(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029199
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】抵抗体ペースト、チップ抵抗器及びガラス粒子
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
H01C7/00 328
H01C7/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054533
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021133636
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青池 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩克
(72)【発明者】
【氏名】松島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】中山 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】藤田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】大林 孝志
【テーマコード(参考)】
5E033
【Fターム(参考)】
5E033AA18
5E033AA22
5E033BA03
5E033BB02
5E033BH01
(57)【要約】
【課題】抵抗体の高比抵抗と低TCRとを両立する。
【解決手段】抵抗体ペーストは、金属粒子と、絶縁粒子と、ガラス粒子と、金属ケイ化物と、を含む。金属粒子は、銅及びニッケルを含む。絶縁粒子は、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む。チップ抵抗器1は、抵抗体13と、基板11と、を備える。抵抗体13は、上述の抵抗体ペーストを材料とし、基板11上に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅及びニッケルを含む金属粒子と、
アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む絶縁粒子と、
ガラス粒子と、
金属ケイ化物と、を含む、
抵抗体ペースト。
【請求項2】
前記金属ケイ化物として、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ハフニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化クロム、ケイ化タングステン、ケイ化モリブデン、ケイ化鉄、ケイ化マグネシウム、ケイ化ナトリウム及びケイ化白金の少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の抵抗体ペースト。
【請求項3】
銅及びニッケルを含む金属粒子と、
アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む絶縁粒子と、
金属ケイ化物と、
ガラス粒子と、を含み、
前記ガラス粒子は、少なくとも酸化ホウ素及び酸化アルミニウムを含み、
チップ抵抗器の抵抗体を形成した場合に、ニッケルケイ化物を含むニッケル化合物が生成される、
抵抗体ペースト。
【請求項4】
前記ニッケル化合物は、ニッケルアルミホウ化物を更に含む、
請求項3に記載の抵抗体ペースト。
【請求項5】
前記ニッケルケイ化物は、Ni31Si12であり、
前記ニッケルアルミホウ化物は、Ni20Al3B6である、
請求項4に記載の抵抗体ペースト。
【請求項6】
前記ガラス粒子は、酸化ケイ素、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化バリウムを更に含む、
請求項3~5のいずれか1項に記載の抵抗体ペースト。
【請求項7】
前記ガラス粒子において、
前記酸化ホウ素の比率は、41wt%以上、50wt%以下であり、
前記酸化アルミニウムの比率は、4wt%以上、9wt%以下であり、
前記酸化ケイ素の比率は、2wt%以上、7wt%以下であり、
前記酸化タンタルの比率は、3wt%以上、10wt%以下であり、
前記酸化マグネシウムの比率は、1wt%以上、5wt%以下であり、
前記酸化カルシウムの比率は、1wt%以上、5wt%以下であり、
前記酸化バリウムの比率は、30wt%以上、35wt%以下である、
請求項6に記載の抵抗体ペースト。
【請求項8】
前記金属ケイ化物は、ケイ化チタンを含む、
請求項3~7のいずれか1項に記載の抵抗体ペースト。
【請求項9】
有機ビヒクルを更に含む、
請求項1~8のいずれか1項に記載の抵抗体ペースト。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抵抗体ペーストを材料とし、基板上に形成されている抵抗体と、
前記基板と、を備える、
チップ抵抗器。
【請求項11】
前記抵抗体は、ケイ化ニッケルを含む、
請求項10に記載のチップ抵抗器。
【請求項12】
請求項3~9のいずれか1項に記載の抵抗体ペーストに用いられる、
ガラス粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に抵抗体ペースト、チップ抵抗器及びガラス粒子に関し、より詳細には、金属粒子を含む抵抗体ペースト、抵抗体ペーストを材料とする抵抗体を備えるチップ抵抗器、及び抵抗体ペーストに含まれるガラス粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属粒子で形成された導電部分と、低融点ガラス粒子で形成された無機バインダー成分と、非導電性無機粒子(絶縁粒子)で形成された抵抗値調整成分と、有機ビヒクルとを含む抵抗体ペーストが記載されている。金属粒子は、銅及びニッケルを含む。非導電性無機粒子は、例えば、アルミナを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の抵抗体ペーストでは、抵抗値調整成分を添加することで、抵抗体ペーストを材料とする抵抗体の比抵抗を高めることができるが、比抵抗を更に高めようとして抵抗値調整成分の添加量を多くすることで、抵抗体の抵抗温度係数(以下、「TCR」という)が低くなりすぎる場合がある。
