(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029240
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】形状適応機構及び形状適応装置
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20230224BHJP
B25J 9/22 20060101ALI20230224BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20230224BHJP
H04N 5/70 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G09F9/00 351
B25J9/22 Z
B25J17/00 L
H04N5/70 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116483
(22)【出願日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2021135072
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】武田 行生
(72)【発明者】
【氏名】安東 零司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 滋規
(72)【発明者】
【氏名】菅原 雄介
(72)【発明者】
【氏名】田岡 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】干場 功太郎
【テーマコード(参考)】
3C707
5C058
5G435
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS18
3C707DS02
3C707FS10
3C707HT11
3C707MT08
3C707NS10
3C707NS12
3C707NS17
5C058AA12
5C058AB06
5C058BA35
5G435EE13
5G435EE14
(57)【要約】
【課題】曲面形状だけでなく平面形状も出力可能な形状適応機構、及び該機構を備えた形状適応装置の提供。
【解決手段】形状適応機構は、互いに同一構造を有しかつ直列的に連結された複数のシザー機構(12、12c)を含み、シザー機構の各々は、互いに鏡面対称である第1リンク(18、18c)及び第2リンク(20、20c)を有し、第1リンク及び第2リンクの各々は所定の角度で屈曲する屈曲点(A、D)を有し、該屈曲点において互いに回転可能に連結され、各リンクにおいて屈曲点から該リンクの両端までの長さ(a、b)は互いに異なる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転対偶によって連結された複数のリンクを有し、曲面及び平面の双方を出力可能な形状適応機構。
【請求項2】
互いに同一構造を有しかつ直列的に連結された複数のシザー機構を含み、
前記複数のシザー機構の各々は、互いに鏡面対称である第1リンク及び第2リンクを有し、
前記第1リンク及び前記第2リンクの各々は所定の角度で屈曲する屈曲点を有し、該屈曲点において互いに回転可能に連結され、
各リンクにおいて前記屈曲点から該リンクの両端までの長さは互いに異なる、請求項1に記載の形状適応機構。
【請求項3】
隣接するシザー機構の間に配置されたT字リンク機構を有し、該T字リンク機構は、
隣接するシザー機構の一方の第1リンクの端部と、隣接するシザー機構の他方の第2リンクの端部との間に連結される第1板状リンクと、
隣接するシザー機構の一方の第2リンクの端部と、隣接するシザー機構の他方の第1リンクの端部との間に連結される第2板状リンクと、
前記第2板状リンクに接続されるとともに、前記第1板状リンクに対して一方向に変位可能な棒状リンクと、を有する、請求項2に記載の形状適応機構。
【請求項4】
前記棒状リンクは、
前記第2板状リンクから、隣接するシザー機構の一方の第1リンクの端部と、隣接するシザー機構の他方の第2リンクの端部とを結ぶ直線に垂直な方向に延び、隣接するシザー機構の一方の第2リンクの端部と、隣接するシザー機構の他方の第1リンクの端部とを結ぶ直線に垂直な方向について、前記第1板状リンクに対して相対移動可能に構成される、請求項3に記載の形状適応機構。
【請求項5】
隣接するシザー機構の一方の第2リンクの端部と、隣接するシザー機構の他方の第1リンクの端部との間に連結され、前記2つの端部間の距離を弾性的に変更可能な弾性並進要素をさらに有する、請求項2に記載の形状適応機構。
【請求項6】
前記弾性並進要素は、
隣接するシザー機構の一方の第2リンクの端部と、隣接するシザー機構の他方の第1リンクの端部との間に連結され、一方向に変位可能な直動機構と、
前記直動機構に接続され、外力に応じて弾性変形可能な弾性部材と、を有する、請求項5に記載の形状適応機構。
【請求項7】
第1のリンクと、
第1の回転対偶によって前記第1のリンクの一端に回転可能に連結された第2のリンクと、
第2の回転対偶によって前記第1のリンクの他端に回転可能に連結された第3のリンクと、
第3の回転対偶によって前記第2のリンクに対して回転可能に連結された第4のリンクと、
第4の回転対偶によって前記第3のリンクに対して回転可能に連結された第5のリンクと、
前記第1のリンクの中央に対して前記第1のリンクの長手方向に垂直に延びるように固定された第6のリンクと、
前記第6のリンクに対してその長手方向に変位可能に連結された直進対偶と、前記直進対偶が連結され、かつ前記第4のリンクが第5の回転対偶によって回転可能に連結され、かつ前記第5のリンクが第6の回転対偶によって回転可能に連結された連結部材と、を含む基本機構を有する、請求項1に記載の形状適応機構。
【請求項8】
前記基本機構を複数備え、第1の基本機構の前記第1のリンクの中央に設けられた回転対偶に、第2の基本機構の前記第4のリンクが回転可能に連結される、請求項7に記載の形状適応機構。
【請求項9】
互いに離隔配置された第1のリンク及び第2のリンクと、
第1の回転対偶によって前記第1のリンクの一端に回転可能に一端が連結された第3のリンクと、
