(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029077
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】頭皮診断パネル
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20230224BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230224BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230224BHJP
C12N 15/16 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C12Q1/68 100Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135164
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】512216333
【氏名又は名称】ベアトリクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀次
(72)【発明者】
【氏名】後藤 武
(72)【発明者】
【氏名】大森 直哉
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA08
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ28
4B063QQ43
4B063QQ53
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR36
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR72
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象における脱毛症の原因と適切な治療法やケア方法を高い精度で示すことができる新たな技術手段を提供すること。
【解決手段】脱毛診断のためのデータ収集方法であって、それを必要とする対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子を検出する工程を含み、該脱毛因子が、(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、(F)Hic-5遺伝子の発現量、等からなる群から選択される2つ以上の脱毛因子の組み合わせである、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱毛診断のためのデータ収集方法であって、
それを必要とする対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子を検出する工程を含み、
前記複数の脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、方法:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5(Hydrogen peroxideinducible clone-5)遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1(Coiled-coil alpha-herical rod protein 1)遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3(Src homology 2 adaptor protein 3)遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1(Paired box)遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無。
【請求項2】
前記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる3つ以上の因子の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる4つ以上の因子の組み合わせである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる5つ以上の因子の組み合わせである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる6つ以上の因子の組み合わせである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる7つ以上の因子の組み合わせである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる8つ以上の因子の組み合わせである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記脱毛因子が、(A)~(I)の因子との組み合わせである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記脱毛因子が、(A)、(B)および(C)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(A)、(B)および(C)における前記対象由来試料が、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(D)、(E)および(F)における前記対象由来試料が、毛根由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(G)、(H)および(I)における前記対象由来試料が、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記検出工程が次世代シークエンシングおよびRT-PCRを用いて実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記脱毛因子をいずれも同時に検出する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記検出工程における前記脱毛因子の検出値と、所定の正常値または異常値に対応する閾値とを比較する工程を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記検出工程における前記脱毛因子が、対象における脱毛状態情報および薬剤処方情報と関連する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
脱毛診断を補助する方法である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子に対する検出試薬を含む、脱毛診断パネルであって、
前記複数の脱毛因子が、前記脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、診断パネル:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、頭皮診断パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
脱毛は一般的に思春期以降に始まり徐々に進行する生理的な現象ではあるが、外見上の印象を大きく左右するのでQOL(Quality of life)に与える影響は大きい。近年,男性型脱毛症の病態解明が進むとともに有効な外用、内服の治療薬が開発され、皮膚科診療においても積極的に使用されるようになってきた。中でも、男性の脱毛は通常、男性型脱毛症(male pattern hair loss, androgenetic alopecia)が専らの原因として脱毛治療法が処方される(非特許文献1)。
