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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029543
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】眼科用組成物 その3
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/551 20060101AFI20230224BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230224BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
A61K31/551
A61P27/02
A61P27/06
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001851
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2021081531の分割
【原出願日】2017-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2016061635
(32)【優先日】2016-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久我 宏彰
(57)【要約】
【課題】ハロゲン化イソキノリン誘導体含有眼科用組成物において、ハロゲン化イソキノリン誘導体の眼組織への移行を促進させる技術の提供。
【解決手段】次の一般式(1)
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、アジピン酸、アスパラギン酸、エデト酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上の低級脂肪族カルボン酸類とを含有する、眼科用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、アジピン酸、アスパラギン酸、エデト酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上の低級脂肪族カルボン酸類とを含有する、眼科用組成物。
【請求項2】
水性組成物である、請求項1記載の眼科用組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物が、リパスジルである、請求項1又は2記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記低級脂肪族カルボン酸類が、エデト酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上の低級脂肪族カルボン酸類である、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
点眼剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
高眼圧症、緑内障及び眼底疾患よりなる群から選ばれる疾患の予防及び/又は治療剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の構造式:
【0003】
【化1】
【0004】
で表されるリパスジル(化学名:4-フルオロ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン)や、以下の構造式:
【0005】
【化2】
【0006】
で表される4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリンなどのハロゲン化イソキノリン誘導体は、Rhoキナーゼ阻害作用等の薬理作用(例えば、特許文献1、2)を有し、眼疾患の予防や治療に有用であることが知られている。具体的には例えば、高眼圧症や緑内障等の予防又は治療(例えば、特許文献3)、あるいは加齢黄斑変性等の眼底疾患の予防又は治療(例えば、特許文献4)に有用であることが報告されている。
【0007】
一般的に、眼疾患に有効な薬物を投与するにあたっては、点眼剤や眼軟膏剤等の眼科用剤として眼に投与するのが、薬物を疾患部位である眼組織に効率的に移行させてその薬効を発揮させ、また、他の組織への移行を低減させて副作用を減じ安全性を確保する観点から望ましいとされる。そのため、ハロゲン化イソキノリン誘導体についても眼科用組成物とし、眼に投与することにより使用するのが、薬物の効率的な利用の観点や安全性の観点から好ましいと言え、現にこうしたハロゲン化イソキノリン誘導体を含有する眼科用組成物は、これまでに複数報告されている(例えば、特許文献5、6など)。
【0008】
ところで、特許文献7には、リパスジル((S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン)又はその塩、水溶性フィルム形成剤、及びエデト酸やクエン酸等の抗酸化剤を含有するフィルム製剤が開示されている。しかしながら、特許文献7において、エデト酸やクエン酸等の抗酸化剤は、専ら製剤中のリパスジルの含量低下を抑制して保存安定性を良好にする成分として記載されているのみであり、リパスジルの眼組織への移行との関連性については一切記載されていない。
また、特許文献7に開示のフィルム製剤は、リパスジル、フィルム形成剤、カルボキシビニルポリマー及び抗酸化剤をメタノール等の揮発性の溶媒に溶解・分散させた後、溶媒を乾燥により揮発させて固形成分を析出・フィルム形成させることによって得られる非水系の製剤である。従って、特許文献7に開示のフィルム製剤は水性組成物とは全く異なる製剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4212149号公報
【特許文献2】国際公開第2006/115244号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/068208号パンフレット
【特許文献4】特許第5557408号公報
【特許文献5】特許第4099201号公報
【特許文献6】特許第4168071号公報
【特許文献7】特開2013-129605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、眼疾患に有効な薬物を投与するにあたっては、点眼剤等の眼科用剤として眼に投与するのが、薬物の効率的な利用の観点及び安全性の観点から好適であるが、それでも投与された薬物が全て眼組織内に移行する訳ではない。特に、眼組織の最表面を構成する角膜上皮等は脂溶性の薬物との親和性が高いところ、ハロゲン化イソキノリン誘導体は水溶性の薬物であり、眼組織への移行率は決して高くはない。一般的に、眼への適用後に眼組織に移行しなかった薬物は、涙液と混ざり体外に流れ落ちるか、あるいは涙点から鼻涙管を通って鼻腔粘膜又は咽喉粘膜に到達し、そこで吸収され全身循環に入るとされている。ハロゲン化イソキノリン誘導体を含有する眼科用組成物においても、その薬効をより効率的に利用し、また、全身循環に入ることによって生じ得る副作用の危険性をより低減せしめる観点から、眼組織に適用した場合のハロゲン化イソキノリン誘導体の眼組織への移行を促進させる技術を開発することが強く望まれる。
