(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029306
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】多層フィルム及び銅張積層板
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20230224BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230224BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B15/08 J
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130675
(22)【出願日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021134215
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川原 良介
(72)【発明者】
【氏名】内田 徳之
(72)【発明者】
【氏名】小屋原 宏明
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB17D
4F100AK02A
4F100AK02C
4F100AK17A
4F100AK17C
4F100AK41B
4F100AK49B
4F100AL01A
4F100AL01C
4F100AL06B
4F100AS00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100JA02
4F100JA02B
4F100JG05
4F100JG05A
4F100JG05C
(57)【要約】
【課題】伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用することのできる、線膨張率の低い多層フィルム、及び、該多層フィルムを用いた銅張積層板を提供する。
【解決手段】表層と基材層とを有する多層フィルムであって、前記表層は、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、前記基材層は、線膨張率が50ppm/K以下である多層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と基材層とを有する多層フィルムであって、
前記表層は、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、
前記基材層は、線膨張率が50ppm/K以下である
ことを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
多層フィルムは、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であることを特徴とする請求項1記載の多層フィルム。
【請求項3】
基材層は、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)及び変性ポリイミド(MPI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の多層フィルム。
【請求項4】
基材層は、液晶ポリマー(LCP)を含有することを特徴とする請求項3記載の多層フィルム。
【請求項5】
基材層は、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)及び変性ポリイミド(MPI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の含有量が50重量%以下であることを特徴とする請求項3記載の多層フィルム。
【請求項6】
表層は、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)及びパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の多層フィルム。
【請求項7】
表層は、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)及びパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の含有量が50重量%以上であることを特徴とする請求項6記載の多層フィルム。
【請求項8】
表層と基材層との間に他の層を有さないことを特徴とする請求項1又は2記載の多層フィルム。
【請求項9】
基材層の両面に表層を有することを特徴とする請求項1又は2記載の多層フィルム。
【請求項10】
基材層の厚みに対する表層の厚みの比率(表層の厚み/基材層の厚み)が、1以下である、請求項1又は2記載の多層フィルム。
【請求項11】
表層と基材層とを有する多層フィルムであって、
前記表層は、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、
前記基材層は、線膨張率が50ppm/K以下であり、
基材層は、液晶ポリマー(LCP)を含有し、
基材層の両面に表層を有することを特徴とする多層フィルム。
【請求項12】
請求項1又は11記載の多層フィルムを含む、銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルム及び銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる配線基板として、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)がある。フレキシブルプリント基板は、絶縁性のベースフィルム上に銅箔を積層した銅張積層板(CCL)を用い、例えば、銅箔のエッチング処理等を行うことにより銅配線を形成し、銅配線の保護を目的として更にカバーレイフィルムを貼り合わせること等により作製される。銅張積層板に用いられるベースフィルムには、一般的にポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)等が用いられている(例えば、特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-188339号公報
