(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029187
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート、ステンレス金属配管及び尿素SCR排ガス処理装置
(51)【国際特許分類】
B01J 21/06 20060101AFI20230224BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230224BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230224BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230224BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
B01J21/06 A ZAB
B01J35/02 311B
B01D53/94 222
F01N3/08 B
F01N3/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006115
(22)【出願日】2022-01-19
(62)【分割の表示】P 2021133556の分割
【原出願日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 利晴
(72)【発明者】
【氏名】服部 望
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA18
3G091AB05
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4G169FA04
4G169FB23
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC02
(57)【要約】
【課題】シアヌル酸分解(イソシアン酸加水分解)触媒機能を持つアナターゼ型酸化チタン触媒担体粒子のステンレス金属シートへの固定化が容易に実現でき、引っ掻き硬度試験結果で、鉛筆硬度H以上である触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート、ステンレス金属配管及び尿素SCR排ガス処理装置の提供。
【解決手段】ステンレス金属シート9に、尿素の加水分解を促進する酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物を塗設し、塗膜組成物を焼成してなる、アナターゼ型二酸化チタンを有する触媒塗膜形成材料10が形成されたステンレス金属シート9であり、暗闇の環境下、尿素水噴霧ノズル下のステンレス金属シート9表面に形成された触媒塗膜形成材料10の塗膜は、JIS K 5600-5-4に規定する引っかき硬度(鉛筆法)が、鉛筆硬度H以上の硬度であることを特徴とする触媒塗膜形成材料10が形成されたステンレス金属シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス金属シートに、尿素の加水分解を促進する酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物を塗設し、該塗膜組成物を焼成してなる、アナターゼ型二酸化チタンを有する触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シートであり、
暗闇の環境下、尿素水噴霧ノズル下の前記ステンレス金属シート表面に形成された前記触媒塗膜形成材料の塗膜は、JIS K 5600-5-4に規定する引っかき硬度(鉛筆法)が、鉛筆硬度H以上の硬度であることを特徴とする触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート。
【請求項2】
ステンレス金属配管内面に、尿素の加水分解を促進する酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物を塗設し、該塗膜組成物を焼成してなる、アナターゼ型二酸化チタンを有する触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属配管であり、
暗闇の環境下、尿素水噴霧ノズル下の前記ステンレス金属配管内面に形成された前記触媒塗膜形成材料の塗膜は、JIS K 5600-5-4に規定する引っかき硬度(鉛筆法)が、鉛筆硬度H以上の硬度であることを特徴とする触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属配管。