【0011】
従って、本発明は、ハロゲン化イソキノリン誘導体含有眼科用組成物において、ハロゲン化イソキノリン誘導体の眼組織への移行を促進させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討したところ、リパスジル等のハロゲン化イソキノリン誘導体を含有する眼科用組成物に、さらにソルビン酸、クエン酸、エデト酸等の、低級脂肪族カルボン酸類を含有せしめることにより、ハロゲン化イソキノリン誘導体の眼組織への移行が促進されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、次の一般式(1)
【0014】
【化3】
【0015】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び低級脂肪族カルボン酸類を含有する、眼科用組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する眼科用組成物に、低級脂肪族カルボン酸類を含有せしめる工程を含む、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織への移行の促進方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、眼科用組成物を眼組織に適用した際のハロゲン化イソキノリン誘導体の眼組織への移行が促進されるため、ハロゲン化イソキノリン誘導体がより効率的に利用され、また、より安全性に優れた眼科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書は、これらに何ら限定されるものではないが、例えば以下の態様の発明を開示する。
[1] 次の一般式(1)
【0018】
【化4】
【0019】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び低級脂肪族カルボン酸類を含有する、眼科用組成物。
[2] 水性組成物である、[1]記載の眼科用組成物。
[3] 前記一般式(1)で表される化合物が、リパスジルである、[1]又は[2]記載の眼科用組成物。
[4] 前記低級脂肪族カルボン酸類が、1~2個の炭素原子が窒素原子で置き換えられていてもよい、炭素数2~12の直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸及びその塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれか記載の眼科用組成物。
[5] 前記低級脂肪族カルボン酸類が、アジピン酸、アスパラギン酸、エデト酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、ソルビン酸、乳酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれか記載の眼科用組成物。
[6] 前記低級脂肪族カルボン酸類が、エデト酸、クエン酸、酢酸、ソルビン酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれか記載の眼科用組成物。
[7] 点眼剤である、[1]~[6]のいずれか記載の眼科用組成物。
[8] 高眼圧症、緑内障及び眼底疾患よりなる群から選ばれる疾患の予防及び/又は治療剤である、[1]~[7]のいずれか記載の眼科用組成物。
【0020】
[9] さらに、α1受容体遮断薬、α2受容体作動薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、プロスタグランジン類、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、カルシウム拮抗剤及びコリンエステラーゼ阻害剤よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[1]~[8]のいずれか記載の眼科用組成物。
[10] さらに、ラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、チモロール及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[1]~[8]のいずれか記載の眼科用組成物。
[11] 前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物のみを有効成分として含有する、[1]~[8]のいずれか記載の眼科用組成物。
【0021】
[12] 前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する眼科用組成物に、低級脂肪族カルボン酸類を含有せしめる工程を含む、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織への移行の促進方法。
[13] 前記眼科用組成物が、水性組成物である、[12]記載の方法。
[14] 前記一般式(1)で表される化合物が、リパスジルである、[12]又は[13]記載の方法。
[15] 前記低級脂肪族カルボン酸類が、1~2個の炭素原子が窒素原子で置き換えられていてもよい、炭素数2~12の直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸及びその塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上である、[12]~[14]のいずれか記載の方法。
[16] 前記低級脂肪族カルボン酸類が、アジピン酸、アスパラギン酸、エデト酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、ソルビン酸、乳酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上である、[12]~[14]のいずれか記載の方法。
[17] 前記低級脂肪族カルボン酸類が、エデト酸、クエン酸、酢酸、ソルビン酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上である、[12]~[14]のいずれか記載の方法。
[18] 前記眼科用組成物が、点眼剤である、[12]~[17]のいずれか記載の方法。
[19] 前記眼科用組成物が、高眼圧症、緑内障及び眼底疾患よりなる群から選ばれる疾患の予防及び/又は治療剤である、[12]~[18]のいずれか記載の方法。
【0022】
