく25MPa以下となる無可塑ポリアミド系樹脂とし、外層14Bを、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPa以下となる可塑化ポリアミド系樹脂とし、内層12の無可塑ポリアミド系樹脂及び外層14Bの可塑化ポリアミド系樹脂を、融点が190℃以上、又はISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度が50℃以上になるようにすることで、エアブレーキ用チューブ10Bの125℃環境下でのフープ応力が9.72MPaより大きくエアブレーキ用チューブ10Bの23℃環境下での引張弾性率が650MPaより小さくなる。したがって、高温環境下での耐圧性と車両への配策作業性との両立が可能となる。
【0035】
また、第1外層16には、例えば耐薬品性や耐摩耗性等が劣る安価な可塑化ポリアミド系樹脂を使用することができ、第2外層18には、耐薬品性や耐摩耗性等が第1外層16よりも優れた可塑化ポリアミド系樹脂を使用することができる。この場合には、エアブレーキ用チューブ10Bのコストを抑えつつ耐薬品性や耐摩耗性等を向上させることができる。このように、エアブレーキ用チューブ10Bでは、外層14Bに使用される可塑化ポリアミド系樹脂の選定自由度が高められるため、幅広い設計が可能となる。
【0036】
3.実施例
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。以下の実施例及び比較例で得られたエアブレーキ用チューブの耐圧性及び柔軟性の評価方法は以下のとおりである。
【0037】
<耐圧性の評価>
チューブサンプルを、23℃/50%RH環境下にて1時間以上静置した後、125℃の油中に10分静置し、破壊試験を開始する。破壊試験では、30秒~60秒でチューブサンプルを破壊させ、最大破壊圧力を計測する。計測された最大破壊圧力から、DIN73378に規定されるフープ応力換算式(式1参照)を用いて125℃環境下でのフープ応力を求める。
【0038】
求められたフープ応力が125℃環境下での耐圧性である。求められたフープ応力が9.72MPaより大きい場合には「〇」とし、求められたフープ応力が9.72MPa以下の場合には「×」とする。
【0039】
<柔軟性の評価>
長さ170mmに切断したチューブサンプルを、23℃/50%RH環境下にて24時間以上静置した後、JIS K7161-1に規定される引張試験装置に、つかみ具間距離が115mmになるようにセットする。23℃/50%RH環境下にて、JIS K7161-1に則って、1mm/minの試験速度で引張試験を開始し、引張荷重とつかみ具間距離の増加量を計測する。
【0040】
計測された引張荷重とチューブサンプルの初期断面積とから、JIS K7161-1に規定される引張応力計算式(式2参照)を用いて引張応力を求める。また、計測されたつかみ具間距離の増加量と初期のつかみ具間距離とから、JIS K7161-1に規定される呼びひずみ計算式(式3参照)を用いて呼びひずみを求める。得られた引張応力と呼びひずみとから、JIS K7161-1に規定される引張弾性率計算式(式4参照)を用いて引張弾性率を求める。
【0041】
求められた引張弾性率が23℃環境下での柔軟性である。求められた引張弾性率が650MPaより小さい場合には「〇」とし、求められた引張弾性率が650MPa以上の場合には「×」とする。
【0042】
<実施例I及び比較例I>
実施例I及び比較例Iでは、外径が8mm、肉厚が1mmのエアブレーキ用チューブを成形し、125℃環境下における耐圧性及び23℃環境下における柔軟性を評価した。同じポリアミド種の樹脂材料で125℃フープ応力が異なるものの識別のために、各ポリアミド樹脂の数字の末尾に「-A」「-B」「-C」を付けた。後述する実施例II、比較例II、実施例III、比較例III及び参考例においても同様である。
【0043】
実施例I-1は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.25mm及び0.75mm(内層の肉厚の割合を25%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例I-2は、内層を無可塑ポリアミド6-A樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.4mm及び0.6mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例I-3は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし第1外層を可塑化ポリアミド612-B樹脂とし第2外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層、第1外層及び第2外層の肉厚をそれぞれ0.2mm、0.2mm及び0.6mm(内層の肉厚の割合を20%)とした3層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例I-4は、内層を無可塑ポリアミド66-A樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.1mm及び0.9mm(内層の肉厚の割合を10%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。
【0044】
比較例I-1は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.5mm及び0.5mm(内層の肉厚の割合を50%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例I-2は、内層を無可塑ポリアミド66-B樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.1mm及び0.9mm(内層の肉厚の割合を10%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例I-3は、内層を無可塑ポリアミド6-B樹脂とし外層を可塑化ポリアミド610-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.4mm及び0.6mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例I-4は、DIN74324のPHLYとして規定される耐圧性を満たすポリアミド1010樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。比較例I-5は、可塑化ポリアミド612-A樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。比較例I-6は、内層を無可塑ポリアミド6-C樹脂とし外層を可塑化ポリアミド12樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.4mm及び0.6mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例I-7は、DIN74324のPHLYとして規定される可塑化ポリアミド12樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。
