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特開2023-28979制御装置、制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028979
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/19 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
G05D23/19 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135000
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 尚史
【テーマコード(参考)】
5H323
【Fターム(参考)】
5H323AA05
5H323BB05
5H323CB25
5H323CB32
5H323DA04
5H323DB15
5H323EE01
5H323FF01
5H323LL21
(57)【要約】
【課題】冷却手段を有さない加温プロセスのパラメータが変化しても、対象物の温度が、オーバーシュートすることなく、目標時間内に目標温度に到達するように制御することができる制御装置、制御方法、およびプログラムを提供すること。
【解決手段】対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスの制御装置であって、前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御する制御部と、を備える制御装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスの制御装置であって、
前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御する制御部
を備える制御装置。
【請求項2】
前記制御方式は、前記操作量について所定の上下限制約を有し、
前記制御部は、前記上下限制約の下で前記加温プロセスの操作量を制御する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記加温プロセスの制御開始後において、前記目標温度の設定値が最終的な目標値までなだらかに上昇するように前記設定値を補正する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、二次曲線を用いて前記目標温度の設定値を補正する、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記二次曲線の形状と、前記制御方式のパラメータである前記整定時間と前記むだ時間とに基づいて前記対象物の温度が前記目標温度に収束するまでの所要時間を推定し、予め定められた処理可能期間の期間内において可能な限り遅い時間に前記加温プロセスの制御を開始させる、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御方式を記憶する記憶部を備える、
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスの制御方法であって、
前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御する、
制御方法。
【請求項8】
コンピュータに、
対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスを制御させるためのプログラムであって、
前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を加温する加温プロセスには、対象物を飽和蒸気で加温する加温プロセスのように、冷却手段を有しないものがある。このような加温プロセスでは、対象物の温度が、オーバーシュート(対象物の温度が目標温度よりも高くなること)することなく目標時間内に目標温度に到達するように制御することが必要になる場合がある。従来、このような加温プロセスでは、PI制御(Proportional-Integral Controller)やPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)によるフィードバック制御が行われていた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-172253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の制御方法では、制御パラメータを適切にチューニングできたとしても、制御対象となる加温プロセスのパラメータ(プロセスゲイン、むだ時間、時定数)が変化した場合には、対象物の温度がオーバーシュートしてしまうことがあった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、冷却手段を有さない加温プロセスのパラメータが変化しても、対象物の温度が、オーバーシュートすることなく、目標時間内に目標温度に到達するように制御することができる制御装置、制御方法、およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスの制御装置であって、前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御する制御部と、を備える制御装置である。
