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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028963
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】金属製型枠及び移動式セントル
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20230224BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134970
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】501360120
【氏名又は名称】テクノプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐土原 大輔
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155DA08
2D155LA05
(57)【要約】
【課題】覆工コンクリートの品質をより高める。
【解決手段】 トンネルT1の内周面t1との間に覆工コンクリートC1の打設空間D1を形成する金属製型枠3であって、トンネルT1の内周面t1と対向する外枠31と、外枠31のトンネル延長方向の両端部から坑内側に延びる腹板32と、外枠31の坑内側において周方向に間隔を空けて並び、トンネル延長方向に延びて一方端部側の腹板32と他方端部側の腹板32とに接続される補強部材33と、外枠31の坑内側の露出面31aに形成されている断熱塗膜6と、備え、補強部材33は、外枠31との間に閉鎖空間S1を形成している、金属製型枠3。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内周面との間に覆工コンクリートの打設空間を形成する金属製型枠であって、
トンネルの内周面と対向する外枠と、
前記外枠のトンネル延長方向の両端部から坑内側に延びる腹板と、
前記外枠の坑内側において周方向に間隔を空けて並び、トンネル延長方向に延びて一方端部側の前記腹板と他方端部側の前記腹板とに接続される補強部材と、
前記外枠の坑内側の露出面に形成されている断熱塗膜と、
備え、
前記補強部材は、前記外枠との間に閉鎖空間を形成している、
金属製型枠。
【請求項2】
前記断熱塗膜は、基剤としての錆止材料と、添加剤としての断熱材料と、を含み、
前記断熱材料は、ウッドチップ又はフライアッシュを含む、
請求項1に記載の金属製型枠。
【請求項3】
前記断熱塗膜は、錆止材料に対してフライアッシュを40体積%濃度以上50体積%濃度以下含む、
請求項2に記載の金属製型枠。
【請求項4】
前記露出面は、前記補強部材を間に挟んで周方向に複数並び、
複数の前記露出面に対して間欠的に設置され、前記外枠を介して覆工コンクリートを加温する複数の加温部材をさらに備え、
前記断熱塗膜は、前記露出面のうち前記加温部材が設置されていない第1領域に形成され、
前記露出面のうち前記加温部材が設置されている第2領域に形成され、基剤として錆止材料を含み、添加剤として断熱材料を含まない又は前記断熱塗膜よりも断熱材料の含有率が低い錆止塗膜をさらに備える、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属製型枠。
【請求項5】
前記補強部材は、前記外枠又は前記腹板と溶接されている複数の溶接部を有し、
前記補強部材のうち前記外枠及び前記腹板の両方と接する部分には、前記溶接部が形成されていない、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属製型枠。
【請求項6】
前記露出面は、前記補強部材を間に挟んで周方向に複数並び、
複数の前記露出面に対して間欠的に設置され、前記外枠を介して覆工コンクリートを加温する複数の加温部材をさらに備え、
前記露出面のうち前記加温部材が設置されていない第1領域に面する前記補強部材の周方向の第1端部は、前記外枠と溶接されている複数の第1溶接部を有し、
前記露出面のうち前記加温部材が設置されている第2領域に面する前記補強部材の周方向の第2端部は、前記外枠と溶接されている複数の第2溶接部を有し、
複数の前記第1溶接部と前記腹板との最短距離は、複数の前記第2溶接部と前記腹板との最短距離よりも長い、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属製型枠。
【請求項7】
複数の前記第2溶接部は、複数の前記第1溶接部と周方向に重複しない位置に形成されている、
請求項6に記載の金属製型枠。
【請求項8】
複数の前記第1溶接部のトンネル延長方向の長さの総和は、複数の前記第2溶接部のトンネル延長方向の長さの総和よりも短い、
請求項6又は請求項7に記載の金属製型枠。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の金属製型枠のトンネル延長方向の長さは2.1mであり、
5つの前記金属製型枠がトンネル延長方向に結合されることで構成される、総延長10.5mの移動式セントル。
【請求項10】
トンネルの内周面との間に覆工コンクリートの打設空間を形成する金属製型枠であって、
前記金属製型枠の坑内側の露出面に形成されている断熱塗膜を備え、
前記断熱塗膜は、基剤としての錆止材料と、添加剤としての断熱材料と、を含み、
前記断熱材料は、ウッドチップ又はフライアッシュを含む、
金属製型枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覆工コンクリート打設用の金属製型枠及び移動式セントルに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの覆工コンクリートは、トンネル延長方向に移動可能なスライドセントルに設けられた金属製の型枠を用いて、所定の区間ごとに打設される。打設された覆工コンクリートを脱型する際に覆工コンクリートがひび割れることを防止するために、覆工コンクリートの圧縮強度を高める必要がある。
【0003】
本願出願人は、覆工コンクリートの打設完了から脱型までの間に、覆工コンクリートを加温することで、所望の圧縮強度を得る技術を従前に提案している(下記特許文献1参照)。特許文献1記載の移動式セントルは、覆工コンクリートを加温するヒーターユニットを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-190594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱型時、覆工コンクリートの内周面に剥離が発生する場合がある。
