(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029125
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】クランクシャフト
(51)【国際特許分類】
F16C 3/12 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
F16C3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135238
(22)【出願日】2021-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】521370097
【氏名又は名称】株式会社岩沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002996
【氏名又は名称】弁理士法人宮田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 和樹
【テーマコード(参考)】
3J033
【Fターム(参考)】
3J033AA02
3J033AB03
3J033BA04
3J033BC02
3J033CA02
3J033CA10
3J033CB02
3J033CC03
3J033CD01
3J033EA04
3J033GA06
3J033GA08
(57)【要約】
【課題】
必要な強度を確保しながらも製造コストを抑制できるほか、装置の運用段階での保守性にも優れたクランクシャフトを提供する。
【解決手段】
クランクシャフトは、一方軸11と他方軸41とクランク本体21と対向フランジ31を個別に製造した後に一体化する構成としてあり、クランク本体21は、駆動フランジ22と偏心軸23を有するほか、一方軸11と他方軸41は、コンロッド51を挟んで同心で配置する。そして対向フランジ31は、締結具68で他方軸41に一体化させ、また駆動フランジ22は、締結具62で一方軸11に一体化させ、さらに偏心軸23は締結具65で対向フランジ31に一体化させる。したがって鍛造などの工程が不要になり、製造コストを抑制できるほか、各締結具としてボルトなどを用い、その大きさや本数を調整することで必要な強度を確保できるほか、後に分解可能であり保守性にも優れている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方軸(11)、他方軸(41)、クランク本体(21)および対向フランジ(31)と称する各部位を一体化した構成であり、
前記一方軸(11)と前記他方軸(41)は、コンロッド(51)が入り込む隙間を隔てて同心で配置してあり、且つ前記クランク本体(21)および前記対向フランジ(31)は、該一方軸(11)と該他方軸(41)との隙間に配置してあり、
前記クランク本体(21)は、円盤状の駆動フランジ(22)と、前記対向フランジ(31)に向けて突出する偏心軸(23)と、で構成され、該駆動フランジ(22)の表裏両面のうち、一方の面は前記一方軸(11)の端面に接触しており、且つ該駆動フランジ(22)と該一方軸(11)は締結具(62)を介して一体化してあり、
前記偏心軸(23)は、前記駆動フランジ(22)を基準として前記一方軸(11)の反対側に突出しており、且つ該偏心軸(23)は、該一方軸(11)および前記他方軸(41)の回転中心から離れて配置してあり、前記コンロッド(51)の根元部分は、該偏心軸(23)を取り囲むように配置され、
前記対向フランジ(31)は円盤状であり、その表裏両面のうち、一方の面は前記偏心軸(23)の端面に接触しており、且つ該対向フランジ(31)と該偏心軸(23)は締結具(65)を介して一体化してあり、また該対向フランジ(31)の表裏両面のうち、他方の面は前記他方軸(41)の端面に接触しており、且つ該対向フランジ(31)と該他方軸(41)は締結具(68)を介して一体化してあることを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