【特許文献2】特開2016-205967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の分野ではより大容量のデータをより高速に送受信することが求められ、いわゆる第5世代移動通信システム(5G)の実用化も進められており、これに伴い、伝送信号の高周波数化が進められている。しかしながら、高周波数化により、伝送信号の減衰量(「伝送損失」という)が大きくなるという問題が生じている。銅張積層板に用いられるベースフィルムとしても、このような伝送損失を抑えることができ、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用できる新たなフィルムが求められている。
【0005】
本発明は、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用することのできる、線膨張率の低い多層フィルム、及び、該多層フィルムを用いた銅張積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示1は、表層と基材層とを有する多層フィルムであって、前記表層は、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、前記基材層は、線膨張率が50ppm/K以下である、多層フィルムである。
本開示2は、多層フィルムが、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下である、本開示1の多層フィルムである。
本開示3は、基材層が、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)及び変性ポリイミド(MPI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する、本開示1又は2の多層フィルムである。
本開示4は、基材層が、液晶ポリマー(LCP)を含有する、本開示3の多層フィルムである。
本開示5は、基材層が、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)及び変性ポリイミド(MPI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の含有量が50重量%以下である、本開示3又は4の多層フィルムである。
本開示6は、表層が、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)及びパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する、本開示1、2、3、4又は5の多層フィルムである。
本開示7は、表層が、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)及びパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の含有量が50重量%以上である、本開示6の多層フィルムである。
本開示8は、表層と基材層との間に他の層を有さない、本開示1、2、3、4、5、6又は7の多層フィルムである。
本開示9は、基材層の両面に表層を有する、本開示1、2、3、4、5、6、7又は8の多層フィルムである。
本開示10は、基材層の厚みに対する表層の厚みの比率(表層の厚み/基材層の厚み)が、1以下である、本開示1、2、3、4、5、6、7、8又は9の多層フィルムである。
本開示11は、表層と基材層とを有する多層フィルムであって、前記表層は、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、前記基材層は、線膨張率が50ppm/K以下であり、基材層は、液晶ポリマー(LCP)を含有し、基材層の両面に表層を有する、多層フィルムである。
本開示12は、本開示1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11の多層フィルムを含む、銅張積層板である。
以下、本発明を詳述する。
【0007】
伝送損失は周波数に比例して大きくなるため、伝送信号が高周波数化すると、伝送損失が大きくなることは避けられない問題である。高周波数帯(例えば、1~80GHz付近)での伝送損失を抑えるためには、例えば、銅張積層板に用いられるベースフィルムとして、高周波数帯での誘電特性に優れたフィルムを用いることが考えられる。即ち、伝送損失は、周波数に加えて、導通部分の周辺に存在する絶縁性部分の誘電率Dk及び誘電正接Dfにも影響されるため、高周波数帯において誘電率Dk及び/又は誘電正接Dfが小さいフィルムを用いることで、伝送損失を抑えることが期待される。
【0008】
本発明者らは、20GHzでの誘電正接Dfが一定値以下のフィルムを用いることを検討した。しかしながら、このような誘電正接Dfが小さいフィルムは、銅張積層板から配線基板を作製する過程で行われるはんだリフロー等の工程で高温に晒されると変形しやすく、配線基板に反りを生じさせることがあった。
これに対し、本発明者らは、フィルムを表層と基材層とを有する多層構造とし、表層の20GHzでの誘電正接Dfを一定値以下に調整するとともに、基材層の線膨張率を一定値以下に調整することを検討した。本発明者らは、このような多層フィルムであれば、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用することができ、また、線膨張率が低く、高温に晒されても配線基板に反りを生じさせにくいことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の多層フィルムは、表層と基材層とを有する。
上記表層は、20GHzでの誘電正接Dfの上限が0.0015である。このような表層を有することで、多層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接Dfが小さくなり、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用できる多層フィルムとなる。上記表層の20GHzでの誘電正接Dfの好ましい上限は0.0012、より好ましい上限は0.001である。
上記表層の20GHzでの誘電正接Dfの下限は特に限定されず、小さいほど、多層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接Dfが小さくなるため好ましい。上記表層の20GHzでの誘電正接Dfの好ましい下限は0.0001である。
なお、20GHzでの誘電正接Dfは、例えば、PNAネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)等を用い、JIS R1641に準拠して、40mm角の表層のサンプルについて25℃、20GHzで空洞共振法により測定することができる。
【0010】
