(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029828
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】毛細血管退行抑制剤、骨格筋萎縮抑制剤、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230228BHJP
A61K 31/7024 20060101ALI20230228BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/74 20060101ALI20230228BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20230228BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230228BHJP
A23F 5/02 20060101ALI20230228BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/7024
A61P19/00
A61P9/14
A61K36/74
A61K31/216
A23L2/52
A23L2/00 F
A23F5/02
A23F5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132128
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021135256
(32)【優先日】2021-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】390006600
【氏名又は名称】ユーシーシー上島珈琲株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】藤野 英己
(72)【発明者】
【氏名】岩井 和也
【テーマコード(参考)】
4B018
4B027
4B117
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE03
4B018MD08
4B018MD10
4B018MD57
4B018ME14
4B018MF01
4B027FB28
4B027FC06
4B027FE02
4B027FK10
4B027FQ01
4B027FQ06
4B117LC04
4B117LG17
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4C086AA01
4C086AA02
4C086EA03
4C086MA01
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4C086ZA44
4C086ZA96
4C088AB14
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4C088BA08
4C088BA11
4C088BA13
4C088BA23
4C088CA03
4C088MA43
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA44
4C088ZA96
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB20
4C206DB56
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA63
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA44
4C206ZA96
(57)【要約】
【課題】毛細血管退行抑制剤、骨格筋萎縮抑制剤、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】毛細血管退行抑制剤と骨格筋萎縮抑制剤は、クロロゲン酸類を有効成分として含有する。クロロゲン酸類はコーヒー豆抽出物に由来することが好ましく、より好ましくは、クロロゲン酸類がコーヒー生豆抽出物に由来する。毛細血管退行抑制剤や骨格筋萎縮抑制剤として用いるコーヒー生豆抽出物は、脱カフェイン、かつ、コーヒーオイルが搾油され、粉末状である。コーヒー生豆抽出物は、カネフォラ種(ロブスタ種)のコーヒー生豆を用いて、クロロゲン酸類の含有割合を35重量%以上とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロゲン酸類を有効成分として含有する毛細血管退行抑制剤。
【請求項2】
クロロゲン酸類を有効成分として含有する骨格筋萎縮抑制剤。
【請求項3】
クロロゲン酸類が、コーヒー豆抽出物に由来する請求項1記載の毛細血管退行抑制剤。
【請求項4】
クロロゲン酸類が、コーヒー生豆抽出物に由来する請求項1記載の毛細血管退行抑制剤。
【請求項5】
コーヒー生豆抽出物が、脱カフェイン、かつ、コーヒーオイルが搾油されたコーヒー生豆の抽出物である請求項4記載の毛細血管退行抑制剤。
【請求項6】
コーヒー豆種が、カネフォラ種である請求項1,3~5の何れかに記載の毛細血管退行抑制剤。
【請求項7】
関与成分が、3-CQA、4-CQA、5-CQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3-FQA、4-FQA、5-FQAの9成分から選択される少なくとも一種の成分である請求項1,3~5の何れかに記載の毛細血管退行抑制剤。
