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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028626
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】スリッパ
(51)【国際特許分類】
   A43B 3/10 20060101AFI20230224BHJP
   A43B 13/14 20060101ALI20230224BHJP
   A43B 13/42 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
A43B3/10 F
A43B13/14 B
A43B13/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134453
(22)【出願日】2021-08-19
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】506178520
【氏名又は名称】株式会社ホンシュ
(74)【代理人】
【識別番号】100110560
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 恵三
(74)【代理人】
【識別番号】100182604
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 二美
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 摂次
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA22
4F050BA29
4F050BF01
4F050HA58
(57)【要約】
【課題】足裏の凹凸にフィットして、抜けにくく、歩行時のローリングをサポートし歩行姿勢を良くするスリッパを提供すること。
【解決手段】足裏を支持すると共に足裏が接する面には土踏まずに対応する部分に隆起が設けられ、かかとが接する部分には窪みが設けられたソール部と、ソール部の前方に設けた足の甲を覆うアーチ状の空間を形成するアッパー部と、を有し、前記ソール部の中に、足裏の凹凸にあわせた凹凸を表面に設けた硬質素材からなる芯材を備えたことを特徴とするスリッパを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足裏を支持すると共に足裏が接する面には土踏まずに対応する部分に隆起が設けられ、かかとが接する部分には窪みが設けられたソール部と、
ソール部の前方に設けた足の甲を覆うアーチ状の空間を形成するアッパー部と、を有し、
前記ソール部の中に、前記ソール部の外側素材よりも硬い素材からなる足裏の凹凸にあわせた凹凸を表面に設けた芯材を備えたことを特徴とするスリッパ。
【請求項2】
前記ソール部の底面であって床に接する面のかかと側に、斜面を有することを特徴とする請求項1に記載のスリッパ。
【請求項3】
前記ソール部の底面であって床に接する面のつま先側に、斜面を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスリッパ。
【請求項4】
前記芯材の底面のかかと側に、斜面を有することを特徴とする請求項1から請求項3いずれか1つに記載のスリッパ。
【請求項5】
前記芯材は、硬度が60以上75以下であることを特徴とする請求項1から請求項4いずれか1つに記載のスリッパ。
【請求項6】
前記芯材の底面に、曲線状の溝を複数有することを特徴とする請求項1から請求項5いずれか1つに記載のスリッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足裏の形状にフィットし、足全体を包み込んで、歩行時の姿勢を正しい姿勢に矯正する効果もある快適な履き心地のスリッパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スリッパは、足の甲を覆うアッパー部と足を載置するソール部からなる履物である。足の甲をアッパー部に差し入れ、かかとや足首は固定しないため、簡単に履くことができる。簡単に履ける半面、その構造上、歩行時に足がスリッパから抜けやすいという特性がある。スリッパは、履く際の簡便さ、迅速さから、日常生活で活用される場面が多くなっているが、着用時間が長くなることによる足部や姿勢への悪影響が懸念される。スリッパが脱げないように注意しながら歩くと、足先に不自然な力が入り、歩行姿勢のバランスが崩れやすい。
【0003】