上記表層を構成する樹脂は特に限定されないが、上記表層の20GHzでの誘電正接Dfが上記範囲を満たすためには、次のような樹脂を含有することが好ましい。即ち、上記表層は、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレントラフルオロエチレン(ETFE)及びパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。本明細書中、これらの樹脂を「低誘電正接樹脂」ともいう。
【0011】
上記シクロオレフィンポリマー(COP)とは、主鎖及び側鎖のうちの一方又は両方に環状オレフィンに由来する構成単位を有するポリマーである。
上記環状オレフィンは特に限定されず、多環式の環状オレフィンであってもよく、単環式の環状オレフィンであってもよい。
上記多環式の環状オレフィンは特に限定されず、例えば、ノルボルネン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブチルノルボルネン等のノルボルネン化合物が挙げられる。また、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン等のジシクロペンタジエン化合物も挙げられる。更に、テトラシクロドデセン、メチルテトラシクロドデセン、ジメチルシクロテトラドデセン、トリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエン等も挙げられる。
上記単環式の環状オレフィンは特に限定されず、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロドデカトリエン等が挙げられる。
上記シクロオレフィンポリマー(COP)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0012】
上記シクロオレフィンコポリマー(COC)とは、上述したような環状オレフィンに由来する構成単位と、エチレン、α-オレフィン等の非環状オレフィンに由来する構成単位とを有するポリマーである。
上記α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数3~20の直鎖状α-オレフィンが挙げられる。また、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン等の炭素数4~20の分岐状α-オレフィンも挙げられる。
上記シクロオレフィンコポリマー(COC)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0013】
上記シクロオレフィンポリマー(COP)及び上記シクロオレフィンコポリマー(COC)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は130℃、好ましい上限は190℃であり、より好ましい下限は140℃であり、更に好ましい下限は150℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、上記表層は、誘電正接Dfの低さと線膨張率の低さとのバランスにより優れたものとなる。
【0014】
上記シクロオレフィンポリマー(COP)の市販品として、例えば、日本ゼオン社製の商品名ZEONOR(登録商標)、JSR社製の商品名ARTON(登録商標)等が挙げられる。上記シクロオレフィンコポリマー(COC)の市販品として、例えば、ポリプラスチックス社製の商品名TOPAS(登録商標)(ノルボルネンとエチレンとが共重合したシクロオレフィンコポリマー)、三井化学社製の商品名APEL(登録商標)等が挙げられる。
【0015】
上記エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)とは、エチレン(C2H4)とテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン、C2F4)の共重合体である。
上記エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は40℃、好ましい上限は120℃であり、より好ましい下限は60℃、より好ましい上限は100℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、上記表層は、誘電正接Dfの低さと線膨張率の低さとのバランスにより優れたものとなる。
上記エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)の市販品として、例えば、AGC社製のFluon ETFE等が挙げられる。
【0017】
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)とは、テトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン、C2F4)とパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体である。
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は70℃、好ましい上限は110℃であり、より好ましい下限は80℃であり、更に好ましい下限は100℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、上記表層は、誘電正接Dfの低さと線膨張率の低さとのバランスにより優れたものとなる。
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0018】
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の市販品として、AGC社製のFluon+TM EA-2000(登録商標)等が挙げられる。
【0019】
上記表層における上記低誘電正接樹脂(即ち、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)及びパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂)の含有量は特に限定されない。上記低誘電正接樹脂の含有量は、好ましい下限が50重量%である。上記低誘電正接樹脂の含有量が50重量%以上であれば、上記表層の20GHzでの誘電正接Dfが上記範囲に調整されやすくなるため、多層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接Dfがより小さくなり、伝送信号が高周波数化した場合にもより好適に使用できる多層フィルムとなる。上記低誘電正接樹脂の含有量のより好ましい下限は70重量%である。