【0003】
このような技術状況の下で通常行われる検査も男性型脱毛症のみを対象としている。このような通常検査においては、男性ホルモン受容体(AR:Androgen Receptor、)遺伝子中のCAGリピート長とGGCリピート長の測定し、これらが短い場合にはARタンパクの遺伝子からの発現が促進され、ARの男性ホルモンに対する感受性が亢進することから、男性型脱毛症発症の可能性が高くなると判定される。しかしながら、従来の診断・検査方法により処方される脱毛の治療方法は、しばしば十分な効果を得られないことから、依然としてより適切な治療方法やケア方法を判定しうる精度の高い脱毛の診断方法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版(日本皮膚科学会ガイドライン)
【発明の概要】
【0005】
一方で、男性の脱毛症は男性型脱毛症に関する遺伝的な要素のみならず、様々な要因も影響していると考えらえる。そこで、本開示者らは、鋭意検討した結果、特定の遺伝子マーカー等を組み合わせて指標として用いると、対象における脱毛症の原因を顕著な精度で特定し、適切な治療法やケア方法についても精度高く判定しうることを見出した。本開示はかかる知見に基づくものである。
【0006】
したがって、本開示は、対象における脱毛症の原因と適切な治療法やケア方法を高い精度で判定可能な新たな技術手段を提供することを一つの目的としている。
【0007】
本開示の一実施態様によれば、脱毛診断のためのデータ収集方法であって、
それを必要とする対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子を検出する工程を含み、
上記複数の脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、方法:
((A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5(Hydrogen peroxideinducible clone-5)遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1(Coiled-coil alpha-herical rod protein 1)遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3(Src homology 2 adaptor protein 3)遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1(Paired box)遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無
が提供される。
【0008】
また、本開示の別の実施態様によれば、対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子に対する検出試薬を含む、脱毛診断パネルであって、
上記複数の脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、脱毛診断パネル:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無
が提供される。
【0009】
本開示によれば、対象における脱毛症の原因と適切な治療法やケア方法を高い精度で判定することができる。
【発明の具体的説明】
【0010】
本開示の一実施態様によれば、脱毛診断のためのデータ収集方法は、
それを必要とする対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子を検出する工程を含み、
上記複数の脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせであることを特徴としている:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無
が提供される。
上述のような方法によれば、対象における脱毛症の原因と適切な治療法やケア方法を顕著に高い精度で判定しうることは当業者にとって意外な事実である。
【0011】
検出工程
本開示の好ましい実施態様によれば、上記検出工程が次世代シークエンシング(NGS:Next Generation Sequencing)およびRT-PCRを用いて実施される。また、好ましい実施態様によれば、複数の脱毛因子を同時に検出される。本開示の方法によれば、上述のような手法を組み合わせて用いると、対象毎に複数の脱毛因子を迅速に検出することができることから、脱毛症の様々な原因・メカニズムを網羅的に解明し、適切な治療法やケア方法の組合せを高い精度で迅速に特定する上で有利である。
【0012】
本開示の一実施態様によれば、対象はヒトである。また、対象は、好ましくは男性とされるが、女性であっても適用することができる。また、対象の年齢は特に限定されず、若年(例えば、12~24歳)、壮年(例えば、25~44歳)、中年(例えば、45~64歳)、高年(65歳以上)のいずれであってもよく、本開示によれば、年齢ごとの脱毛因子の発現レベルに応じて閾値を設定し、精度の高い脱毛診断に適用することが可能である。
【0013】
本開示の一実施態様によれば、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔粘膜由来試料(唾液等)、鼻咽頭由来試料(鼻咽頭粘膜等)、鼻腔由来試料(鼻腔粘膜等)または血液由来試料である。対象由来試料は、後述するように、脱毛因子毎に適切な試料を選択することができる。
【0014】
比較分類/判定工程
本開示の好ましい実施態様によれば、上記方法は、上記検出工程において検出される各脱毛因子の検出値と、所定の正常値または異常値に対応する閾値とを比較する工程を含む。上記閾値は、後述するように、各脱毛因子毎に予め設定することができる。
【0015】
また、本開示の好ましい実施態様によれば、上記検出工程における各脱毛因子の検出値は、対象における脱毛状態情報と関連する。したがって、本開示の好ましい実施態様によれば、各脱毛因子の検出値に応じて、対象を、脱毛原因の特定された患者群に分類し、かつ/または脱毛症発症の可能性が高いかまたは低いかを予測することができる。
【0016】
処方/治療関連工程
また、本開示の好ましい実施態様によれば、上記検出工程における各脱毛因子の検出値は、対象の脱毛状態情報およびそれに対応する薬剤処方情報と関連する。したがって、本開示の好ましい実施態様によれば、後述するように、各脱毛因子の検出値に応じて対象に適した薬剤処方を特定することができる。
【0017】
以下、本開示の方法において脱毛因子として用いられる(A)~(I)毎に、検出工程、比較分類/判定工程、処方/治療関連工程の詳細について説明する。
【0018】
(A)AR遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(A)として、AR遺伝子におけるCAGリピート長(CAGの繰り返し回数)および/またはGGCリピート長(GGCの繰り返し回数)を検出する。
【0019】
AR遺伝子が高レベルで発現すると、通常、多くのARが毛根において産生し、活性型男性ホルモン(DHT:Dihydrotestosterone)と結合して複合体を形成され、この複合体が核内のDNAに作用することによりTGF-βが産生される。そして、TGF-βは前頭や頭頂における毛母細胞に抑制的に作用することから、その結果前頭および頭頂部の毛髪の育成が抑制される。したがって、AR遺伝子の発現レベルが抑制されることにより、脱毛は促進されるものと考えられる。
