(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028617
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】ビーム窓
(51)【国際特許分類】
G21F 7/03 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
G21F7/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134441
(22)【出願日】2021-08-19
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】591160512
【氏名又は名称】金属技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧村 俊助
(72)【発明者】
【氏名】亀井 直矢
(72)【発明者】
【氏名】深尾 祥紀
(72)【発明者】
【氏名】設楽 弘之
(57)【要約】
【課題】真空容器または圧力容器に取り付けられるビーム窓に関し、より詳しくは、安価で、ビームロスを少なくし、より高い圧力差に耐えられるビーム窓を提供する。
【解決手段】装置の受けフランジに取り付けられるビーム窓を、ビーム通過部を有する球殻部と、前記球殻部の端部と接続するとともに前記受けフランジに取り付けられるフランジ部からなる金属の一体物であることを特徴とするビーム窓、また前記金属の一体物が、金属の一体積層造形物であることを特徴とするビーム窓とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の受けフランジに取り付けられるビーム窓であって、
ビーム通過部を有する球殻部と、前記球殻部の端部と接続するとともに前記受けフランジに取り付けられるフランジ部からなる金属の一体物であることを特徴とするビーム窓。
【請求項2】
前記フランジ部に、切欠きを備えることを特徴とする請求項1に記載のビーム窓。
【請求項3】
装置の受けフランジに取り付けられるビーム窓であって、
ビーム通過部を有する球殻部と、前記球殻部の端部と接続するとともに、
外接する外フランジ体で前記受けフランジに取り付けられるフランジ部からなり、前記球殻部と前記フランジ部が金属の一体積層造形物であることを特徴とするビーム窓。
【請求項4】
前記フランジ部に接続する前記球殻部が、スペースをあけて二重に備えられ、前記スペースが冷却媒体の流路となることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のビーム窓。
【請求項5】
前記フランジ部内に、冷却媒体が流れることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のビーム窓。
【請求項6】
前記球殻部の端部と前記フランジ部とが接続する連結部が、前記ビーム通過部より厚いことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のビーム窓。
【請求項7】
前記金属の一体物を、金属の一体積層造形物としたことを特徴とする請求項1~請求項7の何れか1項に記載のビーム窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器または圧力容器に取り付けられるビーム窓に関し、より詳しくは、安価で、ビームロスを少なくし、より高い圧力差に耐えられるビーム窓に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
真空容器や圧力容器は周辺雰囲気と隔離されるが、一部分を低密度で薄くしたビーム窓が必要となることがある。例えば、医療用X線管におけるX線透過窓や、加速器科学における粒子透過窓などがあり、それらは真空と大気の差圧、または大気圧以上の雰囲気と大気圧の差圧の隔離などに利用される。
【0003】
粒子ビームがビーム窓を通過する際にはビームロスによって発生する熱や放射線に起因する問題やビーム輸送効率の低下が引き起こされる。そのため、ビーム窓の厚みと密度の積を極力、小さくすることが期待されている。ビーム窓によって消失する粒子が半分になれば、加速器を大強度化することと同じ効果が得られるためである。
【0004】
一方で、ビーム窓は真空と大気の差圧、場合によっては雰囲気ガスの大気圧以上の圧力差に耐えることが要求されている。