第2の回転対偶によって前記第2のリンクの一端に回転可能に一端が連結されるとともに、第3回転対偶によって前記第3のリンクの中央に対して回転可能に中央が連結された第4のリンクと、
第4の回転対偶によって前記第3のリンクの他端に連結され、かつ第5の回転対偶によって前記第2のリンクの一端から垂直に延びる第5の直線状リンクに回転可能に連結された第6の直線状リンクと、
第6の回転対偶によって前記第4のリンクの他端に連結され、かつ第7の回転対偶によって前記第1のリンクの一端から垂直に延びる第7のリンクに回転可能に連結された第8の直線状リンク332と、を含む基本機構を有する、請求項1に記載の形状適応機構。
【請求項10】
前記基本機構を複数備え、第1の基本機構の前記第4の回転対偶に回転可能に連結された第9のリンクと、
第2の基本機構の前記第6の回転対偶に回転可能に連結された、前記第9のリンクと同じ長さの第10のリンクと、
前記第2のリンクの中央に対して前記第2のリンクの長手方向に垂直に延びるように固定された第11のリンクと、
前記第11のリンクに対してその長手方向に変位可能に連結された直進対偶と、
前記直進対偶が固定され、かつ、前記第9のリンク及び前記第10のリンクがそれぞれ第8の回転対偶及び第9の回転対偶によって回転可能に連結された連結部材と、を有する、請求項9に記載の形状適応機構
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の形状適応機構と、
前記形状適応機構の両端をそれぞれ把持する複数の把持部と、
前記複数の把持部間の距離を変更可能な可動部と、を有する形状適応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは形状適応機構に関し、特には、柔軟性ディスプレイを平面及び曲面の双方に取付ける用途等に適用可能な形状適応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の大型化や多様化に伴い、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等の、大面積で柔軟性を有する薄膜状電子デバイスを、円柱等の曲面に固定して使用する技術が知られている。これに関連する従来技術として、円筒の表面に複数の可撓性表示パネルを固定して、環状の表示領域を形成する技術が開示されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また可撓性のディスプレイを、しわや断裂を生じさせずに曲面に対して固定する技術も提唱されている。例えば特許文献2には、可撓性を有する基板と、基板上に配置された複数の発光素子とを備え、発光素子の下方に位置する基板の第1領域の剛性を、該基板の第1領域以外の第2領域の剛性より大きくして、3次元曲面形状に形成可能な有機EL表示パネルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-073504号公報
【特許文献2】特開2017-191138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機ELディスプレイ等の大面積で柔軟性を有する薄膜状電子デバイスを、曲率が比較的大きい曲面(対象物)に均一に取り付ける技術が求められている。これを実現するために、対象物の曲率に応じて変形可能な形状適応機構と、該形状適応機構に設けた静電吸着モジュール等のディスプレイ把持手段とを組み合わせた装置が研究・開発されている。
【0006】
このような装置では、該装置が出力する形状(すなわちディスプレイの形状)と、対象物の形状とのずれが所定の許容誤差以内であることが求められる。ここで上記把持手段自体に誤差吸収機能を持たせることも可能ではあるが、一定量を超える誤差については把持手段だけでは吸収できず、ディスプレイの好適な取付けが困難となる。
【0007】
また形状適応機構については、より広範な用途に適用できるようにすべく、曲面形状だけでなく、完全な平面形状も出力できることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、互いに同一構造を有しかつ直列的に連結された複数のシザー機構を含む形状適応機構であって、前記複数のシザー機構の各々は、互いに鏡面対称である第1リンク及び第2リンクを有し、前記第1リンク及び前記第2リンクの各々は所定の角度で屈曲する屈曲点を有し、該屈曲点において互いに回転可能に連結され、各リンクにおいて前記屈曲点から該リンクの両端までの長さは互いに異なる、形状適応機構である。
【0009】
本開示の他の態様は、上記一態様に係る形状適応機構と、前記形状適応機構の両端をそれぞれ把持する複数の把持部と、前記複数の把持部間の距離を変更可能な可動部と、を有する形状適応装置である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、一対のリンクからなるシザー機構を複数連結した構造において、一対のリンクが互いに鏡面対称でかつ、各リンクにおいて屈曲点から両端までの距離が異なるようにしたことにより、曲面だけでなく完全な直線形状も出力可能な形状適応機構、及び該形状適応機構を備えた形状適応装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施例に係る形状適応装置の概略斜視図である。
【
図2】
図1の形状適応装置を構成するシザー機構の斜視図である。
【
図3】第1実施例に係るシザー機構の模式図である。
【
図7】
図3のシザー機構の運動解析を説明する図である。
【
図8】
図7の運動解析に基づく、リンクの出力速度の一例を示す図である。
【
図9】下に凸でかつ下向きに屈曲するシザー機構によって出力される曲線の例を示す図である。
【
図10】下に凸でかつ上向きに屈曲するシザー機構によって出力される曲線の例を示す図である。
【
図11】上に凸でかつ下向きに屈曲するシザー機構によって出力される曲線の例を示す図である。
【
図12】上に凸でかつ上向きに屈曲するシザー機構によって出力される曲線の例を示す図である。
【
図13】比較例に係る形状適応装置の模式図である。
【
図14】
