(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029170
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】複合材料、スパッタリングターゲット、薄膜被覆部材、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20230224BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230224BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20230224BHJP
C04B 35/505 20060101ALI20230224BHJP
C04B 35/14 20060101ALI20230224BHJP
C04B 35/117 20060101ALI20230224BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/06 L
C04B35/50
C04B35/505
C04B35/14
C04B35/117
C04B35/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198807
(22)【出願日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2021134966
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518019651
【氏名又は名称】株式会社表面・界面工房
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】多賀 康訓
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA03
4K029BA10
4K029BA15
4K029BA41
4K029BA44
4K029BA46
4K029BA51
4K029BA62
4K029BA64
4K029BC07
4K029CA05
4K029DC05
4K029DC09
4K029DC24
4K029DC39
(57)【要約】
【課題】機械的強度の高い複合材料及びその製造方法を提案する。
【解決手段】複合材料は、マトリックスと、フッ素樹脂と、金属材料と、を含む。マトリックスは、金属酸化物である。金属材料は、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上である。当該複合材料は、一例としてスパッタリングターゲットとして利用可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物のマトリックスと、
フッ素樹脂と、
In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上である金属材料と、
を含む、複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料であって、
前記金属酸化物は、金属元素としてCe,Y,Al,Si,Nbを含む群から選択される1種以上を含む、複合材料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の複合材料であって、
前記金属酸化物と、前記フッ素樹脂と、の混成重量比は20:1~1:1の範囲であり、
前記金属酸化物、前記フッ素樹脂、及び前記金属材料の総重量を100%としたときに、前記金属材料が0.1重量%以上50重量%以下である複合材料。
【請求項4】
請求項3に記載の複合材料であって、
前記金属酸化物と前記フッ素樹脂との間、及び、前記金属材料と前記フッ素樹脂との間で、金属フッ化物又はフッ化炭素の複合化合物相を形成している、複合材料。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合材料であって、
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンを含む群から選択される少なくとも1種以上を含む、複合材料。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の複合材料により構成される、スパッタリングターゲット。
【請求項7】
ワークと、
前記ワークの表面にスパッタリングにより形成された薄膜と、を備え、
前記薄膜は、金属酸化物のマトリックスと、フッ素樹脂と、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上である金属材料と、を含む、薄膜被覆部材。
【請求項8】
複合材料の製造方法であって、
金属酸化物粉末と、フッ素樹脂粉末と、金属材料粉末と、を含む材料粉末を混合して混合物を得ることと、
前記混合物を圧縮成形して成形加工物を得ることと、
前記成形加工物を100℃以上350℃以下で焼成して焼結体を得ることと、
を含み、
前記金属材料粉末は、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上の金属材料を含む、複合材料の製造方法。
