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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029048
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】精子回収装置、および方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20230224BHJP
   C12N 11/00 20060101ALI20230224BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20230224BHJP
【FI】
C12M1/26
C12N11/00
C12N5/076
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135119
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 伸子
(72)【発明者】
【氏名】孫 明ゆえ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC08
4B029HA05
4B033NA22
4B033NB12
4B033NC01
4B033ND03
4B033NE02
4B033NG05
4B033NH06
4B065AA90X
4B065BD14
4B065BD44
4B065BD45
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】精液を液化する工程で、精子に悪影響が及ぶ可能性がある。
【解決手段】精子回収装置(1)は、精液が投入される投入チャンバ(10)と、投入された精液から精子を回収する回収チャンバ(20)とを備え、投入チャンバ(10)と回収チャンバ(20)とは連絡路(30)で連通しており、投入チャンバ(10)は、投入される精液に、精液を液化する能力を有する酵素を含ませる酵素含入要素を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精液が投入される投入チャンバと、投入された精液から精子を回収する回収チャンバとを備え、
前記投入チャンバと前記回収チャンバとは連絡路で連通しており、
前記投入チャンバは、該投入チャンバに投入される前記精液に、前記精液を液化する能力を有する酵素を含ませる酵素含入要素を有する、精子回収装置。
【請求項2】
前記投入チャンバは、側壁と底部とを備え
前記酵素含入要素は、前記側壁の内面および前記底部の内面の少なくとも何れかに塗布された、前記酵素を含む塗布層である、請求項1に記載の精子回収装置。
【請求項3】
前記塗布層は、取外し可能な保護膜で覆われている、請求項2に記載の精子回収装置。
【請求項4】
前記酵素含入要素は、前記酵素を表面にコーティングされた複数のビーズであって、前記ビーズは、前記精液の注入の前に前記投入チャンバ内に置かれている、請求項1~3のいずれか1項に記載の精子回収装置。
【請求項5】
前記酵素は、前記投入チャンバの内面、または前記複数のビーズの表面に化学結合により固定されている、請求項4に記載の精子回収装置。
【請求項6】
前記化学結合は、共有結合、イオン結合、水素結合のいずれか、またはこれらのうちの複数である、請求項5に記載の精子回収装置。
【請求項7】
前記投入チャンバと前記回収チャンバと前記連絡路とを備える前記精子回収装置の本体と、前記ビーズを含む前記酵素含入要素とは、使用前まで別々に保管可能である、請求項4~6のいずれか1項に記載の精子回収装置。
【請求項8】
前記複数のビーズの直径は、所定の範囲に含まれ、
前記投入チャンバと接続している前記連絡路の内寸の最小値は、前記所定の範囲に含まれる直径の最小の値よりも小さい、請求項4~7のいずれか1項に記載の精子回収装置。
【請求項9】
前記酵素含入要素は、前記酵素を含み、前記精液に溶解する固体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の精子回収装置。
【請求項10】
前記酵素は、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、エラスターゼ、ペプシン、前立腺特異抗原、アミラーゼ、スクラーゼ、マルターゼ、ラクターゼ、リパーゼから選ばれる1種または複数の酵素の組合せである、請求項1~9のいずれか1項に記載の精子回収装置。
【請求項11】
前記投入チャンバに投入されるチャンバ液をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の精子回収装置。
【請求項12】
精液を投入チャンバに投入する工程と、
前記精液に前記精液を液化する能力を有する酵素を含ませる工程と、
液化した前記精液から精子を回収するための回収チャンバであって、前記投入チャンバと連絡路で連通している回収チャンバから精子を回収する工程と、を含む方法。
【請求項13】
前記精液を投入チャンバに投入する工程の前に、
前記精液を液化する工程を含まないことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記投入チャンバにチャンバ液を投入する工程の後に、