図13の形状適応装置を構成するシザー機構の模式図である。
【
図16】
図5の運動解析に基づく、リンクの出力速度の一例を示す図である。
【
図17】シザー機構におけるリンク間の干渉を説明する図である。
【
図18】第2実施例に係る形状適応装置の概略斜視図である。
【
図19】第2実施例に係る形状適応装置を構成するシザー機構の斜視図である。
【
図21】
図20に示すT字リンクの底辺長と最小出力半径との関係を示すグラフである。
【
図22】第2実施例に係る形状適応装置において、出力半径が200mmである例を示す図である。
【
図23】第2実施例に係る形状適応装置において、出力半径が最小である例を示す図である。
【
図24】第3実施例に係る形状適応装置を示す模式図である。
【
図25】第3実施例に係る形状適応機構の両端の間の距離を求める処理の一例を示すフローチャートである。
【
図26】第3実施例に係る形状適応装置の出力形状の一例を示す図である。
【
図27】第3実施例に係る形状適応装置の出力形状の他の例を示す図である。
【
図28】形状適応装置に吸着デバイスを付与した例を示す概略図である。
【
図29】第4実施例に係る形状適応装置を示す概略図である。
【
図30】
図29の形状適応装置が変形した状態を示す概略図である。
【
図31】第4実施例に係る基本機構の模式図である。
【
図32】
図31の基本機構を複数設けた例を示す模式図である。
【
図33】第5実施例に係る基本機構の模式図である。
【
図34】
図33の形状適応装置が変形した状態を示す概略図である。
【
図35】第5実施例に係る基本機構の基本的概念を示す模式図である。
【
図36】第5実施例に係る基本機構の基本的概念を示す模式図である。
【
図37】第5実施例に係る基本機構の模式図である。
【
図38】
図37の基本機構を複数設けた例を示す模式図である。
【
図39】第1実施例において装置の両端距離と内側曲率半径との関係を示すグラフである。
【
図40】第4実施例において装置の両端距離と内側曲率半径との関係を示すグラフである。
【
図41】第5実施例において装置の両端距離と内側曲率半径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施例)
図1は、第1実施例に係る形状適応装置10の概略構成を示す。形状適応装置10は、互いに同一構造を有しかつ直列的に連結された複数のシザー機構12を含む形状適応機構と、複数のシザー機構12のうち、両端のシザー機構12a、12bをそれぞれ把持する複数(ここでは2つ)の把持部(ロボットハンド等)14a、14bと、把持部間の距離(把持部14aに対する把持部16bの相対位置)を変更可能な可動部(ロボットアーム等)16a、16bとを有する。つまりロボットアーム16a、16bは、シザー機構12a、12b間の距離を可変とする能動対偶(後述する
図24の参照符号19に相当)として作用する。
【0013】
可動部16a、16bは1台のロボットが有するものでもよいし、2台のロボットにそれぞれ設けられてもよい。また可動部16a、16bを有するロボット(図示せず)は、プロセッサ等を備えたロボット制御装置(図示せず)によって制御される。
【0014】
図2は、
図1のシザー機構12の各々の構造例を示し、
図3は隣接する2つのシザー機構12、12cを模式的に示す。シザー機構12は、一対のリンク18、20(以降、第1リンク18、第2リンク20とも称する)を有し、各リンクは所定の角度(図示例では鈍角)で屈曲する屈曲点を有し、屈曲点から両端までの長さa及びbは互いに異なる(ここではa<b)。第1リンク18及び第2リンク20は、それらの屈曲点において、回転対偶(ジョイント)Aによって互いに回転可能に連結される。また第1リンク18の端部は、シザー機構12cを構成する一対のリンク18c、20c(以降、第1リンク18c、第2リンク20cとも称する)の一方(ここではリンク20c)の端部に、回転対偶Bによって互いに回転可能に接続され、同様にリンク20の端部は、リンク18cの端部に、回転対偶Cによって互いに回転可能に接続される。なおリンク18c、20cは、それらの屈曲点において、回転対偶Dによって互いに回転可能に連結される。
【0015】
第1リンク18と第2リンク20とは鏡面対称(勝手違い)の関係にあり、具体的には以下の式(1)を満たす。但し、上述のようにa<bであり、かつ|α|<βである。
【0016】
【0017】
図4は、式(1)を満たすリンク18、20の一例を示す図であり、αが正(α>0)である場合を示す。また上述のように、リンク18はリンク20と対称である。このように互いに対称でかつα>0であるシザー12を、ここでは便宜上、「下に凸のシザー」と称する。
【0018】
図5-6は、
図4の変形例を示し、具体的には式(1)を満たすリンク18′、20′からなるシザー機構12′を示す。シザー機構12′は、リンク18′、20′が鋭角に屈曲している点、換言すればαが負(α<0)である点でシザー機構12と異なり、他は同様でよい。このように互いに対称でかつα<0であるシザー12′を便宜上、「上に凸のシザー」と称する。
【0019】
ここでは、下に凸のシザー機構12について、剛体の回転・並進運動を6次元ベクトルで表すスクリュー理論を用いた運動解析を行う。先ず、
図7に示すように、4本のリンク18、20、18c、20cと、4つの回転対偶A-Dとで形成されるループ、具体的には時計回りのループ1と反時計回りのループ2を考える。
【0020】
ここでは
図7に示すように対偶D(Pe)を出力節の参照点とし、その出力節速度をV
Pe(=(ωx ωy ωz vx vy vz)
T)で表すとする。また各回転対偶(joint screw)の速度成分$
i,jは、以下の式(2)で表される。
【0021】
【0022】
次にループiにおいて、各対偶の速度成分$i,jとの相反積(reciprocal product)が0となるreciprocal screw $R,i,jを、次式(3)を用いて導出する。但し、reciprocal screw $R,i,jの数は、joint screw $i,jの数を6から減じた数である。
【0023】
【0024】
2つのループから求まる$R,i,jは運動の拘束を表し、具体的には次式(4)のようになる。
【0025】
【0026】