図15は、剥離が生じた覆工コンクリートの内周面の一例を示す模式図である。図15に示す剥離は、覆工コンクリートを加温しても生じる場合がある。覆工コンクリートの品質を高めるために、覆工コンクリートの剥離を防止する方策が望まれている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、覆工コンクリートの品質をより高めることができる金属製型枠及び移動式セントルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の金属製型枠は、トンネルの内周面との間に覆工コンクリートの打設空間を形成する金属製型枠であって、トンネルの内周面と対向する外枠と、前記外枠のトンネル延長方向の両端部から坑内側に延びる腹板と、前記外枠の坑内側において周方向に間隔を空けて並び、トンネル延長方向に延びて一方端部側の前記腹板と他方端部側の前記腹板とに接続される補強部材と、前記外枠の坑内側の露出面に形成されている断熱塗膜と、備え、前記補強部材は、前記外枠との間に閉鎖空間を形成している、金属製型枠である。
【0008】
このように構成することで、外枠の熱が閉鎖空間内の空気により断熱され、補強部材に熱が伝達することを抑制することができる。この結果、覆工コンクリートの熱が坑内側へ逃げにくくなり、覆工コンクリートの剥離を抑制することができるため、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。また、熱が逃げやすい外枠の坑内側の露出面には断熱塗膜が形成されているため、覆工コンクリートの熱が坑内側へより逃げにくくなり、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【0009】
(2)前記断熱塗膜は、基剤としての錆止材料と、添加剤としての断熱材料と、を含み、前記断熱材料は、ウッドチップ又はフライアッシュを含んでもよい。
【0010】
ウッドチップ及びフライアッシュは、いずれも副産物であり、活用されない場合には産業廃棄物として廃棄されていた。本発明によれば、ウッドチップ及びフライアッシュを再生資源として新たな用途(断熱材料)に活用することができるため、環境負荷を低減しつつ、金属製型枠の断熱性能を向上させることができる。この結果、覆工コンクリートの熱が金属製型枠を介して坑内側へ逃げにくくなり、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【0011】
(3)前記断熱塗膜は、錆止材料に対してフライアッシュを40体積%濃度以上50体積%濃度以下含んでもよい。
【0012】
フライアッシュを錆止材料に50体積%濃度を超えて添加すると、断熱塗膜の付着安定性等に支障が生じうる。一方で、断熱性能を高めるために、断熱材料としてのフライアッシュは付着安定性等の塗布後の状態が良好な範囲で最大量を添加することが好ましい。本発明によれば、フライアッシュが錆止材料に対して40体積%濃度以上50体積%濃度以下含まれるため、付着安定性を保ちつつ、より高い断熱性能を得ることができる。
【0013】
(4)前記露出面は、前記補強部材を間に挟んで周方向に複数並び、複数の前記露出面に対して間欠的に設置され、前記外枠を介して覆工コンクリートを加温する複数の加温部材をさらに備え、前記断熱塗膜は、前記露出面のうち前記加温部材が設置されていない第1領域に形成され、前記露出面のうち前記加温部材が設置されている第2領域に形成され、基剤として錆止材料を含み、添加剤として断熱材料を含まない又は前記断熱塗膜よりも断熱材料の含有率が低い錆止塗膜をさらに備えてもよい。
【0014】
本発明によれば、熱が逃げやすい領域に集中して断熱塗膜を形成することで、金属製型枠の断熱性を確保しつつ、断熱材料の使用量を少なくすることができる。これにより、施工性を向上させたり、施工のための材料費を削減させたりすることができる。
【0015】
(5)前記補強部材は、前記外枠又は前記腹板と溶接されている複数の溶接部を有し、前記補強部材のうち前記外枠及び前記腹板の両方と接する部分には、前記溶接部が形成されていなくてもよい。
【0016】
このように構成することで、外枠の熱が従来よりも腹板に伝達しにくくなり、覆工コンクリートの剥離を抑制することができる。この結果、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【0017】
(6)前記露出面は、前記補強部材を間に挟んで周方向に複数並び、複数の前記露出面に対して間欠的に設置され、前記外枠を介して覆工コンクリートを加温する複数の加温部材をさらに備え、前記露出面のうち前記加温部材が設置されていない第1領域に面する前記補強部材の周方向の第1端部は、前記外枠と溶接されている複数の第1溶接部を有し、前記露出面のうち前記加温部材が設置されている第2領域に面する前記補強部材の周方向の第2端部は、前記外枠と溶接されている複数の第2溶接部を有し、複数の前記第1溶接部と前記腹板との最短距離は、複数の前記第2溶接部と前記腹板との最短距離よりも長くてもよい。
【0018】
本発明によれば、熱が逃げやすい第1溶接部を、熱が逃げやすい腹板からより離すことで、熱が逃げやすい位置に第1溶接部が集中することを避けることができる。この結果、外枠の熱が従来よりも腹板に伝達しにくくなり、覆工コンクリートの剥離を抑制することができ、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【0019】
(7)複数の前記第2溶接部は、複数の前記第1溶接部と周方向に重複しない位置に形成されてもよい。
【0020】
このように構成することで、金属製型枠の冷えやすい位置(溶接位置)を分散させることができる。これにより、覆工コンクリートの剥離を抑制することができ、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【0021】
(8)複数の前記第1溶接部のトンネル延長方向の長さの総和は、複数の前記第2溶接部のトンネル延長方向の長さの総和よりも短くてもよい。
【0022】
本発明によれば、熱が逃げやすい第1溶接部を介して、外枠の熱が、補強部材へ逃げることを抑制することができる。また、熱が逃げにくい第2溶接部の長さの総和をより長くすることで、外枠と補強部材との接合強度を保つことができる。
【0023】
(9)本発明の移動式セントルは、前記(1)から前記(8)のいずれかの金属製型枠のトンネル延長方向の長さが2.1mであり、5つの前記金属製型枠がトンネル延長方向に結合されることで構成される、総延長10.5mの移動式セントルである。
【0024】