【0020】
上述のように脱毛と関連するAR遺伝子のエクソン1領域内にはCAG塩基の繰り返しおよびGGC塩基の繰り返しという、タンパク質に翻訳されない部分が存在する。CAGおよびGGCの繰り返し部分が長いと、AR遺伝子の転写・翻訳の効率が悪くなり、ARの発現が抑制され、男性型脱毛症発症の可能性は低くなる。一方で、CAGおよびGGCの繰り返し部分短いとAR遺伝子が効率よく発現し、結果として脱毛症発症の可能性が高くなる。
【0021】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(A)の検出または診断において、予め設定された閾値と比較して、対象のCAGおよびGGCの両方の繰り返し回数の合計が閾値以下である場合、対象は、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。また、本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(A)の検出または診断において、予め設定された閾値と比較して、対象のCAGおよびGGCの両方の繰り返し回数の合計が閾値を超える場合、対象は、脱毛にARの発現が関与していない患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が低いと予測される。好ましい態様によれば、脱毛因子(A)について、上記閾値は、健常者または脱毛症の患者におけるCAGおよびGGCの両方の繰り返し回数の合計のレベルを参照して設定される。
【0022】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(A)の検出または診断において、CAGおよびGGCの両方の繰り返し回数の合計が38以下である場合、対象は、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるされるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。また、本開示の別の実施態様によれば、CAGおよびGGCの両方の繰り返し回数の合計38を超える場合、脱毛にARの発現が関与しない患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が低いと予測される。
【0023】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(A)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、口腔粘膜由来試料であることが好ましい。
【0024】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(A)を検出した結果、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、エンザルタミド、特開2015-113310号に記載のαリポ酸誘導体(N-(6,8-ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジンナトリウム・亜鉛キレート化合物、N-(6,8-ジメルカプトオクタノイル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物およびそれらの薬学的に許容可能な塩から選択される少なくとも一つの亜鉛キレート化合物等)等が挙げられる。また、本開示の好ましい実施態様によれば、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む方法を併用してもよい。
【0025】
(B)AR発現量
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(B)として、AR遺伝子の発現量を検出する。AR遺伝子の発現量が高ければ、多くのARが産生し、男性ホルモンの作用が増強され、脱毛が促進されると考えられる。
【0026】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(B)について、予め設定された閾値と比較して、AR遺伝子の発現量が閾値以上であれば、対象は、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0027】
本開示の別の実施態様によれば、AR遺伝子の発現量が上記閾値未満である場合、脱毛にARの発現が関与しない患者群か、または男性型脱毛症発症の可能性は低いと予測される。
【0028】
また、好ましい態様によれば、脱毛因子(B)について、上記閾値は、健常者または脱毛症の患者におけるAR遺伝子の発現量を参照して予め設定されたものである。
【0029】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(B)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、毛根由来試料であることが好ましい。
【0030】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(B)を検出した結果、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、エンザルタミド、上記αリポ酸誘導体等が挙げられる。また、本開示の好ましい実施態様によれば、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0031】
(C)AR遺伝子における一塩基多型rs6152
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(C)として、AR遺伝子における一塩基多型SNP:rs6152の存否またはその存在割合を検出する。AR遺伝子のSNP:rs6152についてはアリルG(グアニン)が存在(例えば、G>A(アデニン))すると、脱毛症との負の相関があることが報告(Cancer Epidemiology, Biomarker, 14:993-995, 2005) されている。AR遺伝子の上流プロモータ領域に存在する連鎖反応-制限エンドヌクレアーゼ切断領域においてSNP:rs6152が存在すると、いわゆるRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism、制限酵素断片長多型)が生じる可能性が高くなり、その結果、男性ホルモン受容体の発現が亢進し、男性型脱毛症の可能性が高まると考えられる。
【0032】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(C)について、上記SNP:rs6152(アリルG)が存在するかまたはG<Aの傾向が検出される場合、対象は、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0033】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(C)について、上記SNP:rs6152(アリルG)が存在しないかまたはG>Aの傾向が検出される場合、対象は、脱毛にARの発現が関与しないかまたは関与が少ない患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が低いと予測される。
【0034】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(C)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、口腔粘膜由来試料であることが好ましい。