式(2)-(4)から、ループ1及び2についての運動解析の結果は、それぞれ以下の式(5)及び(6)のようになる。なお式(5)のmは、$R,1,4のノルムを1にするための係数であり、同様に式(6)のnは、$R,2,4のノルムを1にするための係数である。
【0027】
【0028】
【0029】
シザー機構の自由度は、独立な$R,i,jの数を6から減じた数である。式(5)、(6)は、独立な$R,i,jの数は5つであることを示すので、シザー機構の自由度は1となる。すなわち、式(5)及び(6)における$R,1,1(=$R,2,1)、$R,1,2(=$R,2,2)及び$R,1,3(=$R,2,3)の値から、出力節速度VPe(=(ωx ωy ωz vx vy vz)T)におけるωx,ωy,vzはいずれもゼロである条件が得られ、このことは、機構の運動はxy平面内であることを示す。また$R,1,4及び$R,2,4は、xy平面内における運動の様子を表す。
【0030】
次にシザー機構のxy平面内での運動について検討する。対偶D(Pe)の出力節速度VPe(=(ωx ωy ωz vx vy vz)T)について、以下の式(7)が成り立つ。
【0031】
【0032】
図8は、式(7)に基づく各出力節の速度を表す。式(7)及び
図8から、出力速度は、リンク間の相対姿勢を変えながら各シザーで異なる点に向かう直線方向となり、機構全体の運動としては、円弧形状が出力可能な1自由度の運動となる。すなわち、
図1に示した機構において、両端のシザー12aと12bとの距離(ハンド14aと14bとの距離)を決定すれば、一義的に定まった曲率の円弧形状が出力される。但し第1実施例では、a>bでかつ鏡面対称のリンクからなるシザーを使用することで、曲率が無限大の曲線、すなわち
図1に示すような直線形状も出力することができる。
【0033】
なお上記解析は下に凸のシザーについて行ったが、上に凸のシザーについても同様の解析により、円弧及び直線が出力可能であることがわかる。
【0034】
図9-12は、シザー機構からなる形状適応機構のバリエーションを説明する。先ず
図9に示す機構では、上述の下に凸のシザー12を下向きに屈曲させており、それぞれのシザーの対偶Cに相当する複数の位置が、出力形状としての円弧22を表す。同様に、
図10に示す機構では、下に凸のシザー12を上向きに屈曲させており、それぞれのシザーの対偶A、Dに相当する複数の位置が、出力形状としての円弧24を表す。
【0035】
図11に示す機構では、上述の上に凸のシザー12′を下向きに屈曲させており、それぞれのシザーの対偶Cに相当する複数の位置が、出力形状としての円弧22′を表す。同様に、
図12に示す機構では、上述の上に凸のシザー12′を上向きに屈曲させており、それぞれのシザーの対偶A、Dに相当する複数の位置が、出力形状としての円弧24′を表す。
【0036】
図9-12のいずれの機構も、凸の方向や屈曲方向に依らず、直線形状と曲線(円弧)形状の双方を出力することができる。またいずれの機構も、
図1におけるシザー12aと12bとの間の距離(ロボットハンド14aと14bとの間の距離)を変更することで、中心点、半径及び中心角が可変の円弧を出力することができる。
【0037】
図13は、比較例として、曲線形状を出力可能な形状適応装置100を示す。形状適応装置100は、互いに同一構造を有しかつ直列的に配置・連結された複数のシザー機構102と、複数のシザー機構102のうち、両端のシザー機構102a、102bをそれぞれ把持するロボットハンド104a、104bを備えたロボットアーム106a、106bとを有する。ここではロボットアーム106a、106bは、シザー機構102a、102b間の距離Linを可変とする能動対偶109として作用する。
【0038】
図14は、隣接する2つのシザー機構102、102cを模式的に示す。シザー機構102は、一対のリンク108、110を有し、各リンクはその中央にて所定の角度(図示例では鈍角)で屈曲しており、該中央から両端までの長さa及びbは互いに等しい。またリンク108とリンク110の形状・寸法は互いに同一であり、それらの中央(屈曲点)において、回転対偶(ジョイント)Aによって互いに回転可能に連結される。またリンク108の端部は、シザー機構102cを構成する一対のリンク108c、110cの一方(ここではリンク110c)の端部に、回転対偶Bによって互いに回転可能に接続され、同様にリンク110の端部は、リンク108cの端部に、回転対偶Cによって互いに回転可能に接続される。なおリンク108c、110cは、それらの中央(屈曲点)において、回転対偶Dによって互いに回転可能に連結される。
【0039】
図15-16は、シザー機構102における運動解析を示す。ここでは対偶D(Pe)を出力節の参照点とし、その出力節速度V
Pe(=(ωx ωy ωz vx vy vz)
T)について、以下の式(8)が成り立つ。
【0040】
【0041】
式(8)は、シザー機構102の対偶Dの出力速度の方向は、シザー機構102の姿勢によらず、同一の点Oを通過する直線Lで表されることを示す。つまりシザー機構102では、ωzがゼロであることからもわかるように、出力節Dの出力速度は機構の姿勢によらず同一点を通過する直線方向となるので、出力節の出力形状は1自由度、より具体的にはxy平面内の円弧となり、完全な直線形状は実現できない。よって例えば、シザー機構の対偶Cの位置に吸着ハンド等の把持手段を設け、該把持手段によって柔軟性ディスプレイを把持した場合、柔軟性ディスプレイを曲面状に変形させることはできても、完全な平面にすることはできない。
【0042】
これに対し、第1実施例に係る形状適応装置は、式(7)に示すようにωz(各リンク間の相対角速度)がゼロでない(∵a<b)ことと、鏡面対称となる構造を含むこととからもわかるように、ある曲線形状に加え、完全な直線形状も出力することができる。よって、例えば
図9のシザー機構12の対偶Cの位置に吸着ハンド等の把持手段を設け、該把持手段によって柔軟性ディスプレイを把持した場合、柔軟性ディスプレイを曲面状に変形させることもできるし、完全な平面にすることもできる。従って第1実施例によれば、平面状に載置されたディスプレイの両端を2つのロボットハンドで把持して、ロボットハンド間の距離を変更してディスプレイを曲面状に変形させた後に円柱等に取り付ける等、より広範な用途の装置を提供することができる。