5スパン2.1mの移動式セントルとすることで、腹板の本数が従来の7スパン1.5mの移動式セントルよりも少なくなるため、加温されている覆工コンクリートから腹板を介して逃げる熱量を低減させることができる。この結果、腹板の本数減少に応じて、脱型時の覆工コンクリートの剥離が抑制されるため、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【0025】
(10)本発明の金属製型枠は、トンネルの内周面との間に覆工コンクリートの打設空間を形成する金属製型枠であって、前記金属製型枠の坑内側の露出面に形成されている断熱塗膜を備え、前記断熱塗膜は、基剤としての錆止材料と、添加剤としての断熱材料と、を含み、前記断熱材料は、ウッドチップ又はフライアッシュを含む、金属製型枠である。
【0026】
熱が逃げやすい外枠の坑内側の露出面に断熱塗膜を形成することで、覆工コンクリートの熱が坑内側へ逃げにくくなり、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。また、ウッドチップ及びフライアッシュは、いずれも副産物であり、活用されない場合には産業廃棄物として廃棄されていた。本発明によれば、ウッドチップ及びフライアッシュを再生資源として新たな用途(断熱材料)に活用することができるため、環境負荷を低減しつつ、金属製型枠の断熱性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係る覆工コンクリート構築システムの全体構成を示す図である。
図2】実施形態に係るスライドセントルの正面図である。
図3図2の切断線IIIによりスライドセントルを切断した断面図である。
図4】実施形態に係る金属製型枠の側部の一部を斜め上からみた斜視図である。
図5図4の切断線Vにより金属製型枠の側部を切断した断面図である。
図6】断熱塗膜の実験例を示す模式図である。
図7】実験に用いた塗膜を示す表である。
図8】実験結果を示すグラフである。
図9】実施形態に係る金属製型枠の側部の一部を坑内側からみた側面図である。
図10】比較例に係る金属製型枠の側部の一部を坑内側からみた側面図である。
図11】変形例に係る補強部材を示す図である。
図12】変形例に係る補強部材を示す図である。
図13】変形例に係る金属製型枠を示す図である。
図14】分割した型枠をトラックに積載した状態を示す模式図である。
図15】剥離が生じた覆工コンクリートの内周面の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔剥離の原因と方策について〕
本発明者は、図15に例示する覆工コンクリートの剥離を防止するための方策について、鋭意研究を重ねてきた。その過程において、当該剥離が特に冬季の施工において生じやすいことが判明した。
【0030】
また、本発明者は、剥離痕の種類として、図15に示すように周方向に延びる第1剥離痕A1と、第1剥離痕A1を起点にトンネル延長方向に延びる第2剥離痕A2と、第2剥離痕A2の仮想延長線上に点々と位置する第3剥離痕A3とがあり、これらの形成位置が、型枠の構成要素のうち、腹板の位置と、補強部材の位置と、補強部材と外枠とが溶接されている位置にそれぞれ対応することを発見した。
【0031】
このことから、本発明者は、脱型時の覆工コンクリートの剥離の原因が、覆工コンクリートの熱が型枠によって局所的に冷やされることで、覆工コンクリートの加温が十分に行われていないことにあると考えた。このため、本発明者は、本願にて、型枠の断熱性能を向上させる発明を提案する。本発明によれば、脱型時の覆工コンクリートの剥離を抑制して、覆工コンクリートの品質をより高めることができる。
【0032】
具体的に、本発明では、以下の方策により、型枠の断熱性能を向上させる。
(1)型枠のスパン長を長くして腹板数を減らす。
(2)外枠と補強部材との接触面積を減らし、外枠と補強部材の間に閉鎖空間を設ける。
(3)外枠の坑内側の露出面に断熱塗膜を形成する。
(4)補強部材の溶接位置が熱の逃げやすい位置に集中しないように溶接部を設ける。
【0033】
以下、上記の方策(1)~(4)をすべて含む実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明では、上記の方策(1)~(4)の少なくともひとつがなされればよく、そのすべてを含むことは必須ではない。
【0034】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る覆工コンクリートの構築システムの全体構成を示す図である。構築システムは、一次覆工されたトンネルT1の内周面(内壁)t1に対して、二次覆工コンクリートC1(以下、単に「覆工コンクリートC1」ともいう)を施工するためのシステムである。構築システムは、覆工コンクリートC1を打設するためのスライドセントル1(移動式セントル)と、スライドセントル1が打設した覆工コンクリートC1の養生を行うための複数の養生装置10とを備えている。
【0035】
スライドセントル1及び養生装置10は、トンネルT1内の床面に敷設されたレールR1上を走行可能である。スライドセントル1は、坑口側から切羽側(図1の矢印方向)に向かって所定のスパンで順次、覆工コンクリートC1を打設する。養生装置10は、打設後の覆工コンクリートC1に対して、所定のスパンで順次養生を行う。
【0036】
〔スライドセントルの構成〕
図2は、スライドセントル1の正面図である。
図3は、図2の切断線IIIによりスライドセントル1を切断した断面図である。
図2及び図3では、図面の簡略化のため、後述の加温部材5及び断熱塗膜6の記載を省略している。また、図3では後述の補強部材33の記載を省略している。
【0037】
スライドセントル1は、トンネルT1内を走行可能な門型台車2と、覆工コンクリートC1の内周面を成型するための堰板となる複数の金属製型枠3(以下、単に「型枠3」という)とを備えている。
【0038】
門型台車2は、基台部2aと、基台部2aを支持する複数の支柱2bとを備えている。支柱2bの下端には、トンネルT1の床面に敷設されたレールR1上に係合する車輪2cが設けられており、この車輪2cがレールR1に沿って転動することで、門型台車2がトンネルT1内を走行する。
【0039】
型枠3は、トンネルT1の内周面t1にほぼ沿う断面円弧状を有し、トンネルT1の内周面t1との間に覆工コンクリートC1を打設するための打設空間D1を形成する。型枠3は、セントルフォームとも称される。型枠3は、図2に示すように、内周面t1の天端(クラウン)を覆う天端部3aと、天端部3aの両端に回動可能に連結されて内周面t1の側壁上部を覆う側部3bと、側部3bの下端に回動可能に連結されて内周面t1の側壁下部を覆う下端部3cとを備えている。
【0040】