【0045】
実施例I及び比較例Iのエアブレーキ用チューブの耐圧性及び柔軟性の評価結果を、表1に示す。表1において、内層、外層(第1外層及び第2外層)の欄に示されるフープ応力は、各材料を外径が8mm、肉厚が1mmの単層チューブにした際の125℃環境下におけるフープ応力である。フープ応力は、チューブサイズに依存せず、材料のみできまる特性であるため、後述する表2、表3及び表4においても同様である。荷重たわみ温度は、ISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度である。後述する表2、表3及び表4においても同様である。
【0046】
【0047】
<実施例II及び比較例II>
実施例II及び比較例IIでは、外径が10mm、肉厚が1.25mmのエアブレーキ用チューブを成形し、125℃環境下における耐圧性及び23℃環境下における柔軟性を評価した。
【0048】
実施例II-1は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.31mm及び0.94mm(内層の肉厚の割合を25%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例II-2は、内層を無可塑ポリアミド6-A樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.5mm及び0.75mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例II-3は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし第1外層を可塑化ポリアミド612-B樹脂とし第2外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層、第1外層及び第2外層の肉厚をそれぞれ0.25mm、0.25mm及び0.75mm(内層の肉厚の割合を20%)とした3層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例II-4は、内層を無可塑ポリアミド66-A樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.12mm及び1.13mm(内層の肉厚の割合を10%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。
【0049】
比較例II-1は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.62mm及び0.63mm(内層の肉厚の割合を50%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例II-2は、内層を無可塑ポリアミド66-B樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.12mm及び1.13mm(内層の肉厚の割合を10%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例II-3は、内層を無可塑ポリアミド6-B樹脂とし外層を可塑化ポリアミド610-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.5mm及び0.75mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例II-4は、DIN74324のPHLYとして規定される耐圧性を満たすポリアミド1010樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。比較例II-5は、可塑化ポリアミド612-A樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。比較例II-6は、内層を無可塑ポリアミド6-C樹脂とし外層を可塑化ポリアミド12樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.5mm及び0.75mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例II-7は、DIN74324のPHLYとして規定される可塑化ポリアミド12樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。
【0050】
実施例II及び比較例IIのエアブレーキ用チューブの耐圧性及び柔軟性の評価結果を、表2に示す。
【0051】
【0052】
<実施例III及び比較例III>
実施例III及び比較例IIIでは、外径が12mm、肉厚が1.5mmのエアブレーキ用チューブを成形し、125℃環境下における耐圧性及び23℃環境下における柔軟性を評価した。
【0053】
実施例III-1は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.38mm及び1.12mm(内層の肉厚の割合を25%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例III-2は、内層を無可塑ポリアミド6-A樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.6mm及び0.9mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例III-3は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし第1外層を可塑化ポリアミド612-B樹脂とし第2外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層、第1外層及び第2外層の肉厚をそれぞれ0.3mm、0.3mm及び0.9mm(内層の肉厚の割合を20%)とした3層構造を有するエアブレーキ用チューブである。実施例III-4は、内層を無可塑ポリアミド66-A樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.15mm及び1.35mm(内層の肉厚の割合を10%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。