【0043】
(第2実施例)
図17は、シザー機構におけるリンク間の干渉の例を説明する。シザー12、12cを含む機構が、それぞれのリンク18、20が重なり合うように変形した場合、各リンクは現実には
図2に示したように厚さ・幅を有するので、部位26においてリンク同士が干渉し、所望の出力形状が得られない場合がある。
【0044】
そこで第2実施例では、
図1に示した第1実施例のようにシザー12と12cを直接連結するのではなく、
図18に示す形状適応装置10′のように、隣接するシザーの間にT字リンク機構28を配置する。形状適応装置10′の他の構成要素は
図1の形状適応装置10と同様でよいので、同様の構成要素には同じ参照符号を付与し、詳細な説明は省略する。
【0045】
図18-19は、T字リンク機構28の具体的構造例を示す。T字リンク機構28は、シザー12の第1リンク18の端部(対偶B)とシザー12cの第2リンク20cの端部(対偶B′)とに回転可能に連結された第1板状リンク30と、シザー12の第2リンク20の端部(対偶C)とシザー12cの第1リンク18cの端部(対偶C′)とに回転可能に連結された第2板状リンク32と、第2板状リンク32に接続されてT字リンクを構成するとともに、第1板状リンク30に対して一方向(
図20では上下方向)に変位可能な棒状リンク34とを有する。
【0046】
棒状リンク34は、好ましくは第2板状リンク32の中央に接続され、第1板状リンク30に向けて直線C-C′に対して垂直方向に延びる。また棒状リンク34は、第1板状リンク30(好ましくは第1板状リンク30の中央)に設けられた穴に挿入されて該穴内を摺動可能に構成される。なお穴の代わりに溝等を使用してもよいが、直動リンク34は第1板状リンク30に対して、直線B-B′に垂直な方向にのみ移動可能に構成される。
【0047】
第2実施例では、板状リンク30、32をシザー12、12cの対偶間に介在させることにより、対偶BとB′が互いに離隔配置され、さらに対偶CとC′が互いに離隔配置されるので、
図17を用いて説明したようなリンク間の干渉を防止することができる。一方、T字リンクの移動方向は一方向に規定されるので、形状適応機構全体としては、第1実施例と同様、円弧と直線の双方を出力することができる。なお直動リンク34の長さl
h(
図20参照)には特段の制約はないが、板状リンク30と32との距離が最大となっても棒状リンク34が板状リンク30の穴から抜けないように、l
h>(a+b)であることが好ましい。
【0048】
図21は、板状リンク32の長さl
p(対偶C、C′間の距離)と、形状適応装置10′が出力する出力形状としての円弧の最小曲率半径との関係を求めた計算結果を示すグラフである。なお計算の条件として、ここではa、b、θ、及びシザーの個数を、それぞれ30mm、40mm、(π/4)、及び16とした。
【0049】
図21から、板状リンク32の長さl
pが大きいほど、最小曲率半径も大きくなることが判る。なおl
pには特段の制約はなく、形状適応装置としての用途や加工精度を考慮して適宜決定される。
【0050】
図22は、
図21の計算に使用した条件の形状適応装置においてl
pを20mmとした場合の、内側曲率半径r
inが200mmの円弧を出力しているときの状態を示し、
図23は、同じ形状適応装置が、内側曲率半径r
inが最小(=52.9mm)である円弧を出力しているときの状態を示す。このように第2実施例に係る形状適応装置は、第1実施例と同様に曲率が可変の円弧形状及び直線形状を出力でき、かつシザー機構が変形したときのリンク間の干渉も防止することができる。
【0051】
なお図示例では、隣接するシザー間の全てにT字リンク機構28を設けているが、本実施例はこれに限られない。このようなT字リンク機構は少なくとも1つあれば一定の効果があり、例えば、両端のシザー間の距離の変更(形状適応機構の変形)によって干渉が発生しやすいリンク間にのみT字リンク機構を設けてもよい。
【0052】
また形状適応装置10′を柔軟性ディスプレイの取付装置として使用する場合、ディスプレイを保持するチャックモジュール等の吸着手段はシザー機構の任意の位置に取り付け可能である。但し加工のし易さ等の観点からは、例えば第2板状リンク32の下面(棒状リンク34が取り付けられている側の反対側)に設けられることが好ましい。
【0053】
(第3実施例)
上述の第1実施例及び第2実施例はいずれも、曲線形状及び直線形状の双方を出力可能であるが、曲線形状は基本的に円弧となる。そこで以下では、単純な円弧ではない複雑な曲線形状を出力できる第3実施例について説明する。
【0054】
図24は、第3実施例に係る形状適応装置10″を示す模式図である。第3実施例は、
図1に示した第1実施例において、少なくとも1つの弾性並進要素40を有する。形状適応装置10″の他の構成要素は
図1の形状適応装置10と同様でよいので、同様の構成要素には同じ参照符号を付与し、詳細な説明は省略する。
【0055】
弾性並進要素40は、シザー12の対偶Bと、シザー12に隣接するシザー12cの対偶B′との間に配置され、直線B-B′の方向にのみ変位可能なシリンダ等の直動機構42と、直動機構42に接続されるとともに、把持部14a、14b等によってシザー機構に作用する外力に応じて弾性変形可能な弾性部材(例えばバネ)44とを有する。よって対偶BとB′との間の距離は可変であり、その距離は、形状適応装置10″に作用する外力等に応じて一義的に定まる。
【0056】
形状適応装置10″の自由度Fは、次式(9)から求めることができる。なお同式において、Nはリンクの個数、Jは対偶の個数、fiは各リンクの自由度を表す。
【0057】
【0058】
例えば
図24のように、リンク数N、対偶数Jがそれぞれ36、51であり、かつ弾性並進要素40を1つ有する機構では、自由度Fは3となる。このことは、両端のシザー間の距離Linとその方向(アーム16aに対するアーム16bの位置)の自由度が2であり、一方向に変位する弾性並進要素40の自由度が1であることを意味する。よって弾性並進要素40の個数に応じて自由度Fは変化する。
【0059】
図25は、両端のシザー間に加えられるロボットアームの力f