【請求項8】
関与成分が、5-CQAの成分と、3-CQA、4-CQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3-FQA、4-FQA、5-FQAの8成分から選択される少なくとも一種の成分である請求項1,3~5の何れかに記載の毛細血管退行抑制剤。
【請求項9】
粉末状である請求項1,3~5の何れかに記載の毛細血管退行抑制剤。
【請求項10】
請求項1,3~5の何れかに記載の毛細血管退行抑制剤、又は、請求項2記載の骨格筋萎縮抑制剤を含有する飲料品。
【請求項11】
請求項1,3~5の何れかに記載の毛細血管退行抑制剤、又は、請求項2記載の骨格筋萎縮抑制剤を含有する食品。
【請求項12】
請求項1,3~5の何れかに記載の毛細血管退行抑制剤、又は、請求項2記載の骨格筋萎縮抑制剤を含有する医薬組成物。
【請求項13】
コーヒー生豆を粉砕するステップと、
コーヒー生豆を浸水するステップと、
含水アルコールにて抽出するステップと、
濃縮・乾燥するステップと、
上記ステップを経て得られたコーヒー豆抽出物に含まれるクロロゲン酸類を有効成分として含有させるステップ、
を備え、
クロロゲン酸類の含有割合を25重量%以上とした、毛細血管退行抑制剤または骨格筋萎縮抑制剤の製造方法。
【請求項14】
カネフォラ種のコーヒー生豆を用いて、クロロゲン酸類の含有割合を35重量%以上とした請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
クロロゲン酸類において、3-CQA、4-CQA、5-CQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3-FQA、4-FQA、5-FQAからなる群から選択される特定成分の濃度を高めるステップを更に備えた請求項13又は14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロゲン酸類を有効成分とした毛細血管退行抑制剤、骨格筋萎縮抑制剤、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋における毛細血管網は、骨格筋細胞への酸素供給や、栄養素や代謝産物の輸送手段として重要であり、筋活動が増加すると、骨格筋内の機能的な毛細血管数は増加し、赤血球速度も上昇し、骨格筋の血流量が増加する。このように毛細血管網は、機能的に筋細胞への血流調節を行う。また、慢性的な筋活動量の増加は、構造的に毛細血管数を増加させる。
【0003】
一方で、骨折等の怪我や疾患による長期の臥床により、骨格筋萎縮となり筋組織が減少することが知られている。長期にわたる臥床状態では、筋活動が減少し、代謝が低下し、骨格筋に必要な酸素や糖などのエネルギー源の需要も低下する。臥床状態が継続すると、骨格筋細胞内の収縮タンパクの分解が進行し、骨格筋萎縮(廃用性筋萎縮)を生じ、筋線維の横断面積の減少が生じる。骨格筋の性質にも変化が起こり、遅筋線維の割合の減少、さらに筋細胞単位の毛細血管数を表す毛細血管/筋線維比(Capillary to muscle Fiber ratio;C/F比)の減少が生じることになる。
【0004】
骨格筋萎縮による筋組織の退行の回復のためには、長期のリハビリテーションが必要である。骨格筋萎縮においては、筋タンパク質の分解やアポトーシスなどによって筋細組織(細胞)自体と毛細血管の退行が生じている。そのため、骨格筋萎縮を通常の状態に回復させるためには、筋組織中に毛細血管の新生を促進させ、筋組織の増加を生じさせることが必要である。
【0005】
このように、骨格筋萎縮による筋組織の退行の回復には、毛細血管の退行を抑制し、回復を促進することが重要である。
既に、本発明者は、アスタキサンチンを有効成分とする毛細血管退行抑制剤を提案し(特許文献1を参照)、また、廃用性萎縮筋における毛細血管の血管増殖の抑制因子について研究を行ってきた(非特許文献1を参照)。
かかる状況において、安全性が高く、食品に多く含まれ、退行抑制効果が高い毛細血管退行抑制剤、さらには骨格筋萎縮抑制剤が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】藤野英己ら,“廃用性萎縮筋における毛細血管リモデリングと血管増殖因子の抑制”,理学療法科学,第23巻2号,pp.203-208,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、毛細血管退行抑制剤、骨格筋萎縮抑制剤、及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の毛細血管退行抑制剤は、クロロゲン酸類を有効成分として含有する。クロロゲン酸類を有効成分として含有する剤は、毛細血管の退行を効果的に抑制することができる。
ここで、クロロゲン酸類は、1837年にRobiquetらにより初めてコーヒー豆から見つかった物質であり、ポリフェノールと呼ばれる機能性物質群の1つである。クロロゲン酸類は、キナ酸(quinic acid)とカフェー酸(caffeic acid)とが結合した化合物群の総称であり、多くの種類が存在し、特に、コーヒー生豆には、カフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(di-CQA)が多く含有されている。このうち、キナ酸の5位のヒドロキシ基にカフェー酸がエステル結合した5-カフェオイルキナ酸(5-CQA)が、コーヒー生豆に含有されているクロロゲン酸類の中で、最も成分含有率が高く、単に「クロロゲン酸」と呼ばれる。