前記クランク本体(21)を構成する前記駆動フランジ(22)と前記偏心軸(23)は、一つの素材から一体的に形成してあることを特徴とする請求項1記載のクランクシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復直線運動と回転運動を変換する機構で用いられるクランクシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関や蒸気機関などの動力発生装置では、ピストンやクランクシャフトなどの部品により、往復直線運動を回転運動に変換しているが、このように往復直線運動と回転運動を変換する機構は、様々な装置に組み込まれている。そしてこのクランクシャフトは、クランクジャーナルと称される軸を中心に構成されており、ピストンとの接続箇所ではクランクジャーナルが途切れており、そこに一対のクランクアームを配置してあり、さらに対向するクランクアームの間をクランクピンが結んでいる。またピストンから伸びるコネクティングロッド(以下、コンロッドと記載)の根元部分は、クランクピンを取り囲んでいるが、双方の境界には軸受が組み込まれており、コンロッドはクランクピンに対し、自在に回転可能である。
【0003】
クランクシャフトは、使用中の破損が許されない極めて重要な部品であり、その製造に際しては、強度上の弱点を解消するため、一つの金属の塊を鍛造加工によって徐々に変形させていき、クランクアームやクランクピンなどの部位を形成することが多い。ただし鍛造加工は、製造コストの増大に直結するほか、クランクシャフト全体が一体で形成されるため、接続するコンロッドの根元部分を分割構造にする必要があるなど、幾つかの課題があり、その対策として後記の特許文献のような技術が提案されている。
【0004】
特許文献1では、自動車用エンジンなどを軽量化するために開発された「組み立て式の中空クランクシャフト」が開示されている。このクランクシャフトは、ジャーナル部材やクランクピン部材に中空の素材を用いており、これらの端部をクランクアーム部材の嵌合孔に嵌め込んだ後、ジャーナル部材やクランクピン部材の内部にパンチを押し込み、嵌合孔に密着させている。そしてこの嵌め込み箇所で双方を一体的に固定するため、従来から、嵌合孔の内周面には、セレーションなどの凹凸部を形成していたが、パンチを押し込む際、この凹凸部によって正確な心合わせが困難になり、高精度に対する要求に答えることができず、実用性に欠けるという課題があった。そこでこの文献では、嵌合孔に形成する凹凸部の範囲を限定しており、パンチを押し込む際、双方が隙間なく密接嵌合する範囲が確保され、正確な心合わせが実現できるようになった。
【0005】
次の特許文献2では、必要強度を確保しながらも軽量化を達成できるほか、製造や組み付けに要するコストを低減可能な「自動車エンジン用のクランクシャフト」が開示されている。このクランクシャフトは、クランクジャーナルに相当する「ジャーナル」と、クランクピンに相当する「ピン」と、クランクアームに相当する「アーム」と、を個別に製造する形態になっている。そしてアームには、ジャーナルやピンの端部を嵌め込むため、軸孔を形成してあるが、この軸孔は円錐面としてあり、さらにジャーナルとピンは、焼き嵌めでアームと一体化している。このように、ジャーナルとピンとアームを個別に製造することで、鍛造加工を大幅に抑制できるほか、焼き嵌めに先立ち、ジャーナルやピンに軸受を差し込んでおくことで、二分構造の滑り軸受の使用を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】公開実用昭和59-194624号公報
【特許文献2】実用新案登録第3129273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内燃機関に組み込まれるクランクシャフトは、高回転や高負荷といった過酷な条件で使用されるほか、絶対的な信頼性が必要になるため、その製造に際しては、鍛造加工など、手間の掛かる工程が必要になる。また前記の両特許文献のように、クランクアームなどの部品を個別に製造した後、これらを一体化する場合においても、その結合箇所では、双方を強固に嵌め合わせるなど、手間の掛かる作業が必要になることが多い。しかし内燃機関以外の装置に組み込まれるクランクシャフトについては、回転数や負荷などの条件が緩和されることも多く、その場合、必要な強度を確保しながらも、製造コストを抑制できることが望ましく、しかも装置の運用段階においても、保守性に優れていることが望ましい。
