(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028884
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】摩擦圧接継手、テーラードブランク材、成形品、及び摩擦圧接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
B23K20/12 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134850
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】泰山 正則
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA05
4E167BF12
4E167BF13
(57)【要約】
【課題】母材鋼板の一方又は両方がAl系めっきを有しながら高い接合強度を有する摩擦圧接継手、テーラードブランク材、成形品、及び摩擦圧接継手の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る摩擦圧接継手は、Al系めっきを有する第1の鋼板と、前記第1の鋼板と実質的に同一平面上に配された第2の鋼板と、前記第1の鋼板の端面と、前記第2の鋼板の端面とを接合する摩擦圧接面と、を備え、接合部から、前記Al系めっきが排出されている。本発明の別の態様に係る摩擦圧接継手は、Al系めっきを有する第1の鋼板と、前記第1の鋼板と実質的に同一平面上に配された第2の鋼板と、前記第1の鋼板の端面と、前記第2の鋼板の端面とを接合する摩擦圧接面と、を備え、接合部における平均Al量が1.0質量%未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al系めっきを有する第1の鋼板と、
前記第1の鋼板と実質的に同一平面上に配された第2の鋼板と、
前記第1の鋼板の端面と、前記第2の鋼板の端面とを接合する摩擦圧接面と、
を備え、
前記摩擦圧接面から、前記摩擦圧接面と垂直な方向に0.5mm以内の領域である接合部の全体にわたり、Al濃度が、前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板のうち母材のAl濃度が高い方のAl濃度の2倍よりも小さい
摩擦圧接継手。
【請求項2】
Al系めっきを有する第1の鋼板と、
前記第1の鋼板と実質的に同一平面上に配された第2の鋼板と、
前記第1の鋼板の端面と、前記第2の鋼板の端面とを接合する摩擦圧接面と、
を備え、
前記摩擦圧接面から、前記摩擦圧接面と垂直な方向に0.5mm以内の領域である接合部における平均Al量が1.0質量%未満である
摩擦圧接継手。
【請求項3】
前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板のうち薄い方の板厚が1.0mm~4.0mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦圧接継手。
【請求項4】
前記第1の鋼板の焼入れ後の引張強さと板厚との積が、前記第2の鋼板の焼入れ後の引張強さと板厚との積よりも小さいことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手。
【請求項5】
前記第1の鋼板のC含有量が0.10質量%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手。
【請求項6】
前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板がホットスタンプ用鋼板であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手。
【請求項7】
前記摩擦圧接継手が、前記摩擦圧接面において前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板の表面に垂直に突出したバリを有し、
前記バリの表面の一部に、前記第1の鋼板の表面から連続的にAl系めっきが配される
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手を含むテーラードブランク材。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手を含む成形品。
【請求項10】
前記第1の鋼板の引張強さが1000MPa以上であることを特徴とする請求項9に記載の成形品。
【請求項11】
前記第1の鋼板の引張強さと板厚との積が、前記第2の鋼板の引張強さと板厚との積よりも小さいことを特徴とする請求項9又は10に記載の成形品。
【請求項12】
Al系めっきを有する第1の鋼板の端面と、第2の鋼板の端面とを突き合せて、線形摩擦接合する工程を備え、
前記線形摩擦接合において、印加圧力を50MPa以上、周波数を10Hz以上、及び振幅を±1mm以上とし、
前記線形摩擦接合を、前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板の突き合せ面の全体からバリが排出されるまで継続する
