(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029377
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】HPV16陽性癌の治療コントロールのための血清検査
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230224BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230224BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/574 A
G01N33/543 521
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022200001
(22)【出願日】2022-12-15
(62)【分割の表示】P 2019532928の分割
【原出願日】2017-12-13
(31)【優先権主張番号】102016124171.7
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】519214019
【氏名又は名称】アプヴィリス ドイチュランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ヒルフリッヒ ラルフ
(57)【要約】
【課題】本発明により解決される課題は、HPV16陽性癌の非常に高感度の、またタイプ特異的な治療コントロールを可能にし、疾患の再発症、例えば再発または転移などの早期検出を促進する、血清検査方法を提供することである。
【解決手段】本発明の課題は、HPV16陽性癌の処置後の治療コントロールのためのインビトロ方法であって、
(a)抗がん治療を受けていたHPV16陽性癌患者由来のサンプルを、サンプル中に存在する抗体が抗原と結合できる条件下で、HPV16 L1カプシドまたはカプソマーの立体構造エピトープを含む複数の抗原に接触させるステップであって、前記エピトープが、単量体のおよび/または変性したHPV16 L1に存在しない、ステップ、ならびに
(b)抗原に結合したサンプル中の抗体の結合を検出するステップであって、前記抗体の結合が、患者の抗がん治療の成功と負の相関を有する、ステップ
を含む方法により解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPV16陽性癌の処置後の治療コントロールのためのインビトロ方法であって、
(a)抗がん治療を受けていたHPV16陽性癌患者由来のサンプルを、サンプル中に存在する抗体が抗原と結合できる条件下で、HPV16 L1カプシドまたはカプソマーの立体構造エピトープを含む複数の抗原に接触させるステップであって、前記エピトープが、単量体のおよび/または変性したHPV16 L1に存在しない、ステップ、ならびに
(b)抗原に結合したサンプル中の抗体の結合を検出するステップであって、前記抗体の結合が、患者の抗がん治療の成功と負の相関を有する、ステップ
を含む方法。
【請求項2】
抗原に結合したサンプル中の抗体の結合が、サンプルを、HPV16 L1カプシドまたはカプソマーの立体構造エピトープと特異的に結合する標識抗体、好ましくは寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた標識抗体と接触させることにより検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体の結合が、結合の基準レベルと比較され、好ましくは、前記抗体の結合が、所定の時間間隔で前記患者から採取した1つまたは複数のサンプルにおける前記抗体の結合と比較され、所定の時間にわたる前記結合の減少が、抗がん治療の成功を示し、経時的な前記結合の増加が、前記患者におけるHPV16陽性癌の再発を示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記標識抗体が試験ストリップ上で移動する形態で存在し、抗原と標識抗体との複合体が別の抗体との結合により検出され、好ましくは、他の抗体が、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られたものでもある、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
HPV16陽性癌の再発を有すると同定された患者に、抗がん治療を施す、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
HPV16陽性癌の処置後の治療コントロールのためのインビトロ方法であって、
i)患者のサンプルを、サンプル中に存在する抗体がHPV16 L1抗原と結合できる条件下で、単量体のおよび/もしくは変性したHPV16 L1に存在しない立体構造エピトープを有する、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する複数の抗原と混合するステップ、
