(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029468
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】複合基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20230224BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20230224BHJP
C04B 41/90 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/02 B
H01L21/88 J
C04B41/90 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209284
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2018175668の分割
【原出願日】2018-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018085352
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 力
(72)【発明者】
【氏名】前田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】西薗 和則
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
(57)【要約】
【課題】放熱特性及び周波数特性に優れた複合基板を提供する。
【解決手段】本発明の複合基板11は、セラミック材料からなる支持体層12と、支持体層12の上面を被膜する金属被覆膜14と、金属被覆膜14上に接合された半導体結晶層13と、を備える。金属被覆膜14及び半導体結晶層13の界面において、金属被覆膜14及び半導体結晶層13が直接的に接触している。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック材料からなる支持体層と、
前記支持体層の上面を被膜する金属被覆膜と、
前記金属被覆膜上に接合された半導体結晶層と、を備え、
前記金属被覆膜及び前記半導体結晶層の界面において、前記金属被覆膜及び前記半導体結晶層が直接的に接触していることを特徴とする複合基板。
【請求項2】
前記金属被覆膜は、Au、Ti、Ag、Cu、Al、Ptの群から選択される少なくとも一種の金属膜からなる薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記支持体層、前記金属被覆膜及び前記半導体結晶層を積層方向に貫通し、前記支持体層の下面と前記半導体結晶層の上面とを電気的に接合するスルーホールを備え、
前記金属被覆膜は、前記スルーホールの周囲に空隙を形成するように前記支持体層上に部分的に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記半導体結晶層は、GaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsP、Si、GaN、GaN2、SiC、InP、単結晶AlNの群から選択される少なくとも一種の半導体材料からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の複合基板。
【請求項5】
前記界面において、前記支持体層の平均表面粗度(Ra)が10nm以下であり、且つ、前記半導体結晶層の平均表面粗度(Ra)が0.5nm以下であり、前記半導体結晶層が前記界面においてファンデルワールス力で結合されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板、及び、複合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁体層上に半導体結晶層が形成された複合基板が、高周波性能、放熱性能、耐圧性能、絶縁性能などの観点からパワーデバイスに採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、絶縁体層上にシリコン層(SOI層)が形成されたSOI構造を有するSOIウエーハを開示する。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。特許文献1において、ボンドウエーハ(2)とベースウエーハ(1)の少なくとも一方の表面に、SiO2からなる酸化膜(3)が形成される。該形成された酸化膜(3)を介してボンドウエーハ(2)とベースウエーハ(1)とが貼り合せられた後、ボンドウエーハ(2)が薄膜化されて、SOI層(5)が形成される。その後、得られた貼り合わせウエーハに埋め込み酸化膜の厚さを減ずる熱処理が行われることによって、所望の厚さの埋め込み酸化膜(6)を有するSOIウエーハ(7)が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のSOIウエーハのような複合基板では、酸化膜を介して、半導体結晶層(ボンドウエーハ)を支持体層(ベースウエーハ)に積層している。この酸化膜として形成されたSiO2は、熱伝導率が1.38W/m・Kと低いことが知られている。それ故、当該支持体層に対して、半導体結晶層として熱伝導率が比較的高いシリコン(Si)や窒化ガリウム(GaN)が好適に選択される。具体的には、シリコンの熱伝導率が約150W/m・Kであり、窒化ガリウムの熱伝導率が約210W/m・Kである。しかしながら、シリコン及び窒化ガリウムの材料特性である電子移動度は、それぞれ1100cm2/V・s及び900cm2/V・sであることから、4GHz程度の高周波特性を有するパワーデバイスを設計するので限界である。これに対し、ガリウム砒素(GaAs)系の半導体化合物材料は、シリコンや窒化ガリウムよりも高い電子移動度(例えば、GaAsの電子移動度は、6000cm2/V・s)を有することから、シリコンや窒化ガリウム系のパワーデバイスの上限使用周波数より高い周波数特性を有するパワーデバイスにより適している。しかしながら、ガリウム砒素系の半導体化合物材料の熱伝導率は、シリコンや窒化ガリウムと比べて極めて低い(例えば、GaAsの熱伝導率は、45~55W/m・K)。つまり、高周波特性の優れたガリウム砒素系の半導体化合物材料を支持体層の酸化膜上に積層したとしても、この低い熱伝導率に起因する複合基板の放熱量不足により、高周波パワーデバイスとして安定的に動作させることができない。よって、ガリウム砒素系の半導体化合物材料を用いた複合基板による高周波パワーデバイスが、未だ実用化には至っていないことが課題である。