(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029894
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】合理的に設計された、非パリンドローム認識配列を有する単鎖メガヌクレアーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 9/16 20060101AFI20230228BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20230228BHJP
【FI】
C12N9/16 Z ZNA
C12N15/55
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022187981
(22)【出願日】2022-11-25
(62)【分割の表示】P 2020196770の分割
【原出願日】2008-10-31
(31)【優先権主張番号】61/001,247
(32)【優先日】2007-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】508117721
【氏名又は名称】プレシジョン バイオサイエンシズ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ジェイムス,ジェファーソン
(72)【発明者】
【氏名】ジャンツ,デレック
(57)【要約】 (修正有)
【課題】合理的に設計された非天然由来のメガヌクレアーゼを提供する。
【解決手段】第1モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼから誘導され、第1認識半部位を有する第1LAGLIDADGサブユニットと、第2モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ又はジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼから誘導され、第2認識半部位を有する第2LAGLIDADGサブユニットとを含み、前記第1及び第2LAGLIDADGサブユニットは、第1LAGLIDADGドメインがリンカに対しN末端となり、第2LAGLIDADGドメインが前記リンカに対しC末端となるように、ポリペプチドリンカにより共有結合され、前記第1及び第2LAGLIDADGサブユニットは一緒に機能して、前記第1認識半部位及び前記第2認識半部位のハイブリッドである非パリンドロームDNA配列を、認識及び切断することができる、組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼから誘導され、第1認識半部位を有す
る第1LAGLIDADGサブユニットと、
第2モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ又はジ-LAGLIDADGメガヌク
レアーゼから誘導され、第2認識半部位を有する第2LAGLIDADGサブユニットと
を含み、
前記第1及び第2LAGLIDADGサブユニットは、第1LAGLIDADGドメイ
ンがリンカに対しN末端となり、第2LAGLIDADGドメインが前記リンカに対しC
末端となるように、ポリペプチドリンカにより共有的に結合され、
前記第1及び第2LAGLIDADGサブユニットは一緒に機能して、前記第1認識半
部位及び前記第2認識半部位のハイブリッドである非パリンドロームDNA配列を、認識
及び切断することができる、組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項2】
前記第1LAGLIDADGサブユニットは、I-CreI、I-MsoIおよびI-
CeuIからなる群から選択されるモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼから誘導
され、
前記第2LAGLIDADGサブユニットは、(1)I-CreI、I-MsoIおよ
びI-CeuIからなる群から選択されるモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ、
または(2)I-DmoI、I-SceIおよびI-AniIからなる群から選択される
ジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼのいずれかから誘導される、
請求項1に記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項3】
前記第1LAGLIDADGサブユニットは、前記第2LAGLIDADGサブユニッ
トとは異なる種から誘導される、請求項1に記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項4】
前記第1LAGLIDADGサブユニットは、配列番号1の野生型I-CreIメガヌ
クレアーゼの残基9~151、配列番号2の野生型I-MsoIメガヌクレアーゼの残基
11~162、および配列番号3の野生型I-CeuIメガヌクレアーゼの残基55~2
10からなる群から選択される第1LAGLIDADGドメインと、少なくとも85%の
配列同一性を有するポリペプチド配列を含む、請求項1に記載の組換え単鎖メガヌクレア
ーゼ。
【請求項5】
前記第2LAGLIDADGサブユニットは、配列番号1の野生型I-CreIメガヌ
クレアーゼの残基9~151、配列番号2の野生型I-MsoIメガヌクレアーゼの残基
11~162、配列番号3の野生型I-CeuIメガヌクレアーゼの残基55~210、
配列番号4の野生型I-DmoIの残基9~96、配列番号4の野生型I-DmoIの残
基105~178、配列番号5の野生型I-SceIの残基32~123、配列番号5の
野生型I-SceIの残基134~225、配列番号6の野生型I-AniIの残基4~
121、および配列番号6の野生型I-AniIの残基136~254からなる群から選
択される第2LAGLIDADGドメインと、少なくとも85%の配列同一性を有するポ
リペプチド配列を含む、請求項2に記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項6】
前記LAGLIDADGサブユニットはそれぞれ、配列番号1の野生型I-CreIメ
ガヌクレアーゼの残基9~151、配列番号2の野生型I-MsoIメガヌクレアーゼの
残基11~162、配列番号3の野生型I-CeuIメガヌクレアーゼの残基55~21
0、配列番号4の野生型I-DmoIの残基9~96、配列番号4の野生型I-DmoI
の残基105~178、配列番号5の野生型I-SceIの残基32~123、配列番号
5の野生型I-SceIの残基134~225、配列番号6の野生型I-AniIの残基