[20] 前記眼科用組成物が、さらにα1受容体遮断薬、α2受容体作動薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、プロスタグランジン類、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、カルシウム拮抗剤及びコリンエステラーゼ阻害剤よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[12]~[19]のいずれか記載の方法。
[21] 前記眼科用組成物が、さらにラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、チモロール及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[12]~[19]のいずれか記載の方法。
[22] 前記眼科用組成物が、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物のみを有効成分として含有する、[12]~[19]のいずれか記載の方法。
【0023】
<一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物>
前記一般式(1)において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記一般式(1)において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
また、前記一般式(1)において、メチル基の置換したホモピペラジン環を構成する炭素原子は不斉炭素である。そのため、立体異性が生じるが、一般式(1)で表される化合物にはいずれの立体異性体も包含され、単一の立体異性体でもよく、各種立体異性体の任意の割合の混合物でもよい。前記一般式(1)で表される化合物としては、絶対配置がS配置である化合物が好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物の塩としては、薬学上許容される塩であれば特に限定されず、具体的には例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、フッ化水素酸塩、臭化水素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、カンファ―スルホン酸塩等の有機酸塩等が挙げられ、塩酸塩が好ましい。
さらに、前記一般式(1)で表される化合物又はその塩は、水和物やアルコール和物等の溶媒和物であってもよく、水和物であるのが好ましい。
【0025】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、具体的には例えば、
リパスジル(化学名:4-フルオロ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン)若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;
4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;
等が挙げられる。
【0026】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が好ましく、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物がより好ましく、リパスジル若しくはその塩酸塩又はそれらの水和物がさらに好ましく、以下の構造式:
【0027】
【化5】
【0028】
で表されるリパスジル塩酸塩水和物(リパスジル1塩酸塩2水和物)が特に好ましい。
【0029】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知であり、公知の方法により製造できる。具体的には例えば、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、国際公開第1999/020620号パンフレット、国際公開第2006/057397号パンフレット記載の方法等により製造することが出来る。また、4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、国際公開第2006/115244号パンフレット記載の方法等により製造することが出来る。
【0030】
眼科用組成物中の前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の含有量は特に限定されず、適用疾患や患者の性別、年齢、症状等に応じて適宜検討して決定すればよいが、優れた薬理作用を得る観点から、眼科用組成物全容量に対して、一般式(1)で表される化合物のフリー体に換算して0.01~10w/v%含有するのが好ましく、0.02~8w/v%含有するのがより好ましく、0.04~6w/v%含有するのが特に好ましい。中でも、一般式(1)で表される化合物としてリパスジルを用いる場合においては、優れた薬理作用を得る観点から、眼科用組成物全容量に対して、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を、フリー体に換算して0.05~5w/v%含有するのが好ましく、0.1~3w/v%含有するのがより好ましく、0.1~2w/v%含有するのが特に好ましい。
【0031】
<低級脂肪族カルボン酸類>
本明細書において「低級脂肪族カルボン酸類」とは、1個以上の炭素原子が窒素原子で置き換えられていてもよい、低級脂肪族カルボン酸及びその塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等)並びにそれらの溶媒和物(水和物等)よりなる群から選ばれる1種以上を意味する。
ここで、低級脂肪族カルボン酸類における炭素数は、15個程度以下であれば特に限定されないが、眼組織移行を促進する観点から、2~12個が好ましく、4~12個がより好ましく、6~10個が特に好ましい。なお、斯かる炭素原子のうち、カルボキシル基を構成する炭素原子以外の炭素原子については、その一部は窒素原子に置き換えられていてもよいが、眼組織移行促進作用の観点から、斯かる置換数は1~2個であるのが好ましい。さらに、炭素鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0032】
また、低級脂肪族カルボン酸類におけるカルボキシル基の数は限定されないが、眼組織移行促進作用の観点から、1~4個が好ましく、1~3個がより好ましい。さらに、低級脂肪族カルボン酸類は、眼組織移行促進作用の観点から、カルボキシル基以外の親水性の置換基をさらに1~3個程度有してもよい。斯かる親水性の置換基としては、具体的には例えば、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