【0005】
本開示の目的は、抵抗体の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能な抵抗体ペースト、チップ抵抗器及びガラス粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る抵抗体ペーストは、金属粒子と、絶縁粒子と、ガラス粒子と、金属ケイ化物と、を含む。前記金属粒子は、銅及びニッケルを含む。前記絶縁粒子は、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む。
【0007】
本開示の別の態様に係る抵抗体ペーストは、金属粒子と、絶縁粒子と、金属ケイ化物と、ガラス粒子と、を含む。前記金属粒子は、銅及びニッケルを含む。前記絶縁粒子は、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む。前記ガラス粒子は、少なくとも酸化ホウ素及び酸化アルミニウムを含む。チップ抵抗器の抵抗体を形成した場合に、ニッケルケイ化物を含むニッケル化合物が生成される。
【0008】
本開示の一態様に係るチップ抵抗器は、抵抗体と、基板と、を備える。前記抵抗体は、前記抵抗体ペーストを材料とし、前記基板上に形成されている。
【0009】
本開示の一態様に係るガラス粒子は、前記抵抗体ペーストに用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様に係る抵抗体ペースト、チップ抵抗器及びガラス粒子によれば、抵抗体の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態1,2に係る抵抗体ペーストを材料とする抵抗体を備えるチップ抵抗器の断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態2に係る抵抗体ペーストに含まれるガラス粒子A,Bの総和に対するガラス粒子Bの割合とTCRとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態1,2に係る抵抗体ペースト、チップ抵抗器及びガラス粒子について、図面を参照して説明する。以下の実施形態1,2において参照する
図1は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさや厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0013】
(実施形態1)
(1)抵抗体ペーストの構成
まず、実施形態1に係る抵抗体ペーストの構成について説明する。
【0014】
実施形態1に係る抵抗体ペーストは、後述のチップ抵抗器1の抵抗体13(
図1参照)の材料であり、抵抗体13を形成するために用いられる。
【0015】
実施形態1に係る抵抗体ペーストは、金属粒子と、絶縁粒子と、ガラス粒子と、有機ビヒクルと、金属ケイ化物と、を含む。
【0016】
金属粒子は、銅(Cu)及びニッケル(Ni)を含む。より詳細には、金属粒子は、銅粒子とニッケル粒子との組み合わせである。なお、金属粒子は、銅粒子とニッケル粒子との組み合わせに限らず、銅及びニッケルの合金粒子であってもよい。さらに、金属粒子は、銅粒子と合金粒子との組み合わせであってもよいし、ニッケル粒子と合金粒子との組み合わせであってもよいし、銅粒子とニッケル粒子と合金粒子との組み合わせであってもよい。金属粒子は、焼成後の抵抗体13(
図1参照)において導電経路を形成する。金属粒子は、銅及びニッケルを含んでいればよく、他の金属を更に含んでいてもよい。
【0017】
絶縁粒子は、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、酸化亜鉛(ZnO)及び窒化ホウ素(BN)の少なくとも1つを含む。実施形態1に係る抵抗体ペーストでは、絶縁粒子は、アルミナを含む。絶縁粒子は、焼成した抵抗体13(
図1参照)中の金属粒子の含有量を低減させて抵抗値を高くしつつ、後述のガラス粒子の溶融流動を抑えて導電経路の断線を抑制する。
【0018】
ガラス粒子は、例えば、酸化ケイ素(例えばSiO
2)を含む。ガラス粒子は、酸化ケイ素に加えて、他の酸化物を含んでいてもよい。他の酸化物は、例えば、酸化ホウ素(B
2O
3)である。ガラス粒子は、後述の基板11(
図1参照)に対する濡れ性を高めて密着性を向上させつつ、抵抗体13の全体にわたって溶融固化することで強靭な抵抗体13を形成する。また、ガラス粒子は、絶縁体であるため、抵抗値を調整する機能も有する。
【0019】
有機ビヒクルは、例えば、有機バインダーと有機溶剤との少なくとも一方を含む。実施形態1に係る抵抗体ペーストでは、有機ビヒクルは、有機バインダーと有機溶剤との両方を含む。有機バインダーは、例えば、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂等である。有機溶剤は、例えば、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート等である。有機ビヒクルの質量割合は、金属粒子を100とした場合に、例えば、5~200であるのが好ましく、より好ましくは10~150であるのがよく、更に好ましくは20~100であるのがよい。
【0020】
抵抗体ペーストは、金属ケイ化物として、ケイ化チタン(TiSi2)、ケイ化ジルコニウム(ZrSi2)、ケイ化ハフニウム(HfSi2)、ケイ化ニオブ(NbSi2)、ケイ化タンタル(TaSi2)、ケイ化クロム(CrSi2)、ケイ化タングステン(WSi2)、ケイ化モリブデン(MoSi2)、ケイ化鉄(FeSi2)、ケイ化マグネシウム(Mg2Si)、ケイ化ナトリウム(Na2Si)及びケイ化白金(PtSi)の少なくとも1つを含む。実施形態1に係る抵抗体ペーストは、金属ケイ化物として、ケイ化チタンを含む。
【0021】
実施形態1に係る抵抗体ペーストでは、焼成により金属ケイ化物と金属粒子(銅及びニッケル)とが反応し、この反応により金属粒子における銅及びニッケルの組成が変化するとともに、ケイ化ニッケル(Ni
31Si
12)が生成される。その結果、焼成により形成された抵抗体13(
図1参照)のTCRを上昇させることが可能となる。すなわち、絶縁粒子の添加量の増加に伴うTCRの低下を抑制することが可能となる。
