(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028750
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】木質材料用難燃剤及び難燃性木質材料
(51)【国際特許分類】
C09K 21/12 20060101AFI20230224BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20230224BHJP
C08K 5/5317 20060101ALI20230224BHJP
C08K 5/31 20060101ALI20230224BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20230224BHJP
C09K 21/10 20060101ALI20230224BHJP
C09K 21/06 20060101ALI20230224BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20230224BHJP
C09K 21/04 20060101ALI20230224BHJP
B27K 3/52 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C09K21/12
C08L1/00
C08K5/5317
C08K5/31
C08K3/38
C09K21/10
C09K21/06
C09K21/02
C09K21/04
B27K3/52 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134627
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 希
【テーマコード(参考)】
2B230
4H028
4J002
【Fターム(参考)】
2B230AA07
2B230BA03
2B230BA04
2B230CA14
2B230CB09
2B230CB21
2B230DA02
2B230EB01
2B230EB02
2B230EB03
2B230EB13
4H028AA06
4H028AA07
4H028AA29
4H028AA35
4H028BA04
4J002AH001
4J002DK008
4J002ER027
4J002EW126
4J002FD136
4J002FD137
4J002FD138
4J002GL00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低吸湿性を維持し、濡れの発生を抑えつつも難燃性をさらに向上させ、且つ、低温環境においても保存安定性を向上させることができる木質材料用難燃剤及びそれを用いた難燃性木質材料を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される有機リン化合物、一般式(2)で表される窒素化合物及びホウ素化合物を含む難燃成分、並びに溶媒を含有する木質材料用難燃剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物を含む難燃成分、並びに溶媒を含有する木質材料用難燃剤であって、
前記有機リン化合物は、一般式(1):
【化1】
[一般式(1)中、
R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、又は置換若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。該置換アルキル基は、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1個以上の置換基を有し、該置換若しくは無置換のアルキル基は、その炭素鎖中に、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含んでいてもよい。
nは1~4の整数を示す。
X
1及びX
2は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシ基、又はヒドロキシ基で置換された若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。]
で表される有機リン化合物であり、
前記窒素化合物は、一般式(2):
【化2】
[一般式(2)中、
R
3は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示す。
R
4、R
5、及びR
6は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、o-トルイル基、m-トルイル基、又はp-トルイル基を示す。
R
7は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、-C(=O)-NH
2、又は-C(=NH)-NH
2を示す。]
で表される窒素化合物又はその塩である、木質材料用難燃剤。
【請求項2】
前記ホウ素化合物が、有機ホウ素化合物及び/又は無機ホウ素化合物である、請求項1に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項3】
前記有機ホウ素化合物がフェニルボロン酸化合物を含有する、請求項2に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項4】
前記無機ホウ素化合物がホウ酸、三酸化ホウ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素及びホウ砂よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項2又は3に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項5】
前記無機ホウ素化合物がホウ酸及び/又はホウ砂である、請求項2~4のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項6】
前記有機リン化合物が、前記一般式(1)において、
R1が水素原子又はヒドロキシ基であり、
R2が水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、
X1及びX2がヒドロキシ基であり、
nが1である化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項7】
前記窒素化合物が、前記一般式(2)において、
R3、R4、R5、及びR6が水素原子であり、
R7が、水素原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、-C(=O)-NH2、又は-C(=NH)-NH2である化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項8】
前記窒素化合物が、前記有機リン化合物の酸価に対して0.7モル当量以上1.6モル当量以下の量で含まれる、請求項1~7のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項9】
前記難燃成分が、さらに、無機リン化合物を含有し、
前記無機リン化合物が、一般式(3):
【化3】
[一般式(3)中、kは0以上100以下の整数を示す。]
で表される無機リン化合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項10】
前記無機リン化合物が、前記一般式(3)においてkが0以上3以下の整数である化合物である、請求項9に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項11】
前記窒素化合物が、前記有機リン化合物の酸価に対して1モル当量と前記無機リン化合物の酸価に対して1モル当量との総和に対し、0.95倍以上1.4倍以下の量で含まれる、請求項9又は10に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項12】
前記有機リン化合物と前記無機リン化合物との配合比が、質量比で1:99~75:25である、請求項9~11のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項13】
前記難燃成分及び前記溶媒の総量を100質量%として、前記ホウ素化合物が0.05質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれる、請求項1~12のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項14】
前記ホウ素化合物が、前記難燃成分及び前記溶媒の総量を100質量%として0.1質量%以上1.5質量%以下の割合で含まれる、請求項13に記載の木質材料用難燃剤。
【請求項15】
木質材料が、請求項1~14のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤で難燃処理されている、難燃性木質材料。
【請求項16】
木質材料中に、請求項1~14のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤中に含有する前記難燃成分が、以下の式(a)の含浸量で20kg/m
