(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028596
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】ノック式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/08 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
B43K24/08 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134398
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】並木 義春
(72)【発明者】
【氏名】池田 敦
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA02
2C353HA09
2C353HC04
2C353HG04
(57)【要約】
【課題】より少ないノック量でノック操作が可能で、よりコンパクトなノック機構を有するノック式筆記具を提供する。
【解決手段】ノック式の筆記具1が、軸筒2と、軸筒内に前後動可能且つ中心軸線回りに回転可能に配置され、前方に面した回転カム部33及び押出カム部35を有する延伸カム30と、軸筒の内周面に設けられ、後方に面した回転カム受け部21と、軸筒内に前後動可能に延伸カムの前方に配置され、後方に面した押出カム受け部42を有するノックカムと、ノックカムの前進に伴い前進するリフィル6と、を具備し、回転カム部及び回転カム受け部において、一方が周方向に沿って傾斜する第1斜面を有し、他方が第1斜面に沿って摺動可能な第1作用部を有し、押出カム部及び押出カム受け部において、一方が周方向に沿って第1斜面と逆方向に傾斜する第2斜面を有し、他方が第2斜面に沿って摺動可能な第2作用部を有している。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、
前記軸筒内に前後動可能且つ中心軸線回りに回転可能に配置され、前方に面した第1カム部及び第2カム部を有する延伸カムと、
前記軸筒の内周面に設けられ、後方に面した第1カム受け部と、
前記軸筒内に前後動可能に前記延伸カムの前方に配置され、後方に面した第2カム受け部を有するノックカムと、
前記ノックカムの前進に伴い前進する筆記体と、を具備し、
ノック操作によって筆記状態と非筆記状態とが切り替え可能なノック式筆記具であって、
前記第1カム部及び前記第1カム受け部において、一方が周方向に沿って傾斜する第1斜面を有し、他方が前記第1斜面に沿って摺動可能な第1作用部を有し、
前記第2カム部及び前記第2カム受け部において、一方が周方向に沿って前記第1斜面と逆方向に傾斜する第2斜面を有し、他方が前記第2斜面に沿って摺動可能な第2作用部を有し、
ノック操作によって前記延伸カムを前進させると、前記第1カム部と前記第1カム受け部とが協働して前記延伸カムを回転させ、前記延伸カムの前進及び回転に伴い前記第2カム部と前記第2カム受け部とが協働して前記ノックカムを前進させて、前記延伸カムの前進量よりも前記筆記体の前進量が大きくなるように構成されていることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
前記第1カム部及び前記第1カム受け部において、前記一方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第1斜面を有し、対応するように前記他方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第1作用部を有し、
前記第2カム部及び前記第2カム受け部において、前記一方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第2斜面を有し、対応するように前記他方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第2作用部を有する請求項1に記載のノック式筆記具。
【請求項3】
前記延伸カムが円筒状に形成され、前記第1カム部が前記第2カム部よりも径方向外方に配置されている請求項1又は2に記載のノック式筆記具。
【請求項4】
前記延伸カムが円筒状に形成され、前記第1カム部及び前記第2カム部が同一円周上に配置されている請求項1又は2に記載のノック式筆記具。
【請求項5】
前記第1作用部及び前記第2作用部の少なくとも一方が、対応する前記第1斜面又は前記第2斜面の少なくとも一部と相補的な斜面を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノック式筆記具。
【請求項6】
前記第1作用部及び前記第2作用部の少なくとも一方が、凸曲面を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノック式筆記具。
【請求項7】
前記第2斜面のピッチが、前記第1斜面のピッチと同一、又は、前記第1斜面のピッチよりも大きく設けられている請求項1乃至6のいずれか一項に記載のノック式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノック式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
ノック式筆記具は、軸筒の後端部にノック部材を備えた操作部を有し、軸筒内に配置されたスプリングの付勢力に抗して操作部を前方に押圧するノック操作を行うことによって、ペン先である筆記部が軸筒の先端から突出した筆記状態と筆記部が軸筒内に没入した非筆記状態とが切り替えられる。具体的には、ノック操作によって、ノック部材が回転子と共に前方へ移動して回転子を回転させる。ノック操作に伴う回転子の回転と、回転子の軸筒内における係合又は係合解除に応じて、ノック式筆記具は、筆記状態と非筆記状態とが切り替えられる。
【0003】
基本的に、ノック操作によるノック量、すなわち操作部の移動量と、回転子、ひいては筆記部を備えた筆記体の移動量は、略等しい。従来よりも少ないノック量で、非筆記状態から筆記状態への切り替えが可能なノック式筆記具が公知である(例えば、特許文献1)。必要なノック量がより少なければ、ノック操作時の操作性を向上させることができ、例えばノック部材の軸筒の後端部からの突出量を少なくすることによってより多様なデザインの外観とすることもできる。
【0004】
特許文献1に記載のノック式筆記具は、円筒状の延伸カムを有している。延伸カムの前後方向における両端部には凸曲面状の作用端が設けられ、延伸カムの外周面にはピンが設けられている。延伸カムの前端側の作用端はノックカムの斜面と当接して配置され、延伸カムの後端側の作用端は直動カムの斜面と当接して配置されている。ノックカムの斜面と直動カムの斜面とは互いに逆方向に傾斜している。延伸カムのピンは、軸筒側に設けられ且つ周方向に沿って斜めに延びる延伸カム用斜行溝内に配置されている。ノック操作によって直動カムを前進させると、延伸カムのピンが延伸カム用斜行溝によって案内され、延伸カムが軸線回りに回転しながら前進する。このとき延伸カムの回転に伴い、延伸カムの後端部側の作用端が直動カムの斜面に沿って移動することによって、延伸カムの前進量は、直動カムの前進量よりも大きくなる。他方、延伸カムの回転しながらの前進移動に伴い、延伸カムの前端部側の作用端がノックカムの斜面に沿って移動することによって、ノックカムは押圧されながら前進する。ノックカムの前進量は、延伸カムの前進量よりも大きくなる。結果として、ノックカム及びこれに当接するリフィルは、ノック操作による操作部の移動量よりも大きく前進することから、少ない操作部の移動量で、非筆記状態から筆記状態への切り替えが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のノック式筆記具では、延伸カムの両端部に作用端が設けられ、それぞれに対向する斜面が直動カム及びノックカムに設けられていることから、ノック機構全体の長さが長くなる。その結果、軸筒内に配置可能なリフィルの長さがより短くなるか、ノック式筆記具の全長がより長くなってしまう。特にリフィルの長さがより短くなると、収容可能なインク量が少なくなり、結果として1つのリフィルで筆記可能な線の長さが短くなってしまう。
【0007】
本発明は、より少ないノック量でノック操作が可能で、よりコンパクトなノック機構を有するノック式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、軸筒と、前記軸筒内に前後動可能且つ中心軸線回りに回転可能に配置され、前方に面した第1カム部及び第2カム部を有する延伸カムと、前記軸筒の内周面に設けられ、後方に面した第1カム受け部と、前記軸筒内に前後動可能に前記延伸カムの前方に配置され、後方に面した第2カム受け部を有するノックカムと、前記ノックカムの前進に伴い前進する筆記体と、を具備し、ノック操作によって筆記状態と非筆記状態とが切り替え可能なノック式筆記具であって、前記第1カム部及び前記第1カム受け部において、一方が周方向に沿って傾斜する第1斜面を有し、他方が前記第1斜面に沿って摺動可能な第1作用部を有し、前記第2カム部及び前記第2カム受け部において、一方が周方向に沿って前記第1斜面と逆方向に傾斜する第2斜面を有し、他方が前記第2斜面に沿って摺動可能な第2作用部を有し、ノック操作によって前記延伸カムを前進させると、前記第1カム部と前記第1カム受け部とが協働して前記延伸カムを回転させ、前記延伸カムの前進及び回転に伴い前記第2カム部と前記第2カム受け部とが協働して前記ノックカムを前進させて、前記延伸カムの前進量よりも前記筆記体の前進量が大きくなるように構成されていることを特徴とするノック式筆記具が提供される。
【0009】
前記第1カム部及び前記第1カム受け部において、前記一方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第1斜面を有し、対応するように前記他方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第1作用部を有し、前記第2カム部及び前記第2カム受け部において、前記一方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第2斜面を有し、対応するように前記他方が中心軸線回りに対称的に配置された少なくとも2つの前記第2作用部を有してもよい。前記延伸カムが円筒状に形成され、前記第1カム部が前記第2カム部よりも径方向外方に配置されていてもよい。前記延伸カムが円筒状に形成され、前記第1カム部及び前記第2カム部が同一円周上に配置されていてもよい。前記第1作用部及び前記第2作用部の少なくとも一方が、対応する前記第1斜面又は前記第2斜面の少なくとも一部と相補的な斜面を有していてもよい。前記第1作用部及び前記第2作用部の少なくとも一方が、凸曲面を有していてもよい。前記第2斜面のピッチが、前記第1斜面のピッチと同一、又は、前記第1斜面のピッチよりも大きく設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、より少ないノック量でノック操作が可能で、よりコンパクトなノック機構を有するノック式筆記具を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態による筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図8】