exに対する距離Linを求めるための処理の一例を示すフローチャートである。先ずステップS1において、出力すべき形状(曲率)に基づいて、シザー12の2つのリンクが形成する角度θ1(
図24を参照)を設定する。
【0060】
次にステップS2において、直動機構42の直動方向と対偶Bを含むリンクとがなす角度θ2と、弾性並進要素40の長さlとで表されるベクトルγ(=(θ2,l))の初期値γ0(=(θ2,0,l0))を与える。
【0061】
ステップS3-S6では、機構の入力を連続的に変化させ、仮想トルクFv(=(fv,τv))を含む静力学解析を行い、Fv(γ)=0となる力学的釣り合い形状を求める。まず、ステップS3において変位解析を行い、角度θ1,γ0を入力としたときの機構の出力形状を導出する。次のステップS4では、その形状における静力学解析を行い、各対偶の対偶作用力及び仮想トルクFvを導出する。次にステップS5において、導出された仮想トルクFvが、十分に小さい閾値δFv未満であるか否かを判定する。ここでFvが閾値δFv以上である場合は、ステップS6における演算処理によってγを変化させて、FvがδFv未満となるまでステップS3以降を繰り返す。このようにして、機構の力学的な釣り合い形状を求めることができる。
【0062】
最後にステップS7において、釣り合い形状における各パラメータの値から、両端のシザー(両アーム)間の距離Linが導出される。
【0063】
図24の例では、形状適応装置10″は、曲率が異なる2つの円弧が対偶Cで連結されてなる出力形状46を出力する。よって第3実施例によれば、適当な個数の弾性並進要素40を適当な位置に配置することで、より複雑な曲線形状を出力することができる。
【0064】
図26-27は、機構に対してロボットアームから与えられる力f
exが5Nであるという条件下で、
図25の演算処理によって得られる形状適応装置10″の出力形状の例を示す。ここではa、b、形状適応機構が直線形状を出力しているときのβ(
図4等を参照)、n(シザーの個数)をそれぞれ30mm、40mm、(π/4)、16とし、設計変数としてl
n(バネ44の自然長)、k(バネ定数)、n
1(弾性並進要素40が、一端のシザー12aから数えて何番目のシザーに設けられているかを示す数)を用いた。
【0065】
図26では、θ
1、l
n、k、n
1がそれぞれ0.5deg、30mm、6N/mm、8であるときにθ
2、l、Linはそれぞれ1.4deg、29.9mm、141mmとなり、機構の出力形状と、そのときの入力長さとが導出される。また
図27では、θ
1、l
n、k、n
1がそれぞれ0.7deg、20mm、4N/mm、4であるときにθ
2、l、Linはそれぞれ1.42deg、20.0mm、458mmとなる。このように、弾性並進要素40の位置及びバネ特性によって出力形状を大きく変えることができる。
【0066】
なお上述の第1-第3実施例の特徴は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第2実施例の直動機構と第3実施例の弾性並進要素の双方を含む形状適応装置も実施可能であるし、直動機構や弾性並進要素の個数に特段の制限もない。さらに、直動機構と弾性並進要素は同じシザー機構に設けることもできる。
【0067】
図28は、本開示に係る形状適応装置10を簡略的に示す図であり、形状適応装置10に静電吸着デバイス等の作業用付加デバイス50を取付けた状態を示す。上述の第1-第3実施例では、形状適応装置10と付加デバイス50との接合部d1の内のり寸法が、形状適応装置10の変形に応じて変化し得る。また接合部d1から所定距離オフセットした部分d2(ここでは付加デバイス50の先端)の内のり寸法も、形状適応装置10の変形に応じて変化し得る。このような場合、付加デバイス50の先端で可撓性のフィルム等の被保持部材52を保持して所定部位54に貼付する用途では、形状適応装置10の変形に応じてフィルム52に接線方向の力が作用し、フィルム52が伸張又は圧縮する等の好ましくない変形が生じ得る。
【0068】
そこで後述する実施例では、形状適応装置が変形しても、該装置に保持されるフィルム等の物品には接線方向の力が実質的に作用しない機構を説明する。
【0069】
(第4実施例)
図29は、第4実施例に係る形状適応装置200の概略構成を示す。形状適応装置200は、互いに同一構造を有しかつ直列的に連結された複数の基本機構202を含む形状適応機構を有する。なお第4実施例でも第1実施例と同様に、複数の基本機構202のうちの両端の機構をそれぞれ把持する複数(ここでは2つ)の把持部(ロボットハンド等)と、把持部間の距離を変更可能な可動部(ロボットアーム等)とを有する。これにより形状適応装置200は、
図29に示すような直線形状218と、
図30に示すような曲線形状220とを出力することができる。
【0070】
図31は、
図29の基本機構202の各々の構造例を示す。基本機構202は、6つのリンク及び7つの対偶からなる2つの閉回路を有する6節機構であり、1自由度の機構である。具体的には、基本機構202は、第1の直線状リンク204と、第1の回転対偶B
1によって第1のリンク204の一端に回転可能に連結された第2の直線状リンク206と、第2の回転対偶B
2によって第1のリンク204の他端に回転可能に連結された第3の直線状リンク208と、第3の回転対偶A
1によって第2のリンク206に対して回転可能に連結された第4の直線状リンク210と、第4の回転対偶A
3によって第3のリンク208に対して回転可能に連結された第5の直線状リンク212と、第1のリンク204の中央に対して第1のリンク204の長手方向に垂直に延びるように固定された第6の直線状リンク214と、第6のリンク214に対してその長手方向に変位可能に連結された直進対偶D
1と、直進対偶D
1が連結され、かつ第4のリンク210が第5の回転対偶C
1によって回転可能に連結され、かつ第5のリンク212が第6の回転対偶E
1によって回転可能に連結された連結部材216とを有する。
【0071】
図31の基本機構202によれば、第1のリンク204に対する第2のリンク206の回転角度と、第1のリンク204に対する第3のリンク208の回転角度とは、常に同じ角度(図示例ではθ)になる。よって基本機構202を使用すれば、出力形状が直線又は円弧となりかつその寸法(長さ)が一定の形状適応装置を実現することができる。
