(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029042
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】圧電膜、共振子、フィルタ、積層体、剥離積層体および共振子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20230224BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20230224BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230224BHJP
H03H 9/56 20060101ALI20230224BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20230224BHJP
C30B 23/02 20060101ALI20230224BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/316
H03H9/17 G
H03H9/56
C30B29/38 C
C30B23/02
C23C14/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135110
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149113
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 謹矢
(72)【発明者】
【氏名】利根川 翔
(72)【発明者】
【氏名】坂脇 彰
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大三
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩太
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
5J108
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB08
4G077BE11
4G077BE13
4G077DA11
4G077HA11
4K029AA04
4K029AA06
4K029AA07
4K029AA08
4K029BA02
4K029BA03
4K029BA04
4K029BA05
4K029BA06
4K029BA08
4K029BA11
4K029BA13
4K029BA17
4K029BA58
4K029BB02
4K029BB09
4K029CA05
4K029DC33
4K029DC34
4K029FA06
4K029GA01
5J108AA07
5J108BB01
5J108BB08
5J108EE03
(57)【要約】
【課題】結晶性の高い圧電膜、およびこれを備える共振子、フィルタ等を提供する。
【解決手段】共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含む圧電膜であり、圧電体は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、ミラー指数が(11-20)の格子面でのX線ロッキングカーブの半値幅が、10°以下である圧電膜。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含む圧電膜であり、
前記圧電体は、
ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、
ミラー指数が(11-20)の格子面でのX線ロッキングカーブの半値幅が、10°以下である圧電膜。
【請求項2】
前記ScAlNおよび前記AlNは、単結晶である請求項1に記載の圧電膜。
【請求項3】
前記ScAlNおよび前記AlNは、ミラー指数が(11-20)の格子面でのX線回折により60°周期のピークが観察される請求項1に記載の圧電膜。
【請求項4】
前記ScAlNおよび前記AlNは、電子線回折像で1つの晶帯軸が観察される請求項1に記載の圧電膜。
【請求項5】
前記ScAlNは、ScxAlyN(x+y=1)の組成で表したときに、0<x≦0.5である請求項1に記載の圧電膜。
【請求項6】
共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含む圧電膜であり、
前記圧電体は、
ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、
前記ScAlNおよび前記AlNは、単結晶からなる圧電膜。
【請求項7】
前記ScAlNおよび前記AlNは、六方晶系であるとともに、当該六方晶系のab面内で回転方向が揃いc軸方向に伸びる柱状のドメインが並んだ構造である請求項6に記載の圧電膜。
【請求項8】
基板と、
前記基板の上に配される下部電極層と、
前記下部電極層の上に形成され、請求項1乃至7の何れか1項に記載の圧電膜と、
前記圧電膜上に形成され、金属元素を含む単結晶からなる上部電極層と、
を有する共振子。
【請求項9】
前記上部電極層は、当該上部電極層の結晶系が立方晶であるときは、前記ScAlNまたは前記AlNとの格子不整合度が-25%以上2%以下の範囲となる請求項8に記載の共振子。
【請求項10】
前記上部電極層は、六方晶である請求項8に記載の共振子。
【請求項11】
前記圧電膜は、ミラー指数が(0002)の格子面でのX線ロッキングカーブの半値幅が、2.5°以下である請求項8に記載の共振子。
【請求項12】
前記上部電極層は、
前記AlNまたは前記ScAlNを、ScxAlyN(x+y=1)の組成で表したときに0≦x≦0.3のときは、Co、Cu、Ru、Pt、Al、Au、Ag、Mo、W、ZrN、Tiの中から選ばれる少なくとも1つからなり、0.3<x≦0.5のときは、Co、Ru、Al、Au、Ag、Mo、W、ZrN、Tiの中から選ばれる少なくとも1つからなる請求項8に記載の共振子。
【請求項13】
前記基板は、サファイア、Si、石英、SrTiO3、LiTaO3、LiNbO3およびSiCの中から選ばれる何れかの組成を有する請求項8に記載の共振子。
【請求項14】
請求項8乃至13の何れか1項に記載の共振子を有し、
前記共振子に備えられる圧電膜により必要な周波数の電波を取り出すフィルタ。
【請求項15】
基板と、当該基板の上に配され金属元素を含む単結晶からなる電極層と、当該基板と当該電極層との間に形成され当該電極層の結晶配合性を向上させるバッファ層と、当該電極層の上に形成され、請求項1乃至7の何れか1項に記載の圧電膜からなる圧電層と、を備える積層体。
【請求項16】
請求項15に記載の積層体から、前記圧電層および前記電極層を、前記バッファ層および前記基板から剥離した剥離積層体。
【請求項17】
基板と、当該基板の上に配され金属元素を含む単結晶からなる電極層と、当該基板と当該電極層との間に形成され当該電極層の結晶配合性を向上させるバッファ層と、当該電極層の上に形成され、圧電体からなる圧電層と、を備える積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体上に、金属を含む第1の金属層を形成する第1の金属層形成工程と、
前記基板とは別の第2の基板の表面に、金属を含む第2の金属層を形成する第2の金属層形成工程と、
前記第2の基板の前記第2の金属層に、前記積層体上に形成された前記第1の金属層を貼り付ける貼付工程と、
前記積層体から前記基板および前記バッファ層を剥離する剥離工程と、
を含み、
前記積層体の前記圧電層は、共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含み、当該圧電体は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、ミラー指数が(11-20)の格子面でのX線ロッキングカーブの半値幅が、10°以下である共振子の製造方法。
【請求項18】