クロロゲン酸類は、コーヒーの他に、りんご、春菊、さつまいも、じゃがいも、ごぼう、カカオ豆などに多く含まれている。クロロゲン酸類は、脂肪の吸収抑制剤、発癌の予防剤,糖尿病の予防剤などの有効成分として知られている。
【0010】
また、本発明の骨格筋萎縮抑制剤は、クロロゲン酸類を有効成分として含有する。クロロゲン酸類を有効成分として含有する剤は、骨格筋萎縮を効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の毛細血管退行抑制剤は、クロロゲン酸類が、コーヒー豆抽出物に由来することが好ましく、より好ましくは、クロロゲン酸類が、コーヒー生豆抽出物に由来することである。また、コーヒー豆抽出物について、コーヒー生豆から抽出したもの以外では、コーヒー焙煎豆から抽出したものが含まれる。なお、コーヒー焙煎豆の内、浅焙煎の方が、クロロゲン酸類を多く含有させることができる。
本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。
【0012】
本発明の毛細血管退行抑制剤は、コーヒー生豆抽出物が、脱カフェイン、かつ、コーヒーオイルが搾油されたコーヒー生豆の抽出物であることでもよい。本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。コーヒー生豆抽出物には、コーヒー豆由来の不快な臭いがあり、またカフェインを多く含有するため、人によっては大量に摂取すると、頭痛や不眠、吐き気などの症状が現れる。そのため、コーヒー生豆抽出物からカフェインとコーヒーオイルを取り除くことにより、飲料や食品としての利用の促進を図ることができる。
【0013】
本発明の毛細血管退行抑制剤は、コーヒー豆種が、カネフォラ種(ロブスタ種ともいう)であることが好ましい。本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。コーヒー豆種は大別して、アラビカ種とロブスタ種に分けられるが、この内、ロブスタ種の方がアラビカ種よりもクロロゲン酸類が多く含有されている。典型的なコーヒー生豆の場合、ロブスタ種であればコーヒー生豆100g当たり10.4g含まれており、アラビカ種であればコーヒー生豆100g当たり6.6g含まれている。
【0014】
本発明の毛細血管退行抑制剤は、関与成分が、3-CQA、4-CQA、5-CQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3-FQA、4-FQA、5-FQAの9成分から選択される少なくとも一種の成分であることが好ましい。本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。
【0015】
本発明の毛細血管退行抑制剤は、関与成分が、5-CQAの成分と、3-CQA、4-CQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3-FQA、4-FQA、5-FQAの8成分から選択される少なくとも一種の成分であることでもよい。或いは、本発明の毛細血管退行抑制剤における関与成分が、5-CQAの成分と、3-CQA、4-CQA、5-FQAの3成分から選択される少なくとも一種の成分である。或いは、本発明の毛細血管退行抑制剤における関与成分が、5-CQAの成分である。
本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。
後述する実施例で説明するように、クロロゲン酸類を多く含有するコーヒー生豆抽出物を用いた毛細血管の退行抑制効果を検証した。コーヒー生豆抽出物におけるクロロゲン酸類は、3-CQA、4-CQA、5-CQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3-FQA、4-FQA、5-FQAの9種の成分が含まれており、特に、5-CQAの含有量が他の成分と比べて極めて多い。また、例えば、ロブスタ種の典型的なコーヒー生豆抽出物におけるクロロゲン酸類では、5-CQA、3-CQA、4-CQA、5-FQAの4成分が、他の残り5成分と比べても、成分含有量が非常に高いことが知られている(河野洋一らの「コーヒー豆中のクロロゲン酸類と総ポリフェノールの分析」、分析化学(2016年)第65巻6号331~333頁の
図1,表2,表3を参照)。典型的なコーヒー生豆の場合、ロブスタ種であれば5-CQAが総クロロゲン酸類の約50%、アラビカ種であれば5-CQAが総クロロゲン酸類の約64%含まれている。
【0016】
本発明の毛細血管退行抑制剤は、粉末状であることでもよい。パウダー(粉末)にすることで、経口投与が容易となる。例えば、クロロゲン酸類を多く含む自然由来の物から抽出した液を、濃縮し、スプレードライ、フリーズドライなどの手法を用いて乾燥させて、粉末にすることでもよい。本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。
【0017】
本発明の飲料品は、上記の何れかの毛細血管退行抑制剤、又は、上記の骨格筋萎縮抑制剤を含有する。本発明の食品は、上記の何れかの毛細血管退行抑制剤、又は、上記の骨格筋萎縮抑制剤を含有する。本発明の医薬組成物は、上記の何れかの毛細血管退行抑制剤、又は、上記の骨格筋萎縮抑制剤を含有する。
