(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029267
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】ゴルフボール用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20230224BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20230224BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20230224BHJP
C08K 5/378 20060101ALI20230224BHJP
C08K 5/3447 20060101ALI20230224BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20230224BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230224BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
A63B37/00 512
C08K5/09
C08K3/20
C08K5/378
C08K5/3447
C08K5/14
C08L21/00
C08L81/02
A63B37/00 538
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126329
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】17/407,282
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】新井 大助
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC031
4J002CN012
4J002DE027
4J002EG046
4J002EK068
4J002EU139
4J002EV349
4J002FD039
4J002FD146
4J002FD152
4J002FD157
4J002FD158
4J002FD159
4J002GC01
(57)【要約】
【課題】所望のコア硬度を維持しながらコア内部硬度分布における硬度差を大きく設定してゴルフボール打撃時の低スピン特性を発揮させて飛び性能を改善し得るとともに耐久性を良好に維持できるゴルフボール用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、下記(a)~(e)及び(g-1)/(h)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)有機過酸化物、
(d)水、
(e)老化防止剤として、特定式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩、
(g-1)特定の化学構造式で表されるアルキルフェノールジサルファイド重合物である有機硫黄化合物または(h)硫黄
を含有するゴルフボール用ゴム組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(e)及び(g-1)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)有機過酸化物、
(d)水、
(e)老化防止剤として、以下の一般式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩、
【化1】
(但し、式中Rは水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であり、mは1~4の整数であり、mが2以上の場合、これらは同一でも互いに異なっていてもよい。)
(g-1)下記の化学構造式で表されるアルキルフェノールジサルファイド重合物である有機硫黄化合物
【化2】
(式中、Rはアルキル基を示し、nは2~20の範囲の重合度を示す。)
を含有することを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項2】
上記式(1)において、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-アミル基(ペンチル基)、iso-アミル基(ペンチル基)、tert-アミル基(ペンチル基)、sec-イソアミル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基及びtert-ヘキシル基の群から選ばれる炭素数1~6の低級アルキル基である請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項3】
上記(g-1)有機硫黄化合物がアミルフェノールジサルファイド重合物である請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項4】
上記(g-1)成分の配合量が上記(a)成分の100質量部に対して0.05~5.0質量部である請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項5】
上記(d)成分の配合量が、上記(a)成分100質量部に対して0.5~5質量部である請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項6】
更に、(f)成分として、上記(e)成分とは異なる老化防止剤を含む請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項7】
上記(f)成分がヒンダードフェノール系老化防止剤である請求項6記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項8】
更に、(g)成分として、上記(g-1)成分とは異なる有機硫黄化合物を含む請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項9】
上記ゴム組成物の加硫成形物がゴルフボールのコアである請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項10】
上記ゴム組成物の加硫成形物の表面と中心との硬度差がJIS-C硬度で25以上である請求項9記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項11】