【0007】
(2)本発明の他の態様は、上記の制御装置であって、前記制御方式は、前記操作量について所定の上下限制約を有し、前記制御部は、前記上下限制約の下で前記加温プロセスの操作量を制御するものである。
【0008】
(3)本発明の他の態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記加温プロセスの制御開始後において、前記目標温度の設定値が最終的な目標値までなだらかに上昇するように前記設定値を補正するものである。
【0009】
(4)本発明の他の態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、二次曲線を用いて前記目標温度の設定値を補正するものである。
【0010】
(5)本発明の他の態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記二次曲線の形状と、前記制御方式のパラメータである前記整定時間と前記むだ時間とに基づいて前記対象物の温度が前記目標温度に収束するまでの所要時間を推定し、予め定められた処理可能期間の期間内において可能な限り遅い時間に前記加温プロセスの制御を開始させるものである。
【0011】
(6)本発明の他の態様は、上記の制御装置であって、前記制御方式を記憶する記憶部を備えるものである。
【0012】
(7)本発明の他の態様は、対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスの制御方法であって、前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御する、制御方法である。
【0013】
(8)本発明の他の態様は、コンピュータに、対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスを制御させるためのプログラムであって、前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷却手段を有さない加温プロセスのパラメータが変化しても、対象物の温度が、オーバーシュートすることなく、目標時間内に目標温度に到達するように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の制御システム1の構成例を示す図である。
図2】むだ時間要素と一次遅れ要素と積分要素とを持つ伝達関数でモデル化されたプロセスのシステム構成の具体例を示す図である。
図3】対象プロセスの開ループ構成を示す第1の図である。
図4】対象プロセスの開ループ構成を示す第2の図である。
図5】実施形態の制御演算式による第1のシミュレーション結果を示す図である。
図6】実施形態の制御演算式による第2のシミュレーション結果を示す図である。
図7】操作量の上限と実際の操作量との関係を示す図である。
図8】実施形態の制御演算式による第3のシミュレーション結果を示す図である。
図9】実施形態の制御演算式による第4のシミュレーション結果を示す図である。
図10】実施形態の制御演算式による第5のシミュレーション結果を示す図である。
図11】目標温度の設定値の補正のイメージを示す図である。
図12】実施形態の制御演算式による第6のシミュレーション結果を示す図である。
図13】実施形態の制御演算式による第7のシミュレーション結果を示す図である。
図14】実施形態の制御演算式による第8のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による制御装置、制御方法、およびプログラムについて説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0017】
(概略)
本発明の実施形態は、冷却手段を有さない加温プロセスのパラメータが変化しても、対象物の温度が、オーバーシュートすることなく、目標時間内に目標温度に到達するように制御することができるようにするものである。例えば、対象物を飽和蒸気で加温する加温プロセスのように、冷却手段を有しない加温プロセスにおいて、プロセスゲイン、むだ時間、時定数が変化しても、対象物の温度が、オーバーシュートすることなく、目標時間内に目標温度に到達するように制御することができるようにするものである。
【0018】
一般に、このような加温プロセスの制御方式には、コストや効率の観点から以下のような事項が要求される場合がある。
