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特開2023-29500抗ヒトTSLP受容体抗体含有医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029500
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】抗ヒトTSLP受容体抗体含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230224BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230224BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230224BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230224BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230224BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230224BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230224BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
A61K39/395 M
A61K9/08
A61K9/19
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/26
A61P11/06
A61P37/08
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000355
(22)【出願日】2023-01-05
(62)【分割の表示】P 2021096266の分割
【原出願日】2016-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2015246826
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522347287
【氏名又は名称】アップストリーム バイオ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Upstream Bio,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 恵
(72)【発明者】
【氏名】筑紫 亮儀
(57)【要約】
【課題】脱アミド体や酸化体など化学修飾体、又は分解物や多量体の生成を抑制してなる、安定な抗ヒトTSLP受容体抗体を含有してなる医薬組成物を提供する。
【解決手段】前記医薬組成物は、抗ヒトTSLP受容体抗体、製薬学的に許容される緩衝剤、アルギニン又はその製薬学的に許容される塩、及び界面活性剤を含有してなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒトTSLP受容体抗体、製薬学的に許容される緩衝剤、アルギニン又はその製薬学的に許容される塩、及び界面活性剤を含有してなり、該抗ヒトTSLP受容体抗体として、以下の(1)及び/又は(2)を含有する、安定な医薬組成物:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体、
(2)(1)の抗ヒトTSLP受容体抗体の翻訳後修飾により生じた抗体のアミノ酸配列からなる、抗ヒトTSLP受容体抗体。
【請求項2】
製薬学的に許容される緩衝剤が、リン酸、クエン酸、酢酸、コハク酸、ヒスチジン、アスコルビン酸、グルタミン酸、乳酸、マレイン酸、トロメタモール、及びグルコン酸からなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
製薬学的に許容される緩衝剤が、リン酸である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
製薬学的に許容される緩衝剤の濃度が、5~100mmol/Lである、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
医薬組成物が液剤又は凍結乾燥製剤若しくは噴霧乾燥製剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物が液剤である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が液剤である場合、該液剤のpHが5~6である、あるいは、凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水により再溶解されるとき、該溶解液のpHが5~6である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物が液剤であり、該液剤のpHが5~6である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
アルギニン又はその製薬学的に許容される塩の濃度が、700mmol/L以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
界面活性剤が、ポリソルベート及びポロキサマー188からなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
界面活性剤がポリソルベート80である、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
界面活性剤の量が、0.001~1%(w/v)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
界面活性剤の量が、0.01~0.2%(w/v)である、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
医薬組成物が液剤である場合、抗ヒトTSLP受容体抗体の量が、0.007~2mmol/Lである、あるいは、凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水により再溶解されるとき、該溶解液の抗ヒトTSLP受容体抗体の量が、0.007~2mmol/Lである、請求項5~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
医薬組成物を保存するとき、分解物及び多量体が各10%以下、又は、化学修飾体が50%以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体の翻訳後修飾により生じた抗体のアミノ酸配列からなる抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項18】
配列番号1のアミノ酸番号1から447までのアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項19】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体、並びに、配列番号1のアミノ酸番号1から447までのアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ヒトTSLP受容体抗体を含有してなる、安定な医薬組成物に関する。また、本発明は、抗ヒトTSLP受容体抗体を含有してなる、安定な高濃度医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトTSLP(thymic stromal lymphopoietin)受容体に特異的に結合して、ヒトTSLP受容体を介するヒトTSLPの作用を阻害するモノクローナル抗体は、ヒトTSLP及びヒトTSLP受容体が病態形成に関与する各種疾患の予防及び/又は治療(例えば、喘息の予防及び/又は治療)に有用であることが知られている(特許文献1)。