摩擦圧接継手の製造方法。
【請求項13】
前記線形摩擦接合の開始の時点において、前記第1の鋼板の前記端面まで、前記Al系めっきが形成されていることを特徴とする請求項12に記載の摩擦圧接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦圧接継手、テーラードブランク材、成形品、及び摩擦圧接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al系めっき鋼板は、優れた耐食性を有するので、様々な機械部品の材料として用いられる。しかしながら、高強度が求められる機械部品の材料としてAl系めっき鋼板を用いる際には、溶接部へのAl濃化に起因する、継手強度の低下が問題となる。
【0003】
Al系めっき鋼板を溶接すると、溶接金属中にAl系めっきが取り込まれ、軟質なAl濃化部が形成される。Al濃化部は、溶接継手に応力が加わった際に破断起点として働くので、継手強度を低下させる。
【0004】
この問題を回避するための手段として、Al系めっき鋼板の端部からAl系めっきを除去してから、Al系めっき鋼板を溶接することが挙げられる。例えば、特許文献1には、少なくとも2つの板を突き合わせ溶接することによって得られた溶接された半加工品であって、溶接された接合部が、合金の層が取り除かれた領域に隣接する端面上でもたらされることを特徴とする、溶接された半加工品が開示されている。しかしながら、Al系めっきを除去する工程は、機械部品の製造コストを増大させる。従って、Al系めっきを除去することなくAl系めっき鋼板を接合することが好ましい。
【0005】
特許文献2には、強度の異なるアルミニウムめっき鋼板を突合せレーザ溶接して形成したホットスタンプ用のテーラードブランクであって、前記突合せレーザ溶接によって形成された溶接金属中のAlの平均濃度が0.3質量%以上、1.5質量%以下であり、溶接金属のAc3点が1250℃以下であり、さらに、ホットスタンプ後の溶接金属の硬さと溶接金属の最も薄い部分の厚さの積の値が、低強度側の鋼板のホットスタンプ後の硬さと板厚の積の値より高くなるように、前記突合せ溶接する鋼板が組み合わされて溶接されていることを特徴とするテーラードブランクが開示されている。この技術によれば、溶接される部分のめっき層を取り除かずにそのまま突合せレーザ溶接して、十分な継手強度を有するテーラードブランクが得られるとされている。しかしながら、この技術によっても、接合部から十分にAlを排出することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5237263号公報
【特許文献2】特許第5316664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、母材鋼板の一方又は両方がAl系めっきを有しながら高い接合強度を有する摩擦圧接継手、テーラードブランク材、成形品、及び摩擦圧接継手の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
(1)本発明の一態様に係る摩擦圧接継手は、Al系めっきを有する第1の鋼板と、前記第1の鋼板と実質的に同一平面上に配された第2の鋼板と、前記第1の鋼板の端面と、前記第2の鋼板の端面とを接合する摩擦圧接面と、を備え、前記摩擦圧接面から、前記摩擦圧接面と垂直な方向に0.5mm以内の領域である接合部の全体にわたり、Al濃度が、前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板のうち母材のAl濃度が高い方のAl濃度の2倍よりも小さい。
(2)本発明の別の態様に係る摩擦圧接継手は、Al系めっきを有する第1の鋼板と、前記第1の鋼板と実質的に同一平面上に配された第2の鋼板と、前記第1の鋼板の端面と、前記第2の鋼板の端面とを接合する摩擦圧接面と、を備え、前記摩擦圧接面から、前記摩擦圧接面と垂直な方向に0.5mm以内の領域である接合部における平均Al量が1.0質量%未満である。
(3)上記(1)又は(2)に記載の摩擦圧接継手では、前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板のうち薄い方の板厚が1.0mm~4.0mmであってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手では、前記第1の鋼板の焼入れ後の引張強さと板厚との積が、前記第2の鋼板の焼入れ後の引張強さと板厚との積よりも小さくてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手では、前記第1の鋼板のC含有量が0.10質量%以上であってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手では、前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板がホットスタンプ用鋼板であってもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手では、前記摩擦圧接継手が、前記摩擦圧接面において前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板の表面に垂直に突出したバリを有し、前記バリの表面の一部に、前記第1の鋼板の表面から連続的にAl系めっきが配されてもよい。