【請求項3】
加圧空気と尿素水を供給する尿素水供給管を排ガスが流れる配管内に挿通し、
前記尿素水供給管の先端近傍に尿素水噴霧ノズルを接続し、
前記配管内を流れる排ガスと、前記尿素水噴霧ノズルから噴霧された噴霧尿素水との混合部を有し、
該混合部の周囲で前記配管の内壁面の全部または一部に、前記請求項1記載の触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シートを帯状に周設してなることを特徴とする尿素SCR排ガス処理装置。
【請求項4】
加圧空気と尿素水を供給する尿素水供給管を排ガスが流れる配管内に挿通し、
前記尿素水供給管の先端近傍に尿素水噴霧ノズルを接続し、
前記配管内を流れる排ガスと、前記尿素水噴霧ノズルから噴霧された噴霧尿素水との混合部を有し、
該混合部の周囲で前記配管の内壁面の全部または一部に、前記請求項2記載の触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属配管が設けられることを特徴とする尿素SCR排ガス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート、ステンレス金属配管及び尿素SCR排ガス処理装置に関し、詳しくは、触媒塗膜がステンレス金属シートやステンレス金属配管に対する接着強度に優れ、触媒活性に寄与する触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート、ステンレス金属配管及び尿素SCR排ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、酸化チタンの微粒子同士の結着に寄与するためにペルオキソチタン酸をバインダーとして用いることは開示されている。
しかし、特許文献1には、SUS金属との接合において、ペルオキソチタン酸をバインダーとして用いることは開示されていない。
【0003】
また、特許文献1において、塗膜を形成する対象の電極は、基板上に電極層が形成され、その電極層上に、塗膜を形成することになる。
基板としては、一方がガラス、PET等の透明電極、もう一方が金属チタン、金属アルミニウム、金属銅、金属ニッケルなどの導電性基板を使用することができる旨の開示がある(段落0069)。
そして、電極層としては、酸化錫、アンチモン、鉄、又はリンがドーピングされた酸化錫、錫および/または鉄がドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、貴金属類等の電極を使用することができる旨開示されている(段落0070)。
【0004】
これらの記載を考慮すれば、基板上に、塗膜するのは電極層であり、直接金属に塗膜液を塗布して塗膜形成する技術ではない。これは、特許文献1が、光電変換するための半導体膜を形成する技術だからであり、電極層がなければそもそも技術が成立しないからである。
【0005】
従って、特許文献1には、基板とペルオキソチタン酸を用いる膜との接着力の優位性が記述されていないことも併せて考慮すれば、ペルオキソチタン酸は、太陽電池の光電を出す二酸化チタン粒子同士の導電パスを維持する酸化チタンに変化するバインダーに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シアヌル酸分解(イソシアン酸加水分解)触媒機能を持つアナターゼ型酸化チタン触媒担体粒子のステンレス金属シートへの固定化が容易に実現できる技術を提案するものであるが、前述の触媒担体粒子が、ステンレス金属シートに強固に接着しないで、加水分解の触媒作用を長時間行うと、膜剥がれが起こる課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、シアヌル酸分解(イソシアン酸加水分解)触媒機能を持つアナターゼ型酸化チタン触媒担体粒子のステンレス金属シートへの固定化が容易に実現でき、引っ掻き硬度試験結果で、鉛筆硬度H以上である触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート、ステンレス金属配管及び尿素SCR排ガス処理装置を提供することを課題とする。
【0009】
さらに本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0011】
(請求項1)