一般に歩行能力は速度、耐久性、安定性等から評価される。正常歩行は、かかとで接地し、足圧中心が足の外側を通り、足底全体がついてからは内側へ向きを変え、最後に、前足部で蹴り出す。床や地面の上に足裏がバランスよく踏ん張り、その上に骨盤が正しく乗り、またその上に背筋が伸び、そして、首と頭が乗っているという歩行である。踏み出した前足の接地時に、かかとの中心から足裏の外側に沿って重心を移動、中指の付け根までころがるように移動させ、つま先が地面に接地する。続いて重心は親指の付け根から足の指全体で地面をつかむような動きに変化する。親指の付け根に重心が乗った時点で、指で地面を蹴る。このような足部の動きを「足裏のローリング」という。
【0004】
スリッパという履物は、かかと部を固定する機能をあえて省いてあるため、歩行する際、無意識に脱げないような歩行形態をとってしまう。スリッパやサンダルのようなかかと部固定機能を持たない履物では、歩行時の自然なローリングが阻害され、正常歩行の姿勢がとりにくいという問題があった。
【0005】
特許文献1の履き物は、アッパー部の内側に隠れる位置に、ゴムベルトを設け、アッパー部の内部で、足の甲を固定させる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3220159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら履物は、ゴムベルトがアッパー部の内側で足の甲を固定するため、スリッパの脱げやすさは多少改善する。しかしながら、かかと部分が固定されず、ソールが足裏に、ぴったりとフィットするものでもないため、歩行時の歩きにくさを完全に払拭できるものではなかった。
【0008】
そこで、本発明では、足裏の凹凸に、ぴったりとフィットするソール部と、足の蹴りだしと着地がスムーズになる底面の斜面とを有することで、足を立体的に包み込みつつ歩行時のローリングをサポートする機能をもつスリッパを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスリッパは、足裏を支持すると共に足裏が接する面には土踏まずに対応する部分に隆起が設けられ、かかとが接する部分には窪みが設けられたソール部と、ソール部の前方に設けた足の甲を覆うアーチ状の空間を形成するアッパー部と、を有し、前記ソール部の中に、前記ソール部の外側素材よりも硬い素材からなる足裏の凹凸にあわせた凹凸を表面に設けた芯材を備えたことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、足裏を支持すると共に足裏が接する面には土踏まずに対応する部分に隆起が設けられ、かかとが接する部分には窪みが設けられたソール部が、ソール部の中に、前記ソール部の外側素材よりも硬い素材からなる足裏の凹凸にあわせた凹凸を表面に設けた芯材を備備えたことで、足裏をすっぽりと包み込むと同時に、歩行時にスリッパがずれないようしっかりサポートされるので、歩行姿勢を正しい姿勢に保つことができ、歩行時のローリングを阻害せず、長時間歩行しても疲れにくいスリッパを提供することができる。
【0011】
また、本発明のスリッパは、ソール部の底面であって床に接する面のかかと側に、斜面を有することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、足裏を支持すると共に足裏が接する面には土踏まずに対応する部分に隆起が設けられ、かかとが接する部分には窪みが設けられたソール部が、ソール部の中に、足裏の凹凸にあわせた凹凸を表面に設けた硬質素材からなる芯材を備えたことで、足裏をすっぽりと包み込むと同時に、歩行時にスリッパがずれないようしっかりサポートされるので、歩行姿勢を正しい姿勢に保つことができ、歩行時のローリングを阻害せず、長時間歩行しても疲れにくいスリッパを提供することができる。
【0013】
また、本発明のスリッパは、ソール部の底面であって床に接する面のつま先側に、斜面を有することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、足裏をすっぽりと包み込むと同時に、歩行時にスリッパがずれないようしっかりサポートすることができる。歩行姿勢を正しい姿勢に保つことができ、歩行時のローリングを阻害せず、長時間歩行しても疲れにくいスリッパを提供することができる。
【0015】
また、本発明のスリッパは、芯材の底面のかかと側に、斜面を有することを特徴とする
【0016】
この発明によれば、芯材の底面のかかと側に、かかと斜面が設けられているので、歩行姿勢を正しい姿勢に保つことができ、歩行時のローリングを阻害せず、長時間歩行しても疲れにくいスリッパを提供することができる。
【0017】
また、本発明のスリッパの芯材は、硬度が60以上75以下であることを特徴とする。硬度は、準拠規格JIS S6050の硬度計を用いて測定した硬度をいう。
【0018】
