(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002857
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】土壌固化組成物の製造方法、及び土壌固化方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/40 20060101AFI20221227BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C09K17/40 P
E02D3/12 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103571
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井出 一貴
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】千野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】長縄 弘親
(72)【発明者】
【氏名】永野 哲志
(72)【発明者】
【氏名】荻野 明人
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美帆
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA08
2D040BB01
2D040CA10
2D040CB03
4H026CB01
4H026CB08
4H026CC06
(57)【要約】
【課題】高い強度を有する土壌固化組成物を簡便に作製できる土壌固化組成物の製造方法の提供。
【解決手段】カチオンポリマーを含有するエマルジョン、アニオンポリマー、及び塩を含む土壌固化組成物の製造方法であって、水の存在下において、前記塩に前記アニオンポリマーを添加する工程を有する土壌固化組成物の製造方法であり、前記塩に前記アニオンポリマーを添加する工程の後に、前記エマルジョンを添加する工程を更に有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンポリマーを含有するエマルジョン、アニオンポリマー、及び塩を含む土壌固化組成物の製造方法であって、
水の存在下において、前記塩に前記アニオンポリマーを添加する工程を有することを特徴とする、土壌固化組成物の製造方法。
【請求項2】
前記塩に前記アニオンポリマーを添加する工程の後に、前記エマルジョンを添加する工程を更に有する請求項1に記載の土壌固化組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アニオンポリマーが、顆粒状である請求項1から2のいずれか1項に記載の土壌固化組成物の製造方法。
【請求項4】
前記塩が、硫酸アンモニウムである請求項1から3のいずれか1項に記載の土壌固化組成物の製造方法。
【請求項5】
対象とする土壌に、請求項1から4のいずれか1項に記載の土壌固化組成物の製造方法により得られた土壌固化組成物を散布した後、水を追加散布する土壌固化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌固化組成物の製造方法、及び土壌固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場において、地表面より下の構造をつくる際など、土を掘って別の場所に移動させる、土工事と呼ばれる工事がよく行われている。土工事においては、作業の途中段階において、地面を平坦にすること、法面(人工的な斜面)を作ることなどが行われる。
【0003】
平坦な地面又は法面をそのまま放置すると、地表面が、風にさらされて土が粉塵となり飛散する。更に、雨による浸食をうけ、地表面が溶け、土砂が流出することがある。
土砂の流出を防止するため、平坦な地面又は法面に散水する、シートで被うなどの措置が取られてきた。しかしながら、これらの方法は、工事期間中に何度も行う必要があり、コストが増大する。
【0004】
そこで、散水、シートで被う方法に代わりに、地表面を安定化させるための薬剤が提案されている。そのうちの一つに、アニオンポリマー及びカチオンポリマーを反応させて得られるポリイオンコンプレックスを土壌固化組成物に用いた例がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アニオンポリマー及びカチオンポリマーなどから、ポリイオンコンプレックス(PIC)を作製する際には、アニオンポリマー溶液、及びカチオンポリマー溶液をそれぞれ作製する必要があった。しかしながら、アニオンポリマー及びカチオンポリマーは水に溶けにくい性質があり、溶液の作製に時間を要してしまい、現場で使いにくいという問題があった。
【0007】
この問題に対して、水に溶けやすいアニオンポリマー及びカチオンポリマーを用いてPICを作製する方法も考えられるが、土壌を固化するために十分な強度を有する土壌固化組成物を得ることは難しかった。
【0008】
本発明は、高い強度を有する土壌固化組成物を簡便に作製できる土壌固化組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、土壌固化組成物の短時間で製造するには、カチオンポリマーを入れる際の状態が重要であると考え、カチオンポリマーに着目した。
そして、本発明者らが更に検討した結果、カチオンポリマーをエマルジョンの状態で用いることで、PICを主成分とする土壌固化組成物を効率的に作製できることを見出した。また、このPICは、強度も十分なものとできることも見出した。
【0010】
具体的には、本発明の一実施態様は、カチオンポリマーを含有するエマルジョン、アニオンポリマー、及び塩を含む土壌固化組成物の製造方法であって、
水の存在下において、前記塩に前記アニオンポリマーを添加する工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い強度を有する土壌固化組成物を簡便に作製できる土壌固化組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(土壌固化組成物の製造方法)