3以上含有されている、難燃性木質材料。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料用難燃剤及び難燃性木質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に住宅建築用の内装材又は外装材には、加工性がよく軽量で、しかも強度及び経済性に優れた木質材料が広く使用されている。その一方で、木質材料は着火し易く燃え易いために火災に対する安全性に乏しいという欠点があった。
【0003】
従来、このような木質材料を難燃化するために、リン酸系又はホウ酸系の難燃剤が使用されている。該難燃剤は水に溶解させて水溶液として、木質材料に塗布(コーティング)、又は含浸させることが行われてきた。塗布(コーティング)では木質材料の表面層にしか難燃性を付与できないため、十分な難燃性能を付与するためには、木質材料の内部に難燃剤を導入することができる含浸処理が好ましい。
【0004】
本出願人は、特定の構造を有する有機リン化合物と、特定の構造を有する窒素化合物とを含有することで、十分に難燃性が向上した木質材料用難燃剤が得られることを見いだした(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1によれば、十分に低吸湿性及び難燃性が向上した木質材料用難燃剤が得られる。
【0006】
しかしながら、建築用木材では、サイズの大きな材木を使用するため、難燃剤が木材の中心部分まで含浸しにくく、総発熱量のバラツキが大きいという課題があった。このため、近年、サイズの大きな材木を使用する建築用木材においても、不燃材料を安定的に提供するためには、低吸湿性を維持しつつ難燃性をさらに高めることが要求されている。
【0007】
また、上述のような不燃材料を生産するためには、高濃度の難燃剤溶液が一般的に用いられるが、その場合、保存安定性が悪化してしまう。保存安定性が悪いと、難燃剤溶液の保管時に結晶が発生しやすくなるので、木質材料に用いる前に難燃剤溶液を加温し、該溶液中に発生した結晶を溶解しなければならない。このため、近年、該難燃剤溶液については、結晶が析出しやすく保存安定性が低下しやすい低温環境においても、保存安定性に優れることが要求されている。保存安定性を高める方法としては、種々の化合物を添加剤として木質材料用難燃剤に添加することが挙げられる。しかし、木質材料に添加剤を用いたとき、木質材料表面に濡れが生じるという課題があった。
【0008】
一方、木質材料用難燃剤としては、リン酸と、カルバミド、ジシアンジアミドと、ホウ酸、ホウ砂とを含有する木質材料用難燃剤も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
また、木質材料用難燃剤としては、リンのオキソ酸と、ホウ素類化合物と、アンモニア基類化合物と、界面活性剤とを含有する木質材料用難燃剤も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
また、木質材料用難燃剤としては、リン酸塩化合物と、グアニジン系化合物と、ポリオール系化合物と、触媒材としてリン酸と、遮熱材として八ホウ酸二ナトリウム四水和物とを含有する木材用水溶性防煙液組成物も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
また、木質材料用難燃剤としては、ホウ酸と、窒素含有化合物とを含有する木材用水溶性防煙液組成物も知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0012】
特許文献2~5では、難燃性等が向上するとされているが、低温環境での保存安定性については記載も示唆もなく、いずれも有機リン化合物を含んでいないために、低温環境での保存安定性は不十分なものであった。また、吸湿性に関しても一層の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2018/221567号
【特許文献2】中国特許出願公開第1883895号
【特許文献3】中国特許出願公開第102941607号
【特許文献4】韓国特許出願公開第20170053330号
【特許文献5】国際公開第91/000327号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上から、本発明は、低吸湿性でありながら、木質材料表面の濡れの発生を抑え、サイズの大きな木質材料に用いても難燃性をさらに向上させ、且つ、低温環境においても保存安定性を向上させることができる木質材料用難燃剤及びそれを用いた難燃性木質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、低温環境での保存安定性に優れ、且つ、木質材料に用いた際、低吸湿性でありながら、木質材料表面の濡れの発生を抑制し、難燃性にもさらに優れた木質材料用難燃剤を開発すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有する有機リン酸化合物、特定の構造を有する窒素化合物及びホウ素化合物を難燃成分として組み合わせた木質材料用難燃剤を使用することで上記課題を解決することができることを見出した。本発明はこのような知見に基づき、さらに研究を重ね完成されたものである。
【0016】
本発明は、以下の木質材料用難燃剤及び難燃性木質材料を包含する。
【0017】
項1.有機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物を含む難燃成分、並びに溶媒を含有する木質材料用難燃剤であって、
前記有機リン化合物は、一般式(1):
【0018】
【化1】
[一般式(1)中、
R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、又は置換若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。該置換アルキル基は、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1個以上の置換基を有し、該置換若しくは無置換のアルキル基は、その炭素鎖中に、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含んでいてもよい。
nは1~4の整数を示す。
X
1及びX
2は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシ基、又はヒドロキシ基で置換された若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。]
で表される有機リン化合物であり、
前記窒素化合物は、一般式(2):
【0019】
【化2】
[一般式(2)中、
R
3は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示す。
R
4、R
5、及びR
6は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、o-トルイル基、m-トルイル基、又はp-トルイル基を示す。
R
7は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、-C(=O)-NH
2、又は-C(=NH)-NH
2を示す。]
で表される窒素化合物又はその塩である、木質材料用難燃剤。
【0020】
項2.前記ホウ素化合物が、有機ホウ素化合物及び/又は無機ホウ素化合物である、項1に記載の木質材料用難燃剤。
【0021】
項3.前記有機ホウ素化合物がフェニルボロン酸化合物を含有する、項2に記載の木質材料用難燃剤。
【0022】
項4.前記無機ホウ素化合物がホウ酸、三酸化ホウ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素及びホウ砂よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、項2又は3に記載の木質材料用難燃剤。
【0023】
項5.前記無機ホウ素化合物がホウ酸及び/又はホウ砂である、項2~4のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【0024】
項6.前記有機リン化合物が、前記一般式(1)において、
R1が水素原子又はヒドロキシ基であり、
R2が水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、
X1及びX2がヒドロキシ基であり、
nが1である化合物である、項1~5のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【0025】
項7.前記窒素化合物が、前記一般式(2)において、
R3、R4、R5、及びR6が水素原子であり、
R7が、水素原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、-C(=O)-NH2、又は-C(=NH)-NH2である化合物である、項1~5のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【0026】