前記精液を投入チャンバに投入する工程を行うことを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、精液から精子を回収する精子回収装置、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に精子を選別するシステムが開示されている。精液はゲル状(高粘度)のため、精液から精子を分離するためには、精液の液化(低粘度化)が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016-538858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
精液を液化する工程で、精子に悪影響が及ぶ可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る精子回収装置は、精液が投入される投入チャンバと、投入された精液から精子を回収する回収チャンバとを備え、前記投入チャンバと前記回収チャンバとは連絡路で連通しており、前記投入チャンバは、該投入チャンバに投入される前記精液に、前記精液を液化する能力を有する酵素を含ませる酵素含入要素を有する。
【0006】
また、本開示の一態様に係る精子回収方法は、精液を投入チャンバに投入する工程と、前記精液に前記精液を液化する能力を有する酵素を含ませる工程と、液化した前記精液から精子を回収するための回収チャンバであって、前記投入チャンバと連絡路で連通している回収チャンバから精子を回収する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、精液が注入された後、自然に液化する場合と比較して、液化するまでの時間を短縮することができる。よって、液化するまでの間に、精子に悪影響が及ぶおそれを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態1に係る精子回収装置の一例を示す斜視図である。
図2図1のI-Iで切った断面を示す断面図である。
図3図1のI-Iで切った断面の変形例を示す断面図である。
図4図1のI-Iで切った断面の変形例を示す断面図である。
図5】精子回収装置の断面図から投入チャンバの部分のみを抜き出した図である。
図6】投入チャンバの内面に塗布された塗布層を覆う保護膜の例を示す図である。
図7】酵素含入要素として、酵素が表面にコーティングされた複数のビーズが投入チャンバに置かれている構成を示す図である。
図8】ビーズの外観を示す図である。
図9図8のVIII-VIIIで切った断面を示す断面図である。
図10】本開示の実施形態2に係る精子回収装置の一例を示す斜視図である。
図11図10のX-Xで切った断面を示す断面図である。
図12図10のX-Xで切った断面の変形例を示す断面図である。
図13図10のX-Xで切った断面の変形例を示す断面図である。
図14】精子回収装置および載置装置を含むシステムを示す図である。
図15】精子回収装置の断面図から回収チャンバの部分のみを抜き出した図である。
図16】チャンバ液を投入する工程を示す図である。
図17】精液を投入する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本開示に係る精子回収装置1の一例を示す斜視図である。図1に示す例では、精子回収装置1は、略直方体の形状であり、上面に投入口16を有する投入チャンバ10、および上面に回収口26を有する回収チャンバ20を備える。ここで、本実施形態では、投入チャンバ10の投入口16および回収チャンバ20の回収口26が設けられている方向を上方向とする。
【0010】
投入チャンバ10と回収チャンバ20とは、精子回収装置1内に設けられた連絡路30により連通している。本実施形態では連絡路30が1つのものを図示しているが、これに限らない。連絡路30は複数あっても良い。また、投入チャンバ10と回収チャンバ20の間で、連絡路30が複数に分岐したり、複数の連絡路30が合流したりしても良い。
【0011】
精子回収装置1は、端的に言えば、投入チャンバ10に投入された精液に含まれる精子のうち、回収チャンバ20に移動した精子を回収チャンバ20で回収するものである。連絡路30の内寸の最小値は、精子の移動を阻害しない大きさであり、例えば5μm以上であっても良い。
【0012】
図2に、精子回収装置1を図1のI-Iで切った断面の例を示す。図2に示すように、投入チャンバ10と回収チャンバ20とは、それぞれのチャンバの下部近傍で連絡路30により連通している。これにより、投入チャンバ10に投入された精液に含まれる精子の少なくとも一部が、回収チャンバ20に移動し、回収チャンバ20で回収することが可能となる。
【0013】
また、投入チャンバ10には、精液が投入される前にチャンバ液が投入されていてもよい。投入チャンバ10にチャンバ液が投入され、投入チャンバ10、回収チャンバ20、および連絡路30にチャンバ液が含まれることにより、その後に投入チャンバ10に投入された精液に含まれる精子が回収チャンバ20に移動し易くなる。チャンバ液の例としては、培養液、緩衝液等が挙げられる。
【0014】
