(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029866
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】パルボウイルスベクターの産生
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20230228BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230228BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N15/31
C12N15/864 Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022186127
(22)【出願日】2022-11-22
(62)【分割の表示】P 2020557157の分割
【原出願日】2019-04-16
(31)【優先権主張番号】1806333.9
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘリング,クリストファー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】同種の野生型(WT)株の原核細胞と比較して一本鎖結合タンパク質を過剰発現する、原核細胞を提供する。
【解決手段】一本鎖結合タンパク質を過剰発現する、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む原核細胞を提供する。本発明はまた、パルボウイルスベクター粒子産生の産生に関与する核酸ベクターを増殖させ、精製するために、前記核酸ベクターを使用する、使用及び方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む原核細胞であって、同種の野生型(WT)株の原核細胞と比較して一本鎖結合タンパク質を過剰発現する、前記原核細胞。
【請求項2】
RecA又は機能的相同体欠損株である、請求項1記載の原核細胞。
【請求項3】
SbcCD又は機能的相同体欠損株である、請求項1又は2記載の原核細胞。
【請求項4】
パルボウイルスが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ボカウイルス(BoV)、又はマウスの微小ウイルス(MVM)である、請求項1~3のいずれか1項記載の原核細胞。
【請求項5】
一本鎖結合タンパク質をコードする外因性核酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の原核細胞。
【請求項6】
過剰発現した一本鎖結合タンパク質が、前記原核細胞のWT株に対して内因性のバリアントである、請求項1~5のいずれか1項記載の原核細胞。
【請求項7】
細菌細胞であり、任意選択で、エシェリキア属(Escherichia)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、連鎖球菌属(Streptococcus)又はビブリオ属(Vibrio)の細菌細胞である、請求項1~6のいずれか1項記載の原核細胞。
【請求項8】
属がエシェリキア属の場合、大腸菌(E. coli)である、請求項7記載の細胞。
【請求項9】
パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列と一本鎖結合タンパク質をコードする核酸配列とを含む核酸ベクター。
【請求項10】
パルボウイルスがAAV、BoV又はMVMである、請求項9記載の核酸ベクター。
【請求項11】
パルボウイルスがAAVである場合、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はそれらの組合せに由来する、請求項10記載の核酸ベクター。
【請求項12】
一本鎖結合タンパク質がプロモーターに作動可能に連結されている、請求項9~11のいずれか1項記載の核酸ベクター。
【請求項13】
プロモーターがssb遺伝子の天然プロモーターである、請求項12記載の核酸ベクター。
【請求項14】
プロモーターが、T7、T7lac、Sp6、araBAD、trp、lac、Ptac又はpLのうちのいずれか1つである、請求項12記載の核酸ベクター。
【請求項15】
一本鎖結合タンパク質が大腸菌一本鎖結合タンパク質である、請求項9~14のいずれか1項記載の核酸ベクター。
【請求項16】
組換えパルボウイルスベクター粒子、任意選択で組換えAAVベクター粒子又は組換えBoVベクター粒子の産生における、請求項9~15のいずれか1項記載の核酸ベクターの使用。
【請求項17】
一本鎖結合タンパク質をコードする核酸配列が、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む核酸ベクターとは、別個の核酸ベクター上にある、請求項16記載の核酸ベクターの使用。
【請求項18】
核酸ベクターの増殖及び精製の方法であって:
(i) 請求項9~15のいずれか1項記載の核酸ベクターを細胞に導入するステップ、
(ii) ステップ(i)の細胞の培養物を増殖させるステップ、
(iii) ステップ(ii)の細胞を回収し、且つ溶解させるステップ、
(iv) ステップ(iii)の溶解細胞から核酸ベクターを精製するステップ
を含む、前記方法。
【請求項19】
プラスミドが、組換えパルボウイルスベクター粒子産生のためのものである、請求項18記載の核酸ベクターの増殖及び精製の方法。
【請求項20】