項8.前記窒素化合物が、前記有機リン化合物の酸価に対して0.7モル当量以上1.6モル当量以下の量で含まれる、項1~7のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【0027】
項9.前記難燃成分が、さらに、無機リン化合物を含有し、
前記無機リン化合物が、一般式(3):
【化3】
[一般式(3)中、kは0以上100以下の整数を示す。]
で表される無機リン化合物である、項1~7のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【0028】
項10.前記無機リン化合物が、前記一般式(3)においてkが0以上3以下の整数である化合物である、項9に記載の木質材料用難燃剤。
【0029】
項11.前記窒素化合物が、前記有機リン化合物の酸価に対して1モル当量と前記無機リン化合物の酸価に対して1モル当量との総和に対し、0.95倍以上1.4倍以下の量で含まれる、項9又は10に記載の木質材料用難燃剤。
【0030】
項12.前記有機リン化合物と前記無機リン化合物との配合比が、質量比で1:99~75:25である、項9~11のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【0031】
項13.前記難燃成分及び前記溶媒の総量を100質量%として、前記ホウ素化合物が0.05質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれる、項1~12のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤。
【0032】
項14.前記ホウ素化合物が、前記難燃成分及び前記溶媒の総量を100質量%として0.1質量%以上1.5質量%以下の割合で含まれる、項13に記載の木質材料用難燃剤。
【0033】
項15.木質材料が、項1~14のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤で難燃処理されている、難燃性木質材料。
【0034】
項16.木質材料中に、項1~14のいずれか1項に記載の木質材料用難燃剤中に含有する前記難燃成分が、以下の式(a)の含浸量で20kg/m3以上含有されている、難燃性木質材料。
【0035】
【発明の効果】
【0036】
本発明の木質材料用難燃剤は、低吸湿性でありながら、濡れの発生を抑え、難燃性及び保存安定性(特に低温環境での保存安定性)がさらに優れている。本発明の難燃性木質材料は、木質材料中に前記木質材料用難燃剤を含むことにより、低吸湿性を維持しつつ、濡れの発生が抑制され、一層高い難燃性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0038】
また、本明細書において、「A~B」との表記は、「A以上且つB以下」を意味する。
【0039】
1.木質材料用難燃剤
本発明の木質材料用難燃剤は溶媒並びに難燃成分を含有するものであり、前記難燃成分として、有機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物を含むことを特徴とする。また、前記難燃成分は、必要に応じて、無機リン化合物を含むことができる。
【0040】
本発明の木質材料用難燃剤は、低温環境等の結晶が析出しやすい厳しい条件下においても結晶の析出を抑制し、保存安定性を向上させることができる。また、木質材料に対して低吸湿性を維持しつつ、木質材料表面上に濡れが発生するのを抑えることができる。さらに、サイズの大きな木質材料に対していっそう優れた難燃性を付与することができる。
【0041】
なお、本発明において、低温環境は、-5~10℃を意味する。
【0042】
また、本発明における保存安定性とは、溶液又は懸濁液の状態である木質材料用難燃剤を長期間保管又は静置したときに、難燃成分の固体(結晶)が析出しないことを意味する。 本発明の木質材料用難燃剤の低温環境における保存安定性が向上することで、難燃成分を高濃度で含む溶液等の状態で保管しても、結晶が析出しやすい低温であっても、結晶の析出を抑制することができる。本発明においては、後述の実施例のように、さらに結晶が析出しやすい条件とするべく結晶核を投入したとしても、結晶の析出を抑制することができる。なお、本発明の木質材料用難燃剤は、低温環境における保存安定性が向上するものであるが、結晶がより析出しにくい常温においても、さらに結晶の析出を抑制できるため、保存安定性に優れることは当然である。
【0043】
また、本発明の木質材料用難燃剤は、特定構造の有機リン化合物、特定構造の窒素化合物及びホウ素化合物、さらに必要に応じて無機リン化合物を組み合わせることにより、木質材料に難燃処理を施した際、木質材料の低吸湿性を維持しつつも、添加剤による木質材料表面から濡れが生じるのを抑制することができる。このため、滲み出しによる外観の劣化を防止することができる。
【0044】
さらに、本発明の木質材料用難燃剤は、難燃性がさらに高められているので、サイズの大きな木質材料に用いた場合において、表面部分のみならず、難燃剤の含浸量がより少ない中心部分においても、ISO5660-1にて規定される総発熱量を低減するという効果を有する。このため、本発明の木質材料用難燃剤は、サイズの大きな木質材料に用いても総発熱量のバラツキを低減し、一層の高難燃性を付与することができる。こうした本発明の高い難燃効果は、木質材料試験片に溶媒にて適宜希釈した木質材料用難燃剤を用い、ISO5660-1に準じて発熱性試験の評価を行うことで確認することができる。
【0045】
これらにより、本発明の木質材料用難燃剤は木質材料に含浸処理を行う前に加温する工程を省略できるのみならず、燃料コストをも低減することが可能となる。さらに、木質材料用難燃剤をサイズの大きな木質材料に用いても、低吸湿性を維持し、濡れの発生を抑制しながらも、木質材料のさらなる高難燃化に寄与をすることができる。
【0046】
この本発明の木質材料用難燃剤は、所望の難燃性及び保存安定性に応じて、適宜希釈して用いることができる。
【0047】
(1-1)有機リン化合物
本発明の木質材料用難燃剤は、有機リン化合物として、以下の一般式(1):
【0048】
【化4】
[一般式(1)中、
R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、又は置換若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。該置換アルキル基は、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1個以上の置換基を有し、該置換若しくは無置換のアルキル基は、その炭素鎖中に、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含んでいてもよい。
nは1~4の整数を示す。
X
1及びX
2は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシ基、又はヒドロキシ基で置換された若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。]
で表される化合物を難燃成分として含有する。
【0049】
一般式(1)において、R1及びR2で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0050】
一般式(1)において、R1及びR2で示される炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の炭素数1~6の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~6の分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。
【0051】
一般式(1)において、R1及びR2におけるヘテロ原子として、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。
【0052】
一般式(1)において、R1及びR2が、置換された炭素数1~6のアルキル基である場合、該置換アルキル基は、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1個以上の置換基を有する。置換基としては、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、ヒドロキシ基が好ましい。一般式(1)において、R1及びR2が置換基を有する場合、置換基の数は、1~2個が好ましく、1個がより好ましい。
【0053】
また、一般式(1)において、R1及びR2としては、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、無置換の炭素数1~6のアルキル基(単に「炭素数1~6のアルキル基」ともいう。)が好ましく、無置換の炭素数1~4のアルキル基(単に「炭素数1~4のアルキル基」ともいう。)がより好ましい。
【0054】
一般式(1)において、X1及びX2で示される炭素数1~6のアルキル基は、上記したものを採用できる。
【0055】
一般式(1)において、X1及びX2が、ヒドロキシ基で置換された炭素数1~6のアルキル基である場合、ヒドロキシ基の数は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、1~2個が好ましく、1個がより好ましい。