(8)本発明の別の態様に係るテーラードブランク材は、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手を含む。
(9)本発明の別の態様に係る成形品は、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の摩擦圧接継手を含む。
(10)上記(9)に記載の成形品では、前記第1の鋼板の引張強さが1000MPa以上であってもよい。
(11)上記(9)又は(10)に記載の成形品では、前記第1の鋼板の引張強さと板厚との積が、前記第2の鋼板の引張強さと板厚との積よりも小さくてもよい。
(12)本発明の別の態様に係る摩擦圧接継手の製造方法は、Al系めっきを有する第1の鋼板の端面と、第2の鋼板の端面とを突き合せて、線形摩擦接合する工程を備え、前記線形摩擦接合において、印加圧力を50MPa以上、周波数を10Hz以上、及び振幅を±1mm以上とし、前記線形摩擦接合を、前記第1の鋼板及び前記第2の鋼板の突き合せ面の全体からバリが排出されるまで継続する。
(13)上記(12)に記載の摩擦圧接継手の製造方法では、前記線形摩擦接合の開始の時点において、前記第1の鋼板の前記端面まで、前記Al系めっきが形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、母材鋼板の一方又は両方がAl系めっきを有しながら高い接合強度を有する摩擦圧接継手、テーラードブランク材、成形品、及び摩擦圧接継手の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】摩擦圧接継手の摩擦圧接面及び接合部の拡大断面図である。
【
図3】バリの表面の一部にAl系めっきが配されている摩擦圧接継手の概略図である。
【
図4A】第1の鋼板及び第2の鋼板の板厚が異なる場合の、突出し長さhを説明する図である。
【
図4B】第1の鋼板及び第2の鋼板の板厚が同一である場合の、突出し長さhを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態に係る摩擦圧接継手)
まず、本発明の第1の実施形態に係る摩擦圧接継手1について、図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る摩擦圧接継手1を示す断面図であり、
図2は、摩擦圧接継手1の摩擦圧接面13の拡大断面図である。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態に係る摩擦圧接継手1は、少なくとも2枚の鋼板11及び12をこれらの端面において互いに突合せて線形摩擦接合することによって得られる継手である。すなわち、摩擦圧接継手1は、いわゆる突合せ圧接継手である。線形摩擦圧接とは、部材をお互いに接触させながら線形に揺動させて発生する摩擦熱を利用して接合部近傍の温度を上昇させ、加圧して行う圧接のことである(JIS Z 3000-2:2018参照)。
【0014】
2枚の鋼板11及び12のうち少なくとも一方は、Al系めっき111を有する。Al系めっき111とは、その主成分がAlであり、必要に応じてAl以外の元素を含有するめっきを意味する。Al系めっき111に含まれるAl以外の元素とは、例えば3~15質量%のSiである。Al系めっき111は、例えば溶融Alめっき、及び電気Alめっき等である。以下、便宜的に、Al系めっき111を有する鋼板を第1の鋼板11と称する。また、第1の鋼板11と接合される鋼板を、第2の鋼板12と称する。ただし、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の両方がAl系めっきを有していてもよい。この場合、2枚の鋼板11及び12のうち任意のものを、第1の鋼板11とみなすことができる。また、第2の鋼板12が、Al系めっき以外のめっきを有してもよい。
【0015】
第1の鋼板11及び第2の鋼板12の厚さは特に限定されない。
図1に例示されるように、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の厚さが同じであってもよいし、
図2に例示されるように、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の厚さが異なっていてもよい。
【0016】
本実施形態に係る摩擦圧接継手はいわゆる突合せ圧接継手であるので、第1の鋼板11と第2の鋼板12とは、実質的に同一平面上に配される。ただし、第1の鋼板11と第2の鋼板12とが若干の角度をなすことは許容される。本実施形態において、接合部14の延在方向に垂直な断面において測定される第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角のうち小さい方の角度は、例えば170°~180°である。
【0017】