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、放熱特性及び周波数特性に優れた複合基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態の複合基板は、窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層と、前記支持体層上に結合された、GaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsP、Si、GaN、GaN2、SiC、InP、単結晶AlNの群から選択される少なくとも一種の半導体材料からなる半導体結晶層と、を備え、前記支持体層及び前記半導体結晶層の界面において、前記支持体層及び前記半導体結晶層が直接的に接触していることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態の複合基板は、窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層と、
前記支持体層上に接合された半導体結晶層と、を備え、
前記支持体層及び前記半導体結晶層の界面において、前記支持体層及び前記半導体結晶層が直接的に接触していることを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態の複合基板によれば、絶縁性及び高熱伝導性を有する窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層に対して、高い電子移動度を有するガリウム砒素系の半導体結晶層が直接的に接触している。すなわち、支持体層及び半導体結晶層の間に中間層が介在しないため、半導体結晶層で発生した熱が支持体層に効率的に伝導することから、複合基板全体として高い放熱特性と高い周波数特性の両立が可能となる。よって、本発明は、ガリウム砒素系の半導体化合物材料を用いた複合基板による高周波パワーデバイスを実現可能とするものである。なお、支持体層及び半導体結晶層の直接接着による放熱特性の改善の効果は、ガリウム砒素系以外の半導体化合物材料においても同様に得ることができる。よって、本発明は、ガリウム砒素系以外の半導体化合物材料をその技術的範囲から排除するものではない。
【0009】
本発明のさらなる形態において、複合基板は、前記界面において、前記支持体層の平均表面粗度(Ra)が10nm以下であり、且つ、前記半導体結晶層の平均表面粗度(Ra)が10nm以下であり、前記支持体層及び前記半導体結晶層が、前記界面においてファンデルワールス力で結合されていることを特徴とする。より好ましくは、複合基板は、前記界面において、前記支持体層の平均表面粗度(Ra)が1nm以下であることを特徴とする。さらに好ましくは、複合基板は、前記界面において、前記支持体層の平均表面粗度(Ra)が0.5nm以下であることを特徴とする。このように、支持体層の平均表面粗度をより低く調整することにより、支持体層と半導体結晶層との間でより強力なファンデルワールス力等が発生し、接着層等を介在させることなく、支持体層及び半導体結晶層をより強固に接合することが可能である。
【0010】
本発明のさらなる形態において、複合基板は、前記界面において、前記支持体層及び前記半導体結晶層の表面が親水化処理等の処理をされていることを特徴とする。一例として支持体層及び半導体結晶層の親水化した接合面が水素結合することで、さらに強固に結合させることができる。
【0011】
本発明のさらなる形態において、支持体層は、160W/m・K以上の熱伝導率、及び、450MPa以上の曲げ強度を有する窒化アルミニウム焼結体からなることを特徴とする。支持体層が、高い熱伝導率及び曲げ強度を有することにより、複合基板として、より高い構造的強度及び放熱性能を発揮することができる。
【0012】
本発明のさらなる形態において、前記支持体層は、窒化アルミニウム、及び、平均粒子径が2μm以下の焼結助剤相からなる窒化アルミニウム焼結体であり、前記焼結助剤相の粒子が鏡面研磨面において400μm2あたり10個以上析出し、且つ、ボイドの個数が前記鏡面研磨面において10000μm2あたり3個以下である窒化アルミニウム焼結体からなることを特徴とする。支持体層の鏡面研磨面におけるボイドの密度が著しく低いことから、支持体層及び半導体結晶層の界面において、支持体層の表面がより平滑な平面となり、支持体層及び半導体結晶層をより強固に結合させることができる。
【0013】
本発明の一実施形態の複合基板の製造方法は、
窒化アルミニウム焼結体基板を準備する工程と、
前記窒化アルミニウム焼結体基板の表面を鏡面研磨し、平均表面粗度(Ra)が10nm以下の研磨面を有する支持体層を形成する工程と、
GaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsP、Si、GaN、GaN2、SiC、InP、単結晶AlNの群から選択される少なくとも一種の半導体材料からなる半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板の表面を鏡面研磨し、平均表面粗度(Ra)が10nm以下の研磨面を有する半導体結晶層を形成する工程と、
前記支持体層の研磨面及び前記半導体結晶層の研磨面を合わせて前記支持体層及び前記半導体結晶層を積層する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態の複合基板の製造方法によれば、鏡面研磨により支持体層及び半導体結晶層の平均表面粗度を10nm以下に調整した研磨面を接合させることで、ファンデルワールス力等によって支持体層及び半導体結晶層を結合させることできる。すなわち、絶縁性及び高熱伝導性を有する窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層に対して、高い電子移動度を有するガリウム砒素系の半導体結晶層を直接的に接触させることができる。支持体層及び半導体結晶層の間に中間層が介在しないため、半導体結晶層で発生した熱が支持体層に効率的に伝導することから、複合基板全体として高い放熱特性と高い周波数特性の両立が可能となる。よって、本発明は、ガリウム砒素系の半導体化合物材料を用いた複合基板による高周波パワーデバイスを実現可能とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層と、ガリウム砒素系の半導体材料からなる半導体結晶層とを直接接触させるように結合したことにより、ガリウム砒素系の半導体材料の高周波特性と、窒化アルミニウム焼結体の高熱伝導性を両立させた複合基板を実現することを達成した。なお、本発明の技術的思想は、窒化アルミニウム焼結体に限定されることなく、窒化ケイ素焼結体を含むセラミック材料においても適用可能であることはいうまでもない。また、本発明の技術的思想は、ガリウム砒素系の半導体材料に限定されず、高周波パワーデバイスに適しないとしても、Si、GaN、GaN2、SiC、InP、単結晶AlNを含む種々の半導体材料に適用可能であることはいうまでもない。さらに、本発明の技術的思想は、支持体層の上面を被覆する金属被覆膜と半導体結晶層とを直接的に接触させる形態においても同様に適用され得る。すなわち、本発明の技術的思想を適用することで、相対的な熱伝導特性の改善を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の一実施形態の複合基板の製造方法を示すフローチャート。