【0018】
本発明の毛細血管退行抑制剤または骨格筋萎縮抑制剤の製造方法は、下記1)~5)の各ステップを備え、クロロゲン酸類の含有割合を25重量%以上としたものである。
1)コーヒー生豆を粉砕するステップ。
2)コーヒー生豆を浸水するステップ。
3)含水アルコールにて抽出するステップ。
4)濃縮・乾燥するステップ。
5)上記ステップを経て得られたコーヒー豆抽出物に含まれるクロロゲン酸類を有効成分として含有させるステップ。
また、上記3)の含水アルコールにて抽出するステップの前に、コーヒー生豆からカフェインを除去するステップを設けても構わない。カフェイン除去の処理は、公知の処理方法を利用することができる。コーヒー生豆を水に浸漬してカフェインを除去することもでき、また、コーヒー生豆を熱水で抽出し、その抽出液に特殊な吸着剤を使用して選択的にカフェインを除去することもできる(例えば、塩野貴史らの「天然吸着剤による飲料からのカフェイン除去技術」(日本食品科学工学会誌、第65巻第3号、99-103頁、2018年3月)を参照)。また、超臨界流体の二酸化炭素を用いて、圧力10MPa以上の高圧、65~80℃の高温でカフェインを除去し、同時にコーヒーオイルを搾油することもできる。
【0019】
本発明の毛細血管退行抑制剤または骨格筋萎縮抑制剤の製造方法は、カネフォラ種(ロブスタ種)のコーヒー生豆を用いて、クロロゲン酸類の含有割合を35重量%以上としたことでもよい。
【0020】
本発明の毛細血管退行抑制剤または骨格筋萎縮抑制剤の製造方法は、クロロゲン酸類において、3-CQA、4-CQA、5-CQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3-FQA、4-FQA、5-FQAからなる群から選択される特定成分の濃度を高めるステップを更に備えたことが好ましい。本発明者の一人の岩井は、既に、コーヒー生豆抽出物をクロマトグラフィーにて分画精製する方法を示している(Iwai et al, “In vitro antioxidative effects and tyrosinase
inhibitory activities of seven hydroxycinnamoyl derivatives in green coffee beans.”,
J. Agric. Food Chem., 52(15), pp.4893-4898,2004の
図2を参照、すなわち、
図2の右縦軸がメタノール濃度を示しており、メタノール濃度を変化させてグラジエント溶出により、クロロゲン酸類を異性体ごとに取り出せることができることを示している。)。また、岩井の論文(Iwai et al, “Study on the Postprandial
Glucose Responses to a Chlorogenic Acid-Rich Extract of Decaffeinated Green
Coffee Beans in Rats and Healthy Human Subjects.”, Food
Sci. Technol. Res., 18 (6), 849-860, 2012)の
図2を参照、すなわちメタノールのグラジエント溶出により、クロロゲン酸類を異性体ごとに取り出す方法だけでなく、エタノールのステップワイズによる溶出でも、クロロゲン酸類において、特定成分の濃度を高めることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、毛細血管の退行を抑制でき、また骨格筋萎縮を抑制できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】ラットヒラメ筋の毛細血管/筋線維比(C/F比)を示すグラフ
【
図3】ラットヒラメ筋のコハク酸脱水素酵素(SDH)活性を示すグラフ
【
図4】ラットヒラメ筋の筋線維横断面積を示すグラフ
【
図5】ラットヒラメ筋のDHE蛍光強度を示すグラフ
【
図8】ラットヒラメ筋のAP染色の光学顕微鏡像(2)
【
図9】ラットヒラメ筋のコハク酸脱水素酵素(SDH)染色像
【
図10】ラットヒラメ筋の毛細血管/筋線維比(C/F比)を示すグラフ(2)
【
図11】ラットヒラメ筋のコハク酸脱水素酵素(SDH)活性を示すグラフ(2)
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、クロロゲン酸類を有効成分とする毛細血管退行抑制剤である。毛細血管退行とは、高齢や病気などによる運動機能の低下などによる身体組織の退行に伴う毛細血管組織の縮小や消滅である。身体組織の退行として、例えば、手足など固定や寝たきりや無重力状態での生活などによる骨格筋委縮などが挙げられる。
【0024】
毛細血管退行抑制とは、身体組織の退行に伴う毛細血管の退行の抑制である。生体の治癒力によって、減少した身体組織の再生が行われるが、組織再生は、まず各種の栄養分を輸送する毛細血管網が再生され、組織細胞が増加していく。毛細血管の退行を抑制することにより、身体組織の回復期間を短縮可能である。
【0025】
本発明におけるクロロゲン酸類について説明する。クロロゲン酸類には、安全性から、天然物由来が好ましい。天然物由来のクロロゲン酸類には、例えば、コーヒー生豆、りんご、春菊、さつまいも、じゃがいも、ごぼう、カカオ豆などの抽出物(エキス)に含有されるクロロゲン酸類が挙げられる。