【0054】
比較例III-1は、内層を無可塑ポリアミド612樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.75mm及び0.75mm(内層の肉厚の割合を50%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例III-2は、内層を無可塑ポリアミド66-B樹脂とし外層を可塑化ポリアミド612-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.15mm及び1.35mm(内層の肉厚の割合を10%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例III-3は、内層を無可塑ポリアミド6-B樹脂とし外層を可塑化ポリアミド610-A樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.6mm及び0.9mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例III-4は、DIN74324のPHLYとして規定される耐圧性を満たすポリアミド1010樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。比較例III-5は、可塑化ポリアミド612-A樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。比較例III-6は、内層を無可塑ポリアミド6-C樹脂とし外層を可塑化ポリアミド12樹脂とし、内層及び外層の肉厚をそれぞれ0.6mm及び0.9mm(内層の肉厚の割合を40%)とした2層構造を有するエアブレーキ用チューブである。比較例III-7は、DIN74324のPHLYとして規定される可塑化ポリアミド12樹脂からなる単層のエアブレーキ用チューブである。
【0055】
実施例III及び比較例IIIのエアブレーキ用チューブの耐圧性及び柔軟性の評価結果を、表3に示す。
【0056】
【0057】
表1、表2及び表3から明らかなように、実施例I、II、IIIの全てにおいて、耐圧性及び柔軟性を満足している。一方で、比較例I、II、IIIでは、柔軟性及び耐圧性の一方のみしか満足していない。
【0058】
比較例I-1、II-1、III-1では、内層の肉厚の割合が50%であり、40%を超えている。そのため、内層の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性が外層の可塑化ポリアミド系樹脂により補完されず、柔軟性を満足することができなくなっている。
【0059】
比較例I-2、II-2、III-2では、内層の無可塑ポリアミド66-B樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が28.5MPaであり25MPaより大きい。そのため、内層の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性を外層の可塑化ポリアミド系樹脂によっても補完しきれず、柔軟性を満足することができなくなっている。
【0060】
比較例I-3、II-3、III-3では、外層の可塑化ポリアミド610-A樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が11.25MPaであり9.72MPaより大きい。そのため、外層の可塑化ポリアミド系樹脂は内層の無可塑ポリアミド系樹脂の柔軟性を補完できず、柔軟性を満足することができなくなっている。
【0061】
比較例I-4、II-4、III-4では、可塑化ポリアミド系樹脂からなる外層がないため、外層による柔軟性の補完がなく、柔軟性を満足することができなくなっている。
【0062】
比較例I-5、II-5、III-5では、無可塑ポリアミド系樹脂からなる内層がないため、内層による耐圧性の補完がなく、耐圧性を満足することができなくなっている。
【0063】
比較例I-6、II-6、III-6では、内層の無可塑ポリアミド6-C樹脂は、ISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度が50℃未満であり、外層の可塑化ポリアミド12樹脂は、融点が190℃未満であると共にISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度が50℃未満である。融点または荷重たわみ温度が低い樹脂は、それらが高い樹脂と比較して、常温から高温にかけての応力低下が大きい。そのため、耐圧性を満足することができなくなっている。
【0064】
比較例I-7、II-7、III-7では、エアブレーキ用チューブは単層である。また、DIN74324のPHLYとして規定される可塑化ポリアミド12樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPa以下であり、融点が190℃未満であり、ISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度が50℃未満である。そのため、耐圧性を満足することができなくなっている。
【0065】
実施例I、II、IIIでは、内層が無可塑ポリアミド系樹脂からなり、外層が可塑化ポリアミド系樹脂からなり、内層の肉厚は、チューブ全肉厚に対して占める割合が5%以上40%以下であり、無可塑ポリアミド系樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPaより大きく25MPa以下であり、可塑化ポリアミド系樹脂は、単層チューブにした際の125℃におけるフープ応力が9.72MPa以下であり、無可塑ポリアミド系樹脂及び可塑化ポリアミド系樹脂は、融点が190℃以上、又はISO75に準拠した1.80MPa曲げ応力負荷時の荷重たわみ温度が50℃以上である。したがって、耐圧性と柔軟性の両方を満たすことができ、高温環境下での耐圧性と車両への配策作業性との両立が可能となる。
【0066】
なお、表4に示す参考例1,2においても、柔軟性と耐圧性の両方を満たすことができた。参考例1は、外径が8mm、肉厚が1mmのエアブレーキ用チューブを成形し、125℃環境下における耐圧性及び23℃環境下における柔軟性を評価したものである。参考例2は、外径が12mm、肉厚が1.5mmのエアブレーキ用チューブを成形し、125℃環境下における耐圧性及び23℃環境下における柔軟性を評価したものである。
【0067】
【0068】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
10A,10B エアブレーキ用チューブ
12 内層
14A,14B 外層