【0003】
抗ヒトTSLP受容体抗体として、特許文献1において、完全ヒト型T7-27が開示されており、TSLPによって誘発されるTARC(thymus and activation-regulated chemokine) mRNAの発現及びMDC(macrophage-derived chemokine)蛋白質の産生を阻害すること、また、サルアスカリス抗原感作モデルにおいてアレルギー反応を抑制すること等が開示されている。
【0004】
他方、近年様々な抗体医薬が開発され、実際に医療の現場に提供されている。抗体医薬の多くは、静脈内投与や皮下投与等により投薬されるため、医療の現場には、液剤、あるいは凍結乾燥製剤等の非経口医薬組成物の形態として提供される。非経口医薬組成物は、直接体内に投与されることを前提とされるため、安定な医薬品製剤が必要とされる。
【0005】
また、製剤的な観点から、投与ルートとして静脈内投与や皮下投与が想定されることから、同一医薬品製剤とする場合、皮下投与のための用量を考慮すれば、医薬品製剤は高濃度製剤であることが望ましい。
【0006】
しかしながら、高濃度の抗体を含有する溶液では、不溶性凝集物及び/又は可溶性凝集物の形成を含む、望ましくない現象が起こり得る可能性がある。該不溶性凝集物及び可溶性凝集物は、抗体分子の会合により、溶液状態において形成される。また、液剤が長期間保管された場合、アスパラギン残基の脱アミドにより、抗体分子の生理活性が低下することもある。
【0007】
高濃度抗体及び蛋白質製剤に関する技術として、100~260mg/mL量の蛋白質又は抗体、50~200mmol/L量のアルギニン塩酸塩、10~100mmol/L量のヒスチジン、0.01~0.1%量のポリソルベートを含んでなり、pH5.5~7.0の範囲内で、約50cs又はその未満の運動学的粘度を持ち、200mOsm/kg~450mOsm/kg範囲の浸透圧である安定した低濁度の液体製剤に関する発明が知られている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2には、抗ヒトTSLP受容体抗体については、記載も示唆もなされていない。
【0008】
なお、特許文献3には、抗TSLP抗体を含有する安定な医薬組成物に関する発明が開示されている(特許文献3)が、抗TSLP受容体抗体に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2015/020193号
【特許文献2】国際公開第2004/091658号
【特許文献3】国際公開第2014/031718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7-27を含有してなる、安定な医薬組成物を提供することにある。
詳細には、本発明の目的は、抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7-27を含有し、例えば、(i)熱により増大する、脱アミド体や酸化体などの化学修飾体、又は分解物や多量体の生成を抑制してなる医薬組成物、(ii)アルギニン添加により促進される、酸化体の生成を抑制してなる医薬組成物、(iii)物理的ストレス後に増大する、微粒子の生成を抑制してなる医薬組成物、あるいは、(iv)界面活性剤の濃度が高いと増大する酸化体の生成を抑制してなる医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アルギニン溶液中で抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7-27を製剤化することにより、安定な医薬組成物を調製することができること(後記実施例2)、また、溶液のpHを適切な範囲に調整したり、各種緩衝剤成分を使用することにより、安定な医薬組成物を調製することができること(後記実施例1、3及び4)、また、界面活性剤を使用したり、抗体濃度を調整すること等により、さらに安定な医薬組成物を提供することができること(後記実施例5)等を知見して、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]抗ヒトTSLP受容体抗体、製薬学的に許容される緩衝剤、アルギニン又はその製薬学的に許容される塩、及び界面活性剤を含有してなり、該抗ヒトTSLP受容体抗体として、以下の(1)及び/又は(2)を含有する、安定な医薬組成物:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体、
(2)(1)の抗ヒトTSLP受容体抗体の翻訳後修飾により生じた抗体のアミノ酸配列からなる、抗ヒトTSLP受容体抗体;
[2]製薬学的に許容される緩衝剤が、リン酸、クエン酸、酢酸、コハク酸、ヒスチジン、アスコルビン酸、グルタミン酸、乳酸、マレイン酸、トロメタモール、及びグルコン酸からなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]の医薬組成物;
[3]製薬学的に許容される緩衝剤が、リン酸である、[1]又は[2]の医薬組成物;
[4]製薬学的に許容される緩衝剤の濃度が、5~100mmol/Lである、[1]~[3]のいずれかの医薬組成物;
[5]医薬組成物が液剤又は凍結乾燥製剤若しくは噴霧乾燥製剤である、[1]~[4]のいずれかの医薬組成物;
[6]医薬組成物が液剤である、[5]の医薬組成物;
[7]医薬組成物が液剤である場合、該液剤のpHが5~6である、あるいは、凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水により再溶解されるとき、該溶解液のpHが5~6である、[5]の医薬組成物;
[8]医薬組成物が液剤であり、該液剤のpHが5~6である、[7]の医薬組成物;
[9]アルギニン又はその製薬学的に許容される塩の濃度が、700mmol/L以下である、[1]~[8]のいずれかの医薬組成物;
[10]界面活性剤が、ポリソルベート及びポロキサマー188からなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]~[9]のいずれかの医薬組成物;
[11]界面活性剤がポリソルベート80である、[1]~[10]のいずれかの医薬組成物;
[12]界面活性剤の量が、0.001~1%(w/v)である、[1]~[11]のいずれかの医薬組成物;
[13]界面活性剤の量が、0.01~0.2%(w/v)である、[1]~[12]のいずれかの医薬組成物;
[14]医薬組成物が液剤である場合、抗ヒトTSLP受容体抗体の量が、0.007~2mmol/Lである、あるいは、凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水により再溶解されるとき、該溶解液の抗ヒトTSLP受容体抗体の量が、0.007~2mmol/Lである、[5]~[13]のいずれかの医薬組成物;
[15]医薬組成物を保存するとき、分解物及び多量体が各10%以下、又は、化学修飾体が50%以下である、[1]~[14]のいずれかの医薬組成物;
[16]配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、[1]の医薬組成物;
[17]配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体の翻訳後修飾により生じた抗体のアミノ酸配列からなる抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、[1]の医薬組成物;
[18]配列番号1のアミノ酸番号1から447までのアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、[1]の医薬組成物;
[19]配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体、並びに、配列番号1のアミノ酸番号1から447までのアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、[1]の医薬組成物;