基板と、当該基板の上に配され金属を含む単結晶からなる電極層と、当該基板と当該電極層との間に形成され当該電極層の結晶配合性を向上させるバッファ層と、当該電極層の上に形成され、圧電体からなる圧電層と、を備える積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体上に、金属を含む第1の金属層を形成する第1の金属層形成工程と、
前記基板とは別の第2の基板の表面に、金属を含む第2の金属層を形成する第2の金属層形成工程と、
前記第2の基板の前記第2の金属層に、前記積層体上に形成された前記第1の金属層を貼り付ける貼付工程と、
前記積層体から前記基板および前記バッファ層を剥離する剥離工程と、
を含み、
前記積層体の前記圧電層は、共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含み、当該圧電体は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、当該ScAlNおよび当該AlNは、単結晶からなる共振子の製造方法。
【請求項19】
前記剥離工程は、前記基板および前記バッファ層をともに剥離する請求項17または18に記載の共振子の製造方法。
【請求項20】
前記剥離工程は、前記基板を剥離した後に前記バッファ層を剥離する請求項17または18に記載の共振子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電膜、共振子、フィルタ、積層体、剥離積層体、共振子の製造方法に関する。
【0002】
例えば、携帯電話やスマートフォンで通信をする場合、フィルタを用いて、アンテナで受信した電波の中から、必要な周波数の電波を取り出すことが必要となる。このようなフィルタとして、共振子を利用したフィルタが存在する。この共振子は、例えば、電極の上に圧電体からなる圧電膜が積層する構造をなす。
【背景技術】
【0003】
公報記載の従来技術として、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜を備えており、窒化アルミニウム薄膜におけるスカンジウムの含有率は、スカンジウムの原子数とアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、0.5~50原子%である圧電体薄膜が存在する(特許文献1参照)。
また、公報記載の従来技術として、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下において、アルミニウムとスカンジウムとでスパッタリングするスパッタリング工程を含むスカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜を備えた圧電体薄膜の製造方法が存在する。この製造方法におけるスパッタリング工程では、基板温度を5~450℃の範囲で、スカンジウムの含有率が0.5~50原子%の範囲となるようにスパッタリングする(特許文献2参照)。
さらに、公報記載の従来技術として、スパッタリングにより得られ、かつスカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜が存在する。その炭素原子の含有率は2.5at%以下である。圧電体薄膜の製造にあたっては、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下で、炭素原子の含有率が5at%以下のスカンジウムアルミニウム合金ターゲット材からスカンジウムとアルミニウムとを基板上に同時にスパッタリングする(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-10926号公報
【特許文献2】特開2011-15148号公報
【特許文献3】特開2014-236051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今は、通信の大容量化による混雑が顕著になり、マルチバンド化とともに、高周波数化による高速化および広帯域化による大容量化が進められている。
この場合、圧電膜には、隣接バンドとの混線を防ぐとともに低損失性を図るために、高いQ値が求められる。また、圧電膜には、電波の周波数規格を満たすための広い帯域幅に対応することが求められる。そして、Q値および帯域の双方について要求される特性を実現するには、圧電膜の結晶性をよくすることが求められる。
本発明は、結晶性の高い圧電膜、およびこれを備える共振子、フィルタ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含む圧電膜であり、圧電体は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、ミラー指数が(11-20)の格子面でのX線ロッキングカーブの半値幅が、10°以下である圧電膜が提供される。
ここで、ScAlNおよびAlNは、単結晶であるようにすることができる。
また、ScAlNおよびAlNは、ミラー指数が(11-20)の格子面でのX線回折により60°周期のピークが観察されるようにすることができる。
さらに、ScAlNおよびAlNは、電子線回折像で1つの晶帯軸が観察されるようにすることができる。
またさらに、ScAlNは、ScxAlyN(x+y=1)の組成で表したときに、0<x≦0.5であるようにすることができる。
【0007】
また、本発明によれば、共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含む圧電膜であり、圧電体は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、ScAlNおよびAlNは、単結晶からなる圧電膜が提供される。
ここで、ScAlNおよびAlNは、六方晶系であるとともに、六方晶系のab面内で回転方向が揃いc軸方向に伸びる柱状のドメインが並んだ構造であるようにすることができる。
【0008】
さらに、本発明によれば、基板と、基板の上に配される下部電極層と、下部電極層の上に形成され、上記記載の圧電膜と、圧電膜上に形成され、金属元素を含む単結晶からなる上部電極層と、を有する共振子が提供される。
さらに、上部電極層は、上部電極層の結晶系が立方晶であるときは、ScAlNまたはAlNとの格子不整合度が-25%以上2%以下の範囲となるようにすることができる。
またさらに、上部電極層は、六方晶であるようにすることができる。
そして、圧電膜は、ミラー指数が(0002)の格子面でのX線ロッキングカーブの半値幅が、2.5°以下であるようにすることができる。
また、上部電極層は、AlNまたはScAlNを、ScxAlyN(x+y=1)の組成で表したときに0≦x≦0.3のときは、Co、Cu、Ru、Pt、Al、Au、Ag、Mo、W、ZrN、Tiの中から選ばれる少なくとも1つからなり、0.3<x≦0.5のときは、Co、Ru、Al、Au、Ag、Mo、W、ZrN、Tiの中から選ばれる少なくとも1つからなるようにすることができる。
さらに、基板は、サファイア、Si、石英、SrTiO3、LiTaO3、LiNbO3およびSiCの中から選ばれる何れかの組成を有するようにすることができる。
【0009】
またさらに、本発明によれば、上記記載の共振子を有し、共振子に備えられる圧電膜により必要な周波数の電波を取り出すフィルタが提供される。
そして、本発明によれば、基板と、基板の上に配され金属元素を含む単結晶からなる電極層と、基板と電極層との間に形成され電極層の結晶配合性を向上させるバッファ層と、電極層の上に形成され、上記圧電膜からなる圧電層と、を備える積層体が提供される。
さらに、本発明によれば、上記積層体から、圧電層および電極層を、バッファ層および基板から剥離した剥離積層体が提供される。
【0010】
