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特開2023-29300可動レンズユニットを有する光学アセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029300
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】可動レンズユニットを有する光学アセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20230224BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20230224BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G02B7/02 Z
G02B7/02 F
G02B7/04 C
G02B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022130361
(22)【出願日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21192140
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ヒッツラー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン クーベク
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン ダイスラー
【テーマコード(参考)】
2H044
2H052
【Fターム(参考)】
2H044AH01
2H044AJ05
2H044BB05
2H052AB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】課題は、光学アセンブリの高い耐摩耗性動作を可能にする、光学アセンブリの構成要素の適切な材料または材料組み合わせを見出すことである。
【解決手段】光学アセンブリ100の光軸190に沿って移動可能なレンズユニット120を有する光学アセンブリに関し、レンズユニットは、少なくとも1つのレンズ126を保持するためのレンズマウント122を有し、光学アセンブリは、レンズマウントを収容するためのスリーブ130をさらに有し、レンズマウントは、スリーブに摺接しており、レンズユニットが光軸に沿って移動するときに、スリーブに対して可動であり、レンズマウントは、その外面が自己潤滑性材料から形成されているかまたは自己潤滑性材料を有し、かつ/または、スリーブは、その内面が自己潤滑性材料から形成されているかまたは自己潤滑性材料を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学アセンブリ(100)の光軸(190)に沿って移動可能なレンズユニット(120)を有する光学アセンブリ(100)であって、
前記レンズユニット(120)は、少なくとも1つのレンズ(126)を保持するためのレンズマウント(122)を有し、
前記光学アセンブリ(100)は、前記レンズマウント(122)を収容するためのスリーブ(130)をさらに有し、前記レンズマウント(122)は、前記スリーブ(130)に摺接しており、前記レンズユニット(120)が前記光軸(190)に沿って移動するときに、前記スリーブ(130)に対して可動であり、
前記レンズマウント(122)は、その外面が自己潤滑性材料から形成されているかまたは自己潤滑性材料を有し、かつ/または、前記スリーブ(130)は、その内面が自己潤滑性材料から形成されているかまたは自己潤滑性材料を有する、
光学アセンブリ(100)。
【請求項2】
前記レンズマウント(122)は、前記自己潤滑性材料から形成されるかもしくは前記自己潤滑性材料を含有するコーティング(228,428)をその外面に有し、かつ/または、前記スリーブ(130)は、前記自己潤滑性材料から形成されるかもしくは前記自己潤滑性材料を含むコーティングをその内面に有する、
請求項1記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項3】
前記コーティング(228,428)は、1つまたは複数の周方向リング(228)の形態で、かつ/または、被覆領域(428)の形態で、かつ/または、周方向に沿う1つまたは複数の被覆領域(428)の形態で形成されている、
請求項2記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項4】
前記コーティングの厚さは、0よりも大きくかつ250μmよりも小さい範囲内にある、
請求項2または3記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項5】