【請求項9】
金属酸化物粉末と、フッ素樹脂粉末と、金属材料粉末と、を含む材料粉末を混合して混合物を得ることと、
前記混合物を圧縮成形して成形加工物を得ることと、
前記成形加工物を100℃以上350℃以下で焼成して焼結体を得ることと、
前記焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて、スパッタリングにより所定のワークに薄膜を形成することと、を含み、
前記金属材料粉末は、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上の金属材料を含む、薄膜被覆部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無機材料と有機材料を含む複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料と有機材料の長所、短所を複合化補完し新しい機能の発現を目的として、無機材料と有機材料との複合材料の研究開発が活発に行われている。例えば、無機材料である金属化合物は、剛性が高く耐熱・耐環境性に優れる。一方で、一般に無機材料は柔軟性に劣り、また製造・加工に高温プロセスが必要で省エネ性に欠ける。有機材料の例として、炭化水素化合物(メタン系、エチレン系、アセチレン系、ハロゲン系、オレフィン系等)やフッ素系化合物が挙げられる。これらは、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂ケイ素樹脂等の合成樹脂材料として広く用いられている。一般に、有機材料の長所は柔軟で可撓性に富む点である一方で、有機材料は耐擦傷性、耐熱性、耐侯性(耐紫外光性)に欠ける短所がある。
【0003】
また、上記無機材料と有機材料から成る複合材料(以下、単に複合材料とも記載する)の課題の1つとして、有機材料の耐熱性により律速される低温合成プロセスがある。事実、最も耐熱性に優れた有機材料であるフッ素樹脂のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)においてもその耐熱性は300℃程度である。こうした低温プロセスによる複合材料の製造においては、加圧成型時に形態を保持すべく接着・接合目的で、通常、アクリル等の有機バインダーを用いている。しかし、300℃程度の低温焼結による複合材料には、機械的強度不足に起因する割れや破損が生じやすく、また、有機バインダーの複合材料内の残存による影響も懸念される。
【0004】
無機材料、有機材料等の複合化は、バルク材のみならず薄膜の分野においても強いニーズがある。事実、無機基板又は有機基板上に無機又は有機薄膜を形成し新しい機能を付与する表面処理が研究開発されている。また、軽量化や変形性の観点から従来の重くて硬い無機基板に代わり軽くて形状柔軟性のある樹脂フィルムが用いられ始めている。こうした樹脂基体や基板の表面処理には低温成膜が可能なスパッタリングが広く用いられている。また、処理面積の大面積化に伴い使用する有機無機複合材料から成るスパッタリングターゲットの大型化により、複合材料の一層高い機械的強度が求められている。
【0005】
さらに、薄膜の研究開発においてもこれまでの無機化合物に加えより高い機能を求め有機物との複合化合物膜の作製と評価が研究されている。ところが、無機物と有機物の混合物ターゲットの焼結温度は有機物の蒸発温度に律速されて低温焼結で作製されることからその機械的強度は、例えば特許文献1や特許文献2に開示される高温焼結ターゲットに比べ低く、十分な機械的強度が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-162755号公報
【特許文献2】特開2019-137875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、すなわち、機械的強度の高い複合材料及びその製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、複合材料であって、マトリックスと、フッ素樹脂と、金属材料と、を含む。マトリックスは、金属酸化物である。金属材料は、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上である。このような複合材料は、高い機械的強度を有する。
【0009】
上述した複合材料において、金属酸化物は、金属元素としてCe,Y,Al,Si,Nbを含む群から選択される1種以上を含んでもよい。また上述した複合材料において、フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンを含む群から選択される少なくとも1種以上を含んでもよい。
【0010】
また上述した複合材料は、金属酸化物と、フッ素樹脂と、の混成重量比は20:1~1:1の範囲であってもよい。また、金属酸化物、フッ素樹脂、及び金属材料の総重量を100%としたときに、金属材料が0.1重量%以上50重量%以下であってもよい。このような混成重量比であれば、複合材料はより高い機械的強度を有することができる。
【0011】