図3に示すように、連絡路30には複数の微細孔を有するフィルタ31が設けられていてもよい。フィルタ31を設けることにより、フィルタ31を通過できた精子のみを回収することになるので、運動能の高い精子を回収することができる。フィルタ31の微細孔の開口径は、例えば1μm以上であって良く、また5μm以上であっても良い。
【0015】
また、図4に示すように、連絡路30は回収チャンバ20に向かって登りとなる構成であってもよい。すなわち、連絡路30の回収チャンバ20との接続口27の高さが、投入チャンバ10との接続口17の高さよりも高い構成であってもよい。精子には遡上能があるため、回収チャンバ20の接続口27を投入チャンバ10の接続口17よりも高くすることにより、運動能の高い精子が回収チャンバ20に移動することになる。これにより、運動能の高い精子を回収することができる。
【0016】
〔投入チャンバ10の詳細〕
次に、図5図8を参照して、投入チャンバ10の詳細について説明する。投入チャンバ10は、投入チャンバ10に投入される精液に、当該精液を液化する能力を有する酵素を含ませる酵素含入要素を有するものである。酵素含入要素の詳細については、後述する。
【0017】
まず、図5を参照して投入チャンバ10の有する酵素含入要素の一例について説明する。図5は、精子回収装置1の断面図から投入チャンバ10の部分のみを抜き出した図である。図5に示すように、投入チャンバ10の側壁11の内面および底部12の内面には、酵素含入要素として、酵素を含む塗布層13が塗布されている。ここで、酵素は、タンパク質のペプチド結合を加水分解するもの、すなわち精液を液化する能力を有するものであ。例えば、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、エラスターゼ、ペプシン、前立腺特異抗原、アミラーゼ、スクラーゼ、マルターゼ、ラクターゼ、リパーゼから選ばれる1種または複数の酵素の組合せである。
【0018】
塗布層13は、側壁11の内面および底部12の内面の両方に塗布されている必要はなく、何れか一方であってもよい。
【0019】
投入チャンバ10の側壁11の内面および底部12の内面の少なくとも何れかに酵素が塗布されていることにより、投入チャンバ10に精液が投入されるだけで、精液に酵素を含ませることができる。これにより、精液の液化の進行を促進することができる。
【0020】
また、図6に示すように、投入チャンバ10の側壁11の内面、および底部12の内面に塗布された塗布層13を、取外し可能な保護膜14が覆う構成であってもよい。酵素が塗布されている領域である塗布層13を、取り外し可能な保護膜14で覆うことにより、使用直前まで塗布層13を保護することができる。よって、使用前に酵素が劣化してしまうおそれを低減できる。
【0021】
塗布層13は、塗布層13に含まれる酵素が側壁11の内面、および底部12の内面と化学結合により固定されるものであってもよい。化学結合は、共有結合、イオン結合、水素結合のいずれかであるか、またはこれらのうちの複数であってよい。酵素を側壁11の内面、および底部12の内面に固定することで、酵素が投入チャンバ10内に流れ出て回収チャンバ20等に流出してしまうことを抑えることができる。
【0022】
また、図7に示すように、酵素含入要素として、酵素が表面にコーティングされた複数のビーズ40が投入チャンバ10内に置かれている構成であってもよい。ビーズ40の構成について、図8および図9を参照して説明する。図8はビーズ40の外観を示す図である。図9は、図8のVIII-VIIIで切った断面を示す図である。本実施形態では、図8に示すように、ビーズ40は、球形であるが、必ずしも球形ではなく、不定形であっても良い。そして、図9に示すように、ビーズ40は本体41と本体41の表面にコーティングされたコーティング層42とを含む。コーティング層42には酵素が含まれる。
【0023】
ビーズ40の表面に酵素を含むコーティング層42がコーティングされていることにより、投入チャンバ10に投入される精液と接触するコーティング層42の面を広くすることができ、精液の液化反応を促進することができる。
【0024】
また、複数のビーズ40の直径は所定の範囲に含まれている。そして、図7の701に示すように、ビーズ40の最小の直径BDは、連絡路30の内径の最小値よりも大きい。これにより、ビーズ40が連絡路30を通過して回収チャンバ20に流入しないようにすることができる。
【0025】
ビーズ40の直径は、例えば45μm~700μmであるが、これに限らない。また、図7では、ビーズ40が投入チャンバ10に1層のみ置かれているが、これに限らず、さらに多くのビーズ40が投入チャンバ10に充填されていても良い。
【0026】
また、ビーズ40は、使用されるまで、精子回収装置1とは別で保管することができるものであってよい。ビーズ40を別で保管可能とすることで、精子回収装置1を常温で保管し、ビーズ40のみを冷蔵で保存することができる。
【0027】
コーティング層42は、コーティング層42に含まれる酵素が本体41と化学結合により固定されることにより、本体41にコーティングされているものであってもよい。化学結合は、共有結合、イオン結合、水素結合のいずれかであるか、またはこれらが組み合わされたものであってよい。酵素をビーズ40の本体41に固定することで、酵素が流れ出て回収チャンバ20等に流出してしまうことを抑えることができる。
【0028】
