(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028577
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】シリカ膜
(51)【国際特許分類】
C01B 33/12 20060101AFI20230224BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230224BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230224BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230224BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230224BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C01B33/12 C
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134370
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】514213202
【氏名又は名称】イーセップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和史
(72)【発明者】
【氏名】福井 直之
(72)【発明者】
【氏名】出羽 美月
(72)【発明者】
【氏名】澤村 健一
(72)【発明者】
【氏名】三品 建吾
【テーマコード(参考)】
4D006
4G072
【Fターム(参考)】
4D006GA25
4D006MA02
4D006MA09
4D006MA22
4D006MB09
4D006MC02X
4D006NA45
4D006NA54
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4D006PB13
4G072AA25
4G072AA38
4G072BB09
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4G072FF02
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH29
4G072JJ11
4G072LL06
4G072MM01
4G072MM21
4G072MM31
4G072NN21
4G072RR05
4G072RR12
4G072RR30
4G072TT08
4G072TT30
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】分子サイズや物性の異なる成分を含む混合溶液から特定の成分を効率よく分離することができ、且つ繰り返して使用してもその性能(分離能)が低下しにくいシリカ膜を提供する。
【解決手段】本開示のシリカ膜は、中心細孔径が0.5~5.0nmであり且つアミノ基及び/又はアンモニウム基を有する。上記シリカ膜は、前記アミノ基及び/または前記アンモニウム基を有するシランカップリング剤に由来する構造を含むことが好ましい。上記シランカップリング剤は、ケイ素原子にそれぞれ結合したアルコキシ基と一価の有機基とを含み、上記一価の有機基の少なくとも1つが、鎖中及び/又は末端に、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心細孔径が0.5~5.0nmであり且つアミノ基及び/又はアンモニウム基を有するシリカ膜。
【請求項2】
前記アミノ基及び/又は前記アンモニウム基を有するシランカップリング剤に由来する構造を有する、請求項1に記載のシリカ膜。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、ケイ素原子にそれぞれ結合したアルコキシ基と一価の有機基とを含み、上記一価の有機基の少なくとも1つが、鎖中及び/又は末端に、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する、請求項2に記載のシリカ膜。
【請求項4】
前記ケイ素原子と前記アミノ基及び/又は前記アンモニウム基中の窒素原子との間に存在する主鎖の原子数は2~4である請求項3に記載のシリカ膜。
【請求項5】
中心細孔径が0.8~4.0nmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のシリカ膜。
【請求項6】
中心細孔径が1.0~3.0nmである、請求項1~5いずれか一項に記載のシリカ膜。
【請求項7】
表面の水接触角が0~70°である、請求項1~6のいずれか一項に記載のシリカ膜。
【請求項8】
多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載のシリカ膜。
【請求項9】
多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられた請求項1~8のいずれか一項に記載のシリカ膜とを備える、複合膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリカ膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリカ膜をはじめとするナノ多孔性分離膜は、分子レベルでの分離が可能であることから、分離膜、膜反応器、化学センサー等への応用が期待されている。この中でも、ナノ多孔性分離膜が有する分子ふるい機能と、膜表面の物性(例えば、親水性又は疎水性等)とを利用した、2種以上の成分を含む混合液から特定成分を分離するための分離膜等が知られている。
