(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028568
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】除菌・ウイルス不活性化剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/36 20090101AFI20230224BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230224BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
A01N65/36
A01P1/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134358
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 剛正
(72)【発明者】
【氏名】進藤 智弘
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA04
4H011BB22
4H011BC06
4H011DA13
4H011DE15
4H011DF03
(57)【要約】
【課題】配合できる水に制約がなく、安心・安全なイメージがあり、しかもpHの安定性に優れたpH調整剤を含む除菌・ウイルス不活性化剤を提供する。
【解決手段】除菌・ウイルス不活性化剤は、柑橘類種子エキスと、アミノ酸またはその塩と、水と、を含有し、pHが8.0以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類種子エキスと、
第1のアミノ酸またはその塩と、
水と、を含有し、
pHが8.0以上である除菌・ウイルス不活性化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の除菌・ウイルス不活性化剤において、
pHが9.0以上である除菌・ウイルス不活性化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の除菌・ウイルス不活性化剤において、
前記第1のアミノ酸の等電点は8以上である除菌・ウイルス不活性化剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の除菌・ウイルス不活性化剤において、
pH安定化剤を更に含有している除菌・ウイルス不活性化剤。
【請求項5】
請求項4に記載の除菌・ウイルス不活性化剤において、
前記pH安定化剤は、前記第1のアミノ酸とは異なる第2のアミノ酸またはその塩である除菌・ウイルス不活性化剤。
【請求項6】
請求項5に記載の除菌・ウイルス不活性化剤において、
前記第2のアミノ酸またはその塩のNH2基に由来する解離定数が8.0以上である除菌・ウイルス不活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、除菌・ウイルス不活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、グレープフルーツ種子エキスを有効成分とし、pHをアルカリに調整した除菌・ウイルス不活性化剤が提案されている。この種の除菌・ウイルス不活性化剤においては、そのpHが効力に影響を及ぼすことから、pHを安定して長期維持することが求められる。
【0003】
一方で、特に一般家庭で使用される除菌・ウイルス不活性化剤においては安心・安全イメージが求められることから、これに配合するpH調整剤も安全であることが消費者に伝わりやすいもの、たとえば食品添加物として使われる物質などであることが好ましい。
【0004】
この点、特許文献1の除菌・ウイルス不活性化剤は、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる緩衝剤を用いることにより、好適なpHを長期維持可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献1の除菌・ウイルス不活性化剤は、水溶液であり、水をベースとする製剤である。本願発明者らが検討したところ、水として精製水(イオン交換水)を用いた場合は問題ないが、水道水を用いた場合に炭酸塩を配合すると、沈殿が生じることがあることが明らかになった。従って、特許文献1の除菌・ウイルス不活性化剤は、配合できる水に制約があり、安価な水道水を使うことができないという課題がある。また同様の理由により、極端な硬水地域の水まわり(台所のシンクなど)において特許文献1の除菌・ウイルス不活性化剤を使用した場合、使用箇所に沈殿物が生じる可能性がある。
