(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028758
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】測定装置、方法、プログラム、記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01R 31/50 20200101AFI20230224BHJP
G01R 31/54 20200101ALI20230224BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20230224BHJP
【FI】
G01R31/50
G01R31/54
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134646
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100113354
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 総
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャン
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英志
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AA03
2G014AB31
2G014AC07
(57)【要約】
【課題】分岐を有する配線の欠陥測定を向上させる。
【解決手段】配線測定装置1は、配線2の一端(プローブ)Prに所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、一端Prに反射される反射信号y(t)を測定する反射信号測定部11と、反射信号y(t)のうち欠陥に従属する欠陥従属成分DDRに比例し、欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分γ
shortest
2*δ(t)を、欠陥候補位置B4、B5ごとに導出する一定値成分導出部15と、反射信号y(t)の測定結果から、反射信号のうち欠陥とは独立している欠陥独立成分DIRを減じて、欠陥従属成分DDRを、欠陥候補位置B4、B5ごとに導出する欠陥従属成分導出部13と、一定値成分および欠陥従属成分DDRが極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の欠陥候補位置を欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定部17とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定装置であって、
前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定部と、
前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出部と、
前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出部と、
前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定部と、
を備えた測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置であって、
特定された前記欠陥の位置における前記一定値成分の極値に対する前記欠陥従属成分の極値の比に基づき、前記欠陥の種類を特定する欠陥種類特定部を備えた測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の測定装置であって、
前記欠陥種類特定部は、前記欠陥の種類を、
前記比が1である場合は、オープン
前記比が0を超え、かつ、1未満である場合は、抵抗性オープン、
前記比が0未満、かつ、-1を超える場合は、抵抗性ショート、
前記比が-1である場合は、ショートである、
と特定する測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記配線が、伝送線路を有し、
前記欠陥候補位置が、前記伝送線路の端部に位置しており、
前記伝送線路の特性インピーダンス、長さおよび電磁波の伝搬速度が既知である、
測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記反射信号が、前記欠陥従属成分と前記欠陥独立成分との和である、
測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記入射信号がパルスである測定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記欠陥候補位置にオープンが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyopen(t)とし、
前記欠陥候補位置にショートが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyshort(t)としたときに(ただし、tは時間)、
前記一定値成分が、yopen(t)およびyshort(t)に基づき導出される、
測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の測定装置であって、
前記一定値成分が、(yopen(t)-yshort(t))/2である、
測定装置。
【請求項9】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記欠陥候補位置にオープンが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyopen(t)とし、