前記レンズマウント(122)は、前記レンズマウント(122)の前記外面に取り付けられる1つまたは複数のリング(128)を有し、かつ/または、前記スリーブ(130)は、前記スリーブ(130)の前記内面に取り付けられる1つまたは複数のリング(128)を有し、1つまたは複数の前記リング(128)は、前記自己潤滑性材料から構成されるかまたは前記自己潤滑性材料を有する、
請求項1記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項6】
前記自己潤滑性材料は、自己潤滑性の焼結金属であるかまたは自己潤滑性の焼結金属を有する、
請求項1から5までのいずれか1項記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項7】
前記焼結金属は、焼結青銅であるかまたは焼結青銅を有する、
請求項6記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項8】
前記自己潤滑性材料は、自己潤滑性ポリマー組成物であるかまたは自己潤滑性ポリマー組成物を有する、
請求項1から7までのいずれか1項記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項9】
前記ポリマー組成物は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトンの少なくとも1つ、および固体潤滑剤を含有するポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトンもしくは別のベースポリマーの1つもしくは複数であるか、またはこれらを有する、
請求項8記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項10】
前記レンズマウント(122)および前記スリーブ(130)は、自己潤滑性ポリマー組成物から形成される、
請求項8または9記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項11】
前記光学アセンブリ(100)は、顕微鏡対物レンズである、
請求項1から10までのいずれか1項記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項12】
可動な前記レンズユニット(120)は、光学収差を補償する光学補償素子として構成されている、
請求項11記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項13】
前記光学アセンブリ(100)は、前記光軸(190)の方向に前記レンズユニット(120)を移動させるために操作されて前記レンズユニット(120)に力を伝達するように構成されたレンズユニット移動機構(170)をさらに有する、
請求項1から12までのいずれか1項記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項14】
前記レンズユニット移動機構(170)は、少なくとも前記レンズマウント(122)および前記スリーブ(130)の部分間に配置されるばね部材(180)を有し、軸方向において、前記ばね部材(180)は、第1の端部が前記レンズマウント(122)によって支持されかつ第2の端部が前記スリーブ(130)によって支持される、
請求項13記載の光学アセンブリ(100)。
【請求項15】
前記レンズユニット移動機構(170)は、前記レンズユニット(120)の手動操作式移動用に構成された操作ユニット(272)または電動式移動用に構成された電気駆動ユニット(172)を有する、
請求項13または14記載の光学アセンブリ(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明概念は、光学アセンブリの光軸に沿って移動可能なレンズユニットを有する光学アセンブリに関し、レンズユニットは、少なくとも1つのレンズを保持するためのレンズマウントを有し、光学アセンブリはさらに、レンズマウントを収容するためのスリーブを有し、上記のレンズマウントは、スリーブに摺接しており、かつレンズユニットが光軸に沿って移動するときに、スリーブに対して可動である。より具体的には、本発明概念の光学アセンブリは、顕微鏡に使用されるか、または顕微鏡の一部である。光学アセンブリは、顕微鏡対物レンズまたはズーム系またはそれらの少なくとも一部であってよい。さらにより具体的には、光学アセンブリは、光学収差を補償するための光学補償素子として可動レンズユニットが構成されている顕微鏡対物レンズであってよい。
【背景技術】
【0002】