天端部3aは、門型台車2の基台部2a上に設けられた複数のジャッキ41により上下方向に昇降可能に支持されている。側部3b及び下端部3cは、支柱2bの外側面に設けられた複数のジャッキ42,43によりそれぞれ幅方向に回動可能に支持されている。天端部3a、側部3b及び下端部3cは、打設空間D1に生コンクリートを流し込むための打設口(図示省略)をそれぞれ有する。
【0041】
図3を参照する。本実施形態では、複数の型枠3をトンネル延長方向に結合することで標準長10.5mのスライドセントル1を構成している。ここで、従来のスライドセントル(例えば、特開2011-190594号公報の図3)において、標準長10.5mを採用する場合、トンネル延長方向に型枠を7分割し、1個の型枠のトンネル延長方向の長さ(すなわち、スパン長)を1.5mとする「7スパン1.5m」の型枠が用いられている。
【0042】
これに対し、本実施形態では、スパン長が2.1mの型枠3を5個結合することで、総延長が10.5mとなるスライドセントル1を構成している。すなわち、本実施形態のスライドセントル1は、「5スパン2.1m」であり、従来型よりも2スパン少ない。この構成により、後述の腹板32の本数が従来よりも少なくなるため、加温されている覆工コンクリートC1から腹板32を介して逃げる熱量を低減させることができる。
【0043】
この結果、腹板32の本数減少に応じて、脱型時の覆工コンクリートの剥離が抑制され、図15の第1剥離痕A1の本数が減る。これにより、覆工コンクリートC1の品質をより高めることができる。
【0044】
また、スライドセントル1を従来型よりも2スパン少なくする構成により、型枠3の運搬に必要なトラックの台数を少なくすることができ、運搬コストを低減することができる。
【0045】
図14は、分割した型枠をトラックに積載した状態を示す模式図である。
図14の(a)及び(b)は、スパン長2.1mの型枠3の一部(図では2個の側部3bを例示)をトラックTr1の荷台B1に積載した状態を示す平面図及び側面図である。型枠3の一部は、例えばトンネル延長方向を鉛直方向に向けて立てた状態で、トラックTr1に荷締めされる。従来のスパン長1.5mの場合にも、同様に荷締めされる。
【0046】
トラックTr1は例えば10tトラックであり、荷台B1の高さは地面から約1.5mである。トラックの積載高さは、原則として3.8m以下に規制されており、スパン長2.1mであれば当該規制高さに収まるため、工場からトンネルT1へトラックTr1を用いて分割した型枠3を運搬することができる。
【0047】
なお、スパン数が4個以下になると、スパン長が2.6m以上(10.5÷4=2.625)となり、積載高さが4.1m以上(1.5+2.625=4.125m)となるため、規制高さを超えてしまい、型枠3の運搬に支障が生じうる。このため、スパン数としては、トラックによる運搬が可能である範囲でスパン長が最大となる5個が特に好適である。なお、運搬の問題が解決できるのであれば、本発明の実施において、4個以下のスパン数を採用してもよいし、6個のスパン数を採用してもよい。
【0048】
さらに、スライドセントル1を従来型よりも2スパン少なくする構成により、スライドセントル1の部品点数が従来よりも少なくなるため、スライドセントル1の製作コストを低減することができるとともに、スライドセントル1の組立や解体に掛かる時間を短くすることができる。例えば、7スパン1.5mのスライドセントルの場合、例えば運搬にトラック9台、組立作業に6日、解体作業に4日掛かるところ、5スパン2.1mのスライドセントル1であれば、例えば運搬に必要なトラック台数を7台とし、組立作業を5日、解体作業を3日とすることができる。
【0049】
〔型枠の構成〕
図4は、型枠3の側部3bの一部を斜め上からみた斜視図である。以下、型枠3について、側部3bを代表的に説明し、型枠3の他の部分(天端部3a及び下端部3c)は側部3bと同様の構成であるため説明を省略する。型枠3の側部3bは、外枠31と、一対の腹板32と、複数本(例えば7本)の補強部材33とを備える。
【0050】
外枠31は、トンネル延長方向及び周方向に延びる金属製(例えば鋼製)の板材であり、覆工コンクリートC1の打設時にトンネルT1の内周面t1と対向する。
【0051】
腹板32は、外枠31のトンネル延長方向の両端部からそれぞれ坑内側に延びる金属製(例えば鋼製)の板材である。腹板32は、外枠31を支持する機能を有し、ウェブとも称される。
【0052】
補強部材33は、外枠31の坑内側を補強する金属製(例えば鋼製)の部材であり、補剛材とも称される。補強部材33は、外枠31の坑内側に設けられ、トンネル延長方向に延びて一方端部側の腹板32と他方端部側の腹板32とに接続されている。補強部材33は、外枠31の坑内側において周方向に間隔を空けて複数本並んでいる。
【0053】
図5は、図4の切断線Vにより型枠3の側部3bを切断した断面図である。補強部材33は、台形状の断面を有し、外枠31との間に閉鎖空間S1を形成している。補強部材33は、外枠31から坑内側に延びる第1壁部33aと、第1壁部33aと周方向に隣接して外枠31から坑内側に延びる第2壁部33bと、第1壁部33a及び第2壁部33bと接続して外枠31と隙間を空けて対向する第3壁部33cと、を有する。
【0054】
外枠31の坑内側の面は、坑内に露出する露出面31aと、補強部材33に覆われることで閉鎖空間S1を形成する被覆面31bとを含む。露出面31aは、補強部材33を間に挟んで周方向に複数並んでいる。本実施形態の側部3bの場合、7本の補強部材33を間に挟んで、8個の露出面31aが周方向に並んでいる。
【0055】
覆工コンクリートC1の熱は、図15の第2剥離痕A2が示すように、外枠と補強部材とが接続する部分から坑内側へ逃げやすい傾向がある。本実施形態では、補強部材33の断面形状を中空構造とすることで、中実構造の補強部材を用いる場合と比べて、外枠31と補強部材33との接触面積を少なくすることができる。これにより、覆工コンクリートC1の熱が外枠31及び補強部材33を介して坑内側へ逃げることを抑制することができる。
【0056】
また、外枠31と補強部材33との間には、閉鎖空間S1が形成されているため、外枠31の被覆面31bの熱は閉鎖空間S1内の空気により断熱され、補強部材33に熱が伝達することをより抑制することができる。この結果、覆工コンクリートC1の熱が坑内側へ逃げにくくなり、図15の第2剥離痕A2の発生を抑制することができる。これにより、覆工コンクリートC1の品質をより高めることができる。
【0057】
〔加温部材について〕
図4及び図5を参照する。型枠3の側部3bは、複数の加温部材5をさらに備える。加温部材5は、複数の露出面31aに対して間欠的に設置されている。本実施形態では、加温部材5は、複数の露出面31aに対して1つおきに設置されている。なお、加温部材5は、少なくとも一部の露出面31aに対して間欠的に設置されればよく、周方向に隣接する複数の露出面31aに連続して設置されてもよい。