一本鎖結合タンパク質をコードする核酸配列を、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む核酸ベクターとは、別個の核酸ベクター中で細胞に導入する、請求項18又は19記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルボウイルスベクター粒子産生に必要な核酸配列を含む核酸ベクター及びその使用に関する。また、組換えパルボウイルスベクターの産生において使用される本明細書に記載の核酸ベクターを増殖させ、精製する方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
ウイルスベクターシステムは、遺伝子療法で使用される効果的な遺伝子送達方法として提案されてきた(Verma及びSomia (1997) Nature 389: 239~242頁)。つい最近では、パルボウイルス亜科(Parvovirinae)ファミリー、例えば、ディペンドパルボウイルス属(dependoparvovirus)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ボカパルボウイルス属(bocaparvovirus)、ヒトボカウイルス(HBoV)、さらにはHBoVカプシドを用いてシュードタイピングされたAAVベクター(Yanら(2013) Mol Thera, 21: 2181~2194頁)が、遺伝子療法適用向けの望ましいウイルスベクターとして同定されている。
【0003】
パルボウイルスのゲノムは、両端に末端反復配列を持つ直鎖状一本鎖DNAゲノムからなる。これらの末端反復は、それによって二次構造が生じる回文配列、例えば、第二鎖DNA合成を開始する複製に必須のヘアピン及び十字形を、含有する(Shenら(2016) J Virol 90:7761~7777頁)。さらに、回文末端反復配列及びその二次構造は、パルボウイルスの組換えDNAゲノムをパルボウイルスビリオンにパッケージングするのに必須である(McLaughlinら、(1988), J Virol 62:1963~1973頁; Samulskiら、(1989), J Virol 63: 3822~3828頁; Balagueら、1997, J Virol 71:3299~3306頁)。
【0004】
遺伝子療法で使用される組換えパルボウイルスベクター粒子を産生する場合、パルボウイルスの天然ゲノムを改変して、調節タンパク質及び構造タンパク質をコードする、末端反復配列間の遺伝子を除去し、目的の遺伝子(導入遺伝子)で置き換える。したがって、パルボウイルスの組換えDNAゲノムは、末端反復配列が隣接する導入遺伝子を含む。パルボウイルスの組換えDNAゲノムの核酸配列を含むプラスミドは、移入ベクター又は移入プラスミドとして一般的に公知である。天然パルボウイルスDNAゲノムから除去された調節遺伝子及び構造遺伝子をコードするパルボウイルス遺伝子は、産生される組換えパルボウイルスがディペンドパルボウイルスである場合、ヘルパーウイルスに由来する遺伝子(ヘルパー遺伝子)と共にトランスで提供される。
【0005】
組換えベクター粒子産生のための組換えDNAゲノム(移入ベクター)のクローニング及び増殖の過程で、末端反復配列の安定性には問題があり、その結果、導入遺伝子に隣接する一方の又は両方の末端で、末端反復配列又は全体の末端反復内においてヌクレオチドの欠失がもたらされることが見いだされた。このことは、当技術分野で公知の問題であり、この問題は、例えば、the Viral Vector Facility, Zurich、(「Widespread deletion of 11 bp within one ITR of AAV-2 vector plasmids」, Viral Vector Facility, Zurich)及びPetriら(Petriら、(2014) BioTechniques 56:269~273頁)によって報告されており、組換えパルボウイルスベクター粒子の製造効率に重要な課題を提起する。
【0006】
末端反復配列の回文の性質から生じる二次構造は、様々な細胞メカニズムの作用を受け、それにより、末端反復配列の不安定性の原因になると仮定されている。細胞メカニズムの例には、複製、組換え、DNA修復、及び二次構造を特異的に標的とするヌクレアーゼが含まれる(Connelly及びLeach、(1996) Genes to Cells, 1:285~291頁; Darmonら、(2010) Mol Cell 39:59~70頁; Bikardら、(2010) Microbiol Mol Biol Rev 74:570~588頁)。
【0007】
例えば、組換えタンパク質RecA及び/又はヘアピンヌクレアーゼSbcCDタンパク質欠損大腸菌(E. coli)株を使用する(Darmonら、(2010) Mol Cell 39:59~70頁; Agilent Technologies, 「AAV Helper-Free System」 Instruction Manual)、問題に当たり、問題を軽減する現在の方法にもかかわらず、クローニング及び増殖過程のパルボウイルス末端反復配列の不安定性は、特にクローニングの初期段階及びスケールアップ過程の製造のスケールアップに関して、依然として問題のままである。
【0008】
したがって、本発明の一目的は、パルボウイルス末端反復の安定性を改善するための、核酸ベクター、その使用、及び組換えパルボウイルスベクター粒子産生において使用される本明細書に記載の核酸ベクターを増殖させる方法を提供することである。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、一本鎖結合(SSB)タンパク質を過剰発現する原核細胞において、末端反復配列を操作する、例えば、クローニングする又は増殖させる場合、パルボウイルス末端反復配列の安定性の改善が達成されることを見いだした。