ii)ステップi)の混合物を、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原の立体構造エピトープと特異的に結合する標識抗体、特に寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた標識抗体と接触させるステップ、
iii)HPV16-L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合した標識抗体および/もしくはサンプル中の抗体を各々定量するステップ、
iv)所定の時間間隔で同じ患者から採取したサンプルを用いて、ステップi)~iii)を1回もしくは複数回繰り返して、患者における、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量の傾向を、所定の期間にわたりサンプルに基づいて追跡するステップ、ならびに
v)サンプル中の、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量を決定して、治療の成功後の量の減少を観察するステップ、および/または
vi)HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量が、サンプル中で所定の期間内に再び増加する場合、サンプル中の、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量を決定して、HPV16陽性癌の再発を観察するステップ
を含むか、またはそれらからなる方法。
【請求項7】
抗原が固定化されるのではなく、患者サンプルが添加される液相において提供される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
患者サンプルを、抗原と同時に接触させまたは混合し標識抗体と接触させる、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップii)において、混合物が、標識抗体が移動する形態で存在する試験ストリップを流れ、ステップiii)において、抗原と標識抗体との複合体が、別の抗体との結合により検出され、好ましくは、他の抗体が、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られたものでもある、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
HPV16陽性癌を標的とする少なくとも1回の抗がん治療を既に施された患者を処置する方法であって、(A)所定の期間にわたり、HPV16 L1カプシドまたはカプソマーの立体構造エピトープと結合する抗体が、患者において増加するか否かを決定するための分析結果を提供する試験を要求すること、および(B)抗体の増加が患者で検出された場合に、HPV16陽性癌を標的とする追加的な抗がん治療を施すことを含む方法。
【請求項11】
HPV16-L1カプシドまたはカプソマー構造を提示する抗原の立体構造エピトープと特異的に結合する抗体であって、好ましくは、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られる抗体。
【請求項12】
診断方法、特に処置後のHPV16陽性癌の再発を決定する方法における使用のための、請求項11に記載の抗体。
【請求項13】
HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原、またはHPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示するウイルス様粒子であって、好ましくは、HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造が立体構造エピトープを有し、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた抗体と特異的に結合する、抗原またはウイルス様粒子。
【請求項14】
診断方法、特に処置後のHPV16陽性癌の再発を決定する方法における使用のための、請求項13に記載の抗原またはウイルス様粒子。
【請求項15】
患者のサンプル中の抗体量を決定するためのキットであって、
I)HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造の立体構造エピトープを提示する抗原を含む組成物、および
II)HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造の立体構造エピトープを提示する抗原と特異的に結合する標識抗体を含む組成物であって、好ましくは、標識抗体が寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られる、組成物