【0026】
ここで、コーヒー生豆の抽出物を得る方法の一例としては、コーヒー生豆を有機溶媒に懸濁させて粉砕し同時に抽出する方法や、二酸化炭素などで超臨界抽出する方法が挙げられる。
ここで、二酸化炭素などで超臨界抽出する方法は、圧力10MPa以上の高圧、65~80℃の高温状態の超臨界流体の二酸化炭素を用いて、コーヒー生豆を抽出するのがよい。コーヒー生豆抽出物中のカフェインを溶出するときは、一般的に、超臨界流体の二酸化炭素の温度、圧力がそれぞれ高ければ高いほど溶出される。二酸化炭素は、約7.3MPa・31℃で、気体とも液体ともつかない状態になり(臨界点)、この臨界点を超える状態を超臨界流体の状態というが、本発明の超臨界処理の条件としては、圧力10MPa以上、更に好ましくは45MPa以上であり、温度は65~80℃である。なお、温度が65℃以下であるとカフェインは除去しにくく、80℃以上にするとクロロゲン酸がコーヒー生豆から抽出・分解され始める。
【0027】
本発明の毛細血管退行抑制剤におけるクロロゲン酸類の投与量(摂取量)は、成人では1日あたり体重1kg当たり、500~1000mgを経口投与することでよい。1日の摂取量に基づいて、複数回に分けて摂取することでもよい。また、投与量は、投与される患者の年齢、体重、投与形態によって異なるが、1日の摂取量によって適宜配合すればよい。
本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。
【0028】
本発明の毛細血管退行抑制剤は、骨格筋委縮の予防や治療時に投与する。本発明の毛細血管退行抑制剤は、飲料品、食品、医薬品に配合することができる。本発明の血管退行抑制剤には、医薬部外品も含まれる。
本発明の血管退行抑制剤は、健康食品、一般食品、サプリメント、飲料として用いることができる。錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒などの固形投与形態、シロップ及び懸濁液のような液体投与形態で摂取できる。なお、ヒト以外への動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、犬、猫、豚、牛など)に対して、本発明の血管退行抑制剤を飼料として投与しても構わない。
また、本発明の毛細血管退行抑制剤は、コーヒー生豆、りんご、春菊、さつまいも、じゃがいも、ごぼう、カカオ豆などの抽出物をそのまま直接使用することもできるし、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、副素材、増量剤、安定剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造し、使用することもできる。医薬品として用いる場合、投与形態としては、例えば、粉末剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、乳剤、懸濁液剤、シロップ剤などによる経口投与、粉末飲料、液体飲料(ドリンク剤など)などの食品の形態、注射剤、軟膏剤、坐剤、エアゾール剤などによる非経口投与を挙げることができる。
本発明の骨格筋萎縮抑制剤についても同様である。
【0029】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0030】
クロロゲン酸類の摂取が、骨格筋萎縮に伴う毛細血管退行に与える効果について検証した。検証に用いたクロロゲン酸類は、自然由来のもの、具体的には、コーヒー生豆抽出物に含有されているものを使用した。
検証実験は、高齢(リタイア)のWistar系雄ラット24匹を、無作為に6匹ずつ、下記1)~4)の4群に区分し、14日間の飼育後に行った。
1)対照群(CONT群;n=6)
2)クロロゲン酸類摂取群(CGA群;n=6)
3)後肢非荷重群(HU群;n=6)
4)後肢非荷重群+クロロゲン酸類摂取群(HU+CGA群;n=6)
【0031】
上記2),4)におけるクロロゲン酸類摂取群とは、14日間、1日2回、コーヒー生豆抽出物の乾燥粉末を経口投与(1日当たり、ラットの体重1kgに対して粉末850mgを投与)したラット群である。また、上記3),4)における後肢非荷重群とは、ラットの尾部を懸垂するMorey法により、14日間、後肢を非荷重状態にしたラット群である。
各群のラットは、室温で、12時間の明暗周期の環境下で、個別ケージにて14日間飼育し、食餌及び飲水は自由に与えた。なお、動物実験は、神戸大学の動物実験に関する承認を得たうえで、神戸大学の規則等に加えて、「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年10月1日法律第105号、最終改正令和元年法律第39号)、「実験動物の飼養および保管等に関する基準」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(環境省)、「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」(環境省)、米国国立衛生研究所(NIH)による Guidelines for the Care and Use of Laboratory Animals (National
Research Council 1996)等を遵守して実施された。
【0032】