【
図3】
図2の窒化アルミニウム焼結体を準備する工程を示すフローチャート。
【
図4】本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体のXRD分析結果を示す図。
【
図5】従来の窒化アルミニウム焼結体のXRD分析結果を示す図。
【
図6】本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体の鏡面研磨面のSEM写真。
【
図7】従来の窒化アルミニウム焼結体の鏡面研磨面のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の例示として一実施形態について説明する。ただし、下記の説明は、本発明を限定することを目的とするものではない。
【0018】
図1は、複合基板1を基板5に搭載した高周波パワーデバイスを例示する。本実施形態の複合基板1は、基板5に配置される所定厚の絶縁性の支持体層2、及び、該支持体層2上に接合された所定厚の半導体結晶層3を備える。支持体層2及び半導体結晶層3は、それぞれ接合面2a及び接合面3aによって結合している。本実施形態では、支持体層2は、窒化アルミニウム焼結体からなり、半導体結晶層3は、GaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsPの群から選択される少なくとも一種の(ガリウム砒素系)半導体材料からなる。上述したとおり、ガリウム砒素系半導体材料は、シリコンや窒化ガリウム等の半導体材料と比べて極めて高い電子移動度を有するが、熱伝導率で大幅に劣っている。本発明では、熱伝導の問題を解消すべく、ガリウム砒素系の半導体結晶層3を、高い熱伝導特性を有する窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層2に積層させた。ただし、本発明において、支持体層2は、窒化ケイ素焼結体からなってもよい。なお、窒化ケイ素焼結体からなる支持体層も、以下に説明する窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層と類似する工程によって得られる。また、本発明において、半導体結晶層3は、Si、GaN、GaN
2、SiC、InP、単結晶AlNを含む種々の半導体材料から選択されてもよい。さらに、本発明において、半導体結晶層3は、複数の異なる材料層で形成されてもよく、例えば、GaAs層とSi層の2層構造であってもよい。この場合、GaAs層とSi層の界面の平均表面粗度10nm以下に研磨することにより、両者をファンデルワールス力等によって(接着剤を介さずに)直接的に結合することが可能である。
【0019】
支持体層2が半導体結晶層3の放熱を効率的に助けるように、支持体層2及び半導体結晶層3の間の界面では、支持体層接合面2a及び半導体結晶層接合面3aが、接着剤や接着層などの中間層を介さずに直接接触するようにファンデルワールス力等によって結合している。このファンデルワールス力等を発揮させるべく、支持体層接合面2aの平均表面粗度Raが10nm以下であり、且つ、半導体結晶層接合面3aの平均表面粗度Raが10nm以下であるように制御されている。この結合力をより強固にすべく、支持体層接合面2aの平均表面粗度Raが1nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、支持体層接合面2aの平均表面粗度Raが0.6nm以下に制御される。最適には、支持体層接合面2aの平均表面粗度Raが0.5nm以下に制御される。これら平均表面粗度Raは、研磨機の条件を最適化することで限界値まで下げられることが好ましい。ただし、その限界値は材料特性に大きく依存し得る。同様に、この結合力をより強固にすべく、半導体結晶層接合面3aの平均表面粗度Raが1nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、半導体結晶層接合面3aの平均表面粗度Raが0.5nm以下に制御される。さらには、支持体層接合面2a及び半導体結晶層接合面3aがそれぞれ親水化されていることが好ましい。親水化表面を互いに結合することにより、より高い結合力を発揮させることが可能である。
【0020】
本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム母材と、平均粒子径が2μm以下のYからなる焼結助剤相とからなり、以下の特性を有することが好ましい。当該窒化アルミニウム焼結体において、焼結助剤相がYAG及び/又はYALのみからなり、その全体における含有量がY2O3換算で2~6重量%である。また、焼結助剤相の粒子が、鏡面研磨面において400μm2あたり10個以上析出し、且つ、ボイドの個数が、10000μm2あたり3個以下である。支持体層2に、このような特性を有するように調製した窒化アルミニウム焼結体を採用することによって、支持体層接合面2aの平均表面粗度Raをより低く制御することが可能となった。より好ましくは、焼結助剤の含有量がY2O3換算で2.5~5重量%であり、窒化アルミニウム焼結体が、160W/m・K以上の熱伝導率、及び、450MPa以上の曲げ強度を有する。さらに好ましくは、焼結助剤の含有量がY2O3換算で2.5~5重量%であり、窒化アルミニウム焼結体が、160W/m・K以上の熱伝導率、及び、500MPa以上の曲げ強度を有する。窒化アルミニウム焼結体は絶縁体でありながら上記の通り熱伝導率も高いという特徴を有する。また、窒化アルミニウム焼結体は、高い絶縁性や電気的耐圧(14kV/mm)を有するため、半導体もしくは半導体表面に金属がある場合でも直接接触させることで絶縁材を兼ねた放熱材として使用できる。
【0021】
次に、本実施形態の複合基板1を製造する方法について説明する。本実施形態の複合基板1の製造方法は、