【0058】
図4に示すように、加温部材5は、通電されることによって発熱する面状の発熱体51と、発熱体51に電力を供給する電線52とを有する。電線52は、腹板32のトンネル延長方向の貫通孔32aを通って、図示省略する電源と接続されている。加温部材5は、覆工コンクリートC1の打設時に、外枠31を介して覆工コンクリートC1を加温することで、覆工コンクリートC1に所定の圧縮強度を得させる。
【0059】
なお、加温部材5は、発熱体51及び電線52に代えて、液体(水、オイル等)の熱媒体が循環する配管を有してもよい。この場合、熱媒体はボイラ等の加熱装置によって加熱され、ポンプによって配管に圧送される。
【0060】
加温部材5を間欠的に設置することで、加温部材5の台数を削減することができる。これにより、部材コストや、加温部材5を動作させるためのエネルギーコストを低くすることができる。一方で、加温部材5を間欠的に設置すると、加温部材5が設置されていない露出面31aから坑内側へ覆工コンクリートC1の熱が逃げやすくなる。このため、本実施形態では後述の断熱塗膜6を露出面31aに設けることで、覆工コンクリートC1内により多くの熱を留まらせる。
【0061】
〔断熱塗膜について〕
図5を参照する。型枠3の側部3bは、断熱塗膜6をさらに備える。断熱塗膜6は、外枠31の露出面31aを含む側部3bの坑内側の全面に形成されている。断熱塗膜6は、基剤としての錆止材料61と、添加剤としての断熱材料62と、を含む。
【0062】
錆止材料61は、公知の錆止塗料であり、例えば日本ペイント株式会社製の「速乾さび止めエコ」である。
【0063】
断熱材料62は、例えば、ウッドチップ又はフライアッシュを含む。なお、断熱材料62としてはこれに限られず、他の断熱材料を含んでもよい。断熱材料としては、例えば粒径が数十μm~数百μmであり、中空構造または多孔質構造を有する材料が好ましい。他の断熱材料としては、例えば、中空のガラスビーズを含んでもよい。
【0064】
断熱材料62としてフライアッシュを用いる場合、断熱塗膜6は例えばフライアッシュを40体積%濃度以上50体積%濃度以下含む。すなわち、錆止材料61の体積100に対して、断熱材料62の体積が約70~90となるように、断熱材料62を添加している。
【0065】
フライアッシュを錆止材料61に50体積%濃度を超えて添加すると、断熱塗膜6の付着安定性等に支障が生じうる(例えば、断熱塗膜6が剥離しやすくなる)。一方で、断熱性能を高めるために、断熱材料62としてのフライアッシュは付着安定性等の塗布後の状態が良好な範囲で最大量を添加することが好ましく、本実施形態では50体積%濃度近傍がより好適である。なお、塗布後の状態が良好であれば、フライアッシュを錆止材料61に50体積%濃度を超えて添加してもよい。
【0066】
ウッドチップは、例えば木材を切断する際に生じるパウダー状の「ノコくず」又は「おがくず」である。ウッドチップの粒径は、例えば約200μmである。ウッドチップは、従来、運搬物の緩衝材や、家畜の敷材等として用いられてきたが、本発明者は木材が有する断熱性能に着目し、断熱材料62としてウッドチップを錆止材料61に添加することを新規に着想した。
【0067】
フライアッシュは、石炭火力発電等において石炭を燃焼させた際に発生する灰の微細粒子である。フライアッシュの粒径は、例えば約10μm以上100μm以下である。フライアッシュは、従来、コンクリートに強度や流動性を付与するためのコンクリート添加物として用いられてきたが、本発明者はフライアッシュが多孔質であり断熱性能を有する点に着目し、断熱材料62としてフライアッシュを錆止材料61に添加することを新規に着想した。
【0068】
ウッドチップ及びフライアッシュは、いずれも副産物であり、活用されない場合には産業廃棄物として廃棄されていた。本実施形態の断熱塗膜6によれば、ウッドチップ及びフライアッシュを再生資源として新たな用途(断熱材料)に活用することができるため、環境負荷を低減しつつ、型枠3の断熱性能を向上させることができる。この結果、覆工コンクリートC1の熱が型枠3を介して坑内側へ逃げにくくなり、覆工コンクリートC1の品質をより高めることができる。
【0069】
〔断熱塗膜の実験例〕
断熱塗膜6の断熱材料62としてウッドチップ又はフライアッシュを用いることの効果を確認するために、本発明者は、以下に説明する実験を行った。
【0070】
図6は、断熱塗膜の実験例を示す模式図である。厚み6mmの鋼材Y1の一方側に5種類の塗膜X1~X5をそれぞれ塗布し、鋼材Y1の他方側に熱源H1(抵抗加熱ヒータ)をそれぞれ取り付けた5個のサンプルを用意した。塗膜X1~X5の上には、温度を検知する3個のセンサP1~P3をそれぞれ設置した。センサP1を熱源H1の真裏に、センサP2をセンサP1から中心が7cm離れた位置に、センサP3をセンサP2から中心が10cm離れた位置に、それぞれ設置した。
【0071】
熱源H1の温度は60℃に設定し、熱源H1から鋼材Y1及び塗膜X1~X5を介して、センサP1~P3に伝達する熱を測定した。これにより、加温された覆工コンクリートC1(熱源H1で模擬)から外枠31(鋼材Y1で模擬)及び断熱塗膜6(塗膜X1~X5で模擬)を介して、坑内側へ逃げる熱を、センサP1~P3の測定温度によって評価する。
【0072】
図7は、実験に用いた塗膜を示す表である。
塗膜X1は、基剤として錆止材料を含み、添加剤としての断熱材料を含まない、単なる錆止塗膜であり、本実験の参照例である。錆止材料には、日本ペイント株式会社製の「速乾さび止めエコ」を用いた。塗膜X2~X4の基剤としても、塗膜X1と同じ錆止材料を用いた。
【0073】
塗膜X2は、基剤として錆止材料を含み、添加剤としてウッドチップを含む。錆止材料の体積100に対して、ウッドチップの体積が約50となるように添加した(約33体積%濃度)。
【0074】
塗膜X3は、基剤として錆止材料を含み、添加剤としてフライアッシュを含む。錆止材料の体積100に対して、フライアッシュの体積が約80となるように添加した(約44体積%濃度)。
【0075】
塗膜X4は、基剤として錆止材料を含み、添加剤として有限会社東亜システムクリエイト製の「ヒートカットパウダー」を含む。錆止材料の体積100に対して、ヒートカットパウダーの体積が約80となるように添加した(約44体積%濃度)。ヒートカットパウダーは、セラミックの粉体であり、従来より断熱用途に用いられている添加剤であるため、比較例として用意した。
【0076】
塗膜X5は、東日本塗料株式会社製の「断熱コート」である。断熱コートは、アクリルシリコン樹脂に断熱顔料等を添加した断熱塗料であり、比較例として用意した。
【0077】
塗膜X1~X4は、それぞれ1回のスプレー塗布により形成した。塗膜X5は仕様に従い、上塗可能時間を挟みながら3回スプレー塗布した。