【0007】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、配合できる水に制約がなく、安心・安全なイメージがあり、しかもpHの長期安定性に優れたpH調整剤を含む除菌・ウイルス不活性化剤を提供することを目的したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示に係る除菌・ウイルス不活性化剤は、例えばグレープフルーツ種子エキス等の柑橘類種子エキスと、第1のアミノ酸またはその塩と、例えば水道水等の水とを有している。
【0009】
この構成によれば、食品添加物として使われる安全な物質で除菌・ウイルス不活性化剤が構成されるので、安心・安全なイメージが消費者に伝わりやすくなる。水は精製水(イオン交換水)であってもよいし、水道水であってもよく、いずれの水であっても、沈殿が生じ難く、pHが長期間に亘って安定する。よって、高い除菌効力及びウイルス不活性化効力が長期間に亘って得られる。また、硬水地域の水まわり(台所のシンクなど)においても、沈殿物を生じることなく使用可能である。
【0010】
また、第1のアミノ酸の等電点は8以上にすることができる。これにより、除菌・ウイルス不活性化剤のpHを8.0以上にして高い除菌効力及びウイルス不活性化効力を得ることができる。また、除菌・ウイルス不活性化剤のpHを9.0にすることで、効力をより一層高めることができ、例えば短時間で除菌を行うことや、ウイルスを不活性化することができる。
【0011】
また、除菌・ウイルス不活性化剤には、pH安定化剤が更に含まれていてもよい。pH安定化剤は、例えば第1のアミノ酸とは異なる第2のアミノ酸とすることができる。第2のアミノ酸またはその塩のNH2基に由来する解離定数は8.0以上とすることができる。解離定数を8.0以上にすることで、除菌・ウイルス不活性化剤が、高い除菌効力及びウイルス不活性化効力が得られるpHで安定する。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、柑橘類種子エキスと、アミノ酸と、水とを含有するとともに、pHが8.0以上に調製されているので、配合できる水に制約がなく、安心・安全なイメージがあり、しかもpHを長期間に亘って安定性させて高い除菌効力及びウイルス不活性化効力を得ることができる。また、硬水地域の水まわりにおいても、沈殿物を生じることなく使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0014】
本発明の実施形態に係る除菌・ウイルス不活性化剤は、柑橘類種子エキスと、第1のアミノ酸またはその塩と、水と、を含有している。柑橘類種子エキス及び第1のアミノ酸は食品添加物としても使用されているものであり、また、水は飲用可能な水である。したがって、除菌・ウイルス不活性化剤の安全性は高く、一般家庭で食器等に対して安心して使用することが可能である。第1のアミノ酸またはその塩は、pH調整剤、またはpH安定化剤として機能するものが好ましい。
【0015】
除菌・ウイルス不活性化剤は、pHが8.0以上に調整されている。具体的には、除菌・ウイルス不活性化剤のpHは、第1のアミノ酸またはその塩によって調整することができる。言い換えると、除菌・ウイルス不活性化剤のpHを8.0以上とするような第1のアミノ酸またはその塩を、当該除菌・ウイルス不活性化剤が含有している。また、柑橘類種子エキスの水溶液にpH調整剤としての第1のアミノ酸またはその塩が含有された除菌・ウイルス不活性化剤ということもできる。すなわちこの場合、第1のアミノ酸またはその塩はpH調整剤として機能するといえる。除菌・ウイルス不活性化剤のpHは、第1のアミノ酸またはその塩の種類や含有量で所望の値にすることが可能であり、9.0以上としてもよいし、9.5以上としてもよい。
【0016】
第1のアミノ酸をpH調整剤として配合する場合、等電点(Isoelectric point:IEP)が8以上のアミノ酸を使用することができる。この場合の具体的な第1のアミノ酸としては、例えば等電点が10.76のアルギニン、等電点が9.75のリシン等を挙げることができるが、これらアミノ酸以外のアミノ酸であっても、等電点が8以上のアミノ酸であれば、第1のアミノ酸として使用することができる。アルギニン、リシン以外の等電点が8以上のアミノ酸を第1のアミノ酸として使用した場合も、除菌・ウイルス不活性化剤の作用効果は殆ど変わらない。第1のアミノ酸の等電点は9以上であってもよいし、9.5以上であってもよい。等電点が8以上のアミノ酸を第1のアミノ酸として使用することで、真菌に対する除菌効果や、ノンエンベロープウイルスであるネコカリシウイルスに対する不活性化効力が十分に得られる。第1のアミノ酸として、1種のアミノ酸のみを含有させてもよいし、任意の2種以上のアミノ酸を含有させてもよい。
【0017】
また、pH調整剤として、第1のアミノ酸の塩を配合することができる。具体的には、アミノ酸のナトリウム塩やカリウム塩などであって、水への溶解後のpHが8以上になる塩を用いることができる。この場合、塩が溶解した後のpHが上記範囲であれば良く、アミノ酸単体での等電点が8以上である必要は無い。