【0056】
また、一般式(1)において、X1及びX2としては、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、ヒドロキシ基、又はヒドロキシ基で置換された炭素数1~6のアルキル基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
【0057】
なお、一般式(1)中の「含んでいてもよい」とは、R1及びR2としての置換若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基が、その炭素鎖中に少なくとも1個の前記ヘテロ原子を含む場合、又は含まない場合のいずれかの状態であることを意味する。R1及びR2としての置換若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基において、ヘテロ原子の数は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、0~2個が好ましく、0~1個がより好ましく、0個、即ちヘテロ原子を含まないことがさらに好ましい。
【0058】
これらの有機リン化合物の中でも、好ましい化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、一般式(1)において、R1が水素原子又はヒドロキシ基であり、R2が水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、X1及びX2がヒドロキシ基であり、nが1である化合物である。
【0059】
これらの有機リン化合物の中でも、より好ましい化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、一般式(1)において、R1がヒドロキシ基であり、R2が水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、X1及びX2がヒドロキシ基であり、nが1である化合物である。
【0060】
これらの有機リン化合物の中でも、さらに好ましい化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、一般式(1)において、R1がヒドロキシ基であり、R2がメチル基であり、X1及びX2がヒドロキシ基であり、nが1である化合物である。
【0061】
具体的には、有機リン化合物として、例えば、エチレンビスホスホン酸、ジメチルアミノメチレンビスホスホン酸、1-ヒドロキシエチレンビスホスホン酸、1-アミノエチレンビスホスホン酸、フルオロメチレンビスホスホン酸、tert-ブチルヒドロキシメチレンビスホスホン酸、クロロメチレンビスホスホン酸、ジブロモメチレンビスホスホン酸、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノメチレンビスホスホン酸、テトラメチレンビスホスホン酸、メチレンビスホスホン酸、ジフルオロメチレンビスホスホン酸、クロドロン酸、パミドロン酸、(アミノメチレン)ビスホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、1,3-プロパンジイルビスホスホン酸、3-アミノプロピリデンビスホスホン酸、オキシドロン酸、エチリデンビスホスホン酸、1-フルオロエチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチリデンビスホスホン酸、1-アミノエチリデンビスホスホン酸、2-(3-メルカプトプロピルチオ)エチリデンビスホスホン酸、2-ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、1-アミノ-2-ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシ-2-(ジメチルアミノ)エチリデンビスホスホン酸、2-メルカプトエチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシ-2-アミノエチリデンビスホスホン酸、2-(ジメチルアミノ)エチリデンビスホスホン酸、1-(ジメチルアミノ)-2-ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、1-(メチルアミノ)-2-ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、プロピリデンビスホスホン酸、オルパドロン酸、1-フルオロプロピリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシプロピリデンビスホスホン酸、イソプロピリデンビスホスホン酸、3-アミノプロピリデンビスホスホン酸、ブチリデンビスホスホン酸、1-フルオロブチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシブチリデンビスホスホン酸、アレンドロナート、1-フルオロペンチリデンビスホスホン酸、1-フルオロヘキシリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチリデンビスホスホン酸、ヘプチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシヘキシリデンビスホスホン酸、ヘキシリデンビスホスホン酸、ペンチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシ-4-メチルペンチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシヘプチリデンビスホスホン酸、メチレンビスホスフィン酸、エチレンビスホスフィン酸、1,2-プロピレンビスホスフィン酸、1,3-プロピレンビスホスフィン酸、1,4-ブチレンビスホスフィン酸、エチレン-ビス-(ヒドロキシメチル)-ホスフィン酸、エチレン-ビス-(1-ヒドロキシエチル)-ホスフィン酸、エチレン-ビス-(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)-ホスフィン酸、エチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)-ホスフィン酸、エチレン-ビス-(1-ヒドロキシ-1-メチル-1-プロピル)-ホスフィン酸、1,2-プロピレン-ビス-(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)-ホスフィン酸等が挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0062】
これらの中でも、好ましい有機リン化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、tert-ブチルヒドロキシメチレンビスホスホン酸、メチレンビスホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、オキシドロン酸、エチリデンビスホスホン酸、プロピリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシプロピリデンビスホスホン酸、ブチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシブチリデンビスホスホン酸、ヘプチリデンビスホスホン酸、ヘキシリデンビスホスホン酸、ペンチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシヘキシリデンビスホスホン酸、ヘキシリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシ-4-メチルペンチリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシヘプチリデンビスホスホン酸等である。
【0063】
より好ましい有機リン化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、tert-ブチルヒドロキシメチレンビスホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、オキシドロン酸、1-ヒドロキシプロピリデンビスホスホン酸、1-ヒドロキシブチリデンビスホスホン酸等である。
【0064】
さらに好ましい有機リン化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸である。
【0065】
(1-2)窒素化合物
本発明の木質材料用難燃剤は、窒素化合物として、一般式(2):
【0066】
【化5】
[一般式(2)中、
R
3は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示す。
R
4、R
5、及びR
6は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、o-トルイル基、m-トルイル基、又はp-トルイル基を示す。
R
7は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、-C(=O)-NH
2、又は-C(=NH)-NH
2を示す。]