【0010】
したがって、本発明の一態様によれば、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む原核細胞であって、同種の野生型(WT)株の原核細胞と比較して一本鎖結合タンパク質を過剰発現する、原核細胞が提供される。
【0011】
本発明のさらなる態様によれば、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列及び一本鎖結合タンパク質をコードする核酸配列を含む核酸ベクターが提供される。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、組換えパルボウイルスベクター粒子の産生における本明細書に記載の核酸ベクターの使用が提供される。組換えパルボウイルスベクター粒子は、組換えAAVベクター粒子であっても、組換えBoVベクター粒子であってもよい。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、本明細書に記載の核酸ベクターの増殖及び精製の方法であって:
(i) 本明細書に記載の核酸ベクターを細胞に導入するステップ
(ii) ステップ(i)の細胞の培養物を増殖させるステップ
(iii) ステップ(ii)の細胞を回収するステップ及び溶解させるステップ
(iv) ステップ(iii)の溶解細胞からプラスミドDNAを精製するステップ、
を含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】移入ベクタープラスミドのSmaI消化物を示すアガロースゲルの図である。
【
図2】30℃及び37℃での移入ベクタープラスミドのSmaI消化物を示すアガロースゲルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で参照するすべての特許及び出版物は、参照よりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0016】
用語「含む(comprising)」とは、「含む(including)」又は「なる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみからなってもよく、又は付加的な何か、例えば、X+Yを含んでもよい。
【0017】
用語「から本質的になる」とは、特徴の範囲を、明示された材料又はステップ及び特許請求される特徴の基本的な特性に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。
【0018】
用語「からなる」とは、いずれの付加的な成分の存在も排除する。
【0019】
用語「末端反復配列」とは、パルボウイルスゲノムDNAの末端での回文配列を指し、この配列は二次構造を、例えばヘアピン及び十字形を形成し、ゲノムDNA又は組換えゲノムDNAの複製に必要である。パルボウイルス末端反復配列は当技術分野で周知であり、パルボウイルスの複製、パッケージング、及び組込みイベントに必須であることがはっきりと特徴付けられている(例えば、Shenら、(2016) J Virol 90:7761~7777頁)。
【0020】
用語「核酸ベクター」とは、それが複製し及び/又は発現することができる別の細胞に、外来の(すなわち外因性の)遺伝物質を人為的に運ぶことができるビヒクルを指す。核酸ベクターの例としては、限定されないが、プラスミド、ミニサークル、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、P1由来人工染色体(PAC)、コスミド又はフォスミドが挙げられる。
【0021】
核酸ベクターという文脈において用語「核酸配列」とは、核酸ベクターのDNAを指す。核酸配列は、遺伝子エレメント、例えば、末端反復、プロモーター又は転写ターミネーターを含むことができ、又はタンパク質をコードすることができる。
【0022】
パルボウイルスという文脈において用語「ベクター粒子」又は「ビリオン」とは、パルボウイルスのDNAゲノムを運ぶのに適したパルボウイルスカプシド粒子を指し、組換えパルボウイルスベクター粒子の場合、この粒子は、いずれかの端でパルボウイルス末端反復配列が隣接する導入遺伝子で構成されることになる。用語「ベクター粒子」及び「ウイルスベクター」は同義的に使用される。
【0023】
「ベクター粒子」、「ビリオン」、「パルボウイルスのDNAゲノム」又は「遺伝物質」が本明細書において「組換え」であると記載される場合、それは、DNA又はパルボウイルスベクター粒子の野生型バージョンが、一般には異なる供給源からのDNAを包含することによって改変されていることを意味する。したがって、パルボウイルスの、組換えパルボウイルスベクター粒子又は組換えDNAゲノムは、異なる供給源からの核酸配列を、一般には目的の遺伝子を、有することになる。
【0024】
用語「形質転換」及び「形質導入」とは、本明細書で使用する場合、標的細胞への核酸ベクター又はウイルスベクターの挿入を記載するのに使用することができる。核酸ベクターの挿入は、細菌細胞については形質転換と通常には呼ぶことができ、ウイルスベクターの挿入はまた形質導入とも呼ぶことができる。当業者であれば、一般的に使用される様々な非ウイルストランスフェクション法を知っており、この方法には、限定されないが、物理的方法(例えば、エレクトロポレーション、細胞スクイージング、ソノポレーション、光学的トランスフェクション、プロトプラスト融合、インペールフェクション、マグネトフェクション、遺伝子銃又は粒子衝撃)、化学試薬(例えば、リン酸カルシウム、高分岐有機化合物又はカチオン性ポリマー)又はカチオン性脂質(例えば、リポフェクション)の使用が含まれる。多くのトランスフェクション法では、プラスミドDNAの溶液を細胞に接触させることが必要であり、次いで、この細胞を増殖させ、マーカー遺伝子発現に関して選択する。