そして、本発明によれば、基板と、基板の上に配され金属元素を含む単結晶からなる電極層と、基板と電極層との間に形成され電極層の結晶配合性を向上させるバッファ層と、電極層の上に形成され、圧電体からなる圧電層と、を備える積層体を形成する積層体形成工程と、積層体上に、金属を含む第1の金属層を形成する第1の金属層形成工程と、基板とは別の第2の基板の表面に、金属を含む第2の金属層を形成する第2の金属層形成工程と、第2の基板の第2の金属層に、積層体上に形成された第1の金属層を貼り付ける貼付工程と、積層体から基板およびバッファ層を剥離する剥離工程と、を含み、積層体の圧電層は、共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含み、圧電体は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、ミラー指数が(11-20)の格子面でのX線ロッキングカーブの半値幅が、10°以下である共振子の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、基板と、基板の上に配され金属を含む単結晶からなる電極層と、基板と電極層との間に形成され電極層の結晶配合性を向上させるバッファ層と、電極層の上に形成され、圧電体からなる圧電層と、を備える積層体を形成する積層体形成工程と、積層体上に、金属を含む第1の金属層を形成する第1の金属層形成工程と、基板とは別の第2の基板の表面に、金属を含む第2の金属層を形成する第2の金属層形成工程と、第2の基板の第2の金属層に、積層体上に形成された第1の金属層を貼り付ける貼付工程と、積層体から基板およびバッファ層を剥離する剥離工程と、を含み、積層体の圧電層は、共振により必要な周波数の電波を取り出す圧電体を含み、圧電体は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とし、ScAlNおよびAlNは、単結晶からなる共振子の製造方法が提供される。
【0012】
ここで、剥離工程は、基板およびバッファ層をともに剥離するようにすることができる。
また、剥離工程は、基板を剥離した後にバッファ層を剥離するようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、結晶性の高い圧電膜、およびこれを備える共振子、フィルタ等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態が適用される共振子を説明する図である。
【
図2】圧電層を作成するために使用する積層体について示した図である。
【
図3】(a)~(b)は、圧電層、下部電極層、バッファ層、基板の結晶性と、電気機械結合係数k
2との関係について示した図である。
【
図4】本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8NのFWHMが小さい場合の面内X線回折の結果を示している。
【
図5】(a)は、本実施の形態が適用されるAlNのTEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)像を示した図である。(b)は、本実施の形態が適用されるAlNの電子回折パターンを示した図である。(c)は、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8NのTEM像を示した図である。(d)は、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8Nの電子回折パターンを示した図である。(e)は、多結晶のAlNのTEM像を示した図である。(f)は、多結晶のAlNの電子回折パターンを示した図である。
【
図6】(a)は、本実施の形態が適用されるAlNのTEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)像を示した図である。(b)は、本実施の形態が適用されるAlNの電子回折パターンを示した図である。(c)は、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8NのTEM像を示した図である。(d)は、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8Nの電子回折パターンを示した図である。(e)は、多結晶のAlNのTEM像を示した図である。(f)は、多結晶のAlNの電子回折パターンを示した図である。
【
図7】(a)~(c)は、
図5、6で示したAlN、Sc
0.2Al
0.8Nの結晶構造および結晶面について示した図である。
【
図8】(a)は、本実施の形態が適用されるAlNの高倍率TEM像である。(b)は、(a)の高倍率TEM像を説明した図である。
【
図9】(a)~(d)は、本実施の形態が適用されるAlNと、従来のAlNとの差異をまとめた図である。
【
図10】(a)~(e)は、格子不整合度を算出する際に使用する原子間距離xについて示した図である。
【
図11】電極層と圧電層との格子不整合度の具体例について示した表である。
【
図12】積層体の製造方法を説明したフローチャートである。
【
図13】成膜したバッファ層、電極層および圧電層について示した図である。
【
図14】共振子を製造する方法について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
<共振子100の全体説明>
図1は、本実施の形態が適用される共振子100を説明する図である。
図示する共振子100は、支持体である基板110と、下側に形成される電極である下部電極層120と、圧電体からなる圧電層(圧電膜)130と、上側に形成される電極である上部電極層140とを備える。基板110、下部電極層120、圧電層130および上部電極層140の各層は、この順で、下方から上方に向け、積層されている。なお、下方、上方等の向きを表す文言は、これらの各層の積層の状態を便宜上説明するため、図中での向きを表すのに使用する用語である。よって、共振子100が実際に使用されるときに、各層がこの向きに配されるとは、限らない。
【0016】
基板110は、第2の基板の一例であり下部電極層120、圧電層130、上部電極層140を支持するための支持基板である。この支持基板は、圧電層130の薄膜を成長させるための基板とは別の基板である。また、本実施の形態では、基板110として、例えば、シリコン(Si)の単結晶基板を使用する。そして、基板110は、下部に空洞111を有する。
【0017】
下部電極層120は、基板110の上に形成される。下部電極層120で使用される材料は、特に限られるものではない。下部電極層120は、Ru(ルテニウム)、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Pt(白金)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)などにより形成することができる。
圧電層130は、下部電極層120の上に形成され、圧電体からなる。そして詳しくは後述するが、圧電体による圧電効果を利用して、必要な周波数の電波を選別して取り出す。
上部電極層140は、電極層の一例であり、圧電層130上に形成される。上部電極層140は、金属元素を含む単結晶からなる。上部電極層140は、下部電極層120と同じ金属により形成してもよく、異なる金属から形成してもよい。
【0018】
つまり、共振子100は、圧電層130が下部電極層120と上部電極層140とに挟まれる構造となる。下部電極層120、圧電層130、上部電極層140は、例えば、スパッタにより形成することができる。
【0019】
共振子100は、例えば、バンドパスフィルタ(Band-Pass Filter:BPF)に用いることができる。また、共振子100は、特に、BAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタに用いることが好ましい。なお、図示する共振子100は、FBAR型(Film Bulk Acoustic Resonator)のBAWフィルタである。FBAR型のBAWフィルタでは、共振器の下部に空洞(キャビティ)111を設ける。そしてこれにより、基板110に束縛されないで、圧電層130を自由に振動させる。さらに、圧電層130がスパッタなどにより薄く形成でき、また、弾性表面波を利用するSAW(Surface Acoustic Wave)型のフィルタのように、微細なパターンで電極を設ける必要がない。そのため高周波化が図りやすい特徴を有する。
【0020】