ステンレス金属シートに、尿素の加水分解を促進する酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物を塗設し、該塗膜組成物を焼成してなる、アナターゼ型二酸化チタンを有する触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シートであり、
暗闇の環境下、尿素水噴霧ノズル下の前記ステンレス金属シート表面に形成された前記触媒塗膜形成材料の塗膜は、JIS K 5600-5-4に規定する引っかき硬度(鉛筆法)が、鉛筆硬度H以上の硬度であることを特徴とする触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート。
(請求項2)
ステンレス金属配管内面に、尿素の加水分解を促進する酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物を塗設し、該塗膜組成物を焼成してなる、アナターゼ型二酸化チタンを有する触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属配管であり、
暗闇の環境下、尿素水噴霧ノズル下の前記ステンレス金属配管内面に形成された前記触媒塗膜形成材料の塗膜は、JIS K 5600-5-4に規定する引っかき硬度(鉛筆法)が、鉛筆硬度H以上の硬度であることを特徴とする触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属配管。
(請求項3)
加圧空気と尿素水を供給する尿素水供給管を排ガスが流れる配管内に挿通し、
前記尿素水供給管の先端近傍に尿素水噴霧ノズルを接続し、
前記配管内を流れる排ガスと、前記尿素水噴霧ノズルから噴霧された噴霧尿素水との混合部を有し、
該混合部の周囲で前記配管の内壁面の全部または一部に、前記請求項1記載の触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シートを帯状に周設してなることを特徴とする尿素SCR排ガス処理装置。
(請求項4)
加圧空気と尿素水を供給する尿素水供給管を排ガスが流れる配管内に挿通し、
前記尿素水供給管の先端近傍に尿素水噴霧ノズルを接続し、
前記配管内を流れる排ガスと、前記尿素水噴霧ノズルから噴霧された噴霧尿素水との混合部を有し、
該混合部の周囲で前記配管の内壁面の全部または一部に、前記請求項2記載の触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属配管が設けられることを特徴とする尿素SCR排ガス処理装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シアヌル酸分解(イソシアン酸加水分解)触媒機能を持つアナターゼ型酸化チタン触媒担体粒子のステンレス金属シートへの固定化が容易に実現でき、引っ掻き硬度試験結果で、鉛筆硬度H以上である触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シート、ステンレス金属配管及び尿素SCR排ガス処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る尿素SCR排ガス処理装置の一例を示す説明図
【
図2】本発明に係る触媒シートの一例を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について好ましい実施の形態について説明する。
【0015】
図1において、1はディーゼルエンジンであり、2はディーゼルエンジン1から排出される排ガスを送る排ガス管である。
【0016】
3は尿素水の加水分解装置であり、気化装置ともいう。加水分解装置3は、気化用配管4内に設けられる。気化用配管4の入口には排ガスの導入口5が設けられ、排ガスは、導入口5から気化用配管4に導入される。
【0017】
気化用配管4には、加圧空気(圧縮空気)と尿素水を供給する尿素水供給管6が挿通され、尿素水供給管6の先端近傍に尿素水噴霧ノズル7が設けられている。尿素水噴霧ノズル7は、尿素水噴霧を気化用配管4内に供給可能に構成されている。
【0018】
8は気化用配管4内を流れる排ガスと、尿素水噴霧ノズルから噴霧された噴霧尿素水との混合部である。
【0019】
混合部8の周囲で気化用配管4の内壁面には、ステンレス金属シート9が帯状に周設されており、ステンレス金属シート9の排ガス側表面に、尿素の加水分解を促進する触媒塗膜形成材料10が形成されている。
本実施形態においては、例えば、平面状のステンレス金属シート9を、シート長手方向に丸めて準円筒スリーブにして、尿素水供給管6を天井側で挟み込むようにすることによって、帯状にステンレス金属シートを周設することができる。また、ステンレス金属シート9を帯状に周設できる態様であれば、これに限定されない。