この発明によれば、芯材が、ほどよい硬度をもっているので、スリッパの重量負荷に耐える頑丈なスリッパとすることができ、また、若干の弾力性をもるので、足裏をすっぽりと包み込み、しっかりサポートできるスリッパを提供することができる。
【0019】
また、本発明のスリッパは、芯材の底面に、曲線状の溝を複数有することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、芯材3にかかる重量負荷が分散され、芯材3が破損しにくくなり、頑丈なスリッパ100とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示す平面図である。
図2】本発明の実施の形態1のスリッパ100の石足を示す底面図である。
図3】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示す左側面図である。
図4】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示す右側面図である。
図5】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示す斜視図である。
図6】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足の芯材3の底面図である。
図7】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足の芯材3の平面図である。
図8】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
図9】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
図10】本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
図11】本発明の実施の形態1のスリッパ100の使用方法を説明するための参考図である。
図12】本発明の実施の形態1の検証実験1における被験者の人数と内訳を示す表である。
図13】本発明の実施の形態1の検証実験1の全被験者のデータである。
図14】本発明の実施の形態1の検証実験1の男性被験者のデータである。
図15】本発明の実施の形態1の検証実験1の女性被験者のデータである。
図16】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足を示す平面図である。
図17】本発明の実施の形態2のスリッパ200の石足を示す底面図である。
図18】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足を示す左側面図である。
図19】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足を示す右側面図である。
図20】本発明の実施の形態2スリッパ200の右足を示す斜視図である。
図21】本発明の実施の形態2スリッパ200の底材4の参考左側面図である。
図22】本発明の実施の形態2スリッパ200の底材4の参考底面図である。
図23】本発明の実施の形態2スリッパ200の底材4の参考右側面図である。
図24】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足の芯材3を示す底面図である。
図25】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足の芯材3を示す平面図である。
図26】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
図27】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
図28】本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
図29】本発明の実施の形態2のスリッパ200の使用方法を説明するための参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示す平面図であり、図2は底面図である。図3は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示す左側面図であり、図3は右側面図である。図5は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示す斜視図である。
【0024】