【0008】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、必要な強度を確保しながらも製造コストを抑制できるほか、装置の運用段階での保守性にも優れたクランクシャフトの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、一方軸、他方軸、クランク本体および対向フランジと称する各部位を一体化した構成であり、前記一方軸と前記他方軸は、コンロッドが入り込む隙間を隔てて同心で配置してあり、且つ前記クランク本体および前記対向フランジは、該一方軸と該他方軸との隙間に配置してあり、前記クランク本体は、円盤状の駆動フランジと、前記対向フランジに向けて突出する偏心軸と、で構成され、該駆動フランジの表裏両面のうち、一方の面は前記一方軸の端面に接触しており、且つ該駆動フランジと該一方軸は締結具を介して一体化してあり、前記偏心軸は、前記駆動フランジを基準として前記一方軸の反対側に突出しており、且つ該偏心軸は、該一方軸および前記他方軸の回転中心から離れて配置してあり、前記コンロッドの根元部分は、該偏心軸を取り囲むように配置され、前記対向フランジは円盤状であり、その表裏両面のうち、一方の面は前記偏心軸の端面に接触しており、且つ該対向フランジと該偏心軸は締結具を介して一体化してあり、また該対向フランジの表裏両面のうち、他方の面は前記他方軸の端面に接触しており、且つ該対向フランジと該他方軸は締結具を介して一体化してあることを特徴とするクランクシャフトである。
【0010】
本発明では、クランクシャフトを一つの金属の塊から形成する訳ではなく、複数の部位を個別に製造した後、これらを一体化することを前提としており、この複数の部位については、請求項中に記載したように、一方軸と他方軸とクランク本体と対向フランジとの名称を付与している。そして一方軸と他方軸は、従来のクランクジャーナルに相当する円断面の棒状であり、一方軸と他方軸は同心で配置され、その回転中心は、クランクシャフトの回転中心と一致する。また一方軸と他方軸は、接触することなく隙間が確保されており、この隙間にピストンから伸びるコンロッドが入り込む。さらに一方軸と他方軸との隙間において、一方軸の端面にはクランク本体が接触し、他方軸の端面には対向フランジが接触する。
【0011】
クランク本体は、従来のクランクアームとクランクピンを兼ね合わせた部品であり、駆動フランジと偏心軸で構成され、この駆動フランジはクランクアームに相当し、また偏心軸はクランクピンに相当する。そして駆動フランジは文字通りの円盤状であり、その表裏両面のうち、一方の面は一方軸の端面に接触し、さらにクランク本体と一方軸が一体で回転するよう、双方を締結具で一体化する。この締結具は、ボルトやナットなど、一体化した後も、双方を分離可能なものを用いる。なお、締結具として汎用の頭付ボルトを使用する場合、駆動フランジには、頭付ボルトの軸部などを差し込むための穴を形成するほか、一方軸の端面には、頭付ボルトと螺合するメネジを形成することになる。
【0012】
駆動フランジと一方軸は、単純に面接触させることも可能だが、双方の回転中心を一致させるため、駆動フランジには、一方軸を緩みなく嵌め込むための穴や溝を形成することが多い。また回転力の伝達のため、キーの埋め込みやスプラインの形成などを行うこともある。そのほか駆動フランジは、一方軸と同心の円盤状とすることもできるが、動バランスなどを考慮し、より複雑な形状を導入することもある。
【0013】
偏心軸は従来のクランクピンに相当するため、必然的に駆動フランジを基準として一方軸の反対側に突出するほか、一方軸の回転中心から大きく離れて配置される。したがって一方軸を回転させた際、偏心軸は、一方軸の回転中心を公転するように移動する。またコンロッドの根元部分は、偏心軸を取り囲むように配置されるが、双方の境界には軸受を配置してあり、コンロッドは、偏心軸に対して自在に回転可能としてある。その結果、前記のような偏心軸の移動がコンロッドを介してピストンに伝達され、ピストンはシリンダー内で往復直線運動を行うことになる。
【0014】