【0025】
用語「機能的相同体」とは当技術分野で周知であり、本明細書で使用される場合、種間又は界間で等価のタンパク質(タンパク質相同体)を指す。例えば、RecAタンパク質の機能的バリアントとは、細菌株間でRecAタンパク質のバリアントを指す。
【0026】
用語「天然プロモーター」は当技術分野で周知であり、野生型細胞において特定の遺伝子の転写を駆動するプロモーターを意味するのに使用される。
【0027】
パルボウイルス
パルボウイルスは、主要な3つのグループに、すなわち、デンソウイルス、自律型パルボウイルス(APV)、例えばボカウイルス(BoV)、及びディペンドウイルス、例えばAAVに、細分類される。デンソウイルスは昆虫にのみ感染する。APV及びディペンドウイルスは脊椎動物に感染する。APVはヘルパーウイルスを必要とせずに標的細胞において複製することができるが、一方、ディペンドウイルスは複製のためにヘルパーウイルスが必要である。
【0028】
パルボウイルスのゲノムは、およそ5キロベース(kb)の一本鎖DNAから構成されている。ゲノムの両端又は両末端には、いずれのタンパク質もコードしない末端反復として公知の配列がある。パルボウイルスでは、末端反復配列は回文性である。
【0029】
パルボウイルスのゲノムは左半分と右半分に大別することができ、これらはそれぞれ、調節タンパク質及び構造(カプシド)タンパク質をコードする。複製に関与する調節タンパク質はRep又はNS(非構造タンパク質に対して)として公知であり、構造カプシドタンパク質はVPと呼ばれる(Ponnazhagan (2004) Expert Opin Biol Ther 4:53~64頁)。
【0030】
回文末端反復はヘアピン様又は十字形の構造を形成し、ウイルスゲノム複製に必須である。末端反復はまた、ウイルスビリオンへのゲノムパッケージングに、また、パルボウイルスDNAゲノムの宿主染色体への組込みにも必須である。
【0031】
ホモテロメアな(Homotelomeric)パルボウイルス、例えばAAVは、配列が反転し、構造が同一である2つのゲノム末端反復配列を含む。ホモテロメアなパルボウイルスによる複製プロセスは対称的である。ヘテロテロメアな(Heterotelomeric)パルボウイルス、例えばHBoVは、同様でない2つのゲノム末端反復配列を含み、その結果、3'末端ヘアピンが5'末端ヘアピンとは異なる。HBoV1では、3'末端ヘアピンはミスマッチヌクレオチドを有する140ntのウサギの耳の構造を形成し、一方、5'末端ヘアピンは長さ200ntの完全な回文配列からなる(Shenら、(2016) J Virol 90:7761~7777頁)。他のヘテロテロメアなパルボウイルス、すなわちマウスの微小ウイルス(MVM)及びウシパルボウイルス(BPV)では、それらの5'末端反復配列は十字形の構造を形成することができる。ホモテロメアなパルボウイルスもヘテロテロメアなパルボウイルスも、いずれかのヘアピン末端内にある複製起点は、それぞれ、AAV又はHBoVの調節タンパク質Rep78/68又はNS1による結合のための結合エレメントを含有する。
【0032】
AAV
AAVは、AAV2の末端に145ヌクレオチド長の2つの逆方向末端反復(ITR)を有する、およそ4.7キロベース(kb)の直鎖状単鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する。ITRは、それぞれ、非構造タンパク質及び構造タンパク質をコードする2つのウイルス遺伝子、rep(複製)及びcap(カプシド)に隣接し、AAVゲノムのカプシドへのパッケージングに及び感染時の第二鎖DNA合成を開始するのに必須である。AAVは、細胞培養における増殖性感染の場合、ヘルパーウイルスとの、例えばアデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)又はワクシニアウイルスとの、同時感染を必要とするので、ディペンドパルボウイルス属(パルボウイルス科(Parvoviridae)の一属)に分類された(Atchisonら(1965) Science 149:754頁; Bullerら(1981) J. Virol. 40: 241頁)。
【0033】
AAV2のITR配列は、それぞれ145ベースを含み、AAVゲノムの複製及びカプシドへのパッケージングに必要な唯一のシス作用エレメントである。通常、ITRは、ベクターゲノムの5'末端及び3'末端にあり、異種核酸(導入遺伝子)に隣接するが、それに連続する必要はないことになる。ITRは、自分自身に折り戻ってヘアピン様二次構造を形成する、GC含量が70%の不完全回文である(Henckaerts及びLinden (2010) Future Virol 5:555~574頁)。145nt配列は、DNA複製、パッケージング、及び組込みをサポートするのに必要なシス作用シグナルのすべてを含有する(Mclaughlinら、(1988) J Virol 62:1963~1973頁; Samulskiら、(1989) J Virol 63:3822~3828頁)。ITRは、配列において互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