で表される化合物又はその塩を難燃成分として含有する。
【0067】
窒素化合物の中で、好ましくは、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、一般式(2)において、R3、R4、R5、及びR6が水素原子であり、R7が、水素原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、-C(=O)-NH2、又は-C(=NH)-NH2である化合物である。
【0068】
より好ましい窒素化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、一般式(2)において、R3、R4、R5、及びR6が水素原子であり、R7が、水素原子、-C(=O)-NH2、又は-C(=NH)-NH2である化合物である。
【0069】
さらに好ましい窒素化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、一般式(2)において、R3、R4、R5、R6、及びR7が、水素原子である化合物である。
【0070】
具体的には、窒素化合物として、例えば、グアニジン、アミノグアニジン、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、1-ニトロソグアニジン、グアニル尿素、ビグアニド、メトホルミン、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-n-プロピルグアニジン、1-イソプロピルグアニジン、2-メチルグアニジン、2-エチルグアニジン、2-n-プロピルグアニジン、2-イソプロピルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1-フェニルグアニジン、1,3-ジフェニルグアニジン、1,2,3-トリフェニルグアニジン、1-(o-トリル)グアニジン、1-(o-トリル)ビグアニド等が挙げられる。これらの窒素化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0071】
これらの中でも、好ましい窒素化合物は、 難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、グアニジン、アミノグアニジン、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、1-ニトロソグアニジン、グアニル尿素、ビグアニド等である。
【0072】
より好ましい窒素化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、グアニジン、グアニル尿素、ビグアニド等である。
【0073】
さらに好ましい窒素化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、グアニジンである。
【0074】
窒素化合物は、塩であってもよい。窒素化合物の塩として、例えば、一般式(2)で表される化合物の炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、臭化水素塩、ヨウ化水素塩、スルファミン酸塩、チオシアン酸塩等が挙げられる。なお、本明細書において、窒素化合物には、窒素化合物の塩も含まれる。
【0075】
本発明の木質材料用難燃剤の難燃成分として含まれる、有機リン化合物と窒素化合物との割合は、有機リン化合物の酸価に対する窒素化合物のモル当量で表される。前記割合は特に限定されない。例えば、前記窒素化合物が、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、前記有機リン化合物の酸価に対して0.7モル当量以上の量で含まれることが好ましく、0.85モル当量以上の量で含まれることがより好ましく、0.95モル当量以上の量で含まれることがさらに好ましい。その一方で、前記窒素化合物が、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、有機リン化合物の酸価に対して、1.6モル当量以下の量で含まれることが好ましく、1.3モル当量以下の量で含まれることがより好ましい。
【0076】
ここで、本明細書において、有機リン化合物の酸価とは、pHが7以上11以下の範囲内に現れる中和点(変曲点)を終点とし、該終点までに要する溶液量から算出される数値のことである。なお、酸価の測定は、JIS K 0070の電位差滴定法に準じて、該有機リン化合物又はその溶液を試料として、滴定にアルカリ溶液を用いて行う。
【0077】
(1-3)ホウ素化合物
ホウ素化合物は、特許文献2~5のように、吸湿性が高く、且つ、低温環境での保存安定性にも劣るが、本発明のように、特定の構造を有する有機リン化合物及び特定の構造を有する窒素化合物を含有する木質材料用難燃剤とともに難燃成分として使用することで、予想外にも、低吸湿性を維持し、且つ、濡れの発生を抑えつつも、難燃性をさらに向上させ、また、結晶の析出を抑制して低温環境での保存安定性も劇的に向上させることができる。
【0078】
このようなホウ素化合物としては、有機ホウ素化合物及び無機ホウ素化合物のいずれも採用することができる。
【0079】
有機ホウ素化合物としては、特に制限はなく、フェニルボロン酸、4-フルオロフェニルボロン酸、4-メチルフェニルボロン酸、4-エチルフェニルボロン酸、4-プロピルフェニルボロン酸、4-ブチルフェニルボロン酸、4-ヘキシルフェニルボロン酸、4-フェニルフェニルボロン酸、4-シクロヘキシルボロン酸、2-フルオロ-4-プロピルフェニルボロン酸、3-フルオロ-4-プロピルフェニルボロン酸、2,3-ジフルオロ-4-プロピルフェニルボロン酸、4-(4-フルオロシクロヘキシル)-フェニルボロン酸、4-(4-プロピルシクロヘキシル)フェニルボロン酸、4’-メチルビフェニルボロン酸、4’-エチルビフェニルボロン酸、4’-プロピルビフェニルボロン酸、4’-ブチルビフェニルボロン酸、4’-フェニルビフェニルボロン酸、4’-ヘキシルビフェニルボロン酸、2-フルオロ-4’-プロピルビフェニルボロン酸、3-フルオロ-4’-プロピルビフェニルボロン酸、2-フルオロ-4’-ペンチルビフェニルボロン酸、3-フルオロ-4’-ペンチルビフェニルボロン酸等の置換又は無置換のフェニルボロン酸化合物等が挙げられる。
【0080】
無機ホウ素化合物としては、特に制限はなく、ホウ酸、三酸化ホウ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム・十水和物)等が挙げられる。
【0081】
これらのホウ素化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0082】
なかでも、有機ホウ素化合物としては、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、フェニルボロン酸化合物が好ましく、フェニルボロン酸がより好ましい。
【0083】
また、無機ホウ素化合物としては、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、ホウ酸、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム・十水和物)等が好ましく、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム・十水和物)がより好ましい。
【0084】
本発明の木質材料用難燃剤に難燃成分として含まれるホウ素化合物の含有量は、特に制限されないが、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、各難燃成分及び後述する溶媒の総量を100質量%として、0.05質量%以上の量で含まれることが好ましく、0.1質量%以上の量で含まれることがより好ましい。その一方で、前記ホウ素化合物が、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、各難燃成分及び後述する溶媒の総量を100質量%として、2.0質量%以下の量で含まれることが好ましく、1.5質量%以下の量で含まれることがより好ましく、1.2質量%以下の量で含まれることがさらに好ましい。
【0085】
ここで上記総量とは、有機リン化合物、窒素化合物、ホウ素化合物及び後述する溶媒との合計質量を意味する。ただし、後述する無機リン化合物をさらに含む場合は、有機リン化合物、窒素化合物、無機リン化合物、ホウ素化合物及び後述する溶媒との合計質量を意味する。
【0086】
(1-4)無機リン化合物
本発明の木質材料用難燃剤は、必要に応じて、一般式(3):
【0087】
【化6】
[一般式(3)中、kは0以上100以下の整数を示す。]
で表される無機リン化合物を難燃成分として含んでもよい。
【0088】
本発明の木質材料用難燃剤が、有機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物に加えて、無機リン化合物を難燃成分としてさらに含むことで、低吸湿性を維持しつつ、得られる難燃性木質材料の難燃性及び木質材料用難燃剤の低温環境における保存安定性をさらに向上させやすい。
【0089】