また上述した複合材料は、金属酸化物とフッ素樹脂との間、及び、金属材料とフッ素樹脂との間で、金属フッ化物又はフッ化炭素の複合化合物相を形成していてもよい。このような複合材料であれば、より高い機械的強度を有することができる。
【0012】
本開示の一態様は、スパッタリングターゲットであって、上述した複合材料により構成される。このようなスパッタリングターゲットであれば、機械的強度が高く、例えば大型化しても破損が生じにくい。
【0013】
本開示の一態様は、薄膜被覆部材であって、ワークと、薄膜と、を備える。薄膜は、ワークの表面にスパッタリングにより形成される。また、薄膜は、マトリックスと、フッ素樹脂と、金属材料と、を含む。マトリックスは、金属酸化物である。金属材料は、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上である。このような薄膜被覆部材であれば、薄膜の機械的強度が高いため、薄膜の破損が抑制される。
【0014】
本開示の一態様は、複合材料の製造方法であって、金属酸化物粉末と、フッ素樹脂粉末と、金属材料粉末と、を含む材料粉末を混合して混合物を得ることと、混合物を圧縮成形して成形加工物を得ることと、成形加工物を100℃以上350℃以下で焼成して焼結体を得ることと、を含む。金属材料粉末は、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上の金属材料を含む。このような製造方法であれば、フッ素樹脂の機能を維持しつつ、高い機械的強度を有する複合材料を製造することができる。
【0015】
本開示の一態様は、薄膜被覆部材の製造方法であって、金属酸化物粉末と、フッ素樹脂粉末と、金属材料粉末と、を含む材料粉末を混合して混合物を得ることと、混合物を圧縮成形して成形加工物を得ることと、成形加工物を100℃以上350℃以下で焼成して焼結体を得ることと、焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて、スパッタリングにより所定のワークに薄膜を形成することと、を含む。金属材料粉末は、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上の金属材料を含む。このような製造方法であれば、薄膜におけるフッ素樹脂の機能を維持しつつ、薄膜が高い機械的強度を有する薄膜被覆部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】曲げ強度評価試験を行う装置を示す図である。
【
図2】複合材料スパッタリングターゲットを用いて作製したCeO
2-PTFE-In膜の分光特性を示すグラフである。
【
図3】複合材料スパッタリングターゲットを用いて作製したCeO
2-PTFE-In膜のナノインデンター硬度を示すグラフである。
【
図4】複合材料スパッタリングターゲットを用いて作製したCeO
2-PTFE-In膜の水接触角を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本開示の実施形態を図面と共に説明する。
[1.複合材料の構成]
本開示の複合材料は、金属酸化物,フッ素樹脂,及び金属材料を含む。本開示の複合材料には、例えば本開示で説明する製品の優れた特性を失わない範囲で他の材料が含まれていてもよい。
【0018】
[1-1.金属酸化物]
金属酸化物は、複合材料のマトリックス(母材)であり、複合材料に比較的大きな割合で含まれる。金属酸化物の具体的な元素の種類や配合比率は特に限定されない。金属元素としてCe,Y,Al,Si,Nbを含む群から選択される1種以上を含むと好適である。
【0019】
(i)セリウム酸化物
本実施形態に係る複合材料で用いるセリウム酸化物としては、三酸化セリウム(Ce2O3)、及び二酸化セリウム(CeO2)が好ましく、二酸化セリウムがより好ましい。複合材料に用いるセリウム酸化物としては、これらセリウム酸化物の1種又は2種以上の混合物を用いてもよい。
【0020】
(ii)アルミニウム酸化物
本実施形態に係る複合材料で用いることができるアルミニウム酸化物として、酸化アルミニウム(Al2O3)が例示される。
【0021】
(iii)ケイ素酸化物
本実施形態に係る複合材料で用いることができるケイ素酸化物としては、酸化ケイ素(SiO2)が例示される。
【0022】
(iv)イットリウム酸化物
本実施形態に係る複合材料で用いることができるイットリウム酸化物としては、酸化イットリウム(Y2O3)が例示される。
【0023】
(v)ニオブ酸化物
本実施形態に係る複合材料で用いることができるニオブ酸化物としては、酸化ニオブ(Nb2O5)が例示される。
【0024】
<粒子径について>
本実施形態の複合材料を製造する際に用いる金属酸化物の粒子(粉末)の平均粒子径は、複合材料が製造可能であれば特に限定されるものではない。なお、金属酸化物の粒子径は、0.5μm~50μm、好ましくは2μm~20μm、より好ましくは3μm~10μmであるとよい。
【0025】
[1-2.フッ素樹脂]
フッ素樹脂は、フッ素-炭素結合を有する化合物であり、典型的には炭化水素などの有機化合物の1つ又は2つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された構造を有する化合物である。
【0026】