【0035】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(C)を検出した結果、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、エンザルタミド、上記αリポ酸誘導体(N-(6,8-ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジンナトリウム・亜鉛キレート化合物、N-(6,8-ジメルカプトオクタノイル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物およびそれらの薬学的に許容可能な塩から選択される少なくとも一つの亜鉛キレート化合物等)が挙げられる。また、本開示の好ましい実施態様によれば、脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0036】
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(D)として、男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量を検出する。
【0037】
男性ホルモン還元酵素5α1および5α2は、男性ホルモンであるアンドロゲンを還元して活性型男性ホルモン(DHT)に転換する還元酵素であり、5α1は主に側頭部や後頭部に分布し、5α2は主に前頭部や頭頂部に分布している(https://www.osaka-clinic.com/aga_examination/3)。5α1や5α2により産生するDHTは、上述のようにTGF-βの産生を促すことから、男性型脱毛症を発症する可能性が高まると考えられる。
【0038】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(D)について、予め設定された閾値と比較して、性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量が閾値以上であれば、対象は、脱毛に5α1および/または5α2の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0039】
本開示の別の実施態様によれば、5α1および/または5α2の遺伝子の発現量が上記閾値未満である場合、脱毛に5α1および/または5α2の発現が関与しない患者群か、または男性型脱毛症発症の可能性は低いと予測される。
【0040】
また、好ましい態様によれば、脱毛因子(D)について、上記閾値は、健常者または脱毛症の患者における5α1および/または5α2の遺伝子の発現量を参照して予め設定されたものである。
【0041】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(D)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、毛根由来試料であることが好ましい。
【0042】
また、5α1は対象の側頭部や後頭部に主に分布することが知られている。したがって、本開示の一実施態様によれば、後頭部および/または側頭部における毛根における5α1および5α2の遺伝子発現量の比5α1/5α2を算出し、5α1/5α2が1より大きければ、後頭部および/または側頭部における脱毛症発症の可能性が大きいと判定する。
【0043】
また、5α2は、対象の前頭部や頭頂部に主に分布することが知られている。したがって、本開示の一実施態様によれば、前頭部および/または頭頂部における毛根における5α1および5α2の遺伝子発現量の比5α1/5α2を算出し、5α1/5α2が1より大きければ、前頭部および/または頭頂部における脱毛症発症の可能性が大きいと判定する。
【0044】
また、5α1が主に分布する側頭部や後頭部よりも、5α2が主に分布する前頭部や頭頂部の脱毛が激しい場合に外観上問題となる場合がある。そこで、本開示の一実施態様によれば、対象由来試料における5α1および5α2の遺伝子発現量の比5α1/5α2を算出し、5α1/5α2が1より小さければ、脱毛症による外観上のリスクが大きいと判定する。また、上記実施態様によれば、精度の向上の観点から、対象由来試料としては、後頭部および/または側頭部における毛根、並びに、並びに後頭部および/または側頭部における毛根を組み合わせて使用する。
【0045】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(D)を検出した結果、脱毛に5α1および/または5α2の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、フィナステリド、デュタステリド、上記αリポ酸誘導体等が挙げられる。上記処方する薬剤のうち、フィナステリドは、フィナステリドは5α2の働きを阻害する上で好ましい。また、デュタステリドは5α1および5α2の両方の阻害効果を示す観点から好ましい。また、細胞賦活促進の観点からは、αリポ酸誘導体等を使用することが好ましい。また、本開示の好ましい実施態様によれば、対象が脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0046】
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(E)として、FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比を検出する。
【0047】
線維芽細胞増殖因子(FGF:Fibroblast growth factor)は線維芽細胞のみならずさまざまな細胞に対し増殖、分化などの活性を示す多機能性シグナル分子であり、ヒトでは、23種類のFGFファミリーが同定されている。FGFファミリーであるFGF-5、FGF-5SおよびFGF-7の共通する点はともに毛髪の発育をコントロールする機構の最下流に位置し、これらの発現量な、発現量比を正確に検出することは、より直接的に脱毛の可能性を診断する上で重要な指標といえる。
【0048】
FGFファミリーのうち、FGF-5は、毛周期の成長期の終わりに、外毛根鞘とよばれる部位で生産される。5α1や5α2により産生誘導されるTGF-βは毛乳頭において線維芽細胞増殖因子であるFGF-5の発現を促す。そして、FGF-5が毛乳頭細胞にあるFGF受容体と結合することにより、成長期を終了させ、脱毛につながる休止期を誘導することから、FGF-5の発現量が多いと、脱毛症を発症する可能性が高まると考えられる。
【0049】
一方で、FGF-5SはFGF-5の切断フラグメントであり、FGF-5の毛周期退行期移行作用に拮抗する働きする因子として作用する。したがって、FGF-5Sの発現量が多いと、脱毛症を発症する可能性が低くなると考えられる。
【0050】
また、FGF-7は別名としてKGFや、角化細胞増殖因子、角質細胞増殖因子、ケラチノサイト増殖因子とも称される。この因子の受容体である受容体型チロシンキナーゼは多くの組織の上皮細胞に存在する。当該因子は毛母細胞に作用し、毛母細胞の増殖、分裂を促すことで毛髪の成長をさせる。FGF-7の発現量が多いと、脱毛症を発症する可能性が低くなると考えられる。
【0051】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(E)について、予め設定された閾値と比較して、FGF-5遺伝子および/またはFGF-7遺伝子の発現量が閾値以上であれば、対象は、脱毛にFGF-5および/またはFGF-7の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0052】
本開示の別の実施態様によれば、脱毛因子(E)について、FGF-5および/またはFGF-7の発現量が上記閾値未満である場合、脱毛にFGF-5および/またはFGF-7の発現が関与しない患者群か、または男性型脱毛症発症の可能性は低いと予測される。