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7-27を含有してなる安定な医薬組成物、詳細には、脱アミド体や酸化体などの化学修飾体、又は分解物や多量体の生成、あるいは微粒子の生成を抑制してなる、抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、安定な医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1-1】実施例1で得られたSEC、IECの評価結果(SEC多量体)を示す。
図1-2】実施例1で得られたSEC、IECの評価結果(SEC分解物)を示す。
図1-3】実施例1で得られたSEC、IECの評価結果(IECメインピーク)を示す。
図2】実施例2で得られたSECの評価結果を示す。
図3-1】実施例3で得られたリン酸添加処方群における、アルギニン及びpHの効果を示す。
図3-2】実施例3で得られたヒスチジン添加処方群における、アルギニン及びpHの効果を示す。
図4-1】実施例5で得られたHICの評価結果を示す。
図4-2】実施例5で得られたHICの評価結果を示す。
図5】実施例6で得られた粘度の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「安定」とは、例えば、熱、光、温度、及び/又は湿度に対して安定であることを意味する。例えば、医薬組成物を所定条件下に保存後、前記医薬組成物中に含まれる不純物、例えば、脱アミド体や酸化体などの化学修飾体、又は分解物や多量体がある特定量以下であることを意味する。量については、SECで検出された多量体ピーク、分解物ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、IECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、メインピーク以外を含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0016】
前記化学修飾体は、抗体分子の配列中の一部が化学修飾を受けて生成する構造体のことである。化学修飾体の量としては、ある態様として、0~70%、別の態様として0~50%と規定される。
【0017】
前記脱アミド体は、抗体分子のアミノ残基の一部が脱アミド反応を受けた化学修飾体である。脱アミド体の測定方法としては、測定できる方法であれば特に制限されない。前記測定方法には、例えば、イオン交換クロマトグラフ法等が含まれる。脱アミド体の量としては、ある態様として、0~70%、別の態様として0~50%、更に別の態様として0~30%と規定される。
【0018】
前記酸化体は、抗体分子の配列中の一部が酸化された化学修飾体である。酸化体の測定方法としては、測定できる方法であれば特に制限されない。前記測定方法には、例えば、疎水性相互作用クロマトグラフ法、イオン交換クロマトグラフ法等が含まれる。酸化体の量としては、ある態様として、0~70%、別の態様として0~50%と規定される。
【0019】
前記分解物は、抗体分子の一部が脱離して生成する断片体である。分解物の測定方法は、測定できる方法であれば特に制限されない。前記測定方法には、例えば、サイズ排除クロマトグラフ法、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、動的光散乱法、光遮蔽粒子計数法、マイクロフローイメージング法等が含まれる。分解物の量としては、ある態様として、0~10%、別の態様として0~5%と規定される。
【0020】
前記多量体は、抗体分子が複数個集まって生成する複合体である。多量体の測定方法は、測定できる方法であれば特に制限されない。前記測定方法には、例えば、サイズ排除クロマトグラフ法、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、動的光散乱法、光遮蔽粒子計数法、マイクロフローイメージング法等が含まれる。多量体の量としては、ある態様として、0~10%、別の態様として0~5%と規定される。
【0021】
また、「安定」とは、冷蔵温度(2~8℃)で少なくとも6ヶ月間、好適には1年間、さらに好適には2年間;又は室温(22~28℃)で少なくとも3ヶ月間、好適には6ヶ月間、さらに好適には1年間;又は40℃保存下で少なくとも1週間、好適には2週間、前記不純物の量が抑制されていることを意味する。例えば、5℃で2年間保存後の多量体量及び分解物量が各10%以下、好適には5%以下、更に好適には3%以下、あるいは25℃で3ヶ月保存後の多量体量及び分解物量が各10%以下、好適には5%以下、更に好適には3%以下、あるいは40℃で1週間保存後の多量体量及び分解物量が各5%以下、好適には3%以下である。
【0022】
本明細書において、「約」とは、数字的変数に関連して使用されるとき、一般的に実験誤差内(例えば、平均に対する95%信頼区間内)又は表示値の±10%内のいずれか大きい方の変数の値及び変数の全ての値を意味する。但し、「約」を伴わない数値の場合にあっても、当該解釈がなされるものとする。
【0023】
抗体にはIgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEの5つのクラスが存在する。抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万~7万の重鎖と2万~3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してIgγ、Igμ、Igα、Igδ、Igεとよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のサブクラスが存在し、それぞれに対応する重鎖はIgγ1、Igγ2、Igγ3、Igγ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれIgλ、Igκとよばれる。抗体分子の基本構造のポリペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S-S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15万~19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
【0024】
鎖内S-S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100~110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位又はドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにアミノ末端(N末端)に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域とよばれている。可変領域よりカルボキシ末端(C末端)側のアミノ酸配列は、各クラス又はサブクラスごとにほぼ一定で定常領域とよばれている。
【0025】
抗体を細胞で発現させる場合、抗体が翻訳後に修飾を受けることが知られている。アミノ酸残基が変更される翻訳後修飾の例としては、重鎖C末端のリジンのカルボキシペプチダーゼによる切断、重鎖及び軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾等が挙げられ、種々の抗体において、重鎖C末端のリジンが欠失することや重鎖N末端のグルタミンの大部分がピログルタミン酸への修飾が生じることが知られている(Journal of Pharmaceutical Sciences、2008、Vol.97、p.2426)。また、このようなN末端のピログルタミル化又はC末端リジン欠失による翻訳後修飾が抗体の活性に影響を及ぼすものではないことも当該分野で知られている(Analytical Biochemistry、2006、Vol.348、p.24-39)。
【0026】
本発明の医薬組成物は、抗ヒトTSLP受容体抗体として、以下の(1)及び/又は(2)の抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトTSLP受容体抗体、