4~121、および配列番号6の野生型I-AniIの残基136~254からなる群か
ら独立して選択されるLAGLIDADGドメインと、少なくとも85%の配列同一性を
含み、
前記LAGLIDADGドメインの少なくとも1つは、表11、12、13および14
のいずれかに開示された少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、
請求項2に記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項7】
少なくとも一つのLAGLIDADGドメインがI-CreIから誘導され、かつ少な
くとも一つの修飾が表11、12、13および14のいずれかの表1から選択され、
少なくとも一つのLAGLIDADGドメインがI-MsoIから誘導され、かつ少な
くとも一つの修飾が表12から選択され、
少なくとも一つのLAGLIDADGドメインがI-CeuIから誘導され、かつ少な
くとも一つの修飾が表13から選択され、または
少なくとも一つのLAGLIDADGドメインがI-SceIから誘導され、かつ少な
くとも一つの修飾が表14から選択される、
請求項6に記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項8】
前記LAGLIDADGサブユニットはそれぞれ、配列番号7~30からなる群から選
択される認識半部位を有する、請求項2に記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項9】
前記LAGLIDADGサブユニットの少なくとも1つは、配列番号7~30からなる
群から選択される認識半部位を有し、
他の前記LAGLIDADGサブユニットは、少なくとも一つの塩基対の修飾により、
配列番号7~30からなる群から選択される認識半部位と異なる認識半部位を有する、
請求項8に記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項10】
前記ポリペプチドリンカは、可撓性リンカである、請求項1~9のいずれか1項に記載
の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項11】
前記リンカは、15~40個の残基を含む、請求項10に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼ。
【請求項12】
前記リンカは、25~31個の残基を含む、請求項10に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼ。
【請求項13】
前記リンカの少なくとも50%は極性非荷電残基を含む、請求項10に記載の組換え単
鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項14】
前記ポリペプチドリンカは、安定な二次構造を有する、請求項1~9のいずれか1項に
記載の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項15】
前記安定な二次構造は、少なくとも二つのαへリックス構造を含む、請求項14に記載
の組換え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項16】
前記安定な二次構造は、N末端からC末端まで、第1のループ、第1のαへリックス、
第1のターン、第2のαへリックスおよび第2のループを含む、請求項14に記載の組換
え単鎖メガヌクレアーゼ。
【請求項17】
前記リンカは、23~56個の残基を含む、請求項14に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼ。
【請求項18】
真核細胞の染色体中に挿入された目的の外因性配列を含有する遺伝子組換え真核細胞を
製造する方法であって、
(i)メガヌクレアーゼをコードする第1核酸配列と、
(ii)前記目的の配列を含む第2核酸配列と
を含む一つ以上の核酸を、真核細胞にトランスフェクトすることを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記染色体内に切断部位が作られ、該切断部位で前記目的
の配列が前記染色体に挿入され、
前記メガヌクレアーゼは、請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌク
レアーゼである、方法。
【請求項19】
前記第2核酸は、更に、前記切断部位に隣接する配列に相同性のある配列を含み、前記
目的の配列は前記切断部位で相同組換えによって挿入される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2核酸は、前記切断部位に対し実質的な相同性を欠き、前記目的の配列は非相同
的末端結合によって前記染色体に挿入される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
真核細胞の染色体中に挿入された目的の外因性配列を含有する遺伝子組換え真核細胞を
製造する方法であって、
メガヌクレアーゼタンパク質を真核細胞に導入することと、
前記目的の配列を含む核酸を前記真核細胞にトランスフェクトすることと、を含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記染色体中に切断部位を作り、該切断部位で前記目的の
配列を前記染色体に挿入し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼである、
遺伝子組換え真核細胞を製造する方法。
【請求項22】
前記核酸は、更に、前記切断部位に隣接する配列に相同性のある配列を含み、前記目的
の配列を前記切断部位で相同組換えによって挿入する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記核酸は、前記切断部位に対し実質的な相同性を欠き、前記目的の配列を非相同的末
端結合によって前記染色体に挿入する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
真核細胞の染色体中で標的配列を破壊することによって、遺伝子組換え真核細胞を製造
する方法であって、
メガヌクレアーゼをコードする核酸を、真核細胞にトランスフェクトすることを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記染色体中に切断部位を作り、該切断部位で前記標的配
列を非相同的末端結合によって破壊し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼである、方法。
【請求項25】
遺伝子組換え生物を製造する方法であって、