図8は、
図1の筆記具の後軸の後端部の縦断面図である。
【
図9】
図9は、
図1の延伸機構のカムの関係を示す模式図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態による筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図19】
図19は、第3実施形態による筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図26】
図26は、第4実施形態による筆記具の延伸カムの斜視図である。
【
図27】
図27(A)及び
図27(B)は、それぞれ、第5実施形態による筆記具の非筆記状態の正面図及び側面図である。
【
図30】
図30(A)は、
図28(B)のC-C線に沿った筆記具の断面図であり、
図30(B)は、
図28(B)のD-D線に沿った筆記具の断面図であり、
図30(C)は、
図28(B)のE-E線に沿った筆記具の断面図である。
【
図32】
図32(A)乃至(D)は、それぞれ、後軸の正面図、側面図、
図32(B)のG-G線に沿った後軸の断面図、及び、
図32(A)のF-F線に沿った後軸の断面図である。
【
図33】
図33(A)乃至
図33(C)は、それぞれ、内筒の斜視図、縦断面図及び平面図である。
【
図37】
図37(A)乃至
図37(C)は、それぞれ、一方の第2ノック部材の斜視図、側面図及び底面図である。
【
図42】
図42は、クリップのクリップ本体の縦断面図である。
【
図43】
図43(A)は、クリップが閉じた状態の
図27の筆記具の後部の縦断面図であり、
図43(B)は、クリップが開いた状態の
図27の筆記具の後部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0013】
図1は、第1実施形態による筆記具1の非筆記状態の縦断面図であり、
図2は、
図1の筆記具1の筆記状態の縦断面図である。また、
図3は、
図1の筆記具1の延伸機構10の分解組立図である。筆記具1は、ノック式筆記具である。
【0014】
筆記具1は、筒状に形成され且つ前軸3及び後軸4を備えた軸筒2と、クリップ5aを備えた天冠5と、軸筒2内に配置され且つ一端に筆記部6aを備えた筆記体であるリフィル6と、リフィル6を後方へ付勢するスプリング7とを有している。天冠5は、後軸4の後端部に嵌合しており、天冠5も含めて軸筒2と称してもよい。前軸3の後端部は、後軸4の前端部の内部に挿入され、螺合によって嵌合している。天冠5はクリップ5aを有していなくてもよい。この場合、天冠5は、後軸4と一体に形成してもよい。本明細書中では、筆記具の軸線方向において、筆記部側を「前」側と規定し、筆記部とは反対側を「後」側と規定する。
【0015】
軸筒2の後端部、すなわち後軸4の後端部の内部には、延伸機構10が配置されており、延伸機構10の後方には、ノック操作部としてノックボタン8が配置されている。延伸機構10は、ノック操作によってリフィル6を軸筒2内で前後方向に移動させるノック機構である。天冠5及びノックボタン8を含めて延伸機構10と称してもよい。筆記部6aが軸筒2内に没入した状態を非筆記状態(
図1)と称し、筆記部6aが軸筒2から突出した状態を筆記状態(
図2)と称す。リフィル6と延伸機構10とを合わせてノック機構と称してもよい。
【0016】
延伸機構10は、主として、軸筒2の内周面、具体的には後軸4の内周面に設けられた外カム20と、筒状に形成された延伸カム30と、筒状に形成されたノックカム40と、筒状に形成された回転子50とを有する。軸筒2内において、ノックボタン8、延伸カム30、ノックカム40及び回転子50が、後端側から順に配置されている。
【0017】
天冠5は、両端が開口した筒状に形成されている。クリップ5aは、天冠5の後端部の外周面から側方に延びるように設けられている。天冠5の前端部の内周面には、軸線方向に延びる4つの規制溝5bが、周方向に沿って等間隔に設けられている。ノックボタン8は、一端が閉鎖した筒状に形成されている。ノックボタン8の前端部の外周面には、軸線方向に延びる4つの規制突起8aが、周方向に沿って等間隔に設けられている。組み立て状態において、ノックボタン8の規制突起8aの各々は、天冠5の規制溝5b内に収容されている。したがって、天冠5の前端開口から挿入されたノックボタン8は、中心軸線回りの回転が規制されつつ、前後動可能である。
【0018】
図4は、
図1の筆記具1の延伸カム30の斜視図であり、
図5は、
図1の筆記具1の延伸カム30の底面図である。延伸カム30は、円筒状のカム本体31と、カム本体31よりも大径の大径部32とを有している。大径部32の前端面には、回転カム部33が形成されている。回転カム部33は、周方向に沿って傾斜する2つの第1斜面34を有している。2つの第1斜面34は、同一方向に傾斜し、延伸カム30の中心軸線に対して対称的に配置されている。回転カム部33は、第1カム部を構成する。
【0019】
カム本体31の前方には、押出カム部35が形成されている。押出カム部35は、周方向に沿って第1斜面34と逆方向に傾斜する2つの第2斜面36と、第2斜面36の頂点に設けられた平坦部37とを有している。2つの第2斜面36は、同一方向に傾斜し、延伸カム30の中心軸線に対して対称的に配置されている。押出カム部35は、第2カム部を構成する。
【0020】
図5に示されるように、回転カム部33は押出カム部35よりも径方向外方に配置されていることから、回転カム部33及び押出カム部35は、径方向において隣接する二重のカム面を構成する。回転カム部33は、押出カム部35よりも後方に配置されている。なお、回転カム部33と押出カム部35とが軸線方向において同じ位置となるように設けてもよい。後述する別の実施形態について
図23に示されるように、回転カム部33を押出カム部35よりも前方に設けてもよい。
【0021】
延伸カム30において、回転カム部33の第1斜面34と押出カム部35の第2斜面36とは、異なる傾斜角度、すなわち異なるピッチを有している。ピッチとは、周方向に沿って設けられた斜面が、中心軸線回りに360度の1周分設けられている場合における軸線方向の長さをいう。具体的には、筆記具1において、第2斜面36のピッチは、第1斜面34のピッチの2倍である。
【0022】
図6は、
図1の筆記具1のノックカム40の斜視図である。ノックカム40の前側の外周面には、軸線方向に延びる2つの第1突起部41が周方向に沿って等間隔に設けられている。2つの第1突起部41の後端面には、押出カム受け部42が形成されている。押出カム受け部42は、周方向に沿って傾斜する第3斜面43を有している。第3斜面43は、延伸カム30の第2斜面36と同一方向及び同一角度に傾斜し、第2斜面36と協働するように構成されている。第1突起部41の前側の外面には、軸線方向に延びる第2突起部44が形成されている。ノックカム40の前端面には、複数の山部及び谷部の繰り返しからなる一連のカム面45が形成されている。第2突起部44の前端面は、カム面45の一部を構成する。押出カム受け部42は、第2カム受け部を構成する。
【0023】
図7は、
図1の筆記具1の回転子50の斜視図である。回転子50の後端部には、ノックカム40内に挿入されて芯合わせに使用される小径部51が形成されている。小径部51の前方には、大径部52によって突起状の内カム53が画成されている。内カム53は、軸線方向に延びる4つの内カム突起54を有している。4つの内カム突起54は、周方向に沿って等間隔に設けられている。内カム突起54の後端面には、周方向に傾斜した斜面としてカム受け面55が設けられている。カム受け面55は、ノックカム40のカム面45の一部と同一方向及び同一角度に傾斜し、カム面45と協働するように構成されている。
【0024】
図8は、
図1の筆記具1の後軸4の後端部の縦断面図である。後軸4の内周面には、上述したように突起状の外カム20が設けられている。外カム20は、2つの外カム突起23を有している。2つの外カム突起23は、周方向に沿って等間隔に設けられている。外カム20の後端面には、回転カム受け部21が形成されている。外カム20の前端面には、係止カム面22が形成されている。
【0025】
回転カム受け部21は、周方向に沿って傾斜する第4斜面24を有している。第4斜面24は、延伸カム30の回転カム部33の第1斜面34と同一方向及び同一角度に傾斜し、第1斜面34と協働するように構成されている。係止カム面22は、鋸刃状の鋸斜面25と、後方に向かって延びる溝部26とを有している。要するに、外カム突起23の各々において、後端面に1つの第4斜面24が形成され、前端面に2つの鋸斜面25と2つの鋸斜面25間の溝部26とが形成されている。2つの外カム突起23間には、ガイド溝27が形成されている。回転カム受け部21は、第1カム受け部を構成する。
【0026】
図1乃至
図3を参照しながら、筆記具1の各部材の配置について説明する。後軸4の後端開口から延伸カム30が挿入されている。それによって、延伸カム30の回転カム部33が、軸筒2内の外カム20、特に回転カム受け部21と協働するように配置される。後軸4の後端開口からノックボタン8が挿入され、その上から天冠5が後軸4の後端開口に嵌合されている。それによって、ノックボタン8は、ノックボタン8の前端面が延伸カム30の後端面に当接するように配置される。後軸4の前端開口からノックカム40が挿入されて、延伸カム30の前端開口にノックカム40が挿入されている。それによって、延伸カム30の押出カム部35が、ノックカム40の押出カム受け部42と協働するように配置される。後軸4の前端開口から回転子50が挿入されて、ノックカム40の前端開口に回転子50の小径部51が挿入されている。それによって、ノックカム40のカム面45と回転子50のカム受け面55とが協働するように配置される。リフィル6及びスプリング7が配置された前軸3は、リフィル6が回転子50の前端開口に挿入されるように、後軸4に螺合している。
【0027】
図9は、
図1の延伸機構10のカムの関係を示す模式図である。すなわち、