前記欠陥候補位置にショートが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyshort(t)としたときに(ただし、tは時間)、
前記欠陥独立成分が、yopen(t)およびyshort(t)に基づき導出される、
測定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の測定装置であって、
前記欠陥独立成分が、(yopen(t)+yshort(t))/2である、
測定装置。
【請求項11】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記欠陥候補位置の全てにおいて欠陥が存在しないと仮定した場合の前記反射信号である理想反射信号と、前記反射信号の測定結果とが一致している時間の範囲外に関する前記欠陥候補位置についてのみ、前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内であるか否かを判定する測定装置。
【請求項12】
欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定方法であって、
前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定工程と、
前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出工程と、
前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出工程と、
前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定工程と、
を備えた測定方法。
【請求項13】
欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記測定処理が、
前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定工程と、
前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出工程と、
前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出工程と、
前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定工程と、
を備えたプログラム。
【請求項14】
欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、
前記測定処理が、
前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定工程と、
前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出工程と、
前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出工程と、
前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定工程と、
を備えた記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TDR(Time Domain Reflectometry)による配線の不良の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、TDRによる配線の不良の測定が知られている(特許文献1および特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-192239号公報
【特許文献2】特開2015-118045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、測定対象である配線が分岐(特に、複数の分岐)を有していると、欠陥独立反射(Defect independent Reflection: DIR)が無視できなくなるため、TDRの波形が複雑となり、不良の測定が困難となる。
【0005】
そこで、本発明は、分岐を有する配線の欠陥測定を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる測定装置は、欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定装置であって、前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定部と、前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出部と、前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出部と、前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定部とを備えるように構成される。
【0007】
上記のように構成された測定装置は、欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定するものである。反射信号測定部が、前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する。一定値成分導出部が、前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する。欠陥従属成分導出部が、前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する。欠陥位置特定部が、前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する。
【0008】
なお、本発明にかかる測定装置は、特定された前記欠陥の位置における前記一定値成分の極値に対する前記欠陥従属成分の極値の比に基づき、前記欠陥の種類を特定する欠陥種類特定部を備えるようにしてもよい。