本実施形態の複合材料の製造方法に用いるフッ素樹脂としては、例えば、α-オレフィンの1つ又は2つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された構造を有するモノマーに由来する構成単位を含む、好ましくは主要な構成単位の1つとして含むものを例示することができる。ここでいう主要な構成単位とは、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、上記の構造が20モル%以上のものを指す。なお、好ましくは上記の構造が40モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上含むものであってもよい。
【0027】
上記α-オレフィンの1つ又は2つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された構造を有するモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、トリフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレンなどをあげることができる。上記α-オレフィンの1つ又は2つ以上の水素原子がフッ素原子に置換された構造を有するモノマーとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いてもよい。
【0028】
上述したモノマーを構成単位として含むフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、及びポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などをあげることができる。フッ素樹脂として、これらの1種又は2種以上の混合物を用いてもよい。
【0029】
これらの中で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む群から選択される少なくとも1種以上を用いることが好ましい。
【0030】
<酸素プラズマ処理>
本実施形態の複合材料を製造する際に用いるフッ素樹脂の粒子(粉末)の表面をプラズマ処理すると好適である。具体的には、フッ素樹脂の粒子(粉末)の表面を酸素プラズマ処理することで、C-F2結合、C-C、C-Hに加えて、C-F、C-F3、CO2、C=O、C-H結合等がフッ素樹脂粒子の表面に新たに出現する。これらの新たな表面結合基は、反応性に富み金属酸化物との焼結に有効である。
【0031】
<粒子径について>
本実施形態の複合材料を製造する際に用いるフッ素樹脂の粒子(粉末)の平均粒子径は、複合材料を製造可能であれば特に限定されるものではない。なお、フッ素樹脂の平均粒子径は、0.1μm~20μm、好ましくは0.2μm~10μm、より好ましくは0.3μm~5μmであるとよい。
【0032】
[1-3.金属材料]
金属成分は、400℃以下の融点を持つ金属材料である。本実施形態の複合材料の製造方法に用いる金属材料としては、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上が好ましい。
【0033】
<粒子径について>
本実施形態の複合材料を製造する際に用いる金属材料の粒子(金属材料粉末)の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1μm~50μm、好ましくは0.2μm~10μmであるとよい。
【0034】
[1-4.各成分の配合]
金属酸化物、フッ素樹脂、及び金属材料の混成重量比(混合割合)について説明する。複合材料を製造する際に用いる金属酸化物粒子(粉末)とフッ素樹脂粒子(粉末)の混合割合は、金属酸化物とフッ素樹脂との混成重量比が、20:1~1:1の範囲としてもよい。なお、10:1よりもフッ素樹脂の比率が大きいと好ましい。また、5:1よりもフッ素樹脂の比率が小さいと好ましい。金属材料は、金属酸化物、フッ素樹脂、及び金属材料の総重量重を100%としたときに、0.1重量%以上50重量%以下としてもよい。なお、金属材料が0.5重量%以上であると好ましく、5重量%以上であるとさらに好ましい。また、金属材料が25重量%以下であると好適である。
【0035】
[1-5.複合材料の物性値及び化学結合状態]
<密度>
本実施形態の複合材料の密度は特に限定されないが、測定した重量/体積によって算出した場合に、3.0g/cm3以上8.0g/cm3以下、好ましくは3.2g/cm3以上8.0g/cm3以下、より好ましくは3.5g/cm3以上5.3g/cm3以下である。
【0036】
<破壊強度>
本実施形態の複合材料の破壊強度は、JIS R 1601に規定されるファインセラミックスの曲げ強さ試験方法に則り測定し、これを破壊強度とする場合に、0.2MPa好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上である。
【0037】
測定は、曲げ強度評価試験装置(JTトーシ製 lSC-2/100)と評価用冶具を用いた。
図1に示されるように、試料固定冶具11にて試料13を固定し、荷重印加冶具12にて荷重を印加した。
【0038】
<化学結合状態について>