対向フランジは、従来のクランクアームに相当しており、駆動フランジと同様の円盤状であり、一方軸と他方軸との隙間において、他方軸の端面と接触するように配置される。したがって対向フランジは、隙間を隔てて駆動フランジと対向しており、対向フランジと駆動フランジは偏心軸で結ばれている。そして対向フランジの表裏両面のうち、一方の面は偏心軸の端面に接触しており、さらに対向フランジと偏心軸(クランク本体)が一体で回転するよう、双方はボルトなどの締結具で一体化する。また対向フランジにおいて、偏心軸と接触する面の反対側は、他方軸の端面に接触させるが、対向フランジと他方軸が一体で回転するよう、ここでも双方を締結具で一体化する。
【0015】
対向フランジと他方軸は、単純に面接触させることも可能だが、前記の駆動フランジと同様、双方の回転中心を一致させるため、対向フランジに穴や溝を形成し、そこに他方軸を緩みなく嵌め込むことが多い。また回転力の伝達のため、キーの埋め込みやスプラインの形成などを行うこともある。そのほか対向フランジについても、動バランスなどを考慮した形状を導入することもある。
【0016】
対向フランジと偏心軸を一体化する締結具のほか、対向フランジと他方軸を一体化する締結具についても、ボルトやナットなど、一体化した後も双方を分離可能なものを用いる。なお、締結具として汎用の頭付ボルトを使用する場合、対向フランジには、頭付ボルトの軸部などを差し込むための穴を形成するほか、偏心軸や他方軸の端面には、頭付ボルトと螺合するメネジを形成することになる。
【0017】
このように、一方軸とクランク本体と対向フランジと他方軸の各部位を個別に製造した後、ボルトなどの締結具を用い、これらを一体化することで、クランクシャフトの完成後も、容易に部位ごとに分離可能になる。なお、一本のクランクシャフトに複数のピストンを接続する場合、個々のピストンとの接続箇所において、一方軸と他方軸が隙間を隔てて同心で並び、そこにクランク本体と対向フランジを配置することになる。
【0018】
本発明では、一方軸と他方軸とクランク本体と対向フランジの各部位を締結具で一体化することで、一本のクランクシャフトが完成する。そのためこれらの製造時、鍛造加工などの手間の掛かる工程が不要になる。また、一方軸とクランク本体などを一体化する締結具には、ボルトなどを用いることができる。したがって、このクランクシャフトが組み込まれた装置の運用段階においても、クランクシャフトを分解可能であり、コンロッドやその周辺の部品の点検や修理や交換を無理なく実施することができる。
【0019】
請求項2記載の発明は、クランク本体に関するものであり、クランク本体を構成する駆動フランジと偏心軸は、一つの素材から一体的に形成してあることを特徴とする。駆動フランジと偏心軸は、個別に製造した後、圧入や溶接で一体化することも可能だが、その場合、回転力を受けた際、溶接箇所や圧入箇所に荷重が集中し、それによる破損を引き起こす恐れがある。しかしこの発明のように、切削加工などで一つの素材から一体的に形成することで、荷重が広範囲に分散され、破損を防止できるほか、駆動フランジと偏心軸との境界にフィレットを形成するならば、信頼性が一段と向上する。
【0020】
クランク本体は、クランクシャフト全体に対して十分に小さく、その製造時、切削加工で除去される部分は限定されるため、製造コストに与える影響も限定的である。また圧縮機やプレス機などに組み込まれるクランクシャフトにおいて、一方軸に動力源を接続した場合、その回転力はクランク本体を介してピストンに伝達されることになるが、クランク本体を一体的に形成することで、過大な負荷が作用した場合でもその破損を防ぎ、信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明のように、クランクシャフトを一つの金属の塊から形成するのではなく、一方軸とクランク本体と対向フランジと他方軸を個別に製造した後、これらをボルトなどの締結具で一体化することで、鍛造加工や部品の圧入などの手間の掛かる工程が不要になり、製造コストを抑制できる。しかもボルトなどの締結具の大きさや本数を調整することで、必要な強度を確保することも容易である。
【0022】
本発明によるクランクシャフトが組み込まれた各種装置の運用段階においても、ボルトなどの締結具を取り外すことで、クランクシャフトを容易に分解することができる。そのため、コンロッドやその周辺の部品の点検や修理や交換を無理なく実施可能であり、装置の運用段階での保守性にも優れている。
【0023】