【0022】
(2)チップ抵抗器の構成
次に、実施形態1に係るチップ抵抗器1の構成について、
図1を参照して説明する。
【0023】
実施形態1に係るチップ抵抗器1は、
図1に示すように、基板11と、複数(図示例では2つ)の上面電極12と、抵抗体13と、保護膜14と、複数(図示例では2つ)の下面電極15と、複数(図示例では2つ)の端面電極16と、を備える。また、実施形態1に係るチップ抵抗器1は、複数(図示例では2つ)の第1めっき層17と、複数(図示例では2つ)の第2めっき層18と、複数(図示例では2つ)の第3めっき層19と、を更に備える。すなわち、実施形態1に係るチップ抵抗器1は、基板11と、抵抗体13と、を備える。
【0024】
(2.1)基板
基板11は、例えば、セラミック基板である。セラミック基板の材料は、例えば、アルミナ含有率が96%以上のアルミナ焼結体である。基板11は、第1方向D1からの平面視において、矩形状に形成されている。基板11は、
図1に示すように、第1主面(上面)111と、第2主面(下面)112と、外周面113と、を有する。第1主面111と第2主面112とは、第1方向D1において互いに対向している。第1主面111及び第2主面112の各々は、第1方向D1に直交する第2方向D2に沿った平面である。また、外周面113は、第1方向D1に沿った4つの側面を含む。第1方向D1は、基板11の厚さ方向に平行な方向(
図1の上下方向)である。第2方向D2は、基板11の長手方向又は幅方向(短手方向)に平行な方向(
図1の左右方向)である。
【0025】
(2.2)上面電極
複数の上面電極12は、基板11の第1主面111上に形成されている。
図1の例では、複数の上面電極12は、基板11の第1主面111上において第2方向D2の両端部に形成されている。複数の上面電極12の材料は、例えば、Cu(銅)系合金である。複数の上面電極12は、例えば、厚膜材料を印刷した後に焼成することにより形成される。
【0026】
(2.3)抵抗体
抵抗体13は、基板11の第1主面111上に形成されている。
図1の例では、抵抗体13は、基板11の第1主面111上の中央部に形成されている。抵抗体13の材料は、例えば、上述の抵抗体ペーストである。抵抗体13は、第2方向D2における両端部において複数の上面電極12に接触しており、複数の上面電極12と電気的に接続されている。抵抗体13は、第1方向D1からの平面視において、例えば矩形状であるが、抵抗体13の抵抗値に合わせて任意の形状が可能である。
【0027】
(2.4)保護膜
保護膜14は、抵抗体13を保護するための膜である。保護膜14は、抵抗体13の少なくとも一部を覆う。
図1の例では、保護膜14は、抵抗体13の全域(全体)を覆っている。保護膜14の材料は、例えば、エポキシ樹脂である。保護膜14は、例えば、第1方向D1からの平面視において矩形状に形成されているが、抵抗体13の形状に合わせて任意の形状が可能である。保護膜14の材料は、エポキシ樹脂に限らず、例えば、ポリイミド樹脂であってもよい。
【0028】
(2.5)下面電極
複数の下面電極(裏面電極)15は、基板11の第2主面112上に形成されている。
図1の例では、複数の下面電極15は、基板11の第2主面112上において第2方向D2の両端部に形成されている。複数の下面電極15は、複数の上面電極12と一対一に対応している。複数の下面電極15の材料は、例えば、Cu系合金である。複数の下面電極15は、例えば、厚膜材料を印刷した後に焼成することにより形成される。
【0029】
(2.6)端面電極
複数の端面電極16は、基板11の外周面113を覆うように形成されている。
図1の例では、複数の端面電極16は、基板11の外周面113に含まれる4つの側面のうち第2方向D2における両側面を覆うように形成されている。複数の端面電極16は、複数の上面電極12及び複数の下面電極15と一対一に対応している。複数の端面電極16の材料は、例えば、カーボン粉末と銀(Ag)とエポキシ樹脂との混合物である。複数の端面電極16の各々は、第1方向D1における第1端部(上端部)において複数の上面電極12のうち対応する上面電極12に接触し、第2端部(下端部)において複数の下面電極15のうち対応する下面電極15に接触している。これにより、複数の上面電極12と複数の下面電極15とが、複数の端面電極16を介して電気的に接続される。
【0030】
(2.7)第1めっき層
複数の第1めっき層17は、例えば、銅(Cu)めっきからなる。
図1の例では、複数の第1めっき層17は、第2方向D2における基板11の両端部において、複数の上面電極12、複数の下面電極15及び複数の端面電極16を覆っている。また、複数の第1めっき層17は、保護膜14の表面に接触している。実施形態1に係るチップ抵抗器1では、第1めっき層17を設けることで、チップ抵抗器1の抵抗値を調整することが可能となる。なお、第1めっき層17は省略されてもよい。
【0031】
(2.8)第2めっき層
複数の第2めっき層18は、例えば、ニッケル(Ni)めっきからなる。
図1の例では、複数の第2めっき層18は、第2方向D2における基板11の両端部において、複数の第1めっき層17を覆っている。また、複数の第2めっき層18は、保護膜14の表面に接触している。
【0032】
(2.9)第3めっき層
複数の第3めっき層19は、例えば、錫(Sn)めっきからなる。
図1の例では、複数の第3めっき層19は、第2方向D2における基板11の両端部において、複数の第2めっき層18を覆っている。また、複数の第3めっき層19は、保護膜14の表面に接触している。
【0033】
(3)チップ抵抗器の製造方法
次に、実施形態1に係るチップ抵抗器1の製造方法について説明する。
【0034】
実施形態1に係るチップ抵抗器1の製造方法は、第1工程~第9工程を有する。
【0035】
第1工程では、基板11を準備する。より詳細には、第1工程では、複数のチップ抵抗器1の各々の基板11の元となる基板本体を準備する。基板本体は、例えば、セラミック基板である。基板本体となるセラミック基板の材料は、例えば、アルミナ含有率が96%以上のアルミナ焼結体である。
【0036】
