(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028781
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】リトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/46 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
B60R22/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134678
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 清史
(72)【発明者】
【氏名】浅子 忠之
(72)【発明者】
【氏名】田中 康二
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018MA02
(57)【要約】
【課題】案内部材のぶれ(左右方向に移動)を抑制し、リトラクタの駆動性能を向上させることができる、リトラクタ及びシートベルト装置を提供する。
【解決手段】
リトラクタ1は、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプール2と、スプール2を回転可能に内包するベースフレーム3と、緊急時にスプール2を回転させるプリテンショナ4と、を含んでいる。プリテンショナ4は、スプール2に接続されたリングギア41に動力を伝達する動力伝達装置42を含む。動力伝達装置42は、リングギア41に動力を伝達する動力伝達部材42aと、動力伝達部材42aをリングギア41に案内する筒形状の案内部材42bと、案内部材42bの内部に作動ガスを供給するガス発生器42cと、を含む。ベースフレーム3は、案内部材42bの位置を規制する凸部37を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、該スプールを回転可能に内包するベースフレームと、緊急時に前記スプールを回転させるプリテンショナと、を含み、前記プリテンショナは、前記スプールに接続されたリングギアに動力を伝達する動力伝達装置を含み、前記動力伝達装置は、前記リングギアに動力を伝達する動力伝達部材と、該動力伝達部材を前記リングギアに案内する筒形状の案内部材と、該案内部材の内部に作動ガスを供給するガス発生器と、を含むリトラクタにおいて、
前記ベースフレームは、前記案内部材の位置を規制する凸部を備える、
ことを特徴とするリトラクタ。
【請求項2】
前記ベースフレームは、前記リングギアが配置されていない側に配置される第一端面と、前記リングギアが配置されている側に配置される第二端面と、前記第一端面及び前記第二端面を連結する側面と、を備え、前記案内部材は、前記第二端面と前記側面との角部に挿通されるように構成されており、前記凸部は、前記側面の内側に突出するように形成されている、請求項1に記載のリトラクタ。
【請求項3】
前記凸部は、前記側面の一部により構成されている、又は、前記側面に配置された別部品により構成されている、請求項2に記載のリトラクタ。
【請求項4】
前記案内部材の先端を前記第二端面に固定する固定部材を備えている、請求項2に記載のリトラクタ。
【請求項5】
前記凸部は、前記固定部材から離れた位置に配置されている、請求項4に記載のリトラクタ。
【請求項6】
前記凸部は、前記プリテンショナが作動した後、前記動力伝達部材の一部が前記案内部材と接触した状態における断面で、前記案内部材の中心と前記動力伝達部材の中心とを結ぶ直線が、前記案内部材と前記凸部との接点よりも前記第二端面側を通るように構成されている、請求項2に記載のリトラクタ。
【請求項7】
前記凸部は、点状、線状又は点線状に配置されている、請求項1に記載のリトラクタ。
【請求項8】
前記動力伝達部材は、樹脂製のロッド形状を有している、請求項1に記載のリトラクタ。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか一項に記載されたリトラクタを備えた、ことを特徴とするシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リトラクタ及びシートベルト装置に関し、特に、樹脂製の細長いロッド形状の動力伝達部材を備えたプリテンショナを含む構成に適したリトラクタ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、一般に、乗員が着座する腰掛部と乗員の背面に位置する背もたれ部とを備えたシートに乗員を拘束するシートベルト装置が設けられている。かかるシートベルト装置は、乗員を拘束するウェビングと、ウェビングの巻き取りを行うリトラクタと、シートの側面に配置されたバックルと、ウェビングに配置されたトングとを含み、トングをバックルに嵌着させることによってウェビングにより乗員をシートに拘束している。また、リトラクタは、車両衝突時等の緊急時にウェビングの弛みを除去するプリテンショナを有していることが一般的になってきている。