図9は、天冠5と、ノックボタン8と、外カム20と、延伸カム30と、ノックカム40と、回転子50との位置関係、特に、回転カム部33及び回転カム受け部21の位置関係と、押出カム部35及び押出カム受け部42の位置関係とを示す模式図である。図中、上方が筆記具1の後側であり、下方が筆記具1の前側である。
図9では、各部材のカム又は突起について、相互の位置関係を明確にするため、径方向及び軸線方向の位置及び寸法、さらには形状を捨象して周方向に展開している。例えば、延伸カム30では、第1斜面34を備えた回転カム部33が形成された大径部32、及び、第2斜面36を備えた押出カム部35が形成されたカム本体31が、模式的に一体的に示されており、第1斜面34の全長も短縮して示されている。ノックカム40では、第3斜面43を備えた第1突起部41及び第2突起部44が、模式的に一体的に示されている。
【0028】
ノックカム40の第2突起部44は、外カム突起23間のガイド溝27内に配置されている。したがって、ノックカム40は、中心軸線回りの回転が規制されつつ、前後動可能である。延伸カム30の第1斜面34と外カム20の第4斜面24とが互いに当接すると共に、延伸カム30の第2斜面36とノックカム40の第3斜面43とが互いに当接するように配置されている。
図9は、非筆記状態の筆記具1であることから、回転子50の内カム突起54の各々は、対応する溝部26又はガイド溝27に配置されている。ノックカム40のカム面45と回転子50のカム受け面55とは、互いに当接するように配置されている。
【0029】
スプリング7によって後方に付勢されたリフィル6を介して、回転子50が後方へ付勢されている。ノックカム40は、後方へ付勢された回転子50のカム受け面55とノックカム40のカム面45との当接を介して、後方へ付勢されている。延伸カム30は、後方へ付勢されたノックカム40の第3斜面43と延伸カム30の第2斜面36との当接を介して、後方へ付勢されている。ノックボタン8は、後方へ付勢された延伸カム30の後端面とノックボタン8の前端面との当接を介して、後方へ付勢されている。
【0030】
図10は、
図1の延伸機構10の動作を段階的に示す模式図であり、非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す模式図である。
図10(A)は、
図9と同一であり、非筆記状態の筆記具1における延伸機構10を示している。
【0031】
図10(A)に示された状態から、ノックボタン8を前方に押圧するノック操作を行う。ノック操作によるノックボタン8の前進によって、延伸カム30を前進させる。延伸カム30を前進させると、延伸カム30の回転カム部33と外カム20の回転カム受け部21とが協働し、後軸4に対して延伸カム30を中心軸線回りに回転させる。すなわち、第1斜面34が第4斜面24に沿って図中左下方向に摺動して、延伸カム30の前進及び回転が同時に行われる。他方、延伸カム30の前進及び回転に伴い、延伸カム30の押出カム部35とノックカム40の押出カム受け部42とが協働し、ノックカム40を前進させる。すなわち、第3斜面43が第2斜面36に沿って相対的に摺動して、ノックカム40の前進が行われる。なお、ノックカム40は、第2突起部44が外カム20のガイド溝27内に配置されていることによって、中心軸線回りの回転が規制されている。また、ノックカム40の前進に伴い、回転子50、ひいてはリフィル6がスプリング7の付勢力に抗して押圧されて一体的に前進する。
【0032】
要するに、延伸カム30の回転カム部33と外カム20の回転カム受け部21との協働によって、延伸カム30に回転方向の運動を生じさせる。延伸カム30の回転によって、延伸カム30の押出カム部35とノックカム40の押出カム受け部42とが協働し、延伸カム30の前進量と比較して、ノックカム40の前進量を増加させる。ノックカム40の前進量の増加量は、延伸カム30の回転量(回転角度)を決定する、回転カム部33の第1斜面34又は回転カム受け部21の第4斜面24の傾斜角又はピッチと、回転量に応じた前進を生じさせる、押出カム部35の第2斜面36又は押出カム受け部42の第3斜面43の傾斜角又はピッチとによって、幾何学的に設計可能である。
【0033】
例えば、押出カム部35の第2斜面36のピッチを回転カム部33の第1斜面34のピッチと同一にした場合、リフィル6の移動量は、ノック操作によるノック量、すなわちノックボタン8の移動量の2倍となる。また、押出カム部35の第2斜面36のピッチを回転カム部33の第1斜面34のピッチの2倍にした場合、リフィル6の移動量は、ノック操作によるノック量の3倍となる。
【0034】
したがって、
図10(A)の状態から、ノック操作によってノックボタン8を押圧し、距離D11だけノックボタン8を前進させると、距離D11よりも大きい距離D21だけ回転子50、ひいてはリフィル6が前進する(
図10(B))。さらにノックボタン8を押圧し、距離D12だけノックボタン8を前進させると、距離D21よりも大きい距離D22だけ回転子50、ひいてはリフィル6が前進する(
図10(C))。なお、
図10(C)の状態では、回転子50の内カム突起54は、対応する溝部26又はガイド溝27に配置されており、したがって、回転子50は、中心軸線回りの回転が規制されている。また、上述したように、回転子50は、スプリング7によって常に後方に付勢されている。
【0035】
図10(C)の状態から、さらにノックボタン8を押圧して回転子50を前進させ、内カム突起54が溝部26又はガイド溝27を越えると、回転子50の回転の規制が解除される(
図10(D))。このとき、ノックカム40のカム面45と回転子50のカム受け面55とが協働し、回転子50を中心軸線回りに回転させる。すなわち、ノック操作に起因する前進による軸線方向の力とスプリング7の付勢力による軸線方向の力とを受けて、回転子50の斜面であるカム受け面55が、複数の山部及び谷部の繰り返しからなるカム面45に対して押圧されて周方向の分力を受ける。ノックカム40は回転が規制されていることから、回転子50が回転する。回転子50の回転は、内カム突起54が係止カム面22を構成する鋸斜面25に係止することによって停止し(
図10(E))、筆記具1は筆記状態となる。
【0036】
筆記状態の筆記具1について再びノック操作を行うと、回転子50が前進して内カム突起54と係止カム面22との係止が解除される。このとき、ノックカム40のカム面45と回転子50のカム受け面55とが再び協働し、回転子50を回転させる。その結果、回転子50の内カム突起54の各々が溝部26又はガイド溝27に配置され、スプリング7の付勢力によって回転子50、ひいてはリフィル6が後退し、筆記具1は非筆記状態となる。このとき、延伸カム30は、非筆記状態から筆記状態にする場合とは逆方向に回転し、
図10(A)に示された状態に復帰する。
【0037】
以上より、延伸機構10によれば、ノック操作によるノック量よりもリフィル6の前進量を増加させることができることから、より少ないノック量でノック操作が可能となる。
【0038】
以下、他の実施形態による延伸機構について説明する。
【0039】
図11は、第2実施形態による筆記具100の非筆記状態の縦断面図であり、
図12は、
図11の筆記具100の筆記状態の縦断面図である。また、
図13は、
図11の筆記具100の延伸機構の分解組立図である。筆記具100は、ノック式筆記具である。
【0040】
筆記具100は、第1実施形態による筆記具1と比較して、後軸104及び延伸機構110の形状において異なる。延伸機構110は、主として、後軸104の内周面に設けられた外カム120と、延伸カム130と、ノックカム140と、回転子150とを有する。
【0041】
図14は、
図11の筆記具100の延伸カム130の斜視図であり、
図15は、
図11の筆記具100の延伸カム130の底面図である。延伸カム130は、円筒状のカム本体131を有している。カム本体131の前端面には、回転カム部133及び押出カム部135が形成されている。具体的には、
図15の底面図におけるカム本体131の環状の端面を4等分し、対向する円弧で回転カム部133及び押出カム部135の各々が構成される。したがって、回転カム部133及び押出カム部135は、同一円周上に配置されている。
【0042】
回転カム部133は、周方向に沿って傾斜する2つの第1斜面134を有している。2つの第1斜面134は、同一方向に傾斜し、延伸カム130の中心軸線に対して対称的に配置されている。回転カム部133は、第1カム部を構成する。押出カム部135は、周方向に沿って第1斜面134と逆方向に傾斜する2つの第2斜面136を有している。2つの第2斜面136は、同一方向に傾斜し、延伸カム130の中心軸線に対して対称的に配置されている。押出カム部135は、第2カム部を構成する。延伸カム130において、第1斜面134及び第2斜面136が、同一円周上に配置されて連続的に接続されている。筆記具100において、第2斜面136のピッチは、第1斜面134のピッチの2倍である。
【0043】
図16は、
図11の筆記具100のノックカム140の斜視図である。ノックカム140の外周面には、前端部から後方に延びる2つの第1突起部141が周方向に沿って等間隔に設けられている。2つの第1突起部141の後端面には、押出カム受け部142が形成されている。押出カム受け部142は、周方向に沿って傾斜する第3斜面143を有している。第3斜面143は、延伸カム130の第2斜面136と同一方向及び同一角度に傾斜し、第2斜面136と協働するように構成されている。ノックカム140の前端面には、複数の山部及び谷部の繰り返しからなる一連のカム面145が形成されている。押出カム受け部142は、第2カム受け部を構成する。
【0044】
図17は、
図11の筆記具100の回転子150の斜視図である。回転子150の後端部には、ノックカム140内に挿入されて芯合わせに使用される小径部151が形成されている。小径部151の前方には、大径部152によって突起状の内カム153が画成されている。内カム153は、軸線方向に延びる4つの内カム突起154を有している。4つの内カム突起154は、周方向に沿って等間隔に設けられている。内カム突起154の後端面には、周方向に傾斜した斜面としてカム受け面155が設けられている。カム受け面155は、ノックカム140のカム面145の一部と同一方向及び同一角度に傾斜し、カム面145と協働するように構成されている。
【0045】
図18は、
図11の筆記具100の後軸104の後端部の縦断面図である。後軸104の内周面には、突起状の外カム120が設けられている。外カム120は、2つの外カム突起123を有している。2つの外カム突起123は、周方向に沿って等間隔に設けられている。外カム120の後端面には、回転カム受け部121が形成されている。外カム120の前端面には、係止カム面122が形成されている。