【0005】
そのため、密度が小さく・薄いと同時に、強度が高く・伸びが大きい材料によるビーム窓の実現が望まれている。
【0006】
従来のビーム窓としては、
(1)密度の高いSUSの薄板または厚いチタン合金板或いはベリリウム板を利用する板材方式(
図10)
(2)材料の加工性によって厚みが決定される一体構造からの削り出し方式
がある。
【0007】
先ず、板材方式では、SUS板では密度が高いが薄くすることができ、チタン合金(非特許文献1)では入手できる材料の厚みは0.6mm程度であるものの、板材からの変形の制限で厚み、形が制限され、応力集中から圧力差に制限がかかる。
【0008】
具体的には、
図10に示すように、従来の板材ビーム窓11は、平らな板材をフランジ部15に接合し、真空容器の受けフランジ16にシール部材16aを介在して取り付けて製造される。球殻部12の成形の際、ビーム通過部12aである中心の圧力によって球殻部12に発生する応力は、凹み12cが大きくなると低減される。
【0009】
また、板材厚が薄くなっても、板材が伸びて凹み12cが大きくなることが出来れば、応力は低減される。一方で、凹み12cが大きくなると、板材の縁は平らなフランジ部15に固定(接合部13)され変形が制限されるため、球殻部12の端部12bでの角度が急峻になり応力集中が発生し球殻部12は破損する。
【0010】
そのため、凹み12cを大きくすると同時に、球殻部12の端部12bの応力を低減することで薄いビーム窓を実現できる。なお、従来の板材ビーム窓11の製造の際には、板材の縁はフランジ部15へロウ付けや溶接によって接合(接合部13)するが、たわみなく接合することは製造の難易度も高く、費用も大きいものである。
【0011】
すなわち、従来の板材ビーム窓11では、フランジ部15に接合する窓材の元の板材形状、材質、加工性によって、その性能が制限されている。
【0012】
他方、板材の縁とフランジ部のシールには、フランジ部の種類によっては金属OリングやゴムOリングなどのガスケットを用い、ボルトとナットで共締めすることも可能である。ただし、金属Oリングでは技術的な難易度が高く、ゴムOリングでは、加熱によりガスが放出される脱ガスの問題があったり、使用できる温度が狭かったりする問題がある。
【0013】
他方、削り出す方式では、バルク材から一体構造として削り出す加工性から材料・厚みの制限もあり、製造費も高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平10-82900号公報
【特許文献2】特開2001-305281号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】牧村俊助・石田卓,”メガワット大強度陽子ビーム運転に向けた二次粒子生成標的・ビーム窓開発の現状と動向”, 高エネルギーニュース,Volume 36 Number 3 October/November/December 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、真空容器または圧力容器に取り付けられるビーム窓に関し、より詳しくは、安価で、ビームロスを少なくし、より高い圧力差に耐えられるビーム窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本願発明は、
(1)
装置の受けフランジに取り付けられるビーム窓であって、
ビーム通過部を有する球殻部と、前記球殻部の端部と接続するとともに前記受けフランジに取り付けられるフランジ部からなる金属の一体物であることを特徴とするビーム窓。
(2)
前記フランジ部に、切欠きを備えることを特徴とする(1)に記載のビーム窓。
(3)
装置の受けフランジに取り付けられるビーム窓であって、
ビーム通過部を有する球殻部と、前記球殻部の端部と接続するとともに、
外接する外フランジ体で前記受けフランジに取り付けられるフランジ部からなり、前記球殻部と前記フランジ部が金属の一体積層造形物であることを特徴とするビーム窓。
(4)
前記フランジ部に接続する前記球殻部が、スペースをあけて二重に備えられ、前記スペースが冷却媒体の流路となることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載のビーム窓。
(5)