【0003】
かかるプリテンショナは、ウェビングの巻き取りを行うスプールを回転させる動力伝達部材と、該動力伝達部材を案内する細長いパイプ形状の圧力容器(案内部材)と、該案内部材に作動ガスを供給することによって動力伝達部材に推進力を付与するガス発生器と、を含む動力伝達装置を備えていることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
近年、特許文献1に記載されたように、プリテンショナの動力伝達部材として、樹脂製の細長いロッド形状の部品を用いることが研究・開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した樹脂製のロッド形状の動力伝達部材は、後端側が案内部材に挿通された状態のままスプールを回転させることから、案内部材の挙動によって案内部材がぶれやすい(左右方向に移動しやすい)という問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、案内部材のぶれ(左右方向に移動)を抑制し、リトラクタの駆動性能を向上させることができる、リトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、該スプールを回転可能に内包するベースフレームと、緊急時に前記スプールを回転させるプリテンショナと、を含み、前記プリテンショナは、前記スプールに接続されたリングギアに動力を伝達する動力伝達装置を含み、前記動力伝達装置は、前記リングギアに動力を伝達する動力伝達部材と、該動力伝達部材を前記リングギアに案内する筒形状の案内部材と、該案内部材の内部に作動ガスを供給するガス発生器と、を含むリトラクタにおいて、前記ベースフレームは、前記案内部材の位置を規制する凸部を備える、ことを特徴とするリトラクタが提供される。
【0009】
前記ベースフレームは、前記リングギアが配置されていない側に配置される第一端面と、前記リングギアが配置されている側に配置される第二端面と、前記第一端面及び前記第二端面を連結する側面と、を備え、前記案内部材は、前記第二端面と前記側面との角部に挿通されるように構成されており、前記凸部は、前記側面の内側に突出するように形成されていてもよい。
【0010】
前記凸部は、前記側面の一部により構成されていてもよいし、前記側面に配置された別部品により構成されていてもよい。
【0011】
前記リトラクタは、前記案内部材の先端を前記第二端面に固定する固定部材を備えていてもよい。
【0012】
前記凸部は、前記固定部材から離れた位置に配置されていてもよい。
【0013】
前記凸部は、前記プリテンショナが作動した後、前記動力伝達部材の一部が前記案内部材と接触した状態における断面で、前記案内部材の中心と前記動力伝達部材の中心とを結ぶ直線が、前記案内部材と前記凸部との接点よりも前記第二端面側を通るように構成されていてもよい。
【0014】
前記凸部は、点状に配置されていてもよいし、線状に配置されていてもよいし、点線状に配置されていてもよい。
【0015】
前記動力伝達部材は、樹脂製のロッド形状を有していてもよい。
【0016】
また、本発明によれば、上述した何れかの構成を有するリトラクタを備えた、ことを特徴とするシートベルト装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明に係るリトラクタ及びシートベルト装置によれば、ベースフレームに案内部材の位置を規制する凸部を配置したことにより、プリテンショナの作動時における案内部材のぶれ(左右方向に移動)を抑制し、リトラクタの駆動性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。
【
図2】
図1に示したリトラクタの組立状態を示す背面図である。
【
図3】リトラクタの部分断面図を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、を示している。
【
図4】
図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)は作動開始前の状態、(B)は動力伝達部材がストッパーピンに到達した状態、(C)は作動完了終了後の状態、を示している。
【
図5】凸部の説明図であり、(A)は動力伝達部材と案内部材との関係を示す部分断面図、(B)は動力伝達部材、案内部材及び凸部の関係を示す部分断面図、である。
【
図6】凸部の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。
【
図7】凸部の変形例を示す図であり、(A)は第四変形例、(B)は第五変形例、を示している。
【
図8】リトラクタの変形例を示す部品展開図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図9を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。
図2は、
図1に示したリトラクタの組立状態を示す背面図である。