本実施形態の複合材料では、金属酸化物成分とフッ素樹脂成分及び金属に起因する化合物の形態が金属酸化物マトリックス中に含有されている。このとき、金属酸化物成分とフッ素樹脂と金属成分との間で、すなわち、金属酸化物とフッ素樹脂との間、及び、金属材料とフッ素樹脂との間で、金属フッ化物又はフッ化炭素の複合化合物相を形成していると好適である。
【0039】
本実施形態の複合材料及び複合材料において、各元素がどのような化合物を形成しているかは、エックス線光電子分光法(以下、「XPS分析」と略すことがある。)により確認することができる。XPS分析は、例えば、アルバック・ファイ社のESCA5400型XPS分析装置を使用し、エックス線としてMg kα線(例えば、電力400W、電圧15kVの条件で発生させたビーム直径1.1mmのMg kα線)を使用して測定することができる。
【0040】
[2.複合材料の製造方法]
複合材料の製造方法は、混合工程、成形工程、及び、焼結工程を含む第1の製造方法と、混合工程、及び、加熱成形工程を含む第2の製造方法と、が例示される。
【0041】
<第1の製造方法>
混合工程では、フッ素樹脂粉末と、金属酸化物粉末と、金属材料粉末とを含む材料粉末を混合して混合物を得る。材料粉末には、他の材料が含まれていてもよい。この混合工程において、金属酸化物粒子(粉末)とフッ素樹脂粒子(粉末)の混合割合は、金属酸化物、フッ素樹脂の混成重量比を20:1~1:1の範囲としてもよい。また、金属酸化物、フッ素樹脂、金属材料の総重量重を100%としたときに、金属材料が0.1%以上50重量%以下であると好適である。本実施形態の複合材料の製造方法に用いる金属成分としては、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上であり、金属酸化物成分(Ce,Y,Al,Si,Nb)から成る化合物相を含有すると好適である。
【0042】
続く成形工程では、混合工程で得た混合物を圧縮成形して成形加工物を得る。ここでは、一例として常温加圧(コールドプレス法、Cold Press,CP)により成形加工物を成形する。加圧力は、例えば、1~1.5t/cm2とすることができるが、これ以外でもよい。なお、加圧成形時の形状維持を目的として、混合物に樹脂バインダー(アクリル等)を数%混合してもよい。
【0043】
続く焼結工程では、成形工程で得た成形加工物を100℃以上350℃以下、好ましくは200℃以上、また好ましくは300℃以下で焼成して焼結体を得る。得られた焼結体が複合材料である。
【0044】
<第2の製造方法>
第1の製造方法では、混合物を圧縮成形して成形加工物を得ることと、成形加工物を100℃以上350℃以下で焼成して焼結体を得ることと、を異なる工程で行った。第2の製造方法では、これらを1つの工程で行う点で第1の製造方法と相違する。第2の製造方法は、混合工程と、加熱成形工程と、を含む。
【0045】
混合工程は、第1の製造方法における混合工程と同様である。なお、加圧成形時の形状維持を目的として、混合物に樹脂バインダー(アクリル等)を数%混合してもよい。加熱成形工程では、混合工程の後に、混合工程で得た混合物を100℃~350℃で昇温圧縮成形(ホットプレス法、Hot press,HP)して成形加工された焼結体を得る。得られた焼結体が複合材料である。
【0046】
[3.実施例]
実施例1-48では、複合材料を作製した。実施例49では、実施例5の複合材料をスパッタリングターゲットとして利用して基板に成膜し、薄膜被覆部材を作製した。
【0047】
<実施例1-12及び比較例1>
以下の材料により成形加工物を形成した。
金属酸化物:CeO2粉末(ニッキ株式会社製 平均粒径5μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:In粉末(三津和化学薬品株式会社製 平均粒径40μm)
酸化セリウム粉末は共沈法により作製した。酸化セリウム粉末(平均粒子径5μm)とPTFE粉末(平均粒子径3μm)を、重量比率10:1(実施例3,6,9,12)、7:1(実施例2,5,8,11)、5:1(実施例1,4,7,10)で混合し、さらに金属材料としてInを、金属酸化物、フッ素樹脂、金属材料の総重量重を100%としたときに、金属材料が0.1%以上50重量%以下の範囲において混合した。
その後、混合物を成形圧1トン/cm2で加圧し、直径3インチ、厚さ5mmに成形した。
【0048】
形成した成形加工物を、常圧、200℃の加熱条件で3時間焼結し、焼結体である複合材料を得た。また得られた複合材料の機械的曲げ強度を測定した。実施例1-12の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表1に示す。表1において、金属材料の混成重量比の横の値は、総重量重を100%としたときの金属材料の重量%である。
【0049】
【0050】
また、金属酸化物として酸化セリウム粉末(平均粒子径5μm)とフッ素樹脂としてPTFE粉末(平均粒子径3μm)を、重量比率7:1で混合し、さらに、金属酸化物、フッ素樹脂、樹脂バインダーの総重量重を100%としたときに、樹脂バインダーとしてのアクリル樹脂が5重量%含まれる混合物を常温加圧成形し、その後に100℃の焼結により作製した複合材料を、比較例として表1に付記した。