【0020】
触媒塗膜形成材料10は、尿素の加水分解を促進する酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物をステンレス金属シート9の内面に塗設し、焼成することにより形成される。
本実施形態においては、例えば、事前に酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物を机表面に水平に敷いた平板のステンレス金属シート9の排ガスと接触する側の表面に水平均一に塗設し、室温で乾燥後、電気炉で焼成することによって形成することができる。
【0021】
ステンレス金属シートに用いられるステンレスとしては、国際規格のISO規格で規定される、炭素を1.2%(質量パーセント)以下、クロムを10.5%以上含み、鉄(Fe)を主成分とした合金鋼である。硬度が高く、強度、耐熱性に優れるマルテンサイト系ステンレス(例えば、SUS410、SUS403)、加工性、耐熱性が高いフェライト系ステンレス(例えば、SUS430)、加工性、耐食性に優れるオーステナイト系(例えばSUS304、SUS316)のステンレスのいずれもよいが、中でも、SUS304、SUS316が好ましい。
【0022】
混合部8において、排ガスと噴霧尿素水が混合されると、下記の加水分解反応が生じる。
(NH2)2CO+H2O →2NH3+CO2
【0023】
本発明においては、触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シートに限定されず、ステンレス金属配管内面に尿素の加水分解を促進する酸化チタン触媒粒子と、ペルオキソチタン酸とを含む塗膜組成物を塗設し、焼成してなる触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属配管であってもよい。
【0024】
塗膜組成物を塗設するには、刷毛塗り、浸漬塗布、スプレー、溶射、CVDなど種々の方法が挙げられる。
【0025】
本発明においては、暗闇の環境下、尿素水噴霧ノズル下の前記ステンレス金属配管内面に形成された塗膜は、JIS K 5600-5-4に規定する引っかき硬度(鉛筆法)が、鉛筆硬度H以上の硬度である。H硬度以上であることにより、本発明の効果を発揮できる。
【0026】
また、本発明において、塗膜組成物には、Na元素0.05wt%以上、S元素0.05wt%以上を含むことが好ましい。Na元素とS元素は各々共同して、あるいは独立して塗膜組成物に含有されてもよい。
また、Si元素が0.1wt%以上含まれていてもよい。
【0027】
Na元素とS元素を各々共同して塗膜組成物に含有させる場合、例えばアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤を塗膜組成物に含有させることによって実現可能である。
また、Si元素は、水溶性シリコーン等やリンス成分等のSi成分を水性塗膜塗料に、界面活性剤や二酸化チタンの水中エマルジョン分散剤や安定化剤として塗膜組成物に含有させるようにすることができる。
【0028】
塗膜組成物におけるNa元素及びS元素は、Na元素0.05~0.35wt%、S元素0.05~0.50wt%を含むことがより好ましい。
【0029】
塗膜組成物にNa元素及びS元素が含まれる結果、薄膜表面の触媒効果の向上に寄与するだけでなく、塗膜強度の向上に寄与する。これは、塗膜組成物に含まれたNaやSO4が親水性であるため、尿素水やシアン酸などの極性物のTiO2触媒への吸着力強化に寄与するものと推定される。
【0030】
図2に示すような加水分解触媒を含む触媒塗膜形成材料10が形成されたステンレス金属シート9が設置される位置、または加水分解触媒を含む触媒塗膜形成材料10が形成された配管内壁の位置は、尿素水を触媒に接触させる観点から、
図1に示すような配管内の尿素水噴霧ノズル7の置かれる位置近傍が好ましい。
【0031】
また、ターボチャージャ付きエンジンである場合には、尿素水噴霧ノズル7が、燃焼室からターボチャージャ前の間の排ガス配管位置、或いは燃焼室からターボチャージャ後の排ガス配管位置に配置されるため、これらの場合でも、尿素水噴霧ノズル7の位置近傍に配置されることが好ましい。
【0032】
図1に示すように、加水分解装置3で、尿素が加水分解される加水分解反応により、NH
3が生成する。脱硝装置11において、脱硝触媒により、NOxとNH
3を含む排ガスは、下記の還元反応により、N
2に還元されて浄化される。