請求項18~24のいずれか1項に記載の方法に従って遺伝子組換え真核細胞を製造す
ることと、
前記遺伝子組換え真核細胞を成長させ、前記遺伝子組換え生物を製造することと
を含む方法。
【請求項26】
前記真核細胞が、配偶子、接合子、胚盤胞細胞、胚性幹細胞、及びプロトプラスト細胞
からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
真核生物において遺伝子治療により疾患を治療する方法であって、
(i)メガヌクレアーゼをコードする第1核酸配列と、
(ii)目的の配列を含有する第2核酸配列と
を含有する1種以上の核酸を前記真核生物の少なくとも一つの細胞にトランスフェクト
することを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記染色体中に切断部位を作り、該切断部位で前記目的の
配列を前記染色体に挿入し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼであり、
前記目的の配列の挿入によって前記疾患の前記遺伝子治療を提供する方法。
【請求項28】
前記第2核酸配列は、更に、前記切断部位に隣接する配列に相同性のある配列を含み、
前記目的の配列を前記切断部位で相同組換えによって挿入する、請求項27に記載の方法
。
【請求項29】
前記第2核酸配列は、前記切断部位に対し実質的な相同性を欠き、前記目的の配列を非
相同的末端結合によって前記染色体に挿入する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
真核生物において遺伝子治療によって疾患を治療する方法であって、
メガヌクレアーゼタンパク質を前記真核生物の少なくとも一つの細胞に導入することと
、
目的の配列を含有する核酸を前記真核細胞にトランスフェクトすることと、を含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記染色体中に切断部位を作り、該切断部位で前記染色体
に前記目的の配列を挿入し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼであり、
前記目的の配列の挿入によって前記疾患の前記遺伝子治療を提供する方法。
【請求項31】
前記核酸は、更に、前記切断部位に隣接する配列に相同性のある配列を含み、前記目的
の配列を前記切断部位で相同組換えによって挿入する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記核酸は前記切断部位に対し実質的な相同性を欠き、前記目的の配列を非相同的末端
結合によって前記染色体に挿入する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
真核細胞の染色体中で標的配列を破壊することによって、前記真核生物において遺伝子
治療により疾患を治療する方法であって、
メガヌクレアーゼをコードする核酸を前記真核生物の少なくとも一つの細胞にトランス
フェクトすることを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記染色体中に切断部位を作り、該切断部位で非相同的末
端結合により前記標的配列を破壊し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼであり、
前記標的配列の破壊により前記疾患の前記遺伝子治療を提供する方法。
【請求項34】
ウィルス性病原体のゲノム中で標的配列を破壊することによって、真核生物宿主におけ
る前記ウィルス性病原体感染を治療する方法であって、
メガヌクレアーゼをコードする核酸を、前記真核生物宿主の少なくとも一つの感染細胞
にトランスフェクトすることを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記ウィルス性ゲノム中に切断部位を作り、該切断部位で
非相同的末端結合により前記標的配列を破壊し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼであり、
前記標的配列の破壊により前記感染の治療を提供する、方法。
【請求項35】
ウィルス性病原体のゲノム中で標的配列を破壊することによって、真核生物宿主におけ
る前記ウィルス性病原体感染を治療する方法であって、
メガヌクレアーゼをコードする第1核酸と、第2核酸とを、前記真核生物宿主の少なく
とも一つの感染細胞にトランスフェクトすることを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記ウィルス性ゲノム中に切断部位を作り、該切断部位で
前記ウィルス性ゲノム及び前記第2核酸の相同組換えにより前記標的配列を破壊し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼであり、
前記第2核酸は前記切断部位に隣接する配列に相同性のある配列を含み、
前記標的配列の破壊により前記感染の治療を提供する、方法。
【請求項36】
原核細胞系病原体のゲノム中で標的配列を破壊することによって、真核生物宿主におけ
る前記原核細胞系病原体の感染を治療する方法であって、
メガヌクレアーゼをコードする核酸を、前記真核生物宿主に感染する前記原核細胞系病
原体の少なくとも細胞にトランスフェクトすることを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記原核細胞系ゲノム中に切断部位を作り、該切断部位で
非相同的末端結合により前記標的配列を破壊し、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼであり、
前記標的配列の破壊により前記感染の治療を提供する、方法。
【請求項37】
原核細胞系病原体のゲノム中で標的配列を破壊することによって、真核生物宿主におけ
る前記原核細胞系病原体の感染を治療する方法であって、
メガヌクレアーゼをコードする第1核酸と、第2核酸とを、前記真核生物宿主に感染す
る前記原核細胞系病原体の少なくとも細胞にトランスフェクトすることを含み、
前記メガヌクレアーゼにより前記原核細胞系ゲノム中に切断部位を作り、該切断部位に
おける前記原核細胞系ゲノム及び前記第2核酸の相同組換えにより前記標的配列を破壊し
、
前記メガヌクレアーゼは請求項1~17のいずれか1項に記載の組換え単鎖メガヌクレ
アーゼであり、
前記第2核酸は前記切断部位に隣接する配列に相同性のある配列を含み、
前記標的配列の破壊により前記感染の治療を提供する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学および組換え核酸技術の分野に関する。特に本発明は、異なる認
識配列半部位に関して特異性を持つ一対の酵素サブユニットが単鎖ポリペプチドに結合さ