(1)対象物の冷却手段がないため、加温手段のみでオーバーシュートさせることなく対象物の温度を目標温度に到達させること。
(2)飽和蒸気量を節約するため、対象物の温度を目標時間内のできるだけ遅いタイミングで目標温度に到達させること。
(3)飽和蒸気量を調節するバルブの開度には上下限制約(0~100%)がある。
【0019】
しかしながら、従来の制御方式では、制御パラメータを適切にチューニングできたとしても、制御対象プロセスのパラメータ(特にプロセスゲインやむだ時間、時定数)が変化した場合、その変化に対応することができず、対象物の温度が目標温度からオーバーシュートしてしまう場合があった。また、オーバーシュートを抑制するために、対象物の温度が目標温度に到達するタイミングを予測しておくことが考えられるが、そのような予測モデルを得ることは、理論的にもシミュレーションによっても困難であるのが現状である。したがって、このような現状でオーバーシュートを抑制するためには、余裕をもって早めに制御を開始することが必要になり、その結果、必要以上に多くの飽和蒸気量が消費されてしまうといったことが起こり得た。
【0020】
本発明の実施形態では、対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定法により制御する制御方式を用意する。そして、この制御方式に基づいて、対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく目標温度に収束するように加温プロセスの操作量を制御するようにしている。これにより、冷却手段を有さない加温プロセスのパラメータが変化しても、対象物の温度が、オーバーシュートすることなく、目標時間内に目標温度に到達するように制御することができる。
【0021】
(実施形態)
図1は、実施形態の制御システム1の構成例を示す図である。制御システム1は、例えば、トレイ10と、温度センサ20と、バルブ30と、制御装置40とを備える。トレイ10は、加温対象の対象物Bを保持する。温度センサ20は、トレイ10に保持される対象物Bの温度を測定する。バルブ30は、トレイ10に供給される飽和蒸気量を調節するためのバルブである。制御装置40は、温度センサ20およびバルブ30と通信可能に接続される。
【0022】
制御装置40は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。制御装置40は、プログラムの実行によって測定データ取得部41と、制御部42と、記憶部43と、制御信号出力部44とを備える装置として機能する。なお、制御装置40の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0023】
測定データ取得部41は、例えば通信インターフェースを含み、温度センサ20から対象物Bの温度の測定データを取得する。測定データ取得部41は、取得した測定データを制御部42に出力する。
【0024】
制御部42は、対象物Bの温度によるフィードバック制御により、対象物Bの温度が所定時間内に所定の目標温度に到達するようにトレイ10の内部に供給する飽和蒸気量を調節する。より具体的には、制御部42は、加温プロセスの有限時間整定制御を実現する制御プログラムの実行により、対象物Bの温度がオーバーシュートすることなく、所定時間内で目標温度に到達するようにバルブ30の開度を制御する。制御部42は、各制御周期の制御処理によって決定したバルブ30の開度を制御する制御信号を随時制御信号出力部44に出力する。
【0025】
記憶部43は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。記憶部43は制御プログラムを記憶する。記憶部43は、温度測定データや制御信号など、制御プログラム以外の情報の記憶領域として用いられてもよい。
【0026】
制御信号出力部44は、制御部42から出力された制御信号をバルブ30に送信する。バルブ30は、制御信号出力部44から制御信号を受信すると、自身の開度を制御信号により通知された開度に変更する。
【0027】
このように、本実施形態の制御装置40は、対象物Bの温度をフィードバックする有限時間整定制御によってバルブ30の開度を調節することにより、対象物Bの温度をオーバーシュートさせることなく、所定時間内に所定の目標温度に到達させることができるものである。以下、制御装置40が実行する有限時間整定制御の詳細について説明する。
【0028】
図2は、むだ時間要素と一次遅れ要素と積分要素とを持つ伝達関数でモデル化されたプロセスのシステム構成の具体例を示す図である。ここでG(z)は、コントローラを表し、制御目標の設定値R(s)と制御量C(s)との偏差E(s)を入力して操作量W(s)を出力する。また、H(s)は、ホールド回路を表し、コントローラG(z)の出力である操作量W(s)を、所定時間(サンプリング周期)ホールドさせてプロセスP(s)に入力する。この場合、例えば、ホールド回路H(s)およびプロセスP(s)の伝達関数は(1)式および(2)式のように表される。