【0053】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(E)について、予め設定された閾値と比較して、FGF-5S遺伝子の発現量が閾値以上である場合、脱毛にFGF-5Sの発現が関与しない患者群か、または男性型脱毛症発症の可能性は低いと予測される。
【0054】
また、本開示の好ましい実施態様によれば、FGF-5遺伝子の発現量とFGF-5S遺伝子と発現量との比(FGF-5/FGF-5S)を脱毛指標とする。FGF-5は発毛を促進し、FGF-5Sは発毛を抑制するように作用しうることから、FGF-5/FGF-5Sは有力な脱毛指標となり得ると考えられる。
【0055】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(E)について、FGF-5/FGF-5Sが上記閾値以上である場合、対象は、脱毛に脱毛にFGF-5および/またはFGF-7の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0056】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(E)について、予め設定された閾値と比較して、FGF-5S遺伝子の発現量が閾値未満であれる場合、脱毛にFGF-5および/またはFGF-7の発現が関与しない患者群か、または男性型脱毛症発症の可能性は低いと予測される。
【0057】
また、好ましい態様によれば、脱毛因子(E)について、上記閾値は、健常者または脱毛症の患者における対応遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比を参照して予め設定されたものである。
【0058】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(E)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、毛根由来試料であることが好ましい。
【0059】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(E)を検出した結果、脱毛に上述のようなFGFファミリーの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、フィナステリド、デュタステリド、上記αリポ酸誘導体等が挙げられる。上記処方する薬剤のうち、また、本開示の好ましい実施態様によれば、対象が脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0060】
(F)Hic-5遺伝子の発現量
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(F)として、Hic-5遺伝子の発現量を検出する。
【0061】
Hic-5は、細胞外マトリクス(ECM:Extracellular matrix)と細胞の接着点にある細胞接着斑タ ンパク質をコードし、同じLIM(lin-11, Isl-1, およびMec-3) ドメインファミリーに属するパキシリン(Paxillin)と高い相同性を示すアダプター分子である(生化学 2012年 第84巻 第4号)。Hic-5は1994年に過酸化水素およびTGF-βに応答して発現誘導される遺伝子としてクローニングされたタンパク質であるが、ARA55という別名も持っている。これは、ARの共役因子を網羅的に検索していたグループが、1999年に別途、男性受容体コアクチベーター(Androgen receptor coactivator)55kD proteinとして単利したときの命名による。Hic-5は男性ホルモンであるアンドロゲンとその受容体が結合して細胞の核内へ移動してゲノムDNAの転写を行うときに共同してその転写を促進するものであり、Hic-5の発現量が多いと男性ホルモンの働きが促進され、男性型脱毛を引き起こす可能性が高いと考えられる。
【0062】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(F)について、予め設定された閾値と比較して、Hic-5遺伝子の発現量が閾値以上であれば、対象は、脱毛にHic-5の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0063】
本開示の別の実施態様によれば、Hic-5遺伝子の発現量が上記閾値未満である場合、脱毛にHic-5の発現が関与しない患者群か、または男性型脱毛症発症の可能性は低いと予測される。
【0064】
また、好ましい態様によれば、脱毛因子(F)について、上記閾値は、健常者または脱毛症の患者におけるHic-5遺伝子の発現量を参照して予め設定されたものである。
【0065】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(F)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、毛根由来試料であることが好ましい。
【0066】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(F)を検出した結果、脱毛にHic-5の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、細胞賦活促進の観点から、上記αリポ酸誘導体等が挙げられる。Hic-5の働きを阻害する薬剤は本開示者の知る限り市販されていない。したがって、脱毛因子(E)において対象が脱毛にHic-5の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、細胞賦活促進剤を使用することが好ましいと考えられる。また、本開示の好ましい実施態様によれば、対象が脱毛にARの発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0067】
(G)CCHCR1(Coiled-coil alpha-herical rod protein 1)遺伝子における一塩基多型rs142986308
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(G)として、ケラチン合成関連遺伝子、すなわち、CCHCR1遺伝子における一塩基多型SNP:rs142986308有無または存在割合を検出する。
【0068】
CCHCR1は、mRNAデキャッピングタンパク質4との相互作用を通じてmRNA代謝の調節因子として作用すると考えられている5つのコイルドコイルアルファヘリックスロッドドメインを持つタンパク質である。CCHCR1遺伝子は、ヒト白血球型抗原(HLA)のゲノム領域にあり、細胞内骨格タンパクを支配する遺伝子であると共に、ヒトの表皮細胞の分化(角質化)にも関与する遺伝子として知られており、この遺伝子に起こる突然変異は乾癬に関連していること知られている(科学研究費助成事業研究成果報告書(平成25年5月22日)(機関番号15501、課題番号22591223)「乾癬発症候補遺伝子群の高次構造の解明」、武藤正彦ら)。CCHCR1遺伝子のrs142986308についてはアリルT(チミン)の存在(例えば、T>C(シトシン))が乾癬症、アトピー性皮膚炎そして乾燥皮膚の原因 となり、正常な頭皮および毛髪生育にも影響を及ぼし得ることから、円形脱毛症の可能性が高まると考えられる。