第2工程では、複数のチップ抵抗器1の各々における複数の下面電極15を基板本体の第2主面上に形成する。より詳細には、第2工程では、例えば、厚膜材料を印刷した後に焼成することで基板本体の第2主面上にCu系合金膜を形成することにより、複数のチップ抵抗器1の各々における複数の下面電極15を形成する。基板本体の第2主面は、複数のチップ抵抗器1の各々の基板11の第2主面112となる面である。
【0037】
第3工程では、基板本体の第1主面上に複数の上面電極12を形成する。基板本体の第1主面は、複数のチップ抵抗器1の各々の基板11の第1主面111となる面である。より詳細には、第3工程では、例えば、厚膜材料を印刷した後に焼成することで基板本体の第1主面上にCu系合金膜を形成することにより、複数のチップ抵抗器1の各々における複数の上面電極12を形成する。
【0038】
第4工程では、複数のチップ抵抗器1の各々の抵抗体13を形成する。より詳細には、第4工程では、基板本体の第1主面上に抵抗体ペーストを印刷した後、焼成により抵抗体13を形成する。このとき、抵抗体13では、金属ケイ化物(ケイ化チタン)と金属粒子(銅及びニッケル)とが反応することにより、上記金属ケイ化物(ケイ化チタン)とは異なる金属ケイ化物(ケイ化ニッケル)が生成される。すなわち、実施形態1に係るチップ抵抗器1では、抵抗体13は、ケイ化ニッケルを含む。
【0039】
第5工程では、複数のチップ抵抗器1の各々における保護膜14を形成する。より詳細には、第5工程では、抵抗体13の全体を覆うようにエポキシ樹脂を塗布した後、エポキシ樹脂を熱硬化させることにより保護膜14を形成する。保護膜14は、
図1に示すように、複数の上面電極12と抵抗体13との接触部分も覆っている。
【0040】
第6工程では、第1工程~第5工程によって一体に形成された、端面電極16、第1めっき層17、第2めっき層18及び第3めっき層19を除いた複数のチップ抵抗器を、端面電極16、第1めっき層17、第2めっき層18及び第3めっき層19を除いた複数の短冊形状のチップ抵抗器に分割する。より詳細には、第6工程では、例えば、一体に形成された複数のチップ抵抗器を、上下に設けられたローラ(図示せず)から応力を加えることにより、複数の短冊形状のチップ抵抗器に分割する。
【0041】
第7工程では、複数の短冊形状に分割されたチップ抵抗器に対して、複数の端面電極16を形成する。より詳細には、第7工程では、例えば、上記混合物からなる端面電極ペースト(図示せず)をステンレス製のローラ(図示せず)上に形成した後、上記ローラを回転させることによって、複数の短冊形状のチップ抵抗器の各々において複数の端面電極16が形成される。これにより、複数の短冊形状のチップ抵抗器の各々において、複数の上面電極12と複数の下面電極15とが、複数の端面電極16を介して電気的に接続される。
【0042】
第8工程では、ローラを回転させることによって、複数の短冊形状のチップ抵抗器を個片のチップ抵抗器に分割する。
【0043】
第9工程では、複数のチップ抵抗器の各々において第1めっき層17~第3めっき層19を形成する。より詳細には、第9工程では、複数のチップ抵抗器の各々に対して、第1めっき層17、第2めっき層18、第3めっき層19の順に3つのめっき層を形成する。
【0044】
以上説明した第1工程~第9工程によって、実施形態1に係るチップ抵抗器1を製造することが可能となる。
【0045】
(4)チップ抵抗器の特性
次に、実施形態1に係る抵抗体ペーストを用いたチップ抵抗器1の特性について、比較例を参照しながら説明する。チップ抵抗器1の体積抵抗率は、例えば、200μΩ・cm以上であることが好ましい。また、チップ抵抗器1のTCRは、例えば、-50ppm/℃以上で、かつ、+50ppm/℃以下であることが好ましい。
【0046】
まず、比較例1では、抵抗体ペーストは、金属粒子と、ガラス粒子と、有機ビヒクルと、絶縁粒子と、を含む。金属粒子は、銅及びニッケルを含む。金属粒子における銅及びニッケルの比率は、6:4である。また、絶縁粒子は、アルミナを含む。比較例1では、抵抗体ペーストにおける絶縁粒子(アルミナ)の比率が大きくなるにつれて、この抵抗体ペーストを材料とする抵抗体の抵抗値は高くなるが、抵抗体のTCRは低くなりすぎてしまう。
【0047】
また、比較例2では、抵抗体ペーストは、金属粒子と、ガラス粒子と、有機ビヒクルと、金属ケイ化物と、を含む。金属粒子は、銅及びニッケルを含む。金属粒子における銅及びニッケルの比率は、55:45である。また、金属ケイ化物は、ケイ化チタンである。比較例2では、抵抗体ペーストにおける金属ケイ化物(ケイ化チタン)の比率が大きくなるにつれて、この抵抗体ペーストを材料とする抵抗体の抵抗値が高くなるとともに、抵抗体のTCRも高くなる。
【0048】
一方、実施形態1では、抵抗体ペーストは、金属粒子と、ガラス粒子と、絶縁粒子と、有機ビヒクルと、金属ケイ化物と、を含む。金属粒子は、銅及びニッケルを含む。金属粒子における銅及びニッケルの比率は、55:45である。また、絶縁粒子はアルミナを含み、金属ケイ化物はケイ化チタンを含む。
【0049】
一例として、抵抗体ペーストにおいて、金属粒子の比率が70wt%、ガラス粒子の比率が7wt%、絶縁粒子(アルミナ)の比率が20wt%、金属ケイ化物(ケイ化チタン)の比率が3wt%である場合、この抵抗体ペーストを材料とする抵抗体13の抵抗値は364mΩとなり、抵抗体13のTCRは-19ppmとなる。ここで、抵抗体13の体積は5.44×10-2mm3(長さ1.6mm×幅1.7mm×厚さ20μm)であるため、実施形態1に係る抵抗体ペーストを材料とする抵抗体13の体積抵抗率は上記基準を満たしている。また、実施形態1に係る抵抗体ペーストを材料とする抵抗体13では、25℃から125℃に変化する際のTCRが-19ppmであるため、TCRの上記基準を満たしている。要するに、実施形態1に係る抵抗体ペーストにより抵抗体13を形成した場合、抵抗体13の抵抗値を高くしながらも抵抗体13のTCRを低くすることが可能となる。すなわち、実施形態1に係る抵抗体ペーストによれば、抵抗体13の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能となる。
【0050】
(5)効果