AAVのITRは、限定されないが、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは13、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、又は現在公知か若しくは後に発見される他の任意のAAVを含む、任意のAAVに由来するものとすることができる。AAVのITRは、末端反復が所望の機能、例えば、複製、ウイルスのパッケージング、及び/又は組込み等を媒介する限り、天然の末端反復を有する必要はない(例えば、天然AAVのITR配列は、挿入、欠失、短縮化及び/又はミスセンス突然変異によって変更されていてもよい)。
【0035】
種々の天然ITRのゲノム配列が、当技術分野で周知である。このような配列は、文献において又は公開データベース、例えば、GenBankにおいて見いだすことができる。その開示がAAV核酸及びアミノ酸配列を教示するために参照により本明細書に組み込まれる、例えば、GenBank受託番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、AY631966、AX753250、EU285562、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852及びAY530579を参照されたい。
【0036】
BoV
パルボウイルス科のうちのボカパルボウイルス属のうちの種には、ヒトボカウイルス(HBoV)、イヌの微小ウイルス(MVC)、ウシパルボウイルス(BPV)、ブタボカウイルス及びゴリラボカウイルスが含まれる。
【0037】
ボカウイルスは、ゲノムの真ん中にあるオープンリーディングフレームから核内低分子リンタンパク質NP1を発現するという点で、他のパルボウイルスから独特である。NP1は非構造タンパク質であり、ボカウイルスDNA複製に必要である(Shenら(2016) J Virol 90:7761~7777頁)。
【0038】
ヒトボカウイルス1(HBoV1)の完全ゲノムはGenBank受託番号JQ923422から得ることができる。
【0039】
組換えパルボウイルスの産生
組換えパルボウイルスベクター粒子の産生方法は当技術分野で周知であり。通常の方法では、目的の遺伝子(導入遺伝子)をパルボウイルスゲノムの末端反復配列間にクローニングする。パルボウイルス末端反復配列が隣接する導入遺伝子の核酸配列を運ぶプラスミドは、一般的に移入ベクターと呼ばれる。野生型ウイルスのNS/Rep及びVPをコードする遺伝子、及び必要に応じてヘルパーウイルスタンパク質の遺伝子は、トランスで提供される。トランスでウイルス遺伝子を提供することにより、産生された組換えパルボウイルスベクター粒子は複製欠陥であることが保証される。したがって、移入ベクタープラスミド、NS/Rep及びVPプラスミド、及び必要に応じてヘルパープラスミドを、原核細胞において大規模に調製し、増殖させ、精製し、その後に、哺乳動物細胞にトランスフェクトする。遺伝子療法向けのウイルスベクターを産生する場合、プラスミド並びに最終的なウイルスベクター粒子は、厳格な慣行及び規制基準(例えば、適正製造基準)に忠実に従う必要がある。次いで、トランスフェクトされた細胞を増殖させ、溶解し、組換えパルボウイルスを勾配遠心分離又はイオン交換クロマトグラフィーに供して、哺乳動物細胞によって産生された組換えビリオン粒子を精製する。
【0040】
細胞
本発明の一態様では、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む原核細胞であって、同種の野生型(WT)株の細胞と比較して一本鎖結合タンパク質を過剰発現する、原核細胞が提供される。パルボウイルス末端反復配列は当技術分野で周知である。例えば、少なくともAAV及びHBoV1の末端反復配列は、上で提供のそれぞれのGenBank受託番号から得ることができる。
【0041】
一実施形態では、原核細胞は、2つのパルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む。
【0042】
一実施形態では、原核細胞は細菌細胞である。さらなる実施形態では、細菌細胞は、エシェリキア属(Escherichia)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、連鎖球菌属(Streptococcus)又はビブリオ属(Vibrio)のものである。好ましい実施形態では、細胞は大腸菌細胞である。
【0043】
一本鎖結合(SSB)タンパク質は当技術分野でよく周知であり、原核生物と真核生物の両方で並びにウイルスで、種全体にわたって同定され、特徴付けられているタンパク質のクラスである。SSBタンパク質の機能は、一本鎖DNAに結合し、一本鎖DNAが二本鎖DNAにアニーリングするのを防止すること、及び一本鎖DNAが分解するのを防止することである。細菌のSSBタンパク質は、DNAの複製、修復、及び組換えにおいて役割を果たすことが公知である(Meyer及びLaine、(1990) Microbiol Rev 54:342~380頁)。
【0044】
一実施形態では、SSBタンパク質は、原核細胞に特有であるバリアントである。一実施形態では、SSBタンパク質は大腸菌SSBタンパク質である。大腸菌ssb遺伝子の核酸配列はGenBank受託番号J01704から得ることができる。
【0045】
一実施形態では、原核細胞は、RecA欠損株である。別の実施形態では、原核細胞は、RecAの機能的相同体を欠損する株である。RecAは、DNAの修復及び維持に必須のタンパク質であり、相同組換えにおいて中心的な役割を持つ。RecAタンパク質の機能的相同体は当技術分野で周知である。例えば、真核生物の機能的相同体はRAD51であり、古細菌の機能的相同体はRadAである。