【0033】
4NO+4NH3+O2 →4N2+6H2O
6NO2+8NH3→7N2+12H2O
【0034】
脱硝触媒としては、格別限定されるわけではないが、TiO2あるいはSiO2-TiO2、WO3-TiO2、SiO2-TiO2、Al2O3-SiO2などの二元系複合酸化物、あるいは、WO3-SiO2-TiO2、Mo3-SiO2-TiO2などの三元系複合酸化物などの担体に、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Y、Ce、Nd、W、In、Ir、Nbなどの活性成分を担持してなるハニカム構造を有し、NH3(還元剤)の存在下で、NOxを還元して窒素ガスに変換して浄化する触媒が用いられる。
【0035】
本実施形態においては、気化用配管4の外周側に、気化用配管4を覆うように、温度調整部12が設けられていることが好ましい。温度調整部12としては、例えば、配管マントルヒーターであることが好ましい。
【0036】
ここで、本発明では、尿素の加熱分解によってシアヌル酸が生成されない加熱系温度域(30~130℃未満、結晶析出防止の観点から好ましくは100℃未満)を超える温度で如実にシアヌル酸生成抑制効果を発揮する。触媒塗膜形成材料10に、尿素水噴霧ノズルから噴霧された噴霧尿素水を135℃~350℃、より好ましくは、150℃~250℃で接触させ、尿素が熱分解して発生するアンモニア以外の副生物であるイソシアン酸(HN=C=O)やシアン酸(HOCN)と雰囲気中の水分とから加水分解してアンモニアと二酸化炭素に変換する加水反応を促進することにより、シアヌル酸へ重合する反応をするためのイソシアン酸やシアン酸が減少し、結果として尿素からのシアヌル酸の生成量を減少させることにより、高融点物質による配管閉塞を抑制することができる。
【0037】
尿素の加熱温度をシアヌル酸が生成されない温度に調整する手法としてはは、
図1に示すように、排ガス配管の外周側に設けられた温度調整部12によって、気化用配管4の温度を調整することができる。これにより、気化用配管4内に導入される排ガスの温度を調整することができる。温度調整部12を設けることにより、排ガス温度に調整の必要性が生じた場合に、温度調整をすることができる。この結果、シアヌル酸の生成量が減少し、高融点物質による配管閉塞を抑制することができる。
【0038】
本実施形態においては、気化用配管4の外周に図示しない空気管を設け(2重管構造)、その空気管に圧縮空気を流すようにすることも好ましい。排ガスの温度センサに連動して、空気量を調整するようにしてもよい。この場合、気化用配管の外周に設けた空気管の更に外周に、温度調整部12を設けることもできる。
【0039】
本発明は、排気ガスの熱による尿素の熱分解において、シアヌル酸へ重合反応するためのイソシアン酸やシアン酸が減少し、結果として尿素からのシアヌル酸の生成量を減少させることにより、アンモニア供給量を増やすことができる。
【0040】
このため配管内への還元剤水素源滞留による還元剤水素源供給ロスにより 脱硝効率が低下したり、脱硝触媒の表面被覆またはハニカム触媒の目開きの閉塞により下流のNOx還元性能を低下させるようなことがなくなる。
【0041】
更に、シアヌル酸の生成量が減少させることにより、触媒反応管上流部の高融点物質による配管閉塞目詰まりが抑制され、排気管背圧上昇でのエンジン出力の低下、最悪なケースではエンジンが停止してしまうトラブルを抑制することができる。
【0042】
以下に、本発明における、ステンレス金属シートやステンレス金属配管表面への二酸化チタン粒子からなる触媒担体粒子の固定化方法について説明する。
【0043】
バインダー(ペルオキソチタン酸)と固定化させる二酸化チタン粒子の分散液の調製は、以下のように行える。
塩化チタン水溶液等のチタン含有水溶液とアンモニア水等の塩基性物質とを反応させて、水酸化チタン微粒子の懸濁液とする。
【0044】
次いで、この懸濁液と過酸化水素等の酸化剤を反応させる手法で調製された例えば市販の1wt%ペルオキソチタン酸(過酸化チタン)水溶液を使用することができる。
例えば、ペルオキソチタン酸を1wt%含んだ水溶液10gに、粒径1nm~100nmのアナターゼ型二酸化チタン試薬粉末を5g加え、かき混ぜ、白ペンキ状の二酸化チタン分散液コート液Aを調製する。
【0045】
次いで、ステンレス金属シートへのコート液Aの液はじきを防止し、均一な薄い液コートを行うため、コート液Aに界面活性剤として高級アルコール系の液体食器洗剤を3wt%添加し、泡立てないように均一に混ぜたコート液Bを調製する。