(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTSLP受容体抗体の翻訳後修飾により生じた抗体のアミノ酸配列からなる、抗ヒトTSLP受容体抗体。(国際公開第2015/020193号)
【0027】
1つの実施形態において、前記(2)の抗ヒトTSLP受容体抗体における翻訳後修飾は、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端のリジン欠失である。例えば、前記(2)の抗ヒトTSLP受容体抗体として、配列番号1のアミノ酸番号1から447までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトTSLP受容体抗体が挙げられる。
【0028】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトTSLP受容体抗体、並びに、配列番号1のアミノ酸番号1から447までのアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する。
【0029】
本発明に用いられる抗ヒトTSLP受容体抗体は、本明細書に開示される抗ヒトTSLP受容体抗体の重鎖及び軽鎖の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。本発明に用いられる抗ヒトTSLP受容体抗体の作製方法としては、国際公開第2015/020193号に開示された方法が挙げられる。
【0030】
一単位医薬組成物(製剤)中の抗体の量としては、例えば、ある態様として0.001mg~1000mg、別の態様として0.01mg~100mgを含む。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0031】
医薬組成物が固体状態(例えば、凍結乾燥製剤、噴霧乾燥製剤など)の場合、抗体の量としては、例えば、ある態様として0.001mg~1000mg、別の態様として0.01mg~100mgを含む。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
用時溶解するときの液量は、例えば、ある態様として0.1mL~100mL、別の態様として1mL~10mLである。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0032】
医薬組成物が液体状態(液剤)の場合、抗体の濃度としては、例えば、ある態様として1mg/mL~300mg/mL(約0.007mmol/L~2mmol/L)、別の態様として1mg/mL~200mg/mL(約0.007mmol/L~1mmol/L)、他の態様として1mg/mL~100mg/mL(約0.007mmol/L~0.7mmol/L)、別の態様として10mg/mL~50mg/mL(約0.07mmol/L~0.3mmol/L)を含む。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
用量としては、例えば、ある態様として0.001mg~1000mg、別の態様として0.01mg~100mgを含む。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0033】
適応症としては、ヒトTSLP及びヒトTSLP受容体が病態形成に関与する各種疾患の予防及び/又は治療、例えば、喘息の予防及び/又は治療を含む。
【0034】
本発明に用いられる「製薬学的に許容される緩衝剤」としては、製薬学的に許容され、溶液状態において、所望のpH範囲内に該溶液のpHを調整することができるものであれば、特に制限されない。
【0035】
具体的には、pHは、例えば、ある態様として5~6、別の態様として5.0~6.0である。緩衝剤がリン酸又はその塩のとき、好適には5.5~5.7であり、緩衝剤がヒスチジン又はその塩のとき、好適には5.3~6.0である。
pHは、医薬組成物が液剤である場合は該液剤のpHとし、医薬組成物が凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤である場合、該製剤が水に再溶解されるときの該溶解液のpHとする。
【0036】
緩衝剤成分としては、例えば、ある態様として、リン酸(ナトリウム又はカリウム)、クエン酸、酢酸、コハク酸、ヒスチジン、アスコルビン酸、グルタミン酸、乳酸、マレイン酸、トロメタモール、グルコン酸、又はそれらの製薬学的に許容される塩等を含む。別の態様として、リン酸、又はその製薬学的に許容される塩(ナトリウム塩又はカリウム塩)を含む。他の態様として、リン酸二水素ナトリウムを含む。
緩衝剤成分は、1種又は2種以上適宜適量使用することができる。
【0037】
緩衝剤の濃度は、pHを所望のpH範囲内に調整できる量であれば、特に制限されない。具体的には、例えば、ある態様として5~100mmol/L、別の態様として5~70mmol/L、他の態様として5~50mmol/Lである。
【0038】
緩衝剤の量は、注射用水により溶解された溶液状態(液剤)の場合、例えば、ある態様として1mLあたり0.1~100mg、別の態様として0.1~50mg、あるいは凍結乾燥等により固体状態(凍結乾燥製剤、噴霧乾燥製剤)となっている場合、例えば、注射用水1mLにより再溶解後の量は、ある態様として5~100mmol/L、別の態様として5~70mmol/L、他の態様として5~50mmol/Lである。
【0039】
本発明に用いられる「アルギニン又はその製薬学的に許容される塩」としては、製薬学的に許容される、アルギニン又はその塩であれば、特に制限されない。アルギニン又はその塩は、抗ヒトTSLP受容体抗体を安定化させる機能を有するものである。例えば、L-アルギニン、L-アルギニン塩酸塩を含む。
【0040】
アルギニン又はその製薬学的に許容される塩の量は、ある態様として150mg/mL(約700mmol/L)以下(但し、無添加を除く)であり、別の態様として100mg/mL(約500mmol/L)以下(但し、無添加を除く)、他の態様として45mg/mL(約210mmol/L)以下(但し、無添加を除く)である。抗ヒトTSLP受容体抗体が30mg/mL(約0.2mmol/L)のとき、浸透圧の面から、等張性を確保する上で、30mg/mL(約140mmol/L)が好適である。無添加を除く下限値としては、例えば、10mg/mL(約50mmol/L)以上が挙げられる。なお、前記の下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0041】
注射用水により溶解された溶液状態(液剤)の場合、例えば、1mLあたり、ある態様として150mg以下(但し、無添加を除く)、別の態様としては100mg以下(但し、無添加を除く)、他の態様として45mg以下(但し、無添加を除く)、あるいは凍結乾燥等により固体状態(凍結乾燥製剤)の場合、例えば、注射用水により再溶解後、アルギニン濃度は、ある態様として150mg/mL(約700mmol/L)以下(但し、無添加を除く)、別の態様として100mg/mL(約500mmol/L)以下(但し、無添加を除く)、他の態様として45mg/mL(約210mmol/L)以下(但し、無添加を除く)である。抗ヒトTSLP受容体抗体が30mg/mLのとき、浸透圧の面から、等張性を確保する上で、約140mmol/Lが好適である。
【0042】
本発明に用いられる界面活性剤としては、製薬学的に許容され、界面活性作用を有するものであれば、特に制限されない。