【0018】
除菌・ウイルス不活性化剤は、pHを長期間に亘って安定させるためのpH安定化剤を更に含有することが好ましい。「長期間」とは、例えば常温で3ヶ月間、6ヶ月間である。この間のpHの変化が所定以下(例えば1.0以下)となるように、pHを安定化させるための剤がpH安定化剤である。前述のように、pH安定化剤としては、アミノ酸またはその塩を用いることができる。なお、第1のアミノ酸(またはその塩)をpH調整剤として配合した場合、pH安定化剤としては、第1のアミノ酸(またはその塩)とは異なる第2のアミノ酸(またはその塩)を用いることができる。
【0019】
pH安定化剤として、アミノ酸またはその塩を配合する場合、例えば、NH2基に由来する解離定数(pKa2)が8.0以上のアミノ酸を使用することができる。また、必須ではないが、除菌・ウイルス不活性化剤との接触時間が短時間であっても高い効力を発揮させるためには、pHを9.0以上、または9.5以上にすることが望ましい。この場合にはNH2基に由来する解離定数が9.0以上、または9.5以上であるアミノ酸をpH安定化剤として使用する。pH安定化剤としては、例えばグルタミン酸(pKa2=9.47)、トリプトファン(pKa2=9.41)、グリシン(pKa2=9.78)、アラニン(pKa2=9.87)、バリン(pKa2=9.74)、ロイシン(pKa2=9.74)、イソロイシン(pKa2=9.76)、システイン(pKa2=10.70)、トリプトファン(pKa2=9.41)、アスパラギン酸(pKa2=9.90)等、またはこれらの塩を使用することができる。第2のアミノ酸として、1種のアミノ酸のみを含有させてもよいし、任意の2種以上のアミノ酸を含有させてもよい。
【0020】
なお、pH調整剤としてアミノ酸以外の物質(例えば水酸化ナトリウム等)を用いることもできる。この場合、第1のアミノ酸またはその塩は、pH安定化剤として機能するもの、すなわち、アルギニン、リシン、グルタミン酸、トリプトファン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、トリプトファン、アスパラギン酸等、およびこれらの塩のうちの任意の1種または任意の2種以上とすることができる。
【0021】
また、pH安定化剤としてアミノ酸以外の物質(たとえばエチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩)を用いることもできる。この場合、第1のアミノ酸またはその塩は、pH調整剤として機能するもの、すなわちアルギニン、リシン等とすることができる。
【0022】
pH調整剤およびpH安定化剤の両方を、アミノ酸またはその塩で構成することが、特に好ましい。この場合、除菌・ウイルス不活性化剤を食品成分(柑橘類種子エキスおよびアミノ酸またはその塩)のみで構成することが可能であるため、安全性が高く、しかも効力に優れた極めて実用的な除菌・ウイルス不活性化剤を実現できる。
【0023】
除菌・ウイルス不活性化剤のpHの上限値は、例えば11.5とすることができ、pH11.5以下となるように第1のアミノ酸及び第2のアミノ酸の含有量を設定することができる。除菌・ウイルス不活性化剤のpHの上限値は、pH11.0としてもよい。これにより、除菌・ウイルス不活性化剤が強アルカリを示さなくなるので、取り扱い時の安全性が高くなる。
【0024】
柑橘類種子エキスの水溶液は、柑橘類種子エキスを例えば水道水やイオン交換水等に溶解させたものである。水道水は、一般の上水道によって供給される水であり、地方(地域)によって硬度が多少相違しているが、どこの水道水であっても問題無く使用することができる。本実施形態では、水道水とイオン交換水とを任意の比率で混合して用いることもできる。
【0025】
柑橘類種子エキスとしては、例えばグレープフルーツ種子抽出物等である。水溶液中のグレープフルーツ種子抽出物の濃度は、0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲で設定することができる。また、グレープフルーツ種子抽出物の濃度の下限値は、0.15質量%とするのが好ましく、より好ましいのは0.2質量%である。また、グレープフルーツ種子抽出物の濃度の上限値は、3.0質量%とするのが好ましく、より好ましいのは、0.8質量%である。
【0026】
グレープフルーツ種子抽出物は、グレープフルーツの果実の種子から抽出精製されたものであって、一般に食品添加物として認められたものである。グレープフルーツ種子抽出物をグレープフルーツから得る場合には、収穫したグレープフルーツから種子を取り出し、取り出した種子を粉砕し、その粉砕したものから抽出することができる。このとき、未乾燥状態の粉砕物からグレープフルーツ種子抽出物を抽出してもよいし、凍結乾燥させた状態の粉砕物からグレープフルーツ種子抽出物を抽出してもよい。