各群について14日間の飼育後、下肢のヒラメ筋における毛細血管/筋線維比(C/F比)、コハク酸脱水素酵素(コハク酸デヒドロゲナーゼ;SDH)、筋線維横断面積について、組織化学染色を用いて測定を行った。
具体的には、以下の手順で測定を実施した。
まず、ヒラメ筋における組織切片について、クリオスタット(CM3050,Leica Microsystems)を使用して、厚さ12μmの切片を作成した。組織切片は毛細血管を観察するためにアルカリフォスファターゼ(Alkaline Phosphatase;AP)染色、また、酸化系酵素を測定するためにコハク酸脱水素酵素(succinate
dehydrogenase;SDH)染色を施した。
【0033】
AP染色は毛細血管を観察する方法として広く用いられており、主に動脈系毛細血管と動静脈移行毛細血管を染色することができる。毛細血管は、酸素や栄養素を運搬する役割を担っており、細胞における酸素需要が増加すると速やかな変化を示す。また、骨格筋では、収縮や運動で骨格筋細胞の活動が増加すると毛細血管数が増加することが知られている。
AP染色は、Hansen-Smithらの方法を用いて、切片をフォルマリン・アセトンで前固定後、ホウ酸緩衝液30mL中に、5bromo-4-chloro-3-indoxyl
phosphate toluidine salt 6mgと、nitroblue tetrazolium 30mgを含む反応液で、60分間、37℃で反応させた。
SDH染色は、5bromo-4-chloro-3-indoxyl phosphate toluidine salt,0.2Mのコハク酸ナトリウム、0.2Mのリン酸緩衝液を混合した反応液で、45分間、37℃で反応させた。
【0034】
AP染色およびSDH染色を施したラットヒラメ筋の標本を用いて、1標本当たり4箇所の顕微鏡視野を任意に選択して、光学顕微鏡で観察し、毛細血管の分布、筋線維横断面積、SDH活性の測定を行った。
光学顕微鏡観察では、詳しくは、光学顕微鏡に接続した冷却CCDカメラを介して、顕微鏡の光量、シャッター速度を一定にして、明視野像を取得した。そして、AP染色の結果から、ヒラメ筋の単位面積当たりの筋線維と毛細血管数の割合である毛細血管/筋線維比(C/F比)と,筋線維横断面積とを、画像処理で測定した。また、SDH染色の結果から、筋線維のタイプ別にSDH活性を可視密度として画像処理で測定した。
【0035】
ここで、SDH活性の測定について説明する。
骨格筋は収縮エネルギーとして、アデノシン3リン酸(ATP)を用いる。骨格筋へのATPの供給は、クレアチンリン酸によるATP再合成(ATP-Cr 系)、グリコーゲンの分解による解糖系(無酸素ATP合成系)、及び、酸化系酵素活性によるTCAサイクル(有酸素ATP合成系)により行われること、その中でも、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応は、効率よくATPを生産する機構であることが知られている。そのため、酸化系酵素のSDH活性を測定する。
【0036】
測定結果について、
図1~
図5に示す。
図1は、各群におけるラットヒラメ筋の標本におけるAP染色の光学顕微鏡像を示している。
図1(A)~(D)は、それぞれ、CONT群、CGA群、HU群、HU+CGA群を示している。
図1中、細胞の周りに黒点で観えるのが毛細血管である。
図2のグラフは毛細血管/筋線維比(C/F比)を示している。また、
図3のグラフはヒラメ筋のSDH活性を示し、
図4のグラフはヒラメ筋の筋線維横断面積を示している。さらに、
図5のグラフは、ヒラメ筋のDHE(Dihydroethidium)蛍光強度を示している。なお、
図2~
図5のグラフにおいて、数値は、平均±標準誤差(SEM)(n=5)を示している。
【0037】
毛細血管/筋線維比(C/F比)のグラフ(
図2)から、CGA群(実施例1A)は、CONT群(比較例A)と比較して、C/F比が有意に高値を示す結果であった。また、後肢非荷重をしたHU群(比較例B)及びHU+CGA群(実施例1B)では、CONT群(比較例A)と比較して、C/F比は低下したが、HU+CGA群(実施例1B)の減少率は低く、HU群と比較して有意に高値を示す結果であった。なお、各群間の有意差は、non-paired
Student t検定を用い、p<0.05をもって有意差ありと判定した。
【0038】
図6に示すように、本実験に使用したカネフォラ種(ロブスタ種)のコーヒー生豆抽出物(脱カフェイン、コーヒーオイル搾油したもの)の成分には、クロロゲン酸類(CGA)が40%含有されており、本実験結果から、コーヒー生豆抽出物を摂取したCGA群(実施例1A)及びHU+CGA群(実施例1B)では、毛細血管の退行が抑制され、クロロゲン酸類(CGA)を投与することによって、毛細血管の退行が抑制・改善されると言える。
【0039】
また、後肢非荷重をしたHU群(比較例B)及びHU+CGA群(実施例1B)ではCONT群(比較例A)と比較して、SDH活性(Integrated
SDH)は低下したが、HU+CGA群(実施例1B)の減少率は低く、HU群(比較例B)と比較して有意に高値を示す結果であった。かかる結果から、クロロゲン酸類(CGA)を投与することで、ラットヒラメ筋の細胞のミトコンドリア代謝の減少が減衰したと言える。
【0040】
さらに、筋線維横断面積については、後肢非荷重をしたHU群(比較例B)及びHU+CGA群(実施例1B)ではCONT群(比較例A)と比較して、SDH活性と筋線維横断面積の何れについても低下したが、HU+CGA群(実施例1B)の減少率は低く、HU群(比較例B)と比較して有意に高値を示す結果であった。かかる結果から、クロロゲン酸類(CGA)を投与することで、骨格筋萎縮を抑制したものと推察する。