上記(e)成分が、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトメチルベンゾイミダゾール及びこれらの金属塩の群から選ばれる請求項1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項12】
下記(a)~(e)及び(h)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)有機過酸化物、
(d)水、
(e)老化防止剤として、以下の一般式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩、
【化3】
(但し、式中Rは水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であり、mは1~4の整数であり、mが2以上の場合、これらは同一でも互いに異なっていてもよい。)
(h)硫黄
を含有することを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項13】
上記(h)成分の配合量が上記(a)成分の100質量部に対して0.01~5質量部である請求項12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項14】
上記(d)成分の配合量が、上記(a)成分100質量部に対して0.5~5質量部である請求項12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項15】
更に、(f)成分として、上記(e)成分とは異なる老化防止剤を含む請求項12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項16】
上記(f)成分がヒンダードフェノール系老化防止剤である請求項15記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項17】
更に、上記(g)成分または上記(g-1)成分である有機硫黄化合物を含む請求項12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項18】
上記ゴム組成物の加硫成形物がゴルフボールのコアである請求項12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項19】
上記ゴム組成物の加硫成形物の表面と中心との硬度差がJIS-C硬度で25以上である請求項18記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項20】
上記(e)成分が、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトメチルベンゾイミダゾール及びこれらの金属塩の群から選ばれる請求項12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用ゴム組成物に関し、特に、1層以上コア及び1層以上のカバーからなるゴルフボールのコア材料として好適に用いられるゴルフボール用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、ゴルフボールはツーピースソリッドゴルフボールやスリーピースソリッドゴルフボールが主流となっている。これらのゴルフボールは、通常、ゴム組成物のコアに各種の樹脂材料からなる単層又は複数層のカバーを被覆した構造である。コアは、ゴルフボールの体積の大部分を占め、反発性や打感、耐久性等のボール諸物性に大きな影響を及ぼす。最近では、コアの断面硬度を適宜調整することで特異なコア硬度傾斜を実現し、ドライバーやアイアンのフルショット時のスピン特性適正化による飛距離向上を達成する技術が種々提案されている。コアの表面と中心の硬度差をより拡大することがドライバーのフルショット時のスピンを低減させる効果が分かっており、また、従来の知見からフルショット時のスピン低減は、飛距離向上の実現につながることが分かっている。従って、ゴルフボールの飛距離改善のために、コア内部の硬度差をより拡大させる技術が求められている。この技術を実現させる方法の一つには、コアを2層のゴム層で作る構造の提案がある。しかし、コアを生産するうえでの工数が単層ゴムコアと比較して多くなるため、単層コア内の硬度差を拡大する技術が依然として期待されている。
【0003】
また、コアの断面硬度を調整する方法については、コアのゴム組成物の配合成分や、加硫温度及び時間を適宜調整することなどが挙げられる。また、コアのゴム組成物の配合成分に関しては、共架橋剤や有機過酸化物の種類の選定や配合量を調整することなどが挙げられる。また、共架橋剤については、ゴルフボール分野では、メタクリル酸,アクリル酸及びこれら金属塩を使用することが知られている。しかし、上記の共架橋剤の配合の調整については、主にコアの硬度調整によるボールの打感調整を主眼としておりスピン特性を満足できるものにはなっていない。
【0004】
特開平11-169485号公報には、コア用ゴム組成物に特定量のポリエチレングリコールを配合する技術が提案されている。しかし、この技術は、内部離型剤としてポリエチレングリコールを配合してゴム成形物(コア)の金型離型性を良好なものにすることを目的としており、コア用ゴム組成物を配合成分の種類の選定等によりゴム成形物の内部硬度やボールの低スピン化をより一層実現するための技術の提案ではない。
【0005】
また、特開2013-108079号公報及び特開2013-108080号公報には、ゴルフボール用ゴム組成物中に配合する種々の添加剤について検討した結果、2-メルカプトベンゾイミダゾール等の特定のベンゾイミダゾールを配合することにより、ゴム加硫成形物の反発性を高め、適度な硬度を有する技術が提案されている。しかし、上記のゴム組成物は、ゴム成形物の内部硬度やボールの低スピン化をより一層実現するための技術の提案ではない
【0006】
更に、特開2015-47502号公報には、コア用ゴム組成物において、基材ゴムに水及び/又はモノカルボン酸金属塩を配合することにより、ゴルフボールの反発性を良好に維持し、低スピン化によって飛距離を伸ばすことができ、更には耐久性に優れる技術が提案されている。しかし、この技術においてもゴルフボールの低スピン化効果は十分ではなく、まだ低スピン化の改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-169485号公報
【特許文献2】特開2013-108079号公報
【特許文献3】特開2013-108080号公報