図2に示すとおり、窒化アルミニウム焼結体基板を準備する工程101と、該窒化アルミニウム焼結体基板の表面を鏡面研磨する工程102と、半導体基板を準備する工程103と、半導体基板の表面を鏡面研磨する工程104と、支持体層の研磨面及び半導体結晶層の研磨面を合わせて支持体層及び半導体結晶層を積層する工程105とを含む。また、複合基板1の製造方法は、工程105の後、支持体層及び半導体結晶層の積層体を熱処理する工程106と、熱処理した積層体を研磨して支持体層及び半導体結晶層の厚みを調整する工程107とを任意に含み得る。以下、各工程を個別に説明する。
【0022】
窒化アルミニウム(以下、AlN)焼結体基板を準備する工程101では、平均表面粗度Raをより低く制御することが可能な特性を有するAlN焼結体基板を作製する。
図3は、そのフローチャートを示す。
図3に示すように、窒化アルミニウム焼結体基板の製造方法は、AlN粉末とY
2O
3粉末とカーボン粉末とを混合して混合原料粉を得る原料混合工程1101と、混合原料粉を焼成して中間原料粉を得る一次焼成工程1102と、中間原料粉を熱処理をして脱炭素粉末を得る脱炭工程1103と、所定の形状に成形してシート状の成形体を得るシート成形工程1104と、成形体を熱処理して脱脂成形体を得る脱脂工程1105と、脱脂成形体を焼結して焼結体を得る二次焼成工程1106とを含む。
【0023】
原料混合工程1101において、母材となるAlN原料粉末、焼結助剤としてY2O3粉末及びカーボン粉末を用意する。AlN粉末は、粒径が0.5~2.0μm程度のものを使用するのが好ましい。このようなAlN微粒子の表面には酸化物層が存在していることが知られている。原料の配合比率は、AlN100重量%(又は重量部)に対しY2O3を2.0~6重量%、カーボン粉末を同5~20重量%とすると、後述する二次焼成を行ったときに焼結助剤相がYAG(5Al2O3-3Y2O3)及び/又はYAL(Al2O3-Y2O3)のみとなって好ましい。これらの原料粉末を上記の配合比率にて振動ミル等を用いて混合することで、焼結助剤が物理的に分散した混合原料粉が得られる。
【0024】
原料を配合する際のカーボン粉末の添加量が5重量%よりも少ないと、一次焼成工程1102において、AlN粒子同士が凝着してしまい、その後の成形工程1104においてボールミルで解砕できず、良質な成形体が得られない。特に0重量%すなわち全く添加しない場合、一次焼成工程1102においてAlN粒子が粒成長し、二次焼成工程1106で緻密化しなくなる。逆に20重量%よりも多いと、後述の脱炭工程1103における処理時間が長くなり、生産性が低下するため好ましくない。
【0025】
原料を配合する際のY2O3の添加量は、相対的に二次焼成後のAl2O3/Y2O3比に関係する。Y2O3が少ない場合、前記比が大きくなってYAGの比率が高くなり、Y2O3が多い場合、前記比が小さくなり、YAMを生じる。特に、Y2O3の添加量を2重量%以下にすると、二次焼成時に液相が十分に生成せず、AlN粒子内に固溶している酸素をトラップできず、高熱伝導率を有する焼結体を得ることができない。一方、Y2O3の添加量を6重量%よりも多くすると、二次焼成した際に緻密化しない。また、焼結助剤相の熱伝導率はAlNよりも著しく低いので、過剰に添加すると熱の抵抗となって焼成後のAlN焼結体全体の熱伝導率も低下してしまう。したがって、本発明では、熱伝導率及び強度の両立を考慮すると、焼成後のAlN焼結体にYAG及び/又はYALのみを生じさせ、YAMを生じないように、Y2O3の添加量を2.5~6重量%とすることが好ましい。
【0026】
一次焼成工程1102において、得られた混合原料粉を耐熱容器に移し、非酸化雰囲気、例えば窒素雰囲気下において1580~1650℃の温度域で9~20時間焼成して中間原料粉を得る。この一次焼成により、原料AlN粉末の表面のAl2O3と焼結助剤Y2O3とが、一旦固相反応してYAM(Al2O3-2Y2O3)を生成し、次いでYNを生じる。YNは、その化学的親和性により、Y2O3よりもAlN粒子の表面に広く分布する。この反応により、焼結助剤相の成分が、化学的に分散することとなり、物理的に分散させて焼成する場合よりも、焼結助剤相の粒径が小さくなる。
【0027】
脱炭工程1103において、得られた中間原料粉を、酸化雰囲気下において所定の温度域、好ましくは600~800℃の温度域で熱処理して一次焼成工程1102にて反応に用いられなかった余剰の炭素の除去(脱炭素)を行い、脱炭粉末を得る。酸化雰囲気下で脱炭素を行うため、一次焼成工程で生じたYNは、周囲の酸素と反応し、再びY2O3となる。
【0028】
シート成形工程1104において、得られた前記脱炭粉末に有機溶剤、バインダー及び可塑剤を加えてボールミルにて粉砕・混錬してスラリー状にし、そのスラリーをドクターブレード法を用いてシート状に成形する。これにより、脱炭粉末の成形体が得られる。
【0029】
脱脂工程1105において、得られた成形体を、酸化雰囲気下において400~600℃の温度域で熱処理して脱脂を行い、脱脂成形体を得る。
【0030】
二次焼成工程1106において、脱脂成形体を非酸化雰囲気、例えば窒素雰囲気下において1700~1900℃の温度域で焼結して焼結体を得る。二次焼成工程において、Al2O3とY2O3は液相を生成し、AlNの焼結を促進させることで、焼結助剤相の粒子径が2μm以下となる緻密な焼結体を得られる。このとき生成される焼結助剤相はYAG及び/又はYALとなる。
【0031】
以上の原料混合工程1101から二次焼成工程1106を経ることで、本実施形態の支持体層に用いられるAlN焼結体基板を準備することができる。このAlN焼結体4を粉砕してX線回折装置(装置:Rigaku Ultima IV、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード:4.0°/min、電圧:40kV、電流:20mA)にて組成分析を行うと、
図4に示すように、検出された焼結助剤相はYAGとYALとなり、YAMは検出されなかった。
【0032】
特に、好適な実施形態において、AlN焼結体基板が160W/m・K以上の熱伝導率、及び、450MPa以上の曲げ強度を有することを確認した。一般的に、AlN焼結体の熱伝導率は原料粉末中に含有している酸素量によって大きく影響を受ける。AlN焼結体の熱伝導率を高くしようとする場合、原料中に含有している酸素を低く抑える必要がある。従来の知見では、原料粉末中に含有される酸素量が同じAlN粉末から、より熱伝導率の高いAlN焼結体を得る場合、
図5のXRD分析結果(比較例1)に示すように焼結助剤相は、Al
2O
3/Y
2O