低級脂肪族カルボン酸類は公知の化合物であり、公知の方法により製造しても良いし、市販のものを使用してもよい。なお、低級脂肪族カルボン酸類としては、他の成分と塩や錯体を形成したものを用いてもよく、斯かる塩や錯体を形成した成分を含有する眼科用組成物も、「低級脂肪族カルボン酸類を含有する眼科用組成物」に包含される。
【0033】
このような低級脂肪族カルボン酸類としては、具体的には例えば、アジピン酸;アスパラギン酸、L-アスパラギン酸ナトリウム、L-アスパラギン酸マグネシウムなどのアスパラギン酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物、エデト酸四ナトリウムなどのエデト酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;クエン酸カルシウム、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、無水クエン酸、無水クエン酸ナトリウムなどのクエン酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム六水和物などのコハク酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム水和物、氷酢酸、無水酢酸ナトリウム等の酢酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;酒石酸、D-酒石酸、酒石酸水素カリウム、DL-酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムなどの酒石酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;ソルビン酸、ソルビン酸カリウム等のソルビン酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;乳酸、乳酸ナトリウム液、乳酸カルシウム水和物、乳酸アルミニウムなどの乳酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウムなどのプロピオン酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;フマル酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;マレイン酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;マロン酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;リンゴ酸、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウムなどのリンゴ酸若しくはその塩又はそれらの溶媒和物等が挙げられる。
【0034】
低級脂肪族カルボン酸類としては、眼組織移行促進作用の観点から、1~2個の炭素原子が窒素原子で置き換えられていてもよい、炭素数2~12の直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸及びその塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上が好ましく、エデト酸、クエン酸、酢酸、ソルビン酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、エデト酸、クエン酸、ソルビン酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上がさらに好ましく、クエン酸、ソルビン酸及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上が特に好ましい。
【0035】
眼科用組成物中の低級脂肪族カルボン酸類の含有量は特に限定されないが、眼組織移行促進作用の観点から、眼科用組成物全容量に対して0.01~5w/v%含有するのが好ましく、0.05~3.5w/v%含有するのがより好ましく、0.1~1w/v%含有するのが特に好ましい。
また、眼科用組成物中の前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と低級脂肪族カルボン酸類の含有質量比率は特に限定されないが、眼組織移行促進作用の観点から、一般式(1)で表される化合物のフリー体に換算して1質量部に対し、低級脂肪族カルボン酸類を0.3~8質量部含有するのが好ましく、0.6~4質量部含有するのがより好ましく、0.8~3質量部含有するのが特に好ましい。中でも、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物がリパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である場合においては、眼組織移行促進作用の観点から、リパスジルのフリー体に換算して1質量部に対し、低級脂肪族カルボン酸類を0.01~10質量部含有するのが好ましく、0.05~5質量部含有するのがより好ましく、0.1~2質量部含有するのが特に好ましい。
【0036】
<眼科用組成物>
本明細書において「眼科用組成物」とは、眼科用剤(具体的には例えば、点眼剤、眼軟膏剤などの、目に投与する製剤)として利用され得る組成物を意味し、その性状は特に限定されず、液状(溶液又は懸濁液)、半固形状(軟膏)、固形状が挙げられる。
眼科用組成物の性状としては、液状又は半固形状の組成物であるのが好ましく、中でも、少なくとも水を含有する組成物(水性組成物)であるのが特に好ましい。液状又は半固形状の組成物は眼組織への投与が容易であり、特に水性組成物は溶媒に水を含むものであるため安全性・使用感に優れ、さらに製造が容易であるというメリットを有する一方、性状が液状・半固形状であるため、組成物の適用の際において眼組織に留まらず他の組織へ移行し易いというデメリットを有する。しかるところ、本発明によれば、ハロゲン化イソキノリン誘導体の眼組織への移行が促進されるため、特に斯かる性状の組成物において、より高い安全性を確保するという発明の効果を有利に利用可能である。
【0037】
本明細書において「水性組成物」とは、少なくとも水を含有する組成物を意味し、その性状としては、液状(溶液又は懸濁液)、半固形状(軟膏)が挙げられ、液状が好ましい。なお、組成物中の水としては例えば、精製水、注射用水、滅菌精製水等を用いることができる。
水性組成物に含まれる水の含有量は特に限定されないが、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、90~99.8質量%が特に好ましい。
【0038】
眼科用組成物は、例えば、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に従って、眼科用剤、具体的には点眼剤、眼軟膏剤等の剤形、好適には点眼剤等の剤形に製剤化することができる。
【0039】