請求項2記載の発明のように、クランク本体を構成する駆動フランジと偏心軸を一つの素材から一体的に形成することで、クランク本体が回転力を伝達する際、荷重が広範囲に分散され、荷重の集中による破損を防ぐことができる。そのため、クランクシャフトが圧縮機やプレス機などに組み込まれ、その一方軸に動力源を接続し、クランク本体でピストンを駆動する場合においても、クランク本体の破損を防ぎ、信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明によるクランクシャフトの構成例を示す斜視図であり、図の上方では、個別の部位ごとに分離した状態を描いてあり、図の下方では、その断面を描いてある。
【
図2】
図1を補足するため、
図1に対して一方軸と他方軸の配置を左右反転させた場合を示す斜視図であり、図の上方では、個別の部位ごとに分離した状態で描いてあり、図の下方では、これらを一体化した後の断面を描いてある。
【
図3】
図1の各部位を一体化してクランクシャフトを完成させる過程を示す斜視図であり、図の左上から図の右下に向けて矢印の順に進んでいく。
【
図4】本発明によるクランクシャフトの使用例を示す斜視図であり、ここではプレス加工装置に組み込むことを想定している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明によるクランクシャフトの構成例を示しており、図の上方では、個別の部位ごとに分離した状態を描いてあり、図の下方では、その断面を描いてある。このクランクシャフトは、一方軸11とクランク本体21と対向フランジ31と他方軸41の各部位を個別に製造した後、これらを一体化する構造であり、一方軸11と他方軸41は、従来のクランクジャーナルに相当しており、いずれも単純な円断面の棒状であり、双方は同心で配置され、その中心がクランクシャフトの回転中心になる。また一方軸11と他方軸41は、双方の端面同士が隙間を隔てて対向しており、そこにコンロッド51の根元部分が入り込む。なお図中の一方軸11や他方軸41は、その端部だけを描いてあり、実際には、より長く伸びている。
【0026】
クランク本体21は、円盤状の駆動フランジ22の一面から偏心軸23が突出した形状であり、この駆動フランジ22は従来のクランクアームに相当しており、また偏心軸23は従来のクランクピンに相当している。しかもクランク本体21は、一つの素材から一体的に形成されており、駆動フランジ22と偏心軸23は完全に一体化している。そしてクランク本体21は、一方軸11の端面に接触させ、一方軸11と一体で回転する必要がある。そのため駆動フランジ22において、偏心軸23が突出する面の反対側の中心には、一方軸11の端部を緩みなく嵌め込むため、主ボス溝24を形成してあり、この嵌め込みにより、双方の回転中心を固定している。
【0027】
クランク本体21と一方軸11を一体化するため、一本のピン61と四本の締結具62を用いている。ここでの締結具62は六角穴付ボルトであり、駆動フランジ22から一方軸11に向けて差し込む。そのため駆動フランジ22には、締結具62の軸部を差し込むための締結穴26を形成してあるが、その入り口側は、締結具62の頭部を埋め込むため、内径を拡大してある。また一方軸11の端面には、締結穴26と同心に揃う位置にメネジ16を形成してある。
【0028】
ピン61は単純な丸棒状であり、駆動フランジ22と一方軸11との位置決めのほか、回転力の伝達を担っており、このピン61を差し込むため、駆動フランジ22には両面を貫くピン穴25を形成してあり、また一方軸11の端面には、これと同心に揃う位置に有底のピン穴15を形成してある。なおピン61は、摩擦によって緩みなくピン穴15、25で保持される。そのほかこの図の駆動フランジ22では、偏心軸23との兼ね合いから、ピン穴25や締結穴26を偏って配置してあり、中央のピン穴25を基準としてその左右いずれとも、二つの締結穴26が並んでいる。
【0029】
対向フランジ31は単純な円盤状であり、従来のクランクアームに相当しており、他方軸41の端面に接触し、他方軸41と一体で回転する。そのため対向フランジ31の中心には、他方軸41の端部を緩みなく嵌め込むため、主ボス溝34を形成してあり、さらに双方を一体化するため、ピン67と締結具68を用いている。なお、対向フランジ31と他方軸41を一体化する構成は、駆動フランジ22と一方軸11の場合と全く同じであり、締結具68として六角穴付ボルトを用いており、対向フランジ31には、締結具68を差し込むための締結穴36を形成してあり、他方軸41の端面には、締結具68と螺合するメネジ46を形成してある。またピン67を差し込むため、対向フランジ31にはピン穴35を形成してあり、他方軸41の端面には、これと同心でピン穴45を形成してある。