前記フランジ部内に、冷却媒体が流れることを特徴とする(1)~(4)のいずれか1つに記載のビーム窓。
(6)
前記球殻部の端部と前記フランジ部とが接続する連結部が、前記ビーム通過部より厚いことを特徴とする(1)~(5)のいずれか1つに記載のビーム窓。
(7)
前記金属の一体物を、金属の一体積層造形物としたことを特徴とする(1)~(7)の何れか1つに記載のビーム窓。
とした。
【0018】
ここで、「フランジ部」とは、装置の受けフランジにボルトとナットなどで直接、連結、固定される所謂フランジのみならず、円筒形あるいは部材からはみ出すように出っ張りで、二つ部材間に挟持される部分も含む広義の概念である。
【0019】
なお、所謂フランジ同士の直接連結、フランジ部の挟持は、ネジ穴にネジを螺合する連結、ボルトとナットによる共締め、フランジ同士の螺合などが例示され、部材同士の間には、Oリングやメタルガスケットなどの必要なシール部材を使用する。「シール面」は、フランジ部側、受けフランジ側のいずれに設けてもよいが、フランジ部側であれば、研磨等の工程が追加になることもあるが、ビームが通過する球殻部の成形とともに成形することができるので、工程短縮の点で好ましい。
【0020】
球殻部とフランジ部の「一体物」は、切削加工によるものもあるが、積層造形が好適で、特許文献2などに開示されているチタンの積層造形法が例示できる。積層造形であれば、レーザーなどによって金属粉末を溶融させ、従来の加工法では実現できないような任意な形状物を製造できる。球殻部とフランジ部を「一体物」とすることで、球殻部とフランジ部を別々に準備して溶接するときのように、球殻部が割れることがない。
【0021】
金属材料の積層造形としては、粉末を敷いていくパウダーベッド、粉末をかけながら溶融したりワイヤを溶融させたりする積層造形、さらにプラズマ積層造形などがあり、本発明に採用できる。なお、積層造形後、必要であれば研磨を施す。
【0022】
積層造形物の金属材料としては、64チタン合金(Ti-6Al-4V)を始めとしたチタン合金、Al-10Si-Mgを始めとしたアルミ合金、SUS316Lやインコネル718などが採用できる。 一般的に積層造形が行われるのは64チタンであるが、ヤング率の小さなβチタン合金も積層造形ができ、ビーム窓としても適切である。
【0023】
積層造形の利点、特徴は、
(1)積層造形は、任意の形状を削らないで成形する手法であるので、複雑な形状を成形する場合には、切削加工法よりも工程を短縮することができ、歩留まりがよく製造できる。
(2)積層造形では、機械的な強度に影響しない部分を省くことによって材料を節約できる。
【0024】
本発明では、上記積層造形法の利点を生かし、「最適化した球殻部の形状をあらかじめ持ち」、「端部の厚みと角度を最適化し」、「フランジ部と一体物」としたビーム窓を提供するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、球殻部とフランジ部とを一体とすることで、従来の板材ビーム窓のように、真空フランジ部に溶接するときの歪みで、球殻部が割れることを防ぐことができる。また、ビーム通過部は薄くしておいて、球殻部の端部とフランジ部とが接続する連結部をビーム通過部より厚くすることで、応力の集中する端部での応力を低減することができ、機械的な強度が高まる。
【0026】
さらに、金属積層造形法を採用することで、加工の難しい金属材料を用い、薄く、任意の形状に、安価に製造することができる。それにより、ビームロスが少なくなるとともに、より高い圧力差に耐えられるビーム窓を提供することができる。すなわち、本発明は、従来の板材方式、一体構造からの削り出し方式より、例えばビーム窓内径が200mmの場合は10倍程度高い圧力差に耐えうるビーム窓となる。
【0027】
なお、特許文献1に開示の技術はベリリウムの板状のビーム窓で、特許文献2に開示の技術はチタン製の平面窓である。特許文献1,2には、ビームロスが少なくなるとともに、より高い圧力差に耐えられるビーム窓、例えばチタンなどを、積層造形でフランジと球殻部を一体形成し、さらに、ビーム通過部は薄くしておいて、応力の集中する端部を厚くすることで応力を低減した、ビーム窓について、開示も、示唆もない。また、本願のような薄い球殻部を、従来の板材ビーム窓のようにフランジ部に接続することはできない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明のビーム窓の第一の実施例で、