れ、非パリンドローム認識配列を持つ機能的へテロ二量体を形成する、合理的に設計され
た非天然由来のメガヌクレアーゼに関する。また本発明は、該メガヌクレアーゼを製造す
る方法、および該メガヌクレアーゼを使用して組換え核酸および生物を製造する方法にも
関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム工学には、ゲノム内の特異的な遺伝子配列を挿入、欠失、置換およびその他操作
する性能が必要とされ、数多くの治療的および生物工学的な用途がある。ゲノム修飾の効
果的な手段の開発は、遺伝子治療、農業技術および合成生物学において大きな目的を残し
ている(非特許文献1、2、3、)。DNA配列を挿入または修飾する一般的な方法は、
ゲノム標的に相同性のある配列に挟まれた遺伝子導入DNA配列を導入することと、効果
を挙げた相同組換え事象を選択またはスクリーニングすることとを含む。遺伝子導入DN
Aを用いる組換えが起こることはまれであるが、該組換えは、標的部位で、ゲノムDNA
中の二本鎖切断端によって刺激される可能性がある。DNA二本鎖切断端を作るために数
多くの方法が使用されてきており、照射処理および化学処理が挙げられる。これらの方法
は組換えを効率的に刺激するが、該二本鎖切断端はゲノム中に無作為に分散し、この状態
は、変異原性および毒性が高い可能性がある。現在、染色体バックグラウンド内で固有の
部位に対し遺伝子修飾を標的にすることができないことは、ゲノム工学の成功への大きな
障害となっている。
【0003】
この目的を達成するための一つの取組みとして、ゲノム内の単一部位のみに存在する十
分に大きい配列に対して特異性のあるヌクレアーゼを使用して、標的遺伝子座中の二本鎖
切断端で相同組換えを刺激することがある(たとえば、非特許文献1参照)。この方法の
有効性は、遺伝子操作されたZnフィンガDNA結合ドメインとFokI制限酵素の非特
異的ヌクレアーゼドメインとの間のキメラ融合を使用する種々の生物において実証されて
いる(非特許文献4、5、6)。これらの人工的Znフィンガヌクレアーゼは、部位特異
的組換えを刺激するが、ヌクレアーゼドメインの制御が十分でないことに起因して、残存
非特異的切断活性を保持し、しばしば予想外の部位で切断する(非特許文献7)。このよ
うな予想外の切断により、処置された生物では、突然変異および毒性を起こす可能性があ
る(非特許文献1)。
【0004】
植物および菌類のゲノム中に一般的に見出される15-40塩基対切断部位を認識する
一群の天然由来のヌクレアーゼにより、低毒性のゲノム工学的代替物が提供されるかもし
れない。そのような「メガヌクレアーゼ」または「ホーミングエンドヌクレアーゼ」は、
グループI自己スプライシングイントロンおよびインテインのような寄生性DNAエレメ
ントに会合していることが多い。これらは、染色体中で二本鎖切断端を生成することによ
って、宿主ゲノム中の特異的な位置で相同組換えまたは遺伝子挿入を自然に促進し、これ
により細胞内DNA修復機構が動員される(非特許文献8)。メガヌクレアーゼは、一般
的に、四つのファミリ、LAGLIDADGファミリ、GIY-YIGファミリ、His
-CysボックスファミリおよびHNHファミリに分類される。これらのファミリは、触
媒活性および認識配列に影響を及ぼす構造モチーフを特徴とする。たとえば、LAGLI
DADGファミリのメンバは、保存LAGLIDADGモチーフの一つまたは二つのコピ
ーを有することを特徴とする(非特許文献9参照)。一コピーのLAGLIDADGモチ
ーフを持つLAGLIDADGメガヌクレアーゼ(「モノ-LAGLIDADGメガヌク
レアーゼ」)は、ホモ二量体を形成し、一方二コピーのLAGLIDADGモチーフを持
つメンバ(「ジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ」)は単量体として見出される。
I-CreI、I-CeuIおよびI-MsoIのようなモノ-LAGLIDADGメガ
ヌクレアーゼは、パリンドローム性または擬似パリンドローム性であるDNA部位を認識
、切断し、一方、I-SceI、I-AniIおよびI-DmoIのようなジ-LAGL
IDADGメガヌクレアーゼは、一般的に、非パリンドローム性であるDNA部位を認識
する(非特許文献8)。
【0005】
LAGLIDADGファミリからの天然メガヌクレアーゼは、植物、酵母、ショウジョ
ウバエ、哺乳類細胞およびマウスにおいて、部位特異的なゲノム修飾を効果的に促進する
ために使用されているが、この取組みは、メガヌクレアーゼ認識配列を保存する相同遺伝
子の修飾(非特許文献10)、または認識配列が導入されているプレエンジニアリングさ
れたゲノムに対する修飾(非特許文献11、12、13、14、15)のいずれかに限定
されている。
【0006】
ヌクレアーゼ刺激遺伝子修飾の体系的実施には、ゲノム中の既存部位へのDNA破壊を
標的にするようにカスタマイズされた特異性をもつ遺伝子操作された酵素を使用すること
が必要であり、したがって、医学または生物工学関連部位で遺伝子修飾を促進するために
、メガヌクレアーゼを適用することは、大きな関心がもたれてきている(非特許文献1、
16、17)。
【0007】
I-CreIは、葉緑体染色体中の22塩基対認識配列を認識および切断するLAGL
IDADGファミリのメンバであり、メガヌクレアーゼ再設計用の魅力的な標的を提供す
る。野生型酵素は、各単量体が完全長認識配列において9塩基対と直接接触するホモ二量
体である。遺伝的選択技術は、野生型I-CreI切断部位の優先度を変更するために使
用されてきた(非特許文献16、18、19、20、21、22、特許文献1、2、3、
4、5、6、7、8、9、10、11)。つい最近では、哺乳類、酵母、植物、細菌およ
びウィルスのゲノム中の部位を始めとする多様なDNA部位を標的にするために、I-C
reIおよび他のそのようなメガヌクレアーゼを包括的に再設計しうる、モノ-LAGL
IDADGメガヌクレアーゼを合理的に設計する方法が記述された(特許文献12)。
【0008】
大部分の遺伝子工学的用途のために、I-CreIのようなモノ-LAGLIDADG
メガヌクレアーゼを使用することの主な限界は、これらの酵素が、パリンドローム性DN
A認識部位を自然に標的にするという事実である。そのような冗長な(10~40bp)
パリンドローム性DNA部位は、実際にはまれであり、関心のあるDNA部位において偶
然に起こることは、到底不可能である。モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼを持
つ非パリンドロームDNA部位を標的にするために、二つの異なる半部位を認識し、ヘテ
ロ二量体化し、所望の非パリンドローム部位を切断するメガヌクレアーゼを形成する一対