【0009】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記欠陥種類特定部は、前記欠陥の種類を、前記比が1である場合はオープン、前記比が0を超え、かつ、1未満である場合は抵抗性オープン、前記比が0未満、かつ、-1を超える場合は抵抗性ショート、前記比が-1である場合はショートであると特定するようにしてもよい。
【0010】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記配線が、伝送線路を有し、前記欠陥候補位置が、前記伝送線路の端部に位置しており、前記伝送線路の特性インピーダンス、長さおよび電磁波の伝搬速度が既知であるようにしてもよい。
【0011】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記反射信号が、前記欠陥従属成分と前記欠陥独立成分との和であるようにしてもよい。
【0012】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記入射信号がパルスであるようにしてもよい。
【0013】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記欠陥候補位置にオープンが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyopen(t)とし、前記欠陥候補位置にショートが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyshort(t)としたときに(ただし、tは時間)、前記一定値成分が、yopen(t)およびyshort(t)に基づき導出されるようにしてもよい。
【0014】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記一定値成分が、(yopen(t)-yshort(t))/2であるようにしてもよい。
【0015】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記欠陥候補位置にオープンが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyopen(t)とし、前記欠陥候補位置にショートが存在したと仮定した場合の前記反射信号をyshort(t)としたときに(ただし、tは時間)、前記欠陥独立成分が、yopen(t)およびyshort(t)に基づき導出されるようにしてもよい。
【0016】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記欠陥独立成分が、(yopen(t)+yshort(t))/2であるようにしてもよい。
【0017】
なお、本発明にかかる測定装置は、前記欠陥候補位置の全てにおいて欠陥が存在しないと仮定した場合の前記反射信号である理想反射信号と、前記反射信号の測定結果とが一致している時間の範囲外に関する前記欠陥候補位置についてのみ、前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0018】
本発明は、欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定方法であって、前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定工程と、前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出工程と、前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出工程と、前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定工程とを備えた測定方法である。
【0019】
本発明は、欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記測定処理が、前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定工程と、前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出工程と、前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出工程と、前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定工程とを備えたプログラムである。
【0020】
本発明は、欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する配線を測定する測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、前記測定処理が、前記配線の一端に所定の波形を有する入射信号が与えられた結果、前記一端に反射される反射信号を測定する反射信号測定工程と、前記反射信号のうち前記欠陥に従属する欠陥従属成分に比例し、前記欠陥の種類によらず一定の値を有する一定値成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する一定値成分導出工程と、前記反射信号の測定結果から、前記反射信号のうち前記欠陥とは独立している欠陥独立成分を減じて、前記欠陥従属成分を、前記欠陥候補位置ごとに導出する欠陥従属成分導出工程と、前記一定値成分および前記欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の前記欠陥候補位置を前記欠陥の位置であると特定する欠陥位置特定工程とを備えた記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態にかかる配線測定装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態にかかる配線測定装置1の測定対象の一例である配線2’の構成を示す回路図である。