BAWは、3次元的な拡がりを持つ媒質中を伝搬する弾性波である。この場合、BAWは、圧電層130を媒質とし、圧電層130の厚み方向に縦振動し伝搬する。そして、弾性波により圧電層130を共振させる。この場合、入力される電波により圧電層130を共振させる。そして、圧電層130が、共振する周波数の範囲は、入力される電波の中で取り出したい周波数の範囲である。この周波数の範囲は、圧電層130の厚み、組成などを変化させることで、調整することができる。
そして、共振による振動が生じると、圧電層130により電気信号への変換が行われる。即ち、圧電層130の共振を利用することで、予め定められた周波数の範囲の電波を取り出し、電気信号に変換できる。
【0021】
共振子100を高周波のバンドパスフィルタとして用いた場合、Q値と広い帯域幅の両立が求められる。Q値は、選択度(Quality Factor)であり、選択できる周波数の鋭さを表す。Q値が大きい場合、隣接する周波数帯に対し、混線を防ぐための急峻性および低損失性に優れる。帯域幅は、選択できる周波数の幅であり、バンドパスフィルタを通過できる電波の最高周波数と最低周波数の差である。帯域幅が広いと、フィルタを利用する機器の周波数規格を満たすことがより容易になる。帯域幅は、圧電層130を構成する圧電体の電気機械結合係数k2に比例する。電気機械結合係数k2は、圧電効果の効率を表す量である。Q値や電気機械結合係数k2は、より大きいことが好ましい。
【0022】
そして、両者の積であるk2Qは、バンドパスフィルタの性能指数と考えることができる。このk2Qは、圧電層130を構成する圧電体の特性で決まる。従来、圧電体として、例えば、AlNやScAlNを使用することが試みられている。しかし、従来のAlNでは、帯域幅が不足する。また、従来のScAlNでは、帯域幅は増加するが、Q値が減少する。つまり、従来は、帯域幅とQ値との両立が困難であった。
【0023】
本実施の形態の圧電層130は、単結晶とする。圧電層130を単結晶とすることで、共振子100をバンドパスフィルタとして用いた場合、高いQ値が得られるとともに、広い帯域幅が得られることが期待できる。即ち、高いQ値と広い帯域幅の双方を両立できることが期待できる。
【0024】
<圧電層130を作成するための積層体>
次に、このような単結晶の圧電層130を作成するための積層体について説明する。
図2は、圧電層130を作成するために使用する積層体200について示した図である。
図示する積層体200は、基板210と、中間層であるバッファ層220と、電極となる電極層230と、圧電体からなる圧電層(圧電膜)240とを備える。
基板210は、バッファ層220、電極層230、圧電層240をスパッタ法により薄膜として成長させるための成長用基板である。そのため、基板210は、単結晶の基板とする。
バッファ層220は、基板210と電極層230との間に形成され、電極層230の結晶配向性を向上させるための中間層である。
電極層230は、
図1の共振子100中の上部電極層140に対応する。よって、電極層230は、金属元素を含む単結晶からなる。
圧電層240は、
図1の共振子100中の圧電層130に対応する。よって、圧電層240は、圧電体からなる。
本実施の形態で、バッファ層220および圧電層240は、AlNを主成分とする単結晶である。ここで、AlNを主成分とするとは、AlNをモル比で50%以上含むことを指す。バッファ層220および圧電層240は、AlNの単結晶に代えて、ScAlNの単結晶を主成分としてもよい。バッファ層220、電極層230および圧電層240について詳しくは、後述する。
【0025】
本実施の形態では、バッファ層220および圧電層240は、ScAlNおよびAlNの何れか一方の組成を主成分とする単結晶である。ScAlNは、AlNのAlが、Scに置換した組成であると考えることができる。よって、ScxAlyN(x+y=1)と表記することもできる。この場合、xは、0以上0.5以下であることが好ましく、yは、0.5以上1.0以下であることが好ましい。xが0.5を超えるとScAlNの結晶系が変わり、圧電性が小さくなるからである。また、結晶性を高くする観点から、xは、0.005以上0.35以下であることが好ましく、yは、0.65以上0.995以下であることがさらに好ましい。また、圧電層240の圧電性を高くする観点からは、xは、0.35以上0.5以下であることが好ましく、yは、0.5以上0.65以下であることが好ましい。実際には、圧電層240に要求される特性を満たす結晶性や、圧電層240に要求される圧電性の観点から、x、yを適宜定めることになる。なお本実施の形態では、ScAlNとして、主に、Sc0.2Al0.8Nの組成を有するものを使用する。
また、電極層230は、上述したように単結晶のRuが主成分である。バッファ層220、電極層230および圧電層240は、詳しくは後述するが、例えば、スパッタ法により形成することができる。この際に、バッファ層220、電極層230および圧電層240を上記材料の組み合わせとすることで、これら各層を単結晶にしやすくなる。
【0026】
図3(a)~(b)は、圧電層240、電極層230、バッファ層220、基板210の結晶性と、電気機械結合係数k
2との関係について示した図である。
ここでは、No.A1~A3、B1~B4で示す、電極層230/バッファ層220/基板210の結晶性として対するXRC(X-ray Rocking Curve:X線ロッキングカーブ法)の結果を示している。そして、それぞれの電気機械結合係数k
2を示している。
No.A1~A3では、圧電層240として、AlN(厚さ1μm)を使用した。また、電極層230として、Ruを使用し、バッファ層220として、AlNを使用した。そして、基板210として、サファイア(Sapphire)を用いた。また、No.B1~B4では、圧電層240として、Sc
0.2Al
0.8N(厚さ1μm)を使用した。また、電極層230として、Ruを使用し、バッファ層220として、Sc
0.2Al
0.8Nを使用した。そして、基板210として、サファイア(Sapphire)を用いた。
【0027】
XRCの結果は、No.A1~A3では、電極層230であるRuのミラー指数が、(0002)面、圧電層240であるAlNのミラー指数が、(0002)面および(11-20)面の3つについて、FWHM(Full Width at Half Maximum:半値幅)を示している。また、No.B1~B4では、電極層230であるRuのミラー指数が、(0002)面、圧電層240であるSc0.2Al0.8Nのミラー指数が、(0002)面および(11-20)面の3つについて、FWHMを示している。FWHMは、その値が小さいほど、結晶性がよいことを示す。なお、この場合、AlNの成長面は、(0001)面であり、(11-20)面は、表面に垂直な面である。
なお、ミラー指数や後述する晶帯軸の記載の方法として、通常は、負数である場合、オーバーバーを使用して負数であることを示すが、ここでは、記載の都合上、負数である場合は、「-」(マイナス)を用いる。
【0028】
No.A1~A3、B1~A4では、これらのFWHMが小さいほど、電気機械結合係数k2が大きくなることがわかる。この場合、AlNのミラー指数が(11-20)の格子面でのFWHMが、10°以下であることが必要である。また、FWHMが、7°以下であることがさらに好ましい。
【0029】
図4は、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8NのFWHMが小さい場合の面内X線回折の結果を示している。
面内X線回折は、In plaine XRDとも呼ばれ、Sc
0.2Al
0.8Nの結晶性を評価することができる。このSc
0.2Al
0.8Nの測定した面のミラー指数は、(11-20)である。つまり、Sc
0.2Al
0.8N層の表面に垂直な面である。図示するように、面内X線回折では、60°周期のピークが現れる。これにより、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8Nの表面は、6回対称の構造を有し、結晶性が良好な単結晶であることがわかる。なお、面内X線回折で、60°周期のピークが現れるのは、AlNの場合も同様である。
【0030】
図5(a)および