【0072】
図32は、第4実施例の応用例を示す。ここでは、基本機構202と同一構造の基本機構202aがさらに設けられ、具体的には、第1のリンク204の中央に設けられた回転対偶A
2に、機構202aの第4の直線状リンク210aが回転可能に連結される。これに関連し、機構202は、リンク210の中央に干渉しない形状(図示例では二股形状)の第6のリンク214´を有する。なお機構202の対偶A
1、A
3、B
1、B
2、C
1、D
1及びE
1はそれぞれ、機構202aの対偶A
2、A
4、B
2、B
3、C
2、D
2及びE
3に対応する。
【0073】
次に
図32の構成の出力形状について説明する。ここでの機構定数はリンク長a、b及びcであり、機構の状態を表す状態変数をθとする。上述のように、この機構ではリンク206、204及び208等が相対回転角の等しい回転対偶で連結されているので、B
0B
1、B
1B
2、B
2B
3、B
3B
4に対応する面の内のり寸法は一定である。さらに以下の式(10)を満たすときは、機構はB
0B
1、B
1B
2、B
2B
3、B
3B
4のそれぞれの中点A
1、A
2、A
3及びA
4を通る円弧220を形成する。
【0074】
【0075】
よって第4実施例では、A1、A2、A3及びA4を通る円弧220を出力曲線として規定することができ、その半径rinは次式(11)で表される。
【0076】
【0077】
また直進対偶D1のストローク長hは、状態変数θを用いて次式(12)で表すことができる。
【0078】
【0079】
また本実施例では、
図32に示す機構の両端をロボットアーム等で把持して操作することで入力変位を与えることができる。ここで基本機構202等の個数をnとすると、n個の基本機構からなる構成の両端の距離Linと状態変数θとの関係は次式(13)及び(14)で表すことができる。
【0080】
【0081】
【0082】
図32の構成によれば、内のり寸法が一定でありかつ、各リンク間の相対回転角度が等しい直線形状又は円弧形状を出力することができる。また基本機構の個数を適宜選択することで、所望の長さの出力形状を得ることができる。
【0083】
第4実施例では、形状適応装置の内のり寸法が一定でかつ直線形状及び円弧の双方を出力できるが、
図28に示したように形状適応装置に静電吸着デバイス等の付加デバイスが追加され、かつその寸法が無視できない場合は、形状適応装置ではなく付加デバイスの出力形状の寸法が一定であることが望ましい。そこで後述する第5実施例では、形状適応装置が変形しても、該装置の付加デバイスに保持されるフィルム等の物品には接線方向の力が実質的に作用しない機構を説明する。
【0084】
(第5実施例)
図33は、第5実施例に係る形状適応装置300の概略構成を示す。形状適応装置300は、互いに同一構造を有しかつ直列的に連結された複数の基本機構302を含む形状適応機構を有し、基本機構302のリンク304の下面側には、静電吸着デバイス等の付加デバイス308が設けられる。なお第5実施例でも第1実施例と同様に、複数の基本機構302のうちの両端の機構をそれぞれ把持する複数(ここでは2つ)の把持部(ロボットハンド等)と、把持部間の距離を変更可能な可動部(ロボットアーム等)とを有する。これにより形状適応装置300は、
図33に示すような直線形状342と、
図34に示すような曲線形状344とを出力することができる。
【0085】
図35及び
図36は、第5実施例の基本概念を説明する。ここでは、リンク304及び306にそれぞれ、高さHの静電吸着デバイス308及び310が取付けられた機構を考える。
【0086】
ここでデバイス308及び310の出力形状の寸法が一定であることは、各デバイスの先端312及び314(で形成される面)が回転対偶Q1で連結されることと同義であり、これを実現するためには、Δlの拡大運動と角度φの回転運動を同時に行い、かつ次式(15)を満たす必要がある。
【0087】
【0088】
式(15)を満たす具体的手段としては、
図36に示すように、リンク304及び306の一端と、回転対偶Q
1とを連結する平行リンク316が考えられる。しかしリンク304及び306の下方にはデバイス308及び310が取付けられるので、実際に平行リンク316を使用すると、平行リンク316のうち、回転対偶Q
1に連結されるリンク318はデバイス308又は310に干渉する場合がある。
【0089】
そこで第5実施例では、リンク304、306よりも付加デバイス308、310側にリンクや対偶を有さない基本機構を使用する。
【0090】
図37に示すように、基本機構302は、6つのリンク及び7つの対偶からなる4節平行リンク機構及び6節機構から構成される。具体的には、基本機構302は、互いに離隔配置された第1の直線状リンク304及び第2の直線状リンク306と、第1の回転対偶B
1によって第1のリンク304の一端に回転可能に一端が連結された第3の直線状リンク322と、第2の回転対偶A
1によって第2のリンク306の一端に回転可能に一端が連結されるとともに、第3回転対偶E
1によって第3のリンク322の中央に対して回転可能に中央が連結された第4の直線状リンク324と、第4の回転対偶F
1によって第3のリンク322の他端に連結され、かつ第5の回転対偶J
1によって第2のリンク306の一端から垂直に延びる第5の直線状リンク326に回転可能に連結された第6の直線状リンク328と、第6の回転対偶D
1によって第4のリンク324の他端に連結され、かつ第7の回転対偶C
1によって第1のリンク304の一端から垂直に延びる第7の直線状リンク330に回転可能に連結された第8の直線状リンク332と、を有する。
【0091】
図37の基本機構302によれば、2つのリンク304及び306を、仮想的に設定した点Q
1回りに互いに回転させることができる。以下、この基本機構を直列結合された3つ以上のリンクに適用可能な応用例を
図38に示す。ここでは、基本機構302と同一構造の基本機構202aがさらに設けられ、基本機構302と302aとの間には直進対偶が設けられる。具体的には、基本機構302の第4の回転対偶F