【
図3】本発明の実施形態にかかる配線測定装置1の測定対象のさらなる一例である配線2の構成を示す回路図である。
【
図4】一定値成分C(B1)、C(B2)、C(B3)、C(B4)、C(B5)を示すグラフである。
【
図5】反射信号(の測定結果)y(t)、理想反射信号、C(B4)、C(B5)を示すグラフである。
【
図6】一定値成分C(B4)、C(B5)および欠陥従属成分DDR(B4)、DDR(B5)を示すグラフである。
【
図7】反射信号(の測定結果)y(t)、理想反射信号、C(B4)、C(B5)の別の例を示すグラフである。
【
図8】一定値成分C(B4)、C(B5)および欠陥従属成分DDR(B4)、DDR(B5)の別の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態にかかる配線測定装置1の構成を示す機能ブロック図である。
図2は、本発明の実施形態にかかる配線測定装置1の測定対象の一例である配線2’の構成を示す回路図である。
【0024】
本発明の実施形態にかかる配線測定装置1は、反射信号測定部11、欠陥従属成分導出部13、仮想反射信号記録部14、一定値成分導出部15、欠陥位置特定部17、欠陥種類特定部19を備える。
【0025】
図2を参照して、配線測定装置1の測定対象である配線2’は、その一端にプローブPrを有する。配線2’は、k個(ただし、kは2以上の整数)の伝送線路101-1、101-2、…、101-k、k個の伝送線路102-1、102-2、…、102-k、負荷Z
Lを有する。配線測定装置1は、配線2’を測定する。
【0026】
配線2’は、欠陥が生じる可能性のある位置である欠陥候補位置を有する。
図2おいては、負荷Z
Lが欠陥候補位置である。ただし、欠陥は、オープン、抵抗性オープン、抵抗性ショートまたはショートの4種類のいずれかである。
【0027】
プローブPrは、伝送線路101-1、101-2、…および101-kを介して、負荷ZLに接続されている。なお、伝送線路101-1、101-2、…および101-kは直列に接続されている。また、伝送線路101-1、101-2、…および101-kの伝搬係数はP1、P2、…、Pkである。なお、伝送線路101-1、101-2…、101-kとその左隣の部材(プローブPr、伝送線路101-1、…、伝送線路101-(k-1))との間の配線の伝達係数はT1、T2、…、Tkである。
【0028】
伝送線路101-1、101-2、…および101-kのプローブPr側(
図2おいては左側)の端部には、伝送線路102-1、102-2、…、102-kが接続されている。伝送線路102-1、102-2、…、102-k、負荷Z
Lへの左側からの部材(プローブPr、伝送線路101-1、…、101-(k-1)、101-k)からの入力の伝達係数はΓ
1、Γ
2、…、Γ
k、Γ
k+1である。伝送線路102-1、102-2、…、102-kへの右側からの部材(伝送線路101-1、101-2、…、101-k)からの入力の伝達係数はΓ
1’、Γ
2’、…、Γ
k’である。
【0029】
配線2’の一端(プローブPr)に所定の波形(例えば、パルス)を有する入射信号が与えられる。この結果、プローブPrに反射される反射信号y(t)を、反射信号測定部11が測定する。ただし、tは時間である。
【0030】
ここで、γshortest(=T1・P1・T2・P2・…・Tk・Pk)を下記の式(1)のように定義する。
【0031】
【数1】
すると、反射信号y(t)は下記の式(2)のように表される。
【0032】
【数2】
ただし、δ(t)は入射信号であり、g(t)は欠陥とは独立している(無関係の)係数である。Γ
k+1は負荷Z
Lの欠陥により定まる。すなわち、
負荷Z
Lの欠陥がオープンの場合は、Γ
k+1=1
負荷Z
Lの欠陥が抵抗性オープンの場合は、Γ
k+1が0を超え、かつ、1未満
負荷Z
Lの欠陥が抵抗性ショートの場合は、Γ
k+1が0未満、かつ、-1を超え、
負荷Z
Lの欠陥がショートの場合は、Γ
k+1=-1
である。
【0033】
ここで、式(2)の第1項(Γk+1γshortest
2*δ(t)))を、反射信号y(t)のうち欠陥に従属する欠陥従属成分(DDR:Defect Dependent Reflection)という。欠陥の種類によってΓk+1が変動するが、γshortest
2*δ(t)(「一定値成分」という)は、欠陥従属成分(DDR)に比例し、欠陥の種類によらず(すなわち、Γk+1の値によらず)一定の値を有する。式(2)の第2項(g(t)*δ(t))は、欠陥とは独立している欠陥独立成分(DIR:Defect Independent Reflection)という。すると、反射信号y(t)は、欠陥従属成分(DDR)と欠陥独立成分(DIR)との和といえる。
【0034】
また、欠陥候補位置(負荷ZL)にオープンが存在したと仮定した場合(Γk+1=1)の反射信号y(t)を仮想反射信号yopen(t)とする。さらに、欠陥候補位置(負荷ZL)にショートが存在したと仮定した場合(Γk+1=-1)の反射信号y(t)を仮想反射信号yshort(t)とする。
【0035】
すると、仮想反射信号y
open(t)およびy
short(t)は下記の式(3)および式(4)のように表される。なお、仮想反射信号y
open(t)およびy
short(t)は、欠陥候補位置(
図2においては負荷Z
L)(
図3においてはB1、B2、B3、B4およびB5)ごとに導出される。
【0036】
【数3】
仮想反射信号記録部14は、仮想反射信号y
open(t)およびy
short(t)を記録する。
【0037】
すると、一定値成分γshortest
2*δ(t)は、下記の式(5)のように、欠陥独立成分g(t)*δ(t)(DIR)は、下記の式(6)のように表される。
【0038】
【数4】
一定値成分導出部15は、一定値成分を、欠陥候補位置(
図2においては負荷Z
L)(
図3においてはB1、B2、B3、B4およびB5)ごとに導出する。一定値成分導出部15は、一定値成分を、y