【0003】
例えば、酢酸の工業的製造法としてメタノール法カルボニル化プロセスが知られているが、このプロセスでは、反応中にアセトアルデヒドが副生し、このアセトアルデヒドが製品酢酸の品質を低下させる原因となっている。また、本プロセスでは金属触媒の助触媒としてヨウ化メチルが使用されているが、ヨウ化メチルは高価であることから、アセトアルデヒドとの混合液から分離して再利用されている。しかしながら、アセトアルデヒドとヨウ化メチルは沸点が近いため、アセトアルデヒドとヨウ化メチルを完全に分離することが困難であった。ここから、アセトアルデヒドとヨウ化メチルを分離する方法として、特許文献1~4に開示される方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/057142号
【特許文献2】特開2006-94764号公報
【特許文献3】特開平9-40590号公報
【特許文献4】特開平9-77697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4に開示される方法によっても、アセトアルデヒドとヨウ化メチルを完全に分離することはできなかった。また、アセトアルデヒドとヨウ化メチルとの分離においてシリカ膜(ナノ多孔性分離膜)を用いることも考慮されているものの、従来のシリカ膜を用いても、アセトアルデヒドとヨウ化メチルを完全に分離することはできず、また、繰り返して使用するとその性能(分離能)が低下するという問題があった。
【0006】
したがって、本開示の目的は、分子サイズや物性の異なる成分を含む混合溶液から特定の成分を効率よく分離することができ、且つ繰り返して使用してもその性能(分離能)が低下しにくいシリカ膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の構造を有するシリカ膜を用いて分離を行うことで、分子サイズや物性の異なる成分を含む混合溶液である、アセトアルデヒドとヨウ化メチルの混合溶液を効率よく分離することができ、且つ繰り返して使用してもその性能(分離能)が低下しにくいことを見出した。本開示は、これらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものに関する。
【0008】
すなわち、本開示は、中心細孔径が0.5~5.0nmであり且つアミノ基及び/又はアンモニウム基を有するシリカ膜を提供する。
【0009】
上記シリカ膜は、上記アミノ基及び/又は上記アンモニウム基を有するシランカップリング剤に由来する構造を有することが好ましい。
【0010】
上記シリカ膜は、上記シランカップリング剤が、ケイ素原子にそれぞれ結合したアルコキシ基と一価の有機基とを含み、上記一価の有機基の少なくとも1つが、鎖中及び/又は末端に、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有することが好ましい。
【0011】
上記シリカ膜における、上記ケイ素原子と上記アミノ基及び/又は上記アンモニウム基中の窒素原子との間に存在する主鎖の原子数は2~4であることが好ましい。
【0012】
上記シリカ膜は、中心細孔径が0.8~4.0nmであることが好ましい。
【0013】
上記シリカ膜は、中心細孔径が1.0~3.0nmであることが好ましい。
【0014】
上記シリカ膜は、表面の水接触角が0~70°であることが好ましい。
【0015】
上記シリカ膜は、多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられていることが好ましい。
【0016】
本開示では、さらに、多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられた上記シリカ膜とを備える、複合膜についても提供する。
【発明の効果】
【0017】
上記シリカ膜によれば、分子サイズや物性の異なる成分を含む混合溶液(例えば、アセトアルデヒドとヨウ化メチルの混合溶液)を効率よく分離することができ、且つ繰り返して使用してもその性能(分離能)が低下しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例及び比較例における透過度比の推移である。
【
図2】実施例及び比較例におけるアセトアルデヒドの透過度の推移である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示のシリカ膜は、主にシリカを含む無機化合物から形成された多孔質膜であって、中心細孔径が0.5~5.0nmであり且つアミノ基及び/又はアンモニウム基(以下、「アミノ基等」と称する場合がある)を有する。上記シリカ膜は、親水性低分子及び疎水性低分子を含む混合溶液において、親水性低分子を透過させ、疎水性低分子を透過させずに濃縮する。以下、親水性低分子としてのアセトアルデヒドと、疎水性低分子としてのヨウ化メチルとの混合溶液を使用した場合を例として説明する。上記シリカ膜は中心細孔径が上記範囲内であることにより、分子ふるい機能によってアセトアルデヒドを透過させる。一方で、分子ふるい機能のみではヨウ化メチルも透過させることとなるが、上記シリカ膜はアミノ基等を有することにより膜の表面が適度な親水性となることから、ヨウ化メチルを透過させにくくなると推測される。このようなシリカ膜の性能により、アセトアルデヒドとヨウ化メチルとを効率的に分離することができる。
【0020】