3比率の小さいYAMとYALになることが多い。これに対し、本発明は、従来の知見と異なり、YAMを析出させずに、YAG及び/又はYALのみを析出させたものである。すなわち、YAG相とYAL相とを細かく広く分散させて、焼結助剤相とAlN粒子との粒界を増やしたことにより、密着強度を高めてボイドが少ない、尚且つ、160W/m・K以上の熱伝導率及び450MPa以上の曲げ強度を有するAlN焼結体を得ることができたと考察される。
【0033】
原料混合工程1101にてカーボン粉末を添加することによる効果について考察する。原料混合工程1101にてカーボン粉末を添加せずにAlN粒子同士が接触した状態で一次焼成工程1102を行うと、一次焼成工程1102の段階でAlNの粒成長が進んでしまい、その後の二次焼成で緻密な焼結体が得られなくなり、完成したAlN焼結体の熱伝導率や曲げ強度が低下してしまう。しかし、本発明では、原料混合工程1101にてカーボン粉末を添加して一次焼成を行うことにより、AlN粒子同士の接触を防ぐことができ、一次焼成工程1102においてAlNの粒成長を抑えることができる。また、カーボン粉末は、AlNの焼結を阻害するため、一次焼成におけるAlNの粒成長をさらに抑制することができる。
【0034】
また、一次焼成工程1102を行うタイミングをシート成形工程1104・脱脂工程1105の後ではなく原料混合工程1101の後、すなわち粉末の段階とした理由について説明する。脱脂工程1105後の脱脂成形体を一次焼成した場合、原料AlN粉末の表面のAl2O3と焼結助剤Y2O3との反応は局所的にしか起こらず、焼結助剤成分の十分な分散効果が得られなくなり、結果的に焼結助剤を物理的に分散させた場合と同様に、鏡面研磨を行う際に助剤相粒子が脱粒してしまう。しかし、本発明では、一次焼成を原料混合工程1101の直後としているため、原料AlN粉末の表面のAl2O3と焼結助剤Y2O3との反応が原料AlN粉末の粒子全体で起こり、その結果、焼結助剤成分を十分に分散させることができる。
【0035】
次に、工程102において、準備したAlN焼結体基板の表面を鏡面研磨し、所定の平均表面粗度Raの研磨面(接合面2a)を有する支持体層2を形成する。鏡面研磨は、表面と裏面の少なくとも一方の面に対して行う。鏡面研磨は、ベルト式、バフ式、遊星歯車式等の一般的な研磨機・研磨方法を用いることができる。研磨時間、スラリーのコロイダルシリカの粒径などの研磨条件を調整することによって、所定の平均表面粗度Raが得られた。このとき、焼結体は焼結助剤相の平均粒径が2μm以下であるため、例えばアルカリ性のコロイダルシリカのスラリーを用いた研磨加工によって平均表面粗度Raを20nm以下に鏡面研磨を行っても、焼結助剤相が剥離しない。そして、研磨機の各種条件を最適化することで、AlN焼結体基板の平均表面粗度Raが限界値まで下がるように研磨された。その結果、平均表面粗度Raが10nm以下(最適には、0.5nm以下)の鏡面研磨面を有する支持体層2を得ることができた。
【0036】
このようにして得られた支持体層2の鏡面研磨された面をSEMにて1000倍に拡大して観察すると、
図6に示すように、緻密化したAlN粒子(図の濃灰色部分)全体に、焼結助剤相の粒子(図の白色部分)が均一に分散していることが分かる。なお、
図6は、後述の実施例3の鏡面研磨面の観察結果を代表的に採用したものである。また、1000倍の倍率で400μm
2の正方形の枠を20ヵ所、範囲が重ならないように選び、それぞれの内側にある焼結助剤相の粒子(助剤相粒子)の個数を数えると、助剤相粒子が平均で10個以上で析出し、均一に分散していた。さらに、2000倍の倍率にて撮影したSEM写真を画像解析ソフト(ImageJ)にて計測を行ったところ、助剤相粒子の平均粒径は1~2μmであった。また、1000倍の倍率で10000μm
2の範囲を任意に5箇所で選び、その範囲内のボイドの数を数えてみると、その平均個数(実施例1-8参照)は3個以下となり、ボイドの数が著しく低いAlN焼結体からなる支持体層2が得られた。これに対し、従来の製法(一次焼成工程なし)によるAlN焼結体の鏡面研磨された面をSEMにて1000倍に拡大して観察した結果(代表的には比較例1)を
図7に示す。
図6と比較すると、
図7のAlN焼結体の鏡面研磨面では、焼結助剤相の粒子がより大きく、且つ、より少ない。また、ボイド数が(少なくとも3個を越えて)より多くなっていることが分かる。
【0037】
次いで、工程103において、GaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsPの群から選択される少なくとも一種の半導体材料からなる半導体基板を準備する。半導体基板は、ガリウム砒素系材料の単結晶インゴットをスライスすることによって形成され得る。スライスには、内周刃スライサ、外周刃スライサ、ワイヤソー等が用いられる。
【0038】
工程104において、半導体基板の表面を鏡面研磨し、所定の平均表面粗度(Ra)の研磨面を有する半導体結晶層3を形成する。鏡面研磨は、表面と裏面の少なくとも一方の面に対して行う。この鏡面研磨は、例えば化学的機械的研磨法(CMP)などの既知の方法によって行われる。そして、研磨面の平均表面粗度Raが、10nm以下(最適には、0.5nm以下)になるように半導体基板の表面が研磨された。研磨面の平均表面粗度Raは、走査型プローブ顕微鏡(具体的には、SIIテクノロジー社製NanoNavi L-Trace W、条件;測定視野10×10μm)による測定によって確認された。
【0039】
鏡面研磨加工の後、
図2で示した工程1021及び工程1041が選択的に追加されてもよい。工程1021及び工程1041では、支持体層2及び半導体結晶層3の鏡面研磨面(少なくとも接合面2a,3a)が親水化処理される。具体的には、鏡面研磨したAlN焼結体基板(支持体層2)及び半導体基板(半導体結晶層3)をHF溶液に約1分間浸漬し、各基板の表面に形成されている自然酸化膜の除去処理を行う。基板表面から酸化物を除去すると、基板表面が疎水性を有するようになる。次に、HF溶液を洗い流すように、基板表面を流水によって洗浄する。この洗浄によって、疎水性を有する表面が親水化される。さらに、表面の親水性を維持するように、例えば窒素ブローによって基板表面の水を吹き飛ばす。このようにして、支持体層2及び半導体結晶層3の親水化した接合面2a,3aが得られる。
【0040】
続いて、工程105において、支持体層2の研磨面及び半導体結晶層3の研磨面を合わせて支持体層2及び半導体結晶層3を積層して、所定の圧力で積層方向に押圧する。このとき、支持体層2及び半導体結晶層3の接合面2a,3aが鏡面研磨によって10nm以下の平均表面粗度Raに制御されていることから、接合面2a,3aにファンデルワールス等の力が発生して、両者の間に接着層等を設けることなく、支持体層2及び半導体結晶層3を結合することができる。その結果、支持体層2及び半導体結晶層3を結合した積層体として複合基板1を得ることができる。なお、後述するとおり、AlNの表面粗度10nmよりも大きい(具体的には13nm)場合、支持体層2及び半導体結晶層3が結合しないことが経験的に分かっている。