を含むか、またはそれらからなるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はHPV16陽性癌(carcinoma)の治療コントロールのための方法、対応する診断方法における使用のための抗体、ならびに該方法を実施するための検査に関する。特に、本発明は、所定の期間にわたるHPV16陽性癌の処置の前後で患者から採取したサンプル中の抗体量の推移をモニターする血清学的方法に関する。さらに、本発明は、キットの形態の免疫学的試験手段を提供し、それを用いて、本発明に係る方法を実施できる。
【背景技術】
【0002】
これまで、100種類を超えるヒトパピローマウイルス(HPV)が公知であり、それらは皮膚または様々な粘膜の上皮細胞に感染しうる。HPV感染症は広く蔓延するものであり、また様々なHPVタイプが様々な臨床像を生じさせている。1型のHPVおよび2型のHPVによって手および足上の疣(いぼ)が生じる一方、タイプ6のHPVおよびタイプ11のHPVでは性器に疣が生じる。多くの場合、かかる感染症は臨床的症状がないが、それは結果として影響を受けた上皮細胞において腫瘍様の増殖をもたらしうる。かかる腫瘍は大部分は良性であり、また上記したように、結果として疣の形成をもたらすのみではあるが、幾つかのHPVによっては悪性への変化が生じることもありえ、したがって、例えば陰部における、また口腔内または咽喉内における、がんの発症の原因ともなりうることがこれまでに確認されている。
これらの悪性腫瘍に対する治療方法は、手術、放射線療法、化学療法、免疫療法またはこれらの方法の組合せである。HPV陽性癌の処置後の治療コントロールの前後において、体内に残存する腫瘍細胞、ならびに再発または転移を早期に検出することが望ましく、それにより、二次性腫瘍の形成が認められる前に、例えば化学療法または免疫療法などによる処置を再開することが可能となる。
【0003】
様々な刊行物において、患者の血清中のHPV特異的抗体の同定、ならびにHPV陽性癌の発症および再発に関する得られたデータの診断および予後における値について考察がなされている。
診断または予後における値を推測するに特に有用であるのは、いわゆる腫瘍抗原、すなわち特定の抗原構造であり、それは腫瘍細胞の一部であり、かつそれに特異的であり、免疫系により認識され、免疫応答を惹起しうる。しかしながら、いわゆる腫瘍抗原HPV E6およびHPV E7が適する範囲はごく限られており、その理由は、これらのタンパク質抗原が全てのHPVタイプにおいて産生され、相同性が高く、そのため、例えば、HPV16特異的なE6またはE7タンパク質が血清学的検出に用いられるときでも、タイプ特異的な評価が可能でないからである。しかしながら、このタイプ特異的な血清学的応答の検出は、例えば足における良性の疣に対する免疫応答などではなく、腫瘍を発症させたHPVタイプに対する免疫系の応答を決定するのに必要であり、それは偽陽性の結果と考えられることもあるため、患者にとり致命的な結末ともなりうる。
HPVは、dsDNAウイルスである。非封入型ウイルス粒子は、二十面体カプシドから成る。L1(後期タンパク質1)は、特にHPVのカプシド形成を決定づけ、主にHPVタイプの免疫原性の基となる。
【0004】
Af Geijerstamらは、Journal of Infectious Diseases, 177, 1998, 1710-1714に研究成果を記載しており、そこでは、初産の女性におけるHPV16カプシド特異的抗体の血清中レベルを、2回目の妊娠時までの期間にわたり決定している。この研究成果から推測できることは、血清中のHPV16カプシド特異的抗体の量が数年にわたり安定して維持され、該抗体の量が、病状ではなく性的パートナーの人数と相関する、ということである。
更なる研究では、HPV16感染症がその後の頸部癌の発症リスク因子となるか否かに関して検討を行っている(Shah et al., Cancer Epidemiology, Biomarkers & Preventions, 6, 1997, 233-237)。血清中にHPV16カプシド抗体が多量に存在すると、頸部癌の発症リスクの増加につながる。またその試験の結果、HPV16カプシド抗体は、7~13年間にわたって顕著に減少しないことが明らかとなった。
【0005】
Koslabovaらは、International Journal of Cancer, 133, 2013, 1832-1839において、HPV16ウイルス様粒子(VLP)、すなわちカプシドに対する持続性の血清学的陽性が、腫瘍患者の治療後に観察されることを述べている。これは、治療後のL1特異的抗体の量の減少が、治療効果をコントロールするのに適さないと考えられることを意味する。そのサマリーでは、HPV16カプシド抗原に特異的な抗体の力価が、処置後の観察期間の間変化しないことを述べている。したがって、L1はマーカーとはならず、むしろ進行のモニタリングか、または再発の検出に適していると考えられる。