【0051】
<実施例13-15>
実施例4-6と比較して、金属材料をInからSnに変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した。
金属酸化物:CeO2粉末(ニッキ株式会社製 平均粒径5μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:Sn粉末(福田金属箔粉工業製 SN-AT-350 D50:27μm)
実施例13-15の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
<実施例16-18>
実施例4-6と比較して、金属材料をInからIn-5%Sn粉末に変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した。
金属酸化物:CeO2粉末(ニッキ株式会社製 平均粒径5μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:In-5%Sn粉末(三菱マテリアル電子化成製 粒径0.03μm)
実施例16-18の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表3に示す。
【0054】
【0055】
<実施例19-21>
実施例4-6と比較して、金属材料をInからBiに変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した。
金属酸化物:CeO2粉末(ニッキ株式会社製 平均粒径5μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:Bi粉末(株式会社ニラコ製 粒径74μm)
実施例19-21の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表4に示す。
【0056】
【0057】
<実施例22-24>
実施例4-6と比較して、金属酸化物をCeO2からSiO2に変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した。
金属酸化物:SiO2粉末(信越化学工業株式会社製 粒径0.2μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:In粉末(三津和化学薬品株式会社製 平均粒径40μm)
実施例22-24の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表5に示す。
【0058】
【0059】
<実施例25-27>
実施例4-6と比較して、金属酸化物をCeO2からAl2O3に変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した。
金属酸化物:Al2O3粉末(EM Japan製 粒径1μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:In粉末(三津和化学薬品株式会社製 平均粒径40μm)
実施例25-27の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表6に示す。
【0060】
【0061】
<実施例28-30>
実施例4-6と比較して、金属酸化物をCeO2からY2O3に変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した。
金属酸化物:Y2O3粉末(岩谷産業株式会社製 粒径 1μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:In粉末(三津和化学薬品株式会社製 平均粒径40μm)
実施例28-30の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表7に示す。
【0062】
【0063】
<実施例31-33>
実施例4-6と比較して、金属酸化物をCeO2からNb2O5に変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した。
金属酸化物:Nb2O5粉末(タニオビスジャパン製 3N D50:0.3μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:In粉末(三津和化学薬品株式会社製 平均粒径40μm)
実施例31-33の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表8に示す。
【0064】
【0065】
<実施例34-36>
実施例4-6と比較して、金属酸化物をCeO2からNb2O5に変更し、かつ、金属材料をInからSnに変更した以外は、同様の条件で複合材料を作製した
金属酸化物:Nb2O5粉末(タニオビスジャパン製 3N D50:0.3μm)
フッ素樹脂:PTFE粉末(株式会社セイシン企業製 平均粒径3μm)
金属材料:Sn粉末(福田金属箔粉工業製 SN-AT-350 D50:27μm)
実施例34-36の配合割合(混成重量比)と曲げ強度の測定結果を表9に示す。
【0066】
【0067】