の単量体を製造することができる。ヘテロ二量体化は、宿主細胞中で一対のメガヌクレア
ーゼ単量体を共発現することによって、またはインビトロで一対の精製ホモ二量体メガヌ
クレアーゼを混合し、該サブユニットをヘテロ二量体に再会合させることによって達成す
ることができる(非特許文献23、24、特許文献12、13、14、15、16)。ど
ちらの取組みも2つの主要な限界を負う。すなわち、(1)これらは、所望のヘテロ二量
体種を製造するために、2個のメガヌクレアーゼ遺伝子の発現が必要であること(これは
、遺伝子送達およびインビボでの使用を複雑にする)および(2)その結果物は、約25
%の第1ホモ二量体、50%のヘテロ二量体および25%の第2ホモ二量体の混合物であ
るが、所望のものはヘテロ二量体のみであることである。この後者の限界は、特許文献1
2、17、18、および非特許文献25に記載されるように、二つのメガヌクレアーゼの
二量体化境界面を遺伝子操作して、ホモ二量体化よりヘテロ二量体化を促進することによ
ってかなりの程度まで克服することができる。たとえそうであっても、二つのメガヌクレ
アーゼ遺伝子を発現しなければならず、ホモ二量体化が、完全に阻止されるわけではない
。
【0009】
一つ以上のモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼに由来する非パリンドローム認
識部位を持つメガヌクレアーゼの形成への代替の取組みは、二つのメガヌクレアーゼに由
来するLAGLIDADGサブユニットの融合を含む単鎖ポリペプチドの製造である。そ
のようなメガヌクレアーゼを製造するために二つの一般的方法を適用することができる。
【0010】
第1の方法では、ジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼの二つのLAGLIDAD
Gサブユニットの一つを、モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼからLAGLID
ADGサブユニットによって置き換えることができる。この取組みは、ジ-LAGLID
ADG I-DmoIメガヌクレアーゼのC末端サブユニットをI-CreIサブユニッ
トに置き換えることによって実証された。(非特許文献17、26、特許文献19)。結
果物は、ハイブリッドDNA部位を認識および切断したハイブリッドI-DmoI/I-
CreIメガヌクレアーゼであった。
【0011】
第2の方法では、一対のモノ-LAGLIDADGサブユニットを、ペプチドリンカに
よって結合し、「単鎖ヘテロ二量体メガヌクレアーゼ」を作成することができる。そのよ
うなI-CreIの単鎖誘導体を製造する1つの試みが報告されている(非特許文献17
、特許文献19)。しかし、本明細書および非特許文献25で検討するように、現在、こ
の方法では、共有結合したI-CreIサブユニットが一緒に機能し、非パリンドローム
認識部位を認識および切断する、単鎖ヘテロ二量体メガヌクレアーゼは製造されないこと
を示唆する証拠がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開公報第2008/010009号
【特許文献2】国際公開公報第2007/093918号
【特許文献3】国際公開公報第2007/093836号
【特許文献4】国際公開公報第2006/097784号
【特許文献5】国際公開公報第2008/059317号
【特許文献6】国際公開公報第2008/059382号
【特許文献7】国際公開公報第2008/102198号
【特許文献8】国際公開公報第2007/060495号
【特許文献9】国際公開公報第2007/049156号
【特許文献10】国際公開公報第2006/097853号
【特許文献11】国際公開公報第2004/067736号
【特許文献12】国際公開公報第2007/047859号
【特許文献13】国際公開公報第2006/097854号
【特許文献14】国際公開公報第2007/057781号
【特許文献15】国際公開公報第2007/049095号
【特許文献16】国際公開公報第2007/034262号
【特許文献17】国際公開公報第2008/093249号
【特許文献18】国際公開公報第2008/093152号
【特許文献19】国際公開公報第2003/078619号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Porteusら(2005),Nat. Biotechnol.23:967-73
【非特許文献2】Tzfiraら(2005),Trends Biotechnol.23:567-9
【非特許文献3】McDanielら(2005),Curr.Opin.Biotechnol.16:476-83
【非特許文献4】Porteus(2006),Mol.Ther.13:438-46
【非特許文献5】Wrightら(2005),Plant J.44:693-705
【非特許文献6】Urnovら(2005),Nature435:646-51
【非特許文献7】Smithら(2000),Nucleic Acids Res.28:3361-9
【非特許文献8】Stoddard(2006),Q.Rev.Biophys.38:49-95
【非特許文献9】Chevalierら(2001),Nucleic Acids Res.29(18):3757-3774
【非特許文献10】Monnatら(1999),Biochem.Biophys.Res.Commun.255:88-93
【非特許文献11】Rouetら(1994),Mol.Cell.Biol.14:8096-106
【非特許文献12】Chiltonら(2003),Plant Physiol.133:956-65
【非特許文献13】Puchtaら(1996),Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:5055-60
【非特許文献14】Rongら(2002),Genes Dev.16:1568-81
【非特許文献15】Goubleら(2006),J.Gene Med.8(5):616-622
【非特許文献16】Sussmanら(2004),J.Mol.Biol.342:31-41
【非特許文献17】Epinatら(2003),Nucleic Acids Res.31:2952-62
【非特許文献18】Chamesら(2005),Nucleic Acids Res.33:el78
【非特許文献19】Seligmanら(2002),Nucleic Acids Res.30:3870-9
【非特許文献20】Arnouldら(2006),J.Mol.Biol.355:443-58
【非特許文献21】Rosenら(2006),Nucleic Acids Res.34:4791-4800
【非特許文献22】Arnouldら(2007).J.Mol.Biol.371:49-65,
