IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 塚田 啓二の特許一覧

特開2023-29151磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置
<>
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図1
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図2
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図3
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図4
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図5
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図6
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図7
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図8
  • 特開-磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029151
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
G01N27/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021153650
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】720008405
【氏名又は名称】塚田 啓二
(72)【発明者】
【氏名】塚田 啓二
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AA14
2G053AA17
2G053AA25
2G053AB07
2G053AB27
2G053BA03
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA04
2G053CA06
2G053CA10
2G053CB25
2G053DA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非磁性体や磁性体に関係なく金属の局所的な導電率および透磁率を評価す方法と装置を提供する。
【解決手段】検査対象物の電磁的特性を検査する方法であって、交流磁場を印加する印加コイルと、印加した磁場により検査対象物に誘引された磁場を検出する磁気センサと、からなる磁気プローブと、印加コイルに少なくとも所定の2つの周波数の交流電流を合成、あるは時系列的に通電させる交流定電流源と、磁気センサの出力信号の所定の各周波数の信号を検波する検波器と、検波器の出力信号を解析する解析器と、を有する非破壊検査装置において、検査対象物の板厚情報をもとに所定の2つの周波数を決定し、検波器で第1の周波数で得られた強度と位相を成分とする磁場ベクトルと、第2の周波数で得られた第2の磁場ベクトルとの差ベクトルの位相成分を検出し、この位相成分と各板厚における導電率及び透磁率との関係から、検査対象物の導電率及び透磁率を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の電磁的特性を検査する方法であって、検査対象物に交流磁場を印加する印加コイルと、前記印加コイルで印加した磁場により前記検査対象物に誘引された磁場を検出する磁気センサから構成される磁気プローブを設け、
前記印加コイルに少なくても所定の2つ以上の交流磁場を合成させて印加、あるは時系列的に各周波数の周波数の交流電流を通電させる交流定電流源と、前記磁気センサの出力信号の所定の各周波数の信号を検波する検波器と、前記検波器の出力信号を解析する解析器とを有する非破壊検査装置において、
検査対象物のあらかじめ得られた板厚情報をもとに、所定の2つの周波数を決定して、第1の周波数で検波して得られた強度と位相を成分とする磁場ベクトルと、第2の周波数での検波により得られる強度と位相とを成分とする第2の磁場ベクトルの差として得られる差ベクトルの位相成分を検出して、この位相成分を用いて、各板厚における導電率及び透磁率と位相の関係のデータベースから、前記検査対象物の導電率及び透磁率を検査することを特徴とする電磁的材料評価方法。