上述した光学アセンブリの例は、米国特許第8730583号明細書に開示されている。この明細書には、試料の検査に使用されるカバーガラスの厚さを補償するために、レンズ系の光軸に沿って移動可能なレンズユニットを含み、さらにレンズユニットに結合されている駆動ユニットを含みかつレンズユニットをモータ駆動式に移動するように構成されているレンズユニット移動機構を有する、レンズ系を含む顕微鏡対物レンズが記載されている。
【0003】
光学顕微鏡法では、検査対象の試料は、スライドに配置され、薄く平坦で透明な材料のカバーガラスによって覆われることが多い。イメージングのために、好適には液浸媒体が、カバーガラスに適用され、試料の検査中に前部レンズが液浸媒体に液浸しされる液浸対物レンズが使用される。これにより、大きな開口数、ひいては高い分解能が得られる。顕微鏡対物レンズによる試料のイメージングは、カバーガラスの厚さおよび作製における変動、液浸媒体の種類、温度および組成、ならびにイメージングビーム路に配置される素子の温度などの多くのパラメータによって、換言すると屈折率に影響を及ぼす全てのパラメータによって影響を受ける。上記のパラメータによる屈折率の変化によって引き起こされる全ての光学収差を補償するために、対物レンズの光軸に沿って移動可能なレンズユニットを有する高品質の顕微鏡対物レンズがしばしば使用されている。レンズユニットの移動は一般に、数μmの範囲で調整可能である。
【0004】
顕微鏡対物レンズのコンパクトな設計のため、可動レンズユニットは一般に、「スリーブマウント」ガイドの形態で実装される。光学系の位置合わせ不良または傾斜を可能な限り小さく維持するために、一般に円筒形の、レンズを備えたマウントに「マウントスリーブ」(スリーブ)が装着される。このことが意味するのは、それぞれスリーブの直径が正確に測定され、スリーブが旋削/切削加工され、定められた隙間でマウントに嵌合されることである。マウントのz方向位置決めは、例えば、ねじ駆動装置またはこれに類するものを介して実装される駆動機構によって実現される。マウントもスリーブも通常、必要な公差に容易に機械加工することができる真鍮で作製される。
【0005】
顕微鏡対物レンズの機械部品には、真鍮、青銅、鋼およびセラミックが一般に使用可能である。マウントおよびマウントスリーブが共に真鍮製であるのが通常の状態である。わずかな調整だけが行われる、手動による補正レンズユニットの調整により、正常な機能が保証される。しかしながら、自動化およびモータ駆動式調整の要求が増大していることに起因して、調整(ストローク)の数は、かなり増大している。その結果、マウントは、スリーブ内に入り込み、一定数のストロークの後にブロックする。上述の材料を組み合わせたとしても、この現象を改善するのに役立たない。
【0006】
上では光学アセンブリの特定の実施例を説明してきたが、光学アセンブリの光軸に沿ってレンズユニットが摺動する、例えば、ズーム系の光軸に沿って移動可能なレンズユニットを有するズーム系のような別の実施例も考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明概念の課題は、光学アセンブリの高い耐摩耗性動作を可能にする、光学アセンブリの構成要素の適切な材料または材料組み合わせを見出すことである。より具体的には、例えば、選択的に培養が行われる環境において光学アセンブリを使用する場合に生じる温度変動下でも、ライフタイム関数が達成されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明概念により、請求項1記載の光学アセンブリが提供される。光学アセンブリは、光学アセンブリの光軸に沿って移動可能なレンズユニットを有する。レンズユニットそれ自体は、少なくとも1つのレンズを保持するためのレンズマウントを有し、このレンズマウントは、スリーブに摺接しており、かつレンズユニットが光軸に沿って移動するときに、スリーブに対して移動可能であり、このスリーブにより、レンズマウントが収容される。レンズマウントは、その外面が自己潤滑性材料から形成されているかまたは自己潤滑性材料を有し、かつ/またはスリーブは、その内面が自己潤滑性材料から形成されているかまたは自己潤滑性材料を有する。レンズマウントは、複数部分構成要素であってよいことに留意されたい。
【0009】
このような自己潤滑性材料は公知であり、技術において使用されることが多いが、それらは、上述したような光学アセンブリの構成要素にはこれまで使用されていなかった。油浸による自己潤滑特性を有する材料を使用することには、油が光学系に流れ、ひいては光学部品の光学性能を損なってしまう危険性が伴う。他方では、自己潤滑性ポリマー材料は、機械的安定性に欠けかつ比較的高い熱膨張係数を有し、これにより、温度変動において機械的変形の危険性につながってしまうことが多い。しかしながら、これらの予想される欠点にもかかわらず、本発明概念の発明者によって見出されたのは、本出願に詳述された仕様内で上述の種類の光学アセンブリに自己潤滑性材料を使用できることである。
【0010】