更なる問題は、すでに上述したように、通常の抗体試験はタイプ特異的でないことである。L1またはHPVの主要カプシドタンパク質も、単量体および多量体のいずれの形態も採ることができる。ファイフ(fife)単一L1タンパク質は、会合していわゆるカプソマー(または五量体)を構築する。72のカプソマーは、カプシドのサブユニットとして会合してウイルスのカプシドを形成し、天然に生じる感染の際、その中に遺伝物質が封入される。L1遺伝子中の10%の核酸配列の相違が新しいHPVタイプと記載するための要件として規定される。これは、異なるHPVタイプであっても、L1遺伝子およびタンパク質の約90%が同一でありうることを意味する。主要カプシドタンパク質(L1)の他に、微量カプシドタンパク質L2も存在する。L2タンパク質もまた、高度に保存されており、すなわち、タンパク質の大部分が同一である。したがって、L2タンパク質もまた特定のHPVタイプに特異的でない。
【0006】
にもかかわらず、特定のHPVタイプに特異的である部分が、両タンパク質に存在しうる(例えばChristensenを参照)。これは、タイプ特異的、およびタイプ非特異的(群特異的:例えばハイリスクのタイプに対して、または属特異的)なエピトープ(抗体の結合部位)が、交互に存在しうることを意味する。
患者サンプルの抗体はポリクローナル起源であり、すなわち多くの異なる抗原または抗原の異なる部分に対するものであるため、ペルオキシダーゼまたは蛍光標識した抗IgG特異的コンジュゲートを用いるELISA試験の「従来型」アレンジにおいて単量体L1タンパク質を使用する場合には、タイプ特異的およびタイプ非特異的L1抗体は区別することができない。L1タンパク質がHPVタイプ16に由来する場合であっても、単に、100を超える異なるHPVの抗L1抗体の存在が検出されるにすぎない。HPV群内のタンパク質の相同性は非常に高いため、用いられるL1抗原の外見上のタイプ特異性は非常にまぎらわしいものになる。
【0007】
以上より、現在の技術水準においては、抗体の量が長年にわたり安定して維持され、治療後に必ずしも減少するというわけではなく、その結果、このパラメータが症状のモニタリングに適さないとされているため、HPVの血清学はHPV16陽性癌の治療コントロールには適さない。さらに、通常の抗体試験の使用では異なるHPVタイプを区別することができない。
しかしながら、本発明において驚くべきことに、単量体のおよび/または変性したHPV16 L1タンパク質に存在しない、HPV16 L1カプシドの少なくとも一つの立体構造エピトープと結合する、特定のHPV16 L1カプシド特異的抗体について、抗体量の減少およびリバウンドが観察されることを見出した。すなわち、HPV16 L1カプシド特異的抗体のアドホック量の診断的決定のみならず、再発の検出も初めて可能となった。
【0008】
HPV16陽性の原発性腫瘍を処置するとき、数週間(例えば2週間)以内に、通常モニタリングの前後で、HPV16に特異的なL1抗体の量の減少を観察することができる。その量は着実に減少するが、ベースラインで横ばいになり、その結果、プラトー状態となる(
図1)。体内に残存する原発性腫瘍のHPV16陽性細胞が再び増殖(再発または転移)し始める場合には、抗体量の迅速な増加が観察される(
図2)。
この抗体量の変化(リバウンド)は、顕微鏡観察では小さく、臨床医でも二次性腫瘍が視認できない段階でも既に観察され、その結果、リバウンド治療のための措置を、現在一般に行われるものよりも非常に早い段階で開始することができ、そして患者の治癒可能性も著しく増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明により解決される課題は、HPV16陽性癌の非常に高感度の、またタイプ特異的な治療コントロールを可能にし、疾患の再発症、例えば再発または転移などの早期検出を促進する、血清検査を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、HPV16陽性癌の処置後の治療コントロールのためのインビトロ方法であって、
(a)抗がん治療を受けていたHPV16陽性癌患者由来のサンプルを、サンプル中に存在する抗体が抗原と結合できる条件下で、HPV16 L1カプシドまたはカプソマーの立体構造エピトープを含む複数の抗原に接触させるステップであって、前記エピトープが、単量体のおよび/または変性したHPV16 L1に存在しない、ステップ、ならびに
(b)抗原に結合したサンプル中の抗体の結合を検出するステップであって、前記抗体の結合が、患者の抗がん治療の成功と負の相関を有する、ステップ
を含む方法により、本発明に従って解決される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、HPV16陽性癌の一次療法の後、27週間にわたる陽性治療コースを受けた患者の血清中の抗体量の推移を示す。X軸に、一次療法時の0から開始される週数を示し、Y軸に、本発明に係る抗体の濃度をng/ml単位で示す。
【
図2】
