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  • 特開-飲料注出装置 図1
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  • 特開-飲料注出装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028868
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】飲料注出装置
(51)【国際特許分類】
   B67D 1/07 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
B67D1/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134817
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517110346
【氏名又は名称】株式会社第一精工舎
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉部 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】前田 勉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徹
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 知久
(72)【発明者】
【氏名】田中 南
(72)【発明者】
【氏名】敦澤 裕紀
【テーマコード(参考)】
3E082
【Fターム(参考)】
3E082AA04
3E082BB03
3E082BB05
3E082CC01
3E082DD01
3E082EE02
3E082FF01
(57)【要約】
【課題】微生物の繁殖を低コストで抑制するために有利な飲料注出装置を提供する。
【解決手段】飲料注出装置1は、飲料を収容した飲料容器の口部に装着されるディスペンスヘッド100を含む。ディスペンスヘッド100は、少なくとも1つの樹脂部品を含み、該少なくとも1つの樹脂部品は、銅を含有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料を収容した飲料容器の口部に装着されるディスペンスヘッドを含む飲料注出装置であって、
前記ディスペンスヘッドは、少なくとも1つの樹脂部品を含み、
前記少なくとも1つの樹脂部品は、銅を含有する、
ことを特徴とする飲料注出装置。
【請求項2】
前記ディスペンスヘッドは、前記口部に係合する係合部、および、貫通孔を有する本体と、前記貫通孔の中でスライド可能で前記飲料を流す飲料流路を有するシリンダとを含み、
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記本体または前記シリンダによって保持される樹脂部品を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の飲料注出装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記本体によって保持されるメインガスケットを含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の飲料注出装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記シリンダによって保持されるプローブガスケットを含む、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の飲料注出装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記飲料流路に配置される逆止ボールを含む、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の飲料注出装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記逆止ボールの可動域を規制するように前記飲料流路に配置されるボールストッパを含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の飲料注出装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記シリンダに取り付けられるOリングを含む、
ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の飲料注出装置。
【請求項8】
前記ディスペンスヘッドは、炭酸ガスポートを有し、
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記炭酸ガスポートに装着されるガス逆止弁を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の飲料注出装置。