【0046】
一実施形態では、原核細胞は、SbcCD欠損株である。別の実施形態では、原核細胞は、SbcCDタンパク質の機能的相同体を欠損している。SbcCDタンパク質は、原核生物及び真核生物に見いだされるヌクレアーゼである。大腸菌では、SbcCDタンパク質は、ATP依存性の二本鎖DNAエキソヌクレアーゼ及びATP非依存性の一本鎖DNAエンドヌクレアーゼとして機能する大きな複合体を形成する。SbcCD機能的相同体は当技術分野で周知である。
【0047】
一実施形態では、パルボウイルスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ボカウイルス(BoV)、又はマウスの微小ウイルス(MVM)である。
【0048】
一実施形態では、過剰発現したSSBタンパク質は、原核細胞のWT株に対して内因性のバリアントである。
【0049】
一実施形態では、細胞は、SSBタンパク質をコードする外因性核酸配列を含む。一実施形態では、外因性核酸配列は、原核細胞に対して内因性のバリアントであるSSBタンパク質をコードする。
【0050】
核酸ベクター
本発明の一態様によれば、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列及び一本鎖結合タンパク質をコードする核酸配列を含む核酸ベクターが提供される。
【0051】
パルボウイルス末端反復配列は、末端反復が所望の機能、例えば、複製、ウイルスのパッケージング、及び/又は組込み等を媒介する限り、WTパルボウイルスに対して特有の末端反復配列である必要はない(例えば、天然AAVのITR配列は、挿入、欠失、短縮化及び/又はミスセンス突然変異によって変更されていてもよい)。
【0052】
一実施形態では、核酸ベクターは、2つのパルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む。
【0053】
一実施形態では、パルボウイルスがAAV、BoV又はMVMである。
【0054】
一実施形態では、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はそれらの組合せに由来する。
【0055】
さらなる実施形態では、SSBタンパク質はプロモーターに作動可能に連結されている。プロモーターは任意選択で、ssb遺伝子の天然プロモーターである。つまり、同種のWT株の細胞におけるssb遺伝子の天然プロモーター、例えば、大腸菌ssb遺伝子については、大腸菌ssb遺伝子プロモーターである。
【0056】
一実施形態では、SSBタンパク質は大腸菌SSBタンパク質である。
【0057】
本発明の核酸ベクターは、さらなる追加の成分を含むことができる。これらの追加の特徴は、例えば、翻訳の転写物を安定化する、遺伝子発現のレベルを増加する、及び遺伝子転写をオン/オフするのに役立てるため使用することができる。
【0058】
核酸配列を適当な制御配列と作動可能に組み合わせることができることは当業者であれば理解するであろう。例えば、核酸配列は、発現制御エレメントと、例えば、転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、及び/又はエンハンサー等と、作動可能に組み合わせることができる。
【0059】
一実施形態では、核酸ベクターは、転写調節エレメントをさらに含む。例えば、本明細書に記載のエレメントのいずれも、発現を制御し得るように、プロモーターに作動可能に連結することができる。一実施形態では、プロモーターは高効率プロモーターである。
【0060】
一実施形態では、プロモーターは、T7、T7lac、Sp6、araBAD、trp、lac、Ptac又はpLのうちのいずれか1つである。T7及びT7lacプロモーターは、T7バクテリオファージからのプロモーターであり、後者はlacオペレーターを有する。Sp6はSp6バクテリオファージからのプロモーターであり、araBADはアラビノース代謝オペロンからのプロモーターであり、trpは大腸菌トリプトファンオペロンからのプロモーターであり、lacはlacオペロンからのプロモーターであり、Ptacはlacプロモーターとtrpプロモーターのハイブリッドプロモーターであり、pLはバクテリオファージラムダからのプロモーターである。
【0061】
使用
本発明の一態様によれば、組換えパルボウイルスベクター粒子、任意選択で組換えAAVベクター粒子、組換えBoVベクター粒子又は組換えMVMベクター粒子の産生における核酸ベクターの使用が提供される。
【0062】
一実施形態では、一本鎖結合タンパク質をコードする核酸配列は、パルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む核酸ベクターとは、別個の核酸ベクター上にある。
【0063】
方法
本発明の一態様によれば、核酸ベクターの増殖及び精製の方法であって:
(i) 本明細書に記載の核酸ベクターを細胞に導入するステップ
(ii) ステップ(i)の細胞の培養物を増殖させるステップ
(iii) ステップ(ii)の細胞を回収するステップ及び溶解させるステップ
(iv) ステップ(iii)の溶解細胞から核酸ベクターを精製するステップ
を含む、方法が提供される。
【0064】
一実施形態では、核酸ベクター(プラスミド)の増殖及び精製の方法は、組換えパルボウイルスベクター粒子産生向けの方法の一部を構成する。
【0065】