【0041】
さらに、支持体層2及び半導体結晶層3の積層体に工程106,107を選択的に施して、複合基板1の最終製品としてもよい。
【0042】
工程106において、支持体層2及び半導体結晶層3の積層体を熱処理する。熱処理は、接合界面の強度を高めるために約200~600℃で行われる。熱処理の温度は、200℃よりも低いと結合強度が上がらないことから、200℃以上であることが好ましい。また、複合基板1の耐熱性の強化と積層体の破損の防止の両立を考慮すると、熱処理は、500℃以下であることがより好ましい。熱処理時間は、任意に定められるが、3~72時間程度が好ましい。
【0043】
工程107において、積層体における支持体層2及び前記半導体結晶層3の少なくとも一方を研磨して厚みを調整する。すなわち、支持体層2及び半導体結晶層3の積層体を接合面2a,3aの反対側の面から研磨し、支持体層2及び半導体結晶層3を所定の厚さにすることができる。本実施形態では、例えば、工程107前の積層体の厚み全体で1000~2000μmであり、半導体結晶層3を約100μm以下に研磨し、支持体層2を約700μmに研磨した。支持体層2の厚みを半導体結晶層3の厚みの2倍以上とすることにより、複合基板1の放熱を促進することができる。
【0044】
以上の工程を経て、窒化アルミニウム焼結体からなる支持体層2に、GaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsPの群から選択される少なくとも一種の半導体材料からなる半導体結晶層3が直接接触するように接合された複合基板1が得られた。すなわち、本実施形態の複合基板1において、高周波数で動作する半導体結晶層3からの発熱が、比較的高い熱伝導率(例えば160W/m・K以上)を有する支持体層2で効率的に放熱される。したがって、複合基板1は、優れた放熱特性及び周波数特性の両立を可能とした。なお、本発明の複合基板及びその製造方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは云うまでもない。特には、上記窒化アルミニウム焼結体を準備(製造)する工程は、支持体層の鏡面研磨面を低い平均表面粗度Raに制御して支持体層及び半導体結晶層を直接的に結合するための手段の一例にすぎない。よって、支持体層及び半導体結晶層を直接的に結合可能である限り、上記説明した工程が他の工程によって置き換えられてもよい。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0046】
本発明の支持体層を構成する窒化アルミニウム焼結体は、以下の手順によって作製された。なお、窒化アルミニウム焼結体の特性として、鏡面研磨面においてボイドの個数が10000μm2あたり3個以下であり、且つ、平均表面粗度Raの限界値が10nm以下の窒化アルミニウム焼結体を代表的な実施例とし、それ以外の試料を比較例とした。しかしながら、実施例以外の構成を本発明から意図的に除外するものではない。
【0047】
表1は、実施例1~8及び比較例1~4の窒化アルミニウム焼結体の条件を示している。
【0048】
【0049】
表1に示すとおり、実施例1は、AlN100重量%に対してY2O3を2.5重量%、カーボン粉末を同10重量%添加し、一次焼成の条件を1600℃で10時間とした。また、脱脂工程の温度を500℃、二次焼成の温度を1800℃とした。実施例2は、Y2O3の添加量を4重量%としたこと以外、実施例1と同じ条件とした。実施例3は、Y2O3の添加量を5重量%としたこと以外、実施例1と同じ条件とした。実施例4は、一次焼成の条件を1580℃で20時間としたこと以外、実施例3と同じ条件とした。実施例5は、一次焼成の条件を1650℃で9時間としたこと以外、実施例3と同じ条件とした。実施例6は、Y2O3の添加量を6重量%としたこと以外、実施例3と同じ条件とした。実施例7は、Y2O3の添加量を2重量%としたこと以外、実施例3と同じ条件とした。実施例8は、研磨面の親水化処理を省略したこと以外、実施例3と同じ条件とした。そして、鏡面研磨は、各サンプルの平均表面粗度Raが限界まで下がるように、研磨機の各種条件を最適化することによって行われた。さらに、実施例8を除いた各実施例において、鏡面研磨面が上記のようにHF溶液を用いて親水化処理された。
【0050】
比較例1は、Y2O3の添加量を5重量%とし、カーボン粉末を添加せず、一次焼成も行わずに、原料混合工程の直後にシート成形工程、脱脂工程、焼成工程、研磨工程の順で製造した以外は、実施例3と同じ条件とした。なお、焼成工程における温度の条件は、実施例における二次焼成と同じ条件とした。比較例2は、原料混合工程の直後に、シート成形工程、脱脂工程を行い、その後一次焼成工程、二次焼成工程、研磨工程の順番で製造した以外は、比較例1と同じ条件とした。比較例3は、一次焼成工程の条件を、1700℃で10時間としたこと以外は、実施例3と同じ条件とした。比較例4は、原料混合工程にてカーボン粉末を添加せずに一次焼成工程を行い、カーボンを添加しなかったので脱炭工程を行わず、成形工程を行った以外は、実施例3と同じ条件とした。そして、鏡面研磨は、各サンプルの平均表面粗度Raが限界まで下がるように、研磨機の各種条件を最適化することによって行われた。さらに、各比較例において、鏡面研磨面が上記のようにHF溶液を用いて親水化処理された。
【0051】
表1の条件にて得られたAlN焼結体の焼結助剤相のX線回析結果を表2に示し、AlN焼結体の焼結助剤相の鏡面研磨面の観察結果(助剤相個数、ボイド数、平均表面粗度)、特性(熱伝導率・曲げ強度)の測定結果、及び、GaAs基板との結合の可否を表3に示した。なお、本実施例では、GaAs基板との結合性を検討したが、その材料特性が類似していることから、他のガリウム砒素系半導体材料(AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsP)であっても、同様の結果を得られることが推定される。
【0052】
結晶相同定には、Cu-Kα線を用いたX線回折法が採用された。測定装置は、(株)リガク製の型式UltimaIVを用いた。
【0053】
助剤相粒径の平均値は、2000倍のSEM写真をImageJを用いて画像解析して算出された。助剤相の個数は、1000倍のSEM写真にて20μm×20μmの領域20面分での平均値とした。ボイドの数は、1000倍のSEM写真にて10000μm2の領域5面分での平均値とした。
【0054】