図2は、HPV16陽性癌の一次療法の約35週間後に再発が生じた患者の血清中の抗体量の推移を示す。27週間目まで、抗体量の連続的な減少が観察された。31週間目を節目に、抗体量が再び増加した。増加は35週間目まで続き、その時には臨床的相関が確認された。X軸に、一次療法時の0から開始される週数を示し、Y軸に、本発明に係る抗体の濃度をng/ml単位で示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
処置前、または抗がん治療の開始時において、サンプルを患者から採取して、サンプル中の抗体量の基準値を得、それに対して、後で得たサンプルを比較しうる。この時点で、患者において、最高50000ng/ml程度の抗体レベルが観察されうる。
好ましくは、抗原に結合したサンプル中の抗体の結合は、サンプルを、HPV16 L1カプシドまたはカプソマーの立体構造エピトープと特異的に結合する標識抗体、好ましくは寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた標識抗体と接触させることにより検出される。
さらに好ましくは、前記抗体の結合は、結合の基準レベルと比較され、好ましくは、前記抗体の結合は、所定の時間間隔で前記患者から採取した1つまたは複数のサンプルにおける前記抗体の結合と比較され、所定の時間にわたる前記結合の減少は、抗がん治療の成功を示し、経時的な前記結合の増加は、前記患者におけるHPV16陽性癌の再発を示す。
【0013】
標識抗体は試験ストリップ上で移動する形態で存在してもよく、その際、抗原と標識抗体との複合体が別の抗体との結合により検出され、好ましくは、他の抗体は、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られたものでもある。
本発明に係る方法において、HPV16陽性癌の再発を有すると同定された患者に、抗がん治療を施しうる。
本発明の好ましい実施形態によれば、HPV16陽性癌の処置後の治療コントロールのための方法は、
i)患者のサンプルを、サンプル中に存在する抗体がHPV16 L1抗原と結合できる条件下で、単量体のおよび/もしくは変性したHPV16 L1に存在しない立体構造エピトープを有する、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する複数の抗原と混合するステップ、
ii)ステップi)の混合物を、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造の立体構造エピトープを提示する抗原と特異的に結合する標識抗体、特に寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた標識抗体と接触させるステップ、
iii)HPV16-L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合した標識抗体および/もしくはサンプル中の抗体を各々定量するステップ、
iv)所定の時間間隔で同じ患者から採取したサンプルを用いて、ステップi)~iii)を1回もしくは複数回繰り返して、患者における、HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量の傾向を、所定の期間にわたりサンプルに基づいて追跡するステップ、ならびに
v)サンプル中の、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量を決定して、治療の成功後の量の減少を観察するステップ、および/または、
vi)HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量が、サンプル中で所定の期間内に再び増加する場合、サンプル中の、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原と結合する抗体量を決定して、HPV16陽性癌の再発を観察するステップ
を含むか、またはそれらからなる。
【0014】
本発明に係る方法により、所定の時間にわたり患者のサンプル中の抗体量を定量でき、それにより治療後の症状の進行を追跡することができる。例えば、ステップi)~iii)を、1~10年間にわたり、1~4週間毎に繰り返すことができる。
治療が成功した場合、処置前に、または処置の開始時に存在する抗体量と比較し、二週以内に、患者のサンプルに存在する抗体量は50%を超えて減少しうる。
本発明に係る方法において、立体構造エピトープを有するHPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造を提示する抗原またはウイルス様粒子を用いることができる。好ましくは、立体構造エピトープは、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた抗体と特異的に結合する。
サンプルとしては、体液が適切であり、例えば全血、または血清もしくは血漿などの全血からの誘導物質、ならびに患者の指パッドから得た毛管血または全血が適切である。方法を実施するためには、1滴(約25μL)で充分である。