open(t)およびy
short(t)に基づき導出する。具体的には、一定値成分導出部15は、式(5)のようにして、一定値成分を導出する。
【0039】
欠陥従属成分導出部13は、欠陥独立成分を、yopen(t)およびyshort(t)に基づき導出する。具体的には、欠陥従属成分導出部13は、式(6)のようにして、欠陥独立成分を導出する。
【0040】
欠陥従属成分導出部13は、さらに、反射信号y(t)の測定結果から、欠陥独立成分(DIR)(g(t)*δ(t))を減じて、欠陥従属成分(DDR)(Γ
k+1γ
shortest
2*δ(t)))を、欠陥候補位置(
図2においては負荷Z
L)(
図3においてはB1、B2、B3、B4およびB5)ごとに導出する(式(2)参照)。
【0041】
欠陥位置特定部17は、一定値成分γshortest
2*δ(t)および欠陥従属成分(DDR)(Γk+1γshortest
2*δ(t)))が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の欠陥候補位置を欠陥の位置であると特定する。
【0042】
一定値成分は欠陥従属成分に比例しているため、欠陥候補位置に欠陥が存在している場合は、一定値成分および欠陥従属成分が極値をとる時間は、本来、一致するものである(測定誤差による多少のずれはありうる)。そこで、一定値成分および欠陥従属成分が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合は(例えば、
図6および
図8のB5に関するグラフを参照)、欠陥候補位置に欠陥が存在しているとみなす。
【0043】
欠陥種類特定部19は、欠陥位置特定部17により特定された欠陥の位置における一定値成分の極値に対する欠陥従属成分の極値の比(=Γk+1)に基づき、欠陥の種類を特定する。
【0044】
式(2)をΓk+1について解くと、以下の式(7)のようになる。式(7)のg(t)*δ(t)に式(6)を、式(7)のγshortest
2*δ(t)に式(5)を代入すると、式(8)となる。
【0045】
【数5】
すなわち、式(7)および式(8)の右辺においては、分子が、欠陥従属成分導出部13により導出された欠陥従属成分(DDR)であり、分母が、一定値成分導出部15により導出された一定値成分である。
【0046】
欠陥種類特定部19は、式(7)および式(8)の値を、欠陥位置特定部17により特定された欠陥の位置における一定値成分の極値に対する欠陥従属成分の極値の比(=Γ
k+1)として導出する。欠陥種類特定部19は、さらに、
Γ
k+1が1である場合は、欠陥の種類をオープン
Γ
k+1が0を超え、かつ、1未満である場合は、欠陥の種類を抵抗性オープン(
図8参照)、
Γ
k+1が0未満、かつ、-1を超える場合は、欠陥の種類を抵抗性ショート(
図6参照)、
Γ
k+1が-1である場合は、欠陥の種類をショートであると特定する。
【0047】
次に、本発明の実施形態の動作を説明する。
【0048】
図3は、本発明の実施形態にかかる配線測定装置1の測定対象のさらなる一例である配線2の構成を示す回路図である。
【0049】
配線2は、伝送線路Tr1、Tr2、Br1、Br2、Br3、Br4、Br5を有する。伝送線路Tr1、Tr2、Br1、Br2、Br3、Br4、Br5は、特性インピーダンス、長さおよび電磁波の伝搬速度が既知である。配線2は、その一端にプローブPrを有する。
【0050】
伝送線路Tr1の左端にはプローブPrが接続されている。伝送線路Tr1の右端には、伝送線路Tr2、Br1、Br2およびBr3が接続されている。
【0051】
伝送線路Br1の端部(伝送線路Tr1に接続されていない方)には欠陥候補位置B1が位置しており、デバイスD1が接続されている。伝送線路Br2の端部(伝送線路Tr1に接続されていない方)には欠陥候補位置B2が位置しており、デバイスD2が接続されている。伝送線路Br3の端部(伝送線路Tr1に接続されていない方)には欠陥候補位置B3が位置しており、デバイスD3が接続されている。
【0052】
伝送線路Tr2の端部(伝送線路Tr1に接続されていない方)には、伝送線路Br4、Br5が接続されている。
【0053】
伝送線路Br4の端部(伝送線路Tr2に接続されていない方)には欠陥候補位置B4が位置しており、デバイスD4が接続されている。伝送線路Br5の端部(伝送線路Tr2に接続されていない方)には欠陥候補位置B5が位置しており、デバイスD5が接続されている。
【0054】
仮想反射信号記録部14には、予め、仮想反射信号y
open(t)およびy
short(t)が記録されている。仮想反射信号記録部14の記録内容に基づき、一定値成分導出部15が一定値成分を、欠陥候補位置(
図3においてはB1、B2、B3、B4およびB5)ごとに導出する。ここで、欠陥候補位置B1についての一定値成分をC(B1)、欠陥候補位置B2についての一定値成分をC(B2)、欠陥候補位置B3についての一定値成分をC(B3)、欠陥候補位置B4についての一定値成分をC(B4)、欠陥候補位置B5についての一定値成分をC(B5)という。
【0055】
例えば、欠陥候補位置B1についての一定値成分C(B1)は、欠陥候補位置B1にオープンが存在したと仮定した場合の仮想反射信号yopen(t)と、欠陥候補位置B1にショートが存在したと仮定した場合の仮想反射信号yshort(t)とを、式(5)に代入することで求めることができる。
【0056】
図4は、一定値成分C(B1)、C(B2)、C(B3)、C(B4)、C(B5)を示すグラフである。一定値成分C(B1)、C(B2)、C(B3)、C(B4)、C(B5)は、それぞれ、ピークをとる時間が異なる。一定値成分C(B1)、C(B2)、C(B3)がピークをとる時間は170ps未満であり、一定値成分C(B4)、C(B5)がピークをとる時間は170ps以上である。
【0057】
配線2の一端(プローブPr)に入射信号が与えられ、プローブPrに反射された反射信号y(t)が反射信号測定部11により測定される。