また、従来のシリカ膜、例えば、その表面にアミノ基等を有さず、水酸基を有するシリカ膜は、本開示のシリカ膜と同様に分子ふるい機能を有し、表面が親水性であるという性質を備えるものではあるものの、繰り返して使用することでアセトアルデヒドの透過性が低減する傾向がある。その一方で、本開示のシリカ膜は性能の安定性が高く、繰り返して使用してもアセトアルデヒドの透過性が低減しにくいという特徴を備える。その理由は定かではないが、分離対象であるアセトアルデヒドとヨウ化メチルとを含む混合溶液において、水酸基との反応性が高い成分が含まれている可能性があり、従来のシリカ膜では該成分と水酸基が反応することにより膜表面の親水性が低下した結果、アセトアルデヒドの透過性が低減すると推測される。その一方で、本開示のシリカ膜におけるアミノ基等は該成分との反応性が低いためか、性能の安定性が高く、繰り返して使用してもアセトアルデヒドの透過性は低減しにくいと考えられる。
【0021】
本開示のシリカ膜は、鎖中及び/又は末端に、アミノ基又はアンモニウム基を有する一価の有機基を有することが好ましい。上記アミノ基又はアンモニウム基を有する一価の有機基において、一価の有機基は特に限定されないが、例えば、環状アルキル基、直鎖アルキル基、又は分岐鎖アルキル基等のアルキル基や、酸素原子や硫黄原子等のヘテロ原子を介して2以上のアルキル基が結合した基等が挙げられる。中でも、アルキル基が好ましく、より好ましくは直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、さらに好ましくは直鎖アルキル基である。また、上記一価の有機基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~7である。なお、上記「鎖中及び/又は末端に」アミノ基又はアンモニウム基を有するとは、より具体的には、例えば、一価の有機基の鎖中に第二級アミノ基もしくはアンモニウム基、第三級アミノ基もしくはアンモニウム基、又は第四級アンモニウム基が介在すること、一価の有機基の鎖中の第二級炭素原子又は第三級炭素原子にアミノ基又はアンモニウム基が結合していること、一価の有機基の末端の炭素原子にアミノ基(-NH2;第一級アミノ基)又はアンモニウム基(-NH3
+;第一級アンモニウム基)が結合していることを意味する。
【0022】
上記アミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基のいずれであってもよい。上記アンモニウム基は、第一級アンモニウム基、第二級アンモニウム基、第三級アンモニウム基、第四級アンモニウム基のいずれであってもよい。上記アミノ基等は有機基が置換した置換アミノ基等であってもよい。また、無置換アミノ基等であってもよく、無置換アミノ基等を有するシリカ膜に対して有機物処理を施すことや、有機物の分離に使用することにより置換アミノ基等とすることができる。上記アミノ基は、一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。
【0023】
上記置換アミノ基等が有する置換基は、一価の有機基であり、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1~8のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~4のアルキル基)、アリール基(好ましくは炭素数6~14のアリール基、より好ましくは炭素数6~10のアリール基)、又はこれらが結合した基が挙げられる。上記置換アミノ基等が複数の置換基を有する場合、上記複数の置換基は同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0024】
上記シリカ膜は、アミノ基等を有しない一価の有機基を含んでいてもよい。上記アミノ基等を有しない一価の有機基としては、例えば、アルキル基;アルキル基の末端にカルボキシ基、水酸基、又はメルカプト基を有する基;アルキル基の鎖中にエーテル結合、又はチオエーテル結合を有するものが挙げられる。上記アルキル基は特に限定されないが、例えば、環状アルキル基、直鎖アルキル基、又は分岐鎖アルキル基である。また、上記アルキル基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~7である。以下、シリカ膜が有するアミノ基等及びアミノ基等を有しない一価の有機基をまとめて一価の有機基と称することがある。
【0025】
上記シリカ膜は、膜を形成する無機化合物として、金属酸化物を含んでいてもよい。上記金属酸化物としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア等が挙げられる。上記シリカ膜は、シリカと併用する金属酸化物の種類や割合、シリカ膜に対するプラズマ処理、一価の有機基の表面への導入、一価の有機基の種類や量等の調整により、膜細孔径の調整や、表面の親水性や疎水性、水接触角等のシリカ膜の表面特性を調整することができる。
【0026】
上記シリカ膜の中心細孔径は、0.5~5.0nmであれば特に限定されないが、好ましくは0.8~4.0nmであり、より好ましくは1.0~3.0nmである。上記中心細孔径は、メディアン径(D50)であり、単成分ガス透過試験(H2、CO2、N2、CH4、CF4、SF6)又はナノパームポロメトリー法により測定することができる。上記中心細孔径は、混合気体の分離用途ではなく、混合液体の分離用途に適する範囲であることが好ましい。また、シランカップリング剤を導入する前のシリカ膜の中心細孔径が上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