本発明の土壌固化組成物の製造方法は、塩にアニオンポリマーを添加する工程を有し、塩にアニオンポリマーを添加する工程の後に、カチオンポリマーを含有するエマルジョンを添加する工程を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を有する。
【0013】
塩にアニオンポリマーを添加する工程は、水の存在下において行われる。具体的には、塩を水に溶解させて塩の水溶液を作製し、塩の水溶液中にアニオンポリマーを添加することである。
塩を溶解させた溶液の中に、アニオンポリマーを入れることで、アニオンポリマーを溶解させることができる。
【0014】
カチオンポリマーを含有するエマルジョンを添加する工程は、塩及びアニオンポリマーが溶解された溶液中に、カチオンポリマーを含有するエマルジョンを添加する工程である。この工程を経ることで、アニオンポリマーとカチオンポリマーとが反応し、PICが生成される。
【0015】
カチオンポリマーを含有するエマルジョンを添加する工程は、塩の水溶液を作製する前でも後でもよいが、土壌固化組成物の製造において、後述のアニオンポリマーの溶解性を目視で確認できるようになる点から、エマルジョンの添加は、アニオンポリマー溶液に対して行うことがよい。
即ち、水に塩を溶解させ、そこにアニオンポリマーを入れて溶解させ、その後カチオンポリマーのエマルジョンを入れて、アニオンポリマーとカチオンポリマーとを反応させる手順で行うことが好ましい。
【0016】
<水>
水は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、水道水、蒸留水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
<アニオンポリマー>
アニオンポリマーは、後述のカチオンポリマーと複合体を形成するのであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、天然物を抽出及び生成したものであっても、適宜合成したものでもよい。アニオンポリマーの具体例としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、カルボキシメチル化澱粉、リグニンスルホン酸及びその塩、(ポリ)アクリル酸及びその塩、ポリスルホン酸及びその塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
アニオンポリマーは、適宜合成したものでも、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、サンローズCS2(カルボキシメチルセルロース、日本製紙株式会社製)などが挙げられる。
【0018】
アニオンポリマーの形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、水への溶解性の点から、顆粒状であることが好ましい。
【0019】
<カチオンポリマーを含有するエマルジョン>
カチオンポリマーを含有するエマルジョンは、カチオンポリマーが液体中に分散ししたものである。カチオンポリマーは、液体中で粒子状になっている。
カチオンポリマーを分散させる液体は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、水を含有することが好ましい。
【0020】
カチオンポリマーは、前述のアニオンポリマーと複合体を形成するのであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、天然物を抽出及び生成したものであっても、適宜合成したものでもよい。カチオンポリマーの具体例としては、例えば、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド樹脂、ジエチレントリアミン・ジシアンジアミド・アンモニウムクロライド縮合物、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドの重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの重合物、エチレンイミン重合物、ジアリルアミン重合物、アンモニア・エピクロロヒドリン・ジメチルアミン共重合物、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、カチオン化セルロースなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
カチオンポリマーを含有するエマルジョンは、適宜合成したものでも、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、アロンフロックE3380(MTアクアポリマー社製)などが挙げられる。
【0022】
<塩>
塩は、カチオンとアニオンとがイオン結合した化合物であり、いわゆる広義の塩を意味する。
塩は、例えば、無機塩、有機塩が挙げられるが、無機塩が好ましい。
無機塩は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、以下の点において優れることから、硫酸アンモニウムが好ましい。
・本発明の土壌固化組成物の分散安定性に優れる
・アニオンポリマー(カルボキシメチルセルロース)成分との溶解性に優れる
・一般に肥料として使用されており、土壌に散布しても環境負荷が少ない。また、散布後の土壌は植生(特に芝等)に適したものとなる
【0023】
アニオンポリマーとカチオンポリマーとの質量比は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、アニオンポリマー:カチオンポリマー=2:1~1:1が好ましい。
【0024】
土壌固化組成物には、PIC以外のその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0025】
(土壌固化方法)
本発明の土壌固化方法は、対象とする土壌に、土壌固化組成物を散布した後、水を追加散布する。必要に応じて更にその他の方法を追加してもよい。
土壌固化組成物は、上述の土壌固化組成物により製造された土壌固化組成物を用いることができる。
その他の方法は、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0026】
以下に、土壌固化方法の一例について、具体的に説明する。
まず、散水をするときと同様の方法により、上述の土壌固化組成物であるPICを含む溶液(PIC溶液)を、対象とする地面に散布する。土壌固化組成物により、強固な土粒子接着層を形成することができる。