上記低誘電正接樹脂の含有量の上限は特に限定されず、100重量%であってもよいが、好ましい上限は90重量%である。上記低誘電正接樹脂の含有量が90重量%以下であれば、上記表層に他の樹脂、他の成分等を配合することで、上記表層の20GHzでの誘電正接Dfを小さく保ちながら更なる性能を付与することもできる。具体的には例えば、上記表層に上記基材層を構成する樹脂を配合するとともに共押出成形により多層フィルムを製造することで、上記表層の20GHzでの誘電正接Dfを小さく保ちながら、上記表層と上記基材層との間の密着性を高め、層間強度を上げることができる。上記低誘電正接樹脂の含有量のより好ましい上限は85重量%、更に好ましい上限は80重量%である。
【0020】
上記表層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は20μmである。上記表層の厚みが5μm以上であれば、多層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接Dfを充分に小さくすることができる。上記表層の厚みが20μm以下であれば、多層フィルム全体としての線膨張率が高くなりすぎることを防ぐことができる。上記表層の厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は15μmである。
【0021】
上記基材層は、線膨張率の上限が50ppm/Kである。このような基材層を有することで、多層フィルム全体としての線膨張率が低くなり、高温に晒されても配線基板に反りを生じさせにくい多層フィルムとなる。上記基材層の線膨張率の好ましい上限は25ppm/K、より好ましい上限は20ppm/Kである。
上記基材層の線膨張率の下限は特に限定されず、低いほど、多層フィルム全体の線膨張率が低くなるため好ましい。上記基材層の線膨張率の好ましい下限は10ppm/Kである。
なお、線膨張率は、例えば、熱機械分析装置TMA8310(リガク社製)等を用い、幅5mm×長さ20mmの基材層のサンプルについて、引張モード(初期荷重10mN)、昇温速度10℃/分で25℃から200℃まで測定を行い、下記式(1)により求めることができる。
線膨張率(ppm/K)=ΔL/(L・ΔT) (1)
(ΔLは変位量、Lはサンプル長さ、ΔTは変位温度を表す。)
【0022】
上記基材層を構成する樹脂は特に限定されないが、上記基材層の線膨張率が上記範囲を満たすためには、次のような樹脂を含有することが好ましい。即ち、上記基材層は、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)及び変性ポリイミド(MPI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。本明細書中、これらの樹脂を「低線膨張率樹脂」ともいう。なかでも、誘電正接Dfの低さと線膨張率の低さとのバランスに優れることから、液晶ポリマー(LCP)及び変性ポリイミド(MPI)がより好ましい。更に低い誘電正接が好まれることから、液晶ポリマー(LCP)が更に好ましい。
【0023】
上記液晶ポリマー(LCP)は、ある特定の温度範囲で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーであることが好ましい。
上記液晶ポリマー(LCP)は特に限定されず、例えば、液晶性芳香族ポリエステル樹脂、液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂、これら液晶性芳香族ポリエステル樹脂又は液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂を同一分子鎖中に部分的に含むポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの液晶ポリマー(LCP)は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記液晶性芳香族ポリエステル樹脂は特に限定されず、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル樹脂が挙げられる。
上記芳香族ヒドロキシカルボン酸は特に限定されず、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
【0025】
また、上記液晶性芳香族ポリエステル樹脂としては、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族又は脂環式ジカルボン酸と、芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂も挙げられる。
上記芳香族又は脂環式ジカルボン酸は特に限定されず、上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記脂環式ジカルボン酸としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の炭素数8~12のジカルボン酸、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0026】
上記芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールは特に限定されず、上記芳香族ジオールとしては、例えば、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記脂環式ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノール、アダマンタンジオール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。上記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、重合時の反応性に優れ、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0027】
上記液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂は特に限定されず、例えば、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンとからなるポリエステルアミド樹脂が挙げられる。
上記芳香族ヒドロキシアミンは特に限定されず、例えば、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記芳香族ジアミンは特に限定されず、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