本発明概念による光学アセンブリのレンズマウントおよび/またはスリーブに使用するのに特に適した自己潤滑性材料の例は、2つのグループに分けることができる。第1のグループは、焼結青銅のような自己潤滑性の焼結金属である。この材料は、粉末冶金技術によって生成され、油浸された金属マトリクス、または二流化モリブデンまたはグラファイトのような固体潤滑剤を含有する金属マトリクスを形成する。焼結青銅は、真鍮とほぼ同じ熱膨張係数を有する材料であり、真鍮は、光学アセンブリの機械部品に一般に使用される材料である。第2のグループの自己潤滑性材料は、低い摩擦係数および高い耐摩耗性を有するポリマー材料をベースにしている。自己潤滑性ポリマー材料は、固体材料またはコーティングのいずれかとして利用可能である。適切な材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)および/または固体潤滑剤を含有するこれらのポリマーの1つもしくは別のベースポリマーであるかまたはこれらを有する。後者の組成物の例は、IGLIDURの名称で市販されており、これは、ベースポリマー、繊維、充填剤および固体潤滑剤を有する。これらの構成要素の組成は、本発明概念による光学アセンブリについての特別な応用に個別に最適化可能である。IGLIDURは、PTFEと同じ摺動特性を有するが、より高い耐摩耗性を有する。このような自己潤滑性ポリマー組成物のコーティングは、コロナ粉体コーティングプロセスを使用して塗布可能であり、結果的に250μmまでの厚さのコーティングが得られる。
【0011】
以下では、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を限定することなく、上述の2つのグループの自己潤滑性材料を使用し、本発明概念の好適な実施形態を説明する。使用される材料は、その全体積にわたってその自己潤滑特性を有するべきであることに留意されたい。
【0012】
1つの実施形態では、レンズマウントは、自己潤滑性材料から形成されるかまたは自己潤滑性材料を含有するコーティングをその外面に有する。択一的または付加的に、スリーブは、自己潤滑性材料から形成されるまたは自己潤滑性材料を含有するコーティングをその内面に有する。コーティングは、自己潤滑性材料から構成されているまたは自己潤滑性材料とは別の材料を含んでいてよい。このような付加的な材料は、コーティングの摺動特性および/または耐摩耗性および/または熱安定性を改善するために使用可能である。自己潤滑性ポリマー組成物の上記の第2のグループの自己潤滑性材料は、このようなコーティングに最適である。マウントおよび/またはスリーブそれ自体は、好適には非自己潤滑性材料から形成されている。
【0013】
この実施形態では、コーティングが、1つまたは複数の周方向リングの形態で、かつ/または被覆領域の形態で、かつ/または周方向に沿う1つまたは複数の被覆領域の形態で形成されていると好適である。コーティングは、レンズマウントの外面に、一般には外側シリンダ表面に、かつ/またはスリーブの内面に、一般には同様にシリンダ表面にも適用されていてよい。1つまたは複数の以上の周方向リングの形態のコーティングにより、レンズマウントおよびスリーブのそれぞれの高い安定性が維持されるという利点が得られる。レンズマウントそれ自体およびスリーブはそれぞれ、好適には真鍮製である。周方向に沿って2つ、3つまたはそれ以上の被覆領域を得るために、周方向コーティングは途切れていてよい。この実施形態は、熱膨張によるコーティングの形状の起こり得る変化が、最も小さいという利点を有する。そうでなければ、このような被覆領域は機械的安定性が高いことと、温度変動に起因する機械的変形が少ないことと、を考慮すれば、レンズマウントおよび/またはスリーブの表面に配置されていてもよい。特に好適であるのは、3点支持であり、特に、周方向に(均等に)分散される3つの被覆領域によってそれぞれが形成されている、2つの異なるレベルにおける3点支持である。
【0014】
さらに、この実施形態では、コーティングの厚さは好適には、0より大きくかつ250μmよりも小さく、好適には約50~150μm、または約65~75μmの範囲内にある。光学補正レンズユニットを有する光学アセンブリとしての顕微鏡対物レンズの実施例では、一般に約0.007mmである嵌合隙間が保証されるべきである。上記の厚さ値が、数μmであれば、熱膨張の影響は、約7μmの嵌合公差よりもはるかに小さい、μm以下の範囲のみである。
【0015】