上記シリカ膜表面の水接触角は特に限定されないが、好ましくは、0~70°であり、より好ましくは15~70°、より好ましくは30~70°である。水接触角が上記範囲内であることにより表面が適度な親水性を示すため、疎水性低分子が透過しにくくなり、分子サイズや物性(親水性)の異なる成分を含む混合溶液を効率よく分離することができる。
【0028】
上記シリカ膜は、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有するシランカップリング剤に由来する構造を有することが好ましい。すなわち、上記シリカ膜は上記シランカップリング剤によりアミノ基等が導入されたものであることが好ましい。言い換えると、上記シリカ膜は上記シランカップリング剤に由来するアミノ基等を有することが好ましい。上記シラカップリング剤は、一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。
【0029】
上記シリカ膜が上記シランカップリング剤に由来する構造を有する場合、上記シランカップリング剤をシリカ膜に導入する際において、シリカ膜の表面に存在する水酸基がシランカップリング剤のアルコキシ基との脱水反応により縮合する。このため、シリカ膜表面の水酸基の量を減らすことができ、アセトアルデヒドとヨウ化メチルとを含む混合溶液における、水酸基との反応性が高い成分と水酸基との反応が低減される。その一方で、上記シランカップリング剤に由来するアミノ基等が増大するため、シリカ膜の表面が適度な親水性を保つことができ、アセトアルデヒドとヨウ化メチルとを効率的に分離することができる。また、性能の安定性が高く、繰り返して使用してもアセトアルデヒドの透過性が低減しにくい。
【0030】
上記シランカップリング剤は、ケイ素原子にそれぞれ結合したアルコキシ基及び一価の有機基を含み、上記一価の有機基の少なくとも1つは、鎖中及び/又は末端に、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する。すなわち、上記シランカップリング剤は、ケイ素原子に結合した、アルコキシ基と、アミノ基等を有する一価の有機基とを含み、さらにアミノ基等を有しない一価の有機基を含んでいてもよい。
【0031】
上記アミノ基等を有する一価の有機基において、一価の有機基は特に限定されないが、例えば、環状アルキル基、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基等のアルキル基や、酸素原子や硫黄原子等のヘテロ原子を介して2以上のアルキル基が結合した基等が挙げられる。中でも、アルキル基が好ましく、より好ましくは直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、さらに好ましくは直鎖アルキル基である。また、上記一価の有機基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~7である。
【0032】
上記シランカップリング剤において、シランカップリング剤中の上記ケイ素原子と上記アミノ基及び/又は上記アンモニウム基中の窒素原子との間に存在する主鎖中の原子数は、1~8であることが好ましく、より好ましくは2~4である。上記主鎖の原子数が8以下(特に4以下)であると、細孔が小さくなるのを抑制し、またシリカ膜表面の親水性を適度なものとし、透過性がより良好となる。例えば、上記主鎖が二価の直鎖状炭化水素基である場合、上記主鎖の原子数は、炭素原子数と同じである。
【0033】
上記アミノ基等を有する一価の有機基において、アミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基のいずれであってもよい。また、アンモニウム基は、第一級アンモニウム基、第二級アンモニウム基、第三級アンモニウム基、第四級アンモニウム基のいずれであってもよい。上記アミノ基等は有機基が置換した置換アミノ基等であってもよい。また、無置換アミノ基等であってもよく、無置換アミノ基等を有するシリカ膜に対して有機物処理を施すことや、有機物の分離に使用することにより置換アミノ基等とすることができる。例えば、第一級アミノ基を有する一価の有機基に対し、ヨウ化メチル(MeI)溶液を通液すると、上記第一級アミノ基から第二級アミノ基や第一級アンモニウム基が生じる可能性があり、その他のアミノ基やアンモニウム基が生じる可能性もある。上記アミノ基は、一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。
【0034】
上記シランカップリング剤は、アミノ基等を有しない一価の有機基を含んでいてもよい。上記アミノ基等を有しない一価の有機基としては、例えば、アルキル基;アルキル基の末端にカルボキシ基、水酸基、又はメルカプト基を有する基;アルキル基の鎖中にエーテル結合、又はチオエーテル結合を有するものが挙げられる。上記アルキル基は特に限定されないが、例えば、環状アルキル基、直鎖アルキル基、又は分岐鎖アルキル基である。また、上記アルキル基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~7である。
【0035】
上記シランカップリング剤が有するアルコキシ基は、一般式RO-(Rはアルキル基を示す。)で表される。上記Rとしてのアルキル基は、直鎖又は分岐鎖アルキル基であることが好ましく、より好ましくは直鎖アルキル基である。上記Rとしてのアルキル基の炭素原子数(すなわち、アルコキシ基の炭素原子数)は特に限定されないが、1~10であることが好ましく、より好ましくは1~5、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2である。シランカップリング剤が有するアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、及びt-ブトキシ基等が挙げられる。