また、上記液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂としては、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、上述したような芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンと、上述したような芳香族又は脂環式ジカルボン酸と、上述したような芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールとからなるポリエステルアミド樹脂も挙げられる。
【0029】
上記液晶ポリマー(LCP)の流動開始温度は特に限定されないが、好ましい下限は270℃、好ましい上限は400℃であり、より好ましい下限は280℃、より好ましい上限は380℃である。上記流動開始温度が上記範囲内であれば、高耐熱性と成形性を兼ね備えた樹脂となる。
なお、流動開始温度は、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリマー(LCP)を溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度である。
【0030】
上記液晶ポリマー(LCP)の溶融粘度は特に限定されないが、上記流動開始温度より30℃高い温度において、径0.5mm及び長さ10mmのキャピラリーを使用し、せん断速度1000秒-1で測定した溶融粘度の好ましい下限は10Pa・s、好ましい上限は600Pa・sである。上記溶融粘度が上記範囲内であれば、高耐熱性と成形性を兼ね備えた樹脂となる。
【0031】
上記液晶ポリマー(LCP)の溶融張力は特に限定されないが、上記流動開始温度より30℃高い温度において、径0.5mm及び長さ10mmのキャピラリーを使用し、引取速度42m/分で測定した溶融張力の好ましい下限は1mN、好ましい上限は20mNである。上記溶融張力が上記範囲内であれば、高耐熱性と成形性を兼ね備えた樹脂となる。
なお、溶融張力は、例えば、キャピログラフ(東洋精機製作所社製)等を用いて測定できる。
【0032】
上記液晶ポリマー(LCP)の市販品として、例えば、JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標)、東レ社製のシベラス(登録商標)、ポリプラスチックス社製の商品名ラペロス等が挙げられる。
【0033】
上記ポリイミド(PI)とは、主鎖にイミド骨格を有するポリマーである。
上記ポリイミド(PI)は特に限定されず、例えば、ジアミン化合物と、芳香族酸無水物とからなるポリイミド等が挙げられる。上記ジアミン化合物は特に限定されず、脂肪族ジアミン化合物であってもよく、芳香族ジアミン化合物であってもよい。上記芳香族酸無水物は特に限定されず、例えば、ピロメリット酸等が挙げられる。
上記ポリイミド(PI)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記ポリイミド(PI)の市販品として、例えば、東レ・デュポン社製のカプトンH(登録商標)、宇部興産社製のユーピレックス(登録商標)、カネカ社製のアピカルAH(登録商標)、ゼノマックスジャパン社製のゼノマックス(登録商標)等が挙げられる。
【0035】
上記変性ポリイミド(MPI)とは、上述したようなポリイミド(PI)にフッ素樹脂等の低極性材料を配合したものである。
上記変性ポリイミド(MPI)の市販品として、例えば、東レ・デュポン社製のカプトンRR(登録商標)、カネカ社製のピクシオ IB(登録商標)等が挙げられる。
【0036】
上記基材層における上記低線膨張率樹脂(即ち、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)及び変性ポリイミド(MPI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂)の含有量は特に限定されないが、好ましい下限が10重量%である。上記低線膨張率樹脂の含有量が10重量%以上であれば、上記基材層の線膨張率が上記範囲に調整されやすくなるため、多層フィルム全体としての線膨張率がより低くなり、高温に晒されても配線基板に反りを生じさせにくい多層フィルムとなる。上記低線膨張率樹脂の含有量のより好ましい下限は20重量%、更に好ましい下限は25重量%である。
上記低線膨張率樹脂の含有量の上限は特に限定されず、100重量%であってもよいが、好ましい上限は80重量%である。上記低線膨張率樹脂の含有量が80重量%以下であれば、上記基材層に他の樹脂、他の成分等を配合することで、上記基材層の線膨張率を低く保ちながら更なる性能を付与することもできる。具体的には例えば、上記基材層に上記表層を構成する樹脂を配合するとともに共押出成形により多層フィルムを製造することで、上記基材層の線膨張率を低く保ちながら、上記表層と上記基材層との間の密着性を高め、層間強度を上げることができる。上記低線膨張率樹脂の含有量のより好ましい上限は60重量%、更に好ましい上限は50重量%である。
【0037】
上記基材層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は200μmである。上記基材層の厚みが上記範囲内であれば、多層フィルム全体としての線膨張率を充分に低くすることができる。上記基材層の厚みのより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は150μmである。
【0038】
本発明の多層フィルムは、更に、反応型相溶化剤を含有してもよい。
上記反応型相溶化剤を含有することで、上記表層と上記基材層との間の層間強度が高くなる。なお、上記反応型相溶化剤は、上記表層に配合されてもよく、上記基材層に配合されてもよい。
上記反応型相溶化剤は特に限定されず、例えば、三井化学社製のアドマーQ、三洋化成社製のユーメックス、三井化学社製のタフマーM、住友化学社製のボンドファースト、旭化成社製のタフテックM、日油社製のモディパーC1430G、日本触媒社製のエポクロスRPS-1005等が挙げられる。なかでも、日本触媒社製のエポクロスRPS-1005が好ましい。
【0039】
上記反応型相溶化剤の含有量は特に限定されないが、上記表層又は上記基材層における好ましい下限が1重量%、好ましい上限が10重量%であり、より好ましい下限が3重量%、より好ましい上限が5重量%である。上記反応型相溶化剤の含有量が上記範囲内であれば、上記表層と上記基材層との間の層間強度がより高くなる。
【0040】