【0046】
回転カム受け部121は、周方向に沿って傾斜する第4斜面124を有している。第4斜面124は、延伸カム130の回転カム部133の第1斜面134と同一方向及び同一角度に傾斜し、第1斜面134と協働するように構成されている。係止カム面122は、鋸刃状の鋸斜面125と、後方に向かって延びる溝部126とを有している。要するに、外カム突起123の各々において、後端面に1つの第4斜面124が形成され、前端面に2つの鋸斜面125と2つの鋸斜面125間の溝部126とが形成されている。2つの外カム突起123間には、ガイド溝127が形成されている。回転カム受け部121は、第1カム受け部を構成する。
【0047】
筆記具100は延伸機構110を有していることから、
図10を参照しながら上述した原理に基づき、ノック操作によるノック量よりもリフィル6の前進量を増加させることができる。すなわち、ノック操作によって延伸カム130を前進させると、回転カム部133と回転カム受け部121とが協働して延伸カム130を回転させ、延伸カム130の前進及び回転に伴い押出カム部135と押出カム受け部142とが協働してノックカム140を前進させる。その結果、延伸カム130の前進量よりもリフィル6の前進量を増加させることができる。
【0048】
図19は、第3実施形態による筆記具200の非筆記状態の縦断面図であり、
図20は、
図19の筆記具200の筆記状態の縦断面図である。また、
図21は、
図19の筆記具200の延伸機構210の分解組立図である。筆記具200は、ノック式筆記具である。
【0049】
筆記具200は、第1実施形態による筆記具1と比較して、ノックボタン208、後軸204及び延伸機構210の形状において異なる。さらに、筆記具200は、天冠に代えて内筒209を有している。内筒209は、後軸204の内部に配置されており、内筒209も含めて軸筒202と称してもよい。軸筒202の内周面、具体的には内筒209の内周面には上述した外カム20又は外カム120と同様の外カムが設けられており、詳細な説明は省略する。延伸機構210は、主として、外カム220と、延伸カム230と、ノックカム240と、回転子250とを有する。
【0050】
図22は、
図19の筆記具200の延伸カム230の斜視図であり、
図23は、
図19の筆記具200の延伸カム230の縦断面図である。延伸カム230は、円筒状のカム本体231と、カム本体231よりも大径の大径部232とを有している。大径部232の前端面には、回転カム部233が形成されている。回転カム部233は、周方向に沿って傾斜する2つの第1斜面234と、第1斜面234の頂点に設けられた平坦部237とを有している。2つの第1斜面234は、同一方向に傾斜し、延伸カム230の中心軸線に対して対称的に配置されている。回転カム部233は、第1カム部を構成する。
【0051】
カム本体231の前方には、押出カム部235が形成されている。押出カム部235は、周方向に沿って第1斜面234と逆方向に傾斜する2つの第2斜面236と、第2斜面236の頂点に設けられた平坦部237とを有している。2つの第2斜面236は、同一方向に傾斜し、延伸カム230の中心軸線に対して対称的に配置されている。押出カム部235は、第2カム部を構成する。回転カム部233は押出カム部235よりも径方向外方に配置されていることから、回転カム部233及び押出カム部235は、径方向において隣接する二重のカム面を構成する。回転カム部233は、押出カム部235よりも前方に配置されている。筆記具200において、第2斜面236のピッチは、第1斜面234のピッチの2倍である。
【0052】
図24は、
図19の筆記具200のノックカム240の斜視図である。ノックカム240の外周面には、軸線方向に延びる2つの第1突起部241が周方向に沿って等間隔に設けられている。2つの第1突起部241の後端面には、押出カム受け部242が形成されている。押出カム受け部242は、周方向に沿って傾斜する第3斜面243を有している。第3斜面243は、延伸カム30の第2斜面236と同一方向及び同一角度に傾斜し、第2斜面236と協働するように構成されている。ノックカム240の前端部の外周面には、軸線方向に延びる2つの第2突起部244が形成されている。2つの第2突起部244は、周方向に沿って等間隔に設けられており、周方向において、第1突起部241と対応する位置に設けられている。ノックカム240の前端面には、複数の山部及び谷部の繰り返しからなる一連のカム面245が形成されている。第2突起部244の前端面は、カム面245の一部を構成する。押出カム受け部242は、第2カム受け部を構成する。
【0053】
図25は、
図19の筆記具200の回転子250の斜視図である。回転子250の後端部には、ノックカム240内に挿入されて芯合わせに使用される小径部251が形成されている。小径部251の前方には、大径部252によって突起状の内カム253が画成されている。内カム253は、軸線方向に延びる4つの内カム突起254を有している。4つの内カム突起254は、周方向に沿って等間隔に設けられている。内カム突起254の後端面には、周方向に傾斜した斜面としてカム受け面255が設けられている。カム受け面255は、ノックカム240のカム面245の一部と同一方向及び同一角度に傾斜し、カム面245と協働するように構成されている。
【0054】
筆記具200において、
図22及び
図23に示されるように、カム本体231の後端部には、先端が半球状に形成された回転支持部238が設けられている。上述した実施形態、例えば第1実施形態では、ノックボタン8と延伸カム30とは、円環状のノックボタン8の前端面及び延伸カム30の後端面とが全周に亘り当接している。ノックボタン8をノック操作すると、上述したようにノックボタン8によって前方に押圧され且つスプリング7によって後方に付勢されながら、延伸カム30が中心軸線回りに回転する。このとき、ノックボタン8の円環状の前端面に対して、延伸カム30の円環状の後端面が摺接して抵抗が生じている。
【0055】
他方、本実施形態では、ノックボタン208をノック操作すると、ノックボタン208に押圧されながら延伸カム230が中心軸線回りに回転する。このとき、ノックボタン208の後端面の内面に対して、延伸カム230の半球状の回転支持部238の頂点を支点として、延伸カム230が回転する。要するに、延伸カム230の回転時には、ノックボタン208と延伸カム230とは、半球状の回転支持部238の頂点においてのみ接し、且つ、点状に接している。したがって、本実施形態の延伸カム230によれば、上述した実施形態の延伸カムに比べて、回転時の抵抗を少なくすることができる。
【0056】
回転支持部238は、回転時に他の部材と当接する部分の形状において、抵抗を低減させる限りにおいて、すなわち、接触面積を低減させる限りにおいて任意に構成してもよい。例えば、半球状ではなく、円錐状としてもよい。
【0057】
筆記具200は延伸機構210を有していることから、
図10を参照しながら上述した原理に基づき、ノック操作によるノック量よりもリフィル6の前進量を増加させることができる。すなわち、ノック操作によって延伸カム230を前進させると、回転カム部233と回転カム受け部221とが協働して延伸カム230を回転させ、延伸カム230の前進及び回転に伴い押出カム部235と押出カム受け部242とが協働してノックカム240を前進させる。その結果、延伸カム230の前進量よりもリフィル6の前進量を増加させることができる。
【0058】
図26は、第4実施形態による筆記具の延伸カム330の斜視図である。第4実施形態による筆記具は、第3実施形態による筆記具200と比較して、延伸カム330の形状においてのみ異なる。具体的には、延伸カム330は、筆記具200の延伸カム230と比較して、回転カム部333及び回転支持部338の形状において異なる。したがって、その他の筆記具の構成について説明は省略する。
【0059】
延伸カム330は、円筒状のカム本体331と、カム本体331よりも大径の大径部332とを有している。大径部332の前端面には、回転カム部333が形成されている。回転カム部333は、周方向に沿って湾曲する2つの凸曲面334を有している。2つの凸曲面334は、延伸カム330の中心軸線に対して対称的に配置されている。回転カム部333は、第1カム部を構成する。
【0060】
カム本体331の前方には、押出カム部335が形成されている。押出カム部335は、周方向に沿って傾斜する2つの第2斜面336と、第2斜面336の頂点に設けられた平坦部337とを有している。2つの第2斜面336は、同一方向に傾斜し、延伸カム330の中心軸線に対して対称的に配置されている。押出カム部335は、第2カム部を構成する。回転カム部333は押出カム部335よりも径方向外方に配置されていることから、回転カム部333及び押出カム部335は、径方向において隣接する二重のカム面を構成する。回転カム部333は、押出カム部335よりも前方に配置されている。
【0061】
上述した実施形態の延伸カムでは、回転カム受け部と協働する回転カム部が周方向に沿って傾斜する第1斜面を有しているが、本実施形態では、回転カム部333は、斜面に代えて凸曲面334を有している。
図10を参照しながら説明したように、回転カム部は、回転カム受け部と協働して摺動するように構成されていればよい。凸曲面334は、斜面と同様に、回転カム受け部の第4斜面に対して摺動することができる。すなわち、ノック操作によって延伸カム330を前進させると、回転カム部333と回転カム受け部221とが協働して延伸カム330を回転させ、延伸カム330の前進及び回転に伴い押出カム部335と押出カム受け部242とが協働してノックカム240を前進させる。その結果、延伸カム330の前進量よりもリフィル6の前進量を増加させることができる。
【0062】
延伸カム330の回転支持部338は、円柱状に形成されている。したがって、ノックボタン208の後端面の内面に対して回転支持部338の円形の後端面が当接しながら延伸カム330は回転する。
【0063】
図27(A)及び
図27(B)は、それぞれ、第5実施形態による筆記具400の非筆記状態の正面図及び側面図であり、
図28(A)は、
図27(B)のB-B線に沿った筆記具400の断面図であり、
図28(B)は、
図27(A)のA-A線に沿った筆記具400の断面図である。また、
図29は、
図28(B)に対応する筆記具400の筆記状態の縦断面図である。さらに、
図30(A)は、
図28(B)のC-C線に沿った筆記具400の断面図であり、
図30(B)は、
図28(B)のD-D線に沿った筆記具400の断面図であり、
図30(C)は、
図28(B)のE-E線に沿った筆記具400の断面図である。
図31は、
図27の筆記具400の延伸機構410の斜視図である。筆記具400は、多芯式筆記具である。
【0064】