【0029】
【数1】
【0030】
【数2】
【0031】
(1)式および(2)式において、Tはサンプリング周期、Tは時定数、Lはむだ時間、Kはプロセスゲインを表し、L=mTとする(mは自然数または0)。このような、むだ時間+1次遅れ+積分系を制御対象プロセスとしてサンプル値制御するとき、制御量を任意に指定した整定時間(サンプリング周期の整数倍(=n×T)とする)内で目標値に収束させる有限時間整定制御の制御演算式を導くことができる。まず、図2のシステム構成を示す(3)式を(4)式のように変形することにより(5)式を得る。
【0032】
【数3】
【0033】
【数4】
【0034】
【数5】
【0035】
したがって、(6)式のようにD(z)を定義すると、図2のシステム構成は図3の開ループ構成に書き直すことができる。
【0036】
【数6】
【0037】
さらに、図3の開ループ構成に対して(7)~(9)式のZ変換を行うことにより、図3の開ループ構成が図4の開ループ構成に変換される。
【数7】
【0038】
【数8】
【0039】
【数9】
【0040】
図4において、制御量C(z)が、目標温度の設定値の変更に対して整定時間(=(k+m+1)T)(kは任意の自然数)で有限整定するためには、D(z)HP(z)がz-1の有限多項式で表され、かつ最終値の定理により、z→1で1に収束することが必要十分条件である。すなわち、あるa,a,…,ak-1,Aについて(10)および(11)式が成り立つことが必要十分条件であり、(10)および(11)式により(12)式を得る。
【0041】
【数10】
【0042】
【数11】
【0043】
【数12】
【0044】
さらに、(12)および(10)式により(13)式を得ると、G(z)は(14)式のように表される。
【0045】
【数13】
【0046】
【数14】
【0047】
ここで、a=α(1≦i≦k-1)、Tをサンプリング周期、Tを制御対象プロセスの時定数とおくと、(14)式に関して(15)および(16)式が得られる。
【0048】
【数15】
【0049】
【数16】
【0050】
したがって、(16)および(12)式からAは(17)式のように表され、(17)および(14)式からG(z)は(18)式のように表される。
【数17】
【0051】
【数18】
【0052】
したがって、(18)式から制御演算式は(19)~(21)式のように導かれる。
【0053】
【数19】
【0054】
【数20】
【0055】
【数21】
【0056】
ここで、Wはnサンプル時刻における操作量(位置型)を表し、ΔWは操作変更量(速度型)を表す。
【0057】
図5は(19)~(21)式に導出した制御演算式を対象プロセスに適用してシミュレーションを実施した結果を示す図である。ここでは、制御操作量(位置値)Wの範囲を-200≦W≦1000として計算を行った。以降のシミュレーションでは、サンプリング周期を10(秒)として実施した。図5のシミュレーション結果によれば、この場合、対象物Bの温度を130秒(=整定時間+むだ時間)で目標温度に整定することができることが分かった。
【0058】
しかしながら、図5の例では、バルブ30の開度がマイナスの値となっている部分が存在する。実際の操作量であるバルブ30の開度に0≦W≦100[%]という制約があるので、図5の結果をそのまま実際の制御に適用することはできない。ここで、図5の結果は、必要な熱量を短時間に供給しようとした結果であると考えられるので、バルブ30の開度が0~100%を超えないようにするためには、整定時間をより長く設定すればよいことが予想される。そこで、図5と同様の制御演算式において整定時間を十分に長い500秒に設定した場合についてシミュレーションを実施した。
【0059】
図6は、整定時間を500秒に設定した場合のシミュレーション結果を示す。この場合、操作量を全てプラスの値(0≦W≦667%)とした上で、対象物Bの温度を整定時間+むだ時間の530秒で整定することができることが分かった。しかしながら、この場合であっても、操作量の上限を100%とする制約は満たされていないので、(19)~(21)の制御演算式に対して以下の(22)式を組み込むことにより、実質的に操作量の上限制約を実現する。
【0060】
まず、操作量(位置型)の上限値をL(>0)とすると、W+ΔW>Lのとき、実際の操作量ΔW はΔW =L-Wとなる。したがって、操作量の変化量ΔWのうち、操作できなかった分をΔW とおくと(22)式の関係が成り立つ。さらに、この関係は、図7からも明らかなように、L(>0)を操作量の下限値とした場合にも同様に成り立つものである。
【0061】
【数22】
【0062】
ここで、ΔW=ΔW +ΔW であるから、これを(19)~(21)式に適用すると(23)式が得られる。
【0063】
【数23】
【0064】
【数24】
【0065】