また、酵素含入要素として、酵素を含み、精液に溶解する固体を用いてもよい。当該固体を投入チャンバ10に配置し、投入チャンバ10に精液を投入することにより、精液の液化を促進することができる。
【0029】
以上のように、本開示に係る精子回収装置1は、精液が投入される投入チャンバ10と、投入された精液から精子を回収する回収チャンバ20を備え、投入チャンバ10と回収チャンバ20とは連絡路30で連通しており、投入チャンバ10は、自チャンバに投入される精液に、当該精液を液化する能力を有する酵素を含ませる酵素含入要素を有するものである。
【0030】
これにより、チャンバ液に精液を液化する能力を有する酵素を含ませることができるので、精液が注入された後、自然に液化する場合と比較して、液化するまでの時間を短縮することができる。液化するための工程は、精液が体外環境にさらされることになるので、何らかの悪影響が及ぶ可能性があるところ、上記の構成によれば、液化するための工程の時間を短縮できるので、液化するまでの間に、精子に悪影響が及ぶおそれを低減できる。
【0031】
本開示に係る精子回収装置1は、プラスチック、金属、ガラス、セラミック等のいずれで構成されても良い。ポリスチレン系、ポリメチルペンテン系、ポリメチルメタクリレート系、ポリカーボネート系などの透明なプラスチックならば、視認性が高くなる。
【0032】
〔精子を回収する処理〕
図16および図17を参照して、精子回収装置1を用いて精子の回収処理を行う流れを説明する。図16および図17は、精子回収装置1を用いて行う精子の回収処理を説明するための図であり、図16は、チャンバ液を投入する工程を示す図であり、図17は、精液を投入する工程を示す図である。
【0033】
図16に示すように、まず、投入チャンバ10にチャンバ液80を投入する。チャンバ液80は連絡路30がチャンバ液80で満たされる程度であればよく、必ずしも投入チャンバ10全体が満たされる程度の量を投入する必要はない。
【0034】
次に、図17に示すように、チャンバ液80が投入された投入チャンバ10に精液90を投入する。投入チャンバ10には、上述した酵素含入要素が含まれており、投入チャンバ10に投入された精液90は酵素含入要素により酵素によって液化が進行する。
【0035】
そして、液化した精液90に含まれる精子が連絡路30を通過して回収チャンバ20に到達し、回収チャンバ20で回収される。
【0036】
このように、本実施形態では、精液90が投入チャンバ10に投入される前に、精液90が液化されることはない。また、投入チャンバ10にチャンバ液80を投入する工程の後に、精液90が投入チャンバ10に投入される。
【0037】
〔実施形態2〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0038】
本実施形態に係る精子回収装置1’は、上述した精子回収装置1に加え、投入チャンバ10に投入された精液90から精子を回収チャンバ20に誘導するための誘導要素を備える。
【0039】
以下、図10図15を参照して、投入チャンバ10に投入された精液90から精子を回収チャンバ20に誘導する誘導要素について説明する。
【0040】
図10は、精子回収装置1’に、誘導要素として温度調整装置60を含む例を示す。図10に示す例では、精子回収装置1’の下部に温度調整装置60が備えられている。
【0041】
温度調整装置60は、ペルチェ素子61を含み、投入チャンバ10および回収チャンバ20の少なくとも何れかの温度を調整することにより、精子を回収チャンバ20に誘導するものである。精子は、高い温度に向かって泳ぐという温度走性を有しているので、回収チャンバ20の温度を投入チャンバ10の温度よりも高めることにより、運動能の高い精子、すなわち運動性精子を回収チャンバ20に誘導することができる。
【0042】
図11図13に、図10のX-X線で切った断面を示す。図11は、回収チャンバ20と対応する位置にペルチェ素子61が備えられている例を示す。図12は、投入チャンバ10と対応する位置にペルチェ素子61が備えられている例を示す。図13は、投入チャンバ10および回収チャンバ20それぞれと対応する位置にペルチェ素子61が備えられている例を示す。
【0043】
図11に示すように、ペルチェ素子61が回収チャンバ20と対応する位置に備えられている場合、回収チャンバ20を温めることができるので、温度調整装置60は、回収チャンバ20の温度を投入チャンバ10の温度よりも高めるものということができる。上述したように、精子は、高い温度に向かって泳ぐという温度走性を有しているので、回収チャンバ20の温度を投入チャンバ10の温度よりも高めることにより、運動能の高い精子、すなわち運動性精子を回収チャンバ20に誘導することができる。
【0044】
また、図12に示すように、ペルチェ素子61が投入チャンバ10と対応する位置に備えられている場合、投入チャンバ10を冷やすことにより、結果的に、回収チャンバ20の温度を投入チャンバ10の温度よりも高めることができる。これにより、図11に示した例と同じ効果を奏することができる。
【0045】
また、図13に示すように、投入チャンバ10と回収チャンバ20とのそれぞれに対応する位置にペルチェ素子61を備えることによって、投入チャンバ10の温度を第1の温度に調整し、回収チャンバ20を第1の温度より高い第2の温度に調整することができる。これにより、回収チャンバ20の温度が投入チャンバ10の温度よりも高くなるので、運動性精子を回収チャンバ20に誘導することができる。