【特許文献4】特開2015-47502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、所望のコア硬度を維持しながらコア内部硬度分布における硬度差を大きく設定してゴルフボール打撃時の低スピン特性を発揮させて飛び性能を改善し得るとともに耐久性を良好に維持できるゴルフボール用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ゴルフボール用コアのゴム組成物の配合成分について、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、(c)有機過酸化物、(d)水、(e)老化防止剤として、特定式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩、及び(g-1)特定の化学構造式で表されるアルキルフェノールジサルファイド重合物である有機硫黄化合物または(h)硫黄の上記成分を必須成分とすることにより、所望のコア硬度を維持しながらコア内部硬度分布における硬度差を大きく設定してゴルフボール打撃時の低スピン特性を十分に発揮できるとともに耐久性を良好に維持できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。その理由は定かではないが、以下のように推察される。
【0010】
即ち、コア材料に、水と共に老化防止剤として特定のベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩を配合することにより、コア配合中の有機過酸化物の分解促進に関してコア表面近傍とコア中心近傍との間に大きな差異が生じ、その結果としてブタジエンゴムの架橋構造に差異を生じさせることができる。コア用ゴム組成物中の有機過酸化物は、温度によって分解効率が変化することが知られており、ある温度よりも高温になるほど分解効率が上がる。温度が高すぎると、分解したラジカル量が多くなりすぎてしまい、ラジカル同士で再結合や不活性化してしまうことになる。その結果、架橋に有効に働くラジカルが減ることになる。ここで、コア加硫の際に有機過酸化物が分解することで分解熱が発生するとき、コア表面付近は加硫モールドの温度とほぼ同程度を維持しているが、コア中心付近は外側から分解していった有機過酸化物の分解熱が蓄積されるため、モールド温度よりもかなり高温になる。コアに水を配合した場合、水が有する水酸基が有機過酸化物の分解を助長させ、上述したようなラジカル反応をコア中心とコア表面において変化させることができることが推察される。即ち、コア中心付近では有機過酸化物の分解が更に助長され、ラジカルの不活性化がより促されることで有効ラジカル量が更に減少するため、コア中心近傍の架橋密度が小さいコアを得ることができると推察される。一方、老化防止剤として特定のベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩を配合することにより、コア表面近傍では効率的な架橋反応が促進されることで架橋密度が大きく、硬度の硬い層が形成されることにより、コア全体としてコア表面とコア中心との硬度差が大きく、かつ打撃耐久性能に優れたコアを得ることができるものと推察される。
【0011】
更に言えば、コアの内部においては、有機過酸化物の分解による自己発熱により金型表面温度より内部の温度が高くなる。コア中心近傍では、アルキルフェノールジサルファイド重合物や硫黄に由来する活性硫黄が多くなり、その結果として、架橋やグラフト反応が阻害され、低硬度領域を形成する。一方、コアの表面近傍では、アルキルフェノールジサルファイド重合物や硫黄に由来する活性硫黄が十分に発生する前に架橋やグラフト反応が終了してしまうため、高硬度領域を形成する。そのため、コア内部の硬度傾斜が大きくなると考えられる。
【0012】
従って、本発明は、下記のゴルフボール用ゴム組成物を提供する。
1.下記(a)~(e)及び(g-1)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)有機過酸化物、
(d)水、
(e)老化防止剤として、以下の一般式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩、
【化1】
(但し、式中Rは水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であり、mは1~4の整数であり、mが2以上の場合、これらは同一でも互いに異なっていてもよい。)
(g-1)下記の化学構造式で表されるアルキルフェノールジサルファイド重合物である有機硫黄化合物
【化2】
(式中、Rはアルキル基を示し、nは2~20の範囲の重合度を示す。)
を含有することを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物。
2.上記式(1)において、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-アミル基(ペンチル基)、iso-アミル基(ペンチル基)、tert-アミル基(ペンチル基)、sec-イソアミル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基及びtert-ヘキシル基の群から選ばれる炭素数1~6の低級アルキル基である上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
3.上記(g-1)有機硫黄化合物がアミルフェノールジサルファイド重合物である上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
4.上記(g-1)成分の配合量が上記(a)成分の100質量部に対して0.05~5.0質量部である上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
5.上記(d)成分の配合量が、上記(a)成分100質量部に対して0.5~5質量部である上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
6.更に、(f)成分として、上記(e)成分とは異なる老化防止剤を含む上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
7.上記(f)成分がヒンダードフェノール系老化防止剤である上記6記載のゴルフボール用ゴム組成物。
8.更に、(g)成分として、上記(g-1)成分とは異なる有機硫黄化合物を含む上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
9.上記ゴム組成物の加硫成形物がゴルフボールのコアである上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
10.上記ゴム組成物の加硫成形物の表面と中心との硬度差がJIS-C硬度で25以上である上記9記載のゴルフボール用ゴム組成物。