実施形態1に係る抵抗体ペーストは、上述したように、絶縁粒子を含んでいる。このため、実施形態1に係る抵抗体ペーストによりチップ抵抗器1の抵抗体13を形成した場合には、抵抗体13の比抵抗を高めることが可能となる。また、実施形態1に係る抵抗体ペーストは、上述したように、金属ケイ化物(例えば、ケイ化チタン)を更に含んでいる。このため、実施形態1に係る抵抗体ペーストによりチップ抵抗器1の抵抗体13を形成した場合には、絶縁粒子の添加量の増加によって抵抗体13のTCRが低くなりすぎることを抑制することが可能となる。すなわち、実施形態1に係る抵抗体ペーストによれば、抵抗体13の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能となる。
【0051】
(6)変形例
実施形態1は、本開示の様々な実施形態の一つにすぎない。実施形態1は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0052】
実施形態1では、抵抗体ペーストは、金属ケイ化物として、ケイ化チタンを含んでいるが、抵抗体ペーストは、ケイ化チタン以外の金属ケイ化物を含んでいてもよい。抵抗体ペーストは、金属ケイ化物として、例えば、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ハフニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化クロム、ケイ化タングステン、ケイ化モリブデン、ケイ化鉄、ケイ化マグネシウム、ケイ化ナトリウム又はケイ化白金を含んでいてもよい。また、抵抗体ペーストは、金属ケイ化物として、上述の2以上の材料を含んでいてもよい。要するに、抵抗体ペーストは、金属ケイ化物として、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ハフニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化クロム、ケイ化タングステン、ケイ化モリブデン、ケイ化鉄、ケイ化マグネシウム、ケイ化ナトリウム及びケイ化白金の少なくとも1つを含んでいればよい。
【0053】
実施形態1では、抵抗体ペーストは、絶縁粒子として、アルミナを含んでいるが、抵抗体ペーストは、アルミナ以外の絶縁粒子を含んでいてもよい。抵抗体ペーストは、絶縁粒子として、ジルコニア、酸化亜鉛又は窒化ホウ素を含んでいてもよい。また、抵抗体ペーストは、絶縁粒子として、上述の2以上の材料を含んでいてもよい。要するに、抵抗体ペーストは、絶縁粒子として、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含んでいればよい。
【0054】
実施形態1では、第1方向D1及び第2方向D2の両方と直交する方向(
図1の紙面に垂直な方向)から見て、各端面電極16の形状がU字状であるが、各端面電極16の形状はU字状に限らず、例えば、第1方向D1に沿ったI字状であってもよい。この場合、第1方向D1における端面電極16の第1端部(上端部)で上面電極12の側面に接触し、第1方向D1における端面電極16の第2端部(下端部)で下面電極15の側面に接触していればよい。これにより、複数の上面電極12と複数の下面電極15とを、複数の端面電極16を介して電気的に接続することが可能となる。
【0055】
(実施形態2)
実施形態2に係る抵抗体ペースト、チップ抵抗器1及びガラス粒子について説明する。実施形態2に係るチップ抵抗器1に関し、実施形態1に係るチップ抵抗器1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
実施形態2に係る抵抗体ペーストは、ガラス粒子の組成が異なっている点で、実施形態1に係る抵抗体ペーストと相違する。
【0057】
(1)抵抗体ペーストの構成
実施形態2に係る抵抗体ペーストは、金属粒子(金属導電体)と、絶縁粒子(絶縁体)と、金属ケイ化物と、ガラス粒子(ガラス)と、を含む。すなわち、ガラス粒子は、抵抗体ペーストに用いられる。また、実施形態2に係る抵抗体ペーストは、有機ビヒクルを更に含む。
【0058】
金属粒子は、銅及びニッケルを含む。実施形態2では、金属粒子は、例えば、銅ニッケル合金を含む。金属粒子は、焼成後の抵抗体13(
図1参照)において導電経路を形成する。金属粒子は、銅及びニッケルを含んでいれば他の金属を更に含んでいてもよい。
【0059】
絶縁粒子は、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む。実施形態2では、絶縁粒子は、例えば、アルミナを含む。絶縁粒子は、焼成した抵抗体13(
図1参照)中の金属粒子の含有量を低減させて抵抗値を高くしつつ、後述のガラス粒子の溶融流動を抑えて導電経路の断線を抑制する。
【0060】
金属ケイ化物は、例えば、ケイ化チタンを含む。
【0061】
ガラス粒子は、酸化ホウ素(B2O3)を主成分とし、副成分として、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化タンタル(Ta2O5)を含むと共に、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)及び酸化バリウム(BaO)の少なくとも1つを含む。実施形態2では、ガラス粒子は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化バリウムのすべてを含む。
【0062】
ガラス粒子は、抵抗体ペーストの焼成工程において、銅、ニッケル及び金属ケイ化物(ケイ化チタン)と反応して、後述のニッケルケイ化物(Ni31Si12)及びニッケルアルミホウ化物(Ni20Al3B6)を生成する。これらのニッケルケイ化物及びニッケルアルミホウ化物は、後述の抵抗体13の抵抗温度係数(Temperature Coefficient of Resistance:TCR)を調整する働きを有する。実施形態2では、後述のガラス粒子Bが上述のガラス粒子に相当する。
【0063】
また、抵抗体ペーストは、後述の基板11と抵抗体13との密着性を向上させつつ、抵抗体13の全体を溶融固化させて強靭な抵抗体13とするために、後述のガラス粒子Aのように、酸化鉛(PbO)を主成分とするガラス粒子を更に含んでいてもよい。ただし、ニッケルケイ化物及びニッケルアルミホウ化物の生成を抑制しないように、ガラス粒子(ガラス粒子A)単体に含まれる酸化鉛の比率は80wt%以下とし、かつ、ガラス粒子Aに含まれる酸化鉛とガラス粒子Bに含まれる酸化鉛との総和の比率は45wt%以下とすることが好ましい。ガラス粒子Aは、一例として、酸化鉛を主成分とし、副成分として、酸化ホウ素、酸化ケイ素及び酸化亜鉛を含む。また、ガラス粒子は、絶縁体であるため、抵抗値を調整する機能も有する。