<実施例37-39>
実施例37-39では、実施例1-12と同様にCeO2、PTFE、Inを原料としたが、CeO2の粒径を変化させた。混成重量比は、CeO2:PTFE:In=70:10:8.8である。CeO2の粉末の平均粒径は、0.8μm、5μm、45μmのいずれかとした。
【0068】
形成した成形加工物を、常圧、200℃の加熱条件で3時間焼結し、焼結体である複合材料を得た。また得られた複合材料の機械的曲げ強度を測定した。実施例37-39の各成分の平均粒径と曲げ強度の測定結果を表10に示す。
【0069】
【0070】
<実施例40-42>
実施例40-42では、実施例1-12と同様にCeO2、PTFE、Inを原料としたが、PTFEの粒径を変化させた。混成重量比は、CeO2:PTFE:In=70:10:8.8である。PTFEの粉末の平均粒径は、3μm、10μm、30μmのいずれかとした。
【0071】
形成した成形加工物を、常圧、200℃の加熱条件で3時間焼結し、焼結体である複合材料を得た。また得られた複合材料の機械的曲げ強度を測定した。実施例40-42の各成分の平均粒径と曲げ強度の測定結果を表11に示す。
【0072】
【0073】
<実施例43-45>
実施例43は、実施例37と同じ材料及び混成割合で常温にて成形加工物を形成し、その後、100℃で1時間焼結を行い、焼結体である複合材料を得た。
【0074】
実施例44は、実施例38と同じ材料及び混成割合で常温にて成形加工物を形成し、その後、200℃で1時間焼結を行い、焼結体である複合材料を得た。
実施例45は、実施例39と同じ材料及び混成割合で常温にて成形加工物を形成し、その後、300℃で1時間焼結を行い、焼結体である複合材料を得た。
実施例43-45の配合割合(混成重量比)、試験条件、及び曲げ強度の測定結果を表12に示す。
【0075】
【0076】
<実施例46-48>
実施例46-48は、第2の製造方法にて製造を行った。すなわち、混合物を昇温圧縮成形することで複合材料を作製した。
【0077】
実施例46は、実施例37と同じ材料及び混成割合であるが、加圧力1.5t/cm2、100℃で2時間の昇温圧縮成形を行い、焼結体である複合材料を得た。
実施例47は、実施例38と同じ材料及び混成割合であるが、加圧力1.5t/cm2、200℃で2時間の昇温圧縮成形を行い、焼結体である複合材料を得た。
実施例48は、実施例39と同じ材料及び混成割合であるが、加圧力1.5t/cm2、300℃で2時間の昇温圧縮成形を行い、焼結体である複合材料を得た。
実施例46-48の配合割合(混成重量比)、試験条件、及び曲げ強度の測定結果を表13に示す。
【0078】
【0079】
<実施例49>
実施例49では、実施例5の複合材料をスパッタリングターゲットとして利用し、ホウケイ酸ガラス製の基板に成膜を行い、薄膜被覆部材を作製した。ターゲット規格は、直径3インチ厚さ5mmとした。複合材料を銅製バッキングプレートに接着剤で張り付け、スパッタ成膜に使用した。
【0080】
スパッタ成膜条件:RFマグネトロンスパッタ法、スパッタガス圧1Pa、スパッタ電力4.4W/cm2、ターゲット基板間距離8cm
評価は、ターゲットの強度(スパッタ時の割れや破損の有無で確認)、膜組成・状態評価(XPS)、膜特性評価(分光特性)により行った。
【0081】
ターゲットの強度については、スパッタ時の割れや破損が生じなかったため、十分な強度であることが確認された。
図2に、製造した薄膜被覆部材のCeO
2-PTFE-In膜の分光特性を示す。CeO
2-PTFE-In複合材をターゲットとしてスパッタ法により作製した約100nmの薄膜は、コーニング製ガラスと比較して、紫外光(<380nm)の高い光遮蔽率を示した。また、103.6nmのCeO
2-PTFE-In膜は、視感度の最も高い500nm付近で85%以上の高透過率を示した。CeO
2-PTFE-In膜の厚膜化(122.2nm)により基板コーニングガラスとの干渉が現れる。近赤外~赤外域での光吸収は小さい。
【0082】
図3に、製造した薄膜被覆部材のCeO
2-PTFE-In膜のナノインデンター硬度を示す。当該膜は、ガラスにCeO
2膜を成形した場合と比較すれば硬度が低いものの、PTFE膜やガラス自体と比較すれば十分に高い硬度となった。具体的には、スパッタCeO
2膜のナノインデンター硬度は、基板コーニングガラス(ホウ素ケイ酸ガラス)の約2倍であった。紫外光を遮蔽するCeO
2-PTFE-In膜のナノインデンター硬度は約8MPaであり、基板ホウケイ酸ガラスより高い。スパッタ成膜したPTFE膜のナノインデンター硬度は約1GPaでバルクPTFE板の3倍である。
【0083】
図4に、製造した薄膜被覆部材のCeO
2-PTFE-In膜の水接触角を示す。別途行った飛行時間型質量分析でPTFEはスパッタによりC,F,CF,CF
2,CF
3に分解し蒸発することを確認している。
図4に示されるように、ガラス基板と比較して、CeO
2,CeO
2-PTFE,PTFEの各膜は、いずれも高い水接触角を示す。高接触角は撥水性の指標となりCeO
2-PTFE-In膜が水をはじく撥水機能を有することを示す。
【0084】