界面活性剤としては、例えば、直鎖アルキルベンゼン系、高級アルコール系のようなNaとSを含むアニオン系界面活性剤が挙げられる。
直鎖アルキルベンゼン系としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が例示でき、具体的には、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
高級アルコール系としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩が例示できる。また、アルキルヒドロキシスルホベタインナトリウムのようなアルキルスルホベタインナトリウム塩等の両性界面活性剤を使用してもよい。
【0046】
次に、ステンレス金属シートへの二酸化チタン分散液のコートについて説明する。
コート液Bをステンレス金属シート面に刷毛で金属面が見えなくなる程度、白い水性ペンキ状に均一に塗布した。約16時間、室温で水分を乾かし、ステンレス金属シートに乾燥二酸化チタン層を形成した。
【0047】
次に、ペルオキソチタン酸のバインダー熱処理を行う。
二酸化チタンとペルオキソチタン酸をコートしたステンレス金属シートを水分乾燥のため、恒温乾燥器で室温から80℃まで平均50℃/hの昇温速度で温度を上げ、80℃で1時間保持する加熱処理を行う。
【0048】
その後、ペルオキソチタン酸が二酸化チタンおよびバインダーに変化する250℃の熱処理を行うため、電気炉で室温から400℃まで平均50℃/hの昇温速度で温度を上げ、400℃で1~18時間保持する加熱処理を行う。
【0049】
これによりペルオキソチタン酸がステンレス金属表面と触媒担体の二酸化チタン表面を化学的に結合(バインド)することができる。
【0050】
また、層に不純物として含まれている有機系界面活性剤も400℃の空気雰囲気で酸化され有機物低分子となりガス状になってコート層から消失する。
本実施形態において、Na元素やS元素が残る場合もある。この場合、Na元素やS元素は、触媒層に親水性や水分子や極性物に吸収能を持つNa塩、SO4硫酸根として残る。Si成分も酸化されSiO2となり、SiO2単独でもシアヌル酸分解触媒として若干機能する。
【0051】
ペルオキソチタン酸自身も触媒効果のある二酸化チタンに変化するため、担体粒子がステンレス表面からはがれても、はがれた面にペルオキソチタン酸が変化したアナターゼ型二酸化チタン膜が残っており、この薄膜表面も触媒として寄与する。
【0052】
これにより、金属表面への400℃耐熱性を有する二酸化チタン層のコーティング層が形成され、技術課題であったステンレス金属への二酸化チタン触媒担体粒子の実用レベル強度の固定化が実現できた。この結果、二酸化チタン触媒担体粒子のステンレス金属への強固な固定化が実現できるため、二酸化チタン触媒担体粒子がステンレス金属シートから剥がれにくくなり、二酸化チタン触媒が残っていることにより、より長い時間、加水分解効率を維持することができる。より長い時間加水分解効率を維持できることにより、交換頻度が下がり、耐用期間を延ばすことができる。
【0053】
コートした触媒の塗膜強度を鉛筆硬度法で測定した結果は実施例において例証されている。
【0054】
比較例として、酸化チタン粒子を、ペルオキソチタン酸を混ぜずに調製したコート液Bをステンレス金属シートに塗布し、400℃で焼成したものは、塗膜の強度が6Bと弱かった。
【0055】
実施例としてペルオキソチタン酸を使用したコート液Bで焼成したものは、塗膜の強度が3Hと強くなった。
【0056】
有機系界面活性剤に含まれるNa元素及びS元素は薄膜表面の触媒効果の向上に寄与するだけでなく、塗膜強度の向上に寄与する。
【0057】
金属面にはけで塗りし、室内で乾燥してできた膜は、ペルオキソチタン酸がアモルファス(非結晶状態)酸化チタン形態の為、光触媒機能もない。よって、この常温で乾燥した膜を250℃以上で焼成する事で密着性が高い光触媒能・シアヌル酸分解(イソシアン酸加水分解)触媒能を持つアナターゼ結晶膜となる。
【0058】
250℃~800℃で焼き付けることで、ペルオキソチタン酸自身も、アナターゼ型二酸化チタン結晶に変化し、その結晶自身も若干シアヌル酸分解触媒機能を有する。
【0059】
本実施形態において焼成温度は、800℃以上で焼き付けると、アナターゼ型二酸化チタンは、ルチル型二酸化チタンに相転移してしまう。ルチル型二酸化チタンであっても多少の効果は得られるが、より高い効果を発揮する観点から、相転移が起こらない程度の温度で、例えば250℃~500℃で焼き付けることが好ましく、更に、400℃~500℃で焼き付けることがより好ましい。また、焼成時間は、上記焼成温度で、1時間~4時間焼成することが好ましく、2時間~3時間焼成することがより好ましい。