【0064】
実施形態2に係る抵抗体ペーストでは、上述したように、ガラス粒子(ガラス粒子B)は、少なくとも酸化ホウ素及び酸化アルミニウムを含む。また、実施形態2に係る抵抗体ペーストでは、ガラス粒子(ガラス粒子B)は、酸化ケイ素、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化バリウムを更に含む。
【0065】
有機ビヒクルは、例えば、有機バインダーと有機溶剤との少なくとも一方を含む。実施形態2に係る抵抗体ペーストでは、有機ビヒクルは、有機バインダーと有機溶剤との両方を含む。有機バインダーは、例えば、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂等である。有機溶剤は、例えば、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート等である。有機ビヒクルの質量割合は、金属粒子を100とした場合に、例えば、5~200であるのが好ましく、より好ましくは10~150であるのがよく、更に好ましくは20~100であるのがよい。
【0066】
(2)チップ抵抗器の構成
次に、実施形態2に係るチップ抵抗器1の構成について、
図1を参照して説明する。
【0067】
実施形態2に係るチップ抵抗器1は、
図1に示すように、基板11と、複数(図示例では2つ)の上面電極12と、抵抗体13と、保護膜14と、複数(図示例では2つ)の下面電極15と、複数(図示例では2つ)の端面電極16と、を備える。また、実施形態2に係るチップ抵抗器1は、複数(図示例では2つ)の第1めっき層17と、複数(図示例では2つ)の第2めっき層18と、複数(図示例では2つ)の第3めっき層18と、を更に備える。要するに、実施形態2に係るチップ抵抗器1は、基板11と、上述の抵抗体ペーストを材料とし、基板11上に形成されている抵抗体13と、を備える。
【0068】
抵抗体13は、ニッケル化合物を含む。ニッケル化合物は、例えば、ニッケルケイ化物を含む。ニッケルケイ化物は、例えば、ケイ化ニッケル(Ni31Si12)である。ニッケル化合物は、ニッケルアルミホウ化物を更に含む。ニッケルアルミホウ化物は、例えば、ホウ化ニッケルアルミ(Ni20Al3B6)である。言い換えると、上述の抵抗体ペーストによりチップ抵抗器1の抵抗体13を形成した場合に、ニッケルケイ化物を含むニッケル化合物が生成される。
【0069】
(3)チップ抵抗器の製造方法
次に、実施形態2に係るチップ抵抗器1の製造方法について説明する。
【0070】
実施形態2に係るチップ抵抗器1の製造方法は、第1工程~第8工程を有する。
【0071】
第1工程では、基板11を準備する。より詳細には、第1工程では、複数のチップ抵抗器1の各々の基板11の元となる基板本体を準備する。基板本体は、例えば、セラミック基板である。基板本体となるセラミック基板の材料は、例えば、アルミナ含有率が96%以上のアルミナ焼結体である。
【0072】
第2工程では、基板本体の第1主面上に複数の上面電極12を形成する。基板本体の第1主面は、複数のチップ抵抗器1の各々の基板11の第1主面111となる面である。より詳細には、第2工程では、例えば、厚膜材料を印刷した後に焼成することで基板本体の第1主面上にCu系合金膜を形成することにより、複数のチップ抵抗器1の各々における複数の上面電極12を形成する。
【0073】
第3工程では、複数のチップ抵抗器1の各々の抵抗体13を形成する。より詳細には、第3工程では、基板本体の第1主面上に抵抗体ペーストを印刷した後、焼成により抵抗体13を形成する。このとき、抵抗体13では、ガラス粒子を介して金属ケイ化物(ケイ化チタン)と金属粒子(銅及びニッケル)とが反応することにより、上記金属ケイ化物(ケイ化チタン)とは異なる金属ケイ化物、具体的にはケイ化ニッケル(Ni31Si12)が生成される。またこのとき、抵抗体ペーストに含まれるケイ化チタンのチタンがガラス粒子に取り込まれ、ケイ化チタンのケイ素が金属粒子(銅及びニッケル)と反応することで、抵抗体ペーストに含まれるケイ化チタンはほぼ消失する。さらに、金属粒子(銅及びニッケル)は、ガラス粒子と直接反応することにより、金属ホウ化物、具体的にはホウ化ニッケルアルミ(Ni20Al3B6)も生成される。このように、実施形態2に係るチップ抵抗器1では、抵抗体13は、少なくともニッケルケイ化物(ケイ化ニッケル)を含む。
【0074】
第4工程では、複数のチップ抵抗器1の各々における保護膜14を形成する。より詳細には、第4工程では、抵抗体13の全体を覆うようにエポキシ樹脂を塗布した後、エポキシ樹脂を熱硬化させることにより保護膜14を形成する。保護膜14は、
図1に示すように、複数の上面電極12と抵抗体13との接触部分も覆っている。
【0075】
第5工程では、複数のチップ抵抗器1の各々における複数の下面電極15を基板本体の第2主面上に形成する。より詳細には、第2工程では、例えば、厚膜材料を印刷した後に焼成することで基板本体の第2主面上にCu系合金膜を形成することにより、複数のチップ抵抗器1の各々における複数の下面電極15を形成する。基板本体の第2主面は、複数のチップ抵抗器1の各々の基板11の第2主面112となる面である。
【0076】
第6工程では、第1工程~第5工程によって一体に形成された複数のチップ抵抗器1を個々のチップ抵抗器1に切断する。より詳細には、第6工程では、例えば、レーザ又はダイシングを用いて、一体に形成された複数のチップ抵抗器1を個々のチップ抵抗器1に切断する。
【0077】
第7工程では、個々に切断されたチップ抵抗器1に対して、複数の端面電極16を形成する。より詳細には、第7工程では、例えば、上記混合物からなる端面電極ペースト(図示せず)をステンレス製のローラ(図示せず)上に形成した後、上記ローラを回転させることによって、複数のチップ抵抗器1の各々において複数の端面電極16が形成される。これにより、複数のチップ抵抗器1の各々において、複数の上面電極12と複数の下面電極15とが、複数の端面電極16を介して電気的に接続される。
【0078】