【0069】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(G)について、上記SNP:rs142986308(アリルT)が存在するかまたはT>Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0070】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(G)について、上記SNP:rs142986308(アリルT)が存在しないかまたはT<Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛にCCHCR1の発現が関与しないかまたは関与が少ない患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が低いと予測される。
【0071】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(G)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、口腔粘膜由来試料であることが好ましい。
【0072】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(G)を検出した結果、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、亜鉛、ノコギリヤシ、ビオチン(ビタミン7、ビタミンH)、システインやコラーゲンのサプリメント、タンパク質、上記αリポ酸誘導体等が挙げられる。上記処方する薬剤のうち、亜鉛、ノコギリヤシ、ビオチン(ビタミン7、ビタミンH)、システインやコラーゲンのサプリメント、タンパク質は、ケラチンタンパク質合成を促進する観点から使用することが好ましい。また、細胞賦活促進の観点からは、上述のようなαリポ酸誘導体を使用することが好ましい。一方で、円形脱毛症は免疫系の暴走による自己免疫疾患ではないため、ステロイドのような免疫抑制剤には効果がないばかりか、組織の細胞分裂を抑制し皮膚を薄くする弊害が生じる場合がある。したがって、本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(G)を検出した結果、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ステロイドの使用を回避するか、使用量を低減することが好ましい。なお、本開示の好ましい実施態様によれば、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0073】
(H)SH2B3(Src homology 2 adaptor protein 3)遺伝子における一塩基多型rs3184504
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(H)として、血抑制性制御因子であるSH2B3遺伝子における一塩基多型SNP:rs3184504の有無または存在割合を検出する。
【0074】
SH2B3は、主に造血系細胞やリンパ組織に発現する細胞内アダプタータンパク質であり、Lnk(lymphocyte adapter protein)とも称される。SH2B3は、JAK-STAT系においてBリンパ球、造血細胞そして血小板の増殖を抑制的に調整する因子であり、SH2B3遺伝子における変異があると、B細胞過剰産生や造血幹細胞の機能亢進そしてサイトカインシグナルを抑制的に制御し、細胞接着に関しても抑制的に働くことから(Jpn. J. Clin. Immunol., 31(6) 440~447 (2008), 高木 智ら 「Sh2b3/Lnkアダプター群による免疫系制御機構」)、自己免疫疾患となる可能性が高め、円形脱毛症の可能性が高めると考えられる。SH2B3遺伝子のSNP:rs3184504についてはアリルT(チミン)の存在(例えば、T>C(シトシン))すると、免疫異常や円形脱毛症の可能性が高めると考えられる。
【0075】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(H)について、上記SNP:rs3184504(アリルT)が存在するかまたはT>Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される。
【0076】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(H)について、上記SNP:rs3184504(アリルT)が存在しないかまたはT<Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛にCCHCR1の発現が関与しないかまたは関与が少ない患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が低いと予測される。
【0077】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(H)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、口腔粘膜由来試料であることが好ましい。
【0078】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(H)を検出した結果、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、免疫抑制剤(タクロリムス(プロトピック軟膏等)、JAK(Janus kinase)キナーゼ拮抗剤(デルゴシチニブ(コレクチム軟膏等))、上記αリポ酸誘導体等が挙げられる。上記処方する薬剤のうち、免疫抑制剤は、免疫作用賦活化の観点から使用することが好ましい。また、細胞賦活促進の観点からは、上述のようなαリポ酸誘導体を使用することが好ましい。一方で、上述の通り、ステロイドの使用によって皮膚を薄くする弊害が生じる場合があることから、本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(H)を検出した結果、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ステロイドの使用を回避するか、使用量を低減することが好ましい。なお、本開示の好ましい実施態様によれば、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0079】
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)として、20番染色体のPAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型SNPの有無またはその存在割合を検出する。
【0080】
PAX1が原因遺伝子の一つとされるKlippel-Feil症候群においては、特に後頭部の脱毛が頻繁に起こることが知られている。この脱毛が起こるメカニズムの経路はアンドロゲンには依存しない経路であると言われており、非アンドロゲン経路による脱毛の原因を示唆するものである。
また、PAX1遺伝子近傍に存在する1塩基多型(SNP、rs6137444,rs1998076,rs201571,rs6113491)は脱毛、特に後頭部における脱毛と強い相関を示すことが知られており、これらの存在により、脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が高めると考えられる。
【0081】
より具体的には、PAX1遺伝子近傍おけるSNP、rs6137444についてはアリルT(例えば、T>Cの傾向)が存在すると、脱毛症(特に後頭部)の可能性が高まると考えられる。
【0082】
したがって、本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs6137444(アリルT)が存在するかまたはT>Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が高いと予測される。