【0027】
グレープフルーツ種子抽出物を抽出する際には、水やアルコール等の溶液を用いることができる。抽出用の溶媒として用いるアルコールは、例えばエタノール等を挙げることができる。グレープフルーツ種子抽出物を抽出する際、種子を例えば30℃以上に加温してもよい。グレープフルーツ種子抽出物には、脂肪酸やフラボノイド等が含有されている。グレープフルーツ種子抽出物は、食品グレードのものが好ましいが、必ずしも食品グレードで無くても、安全性が担保されるものであればよい。
【0028】
柑橘類の種子エキスは、グレープフルーツ種子抽出物以外のものであってもよく、レモン等の柑橘類の種子から同様にして抽出された種子エキスを用いることもできる。また、一の柑橘類の種子エキスと、他の柑橘類の種子エキスとを混合したものであってもよい。グレープフルーツ種子抽出物以外の種子エキスを用いた場合も、除菌・ウイルス不活性化剤の作用効果は殆ど変わらない。
【0029】
なお、除菌・ウイルス不活性化剤は、電離した際に炭酸イオンを生じる成分や、電離した際に炭酸水素イオンを生じる成分を含んでいてもよく、このような成分として、例えば炭酸水素ナトリウム(重曹)等の両性電解質、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等を挙げることができる。ただしこれらを配合した場合に水道水を用いると、前述のように沈殿を生じることがあるため、沈殿が生じない程度の配合量とすることが好ましい。
【0030】
また、除菌・ウイルス不活性化剤には、低級アルコール(具体的にはエタノール)が含有されていても良い。アルコールが含有されることにより、速乾性が向上し、使用感に優れた除菌・ウイルス不活性化剤を提供できる。しかしながら、本発明の除菌・ウイルス不活性化剤は、アルコールを含まなくても十分な効力を発揮する。アルコールを含有しない場合、除菌・ウイルス不活性化剤は、アルコールよる肌への刺激やアルコール臭などが無く、例えば乳幼児の近くでも安心して使用できる点で極めて優れたものとなる。
【0031】
除菌・ウイルス不活性化剤は、噴霧用レバーを有する容器に収容して各種物品等(除菌対象物、ウイルス不活性化対象物)に噴霧して使用することができる。噴霧用レバーを有する容器としては、従来から用いられている各種容器を挙げることができ、どのような容器であってもよい。また、手押し式ポンプや電動ポンプを備えた噴霧装置によって除菌・ウイルス不活性化剤を噴霧させることもできる。また、除菌・ウイルス不活性化剤は、物品に塗布したり、滴下させることによって使用することもできる。除菌・ウイルス不活性化剤は、例えば、まな板や包丁等の調理器具、調理台、食器、ふきん、タオルなどに直接噴霧して使用することもできる。除菌・ウイルス不活性化剤は、衣類、床、壁、便器、洗面台、自動車の室内に噴霧して使用することもできる。また、除菌・ウイルス不活性化剤を不織布等に含浸させ、ウエットティッシュの形態で提供することもできる。除菌・ウイルス不活性化剤を手に直接噴霧してもよい。
【0032】
【0033】
表1は、実施例1~4に係る除菌・ウイルス不活性化剤の成分を示すものであり、単位は重量%である。アルギニン、水酸化ナトリウムは、pH調整剤である。また、グルタミン酸ナトリウム、EDTA・2Na(EDTAの2ナトリウム塩)は、pH安定剤である。つまり、実施例1~4のいずれの処方においても、pH調整剤とpH安定剤の少なくとも一方にはアミノ酸(第1のアミノ酸)を使用している。
【0034】
【0035】
表2は、実施例1~4のpH安定性試験及び沈殿有無の試験結果を示すものである。「60℃1週間後pH」とは、pH調整後、すぐに60℃の保温庫に収容して1週間経過した時点でのpHであり、また「60℃4週間後pH」とは、pH調整後、すぐに60℃の保温庫に収容して4週間経過した時点でのpHである。
【0036】
実施例1~4のいずれの処方もpHの変化が初期pHに対して0.7以下の極めて小さな変化であり、pH安定性が優れている。また、実施例1~4のいずれの処方も水道水を使用していながら、4週間経過後に沈殿物は見られなかった。尚、比較例1として、例えば特許文献1に開示されているように、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとで初期pHを10にした例であっても、pHの安定性は高かったが、イオン交換水の代わりに水道水を使用すると沈殿物が見られた。また、比較例2として、アルカリ電解水、貝焼成カルシウムで初期pHを11.96にした例の場合、60℃で3週間後のpHが10.16となり、1.8程度の大きな変化が見られた。
【0037】
実施例1~4では、水の全てを水道水としているが、全部または一部をイオン交換水としても同様な結果が得られる。