1に回転可能に連結された第9の直線状リンク334と、基本機構302aの第6の回転対偶D
2に回転可能に連結された、第9のリンク334と同じ長さの第10の直線状リンク336と、第2のリンク306の中央に対して第2のリンク306の長手方向に垂直に延びるように固定された第11の直線状リンク338と、第11のリンク338に対してその長手方向に変位可能に連結された直進対偶L
1と、直進対偶L
1が固定され、かつ、第9のリンク334及び第10のリンク336がそれぞれ第8の回転対偶K
1及び第9の回転対偶N
1によって回転可能に連結された連結部材340とを有する。なお機構302の対偶A
1、B
1、C
1、D
1、E
1、F
1及びJ
1はそれぞれ、機構302aの対偶A
2、B
2、C
2、D
2、E
2、F
2及びJ
2に対応する。
【0092】
次に第5実施例の出力形状について説明する。ここでは基本機構の個数はnであり、機構定数はリンク長a、b、c及びdであり、機構の状態を表す状態変数をθとすると、各点の相対位置関係は次式(16)-(18)で表される。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
よって直線CnBnと直線JnAnとの交点Qnは、次式(19)、(20)から求められる。
【0097】
【0098】
【0099】
よって|Qn-An|=|Qn-Bn|=bとなるため、Qnはθに依らず、An、Bnから距離bの位置に存在することがわかる。また幾何学的関係から、次式(21)-(23)が成り立つ。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
以上から、|Q
n+1-Q
n|は、θに依らず常に一定となり、
図37に示すように、あたかも回転対偶Q
1が存在するかのような機構が実現できる。よって形状適応機構に静電吸着デバイス等の付加デバイスを取付けたときは、付加デバイスの先端312、314の内のり寸法を常に一定に維持することができる。なお次式(24)を満たすときは、機構は内のり寸法が一定となる面の中点を通る円弧を形成可能であり、これは基本機構の個数に依存しない。
【0104】
【0105】
図38の例では、内のり寸法が一定となる面の中点(
図38におけるQ
1Q
2の中点)を通る円弧344を出力曲線として規定することができ、その半径r
inは次式(25)で表される。
【0106】
【0107】
また直進対偶L1のストローク長hは、状態変数θを用いて次式(26)で表すことができる。
【0108】
【0109】
本実施例では、
図38に示す機構の両端をロボットアーム等で把持して操作することで入力変位を与えることができる。ここで基本機構302等の個数をnとすると、n個の基本機構からなる構成の両端の距離Linと状態変数θとの関係は、上述の式(17)及び(21)を用いて次式(27)及び(28)のように表される。
【0110】
【0111】
【0112】
機構の両端の距離入力変位として既知とした場合、式(28)を使用すれば、対応する機構内の角度パラメータ(θ)が求まるので、そのときの出力形状も求めることができる。
【0113】
なおLinにより出力曲線を操作する場合、Linによる機構の形状は一意に定まることが好ましい。式(25)からわかるように、出力半径rinはθに対して一意に定まるため、前述の条件はθに対してLinが一意に定まることと同義である。
【0114】
上述の実施例はいずれも、回転対偶によって連結された複数のリンクを有する機構を備え、曲線(曲面)だけでなく完全な直線(平面)も出力できる形状適応機構及び形状適応装置を提供する。但し第1-第3実施例では、機構の変形によって機構自体の出力部の内のり寸法(
図28のd1)が変化し得るのに対し、第4実施例ではd1は変化しない。一方、第5実施例は、d1は変化し得るが、機構に取り付けられた静電吸着デバイス等の付加デバイスの出力部(先端)の内のり寸法(
図28のd2)は変化しない。このように各実施例は、形状適応装置の用途に応じて適宜選択・使用可能である。
【0115】
図39は、第1実施例において、形状適応機構の両端(ロボットアーム等で把持される部位)の距離L
inと出力半径r
inとの関係を運動学解析から求めた結果(理論値)を示すグラフである。なおパラメータa,b,l
p,φは、それぞれ30mm,40mm,20mm,7π/9とし、シザー機構の個数は5とした。
【0116】
同様に、
図40及び41はそれぞれ、第4及び第5実施例において、L
inとr
inとの関係を運動学解析から求めた結果(理論値)を示すグラフである。なお第4実施例でのパラメータa,b,cは、それぞれ17mm,47mm,0mmとし、基本機構の個数は3とした。また第5実施例でのパラメータa,b,c,dは、それぞれ14.1mm,37.7mm,42mm,7.5mmとし、基本機構の個数は3とした。
【0117】
これらのグラフに示すように、各実施例ではLinを規定すればrinは一意的に定まり、また各実施例間でグラフの勾配や形状はかなり異なる。よって形状適応装置の用途に応じて、好適な実施例やパラメータを適宜選択することができる。
【0118】
本開示に係る形状適応機構及び形状適応装置の適用例は、上述したディスプレイ取付装置に限られない。例えば、上述の吸着チャックモジュールをブラシやワイパー等に置換すれば、曲面形状の窓やガラスを清掃する清掃装置として使用可能である。或いは、上述の吸着チャックモジュールを各種のセンサに置換すれば、曲面形状のトンネルの内表面の状態を検査する検査装置としても使用可能である。
【0119】
また吸着手段は、複数のシザー機構の全てに設けられることが好ましいが、複数のシザー機構のうちの少なくとも2つに設けられていれば、ディスプレイを対象物の表面形状に適応させる(倣わせる)ことについて一定の効果は得られる。
【符号の説明】
【0120】
10、10′、10″、200、300 形状適応装置
12、12a、12b、12c シザー機構
14a、14b 把持部
16a、16b 可動部
18、18c、20、20c リンク
22、22′、24、24′、36、38、46 出力線
28 T字リンク機構
30、32 板状リンク
34 棒状リンク
40 弾性並進要素
42 直動機構
44 弾性部材
50 付加デバイス
202、302 基本機構