図3は、リトラクタの部分断面図を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、を示している。なお、
図3(A)では、説明の便宜上、動力伝達部材42aのを灰色に塗り潰して図示してある。
【0020】
本発明の一実施形態に係るリトラクタ1は、
図1に示したように、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプール2と、スプール2を回転可能に内包するベースフレーム3と、緊急時にスプール2を回転させるプリテンショナ4と、を含んでいる。なお、
図1において、ウェビングの図は省略してある。
【0021】
スプール2は、ウェビングを巻き取る巻胴であり、リトラクタ1の骨格を形成するベースフレーム3内に回転可能に収容されている。ベースフレーム3は、対峙するように配置された第一端面31及び第二端面32と、これらの端面を連結する側面33と、を有している。ベースフレーム3は、側面33と対峙し第一端面31及び第二端面32に接続されるタイプレート34を備えていてもよい。また、側面33には、ベースフレーム3を固定するためのブラケット35が固定されていてもよい。
【0022】
また、例えば、第一端面31側にスプリングユニット6が配置され、第二端面32側にプリテンショナ4及びロック機構5が配置される。なお、スプリングユニット6、プリテンショナ4、ロック機構5等の配置は、図示した構成に限定されるものではない。
【0023】
また、ベースフレーム3の第一端面31には、スプール2の軸部を挿通する開口部31aが形成されており、ベースフレーム3の第二端面32には、ロック機構5のパウル(図示せず)と係合可能な内歯を有する開口部32aが形成されている。
【0024】
また、ベースフレーム3の第二端面32の内側には、プリテンショナ4の一部(例えば、リングギア41)が配置される。また、ベースフレーム3の第二端面32の外側にはロック機構5が配置され、ロック機構5はリテーナカバー51内に収容される。
【0025】
リテーナカバー51の凹部51aには、車体の急減速や傾きを検出するビークルセンサ(図示せず)が配置されていてもよい。ビークルセンサは、例えば、球形の質量体と、質量体の移動によって揺動されるセンサレバーと、を有している。ビークルセンサは、ベースフレーム3の第二端面32に形成された凹部に嵌め込まれて固定されていてもよい。
【0026】
スプール2は、中心部に空洞を有し、軸心を形成するトーションバー21が挿通されていてもよい。トーションバー21は、第一端部がスプール2の端部に接続されたロック機構5のロッキングベース52に接続されており、第二端部がスプール2に固定されるとともにスプリングユニット6のスプリングコアに接続されている。
【0027】
したがって、スプール2は、ロッキングベース52及びトーションバー21を介して、スプリングユニット6に接続されており、スプリングユニット6に格納されたゼンマイバネによりウェビングを巻き取る方向に付勢されている。なお、スプール2に巻き取り力を付与する手段は、スプリングユニット6に限定されるものではなく、電動モータ等を用いた他の手段であってもよい。
【0028】
ロッキングベース52は、その側面部から出没可能に配置されたパウル(図示せず)を備えている。ロック機構5の作動時には、パウルをロッキングベース52の側面部から突出させることにより、ベースフレーム3の開口部32aに形成された内歯に係合させ、ロッキングベース52のウェビング引き出し方向の回転を拘束する。
【0029】
したがって、ロック機構5が作動した状態で、ウェビング引き出し方向に荷重が負荷された場合であっても、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じるまでは、スプール2を非回転状態に保持することができる。そして、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じた場合には、トーションバー21が捻れることによって、スプール2が相対的に回転運動を生じ、ウェビングが引き出される。
【0030】
また、ロック機構5は、ロッキングベース52に隣接するように配置されたロックギア53を備えている。ロックギア53は、揺動可能に配置されたフライホイール(図示せず)を備えており、ウェビングが通常の引き出し速度よりも早い場合には、フライホイールが揺動してリテーナカバー51に形成された内歯に係合する。また、ビークルセンサが作動した場合には、センサレバーがロックギア53の側面に形成された外歯に係合する。
【0031】
このように、ロックギア53は、フライホイール又はビークルセンサの作動により回転が規制される。そして、ロックギア53の回転が規制されると、ロッキングベース52とロックギア53との間に相対回転が生じ、この相対回転に伴ってパウルがロッキングベース52の側面部から突出される。
【0032】