11.上記(e)成分が、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトメチルベンゾイミダゾール及びこれらの金属塩の群から選ばれる上記1記載のゴルフボール用ゴム組成物。
12.下記(a)~(e)及び(h)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)有機過酸化物、
(d)水、
(e)老化防止剤として、以下の一般式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩、
【化3】
(但し、式中Rは水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であり、mは1~4の整数であり、mが2以上の場合、これらは同一でも互いに異なっていてもよい。)
(h)硫黄
を含有することを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物。
13.上記(h)成分の配合量が上記(a)成分の100質量部に対して0.01~5質量部である上記12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
14.上記(d)成分の配合量が、上記(a)成分100質量部に対して0.5~5質量部である上記12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
15.更に、(f)成分として、上記(e)成分とは異なる老化防止剤を含む上記12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
16.上記(f)成分がヒンダードフェノール系老化防止剤である上記15記載のゴルフボール用ゴム組成物。
17.更に、上記(g)成分または上記(g-1)成分である有機硫黄化合物を含む上記12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
18.上記ゴム組成物の加硫成形物がゴルフボールのコアである上記12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
19.上記ゴム組成物の加硫成形物の表面と中心との硬度差がJIS-C硬度で25以上である上記18記載のゴルフボール用ゴム組成物。
20.上記(e)成分が、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトメチルベンゾイミダゾール及びこれらの金属塩の群から選ばれる上記12記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴルフボール用ゴム組成物よれば、該ゴム組成物をゴルフボールの各構成部材、特にコアとして適用した場合に、ゴルフボール打撃時の低スピン特性を発揮させて飛び性能を改善することができ、耐久性を良好に維持できる。
【0014】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボール用ゴム組成物は、下記(a)~(e)及び(g-1)/(h)の各成分を含有することを特徴とする。
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)有機過酸化物、
(d)水、
(e)老化防止剤として、特定式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩、(g-1)特定の化学構造式で表されるアルキルフェノールジサルファイド重合物である有機硫黄化合物または(h)硫黄
【0015】
上記(a)成分の基材ゴムについては、特に制限されるものではないが、特にポリブタジエンを用いることが好適である。
【0016】
上記のポリブタジエンは、そのポリマー鎖中に、シス-1,4-結合を60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上有することが好適である。ポリブタジエン分子中の結合に占めるシス-1,4-結合が少なすぎると、反発性が低下する場合がある。
【0017】
また、上記ポリブタジエンに含まれる1,2-ビニル結合の含有量としては、そのポリマー鎖中に、通常2%以下、好ましくは1.7%以下、更に好ましくは1.5%以下である。1,2-ビニル結合の含有量が多すぎると、反発性が低下する場合がある。
【0018】
上記ポリブタジエンは、(ML1+4(100℃))が、好ましくは20以上、より好ましくは30以上であり、上限としては、好ましくは120以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは80以下である。
【0019】
なお、本発明でいうムーニー粘度とは、回転可塑度計の1種であるムーニー粘度計で測定される工業的な粘度の指標(JIS K 6300)であり、単位記号としてML1+4(100℃)を用いる。また、Mはムーニー粘度、Lは大ロータ(L型)、1+4は予備加熱時間1分間、ロータの回転時間は4分間を示し、100℃の条件下にて測定したことを示す。
【0020】
上記ポリブタジエンは、希土類元素系触媒やVIII族金属化合物触媒を用いて合成したものを使用することができる。
【0021】
なお、基材ゴム中には、上記ランタン系列希土類元素化合物とは異なる触媒にて合成されたポリブタジエンゴムを配合してもよい。また、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等を配合してもよく、これら1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0022】
ゴム全体に占める上記ポリブタジエンの割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。また、基材ゴムの100質量%、即ち基材ゴムの全てが上記ポリブタジエンであってもよい。
【0023】
次に、(b)成分は共架橋剤であり、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩である。この不飽和カルボン酸の炭素数は、3~8個であることが好適であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。上記の不飽和カルボン酸の金属として具体的には、亜鉛、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等が挙げられ、特に亜鉛が好ましい。従って、共架橋剤としては、アクリル酸亜鉛が最も好ましい。
【0024】