【請求項9】
前記銅は、前記少なくとも1つの樹脂部品の表面に露出した銅粒子を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の飲料注出装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの樹脂部品は、前記飲料に銅イオンを提供するように前記銅を含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の飲料注出装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの樹脂部品は、20重量%以上かつ40重量%以下の比率で前記銅を含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の飲料注出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料注出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、樽詰生ビールをジョッキ等に注ぐ場合に用いられるディスペンサに関するものであり、特許文献1には、ディスペンスヘッドからビールコックまでのビールと接する面がすべて抗菌化されたディスペンサが記載されている。ここで、特許文献1には、ビールと接する面を形成するビールホース等の樹脂製部品が抗菌剤を含有する樹脂で構成される場合には、抗菌剤を原料の樹脂に流入させて成形するとの記載がある。また、特許文献1には、構成部品が金属等の非樹脂製部品である場合には、抗菌剤を含有する樹脂コーティングをその非樹脂製部品に施すとの記載がある。しかし、ビールと接する面をすべて抗菌化すると、ディスペンサの製造コストや維持コストは、非常に高額になりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2523876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、微生物の繁殖を低コストで抑制するために有利な飲料注出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの側面は、飲料を収容した飲料容器の口部に装着されるディスペンスヘッドを含む飲料注出装置に係り、前記ディスペンスヘッドは、少なくとも1つの樹脂部品を含み、前記少なくとも1つの樹脂部品は、銅を含有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、微生物の繁殖を低コストで抑制するために有利な飲料注出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態の飲料注出装置の構成を例示する図。
図2】ディスペンスヘッドの構成を例示する図。
図3】ビールの劣化原因を調査した結果を示す図。
図4】飲料容器に対する微生物の供給源を特定するための実験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0009】
図1には、一実施形態の飲料注出装置1の構成が例示的に示されている。飲料注出装置1は、ディスペンスヘッド100を備えうる。ディスペンスヘッド100は、飲料を収容した飲料容器(例えば、飲料樽と呼ばれうる)30の口部32に装着されうる。飲料は、例えば、ビール、発泡酒、酎ハイ等の炭酸ガス入りアルコール飲料、ノンアルコールビール等の前記アルコール飲料テイストのノンアルコール飲料でありうる。飲料注出装置1は、ディスペンスヘッド100からホース22を介して供給される飲料をハンドル12の操作に応じて注出口13から飲料提供容器40に注出するサーバー10を備えてもよい。サーバー10は、ディスペンスヘッド100からホース22を介して供給される飲料を冷却する冷却器14を含んでもよい。ディスペンスヘッド100には、ガスボンベ20からガス供給チューブ24を介して炭酸ガスが供給されうる。
【0010】
図2には、ディスペンスヘッド100の構成例が示されている。ディスペンスヘッド100は、本体110と、シリンダ120とを含みうる。本体110は、飲料容器(飲料樽)30の口部32に係合する係合部112、および、貫通孔114を有しうる。また、本体110は、ガスボンベ20からガス供給チューブ24を介して供給される炭酸ガスを受け入れる炭酸ガスポート116を有しうる。炭酸ガスポート116には、ガス逆止弁(不図示)が装着されうる。シリンダ120は、本体110の貫通孔114の中でスライド可能で、ガスボンベ20から供給される炭酸ガスの圧力によって飲料容器30から送り出されうる飲料をサーバー10に供給するための飲料流路122を有する。本体110の貫通孔114には、2つの環状溝が設けられ、該2つの環状溝には、Oリング145、146が取り付けられ、これにより貫通孔114とシリンダ120との間にシール機能が提供されうる。本体110およびシリンダ120は、金属または合金によって構成されうる。