なお、ロック機構5は、図示した構成に限定されるものではなく、従来から存在している種々の構成のものを任意に選択して使用することができる。また、スプール2は、トーションバー21の代わりに、シャフトとワイヤ状又はプレート状の塑性変形部材との組み合わせによって構成される衝撃吸収機構を備えていてもよい。
【0033】
プリテンショナ4は、例えば、スプール2に接続され外周に係合歯を備えたリングギア41と、リングギア41に動力を伝達する動力伝達装置42と、リングギア41を格納するプリテンショナカバー43と、動力伝達部材42aの移動を規制するストッパーピン44と、を備えている。また、図示しないが、プリテンショナ4は、プリテンショナカバー43内において、動力伝達部材42aの移動空間を形成するガイドスペーサを備えていてもよい。
【0034】
リングギア41は、プリテンショナカバー43とベースフレーム3(第二端面32)との間に形成された空間に位置するように配置される。なお、リングギア41は駆動輪や回転部材と称することもある。
【0035】
プリテンショナカバー43は、例えば、ベースフレーム3の第二端面32の内側に配置される。また、プリテンショナカバー43は、例えば、固定部材45により、案内部材42bの先端とともにベースフレーム3の第二端面32に固定される。
【0036】
ストッパーピン44は、動力伝達部材42aの終点の位置を規制する部品である。ストッパーピン44は、プリテンショナカバー43により形成された動力伝達部材42aの通路内であって、案内部材42bに近接した位置に配置される。ストッパーピン44は、例えば、プリテンショナカバー43の外側から挿通されベースフレーム3の第二端面32の外側から端部をかしめることにより固定される。
【0037】
動力伝達装置42は、例えば、リングギア41に動力を伝達する樹脂製のロッド形状を有する動力伝達部材42aと、動力伝達部材42aをリングギア41に案内する筒形状の案内部材42bと、案内部材42bの内部に作動ガスを供給するガス発生器42cと、ガス発生器42cと動力伝達部材42aとの間に配置されたピストン42dと、ピストン42dと案内部材との隙間を密封するシール部材42eと、ピストン42dの前方に配置された弾性体42fと、弾性体42fを保護する樹脂製の保護部材42gと、を備えている。
【0038】
動力伝達部材42aは、案内部材42bに挿入する前の状態では、直線形状を有する棒状に形成されており、例えば、案内部材42bの先端側から案内部材42b内に圧入することによって、
図1に示したように、案内部材42bの形状に沿った状態で案内部材42bの内部に収容される。動力伝達部材42aは、先端に拡径部42wを有していてもよい。また、動力伝達部材42aは、後端(ピストン42d側の端部)が球面形状を有していてもよい。なお、動力伝達部材42aの後端は平面形状であってもよい。
【0039】
案内部材42bは、例えば、
図1に示したように、第一端面31の上部、タイプレート34の上部、第二端面32の上部を通り、第二端面32及び側面33によって形成される角部36の内側に沿って配置されるように湾曲した形状を有している。案内部材42bは、圧力容器を構成する部品であることから金属部材によって構成される。
【0040】
案内部材42bの先端部には、動力伝達部材42aとリングギア41との噛合開始時に動力伝達部材42aを支持するガイド部材42hが配置されていてもよい。また、案内部材42bの先端部には、ガイド部材42hに案内された動力伝達部材42aを案内部材42bからプリテンショナカバー43により形成された空間に放出する開口部42iが形成されている。また、案内部材42bは、案内部材42bの先端部から開口部42iまで連通する切欠部42jと、開口部42iの下方に形成された固定部材45を挿通する挿通孔42kと、を備えている。
【0041】
開口部42iは、案内部材42bのガイド部材42hと隣接する位置に形成されており、動力伝達部材42aの出口部を構成している。また、切欠部42jは、ガイド部材42hの周方向の位置決めをする機能を有し、切欠部42jにはガイド部材42hの突起部が挿入される。
【0042】
ガイド部材42hは、例えば、案内部材42bの先端部に挿入可能な略円柱形状を有し、その挿入側の端部に動力伝達部材42aを開口部42iに案内する摺動面42mが斜めに形成されている。摺動面42mは、動力伝達部材42aの外形に沿って湾曲した溝形状を有していてもよい。また、摺動面42mの下部には、固定部材45を挿通する切欠部42nが形成されている。なお、固定部材45は、ベースフレーム3の第二端面32の外側からプッシュナット45a等により固定される。
【0043】
また、案内部材42bは、プリテンショナ4の作動時にピストン42dの移動を拘束する拘束部42oを備えていてもよい。拘束部42oは、動力伝達部材42aを通過させ、ピストン42dを案内部材42b内で停止させる部分である。拘束部42oは、例えば、案内部材42bの一部に形成された絞り部であり、案内部材42bの内側の突出した凸部を形成している。拘束部42oは、例えば、案内部材42bの外周の一部をプレスすることによって形成される。なお、拘束部42oは、案内部材42bにピン等の別部品を固定することによって形成してもよい。