本発明の実施の形態1のスリッパ100は、図1に示すように、足裏を載置するソール2、足の甲を包むアッパー1を、主に有する。図2に示すように、ソール3の裏面、すなわち、床に接する底面は、中央やや下部がくびれた瓢箪形状であって、厚手の布地が設けられている。本発明の実施の形態1のスリッパ100は、スリッパ底面に、厚手の布地が設けられているので、歩行時の音が静かであって、着地時の衝撃も少なく、快適に歩行できるスリッパ1となっている。
【0025】
ソール3は、硬質の素材で形成した芯材3を内包している。芯材3(後述)は、表面に足裏の形状にあわせた凹凸があり、ソールの表面にも、芯材3に沿った凹凸が形成されている。
【0026】
図1から図5は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足を示している。図3及び図4に示すように、本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足は、左側面視、すなわち、足の内側方向の側面は、右側面視、すなわち足の外側方向の側面に比べ、ソール2の中央部分が厚くなっている。ソール3が、足の内側方向の側面の中央部分が厚くなっていることで、履いた際に、足裏の土踏まずの部分が、ソール3表面の凹凸にフィットし、足全体が包み込まれるような快適なフィット感とサポート感を得ることができる。
【0027】
また、図3に示すように、側面視、スリッパ100は、爪先側に斜面を有しており、爪先の先端が上方にせりあがっている。床面と爪先側端とが有する角度bは、10度から20度の間が望ましい。爪先側が上方に上がっていることで、歩行時に、前足指で床を蹴りだす動きをスムーズに、自然に行うことができる。
【0028】
さらに、スリッパ100は、かかと側端にも斜面を有しており、図3に示すように、側面視、かかと側の先端が上方に上がっている。床面とかと側先端とが有する角度aは、爪先側の角度と同じく10度から20度の間が望ましい。角度は同程度であるが、図4に示すように、斜面部分の面積は、かかと側の斜面は、爪先側面の斜面よりも小さい面積となっている。かかと側端の斜面があることで、歩行時に、蹴りだした足を、かかとから接地する際に、歩行時のローリングを妨げることがなく、接地をスムーズに衝撃なく行うことができる。
【0029】
図5に示すように、ソール2の上面の内側から中央にかけて、土踏まずのアーチに沿うような凹凸が設けられ土踏まず隆起部21が形成されている。土踏まず隆起部21は、ソール中央部分に頂点を有する隆起である。ソール2の上面にある土踏まず隆起部21の隆起のラインは、足の親指側の側面に接する端から中央にかけて、なだらかに上昇し、中央部分を頂点として、足の小指側の側面に接する端に、ならだかに下降するが、足の小指側の側面に接する端は、足の親指側の側面が接する端よりも低いところまで下降する。したがって、足の親指側の側面、すなわち、スリッパ100の右足の左側面図で表した側面は、足の小指側の側面、すなわち、スリッパ100の右足の右側面図で表した側面に比して、ソール2の中央部分の厚みが厚くなっている。
【0030】
スリッパ100の右足は、右足の足裏のかたちに沿った形状であって、足裏に沿った隆起を設けることで、足全体を包み込むような快適なサポート感のあるスリッパ100とすることができる。スリッパ100の左足は、左足の足裏に沿った形状となっており、両足を、それぞれ、ぴったりと包み込む形状となっている。
【0031】
図6は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足の芯材3の底面図であって図7は、平面図である。図8から図10は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
【0032】
本発明の実施の形態1のスリッパ100は、ソール2の中に、芯材3が内包されている。ソール2は、内部に、硬質素材からなる芯材3を設けており、芯材3の周りを緩衝材となる層や布地等で包み込んだうえ縫製又は接着されている。芯材3は、硬度の高いEVA素材からなる。EVA素材は、EVA樹脂とも呼ばれ、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂の略称である。軽量で柔軟性と弾力性があり、丈夫で千切れにくいという特性を持ち、緩衝材に最適である。EVA素材は、柔らかいものから硬いものまで、様々な硬度のものがあるが、本発明の実施の形態1のスリッパ100の芯材3は、比較的硬度の高いEVA素材が用いられる。芯材3は、ソール2の外側素材よりも硬い素材からなえり、足裏の凹凸にあわせた凹凸が足裏が接する側の面に設けられている。
【0033】