(b)成分の配合量は、上記(a)成分の基材ゴム100質量部に対し、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、上限としては、好ましくは65質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは55質量部以下である。上記配合量が上記範囲より少ないと、軟らかくなり過ぎて反発性が悪いものとなり、上記範囲より多いと、硬くなり過ぎて打球感が悪くなるとともに、脆く耐久性に劣るものとなる。
【0025】
(b)成分の共架橋剤は、平均粒度3~30μmを有することが好ましく、より好ましくは5~25μm、更に好ましくは8~15μmである。上記共架橋剤の平均粒度が3μm未満では、ゴム組成物中で凝集しやすく、アクリル酸同士の反応性が向上してしまい、基材ゴム同士の反応性が減少してしまうため、ゴルフボールの反発性能を十分に得られないことがある。上記共架橋剤の平均粒度が30μmを超えると、共架橋剤粒子が大きくなり過ぎてしまい、得られるゴルフボールの特性のバラツキが大きくなる。
【0026】
(c)成分は有機過酸化物であり、この有機過酸化物としては、特に、1分間半減期温度が110~185℃である有機過酸化物を用いることが好適である。このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(日油社製「パークミルD」)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(日油社製「パーヘキサ25B」)、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(日油社製「パーブチルP」)等が挙げられ、ジクミルパーオキサイドを好適に用いることができる。そのほかの市販品としては、「パーヘキサC-40」、「ナイパーBW」、「パーロイルL」等(いずれも日油社製)、または、Luperco 231XL(アトケム社製)などを例示することができる。これらは1種を単独であるいは2種以上を併用してもよい。
【0027】
(c)成分の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、上限値としては、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0028】
(d)成分は水である。この(d)成分の水については、特に制限はなく、蒸留水であっても水道水であってもよいが、特には、不純物を含まない蒸留水を使用することが好適に採用される。
【0029】
(d)成分の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、上限値としては、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。(d)成分の配合量が多すぎると、硬度が軟化し所望の打感や耐久性や反発性が得られず、配合量が少なすぎると、所望のコア硬度分布が得られず、打撃時のボールの低スピン化を十分に実現できなくなるおそれがある。
【0030】
(e)成分は、以下の一般式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩であり、老化防止剤として用いられる。
【化4】
【0031】
上記式(1)中のRは、水素原子又は炭素数1~20の炭化水素基であり、mは1~4の整数であり、mが2以上の場合、これらは同一でも互いに異なっていてもよい。上記式(1)を有するベンゾイミダゾールとして、具体的には、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトメチルベンゾイミダゾール及びこれらの金属塩が例示され、金属塩としては、亜鉛塩であることが好適である。
【0032】
(e)成分の上記特定式で表されるベンゾイミダゾール及び/又はその金属塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、上限値としては、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。(e)成分の配合量が少なすぎると、コア表面近傍の架橋反応が効率的に促進されずに架橋密度が十分大きくならず、硬度の硬い層が十分形成されず、コア全体としてコア表面とコア中心の硬度差が十分大きくならず、十分な打撃耐久性能も得られないおそれがある。一方、(e)成分の配合量をむやみに多くしても得られる効果は、上記の好適な添加量以上には変わらない。
【0033】
(g-1)成分の有機硫黄化合物は、下記の化学構造を有するアルキルフェノールジサルファイド重合物である。
【化5】
【0034】
上記式(2)において、Rはアルキル基を示し、nは2~20の範囲の重合度を示す。
Rのアルキル基としては炭素数1~6の低級アルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-アミル基(ペンチル基)、iso-アミル基(ペンチル基)、tert-アミル基(ペンチル基)、sec-イソアミル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基及びtert-ヘキシル基の群から選ばれるものが挙げられる。より好ましくは、(g-1)成分の有機硫黄化合物がアミルフェノールジサルファイド重合物であり、具体的には、「Sanceler AP」(三新化学工業社製)や「Vultac5」(Arkema ジャパン社製)等の市販品を用いることができる。
【0035】
アルキルフェノールジサルファイド重合物である(g-1)成分の配合量については、特に制限はないが、上記ゴム成分100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、最も好ましくは0.3質量部以上である。上限値としては、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、最も好ましくは2.0質量部以下である。この配合量が多すぎると、硫黄の影響によって有機過酸化物による架橋反応が阻害され、成型物の硬度全体が大きく軟化してしまう傾向になる。
【0036】
本発明のゴム組成物には、上記(g-1)成分に代えて、(h)成分として硫黄を含有することができる。硫黄は市販品を用いることができ、例えば、鶴見化学工業社の「サルファックス5」や三新化学工業社製の「サンミックスS-80N」、「サンミックス IS-60N」、更には、Akrochem社製の「AKROFORM S-80/EPR/P」を採用することができる。
【0037】