筆記具400は、軸筒402と、軸筒402内に配置された第1リフィル403及び第2リフィル404a、404bと、軸筒402から後方に突出するように第1リフィル403の後端に配置された第1ノック部材405と、軸筒402から径方向外方に突出するように第2リフィル404a、404bの後端に配置された第2ノック部材460a、460bと、クリップ490とを有している。
【0065】
軸筒402は、前軸407と、前軸407よりも後方に配置された後軸480と、後軸480に固定された内筒470とを有している。前軸407と後軸480とは圧入、接着又は螺合によって連結される。例えば、前軸407と後軸480とは、後軸480の前側の内周面に形成された雌ネジが前軸407の後側の外周面に形成された雄ネジと螺合することによって連結される。クリップ490は、板ばね491とクリップ本体496とを有している。
【0066】
本実施形態では、第1リフィル403は1つのボールペンのリフィルであり、第2リフィル404a、404bは2つのボールペンのリフィルである。第1リフィル403と第2リフィル404a、404bとは軸筒402の内周面に沿って所定の間隔で配置される。本実施形態では、隣接するリフィル間の周方向の間隔は略等しい。
【0067】
第1ノック部材405は、第1リフィル403を軸筒402の前端から選択的に突出させるように構成される。第2ノック部材460a、460bは、第2ノック機構として、第2リフィル404a、404bを有し、第2リフィル404a、404bを軸筒402の前端から選択的に突出させるように構成される。具体的には、第1ノック部材405をノック操作すると、第1リフィル403が突出し、第2ノック部材460a、460bをノック操作すると、第2リフィル404a、404bが突出する。第1リフィル403及び第2リフィル404a、404bのペン先は、軸筒402の内周面に沿って径方向内方に移動し、軸筒402の前端から突出する。それによって、3つのリフィルのうちの1つを選択的に使用して筆記を行うことができる。
【0068】
第1リフィル403の突出は、第1ノック部材405又は第2ノック部材460a、460bのノック操作によって解除される。第2リフィル404a、404bの突出は、第1ノック部材405又は突出していない第2リフィル404a、404bの第2ノック部材460a、460bのノック操作によって解除される。したがって、第1リフィル403及び第2リフィル404a、404bの突出を、任意の1つのノック部材をノック操作することによって解除できるので、筆記具400の操作性が大幅に改善される。なお、本明細書において、リフィルの突出が解除されるとは、軸筒402の前端から突出しているリフィルのペン先が軸筒402内に没入することを意味する。
【0069】
第1リフィル403は、第1インク収容管409及び筆記部である第1チップ411を有している。第2リフィル404a、404bは、第2インク収容管412及び筆記部である第2チップ414を有している。第1チップ411は、第1インク収容管409に連結される。第2チップ414は、第2インク収容管412に連結される。
【0070】
第1インク収容管409と2つの第2インク収容管412とには、典型的には、それぞれ異なる色のインクが収容される。第1ノック部材405を第2ノック部材460a、460bよりも後方に配置することで、第1インク収容管409の長さを第2インク収容管412よりも長くすることができる。その結果、第1インク収容管409のインク充填量を、第2インク収容管412の充填量よりも多くすることができる。このため、例えば、第1インク収容管409に、一般的に使用頻度が高い黒色のインクを収容することで、筆記具400の寿命を延ばし又はリフィルの交換頻度を少なくすることができる。また、同様の効果を得るために、第1インク収容管409のインク充填量が第2インク収容管412の充填量よりも多くなるように、第1インク収容管409の径方向の長さを第2インク収容管412よりも長くしてもよい。
【0071】
第1ノック部材405は、第1ノック機構として、第1リフィル403と、ノックボタン408と、延伸機構410とを有している。ノックボタン408を含めて延伸機構410と称してもよい。延伸機構410は、ノックボタン408を前方に押圧するノック操作によって第1リフィル403を軸筒402内で前後方向に移動させるノック機構である。延伸機構410は、外カム420を備えた内筒470と、筒状に形成された延伸カム430と、ノックカム440と、回転子450とを有する。軸筒402内において、ノックボタン408、延伸カム430、ノックカム440及び回転子450が、後端側から順に配置されている。ノックボタン408の前端部の外周面には、軸線方向に延びる2つの規制突起8aが、周方向に沿って等間隔に設けられている。
【0072】
ノックボタン408と延伸カム430との間にはスプリング416が配置され、ノックボタン408が後方に付勢されている。延伸カム430、ノックカム440及び回転子450は内筒470内において軸線方向に移動するように構成される。詳しくは後述するが、ノックカム440を介して回転子450を押圧して回転させることで、第1リフィル403を軸筒402の前端から出没させることができる。
【0073】
図32(A)乃至
図32(D)は、それぞれ、後軸480の正面図、側面図、
図32(B)のG-G線に沿った後軸480の断面図、及び、
図32(A)のF-F線に沿った後軸480の断面図である。後軸480の外周面には、第2ノック部材460a、460bが軸線方向に摺動できるように、2つの摺動孔481が形成される。摺動孔481は軸線方向に延在する。後軸480の内周面には、第1凸部482及び第2凸部485が形成される。
図30(A)及び
図30(B)並びに
図32(C)及び
図32(D)に示されるように、第1凸部482及び第2凸部485は径方向内方に突出し且つ軸線方向に延在する。第1凸部482の周方向における両側の側面には、軸線方向に延在する一対の第1摺動部486が設けられている。第1摺動部486の前端には、第1段部487が設けられている。後軸480の後端には、後述するノックカム440が後軸480から突出するための貫通孔483が形成される。また、後軸480の後端部には、係止部488が設けられている。後軸480の後端部には、クリップ490の板ばね491が挿入されるように長手方向に延びる圧入孔489が設けられている。
【0074】
図33(A)乃至
図33(C)は、それぞれ、内筒470の斜視図、縦断面図及び平面図である。内筒470は、第1ノック部材405を収容する収容部471と、後軸480の内周面と協働して第2ノック部材460a、460bを収容する収容部を画成する2つの隔壁472とを有する。収容部471及び隔壁472はそれぞれ前後方向に延在する。配置された第2ノック部材460a、460bに隣接する隔壁472の側面には、第2摺動部473が設けられている。第2摺動部473の前端には、第2段部474が設けられている。
【0075】
収容部471には、前後方向に延在する貫通孔475が形成されている。貫通孔475の内面には、前端部から後方に延びる2つのガイド溝477と、後端部から前方に延びる2つの規制溝478と、2つの外カム突起423とが形成されている。ガイド溝477は、後述するノックカム440の第2突起部444を収容する。また、ガイド溝477は、第1リフィル403の没入状態において、後述する回転子450の内カム突起454を収容する。規制溝478は、ノックボタン408の規制突起408aを収容する。内筒470は後軸480と一体であってもよい。
【0076】
外カム突起423の後端面には、回転カム受け部421が形成されている。回転カム受け部421は、周方向に沿って傾斜する2つの第4斜面424が形成されている。内筒470の前端面には、係止カム面422が形成されている。回転カム受け部421及び係止カム面422をまとめて外カム420と称してもよい。内筒470の後端部には、係止爪476が形成されている。内筒470は、後軸480内に挿入され、係止爪476が後軸480の係止部488と係止することによって固定される。回転カム受け部421は、第1カム受け部を構成する。
【0077】
図30(A)を参照すると、内筒470が後軸480に対して固定された状態で、内筒470の隔壁472の各々が、後軸480の対応する第2凸部485に当接する。第2ノック部材460a、460bは、後軸480及び内筒470によって画成された空間に収容され、対応する第1摺動部486及び第2摺動部473に沿って前後に摺動する。第2リフィル404a、404bが軸筒402から突出するとき、第1段部487及び第2段部474と第2ノック部材460a、460bの後端とが係合し、筆記状態が維持される。言い換えると、第2ノック部材460a、460bが、前後に摺動して係合できるように、対応する第1摺動部486及び第2摺動部473、並びに、第1段部487及び第2段部474は、同一又は対応する形状とされている。
【0078】
図34(A)及び
図34(B)は、それぞれ、
図27の筆記具400の延伸カム430の斜視図及び底面図である。延伸カム430は、円筒状のカム本体431を有している。カム本体431の前端部において、径方向の厚み、すなわち肉厚を等分した外側の部分には、回転カム部433が形成されている。回転カム部433は、周方向に沿って傾斜する2つの第1斜面434を有している。2つの第1斜面434は、同一方向に傾斜し、延伸カム430の中心軸線に対して対称的に配置されている。回転カム部433は、第1カム部を構成する。
【0079】
カム本体431の前端部において、径方向の厚みを等分した内側の部分には、押出カム部435が形成されている。押出カム部435は、周方向に沿って第1斜面434と逆方向に傾斜する2つの第2斜面436を有している。2つの第2斜面436は、同一方向に傾斜し、延伸カム430の中心軸線に対して対称的に配置されている。押出カム部435は、第2カム部を構成する。筆記具400において、第2斜面436のピッチは、第1斜面434のピッチと同一である。
【0080】
図35(A)及び
図35(B)は、それぞれ、
図27の筆記具400のノックカム440の斜視図及び縦断面図である。ノックカム440は略円柱形状を有する。ノックカム440の前側の外周面には、軸線方向に延びる2つの第1突起部441が、周方向に沿って等間隔に設けられている。2つの第1突起部441の後端面には、押出カム受け部442が形成されている。押出カム受け部442は、周方向に沿って傾斜する第3斜面443を有している。第3斜面443は、延伸カム430の第2斜面436と同一方向に傾斜し、第2斜面436と協働するように構成されている。第1突起部441の前方には、軸線方向に延びる3つの第2突起部444が形成されている。3つの第2突起部444は、周方向に沿って等間隔に設けられている。ノックカム440の前端面には、複数の山部及び谷部の繰り返しからなるカム面445が形成されている。押出カム受け部442は、第2カム受け部を構成する。