本発明の多層フィルムは、必要に応じて、更に、難燃剤、酸化防止剤、光安定化剤、金属不活性化剤、可塑剤、造核剤、透明化剤、帯電防止剤、滑剤等の添加剤を含有してもよい。なお、上記添加剤は、上記表層に配合されてもよく、上記基材層に配合されてもよい。
【0041】
本発明の多層フィルムは、上記表層と上記基材層とをそれぞれ少なくとも1つ有していればその層構造は特に限定されず、上記基材層の片面のみに上記表層を有する二層構造であってもよく、上記基材層の両面に上記表層を有する三層構造であってもよい。また、本発明の多層フィルムは、四層以上の構造であってもよい。
なかでも、上記基材層の両面に上記表層を有することが好ましい。上記基材層の両面に上記表層を有することで、多層フィルムの両側の表面に銅配線を形成する場合にも伝送損失をより抑えることができ、より好適に使用できる多層フィルムとなる。
【0042】
本発明の多層フィルムは、上記表層と上記基材層との間に他の層を有していてもよいが、上記表層と上記基材層との間に他の層を有さないことが好ましい。即ち、上記表層と上記基材層とが、他の層を介することなく直接積層されていることが好ましい。
上記他の層は特に限定されず、例えば、接着剤層等が挙げられる。接着剤層は一般的に高周波数帯での誘電正接Dfが大きいため、上記表層と上記基材層との間に接着剤層等の他の層を有さないことで、多層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接Dfがより小さくなる。
なお、例えば、上記表層と上記基材層とをそれぞれ別々に作製し、接着剤層を用いることなく直接積層(単純積層)した場合には、上記表層と上記基材層との間の層間強度が低くなり、剥離しやすくなることがある。本発明の多層フィルムにおいては、接着剤層を用いなくとも、例えば、上記表層と上記基材層とに同じ樹脂を配合するとともに共押出成形により多層フィルムを製造することで、多層フィルムの高周波数帯での誘電正接Dfを小さく保ち、かつ、線膨張率を低く保ちながら、上記表層と上記基材層との間の密着性を高め、層間強度を上げることができる。
【0043】
本発明の多層フィルムの20GHzでの誘電正接Dfは特に限定されないが、好ましい上限は0.0015である。このような多層フィルムであれば、伝送信号が高周波数化した場合にもより好適に使用できる。本発明の多層フィルムの20GHzでの誘電正接Dfのより好ましい上限は0.0012、更に好ましい上限は0.001である。
本発明の多層フィルムの20GHzでの誘電正接Dfの下限は特に限定されず、小さいほど好ましい。本発明の多層フィルムの20GHzでの誘電正接Dfの好ましい下限は0.0001である。
【0044】
本発明の多層フィルムの線膨張率は特に限定されないが、好ましい上限が50ppm/Kである。このような多層フィルムであれば、高温に晒されても変形しにくく、配線基板に反りを生じさせにくい。本発明の多層フィルムの線膨張率のより好ましい上限は25ppm/K、更に好ましい上限は20ppm/Kである。
本発明の多層フィルムの線膨張率の下限は特に限定されず、低いほど好ましい。本発明の多層フィルムの線膨張率の好ましい下限は10ppm/Kである。
【0045】
本発明の多層フィルム全体としての厚みは特に限定されないが、好ましい下限は20μm、好ましい上限は250μmであり、より好ましい下限は30μm、より好ましい上限は150μmである。
本発明の基材層の厚みに対する表層の厚みの比率(表層の厚み/基材層の厚み)は、4以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。また、0.01以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。上記上限以下であることにより、多層フィルムの線膨張率を低く抑えることが容易となり、上記下限以上であることにより、多層フィルムの誘電正接Dfを低く抑えることが容易となる。基材層の両面に表層を有する場合、上記比率は、基材層の厚みに対する、両方の表層を合わせた厚みの比率のことである。
【0046】
本発明の多層フィルムを製造する方法は特に限定されないが、共押出成形により多層フィルムを製造する方法が好ましい。なお、本発明の多層フィルムの製造方法としては、上記表層と上記基材層とをそれぞれ別々に作製し、接着剤層を用いることなく直接積層(単純積層)したり、接着剤層を用いて積層したりする方法を採用してもよい。
本発明の多層フィルムを製造する際には、上記基材層の線膨張率が上記範囲を満たすためには、多層フィルムに延伸、アニール処理等を行うことが好ましい。延伸、アニール処理等を行うことで、上記基材層の結晶化度が上がり、線膨張率がより低下する。
【0047】
上記表層および基材層は、更に熱可塑性エラストマーを含有することで、押出成形等によって良好に製造されやすくなる。
なお、多層フィルムの上記20GHzでの誘電正接Dfを上記範囲に調整するためには、上述したような樹脂を用いることが考えられるが、このような樹脂の種類によっては、製膜性が不充分となるため、押出成形等によって良好に製造できないことがある。
上記熱可塑性エラストマーは特に限定されず、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、ゴム弾性を示す樹脂であることが好ましく、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー等が挙げられる。なかでも、上記20GHzでの誘電正接Dfが上記範囲を満たしやすいことから、スチレン系エラストマー及びオレフィン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のエラストマーが好ましく、スチレン系エラストマーがより好ましい。
【0048】
上記スチレン系エラストマーは特に限定されないが、ハードセグメントとしての芳香族アルケニル重合体ブロック(A)と、ソフトセグメントとしての共役ジエン重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0049】
上記芳香族アルケニル重合体ブロック(A)とは、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位を有するブロックを意味する。
上記芳香族アルケニル重合体ブロック(A)は、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位を主な構成成分としたブロックであればよく、エチレン等の他の化合物に由来する繰り返し単位を含んでいてもよい。