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤、例えば、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、及びモノパルミチン酸ソルビタンなどのソルビタン脂肪酸エステル;モノカプリル酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、及びモノステアリン酸グリセロールなどのグリセリン脂肪酸エステル;モノステアリン酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、及びモノリノール酸デカグリセリルなどのポリグリセロール脂肪酸エステル;モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、及びトリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラステアリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、及びテトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトールなどのポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリルなどのポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ジステアリン酸ポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油)などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビトールミツロウなどのポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリンなどのポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、例えば、ポリオキシエチレンオクタデカンアミドなどの6~18のHLBを有する界面活性剤;陰イオン性界面活性剤、例えば、セチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及びオレイル硫酸ナトリウムなどのC10~C18アルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムなどの、添加されたエチレンオキシド単位の平均モル数が2~4であり、アルキル基の炭素原子の数が10~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;スルホコハク酸ラウリルナトリウムなどのC8~C18アルキル基を有するスルホコハク酸アルキル塩;レシチン、及びグリセロリン脂質などの天然の界面活性剤;スフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質;並びにC12~C18脂肪酸のショ糖エステルを含む。
界面活性剤は、1種又は2種以上適宜選択され使用することができる。
【0043】
界面活性剤は、ある態様として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルであり、別の態様として、ポリソルベート(例えば、20、21、40、60、65、80、81、若しくは85)、又はプルロニック型界面活性剤であり、他の態様として、ポリソルベート(例えば、20若しくは80)、又はポロキサマー188(プルロニック(登録商標)F68)、さらに他の態様として、ポリソルベート20又は80を含む。
【0044】
界面活性剤の量は、ある態様として0.001~1%(w/v)、別の態様として0.005~0.5%(w/v)、他の態様として0.01~0.2%(w/v)である。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0045】
本発明の医薬組成物は、溶液を容器に充填して、液剤として、また、溶液を凍結乾燥法や噴霧乾燥法により、凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤等の非経口医薬組成物として、提供することができる。好適には、液剤である。
【0046】
本発明の医薬組成物には、所望により、懸濁剤、溶解補助剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、賦形剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等の医薬品添加物を適宜添加することができる。
【0047】
懸濁剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
【0048】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
【0049】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
【0050】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール等を挙げることができる。
【0051】
吸着防止剤としては、例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0052】
賦形剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム水和物、キシリトール等を挙げることができる。
【0053】
無痛化剤としては、例えば、イノシトール、リドカイン等を挙げることができる。
【0054】
含硫還元剤としては、例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
【0055】
酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピル、あるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
【0056】
各種医薬品添加物は、本発明の所望の効果を達成できる量の範囲で、適宜適量使用することができる。
【0057】
本発明の医薬組成物の製造方法は、抗ヒトTSLP受容体抗体、及びアルギニン又はその製薬学的に許容された塩を含むことを特徴とし、さらに他の成分を含む組成物について、自体公知の製造方法により、抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7-27を含む、安定な医薬組成物を製造する方法を含む。
【0058】
本発明の医薬組成物を充填する容器は、使用目的に応じて選択することができる。例えば、バイアル、アンプル、注射器のような規定容量の形状のもの、瓶のような大容量の形状のものを含む。ある態様として注射器(ディスポーザブル注射器を含む)を含む。該注射器に予め溶液を充填して、プレフィルドシリンジ溶液製剤として提供することにより、医療現場において、溶解操作等の操作が不要となり、迅速な対応が期待される。
【0059】
容器の材質については、ガラス、プラスチック等が挙げられる。また、容器内の表面処理としては、シリコーンコート処理、サルファー処理、各種低アルカリ処理等が施されてもよい。これらの処理が施されることにより、さらに安定な医薬組成物を提供することが期待される。
【実施例0060】
以下、比較例、実施例、及び試験例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定解釈されるものではない。
実施例、比較例、及び試験例において用いられた、抗ヒトTSLP受容体抗体は、国際公開第2015/020193号に記載の製法又はそれに準じた方法により製造された抗体であり、その具体的作製手順を参考例に示す。
なお、表における「-」は未添加であることを示す。
【0061】
《参考例:完全ヒト型抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7-27の作製》
本実施例で用いた完全ヒト型抗ヒトTSLP受容体抗体である完全ヒト型T7-27(以下、抗体Aと略記することもある。)の重鎖をコードする塩基配列を配列番号2に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号1に、該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を配列番号4に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号3にそれぞれ示す。