【0081】
第2突起部444は、ノックカム440が軸線方向に移動するとき、内筒470のガイド溝477内を軸線方向に摺動するように構成される。すなわち、ノックカム440及び内筒470は、ノックカム440の周方向の回転を規制するように構成される。ノックカム440の内部には、後述する回転子450の小径部451を収容するための収容空間446が形成される。
【0082】
図36は、
図27の筆記具400の回転子450の斜視図である。回転子450の後端部には、ノックカム440内に挿入されて芯合わせに使用される小径部451が形成されている。小径部451の前方の大径部452には、突起状の内カム453が形成されている。内カム453は、軸線方向に延びる3つの内カム突起454を有している。3つの内カム突起454は、周方向に沿って等間隔に設けられている。内カム突起454の後端面には、周方向に傾斜した斜面としてカム受け面455が設けられている。カム受け面455は、ノックカム440のカム面445の一部と同一方向及び同一角度に傾斜し、カム面445と協働するように構成されている。
【0083】
内カム突起454が設けられたカム受け面455の部分は、後述する第2ノック部材460a、460bのカム面466と協働する。回転子450の前端部には挿入部456が設けられている。挿入部456には、第1インク収容管409の後端部が圧入される。それによって、第1インク収容管409は回転子450に固定される。
【0084】
カム受け面455は、ノックカム440が前進するとき、カム面445から軸線方向及び周方向の力を受けるように構成される。このため、ノックカム440の前進によってカム面445がカム受け面455を押圧すると、回転子450は周方向の力によって周方向に回転する。一方、ノックカム440は、第2突起部444が内筒470のガイド溝477に収容されているので、周方向の回転が規制される。
【0085】
内カム突起454は、内筒470のガイド溝477内に収容されているとき、ノックカム440の前進によって回転子450が周方向に回転すると、3つの内カム突起454のうちの1つが内筒470の係止カム面422と軸線方向に係合する。また、内カム突起454は、係止カム面422と軸線方向に係合しているとき、ノックカム440の前進によって回転子450が周方向に回転すると、係止カム面422との係合が解除され、その後、係止カム面422からさらなる周方向の力を受けてガイド溝477内に収容される。すなわち、内筒470及び回転子450は、回転子450がノックカム440の前進によって周方向に回転すると、軸線方向に互いに係合し又はその係合が解除されるように構成される。
【0086】
図37(A)乃至
図37(C)は、それぞれ、一方の第2ノック部材460aの斜視図、側面図及び底面図である。なお、第2ノック部材460bは、第2ノック部材460aの鏡像対称に形成されている。第2ノック部材460aは細長の形状を有する。第2ノック部材460aは、前後方向に延在する本体部461と、本体部461の前方に形成された嵌合部462と、本体部461の後部に形成された操作部463とを有する。嵌合部462は第2インク収容管412と嵌合する。それによって、第2インク収容管412は第2ノック部材460aに固定される。本体部461には、後述する第2スプリング418が当接する付勢面464が形成される。
図27に示されるように、操作部463は、筆記具400の組立状態において軸筒402から径方向外方に突出するので、指で操作することができる。
【0087】
本体部461の一方の側部にはカム部465が形成される。カム部465の前端には、回転子450のカム受け面455と協働するカム面466が形成される。カム面466及びカム受け面455は、第2ノック部材460aが前進するとき、カム受け面455がカム面466から軸線方向及び周方向の力を受けるように構成される。このため、第2ノック部材460a、460bの前進によってカム面466がカム受け面455を押圧すると、回転子450は周方向の力によって周方向に回転する。一方、第2ノック部材460a、460bは、操作部463が後軸480の摺動孔481の側壁に当接するので、周方向の回転が規制される。
【0088】
本体部461の底面には、押圧突起467と、接触突起468とが形成される。押圧突起467は接触突起468よりも前方に位置する。押圧突起467及び接触突起468は、筆記具400の組立状態において、軸筒402の径方向内方に突出し且つ軸線方向に延在する。接触突起468は、第2ノック部材460aの突出を第1ノック部材405のノック操作によって解除するときに回転子450の内カム突起454によって押圧される。内カム突起454及び接触突起468は、接触時に互いに軸線方向及び径方向の力を受けるように構成される。また、接触突起468は、突出していない第2リフィル404bの第2ノック部材460bのノック操作によって第2リフィル404aの突出を解除するときに、突出していない第2リフィル404bの第2ノック部材460bの押圧突起467によって押圧される。接触突起468及び押圧突起467は、接触時に互いに軸線方向及び径方向の力を受けるように構成される。
【0089】
図28に示されるように、筆記具400は、さらに、第1スプリング417と、第2スプリング418と、第1スプリング417及び第2スプリング418を支持するスペーサ419とを備える。
【0090】
図38は、
図27の筆記具400のスペーサ419の斜視図である。スペーサ419は、スペーサ419aと、円柱部から後方に延在する突起状の複数のスプリングガイド419bとを有する。スペーサ419aは円柱形状を有し、スペーサ419aには3つの貫通孔が形成される。第1貫通孔419cと2つの第2貫通孔419dとはスペーサ419aの内周面に沿って所定の間隔で配置される。本実施形態では、隣接する貫通孔間の周方向の間隔は略等しい。第1インク収容管409は、第1貫通孔419cを通って延在し、回転子450に固定される。第2インク収容管412は、第2貫通孔419dを通って延在し、第2ノック部材460a、460bに固定される。第1貫通孔419cの面積は第2貫通孔419dの面積よりも大きい。それによって、第1インク収容管409の太さを第2インク収容管412よりも太くすることができ、ひいては第1インク収容管409のインク充填量を第2インク収容管412の充填量よりも多くすることができる。
【0091】
第1スプリング417は、スペーサ419aの後面と回転子450の前端との間に第1インク収容管409を周方向に囲むように配置され、回転子450ひいては第1リフィル403を後方に付勢する。第2スプリング418は、スペーサ419aの後面と第2ノック部材460a、460bの付勢面464との間に第2インク収容管412を周方向に囲むように配置され、第2ノック部材460a、460bひいては第2リフィル404a、404bを後方に付勢する。
【0092】
以下、第1リフィル403及び第2リフィル404a、404bが軸筒402の前端から突出する原理と、第1リフィル403及び第2リフィル404a、404bの突出が第1ノック部材405又は第2ノック部材460a、460bによって解除される原理とについて説明する。
【0093】
最初に第1リフィル403が軸筒402の前端から突出する原理について説明する。
【0094】
没入状態では、回転子450の内カム突起454は内筒470のガイド溝477内に収容される。この状態から第1スプリング417の付勢力に抗してノックボタン408を前方に押圧するノック操作を行う。ノック操作によるノックボタン408の前進によって、延伸カム430を前進させる。延伸カム430を前進させると、延伸カム430の回転カム部433と外カム420の回転カム受け部421とが協働し、内筒470、ひいては後軸480に対して延伸カム430を中心軸線回りに回転させる。すなわち、
図10を参照しながら上述した原理に基づき、第1斜面434が第4斜面424に沿って摺動して、延伸カム430の前進及び回転が同時に行われる。他方、延伸カム430の前進及び回転に伴い、延伸カム430の押出カム部435とノックカム440の押出カム受け部442とが協働し、ノックカム440を前進させる。すなわち、第3斜面443が第2斜面436に沿って相対的に摺動して、ノックカム440の前進が行われる。なお、ノックカム440は、第2突起部444が内筒470のガイド溝477内に配置されていることによって、中心軸線回りの回転が規制されている。また、ノックカム440の前進に伴い、回転子450、ひいては第1リフィル403が第1スプリング417の付勢力に抗して押圧されて一体的に前進する。
【0095】
要するに、延伸カム430の回転カム部433と外カム420の回転カム受け部421との協働によって、延伸カム430に回転方向の運動を生じさせる。延伸カム430の回転によって、延伸カム430の押出カム部435とノックカム440の押出カム受け部442とが協働し、延伸カム430の前進量と比較して、ノックカム440の前進量を増加させる。
【0096】
このとき、ノックカム440及び回転子450はカム面445及びカム受け面455を介して互いに軸線方向及び周方向の力を受ける。その後、内カム突起454の後端が係止カム面422の前端を越えると、回転子450の周方向の回転の規制が解除されるので、回転子450は周方向の力によって周方向に回転する。一方、ノックカム440は、第2突起部444がガイド溝477内に収容されることによって周方向の回転が規制されるので、周方向に回転しない。
【0097】
この状態でノックボタン408の押圧を解除すると、延伸カム430、ノックカム440及び回転子450は第1スプリング417の付勢力によって後退する。このとき、周方向に回転した回転子450の内カム突起454のうちの1つは内筒470の係止カム面422と軸線方向に係合する。この係合によって回転子450の後退が妨げられるので、回転子450に固定された第1リフィル403は、軸筒402の前端からの突出状態が維持される。
【0098】
以下、第1リフィル403の突出が第1ノック部材405によって解除される原理について説明する。
【0099】
突出状態では、回転子450の内カム突起454は内筒470の係止カム面422と軸線方向に係合する。この状態から第1スプリング417の付勢力に抗してノックボタン408及び延伸カム430を介してノックカム440を前進させると、ノックカム440のカム面445が回転子450のカム受け面455を押圧し、回転子450がノックカム440と共に前進する。このとき、ノックカム440及び回転子450はカム面445及びカム受け面455を介して互いに軸線方向及び周方向の力を受ける。その後、内カム突起454の後端が係止カム面422の前端を越えると、回転子450の周方向の回転の規制が解除されるので、回転子450は周方向の力によって周方向に回転する。一方、ノックカム440は、第2突起部444が係止カム面422に当接することによって周方向の回転が規制されるので、周方向に回転しない。