眼科用組成物には、上記した以外に、医薬品や医薬部外品等で利用される添加物を含んでいても良い。このような添加物としては、例えば、無機塩類、等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、粘稠化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、清涼化剤、分散剤、保存剤、油性基剤、乳剤性基剤、水溶性基剤等が挙げられる。
こうした添加物としては、具体的には例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、アルギン酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、ウイキョウ油、エタノール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液、カルボキシビニルポリマー、乾燥亜硫酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、d-カンフル、dl-カンフル、キシリトール、グリセリン、グルコン酸、クレアチニン、クロルヘキシジングルコン酸塩液、クロロブタノール、結晶リン酸二水素ナトリウム、ゲラニオール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、酸化チタン、ジェランガム、ジブチルヒドロキシトルエン、臭化カリウム、臭化べンゾドデシニウム、水酸化ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシル45、精製ラノリン、D-ソルビトール、ソルビトール液、タウリン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、チメロサール、チロキサポール、デヒドロ酢酸ナトリウム、トロメタモール、濃グリセリン、濃縮混合トコフェロール、白色ワセリン、ハッカ水、ハッカ油、濃ベンザルコニウム塩化物液50、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ヒアルロン酸ナトリウム、人血清アルブミン、ピロ亜硫酸ナトリウム、フェニルエチルアルコール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ベルガモット油、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム塩化物液、ベンジルアルコール、ベンゼトニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物液、ホウ砂、ホウ酸、ポビドン、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレングルコール(70)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、d-ボルネオール、マクロゴール4000、マクロゴール6000、D-マンニトール、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、メタンスルホン酸、l-メントール、モノエタノールアミン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ユーカリ油、ヨウ化カリウム、硫酸、硫酸オキシキノリン、流動パラフィン、リュウノウ、リン酸、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、ワセリン等が例示される。
【0040】
添加物としては、例えば、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、グリセリン、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物、濃グリセリン、ホウ砂、ホウ酸、ポビドン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、マクロゴール4000、マクロゴール6000、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、モノエタノールアミン、リン酸、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、ヒアルロン酸ナトリウム、ブドウ糖、l-メントール等が好ましい。
【0041】
眼科用組成物は、さらに、上記した以外に、眼疾患の種類等に応じて、眼疾患に適用可能な他の薬効成分を含んでいても良い。このような薬効成分としては、ブナゾシン塩酸塩などのブナゾシン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むα1受容体遮断薬;ブリモニジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、アプラクロニジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むα2受容体作動薬;カルテオロール塩酸塩などのカルテオロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ニプラジロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、チモロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ベタキソロール塩酸塩などのベタキソロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、レボブノロール塩酸塩などのレボブノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ベフノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、メチプラノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むβ遮断薬;ドルゾラミド塩酸塩などのドルゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ブリンゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、アセタゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ジクロルフェナミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、メタゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む炭酸脱水酵素阻害剤;イソプロピルウノプロストン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、タフルプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、トラボプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ビマトプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ラタノプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むプロスタグランジン類;ジピべフリン塩酸塩などのジピべフリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、エピネフリン、エピネフリンホウ酸塩、エピネフリン塩酸塩などのエピネフリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む交感神経作動薬;ジスチグミン臭化物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ピロカルピン、ピロカルピン塩酸塩、ピロカルピン硝酸塩などのピロカルピン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、カルバコール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む副交感神経作動薬;ロメリジン塩酸塩などのロメリジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むカルシウム拮抗薬;デメカリウム若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、エコチオフェート若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、フィゾスチグミン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むコリンエステラーゼ阻害剤などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合できる。
眼疾患に適用可能な他の薬効成分としては、ラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、チモロール及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物よりなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
また、別の態様としては、前記の眼疾患に適用可能な他の薬効成分の1種以上を含有しない眼科用組成物、特に、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物のみを有効成分として含有する眼科用組成物が挙げられる。
【0042】
眼科用組成物のpH(25℃)は特に限定されないが、4~9が好ましく、4.5~8.5がより好ましく、5~8がさらにより好ましく、5.5~7.5が特に好ましい。また、生理食塩水に対する浸透圧比は特に限定されないが、0.6~3が好ましく、0.6~2が特に好ましい。
【0043】
眼科用組成物は、保存安定性、携帯性等の観点から、容器に収容されるのが好ましい。容器の形態は、眼科用組成物を収容可能であることを限度として特に限定されず、剤形等に応じて適宜選択、設定すればよい。このような容器の形態としては、具体的には例えば、ボトル状容器、チューブ状容器、点眼剤用容器、バッグ容器等が挙げられる。また、これらの容器はさらに箱、袋等によって包装されていてもよい。
【0044】
容器の材質(材料)は特に限定されず、容器の形態に応じて適宜選択すればよい。具体的には例えば、ガラス、プラスチック、セルロース、パルプ、ゴム、金属等が挙げられる。加工性、スクイズ性や耐久性の観点から、プラスチック製であるのが好ましい。プラスチック製容器の樹脂としては、熱可塑性樹脂であるのが好ましく、例えば、低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレナフタレート)等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;スチレン系樹脂などが挙げられ、これらの混合体(ポリマーアロイ)であってもよい。容器としては、結晶析出抑制の観点から、ポリオレフィン系樹脂製の容器が好ましく、ポリプロピレン製の容器が好ましい。
【0045】
眼科用組成物の適用対象である眼疾患は特に限定されず、前記一般式(1)で表される化合物の有する薬理作用等に応じて適宜選択すればよい。
具体的には例えば、一般式(1)で表される化合物の有するRhoキナーゼ阻害作用や眼圧低下作用に基づき、高眼圧症や緑内障の予防又は治療剤として利用できる。ここで、緑内障としては、より詳細には例えば、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、房水産生過多緑内障、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、plateau iris syndrome、混合型緑内障、ステロイド緑内障、水晶体の嚢性緑内障、色素緑内障、アミロイド緑内障、血管新生緑内障、悪性緑内障などが挙げられる。
【0046】
また、日本国特許第5557408号公報に開示されるように、眼底疾患(主として網膜及び/又は脈絡膜に発現する病変。具体的には例えば、高血圧と動脈硬化による眼底変化、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occlusion)や網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion)等の網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病黄斑症、イールズ病(Eales disease)、コーツ病(Coats disease)等の網膜血管先天異常、ヒッペル病(von Hippel disease)、脈なし病(pulseless disease)、黄斑疾患(中心性網脈絡膜症(central serous chorioretinopathy)、嚢胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema)、加齢黄斑変性(age-related macular degeneration)、黄斑円孔(macular hole)、近視性黄斑萎縮(myopic macular degeneration)、網膜硝子体界面黄斑変性症、薬物毒性黄斑変性症、遺伝性黄斑変性等)、(裂孔原性、牽引性、滲出性等の)網膜剥離、網膜色素変性症、未熟児網膜症等が挙げられる。)の予防又は治療剤、より好適には糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫又は加齢黄斑変性の予防又は治療剤として利用できる。さらに、後発白内障や前嚢収縮等の白内障術後合併症の予防又は治療剤、あるいは角膜浮腫の予防又は治療剤として利用してもよい。
