(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002878
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】熱電材料、その製造方法およびその熱電発電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 10/857 20230101AFI20221228BHJP
H10N 10/851 20230101ALI20221228BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20221228BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20221228BHJP
C04B 35/58 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
H01L35/26
H01L35/14
H01L35/34
H01L35/32 A
C04B35/58 085
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103696
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ル トンケス シルバン ミッシェル エリック
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達
(72)【発明者】
【氏名】森 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】ダビット ベルテボ
(57)【要約】
【課題】 熱電特性に優れた珪化クロムを含有する多結晶からなる熱電材料、その製造方法および熱電発電素子を提供すること。
【解決手段】 本発明の熱電材料は、珪化クロム(CrSi
2)を主成分とする粒子からなる焼結体からなり、粒子はc軸方向に配向していることを特徴とする。本発明の熱電材料の製造方法は、珪化クロム(CrSi
2)を主成分とする原料粉末を溶媒に分散させて原料スラリーを形成することと、磁場を印加しながら、原料スラリーを固化成形し、成形体を形成することと、成形体を焼結することとを包含する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪化クロム(CrSi2)を主成分とする粒子からなる焼結体からなり、
前記粒子はc軸方向に配向している、熱電材料。
【請求項2】
前記焼結体の厚さ方向におけるfL値(0003方向のLotgering Factor)は、0.5以上1以下の範囲を有する、請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
前記fL値(0003方向のLotgering Factor)は、0.53以上0.95以下の範囲を有する、請求項2に記載の熱電材料。
【請求項4】
前記粒子の粒径は、0.5μm以上1.5μm以下の範囲を有する、請求項1~3のいずれかに記載の熱電材料。
【請求項5】
前記焼結体の密度は、95%以上である、請求項1~4のいずれかに記載の熱電材料。
【請求項6】
前記珪化クロムのケイ素の一部は、ゲルマニウム(Ge)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)および、銅(Cu)からなる群から選択される元素で置換されている、請求項1~5のいずれかに記載の熱電材料。
【請求項7】
前記珪化クロムのクロムの一部は、マンガン(Mn)およびレニウム(Re)からなる群から選択される元素で置換されている、請求項1~5のいずれかに記載の熱電材料。
【請求項8】
前記粒子は、クロムシリサイドである第二相をさらに含有する、請求項1~7のいずれかに記載の熱電材料。
【請求項9】
前記第二相は、立方晶系の結晶構造を有し、P213の空間群に属する、請求項8に記載の熱電材料。
【請求項10】
前記第二相は、0mass%より多く6mass%以下の範囲で含有されている、請求項8または9に記載の熱電材料。
【請求項11】
珪化クロム(CrSi2)を主成分とする原料粉末を溶媒に分散させて原料スラリーを調製することと、
磁場を印加しながら、前記原料スラリーを固化成形し、成形体を形成することと、
前記成形体を焼結することと
を包含する、請求項1~10のいずれかに記載の熱電材料の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンからなる群から選択される脂肪族炭化水素、または、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群から選択されるアルコールである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記原料粉末の粒径は、350nm以上550nm以下の範囲である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記磁場は、8T以上14T以下の範囲である、請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記成形体を形成することは、スリップキャストを用いる、請求項11~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記成形体の密度は、40%以上70%以下の範囲である、請求項11~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記焼結することは、前記成形体を1373K以上1773K以下の温度範囲で焼結する、請求項11~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記焼結することに先立って、または、前記焼結することと同時に、前記成形体を加圧することをさらに包含する、請求項11~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
交互に直列に接続されたp型熱電材料およびn型熱電材料を備える熱電発電素子であって、
前記p型熱電材料および/または前記n型熱電材料は、請求項1~10のいずれかに記載の熱電材料である、熱電発電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料、その製造方法およびその熱電発電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の中で特に省エネルギーが進んだ我が国においてでも、廃熱回収においては、一次供給エネルギーの約3/4が熱エネルギーとして廃棄されているのが現状である。そのような状況の下、熱電変換素子は、熱エネルギーを回収して電気エネルギーに直接変換できる固体素子として注目されている。
【0003】
このような熱電変換素子に適用される熱電材料には、優れた熱電特性以外にも、低コストかつ無害な元素からなり、機械的特性および化学的安定性が求められている。このような熱電材料のうち珪化クロム(CrSi2)に代表される遷移金属シリサイドの研究が盛んである。非特許文献1によれば、六方晶である珪化クロム単結晶は、a軸に比べてc軸に沿った方向に高いパワーファクタを有することが知られている。しかしながら、珪化クロム多結晶においては、そのc軸方位の優位な特性を生かすことが出来ず、粒界でのフォノン散乱のために熱伝導率が高いため、ゼーベック係数が小さく、改善が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F.Yu.Solomkinら,Technical Physics,2013,Vol.58,No.2,pp.289-293
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上より、本発明の課題は、熱電特性に優れた珪化クロムを含有する多結晶からなる熱電材料、その製造方法および熱電発電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による熱電材料は、珪化クロム(CrSi2)を主成分とする粒子からなる焼結体からなり、前記粒子はc軸方向に配向しており、これにより上記課題を解決する。
前記焼結体の厚さ方向におけるfL値(0003方向のLotgering Factor)は、0.5以上1以下の範囲を有してもよい。
前記fL値(0003方向のLotgering Factor)は、0.53以上0.95以下の範囲を有してもよい。
前記粒子の粒径は、0.5μm以上1.5μm以下の範囲を有してもよい。
前記焼結体の密度は、95%以上であってもよい。
前記珪化クロムのケイ素の一部は、ゲルマニウム(Ge)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)および、銅(Cu)からなる群から選択される元素で置換されていてもよい。
前記珪化クロムのクロムの一部は、マンガン(Mn)およびレニウム(Re)からなる群から選択される元素で置換されていてもよい。
前記粒子は、クロムシリサイドである第二相をさらに含有してもよい。
前記第二相は、立方晶系の結晶構造を有し、P213の空間群に属してもよい。
前記第二相は、0mass%より多く6mass%以下の範囲で含有されていてもよい。
本発明のによる上記熱電材料の製造方法は、珪化クロム(CrSi2)を主成分とする原料粉末を溶媒に分散させて原料スラリーを調製することと、磁場を印加しながら、前記原料スラリーを固化成形し、成形体を形成することと、前記成形体を焼結することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンからなる群から選択される脂肪族炭化水素、または、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群から選択されるアルコールであってもよい。
前記原料粉末の粒径(メジアン径D50)は、350nm以上550nm以下の範囲であってもよい。
前記磁場は、8T以上14T以下の範囲であってもよい。
前記成形体を形成することは、スリップキャストを用いてもよい。
前記成形体の密度は、40%以上70%以下の範囲であってもよい。
前記焼結することは、前記成形体を1373K以上1773K以下の温度範囲で焼結してもよい。
前記焼結することに先立って、または、前記焼結することと同時に、前記成形体を加圧することをさらに包含してもよい。
本発明による交互に直列に接続されたp型熱電材料およびn型熱電材料を備える熱電発電素子は、前記p型熱電材料および/または前記n型熱電材料は、上記熱電材料であり、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱電材料は、珪化クロム(CrSi2)を主成分とする粒子からなる焼結体からなり、粒子はc軸方向に配向していることを特徴とする。c軸配向しているため、珪化クロムの単結晶と同等のパワーファクタを達成できる。このような焼結体からなる熱電材料は、熱電変換素子に適用される。
【0008】
本発明の熱電材料の製造方法は、珪化クロム(CrSi2)を主成分とする原料粉末を溶媒に分散させて原料スラリーを調製することと、磁場を印加しながら、原料スラリーを成形し、成形体を形成することと、成形体を焼結することとを包含する。磁場を印加することにより、磁場印加方向と平行方向に粒子がc軸方向に配向する。単結晶育成技術を不要とし、磁場を印加するだけで、単結晶と同等の熱電特性を有する焼結体が得られるため、製造コストを削減でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明の熱電材料の製造工程を示すフローチャート
【
図8】例1~例2の焼結体の製造工程の一部を示すプロシージャ
【
図9】例1~例4の焼結体のXRDパターンを示す図