別の実施形態では、レンズマウントは、レンズマウントの外面に取り付けられる1つまたは複数のリングを有し、かつ/またはスリーブは、スリーブの内面に取り付けられる1つまたは複数のリングを有し、この1つまたは複数のリングは、自己潤滑性材料から構成されるかまたは自己潤滑性材料を有する。この実施形態では、上述の第1のグループの自己潤滑性材料、特に油浸焼結青銅の自己潤滑性材料を使用するのが好適である。焼結青銅のリングは、事前に作製され、次いで、鋼または真鍮などの非自己潤滑性材料のレンズマウントおよび/またはスリーブに取り付けられてよい。1mm未満の好適な厚さを有する固体材料の1つまたは複数のリングは、例えば、真鍮の基体に接着されてもよく、その結果、必要な安定性が得られる。室温においてこの実施形態は、非常に安定したままであり、100,000回を上回るストロークの後でも摩耗は生じない。他方では、特にレンズマウントおよびスリーブの両方がこのようなリングを有する場合、自己潤滑性ポリマー組成物から成るまたは自己潤滑性ポリマー組成物を有する1つまたは複数のこのようなリングも考えられる。
【0016】
この実施形態の別の利点は、非自己潤滑性材料から成るレンズマウントによって保持される光学系が、焼結青銅のような自己潤滑性材料から成る周囲の1つまたは複数のリングと接触し得ないことである。これにより、光学系に油が流れてしまうリスクが大幅に低減される。2つ以上のリングの代わりに、特に、レンズマウントの全長にわたって(かつ/または、より好適ではない実施形態では、スリーブの全長にわたって)延在する単一のリングを使用することができる。しかしながら、摺動面を小さすることにより、摩擦抵抗も減少し、またより小さなリングは作製もより容易である。短い2つのガイド直径を正確に旋削することは、マウントの全長にわたって1つの円筒面を旋削することよりも容易である。自己潤滑性材料から成るまたは自己潤滑性材料を有するリングは、様々なマウントに嵌合するように設計可能である。したがって、顕微鏡対物レンズにおいて種々異なる光学補正レンズユニットにこのリング幾何学形状を使用することができる。
【0017】
自己潤滑性材料から成るまたは自己潤滑性材料を有するリングの好適な厚さは、半径方向で、0より大きくかつ1.5mmよりも小さい、より好適には1mmまでの範囲にあるか、または約1mmである。より厚いリングは、ベース材料に取り付けられ/接着され、次いで、所望の厚さまで旋削加工/フライス加工されてよい。
【0018】
別の実施形態は、真鍮や鋼のような非自己潤滑性材料からレンズマウントを作製し、かつ焼結青銅のような自己潤滑性の焼結金属からスリーブを作製することである。この実施形態の利点は、真鍮/ステンレス鋼と焼結青銅との材料組み合わせが、試料を衝突損傷から保護するために使用されることが多い、ばね荷重が加えられるフロントアセンブリにも有益であることである。言及されるべきであるのは、試料への衝突損傷を防止するために、スリーブが、可動アセンブリに対し、内径においてだけでなく外径においてもガイド面または摺動面を有することである。この観点から、この実施形態では、全ての摺動面に焼結青銅が使用される。
【0019】
さらに別の実施形態では、レンズマウントおよびスリーブは両方とも、自己潤滑性ポリマー組成物から形成される。原則的には、自己潤滑性ポリマー組成物からレンズマウントまたはスリーブのいずれかを形成することが可能である。しかしながら、この実施形態は一定の温度でのみ機能する。例えば、IGLIDURの熱膨張係数は、鋼の熱膨張係数の約4倍である。顕微鏡対物レンズは、20℃まで温度が異なる環境において使用されることがあり、この温度は、必要な嵌合隙間と組み合わされて、材料の異なる膨張に起因して必然的にジャミングを引き起こす。しかしながら、マウントおよびスリーブの両方がIGLIDURのような自己潤滑性ポリマー組成物から形成される設計の実施形態により、熱膨張およびそれに関連するジャミングの問題が解決されると思われる。
【0020】
1つの実施形態では、光学アセンブリはさらに、光軸の方向にレンズユニットを移動させるために操作されてレンズユニットに力を伝達するように構成されたレンズユニット移動機構を有する。一般に、レンズユニット移動機構は、手動操作または電気モータによって引き起こされる回転運動を発生させることができ、この回転運動は、光軸に沿った直線運動に変換される。このことを目的として、レンズユニット移動機構は好適には、レンズユニットの手動操作式移動用に構成された操作ユニット、またはレンズユニットの電動式移動用に構成された電気駆動ユニットを有する。この実施形態の操作ユニットは、手動で操作されかつ光軸に沿ったレンズユニットの直線運動にリングの手動の回転運動を変換するローレット加工リングを有していてよい。他方では、この実施形態の電気駆動ユニットは、モータの歯部を回転運動させるための電気モータを有していてよく、この歯部は、顕微鏡対物レンズの対応するリングギアと噛み合い、このリングギアも光軸に沿ったレンズユニットの直線運動に回転運動を変換する。直線運動に回転運動を変換するために、光軸に対して部分的に平行に延在するカム面と、光軸に垂直な方向に対してわずかな傾斜と、を有するカムリングが使用可能である。レンズマウントに取り付けられる転動体が、カム面に係合する。このようなレンズユニット移動機構の実施形態は、米国特許第8730583号明細書に記載されており、電気駆動ユニットを有するレンズユニット移動機構の設計および機能についてはこの刊行物を参照されたい。