以上の結果から、クロロゲン酸類(CGA)の経口投与によって、骨格筋萎縮に伴う毛細血管退行の進行を減衰することができることが判った。
【0041】
また、ヒラメ筋のDHE蛍光強度のグラフ(
図5)から、後肢非荷重をしたHU群(比較例B)のDHE蛍光強度は、CONT群(比較例A)、CGA群(実施例1B)、および
HU+CGA群(実施例1B)の値と比較して有意に高値を示す結果であった。それどころか、HU+CGA群(実施例1B)の値は、HU群(比較例B)の値と比較して有意に低い結果であった。酸化ストレス条件下では、活性酸素種(Reactive Oxygen Species;ROS)の産生が劇的に増加することが知られているが、
図5の結果は、細胞内のROS産生が、HU群(比較例B)でより高いこと、クロロゲン酸類(CGA)を投与することで、ROSの過剰生産を減らすことができることが明らかになった。
【0042】
(コーヒー生豆抽出物の作製フローについて)
図7に、上記動物実験に使用したコーヒー生豆抽出物の作製フローを示す。以下の作製フローでは、コーヒー生豆からカフェインを除去している。カフェイン除去には、70℃~80℃、45MPa以上の状態にある超臨界流体の二酸化炭素を用いて行った。カフェインは、代謝を向上する効果があり、ラットに摂取させるとダイエット効果が現れることから、脱カフェインとして、クロロゲン酸類による効果を確認できるようにしたものである。
なお、コーヒー生豆抽出物の作製においては、必ずしも脱カフェインを行わなくともよく、また、カフェイン除去について、超臨界流体の二酸化炭素を用いる方法に限定されるものではないが、超臨界流体処理を施すことにより、コーヒー生豆からカフェインと同時にコーヒーオイルを除去することができる。さらに、コーヒー生豆には、カウェオール、カフェストールをはじめとしたジテルペン類が含まれ、コレステロール値や中性脂肪値を上昇させる因子として知られているが、超臨界流体の二酸化炭素で抽出することにより予めこれらのジテルペン類を除去しておくことができる。
【0043】
(1)コーヒー生豆を粉砕する工程(ステップS01)
カネフォラ種(ロブスタ種)のコーヒー生豆を平均粒子径が略4.0mmになるよう粉砕する。粉砕は、通常の機械的粉砕や凍結粉砕処理などで行うが、この粉砕する手段は特に限定されるものではない。
(2)コーヒー生豆を浸水(調湿)する工程(ステップS02)
コーヒー生豆を粉砕したものに対し、水を添加し調湿を行う。カフェインを除くための条件としてコーヒー生豆の水分量を43%(増減2%)にしている。なお、あえてカフェインを除く必要がなければ、浸水(調湿)工程は省略することができる。
【0044】
(3)コーヒー生豆を超臨界流体処理する工程(ステップS03)
コーヒー生豆を70℃~80℃、45MPa以上の状態にある超臨界流体二酸化炭素を用いて、S/F50の条件(ここで、S/Fとは原料のコーヒー生豆に対して流す二酸化炭素の重量比のことである)の超臨界流体処理を施すことにより、所定時間、接触処理を行い、コーヒー生豆からカフェインやその他の物質(コーヒーオイルなど)を除去する。ここで、S/Fとは原料(コーヒー生豆)に対して流す二酸化炭素の重量比のことで、例えば、S/F=50であれば、コーヒー量が1(重量)に対して、二酸化炭素重量は、50(重量)となる。
【0045】
(4)含水アルコールにて抽出する工程(ステップS04)
上記の超臨界流体処理する工程により、コーヒー生豆からカフェインやその他の物質を除去した後、除去後のコーヒー生豆から、更に含水アルコールにて抽出、濃縮、乾燥して抽出物を得る。
なお、抽出溶媒としては、極性溶媒を使用できる。極性溶媒としては、水、または、アルコール類(例えば、エタノール、メタノールの低級アルコール、あるいは、プロピレングリコールなどの多価アルコール)などの極性有機溶媒が挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を任意に組み合わせて使用することが可能である。好ましくは、水単独または水と極性有機溶媒の混合溶媒である。水と極性有機溶媒との混合溶媒の場合、水と極性有機溶媒の混合比は特に制限されないが、極性有機溶媒の容量比が50%以上であるのが好ましい。水と混合する極性有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、メタノールまたはエタノールがより好ましい。また、抽出時間は特に制限されない。
【0046】
(5)濃縮・乾燥する工程(ステップS05)
抽出した液は、減圧下で加熱することなどにより溶媒を除去して濃縮した後、スプレードライ、フリーズドライなどの手法を用いて乾燥することにより、コーヒー生豆抽出物の粉末を得る。あるいは、抽出液に賦形剤等を添加して乾燥しても構わない。
【0047】
具体的に、コーヒー生豆抽出物(超臨界流体二酸化炭素処理工程を経て得られるもの)の作製フローについて、以下の(a)~(f)に説明する。
(a)コーヒー生豆(Indonesia AP-1/カフェイン含有量1.94%)を平均粒子径4.0mmになるよう粉砕する。
(b)コーヒー生豆を粉砕したもの87.3kgに対し、水43.2kgを添加し調湿を行う。