【
図10】例1の焼結体のSEM像およびEDX像を示す図
【
図11】例1、例3および例4の焼結体のND面上での電子後方散乱回折(EBSD)からの結晶方位を示す図
【
図12】例1~例4の焼結体の電気抵抗率の温度依存性を示す図
【
図13】例1~例4の焼結体のゼーベック係数の温度依存性を示す図
【
図14】例1~例4の焼結体のパワーファクタの温度依存性を示す図
【
図15】例1~例4の焼結体の熱伝導率の温度依存性を示す図
【
図16】例1~例4の焼結体の無次元性能指数ZTの温度依存性を示す図
【
図17】例1~例4の焼結体の無次元性能指数ZTとf
L値との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の熱電材料およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明の熱電材料を示す模式図である。
【0012】
本発明の熱電材料は、珪化クロム(CrSi
2)を主成分とする粒子110からなる焼結体100からなる。珪化クロムは、低コストかつ無害な元素からなる熱電材料として知られている。さらに、本発明の熱電材料は、粒子110が、
図1に示すように、c軸方向に配向している。このように焼結体100でありながらも、粒子110がc軸配向しているため、珪化クロムのバルク単結晶と同等のパワーファクタを達成できる。以降で詳細に説明する。
【0013】
ここで、珪化クロム結晶は、六方晶系に属し、P6222空間群(International Tables for Crystallographyの180番目の空間群)に属し、表1に示す結晶構造パラメータ(原子座標位置)を占める。
【0014】
【0015】
粒子110は、珪化クロム単相の単結晶であってもよいし、珪化クロムを母相とし、これにドーパントが添加された単結晶であってもよい。欠陥等によりCrとSiとの組成が化学量論比からわずかにずれていたり、クロム(Cr)やケイ素(Si)の一部が他の元素で置換されたりすると、格子定数は変化するが、結晶構造と、原子が占めるサイトおよびその座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほどに大きく変わることがない。したがって、対象とする焼結体のX線回折や中性子線回折の結果をP6222空間群でLa Bail解析して求めた格子定数と原子座標とから計算されたCr-Siの化学結合(近接原子間距離)の長さが、表1に示す結晶の格子定数と原子座標とから計算されたそれと比べた±5%以内の場合は、珪化クロムを主成分とする粒子110からなる焼結体100と判定してよい。
【0016】
組成ずれや添加量(置換量)が小さい場合は、簡便には、対象とする焼結体について測定したX線回折結果から計算した格子定数と表1の結晶構造データを用いて計算した回折のピーク位置(2θ)が主要ピーク(例えば、8本)について一致したときにCrSi2の結晶構造と同じであると特定することができる。
【0017】
粒子110がアンドープの珪化クロム単結晶からなる場合、p型半導体となり、p型熱電材料として機能するが、キャリア濃度の調整のために、珪化クロムのSiの一部をゲルマニウム(Ge)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)および、銅(Cu)からなる群から選択される元素で置換してもよい。これにより、ゼーベック係数を増大させることができる。中でもGeが好ましい。添加量は、結晶構造が変わらない範囲で適宜調整されるが、例示的には、0.5at%以上5at%以下の範囲であってよい。この範囲であれば、キャリア濃度の調整が容易である。
【0018】
一方、珪化クロムのCrの一部をマンガン(Mn)およびレニウム(Re)からなる群から選択される元素で置換してもよい。これにより、粒子110はn型半導体となり、n型熱電材料として機能する。中でも、Mnが好ましい。添加量は、結晶構造が変わらない範囲で適宜調整されるが、例示的には、15at%以上25at%以下の範囲であってよい。この範囲であれば、n型半導体となり、高いゼーベック係数が得られやすい。
【0019】
粒子110は、好ましくは、ドープド/アンドープドの珪化クロム単相からなるが、熱電特性を阻害しない範囲で、第二相を含んでもよい。このような第二相には、CrとSiとを含有するクロムシリサイドがあるが、好ましくは、立方晶系の結晶構造を有する空間群P213であるCrSiである。CrSiは、珪化クロムの熱電特性を阻害しないため、好ましい。このように、製造時に生成される第二相としてクロムシリサイドが許容されるので、製造条件が緩和され、歩留まり向上に有利である。
【0020】
粒子110に含有される第二相の含有量は、好ましくは、0mass%より多く15mass%以下である。この範囲であれば、熱電特性を阻害しない。第二相の含有量は、さらに好ましくは、0mass%より多く10mass%以下の範囲であり、なお好ましくは、0mass%より多く6mass%以下の範囲であり、なおさらに好ましくは、1mass%以上5mass%以下の範囲である。本願明細書において、含有量は、X線回折パターンをリートベルト解析することにより算出される。このような観点から、本願明細書において、焼結体100における珪化クロムの主成分とする量は、85mass%より多く、好ましくは、90mass%以上、より好ましくは94mass%より多い。
【0021】
粒子110の粒径に特に制限はないが、好ましくは、0.5μm以上1.5μm以下の範囲である。この範囲であれば、粒子100が効率よくc軸配向し得る。なお好ましくは、粒子110の粒径は、0.85μmより大きく1.0μm以下の範囲である。なおさらに好ましくは、粒子110の粒径は、0.88μm以上0.92μm以下の範囲である。本願明細書において、粒径は、走査型電子顕微鏡などの電子顕微鏡を用いた、電子後方散乱回折法(EBSD)により、結晶粒の面積から等価円直径として算出される。なお、結晶粒の面積は、測定時のステップ幅と結晶粒内のデータ点数から算出される。