【0100】
この状態でノックボタン408の押圧を解除すると、延伸カム430、ノックカム440及び回転子450は第1スプリング417の付勢力によって後退し、周方向に回転した内カム突起454はガイド溝477内に収容される。このとき、回転子450に固定された第1リフィル403も共に後退するので、第1リフィル403の突出が解除される。
【0101】
以下、第1リフィル403の突出が第2ノック部材460a、460bによって解除される原理について説明する。
【0102】
突出状態では、回転子450の内カム突起454は内筒470の係止カム面422と軸線方向に係合する。このとき、第2ノック部材460a、460bのカム部465は回転子450の内カム突起454よりも後方に位置し、カム部465の周方向位置は内カム突起454の1つと等しい。
【0103】
この状態から第2スプリング418の付勢力に抗して第2ノック部材460a、460bを前進させると、第2ノック部材460a、460bのカム面466が回転子450のカム受け面455に当接し、回転子450が第2ノック部材460a、460bと共に前進する。このとき、第2ノック部材460a、460b及び回転子450はカム面466及びカム受け面455を介して互いに軸線方向及び周方向の力を受ける。その後、内カム突起454の後端が係止カム面422の前端を越えると、回転子450の周方向の回転の規制が解除されるので、回転子450は周方向の力によって周方向に回転する。一方、第2ノック部材460a、460bは、操作部463が後軸480の摺動孔481の側壁に当接することによって周方向の回転が規制されるので、周方向に回転しない。周方向に回転した内カム突起454は第1スプリング417の付勢力によってガイド溝477内に収容される。このとき、延伸カム430、回転子450及びノックカム440が後退するので、回転子450に固定された第1リフィル403も共に後退し、第1リフィル403の突出が解除される。
【0104】
以下、第2リフィル404a、404bが軸筒402の前端から突出する原理について説明する。
【0105】
没入状態から第2スプリング418の付勢力に抗して第2ノック部材460a、460bを前進させる。その後、第2ノック部材460a、460bの後端が内筒470の第2摺動部473の第2段部474を越えると、第2ノック部材460a、460bの操作部463は径方向内方に向かって落ち込む。
【0106】
この状態で第2ノック部材460a、460bを離すと、第2スプリング418の付勢力によって第2ノック部材460a、460bの後端は第2段部474と軸線方向に係合する。この係合によって第2ノック部材460a、460bの後退が妨げられるので、第2ノック部材460a、460bに固定された第2リフィル404a、404bは軸筒402の前端からの突出状態が維持される。
【0107】
以下、第2リフィル404bの突出が第1ノック部材405によって解除される原理について説明する。なお、第2リフィル404aの突出が第1ノック部材405によって解除される原理も同様である。
【0108】
突出状態では、第2ノック部材460bは内筒470と軸線方向に係合する。このとき、回転子450の内カム突起454は第2ノック部材460bの接触突起468よりも後方に位置し。また、内カム突起454及び接触突起468は周方向において部分的に重なる。
【0109】
この状態から第1スプリング417の付勢力に抗してノックボタン408及び延伸カム430を介してノックカム440を前進させると、ノックカム440のカム面445が回転子450のカム受け面455に当接し、回転子450がノックカム440と共に前進する。その後、回転子450の内カム突起454が第2ノック部材460bの接触突起468に接触すると、接触突起468が内カム突起454から径方向外方の力を受けるので、第2ノック部材460bと内筒470との係合が解除される。その後、第2ノック部材460bが第2スプリング418の付勢力によって後退するので、第2ノック部材460bに固定された第2リフィル404bも共に後退し、第2リフィル404bの突出が解除される。
【0110】
以下、第2リフィル404bの突出が第2ノック部材460aによって解除される原理について説明する。なお、第2リフィル404aの突出が第2ノック部材460bによって解除される原理も同様である。
【0111】
突出状態では、第2ノック部材460bは内筒470と軸線方向に係合する。このとき、突出していない第2リフィル404aの第2ノック部材460aの押圧突起467は、第2ノック部材460bの接触突起468よりも後方に位置する。また、第2ノック部材460aの押圧突起467及び第2ノック部材460bの接触突起468は周方向において部分的に重なる。
【0112】
この状態から第2スプリング418の付勢力に抗して、第2リフィル404aの第2ノック部材460aを前進させると、第2ノック部材460aの押圧突起467が、第2ノック部材460bの接触突起468と接触する。このとき、第2ノック部材460bの接触突起468が第2ノック部材460aの押圧突起467から径方向外方の力を受けるので、第2ノック部材460bと内筒470との係合が解除される。その後、第2ノック部材460bが第2スプリング418の付勢力によって後退するので、第2ノック部材460bに固定された第2リフィル404bも共に後退し、第2リフィル404bの突出が解除される。
【0113】
筆記具400は延伸機構410を有していることから、
図10を参照しながら上述した原理に基づき、ノック操作によるノック量よりも第1リフィル403の前進量を増加させることができる。すなわち、ノック操作によって延伸カム430を前進させると、回転カム部433と回転カム受け部421とが協働して延伸カム430を回転させ、延伸カム430の前進及び回転に伴い押出カム部435と押出カム受け部442とが協働してノックカム440を前進させる。その結果、延伸カム430の前進量よりも第1リフィル403の前進量を増加させることができる。
【0114】
筆記具400は、第2筆記体として2つの第2リフィル404a、404bを有していたが、1つ又は3つ以上の第2リフィルを有していてもよい。要するに、多芯式筆記具として、軸筒内に配置された第1筆記体及び少なくとも1つの第2筆記体と、第1筆記体と延伸機構とを備え、ノック操作によって延伸機構を介して第1筆記体を軸筒の前端から選択的に突出させるように構成された第1ノック機構と、第2筆記体を備え、ノック操作によって第2筆記体を軸筒の前端から選択的に突出させるように構成された第2ノック機構と、を具備し、延伸機構は、第1筆記体の前進量がノック操作によるノック量よりも大きくなるように、第1筆記体を前進させるように構成されていてもよい。
【0115】
上述したすべての実施形態によれば、より少ないノック量でノック操作が可能で、よりコンパクトなノック機構を実現することができる。特に、上述した延伸機構は、第1カム部が第2カム部よりも径方向外方に配置されているか、又は、第1カム部及び第2カム部が同一円周上に配置されている。そのため例えば、延伸カムの前後方向における両端部に第1カム部及び第2カム部が配置されているような構成に比べ、延伸カム、ひいては延伸機構の全体の長さを短くすることができる。したがって、リフィルの長さをより長くすることができるか、筆記具をよりコンパクトにすることができる。さらに、例えばノック操作部が軸筒の後端部から後方に突出する場合、突出量を低減させることができる。
【0116】
第4実施形態による筆記具の延伸カム330における回転カム部333の凸曲面334を除き、他の実施形態では、延伸カムにおける回転カム部の第1斜面と外カムにおける回転カム受け部の第4斜面とが協働し、延伸カムにおける押出カム部の第2斜面とノックカムにおける押出カム受け部の第3斜面とが協働するように構成されている。ここで、斜面とは、周方向に沿って傾斜していればよく、厳密な意味での斜面でなくてもよい。したがって、斜面は、曲面、すなわち凸曲面及び凹曲面を含む。
【0117】
第1カム部である回転カム部の第1斜面と第1カム受け部である回転カム受け部の第4斜面とは、互いに少なくとも一部と相補的な斜面を有する。第2カム部である押出カム部の第2斜面と第2カム受け部である押出カム受け部の第3斜面とは、互いに少なくとも一部と相補的な斜面を有する。
【0118】
回転カム受け部は、第4斜面に代えて、回転カム部の第1斜面に沿って摺動可能な第1作用部を有していてもよい。他方、回転カム部は、第1斜面に代えて、回転カム受け部の第4斜面に沿って摺動可能な第1作用部を有していてもよい。要するに、回転カム部及び回転カム受け部において、一方が周方向に沿って傾斜する第1斜面を有し、他方が第1斜面に沿って摺動可能な第1作用部を有していてもよい。同様に、押出カム受け部は、第3斜面に代えて、押出カム部の第2斜面に沿って摺動可能な第2作用部を有していてもよい。他方、押出カム部は、第2斜面に代えて、押出カム受け部の第3斜面に沿って摺動可能な第2作用部を有していてもよい。要するに、押出カム部及び押出カム受け部において、一方が周方向に沿って傾斜する第2斜面を有し、他方が第2斜面に沿って摺動可能な第2作用部を有していてもよい。
【0119】
第1作用部及び第2作用部は、上述した回転カム部333の凸曲面334のような凸曲面であってもよい。対応する第1斜面又は第2斜面に沿って摺動可能な限りにおいて任意に構成してもよい。第2斜面のピッチが、第1斜面のピッチと同一、又は、第1斜面のピッチよりも大きく設けられていてもよい。第2斜面のピッチを第1斜面のピッチよりも大きく設けることによって、より少ないノック量でノック操作が可能となる。第1斜面及び対応する第1作用部、並びに、第2斜面及び対応する第2作用部は、上述した実施形態のようにそれぞれ2つ設けられていてもよく、1つ又は3つ以上であってもよい。第1斜面及び対応する第1作用部、並びに、第2斜面及び対応する第2作用部が2つ以上設けられている場合には、それぞれが周方向に沿って等間隔に設けられていること、すなわち筆記具又は軸筒の中心軸線回りに対称的に配置されていることが好ましい。第1斜面及び対応する第1作用部、並びに、第2斜面及び対応する第2作用部が2つ以上設けられていると、1つの場合に比べて延伸カムの回転が安定するため好ましい。
【0120】