【請求項2】
前記非破壊検査装置において、印加コイルで印加する磁場として2つの周波数を合成させて印加して、計測した位置を判定するエンコーダーを設けて得られる位置情報と、前記差ベクトルの位相情報により前記検査対象物の導電率及び透磁率の分布を検査することを特徴とする電磁的材料評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性体や磁性体の金属材料の電磁気的特性である導電率及び透磁率を磁気的かつ非破壊で評価するとともに、金属疲労や金属の熱処理による変態を評価する電磁気的材料評価方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の電磁気的特性を評価する場合、その一つである導電率を測定する従来の方法では、検査対象に電流を流し込み、それによって生じる電圧を測定して導電率を求める方法が一般にとられている。しかしこの方法では検査対象である金属の形状により電流分布が異なるため、シミュレーションにより電流分布を推定して導電率を求める必要がある。このため、検査材料を一定の形状に切り出して計測する四端子法が最も正確な方法となる。従来の方法は、電流や電圧を接触式の電極で計測する必要があったが、これを非接触で検査する方法がいくつか開発されており、例えば電流分布を磁気センサにより計測し、電圧を静電容量センサで計測して導電率を計測する方法がある(特許文献1)。
【0003】
電磁気的特性のもう一つのパラメーターである透磁率を測定する場合では、非磁性体における透磁率は真空の透磁率と同じであるため、測定する必要はない。一方、磁性体の透磁率は真空の透磁率より大きく、また一定値でなく印加磁場の強度によっても変化する。このため、印加磁界Hと金属材料の磁化Bの関係を示すH-B曲線は非線形でしかもヒステリシス曲線を描く。そのため検査対象を一定の形状に切り出して、大きな電磁石の間に検査対象を設置して、印加磁界を変化させて磁化を計測する方法による磁化測定装置が用いられている。
【0004】
基本的な金属材料の電磁気的特性を評価する方法は、一定の形状に切り出して検査することが行われており、材料開発においては重要な評価である。橋梁などのインフラ構造物や飛行機や鉄道などの輸送機などにおける金属構造物は疲労による劣化は大きな破断損傷に至らないように定期的に非破壊で検査する必要がある。これらの劣化は電磁気的特性と高い相関関係があり、導電率や透磁率の変化が発生する。このため、これら電磁気特性を非破壊で検査することにより劣化を検知することができる。また、自動車などに用いられている鋼板でできたパーツでは、衝突時の衝撃を減らすために鋼板の熱処理である焼き入れ焼きなまし処理により硬度を変化させている。特に部分的に熱処理して、一つの鋼板材料中の硬度の異なる個所を設ける部分焼き入れが広く行われている。熱処理による硬度は、ゆっくり焼き戻しした場合では鋼板の結晶構造であるフェライトやパーライトの組織になり硬度が低く、一方、急冷した場合にはマルテンサイトの組織になり硬度が高い組織が得られる。このように鋼材は熱処理によりこれらの組織や他の組織になり変態率を検査することは、製品として鉄鋼材の硬度などの機械的特性を保証するうえで重要となる。
【0005】
熱処理により求めた機械的特性が得られているかを検査する方法として、ビッカース硬さ検査が行われている。このビッカース硬さ検査は固い針状のものを検査対象に押し付け、発生したくぼみの大きさにより硬度を検査する方法である。この方法は表面に傷をつけるため、製品には適用できなく、サンプリングにより検査する方法がとられている。一方、機械的特性と透磁率や導電率は高い相関があることが知られているので、これらを磁気的に非破壊で検査する方法がいくつか開発されている。例えばUの字の磁化器を用いて、検査対象の鋼材に磁束を流し、鋼材の反対側で漏れ出ている磁束を磁気センサにより検出する方法などがある(特許文献2)。
【0006】
磁気的な一般的な非破壊検査方法としては、交流磁場を印加して対象物に渦電流を発生させ渦電流が生成した磁場を検出する渦電流探傷法や、強い磁場をUの字の磁化器を用いて印加して漏れてくる磁場を検出する漏洩磁束探傷法が知られている。これらは金属構造物のき裂の検出に多く用いられている。腐食による鋼材の板厚変化を検出するものとして極低周波渦電流法がある(特許文献3)。