摩擦圧接継手1は、第1の鋼板11の端面と、第2の鋼板12の端面とを接合する摩擦圧接面13を有する。溶接継手とは異なり、固相接合によって形成される摩擦圧接継手1の接合部には溶融凝固部が形成されない。溶接継手の断面をピクリン酸で腐食させて観察すると、溶融凝固痕であるデンドライトが明瞭に確認されるが、摩擦圧接継手1の腐食断面にはデンドライトが含まれず、その代わりに、摩擦圧接面13が筋状に存在する様子を確認することができる。
【0018】
摩擦圧接面13は、線形摩擦圧接によって形成される。適切な線形摩擦圧接によって得られた、第1実施形態に係る摩擦圧接継手1の接合部14においては、Al濃度が、第1の鋼板11及び第2の鋼板12のうち母材のAl濃度が高い方のAl濃度の2倍よりも小さい。ここで接合部14とは、摩擦圧接面13から、摩擦圧接面13と垂直な方向に0.5mm以内の領域のことである。例えば、
図2に示される摩擦圧接継手1の断面においては、破線A~破線Dに囲まれた領域が接合部14である。
【0019】
上述の通りAl濃度が抑制された接合部14を有する摩擦圧接継手においては、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の端面に存在する物質が、摩擦圧接面13の外部に排出されている。端面に存在する物質とは、例えば酸化物や、Al系めっき111のダレである。換言すると、第1実施形態に係る摩擦圧接継手1においては、接合部14からAl系めっき111が排出されているのである。通常の溶接継手においては、溶接金属にAl系めっきが取り込まれ、継手強度を低下させる軟質なAl濃化部が形成される。一方、Al系めっき111が接合部14から排出されている場合、接合部に軟化部が形成されないので、高い接合強度が確保される。
【0020】
なお、摩擦圧接面13の近傍に、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の表面から垂直に突出したバリ15が形成されていてもよい。バリ15は、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の端面に存在する物質が、摩擦圧接面13の外部に排出されて形成されたものである。バリ15には、Al系めっき111が含まれていてもよい。バリ15は、摩擦圧接継手1の接合強度に影響しないからである。一方、摩擦圧接継手1の美観確保等の目的で、バリ15が摩擦圧接継手1から除去されていてもよい。
【0021】
また、バリ15は、その表面の一部に、第1の鋼板11の表面から連続的に形成されたAl系めっきを有していてもよい。バリ15は、
図3に示されるように、摩擦圧接面13の近傍において昇温によって軟化した金属が盛り上がることによって生じる。端面までAl系めっきが配された鋼板を線形摩擦接合に供した場合、端面の近傍に配されていたAl系めっきは、バリ15の盛り上がりに追従してめくれあがる。従って、端面までAl系めっきが配された鋼板を線形摩擦接合に供した場合、バリ15の表面の一部に、第1の鋼板11の表面から連続的にAl系めっきが配されることになる。このようなバリ15を有する摩擦圧接継手は、線形摩擦接合の際に端面からAl系めっきを除去する工程が省略されていたと推定される。従って、このようなバリ15を有する摩擦圧接継手は、製造コストの面で優れている。
【0022】
接合部14からAl系めっき111が排出されているか否かは、EPMAを用いて摩擦圧接継手1の断面の元素分布を測定することにより判別可能である。
図2に、摩擦圧接継手1の断面拡大図を示す。
図2における破線A及び破線Cは、第1の鋼板11及び第2の鋼板12のうち薄い方(
図2においては第1の鋼板11)の、塑性変形を受けていない表面を延長した線である。第1の鋼板11と第2の鋼板12との界面であって、破線A及び破線Cよりも板厚方向内側にある領域を、摩擦圧接面13とみなす。
図2における破線B及び破線Dは、摩擦圧接面13に平行であって、摩擦圧接面13から0.5mm離れた線である。破線A~破線Dに囲まれた領域が、摩擦圧接面13から摩擦圧接面13に垂直な方向に0.5mm以内の領域、即ち接合部14である。破線A~破線Dに囲まれた領域におけるAl濃度を、摩擦圧接面13に沿った方向、及び摩擦圧接面13に垂直な方向に沿って100μm間隔で測定する。これにより、接合部14のAl濃度の測定点は100μm間隔の格子状に配列されることになる。そして、破線A~破線Dに囲まれた領域において、鋼板のAl濃度の2倍以上のAl濃度である測定点が存在しない摩擦圧接継手は、接合部14からAl系めっき111が排出された継手であるとみなされる。第1の鋼板11のAl濃度と第2の鋼板12のAl濃度とが相違する場合は、Al濃度が高い方の鋼板のAl濃度を上述の「鋼板のAl濃度」として用いる。
【0023】
なお、破線A及び破線Cよりも板厚方向外側にある領域(例えばバリ15)は評価対象とはされない。また、第1の鋼板11と第2の鋼板12とが同一平面上にある
図2において、接合部14の断面は、長方形形状となっているが、第1の鋼板11と第2の鋼板12とが若干の角度をなしていてもよい。この場合、破線A及び破線Cと、破線B及び破線Dとがなす角度が90°ではなく、約80°~100°の範囲で変動しうる。しかし、この場合も、上述の通り100μm間隔の格子状に測定点を配置すればよい。