【0058】
図5は、反射信号(の測定結果)y(t)、理想反射信号、C(B4)、C(B5)を示すグラフである。なお、理想反射信号とは、欠陥候補位置の全てB1~B5において欠陥が存在しないと仮定した場合の反射信号である。
【0059】
反射信号(の測定結果)y(t)と、理想反射信号とは、時間170psまでは一致していることから、ピークをとる時間は170ps未満である欠陥候補位置B1、B2、B3に欠陥は無いことが分かる。よって、理想反射信号と、反射信号の測定結果y(t)とが一致している時間の範囲外(170ps以上)に関する欠陥候補位置B4、B5についてのみ、一定値成分C(B4)、C(B5)および欠陥従属成分DDR(B4)、DDR(B5)が極値をとる時間の差異が所定範囲内であるか否かを判定する。
【0060】
反射信号(の測定結果)y(t)は、一定値成分C(B4)にも、一定値成分C(B5)にも一致していないため、
図5からは、欠陥候補位置B4、B5のいずれに欠陥があるのか不明である。
【0061】
そこで、欠陥従属成分導出部13により、欠陥独立成分を、yopen(t)およびyshort(t)に基づき、欠陥候補位置(B4、B5)ごとに導出する(式(6)参照)。欠陥従属成分導出部13は、さらに、反射信号y(t)の測定結果から、欠陥独立成分(DIR)(g(t)*δ(t))を減じて、欠陥従属成分(DDR)(Γk+1γshortest
2*δ(t)))を、欠陥候補位置(B4、B5)ごとに導出する(式(2)参照)。
【0062】
図6は、一定値成分C(B4)、C(B5)および欠陥従属成分DDR(B4)、DDR(B5)を示すグラフである。
【0063】
欠陥位置特定部17によって、欠陥候補位置ごとに、一定値成分C(B4)、C(B5)および欠陥従属成分DDR(B4)、DDR(B5)が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の欠陥候補位置を欠陥の位置であると特定する。ただし、所定範囲=0とする。
【0064】
一定値成分C(B4)が極値をとる時間が200psであり、欠陥従属成分DDR(B4)が極値をとる時間194psであるため、極値をとる時間の差異=6ps>0であるため、欠陥候補位置B4には欠陥が無いことが分かる。
【0065】
一定値成分C(B5)が極値をとる時間が210psであり、欠陥従属成分DDR(B5)が極値をとる時間210psであるため、極値をとる時間の差異=0であるため、欠陥候補位置B5には欠陥が有ることが分かる。
【0066】
欠陥種類特定部19により、欠陥位置特定部17により特定された欠陥の位置(欠陥候補位置B5)における一定値成分C(B5)の極値(0.6V)に対する欠陥従属成分DDR(B5)の極値(-0.4V)の比(=-0.67)に基づき、欠陥の種類を、抵抗性ショートと特定する。
【0067】
図7は、反射信号(の測定結果)y(t)、理想反射信号、C(B4)、C(B5)の別の例を示すグラフである。
図8は、一定値成分C(B4)、C(B5)および欠陥従属成分DDR(B4)、DDR(B5)の別の例を示すグラフである。
【0068】
欠陥位置特定部17によって、欠陥候補位置ごとに、一定値成分C(B4)、C(B5)および欠陥従属成分DDR(B4)、DDR(B5)が極値をとる時間の差異が所定範囲内である場合の欠陥候補位置を欠陥の位置であると特定する。ただし、所定範囲=0とする。
【0069】
一定値成分C(B4)が極値をとる時間が200psであり、欠陥従属成分DDR(B4)が極値をとる時間195psであるため、極値をとる時間の差異=5ps>0であるため、欠陥候補位置B4には欠陥が無いことが分かる。
【0070】
一定値成分C(B5)が極値をとる時間が210psであり、欠陥従属成分DDR(B5)が極値をとる時間210psであるため、極値をとる時間の差異=0であるため、欠陥候補位置B5には欠陥が有ることが分かる。
【0071】
欠陥種類特定部19により、欠陥位置特定部17により特定された欠陥の位置(欠陥候補位置B5)における一定値成分C(B5)の極値(0.6V)に対する欠陥従属成分DDR(B5)の極値(0.39V)の比(=0.65)に基づき、欠陥の種類を、抵抗性オープンと特定する。
【0072】
本発明の実施形態によれば、分岐を有する配線の欠陥測定が可能となる。
【0073】
また、上記の実施形態は、以下のようにして実現できる。CPU、ハードディスク、メディア(USBメモリ、CD-ROMなど)読み取り装置を備えたコンピュータに、上記の各部分、例えば反射信号測定部11、欠陥従属成分導出部13、仮想反射信号記録部14、一定値成分導出部15、欠陥位置特定部17および欠陥種類特定部19を実現するプログラムを記録したメディアを読み取らせて、ハードディスクにインストールする。このような方法でも、上記の機能を実現できる。
【符号の説明】
【0074】
1 配線測定装置
11 反射信号測定部
13 欠陥従属成分導出部
14 仮想反射信号記録部
15 一定値成分導出部
17 欠陥位置特定部
19 欠陥種類特定部
2’ 配線
Pr プローブ
101-1、101-2、…、101-k 伝送線路
102-1、102-2、…、102-k 伝送線路
ZL 負荷
P1、P2、…、Pk 伝搬係数
T1、T2、…、Tk 伝達係数
Γ1、Γ2、…、Γk、Γk+1 伝達係数
Γ1’、Γ2’、…、Γk’ 伝達係数
2 配線
Tr1、Tr2、Br1、Br2、Br3、Br4、Br5 伝送線路
D1、D2、D3、D4、D5 デバイス
B1、B2、B3、B4、B5 欠陥候補位置
δ(t) 入射信号
y(t) 反射信号
Γk+1γshortest
2*δ(t) 欠陥従属成分(DDR:Defect Dependent Reflection)
g(t)*δ(t) 欠陥独立成分(DIR:Defect Independent Reflection)
yopen(t)、yshort(t) 仮想反射信号
γshortest
2*δ(t) 一定値成分
C(B1)、C(B2)、C(B3)、C(B4)、C(B5) 一定値成分
DDR(B4)、DDR(B5) 欠陥従属成分