上記芳香族アルケニル重合体ブロック(A)としては、ポリアルキルスチレン、ポリハロゲン化スチレン、ポリハロゲン置換アルキルスチレン、ポリアルコキシスチレン、ポリカルボキシアルキルスチレン、ポリアルキルエーテルスチレン、ポリアルキルシリルスチレン、ポリ(ビニルベンジルジメトキシホスファイド)等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
上記ポリアルキルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリt-ブチルスチレン等が挙げられる。
上記ポリハロゲン化スチレンは特に限定されず、例えば、ポリクロロスチレン、ポリブロモスチレン、ポリフルオロスチレン等が挙げられる。
上記ポリハロゲン置換アルキルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリクロロメチルスチレン等が挙げられる。
上記ポリアルコキシスチレンは特に限定されず、例えば、ポリメトキシスチレン、ポリエトキシスチレン等が挙げられる。
上記ポリカルボキシアルキルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリカルボキシメチルスチレン等が挙げられる。
上記ポリアルキルエーテルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリビニルベンジルプロピルエーテル等が挙げられる。
上記ポリアルキルシリルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリトリメチルシリルスチレン等が挙げられる。
【0051】
上記共役ジエン重合体ブロック(B)とは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有するブロックを意味する。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、ミルセン、クロロプレン等が挙げられる。これらの共役ジエン化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記スチレン系エラストマーのハードセグメント含有量(芳香族アルケニル重合体ブロック(A)の含有量)は特に限定されないが、好ましい下限は30重量%、好ましい上限は60重量%である。上記ハードセグメント含有量が60重量%以下であれば、多層フィルムを押出成形等によって良好に製造することができる。上記ハードセグメント含有量のより好ましい下限は35重量%、より好ましい上限は50重量%である。
【0053】
上記スチレン系エラストマーは、水素添加体であってもよい。上記スチレン系エラストマーの水素添加率は特に限定されないが、95%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましい。上記水素添加率の上限は特に限定されず、100%以下であればよい。
【0054】
上記スチレン系エラストマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、好ましい下限は5万、好ましい上限は100万であり、より好ましい下限は10万、より好ましい上限は50万である。上記重量平均分子量が上記範囲内であれば、多層フィルムを押出成形等によって良好に製造することができる。
【0055】
上記スチレン系エラストマーとして、具体的には例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体)等が挙げられる。なかでも、成形性の観点から、SEPS及びSEBSが好ましい。
【0056】
上記熱可塑性エラストマーの含有量は特に限定されず、上記低誘電正接樹脂や上記低線膨張率樹脂等の他の樹脂と上記熱可塑性エラストマーの種類(特に他の樹脂の種類)に応じて調整すればよい。本発明の表層又は基材層を構成する樹脂全体に占める上記熱可塑性エラストマーの含有量の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は30重量%である。上記熱可塑性エラストマーの含有量が1重量%以上であれば、多層フィルムを押出成形等によって良好に製造することができる。上記熱可塑性エラストマーの含有量が30重量%以下であれば、多層フィルムの上記20GHzでの誘電正接Dfが好ましい範囲となりやすい。上記熱可塑性エラストマーの含有量のより好ましい下限は2重量%、より好ましい上限は20重量%であり、更に好ましい下限は3重量%、更に好ましい上限は10重量%である。
【0057】
本発明の多層フィルムの用途は特に限定されないが、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用することができ、また、線膨張率が低く、高温に晒されても配線基板に反りを生じさせにくいことから、配線基板、特にフレキシブルプリント基板を作製するための銅張積層板に用いられるベースフィルムとして好適に用いられる。本発明の多層フィルムを含む銅張積層板もまた、本発明の一つである。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用することのできる、線膨張率の低い多層フィルム、及び、該多層フィルムを用いた銅張積層板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0060】
(実施例1)
(1)多層フィルムの製造
シクロオレフィンポリマー(COP)(日本ゼオン社製の商品名ZEONOR(登録商標))63重量部と、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)(旭化成社製の商品名タフテック(登録商標))7部と、液晶ポリマー(LCP)(JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標))30重量部とを混合し、表層用樹脂組成物を得た。
一方、液晶ポリマー(LCP)(JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標))50重量部と、シクロオレフィンポリマー(COP)(日本ゼオン社製の商品名ZEONOR(登録商標))45重量部と、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)(旭化成社製の商品名タフテック(登録商標))5部を混合し、基材層用樹脂組成物を得た。
表層用樹脂組成物、及び、基材層用樹脂組成物を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて三層共押出した。これにより、基材層(厚み40μm)の両面に表層(片面の厚み5μm)を有する三層構造の多層フィルムを得た。