したがって、E =E-KT(1-α)ΔW とおいたとき、ΔW は偏差E に対する有限時間整定制御((19)~(21)式)の操作量とみなすことができる。このとき、W+ΔW =Lとなるので、操作量の上下限Lを意識しなくてよくなる。すなわち、偏差を実際のEではなく、E とみなすことにより、上下限制約がある操作量ΔW を、上下限を考慮しない操作量と同じように考えることができる。したがって、(24)式から(25)式を得ることができる。
【0066】
【数25】
【0067】
図8は、(25)式に導出した制御演算式を対象プロセスに適用してシミュレーションを実施した結果を示す図である。ここでは、実プロセスのプロセスパラメータがプロセスモデルのプロセスパラメータに一致している場合のシミュレーション結果を示す。具体的には、プロセスパラメータをゲイン=0.006、むだ時間=30秒、時定数=60秒とし、制御操作量(位置値)Wの範囲を0≦W≦100[%]、整定時間を500秒として計算を行った。図8のシミュレーション結果によれば、この場合、バルブ30の開度を0~100%の範囲に維持した上で、対象物Bの温度を所与の530秒(=整定時間+むだ時間)で目標温度に整定することができることが分かった。
【0068】
図9は、(25)式に導出した制御演算式を対象プロセスに適用してシミュレーションを実施した結果を示す図である。ここでは、プロセスモデルのプロセスパラメータが図8の場合と同じであり、実プロセスのプロセスパラメータがプロセスモデルのプロセスパラメータと異なる場合のシミュレーション結果を示す。具体的には、実プロセスのゲインをプロセスモデルのゲインの半分である0.003として計算を行った。その他のパラメータおよび制御条件は図8の例と同じである。図9のシミュレーション結果によれば、この場合も図8の場合と同様に、バルブ30の開度を0~100%の範囲で制御した上で、対象物Bの温度を所与の530秒(=整定時間+むだ時間)で目標温度に整定することができることが分かった。
【0069】
このように構築された制御方式によれば、実プロセスのプロセスパラメータがプロセスモデルのプロセスパラメータから乖離した場合であっても、対象物Bの温度を所与の有限時間で目標温度に整定することができる。
【0070】
図10は、(25)式に導出した制御演算式を対象プロセスに適用してシミュレーションを実施した結果を示す図である。ここでは、図9の例と同様に、実プロセスのプロセスパラメータがプロセスモデルのプロセスパラメータと異なる場合のシミュレーション結果を示す。具体的には、実プロセスの時定数をプロセスモデルの時定数の50%増しの90秒として計算を行った。その他のパラメータおよび制御条件は図8の例と同じである。図10のシミュレーション結果によれば、この場合、対象物Bの温度が有限時間で整定するものの、その温度が目標温度よりも高い温度に収束することが分かる。すなわち、この場合、オーバーシュートが発生する。
【0071】
そこで、このように実プロセスとプロセスモデルとの間でプロセスパラメータに乖離がある場合においても、対象物Bの温度をオーバーシュートさせることなく所定時間内に目標温度に整定することができるようにするために、目標温度の設定値を常に一定値とするのではなく、時間の経過に応じて徐々に目標温度の設定値が最終的な目標値(上記一定値)に近づいていくように設定値を補正する補正式を制御演算式(25)に導入する。以下、目標温度の設定値の最終的な目標値のことを「目標設定値」という。例えば、目標温度の設定値を、二次曲線を用いて補正することができる。
【0072】
図11は、目標温度の設定値の補正のイメージを示す図である。図11において、曲線T(i)は対象物Bの温度変化を表し、曲線SV(i)は補正後の目標温度の設定値の変化を表す。具体的には、図11は、加温プロセスの制御開始時刻(i=CST)から所定の温度補正時間STをかけて、目標温度の設定値を徐々に目標設定値に補正していくことを表している。ここで、補正後の設定値SV(i)(i=1~BT)は(26)式のように表される。
【0073】
【数26】
【0074】
(26)式において、StartTは制御開始時点における対象物Bの温度を表す。TargetTは目標設定値を表す。BTは、対象物Bについて加温処理を実施可能な期間であり、例えば、対象物Bがトレイ10の内部に供給されてから、トレイ10の外部に放出されるまでの時間(以下「バッチ時間」という。)である。このバッチ時間によって定まる期間は「処理可能期間」の一例である。CompTは、温度補正時間STの間に補正される目標温度の設定値の大きさを表す。ここで、連続時間で考えてSV(t)を(27)式のようにおくことにより(28)式が得られる。(28)式は、補正後の設定値が、t=CST+STの時刻において、目標設定値であるTargetTに滑らかに(すなわち、両側からの微分係数=0で)接続されることを意味している。
【0075】
【数27】
【0076】
【数28】
【0077】