芯材3のEVA素材の硬度は、60以上75以下が良く、最適な硬度は65以上70以下である。硬度は、準拠規格JIS S6050の硬度計を用いて測定した硬度である。本発明の実施例1では、株式会社テクロック製 ゴム・プラスチック硬度計 GS-701N標準を用いて計測した標準的な一般スリッパのソールの芯材は硬度50から60程度であるので、本発明の実施の形態1のスリッパ100の芯材3の硬度は、一般スリッパの芯材よりも硬めである。芯材3の硬度が低いと、スリッパ100にかかる体重負荷等により、つぶれて変形しやすくなり、硬度が高すぎると、芯材3に強い衝撃がかかった場合にひび割れや破損の原因となるので、芯材3の硬度は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の機能を十分に引き出せる硬度となっている。
【0034】
芯材3の上面、すなわち足裏が接する面に近い側の面には、足裏の凹凸に沿う隆起や窪みが設けられており、芯材3の底面、すなわち、床面に近い側の面には曲線形状の溝31と、かかと斜面34が設けられている。芯材3の足裏が接する面に近い側の面の凹凸が、ソール2の上面の凹凸を形成し、足裏にフィットする形状を形成する。芯材3の床面に近い側の面には溝31やかかと斜面34が設けられ、ソールの底面の機能をサポートしている。
【0035】
図6に示すように、芯材3の底面には、中央から上の部分曲線状の溝31が設けられている。溝31は、スリッパ100の長手方向の一端から他端まで延伸した曲線状の溝であって、上側すなわち爪先側に向かうカーブを描いた曲線形状の細い溝である。芯材3の底面に曲線状の溝31が設けられていることで、芯材3にかかる重量負荷が分散され、芯材3が破損しにくくなり、頑丈なスリッパ100とすることができる。芯材3のかかと側端は、斜面が設けられ、かかと斜面34となっている。芯材3に、かかと斜面34が設けられていることで、芯材3を内包したソール3のかかとも、芯材3と同じく、かかと側端に、かかと斜面27が形成される。スリッパを着用して歩行する際、蹴りだした足を着地させるときに、かかと側面から地面に接地するが、かかと側にかかと斜面27があることで、地面への接地がスムーズで自然な着地となり、歩行時のローリングを阻害せず、正しい歩行姿勢を保つことができる。
【0036】
図7に示すように、芯材3の上面、すなわち足裏に近い側の面には、土踏まずに対応する部分に隆起が設けられ土踏まず隆起部33を形成すると共に、足指の付け根に対応する部分にも細い隆起が設けられ足指アーチ隆起部32となっている。土踏まず隆起部33と、足指アーチ隆起部32とが設けられていることで、足裏の凹凸にぴったりと嵌る、快適なフィット感のスリッパを提供できるとともに、足をぴったり包み込むので、歩行時に、脱げないように変に力むことがなく、力を抜いて自然に歩行できるので、歩行時のローリングを阻害することなく、正しい歩行姿勢を保つことができる。
【0037】
図8に示すように、芯材3は、立体的なカーブを有し、爪先側と、かかと側とが、それぞれ上方にあがっている。芯材3は、樹脂等の硬質の素材からなり、スリッパ100のソール2に内包され、スリッパ100が型崩れすることを防ぎ、体重の負荷がかかっても、足をしっかりとサポートするスリッパ100とすることができる。
【0038】
図9に示すように、かかと斜面34と床とで形成される角度aと、爪先側と床とで形成される角度bとは、それぞれ10度から30度までの間とすることが望ましく、爪先側の斜面の面積は、かかと斜面の面積よりも大きくなっている。図10に示すように、かかと斜面34は、芯材3のかかと先端部分を斜めに削ぎ落して形成される。
【0039】
図11は、本発明の実施の形態1のスリッパ100の使用方法を説明するための参考図である。スリッパ100は、歩行時のローリングを妨げず、正しい歩行姿勢をサポートする。
【0040】
(検証実験1)
本発明のスリッパ100と、通常の平らなソールのスリッパとを比較して検証実験1を行った結果を下記に記載する。
【0041】
(検証実験1の検証方法)
対象者 健康者31名(男性16名、女性15名)
測定時間:7時30分から18時30分までの1時間
測定機器:歩行解析デバイス及びソフトAYUMI EYE
測定機器製造元:株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団
測定機器性能:点数化した推進(歩行速度、歩幅)、バランス(RMS:Root Mean Square 「左右加速度の2乗平方根」、リズム(歩行周期のばらつき)のパラメータ表示、歩行速度(m/s)、歩幅(cm)、歩行周期ばらつき(秒)の実測値が測定可能。
【0042】
検証実験1では、一般的なスリッパと本発明のスリッパ100の順に着用してもらい、それぞれ10メートル歩行を実施した。図12に示すように、検証実験1の被験者は、31名で、内訳は、男性17名、女性14名である。評価項目について、歩行能力(総合能力・推進力・バランス・リズム得点、歩幅cm、歩速m/s、歩行周期秒、RMS:Root Mean Square「左右加速度の2乗平方根」)の各項目について評価した。