なお、表層のシリンダー温度、基材層のシリンダー温度、及び、金型温度は、それぞれ、融点が最も高い樹脂の融点より20℃高い温度に設定した。表層のスクリュー回転数を10rpm、基材層のスクリュー回転数を15rpmに設定した。押出された溶融樹脂を冷却ロール(温度80℃)により引取り速度3m/分で引取りながら冷却して製膜した。
【0061】
(2)表層及び基材層の20GHzでの誘電正接Dfの測定
PNAネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)を用い、JIS R1641に準拠して、実施例及び比較例と同様にして別途作製した40mm角の表層のみ又は基材層のみからなるサンプルについて25℃、20GHzで空洞共振法により誘電正接Dfを測定した。
【0062】
(3)表層及び基材層の線膨張率の測定
熱機械分析装置TMA8310(リガク社製)を用い、実施例及び比較例と同様にして別途作製した幅5mm×長さ20mmの表層のみ又は基材層のみからなるサンプルについて、引張モード(初期荷重10mN)、昇温速度10℃/分で25℃から200℃まで測定を行い、下記式(1)により線膨張率を求めた。
線膨張率(ppm/K)=ΔL/(L・ΔT) (1)
(ΔLは変位量、Lはサンプル長さ、ΔTは変位温度を表す。)
【0063】
(実施例2~6、比較例1~2)
表層用樹脂組成物、基材層用樹脂組成物、又は、層構造を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。使用した樹脂を以下に示す。
【0064】
エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)(AGC社製のFluon ETFE(登録商標))
シクロオレフィンコポリマー(COC)(ポリプラスチックス社製の商品名TOPAS(登録商標))
水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)(旭化成社製の商品名タフテック(登録商標))
パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)(AGC社製の商品名Fluon+TM EA-2000(登録商標))
シクロオレフィンポリマー(COP)(日本ゼオン社製の商品名ZEONOR(登録商標))
液晶ポリマー(LCP)(JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標))
【0065】
(実施例7)
実施例7では両面の表層の厚みをそれぞれ20μm、基材層の厚みを10μmとしたこと以外は実施例2と同様に多層フィルムを作製した。
【0066】
(実施例8)
多層フィルム全体の厚みを50μmとし、両面の表層の厚みをそれぞれ12.5μm、基材層の厚みを25μmとしたこと以外は実施例2と同様に多層フィルムを作製した。
【0067】
(比較例3)
ポリフェニレンスルファイド(PPS)(ポリプラスチックス社製の商品名ジュラファイド)を用いて実施例1と同様の条件により単層膜の製膜を行うことにより、表層(厚み5μm)となるフィルムを作製した。
一方、液晶ポリマー(LCP)(JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標))を用いて実施例1と同様の条件により単層膜の製膜を行うことにより、基材層(厚み40μm)となるフィルムを作製した。
得られた表層となるフィルムと基材層となるフィルムとを、層間接着剤を用いて200℃の温度で熱ラミネートすることにより、基材層(厚み40μm)の片面に表層(片面の厚み5μm)を有する二層構造の多層フィルムを得た。
【0068】
(比較例4)
表層用樹脂組成物、基材層用樹脂組成物、又は、層構造を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。使用した樹脂を以下に示す。
【0069】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ダイセル社製の商品名ベスタキ-プ(登録商標))
液晶ポリマー(LCP)(JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標))
【0070】
(比較例5)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ダイセル社製の商品名ベスタキ-プ(登録商標))を用いて実施例1と同様の条件により単層膜の製膜を行うことにより、表層(厚み5μm)となるフィルムを作製した。
一方、液晶ポリマー(LCP)(JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標))を用いて実施例1と同様の条件により単層膜の製膜を行うことにより、基材層(厚み40μm)となるフィルムを作製した。
得られた表層となるフィルムと基材層となるフィルムとを、層間接着剤を用いて200℃の温度で熱ラミネートすることにより、基材層(厚み40μm)の両面に表層(片面の厚み5μm)を有する三層構造の多層フィルムを得た。
【0071】
<評価>
実施例及び比較例で得られた多層フィルムについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0072】
(1)多層フィルムの20GHzでの誘電正接Dfの測定
PNAネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)を用い、JIS R1641に準拠して、40mm角の多層フィルムのサンプルについて25℃、20GHzで空洞共振法により誘電正接Dfを測定した。誘電正接Dfが0.001未満であった場合を◎、0.001以上0.002未満であった場合を〇、0.002以上であった場合を×とした。
【0073】
(2)多層フィルムの線膨張率の測定
熱機械分析装置TMA8310(リガク社製)を用い、幅5mm×長さ20mmの多層フィルムのサンプルについて、引張モード(初期荷重10mN)、昇温速度10℃/分で25℃から200℃まで測定を行い、下記式(1)により線膨張率を求めた。
線膨張率(ppm/K)=ΔL/(L・ΔT) (1)
(ΔLは変位量、Lはサンプル長さ、ΔTは変位温度を表す。)
線膨張率が25ppm/K未満であった場合を◎、25ppm/K以上50ppm/K未満であった場合を〇、50ppm/K以上であった場合を×とした。
【0074】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用することのできる、線膨張率の低い多層フィルム、及び、該多層フィルムを用いた銅張積層板を提供することができる。