(h)成分である硫黄の配合量については、特に制限はないが、上記ゴム成分100質量部に対し、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、最も好ましくは0.05質量部以上である。上限値としては、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下、最も好ましくは1.0質量部以下である。(h)成分の配合量が多すぎると、硫黄の影響によって有機過酸化物による架橋反応が阻害され、成型物の硬度全体が大きく軟化してしまう傾向になる。一方、(h)成分の配合量が少なすぎると、コア内部硬度において表面と中心との硬度差を大きくすることができない場合がある。
【0038】
(h)成分である硫黄については、微少量の硫黄の分散性を高めるために、マスターバッチの形態で使用することが望ましい。このような硫黄のマスターバッチとして、上述した商品名「サンミックス S-80N」、「サンミックス IS-60N」及び「AKROFORM S-80/EPR/P」を例示することができる。
【0039】
上述した(a)~(e)及び(g-1)(h)の各成分の他には本発明の効果を妨げない限り、例えば、(g-1)成分とは異なる有機硫黄化合物、充填材や加工助剤などの各種添加物を配合することができる。
【0040】
充填材としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上とすることができる。また、この配合の上限は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは40質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な質量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0041】
ゴム組成物に(g-1)成分とは異なる有機硫黄化合物を(g)成分として含む場合、この有機硫黄化合物としては、特に制限はないが、例えばチオフェノール類、チオナフトール類、ジフェニルポリスルフィド類、ハロゲン化チオフェノール類、又はそれらの金属塩等を挙げることができる。具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール等の亜鉛塩、硫黄数が2~4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド、2-チオナフトール等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。中でも、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、及び/又はジフェニルジスルフィドを好適に用いることができる。
【0042】
上記の有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であり、上限として、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下であることが推奨される。有機硫黄化合物の配合量が多すぎると、ゴム組成物の加熱成形物の硬さが軟らかくなりすぎてしまう場合があり、一方、少なすぎると反発性の向上が見込めない場合がある。
【0043】
加工助剤としては高級脂肪酸やその金属塩等を好適に用いることができる。高級脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸等が挙げられ、特にステアリン酸が好ましい。高級脂肪酸の金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銅塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、スズ塩、コバルト塩、ニッケル塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等が挙げられ、特にステアリン酸亜鉛が好適に用いられる。加工助剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上とすることができる。また、この配合量の上限は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下とすることができる。この配合量が多すぎると、十分な硬度や反発が得られず、少なすぎると添加薬品が十分に分散せず、期待する物性を得ることができない場合がある。加工助剤の添加方法については、他の薬品と同時にミキサーに投入する方法、予め上記(b)成分等の他の薬品と事前混合して添加する方法、上記(b)成分等の他の薬品の表面にコーティングして添加する方法、上記(a)成分と共に事前にマスターバッチを作成して添加する方法等があるが、特に限定されるものではない。
【0044】
本発明では、上記(e)成分として特定の老化防止剤が用いられるが、(e)成分とは異なる老化防止剤を(f)成分として含有することができる。この(f)成分として具体的には、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸などのヒンダードフェノール系老化防止剤が挙げられ、市販品としては、ノクラック200、同M-17(大内新興化学工業社製)、IRGANOX 1010(BASF社製)、アデカスタブ AO-20(ADEKA社製)等を採用することができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。この老化防止剤の配合量については、特に制限はないが、基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、更に好ましくは0.4質量部以下である。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正なコア硬度傾斜が得られずに好適な反発性、耐久性及びフルショット時の低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0045】
本発明のゴルフボール用ゴム組成物を加硫硬化させることにより加硫成形物を製造することができる。この加硫成形物は、特に、単層又は複数層のコアの全部又は一部に用いることができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形または射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、約100~200℃、10~40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させて、加硫成形物であるコアを製造することができる。
【0046】