【0015】
ステップi)において、患者のサンプルは、1~15分間にわたり、好ましくは3~10分間にわたりインキュベートすることができる。これにより、特異的な相互作用が確実になされる。
治療は、特に、手術、放射線療法、化学療法または免疫療法、またはこれらの方法の組合せによる一次療法である。
典型的には、女性の患者において、HPV16陽性癌は、93%が肛門性器の領域で見られ、口腔内または咽喉内ではわずか7%で見られるにすぎず、一方、男性の患者において、約80%が口腔内または咽喉内に局在化し、肛門性器の領域ではわずか20%に限られる。
【0016】
本発明との関係において、HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造は、HPV16 L1タンパク質の凝集体または多量体であり、それは幾つかのL1タンパク質の相互作用により、L1モノマーまたは変性タンパク質には存在しない立体構造エピトープをその表面上に形成する。特に、HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造を提示するウイルス様粒子(VLP)が、本発明において用いられる。幾つかのVLPは、立体構造エピトープ、すなわち特異的結合部位を幾つか担持しうる。
本発明との関係において、ウイルス様粒子(VLP)はウイルス粒子であり、それはウイルス性カプシドからなるが、核酸を含まない。したがって、VLPは、複製できない状態で、上記の立体構造エピトープを提示すのに適する。
【0017】
標識抗体は、HPV16 L1に対する抗体であり、それはHPV L1カプシドまたはカプソマー構造の立体構造エピトープに特異的に結合し、ゆえに単量体のおよび/または変性したHPV16 L1タンパク質とは結合しない。本発明に係る好適な抗体は、ブダペスト条約に従い、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)(インホッフェンストラーセ、7B、38124、ブラウンシュヴァイク、ドイツ共和国)に、ドイツ、アンマースベクのAbviris社により2016年9月14日に、寄託番号DSM ACC3306として寄託されたハイブリドーマ細胞株から得ることができる。当業者であれば、抗体の標識のために好適な現在の技術水準の方法を熟知しており、それにより、結合した、および未結合の抗体量の定量が可能となる。特に好ましくは、抗体は金粒子により標識される。
【0018】
検出の際、試験ストリップ、例えばQIAGEN社製EseQuant用の市販のリーダーを用いることが可能である。測定は、光学的に、または伝導率を決定することにより実施できる。あるいは、着色された、または放射性標識された粒子(ベシクル)を用いることができる。
方法はHPVタイプ16に絶対的に特異的であり、他の抗体との交叉反応がない。その理由は、特に、カプソマー構造がL1凝集体として存在し、それにより立体構造エピトープが表面に提示されるからである。
L1タンパク質が凝結体(シノニムとして、多量体、五量体またはカプソマー)を形成するとき、特定のHPVタイプに特異的(すなわちタイプ特異的)である幾つかのL1タンパク質の相互作用により、これらの凝集体の表面(外側を向いたカプシドの領域)に構造体(立体構造エピトープ―抗体に対する結合部位)を形成する。
【0019】
一方、L1タンパク質の相同性の高い領域は、それらが表面ではなく内部にあるように配置される。これらの領域は、ウイルスの遺伝物質の組み込みのために必要である。すなわち、試験において用いるウイルスまたは非感染性のウイルス様粒子(VLP)の場合、乳頭腫ウイルスのファミリーと強くマッチする上記の領域は、粒子内部に埋没する。VLPにおけるこれらの領域は、ゆえに、ヒトサンプル中のグループ特異的抗体が最早接近できず、それにより、タイプ特異的抗体のみが検出可能となることが確保される。
しかしながら、単量体タンパク質は、VLP精製の間、100%除去することができない。したがって、精製されたVLPは、常にカプソマーをも含む。これは、これらの精製されたL1タンパク質が担体媒体(例えば古典的なELISAプレート上)に直接固定化される場合、タイプ特異的なVLPのみならず、非タイプ特異的な領域を有する単量体L1タンパク質およびカプソマーのいずれもが、試験において存在しうることを意味する。
【0020】
この単量体のまたは変性したタンパク質による、タイプ特異的なL1 VLPへの混入は、試験成績がタイプ特異的な結合部位に起因するのかまたはグループ特異的な結合部位に起因するのかが判断できないため、結果として、ヒトサンプルなどの抗体混合物中のタイプ特異的抗体は、もはや(信頼性をもって)同定可能とはならない。
またそれは、L1およびL2タンパク質からなるVLPについても同じである。
患者抗体と本発明に係るHPV16に特異的なL1抗体との間の競合アプローチを用いることにより、試験システムが、本発明に係る抗体と競合するHPV16 L1特異的抗体を排他的に測定できるため、この混入の問題を解決できる。