【0024】
(第2実施形態に係る摩擦圧接継手)
次に、本発明の第2の実施形態に係る摩擦圧接継手1について説明する。第2実施形態に係る摩擦圧接継手1は、第1実施形態と同様に、Al系めっき111を有する第1の鋼板11と、第1の鋼板11と実質的に同一平面上に配された第2の鋼板12と、第1の鋼板11の端面及び第2の鋼板12の端面を接合する摩擦圧接面13と、を有する。第1の鋼板11、第2の鋼板12、及びAl系めっき111の構成は、第1実施形態と同様のものとすることができる。また、第2実施形態に係る摩擦圧接継手1は、第1実施形態と同様にバリ15を有してもよい。
【0025】
第2実施形態に係る摩擦圧接継手1は、第1の鋼板11の端面と、第2の鋼板12の端面とを接合する摩擦圧接面13を有し、摩擦圧接面13から摩擦圧接面13に垂直な方向に0.5mm以内の領域である接合部14における平均Al量が1.0質量%未満である。接合部14とは、第1実施形態と同じく、
図2の破線A~破線Dに囲まれた領域のことである。接合部14の平均Al量が1.0質量%未満である場合、摩擦圧接継手1の接合部においてAlに起因する軟化が生じず、高い接合強度が確保される。
【0026】
接合部14における平均Al量は、接合部14からAl系めっき111が排出されているか否かの判別方法と同様の方法で、特定することができる。具体的には、摩擦圧接継手1の断面において、EPMAを用いて摩擦圧接継手1の断面の元素分布を測定することにより、接合部14における平均Al量を求める。即ち、
図2に示される破線A~破線Dに囲まれた領域におけるAl濃度を、摩擦圧接面13に沿った方向、及び摩擦圧接面13に垂直な方向に沿って100μm間隔で測定する。これにより、接合部14のAl濃度の測定点は100μm間隔の格子状に配列されることになる。そして、これらの測定点におけるAl濃度の平均値を算出し、これを、接合部14における平均Al量とみなす。
【0027】
接合部14からAl系めっき111が排出されているか否かの判断、及び接合部14における平均Al量の測定のいずれにおいても、EPMA測定条件は以下の通りとする。
・加速電圧15kV
・ビーム径100nm
・1点あたりの照射時間1000ms
【0028】
摩擦圧接継手1は、第1実施形態に係る構成、及び第2実施形態に係る構成の両方を兼備してもよい。また、上述の要件が満たされる限り、第1実施形態、及び第2実施形態に係る摩擦圧接継手1の構成は特に限定されない。これら実施形態に係る摩擦圧接継手1の一層好適な形態に関し、以下に例示的に説明する。特に断りが無い限り、以下に説明される構成は、第1実施形態に係る摩擦圧接継手1、及び第2実施形態に係る摩擦圧接継手1の両方に適用可能である。
【0029】
(板厚)
第1の鋼板11及び第2の鋼板12のうち、少なくとも薄い方の鋼板の板厚が4.0mm以下であってもよい。両方の鋼板の板厚を4.0mm以下としてもよい。鋼板の板厚を4.0mm以下とすることにより、摩擦圧接継手1をプレス成形部品の材料として用いることが可能となる。これにより、例えば自動車部品などの幅広い薄板構造部材に、本実施形態に係る摩擦圧接継手1を適用することが可能となる。第1の鋼板11及び第2の鋼板12の一方又は両方の板厚を、3.5mm以下、3.0mm以下、又は2.8mm以下としてもよい。
【0030】
一方、少なくとも薄い方の鋼板の板厚を1.0mm以上とすることにより、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の摩擦圧接の際に座屈が生じることを効果的に防止可能となる。薄い方の鋼板の板厚を1.2mm以上、1.5mm以上、又は2.0mm以上としてもよい。厚い方の鋼板の板厚の下限値に、上述の値を適用することも妨げられない。
【0031】
(鋼板の引張強さ及び板厚)
鋼板の焼入れ硬化能(熱処理による焼入れ硬化のしやすさを示す合金の性質であり、焼入れた時にどれだけ深く硬い組織が得られるかを示す性質)及び厚さを規定することにより、先行技術に対する本実施形態に係る摩擦圧接継手1の優位性が一層顕著となる。一般的に用いられる焼入れ硬化能の評価指標の一例は、炭素当量(鋼材の合金元素の含有量を炭素量に換算した値)であるが、本実施形態に係る摩擦圧接継手1においては、焼入れ性の評価指標として、「焼入れ後の引張強さ」を用いる。鋼板の焼入れ後の引張強さとは、鋼板を800~1000℃に加熱して、次いで金型冷却や水冷により急冷した後で測定される、鋼板の引張強さを意味する。急冷の際、800℃から500℃まで鋼板の温度が低下するのに要する時間が、下記式1~4によって算出される値tMよりも小さくなるようにする。
log10tM=4.6×CEI-2.08 (式1)
CEIは、下記式によって算出される値である。
CEI=Cp+Si/24+Mn/6+Cu/15+Ni/12+Cr×(1-0.16√Cr)/8+Mo/4+0.09 (式2)
Cp=C (C≦0.3%) (式3)
Cp=C/6+0.25 (C>0.3%) (式4)
なお、式2~式4に記載の元素記号は、鋼板における、この記号に係る合金元素の質量%での含有量を意味する。