【0030】
駆動フランジ22と対向フランジ31は、隙間を隔てて同心で並んでいるが、双方は偏心軸23を介して一体化され、必然的に一体で回転することになる。そのため対向フランジ31には、偏心軸23の端部を緩みなく嵌め込むため、偏ボス溝33を形成してあり、さらに対向フランジ31と偏心軸23を一体化するため、一本のピン64と三本の締結具65を用いているが、この締結具65は六角穴付ボルトである。そしてピン64と締結具65のいずれも、対向フランジ31から偏心軸23に向けて差し込まれる。
【0031】
そのため対向フランジ31には、締結具65の軸部を差し込むための締結穴39を形成してあり、その入り口側については、締結具65の頭部を収容するため、内径を拡大してあり、また偏心軸23の端面には、締結具65と螺合するメネジ29を形成してある。そのほかピン64を差し込むため、対向フランジ31にはピン穴38を形成してあり、さらに偏心軸23の端面には、これと同心でピン穴28を形成してある。なお三箇所の締結穴39の入り口については、主ボス溝34の底面に形成してあり、締結具65は他方軸41で覆い隠される。
【0032】
コンロッド51は棒状であり、その一端側には先方穴56を形成してあり、他端側には根元穴53を形成してあり、根元穴53にベアリング54が嵌め込まれている。そしてベアリング54の内周に偏心軸23を差し込むことで、コンロッド51は偏心軸23で保持された状態になる。ただしベアリング54により、コンロッド51は偏心軸23に対し、自在に回転可能である。また偏心軸23は、一方軸11と他方軸41の回転中心に対して離れて配置してある。そのためクランクシャフトが完成した状態で一方軸11と他方軸41が回転すると、偏心軸23は、一方軸11と他方軸41の回転中心を公転するように移動し、これをコンロッド51に伝達させることで、往復直線運動を発生させることができる。なおこの図では、偏心軸23と対向フランジ31を一体化するのに先立ち、コンロッド51に偏心軸23を差し込むことができ、コンロッド51の根元穴53の周囲を分割構造にする必要がない。
【0033】
図2は、
図1を補足するため、
図1に対して一方軸11と他方軸41の配置を左右反転させた場合を示しており、図の上方では、個別の部位ごとに分離した状態を描いてあり、図の下方では、これらを一体化した後の断面を描いてある。この図のように、クランク本体21の駆動フランジ22には、一方軸11の端部を緩みなく嵌め込むため、主ボス溝24を形成してある。またクランク本体21と一方軸11は、ピン61と締結具62で一体化することになるが、これらを差し込むため、主ボス溝24の底面には、ピン61を差し込むためのピン穴25のほか、締結具62を差し込むための締結穴26を形成してある。
【0034】
対向フランジ31については、偏心軸23の端部を緩みなく嵌め込むため、偏ボス溝33を形成してあり、さらに対向フランジ31と偏心軸23は、ピン64と締結具65で一体化する。そのため偏ボス溝33の底面には、ピン64を差し込むためのピン穴38のほか、締結具65を差し込むための締結穴39を形成してある。そのほか偏ボス溝33から離れた位置には、一箇所のピン穴35と四箇所の締結穴36を形成してある。これらは対向フランジ31と他方軸41を一体化するために用い、ピン穴35にはピン67が差し込まれ、締結穴36には締結具68が差し込まれる。
【0035】
図の下方のように、各部位を一体化することで一本のクランクシャフトが完成する。その際、一方軸11の端部は、駆動フランジ22の主ボス溝24に緩みなく嵌まり込み、また他方軸41の端部は、対向フランジ31の主ボス溝34に緩みなく嵌まり込み、さらに偏心軸23の端部は、対向フランジ31の偏ボス溝33に緩みなく嵌まり込む。そして、このクランクシャフトが組み込まれた装置の運用段階においても、ピン61、64、67や締結具62、65、68を取り外すことでクランクシャフトを分解可能であり、部品の点検や修理や交換といった保守作業を容易に実施可能である。