したがって、抗原は固定化されるのではなく、患者サンプルが添加される液相において供給されるのが好ましい。
これは、以下のような各背景から、大きな利点である。ELISAプレートを販売するために必要な固定化およびそれに続く保存(乾燥させることで、水和物シェルの喪失によりタンパク質の立体構造に変化が生じる)工程により、抗原(VLP)が変化する。すなわち、それらがタイプ特異的なエピトープを喪失し、ゆえに試験に使用できなくなる。VLP溶液に患者サンプルを添加するとき、患者サンプルの抗体と抗原が近接する。それにより、結合反応の動態が著しく急速になり、それは迅速試験に極めて有用である。さらに、患者サンプル中の全ての抗体が試験において「迅速に」利用できるため、分析的感度が増加する。
【0021】
一方では、担体材料、例えばマイクロタイタープレートに固定化されるとき、表面に隣接する抗体のみが反応物として用いられる。反応容器のルーメン内に存在する抗体は、それらがブラウン運動のみにより、1~2mmの距離を横切って表面へ到達しなければならず、それは「非常に」時間がかかるため、実際には反応容器の表面には「決して」到達しない。
また上記の方法では、患者サンプルを、同時に、抗原と混合しかつ標識抗体と接触させるのが好ましい。
【0022】
好適には、患者サンプルを同時に、抗原と混合しかつ抗体と接触させることも可能である。このように、患者サンプルからの抗体と標識抗体との間の、結合部位に対する直接の競合がなされ、それは、上記のような急速な結合動態のため、本発明に係る方法におけるより正確な試験結果をもたらす。したがって、試験方法は、一段階で実施することができる。
さらに、本発明に係る上記の方法では、ステップii)において、混合物は、標識抗体が移動する形態で存在する試験ストリップを流れ、ステップiii)において、抗原と標識抗体との複合体が、別の抗体との結合により検出され、好ましくは、他の抗体は、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られたものでもある。
【0023】
この実施形態は、反応ゾーンにおいて迅速に読み取り可能な試験結果のラインが視認できる迅速試験の提供を可能にする。
ステップi)の混合物は、試験ストリップ上の滴下領域に滴下され、次に、例えば毛細管力により膜全体に移動し、その間、それは反応ゾーンに至るストレッチ上の標識抗体と接触する。標識抗体は、全ての抗原または結合部位が飽和しない程度に濃縮される。反応ゾーンにおいて、更なる抗体が固定化されており、フリーの結合部位がまだ利用できる限り、該抗体は本発明に係る抗原または結合部位に特異的であり、標識抗体-抗原複合体と結合する。これにより、標識抗体-抗原複合体は反応ゾーンにおいて保持され、それにより試験ラインが見えるようになる。抗原または結合部位が、それぞれ、患者サンプルからの抗体により既に飽和している場合には、競合的アプローチから、標識抗体により形成される抗体-抗原複合体が少なくなり、試験ラインは弱くなるか、または見えなくなり、すなわちそれは、全ての結合部位が滴下時に患者サンプルからの抗体により既に飽和していたことになる。ステップi)における、抗原または結合部位の量、およびステップii)における標識抗体の量の適切な調整は、この関係においては重要であり、それにより、先行測定に関する患者サンプル中の抗体量の変化を検出できる。
【0024】
本発明はまた、HPV16陽性癌を標的とする少なくとも1回の抗がん治療を既に施された患者を処置する方法であって、(A)所定の期間にわたり、HPV16 L1カプシドまたはカプソマーの立体構造エピトープと結合する抗体が、患者において増加するか否かを決定するための分析結果を提供する試験を要求すること、および(B)抗体の増加が患者で検出された場合に、HPV16陽性癌を標的とする追加的な抗がん治療を施すことを含む方法にも関する。
更なる態様によれば、本発明はまた、HPV16-L1カプシドまたはカプソマー構造を提示する抗原の立体構造エピトープと特異的に結合する抗体、好ましくは、寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた抗体にも関する。
本発明はまた、診断方法、特に処置後のHPV16陽性癌の再発を決定する方法における使用のための上記の抗体にも関する。
【0025】
さらに本発明は、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示する抗原、または、HPV16 L1カプシドもしくはカプソマー構造を提示するウイルス様粒子にも関する。
寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られた抗体と特異的に結合する、立体構造エピトープを有するHPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造を提示する抗原またはウイルス様粒子が好ましい。