なお、上述した薄膜被覆部材は、ガラスであるワークと、ワークの表面にスパッタリングにより形成された薄膜と、を備えるものであり、薄膜は、金属酸化物のマトリックスと、フッ素樹脂と、In,Sn,Biを含む群から選択される1種以上である金属材料と、を含むものである。
【0085】
そして、薄膜被覆部材の製造方法は、金属酸化物粉末と、フッ素樹脂粉末と、金属材料粉末と、を混合して混合物を得ることと、上記混合物を圧縮成形して成形加工物を得ることと、上記成形加工物を100℃以上350℃以下で焼成して焼結体を得ることと、上記焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて、スパッタリングにより所定のワークに薄膜を形成することと、を含む。
【0086】
[4.効果]
以上詳述した本開示の複合材料によれば、以下の効果が得られる。
(4a)本開示の複合材料、及び複合材料の製造方法によれば、有機材料の耐熱性不足のために行われる低温焼結に起因する機械的強度不足を解消することができる。耐熱性に優れたフッ素樹であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)においてもその耐熱性は300℃程度であるため、高温での焼結は困難であり、従来の複合材料では機械的強度が低かった。しかしながら本開示の複合材料は低温焼結であっても高い機械的強度を得ることができる。
(4b)実施例の複合材料は、アクリル等の有機バインダーを含まない。そのため、バインダー複合材料に影響を与えることが抑制される。
【0087】
[5.産業上の利用可能性]
大型のフラットパネル表示を用いるデジタルサイネージデバイスや自動車、ビル・住宅用窓ガラスの表面処理にはスパッタリング法が広く用いられている。一方、スパッタリングターゲットとしては古くから金属、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物等の無機物及びそれらの複合無機化合物やフッ素樹脂等の有機化合物が用いられている。
【0088】
近年、無機材料及び有機材料の両方のメリットを併せ持つ有機・無機ハイブリッド膜が研究開発され始めている。こうしたハイブリッド膜をスパッタリング法により作製する方法には、(i)無機ターゲットと有機ターゲットを同時に成膜する方法がある。しかしながらこの方法は、至近距離に配置された異なるターゲット上の放電の相互干渉等により放電が不安定となることがあり、生産技術としては好ましくない。
【0089】
別の方法としては、(ii)有機と無機の複合ターゲット(有機・無機複合ターゲット)を用いる方法がある。この方法では、通常異なる無機化合物粉末と有機化合物粉末同士の混合物を1~1.5t/cm2で常温加圧成形し(コールドプレス法)、100℃~350℃程度で焼結する方法、又は100℃~350℃程の昇温成形焼結するホットプレス法により行われる。
【0090】
しかし、無機材料と有機材料(フッ素樹脂等)とを含む混合粉末物の低温焼結複合材の機械的強度は著しく脆弱で量産時の割れ破壊等により実使用に大きな課題が有った。また、コールドプレス法では複合粉末の常温成形時からに100℃~350℃(好ましくは~300℃)の焼結まで複合材の形状を保持する必要が有る。この成型時の形状維持を目的に、一般的には、成型時に樹脂バインダー(アクリル等)を数%混合し成形体を作製する。この樹脂バインダーは無機材料だけの場合その後の高温焼結(1000℃以上)により飛散し焼結体内には残存しない。しかし、有機・無機複合材においては焼結温度が300℃以下と低く有機バインダーが複合材中に残存しその複合材への影響が懸念される。本開示ではアクリルの代わりに低融点金属を用いることで、当該金属材料が焼結温度で粒子間に溶け広がりバインダー効果を発現する。また例えばInバインダーでは300℃以下での焼結が可能で、焼きしまりによるターゲットの高密度化と高強度化が実現できる。したがって、本開示の技術であれば、有機バインダーの使用量を低減し、又は使用せずに高い強度の複合材料を作製できるので、上述した問題を解消することができる。なお、本開示は有機バインダーの含有量を低下させることが可能であるが、必要に応じて、又は目的に応じて、バインダーとして機能する有機材料を含めることを妨げるものではない。
【0091】
[6.その他の実施形態]
以上本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0092】
(6A)本開示の複合材料は、実施例として記載した元素や化合物の組み合わせに限定されることなく、本開示の技術的範囲に属する様々な組み合わせが可能である。すなわち、金属材料はIn,Sn,Biを含む群から選択される1種以上が少なくとも含まれていればよい。また、組み合わされる金属酸化物はCe,Y,Al,Si,Nbを含む群から選択される1種以上を含むものであってもよいし、他の金属であってもよい。また、組み合わされるフッ素樹脂は、実施形態にて具体的に例示した樹脂に限られない。
【0093】
(6B)複合材料は、スパッタリングターゲットとして利用可能であるが、当然ながら、それ以外の用途に利用されてもよい。また、薄膜被覆部材は、成膜がなされるワークとしてガラス基板を例示したが、これ以外の材料に成膜がなされてもよい。
【符号の説明】
【0094】
11…試料固定冶具、12…荷重印加冶具、13…試料