【0038】
(白癬菌除菌効力試験)
白癬菌除菌効力試験で使用した供試剤は表1に示す実施例2である。菌種は、Trichophyton mentagrophytes(NBRC32409)である。試験場所は、無菌室及び25℃に設定された培養室である。
【0039】
まず、約109cfu/mlに調整した菌懸濁液0.1mlと供試剤10mlとを混合することにより、菌懸濁液に供試剤(実施例2または生理食塩水)を所定時間(20秒、または60秒)接触させた。所定時間経過後、菌懸濁液と供試剤が混合した液から1mlを採取し、SCDLP液体培地9mlに加え希釈した。4つの希釈系列を作製し、希釈液200μlを普通寒天培地にまき、生菌数を測定した。その結果を表3に示している。実施例2においては、生理食塩水(ブランク)から生菌数が2桁以上減少しており、従って、実施例2による白癬菌の除菌率は99%であった。尚、供試剤が実施例1、3、4であっても白癬菌に対して同様な除菌率を示す。
【0040】
【0041】
(ウイルス不活性化試験)
ウイルス不活性化試験で使用した供試剤は表1に示す実施例2である。ウイルスとしてはネコカリシウイルス、およびいわゆる新型コロナウイルスSARS-CoV-2について試験を行った。
【0042】
まず、ネコカリシウイルスについての結果を説明する。このネコカリシウイルスは、分類上同じ科に属し構造が良く似たノロウイルスの代替として試験に用いられている。ノロウイルスは培養が難しく、感染価を簡単に評価する方法が未だ確立されていないためである。即ち一般的に、ネコカリシウイルスを用いた試験で十分な抗ウイルス性を示す剤であれば、ノロウイルスに対しても十分な抗ウイルス性を示す可能性が高いと考えられている。試験方法は以下のとおりである。
【0043】
1.供試剤(実施例2また滅菌水)90μlにウイルス液10μLを接種する。
2.30秒後、上記1で得られた液をDMEM(任意のFBS濃度)で段階希釈する。
3.上記2で段階希釈して得られた液を細胞培養用マイクロプレート(96穴)上に培養した細胞に50μl接種する。
4.1時間後、各穴から液をアスピレートする。
5.任意のFBS濃度のDMEM100μlを滴下し、炭酸ガスインキュベータ(CO2濃度:5%)内で4日間培養する。
6.エタノール:酢酸=4:1(重量比)を各ウェルに100μl程度注ぎ、固定化する(40分程度)。
7.固定化液を除いた後、アミドブラック0.5%を含む45%エタノール、10%酢酸を30μlずつ注ぎ、細胞を染色する(1時間程度)。
8.水をためた容器にプレートごと浸し、細胞が傷つかないように染色液を洗い流す(1時間程度)。
【0044】
肉眼で細胞の生死を確認して、50%組織培養感染価(TCID50/ml)を算出した。この値が低いほど感染力は低い。そして、滅菌水(ブランク)と比較した実施例2のウイルス不活性化率を求めた。その結果を表4に示している。表4に示すとおり、実施例2においては、ブランクから4桁以上もネコカリシウイルスの感染価が減少しており、従って、実施例2によるネコカリシウイルスの不活性化率は99.99%以上であった。尚、供試剤が実施例1、3、4であってもネコカリシウイルスに対して同様な不活性化率を示す。
【0045】
【0046】
また一般的に、ネコカリシウイルス等のノンエンベロープウイルスは、インフルエンザウイルス等のエンベロープウイルスに比べて、各種消毒剤・抗菌剤に対する抵抗力が強い。従って、ノンエンベロープウイルスに効力がある剤であれば、エンベロープウイルスに対してはより短時間で効力を発揮する可能性が高い。
【0047】
次に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすとされる、いわゆる新型コロナウイルスSARS-CoV-2の分離株を用いた試験について説明する。供試剤は、実施例2である。
【0048】
1.まず、細胞増殖培地を用いて、細胞を細胞培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養する。細胞はVeroE6/TMPRSS2細胞であり、細胞増殖培地はウェル(穴)あたり100μlを使用した。
2.供試剤(実施例2または滅菌水)90μlにウイルス液10μlを混合し、所定時間(10秒間)作用させる。
3.作用後、混合液から0.05ml採取し、培地で100倍に希釈して作用を停止さる。
4.細胞維持培地で10倍段階希釈列を作成して、単層培養細胞にそれぞれ50μl接種して、3~4日間培養する。
【0049】
顕微鏡観察で細胞の生死を確認して、Behrens-Karber法により50%組織培養感染価(TCID50/ml)を算出した。この値が低いほど感染力は低い。そして、滅菌水(ブランク)と比較した実施例2のウイルス不活性化率を求めた。
【0050】
【0051】