【0043】
統計解析については、一般的なスリッパ着用時と、本発明のスリッパ100の着用時の歩行能力測定結果の平均について対応のあるt検定を実施した。すべての統計処理には統計解析ソフトSPSS Statistic24 (International Business Machines Corporation社製、米国イリノイ州) を用い、統計的有意水準は5%とした。その他、被験者の歩行状態を側面から足部にフォーカスし動画撮影した。一般的なスリッパ着用による最大歩行と本発明のスリッパ100着用による最大歩行時の歩行形態の特徴を比較した。
【0044】
(検証実験1の結果)
歩行測定の結果、図13に示すように、全体では本発明のスリッパ100着用時の歩行時間は一般的なスリッパ着用時より全体の平均時間が-0.2秒と短縮し、歩行速度(m/s)は平均3.9m/s増加した。歩幅は2.9cmと、有意に増加した(p=0.011)。歩行周期では平均-0.01秒短縮されたが有意な差はみられなかった。また、AYUMI EYEにより算出された本発明のスリッパ100着用時の歩行状態の「総合得点」は一般的なスリッパ着用歩行より3.1ポイント有意に高く(p<0.001)、「推進力」においても3.1ポイント有意に高く(p<0.001)、「RMS」は0.14有意に増加(p=0.001)した。歩行時の「リズム」は4.1ポイント高かったが有意な差はみられなかった。一方、「バランス」は平均-2.0ポイント有意に低かった(p=0.002)。図14に示すように、男性のみでは「推進力」が平均3.9ポイント有意に高く、女性のみでは歩幅が4.8cm有意に増加していた(p=0.016)。さらに図15に示すように、女性のみでは「総合得点」「推進力」「RMS」も有意に高い得点を示した。女性のみの場合、全体と同様に「バランス」得点は-2.8ポイント有意に低かった(p=0.01)。また、全体の歩幅を比較したところ、一般的なスリッパに比して、本発明のスリッパ100を着用時は、歩幅が有意に広くなった。
【0045】
(検証実験2)
また、一般的なスリッパ着用時の歩行状態と、本発明のスリッパ100着用時の歩行状態を動画撮影して比較検証した。撮影された動画から、いずれも本発明のスリッパ100着用時は、ローリング、足部のあおりが顕著であることが読み取れた。
【0046】
(考察)
検証実験1及び検証実験2により、一般的なスリッパと、本発明のスリッパ100の、それぞれの着用時における歩行状態をAYUMI EYEを用いて比較した。その結果、本発明のスリッパ100は、一般的なスリッパと比較して歩幅が拡張されることが明らかとなった。これは、足底部に用いたローリングやあおりをサポートできるような形状、すなわち、かかと部と爪先がせりあがった形状であることが、自然な足運びを誘発し、足指による最後の蹴りだし時の力が引き出されたことによるものと考えられる。また、機能的に蹴りだされることにより脚の振出しが大きくなることに加え、足指まで有効に使えることによる蹴りだし力が重心移動も加速し、歩行時の推進力にも有効な影響を与えている。
【0047】
一方、本発明のスリッパ100着用時にAYUMI EYEの3軸(X軸:前後方向、Y軸(左右方向)、Z軸:上下方向)加速度計により算出された「バランス」得点が低かったことは、蹴りだしが強くなったことでY軸の動揺が拡大したことによるものと考えられる。従って、この結果は、歩行形態が悪化したととらえるよりも、よりダイナミックな歩行に変化したことによるものと考えられる。このような機能を有する機能性スリッパを着用することで歩行状態が改善されれば、スリッパ等の簡易的履物を使用することによる外反母趾やアーチの崩れなどの足部障害や歩行形態の乱れによる腰痛や股関節障害を予防することができると考えられる。特に発育発達の著しい学童期には足部の形成に良好な影響をもたらすと考えられる。また、日常足部を締め付けるような履物を長時間使用している人々にとっても、余暇時間には足部を開放することが有効である。さらにスポーツ選手にとっては足部を良好な状態に保つことは必須であり、余暇時間の履物として活用することでスポーツ障害の予防や軽減につながると考えられる。
【0048】
加えて、本発明のスリッパ100を日常的に使用することにより下肢の筋群が有効に動員されることによる筋力向上、推進力に伴う体幹筋力の向上が推測されることは、運動やトレーニングではない日常生活で全身への良好な刺激を生み、消費カロリーの増加やシェイプアップなどの効果も期待できると考えられる。
本検証で、本発明のスリッパ100は、歩行時の歩幅、推進力を高めることが示唆された。日常生活における歩行形態の改善は、足部障害や腰痛などの予防、さらには下肢筋力ならびに体幹筋力の向上にも寄与する機能性があると思われる、との知見を得た。
【0049】