【0036】
上記シランカップリング剤は、好ましくは下記式で表される。
Rx-Si-R1
m(OR2)3-m
(R1は置換基を有していてもよい炭素原子数1~3のアルキル基を示す。R2は置換基を有していてもよい炭素原子数1~3のアルキル基を示す。RXは鎖中及び/又は末端に、アミノ基及び/又は上記アンモニウム基を有するアルキル基を示す。mは1~3の整数を表す。)
【0037】
R1及びR2においてアルキル基が有していてもよい置換基としては、シランカップリング剤の加水分解及び脱水縮合を妨げなければ特に限定されず、例えば、炭素原子数1~6のアルコキシ基、炭素原子数2~6のアルケニルオキシ基、炭素原子数2~6の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、ニトロ基、ニトロソ基、ヒドロキシ基、シアノ基、スルホン酸基、第一級アミノ基等のアミノ基、カルボキシ基、水酸基、メルカプト基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0038】
RXのアミノ基等を有するアルキル基において、アルキル基は特に限定されないが、例えば、環状アルキル基、直鎖アルキル基、又は分岐鎖アルキル基が好ましくは、より好ましくは直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、さらに好ましくは直鎖アルキル基である。また、上記アルキル基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~7である。
【0039】
上記RXのアミノ基等を有するアルキル基において、アミノ基等における窒素原子からSiまでの間の主鎖の原子数は、1~8であることが好ましく、より好ましくは2~4である。上記主鎖の原子数が8以下(特に4以下)であると、細孔が小さくなるのを抑制し、またシリカ膜表面の親水性を適度なものとし、透過性がより良好となる。
【0040】
上記シランカップリング剤は、具体的には、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン、[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン、N-[2-(N-ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-[8-(トリメトキシシリル)オクチル]エタン-1,2-ジアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-ブタンアミン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-[(1,3-ジメチルブチリデン)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、及びN,N-ビス[(ジフェニルホスフィノ)メチル]-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミンが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、一種又は二種以上を使用してもよい。
【0041】
上記シリカ膜において、上記アミノ基及び/又は上記アンモニウム基は、例えば、下記式(1)で表される基を介してシリカ膜を構成するケイ素原子に結合している。
-X-Si(-O-)3 (1)
[式(1)中、Xは二価の有機基を示し、Xの左に伸びる結合手は上記アミノ基又は上記アンモニウム基における窒素原子に結合し、Oの右に延びる結合手は、それぞれ、シリカ膜を構成するケイ素原子及び/又は他の式(1)で表される基におけるケイ素原子に結合している。]
【0042】
上記X中の主鎖の原子数は、1~8であることが好ましく、より好ましくは2~4である。上記主鎖の原子数が8以下(特に4以下)であると、細孔が小さくなるのを抑制し、またシリカ膜表面の親水性を適度なものとし、透過性がより良好となる。
【0043】
上記シリカ膜は、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有するシランカップリング剤を、シラノール基を有するシリカ膜と脱水縮合反応させることによりに作製することができる。上記脱水縮合反応は、例えば、シランカップリング剤を含む液体を布に染み込ませた後、シラノール基を有するシリカ膜に塗布し、110℃で0.5~1時間反応させて行うことができる。また、上記シラノール基を含むシリカ膜は、シランカップリング剤との反応前に、シリカ膜に水蒸気の導入やプラズマ照射することにより水酸基を増加させる処理を行ってもよい。
【0044】
上記シリカ膜の厚さは、例えば0.1~10μm、好ましくは0.1~1μmである。
【0045】
上記シリカ膜は、多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられていることが好ましい。上記多孔質基材は、上記シリカ膜を支持するための基材として作用する。上記多孔質基材は、アセトアルデヒドを透過させることが可能な孔を有する。また、上記多孔質基材の少なくとも一方の面に上記シリカ膜を設けることにより、複合膜が得られる。
【0046】
上記多孔質基材としては、公知乃至慣用のものを使用することができる。上記多孔質基材を構成する材質としては、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、チタニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、チタン、セラミック等の無機物等が挙げられる。