【0062】
国際公開第2015/020193号に従い、抗体Aの重鎖と軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクター(Lonza社)を構築した。さらに、CHOK1SV細胞(Lonza社)にトランスフェクションすることにより抗体の安定発現株を取得し、抗体を発現させた。培養上清をプロテインAカラム(GEヘルスケアジャパン社)及びイオン交換クロマトグラフィーで精製し、完全ヒト型抗体の精製抗体を得た。精製した抗体Aのアミノ酸修飾を分析した結果、精製抗体の大部分において、重鎖C末端のリジンの欠失が生じていると推定された。
【0063】
《実施例1:至適pHの選定による安定化効果》
抗体Aを含む液剤について、pHが製剤の安定化に及ぼす影響を評価した。
【0064】
本検討では、pHの効果を評価するために、試料No.A1~No.A5の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表1-1の通りである。
【0065】
【表1-1】
【0066】
液剤の安定性を評価するために、各試料の熱加速試験(40℃2週間及び25℃4週間保存)を行った。そして、熱加速前後における抗体の品質を、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0067】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)]
HPLCシステムにG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)を接続し、10mmol/Lリン酸、500mmol/L NaCl pH6.8組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは蛋白質量換算で50μgとなる注入量(例:10mg/mLの場合は5.0μL)とし、分析時間は30分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0068】
[イオン交換クロマトグラフ法(IEC)]
HPLCシステムにPropac WCX10 IEC用カラム(Dionex)を接続し、移動相Aラインに20mmol/L MES pH6.0、移動相Bラインに20mmol/L MES、500mmol/L NaCl pH6.0組成の移動相を接続し、1mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、10μLを注入した。表1-2のIECグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は40℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0069】
【表1-2】
【0070】
SECで検出された多量体、分解物、及びIECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピーク、分解物ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、IECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、メインピーク以外を含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0071】
本実施例で得られたSEC、IECの評価結果を図1-1、図1-2、図1-3に示す。SEC多量体については、40℃2週間保管品を除き、特に高pHほど増加傾向となった(図1-1)。一方、SEC分解物については、特に低pH側ほど増加傾向となった(図1-2)。IECメインピークについては、pH5~6付近で最も減少が少なく、最安定となった(図1-3)。以上の結果を総合的に判断し、pH5~6付近が至適pHであると確認できた。
【0072】
《実施例2:アルギニンによる多量体の増加抑制効果》
抗体Aを含む液剤について、アルギニンによる多量体の増加抑制効果を評価した。
【0073】
本検討では、アルギニンの添加量が異なる試料No.B1~No.B4を調製した。各評価試料の処方は以下の表2-1の通りである。
【0074】
【表2-1】
【0075】
調製した表2-1の各試料について、スピンカラムを用いて濃縮し、B1-2~B1-4、B2-2~B2-4、B3-2~B3-4、B4-2~B4-4の各試料を調製した。各試料の処方は表2-2に示す通りである。
【0076】
【表2-2】
【0077】
《比較例1》
ニコチンアミド、マンニトール、トレハロース、グリシンを含む試料No.B5~No.B8を調製した。各評価試料の処方は以下の表2-3の通りである。
【0078】
【表2-3】
【0079】
調製した表2-3の各試料について、スピンカラムを用いて濃縮し、B5-2~B5-4、B6-2~B6-4、B7-2~7-4、B8-2~B8-4の各試料を調製した。各試料の処方は表2-4に示す通りである。
【0080】
【表2-4】
【0081】
これらの各試料をサイズ排除クロマトグラフ法(SEC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0082】
[サイズ排除クロマトグラフ法]
HPLCシステムにG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)を接続し、10mmol/Lリン酸、500mmol/L NaCl pH6.8組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは、濃縮性検討では、蛋白質量換算で100μgとなる注入量とした。分析時間は30分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は20℃に設定した。
【0083】
SECで検出された多量体ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0084】
本実施例及び比較例で得られたSECの評価結果(多量体ピーク%の増加分)を図2に示す。アルギニンを含む処方(B2、B2-2~B2-4、B3、B3-2~B3-4、B4、B4-2~B4-4)においては、主薬濃度の増加に伴う多量体増加は顕著に抑制された。一方、アルギニンを含まない処方(B1、B1-2~B1-4)や、ニコチンアミド、マンニトール、トレハロース、グリシンを含む処方(B5、B5-2~B5-4、B6、B6-2~B6-4、B7、B7-2~B7-4、B8、B8-2~B8-4)においては、主薬濃度増加に伴う多量体増加は抑制されなかった。本結果より、アルギニンによる、主薬濃度増加時の多量体増加抑制効果を確認することができた。
【0085】
アルギニン濃度の違いによる、多量体増加抑制効果への影響は認められなかった(B2、B2-2~B2-4、B3、B3-2~B3-4、B4、B4-2~B4-4)。
【0086】
《実施例3:アルギニン、ヒスチジン、pHによるHIC親水性ピークの増加促進効果》
抗体Aを含む液剤について、アルギニン、ヒスチジン、pHがHIC親水性ピークの増加に与える影響を評価した。
【0087】
本検討では、アルギニン、ヒスチジン、pHの影響を評価するために、試料No.C1~No.C9の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表3-1の通りである。
【0088】
【表3-1】
【0089】
液剤の安定性を評価するために、各試料の保管安定性試験(5℃5ヶ月間保存)を行った。そして、保管後の抗体の品質を、疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0090】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC-10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム、20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表3-2のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0091】