【0083】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs6137444(アリルT)が存在しないかまたはT<Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与しないかまたは関与が少ない患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が低いと予測される。
【0084】
また、PAX1遺伝子近傍おけるSNP、rs1998076についてはアリルG(例えば、G>Aの傾向)が存在すると、脱毛症(特に後頭部)の可能性が高まると考えられる。
【0085】
したがって、本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs1998076(アリルG)が存在するかまたはG>Aの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が高いと予測される。
【0086】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs1998076(アリルG)が存在しないかまたはG>Aの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与しないかまたは関与が少ない患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が低いと予測される。
【0087】
また、PAX1遺伝子近傍おけるSNP、rs201571についてはアリルT(例えば、T>Cの傾向)が存在すると、脱毛症(特に後頭部)の可能性が高まると考えられる。
【0088】
したがって、本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs201571(アリルT)が存在するかまたはT>Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が高いと予測される。
【0089】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs201571(アリルT)が存在しないかまたはT>Cの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与しないかまたは関与が少ない患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が低いと予測される。
【0090】
また、PAX1遺伝子近傍おけるSNP、rs6113491についてはアリルA(例えば、A>Gの傾向)が存在すると、脱毛症(特に後頭部)の可能性が高まると考えられる。
【0091】
したがって、本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs6113491(アリルA)が存在するかまたはA>Gの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が高いと予測される。
【0092】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)について、上記SNP:rs6113491(アリルA)が存在しないかまたはA>Gの傾向が検出されれば、対象は、脱毛に非アンドロゲン経路が関与しないかまたは関与が少ない患者群に分類されるか、または脱毛症発症(特に後頭部)の可能性が低いと予測される。
【0093】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(H)において、対象から採取される対象由来試料は、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔由来試料または血液由来試料であってよいが、口腔粘膜由来試料であることが好ましい。
【0094】
本開示の一実施態様によれば、脱毛因子(I)を検出した結果、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、対象に対する治療または処方において、処方する薬剤としては、上記αリポ酸誘導体等が挙げられる。上記処方する薬剤のうち、なお、本開示の好ましい実施態様によれば、脱毛にCCHCR1の発現が関与している患者群に分類されるか、または脱毛症発症の可能性が高いと予測される場合、ウィッグを併用しながらケアに取り組む治療法を採用してもよい。
【0095】
脱毛因子の組み合わせ
本開示の方法によれば、複数の脱毛因子を組み合わせることにより、精度の高い脱毛症の原因の診断および適切なケア方法の特定を実施することができる。
【0096】
本開示の一実施態様によれば、上記脱毛因子は、(A)~(I)からなる群から選択させる3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上または8つ以上の因子との組み合わせである。また、本開示の好ましい実施態様によれば、上記脱毛因子は、(A)~(I)の因子との組み合わせである。
【0097】
また、脱毛因子(A)は、一般的に使用される脱毛因子であることから、簡便に検出工程を実施する観点からは、上記脱毛因子は、(A)を含むことが好ましい。
【0098】
また、脱毛症には、上述のように、(A)~(D)に関連する男性ホルモンに起因する症状、(E)繊維芽細胞因子等の変異が関連する症状、(F)のケラチン合成関連遺伝子変異が関連する症状、そして、(G)に関連する自己免疫疾患が関連する症状、(I)が非アンドロゲン経路に起因する症状が考えられるが、従来の遺伝子解析では1種類の原因をターゲットとした診断がほとんどであった。AGA型脱毛症、ケラチンタンパク生成異常による円形脱毛症、自己免疫疾患としての円形脱毛症等は、いずれもメカニズムが異なり、その治療法も大きく相違しうるが、従来の方法によれば、発症原因に応じた治療は困難であった。しかしながら、本開示の方法によれば、(E)~(I)のような脱毛因子を組み合わせて、顕著な精度で発症原因および適切なケア方法を特定することが可能となる。したがって、本開示の一実施態様によれば、上記脱毛因子は、(E)~(I)から選択させる1つ以上の因子を含む。本開示の一実施態様によれば、上記脱毛因子は、(F)および(G)から選択させる1つ以上の因子を含む。また、本開示の好ましい実施態様によれば、上記脱毛因子は、(F)および(G)の因子を含む。
【0099】
また、本開示の脱毛診断のためのデータ収集方法は、対象の脱毛診断方法または脱毛診断を補助する方法として適用することができる。
したがって、本開示の一実施態様によれば、対象の脱毛診断方法またはそれを補助する方法であって、
それを必要とする対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子を検出する工程を含み、
上記複数の脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、方法:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無
が提供される。
【0100】
また、本開示の脱毛診断のためのデータ収集方法は、対象の脱毛症を治療する方法に適用することができる。
したがって、本開示の一実施態様によれば、対象の脱毛症を治療する方法であって、
それを必要とする対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子を検出する工程、
各脱毛因子の検出値に応じて、対象の脱毛因子発現状態を特定した患者群に分類し、かつ/または脱毛症発症の可能性が高いかまたは低いかを予測する工程、および
対象の各脱毛因子発現状態に応じて決定される薬剤処方を対象に施す工程を含み、