【0032】
鋼板に上記条件で焼入れをしてから引張強さを測定することにより、鋼板の焼入れ硬化能を評価することができる。ただし、「焼入れ後の引張強さ」を用いて鋼板の焼入れ硬化能を規定した場合であっても、摩擦圧接継手1の鋼板が焼入れされている必要はない。焼入れ前の摩擦圧接継手1も、所定の要件を満たす限り、本実施形態に係る摩擦圧接継手1であるとみなされる。
【0033】
本実施形態に係る摩擦圧接継手1では、Al系めっき111を有する第1の鋼板11の、焼入れ後の引張強さと板厚との積が、第2の鋼板12の焼入れ後の引張強さと板厚との積よりも小さくてもよい。この場合、摩擦圧接継手1は、通常の溶接継手に対する一層の優位性を発揮する。
【0034】
通常の溶接継手において、上述の母材条件は、接合強度の確保の観点からは極めて不利である。その理由として、(1)溶接金属に取り込まれたAl系めっき111は、母材と溶接金属との境界である溶融境界部の近傍に濃化すること、(2)薄い鋼板の溶融境界部には応力集中が生じやすいこと、及び(3)高強度鋼板の溶融境界部に軟質なAl濃化部が存在すると、Al濃化部とそれ以外の部位との間の硬度差が著しくなること、が挙げられる。
【0035】
しかしながら、本実施形態に係る摩擦圧接継手1においては、摩擦圧接面及びその近傍からAl系めっき111が排出されているか、又はこの領域における平均Al濃度が極めて低く抑えられている。そのため、上述の焼入れ後の引張強さ、及び板厚を有する場合であっても、本実施形態に係る摩擦圧接継手1は高い接合強度を確保することができる。
【0036】
(鋼板のC含有量)
Al系めっき111を有する第1の鋼板11のC含有量は、例えば0.10質量%以上であってもよい。C含有量が多く、従って高強度を有するAl系めっき鋼板を溶接することによって得られる突合せ継手は、接合強度の低下が極めて生じやすいことが知られている。その理由は、Al濃化部とその他の部分との硬度差が著しい点にある。しかしながら、本実施形態に係る摩擦圧接継手1においては、摩擦圧接面及びその近傍からAl系めっき111が排出されているか、又はこの領域における平均Al濃度が極めて低く抑えられている。そのため、Al系めっき111を有する第1の鋼板11のC含有量が0.10質量%以上であっても、本実施形態に係る摩擦圧接継手1は高い接合強度を確保することができる。
【0037】
(鋼板の種類)
本実施形態に係る摩擦圧接継手1の用途は特に限定されず、これを構成する鋼板の種類は、用途に応じて適宜選択することができる。例えば摩擦圧接継手1を自動車部品として用いる場合、第1の鋼板11及び第2の鋼板12をホットスタンプ用鋼板とすることが好ましい。ホットスタンプ用鋼板とは、ホットスタンプに適した板厚、及び焼入れ性を有する鋼板のことである。ホットスタンプ用鋼板の成分は、例えば、質量%で、C:0.05~0.55%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.2~3.0%、Cr:0.01~0.5%、B:0.1%以下(0%を含む)、及びAl:0.005~0.1%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。不純物とは、例えば鋼材を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係る摩擦圧接継手に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。Ti、Mo、Nbの1種または2種以上がさらに鋼板に含有されてもよい。上に列記された各合金元素の含有量の数値範囲のうち、一部のみが第1の鋼板11及び/又は第2の鋼板12に適用されてもよい。例えば、第1の鋼板11及び第2の鋼板12が、Al:0.005~0.1%を含有し、残りが鉄及び任意の合金元素である鋼板であってもよい。
【0038】
ここまで、2枚の鋼板11及び12を端面において突き合せて接合した摩擦圧接継手1について説明した。しかしながら、摩擦圧接継手1が3枚以上の鋼板を有していてもよい。全ての鋼板が摩擦圧接面13によって接合されていてもよいし、一部の鋼板のみが摩擦圧接面13によって接合され、他の鋼板が溶接等の別の手段によって接合されていてもよい。例えば、1枚のAl系めっき鋼板と、2枚のめっき無し鋼板とを接合して継手を製造する場合、Al系めっき鋼板とめっき無し鋼板との接合に対してのみ摩擦圧接を適用し、めっき無し鋼板同士の接合には別の接合手段(例えばレーザ溶接等)を適用してもよい。
【0039】
(第3実施形態に係るテーラードブランク材)
次に、本発明の第3の実施形態に係るテーラードブランク材について説明する。テーラードブランク材とは、プレス成形部品の材料であって、溶接等の手段を用いて複数の鋼板を接合することによって製造されたものである。テーラードブランク材は、自動車のサイドパネル及びフロアパネル等のような、様々な材質及び板厚の鋼板をつなぎ合わせて製造される機械部品の材質として極めて好適である。
【0040】
本発明の第3実施形態に係るテーラードブランク材は、上述された第1実施形態又は第2実施形態に係る摩擦圧接継手1を含む。従って、第3実施形態に係るテーラードブランク材は、Al系めっき鋼板を構成部品として有するにもかかわらず、高い接合強度を確保することができる。