この表5に示すように、実施例2の除菌・ウイルス不活性化剤により、10秒間接触という極めて短時間の接触でありながら、ブランクから3桁以上も新型コロナウイルスの感染価が減少しており、従って、99.9%以上の新型コロナウイルスを不活化することができた。
【0052】
(各種菌への効力試験)
また、各種菌に対する効力試験を行った結果、表6に示すように複数種の菌に対して除菌率が99.99%以上であった。試験方法は、以下のとおりである。各菌液について107~109cfu/mlに調整した菌懸濁液0.1mlと供試剤(実施例2または生理食塩水)10mlを20秒接触させた後、液1mlをSCDLP液体培地9mlに加え希釈した。尚、腸炎ビブリオのみ3%塩化ナトリウム加SCDLP液体培地とした。そして、上記同様の液で希釈をしていき、生菌数を測定した。
【0053】
【0054】
アシネトバクターは、Acinetobacter baumannii JCM6841である。カンピロバクターは、Campylobacter jejuni subsp. Jejuni ATCC33560である。大腸菌(O-157)は、Escherichia coli(大腸菌, 血清型O157:H7, ベロ毒素I及びII型産生株)ATCC43895である。レジオネラは、Legionella pneumophila GIFU9134である。リステリアは、Listeria monocytogenes VTU 206である。サルモネラは、Salmonella enterica subsp enterica NBRC3313である。黄色ブドウ球菌は、StaphlococcusaureusNBRC12732である。腸炎ビブリオは、Vibrio parahaemolyticus RIMD2210100である。
【0055】
また、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa(NBRC13275))に対する効力試験を行った結果を表7に示す。試験方法は、以下のとおりである。約108cfu/mlに調整した菌懸濁液0.1mlと供試剤10mlを20秒接触させた後、液1mlをSCDLP液体培地9mlに加え希釈した。そして、上記同様の液で希釈していき、希釈液200μlを普通寒天培地にまき、生菌数を測定した。
【0056】
【0057】
表7に示すように、除菌・ウイルス不活性化剤は緑膿菌に対しても十分な除菌効果を発揮する。
【0058】
上述したように、柑橘類種子エキスと、アミノ酸と、水と、を含有し、pHが8.0以上である組成物は、高い除菌効果を発揮するので、除菌剤と呼ぶこともできる。また、柑橘類種子エキスと、アミノ酸と、水と、を含有し、pHが8.0以上である組成物は、高いウイルス不活性化効果を発揮するので、ウイルス不活性化剤と呼ぶこともできる。また、上記組成物は、ウイルス不活性化効果を有する除菌剤と呼ぶことや、除菌効果を有するウイルス不活性化剤と呼ぶこともできる。
【0059】
(汚染性)
次に、汚染性について説明する。汚染性については、供試剤を例えば黒い対象物に噴霧し、完全に乾燥した後、目視にて粉残りが見られたか否かによって判定することができる。粉残りが見られた場合には、汚染性有りと判定することができ、粉残りが見られなかった場合には、汚染性無しと判定することができる。汚染性については、実施例1~4の全てで汚染性無しであった。
【0060】
(除菌方法、ウイルス不活性化方法)
柑橘類種子エキスと、アミノ酸と、水と、を含有し、pHが8.0以上である組成物を除菌対象物に付着ないし接触させる処理は、上述したように除菌対象物を除菌することができるので、除菌方法である。また、柑橘類種子エキスと、アミノ酸と、水と、を含有し、pHが8.0以上である組成物をウイルス不活性化対象物に付着ないし接触させる処理は、上述したようにウイルス不活性化対象物に存在しているウイルスを不活性化することができるので、ウイルス不活性化方法である。また、除菌及びウイルス不活性化を同時に行うことができるので、上記組成物を物品等に付着ないし接触させる処理は、除菌及びウイルス不活性化方法と呼ぶこともできる。
【0061】
上記組成物を物品等に接触させる時間は、例えば30秒以上とすることができる。この時間は、菌の種類やウイルスの種類によって変えることができ、種類によっては例えば120秒以上とすることもできる。
【0062】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係る除菌・ウイルス不活性化剤によれば、柑橘類種子エキスと、アミノ酸と、水とを含んだ安心・安全な組成としながら、所望のpHを長期間安定して保ち、高い除菌効果およびウイルス不活性化効果を得ることができる。
【0063】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明に係る除菌・ウイルス不活性化剤は、例えば、調理器具、調理台、食器、ふきん、タオルなどに噴霧して使用することができる。