図6(a)は、本実施の形態が適用されるAlNのTEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)像を示した図である。この場合、上方が、結晶成長方向であり、AlNの結晶軸は、[0001]である。
また、
図5(b)、
図6(b)は、本実施の形態が適用されるAlNの電子回折パターンを示した図である。この電子回折パターンは、
図5(b)では、
図5(a)の円内に電子線ビームを照射することで取得した。この円として表される電子線ビームの直径は、約200nmである。また、
図6(b)では、
図6(a)の円内に電子線ビームを照射することで取得した。この円として表される電子線ビームの直径は、約500nmである。
図5(b)、
図6(b)に示すように、本実施の形態が適用されるAlNでは、ミラー指数として、(0002)面と、(1-100)面とが観測される。この場合の晶帯軸は、[11-20]の1つである。これは、電子回折パターンとして1つの晶帯軸が観察される、と言うこともできる。つまり、本実施の形態が適用されるAlNは、結晶性に優れた単結晶であることを示す。またこのAlNは、c軸方向とともにab面内回転が制御されており、3軸配向している、と言うこともできる。この場合、AlNは、ab面内で回転方向が揃い、c軸方向に伸びた状態の柱状のドメイン1種類からなる。そしてこのドメインが、並んだ構造となる。
なお、ミラー指数や晶帯軸の記載の方法として、図にあるように、通常は、負数である場合、オーバーバーを使用して負数であることを示すが、ここでは、記載の都合上、負数である場合は、「-」(マイナス)を用いる。
【0031】
図5(c)、
図6(c)は、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8NのTEM像を示した図である。この場合も、上方が、結晶成長方向であり、Sc
0.2Al
0.8Nの結晶軸は、[0001]である。
また、
図5(d)、
図6(d)は、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8Nの電子回折パターンを示した図である。この電子回折パターンは、
図5(d)では、
図5(c)の円内に電子線ビームを照射することで取得した。また、
図6(d)では、
図6(c)の円内に電子線ビームを照射することで取得した。電子線ビームの直径は、
図5(a)、
図6(a)の場合と同じである。
図5(d)、
図6(d)に示すように、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8Nでは、ミラー指数として、(0002)面と、(1-100)面とが観測される。この場合の晶帯軸は、[11-20]の1つである。即ち、この場合も、電子回折パターンとして1つの晶帯軸が観察される、と言うことができる。つまり、本実施の形態が適用されるSc
0.2Al
0.8Nは、結晶性に優れた単結晶であることを示す。またこのSc
0.2Al
0.8Nも、3軸配向している、と言うこともできる。この場合、Sc
0.2Al
0.8Nは、ab面内で回転方向が揃い、c軸方向に伸びた状態の柱状のドメイン1種類からなる。そしてこのドメインが、並んだ構造となる。
【0032】
図5(e)、
図6(e)は、多結晶のAlNのTEM像を示した図である。この場合も、上方が、結晶成長方向であり、AlNの結晶軸は、[0001]である。
また、
図5(f)、
図6(f)は、多結晶のAlNの電子回折パターンを示した図である。この電子回折パターンは、
図5(f)では、
図5(e)の円内に電子線ビームを照射することで取得した。また、
図6(f)では、
図6(e)の円内に電子線ビームを照射することで取得した。電子線ビームの直径は、
図5(a)、
図6(a)の場合と同じである。
図5(f)、
図6(f)に示すように、多結晶のAlNでは、ミラー指数として、(0002)面、(1-100)面の他に、(11-20)面が観測される。この場合の晶帯軸は、[11-20]、[1-100]の2つである。即ち、この場合は、電子回折パターンとして2つの晶帯軸が観察される、と言うことができる。これによりこのAlNは、多結晶であることがわかる。また、
図5(e)に[11-20]の箇所と、[1-100]の箇所とを図示している。つまり、このAlNは、c軸配向しているが、ab面内回転が制御されていない。この場合、AlNは、ab面内で互いに30°回転した状態であり、かつc軸方向に伸びた状態の柱状のドメイン2種類が混在する。そしてこのドメインが、並んだ構造となる。
【0033】
図7(a)~(c)は、
図5、6で示したAlN、Sc
0.2Al
0.8Nの結晶構造および結晶面について示した図である。
図示するように、AlN、Sc
0.2Al
0.8Nは、六方晶系であり、ウルツ鉱型の結晶構造をなす。このうち、
図7(a)は、六方晶系の(0001)面((0002)面、c面)を表す。また、
図7(b)は、六方晶系の(11-20)面(a面)を表す。さらに、
図7(c)は、六方晶系の(1-100)面(m面)を表す。このうち、(0001)面と(11-20)面により形成される晶帯軸が、[1-100]となる。即ち、
図5(b)、(d)、
図6(b)、(d)の場合に対応する。また、(0001)面と(1-100)面により形成される晶帯軸が、[11-20]となる。即ち、
図5(f)、
図6(f)の場合は、2つの晶帯軸が観察され、(11-20)面と(1-100)面が混在していることになる。
【0034】
図8(a)は、本実施の形態が適用されるAlNの高倍率TEM像である。また、
図8(b)は、
図8(a)の高倍率TEM像を説明した図である。
この場合、AlNは、電極層230であるRu上に、3つの柱状ドメインDm1~Dm3が存在する。これらの柱状ドメインDm1~Dm3間には、らせん転位が存在する。また、柱状ドメインDm2の中央部には、積層欠陥が存在している。
【0035】
図9(a)~(d)は、本実施の形態が適用されるAlNと、従来のAlNとの差異をまとめた図である。このうち
図9(a)は、本実施の形態が適用されるAlNについての特徴点をまとめた図である。また、
図9(b)は、従来のAlNについての特徴点をまとめた図である。なお、ここでは、AlNについて記載しているが、Sc
0.2Al
0.8Nでも同様である。また、ここでは、結晶方位と、ドメイン構造について特徴点を示している。
【0036】
まず、結晶方位については、
図9(a)に示すように、本実施の形態が適用されるAlNは、全面にわたり3軸配向しており、単結晶である。このときの晶帯軸は、[11-20]である。
【0037】
対して、
図9(b)に示すように、従来のAlNは、c軸配向しているが3軸配向していない。そして、従来のAlNは、多結晶である。このときの晶帯軸は、[11-20]および[1-100]である。
【0038】
ドメイン構造は、
図8で例示した柱状ドメインの構造である。ドメイン構造は、
図9(a)に示すように、本実施の形態が適用されるAlNは、らせん転位により隔てられた数十nm径の柱状構造が存在する。そして、柱状ドメイン内部で積層欠陥がある場合もある。
図9(c)は、この柱状ドメインの回転方向について示した図であり、
図8(a)のVIIIc方向から柱状ドメインを見た図である。柱状ドメインの回転方向は、
図9(c)で示すように、ab面内で回転方向が揃い、1種類しかない。
【0039】
対して、
図9(b)に示すように、従来のAlNは、20nm~80nm径の柱状構造が存在する。
図9(d)は、この柱状ドメインの回転方向について示した図である。柱状ドメインの回転方向は、
図9(d)で示すように、ab面内で隣り合う柱状ドメインを見たときに、これらは互いに30°回転方向がずれている。よってab面内で回転方向が制御されておらず、これらの柱状のドメインが混在する。
なお、柱状構造の径は、上述したTEM像から判断することができる。
【0040】
<電極層230>