【0021】
レンズマウントに取り付けられる転動体をカム面に押し付けるために、レンズマウントにはばねが作用している。好適な実施形態では、レンズユニット移動機構は、レンズマウントとスリーブとの間に配置されるばね、またはより一般的にはばね部材を有し、軸方向において、このばね部材は、第1の端部がレンズマウントによって支持されかつ第2の端部がスリーブによって支持される。「レンズマウントとスリーブとの間に配置される」という言い回しは、一方ではレンズマウントの少なくとも一部が、他方ではスリーブの少なくとも一部が、ばね部材の対応する部分を取り囲むことを意味する。換言すると、ばね部材は、レンズマウントの部分と、スリーブの部分と、の間に配置されている。同時に、レンズマウントは、ばね部材の第1の端部を支持し、スリーブは、ばね部材の他方の第2の端部を支持する。この実施形態の例は、以下の図に示されている。
【0022】
本発明概念の実施形態の上述の特徴は、添付の特許請求の範囲に定められる、本発明概念の範囲に依然として含まれる他の実施形態を達成するために、(全体的にまたは部分的に)組み合わせることができることに留意されたい。
【0023】
本明細書で使用されるように、用語「および/または(かつ/または)」は、関連する記載項目のうちの1つまたは複数の項目のあらゆる全ての組み合わせを含んでおり、「/」として略記されることがある。
【0024】
いくつかの態様を装置またはデバイスの文脈において説明してきたが、これらの態様が、このような装置またはデバイスを動作させる方法の説明も表していることが明らかである。
【0025】
本発明概念の別の実施形態および利点を以下の図に関連して詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】レンズユニットの電動式調整を有する、本発明概念による光学アセンブリの実施形態を略示する図である。
図2】レンズユニットの手動式調整を有する、本発明概念による光学アセンブリの別の実施形態を略示する図である。
図3】本発明概念による光学アセンブリのレンズユニットの、自己潤滑性材料を有するレンズマウントを略示する図である。
図4】外面に被覆領域を有する、図3のレンズマウントと同様のレンズマウントの別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の図は、包括的に説明されており、同じ参照符号は、同じ要素または類似の要素または少なくとも機能的に同じ要素を表す。
【0028】
図1には、本発明概念による光学アセンブリの実施形態が、長手方向断面で斜視図において略示されている。この実施形態では、光学アセンブリ100は、イメージングビーム路に沿った素子の屈折率の変化、例えば、検査対象の試料を覆うカバーガラスの厚さにおける相違もしくは作製における変動、および/または、顕微鏡対物レンズの前部レンズと試料/カバーガラスとの間に適用される液浸媒体の温度および組成における変化に起因する光学収差を補正するためのレンズユニット120を有する顕微鏡対物レンズである。それぞれの補償は、光学アセンブリ100の光軸190に沿ったレンズユニット120の、一般には数μmの範囲の移動によって行われる。ここでは、本発明に関連する対物レンズの素子のみが図示されており、本明細書において説明される。
【0029】
図1に示したレンズユニット120は、レンズマウント122によって保持される少なくとも1つのレンズ126を有する。真鍮のような非自己潤滑性材料から作製されるレンズマウント122は、自己潤滑性材料から作製されかつレンズマウント122の外面に周方向に取り付けられた2つのリング128を有し、この実施形態では、レンズマウント122の上端に1つのリング128と下端に別の1つのリング128とを有する。この実施形態では、油浸焼結青銅のリング128が使用される。リング128はあらかじめ作製されておりかつ接着によってレンズマウント122に取り付けられる。次いで、リング128は、半径方向に約1mmの厚さまで旋削加工/フライス加工される。
【0030】
レンズユニット120は、光軸190に平行な方向に移動可能である。レンズユニット120は、図1に見られるようにスリーブ130によって収容されている。この実施形態では、スリーブの材料は、真鍮または鋼のような非自己潤滑性材料である。結果的に得られる材料組み合わせにより、一般に20℃の温度変動下でも高耐摩耗性の動作が可能になる。同時に、約7μmの好適な嵌合公差を維持することができる。レンズユニット120の傾斜またはブロッキングのあらゆる危険性が取り除かれる。
【0031】