(実施の形態2)
次に、図16から図29を示しながら、本発明の実施の形態2のスリッパ200について説明する。図16は、本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足を示す平面図であって、図17は、底面図である。図18は、本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足を示す左側面図であって、図19は、右側面図である。図20は、本発明の実施の形態2スリッパ200の右足を示す斜視図である。
【0050】
本発明の実施の形態2のスリッパ200は、図16に示すように、足裏を載置するソール2、足の甲を包むアッパー1を、主に有する。図17に示すように、ソール3の裏面、すなわち、床に接する底面は、中央やや下部がくびれた瓢箪形状であって、弾力性を有するEVA素材からなる底部4が設けられている。底部4には曲線形状の溝が設けられている。本発明の実施の形態2のスリッパ200は、スリッパの底面に弾性を有するEVA素材の底部4が設けられているので歩行の際に滑りにくく、歩行時の安全性を高めたスリッパ200とすることができる。
【0051】
ソール3は、硬質の素材で形成した芯材3を内包している。芯材3(後述)は、表面に足裏の形状にあわせた凹凸があり、ソールの表面にも、芯材3に沿った凹凸が形成されている。
【0052】
図16から図20は、本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足を示している。図18及び図19に示すように、本発明の実施の形態1のスリッパ200の右足は、左側面視、すなわち、足の内側方向の側面は、右側面視、すなわち足の外側方向の側面に比べ、ソール2の中央部分が厚くなっている。ソール3が、足の内側方向の側面の中央部分が厚くなっていることで、履いた際に、足裏の土踏まずの部分が、ソール3表面の凹凸にフィットし、足全体が包み込まれるような快適なフィット感とサポート感を得ることができる。
【0053】
また、図18に示すように、側面視、スリッパ200は、爪先側に斜面を有しており、爪先の先端が上方にせりあがっている。かかと側も斜面を有しており、かかと側の先端が上方にせりあがっている。爪先側と床とで形成される角度bとは、それぞれ10度以上30度以下の間とすることが望ましく、爪先側の斜面の面積は、かかと斜面の面積よりも大きくなっている。爪先側が上方に上がっていることで、歩行時に、前足指で床を蹴りだす動きをスムーズに、自然に行うことができる。
【0054】
さらに、スリッパ200は、かかと側端にも斜面を有しており、図18及び図19に示すように、側面視、かかと側の先端が上方に上がっている。床面とかと側先端とが有する角度aは、爪先側の角度と同じく10度から20度の間が望ましい。角度は同程度であるが、図17に示すように、斜面部分の面積は、かかと側の斜面は、爪先側面の斜面よりも小さい面積となっている。かかと側端の斜面があることで、歩行時に、蹴りだした足を、かかとから接地する際に、歩行時のローリングを妨げることがなく、接地をスムーズに衝撃なく行うことができる。
【0055】
図20に示すように、ソール2の上面すなわち足裏に近い側の面の内側から中央にかけて、土踏まずのアーチに沿うような凹凸が設けられ土踏まず隆起部21が形成されている。土踏まず隆起部21は、ソール中央部分に頂点を有する隆起である。ソール2の上面にある土踏まず中期部21の隆起のラインは、足の親指側の側面に接する端から中央にかけて、なだらかに上昇し、中央部分を頂点として、足の小指側の側面に接する端に、ならだかに下降するが、足の小指側の側面に接する端は、足の親指側の側面が接する端よりも低いところまで下降する。したがって、足の親指側の側面、すなわち、スリッパ200の右足の左側面図で表した側面は、足の小指側の側面、すなわち、スリッパ200の右足の右側面図で表した側面に比して、ソール2の中央部分の厚みが厚くなっている。
【0056】
スリッパ200の右足は、左右対称な形状ではなく、足裏に沿った隆起を設けることで、足全体を包み込むような快適なサポートのあるスリッパ200とすることができる。スリッパ200の左足は、スリッパ200の右足の形状を左右反転した形状となっており、両足を、それぞれ、ぴったりと包み込むことができる。
【0057】
図21は、本発明の実施の形態2スリッパ200の底材4の参考左側面図であって、図22は、参考底面図である。図23は、本発明の実施の形態2スリッパ200の底材4の参考右側面図である。
【0058】
底部4は、EVA素材で形成されている。EVA素材は、EVA樹脂とも呼ばれ、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂の略称である。軽量で柔軟性と弾力性があり、丈夫で千切れにくいという特性を持つため、緩衝材に最適である。スリッパ200の底部4は、弾力性のある素材が用いられ、柔軟性には、EVA素材のほか、ゴム素材や樹脂素材を用いてもよい。