【表3-2】
【0092】
HICで検出された、酸化体の指標である親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0093】
本実施例で得られたHICの評価結果を表3-3に示す。
【0094】
【表3-3】
【0095】
アルギニン添加処方(C2、C4、C6、C7)においては、非添加(C3、C5)及びソルビトール添加処方(C8、C9)と比較して、HIC親水性ピークの増加促進傾向が認められた。
【0096】
また、pH7.0のアルギニン添加処方(C6)においては、pH6.0のアルギニン添加処方(C4)と比較して、HIC親水性ピークの増加促進傾向が認められた。
【0097】
また、ヒスチジン添加処方(C1)においては、リン酸添加処方(C3)と比較して、HIC親水性ピークの増加促進傾向が認められた。
【0098】
《実施例4:実験計画法による処方の検討》
抗体Aを含む液剤について、pH及びアルギニン濃度について、処方を検討した。
【0099】
本検討では、アルギニン及びpHの効果を評価するために、実験計画法に基づき、試料No.D1~No.D18の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表4-1、表4-2の通りである。
【0100】
【表4-1】
【0101】
【表4-2】
【0102】
溶液製剤の安定性を評価するために、各試料の熱加速試験(40℃1週間保存)を行った。そして、熱加速前後における抗体の純度を、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEC)、疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0103】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)]
HPLCシステムにG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)を接続し、20mmol/Lリン酸、1mol/L NaCl pH6.5組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは、蛋白質量換算で50μgとなる注入量とした。分析時間は40分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0104】
[イオン交換クロマトグラフ法(IEC)]
HPLCシステムにPropac WCX10 IEC用カラム(Dionex)を接続し、移動相Aラインに25mmol/Lリン酸 pH6.0、移動相Bラインに25mmol/Lリン酸、500mmol/L NaCl pH6.0組成の移動相を接続し、1mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、10μLを注入した。分析時間は80分間で、表4-3のIECグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は35℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0105】
【表4-3】
【0106】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC-10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム、20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表4-4のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0107】
【表4-4】
【0108】
SECで検出された多量体、分解物、及びIECで検出されたメインピーク、及びHICで検出された親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピーク、分解物ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、IECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、メインピーク以外を含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0109】
本実施例で得られたSEC、IEC、HICの評価結果を表4-5に示す。
【0110】
【表4-5】
【0111】
また、本結果をもとに要因スクリーニングの統計解析を行い、実験計画法ソフトウェアであるDesign-Expert(Stat-Ease,Inc.製品)を用いて、各指標の寄与度を示すp値を算出した結果を表4-6に示す。
【0112】
【表4-6】
【0113】
本結果より、安定性指標であるSEC、IEC、HICの全評価項目につき、安定化効果に寄与の大きかったアルギニン濃度、pHについて、実験計画法ソフトウェアであるDesign-Expert(Stat-Ease,Inc.製品)を用いて、満足度を最大化する範囲を解析した結果を図3-1(リン酸添加処方群)、図3-2(ヒスチジン添加処方群)に示す。
【0114】
本結果より、リン酸添加処方においてはpH5.5~5.7、アルギニン濃度0(但し、無添加を除く)~210mmol/L、ヒスチジン添加処方においてはpH5.3~6.0、アルギニン濃度0(但し、無添加を除く)~210mmol/Lの範囲において、安定であることが示唆された。
【0115】
《実施例5:界面活性剤による不溶性微粒子の生成抑制》
抗体Aを含む液剤について、界面活性剤による、ストレス負荷後の不溶性微粒子の生成抑制効果を評価した。
【0116】
本検討では、界面活性剤であるポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188(プルロニック F68)の効果を評価するために、試料No.E1~No.E18の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表5-1、表5-2の通りである。
【0117】
【表5-1】
【0118】
【表5-2】
【0119】
液剤の安定性を評価するために、各試料のストレス負荷試験を実施した。各試料に対し、-80℃⇔5℃サイクルの凍結融解を3回実施後、150rpm 24時間の振とうを加え、1,000lux 24時間の条件で保管を実施した。そして、ストレス負荷後における試料中の不溶性微粒子数を、光遮蔽粒子計数法により評価した。
【0120】
[光遮蔽粒子計数法]
1.5mLプラスチックチューブに0.7mLのサンプルを入れ、真空乾燥機で25℃ 75Torrの条件で2時間脱気した。脱気後、HIACラボ型液中パーティクルカウンターを用いて、Tareボリュームを0.2mL、Samplingボリュームを0.2mL、Run回数を2回(但し、最初の測定は破棄)に設定し、測定を実施した。
【0121】
また、界面活性剤濃度及び主薬濃度が蛋白質へ与える影響を評価するため、試料E1~E10については、試料を25℃で4週間保管し、保管後のサンプルを用いて疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)による評価を行った。
【0122】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC-10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム 20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表5-3のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0123】
【表5-3】
【0124】