組換えパルボウイルスベクター粒子を産生する当技術分野での一般的な方法について、先に概説したように、目的の遺伝子(導入遺伝子)を、パルボウイルスゲノムの末端反復配列間にクローニングする。パルボウイルス末端反復配列が隣接する導入遺伝子の核酸配列を運ぶプラスミドは、移入ベクターと一般的に呼ばれる。次いで、移入ベクターは増殖及び精製向けの細胞に導入される。一実施形態では、本発明の方法は、末端反復配列間に導入遺伝子をクローニングする際に、本明細書に記載の核酸ベクターを使用するステップをさらに含む。
【0066】
SSBタンパク質をコードする外因性核酸配列を原核細胞に導入する場合、ssb遺伝子とは異なるレベルで末端反復配列を含む核酸配列を発現させることが望ましいであろう。この場合、SSBタンパク質をコードする核酸配列を、末端反復配列を含む核酸配列を含む核酸ベクターとは、複製起点が異なる別個の核酸ベクター上に、提供することができる。したがって、一実施形態では、一本鎖結合タンパク質をコードする核酸配列を、ステップ(i)でのパルボウイルス末端反復配列を含む核酸配列を含む核酸ベクターとは、別個の核酸ベクターで細胞に導入する。
【0067】
本明細書に記載の実施形態は、本発明のすべての態様に適用できることを理解されたい。さらに、本明細書で引用されている、特許及び特許出願を含むが、これらに限定されない、すべての出版物は、完全に記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例0068】
大腸菌ssb遺伝子及び細菌プロモーターを、2つのAAV2 ITRが隣接するPCMVプロモーターの下流にEGFPを含有する、EGFP移入ベクタープラスミド、pG.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6、のバックボーンにクローニングした。次いで、ssb遺伝子のエキストラコピーの効果を、プラスミド調製物のSmaI消化後の直鎖化プラスミドの割合によって計測することができた。インタクトなITR配列はSmaI制限部位を含有する。したがって、両方のITRがインタクトの場合、SmaI消化によって2つの断片が生じることになる。ITR欠失によって一方のSmaI制限部位が失われると、消化によってプラスミドが直鎖化され、単一の断片が生じることになる。
【0069】
[実施例1]
大腸菌ssb配列の設計
一本鎖DNA結合タンパク質をコードする大腸菌ssb遺伝子を、GenBank(J01704)から得た。この配列は完全な天然プロモーターを欠いていた。コード配列を合成した。
【0070】
Andreoniら(Andreoniら、(2009) FEBS Letters 584:153~158頁)によるプライマーssb-Fl及びssb-R1は、分子生物学実験のウエブサイト(http://insilico.ehu.eus)のIn silicoシミュレーションを使用して、大腸菌ゲノムに対してin-silico PCRを行うことであった。この配列は、ssb遺伝子の完全な天然プロモーターを含んでいた。この配列の最初の209bpを合成して、天然の大腸菌ssbプロモーターを得た。
【0071】
[実施例2]
ssb及び天然プロモーターのPCR
ssbコード領域及び天然プロモーターを、天然プロモーターの3'末端がssbの5'末端とオーバーラップしている、それぞれのGibsonアセンブリープライマーを使用して増幅した。PCRを、Q5 High-Fidelity 2X Master Mix(NEBカタログ番号M0492S)を使用して行った。PCRサーマルサイクリングを、Bio-Rad C1000 Touchサーマルサイクラーを使用して行った。pUC57.ssb及びpUC57.ssb天然プロモーターをテンプレートとして使用して反応の条件は以下の通りとした。
【0072】
PCR反応物を、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%アガロースゲルで80Vで1時間ゲル電気泳動に供した。ゲルによって、正確な249bpの天然プロモーター及び702bpのssb断片が増幅されたことが示された。正確なサイズのPCR産物を、手術用メスを使用してゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagenカタログ番号28706)を使用してDNAを精製した。
【0073】
[実施例3]
ssbと天然プロモーターを連結するためのPCR
PCRを、ssbと天然プロモーター断片を連結するように設定した。末端がオーバーラップしている2つのゲル精製断片をPCRで使用した。PCRを、Q5 High-Fidelity 2X Master Mixを使用して行った。PCRサーマルサイクリングを、Bio-Rad C1000 Touchサーマルサイクラーを使用して行った。反応の条件は先のPCRと同じとした。
【0074】
サーマルサイクリングに続いて、PCR反応物を、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%アガロースゲルで80Vで1時間ゲル電気泳動に供した。
【0075】