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無
が提供される。
【0101】
また、本開示の脱毛診断のためのデータ収集方法は、各脱毛因子に対する公知の検出試薬を組み合わせた脱毛診断パネルを用いて簡便に実施することができる。
【0102】
したがって、本開示の一実施態様によれば、対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子に対する検出試薬を含む、脱毛診断パネルであって、
前記複数の脱毛因子が、 前記脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、診断パネル:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(E)Hic-5遺伝子の発現量、
(F)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無
が提供される。
【0103】
上記検出試薬としては、例えば、各脱毛因子毎にNGSおよびRT-PCRにおいて使用される公知ないし市販の検出試薬(プライマペア、RT-PCRキット等)が挙げられる。
【0104】
上述の対象の脱毛診断方法またはそれを補助する方法、対象の脱毛症を治療する方法および診断パネルは、脱毛診断のためのデータ収集方法の上記記載に準じて実施することができる。
【0105】
また、本開示の一実施態様によれば、以下が提供される。
[1]脱毛診断のためのデータ収集方法であって、
それを必要とする対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子を検出する工程を含み、
上記複数の脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、方法:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無。
[2]上記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる3つ以上の因子の組み合わせである、[1]に記載の方法。
[3]上記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる4つ以上の因子の組み合わせである[1]または[2]に記載の方法。
[4]上記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる5つ以上の因子の組み合わせである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]上記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる6つ以上の因子の組み合わせである、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]上記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる7つ以上の因子の組み合わせである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]上記脱毛因子が、(A)~(I)からなる群から選択させる8つ以上の因子の組み合わせである、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]上記脱毛因子が、(A)~(I)の因子との組み合わせである、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]上記脱毛因子が、(A)、(B)および(C)を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10](A)、(B)および(C)における上記対象由来試料が、毛根由来試料、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔試料または血液由来試料である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11](D)、(E)および(F))における上記対象由来試料が、毛根由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔試料または血液由来試料である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[12](G)、(H)および(I)における上記対象由来試料が、口腔内粘膜由来試料、鼻咽頭由来試料、鼻腔試料または血液由来試料である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[13]上記検出工程が次世代シークエンシングおよびRT-PCRを用いて実施される、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]上記脱毛因子をいずれも同時に検出する、[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]上記検出工程における上記脱毛因子の検出値と、所定の正常値または異常値に対応する閾値とを比較する工程を含む、[1]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]上記検出工程における上記脱毛因子が、対象における脱毛状態情報および薬剤処方情報と関連する、[1]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]脱毛診断を補助する方法である、[1]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]対象から採取される対象由来試料における複数の脱毛因子に対する検出試薬を含む、脱毛診断パネルであって、
上記複数の脱毛因子が、上記脱毛因子が、以下の(A)~(I)からなる群から選択させる2つ以上の因子の組み合わせである、診断パネル:
(A)男性ホルモン受容体遺伝子におけるCAGリピート長および/またはGGCリピート長、
(B)男性ホルモン受容体遺伝子の発現量、
(C)男性ホルモン受容体遺伝子における一塩基多型rs6152の有無、
(D)男性ホルモン還元酵素5α1および/または5α2の遺伝子の発現量、
(E)FGF-5遺伝子、FGF-5S遺伝子およびFGF-7遺伝子からなる群から選択される、少なくとも一つの遺伝子の発現量または2つの遺伝子の発現量比、
(F)Hic-5遺伝子の発現量、
(G)CCHCR1遺伝子における一塩基多型rs142986308の有無、
(H)SH2B3遺伝子における一塩基多型rs3184504の有無、
(I)PAX1遺伝子近傍おける、rs6137444、rs1998076、rs201571およびrs6113491からなる群から選択される少なくとも1つの一塩基多型の有無。
【実施例0106】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術範囲は、これらの例示に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本明細書に記載の単位や測定方法はJIS規格による。
【0107】
試験例1
対象(男性)について、NGTおよびRT-PCTを組み合わせて脱毛因子(A)~(I)について検出を行い、発症状態を判定し、発症状態に対応する薬剤を処方し、治療を行った。その結果、脱毛因子(A)~(I)単独での診断と比較して、複数の脱毛因子(A)~(I)を組み合わせることにより、疾患群(発症状態)およびその治療法の精度が有意に高くなることが確認された。