【0078】
塗膜X1~X5の膜厚を塗装膜厚計により計測した。塗膜X1の膜厚は100μmであり、塗膜X2,X3,X4の膜厚はそれぞれ412μm,373μm,508μmであった。塗膜X2,X3,X4では、錆止材料にそれぞれ数十μm~数百μmの粒状の添加剤が添加されているため、塗膜X1よりも膜厚が厚くなった。塗膜X5の膜厚は983μmであり、重ね塗りをしたことにより膜厚が最も厚くなった。
【0079】
図8は、実験の結果を示すグラフである。グラフの横軸は熱源H1の加熱開始からの経過時間[分]を示し、グラフの縦軸は温度[℃]を示す。グラフの上方の線郡がセンサP1の測定温度であり、グラフの中ほどの線郡がセンサP2の測定温度であり、グラフの下方の線郡がセンサP3の測定温度である。熱源H1に近いセンサP1の測定温度が最も高くなり、熱源H1から遠いセンサP3の測定温度が最も低くなるという傾向は、塗膜X1~X5ともに共通する。
【0080】
ここで、所定の経過時間におけるセンサP1の測定温度Tp1とセンサP3の測定温度Tp3との温度差(Tp1-Tp3)に着目する。当該温度差は、グラフ上では、例えば矢印AR1により表される。この温度差が大きいほど、センサP3に熱が伝達しておらず、塗膜による断熱性能が高いことを意味する。経過時間25分における温度差を、図7の表の右列に示す。
【0081】
図7に示すように、温度差は、参照例である塗膜X1(錆止め塗膜)の17.8℃に対して、塗膜X2(ウッドチップ)が20.6℃、塗膜X3(フライアッシュ)が22.3℃であり、ウッドチップ及びフライアッシュのいずれにおいても参照例よりも高い断熱性能が得られた。
【0082】
また、塗膜X2,X3の温度差は、比較例である塗膜X4(ヒートカットパウダー)の16.0℃や塗膜X5の17.8℃よりも高く、塗膜X2,X3では従来より断熱材料として用いられてきた塗膜X4,X5よりも高い断熱性能が得られることが確認された。
以上により、錆止材料61を基剤とし、断熱材料62としてウッドチップ又はフライアッシュを添加した断熱塗膜6は、好適な断熱性能を有する。
【0083】
〔補強部材の溶接位置について〕
図9は、型枠3の側部3bの一部を坑内側からみた側面図である。
図10は、溶接位置の比較例を説明する模式図である。
以下、図5図9及び図10を参照して、補強部材33の溶接位置について説明する。
【0084】
まず、溶接位置の比較例について説明する。図10(a)は、図5と同様の断面において比較例に係る側部3bをみた図であり、図10(b)は図9と同方向から比較例に係る側部3bをみた図である。比較例において、補強部材33は、複数の溶接部81a,81b,81c(単に「溶接部81」ともいう)によって腹板32にタップ溶接され、複数の溶接部82,83によって外枠31にタップ溶接されている。
【0085】
より具体的には、溶接部81aは、補強部材33の第1壁部33aが外枠31及び腹板32の両方と接する部分(すなわち、補強部材33の外枠31側の角)に形成されている。このように3個以上の部材が接する位置を溶接すれば、補強部材33を外枠31にも腹板32にも固定することができるため、通常であればこの位置に溶接部を形成する。
【0086】
同様に、溶接部81bは、補強部材33の第2壁部33bが外枠31及び腹板32の両方と接する部分に形成されている。また、溶接部81cは、補強部材33の第3壁部33cが腹板32と接する部分に形成されている。
【0087】
複数の溶接部82は、補強部材33の第1壁部33aが外枠31と接する部分に、所定の間隔を空けて形成されている。複数の溶接部83は、補強部材33の第2壁部33bが外枠31と接する部分に、所定の間隔を空けて形成されている。通常であれば、溶接部82及び溶接部83の形成間隔は同じであり、図10(b)に示すように溶接部82と溶接部83は周方向に重複する。
【0088】
補強部材33と外枠31及び腹板32とは、溶接部81~83において一体化されるため、外枠31及び腹板32の熱は特に溶接部81~83から補強部材33へ伝達しやすい。すなわち、型枠3は溶接部81~83において特に冷えやすくなっており、図15の第2剥離痕A2や第3剥離痕A3が形成される原因となっている。
【0089】
そこで、本実施形態では、補強部材33の溶接部を設ける位置を工夫し、熱が逃げやすい位置に溶接部が集中しないように構成することで、覆工コンクリートC1の剥離を抑制する。
【0090】
具体的には、以下の方策A~Dにより、熱が逃げやすい位置に溶接部が集中することを避ける。なお、本実施形態では方策A~Dをすべて含むが、本発明では、方策A~Dの少なくともひとつがなされればよく、そのすべてを含むことは必須ではない。
【0091】
〔方策A:溶接部を補強部材、腹板及び外枠の3点が接する位置から離す〕
図5の拡大図を参照する。本実施形態の補強部材33は、複数の溶接部71a,71b(単に「溶接部71」ともいう)によって腹板32にタップ溶接されている。溶接部71aは第1壁部33aと第3壁部33cとが接続する角及びその近傍に形成されており、溶接部71bは第2壁部33bと第3壁部33cとが接続する角及びその近傍に形成されている。そして、溶接部71a,71bは外枠31とは離れた位置にある。すなわち、補強部材33のうち外枠31及び腹板32の両方と接する部分には、溶接部71が形成されていない。
【0092】
腹板32は、坑内側へ延びる鋼材であるため、型枠3において放熱フィンのように機能してしまい、覆工コンクリートC1の熱を坑内側へ逃しやすい。従来の溶接方式では、図10に示すように補強部材33のうち外枠31及び腹板32の両方と接する部分に溶接を行うため、外枠31の熱が溶接部81a,81bを介して腹板32に伝達しやすく、図15の第2剥離痕A2が生じる一因になっていると考えられる。
【0093】
これに対し、本実施形態の溶接部71は、補強部材33のうち外枠31及び腹板32の両方と接する部分には形成されない。このため、外枠31の熱は従来よりも腹板32に伝達しにくくなっており、第2剥離痕A2の発生を抑制することができる。これにより、覆工コンクリートC1の品質をより高めることができる。
【0094】
〔方策B:溶接部を千鳥状に配置する〕
図9を参照する。本実施形態の補強部材33は、第1壁部33aに形成される複数の溶接部72(第1溶接部)と、第2壁部33bに形成される複数の溶接部73(第2溶接部)によって外枠31に所定間隔を空けてタップ溶接されている。複数の溶接部73は、複数の溶接部72と周方向に重複しない位置に形成されている。すなわち、溶接部72は、トンネル延長方向にみると、隣接する2個の溶接部73の間に位置しており、溶接部72,73は千鳥状に(互い違いに)配置されている。
【0095】