【0022】
本発明の焼結体100は、粒子110がc軸配向していることを特徴とするが、本願明細書において、c軸配向しているとは、研磨した焼結体についてX線回折測定をした際に得られるX線回折パターンにおいて、(0003)面に相当するピークのピーク強度がもっとも高いことをいう。
【0023】
本発明の焼結体100において、好ましくは、焼結体100の厚さ方向におけるfL値(0003方向のLotgering Factor)が、0.5以上1以下の範囲を有する。この範囲を満たすように粒子110がc軸配向すると、パワーファクタが大きく、優れた熱電特性が得られる。より好ましくは、結体100の厚さ方向におけるfL値は、0.53以上0.95以下の範囲を有する。この範囲であれば、パワーファクタが大きく、特に優れた熱電特性が得られる。
【0024】
fL値は、次式によって算出される。
fL=(P-P0)/(1-P0)
P0=(ΣI0(000m))/(ΣI0(hklm))
P=(ΣI(000m))/(ΣI(hklm))
ここで、ΣI0(000m)は、対象とする焼結体のXRD測定範囲の2θが20~100°の範囲において全回折面のうち(0003)および(0006)の回折面のピーク強度の測定値の合計であり、ΣI0(hklm)は、対象とする焼結体の全回折面のピーク強度の測定値の合計である。ΣI(000m)は、標準試料の全回折面のうち(0003)および(0006)の回折面のピーク強度の計算値であり、ΣI0(hklm)は、標準試料の全回折面のピーク強度の計算値の合計である。標準試料は、粉末試料やICDDカードであってよい。例えば、多結晶粉末であれば、fL=0(P=P0)となり、単結晶であれば、fL=1(P=1)であるが、多結晶であっても全ての結晶粒のc軸のブレが小さい(例えば10度以内)であれば、fL=1を達成し得る。しかしながら、fL=1を満たす多結晶であっても、別方向から測定したXRDパターンは、単結晶のそれとは異なることから、多結晶と単結晶との区別は容易につく。
【0025】
このように、本願発明者らは、珪化クロム(Cr2Si)のバルク単結晶でなくても、上述の範囲でc軸配向した珪化クロムの焼結体であれば、バルク単結晶に匹敵する優れた熱電特性が得られることを見出した。これにより、バルク単結晶育成のような高度な技術および高価な装置を不要とできるので、本発明の焼結体100からなる熱電材料は極めて有効である。
【0026】
本発明の焼結体100の焼結密度に特に制限はないが、好ましくは、95%以上である。これにより、粒子110間のボイドや空孔が少なく、高い熱電特性が得られる。焼結密度は、より好ましくは、96%以上、なお好ましくは98%以上である。なお、本願明細書の焼結密度は、アルキメデス法によって測定され真密度に対する百分率(相対密度)で表す。
【0027】
次に、本発明の焼結体100からなる熱電材料の製造方法を説明する。
図2は、本発明の熱電材料の製造工程を示すフローチャートである。
【0028】
本発明の焼結体100からなる熱電材料は、以下のステップS210~S230によって得られる。
ステップS210:珪化クロム(CrSi2)を主成分とする原料粉末を溶媒に分散させて原料スラリーを調製する。
ステップS220:磁場を印加しながら、原料スラリーを固化成形し、成形体を形成する。
ステップS230:成形体を焼結する。
ステップS220において、磁場を印加することにより、単結晶粒子からなる原料粉末は、それぞれのc軸が磁場印加方向と平行となるように配向する。このようにして得られた成形体をステップS230で焼結するため、上述した焼結体100が得られる。以降では、各ステップを詳細に説明する。
【0029】
ステップS210において、珪化クロムを主成分とする原料粉末は、それぞれの粒子が単結晶から構成されており、
図1を参照して説明した珪化クロムである。また、原料粉末は、Siの一部がGe等の他の元素で置換されている、または、Crの一部がMn等の他の元素で置換されている珪化クロムであってもよい。添加量(置換量)については上述したとおりである。
【0030】
ステップS210において、原料スラリー中の原料粉末の含有量は、好ましくは、10mass%以上30mass%以下の範囲である。この範囲であれば、原料粉末が良好に分散し得る。原料粉末の含有量は、より好ましくは、15mass%以上25mass%以下の範囲である。
【0031】
原料粉末の粒径(メジアン径D50)は、好ましくは、350nm以上550nm以下の範囲である。この範囲であれば、原料粉末は溶媒に良好に分散し得、後述のステップS220においてc軸配向しやすい。原料粉末の粒径(メジアン径D50)は、より好ましくは、380nm以上425nm以下の範囲である。
【0032】
ステップS210において、溶媒は、原料粉末が分散する限り特に制限はないが、粘性が低く、珪化クロムと反応性がないものが選ばれる。溶媒は、好ましくは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンからなる群から選択される脂肪族炭化水素、または、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群から選択されるアルコールである。これらの溶媒は、原料粉末の分散を促進し得る。中でも、エタノール等のアルコールが好ましい。
【0033】
ステップS210において、ポリカチオン性ポリマーまたはポリアニオン性ポリマーをさらに添加してよい。これにより、原料粉末の粒子がポリマーで被覆され、粒子同士が静電反発により良好に分散される。その結果、ステップS220において、磁場の印加により、粒子の回転が促進され、fL値が0.5以上のc軸配向した焼結体が得られ得る。
【0034】