【非特許文献23】Smithら(2006),Nuc.Acids Res.34:149-157
【非特許文献24】Chamesら(2005),Nucleic Acids Res.33:178-186
【非特許文献25】Fajardo-Sanchezら(2008).Nucleic Acids Res.36:2163-2173
【非特許文献26】Chevalierら(2002),Mol.Cell10:895-905
【非特許文献27】Cahillら(2006),Front.Biosci.11:1958-1976
【非特許文献28】Prietoら(2007),Nucl.Acids Res.35:3262-3271
【非特許文献29】Juricaら(1998),MoI.Cell2:469-476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、当該分野では、非パリンドロームDNA部位を認識および切断するために
、I-CreIのようなモノ-LAGLIDADG酵素に由来する単鎖ヘテロ二量体メガ
ヌクレアーゼを製造する方法の必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ペプチドリンカが二つの異種LAGLIDADGメガヌクレアーゼサブユニ
ットを共有結合で連結して「単鎖ヘテロ二量体メガヌクレアーゼ」または「単鎖メガヌク
レアーゼ」を形成し、少なくともN末端サブユニットはモノ-LAGLIDADGメガヌ
クレアーゼに由来し、およびサブユニットは一緒に機能して、二つのサブユニットの認識
半部位のハイブリッドである非パリンドロームDNA認識部位に優先的に結合し、これを
切断する融合タンパク質の開発に、一部基づく。特に、本発明は、天然由来のメガヌクレ
アーゼが認識しない、非パリンドロームDNA配列を認識する単鎖メガヌクレアーゼを遺
伝子操作するために、使用することができる。また、本発明は、特に、遺伝子操作、遺伝
子治療、病原性感染の治療ならびに診断および研究においてインビトロで使用するために
、メガヌクレアーゼを利用して生物のゲノム内の限られた数の遺伝子座で所望の遺伝子配
列の組換えを起こすことによって、前記メガヌクレアーゼを使用して組換え核酸および生
物を製造する方法を提供する。
【0016】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、一種以上のモノ-LAGLIDAD
Gメガヌクレアーゼに由来する一対の共有結合されたLAGLIDADGサブユニットで
あって、一緒に機能して非パリンドローム認識部位を認識および切断するサブユニットを
含む組換え単鎖メガヌクレアーゼを提供する。いくつかの実施形態では、該モノ-LAG
LIDADGサブユニットは、I-CreI、I-MsoIおよびI-CeuIから選択
される野生型メガヌクレアーゼに由来する。
【0017】
他の実施形態では、本発明は、N末端サブユニットはI-CreI、I-MsoIおよ
びI-CeuIから選択される野生型メガヌクレアーゼに由来し、C末端サブユニットも
I-CreI、I-MsoIおよびI-CeuIから選択される野生型メガヌクレアーゼ
に由来するが、N末端サブユニットは、C末端サブユニットとは異なる種の野生型メガヌ
クレアーゼに由来する、一対のモノ-LAGLIDADGサブユニットを含む組換え単鎖
メガヌクレアーゼを提供する。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明は、N末端サブユニットはI-CreI、I-Mso
IおよびI-CeuIから選択される野生型メガヌクレアーゼに由来し、およびC末端サ
ブユニットはI-DmoI、I-SceIおよびI-AniIから選択される野生型ジ-
LAGLIDADGメガヌクレアーゼからの単一LAGLIDADGサブユニットに由来
する、一対のLAGLIDADGサブユニットを含む組換え単鎖メガヌクレアーゼを提供
する。
【0019】
野生型モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼとして、配列番号1のI-CreI
メガヌクレアーゼ、配列番号2のI-MsoIメガヌクレアーゼ、および配列番号3のI
-CeuIメガヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。野生型ジ-LAG
LIDADGメガヌクレアーゼとして、配列番号4のI-DmoIメガヌクレアーゼ、配
列番号5のI-SceIメガヌクレアーゼ、および配列番号6のI-AniIメガヌクレ
アーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
野生型LAGLIDADGドメインとして、配列番号1の野生型I-CreIメガヌク
レアーゼの残基9~151、配列番号2の野生型I-MsoIメガヌクレアーゼの残基1
1~162、および配列番号3の野生型I-CeuIメガヌクレアーゼの残基55~21
0、配列番号4の野生型I-DmoIの残基9-96、配列番号4の野生型I-DmoI
の残基105~178、配列番号5の野生型I-SceIの残基32~123、配列番号
5の野生型I-SceIの残基134~225、配列番号6の野生型I-AniIの残基
4~121、および配列番号6の野生型I-AniIの残基136~254が挙げられる
が、これらに限定されない。
【0021】
野生型LAGLIDADGメガヌクレアーゼに由来するLAGLIDADGサブユニッ
トとして、配列番号1の野生型I-CreIメガヌクレアーゼの残基9~151、配列番
号2の野生型I-MsoIメガヌクレアーゼの残基11~162、および配列番号3の野
生型I-CeuIメガヌクレアーゼの残基55~210、配列番号4の野生型I-Dmo
Iの残基9~96、配列番号4の野生型I-DmoIの残基105~178、配列番号5
の野生型I-SceIの残基32~123、配列番号5の野生型I-SceIの残基13
4~225、配列番号6の野生型I-AniIの残基4~121、および配列番号6の野
生型I-AniIの残基136~254のいずれか一つと、少なくとも85%の配列同一
性、または85%~100%の配列同一性を有するLAGLIDADGドメインを含有す
るサブユニットが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
また、野生型LAGLIDADGメガヌクレアーゼに由来するLAGLIDADGサブ
ユニットとして、一つ以上のアミノ酸修飾が、国際公開公報第2007/047859号
に開示された、LAGLIDADGメガヌクレアーゼを合理的に設計する方法に従って含
有されている前記ポリペプチド配列のいずれかと、当該分野で公知の他の非天然由来のメ