極低周波渦電流法は2つの周波数を用いて、それぞれの周波数で検出される磁場を磁気センサで計測し、得られた信号を強度と位相からなる磁場ベクトルとして解析し、差ベクトルを求め、その位相から板厚を推定するものである。これらの渦電流探傷法で電磁的特性を評価する方法は少なく、例えば、渦電流探傷法で導電率及び透磁率を測定する方法として、印加コイルのインピーダンス変化により、電磁解析によりあらかじめ求めておいたデータベースと比較して推定する方法が報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-156362
【特許文献2】特開平5-126798
【特許文献3】特許第6551885号
【特許文献4】特開平9-113488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電磁気特性を評価する方法として対象物に電極を接触させ電流を流す方法では、電極の接触状態を安定化させる必要があり、また、電流分布をあらかじめ解析しておく必要があり、形状が異なるものに対して正確に導電率を推定することは困難であった。また、透磁率として漏洩磁束探傷法を用いた場合、対象物の形状や厚みによって、検査結果が違ってくるため、これらの検査結果の変動を補償する必要があった。また探傷するプローブはUの字形で大きくなり、さらに反対側に検出部を設けているので、局所的な透磁率を検査することが困難であった。また漏洩磁束探傷法は非磁性体の金属には適応できない問題があった。渦電流探傷法では印加する磁場の周波数や検査対象の板厚による変化などが考慮されていなかった。また、板厚を測定する極低周波渦電流では板厚を測定する方法であり、対象物の電磁気的特性を解析する方法ではなく、さらに電磁気的特性による推定板厚による変動を考慮していなかった。
【0009】
本発明者は、このような現状に鑑み、非磁性体や磁性体など種類に関係なく金属の電磁気的特性である導電率および透磁率を評価できる方法の開発を行い、かつ局所的な電磁気的特性を評価できる方法と装置の開発を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気を用いた電磁気的材料評価方法及び装置は、検査対象物の電磁的特性を検査する方法であって、検査対象物に交流磁場を印加する印加コイルと、印加コイルで印加した磁場により前記検査対象物に誘引された磁場を検出する磁気センサから構成される磁気プローブを設け、この印加コイルに少なくても所定の2つの周波数の交流磁場を合成させて印加、あるは時系列的に各周波数の交流電流を通電させる交流定電流源と、磁気センサの出力信号の所定の各周波数の信号を検波する検波器と、この検波器の出力信号を解析する解析器とを有する非破壊検査装置において、検査対象物のあらかじめ得られた板厚情報をもとに、所定の2つの周波数を決定して、検波器で第1の周波数で検波して得られた強度と位相を成分とする磁場ベクトルと、第2の周波数での検波により得られる強度と位相とを成分とする第2の磁場ベクトルとのベクトルの差として得られる差ベクトルの位相成分を検出して、この位相成分を用いて、各板厚における導電率及び透磁率と位相の関係のデータベースから、検査対象物の導電率及び透磁率を検査することを特徴とする。
【0011】
さらに局所的な電磁気特性の変化を検査するために、電磁気的材料評価装置において、印加コイルで印加する磁場として2つの周波数を合成させて印加して、計測した位置を判定するエンコーダーを設けて得られる位置情報と、差ベクトルの位相情報により検査対象物の導電率及び透磁率の分布を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非破壊で非磁性体や磁性体の金属の導電率および透磁率の電磁気的特性を非破壊で評価することができる。これにより金属構造物の経年劣化や熱処理による鉄鋼材の変態などを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る電磁気的材料評価装置の構成図である。
図2】第1の磁場ベクトルと第2の磁場ベクトルの差ベクトルから位相を求める方法を示した図である。
図3】板厚8mmの非磁性体における導電率と差ベクトルの位相の関係を求める時の、周波数の組み合わせを比較した図である。
図4】周波数200Hzと100Hzの差ベクトルによる板厚8mmの非磁性体の位相と導電率の関係を示した図である。ここで、試験体として8mmの板厚のアルミニウムと銅の導電率を判定した結果も図中に示している。