【0011】
ディスペンスヘッド100は、ユーザによって操作されうるハンドル130を含んでもよく、ハンドル130は、本体110によって回動可能に軸支されうる。一例において、ハンドル130は、ユーザによって矢印A方向に回動されると、シリンダ120を本体110に対して相対的に矢印B方向にスライドさせうる。これにより、本体110の貫通孔114の内側面とシリンダ120の外側面との間にガス流路が形成される。ガスボンベ20からガス供給チューブ24を介して供給される炭酸ガスは、このガス流路および飲料容器30の口部32を通して飲料容器30の内部空間に供給され、この炭酸ガスの圧力によって飲料容器30の内部空間の飲料がシリンダ120の飲料流路122に送り出され、更にホース22を介してサーバー10に供給されうる。
【0012】
ディスペンスヘッド100は、交換可能な複数の部品として、少なくとも1つの樹脂部品を含みうる。該少なくとも1つの樹脂部品は、銅を含有しうる。一例において、ディスペンスヘッド100は、交換可能な複数の樹脂部品を含みうる。ただし、ディスペンスヘッド100は、少なくとも1つの樹脂部品を含み、その少なくとも1つの樹脂部品が銅を含有すればよい。
【0013】
上記の複数の樹脂部品は、本体110によって保持されるメインガスケット141、シリンダ120によって保持されるプローブガスケット142、飲料流路122に配置される逆止ボール143、および、逆止ボール143の可動域を規制するように飲料流路122に配置されるボールストッパ144でありうる。メインガスケット141は、炭酸ガスが漏れないように、飲料容器30の口部32をシールする。プローブガスケット142は、飲料容器30の口部32において、炭酸ガスの流路と飲料の流路とを分離するように配置されうる。
【0014】
逆止ボール143は、飲料容器30から飲料流路122に送り出された飲料が飲料容器30に戻ることを防止するように飲料流路122に配置されうる。ボールストッパ144は、逆止ボール143の可動域、より詳しくは、飲料容器30の口部32から離れる方向における逆止ボール143の限界位置を規定しうる。一例において、ボールストッパ144は、逆止ボール143に接触する環状部材161と、シリンダ120の中心軸に対して環状部材161の中心軸を一致させるように環状部材161を位置決めする少なくとも3つの位置決め片162とを含みうる。図2には、1つの位置決め片162のみが示されている。
【0015】
上記の複数の樹脂部品、即ち、メインガスケット141、プローブガスケット142、逆止ボール143、および、ボールストッパ144がそれぞれ含有する銅は、該樹脂部品の表面に露出した銅粒子を含みうる。他の観点において、上記の複数の樹脂部品、即ち、メインガスケット141、プローブガスケット142、逆止ボール143、および、ボールストッパ144がそれぞれ含有する銅は、飲料容器30内の飲料あるいは飲料容器30から送り出された飲料に銅イオンを提供するように銅を含有しうる。
【0016】
上記の複数の樹脂部品、即ち、メインガスケット141、プローブガスケット142、逆止ボール143、および、ボールストッパ144は、それぞれ20重量%以上かつ40重量%以下の比率で銅を含有しうる。銅の含有比率が多すぎると成形が困難となり、少なすぎると微生物の繁殖抑制効果が低下する。より詳しくは、メインガスケット141は、20重量%以上かつ40重量%以下の比率で銅を含有しうる。また、プローブガスケット142は、20重量%以上かつ40重量%以下の比率で銅を含有しうる。また、逆止ボール143は、20重量%以上かつ40重量%以下の比率で銅を含有しうる。また、ボールストッパ144は、20重量%以上かつ40重量%以下の比率で銅を含有しうる。
【0017】
ディスペンスヘッド100の樹脂部品、この例では、メインガスケット141、プローブガスケット142、逆止ボール143、および、ボールストッパ144がそれぞれ含有する銅は、飲料に銅イオンを提供することによって、仮に該飲料に微生物が混入したとしても、その微生物の繁殖を抑制し、あるいは死滅させることができる。
【0018】
さらに、炭酸ガスポート116に装着されるガス逆止弁(不図示)、および、シリンダ120に取り付けられるOリング145、146も樹脂部品であってもよく、その場合、これらの部品は銅を含有しうる。これらの部品は、飲料流路を構成しないが、取扱いにより飲料が接触した場合に、微生物の繁殖を抑制する。
【0019】
以下では、本発明が適用されていない飲料注出装置において飲料としてのビールの劣化原因を調査した結果を説明する。図3には、サンプル1、サンプル2、サンプル3およびサンプル4における微生物の繁殖結果が示されている。図3において、縦軸は、CP-PDA、STA(35、20℃)培養で得られたコロニーの総数を示している。
【0020】
サンプル1は、清浄な状態が保証された飲料注出装置を準備し、清浄な飲料容器30の口部32にディスペンスヘッドを装着し、飲料注出装置によって注出されたビール中の微生物を培養したものである。