本発明はさらに、診断方法、特に処置後のHPV16陽性癌の再発を決定する方法における使用のための上記の抗原またはウイルス様粒子に関する。本発明はさらに、患者のサンプル中の抗体量を決定するためのキットであって、
I)HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造の立体構造エピトープを提示する抗原を含む組成物、および
II)HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造の立体構造エピトープを提示する抗原と特異的に結合する標識抗体を含む組成物であって、好ましくは、標識抗体が寄託番号DSM ACC3306のハイブリドーマ細胞株から得られる、組成物
を含むか、またはそれらからなるキットに関する。
【0026】
組成物i)は、好ましくは、HPV16 L1カプシドまたはカプソマー構造の立体構造エピトープを提示するウイルス様粒子を含む組成物である。
本発明に係るキットはまた、試験ストリップを含むこともでき、それは任意に、ステップi)の混合物を滴下するための、ならびに試験ラインおよび好ましくはコントロールラインを観察するための開口部を有するテストカセット中に提供される。試験ストリップは、一端に、ステップi)の混合物の滴下ゾーンと、標識抗体が存在し、滴下ゾーンと連結するパッドと、滴下ゾーンから見たときにパッドの反対側で連結する反応ゾーンと、好ましくは反応ゾーンをさらに越えて伸びるコントロールゾーンとを備える。反応ゾーンにおいて、更なる抗体が存在し、それは本発明に係るエピトープと特異的に結合し、標識抗体-抗原複合体の結合により、試験ラインを見えるようにする。コントロールゾーンの他の独立した抗体反応は、試験が正しく進行したことを示す。コントロールゾーンのラインが見えることにより、サンプル量が充分であり、試験が目的どおりに行われたことが確認される。
【実施例0027】
(例1)本発明に係る抗体および抗原のスクリーニング:
パピローマウイルス様粒子(VLP)の調製:
HPV16のL1遺伝子(GenBank:K02718.1)をPCRにより増幅し、移入ベクターpVL1392にクローニングした。リン酸カルシウム沈殿法を用い、BaculoGold DNA(Pharmingen)により組換えベクターをSf9細胞に導入した。組換えウイルスは、製造業者の指示に従い、プラークアッセイにより増幅し、精製した。
【0028】
ウイルス様粒子(VLP)は、Volpersら(Volpers, C., P. Schirmacher, R. E. Streeck, and M. Sapp. 1994. Assembly of the major and the minor Kapsid protein of human papilloma virus type 33 into virus-like particles and tubular structures in insect cells. Virology 200:504-512)に従い精製した。
【0029】
モノクローナル抗体の産生、スクリーニングおよびクローニング:
20μgのインタクトHPV16 VLPをリン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解させ、さらに完全フロイントアジュバントと混合し、BALB/cマウスに皮下注射した。1カ月後および3カ月後に免疫化を繰り返した。
【0030】
3回目の免疫化の3日後、脾臓を摘出し、単一細胞の懸濁液を調製した。脾細胞を、ポリエチレングリコール2500(ベーリンガー=マンハイム社)を用いてマウス骨髄腫細胞株X63Ag8.653と融合させ、96ウェルプレートにおいて、10%のウシ胎仔血清の存在下、Iscoves修飾イーグル培地(IMDM)中で培養した。融合細胞をアザセリンおよびヒポキサンチンにより選抜した。6~8日後、細胞上清を用い、ELISAにより、HPV16 L1特異的抗体の分泌の有無を解析した。変性したL1タンパク質、ならびにHPV-6、HPV-11、HPV-18、HPV-31、HPV-33およびHPV-39のVLPを、非特異的反応を除外するためのコントロールとして用いた。
【0031】
(例2)治療成功後の患者の抗体量減少の観察:
HPV16陽性の扁桃癌に対する腫瘍併用療法(手術/放射線化学療法)を受けた男性患者、年齢53歳、を対象とした。治療開始の前日に、5mlの血液を患者から採取し、患者血清を得た。治療開始時の血清試験では、13200ng/mlの抗体濃度であった。
一次療法の6週間後に、5mlの血液を再び患者から採取し、血清を得た。5600ng/mlの抗体濃度が測定された。これは、6週間以内に50%を超える抗体濃度が減少したことに対応する。
抗体量が減少すると、腫瘍細胞を形成する腫瘍抗原HPV16 L1が望み通り除去され、腫瘍抗原(HPV16 L1タンパク質)がもはや免疫系を誘導してHPV16 L1特異的抗体を形成しないため、治療の成功をコントロールできる。