(c)その後、このコーヒー生豆を80℃、45MPaの状態にある超臨界流体二酸化炭素を用いて、S/F50の条件にて200分間接触処理を行う。
(d)次に、超臨界二酸化炭素処理後のコーヒー生豆160.0kgに対し、56%(w/v)エタノール1600Lを添加し、バブリングを行いつつ、50℃で1時間抽出を行う。
(e)抽出物に対して固液分離を行なった後、56%(w/v)エタノール800Lを添加し、バブリングを行いつつ、再度50℃で1時間抽出を行う。
(f)上記の2回の抽出で得られた抽出液を濾過、125℃、1分間殺菌した後、50℃で減圧濃縮し、180℃でスプレードライを行ない、27.8kgのコーヒー生豆抽出物が得る。得られるコーヒー生豆抽出物のカフェイン及び総クロロゲン酸類含有量は、それぞれ0.0%、40.0%である。カフェイン含量(%)及び総クロロゲン酸類含量の測定は、それぞれ試料0.4gを秤量し、純水100mLに溶解・定容してHPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析することにより行える。
本実施例では、後肢非荷重のラット群に対して、コーヒー生豆抽出物におけるクロロゲン酸類(CGA)の含有量(重量%)を5%、40%、50%に変化させたものを摂取させ、含有量が異なるクロロゲン酸類の摂取が、骨格筋萎縮に伴う毛細血管退行に与える効果について検証した結果を示す。
なお、検証に用いたクロロゲン酸類は、実施例1と同様、自然由来のカネフォラ種(ロブスタ種)のコーヒー生豆抽出物(脱カフェイン、コーヒーオイル搾油したもの)から、カラムクロマトグラフィーにてクロロゲン酸の吸収波長である325nmの吸収画分、および非吸収画分の調製を試みた。まず20.0g(乾燥重量)のコーヒー生豆抽出物を少量の0.05%(v/v)酢酸に溶解させた。この溶液をToyopearl HL-40Cカラム(カラム内径4.0cm、カラム長50cm、ゲル体積502.4cm3)に供し、1700mLの0.05%酢酸、1360mLの50% (v/v)メタノール、最後に1360mLの99.5%(v/v)メタノールの順にそれぞれ1.2mL/minで溶出し、試験管にて回収した。その後、325nmの吸光度を持つフラクションと非吸収フラクションを回収しまとめた。その後、まとめた回収フラクションは、減圧下で濃縮、凍結乾燥し、動物試験使用まで4℃で保管した。この操作を複数回繰り返すことによって検証実験用サンプルを作成した。325nmの吸収画分におけるクロロゲン酸類の含有量は50%、および非吸収画分のクロロゲン酸類含有量は5%であった。
上記2)~5)における後肢非荷重群とは、ラットの尾部を懸垂するMorey法により、14日間、後肢を非荷重状態にしたラット群である。また、上記3)~5)におけるクロロゲン酸類摂取群とは、14日間、1日2回、コーヒー生豆抽出物の3種類の乾燥粉末を経口投与(1日当たり、ラットの体重1kgに対して粉末850mgを投与)したラット群である。3種類の乾燥粉末は、そのままのものが40%CGA群であり、クロロゲン酸類の含有量を多くしたものが50%CGA群であり、反対に含有量を少なくしたものが5%CGA群である。
各群のラットは、実施例1と同様に、室温で、12時間の明暗周期の環境下で、個別ケージにて14日間飼育し、食餌及び飲水は自由に与えた。なお、動物実験は、実施例1と同様、神戸大学の動物実験に関する承認を得て、神戸大学の規則等、各種の基準・指針を遵守して実施された。
各群について14日間の飼育後、下肢のヒラメ筋における毛細血管/筋線維比(C/F比)、コハク酸脱水素酵素(コハク酸デヒドロゲナーゼ;SDH)について、組織化学染色を用いて測定を行った。実施例1と同様に、各測定手順は、ヒラメ筋における組織切片について、クリオスタットを使用し厚さ12μmの切片を作成し、組織切片は毛細血管を観察するためにAP染色、また、酸化系酵素を測定するためにコハク酸脱水素酵素(SDH)染色を施した。
AP染色およびSDH染色を施したラットヒラメ筋の標本を用いて、1標本当たり4箇所の顕微鏡視野を任意に選択して、光学顕微鏡で観察し、毛細血管の分布、SDH活性の測定を行った。AP染色の結果から、ヒラメ筋の単位面積当たりの筋線維と毛細血管数の割合である毛細血管/筋線維比(C/F比)を画像処理で測定した。また、SDH染色の結果から、筋線維のタイプ別にSDH活性を可視密度として画像処理で測定した。
以上の結果から、14日間、後肢を非荷重状態にしたラット群に対し、コーヒー生豆抽出物におけるクロロゲン酸類(CGA)の含有量(重量%)を5%、40%、50%に変化させたものを、その14日間、1日2回、経口投与したところ、40%の含有量のクロロゲン酸類(実施例2A;HU+40%CGA群))の場合が、他の含有量(50%、5%)と比較して、毛細血管/筋線維比(C/F比)が増加し、コハク酸が多くミトコンドリア活性が高いことから、最も、骨格筋萎縮に伴う毛細血管退行に与える効果があることが分かった。
また、実施例2C(HU+5%CGA群)では、比較例2B(HU群)と比較して殆ど効果が見られず、骨格筋萎縮に伴う毛細血管退行を抑制できていなかった。このことから、骨格筋萎縮に伴う毛細血管退行の進行を減衰する主たる効果・効能を示す成分としては、クロロゲン酸類であることが明らかとなった。
なお、予想に反し、実施例2Aよりも、クロロゲン酸類の含有量が多い実施例2B(HU+50%CGA群)が、効果が逆転しているが、この理由としては、クロロゲン酸類は一度に大量に摂取しても細胞内に吸収できる上限があるためと推察している。