【0060】
ペルオキソチタン酸から変化したアナターゼ型二酸化チタン結晶は、触媒担体にもちいられる比表面積約50m2/gの触媒担体用の二酸化チタン粉体のように多孔質ではないため、触媒活性は触媒担体二酸化チタン粉体より低い。
【0061】
よって本発明で用いたペルオキソチタン酸の役割は、主にバインダーとして機能していると言える。
【実施例0062】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されない。
【0063】
(実施例1)
1.触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シートの製造
(1)分散液コーティング溶液(コート液A)の調製
塩化チタン水溶液とアンモニア水とを反応させて、水酸化チタン微粒子の懸濁液とする。
【0064】
次いで、この懸濁液と過酸化水素酸化剤を反応させる手法で調製された市販の1wt%ペルオキソチタン酸(過酸化チタン)水溶液を入手した。
【0065】
上記ペルオキソチタン酸を1wt%含んだ水溶液10gに対して、粒径1nm~100nmのアナターゼ型二酸化チタン試薬粉末(チタニア粉末)を5g加え、掻き混ぜ、白ペンキ状の二酸化チタン分散液(コート液A)を調製した。
【0066】
(2)界面活性剤含有溶液(コート液B)の調製
次いで、ステンレス金属シート(SUS304)へのコート液Aの液はじきを防止し、均一な薄い液コートを行うため、コート液Aに界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のNaとSを含む液体食器洗剤を3wt%添加し、泡立てないように均一に混ぜて、界面活性剤含有溶液(コート液B)を調製した。
【0067】
(3)界面活性剤含有溶液(コート液B)のコート
ステンレス金属シートの表面に、コート液Bを、刷毛で、金属面が見えなくなる程度に、白い水性ペンキ状に均一に塗布した。約16時間、室温で水分を乾かした。
【0068】
(4)触媒塗膜形成材料(酸化チタン触媒層)の形成
コート液Bをコートしたステンレス金属シートを、水分乾燥のため、恒温乾燥器で、室温から80℃まで、平均50℃/hの昇温速度で温度を上げ、80℃で1時間保持する加熱処理を行った。
【0069】
その後、ペルオキソチタン酸が二酸化チタンおよびバインダーに変化する250℃の熱処理を行うため、電気炉で室温から400℃まで平均50℃/hの昇温速度で温度を上げ、400℃で3時間保持する加熱処理を行った(焼成処理)。
これによって、触媒塗膜形成材料が形成されたステンレス金属シートを得た。
【0070】
2.試験
(1)試験1:シアヌル酸生成抑制試験
得られたステンレス金属シートを、
図1に示すようなSCRベンチ基礎試験装置の尿素ノズル下部に設置し、マントルヒーター250℃に設定し、尿素水液だれ・シアヌル酸生成するような条件下で、ディーゼル実排ガス(NOx濃度1000ppm含)を、
図1の加水分解装置3に250℃、SV90,000/h処理条件で流し、尿素水吹込みNOx/NH
3当量比1で尿素水SCR運転を4時間行った。
【0071】
(2)試験2:鉛筆ひっかき硬度試験
JIS K 5600-5-4:1999に準拠した引っ掻き硬度試験器を用いて、触媒塗膜形成材料(酸化チタン触媒層)が形成されたステンレス金属シートの引っ掻き硬度を試験した。この結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
実施例1において、ステンレス金属シートをSUS304からSUS430に代え、加熱温度を400℃から500℃に変更し、加熱時間を3時間から2時間に変更する以外は、実施例1と同様に製造し、同様の条件で試験1と試験2を実施した。
試験2の結果を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
実施例1において、加熱時間を3時間から4時間に変更する以外は、実施例1と同様に製造し、同様の条件で試験1と試験2を実施した。
試験2の結果を表1に示す。
【0074】
(実施例4)
実施例1において、ステンレス金属シートをSUS304からSUS316に代える以外は、実施例1と同様に製造し、同様の条件で試験1と試験2を実施した。
試験2の結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
実施例1において、市販の1wt%ペルオキソチタン酸を用いずに、実施例1と同様に製造し、同様の条件で試験1と試験2を実施した。