図5】板厚8mmの磁性体における導電率と透磁率の積σμと差ベクトルの位相の関係を求める時の、周波数の組み合わせを比較した図である。
図6】板厚16mmの磁性体における導電率と透磁率の積σμと差ベクトルの位相の関係を求める時の、周波数の組み合わせを比較した図である。
図7】周波数200Hzと100Hzの差ベクトルによる板厚1.4mmの鋼板の位相と、導電率と透磁率の積σμの関係を示した図である。
図8図7に示した関係式を用いて、各温度で熱処理した鋼板の導電率と透磁率の積σμの変化を示した図である。
図9図7に示した関係式を用いて、部分焼き入れした板厚1.4mmの鋼板の位相をラインスキャンニングして求め、鋼板の導電率と透磁率の積σμの局所的な変化を検査した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の実施形態を、添付する図面を参照して詳細に説明する。同様の用途及び機能を有する部材には同符号を付してその説明を省略する。
【0015】
第1の実施例は図1に示すように金属性の試験体1に、印加コイル2と磁気センサ3からなる磁気プローブ4を近づけ、あるいは接触させて計測している。印加コイル2により試験体に磁場を印加して,渦電流を発生させ,その渦電流が作る磁場を磁気センサ3として磁気抵抗素子(MR)で計測している。磁気センサとしてMRだけでなく、トンネル型抵抗素子(TMR)や、磁気インピーダンス素子(MI)、超伝導量子干渉素子(SQUID)など低周波から感度があるものであれば、なんでも使うことができる。一般的な渦電流探傷装置は印加コイルを交流の定電圧源で駆動していたが,図1に示す本発明の電磁気的材料評価装置では交流の定電流源5で印加コイル2を駆動して,対象物に一定の磁界を印加している。ここで所定の周波数を印加できるように、2つの交流周波数の合成あるいは時間で切り替えて周波数発振器6より発生させ、定電流源で印加コイルに電流を流す。ここで、所定の周波数はあらかじめマイクロゲージや超音波で板厚計測して得られた板厚情報をもとに最適な周波数が選択される。印加する周波数は選択された2つの周波数だけでなく、他の周波数を含んだ複数の周波数でもよく、解析の時に最適な2つの周波数を選択してもよい。また非常に多くの周波数を含んだ波形はパルス波であるので、このパルス波を用いてから解析の時に、最適な2つの周波数の信号を選んでもよい。合成各周波数における印加電流値は,試験体1に各周波数で同じ強度の磁界を印加させるため,交流で一定の振幅値とする必要がある。磁気センサ3のところには、印加コイルによる磁場が直接入ってこないようにキャンセルコイルを設けてもよい。磁気センサの計測回路7を通して信号が出力され,印加磁場の周波数と同じそれぞれの周波数で検波器8-1,8-2により参照信号と同位相である実数成分の信号と90°位相がずれた虚数成分の信号を検波している。検波により信号は強度と位相からなる、あるいは別の表記ではそれぞれの実数成分と虚数成分からなる磁場ベクトルを解析することができる。ここでは2つの周波数を用いたので、検波器を2台用いた。検波器8-1,8-2の出力をマルチプレクサ9で切り替えて,データ収録・解析装置10に取り込みデータ収録し解析して表示している。ここで、検波器を使わなくても、センサ回路の出力の時間波形をAD変換してデータ収録して、パソコンによりデジタル的に同相成分と90°位相成分を解析することもできる。この場合にはロックイン検波器が必要ないので、装置の小型化ができる。
【0016】
2つの周波数fとfの磁場を印加し、検波することによって得られた第1の磁場ベクトルと第2の磁場ベクトルを図2のように示すことができる。第1の磁場ベクトルと第2の磁場ベクトルの差である差ベクトルの位相をθが得られる。金属の電磁気的特性として導電率σと透磁率μがある。本発明ではθから導電率σと透磁率μの積σμの値が得られる。アルミニウムや銅等の非磁性体では透磁率は真空の透磁率と同じであるので、σμの値から導電率σを得ることができる。また、鉄鋼材のように磁性体では導電率と透磁率を切りわけることができないが、どちらかのパラメーターがあらかじめ分かっている場合は当然もう一つのパラメーターを決定することができる。また、熱処理による変態や、経年劣化など機械的特性変化は導電率と透磁率の両方つまりσμと相関があるため、両者の積であるσμが重要となる。
【0017】