【0046】
ここでは、連絡路30の回収チャンバ20との接続口27の高さと、投入チャンバ10との接続口17の高さとが同じ例を示したが、上述した実施形態1で説明したように、連絡路30は回収チャンバ20に向かって登りとなる構成であってもよい。すなわち、連絡路30の回収チャンバ20との接続口27の高さが、投入チャンバ10との接続口17の高さよりも高い構成であってもよい。
【0047】
また、実施形態1と同じく、連絡路30には複数の微細孔を有するフィルタ31を備えていてもよい。
【0048】
また、温度調整装置60は、投入チャンバ10および回収チャンバ20とは別部材で、これらと着脱可能に構成されるものであってもよい。これにより、投入チャンバ10および回収チャンバ20を使い捨てとし、温度調整装置60を繰り返し使用するということができる。
【0049】
図15を参照して誘導要素の他の例について説明する。図15は、精子回収装置1’の断面図から回収チャンバ20の部分のみを抜き出した図である。図15に示すように、回収チャンバ20の側壁21の内面および底部22の内面には、誘導要素として、精子を誘引する物質を含む塗布層23が塗布されている。ここで、精子を誘引する物質とは、精子を誘引する物質とは、例えば、女性ホルモンであるプロゲステロンである。精子は、プロゲステロンに向かって泳ぐという化学走性を有する。
【0050】
塗布層23は、側壁21の内面および底部22の内面の両方に塗布されている必要はなく、何れか一方であってもよい。
【0051】
回収チャンバ20の側壁21の内面および底部22の内面の少なくとも何れかに精子を誘引する物質が塗布されていることにより、投入チャンバ10に投入された精液90から精子が回収チャンバ20に誘導されることになる。
【0052】
また、誘導要素として、上述した温度調整装置60と塗布層23とを併用する構成であってもよい。
【0053】
また、精子回収装置1と、精子回収装置1を載置可能な載置装置70とを含むシステムにおいて、載置装置70に温度調整装置60と同じ温度調整機能を持たせるものであってもよい。
【0054】
図14を参照して説明する。図14は、精子回収装置1および載置装置70を含むシステムを示す図である。図14に示すように、精子回収装置1は載置装置70に載置可能に構成されている。そして、精子回収装置1が載置装置70に載置されたときに、精子回収装置1の投入チャンバ10、および回収チャンバ20と対応する載置装置70の位置にペルチェ素子61(温度調整部)が配置されている。これにより、精子回収装置1が載置装置70に載置されたときに、精子回収装置1の温度を調整することが可能となる。
【0055】
以上のように、本開示に係る精子回収装置1’は、精子を含む溶液が投入される投入チャンバ10と、投入された溶液から精子を回収する回収チャンバ20とを備え、投入チャンバ10と回収チャンバ20とは連絡路30で連通しており、溶液から所望の精子を回収チャンバ20に誘導する誘導要素を含むものである。所望の精子を回収チャンバ20に誘導する誘導要素により、投入チャンバ10に投入された溶液に含まれる精子のうち、所望の精子が、回収チャンバ20に誘導される。これにより、所望の精子、すなわち運動性精子を回収チャンバ20に誘導することができ、運動性精子を容易に回収することができる。
【0056】
〔精子を回収する処理〕
まず、投入チャンバ10に精子を含む溶液を投入する。次に、誘導要素により、投入チャンバ10に投入された溶液から精子を回収チャンバ20に誘導する。最後に、回収チャンバ20に誘導された精子を回収する。
【0057】
また、溶液は、精液であってよく、投入チャンバ10には、精液を液化する能力を有する酵素が含まれていてもよい。
【0058】
また、溶液の投入前は、投入チャンバ10および回収チャンバ20は、所定の温度で維持されており、溶液の投入後に、投入チャンバ10の温度を所定の温度より下げることにより、結果的に回収チャンバ20の温度を投入チャンバ10よりも高めるものであってもよい。これにより、投入チャンバ10の温度が回収チャンバ20の温度よりも高くなるので、運動性精子を回収チャンバ20に誘導することができる。
【0059】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれに開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0060】
1 精子回収装置
10 投入チャンバ
11 側壁
12 底部
13 塗布層
14 保護膜
16 投入口
17 接続口
20 回収チャンバ
21 側壁
22 底部
23 塗布層
26 回収口
27 接続口
30 連絡路
40 ビーズ
41 本体
42 コーティング層
60 温度調整装置
61 ペルチェ素子(温度調整部)
80 チャンバ液
90 精液
図1
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図3
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図5
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