図12は、設定値の補正式を導入した制御演算式を対象プロセスに適用してシミュレーションを実施した結果を示す図である。ここでは、補正温度CompT=30[℃]、温度補正時間ST=80[10秒単位]、制御開始時間CST=0とし、その他のパラメータおよび制御条件は図11の例と同じである。図12のシミュレーション結果によれば、図11の場合と異なり、対象物Bの温度をオーバーシュートさせることなく、有限時間で目標温度に整定することができることが分かった。
【0078】
図13および図14は、設定値の補正式を導入した制御演算式を対象プロセスに適用した他のシミュレーションの結果を示す図である。図13は、実プロセスのゲイン、むだ時間、および時定数がプロセスモデルの各値の50%減である場合のシミュレーション結果を示し、図14は、実プロセスのゲイン、むだ時間、および時定数がプロセスモデルの各値の50%増である場合のシミュレーション結果を示す。いずれの場合も、補正式の導入により、対象物Bの温度をオーバーシュートさせることなく、有限時間で目標温度に整定することができることが分かった。
【0079】
以上の結果から、上記補正式を導入した制御演算式によれば、実プロセスのプロセスパラメータがプロセスモデルのプロセスパラメータから乖離している場合であっても、最大で1330秒(=整定時間500秒+温度補正時間800秒+むだ時間30秒)経過後には、対象物Bの温度が目標温度に整定していることがわかる。従って、予め設定されている処理可能期間の終了時刻から、1330秒前に制御を開始すれば、実プロセスとプロセスモデルの間でプロセスパラメータの乖離が生じている場合であっても、対象物Bの温度をオーバーシュートさせることなく目標温度に到達させることができる。
【0080】
以上に説明したように、本実施形態に係る制御装置は、対象物を加温するプロセスであって冷却手段を有しない加温プロセスの制御装置であって、前記加温プロセスを、むだ時間と、一次遅れと、積分要素とを有するプロセスとしてモデル化して有限時間整定制御により制御する制御方式に基づいて、前記対象物の温度が、所定の整定時間内に、目標温度を超えることなく前記目標温度に収束するように前記加温プロセスの操作量を制御する制御部と、を備える。この構成により、本実施形態に係る制御装置は、対象物Bの温度が目標温度に対してオーバーシュートすることを抑制しつつ、対象物Bの温度を有限時間で目標温度に整定することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る制御装置において、前記制御方式は、前記操作量について所定の上下限制約を有し、前記制御部は、前記上下限制約の下で前記加温プロセスの操作量を制御する。この構成により、本実施形態に係る制御装置は、対象物Bの温度が目標温度に対してオーバーシュートすることを抑制することができる。
【0082】
また、本実施形態に係る制御装置において、前記制御部は、前記加温プロセスの制御開始後において、前記目標温度の設定値が最終的な目標値までなだらかに上昇するように前記設定値を補正する。より具体的には、前記制御部は、二次曲線を用いて前記目標温度の設定値を補正する。この構成により、本実施形態に係る制御装置は、対象物Bの温度が目標温度に対してオーバーシュートすることを抑制することができる。
【0083】
また、本実施形態に係る制御装置において、前記制御部は、前記二次曲線の形状と、前記制御方式のパラメータである前記整定時間と前記むだ時間とに基づいて前記対象物の温度が前記目標温度に収束するまでの所要時間を推定し、予め定められた処理可能期間の期間内において可能な限り遅い時間に前記加温プロセスの制御を開始させる。この構成により、本実施形態に係る制御装置は、飽和蒸気を節約してエネルギー効率を向上させることができる。
【0084】
以上のように、実施形態の制御システム1によれば、冷却手段を有さない加温プロセスのパラメータが変化しても、対象物Bの温度が、オーバーシュートすることなく、目標時間内に目標温度に到達するように制御することができる。また、実施形態の制御システム1による制御方法は、従来のPI制御(またはPID制御)よりも高いロバスト性を有するものであり、飽和蒸気を用いた加温プロセスをより好適に制御することができる。
【0085】
なお、以上の実施形態では、飽和蒸気により対象物Bを加温する加温プロセスの制御に有限時間整定制御を適用する方法について説明したが、操作量の上下限制約を守りながら有限時間で整定することができるように制御演算式を改良する本実施形態の手法は、対象プロセスが積分特性を有する場合に限らず、任意の線形時不変プロセス(一般のむだ時間+一次遅れ系等)に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…制御システム、10…トレイ、20…温度センサ、30…バルブ、40…制御装置、41…測定データ取得部、42…制御部、43…記憶部、44…制御信号出力部
図1
図2
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図14