ガヌクレアーゼ変異体とを含むサブユニットが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
ある実施形態では、本発明は、それぞれが配列番号7~30から選択される野生型DN
A半部位を認識する天然由来のLAGLIDADGサブユニットに由来する、一対のLA
GLIDADGサブユニットを含む組換え単鎖メガヌクレアーゼを提供する。
【0024】
他の実施形態では、本発明は、DNA結合特異性に関して遺伝子操作された一対のLA
GLIDADGサブユニットであって、それぞれが、少なくとも一つの塩基が、配列番号
7~30から選択される野生型DNA半部位とは異なるDNA半部位を認識するサブユニ
ットを含む組換え単鎖メガヌクレアーゼを提供する。
【0025】
他の実施形態では、本発明は、一つのサブユニットは天然であり、配列番号7~30か
ら選択される野生型DNA半部位を認識し、もう一つは、DNA結合特異性に関して遺伝
子操作され、少なくとも一つの塩基が、配列番号7~30から選択される野生型DNA半
部位とは異なるDNA部位を認識する一対のLAGLIDADGサブユニットを含む組換
え単鎖メガヌクレアーゼを提供する。
【0026】
いくつかの実施形態では、LAGLIDADGサブユニットを結合するポリペプチドリ
ンカは、可撓性リンカである。特定の実施形態では、該リンカは、15~40個の残基、
25~31個の残基、またはこれらの範囲の任意の数の残基を含有することができる。他
の特定の実施形態では、リンカを形成する残基の少なくとも50%または50%~100
%が、極性非荷電残基である。
【0027】
他の実施形態では、LAGLIDADGサブユニットを結合するポリペプチドリンカは
、安定な二次構造を有する。特定の実施形態では、該安定な二次構造は、少なくとも二つ
のαへリックス構造を含む。他の特定の実施形態では、該安定な二次構造は、N末端から
C末端までに、第1のループ、第1のαへリックス、第1のターン、第2のαへリックス
および第2のループを含む。ある特定の実施形態では、該リンカは、23~56個の残基
、または該範囲内の任意の数の残基を含有することができる。
【0028】
他の態様では、本発明は、本明細書で記載し、実施可能な単鎖メガヌクレアーゼを使用
する種々の方法を提供する。これらの方法は、遺伝子組換え細胞および生物を製造するこ
と、遺伝子治療によって疾患を治療すること、病原体感染を治療すること、および診断ま
たは研究のためのインビトロでの用途のために組換え単鎖メガヌクレアーゼを使用するこ
とを含む。
【0029】
したがって、一態様では、本発明は、(i)本発明のメガヌクレアーゼをエンコードす
る第1核酸配列および(ii)関心のある配列を含む第2核酸配列を、細胞にトランスフ
ェクトすることによって、染色体中に挿入された前記関心のある外因性配列を含有する遺
伝子組換え真核細胞を製造する方法であって、メガヌクレアーゼにより染色体中に切断部
位を作り、該切断部位で、相同組換えまたは非相同的末端結合のどちらかにより、関心の
ある配列を染色体に挿入する方法を提供する。
【0030】
あるいは、他の態様では、本発明は、本発明のメガヌクレアーゼタンパク質を細胞に導
入し、関心のある配列を含有する核酸を該細胞にトランスフェクトすることによって、染
色体中に挿入された関心のある外因性配列を含有する遺伝子組換え真核細胞を製造する方
法であって、メガヌクレアーゼにより染色体中で切断部位を作り、該切断部位で、相同組
換えまたは非相同的末端結合のどちらかにより、関心のある配列を染色体に挿入する方法
を提供する。
【0031】
他の態様では、本発明は、染色体中の標的配列を混乱させ、本発明のメガヌクレアーゼ
をエンコードする核酸を細胞にトランスフェクトすることにより、遺伝子組換え真核細胞
を製造する方法であって、メガヌクレアーゼにより染色体中に切断部位を作り、該切断部
位で、非相同的末端結合により、標的配列を混乱させる方法を提供する。
【0032】
他の態様では、本発明は、先に記載した方法に従って遺伝子組換え真核細胞を製造し、
該遺伝子組換え真核細胞を成長させ、遺伝子組換え生物を製造することによって、遺伝子
組換え生物を製造する方法を提供する。これらの実施形態では、真核細胞を、配偶子、接
合子、胚盤胞細胞、胚性幹細胞およびプロトプラスト細胞から選択することができる。
【0033】
他の態様では、本発明は、(i)本発明のメガヌクレアーゼをエンコードする第1核酸
配列および(ii)関心のある配列を含む第2核酸配列を含有する一つ以上の核酸を、真
核生物の少なくとも一つの細胞にトランスフェクトすることで、真核生物において遺伝子
治療により疾患を治療する方法であって、メガヌクレアーゼにより染色体中に切断部位を
作り、関心のある配列を相同組換えまたは非相同的末端結合により染色体に挿入し、該関
心のある配列の挿入により疾患の遺伝子治療がもたらされる方法を提供する。
【0034】
あるいは他の態様では、本発明は、本発明のメガヌクレアーゼタンパク質を真核生物の
少なくとも一つの細胞に導入し、関心のある配列を含む核酸を細胞にトランスフェクトす
ることで、真核生物において遺伝子治療により疾患を治療する方法であって、メガヌクレ
アーゼにより染色体中に切断部位を作り、該切断部位で、相同組換えまたは非相同的末端
結合により関心のある配列を染色体に挿入し、該関心のある配列の挿入により疾患の遺伝
子治療がもたらされる方法を提供する。
【0035】
他の態様では、本発明は、本発明のメガヌクレアーゼをエンコードした核酸を真核生物
の少なくとも一つの細胞にトランスフェクトすることにより、真核生物の染色体中の標的
配列を混乱させて、真核生物において遺伝子治療により疾患を治療する方法であって、メ
ガヌクレアーゼにより染色体中に切断部位を作り、該切断部で非相同的末端結合により標
的配列を混乱させ、該標的配列の混乱により疾患の遺伝子治療がもたらされる方法を提供
する。
【0036】
他の態様では、本発明は、本発明のメガヌクレアーゼをエンコードした核酸を宿主の少
なくとも一つの感染細胞にトランスフェクトすることにより、病原体のゲノム中の標的配
列を混乱させて、真核生物宿主におけるウィルス性または原核細胞系病原体感染を治療す
る方法であって、メガヌクレアーゼによりゲノム中に切断部位を作り、(1)該切断部位
での非相同的末端結合または(2)第2核酸を用いる相同組換えのいずれかにより標的配
列を混乱させ、該標的配列の混乱により感染の治療がもたらされる方法を提供する。
【0037】
これらおよび本発明の他の態様および実施形態は、以下の本発明の詳細な説明に基づき
、当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明のリンカ(リンカ9)、および該ライナーによって結合されたエンドヌクレアーゼサブユニットのN末端およびC末端残基の一実施形態の構造成分の図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1.1 導入