次に、水を追加散布(散水)する。散水することで、塩濃度が下がり、より強固な土粒子接着層を形成することができる点で好ましい。これは、ポリマーが水に溶解しにくくなり、沈降性の悪い濁水が発生しない上、接着層の耐久性も向上するからである。
【実施例0027】
以下、開示の技術の実施例を説明するが、開示の技術は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
以下に示す実施例においては、PICの濃度が1.0%、カチオンポリマー/アニオンポリマーが1/4(質量比)、1/2(イオン当量)となるように作製した。
【0029】
(実施例1)
2Lのガラス容器に、上水道水990g、及び硫酸アンモニウム19.8gを入れて溶解させ、撹拌機(スリーワンモーター撹拌機、新東科学株式会社製)により300rpmの速度で5分間撹拌して、2.0質量%の硫酸アンモニウム水溶液とした。得られた硫酸アンモニウム水溶液に、アニオンポリマー(サンローズCS2、日本製紙株式会社製)を8g投入し、撹拌機(スリーワンモーター撹拌機、新東科学株式会社製)により300rpmの速度で10分間撹拌した。
その後、カチオンポリマーを含有するエマルジョン(アロンフロックE3380、MTアクアポリマー社製)を5.19g入れて、300rpmの速度で10分間攪拌し、実施例1の土壌固化組成物(PIC)を得た。なお、撹拌は、アニオンポリマーとカチオンポリマーとが反応することにより得られたPICが、分散状態になるまで撹拌を継続した。
PICが、分散状態になるまでに要した時間は、25分間であった。
【0030】
(実施例2)
2Lのガラス容器に、上水道水990g、及び硫酸アンモニウム19.8gを入れて溶解させ、撹拌機(スリーワンモーター撹拌機、新東科学株式会社製)により300rpmの速度で5分間撹拌して、2.0質量%の硫酸アンモニウム水溶液とした。得られた硫酸アンモニウム水溶液に、カチオンポリマーを含有するエマルジョン(アロンフロックE3380、MTアクアポリマー社製)を5.19g入れて、撹拌機(スリーワンモーター撹拌機、新東科学株式会社製)により300rpmの速度で10分間撹拌した。
その後、アニオンポリマー(サンローズCS2、日本製紙株式会社製)を8g投入し、300rpmの速度で15分間攪拌し、実施例2の土壌固化組成物(PIC)を得た。なお、撹拌は、アニオンポリマーとカチオンポリマーとが反応することにより得られたPICが、分散状態になるまで撹拌を継続した。
PICが、分散状態になるまでに要した時間は、30分間であった。
【0031】
(実施例3)
2Lのガラス容器に、上水道水990g、及びカチオンポリマーを含有するエマルジョン(アロンフロックE3380、MTアクアポリマー社製)を5.19g入れて、撹拌機(スリーワンモーター撹拌機、新東科学株式会社製)により300rpmの速度で10分間撹拌した。
その後、硫酸アンモニウム19.8gを入れて溶解させ、撹拌機(スリーワンモーター撹拌機、新東科学株式会社製)により300rpmの速度で5分間撹拌した。アニオンポリマー(サンローズCS2、日本製紙株式会社製)を8g投入し、300rpmの速度で15分間攪拌し、実施例3の土壌固化組成物(PIC)を得た。なお、撹拌は、アニオンポリマーとカチオンポリマーとが反応することにより得られたPICが、分散状態になるまで撹拌を継続した。
PICが、分散状態になるまでに要した時間は、30分間であった。
【0032】
(比較例1)
2Lのガラス容器に、上水道水990g、及びカチオンポリマー(アロンフロックC303、MTアクアポリマー社製)を4.15g投入し、溶解後に、硫酸アンモニウム4.2gを投入し、カチオンポリマー水溶液を得た。
別の2Lのガラス容器に、上水道水990gに、硫酸アンモニウム35.8gを投入し、溶解後に、アニオンポリマー(サンローズCS2、日本製紙株式会社製)を15.9g投入し、アニオンポリマー水溶液を得た。
【0033】
得られたアニオンポリマー水溶液を撹拌しながら、上記カチオンポリマー水溶液を、チューブポンプにより定量供給することにより、アニオンポリマーとカチオンポリマーとを反応させ、比較例1の土壌固化組成物(PIC)を得た。なお、撹拌は、アニオンポリマーとカチオンポリマーとが反応することにより得られたPICが、分散状態になるまで撹拌を継続した。
PICが、分散状態になるまでに要した時間は、65分間であった。
【0034】
<支持強度の測定>
得られた土壌固化組成物について、支持強度による評価を行った。評価結果を表1に示す。
試料土として、珪砂7号(瑞浪産)を用いた。約4,000gの試料土を、312mm×237mm×(高さ)49mm(表面積:0.074m2)の容器に敷き詰めた。
各PIC溶液を2L/m2の量で散布し、室温22℃で1週間養生した。
養生後、プッシュコーン(大起理化工業株式会社製)により貫入抵抗量を測定し、プッシュコーンに付属している換算表に基づき、支持強度に換算した。なお、PIC溶液を散布なしの場合は、貫入抵抗量が0mmである。
【0035】
【0036】
従来の方法である比較例1は、PICの作製時間が65分であったのに対し、本発明の製造方法である実施例1~3は、PICの作製時間が30分程度であった。この結果から、本発明の製造方法では、時間をかけずに作製できることが明らかになった。
また、比較例1は、PICの作製において2つの容器が必要であるのに対し、実施例1~3は、1つの容器内においてPICの作製ができる。即ち、本発明の土壌固化組成物の製造方法では、土壌固化組成物をワンポットで合成できる。
【0037】
更に、実施例2、3のPICの作製は、実施例1と比較すると、溶液が白濁しているため、アニオンポリマーが溶解する様子が見えにくかった。
したがって、アニオンポリマーを溶解させてから、カチオンポリマーを含有するエマルションを分散させる方法の方が、より作製時間を短縮させることができ、かつ溶液の状態を確認しつつ作製することができる。
【0038】
支持強度の結果から、従来の方法により製造されたPICである比較例1に対し、本発明の製造方法により製造されたPICは、支持強度が高くなった。この結果から、本発明の製造方法により作製されたPICは、従来のPICより強度が向上したことが明らかになった。
【0039】
以上から、本発明の土壌固化組成物の製造方法により製造された土壌固化組成物は、作製時間が短く、かつ高い強度を有することが明らかになった。