ポリカチオン性ポリマーには、例えば、リアルキルアミン(PAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリリシン(PL)、ポリペプチド、キトサン、多糖、または、それらのコポリマーなどがある。ポリアニオン性ポリマーには、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリスチレンスルホネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルスルフェート、ポリホスフェート、カラギーナン、ゲランガム、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルアガロース、カルボキシルメチルデキストラン、カルボキシルメチルキチン、カルボキシルメチルキトサン、カルボキシルメチル基で修飾されたポリマー、アルギネートなどがある。
【0035】
ポリカチオン性ポリマーまたはポリアニオン性ポリマーの添加量は、例示的には、0mass%より多く5mass%以下の範囲であってよく、好ましくは、0mass%より多く1mass%以下の範囲であり、より好ましくは、0mass%より多く0.5mass%以下の範囲である。これにより、fL値が0.53以上0.95以下の範囲を満たす焼結体が得られる。
【0036】
ステップS210において、原料スラリーに酸またはアルカリを添加してもよい。これにより、粒子がさらに良好に分散する。
【0037】
ステップS220では、磁場中で原料スラリーが固化成形され、成形体が得られるが、印加される磁場は、好ましくは、8T(テスラ)以上14T以下の範囲である。この範囲であれば粒子の回転を促進し得る。印加される磁場は、より好ましくは、10T以上14T以下の範囲である。この範囲であれば、粒子は回転し、c軸配向がさらに促進される。
【0038】
ステップS220において、磁場の印加方向については、重力と平行な方向、重力に対して垂直な方向等任意の方向を選択することができる。これにより、成形の方向や形状に限定されることなく、磁場の印加方法に対応した配向方向とすることができる。
【0039】
ステップS220において、固化形成には種々の手法が適宜採用されてよい。固化成形の手法には、スリップキャスト、プレッシャーフィルトレーション、テープキャスト、電気泳動堆積などがある。中でも、良好にc軸配向した成形体が得られるとともに、形状に制限がない観点からスリップキャストが好ましい。スリップキャストを採用すれば、複雑な形状に対しても、任意の方向に磁場を印加できるので、任意の方向にc軸配向した焼結体を得ることができる。
【0040】
ステップS220において、成形体の密度は、好ましくは、40%以上70%以下の範囲を満たす。これにより、続くステップS230の焼結によって、96%以上の焼結密度を有する焼結体が得られる。成形体の密度は、アルキメデス法によって測定される。
【0041】
ステップS220に続いて、成形体を加圧してもよい。加圧には、例えば、冷間等方圧加圧装置(CIP)を用いてよい。これにより、続くステップS230の焼結により、高密度な焼結体が得られ得る。
【0042】
ステップS230において、成形体の焼結は、好ましくは、1373K以上1773K以下の温度範囲で行われる。この範囲であれば、粒子が粒成長し、高密度な焼結体が得られる。焼結は、より好ましくは、1423K以上1623K以下の温度範囲で行われる。この範囲であれば、粒子の粒成長を促進し、より高密度な焼結体が得られる。
【0043】
ステップS230において、焼結の手法は特に制限はなく、放電プラズマ焼結(SPS)、常圧焼結、ホットプレス(HP)焼結、および、熱間静水圧加圧(HIP)焼結を適宜採用できる。焼結時間は、焼結手法によって異なるが、例えば、放電プラズマ焼結(SPS)を用いた場合には、5分以上30分以下であってよい。
【0044】
ステップS230において、HP焼結やHIP焼結を採用できるように、成形体を加圧ながら焼結してもよい。これにより、より高密度な焼結体が得られ得る。
以上のようにして本発明の焼結体100からなる熱電材料が得られる。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の熱電材料を用いた熱電変換素子について説明する。
図3は、本発明の熱電変換素子を示す模式図である。
【0046】
本発明による熱電発電素子300は、一対のn型熱電材料310およびp型熱電材料320、ならびに、これらのそれぞれの端部に電極330、340を含む。電極330、340により、n型熱電材料310およびp型熱電材料320は、電気的に直列に接続される。
【0047】
ここで、p型熱電材料310および/またはn型熱電材料320は、実施の形態1で説明した本発明の熱電材料100である。p型、n型ともに、本発明の熱電材料を使用する場合には、キャリアタイプの異なるもの、または、キャリアタイプが同じであっても互いにゼーベック係数が異なるものを採用すればよい。
【0048】
あるいは、p型熱電材料310として本発明の熱電材料を採用する場合、300K以上773Kにおいて熱電性能の高い、MgSi系、ZnSb系、ZnO系等のn型熱電材料を採用できる。MgSi系の例示的な組成は、例えば、Mg2Si0.4Sn0.6、Mg2Si0.37Sn0.6B0.03である。SiGeの例示的な組成は、例えば、Si0.8Ge0.2である。ZnOの例示的な組成は、例えば、Zn0.98Al0.02Oである。
【0049】
あるいは、n型熱電材料320として本発明の熱電材料を採用する場合、300K以上773Kにおいて熱電性能の高い、BiSbTe系、MgAgSb系、AgSbSe系等のp型熱電材料が挙げられる。BiSbTe系の例示的な組成は、例えば、Bi0.5Sb1.5Te3、Bi0.4Sb1.6Te3である。MgAgSb系の例示的な組成は、例えば、MgAgSb、MgAg0.965Ni0.005Sb0.99である。AgSbSe系の例示的な組成は、例えば、AgSbSe2である。これらは例示であって限定されないことに留意されたい。
【0050】