【0044】
ガス発生器42cは、車両衝突時等の緊急時に案内部材42bの内部に作動ガスを噴出し、動力伝達部材42aに推進力を付与する部品である。ガス発生器42cは、図示しないECU(電子制御ユニット)に接続されており、加速度センサ等の計測値に基づいて制御される。
【0045】
ピストン42dは、例えば、略球面形状を有する頭部42pと、頭部42pの後方に形成された略円筒形状の胴部42qと、により構成される金属製の部品である。胴部42qの外周には、シール部材42eが配置される。また、ピストン42dの後方には、ガス発生器42cとの間にピストン42dを付勢するためのスプリング46が配置されていてもよい。なお、ピストン42dの構成は図示した構成に限定されるものではない。
【0046】
頭部42pは、拘束部42oの内径よりも大きな外径を有している。頭部42pの中心部にはピストン42dの前後の空間を連通する第一貫通孔42r及び第二貫通孔42sが形成されている(
図4(C)参照)。第一貫通孔42rは第二貫通孔42sよりも小さい径に形成されている。
【0047】
第一貫通孔42rは、ピストン42dが拘束部42oに到達するまでピストン42dの前方に位置する部材(例えば、動力伝達部材42a)の後端により封止可能に構成されている。また、第一貫通孔42rの径の大きさにより、作動ガスの放出量を制御することができる。また、第二貫通孔42sの径を大きくすることにより、ピストン42dの軽量化を図ることもできる。
【0048】
また、胴部42qの内径は、例えば、第二貫通孔42sの径よりも大きく形成される。胴部42qには、第二貫通孔42sに流入する作動ガスの流量を制御するプラグ42tが配置されていてもよい。プラグ42tと胴部42qとの間には、軸方向に溝が形成されており、作動ガスを流通可能に構成されている。
【0049】
シール部材42eは、例えば、略円筒形状のエラストマー製の部品である。シール部材42eの外径は、例えば、案内部材42bの内径よりも僅かに大きく形成されており、案内部材42b内に圧入される。したがって、シール部材42eは、ガス発生器42cから供給された作動ガスの圧力によって案内部材42bの内面に接触した状態を保持しながら移動する。
【0050】
弾性体42fは、例えば、略円柱形状に形成されたエラストマー製の部品である。弾性体42fは、装着時に案内部材42bの内面に密着するように構成されている。また、弾性体42fは、プリテンショナ作動時に拘束部42oを通過可能な形状に変形可能な弾性力を備えている。
【0051】
かかる弾性体42fを配置することにより、ピストン42dが拘束部42oに衝突するまでの間は弾性体42fにより第一貫通孔42rを封止することができる。また、弾性体42fが拘束部42oを通過した後は第一貫通孔42rから作動ガスを放出することができ、ピストン42dの運動エネルギーを低減することができる。
【0052】
保護部材42gは、弾性体42fと動力伝達部材42aとの間に配置される。保護部材42gは、例えば、動力伝達部材42aと同じ素材により構成される。保護部材42gは、弾性体42fに連結可能に構成されていてもよい。なお、弾性体42f及び保護部材42gの構成は図示した構成に限定されるものではない。
【0053】
ここで、プリテンショナ4の作動について、
図4(A)~
図4(C)を参照しつつ説明する。
図4は、
図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)は作動開始前の状態、(B)は動力伝達部材がストッパーピンに到達した状態、(C)は作動完了終了後の状態、を示している。なお、
図4(A)~
図4(C)では、説明の便宜上、動力伝達部材42aを灰色に塗り潰して図示してある。
【0054】
図4(A)に示したように、プリテンショナ4の作動前の状態において、動力伝達部材42aは案内部材42b内に収容されている。このとき、動力伝達部材42aの先端部は、ガイド部材42hに臨む位置まで挿入されている。
【0055】
車両衝突時等の緊急時にはプリテンショナ4が作動し、ガス発生器42cから案内部材42b内に作動ガスが供給され、ピストン42dを介して動力伝達部材42aが押し出され、案内部材42bに沿って移動する。このとき、動力伝達部材42aの先端部は、ガイド部材42hの摺動面42mに衝突し、開口部42iに向かって偏向され、摺動面42mに沿って移動し、リングギア41の外周に形成された係合歯に向かって放出される。
【0056】
案内部材42bから放出された動力伝達部材42aは、リングギア41の係合歯に衝突し、リングギア41を回転させる。その後、動力伝達部材42aは、リングギア41の係合歯によって塑性変形しながらプリテンショナカバー43によって形成された通路に沿って移動する。
【0057】
図4(B)に示したように、動力伝達部材42aの移動がストッパーピン44により規制された状態で、弾性体42fが拘束部42oに到達すると、動力伝達部材42aが圧縮され、