ここで、上述した配合により、加硫硬化後のゴルフボール用ゴム成型物は、表面と中心との硬度差が大きな硬度傾斜を有することができる。上記のゴルフボール用ゴム成型物をゴルフボール用コアとして採用することにより、ゴルフボールの良好なスピン特性を維持しつつ、耐久性を高めることができる。
【0047】
コアの中心硬度については、特に制限はないが、JIS-C規格で、好ましくは40以上、より好ましくは45以上、さらに好ましくは50以上であり、上限値としては、好ましくは75以下、より好ましくは70以下、さらに好ましくは65以下である。コアの中心硬度が上記範囲を逸脱すると、打感が悪くなり、または耐久性が低下してしまうことがあり、低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0048】
コアの表面硬度については、特に制限はないが、JIS-C規格で、好ましくは65以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは72以上であり、上限値としては、好ましくは95以下、より好ましくは90以下、さらに好ましくは88以下である。コアの表面硬度が上記範囲よりも低すぎると、反発性が低くなり飛距離が十分に得られなくなることがある。また、コアの表面硬度が上記範囲よりも高すぎると、打感が硬くなり過ぎ、また、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。
【0049】
上記コアの硬度分布については、表面と中心との硬度差が十分に大きくなり、具体的には、コアの表面(A)と中心(B)との硬度差(A)-(B)がJIS-C硬度で20以上であることが好ましく、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上であり、上限としては、好ましくは50以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下である。上記硬度差の値が小さすぎると、W#1打撃時の低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。一方、上記硬度差の値が大きすぎると、ゴルフボールを実打したときのボール初速が低くなり飛距離が出なくなり、または、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。ここで、上記の中心硬度とは、コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の中心において測定される硬度を意味し、表面硬度は上記コアの表面(球面)において測定される硬度を意味する。また、JIS-C硬度とは、JIS K 6301-1975に規定するスプリング式硬度計(JIS-C形)で測定された硬度を意味する。
【0050】
また、本発明で用いるコアの硬度傾斜は、該コアの中心から表面に向かって、硬度が同等又は増加するものであって減少するものではないことが好適である。
【0051】
また、上記コア(加熱成形物)における初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷した時の圧縮硬度(変形量)については、特に制限はないが、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは2.3mm以上、更に好ましくは2.5mm以上であり、上限としては、好ましくは6.0mm以下、より好ましくは5.5mm以下、更に好ましくは5.0mm以下であることが推奨される。上記の値よりも大きすぎると、コアが軟らかくなりすぎるため、十分な低スピン効果を得られず反発性も低下することがある。また、上記の値よりも小さすぎると、低スピン効果を得られず、打感が硬くなってしまうことがある。
【0052】
コアの直径としては、特に制限はなく製造するゴルフボールの層構造にも依るが、好ましくは30mm以上、より好ましくは35mm以上であり、上限として、好ましくは41mm以下、より好ましくは40mm以下である。コアの直径がこの範囲を逸脱すると、ボールの初速が低くなり、あるいは適切なスピン特性を得られない場合がある。
【0053】
上記ゴム組成物は、上述したようにゴルフボール用コアとして使用することが好適である。また、本発明のゴルフボールは、コアと、1層または複数層のカバーとを具備する構造を有することが好適である。
【0054】
次に、コアを被覆する1層または複数層のカバーについて説明する。
カバー材料については、特に制限はないが、ゴルフボールに用いられている各種のアイオノマー樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等の公知の材料を使用することができる。
【0055】
また、ボールの低スピン化をより一層実現するために、コアに隣接する層には高度に中和されたアイオノマー材料を用いることが特に好ましい。具体的には、下記(i)~(iv)成分を配合した材料を用いることが好ましい。
(i-1)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(ii-2)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0~0:100になるように配合した(i)ベース樹脂と、(ii)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを質量比で100:0~50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、
(iii)分子量が228~1500の脂肪酸及び/又はその誘導体 5~80質量部と、
(ix)上記(i)成分及び(iii)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物 0.1~17質量部
とを配合する混合材料。特に、上記(i)~(ix)成分の混合材料を用いる場合には、酸基が70%以上中和されているものを採用することが好ましい。
【0056】
また、カバーのうち最外層の材料としては、ウレタン材料、特に熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主材とすることが好適である。
【0057】
更に、上記コアに隣接する層と最外層カバーとの間には、1層または2層以上のカバー(中間層)を成形してもよい。この場合、中間層材料としては、アイオノマー等の熱可塑性樹脂を用いることが好適である。
【0058】