電極330、340は、通常の電極材料であり得るが、例示的には、Fe、Ag、Al、Ni、Cu等である。ここで、電極330、340は、本発明の熱電材料のc軸方向に対して垂直となるよう設けられている。これにより、焼結体でありながらも、バルク単結晶に匹敵する優れた珪化クロムの熱電性能を発揮できる。
【0051】
図3では、低温となる側の電極340に半田等によってn型熱電材料310からなるチップが接合され、n型熱電材料310のチップの反対側の端部と、高温となる側の電極330とが半田等によって接合されている様子が示される。同様に、高温側となる側の電極330に半田等によってp型熱電材料320からなるチップが接合され、p型熱電材料320のチップの反対側の端部と、低温となる側の電極340とが半田等によって接合されている様子が示される。
【0052】
電極330が高温、電極340が、電極330に比べて低温となるような環境に、本発明の熱電発電素子300を設置して、端部の電極を電気回路等に接続すると、ゼーベック効果によって電圧が発生し、
図3の矢印で示すように、電極340、n型熱電材料310、電極330、p型熱電材料320の順で電流が流れる。詳細には、n型熱電材料310内の電子が、高温側の電極330から熱エネルギーを得て、低温側の電極340へ移動し、そこで熱エネルギーを放出し、それに対して、p型熱電材料320の正孔が高温側の電極330から熱エネルギーを得て、低温側の電極340へ移動して、そこで熱エネルギーを放出するという原理によって電流が流れる。
【0053】
図3では、π型の熱電発電素子を用いて説明したが、本発明の熱電材料は、U字型熱電発電素子(図示せず)に用いてもよい。この場合も同様に、本発明の熱電材料からなるn型熱電材料およびp型熱電材料が、交互に電気的に直列に接続されて構成される。
【0054】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0055】
[珪化クロム粉末の調製]
珪化クロム(CrSi
2)粉末を、クロムチップ(シグマアルドリッチ社製、純度99.995%)とシリコン片(シグマアルドリッチ社製、純度99.95%)とを化学量論比で混合した混合物をアーク溶解法により合成した。得られたインゴットを再溶解を繰り返し、均一化した。重量損失は0.2mass%以下であった。インゴットを卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、TM3000)で観察した。結果を
図4に示す。
【0056】
インゴットを、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、PULVERISETTE 7)を用いた湿式ボールミルにより粉砕し、粉末化した。粉砕容器(イットリア安定化ジルコニア製)に、粉末に対する粉砕ボール(イットリア安定化ジルコニア製、φ=5mm)の質量比が5となるように、粗粉砕したインゴットおよび粉砕ボールを粉砕容器に入れ、エタノール水溶液(15体積%)を充填し、回転速度200rpm、8時間ミリングした。得られた粉末を373Kで一昼夜乾燥させた。
【0057】
得られた粉末をX線回折により同定した。X線回折には、回転Cu-X線管(λ
Kα1=1.5406Å、λ
Kα2=1.5444Å、λ
Kα2/λ
Kα1=0.5)およびDTex検出器を備えたθ-2θRigaku TTRAXIII回折装置(株式会社リガク製)を用いた。入射ビームの大きさを直径約500μmに設定し、2θが5°から130°の範囲をステップ幅0.02°で回折パターンを測定した。XRDパターンの分析には、MAUD(Materials Analysis Using Diffraction、オープンソースでパブリックドメインのソフトウェア)を用いた。結果を
図5に示す。
【0058】
得られた粉末のモルフォロジを電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7000F)を用いて観察した。観察結果を
図6に示す。得られた粉末の粒径分布を、Microtrac Nanotrac ULTRA装置を用い、動的光散乱法(DLS)により求めた。結果を
図7に示す。
【0059】
以上の結果をまとめて示す。
図4は、インゴットの顕微鏡写真を示す図である。
【0060】
図4によれば、インゴットは、大部分が100μmを超えるマクロサイズの結晶から構成されていた。
【0061】
図5は、調製した原料粉末のXRDパターンを示す図である。
【0062】
図5によれば、すべての回折ピークは、表1に示すCrSi
2結晶(空間群P6
222、番号180)に指数付けされ、La Bail解析の結果、格子定数a(=b)およびcは、それぞれ、a=4.42724(6)Åおよびc=6.36194(9)Åであった。このことから、得られた原料粉末は、CrSi
2であることが確認された。
【0063】
図6は、原料粉末のSEM像を示す図である。
図7は、原料粉末の粒径分布を示す図である。
【0064】
図6によれば、ボールミルにより、原料粉末は良好に粉砕化された。
図7によれば、粒子径分布は、平均粒子径(D50)が405nm、標準偏差が132nmであことが分かった。また、粉砕化された粉末は、CrSi
2単結晶の粒であった。
【0065】
[例1~例3]
例1~例3では、調製した珪化クロム粉末を用い、磁場を印加しながら、スリップキャスト成形した成形体を焼結し、焼結体を製造した。
図8は、例1~例2の焼結体の製造工程の一部を示すプロシージャである。
【0066】
調製した珪化クロム粉末810を無水エタノール820に分散し、表2にしたがって固相濃度を調製した(
図2のステップS210)。また、表2にしたがって、原料スラリーにポリカチオン性ポリマーとしてポリエチレンイミン(PEI、シグマアルドリッチ社製、平均モル質量(g/mol)=10000、直鎖)を添加し、酸度を酢酸0.1vol%で調整した。原料スラリーを超音波処理し、凝集体を分散させた。
【0067】
次いで、原料スラリーに磁場を印加しながら、固化成形し、成形体を形成した(