図1に示した実施形態による光学アセンブリ100はさらに、光軸190の方向にレンズユニット120を移動させるために操作されてレンズユニット120に力を伝達するように構成されたレンズユニット移動機構170を有する。レンズユニット移動機構170は、顕微鏡対物レンズ100の対応するリングギア140と噛み合うピニオンまたは歯部を有する電気駆動ユニット172を有する。リングギア140は、光軸190の周りに回転し、その回転運動は、例えば米国特許第8730583号明細書に記載された機構により、レンズユニット120の直線運動に変換される。回転運動を直線運動に変換するために、(図1には示されていない)カム面を有するカムリングが使用可能である。カム面は、水平方向に対して傾斜している。これにより、カム面に係合するレンズマウント122は、光軸の方向に移動する。カム面に係合するためにレンズマウントには、ばね部材180が作用する。図1から見て取れるように、ばね部材180は、その一方の側がスリーブ130の突出部によって支持されており、かつその他方の側がレンズマウント122の対応する突出部に支承されている。したがって、半径方向で見ると、ばね部材180は、約7μmの嵌合公差を超えるレンズマウント122の傾斜のあらゆる危険性が回避されるように、レンズマウント122とスリーブ130との間に配置される。
【0032】
図2には、光学アセンブリ100の別の実施形態が、長手方向断面で斜視図において略示されている。図2の光学アセンブリ100は実質的に、図1のそれに対応するが、際立った2つの特徴を有する。第1に、レンズマウント122は、その外側の円筒面に自己潤滑性材料のコーティング228を有する。第2に、レンズユニット移動機構170は、光軸190に平行な方向にレンズユニット120を移動するために手動で操作される操作ユニット272を有する。
【0033】
図2から見て取れるように、レンズユニット120は、スリーブ130の内面に向いたその外側の円筒面に、自己潤滑性材料のコーティング228を有する。コーティング228は、コーティング228がスリーブ130の内面と摺接するように、実質的にレンズマウント122の軸線方向長さ全体にわたって延在する1つの円周リングの形態をしている。この実施形態では、コーティング228は、IGLIDURから成り、繊維、充填剤および固体潤滑剤を含むPTFEまたはPEEKのような1つまたは複数のベースポリマーを実質的に有する自己潤滑性ポリマー組成物である。このような組成物は特に、直線的な短いストロークの応用のために設計可能である。レンズマウント122を作製するためにはまず、アンダーサイズの真鍮からマウントが作製される。コーティングは、コロナコーティングプロセスを使用してレンズマウント122に被着される。このプロセスでは、粉末状のポリマー組成物が、45,000ボルトに帯電される。マウントそれ自体はアースされる。粉末は、飽和点に達するまで表面全体にわたって均一に広がる。この状態でレンズマウント122は、180℃まで加熱される。このコーティングが約150μmの厚さに達した後、マウントが旋削加工され、光学素子が所定の位置に接着される。エッジをセンタリングする際にコーティングは、約80μmだけ旋削加工される。これにより、自己潤滑性ポリマー材料の70μm厚の層が残る。このようなコーティング厚により、熱膨張/収縮は、μm以下の範囲、すなわち7μmの嵌合公差により容易に補償される範囲になる。
【0034】
さらに図2から見て取れるように、レンズユニット移動機構170は、手動で操作されかつ公知のように光軸190に沿ったレンズユニット120の直線運動にリングの手動の回転運動を変換する、ローレット加工リングを有する操作ユニット272を有する。
【0035】
図3には、図2の光学アセンブリ100に使用可能なレンズマウント122が略示されている。レンズマウント122は、スリーブ130の内面に沿って移動する(図2を参照されたい)その外側の円筒面に、自己潤滑性材料のコーティング228、例えば、図2に関連して説明したようなコーティング228を有する。
【0036】
図4には、スリーブ130の内面と接触する、レンズマウントの外面において、異なる2つの水平レベルに、周方向に沿った被覆領域428を有するレンズマウント122の別の実施形態が示されている。それぞれレベルにおいて均等に分散された3つの被覆領域428を有するのが好適である。これにより、最大限の機械的安定性が得られるのと同時に、結果的に熱膨張/収縮に起因する形状変化は最小限になる。したがって図4に示したレンズマウント122は、図3に示したレンズマウントの代わりに、図2に示した光学アセンブリ100に使用可能である。
【符号の説明】
【0037】
100 光学アセンブリ
120 レンズユニット
122 レンズマウント
126 レンズ
128 リング
130 スリーブ
140 リングギア
170 レンズユニット移動機構
172 電気駆動ユニット
180 ばね部材
190 光軸
228 コーティング
272 操作ユニット
428 被覆領域
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】