ゲルによって、正確な896bp ssb+天然プロモーター断片が増幅されたことが示された。PCR産物を、手術用メスを使用してゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用してDNAを精製した。pCR-Blunt II-TOPO 0.5μl、塩溶液1μl及びゲル精製PCR産物4.5μlを含有するライゲーションを設定した。ライゲーションを室温で5分間インキュベートし、次いで、2μlを使用してOneShot TOP10 chemically competent E. coli (Thermo Fisherカタログ番号C404003)のバイアルを形質転換した。形質転換した細胞を50μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、37℃で一晩インキュベートした。翌日、形質転換プレートからコロニーを選び取り、50μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレート上で継代培養した。継代培養したコロニーを、50μg/mlカナマイシンを含有するLBブロス培養物3ml中で37℃で一晩穏やかに撹拌しながら増殖させた。翌日、QiaPrep Spinミニプレップキット(Qiagenカタログ番号27106)を使用して、ブロス培養物からプラスミドDNAを抽出した。ミニプレップそれぞれのDNA濃度を、Nanodropを使用して計算し、それぞれ1μgをEcoRI FDで消化した。消化物を37℃で2時間インキュベートし、次いで、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%アガロースゲルで80Vで1時間ゲル電気泳動に供した。
【0076】
ゲルによって、正確なssb+天然プロモーター断片がpCR-BluntII-TOPOにクローニングされたことが示された。これらの断片を、手術用メスを使用してゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを使用してDNAを精製した。
【0077】
[実施例4]
ssb+天然プロモーターのEGFP移入ベクターへのクローニング
EGFP移入ベクタープラスミド、pG.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6は、ITRが隣接する移入ベクター配列の外側に対して独特なEcoRI制限部位を有する。プラスミドをEcoRIで消化した。消化物を37℃で2時間インキュベートし、次いで、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%アガロースゲルで80Vで1時間ゲル電気泳動に供した。
【0078】
直鎖化プラスミドを、外科用メスを使用してゲルから切り出し、Qiaquick GelExtraction kitを使用してDNAを精製した。次いで、精製した断片をFastAP (Thermo Fisherカタログ番号EF0651)で脱リン酸化した。次いで、これをゲル精製したEcoRI消化のssb+天然プロモーター断片を用いるライゲーションで使用した。ライゲーション反応は、消化移入ベクター2μl、消化ssb+天然プロモーター断片6μl、10×リガーゼバッファー1μl、T4 DNAリガーゼ1μlを含有した。ライゲーションをサーマルサイクラーで16℃で一晩インキュベートした。
【0079】
翌日、ライゲーション2μlを使用して、OneShot TOP10 chemically competent E. coliのバイアルを形質転換した。形質転換した細胞を、50μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレートに広げ、30℃で一晩インキュベートした。翌日、形質転換プレートからコロニーを選び取り、50μg/mlカナマイシンを含有するLB寒天プレート上で継代培養した。継代培養したコロニーを、50μg/mlカナマイシンを含有するLBブロス培養物3ml中で30℃で一晩穏やかに撹拌しながら増殖させた。翌日、QiaPrep Spinミニプレップキットを使用して、ブロス培養物からプラスミドDNAを抽出した。ミニプレップそれぞれのDNA濃度を、Nanodropを使用して計算し、それぞれ1μgをSmaI FDで消化した。消化物を37℃で30分間インキュベートし、次いで、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%アガロースゲルで80Vで70分間ゲル電気泳動に供した。
【0080】
図1のクローン2及び4では、ssb遺伝子は1つのITRを既に失っていた移入ベクタープラスミドに挿入されていた。このことは、これら2つのクローン中のすべてのプラスミドDNAが単純に直鎖化されたことを意味していた。しかし、クローン1及び3は両方のITRを含有し、ssbはプラスミドバックボーンに挿入されていた。これらのプラスミドのSmaI消化物により、1つのITRを失ったプラスミドの割合は、親プラスミドと比較して非常に低いことが明らかとなった。このことによって、SSBがこれらのプラスミドにおいてのITRを安定化していることが示された。
【0081】
大腸菌ブロス培養物を37℃で増殖させた場合にこの効果がまだ見られるか否かを判定するために、継代培養コロニーを選び取り、これを使用して、本来のpG.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6のコロニーと共に、50μg/mlカナマイシンを含有するLBブロス培養物を2連で感染させ、この培養物を30℃及び37℃の両方で1晩増殖させた。翌日、QiaPrep Spinミニプレップキットを使用して、ブロス培養物からプラスミドDNAを抽出した。ミニプレップそれぞれのDNA濃度を、Nanodropを使用して計算し、それぞれ1μgをSmaI FDで消化した。消化物を37℃で30分間インキュベートし、次いで、1×TAE及び1×SYBR Safeを含有する0.8%アガロースゲルで80Vで70分間ゲル電気泳動に供した(
図2)。
【0082】
30℃及び37℃の両方で、ssb遺伝子を含有する移入ベクタープラスミドは、直鎖化プラスミドでわかるように、ssb遺伝子を含有しないプラスミドよりもITR損失のレベルが有意に低かったことを、
図2に示した。