図2のステップS220)。メンブレンフィルタ830(気孔率200nm)で覆われた多孔質アルミナプレート840上に配置された円柱状ポリエチレンモールド850(φ=12mm、高さ=40mm)からなるスリップキャストセットアップに、原料スラリーを流し込んだ。エタノールの蒸発を防ぐため、ポリエチレンモールド850をプラスチックフィルム860で蓋をした。
【0068】
スリップキャストセットアップを12Tの超伝導マグネット内に配置し、重力の方向に対して平行な方向(
図8中のBで示す矢印)に12Tの磁場を印加した。このとき、エタノールは、メンブレンフィルタ830および多孔質アルミナプレート840の細孔を通して、ゆっくりと流れ出た(
図8中のSCで示す矢印)。このようにして、成形体870を得た。次いで、成形体870を冷間等方圧加圧装置(CIP)により、394MPa、10分間、加圧した。このときの成形体の密度は、55%であった。
【0069】
加圧された成形体を焼結した(
図2のステップS230)。焼結は、成形体をグラファイトダイ(φ=10mm)に置き、1523K、10分間、放電プラズマ焼結(SPS)した。
【0070】
例3の焼結体は、磁場を重力の方向に対して垂直な方向に印加した以外は、例1と同様にして、製造した。
【0071】
このようにして得られた例1~例3の焼結体の焼結密度(相対密度)を無水エタノール中のアルキメデス法により求めた。結果を表4に示す。例1~例3の焼結体のXRDパターンを粉末X線回折により測定した。このとき、φ角を0°から180°の範囲、ステップ幅5°で測定した。結果を
図9に示す。また、f
L値(0003方向のLotgering Factor)を上述の方法にしたがって算出した。XRDパターンをリートベルト解析し、第二相を算出した。結果を表3に示す。
【0072】
例1~例3の焼結体の後方散乱電子像および元素エネルギー分散型分光(EDS)分析を卓上顕微鏡を用いて行った。電界放出形走査電子顕微鏡により後方散乱電子回折(EBSD)マッピングを行った。焼結体を炭化ケイ素、ダイヤモンド、コロイダルシリカによって連続的に研磨し、EBSD用の試料とした。結果を
図10および
図11に示す。EBSD像から粒径を算出した。結果を表4に示す。
【0073】
次に、例1~例3の焼結体の熱電特性を測定した。熱拡散係数(D)をレーザフラッシュ分析装置Netzsch467HyperFlashを用いて測定した。焼結体(φ=10mm、厚さ=1mm)の表面にグラファイト電極を付与し、測定用の試料とした。
【0074】
熱伝導率κを次式を用いて算出した。
κ=D×Cp×d
ここで、比熱Cpは、Dulong-Petit則Cp=3×N×R/M=0.69Jg-1K-1を用いて算出した。ただし、Nは、単位格子当たりの式量の3であり、Rは、ガス定数であり、Mは、モル質量である。密度dは、無水エタノール中でアルキメデス法によって算出される。
【0075】
ゼーベック係数および電気抵抗率を、He雰囲気中、熱電物性測定評価装置(アドバンス理工株式会社製、ZEM5)を用いて同時に測定した。焼結体を9×1×2mm
3の棒状に加工し、測定用の試料とした。電極は焼結体の表面に付与された。同じ試料を用いてホール係数R
Hを測定した。ホール係数は、物理特性測定システム(PPMS、Quantum Design社製)を用い、磁場を-5Tから+5Tまで掃引し、ACモードで測定した。キャリア濃度nを関係式n
D=1/eR
Hから算出した。得られたゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率からパワーファクタPFおよび無次元性能指数ZTを算出した。結果を
図12~
図17および表5に示す。
【0076】
[例4]
例4では、調製した珪化クロム粉末を用い、磁場を印加せず、スリップキャスト成形した成形体を焼結し、焼結体を製造した。例4の焼結体は、磁場を印加しない以外は、例1と同様にして、製造した。
【0077】
例4の焼結体を例1~例3と同様に、XRDパターン、EBSDマッピング、熱電特性、ならびに、密度、粒径、f
L値、第二相を求めた。結果を
図9、
図11~
図17、および、表3~表5に示す。
【0078】
以上をまとめて説明する。
表2に簡単のため、例1~例4の焼結体の製造条件の一覧を示す。
【0079】
【0080】
図9は、例1~例4の焼結体のXRDパターンを示す図である。
図10は、例1の焼結体のSEM像およびEDX像を示す図である。
【0081】
図9によれば、いずれの回折ピークもCrSi
2に指数付けされた。
図9中に模式的に示す焼結体(ペレット)の表面に垂直な磁場を印加された例1および例2の焼結体は、2θ=約42°に(0003)および2θ=約96°に(0006)の強い回折ピークを示し、(0003)の回折ピークの強度がもっとも高かった。これは、CrSi
2のc軸が、磁化容易軸であり、反磁性定数|χ
c|が|χ
a|より優れているためである。このことから、例1および例2の焼結体は、厚さ方向にc軸配向していることが分かった。
【0082】
例2の焼結体のXRDパターンは、(0003)の回折ピークの強度がもっとも高いものの、例1の焼結体と異なり(000m)以外の回折ピークも示した。このことから、例2の焼結体のc軸配向の程度は、例1の焼結体のそれよりも低いことが分かった。
【0083】
一方、ペレットの表面と平行な磁場を印加された例3の焼結体のXRDパターンでは、(000m)回折ピークの強度が(112-0)(「-」は2のオーバーバーを示す)のそれよりも小さかった。これは、例3の焼結体は、厚さ方向に垂直な方向(ペレットの表面と平行な方向)にc軸配向しているが、焼結体の表面では、結晶がランダムな状態であるためである。また、例4の焼結体のXRDパターンは、
図5の粉末のそれに類似しており、例4の焼結体では、結晶は全体を通してランダムな状態であることが分かった。
【0084】
例1~例4の焼結体のXRDパターンでは、クロムシリサイド(CrSi)を示す回折ピーク(
図9中の*で示す)が確認された。クロムシリサイドは、