図10の例では、冷えやすい溶接部82,83が周方向に重複しているため、図10の矢印AR2に示すようにトンネル延長方向にみて型枠3の冷えやすい位置が集中している。そして、このような溶接位置の集中が、図15の第3剥離痕A3が生じる一因になっていると考えられる。
【0096】
これに対し、本実施形態の溶接部72,73は、千鳥状に配置されているため、型枠3の冷えやすい位置(溶接位置)が分散している。これにより、第3剥離痕A3の発生を抑制することができ、覆工コンクリートC1の品質をより高めることができる。
【0097】
〔方策C:第2溶接部を第1溶接部よりも腹板から離す〕
本実施形態の加温部材5は、前述のとおり、周方向に複数並ぶ露出面31aに対して間欠的に設置されている。ここで、露出面31aのうち加温部材5が設置されていない領域を「第1領域Z1」と称し、露出面31aのうち加温部材5が設置されている領域を「第2領域Z2」と称する。補強部材33の第1壁部33a(第1端部)は第1領域Z1に面しており、補強部材33の第2壁部33b(第2端部)は第2領域Z2に面している。
【0098】
第1領域Z1には加温部材5が設置されていないため、覆工コンクリートC1の加温中に第1領域Z1が覆工コンクリートC1よりも低温となり、覆工コンクリートC1の熱は第1領域Z1から坑内側へ逃げやすい。一方で、第2領域Z2には加温部材5が設置されているため、覆工コンクリートC1の加温中に第2領域Z2は覆工コンクリートC1よりも高温となり、覆工コンクリートC1の熱は第2領域Z2から坑内側に逃げにくい。
【0099】
図9に示すように、第1壁部33aに形成される複数の溶接部72とトンネル延長方向の一方側の腹板32(例えば、図9の右側の腹板32)との最短距離を「最短距離L1」と称する。溶接部72は、加温部材5が設置されていない第1領域Z1と補強部材33とを接続しているため、熱が逃げやすい溶接部(第1溶接部)といえる。また、第2壁部33bに形成される複数の溶接部73とトンネル延長方向の一方側の腹板32との最短距離を「最短距離L2」と称する。溶接部73は、加温部材5が設置されている第2領域Z2と補強部材33とを接続しているため、熱が逃げにくい溶接部(第2溶接部)といえる。
【0100】
本実施形態において、最短距離L1は、最短距離L2よりも長い。このように、熱が逃げやすい溶接部72を、熱が逃げやすい腹板32からより離すことで、熱が逃げやすい位置(腹板32の近傍)に溶接部72が集中しないように構成することができる。この結果、第1領域Z1の熱が従来よりも腹板32に伝達しにくくなり、図15に示す第2剥離痕A2の発生を抑制することができる。
【0101】
〔方策D:第1溶接部を第2溶接部よりも短くする〕
また、第1壁部33aに形成される複数の溶接部72(第1溶接部:熱が逃げやすい溶接部)のトンネル延長方向の長さの総和は、第2壁部33bに形成される複数の溶接部73(第2溶接部:熱が逃げにくい溶接部)のトンネル延長方向の長さの総和よりも短い。
【0102】
例えば、図9に示すように、溶接部72は所定長さにより4スポットに設けられているのに対して、溶接部73は所定長さにより5スポットに設けられている。このため、複数の溶接部72のトンネル延長方向の長さの総和は、複数の溶接部73のトンネル延長方向の長さの総和よりも1スポット分だけ短い。なお、溶接部72,73のスポット数は例示であり、この他のスポット数であってもよい。
【0103】
複数の溶接部72の長さの総和が短いため、第1領域Z1の熱が溶接部72を介して補強部材33へ逃げることを抑制することができる。また、複数の溶接部73の長さの総和をより長くすることで、外枠31と補強部材33との接合強度を保つことができる。
【0104】
〔変形例〕
以下、実施形態の変形例について説明する。変形例において、上記の実施形態と同じ構成については同じ符号を付して説明を適宜省略する。
【0105】
〔補強部材の変形例1〕
図11は、変形例に係る補強部材を示す図である。
上記の実施形態の補強部材33は、台形状の断面を有し、外枠31との間に閉鎖空間S1を形成している。しかしながら、補強部材の断面形状は、台形状に限られない。
【0106】
補強部材は、図11(a)に示すように長方形状の断面を有する補強部材34であってもよいし、図11(b)に示すように三角形状(V字形状)の断面を有する補強部材35であってもよいし、図11(c)に示すように円弧形状(U字形状)の断面を有する補強部材36であってもよい。これらのいずれの補強部材34~36であっても、外枠31と補強部材33との間には、閉鎖空間S1が形成されているため、覆工コンクリートC1の熱が坑内側へ逃げにくくなり、図15の第2剥離痕A2の発生を抑制することができる。
【0107】
また、補強部材は、図11(d)に示す補強部材37のように複数の部材によって構成されてもよい。補強部材37は、矩形状の断面を有する第1部材37aと、平板状の断面を有する第2部材37bとが例えば溶接により接合されることで構成されている。第1部材37aは、矩形状の開口が下を向くように外枠31に固定されており、第2部材37bは第1部材37aの開口を塞ぐように外枠31に固定されている。
【0108】
第1部材37aと第2部材37bとの間には、閉鎖空間S2が形成されているため、外枠31から補強部材37の外枠31側に伝わった熱は閉鎖空間S2内の空気により断熱され、補強部材37の坑内側に熱が伝達することを抑制することができる。この結果、覆工コンクリートC1の熱が坑内側へ逃げにくくなり、図15の第2剥離痕A2の発生を抑制することができる。
【0109】
〔補強部材の変形例2〕
図12は、変形例に係る金属製型枠300を示す図である。本変形例の金属製型枠300は、上記の実施形態に係る型枠3の補強部材33に代えて、補強部材38を有する点で、上記の実施形態と相違し、その他の点は共通する。
【0110】
上記の実施形態では、補強部材33に閉鎖空間S1を形成すること、及び外枠31の露出面31aを含む側部3bの坑内側の全面に断熱塗膜6を形成すること、の合せ技により、覆工コンクリートC1の熱が坑内側に逃げることをより確実に抑制している。しかしながら、補強部材に閉鎖空間を設けず、主に断熱塗膜6によって型枠3の断熱を実現してもよい。
【0111】
補強部材38は、上記の第1部材37aと同様に、開口が下を向く矩形状の断面を有する。補強部材38の開口は塞がれておらず、補強部材38において閉鎖空間は形成されていない。断熱塗膜6は、外枠31の露出面31a及び補強部材38を含む型枠300の坑内側の全面に形成されている。断熱塗膜6の組成は、上記の実施形態と同様である。
【0112】
このような構成であっても、断熱塗膜6によって覆工コンクリートC1の熱が坑内側に逃げることを抑制することができるため、覆工コンクリートC1の品質をより高めることができる。
【0113】
〔断熱塗膜の変形例1〕