なお、上述した例では、電極層230は、Ru(ルテニウム)を使用したが、これに限られるものではない。ただし、電極層230として使用できる金属としては、圧電層240が、電極層230上に結晶性に優れた状態で形成できることが求められる。圧電層240を構成するAlNやScAlNは、六方晶であるため、この金属が、六方晶であるときは、圧電層240を電極層230上に結晶性に優れた状態で形成できる。例えば、スパッタ法により電極層230上に圧電層240を形成する際には、六方晶の金属の(0001)面上に、同じく六方晶のAlN(0001)面、ScAlN(0001)面がエピタキシャル成長する。つまり、AlNやScAlNは、成長面が(0001)面である。またこれは、AlNやScAlNは、成長面がc面である、あるいはc軸方向に成長すると言うこともできる。
【0041】
一方、金属が立方晶であるときは、電極層230と圧電層240との格子定数の相違が問題になる。この場合、電極層230と圧電層240を構成するScAlNまたはAlNとの格子不整合度が-25%以上2%以下の範囲となることが必要である。この場合、立方晶である金属のfcc(111)面またはbcc(110)面の上に、六方晶のAlN(0001)面、ScAlN(0001)面が成長する。
【0042】
「格子不整合度」は、電極層230と圧電層240との原子間距離の差Δxと電極層230の原子間距離xとの比である、Δx/xとして表すことができる。格子不整合度があったとしても、この値が小さければ、電極層230上に圧電層240を形成できる。例えば、スパッタ法により電極層230上に圧電層240を形成する際に、電極層230上に圧電層240の薄膜をエピタキシャル成長させることができる。この場合、電極層230上に圧電層240を構成するAlNやScAlNの格子がゆがむことにより、これらの層の界面での格子の連続性を保ちつつ、圧電層240が、エピタキシャル成長する。
格子不整合度は、電極層230と圧電層240とが双方とも六方晶であるときは、双方の格子定数の単なる比でよい。一方、電極層230が立方晶であり、圧電層240が六方晶であるときは、3次元的に見方を変更する必要がある。
【0043】
図10(a)~(e)は、格子不整合度を算出する際に使用する原子間距離xについて示した図である。
このうち、
図10(a)は、立方晶のfcc(100)面を示し、
図10(b)は、立方晶のfcc(111)面を示す。
図10(a)の場合、xは、格子定数をa
fccとすると、x(=a
x
(100))は、a
x
(100)=a
fccとなり、格子定数a
fccが、そのまま使用できる。対して、
図10(b)の場合、格子定数をa
fccとすると、x(=a
x
(111))は、a
x
(111)=(√2/2)a
fccとなり、格子定数a
fccをそのまま使用することができない。よって、立方晶である金属のfcc(111)面の上に、六方晶のAlN(0001)面、ScAlN(0001)面を成長させるときは、格子定数a
fccはそのまま使用できず、原子間距離xとして、(√2/2)a
fccを使用する。
【0044】
また、
図10(c)は、立方晶のbcc(100)面を示し、
図10(d)は、立方晶のbcc(110)面を示す。
図10(c)の場合、格子定数をa
bccとすると、x(=a
x
(100))は、a
x
(100)=a
bccとなり、格子定数a
bccが、そのまま使用できる。また、
図10(d)の場合、xは、格子定数をa
bccとすると、x(=a
x
(110))は、a
x
(110)=a
bccとなり、この場合も格子定数a
bccをそのまま使用することができる。
さらに、
図10(e)は、六方晶の(0001)面を示している。
図10(e)の場合、格子定数をa
hcpとすると、x(=a
x
(0001))は、a
x
(0001)=a
hcpとなり、格子定数a
hcpが、そのまま使用できる。よって、立方晶である金属のbcc(110)面の上に、六方晶のAlN(0001)面、ScAlN(0001)面を成長させるときは、格子定数a
fccを、原子間距離xとしてそのまま使用できる。
【0045】
ただし、実際の結晶系では、
図10(a)~(e)で示す原子間距離yも存在する。例えば、
図10(d)の立方晶のbcc(110)面の場合、y=√2xである。また、例えば、
図10(e)の六方晶の(0001)面の場合、y=√3xである。よって、実際にエピタキシャル成長をするときは、xの値が整合しても、yの値は整合せず、歪んでいることになる。
つまり、原子間距離xとは、電極層230と圧電層240とが接合するそれぞれの面内における、最も近い原子同士の距離を指す。
【0046】
図11は、電極層230と圧電層240との格子不整合度の具体例について示した表である。
図11では、電極層230を構成する材料の種類(「金属」として図示)、結晶構造、エピタキシャル成長面(「Epitaxial planeとして図示」)、格子定数、原子間距離x、格子不整合度を示している。このうち、結晶構造は、fccやbccが立方晶、hexagonalが、六方晶を示す。また、格子不整合度は、AlNを基準とする場合、Sc
0.2Al
0.8Nを基準とする場合、Sc
0.5Al
0.5Nを基準とする場合の3通りについて示している。さらに、金属の他、AlN、Sc
0.2Al
0.8N、Sc
0.5Al
0.5N、ZrNについて併せて図示している。また、電極層230を構成する材料は、圧電層240の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が、2.5°以下になるものを選択することが好ましい。即ち、X線ロッキングカーブの半値幅が、2.5°以下であれば、結晶性は良好であるが、2.5°を超えると結晶性が良好とは言えない。
これらの観点から、電極層230を構成する材料は、AlNまたはScAlNを、Sc
xAl
yN(x+y=1)の組成で表したときに0≦x≦0.3のときは、Co、Cu、Ru、Pt、Al、Au、Ag、Mo、W、ZrN、Tiの中から選ばれる少なくとも1つからなることが好ましい。また、この材料は、AlNまたはScAlNを、Sc
xAl
yN(x+y=1)の組成で表したときに0.3<x≦0.5のときは、Co、Ru、Al、Au、Ag、Mo、W、ZrN、Tiの中から選ばれる少なくとも1つからなることが好ましい。また、これら単体だけでなく、合金でもよい。
【0047】
<基板210>
上述した例では、基板210は、サファイアを使用したが、これに限られるものではない。ただし、基板は、サファイア、Si、石英、SrTiO3、LiTaO3、LiNbO3およびSiCの中から選ばれる何れかの組成を有するものを使用することが好ましい。これらの基板210であれば、基板210上に、AlNまたはScAlNからなるバッファ層220をエピタキシャル成長することがより容易になる。
【0048】
<積層体200の製造方法の説明>
次に、積層体200を製造する方法の説明を行う。
【0049】
図12は、積層体200の製造方法を説明したフローチャートである。
また、
図13は、このとき基板210上に成膜したバッファ層220、電極層230および圧電層240について示した図である。
まず、サファイアの単結晶基板であり、c面が表面である基板210をスパッタ装置に入れて加熱し、水分を除去する(ステップ101)。基板210は、1000Wの出力で30sの加熱を2回行った。このとき、基板210は、約400℃~500℃に達する。
【0050】
次に、基板210上にバッファ層220として、Sc0.2Al0.8Nの薄膜を成膜する(ステップ102)。このとき、本実施の形態では、Hi-pulse(ハイパルス)スパッタ法を使用してバッファ層220の成膜を行う。Hi-pulseスパッタ法は、基板210とターゲットとの間にパルスにて電圧を印加する。そして、スパッタ装置内に導入されたスパッタガスをプラズマ化して、ターゲットに衝突させ、ターゲットから遊離した成分を基板210上に成膜する。この場合、ターゲットは、Scを20%含有したAlであり、スパッタガスとして、Ar(アルゴン)とN2(窒素)を1:1の比率で混合したガスを使用する。また、スパッタガスの圧力を0.73Paとする。そして、基板210とターゲットとの間の電圧を929Vとして、電流を2.5Aとする。また、パルス条件は、1000Hz、パルス幅を20μsとする。即ち、このときのデューティ比は、2%になる。遊離したターゲットの成分は、プラズマ化した窒素と反応し、Sc0.2Al0.8Nとなる。バッファ層220は、厚さが、10nm以上100nm以下であることが好ましい。バッファ層220の厚さが10nm未満であると、島状成長し、表面をうまく覆うことが出来ない。また、バッファ層220の厚さが100nmを超えると転移や欠陥が生じやすい。