【0021】
サンプル2は、微生物を増殖させた飲料注出装置を準備し、清浄な飲料容器30の口部32にディスペンスヘッドを装着し、その直後に飲料注出装置1によって注出されたビール中の微生物を培養したものである。
【0022】
サンプル3は、微生物を増殖させた飲料注出装置を準備し、清浄な飲料容器30の口部32にディスペンスヘッドを装着し、サーバーの流路にビールを送った後、3日間にわたって放置した後にサーバーの流路からサンプリングしたビール中の微生物を培養したものである。
【0023】
サンプル4は、微生物を増殖させた飲料注出装置を準備し、清浄な飲料容器30の口部32にディスペンスヘッドを装着し、3日間にわたって放置した後に飲料容器30の口部32から直接サンプリングしたビール中の微生物を培養したものである。サンプル3、4において、飲料容器30は、放置された3日間にわたって常温環境中に置かれた。
【0024】
サンプル2とサンプル3との結果がほぼ同じであることから、サーバーの流路では、放置された3日間において微生物の増殖はなかったと判断される。サンプル4の微生物数がサンプル2、3の微生物数の4倍程度であることから、飲料容器30において微生物が増殖した可能性が高い。
【0025】
そこで、飲料容器30に対する微生物の供給源を特定するための実験を行った。その結果が図4に示されている。
【0026】
サンプル5は、ディスペンスヘッドのみで微生物を増殖させた後にディスペンスヘッドを飲料容器30の口部32に接続し、その後、飲料容器30から直接サンプリングしたものである。
【0027】
サンプル6は、ホース(ホース22に相当)のみで微生物を増殖させた後にディスペンスヘッドを飲料容器30の口部32に接続し、その後、飲料容器30から直接サンプリングしたものである。
【0028】
サンプル7は、ディスペンスヘッドおよびホース(ホース22に相当)以外の部分、具体的にはサーバー10や注出口13で微生物を増殖させた後にディスペンスヘッドを飲料容器30の口部32に接続し、その後、飲料容器30から直接サンプリングしたものである。
【0029】
図4において、「接続直後」は、ディスペンスヘッドを飲料容器30の口部32に接続し、その直後に飲料容器30から直接サンプリングしたビールの中の微生物の数、「24時間後」は、ディスペンスヘッドを飲料容器30の口部32に接続してから24時間後に飲料容器30から直接サンプリングしたビールの中の微生物の数であり、いずれも、CP-PDA、ABD培地を使って検出された微生物数/100mLである。
【0030】
図4の結果において、サンプル5においてのみ微生物が検出されていることから、飲料容器30に対する微生物の主な供給源は、ディスペンスヘッドであることが分かる。
【0031】
以上より、ディスペンスヘッド100における微生物の増殖を抑えることが、ディスペンスヘッド100から飲料容器30の中の飲料への微生物の供給を低減するために有効であることが分かる。よって、上記のようなディスペンスヘッド100を備える飲料注出装置1は、微生物の繁殖を低コストで抑制するために有利である。
【0032】
<実施例>
銅粉を30重量%配合したメインガスケット141、プローブガスケット142、逆止ボール143、および、ボールストッパ144を用いたディスペンスヘッド100を有する飲料注出装置1(以下、「実施例の飲料注出装置」という)と、通常の飲料注出装置(以下、「比較例の飲料注出装置」という)とを準備し、これらを同一条件で使用(通液)した後、洗浄せず3日放置した。
【0033】
その後、実施例の飲料注出装置のディスペンスヘッド100および比較例の飲料注出装置のディスペンスヘッドのそれぞれに新しい飲料容器(ビール樽)30を接続して通液した後、さらに3日放置した。
【0034】
その後、それらの飲料容器30から直接サンプリングしたビールについて、微生物数と官能検査を行った。
【0035】
その結果、実施例の飲料注出装置のディスペンスヘッド100が接続された飲料容器30から注出したビールは、比較例の飲料注出装置のディスペンスヘッドが接続された飲料容器30から注出したビールに比べ、微生物数も少なく、香味劣化度合いも小さいことが確認できた。
【0036】
なお、使用した銅粉は、見掛密度が0.6~1.0g/cm、質量基準の粒子径において45μm以上の粒子の割合が25%未満(うち75μm以上の粒子の割合が4%未満)、45μm未満の粒子の割合が75%以上である。
【0037】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1:飲料注出装置、10:サーバー、12:ハンドル、13:注出口、14:冷却器、20:ガスボンベ、22:ホース、24:ガス供給チューブ、30:飲料容器、32:口部、100:ディスペンスヘッド、110:本体、112:係合部、114:貫通孔、120:シリンダ、122:飲料流路、130:ハンドル、141:メインガスケット、142:プローブガスケット、143:逆止ボール、144:ボールストッパ、161:環状部材、162:位置決め片
図1
図2
図3
図4