図4(C)に示したように、弾性体42fは拘束部42oを通過し、ピストン42dは拘束部42oに衝突して停止する。拘束部42oを通過した弾性体42fは、動力伝達部材42aと案内部材42bによって形成された空間にほぼ元の形状に復元した状態で排出される。
【0058】
したがって、ピストン42dの拘束時に作動ガスを案内部材42b内に封じ込めることなく、ピストン42dの貫通孔(第一貫通孔42r及び第二貫通孔42s)から作動ガスを外部に放出するようにしたことから、ピストン42dの運動エネルギーを低減することができる。
【0059】
ところで、ベースフレーム3は、上述したように、リングギア41が配置されていない側に配置される第一端面31と、リングギア41が配置されている側に配置される第二端面32と、第一端面31及び第二端面32を連結する側面33と、を備えている。案内部材42bの先端は、第二端面32と側面33との角部36に挿通され、固定部材45により第二端面に固定されている。
【0060】
本実施形態は、ベースフレーム3が案内部材42bの位置を規制する凸部37を備えることを特徴とする。具体的には、凸部37は、側面33の内側(スプール2に面する側)に突出するように形成される。また、凸部37は、例えば、
図2に示したように、側面33の一部をプレスすることにより縦長形状に形成される。また、案内部材42bの先端を側面33に固定する固定部材45から離れた位置となるように、側面33の上部付近に形成される。
【0061】
ここで、
図5は、凸部の説明図であり、(A)は動力伝達部材と案内部材との関係を示す部分断面図、(B)は動力伝達部材、案内部材及び凸部の関係を示す部分断面図、である。
図5(A)は、説明の便宜上、
図3(A)に示した部分断面のみを図示し、プリテンショナ作動後の動力伝達部材42aの状態を書き込んだものである。また、
図5(B)は、
図5(A)の部分拡大図であり、動力伝達部材42aの断面を書き込んだものである。
【0062】
図4(B)及び
図4(C)に示したように、動力伝達部材42aは、プリテンショナ4の作動時にプリテンショナカバー43内を通過し、動力伝達部材42aの先端(拡径部42w)がストッパーピン44に衝突する。このとき、動力伝達部材42aの先端は、
図5(A)に示したように、ベースフレーム3の第二端面32と案内部材42bとの間に入り込む。
【0063】
動力伝達部材42aの先端がストッパーピン44に衝突した後、動力伝達部材42aには図中の矢印P1方向に過大な荷重が生じることから、案内部材42bは図中の矢印P2方向に荷重を受け、矢印P2方向に移動させる力が負荷され、案内部材42bがぶれる(左右方向に移動する)こととなる。なお、
図5(A)では、説明の便宜上、案内部材42bがぶれる(左右方向に移動する)前の位置を点線で図示してある。
【0064】
そこで、本実施形態では、側面33に凸部37を形成し、案内部材42bの位置を規制し、案内部材42bのぶれ(左右方向に移動)を抑制し、リトラクタ1の駆動性能を向上させるようにしている。
【0065】
凸部37により案内部材42bのぶれを効果的に規制するためには、例えば、
図5(B)に示したように、凸部37は、プリテンショナ4が作動した後、動力伝達部材42aの一部が案内部材42bと接触した状態における断面で、案内部材42bの中心O1と動力伝達部材42aの中心O2とを結ぶ直線Lが、案内部材42bと凸部37との接点Q1よりも第二端面32側を通るように構成される。
【0066】
換言すれば、凸部37の位置及び高さは、直線Lが案内部材42bと凸部37との接点Q1と案内部材42bと側面33の平面部との接点Q2との間を通過するように設計される。
【0067】
また、案内部材42bのぶれは、案内部材42bの先端が固定部材45により第二端面32に固定された位置を基点にしていることから、凸部37をこの基点(固定部材45の位置)からできるだけ離れた位置に配置することにより、効果的に案内部材42bのぶれを抑制することができる。
【0068】
次に、凸部37の変形例について、
図6(A)~
図7(B)を参照しつつ説明する。ここで、
図6は、凸部の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。
図7は、凸部の変形例を示す図であり、(A)は第四変形例、(B)は第五変形例、を示している。なお、
図6(A)~
図6(C)は側面33の部分背面図を示し、
図7(A)及び
図7(B)は凸部37周辺の部分断面図を示している。
【0069】
図6(A)に示した第一変形例のように、凸部37は点状であってもよい。また、
図6(B)に示した第二変形例のように、凸部37は線状であってもよい。また、
図6(C)に示した第三変形例のように、凸部37は点線状であってもよい。
【0070】
図7(A)に示した第四変形例のように、凸部37は側面33の内面の一部を隆起させた形状であってもよい。また、
図7(A)に示した第四変形例のように、凸部37は側面33に配置されたリベット等の別部品によって構成されていてもよい。
【0071】
次に、リトラクタ1の変形例について、
図8を参照しつつ説明する。ここで、
図8は、リトラクタの変形例を示す部品展開図である。
【0072】