なお、ターゲットとして、Scを20%含有したAlを使用したため、Sc0.2Al0.8Nが成膜したが、ターゲット中のScとAlの比率を変更することで、成膜するScAlN中のScとAlとの比率を変更することができる。
【0051】
そして、バッファ層220を成膜した基板210を再加熱する(ステップ103)。このとき、例えば、1000Wの出力で30sの加熱を1回行う。このとき、基板210は、約400℃~500℃に達する。これにより、次の電極層230を形成する際に、電極層230の結晶性が向上する。
【0052】
次に、バッファ層220上に電極層230として、Ruの薄膜を成膜する(ステップ104)。このとき、本実施の形態では、Hi-pulseスパッタ法ではなく、通常のDC(直流)スパッタ法を使用する。このとき、Ruからなるターゲットを使用して、スパッタガスとして、Arを使用する。また、スパッタガスは、例えば、圧力を0.5Paとし、1000Wの出力でスパッタを行う。電極層230は、厚さが、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。電極層230の厚さが10nm未満であると、電極として上手く機能しない可能性がある。また、電極層230の厚さが1000nmを超えると圧電層と同等の厚みに達し、圧電性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0053】
さらに、電極層230上に圧電層240として、Sc0.2Al0.8Nの薄膜を成膜する(ステップ105)。このとき、本実施の形態では、Hi-pulseスパッタ法を使用し、AlとScを含むターゲットを用いて圧電層240の成膜を行う。スパッタの条件は、ステップ102の場合と同様であるが、成膜時間は、数時間要する。このとき、基板210は、約200℃~350℃で収束する。この圧電層240は、電極層230上の前面に形成される。圧電層240は、厚さが、10nm以上5000nm以下であることが好ましい。
【0054】
なお、上述した場合では、バッファ層220および圧電層240を双方ともSc0.2Al0.8Nとしたが、双方ともAlNとしてもよい。つまり、バッファ層220および圧電層240は、双方ともScAlNまたはAlNであることが好ましい。即ち、バッファ層220および圧電層240を双方とも同じ組成とする。この場合、ターゲットの交換が不要となる。ただし、バッファ層220および圧電層240の一方をScAlNとし、他方をAlNとしてもよい。ただし、この場合、ターゲットの交換が必要となる。
【0055】
<共振子100の製造方法の説明>
次に、積層体200を使用した共振子100の製造方法について説明する。
図14(a)~(f)は、共振子100の製造方法について示した図である。
まず、
図12で説明した方法で積層体200を形成する(積層体形成工程)。
次に、
図14(a)に示すように、積層体200上に第1の金属層を形成する。第1の金属層は、スパッタにより形成することができる。第1の金属層は、下部電極層120(
図1参照)の一部となるものである。なお、
図14(a)では、この第1の金属層を下部電極層120の一部を意味する下部電極層120aとして図示している。よって、この工程は、積層体200上に、金属を含む第1の金属層(下部電極層120a)を形成する第1の金属層形成工程として捉えることができる。
【0056】
次に、
図14(b)に示すように、基板110上に第2の金属層を形成する。第2の金属層は、第1の金属層と同様に、スパッタにより形成することができる。第2の金属層は、下部電極層120(
図1参照)の一部となるものである。なお、
図14(b)では、この第2の金属層を下部電極層120の一部を意味する下部電極層120bとして図示している。よって、この工程は、基板210(
図14では、「Sapphire基板」として図示)とは別の第2の基板(基板110)上に第2の金属層を形成する第2の金属層形成工程として捉えることができる。なお、基板110は、
図1で説明したように、第2の基板の一例であり、シリコン(Si)の単結晶基板である(
図14では、「Si基板」として図示)。
下部電極層120a、120bは、Ru(ルテニウム)、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Pt(白金)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)などを使用することができる。
【0057】
そして、
図14(c)に示すように、第1の金属層(下部電極層120a)を形成した積層体200の上面と、第2の金属層(下部電極層120b)が形成された基板110の上面とを貼り付ける。よって、この工程は、第2の基板(基板110)の第2の金属層(下部電極層120b)に、積層体200上に形成された第1の金属層(下部電極層120a)を貼り付ける貼付工程として捉えることができる。これらを貼り付けるには、例えば、接合機を用い、熱や圧力を印加して接合させる。
その結果、
図14(c)に示すように、基板110、下部電極層120b、下部電極層120a、圧電層240(圧電層130)、電極層230(上部電極層140)、バッファ層220、基板210が積層した接合体が形成される。なお、下部電極層120aおよび下部電極層120bは、下部電極層120として捉えることができる。
【0058】
次に、積層体200から基板210およびバッファ層220を剥離する(剥離工程)。これは、例えば、レーザリフトオフ装置を使用し、パルス発振の高密度UV(ultraviolet)レーザ光を用いて行うことができる。
このとき、
図14(f)に示すように、基板210およびバッファ層220をともに剥離することができる場合がある。
一方、
図14(d)に示すように、バッファ層220の少なくとも一部が、剥離できずに残る場合がある。
図14(d)の場合、
図14(e)に示すCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械研磨)により、バッファ層220を除去する。その結果、
図14(f)に示す状態になる。この場合、基板210を剥離した後にバッファ層220を剥離する、と言うことができる。
また、
図14(f)の状態は、積層体200から、圧電層240および電極層230を、剥離した剥離積層体である、ということができる。
そしてこれらの工程の結果、
図14(f)に示すように、基板110、下部電極層120、圧電層130、上部電極層140が積層した共振子100を製造することができる。
【0059】
以上詳述した形態によれば、結晶性が良好なバッファ層220、電極層230を得ることができる。そして、その上に積層する圧電層240も結晶性を良好にすることができる。これは、単結晶をからなるバッファ層220、電極層230、圧電層240を得ることができる、と言うこともできる。
圧電層240の結晶性を良好にすることで、高いQ値を有するとともに、広い帯域を有するフィルタを実現することができる共振子や高周波フィルタを製造することが期待できる。つまり、従来は、高いQ値と広い帯域幅とはトレードオフの関係にあったが、本実施の形態のフィルタは、これらを両立することが期待できる。
また、圧電層240の結晶性を良好にすることで、粒界が少なくなり、低損失となる。その結果、高いQ値を実現しやすい。また、本実施の形態の積層体は、基板210からエピタキシャル成長を行うことで、低損失となりやすく、やはり高いQ値を実現しやすい。また、本実施の形態の積層体は、高熱伝導であり、耐電圧性に優れる。そのため、排熱性が良好であり、出力が10W以上の基地局向けのフィルタとして使用できる。さらに長寿命が期待できる。
【0060】
なお、上述した例では、共振子100をFBAR型のBAWフィルタに適用する例について説明したが、これに限られるものではない。例えば、SMR(Solidly Mounted Resonator)型のBAWフィルタに適用してもよい。SMR型のBAWフィルタは、共振子の下部に音響多層膜(ミラー層)を設け、これにより、弾性波を反射させる構成を採る。つまり、この場合、基板110には、空洞111を設けず、基板110と下部電極層120との間に音響多層膜(ミラー層)を成膜する。