無機リン化合物を難燃成分としてさらに含む本発明の木質材料用難燃剤もまた、所望の難燃性及び保存安定性に応じて、適宜希釈して用いることができる。 無機リン化合物の中で、好ましくは、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率等の観点から、前記一般式(3)において、kが0以上3以下の整数である化合物である。
【0090】
具体的には、無機リン化合物として、例えば、リン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げられる。
【0091】
これらの無機リン化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0092】
これらの中でも、好ましい無機リン化合物は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率等の観点から、リン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等であり、より好ましくは、リン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸である。
【0093】
前記木質材料用難燃剤が、無機リン化合物を難燃成分としてさらに含む場合、有機リン化合物、窒素化合物及び無機リン化合物の3成分の割合は特に限定されない。
【0094】
例えば、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、窒素化合物が、前記有機リン化合物の酸価に対して1モル当量と前記無機リン化合物の酸価に対して1モル当量との総和に対し、0.95倍以上の量で含まれることが好ましく、0.97倍以上の量で含まれることがより好ましく、0.98倍以上の量で含まれることがさらに好ましい。上記条件を満たすように窒素化合物を含むことで、より低吸湿性に優れた難燃性木質材料を得やすい。その一方で、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、前記窒素化合物が、前記有機リン化合物の酸価に対して1モル当量と前記無機リン化合物の酸価に対して1モル当量との総和に対し、1.4倍以下の量で含まれることが好ましく、1.2倍以下の量で含まれることがより好ましく、1.1倍以下の量で含まれることがさらに好ましく、1.05倍以下の量で含まれることが特に好ましい。
【0095】
ここで、有機リン化合物の酸価及びその測定方法は、上記と同じである。また、本明細書において、無機リン化合物の酸価とは、pHが7以上11以下の範囲内に現れる中和点(変曲点)を終点とし、前記終点までに要する溶液量から算出される数値のことである。なお、酸価の測定は、JIS K 0070の電位差滴定法に準じて、無機リン化合物単体若しくはその溶液を試料として、滴定にアルカリ溶液を用いて行う。
【0096】
本発明の木質材料用難燃剤が、リン化合物として有機リン化合物及び無機リン化合物の両方を難燃成分として含む場合、前記有機リン化合物と前記無機リン化合物との割合は、難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、質量比で1:99~75:25であることが好ましく、10:90~70:30であることがより好ましい。
【0097】
(1-5)溶媒
本発明の木質材料用難燃剤は溶媒を含んでいるので、難燃成分が溶解若しくは分散された、難燃剤溶液又は難燃剤懸濁液として用いることができる。
【0098】
溶媒としては、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、二硫化炭素等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0099】
難燃剤溶液又は難燃剤懸濁液における本発明の木質材料用難燃剤の濃度は特に限定されない。難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、例えば、難燃剤溶液又は難燃剤懸濁液の総量を100質量%として、難燃成分を4質量%以上含むことが好ましく、8質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上含むことがさらに好ましく、25質量%以上含むことが特に好ましい。濃度の上限値も特に限定されない。難燃性、保存安定性(特に低温環境での保存安定性)、吸湿率、濡れの抑制等の観点から、例えば、難燃剤溶液又は難燃剤懸濁液の総量を100質量%として、難燃成分を60質量%以下の量で含むことが好ましく、50質量%以下の量で含むことがより好ましい。
【0100】
本発明の木質材料用難燃剤は、窒素化合物と有機リン化合物とが結合して塩を形成することができる。また、本発明の木質材料用難燃剤が無機リン化合物をさらに含む場合は、窒素化合物と有機リン化合物とが、並びに窒素化合物と無機リン化合物とが結合し、それぞれ塩を形成することができる。これらの塩は、従来公知の木質材料用難燃剤に見られるような、潮解性又は吸湿性を示さない。よって、本発明の木質材料用難燃剤を木質材料に含ませることで、湿気による難燃剤の滲み出しを十分に抑制することができる。
【0101】
本発明の木質材料用難燃剤は、必要に応じて、有機リン化合物、窒素化合物、ホウ素化合物及び無機リン化合物以外の公知の難燃剤を含むことができる。このような難燃剤として、変性カルバミルポリリン酸アンモニウム系難燃剤、リン酸グアニジン系難燃剤、スルファミン酸グアニジン系難燃剤等を挙げることができる。前記難燃剤の添加量は、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜調整することができる。
【0102】
本発明の木質材料用難燃剤は、必要に応じて、有機リン化合物、窒素化合物、ホウ素化合物及び無機リン化合物以外の公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤として、尿素化合物(尿素、グアニル尿素硫酸塩)等の他、染料、着色顔料、消泡剤、分散剤、乳化剤、浸透剤、塩化合物等を挙げることができる。前記添加剤により、木質材料に難燃性以外の効果を付与することも可能である。前記添加剤の添加量は、木質材料の難燃性を阻害しない範囲で適宜調整することができる。 以上のような本発明の木質材料用難燃剤の製造方法は、特に制限されず、同時又は逐次的に添加することができる。例えば、有機リン化合物の溶液と、窒素化合物と、ホウ素化合物とを、同時又は逐次的に添加することができる。本発明の木質材料用難燃剤に無機リン化合物を含む場合は、例えば、有機リン化合物及び無機リン化合物の溶液と、窒素化合物と、ホウ素化合物とを、同時又は逐次的に添加することができる。
【0103】
2.難燃性木質材料
本発明の難燃性木質材料は、木質材料が、上述した本発明の木質材料用難燃剤で難燃処理されている。よって、本発明の難燃性木質材料は、木質材料中に、上述した難燃成分、又は、前記難燃成分及び溶媒を含んだ本発明の木質材料用難燃剤を含有している。難燃性木質材料中に特定構造の有機リン化合物、特定構造の窒素化合物、ホウ素化合物、及び必要により特定構造の無機リン化合物が難燃成分として含まれることにより、低吸湿性を維持し、濡れの発生を抑制しつつも、さらに優れた難燃性を発揮することができる。
【0104】
本発明の難燃性木質材料中に含まれる本発明の木質材料用難燃剤の量は、特に限定されない。求められる難燃性能に応じて、含有量を適宜調整することができる。
【0105】
本発明の難燃性木質材料は、難燃処理が施されていない木質材料と比べて、ISO5660-1準拠による総発熱量及び最大発熱速度が低減される。このことから、本発明の木質材料用難燃剤は、木質材料に、接炎後の延焼を抑制する効果、並びに接炎時の引火及び着火を抑制する効果を付与することができることがわかる。
【0106】
接炎時の引火及び着火を抑制する観点から、本発明の難燃性木質材料中には、本発明の木質材料用難燃剤中に含有される難燃成分が、以下の式(a)の含浸量で20kg/m
3以上含まれることが好ましい。
【数2】
【0107】
難燃成分が20kg/m3以上の含浸量で含まれることにより、本発明の難燃性木質材料はより優れた難燃性能を発揮することができる。含浸量の下限値は、50kg/m3以上が好ましく、100kg/m3以上がより好ましい。前記含浸量の上限値は、特に限定されない。本発明の難燃性木質材料の輸送時又は建築作業時の取り扱いの観点から、550kg/m3以下が好ましく、450kg/m3以下がより好ましい。
【0108】
ここで上記「難燃成分」とは、有機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物の各成分のことを指し、式(a)において「難燃成分の質量」とは、有機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物との合計質量を意味する。ただし、無機リン化合物をさらに含む場合は、「難燃成分」とは、有機リン化合物、無機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物の各成分のことを指し、式(a)において「難燃成分の質量」とは、有機リン化合物、無機リン化合物、窒素化合物及びホウ素化合物との合計質量を意味する。
【0109】