図13は、変形例に係る金属製型枠301を示す図である。
本変形例の金属製型枠301は、上記の実施形態に係る型枠3の一部の断熱塗膜6に代えて、錆止塗膜60を有する点で、上記の実施形態と相違し、その他の点は共通する。
【0114】
上記の実施形態では、外枠31の露出面31a及び補強部材38を含む型枠3の坑内側の全面に、断熱塗膜6が形成されている。しかしながら、断熱塗膜6は、少なくとも露出面31aの一部に形成されていればよく、型枠3の坑内側の全面に形成されなくてもよい。
【0115】
断熱塗膜6は、例えば型枠3の坑内側の面にスプレー塗布される。断熱材料62(例えば、ウッドチップ又はフライアッシュ)の粒径は錆止材料61の粒径よりも大きい。このため、断熱材料62を含む断熱塗膜6をスプレー塗布すると、スプレーノズルを頻繁にメンテナンスする必要が生じる場合がある。このため、断熱が特に必要な部分にのみ断熱塗膜6を形成し、断熱の必要性が低い部分については断熱材料62が添加されていない単なる錆止材料61を用いて錆止塗膜60を形成する方が、施工しやすい場合がある。
【0116】
このため、本変形例では、図13に示すように、露出面31aのうち加温部材5が設置されていない第1領域Z1(熱が逃げやすい領域)に断熱塗膜6を形成し、露出面31aのうち加温部材5が設置されている第2領域Z2(熱が逃げにくい領域)に錆止塗膜60を形成する。本変形例の錆止塗膜60は、基剤として錆止材料61を含み、添加剤として断熱材料62を含まない塗膜である。
【0117】
また、補強部材33が位置する第3領域Z3は、閉鎖空間S1により外枠31の熱が咥内川に逃げることを抑制しているため、熱が逃げにくい領域といえる。このため、第3領域Z3も主に断熱塗膜6ではなく錆止塗膜60を形成する。また、第3領域Z3のうち熱が逃げにくい第1領域Z1と周方向に隣接する部分には、より確実に断熱するために断熱塗膜6を形成する。なお、第3領域Z3の全域に断熱塗膜6を形成してもよい。
【0118】
このように構成することで、熱が逃げやすい領域に集中して断熱塗膜6を形成することで、型枠301の断熱性を確保しつつ、断熱材料62の使用量を少なくすることで、スプレーノズルのメンテナンス頻度を減らし、施工性を向上させることができる。また、断熱材料62の使用量を少なくすることで、断熱塗膜6の材料費を削減することもできる。
【0119】
さらに、加温部材5から外枠31に熱が入力される第2領域Z2において断熱塗膜6ではなく錆止塗膜60を形成することで、加温部材5から外枠31への熱の入力効率が向上するため、より効率的に覆工コンクリートC1を加温することができる。この結果、覆工コンクリートC1の品質をより高めることができる。
【0120】
なお、錆止塗膜60は、基剤として錆止材料61を含み、添加剤として断熱材料62を断熱塗膜6よりも低い含有率にて含む塗膜であってもよい。例えば、断熱塗膜6が錆止材料61に対して断熱材料62を50体積%濃度含む場合に、錆止塗膜60が断熱材料62をその半分の25体積%濃度含んでもよい。
【0121】
この場合であっても、断熱材料62の使用量が少なくなるため、施工性の向上や、材料費の削減といった効果が得られるとともに、錆止塗膜60は断熱塗膜6よりも断熱性能が低いため、加温部材5から外枠31への熱の入力効率を向上させることができる。
【0122】
なお、熱の逃げやすさに応じて、断熱材料62の含有率を段階的に変化させてもよい。例えば、最も熱の逃げやすい第1領域Z1には錆止材料61に対して断熱材料62を最大限に(例えば50体積%濃度)含む断熱塗膜6を形成し、最も熱の逃げにくい第2領域Z2には断熱材料62を含まない錆止塗膜60を形成し、第2領域よりも熱が逃げやすく、第1領域Z1よりも熱が逃げにくい第3領域Z3には錆止材料61に対して断熱材料62を最大限未満の所定程度に(例えば10~25体積%濃度)含む錆止塗膜60を形成してもよい。このように構成することで、断熱の必要性に応じて、好適な塗膜を形成することができる。
【0123】
〔断熱塗膜の変形例2〕
図5の断熱塗膜6は、錆止材料61と、断熱材料62と、シンナー等の溶剤とを含む塗料を1回又は複数回塗布することで、1層又は複数層に形成されている。しかしながら、最下層(すなわち、最初に塗布する層)は、断熱材料62を含まず、錆止材料61と溶剤とを含む塗料を1回又は複数回塗布することで形成されてもよい。
【0124】
すなわち、図5の断熱塗膜6は、最下層が断熱材料62を含まない錆止塗膜60からなり、上層が断熱材料62を含む塗膜からなる複数層の塗膜であってもよい。この場合、最下層に断熱材料62を含まないため、従来の錆止塗膜と同等の錆止効果を奏しつつ、上層の断熱材料62によって覆工コンクリートC1の保温を行うことができる。
【0125】
なお、図13の断熱塗膜6も同様に多層構造を有していてもよい。この場合、錆止塗膜60を型枠301の坑内側の全面に形成し、熱の逃げやすい第1領域Z1については、錆止塗膜60の上層に断熱塗膜6を形成してもよい。
【0126】
〔補記〕
なお、上記の実施形態及び各種の変形例については、その少なくとも一部を、相互に任意に組み合わせてもよい。また、今回開示された実施形態及び変形例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0127】
1 スライドセントル
10 養生装置
2 門型台車
2a 基台部
2b 支柱
2c 車輪
3 型枠
3a 天端部
3b 側部
3c 下端部
300 型枠
301 型枠
31 外枠
31a 露出面
31b 被覆面
32 腹板
32a 貫通孔
33 補強部材
33a 第1壁部
33b 第2壁部
33c 第3壁部
34 補強部材
35 補強部材
36 補強部材
37 補強部材
37a 第1部材
37b 第2部材
38 補強部材
41 ジャッキ
42 ジャッキ
43 ジャッキ
5 加温部材
51 発熱体
52 電線
6 断熱塗膜
60 錆止塗膜
61 錆止材料
62 断熱材料
71 溶接部
71a 溶接部
71b 溶接部
72 溶接部
73 溶接部
81a 溶接部
81b 溶接部
81c 溶接部
82 溶接部
83 溶接部
T1 トンネル
C1 覆工コンクリート
R1 レール
t1 内周面
D1 打設空間
S1 閉鎖空間
S2 閉鎖空間
Y1 鋼材
X1 塗膜
X2 塗膜
X3 塗膜
X4 塗膜
X5 塗膜
H1 熱源
P1 センサ
P2 センサ
P3 センサ
Tp1 (センサP1の)測定温度
Tp3 (センサP3の)測定温度
Z1 第1領域
Z2 第2領域
Z3 第3領域
L1 最短距離L
L2 最短距離L
AR1 矢印
AR2 矢印
A1 第1剥離痕
A2 第2剥離痕
A3 第3剥離痕
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図15