【0036】
締結具62、65、68の大きさや本数については、この図の形態に限定される訳ではなく、想定される回転力などに基づき、自在に調整することになるが、回転力が大きい場合、一方軸11や他方軸41の端部にスプラインなどを形成することもある。またこの図では、各締結具62、65、68に六角穴付ボルトを用いているが、これに限定されるものではなく、自動車のタイヤの取り付け箇所と同様、スタッドボルトを用いることもできる。この場合、個々のメネジ16、29、46にスタッドボルトを一体化させた後、突出したスタッドボルトを締結穴26、39、36に差し込み、最後にナットを螺合させることになる。
【0037】
図3は、
図1の各部位を一体化してクランクシャフトを完成させる過程を示しており、図の左上から図の右下に向けて矢印の順に進んでいく。まずは図の左上のように、ピン61と締結具62を用い、一方軸11とクランク本体21を一体化する。その際、ピン61と締結具62は、駆動フランジ22の内部に埋め込まれる。次に図の右上のように、クランク本体21の偏心軸23にコンロッド51を接続させる。なおコンロッド51の根元穴53には、あらかじめベアリング54が嵌め込まれており、その内周に偏心軸23を差し込んでいる。
【0038】
その後、図の右中程のように、偏心軸23の端部を対向フランジ31に嵌め込むと、コンロッド51は、駆動フランジ22と対向フランジ31で挟み込まれた状態になる。なお対向フランジ31については、後の作業を円滑に行うため、この図のように、あらかじめピン67と締結具68を差し込んでおくことがある。そして最後には、図の右下のように、対向フランジ31と他方軸41を一体化すると、一本のクランクシャフトが完成する。
【0039】
図4は、本発明によるクランクシャフトの使用例を示しており、ここではプレス加工装置に組み込むことを想定している。コンロッド51の端部には、通常、ピストンピン76を介してピストンを取り付けることになるが、ここではピストンに代わって金型77を取り付けてあり、これが往復直線運動を繰り返すことで、連続成形が可能になる。また金型77の動力は、一方軸11の端部に取り付けたプーリー71から供給される。したがって一方軸11に作用する回転力は、クランク本体21を介してコンロッド51に伝達することになるが、先の
図1などのように、クランク本体21は、駆動フランジ22と偏心軸23が一つの素材から一体的に形成されており、荷重の集中などを生じにくい。そのため過大な回転力が作用した場合でも、その破損を防ぐことができる。なお作図は省略するが、実際にはプーリー71の外周にベルトが嵌め込まれる。
【0040】
クランクシャフトを回転可能な状態で保持するため、一方軸11と他方軸41のいずれも、ベアリング72を組み込んである。この図では、個々の軸に対し、ベアリング72を一個だけ描いてあるが、実際には複数個とする場合が多く、さらに荷重条件に応じて最適な種類を選択することになる。また、各種装置にクランクシャフトを組み込む際は、図の下方に描くように、一方軸11や他方軸41やベアリング72をハウジング74に収容することになる。なおこれまでの各図は、発明の説明を目的としているため、実物と比較して大幅に簡素化して描いてある。そのほか本発明によるクランクシャフトは、各図に示す形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
11 一方軸
15 ピン穴
16 メネジ
21 クランク本体
22 駆動フランジ
23 偏心軸
24 主ボス溝
25 ピン穴
26 締結穴
28 ピン穴
29 メネジ
31 対向フランジ
33 偏ボス溝
34 主ボス溝
35 ピン穴
36 締結穴
38 ピン穴
39 締結穴
41 他方軸
45 ピン穴
46 メネジ
51 コンロッド
53 根元穴
54 ベアリング(根元穴に嵌め込むもの)
56 先方穴
61 ピン(一方軸とクランク本体との締結用)
62 締結具(一方軸とクランク本体との締結用)
64 ピン(クランク本体と対向フランジとの締結用)
65 締結具(クランク本体と対向フランジとの締結用)
67 ピン(対向フランジと他方軸との締結用)
68 締結具(対向フランジと他方軸との締結用)
71 プーリー
72 ベアリング(一方軸や他方軸を保持するもの)
74 ハウジング
76 ピストンピン
77 金型