曲げ強度測定の測定方法には、JIS-R1601に準じた3点曲げ試験が採用された。測定装置は、株式会社島津製作所製の型式AG-ISであり、その測定条件をクロスヘッドスピード0.5mm/分、支点間距離30mmとし、試験片のサイズは幅20mm、厚み0.3~0.4mmとした。
【0055】
熱伝導率の測定方法には、JIS-R1611に準じたレーザーフラッシュ法が採用された。測定には、株式会社アルバックのTC-9000が使用された。研磨面の平均表面粗度Raは、走査型プローブ顕微鏡(具体的には、SIIテクノロジー社製NanoNavi L-Trace W、条件;測定視野10x10μm)による測定によって確認された。
【0056】
AlN焼結体とGaAs基板との結合力を示す指標として、1nm,10nmの平均表面粗度Raを有するGaAs基板の研磨面への非加熱での結合の有無について観察したが、いずれの平均表面粗度RaのGaAs基板に対しても同様の結果が得られた。結合したサンプルを○で示し、結合しなかったサンプルを×で示した。ただし、GaAs基板の平均表面粗度Rを20nmとした場合、いずれのサンプルにおいても結合を確認できなかった。
【0057】
【0058】
【0059】
実施例1~8の焼結助剤相成分は、表2によれば、YAG及びYALの少なくとも一方からなり、YAMを含んでいない。また、実施例1~8は、表3によれば、助剤相粒子の平均粒径が1.15~1.52μmと小さく、任意の400μm2あたりの助剤相粒子の個数が11.9~16.1個であり、且つ、ボイドの数が、0.8~2.6個であった。そして、平均表面粗度Raの値が0.5nm以下であった。つまり、実施例1~8のAlN焼結体では、焼結助剤相の平均粒子径が2μm以下であり、焼結助剤相の粒子が鏡面研磨面において400μm2あたり10個以上析出し、ボイドの個数が鏡面研磨面において10000μm2あたり3個以下であり、且つ、平均表面粗度Raが10nm以下(又は0.3nm)である。そして、実施例1~8のAlN焼結体で作製した支持体層の鏡面研磨面が、半導体結晶層の鏡面研磨面に結合することが確認された。
【0060】
AlN焼結体の熱伝導率及び強度特性に着目すると、実施例1~6,8では、熱伝導率は161~169W/m・K、曲げ強度は461~553MPaだった。すなわち、焼結助剤相の含有量がY2O3換算で2.5~6重量%であるときに、熱伝導率が160W/m・K以上であり、且つ、曲げ強度が450MPa以上であった。また、焼結助剤相の含有量がY2O3換算で2.5~5重量%であるときに、熱伝導率が160W/m・K以上であり、且つ、曲げ強度が500MPa以上であった。これらサンプルは、高い熱伝導率及び強度の両立を達成している。他方、実施例7では、強度は504MPaと比較的高いが、熱伝導率が91W/m・Kと相対的に低かった。
【0061】
比較例1では、助剤相粒子の平均粒径は2.34μmであり、任意の400μm2あたりの助剤相粒子の個数は5.1個、ボイド(図の黒色部分)の数は、7.6個であった。また、熱伝導率は180W/m・K、曲げ強度は480MPaだった。これは、一次焼成を行わなかったことで助剤相粒子の粒径が大きくなり、冷却した際の収縮量が相対的に大きくなって助剤相粒子と周囲のAlN(図の濃灰色部分)との密着力が低下し、研磨工程にて脱粒したためであると考えられる。そのため、平均表面粗度Raも13nmまでしか低下せず、10nm以下の平均表面粗度Raを有する研磨面を得ることができなかった。その結果、比較例1のAlN焼結体で作製した支持体層の鏡面研磨面が、半導体結晶層の鏡面研磨面に結合しないことが確認された。
【0062】
比較例2では、助剤相粒子の平均粒径は2.22μmであり、任意の400μm2あたりの助剤相粒子の個数は6.1個、ボイドの数は、6.3個であった。また、熱伝導率は172W/m・K、曲げ強度は434MPaだった。これは、成形体を一次焼成した際に気泡・クラック等が生じ、鏡面研磨した際にそれらが起点となって助剤相粒子が脱粒したためであると考えられる。そのため、平均表面粗度Raも13nmまでしか低下せず、10nm以下の平均表面粗度Raを有する研磨面を得ることができなかった。その結果、比較例2のAlN焼結体で作製した支持体層の鏡面研磨面が、半導体結晶層の鏡面研磨面に結合しないことが確認された。
【0063】
比較例3では、助剤相粒子の平均粒径は1.36μmであり、任意の400μm2あたりの助剤相粒子の個数は13.9個、ボイドの数は、11.2個であった。また、熱伝導率は116W/m・K、曲げ強度は420MPaだった。これは、一次焼成の温度が高すぎて、AlN粒子の粒成長が開始してしまい、二次焼成で十分に緻密化しなかったためであると考えられる。その結果、比較例3のAlN焼結体で作製した支持体層の鏡面研磨面が、半導体結晶層の鏡面研磨面に結合しないことが確認された。
【0064】
比較例4では、助剤相粒子の平均粒径は1.58μmであり、任意の400μm2あたりの助剤相粒子の個数は11.2個、ボイドの数は、9.7個であった。また、熱伝導率は146W/m・K、曲げ強度は411MPaだった。これは、カーボン粉末を添加していない混合原料粉を一次焼成したことにより、一次焼成時にAlN粒子が粒成長してしまい、二次焼成で十分に緻密化しなかったためであると考えられる。その結果、比較例4のAlN焼結体で作製した支持体層の鏡面研磨面が、半導体結晶層の鏡面研磨面に結合しないことが確認された。
【0065】
また、実施例3,8を比較すると、親水化処理によって各種特性、測定結果は変化しなかった。理論的には、親水化処理によって界面における結合力が強化されることが推測されるが、AlN焼結体の鏡面研磨面の平均表面粗度Ra及びボイド数の方が、GaAs系基板の鏡面研磨面との結合において、より支配的であることが推測される。
【0066】
以上の実験結果を踏まえると、AlN焼結体の鏡面研磨面において、少なくともボイドの個数が10000μm2あたり3個以下に制御されたことにより、より低い平均表面粗度Raの限界値を得ることができる。また、ボイドの数及び平均表面粗度Raを制御することに、焼結助剤相が平均粒子径2μm以下のYAG及び/又はYALのみからなり、且つ、焼結助剤相の粒子が鏡面研磨面において400μm2あたり10個以上析出することも副次的に寄与していると考えられる。これに対し、従来の製法(炭素添加による一次焼成なし)のAlN焼結体の鏡面研磨面は、10nm以下の平均表面粗度Raに制御することができないことから、ガリウム砒素系半導体材料の鏡面研磨面に結合することできなかった。
【0067】