図10に示すように、わずかながら確認された。
【0085】
【0086】
図9のXRDパターンから算出されたf
L値によれば、例1の焼結体は、良好にc軸配向していることが分かった。例2の焼結体は、c軸配向しているものの、それ以外の配向も確認された。なお、例3の焼結体のf
L値は負の値になったが、これは、測定面においてc面がランダム体(例4)よりも減少しているためである。また、例1~例4の焼結体は、いずれも、第二相として4mass%のクロムシリサイド(CrSi)を含有した。
【0087】
図11は、例1、例3および例4の焼結体のND面上での電子後方散乱回折(EBSD)からの結晶方位を示す図である。
【0088】
図11には、ND逆極点図、RD逆極点図も併せて示す。
図11(a)~(c)では濃度の異なるグレースケールで(000l)面の集積を示す。
図11(a)によれば、主として濃い濃度のグレースケールで表されており、(000l)面がND面に集積するテクスチャを示しており、逆極点図からa軸、b軸はND面内ではランダムとなっていることが分かった。
図11(b)によれば、明るいの濃度のグレースケールで示されるテクスチャを示しており、(000l)面と90度となる面が集積していることが示されている。逆極点図よりc軸がRD面と垂直に配向していることが分かる。
図11(c)によれば、種々の濃度のグレースケールで示されるテクスチャを示しており、逆極点図からも特定の結晶面の集積は観察されず、例4の焼結体では結晶がランダムであることが分かった。
【0089】
【0090】
表4によれば、例1~例4の焼結体は、いずれも96%を超える相対密度を有した。
図11から粒径を算出したところ、例1の焼結体の平均粒径は、0.90μmであり、0.88μm以上0.92μmの範囲を満たすことが分かった。
【0091】
図12は、例1~例4の焼結体の電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
図13は、例1~例4の焼結体のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
図14は、例1~例4の焼結体のパワーファクタの温度依存性を示す図である。
図15は、例1~例4の焼結体の熱伝導率の温度依存性を示す図である。
図16は、例1~例4の焼結体の無次元性能指数ZTの温度依存性を示す図である。
図17は、例1~例4の焼結体の無次元性能指数ZTとf
L値との関係を示す図である。
【0092】
例1~例4の焼結体には、上述したように、焼結体表面に電極が付与されている。したがって、厚さ方向にc軸配向している例1および例2の焼結体では、電極平面の方向とc軸とは略垂直な関係であり、焼結体の表面方向にc軸配向している例3の焼結体では、電極平面の方向とc軸とは略平行な関係であることに留意されたい。
【0093】
図12によれば、例1~例4の焼結体の電気抵抗率は、いずれも、温度の増大に伴い、増加する傾向を示したが、多結晶の例4の焼結体の電気抵抗率が、もっとも温度依存性が小さく、例3の焼結体の電気抵抗率が、もっとも温度依存性が大きかった。焼結体のモルフォロジや添加元素等により、電気抵抗率を選択的に低下させることができると考える。
【0094】
図13によれば、例1および例2の焼結体のゼーベック係数は、測定した温度範囲において、例3および例4の焼結体のそれよりも最大で2倍程度大きな値を示した。特に、例1の焼結体は、500K~600Kにおいて、160μV/Kに達する大きな値を示した。また、いずれの焼結体のゼーベック係数も正の値を有し、例1~例4の焼結体は、p型半導体であることが確認された。
【0095】
図14によれば、例1および例2の焼結体のパワーファクタは、測定した温度範囲において、例3および例4の焼結体のそれよりも最大で7倍を超える大きな値を示した。このことから、珪化クロム(CrSi
2)を主成分とする粒子からなり、粒子がc軸方向に配向している焼結体は、熱電材料として機能することが示された。特に、350K~600Kの低温領域において劇的に増大しており、本発明の熱電材料は、各種熱電冷却応用やIoT動作電源として貧熱を回収するに好適といえ、民生利用の熱電発電素子を提供できる。
【0096】
図15によれば、例1~例4の焼結体の熱伝導率は、温度の増大に伴い減少した。例1および例2の焼結体の熱伝導率は、例3および例4の焼結体のそれにくらべて、測定した温度範囲において、わずかながら大きいものの、大幅な増大は見られなかった。
【0097】
図16によれば、例1および例2の焼結体のZTは、測定した温度範囲において、例3および例4の焼結体のそれよりも測定した温度範囲において増大した。特に表5に示すように、773Kにおいては、例1の焼結体のZTは、バルク単結晶のそれに匹敵する値であった。なお、焼結体のモルフォロジや添加元素等により、熱伝導率あるいは電気抵抗率を選択的に低下させれば、ZTのさらなる増大が期待できる。
【0098】
図17には、773Kにおける例1~例4の焼結体のZTと、f
L値との関係を示す。
図17によれば、f
L値が1に近づくほど、ZTは増大するが、表5を参照すれば、c軸配向した焼結体とすることにより、電気伝導率、ゼーベック係数、パワーファクタ、あるいは、熱伝導率の値はバルク単結晶と異なる値にも関わらず、ZTは、バルク単結晶に匹敵する値となった。特に、f
L値が0.5以上1以下の範囲を満たせば、高いZT値を有する焼結体が得られることが分かった。このことは、高度な制御や高価な装置が必要なバルク単結晶育成に比較して、c軸配向した焼結体の製造の容易さを考慮すれば、極めて有利である。
【0099】
本発明の熱電材料は、焼結体でありながら、バルク単結晶と同等の熱電性能を有するため、各種電気機器に用いられる熱電冷却装置および発電装置に利用される。例えば車やトラックでの排熱を利用した発電や原子力発電所、火力発電所、工業炉、生産ライン等における排熱を使用することによる発電も可能である。また、宇宙用途として放射性同位体熱電気転換器への利用も考えられる。