図8に示したリトラクタ1の変形例は、プリテンショナ4の作動時におけるウェビングの巻き取り量が
図1に示したものよりも少ない型式のものである。
図8に示したリトラクタ1の変形例は、動力伝達部材42aの長さが
図1に示したものよりも短く形成されている。また、案内部材42bやプリテンショナカバー43によって構成される動力伝達部材42aが通過する経路も
図1に示したものよりも短く形成されている。その他の構成は
図1に示したものと同じであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0073】
図1及び
図8に示したように、プリテンショナ4の作動時におけるウェビングの巻き取り量、すなわち、動力伝達部材42aの長さに関係なく、凸部37を形成することによって、案内部材42bの位置を規制し、案内部材42bのぶれ(左右方向に移動)を抑制し、リトラクタ1の駆動性能を向上させることができる。
【0074】
次に、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置について、
図9を参照しつつ説明する。ここで、
図9は、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。なお、
図9において、説明の便宜上、シートベルト装置以外の構成部品については、一点鎖線で図示している。
【0075】
図9に示した本実施形態に係るシートベルト装置100は、乗員を拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うリトラクタ1と、車体側に設けられウェビングWを案内するガイドアンカー101と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカー102と、シートSの側面に配置されたバックル103と、ウェビングWに配置されたトング104と、を備え、リトラクタ1は、例えば、
図1に示した構成を有している。
【0076】
以下、リトラクタ1以外の構成部品について、簡単に説明する。シートSは、例えば、乗員が着座する腰掛部S1と、乗員の背面に位置する背もたれ部S2と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト部S3とを備えている。リトラクタ1は、例えば、車体のBピラーRに内蔵される。また、一般に、バックル103は腰掛部S1の側面に配置されることが多く、ベルトアンカー102は腰掛部S1の下面に配置されることが多い。また、ガイドアンカー101は、BピラーRに配置されることが多い。そして、ウェビングWは、一端がベルトアンカー102に接続され、他端がガイドアンカー101を介してリトラクタ1に接続されている。
【0077】
したがって、トング104をバックル103に嵌着させる場合、ウェビングWはガイドアンカー101の挿通孔を摺動しながらリトラクタ1から引き出されることとなる。また、乗員がシートベルトを装着した場合や降車時にシートベルトを解除した場合には、リトラクタ1のスプリングユニット6の作用により、ウェビングWは一定の負荷がかかるまで巻き取られる。
【0078】
上述したシートベルト装置100は、前部座席における通常のシートベルト装置に、上述した実施形態に係るリトラクタ1を適用したものである。したがって、本実施形態に係るシートベルト装置100によれば、凸部37により案内部材42bの位置を規制し、案内部材42bのぶれ(左右方向に移動)を抑制し、リトラクタ1の駆動性能を向上させることができる。
【0079】
なお、本実施形態に係るシートベルト装置100は、前部座席への適用に限定されるものではなく、例えば、ガイドアンカー101を省略して後部座席にも容易に適用することができる。また、本実施形態に係るシートベルト装置100は、車両以外の乗物にも使用することができる。
【0080】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0081】
1 リトラクタ
2 スプール
3 ベースフレーム
4 プリテンショナ
5 ロック機構
6 スプリングユニット
21 トーションバー
31 第一端面
31a 開口部
32 第二端面
32a 開口部
33 側面
34 タイプレート
35 ブラケット
36 角部
37 凸部
41 リングギア
42 動力伝達装置
42a 動力伝達部材
42b 案内部材
42c ガス発生器
42d ピストン
42e シール部材
42f 弾性体
42g 保護部材
42h ガイド部材
42i 開口部
42j 切欠部
42k 挿通孔
42m 摺動面
42n 切欠部
42o 拘束部
42p 頭部
42q 胴部
42r 第一貫通孔
42s 第二貫通孔
42t プラグ
42w 拡径部
43 プリテンショナカバー
44 ストッパーピン
45 固定部材
45a プッシュナット
46 スプリング
51 リテーナカバー
51a 凹部
52 ロッキングベース
53 ロックギア
100 シートベルト装置
101 ガイドアンカー
102 ベルトアンカー
103 バックル
104 トング