【0059】
図24は、本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足の芯材3を示す底面図であって、図25は平面図である。図26から図28は、本発明の実施の形態2のスリッパ200の右足の芯材3を説明するための参考斜視図である。
【0060】
本発明の実施の形態2のスリッパ200は、ソール2の中に、芯材3が内包されている。芯材3の素材及び硬度は実施例1のスリッパ100と同様であるため、説明を省略する。芯材3は、ある程度の硬度をもったEVA素材を用いるのが良いが、樹脂素材や木材等も芯材として用いることができる。芯材3の硬度は、60以上75以下が良く、最適な硬度は65以上70以下である。芯材3の上面すなわち足裏に近い側の面には、足裏の応答に沿う凹凸が設けられており、芯材3の底面には曲線形状の溝31と、かかと斜面34が設けられている。芯材3の上面の凹凸が、ソール2の上面の凹凸を形成し、足裏にフィットする形状を形成し、芯材3の底面の溝31やかかと斜面34は、ソールの底面の機能をサポートしている。
【0061】
図24に示すように、芯材3の底面には、中央から上の部分曲線状の溝31が設けられている。溝31は、スリッパ200の長手方向の一端から他端まで延伸した曲線状の溝であって、上側すなわち爪先側に向かうカーブを描いた曲線形状の細い溝である。芯材3のかかと側端は、斜面が設けられ、かかと斜面34となっている。芯材3に、かかと斜面34が設けられていることで、芯材3を内包したソール3のかかとにも斜面が形成される。スリッパを着用して歩行する際、蹴りだした足を着地させるときに、かかと側面から地面に接地するが、かかと側が上方にせりあがった形状となっていることとで、地面への接地がスムーズで自然な着地となり、歩行時のローリングを阻害せず、正しい歩行姿勢を保つことができる。
【0062】
図25に示すように、芯材3の上面には、土踏まずに対応する部分に隆起が設けられ土踏まず隆起部33を形成すると共に、足指の付け根に対応する部分にも細い隆起が設けられ足指アーチ隆起部32となっている。土踏まず隆起部33と、足指アーチ隆起部32とが設けられていることで、足裏の凹凸にぴったりと嵌る、快適なフィット感のスリッパを提供できるとともに、足をぴったり包み込むので、歩行時に、脱げないように変に力むことがなく、力を抜いて自然に歩行できるので、歩行時のローリングを阻害することなく、正しい歩行姿勢を保つことができる。
【0063】
図26に示すように、芯材3は、立体的なカーブを有し、爪先側と、かかと側とが、それぞれ上方にあがっている。図27に示すように、かかと側の斜面と床面とが形成する角度aは20度から30度であり、爪先側の斜面と床面とが形成する角度も20度から30度である。芯材3は、樹脂等の硬質の素材からなり、スリッパ200のソール2に内包され、スリッパ200が型崩れすることを防いである。硬度の高い芯材3を有することで、ソール2に、体重の負荷がかかっても、足をしっかりとサポートするスリッパ200となる。図28に示すように、かかと斜面34は、芯材3のかかと先端部分を斜めに削ぎ落して形成される。
【0064】
図29は、本発明の実施の形態2のスリッパ200の使用方法を説明するための参考図である。スリッパ200は、歩行時のローリングを妨げず、正しい歩行姿勢をサポートする。本発明のスリッパ100を日常的に使用することにより下肢の筋群が有効に動員されることによる筋力向上、推進力に伴う体幹筋力の向上が推測されることは、運動やトレーニングではない日常生活で全身への良好な刺激を生み、消費カロリーの増加やシェイプアップなどの効果も期待できると考えられる。
【符号の説明】
【0065】
100,200 スリッパ
1 アッパー
11 甲部の内面
12 開口部
2 ソール
21 土踏まず隆起部
22 かかと窪み部
23 底面
24 くびれ部
25 窪み部
26 ソール側面
3 芯材
31 溝
32 足指アーチ隆起部
33 土踏まず隆起部
34 かかと斜面
4 底部
41 溝
H 足
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16
図17
図18
図19
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図21
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図26
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図28
図29