本発明におけるカバーを得るには、例えば、ボールの種類に応じて予め作製した単層又は2層以上の多層コアを金型内に配備し、上記混合物を加熱混合溶融し、射出成形することにより、コアの周囲に所望のカバーを被覆する方法等を採用できる。この場合、カバーの製造は、優れた熱安定性、流動性、成形性が確保された状態で作業でき、これにより、最終的に得られたゴルフボールは、反発性が高く、その上、打感が良く、耐擦過傷性に優れている。また、カバーの形成方法は、上記のほかに、例えば、本発明のカバー材により予め一対の半球状のハーフカップを成形し、このハーフカップでコアを包んで120~170℃、1~5分間、加圧成形する方法などを採用することもできる。
【0059】
上記カバーが1層の場合、その厚さは0.3~3mmとすることができる。上記カバーが2層の場合、その最外層の厚さは0.3~2.0mm、その内層カバー(中間層)の厚さは0.3~2.0mmの範囲とすることができる。また、上記カバーを構成する各層(カバー層)のショアD硬度は、特に制限はないが、40以上とすることが好ましく、より好ましくは45以上であり、上限としては、好ましくは70以下、より好ましくは65以下である。
【0060】
なお、上記カバーの最外層の表面には、多数のディンプルが形成されるものであり、更にカバー上には下地処理、スタンプ、塗装等種々の処理を行うことができる。特に本発明のカバー材で形成されたカバーにこのような表面処理を施す場合、カバー表面の成形性が良好であるため作業性を良好にして行うことができる。
【0061】
本発明は、上記ゴム組成物を少なくとも1層のコア材料として使用されるゴルフボールであり、ゴルフボールの種類としては、要するに、コアと少なくとも1層以上のカバー層を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ソリッドコアをカバーで被覆したツーピースやスリーピースソリッドゴルフボール、3層構造以上のマルチピースゴルフボール等のソリッドゴルフボール、更には、糸巻きコアに単層又は2層以上の多層構造のカバーを被覆した糸巻きゴルフボールのコアに使用することもできる。
【実施例0062】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0063】
〔実施例1~8,比較例1~5〕
下記表1に示すポリブタジエンを主成分とするコア材料を用いて、実施例1~8,比較例1~5のゴム配合によりコア組成物を調整した後、155℃で20分間加硫を行い、コア表面の研磨工程を経て、直径38.6mmのコアを作製した。
【0064】
【0065】
上記の配合についての詳細は下記のとおりである。
・ポリブタジエンゴム:商品名「BR01」(JSR社製)
・アクリル酸亜鉛:商品名「ZN-DA85S」(85%アクリル酸亜鉛/15%ステアリン酸亜鉛)、日本触媒社製
・メタクリル酸亜鉛:商品名「M-CP」(メタクリル酸亜鉛100%)浅田化学社製
・有機過酸化物(1)(ジクミルパーオキサイド):商品名「パークミルD」(日油社製)
・有機過酸化物(2)(パーオキシケタール系過酸化物):商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
・水:純水(正起薬品工業社製)
・老化防止剤(I):商品名「ノクラックMB」(ベンゾイミダゾール系老化防止剤:大内新興化学工業社製)
・老化防止剤(II):商品名「ノクラックNS-6」(ヒンダードフェノール系老化防止剤:大内新興化学工業社製)
・ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩:和光純薬工業社製
・アミルフェノールジサルファイド重合物:商品名「SANCELER AP」(三新化学工業社製)
・硫黄:商品名「サルファックス5」(95%の微粉硫黄)鶴見化学工業社製
・酸化亜鉛:商品名「三種酸化亜鉛」(堺化学社製)
【0066】
コアの断面硬度
上記の各実施例及び各比較例の直径38.6mmのコアについて、下記の方法により、表面及び中心を含む各位置の断面硬度を測定した。
(1)コアの表面硬度
23±1℃の温度で、球状のコアの表面部分に硬度計の針を垂直になるようにセットし、JIS-C硬度により、コアの表面の4点をランダムに測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数3個のコアの平均値を求めた。その測定値を表3に記載する。
(2)コアの断面硬度
断面がコアの中心を通るようにコアを平面状にカットして、23±1℃の温度で、前記平断面に硬度計の針を垂直になるようにセットし、JIS-C硬度計により、半球コアの中心および、中心から表面方向に向かって2mmごとの位置の硬度を測定し、1個のボールの測定値とし、測定個数3個のコアの平均値を求めた。その測定値を表3に記載する。
【0067】
コア及びボールの圧縮硬度
コア及びボールを、23±1℃の温度で、10mm/sの速度で圧縮し、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷した時までのコア及びボールの圧縮硬度(変形量)(mm)を計測し、測定個数10個の平均値を求めた。
【0068】
カバー(中間層及び最外層)の形成
次に、射出成形用金型を用いて、上記のコア表面の周囲に、表2に示す中間層の材料(アイオノマー樹脂材料)を射出成形し、厚さ1.25mm、ショアD硬度64の中間層を形成した。次いで、別の射出成形用金型を用いて、上記の中間層被覆球体の周囲に、表2に示す最外層材料(ウレタン樹脂材料)を射出成形し、厚さ0.8mm、ショアD硬度41の最外層を形成した。
【0069】
【0070】
上記表中の配合成分の詳細は下記のとおりである。
・「ハイミラン1706」、「ハイミラン1557」及び「ハイミラン1605」:三井ダウポリケミカル社製のアイオノマー樹脂
・「TPU」:ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、エーテルタイプの熱可塑性ポリウレタン「ショアD硬度41」
・「ポリエチレンワックス」:商品名「サンワックス161P」(三洋化成社製)
・「イソシアネート化合物」:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
【0071】
得られたゴルフボールについて、ドライバースピン量を下記方法で評価した。その結果を表3に示す。
【0072】
ドライバースピン量
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)をつけて、ヘッドスピード45m/sにて打撃した直後のボールのスピン量を初期条件計測装置により測定した。クラブは、ブリヂストンスポーツ社製の「TourB XD-3ドライバー(2016モデル)」(ロフト角9.5°)を使用した。
【0073】
【0074】
表3に示すように、実施例1~8のゴルフボールは、比較例1~5と比べて、同一のたわみ硬度でのドライバー打撃時のスピン量が低下しており、これにより飛距離が改善されたゴルフボールであることが分かる。