非磁性体である金属の板厚8mmにおける2つの周波数の最適化を図3に示す。非磁性体であるので透磁率は真空の透磁率である4π×10-7H/mと同じで一定であるので、σμは導電率σのグラフとして表せる。2つの周波数の組み合わせを変化させたときの導電率σと位相の関係を示している。周波数として第1の周波数を30Hzとして、第2の周波数を50Hzとして得られた差ベクトルの位相のグラフは線形性がなく、位相から導電率を推定することができないことが分かる。一方、周波数を高くして、周波数として第1の周波数を100Hz、第2の周波数を200Hzとして得られた差ベクトルの位相θのグラフが最も線形性が良いことが分かる。よって、板厚8mmの非磁性体ではこの位相θと導電率σの関係式を用いれば、試験体の導電率を評価することができることが分かる。
【0018】
試験体としてマイクロゲージで測定して8mmだった銅とアルミニウムの板を第1の周波数を100Hz、第2の周波数を200Hzとして、計測して求めた位相を、図4に示す位相θと導電率σのキャリブレーション式に入力したところ、銅の導電率は5.9×10S/m、アルミニウムの導電率は3.7×10S/mが得られ、これらの値は金属材料の物性値として知られている値と一致した。
【0019】
次に磁性体である鉄鋼材の2つの周波数の最適化を図5に示す。8mmにおける2つの周波数の組み合わせを変化させたときの導電率と透磁率の積σμと位相θの関係を示している。周波数として第1の周波数を1Hzとして、第2の周波数を3Hzとして得られた差ベクトルの位相のグラフは線形性が悪い。一方、周波数として、第1の周波数を5Hz、第2の周波数を20Hzとして得られた差ベクトルの位相θのグラフが最も線形性が良く、また感度が大きいことが分かる。板厚が厚くなると選択する周波数は低くなり、例えば8mmの時に線形性が良かった周波数の組み合わせ5Hzと20Hzは、図6に示すように板厚16mmでは線形性がやや悪くなる。一方、周波数の組み合わせ1Hzと3Hzにすると線形性が良くなっている。この様に板厚が厚いと周波数は低くする必要があり、反対に薄くなると周波数を高くする必要がある。
【0020】
熱処理による鋼板の電磁気特性を評価した結果を図7図8に示す。熱処理により硬度を変化させることは自動車や機械部品などで行われている。この例では板厚1.4mmの鋼板を熱処理した時の電磁気特性の処理温度の違いを示している。板厚1.4mmでは板厚が薄くなるので周波数は高くなり、最適周波数は第1の周波数を100Hzとして、第2の周波数を200Hzとした。図7に示すように位相に対する電磁気特性であるσμは線形性が良い。このグラフのキャリブレーション式を用いて、各温度で処理した鋼板のσμを図8に示す。温度700℃で処理した鋼板のσμは大きく、温度が上がるにつれ小さくなり900℃以上で飽和した。鋼板の組織は700℃ではフェライトとパーライトの組織であり、900℃以上ではフェライトとマルテンサイトの組織に変化していた。マルテンサイトはパーライトに比べ透磁率が小さくなることが分かっており、本発明の位相θから組織が変化した変態率を評価できることが分かった。
【0021】
自動車等では一つのパーツで部分的に硬度を変えるために部分焼き入れが施されている。目的の個所が必要な硬度に達成しているか検査する必要するために、本発明では、磁気プローブにエンコーダーを取り付けて、位相の計測と同時に位置情報をデータとして取り込んだ。また、磁気プローブをラインスキャンニングしながら計測できるように、印加磁場も2つの周波数を合成して同時にかつ連続して印加した。図9は部分焼き入れした板厚1.4mmの鋼板の位相をラインスキャンニングして求め、鋼板の導電率と透磁率の積σμの局所的な変化を検査した図である。このように局所的に焼き入れした個所がどこまでか、また十分焼き入れが達成しているかを評価できた。
【0022】
他の利用としては、金属構造物の劣化である機械的特性は電磁気的特性と相関があることが分かっている。このため、金属構造物の評価個所の厚みをマイクロゲージや超音波板厚計により計測した後、電磁気的特性評価により劣化も診断できる。
【符号の説明】
【0024】
1 試験体
2 印加コイル
3 磁気センサ
4 磁気プローブ
5 定電流源
6 周波数発振器
7 計測回路
8-1 検波器
8-1 検波器
9 マルチプレクサ
10 データ収録・解析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9