第8工程では、複数のチップ抵抗器の各々において第1めっき層17~第3めっき層19を形成する。より詳細には、第8工程では、複数のチップ抵抗器1の各々に対して、第1めっき層17、第2めっき層18、第3めっき層19の順に3つのめっき層を形成する。
【0079】
以上説明した第1工程~第8工程によって、実施形態2に係るチップ抵抗器1を製造することが可能となる。
【0080】
なお、上述のチップ抵抗器1の製造方法において、第5工程は、例えば、第2工程の前に実行されてもよい。
【0081】
(4)チップ抵抗器の特性
次に、上述の抵抗体ペーストを用いたチップ抵抗器1の特性について、
図2及び表1~表3を参照して説明する。
図2の横軸は、ガラス粒子A,Bの総和に対するガラス粒子Bの割合を示し、
図2の縦軸は、抵抗体13のTCRを示す。表1は、ガラス粒子Aの組成比を示す。表2は、ガラス粒子Bの組成比を示す。表3は、抵抗体ペーストの配合組成と、抵抗体ペーストを用いたチップ抵抗器の電気特性及び抵抗体の参照強度比(Reference Intensity Ratio:RIR)との関係を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
ガラス粒子Aは、表1に示すように、酸化鉛(PbO)と、酸化ホウ素(B2O3)と、酸化亜鉛(ZnO)と、酸化ケイ素(SiO2)と、を含む。ガラス粒子Aでは、酸化鉛の比率は60wt%以上、80wt%以下であり、酸化ホウ素の比率は15wt%以上、20wt%以下であり、酸化亜鉛の比率は1wt%以上、5wt%以下であり、酸化ケイ素の比率は5wt%以上、15wt%以下である。実施形態2では一例として、酸化鉛の比率は71wt%以下であり、酸化ホウ素の比率は16wt%であり、酸化亜鉛の比率は5wt%であり、酸化ケイ素の比率は8wt%である。
【0086】
ガラス粒子Bは、表2に示すように、酸化ケイ素と、酸化アルミニウムと、酸化ホウ素と、酸化カルシウム(CaO)と、酸化マグネシウム(MgO)と、酸化バリウム(BaO)と、酸化タンタル(Ta2O5)と、を含む。ガラス粒子Bでは、酸化ケイ素の比率は2wt%以上、7wt%以下であり、酸化アルミニウムの比率は4wt%以上、9wt%以下であり、酸化ホウ素の比率は41wt%以上、50wt%以下である。また、ガラス粒子Bでは、酸化カルシウムの比率は1wt%以上、5wt%以下であり、酸化マグネシウムの比率は1wt%以上、5wt%以下であり、酸化バリウムの比率は30wt%以上、35wt%以下であり、酸化タンタルの比率は3wt%以上、10wt%以下である。実施形態2では一例として、酸化ケイ素の比率は4wt%であり、酸化アルミニウムの比率は6wt%であり、酸化ホウ素の比率は46wt%であり、酸化カルシウムの比率は3wt%である。また、酸化マグネシウムの比率は3wt%であり、酸化バリウムの比率は33wt%であり、酸化タンタルの比率は5wt%である。
【0087】
比較例1では、抵抗体ペーストは、表3に示すように、銅ニッケル合金(CuNi)と、ケイ化チタン(TiSi
2)と、酸化アルミニウムと、ガラス粒子Aと、を含む。比較例1では、ガラス粒子Aを介して銅ニッケル合金とケイ化チタンとが反応することにより、ケイ化ニッケル(Ni
31Si
12)が生成される。また、比較例1では、ケイ化ニッケルに加えて、銅ニッケル合金、ケイ化チタン、及び酸化アルミニウムも抵抗体13に含まれる。すなわち、比較例1では、表3に示すように、ケイ化ニッケル、銅ニッケル合金、ケイ化チタン及び酸化アルミニウムが抵抗体13に含まれる。比較例1では、ケイ化ニッケルによりTCRが-126.8ppmとなるが、-50ppmよりも小さい(
図2の点P1参照)。また、比較例1では、チップ抵抗器の平均抵抗値は300mΩとなる。すなわち、比較例1では、TCRが-50ppmよりも小さく、-50ppm以上、+50ppm以下の範囲(以下、「所定範囲」という)に含まれない。
【0088】
実施例1では、抵抗体ペーストは、表3に示すように、銅ニッケル合金(金属粒子)と、ケイ化チタン(金属ケイ化物)と、酸化アルミニウム(絶縁粒子)と、ガラス粒子Aと、ガラス粒子B(ガラス粒子)と、を含む。すなわち、実施例1では、抵抗体ペーストは、ガラス粒子Bを更に含む。比較例1では、抵抗体ペーストにおけるガラス粒子Aの比率が7.76wt%であるのに対し、実施例1では、抵抗体ペーストにおけるガラス粒子Aの比率が3.88wt%であり、抵抗体ペーストにおけるガラス粒子Bの比率が3.88wt%である。実施例1では、反応性の高い酸化ホウ素を主成分とするガラス粒子Bが抵抗体ペーストに含まれているため、ケイ化チタンの反応が促進されてケイ化ニッケル(Ni
31Si
12)の生成量が増加する。これにより、実施例1では、抵抗体13のTCRが-38.0ppmとなり、上記所定範囲内に含まれる(
図2の点P2参照)。なお、実施例1では、チップ抵抗器1の平均抵抗値は、表3に示すように、350mΩとなる。また、実施例1では、表3に示すように、銅ニッケル合金、酸化アルミニウム及びケイ化ニッケルが抵抗体13に含まれる。
【0089】
実施例2では、抵抗体ペーストは、表3に示すように、銅ニッケル合金(金属粒子)と、ケイ化チタン(金属ケイ化物)と、酸化アルミニウム(絶縁粒子)と、ガラス粒子Aと、ガラス粒子B(ガラス粒子)と、を含む。実施例2では、実施例1に対し、抵抗体ペーストにおけるガラス粒子A,Bの比率を変更している。具体的には、実施例2では、抵抗体ペーストにおけるガラス粒子Aの比率が2.16wt%で、抵抗体ペーストにおけるガラス粒子Bの比率が5.60wt%である。これにより、実施例2では、抵抗体13のTCRが-15.1ppmとなり、上記所定範囲内に含まれる(
図2の点P3参照)。なお、実施例2では、チップ抵抗器1の平均抵抗値は、表3に示すように、414mΩとなる。また、実施例2では、表3に示すように、銅ニッケル合金、酸化アルミニウム及びケイ化ニッケルが抵抗体13に含まれる。
【0090】
実施例3では、表3に示すように、銅ニッケル合金(金属粒子)と、ケイ化チタン(金属ケイ化物)と、酸化アルミニウム(絶縁粒子)と、ガラス粒子B(ガラス粒子)と、を含む。すなわち、実施例3では、ガラス粒子Aのすべてをガラス粒子Bに置き換えている。実施例3では、抵抗体ペーストにおけるガラス粒子Bの比率が7.76wt%である。実施例3では、ガラス粒子Aのすべてがガラス粒子Bに置き換わることで、銅ニッケル合金とガラス粒子Bとの反応も活性化するため、ケイ化ニッケル(Ni
31Si