そして、支持体層として熱伝導率及び強度の特性を発揮するには、焼結助剤相の含有量がY2O3換算で2.5~6重量%であって、熱伝導率が160W/m・K以上であり、且つ、曲げ強度が450MPa以上であることが好ましい。さらに、焼結助剤相の含有量がY2O3換算で2.5~5重量%であるときに、熱伝導率が160W/m・K以上であり、且つ、曲げ強度が500MPa以上であることがより好ましい。
【0068】
本発明は、上記実施形態、実施例に限定されず、種々の実施形態や変形例を取り得る。以下、本発明の別実施形態を説明する。なお、上記実施形態と共通する構成や製造工程等の説明を一部省略する。
【0069】
[第2実施形態]
図8乃至
図10は、複合基板11を基板15に搭載した高周波パワーデバイスを例示する。本実施形態の複合基板11は、
図8に示すとおり、基板15に配置される所定厚の絶縁性の支持体層12、該支持体層12の上面を被覆する金属被覆膜14、及び、該金属被覆膜14上に接合された所定厚の半導体結晶層13を備える。本実施形態では、支持体層12は、窒化アルミニウム焼結体、窒化ケイ素焼結体等のセラミック材料からなる。半導体結晶層13は、GaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、InGaAsP、Si、GaN、GaN
2、SiC、InP、単結晶AlNの群から選択される少なくとも一種の半導体材料からなる。金属被覆膜14は、Ti膜及びAu膜を積層した薄膜である。Ti膜及びAu膜の積層順は任意に定められる。つまり、Ti膜がAu膜の下方に形成されてもよく、あるいは、Au膜がTi膜の下方に形成されてもよい。また、Ti膜、Au膜が3層以上連続して積層されてもよい。金属被覆膜14は、例えば、スパッタ法などにより、支持体層12上面に直接的に形成されている。金属被覆膜14は、セラミックや半導体より熱伝導率が高い金属からなるので、支持体層12の放熱効果の妨げにならない。なお、本実施形態では、本発明を限定しないが、半導体結晶層13を約100μmとし、金属被覆膜14を約0.1μmとし、支持体層12を約700μmとした。なお、本発明の金属被覆層は、Au膜及びTi膜に加えて、Ag膜、Cu膜、Al膜、Pt膜の群から選択される少なくとも一種の金属材料膜の積層体又は単層体であってもよい。
【0070】
支持体層12及び金属被覆膜14の積層体が半導体結晶層13の放熱を効率的に助けるように、金属被覆膜14及び半導体結晶層13の間の界面では、金属被覆膜接合面14a及び半導体結晶層接合面13aが、接着剤や接着層などの熱伝導性を低下させる中間層を介さずに、直接接触するようにファンデルワールス力等によって結合している。このファンデルワールス力等を発揮させるべく、支持体層12表面の平均表面粗度Raが10nm以下であるように研磨されることにより、結果として、金属被覆膜接合面14aの平均表面粗度Raを低く抑えることができる。スパッタ成膜によって形成された金属被覆膜14の平均表面粗度Raは、支持体層12の表面形態に依存することが知見として得られている。他方、半導体結晶層接合面3aの平均表面粗度Raが10nm以下であるように制御されている。この結合力をより強固にすべく、支持体層12表面の平均表面粗度Raが1nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、支持体層12表面の平均表面粗度Raが0.6nm以下に制御される。最適には、支持体層12の表面の平均表面粗度Raが0.5nm以下に制御される。これら平均表面粗度Raは、研磨機の条件を最適化することで限界値まで下げられることが好ましい。ただし、その限界値は材料特性に大きく依存し得る。同様に、この結合力をより強固にすべく、半導体結晶層接合面13aの平均表面粗度Raが1nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、半導体結晶層接合面3aの平均表面粗度Raが0.5nm以下に制御される。さらには、金属被覆膜接合面14a及び半導体結晶層接合面13aがそれぞれ親水化されていることが好ましい。親水化表面を互いに結合することにより、より高い結合力を発揮させることが可能である。
【0071】
図9及び
図10に示すとおり、複合基板11には、支持体層12、金属被覆膜14及び半導体結晶層13を積層方向に貫通し、支持体層12の下面と半導体結晶層13の上面とを電気的に接合するスルーホール16が設けられている。スルーホール16は、銅などの導電材料からなり、複合基板11を貫通する長さのピン又は筒として構成されている。このスルーホール16は、支持体層12及び半導体結晶層13に埋設されて固定されているが、金属被覆膜14からは絶縁されている。すなわち、金属被覆膜14は、支持体層12上面全てを被覆するのではなく、スルーホール16の周囲に絶縁用の空隙17を形成するように支持体層12上に部分的に形成されている。つまり、
図10に示すように、支持体層12のスルーホール16が通る開口の周囲には、空隙17を形成するための非被覆領域18が意図的に設けられている。そして、非被覆領域18において、支持体層12を構成する絶縁材料の表面が露出している。その結果として、
図9に示すように、スルーホール16と金属被覆膜14との間には、その平面方向においてスルーホール16周囲を取り囲む平面視環状の絶縁用の空隙17が形成されている。
【0072】
次に、複合基板11にスルーホール16を形成する方法について説明する。まず、スルーホール16の径に合わせて支持体層12に貫通孔を形成する。貫通孔は、セラミック焼結体をレーザー加工することにより、又は、焼結前のグリーンシートをパンチ加工して焼成することによって形成され得る。そして、支持体層12の貫通孔の開口周囲に非被覆領域18を確保しつつ、該非被覆領域18外側の領域のみにスパッタでTi膜、Au膜を成膜する。次いで、スルーホール16の径に合わせて半導体結晶層13に貫通孔を形成する。貫通孔は、例えば、スルーホール16を形成しない部分をマスキングして、穿孔箇所にプラズマ粒子を照射するドライエッチング法などで形成され得る。そして、支持体層12及び金属被覆膜14の積層体の貫通孔と半導体結晶層13の貫通孔を位置合わせするとともに、金属被覆膜14の表面及び半導体結晶層3の研磨面を合わせた上で、支持体層12、金属被覆膜14、及び半導体結晶層3を積層して、所定の圧力で積層方向に押圧することにより、複合基板11を製造することができる。
【0073】
すなわち、本実施形態の複合基板11は、半導体結晶層13の放熱を効率的に行うことが可能であることから、優れた放熱特性及び周波数特性の両立を可能とするものである。
【0074】
したがって、本発明は、ガリウム砒素系の半導体化合物材料を用いた複合基板による高周波パワーデバイスを実現可能とするものである。
【0075】
本発明は上述した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。