難燃化の対象である木質材料の形状は特に制限はない。例えば、木材を機械的に破砕若しくは切削し、又は化学的に処理して、細片状(チップ、ストランド等)、木毛状等としたものを原料として製造される、合板、合板用単板、集成材、パーティクルボード、ファイバーボード等;天然の木材から切り出された板材、紙、パルプ等が挙げられる。木質材料の用途についても特に制限はなく、家具、住宅建築材料等を木質材料として使用することができる。木材の種類についても特に制限はなく、カエデ、カシ、キリ、クリ、ケヤキ、ブナ、カバ、ヤチダモ、スギ、ヒノキ、マツ、イチョウ、イブキ、ツガ等が挙げられる。
【0110】
これらの木質材料は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0111】
本発明では、建築用木材として、サイズの大きな材木を使用するために、難燃剤が木材の中心部分まで含浸しにくい場合であっても、難燃性能を十分に向上させることが可能である。
【0112】
3.難燃性木質材料の製造方法
木質材料を難燃化して難燃性木質材料を製造するための処理方法は公知の方法を使用することができ、例えば、塗布、コーティング、含浸、注入等が挙げられる。この中で、難燃性能の観点から、含浸及び注入による処理方法が好ましい。
【0113】
本発明の木質材料用難燃剤は、難燃成分を溶媒に溶解させた溶液又は分散させた懸濁液であるので、このまま含浸処理及び/又は注入処理に用いることができる。
【0114】
溶媒としては、上記したものを採用できる。
【0115】
含浸処理を行う方法は特に限定されず、加圧による含浸処理方法、減圧による含浸処理方法、常圧による含浸処理方法、及びこれらを組み合わせた含浸処理方法等が挙げられる。いずれの方法を用いてもよいが、本発明の木質材料用難燃剤を容易に注入する観点から、少なくとも加圧による含浸処理方法又は減圧による含浸処理方法を含むことが好ましく、少なくとも減圧による含浸処理方法を含むことがより好ましい。加圧は通常200~3000kPa程度、好ましくは400~2000kPa程度で、減圧は通常0.1~50kPa程度、好ましくは2~30kPa程度で実施することができる。含浸処理時間は特に限定されず、難燃化処理を行う木質材料の大きさに合わせて適宜変更することができる。例えば、5分間~24時間程度とすることができる。
【0116】
含浸処理を行うときの、本発明の木質材料用難燃剤溶液(難燃剤溶液又は難燃剤懸濁液)の温度は特に限定されない。室温(15~25℃程度)でもよいし、必要に応じて、25~100℃の範囲に調節してもよい。
【0117】
本発明の難燃性木質材料は、必要とされる難燃性能に応じて木質材料用難燃剤中に含有する難燃成分の含浸量を適宜調節することができる。含浸量は、木質材料単位体積あたりの注入した木質材料用難燃剤中に含有する難燃成分の質量(単位:kg/m
3又はg/cm
3)で表される。また、乾燥時の木質材料に対して注入した難燃成分の質量は、以下の式(b)で表される含浸量で表すことができる。よって、該含浸量が所望の含浸量、例えば、20kg/m
3以上になるように、前記木質材料用難燃剤中に含有する難燃成分の注入量を調節することができる。
【数3】
【0118】
含浸量の下限値は、20kg/m3以上が好ましく、50kg/m3以上がより好ましく、100kg/m3以上がさらに好ましい。前記含浸量の上限値は、特に限定されず、550kg/m3以下が好ましく、450kg/m3以下がより好ましい。
【0119】
含浸処理を行うに際し、処理に供する木質材料は、予め乾燥させておくことが好ましい。乾燥方法は、天日乾燥、加熱炉を用いた強制乾燥等のいずれでもよい。乾燥の程度は、通常、木材に反り、割れ等が生じない範囲で可能な限り乾燥させるのが好ましい。
【0120】
含浸処理後の木質材料は、乾燥させることが好ましい。乾燥の温度は、通常30~150℃程度、好ましくは50~100℃程度で行うことができる。乾燥炉は溶媒の沸点以上に加熱できるものであればよく、例えば、熱風式乾燥炉、赤外線式乾燥炉等を使用することができる。また、含浸処理後の木質材料は、乾燥させる前に、水分を含んだ状態で養生処理を行ってもよい。含浸処理後の木質材料に対して乾燥前に養生処理を行うことで、木質材料の内部まで本発明の木質材料用難燃剤の難燃成分が浸透し、難燃性能をさらに向上させることができる。
【0121】
本発明の難燃性木質材料は、必要に応じて、有機リン化合物、窒素化合物、ホウ素化合物及び無機リン化合物以外の公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤として、染料、着色顔料、消泡剤、分散剤、乳化剤、浸透剤、塩化合物等を挙げることができる。前記添加剤は、含浸処理に使用される本発明の木質材料用難燃剤溶液(難燃剤溶液又は難燃剤懸濁液)中に添加して含浸処理することにより、木質材料に難燃性以外の効果を付与することができる。前記添加剤の添加量は、木質材料の難燃性を阻害しない範囲で適宜調整すればよい。
【0122】
本発明の難燃性木質材料は、難燃性に優れている。よって、本発明の難燃性木質材料はそのまま、住宅、店舗、及びその他の建築構造物の内外装、家具材、土木基礎材等に利用することができる。また、木質材料の表面を公知の防水剤を用いて防水塗装して用いることも可能である。
【実施例0123】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0124】
以下の実施例に用いる有機リン化合物及び無機リン化合物の酸価(KOHmg/g)を、JIS K0070 電位差滴定法に準じて測定した。滴定には、平沼産業株式会社製 平沼自動滴定装置COM-1700を用いた。
【0125】
実験例1
以下の方法に従い、木質材料用難燃剤溶液を作製した。
【0126】
<製造例1>
60質量%の1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(以下、「HEDP」と略記することがある)水溶液(酸価:505mg-KOH/g、東京化成工業(株)製)702.2g、及び水2838.7gを容器に取り、溶解するまで撹拌した。この水溶液に、撹拌しながら炭酸グアニジン(東京化成工業(株)製)580.0gを加え、木質材料用難燃剤(固体換算19.8質量%)を調製した。炭酸グアニジンの使用量は、HEDPの酸価に対して1.02 モル当量であった。
【0127】
<実施例1>
製造例1で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながら四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂;キシダ化学(株)製)19.9gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。四ホウ酸ナトリウムの使用量は、HEDP、グアニジン、四ホウ酸ナトリウム及び水の総量を100質量%として、0.26質量%であった。
【0128】
<比較例1>
製造例1で得られた木質材料用難燃剤に添加剤を加えず使用した。
【0129】
[発熱性試験]
(1)難燃性木質材料試験片の製造
含浸用難燃剤水溶液として実施例1および比較例1で調製した木質材料用難燃剤を使用した。木質材料として、100mm×100mm×18mmのスギ辺材板目板を使用した。上記木質材料を60℃の送風乾燥器で十分に乾燥し、初期乾燥後の質量Wiを秤量した。上記木質材料を木質材料用難燃剤の溶液中に沈め、室温(20℃)で減圧装置を用いて5~7kPaで3~4時間減圧した後、常圧に戻して室温で一晩浸漬し含浸処理した。その後、含浸処理した木質材料を上記木質材料用難燃剤の溶液から取り出し、室温(23℃)で4日間養生処理を行い、送風乾燥器に入れて40℃で4日間乾燥した後、60℃の送風乾燥器で恒量になるまで乾燥し、難燃性木質材料を得た。難燃性木質材料試験片の質量Wtを計測し、以下の式(b)により含浸量を算出した。
【数4】
【0130】
(2)発熱性試験
発熱性試験は、上記(1)で作製した難燃性木質材料試験片を用いて、ISO5660-1に準拠して、コーンカロリーメーターにより試験を行い、以下の3つの基準に基づいて難燃性を評価した。なお、放射照度は50kW/m2とした。
(1)総発熱量が8MJ/m2以下。
(2)最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないこと。
(3)防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと。
【0131】
上記3つの基準を、いずれも10分間満たしたものを「1」とし、いずれも20分間満たしたものを「2」とし、いずれも20分間満たし且つ総発熱量が5MJ/m2以下であるものを「3」とし、いずれにも該当しないものを「0」として難燃性を評価した。結果を表1に示す。
【0132】
[保存安定性試験]
実施例1及び比較例1で調製した木質材料用難燃剤に結晶核を追加し、5℃の冷蔵室で静置し、7日間経過後の状態を目視により確認した。この結果、底面積の半分以上の面積において結晶の析出が広がっている状態を「0」とし、底面積の半分未満の面積において結晶の析出が認められる場合を「1」とし、結晶の析出がない場合を「2」として低温環境における保存安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0133】
[吸湿性試験]
各難燃性木質材料を40℃、90%RHの恒温恒湿器に恒量になるまで放置し、下式により吸湿率を算出した。