12)に加えて、ホウ化ニッケルアルミ(Ni
20Al
3B
6)が生成される。これにより、実施例3では、抵抗体13のTCRが-0.5ppmとなり、上記所定範囲内に含まれる(
図2の点P4参照)。なお、実施例3では、チップ抵抗器1の平均抵抗値は363mΩとなる。また、実施例3では、表3に示すように、銅ニッケル合金、酸化アルミニウム、ケイ化ニッケル及びホウ化ニッケルアルミが抵抗体13に含まれる。
【0091】
ここで、上述の実施例1~3に対応する点P2~P4の近似式は、(1)式となる(
図2の破線a1参照)。なお、(1)式における「x」はガラス粒子A,Bの総和に対するガラス粒子Bの割合であり、(1)式における「y」はTCRである。
[数1]
y=-102.52x
2+228.81x-126.8 ・・・(1)
【0092】
上述の実施例1,2のように、ガラス粒子A,Bの両方が抵抗体ペーストに含まれている場合、チップ抵抗器1の抵抗体13を形成すると、ケイ化ニッケル(ニッケルケイ化物)が生成される。また、上述の実施例3のように、ガラス粒子Bのみが抵抗体ペーストに含まれている場合、チップ抵抗器1の抵抗体13を形成すると、ケイ化ニッケルに加えて、ホウ化ニッケルアルミ(ニッケルアルミホウ化物)が生成される。
【0093】
(態様)
本明細書には、以下の態様が開示されている。
【0094】
第1の態様に係る抵抗体ペーストは、金属粒子と、絶縁粒子と、ガラス粒子と、金属ケイ化物と、を含む。金属粒子は、銅及びニッケルを含む。絶縁粒子は、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む。
【0095】
この態様によれば、抵抗体(13)の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能となる。
【0096】
第2の態様に係る抵抗体ペーストは、第1の態様において、金属ケイ化物として、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ハフニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化クロム、ケイ化タングステン、ケイ化モリブデン、ケイ化鉄、ケイ化マグネシウム、ケイ化ナトリウム及びケイ化白金の少なくとも1つを含む。
【0097】
この態様によれば、抵抗体(13)のTCRの低下を抑制することが可能となる。
【0098】
第3の態様に係る抵抗体ペーストは、金属粒子と、絶縁粒子と、金属ケイ化物と、ガラス粒子と、を含む。金属粒子は、銅及びニッケルを含む。絶縁粒子は、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛及び窒化ホウ素の少なくとも1つを含む。ガラス粒子は、少なくとも酸化ホウ素及び酸化アルミニウムを含む。抵抗体ペーストでは、チップ抵抗器(1)の抵抗体(13)を形成した場合に、ニッケルケイ化物を含むニッケル化合物が生成される。
【0099】
この態様によれば、抵抗体(13)の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能となる。
【0100】
第4の態様に係る抵抗体ペーストでは、第3の態様において、ニッケル化合物は、ニッケルアルミホウ化物を更に含む。
【0101】
この態様によれば、抵抗体(13)のTCRを更に低下させることが可能となる。
【0102】
第5の態様に係る抵抗体ペーストでは、第4の態様において、ニッケルケイ化物は、Ni31Si12であり、ニッケルアルミホウ化物は、Ni20Al3B6である。
【0103】
この態様によれば、抵抗体(13)のTCRを更に低下させることが可能となる。
【0104】
第6の態様に係る抵抗体ペーストでは、第3~第5の態様のいずれか1つにおいて、ガラス粒子は、酸化ケイ素、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化バリウムを更に含む。
【0105】
この態様によれば、金属粒子及び金属ケイ化物との反応性を向上させることが可能となる。
【0106】
第7の態様に係る抵抗体ペーストでは、第6の態様において、ガラスでは、酸化ホウ素の比率は、41wt%以上、50wt%以下であり、酸化アルミニウムの比率は、4wt%以上、9wt%以下であり、酸化ケイ素の比率は、2wt%以上、7wt%以下であり、酸化タンタルの比率は、3wt%以上、10wt%以下であり、酸化マグネシウムの比率は、1wt%以上、5wt%以下であり、酸化カルシウムの比率は、1wt%以上、5wt%以下であり、酸化バリウムの比率は、30wt%以上、35wt%以下である。
【0107】
この態様によれば、ニッケルケイ化物を生成することが可能となる。
【0108】
第8の態様に係る抵抗体ペーストでは、第3~第7の態様のいずれか1つにおいて、金属ケイ化物は、ケイ化チタンを含む。
【0109】
この態様によれば、ニッケルケイ化物を生成することが可能となる。
【0110】
第9の態様に係る抵抗体ペーストは、第1~第8の態様のいずれか1つにおいて、有機ビヒクルを更に含む。
【0111】
この態様によれば、各材料を均一に混合し、かつ分散させることが可能となる。
【0112】
第10の態様に係るチップ抵抗器(1)は、抵抗体(13)と、基板(11)と、を備える。抵抗体(13)は、第1~第9の態様のいずれか1つに係る抵抗体ペーストを材料とし、基板(11)上に形成されている。
【0113】
この態様によれば、抵抗体(13)の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能となる。
【0114】
第11の態様に係るチップ抵抗器(1)では、第10の態様において、抵抗体(13)は、ケイ化ニッケルを含む。
【0115】
この態様によれば、抵抗体(13)のTCRの低下を抑制することが可能となる。
【0116】
第12の態様に係るガラス粒子は、第3~第9のいずれか1つに係る抵抗体ペーストに用いられる。
【0117】
この態様によれば、抵抗体(13)の高比抵抗と低TCRとを両立することが可能となる。
【0118】
第2、第4~第9の態様に係る構成については、抵抗体ペーストに必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 チップ抵抗器
11 基板
13 抵抗体