試験2の結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
(3)評価
ア 試験1に対する評価
試験1の結果、比較例1では、ステンレス金属シートから、シアヌル酸等の異物の析出は見られなかったが、目視で尿素水の当たる箇所の触媒は剥がれ、ステンレス金属シートの金属表面が露出してしまっていた。
これに対して、実施例1~3では、ステンレス金属シートにシアヌル酸等の異物の析出はみられず、目視で触媒がシートから剥離せずに残っていたことを確認した。
つまり、実施例1~3のように、ペルオキソチタン酸をバインダーとして塗膜に混ぜ、焼成することにより、尿素水SCRノズル下の液ダレ部に触媒塗膜形成材料を形成したステンレス金属シートを周設しても、ステンレス金属シートに、シアヌル酸等の異物の析出はみられず、触媒がシートから剥離せずに残っていたため、シアヌル酸の触媒コート層の耐久性が増したことを確認した。
【0078】
イ 試験2に対する評価
試験1で、実施例1~3のステンレス金属シートでは、触媒の剥がれにくさが確認されたため、客観的な強度指標として試験2を行った。比較として比較例1のステンレス金属シートでも同様に行った。
比較例1のように、ペルオキソチタン酸を用いずに製造したチタニア粉末塗膜(シアヌル酸分解触媒)を、ステンレス金属シートに塗設した場合には、引っ掻き硬度試験結果は、塗膜強度がもろく鉛筆硬度6B以下であった。
【0079】
これに対して、実施例1は、チタニア粉末塗膜にペルオキソチタン酸をバインダーとして混ぜ、乾燥後、400℃で3時間焼成したところ、チタニア粉末塗膜とSUSシートの付着力が強化し、チタニア粉末塗膜の付着強度は、鉛筆硬度3Hであった。
【0080】
塗膜強度がJIS鉛筆強度評価で、6Bから3Hまで9段階向上した。
【0081】
またSUSシートの材質は、配管材で一般に普及しているオーステナイト系のSUS304のシートで効果を確めたが、同じオーステナイト系のSUS316(実施例4)、及びフェライト系のSUS430(実施例2)と、異なるステンレス金属シートの材質であっても同様の塗膜強度が得られることも確認した。
【0082】
なお、排ガス処理SCR触媒に求められる触媒層強度の閾値指標として市販モノリス型セラミック脱硝触媒を2種類用意して、それぞれの触媒表面の削れ具合を同様の試験(試験2)の条件で実施し、計測したところ、脱硝触媒が、鉛筆硬度HB、Hであった。
【0083】
よって、鉛筆硬度H以上であれば一般脱硝触媒の耐摩耗強度以上の触媒層強度を有していることがわかり、市販排ガス処理SCR触媒に求められる触媒層強度を有する触媒コーティングを、ステンレス金属シート上で形成できたことを確認した。
【0084】
3.塗膜表面分析
(1)分析結果
実施例1~4、及び比較例1で製造されたステンレス金属シートに形成された触媒塗膜表面の組成を分析した。その結果を表2に示す。この分析結果は、ステンレス金属シートの組成(Fe、Cr、Ni、Mn、Mo)を除いた触媒層だけの元素組成を100%としたときの結果である。
分析装置としては、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置(一般装置略称SEM/EDX)を用いることができる。
SEM/EDX装置としては、堀場製作所社製EDX検出器「EMAX」付きの日立ハイテクノロジー社製SEM「S-3400N」を用いることができる。また、より安価・簡便な分析装置として卓上型の蛍光X線元素分析装置やハンディ型のポータブル式蛍光X線元素分析装置を用いることができる。
本実施例では、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置(SEM/EDX)日立ハイテクノロジー社製「S-3400N/EMAX」を用いて分析した。
【0085】
【0086】
(2)評価
実施例1~4、及び比較例1の組成を分析した結果、共にNa元素、S元素が含有されていることがわかる。
しかしながら、実施例1~4のように、バインダーとして、ペルオキソチタン酸を使用し、Na元素0.05wt%以上、S元素0.05wt%以上を含むことによって、薄膜表面の触媒効果の向上に寄与するだけでなく、塗膜強度の更なる向上に寄与することを確認した。
本実施例においては、表1に示すように、実施例1~4で塗膜強度の向上が図れたことは確認した。
また、実施例1~4によれば、Na元素0.05~0.35wt%、S元素0.05~0.50wt%を含むことによって、触媒効果の向上がより顕著に発揮されることを確認した。