【数5】
【0134】
吸湿率が25%以下のものを「4」とし、25%を超え30%以下のものを「3」とし、30%を超え40%以下のものを「2」とし、40%を超え50%以下のものを「1」とし、50%を超えるものを「0」とした。結果を表1に示す。
【0135】
[表面の濡れの有無]
吸湿性試験後、各難燃性木質材料の表面の状態を目視により確認した。木質材料の表面全体にわたって濡れが認められる場合を「あり」とし、それ以外の場合を「なし」とした。結果を表1に示す。
【0136】
【0137】
表1より、実施例1の木質材料用難燃剤は、有機リン化合物及び窒素化合物に加えて、ホウ素化合物をさらに含むことで、高難燃化及び結晶析出抑制(保存安定性向上)が達成されていることが確認された。
【0138】
実験例2
以下の方法に従い、木質材料用難燃剤を作製した。
【0139】
<製造例2>
60質量%の1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(以下、「HEDP」と略記することがある)水溶液(酸価:505mg-KOH/g、東京化成工業(株)製)576.2g、ピロリン酸(酸価:1170mgKOH/g、キシダ化学(株)製)230.4g(HEDP:ピロリン酸の質量比=60:40)、及び水1647.0gを容器に取り、溶解するまで撹拌した。この水溶液に、撹拌しながら炭酸グアニジン(東京化成工業(株)製)900.3gを加え、木質材料用難燃剤(固体換算37.7質量%)を調製した。炭酸グアニジンの使用量は、HEDPの酸価に対して1モル当量とピロリン酸の酸価に対して1モル当量との総和に対して、1.0倍の量であった。
【0140】
<実施例2>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながらホウ酸(キシダ化学(株)製)15.7gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。ホウ酸の使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、ホウ酸及び水の総量を100質量%として、0.5質量%であった。
【0141】
<実施例3>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながらホウ酸(キシダ化学(株)製)31.3gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。ホウ酸の使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、ホウ酸及び水の総量を100質量%として、1.0質量%であった。
【0142】
<実施例4>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながら四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂;キシダ化学(株)製)15.7gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。四ホウ酸ナトリウムの使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂)及び水の総量を100質量%として、0.26質量%であった。
【0143】
<実施例5>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながら四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂;キシダ化学(株)製)31.3gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。四ホウ酸ナトリウムの使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂)及び水の総量を100質量%として、0.52質量%であった。
【0144】
<実施例6>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながらフェニルボロン酸(東京化成工業(株)製)3.1gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。フェニルボロン酸の使用量は、HEDP、炭酸グアニジン、ピロリン酸、フェニルボロン酸及び水の総量を100質量%として、0.1質量%であった。
【0145】
<実施例7>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながらフェニルボロン酸(東京化成工業(株)製)31.3gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。フェニルボロン酸の使用量は、HEDP、炭酸グアニジン、ピロリン酸、フェニルボロン酸及び水の総量を100質量%として、1.0質量%であった。
【0146】
<実施例8>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながらホウ酸(キシダ化学(株)製)15.7g及び四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂;キシダ化学(株)製)15.7gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。ホウ酸の使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂)及び水の総量を100質量%として、0.5質量%であり、四ホウ酸ナトリウムの使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂)及び水の総量を100質量%として、0.26質量%であった。つまり、ホウ素化合物の使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム・十水和物(ホウ砂)及び水の総量を100質量%として、合計で0.76質量%であった。
【0147】
<実施例9>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながらフェニルボロン酸(東京化成工業(株)製)15.7g及び尿素(キシダ化学(株)製)7.8gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。フェニルボロン酸の使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、フェニルボロン酸及び水の総量を100質量%として、0.5質量%であった。
【0148】
<比較例2>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に添加剤を加えず使用した。
【0149】
<比較例3>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤の代わりに、市販のリン酸グアニジン系難燃剤(固体換算50質量%)を添加剤未添加で使用した。
【0150】
<比較例4>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤の代わりに、特許文献2(特開2007-55271号公報)を参考に、ホウ酸を主成分とする木質材料用難燃剤を使用した。水900gを容器の中に入れて90℃に加熱した後、四ホウ酸ナトリウム・10水和物(ホウ砂;キシダ化学(株)製)350gとリン酸アルミニウム(キシダ化学(株)製)5gとホウ酸(キシダ化学(株)製)150gとを加えて液が透明になるまで攪拌し、さらに液温が92℃になるまで液を加熱することによって木質材料用難燃剤(固体換算36質量%)を調製した。
【0151】
<比較例5>
製造例2で得られた木質材料用難燃剤に、撹拌しながら硫酸アンモニウム(キシダ化学(株)製)31.3gを加え、木質材料用難燃剤を調製した。硫酸アンモニウムの使用量は、HEDP、グアニジン、ピロリン酸、硫酸アンモニウム及び水の総量を100質量%として、1.0質量%であった。
【0152】
[発熱性試験]
含浸用難燃剤水溶液として実施例2~9及び比較例2~3で調製した木質材料用難燃剤を固体換算28質量%に水で希釈して使用し、実験例1と同様の方法で難燃性を評価した。結果を表2に示す。
【0153】
[保存安定性試験]
実施例2~9及び比較例2~5で調製した木質材料用難燃剤を希釈せずに使用し、実験例1と同様の方法で結晶析出性を評価した。結果を表2に示す。
【0154】
[ 吸湿性試験]
含浸用難燃剤水溶液として実施例2~9及び比較例2~5で調製した木質材料用難燃剤を希釈せずに使用し、実験例1と同様の方法で吸湿性を評価した。結果を表2に示す。
【0155】
[表面の濡れの有無]
含浸用難燃剤水溶液として実施例2~9及び比較例2~5で調製した木質材料用難燃剤を希釈せずに使用し、実験例1と同様の方法で濡れの有無を確認した。結果を表2に示す。
【0156】
【0157】
表2より、実施例2~9の木質材料用難燃剤は、有機リン化合物、窒素化合物及び無機リン化合物に加えて、ホウ素化合物を難燃成分としてさらに含むことで、濡れの抑制、高難燃化及び結晶析出抑制(保存安定性向上)が達成されていることが確認された。