【0047】
なお、眼科用組成物を眼疾患(好適には、高眼圧症、緑内障及び眼底疾患から選ばれる疾患;特に好適には、高眼圧症及び緑内障から選ばれる疾患)の予防及び/又は治療剤として利用する場合においては、1日1~3回程度、投与すればよい。
【実施例0048】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
なお、以下の試験例で用いたリパスジル1塩酸塩2水和物は、例えば国際公開第2006/057397号パンフレットに記載の方法により製造することができる。
【0049】
[試験例1]眼組織移行試験
眼科用組成物を眼組織に適用した場合における、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織移行性を、以下の方法により評価した。
【0050】
すなわち、表1に示す成分及び分量を100mL当たりに含有する実施例1及び比較例1の眼科用組成物(水性組成物)を常法により調製した。得られた各組成物を白色家兎の眼に50μLずつ点眼し、投与から0.25時間後、0.5時間後、1時間後、2時間後及び4時間後に眼房水及び虹彩・毛様体を採取し、眼房水中あるいは虹彩・毛様体中のリパスジルの濃度を測定した(いずれの投与例においても、また、いずれの組織においても、薬剤投与の4時間後には薬物濃度は0近くの低値となっていた。)。なお、組織中のリパスジルの濃度は、LC-MS/MSを用いて濃度既知の標準物質とピーク面積を比較することにより算出した。
得られた各時間における各組織中のリパスジルの濃度より、薬剤投与の0~4時間のAUC(AUC0-4)を算出した。
結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1記載の結果の通り、眼房水及び虹彩・毛様体の両組織において、ソルビン酸を含有する実施例1の眼科用組成物の方がソルビン酸を含有しない比較例1の眼科用組成物よりも、AUCがより高い値となった。
【0053】
なお、実施例1の眼科用組成物と比較例1の眼科用組成物とは、ソルビン酸の配合の有無のほかは、配合成分のみならずpH等も同等である。このことから、本試験において認められたリパスジルの眼組織への移行の促進は、単なるpH環境の影響等とは異なる、リパスジル等の一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とソルビン酸とを組み合わせたことによる作用であると推察された。
【0054】
[試験例2]眼組織移行試験 その2
試験例1で確認されたソルビン酸の、一般式(1)で表される化合物の眼組織への移行を促進する作用を再確認するため、以下の試験を行った。
すなわち、表2に示す成分及び分量を100mL当たりに含有する実施例2及び比較例2の眼科用組成物を常法により調製し、試験例1と同様の方法により、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織移行性を評価した。
結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2記載の結果の通り、試験例1と同様に、眼房水及び虹彩・毛様体の両組織において、ソルビン酸を含有する実施例2の眼科用組成物の方が、ソルビン酸を含有しない比較例2の眼科用組成物よりも、AUCがより高い値となった。
【0057】
以上の試験例1及び2の結果から、ソルビン酸は、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織への移行を促進する作用を有することが明らかとなった。
【0058】
[試験例3]眼組織移行試験 その3
ソルビン酸以外の低級脂肪族カルボン酸類の、一般式(1)で表される化合物の眼組織への移行促進作用を確認するため、以下の試験を行った。
すなわち、表3に示す成分及び分量を100mL当たりに含有する実施例3及び比較例3の眼科用組成物を常法により調製し、試験例1と同様の方法により、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織移行性を評価した。
結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3記載の結果の通り、眼房水及び虹彩・毛様体の両組織において、クエン酸を含有する実施例3の眼科用組成物の方が、クエン酸を含有しない比較例3の眼科用組成物よりも、AUCがより高い値となった。また、実施例3の眼科用組成物と比較例3の眼科用組成物は、pH等が同等であることから、本試験において認められたリパスジルの眼組織への移行の促進は、リパスジル等の一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とクエン酸とを組み合わせたことによる作用であると推察された。
以上の試験結果から、クエン酸は、ソルビン酸と同様に、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織への移行を促進する作用を有することが明らかとなった。
【0061】
[試験例4]眼組織移行試験 その4
試験例3において、実施例3の眼科用剤に含まれるクエン酸ナトリウム水和物の代わりに、100mL当たりに0.127gのエデト酸ナトリウム水和物を配合することによっても、同様に眼組織移行促進作用を確認することができる。
【0062】
以上の試験結果から、ソルビン酸、クエン酸、エデト酸に代表される、低級脂肪族カルボン酸類が、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の眼組織への移行を促進する作用を有することが明らかとなった。
なお、これらの低級脂肪族カルボン酸類は、いずれも1以上の親水性基(カルボキシル基)を有し、かつ、ある程度の大きさの疎水性部位(詳細には、炭素数11程度以下の、より具体的には、炭素数5~11程度の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基)を有する。
【0063】
[製造例1~27]
表4~表6に記載の成分及び分量(眼科用組成物100mL当たりの量(g))を含有する眼科用組成物を常法により製造できる。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
[製造例28~54]
製造例1~27において、リパスジル1塩酸塩2水和物の代わりに同量の4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリンを用いたものを、製造例28~54の眼科用組成物として、常法により製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、有効性及び安全性に優れた眼科用組成物を提供でき、医薬品産業等において好適に利用できる。