【符号の説明】
【0061】
100…共振子、110、210…基板、120…下部電極層、130、240…圧電層、140…上部電極層、220…バッファ層、230…電極層
【手続補正書】
【提出日】2022-03-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
No.A1~A3、B1~A4では、これらのFWHMが小さいほど、電気機械結合係数k2が大きくなることがわかる。この場合、AlN又はScAlNのミラー指数が(11-20)の格子面でのFWHMが、10°以下であることが必要である。また、FWHMが、7°以下であることがさらに好ましい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
図7(a)~(c)は、
図5、6で示したAlN、Sc
0.2Al
0.8Nの結晶構造および結晶面について示した図である。
図示するように、AlN、Sc
0.2Al
0.8Nは、六方晶系であり、ウルツ鉱型の結晶構造をなす。このうち、
図7(a)は、六方晶系の(0001)面((0002)面、c面)を表す。また、
図7(b)は、六方晶系の(11-20)面(a面)を表す。さらに、
図7(c)は、六方晶系の(1-100)面(m面)を表す。このうち、(0001)面と
(1-100)面により形成される晶帯軸が、
[11-20]となる。即ち、
図5(b)、(d)、
図6(b)、(d)の場合に対応する。また、(0001)面と
(11-20)面により形成される晶帯軸が、
[1-100]となる。即ち、
図5(f)、
図6(f)の場合は、2つの晶帯軸が観察され、(11-20)面と(1-100)面が混在していることになる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
「格子不整合度」は、電極層230の原子間距離と圧電層240の原子間距離との差Δxと電極層230の原子間距離xとの比である、Δx/xとして表すことができる。格子不整合度が存在しても、この値が小さければ、電極層230上に圧電層240を形成できる。例えば、スパッタ法により電極層230上に圧電層240を形成する際に、電極層230上に圧電層240の薄膜をエピタキシャル成長させることができる。この場合、電極層230上に圧電層240を構成するAlNやScAlNの格子がゆがむことにより、これらの層の界面での格子の連続性を保ちつつ、圧電層240が、エピタキシャル成長する。
格子不整合度は、電極層230と圧電層240とが双方とも六方晶であるときは、双方の格子定数の単なる比でよい。一方、電極層230が立方晶であり、圧電層240が六方晶であるときは、3次元的に見方を変更する必要がある。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
図10(a)~(e)は、格子不整合度を算出する際に使用する原子間距離xについて示した図である。
このうち、
図10(a)は、立方晶のfcc(100)面
(面心立方格子の(100)面)を示し、
図10(b)は、立方晶のfcc(111)面を示す。
図10(a)の場合、xは、格子定数をa
fccとすると、x(=a
x
(100))は、a
x
(100)=a
fccとなり、格子定数a
fccが、そのまま使用できる。対して、
図10(b)の場合、格子定数をa
fccとすると、x(=a
x
(111))は、a
x
(111)=(√2/2)a
fccとなり、格子定数a
fccをそのまま使用することができない。よって、立方晶である金属のfcc(111)面の上に、六方晶のAlN(0001)面、ScAlN(0001)面を成長させるときは、格子定数a
fccはそのまま使用できず、原子間距離xとして、(√2/2)a
fccを使用する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
また、
図10(c)は、立方晶のbcc(100)面
(体心立方格子の(100)面)を示し、
図10(d)は、立方晶のbcc(110)面を示す。
図10(c)の場合、格子定数をa
bccとすると、x(=a
x
(100))は、a
x
(100)=a
bccとなり、格子定数a
bccが、そのまま使用できる。また、
図10(d)の場合、xは、格子定数をa
bccとすると、x(=a
x
(110))は、a
x
(110)=a
bccとなり、この場合も格子定数a
bccをそのまま使用することができる。
よって、立方晶である金属のbcc(110)面の上に、六方晶のAlN(0001)面、ScAlN(0001)面を成長させるときは、格子定数a
bcc
を、原子間距離xとしてそのまま使用できる。
さらに、
図10(e)は、六方晶の(0001)面を示している。
図10(e)の場合、格子定数をa
hcpとすると、x(=a
x
(0001))は、a
x
(0001)=a
hcpとなり、格子定数a
hcpが、そのまま使用できる。よって、
六方晶である金属の
(0001)面の上に、六方晶のAlN(0001)面、ScAlN(0001)面を成長させるときは、格子定数
a
hcp
を、原子間距離xとしてそのまま使用できる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
図12は、積層体200の製造方法を説明したフローチャートである。
また、
図13は、このとき基板210上に成膜したバッファ層220、電極層230および圧電層240について示した図である。
まず、サファイアの単結晶基板であり、c面が表面である基板210をスパッタ装置に入れて加熱し、水分を除去する(ステップ101)。基板210は、1000Wの出力で30sの加熱を2回行った。このとき、基板210
の温度は、約400℃~500℃に達する。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
そして、バッファ層220を成膜した基板210を再加熱する(ステップ103)。このとき、例えば、1000Wの出力で30sの加熱を1回行う。このとき、基板210の温度は、約400℃~500℃に達する。これにより、次の電極層230を形成する際に、電極層230の結晶性が向上する。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
さらに、電極層230上に圧電層240として、Sc0.2Al0.8Nの薄膜を成膜する(ステップ105)。このとき、本実施の形態では、Hi-pulseスパッタ法を使用し、AlとScを含むターゲットを用いて圧電層240の成膜を行う。スパッタの条件は、ステップ102の場合と同様であるが、成膜時間は、数時間要する。このとき、基板210の温度は、約200℃~350℃で収束する。この圧電層240は、電極層230上の全面に形成される。圧電層240は、厚さが、10nm以上5000nm以下であることが好ましい。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0059】
以上詳述した形態によれば、結晶性が良好なバッファ層220、電極層230を得ることができる。そして、その上に積層する圧電層240も結晶性を良好にすることができる。これは、単結晶からなるバッファ層220、電極層230、圧電層240を得ることができる、と言うこともできる。
圧電層240の結晶性を良好にすることで、高いQ値を有するとともに、広い帯域を有するフィルタを実現することができる共振子や高周波フィルタを製造することが期待できる。つまり、従来は、高いQ値と広い帯域幅とはトレードオフの関係にあったが、本実施の形態のフィルタは、これらを両立することが期待できる。
また、圧電層240の結晶性を良好にすることで、粒界が少なくなり、低損失となる。その結果、高いQ値を実現しやすい。また、本実施の形態の積層体は、基板210からエピタキシャル成長を行うことで、低損失となりやすく、やはり高いQ値を実現しやすい。また、本実施の形態の積層体は、高熱伝導であり、耐電圧性に優れる。そのため、排熱性が良好であり、出力が10W以上の基地局向けのフィルタとして使用できる。さらに長寿命が期待できる。