図1(A)は正面模式図、(B)は(A)A-A’矢視断面模式図、(C)は(B)の一点鎖線円部の拡大図模式である。
【
図2】
図2は、
図1のビーム窓を取り付ける真空容器などの取り付け先(受けフランジ)へボルトとナット(図示省略)で取り付けたときの
図1(B)と同位置における断面模式図である。
【
図3】
図3は、本発明のビーム窓の第二の実施例の正面模式図である。
【
図4】
図4(A)は
図3A-A’位断面模式図、
図4(B)は
図3B-B’位断面模式図である。格子部は、切欠き3dで、フランジ部3bの軽量化と安価を実現する。
【
図6】
図6は、本発明のビーム窓の第三の実施例で、
図3(A)は正面模式図、(B)は(A)A-A’矢視断面模式図である。
【
図7】
図7(A)は、
図6のビーム窓を取り付ける真空容器などの取り付け先(受けフランジ)へボルトとナット(図示省略)で取り付けたときの
図6(B)と同位置における断面模式図である。
図7(B)は(A)の分解断面模式図、(C)は(B)の一点鎖線円部の拡大模式図である。
【
図8】
図8は、本発明のビーム窓の第四の実施例で、
図8(A)は正面一部透過模式図、(B)は(A)A-A’矢視断面模式図である。
【
図9】
図9は、
図8のビーム窓を取り付ける真空容器などの取り付け先(受けフランジ)へボルトとナット(図示省略)で取り付けたときの
図8(B)と同位置における断面模式図である。
【
図10】
図10は、従来の板材ビーム窓の説明図で、フランジ部に板材を接合させてビーム窓を成形する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は下記形態例に限定されるものではない。
【実施例0030】
図1,2に示すように、本発明の第一の実施形態であるビーム窓1は、ビーム通過部2aaを有する球殻部2と、球殻部2の端部と接続するとともに、装置の受けフランジ4に取り付けられるフランジ部3からなる、金属の一体物である。
【0031】
装置としては、ビームを通す、真空容器、圧力容器、X線管、ビーム加速器など例示できる。受けフランジ4は、装置に備えられるフランジであるが、装置部分の図示は省略している(以下同じ。)。
【0032】
金属の一体物としては、特に200mmを超える大口径では積層造形物が好ましく、それより小さい小口径であれば切削加工でも成形可能である。いずれの成形であっても、球殻部2に厚み変化を付けて成形する、すなわち球殻部2の端部とフランジ部3とが接続する連結部2bをビーム通過部2aより厚くすることができる。
【0033】
球殻部2は、椀形状である。窓に発生する応力は窓の膨らみに反比例するので、球殻部2が椀形状になることによって、板形状の窓よりも発生する応力を低減できる。さらに、
図1(C)に示すように、フランジ部3と球殻部2の端部が接続する連結部2bが、ビーム通過部2aより厚いことで、一層機械的な強度が向上し、隔離間の高い圧力差に耐える。したがって、200mmを超える大口径のビーム窓であっても十分な強度を備え、さらに金属の一体積層造形物であれば簡易、低廉で製造可能である。
【0034】
なお、球殻部2は、
図2において、装置の受けフランジ4側に凹であるが、
図2においてビーム窓1を左右反転して受けフランジ4に取り付け、球殻部2が受けフランジ4を備える装置に対して凸であってもよい。
【0035】
フランジ部3は、両面が平坦で、等間隔にボルトを通す穴3aが穿設され、ボルトとナットで受けフランジ4に連結する。フランジ部3の受けフランジ4側がシール面で、受けフランジ4のシール面には環状のシール溝4aが穿設され、Oリングなどのシール部材4bが嵌められ、連結によりシールされ、必要な真空度を確保する。穴3aはネジ穴であってもよく、ネジでフランジ部3と受けフランジ4を連結してもよい。
なお、このようにフランジ部3b及び装置の受けフランジ4の両方にシール面を設けた場合にはメタルガスケットによってシールする。他方、Oリングでシールする場合には、フランジ部3bのシール溝3e又は受けフランジ4のシール溝4aのいずれか一方のシール溝(シール面)のみでよい。
切欠き3dは、受けフランジ4との連結強度を保持したうえで、単なる切り取り、凹み、その他ハニカム構造、スリット群などで、切欠き3dを備えることで、金属素材の使用量を減らし、製造コストを押さえることができる。特に、積層造形では、それら切り欠形状を容易に形成することができる。