HICで検出された親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0125】
本実施例で得られた、不溶性微粒子数の評価結果を表5-4に示す。界面活性剤の添加の有無にかかわらず、ストレス負荷後の不溶性微粒子数の増加が認められたが、界面活性剤を添加した全試料において、不溶性微粒子数の増加は抑制された。
【0126】
【表5-4】
【0127】
本実施例で得られた、HICの評価結果を図4-1及び図4-2に示す。ポリソルベート80を含む試料については、ポリソルベート80濃度の増加に伴い、HIC親水性ピークの増加傾向が認められた。一方、主薬濃度30mg/mLの試料(図4-2)については、主薬濃度10mg/mLの試料(図4-1)と比較して、HIC親水性ピークの増加が抑制された。
【0128】
《実施例6:アルギニンによる粘度の低減》
抗体Aを含む液剤について、アルギニンによる粘度の低減効果を評価した。
【0129】
本検討では、液剤の粘度におけるアルギニンの効果を評価するために、試料No.F1~No.F12の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表6-1の通りである。
【0130】
【表6-1】
【0131】
《比較例2》
アルギニン及びpHの効果を評価するため、アルギニン非添加(試料No.F13~No.F27)及び低pH(試料No.F19~No.F21)の評価試料を調製した。各評価試料の処方は以下の表6-2の通りである。
【0132】
【表6-2】
【0133】
調製した表6-1及び表6-2の各試料について、粘度を動的光散乱法(DLS)により評価した。
【0134】
[動的光散乱法(DLS)]
DynaPro Platereader(Wyatt)を用いて、50、60、65、70、75%グリセリン溶液にポリスチレン粒子を添加して得られたみかけの粒子半径から、粘度-みかけの粒子半径のスタンダード・カーブを作成した。その後、高濃度サンプルにポリスチレン粒子を添加してみかけの半径を測定し、グリセリン溶液のスタンダード・カーブから粘度を算出した。
【0135】
粘度の範囲としては、1000mPa・s以下、好適には100mPa・s以下、さらに好適には20mPa・s以下に制御されることが望ましい。
【0136】
本実施例及び比較例で得られた、粘度の評価結果を表6-3及び図5に示す。アルギニンを添加した試料については、主薬濃度の増加に伴う粘度の増加は抑制されていた。
【0137】
一方で、pHによる粘度への影響は認められなかった。
【0138】
【表6-3】
【0139】
《実施例7:安定性評価》
抗体Aを含む液剤について、安定性を評価した。評価試料の処方は以下の表7-1の通りである。評価試料は、培養及び精製後に当該処方へ緩衝液交換された蛋白質薬液を、表7-1に記載の処方から抗体Aを除いた成分を含む溶液で希釈調製した後、0.22μmフィルターでろ過し、ガラスバイアルへ充填後、打栓及び巻き締めを行うことで調製した。
【0140】
【表7-1】
【0141】
液剤の安定性を評価するために、各試料の保管安定性試験(-20℃12箇月及び5℃12箇月)を行った。そして、保管前後における抗体の品質を、サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)、イオン交換クロマトグラフ法(IEC)、疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)により評価した。分析条件は以下の通りである。
【0142】
[サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)]
HPLCシステムにTSK guard column SWXL(東ソー)1本及びG3000 SWXL SEC用カラム(東ソー)2本を連結して接続し、20mmol/Lリン酸、1mol/L NaCl pH6.5組成の移動相を0.5mL/minの流速で流した。サンプルは、蛋白質量換算で50μgとなる注入量とした。分析時間は60分間、検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0143】
[イオン交換クロマトグラフ法(IEC)]
HPLCシステムにMabPac SCX10 IEC用カラム(Thermo)を接続し、移動相Aラインに25mmol/L MES pH6.0、移動相Bラインに25mmol/L MES、500mmol/L NaCl pH6.0組成の移動相を接続し、1mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、10μLを注入した。分析時間は70分間で、表7-2のIECグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は35℃、サンプル温度は5℃に設定した。
【0144】
【表7-2】
【0145】
[疎水性相互作用クロマトグラフ法(HIC)]
HPLCシステムにProPac HIC-10 HIC用カラム(Dionex)を2本接続し、移動相Aラインに800mmol/L硫酸アンモニウム、20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0、移動相Bラインに20mmol/Lリン酸ナトリウム pH7.0組成の移動相を接続し、0.8mL/minの流速で流した。サンプルは移動相Aで1mg/mLに希釈し、50μLを注入した。表7-3のHICグラジエントプログラムを適用した。検出はUV280nmで実施した。カラム温度は30℃、サンプル温度は25℃に設定した。
【0146】
【表7-3】
【0147】
SECで検出された多量体、分解物、及びIECで検出されたメインピーク、HICで検出された親水性ピークの面積を自動分析法により測定し、その量(%)を求めた。量については、SECで検出された多量体ピーク、分解物ピークの面積を自動分析法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、IECで検出されたメインピークの面積を自動分析法により測定し、メインピーク以外を含む全ピーク面積の総和で除することにより、また、HICで検出された親水性ピークの面積を自動積分法により測定し、メインピークを含む全ピーク面積の総和で除することにより、百分率(%)として規定される。ここでメインピークとは、活性本体のピークを指す。
【0148】
本実施例で得られたSEC、IEC、HICの評価結果を表7-4に示す。本処方において、-20℃12箇月及び5℃12箇月保管品いずれも、各指標における品質は好適な範囲内であり、本処方が安定であることを確認できた。
【0149】
【表7-4】
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明によれば、抗ヒトTSLP受容体抗体を含有してなる、安定な医薬組成物、詳細には、脱アミド体や酸化体など化学修飾体、又は分解物や多量体の生成を抑制してなる、抗ヒトTSLP受容体抗体を含有する、安定な医薬組成物を提供することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変法や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表フリーテキスト】
【0151】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。配列表の配列番号2及び4で示される塩基配列は、それぞれ抗ヒトTSLP受容体抗体の重鎖及び軽鎖の塩基配列であり、配列番号1及び3で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号2及び4によりコードされる重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列である。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
【配列表】
2023029500000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書または図面に記載の発明。