要するに、上述した実施形態によれば、軸筒と、軸筒内に前後動可能且つ中心軸線回りに回転可能に配置され、前方に面した第1カム部及び第2カム部を有する延伸カムと、軸筒の内周面に設けられ、後方に面した第1カム受け部と、軸筒内に前後動可能に延伸カムの前方に配置され、後方に面した第2カム受け部を有するノックカムと、ノックカムの前進に伴い前進する筆記体と、を具備し、ノック操作によって筆記状態と非筆記状態とが切り替え可能なノック式筆記具であって、第1カム部及び第1カム受け部において、一方が周方向に沿って傾斜する第1斜面を有し、他方が第1斜面に沿って摺動可能な第1作用部を有し、第2カム部及び第2カム受け部において、一方が周方向に沿って第1斜面と逆方向に傾斜する第2斜面を有し、他方が第2斜面に沿って摺動可能な第2作用部を有し、ノック操作によって延伸カムを前進させると、第1カム部と第1カム受け部とが協働して延伸カムを回転させ、延伸カムの前進及び回転に伴い第2カム部と第2カム受け部とが協働してノックカムを前進させて、延伸カムの前進量よりも筆記体の前進量が大きくなるように構成されていることを特徴とするノック式筆記具が提供される。
【0121】
上述した実施形態において、筆記具の後端に設けられたノックボタンを当該筆記具による筆跡を消去する消去部材として構成してもよい。上述した筆記具における筆記体であるリフィルは、熱変色性インクを収容してもよい。この場合、当該筆記具は熱変色性筆記具であり、消去部材である摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆記具の筆跡を熱変色可能である。なお、筆記体として、熱変色インクを収容したボールペン、熱変色芯を収容したシャープペンシル、鉛筆ホルダ等を使用することもできる。また、消しゴムで消去可能な消しゴム消去式インクを収容した筆記具としてもよい。
【0122】
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去部としての摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
【0123】
図39は、
図27の筆記具400のクリップ490の斜視図である。クリップ490は、板ばね491とクリップ本体496とを有している。
【0124】
図40は、クリップ490の板ばね491の斜視図であり、
図41は、クリップ490の板ばね491の側面図である。
図42は、クリップ490のクリップ本体496の縦断面図である。
【0125】
図40及び
図41を参照すると、板ばね491は、前方に向けて開口する略U字状に形成された板ばねである。板ばね491は、板状の各種弾性材料で形成することができるが、金属材料、特にステンレス鋼材で形成することが好ましい。板ばね491は、軸筒402側、具体的には後軸480の圧入孔489に取り付けられる第1端部492と、クリップ本体496に取り付けられる第2端部493と、第1端部492及び第2端部493を接続する凸状の湾曲部494とからなる。第1端部492の両側面には、鋸刃状の鋸刃突起492aが形成され、第2端部493の両側面には、鋸刃状の鋸刃突起493aが形成されている。
【0126】
図41を参照すると、湾曲部494は、板ばねを構成する板状部材を略同一の曲率半径となるように湾曲させることで構成される。湾曲部494は、中心角が180度以上の円弧状に形成されている。一方、第1端部492は、第2端部493と同一方向且つ略平行に延びている。第2端部493の延長線は、湾曲部494との接続部分における接線と略等しい。他方、第1端部492に接続された湾曲部494の部分は、外方に突出する凸状の湾曲部494の部分との関係で変曲点を有している。言い換えると、中心角が180度以上の円弧状に形成された湾曲部494は、第1端部492側において内方に突出する凹状の変曲部495を有している。第2端部493の延長線と湾曲部494との接点から180度の位置、すなわち接点とは反対側には、凸状の近接点494aが設けられている。湾曲部494の近接点494aは、第1端部492の外側の表面の延長線から最も離間した点であり、距離Lだけ離間している。
【0127】
図42を参照すると、筆記具400にクリップ490が取り付けられた状態におけるクリップ本体496の前端部には、クリップ490に物品が把持されたときの抜け止めの機能を果たす凸状の玉部496aが形成されている。クリップ本体496には、板ばね491が挿入されるように長手方向の延びる取付孔497が形成されている。クリップ本体496の取付孔497の前端部には、受容孔496bが形成されている。受容孔496bの内面には、嵌合突起496cが形成されている。なお、後軸480の圧入孔489の内面にも図示しない同様の嵌合突起が形成されている。クリップ本体496の後端部には、取付孔497によって画成された壁状の当接部498が設けられている。当接部498は、筆記具400にクリップ490が取り付けられた状態において、軸筒402に対向して配置されるように構成されている。
【0128】
クリップ490の組み立ては、板ばね491が、クリップ本体496の取付孔497に挿入されることによって行われる。具体的には、板ばね491の第2端部493がクリップ本体496の受容孔496b内に挿入される。このとき、第2端部493の両側面の鋸刃突起493aの緩い方の斜面が嵌合突起496cと当接し、鋸刃突起493aが、受容孔496b内で嵌合突起496cを乗り越えながら進行する。したがって、板ばね491をクリップ本体496に対して挿入する方向の抵抗は少ない。他方、板ばね491をクリップ本体496から引き抜く方向に対しては、鋸刃突起493aの急な方の斜面が嵌合突起496cと当接し、鋸刃突起493aが、嵌合突起496cと強く係止する。したがって、板ばね491を引き抜く方向の抵抗が大きく、クリップ本体496を破壊しない限り板ばね491を取り外せないように構成されている。
【0129】
板ばね491の第1端部492は、後軸480の圧入孔489内に挿入される。このとき、第1端部492の両側面の鋸刃突起492aの緩い方の斜面が嵌合突起と当接し、鋸刃突起492aが、圧入孔489内で嵌合突起を乗り越えながら進行する。したがって、板ばね491を後軸480に対して挿入する方向の抵抗は少ない。他方、板ばね491を後軸480から引き抜く方向に対しては、鋸刃突起492aの急な方の斜面が嵌合突起と当接し、鋸刃突起492aが、嵌合突起と強く係止する。したがって、板ばね491を引き抜く方向の抵抗が大きく、後軸480を破壊しない限り板ばね491を取り外せないように構成されている。要するに、第1端部492の鋸刃突起492a及び圧入孔489の嵌合突起と、第2端部493の鋸刃突起493a及び受容孔496bの嵌合突起496cとは、挿入方向の進行を許容し、引き抜き方向の進行を許容しないように構成されている。
【0130】
図43(A)は、クリップ490が閉じた状態、すなわち物品を挟持していない状態の
図27の筆記具400の後部の縦断面図であり、
図43(B)は、クリップ490が開いた状態の
図27の筆記具400の後部の縦断面図である。
図43(A)を参照すると、クリップ490は軸筒402に対して取り付けられている。具体的には、上述したように、板ばね491の第1端部492が、後軸480の圧入孔489内に挿入されている。この状態で、板ばね491において、軸筒402の中心軸線に対して最も近い点が、上述した湾曲部494における近接点494aである。近接点494aは、第1端部492の延長線から最も離間した点であり、言い換えると、後軸480の圧入孔489の延長線から最も離間した点である。
【0131】
図43(B)を参照すると、クリップ490は、物品を把持するために前端部が持ち上げられると、変曲部495又は変曲部495近傍を中心として回転する。言い換えると、クリップ490が変曲部495又は変曲部495近傍を中心として開くように、板ばね491又はクリップ本体496が構成されている。そして、クリップ490は、所定の開度以上開かないように、板ばね491又は後軸480が構成されている。すなわち、クリップ490を所定の開度以上開こうとすると、図において符号Pで示されるように、クリップ本体496の当接部498が軸筒402、すなわち後軸480の側面に当接し、クリップ490の回転が規制される。それによって、板ばね491の破損又は塑性変形、及び、板ばね491の第1端部492による後軸480の圧入孔489の破損又は板ばね491の第2端部493によるクリップ本体496の受容孔496bの破損を防止することができる。
【0132】
図43(A)に示されるように、クリップ490の湾曲部494が凹状の変曲部495を有していることによって、湾曲部494の曲率半径に相当する直径から、距離Lだけクリップ490を軸筒402の中心軸線に対してより近接して配置させることができる。したがって、より広い弾性域を有するようにより大きな曲率半径を有する板ばね491を有するクリップ490を、取り付け高さを最小限に抑えるように軸筒402に対してより近接して、軸筒402に対して取り付けることができる。すなわち、クリップ490によれば、板ばね491を有するクリップ490であって、広い弾性域を確保しつつコンパクトな筆記具用のクリップ490及びクリップを備えた筆記具400を提供することができる。
【0133】
特に、筆記具400は、多芯式筆記具であることから、1つのリフィルのみを有する火器具と比べて軸筒の外径はより大きい。上述したクリップ490によれば、クリップ490を有する多芯式の筆記具400の全体をよりコンパクトにすることができる。また、軸筒402から後方に突出するように第1リフィル403の後端に配置された第1ノック部材405は、軸筒402の中心軸線に対して偏心して配置されている。具体的には、第1ノック部材405は、クリップ490から離間するように軸筒402の中心軸線に対して偏心して配置されている。それによって、第1ノック部材405に阻害されることなく、軸筒402の後端部においてクリップ490を開いたときの当接部498の移動及び当接のスペースを確保することができる。
【0134】
湾曲部494の外形は、同一の曲率半径で構成されていなくてもよく、直線及び/又は複数の曲率半径からなる曲線を組み合わせるように構成されていてもよい。また、湾曲部494における曲線には、板状の弾性材料を屈曲させた形状も含む。変曲部495は、数学的な意味での変曲点のみならず、略U字形状の板ばね491において内方に突出する凹状の形状すべてを含む。したがって、変曲部495は、曲線のみならず板状の弾性材料を屈曲させた形状も含む。
【符号の説明】
【0135】
1 筆記具
2 軸筒
3 前軸
4 後軸
5 天冠
6 リフィル
7 スプリング
8 ノックボタン
10 延伸機構
20 外カム
21 回転カム受け部
22 係止カム面
23 外カム突起
24 第4斜面
30 延伸カム
31 カム本体
32 大径部
33 回転カム部
34 第1斜面
35 押出カム部
36 第2斜面
40 ノックカム
41 第1突起部
42 押出カム受け部
43 第3斜面
44 第2突起部
45 カム面
50 回転子
51 小径部
52 大径部
53 内カム
54 内カム突起