【0041】
(第4実施形態に係る成形品)
次に、本発明の第4の実施形態に係る成形品について説明する。成形品とは、テーラードブランク材にプレス加工、好ましくはホットスタンプ加工をすることにより得られる部品である。
【0042】
第4実施形態に係る成形品は、第3実施形態に係るテーラードブランク材と同様に、上述された第1実施形態又は第2実施形態に係る摩擦圧接継手1を含む。第4実施形態に係る成形品は、Al系めっき鋼板を構成部品として有するにもかかわらず、高い接合強度を確保することができる。なお、テーラードブランク材と成形品との相違は、プレス加工前の状態であるか、プレス加工後の状態であるか、という点にある。第4実施形態に係る成形品は、例えば第3実施形態に係るテーラードブランク材をホットスタンプすることによって製造可能である。成形品の用途は特に限定されないが、例えば自動車部品とすることができる。
【0043】
プレス加工前のテーラードブランク材は、加工を容易にする目的で、焼入れされていないことが通常である。一方、第4実施形態に係る成形品は、焼入れされていることが好ましい。例えば、第1の鋼板11の引張強さが1000MPa以上とされていることが好ましい。これにより、成形品の強度を飛躍的に高めることができる。なお、引張強さが1000MPa以上のAl系めっき鋼板を溶接すると、溶接部におけるAl濃化によって、接合強度が低下することがある。一方、第4実施形態に係る成形品は、摩擦圧接面13から0.5mm以内の領域からAl系めっき111が排出されているか、又は摩擦圧接面13から0.5mm以内の領域における平均Al量が1.0質量%未満であるので、たとえAl系めっき鋼板の引張強さが1000MPa以上であっても接合強度を確保することができる。
【0044】
また、第4実施形態に係る成形品においては、Al系めっき鋼板である第1の鋼板11の引張強さと板厚との積が、第2の鋼板12の引張強さと板厚との積よりも小さくてもよい。このようなAl系めっき鋼板から構成される成形品は、接合強度の低下が極めて生じやすいことが知られている。その理由は、Al濃化が極めて生じやすく、さらにAl濃化部とその他の部分との硬度差が著しい点にある。しかしながら、第4実施形態に係る成形品においては、摩擦圧接面13から摩擦圧接面13に垂直な方向に0.5mm以内の領域である接合部14からAl系めっき111が排出されているか、又は接合部14における平均Al量が1.0質量%未満である。そのため、Al系めっき鋼板が上述の引張強さ、及び板厚を有する場合であっても、第4実施形態に係る成形品は高い接合強度を確保することができる。
【0045】
(第5実施形態に係る摩擦圧接継手の製造方法)
次に、本発明の第5の実施形態に係る摩擦圧接継手の製造方法について説明する。本発明の第5実施形態に係る摩擦圧接継手の製造方法は、Al系めっきを有する第1の鋼板の端面と、第2の鋼板の端面とを突き合せて、線形摩擦接合する工程を有する。線形摩擦接合とは、部材をお互いに接触させながら、通常は片側だけを線形に揺動させて発生する摩擦熱を利用して接合部近傍の温度を上昇させ、加圧して行う圧接のことである(JIS Z 3000-2:2018参照)。
【0046】
線形摩擦接合においては、印加圧力を50MPa以上とし、周波数を10Hz以上とし、振幅を±1mm以上とする。印加圧力とは、第1の鋼板と第2の鋼板との間にかけられる加圧力のことである。周波数とは、1秒間に第1の鋼板と第2の鋼板とを線形に揺動させる回数である。振幅とは、第1の鋼板と第2の鋼板とを線形に揺動させる際の変位量の最大値である。これにより、第1の鋼板11及び第2の鋼板12を十分に加熱し、摩擦圧接面13を形成することができる。
【0047】
さらに、線形摩擦接合は、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の突き合せ面の全体からバリが排出されるまで継続される必要がある。「突き合せ面の全体からバリが排出される」とは、昇温によって軟化した材料を、被接合界面全体からバリとして排出するという意味である。なお、この状態が達成されているか否か、摩擦圧接継手1を破壊せずに確認することは困難である。そのため、製造しようとする摩擦圧接継手1と同じ素材を用いて、摩擦圧接試験を予め行い、上述の状態を達成可能な接合時間を予め求めておけばよい。この接合時間よりも長く摩擦圧接を実施することにより、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の突き合せ面の全体からバリを排出することができる。
【0048】
線形摩擦接合において、その他の接合条件は特に限定されず、線形摩擦接合を適切に完了させて、接合不良がない摩擦圧接継手を得ることができる範囲内で、種々の条件を採用することができる。好適な製造条件として、例えば、板厚等に応じて突出し長さを設定することが好ましい。具体的には、摩擦圧接継手1を構成する鋼板11及び12のうち薄い方の板厚t(mm)が1.0mm~4.0mmである場合、板厚tと、線形摩擦接合における突出し長さh(mm)と、線形摩擦接合における印加圧力σ