【0047】
上記多孔質基材の厚さは、例えば50~3000μm、好ましくは500~2000μmである。
【0048】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0049】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0050】
(実施例1)
1.5~2.0nmの貫通孔を有するシリカを主成分とする多孔質層として、市販のナノセラミック多孔質基材(型番:eSep-nano-Si-1.5-2、イーセップ株式会社製)を用いた。シリカ多孔質層の厚みは約500nmであり、下層はマクロ孔で形成されたα-アルミナ多孔質基材により支持されている構造を有する。外形は直径12mm、内径9mm、長さ40cmの円筒型であった。円筒状の膜の外側に、25℃で湿度50%以上の空気を1分間以上導入した。その際、円筒状の膜の内側を減圧し、水蒸気を強制的に膜細孔内部に導入した。膜細孔内に水蒸気が残存した状態で6時間以上保持し、シリカ層へのOH基生成を促進した。シランカップリング剤である3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を水で100倍に希釈後、室温で3時間以上静置することにより、加水分解反応を十分に進行させてから当該液体を布に染み込ませ、その布を用いて上記で調製した円筒状の複合膜に塗布した後、110℃で0.5時間乾燥して固定化を行い、シリカ膜を得た。
【0051】
(実施例2)
実施例1にて得られたシリカ膜に対し、常温下で99.5wt%のMeI(和光純薬製)を7時間通液循環させた後、静置状態で16時間浸漬させてシリカ膜を得た。
【0052】
(比較例1)
0.5~1.0nmの貫通孔を有するシリカを主成分とする、市販のナノセラミック多孔質基材(型番:eSep-nano-Si-0.5-1、イーセップ株式会社製)を用意し、シリカ膜として使用した。なお、上記シリカ膜は、実施例1及び2とは異なり、シランカップリング剤の導入は行わなかったためアミノ基を有しない。なお、上記基材におけるシリカ多孔質層の厚みは約500nmであり、下層はマクロ孔で形成されたα-アルミナ多孔質基材により支持されている構造を有する。外形は直径12mm、内径9mm、長さ40cmの円筒型であった。
【0053】
(比較例2)
1.0~1.5nmの貫通孔を有するシリカを主成分とする、市販のナノセラミック多孔質基材(型番:eSep-nano-Si-1-1.5、イーセップ株式会社製)を用意し、シリカ膜として使用した。なお、上記シリカ膜は、実施例1及び2とは異なり、シランカップリング剤の導入は行わなかったためアミノ基を有しない。なお、上記基材におけるシリカ多孔質層の厚みは約500nmであり、下層はマクロ孔で形成されたα-アルミナ多孔質基材により支持されている構造を有する。外形は直径12mm、内径9mm、長さ40cmの円筒型であった。
【0054】
表1に示す各種シリカ膜について、アセトアルデヒドとヨウ化メチルの分離性能を、加温・加圧下条件において、浸透気化法(パーベーパレーション法)により評価した。具体的には、まず、パーべーパレーション装置に膜面積120.6cm
2の分離膜を装着した。供給液成分として、アセトアルデヒド79.77質量%、ヨウ化メチル7.78質量%、水12.45質量%の混合液約600gを装置内に投入した。ウォーターバスにて50℃まで加温し、供給液側の圧力を190kPaGに保ちながら、送液ポンプにて75ml/minで分離膜に供給した。透過側の圧力は常圧とし、4~5時間透過させて、コールドトラップで捕集し透過液を採集した。ガスクロマトグラフィー分析、水分分析により、アセトアルデヒドの透過度[mol/m
2・s・Pa]、透過度比を算出した。透過度比は、[アセトアルデヒドの透過度/ヨウ化メチルの透過度]として求めた。結果を表1に示す。なお、表1に示す「AD」はアセトアルデヒドを示す。なお、同様の実験を、実施例1のシリカ膜では6回、実施例2のシリカ膜では3回、比較例1のシリカ膜では4回、比較例2のシリカ膜では5回繰り返し、評価を行った。
図1では、実施例及び比較例における透過度比の推移を示す。
図2では、実施例及び比較例におけるアセトアルデヒドの透過度の推移を示す。
【0055】
また、実施例1及び2のシリカ膜の水接触角は、接触角計「Drop Master700」(協和界面科学株式会社製)を用いて、膜表面に水を1滴滴下し、その際の角度を測定した。なお、実施例1のシリカ膜では実験前のシリカ膜の水接触角と、6回の実験後の水接触角、実施例2のシリカ膜では3回の実験後の水接触角を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
表1から分かるように、中心細孔径が0.5~5.0nmであり且つアミノ基を有するシリカ膜を分離膜として用いた場合(実施例1及び2)、アセトアルデヒドの透過度が大きく、且つ透過度比が実験回数を経ても大きな変化がないという結果となった(
図1及び2)。その一方で、アミノ基を有しないシリカ膜を分離膜として用いた場合(比較例1及び2)では、アセトアルデヒドの透過度が小さく、且つ透過度比が実験回数を経ると大きく減少するという結果となった(
図1及び2)。このことから、中心細孔径が0.5~5.0nmであり且つアミノ基を有するシリカ膜によれば、分子サイズ及び/又は物性の異なる成分を含む混合溶液、すなわち、アセトアルデヒドとヨウ化メチルを効率よく分離することができ、且つ繰り返して使用してもその性能(分離能)が低下しにくいことが明らかになった。