c(MPa)とが、下記式5の関係を満たすことが好ましい。すなわち、印加圧力σ
cが下記式5で規定される上限値(100×t/h)
2(MPa)以下であることが好ましい。
σ
c≦(100×t/h)
2 (式5)
ここで突出し長さとは、
図4Aのように第1の鋼板11及び第2の鋼板12の板厚が異なる場合は、第1の鋼板11及び第2の鋼板12のうち薄い方の、チャックCから鋼板の端面側に突き出している部分の長さのことであり、
図4Bのように第1の鋼板11及び第2の鋼板12の板厚が同一である場合は、第1の鋼板11及び第2の鋼板12のうち、チャックCからの突出し量が大きい方の、チャックCから鋼板の端面側に突き出している部分の長さのことである。第1の鋼板11及び第2の鋼板の厚さ、並びに突出し量が同一である場合は、いずれの突出し量を突出し長さhとして用いても同一の結果が得られる。
【0049】
鋼板の摩擦圧接においては、溶接とは異なり、鋼板の厚さ方向と垂直に、鋼板に加圧する必要がある。そのため、鋼板の厚さに対して印加圧力が大きすぎると、鋼板が座屈する場合がある。一方、印加圧力が小さすぎると、圧接に要する時間が長くなって生産性が落ちる場合がある。また、圧接に要する時間が長くなると、摩擦熱によって接合界面から離れた箇所の温度が上昇し、軟化し、座屈が生じやすくなる場合がある。本発明者らの実験結果によれば、上述の通り印加圧力の下限値を50MPaとし、印加圧力の上限値σcを鋼板の板厚に応じて定めることにより、鋼板の座屈を一層効果的に抑制可能である。なお、突出し長さhは、座屈を抑制する観点からは小さいほど好ましいが、突出し長さhが小さすぎると十分な接合時間を確保することが難しくなることに留意する必要がある。
【0050】
Al系めっき鋼板を溶接する場合は、Alによる接合部の脆化を避けるために、鋼板の表面に配されたAl系めっきを除去することが通常である。一方、本実施形態に係る摩擦圧接継手の製造方法では、摩擦圧接によってAl系めっきが接合部から排出されるので、鋼板の摩擦圧接においては、Al系めっき111を鋼板から除去する必要はない。換言すると、本実施形態に係る摩擦圧接継手の製造方法においては、線形摩擦接合の開始の時点において、第1の鋼板11の端面まで、Al系めっき111が形成されていてもよい。これにより、Al系めっき111を第1の鋼板11から除去する工程を省略して、摩擦圧接継手の製造コストを一層低減することができる。
【実施例0051】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0052】
表1に示すホットスタンプ用鋼板A及びBの端面を突き合せて、表2に示す接合法で接合して、種々の突き合せ継手を製造した。なお、2枚の鋼板のうち、引張強さと板厚との積が小さい方を鋼板aとした。具体的な接合条件は、以下の通りとした。なお、全ての発明例及び比較例において、Alめっきの除去をすることなく鋼板a及び鋼板bを接合した。
【0053】
(レーザ溶接条件)
・レーザ種類:焦点径φ0.6mmのファイバーレーザ
・レーザ出力:4~6kW(板組に応じて調整)
・溶接速度:3m/min
・シールドガス種:Ar
・シールドガス流量:20l/min
【0054】
(線形摩擦圧接条件)
・印加圧力:100MPa
・周波数:15Hz
・振幅:±2mm
・突出し長さ:鋼板A及び鋼板Bともに、7mm(発明例)又は30mm(参考例)
【0055】
得られた種々の突き合せ継手に、平板金型を用いて焼入れをした。焼入れ条件は、加熱温度900℃、加熱時間4min、及び下死点保持時間1minとした。焼入れ後の試験片からJIS5号引張試験片を切り出した。切り出しの際には、引張試験片の長手方向が、接合界面に垂直となるようにした。そして、引張試験片を静的引張試験に供し、破断形態を確認した。引張試験の際の引張速度は10mm/minとした。母材で破断が生じた継手は、良好な接合強度を有する継手であると判断し、表2の「破断形態」の列に「〇」と記載した。
【0056】
さらに、接合部からAlめっきが排出されているか否かを、上述した方法によって確認し、その結果も表2に記載した。レーザ溶接部の平均Al濃度は、溶接前の突合せ界面から0.5mm範囲から求めた。
【0057】
【0058】
【0059】
レーザ溶接によって製造された比較例1~5の継手は、その接合部に溶接金属を有しており、溶接金属中にはAlめっきに起因するAl濃化部が確認された。これらを破断試験に供したところ、接合部(溶接金属)で破断が発生した。
【0060】
参考例1では、接合方法が線形摩擦接合とされたが、これにより得られた摩擦圧接継手には接合不良が生じた。即ち、線形摩擦接合する工程を適切に完了することができなかった。これは、板厚に対して印加圧力が大きすぎたからであると推定される。
【0061】
発明例1~6は、印加圧力が適切な線形摩擦圧接によって形成された継手であった。これら発明例の継手の接合部(摩擦圧接面から0.5mm以内の領域)からは、Alめっきが排出されていた。また、これら発明例の継手を破断試験に供したところ、摩擦圧接面ではなく鋼板Aにおいて破断が生じた。即ち、発明例1~6の継手は、母材鋼板の一方又は両方がAl系めっきを有しながら、優れた接合強度を具備していた。