本発明は、ペプチドリンカが二つの異種LAGLIDADGメガヌクレアーゼサブユニ
ットを共有結合で連結して「単鎖ヘテロ二量体メガヌクレアーゼ」を形成し、該サブユニ
ットは一緒に機能して、該二つのサブユニットの認識半部位のハイブリッドである非パリ
ンドロームDNA認識部位に優先的に結合し、これを切断する融合タンパク質の開発に、
一部基づく。特に、天然由来のメガヌクレアーゼが認識しない、非パリンドロームDNA
配列を認識する単鎖メガヌクレアーゼを遺伝子操作するために、本発明を使用することが
できる。
【0040】
この発見は、以下に詳細に記載するように、自然ではホモ二量体として機能するモノ-
LAGLIDADGメガヌクレアーゼを、単鎖メガヌクレアーゼに結合するために使用さ
れている。さらに、本発明は、DNA認識特異性に関して再設計されたモノ-LAGLI
DADGメガヌクレアーゼを、二つのメガヌクレアーゼホモ二量体によって認識されるパ
リンドローム性部位のハイブリッドであるDNA配列を認識および切断する単鎖ヘテロ二
量体に、結合するために使用されている。本発明は、LAGLIDADGサブユニットを
単鎖ポリペプチドに結合するための代表的なペプチドリンカ配列を提供する。本発明が、
リンカ配列の一般的製造方法および異なるLAGLIDADGサブユニットをつなぐため
の融合ポイントの一般的選択方法を提供し、機能的な、合理的に設計された単鎖メガヌク
レアーゼを製造することは重要である。
【0041】
また、本発明は、特に、遺伝子操作、遺伝子治療、病原性感染および癌の治療、ならび
に診断および研究におけるインビトロでの使用のために、メガヌクレアーゼを利用して生
物のゲノム内の限られた数の遺伝子座で所望の遺伝子配列の組換えを起こすことによって
、前記メガヌクレアーゼを使用して組換え核酸、細胞および生物を製造する方法も提供す
る。
【0042】
一般的事項として、本発明は、二つのLAGLIDADGサブユニットであって、N末
端サブユニットは、I-CreI、I-MsoIまたはI-CeuI、あるいはこれらの
変異体のような天然のモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼに由来し、C末端サブ
ユニットは、モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼか、あるいはI-SceI、I
-DmoIまたはI-AniIのようなジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼの二つ
のドメインのうちの一つのいずれかに由来するサブユニットを含む単鎖メガヌクレアーゼ
を生成する方法を提供する。該方法は、先に記載された方法(非特許文献17、26、特
許文献19)とは、N末端サブユニットがモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼに
由来する組換え単鎖メガヌクレアーゼを製造するために、特異的な新規リンカ配列および
融合ポイントの使用が必要である点で異なる。
【0043】
以下に詳細に記載するように、組換え単鎖メガヌクレアーゼを製造する方法は、結合さ
れるべき二つのLAGLIDADGサブユニットにおいて特定された融合ポイントを使用
することと、単鎖ポリペプチドに結合するために特定されたリンカ配列を使用することと
を含む。さらに、本明細書では明記されていない融合ポイントを同定するため、および本
明細書では明記されていない機能的リンカ配列を製造するために、一組の規則を規定する
。
【0044】
したがって、一態様では、本発明は、組換え単鎖LAGLIDADGメガヌクレアーゼ
を製造する方法を提供する。他の態様では、本発明は、これらの方法により得られる組換
え単鎖メガヌクレアーゼを提供する。他の態様では、本発明は、細胞または生物のゲノム
内の所望のDNA配列または遺伝子座がDNA配列の挿入、欠失、置換またはその他の操
作によって修飾されている組換え核酸、細胞および生物を製造するために、そのような単
鎖メガヌクレアーゼを使用する方法を提供する。他の態様では、本発明は、病原体に特異
的なまたは癌に特異的な認識配列を有する単鎖メガヌクレアーゼを使用して、病原体また
は癌細胞の生存率を下げる方法を提供する。
【0045】
1.2 参考文献および定義
本明細書で記載されている特許および科学文献は、当業者に利用可能な知識を構築する
。本明細書で挙げた、発行された米国特許、許可された出願、公開された米国およびPC
T国際出願、およびGenBankデータベース配列を含む参考文献は、それぞれ、具体
的かつ個別に、参照により本発明に組み込まれると記載されているように、参照により本
明細書に組み込まれる。
【0046】
本明細書で使用される用語「メガヌクレアーゼ」は、認識配列で二本鎖DNAを結合す
るエンドヌクレアーゼであって、長さが12塩基対を超えるものをいう。天然由来のメガ
ヌクレアーゼは、単量体(たとえば、I-SceI)または二量体(たとえば、I-Cr
eI)である可能性がある。本明細書で使用される用語メガヌクレアーゼは、単量体メガ
ヌクレアーゼ、二量体メガヌクレアーゼ、会合して二量体メガヌクレアーゼを形成する単
量体、または本発明の組換え単鎖メガヌクレアーゼを指すために使用することができる。
用語「ホーミングエンドヌクレアーゼ」は、用語「メガヌクレアーゼ」と同義である。
【0047】
本明細書で使用される用語「LAGLIDADGメガヌクレアーゼ」は、天然では二量
体である、単一LAGLIDADGモチーフを含有するメガヌクレアーゼ、または天然で
は単量体である、二つのLAGLIDADGを含有するメガヌクレアーゼを言う。この二
つを区別する必要がある場合は、用語「モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ」は
、本明細書では、単一LAGLIDADGモチーフを含有するメガヌクレアーゼを指すた
めに使用され、用語「ジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ」は、本明細書では、二
つのLAGLIDADGモチーフを含有するメガヌクレアーゼを指すために使用される。
LAGLIDADGモチーフを含有し、酵素活性を有するジ-LAGLIDADGメガヌ
クレアーゼの二つの構造ドメインのそれぞれ、およびモノ-LAGLIDADGメガヌク
レアーゼの個々の単量体のそれぞれは、LAGLIDADGサブユニット、または単純に
「サブユニット」と言うことができる。
【0048】
ペプチド配列に関して、本明細書で使用される「終わり」はC末端を指し、「始まり」
はN末端を指す。したがって、たとえば、「LAGLIDADGモチーフの始まり」は、
LAGLIDADGモチーフを含むペプチド配列中のN最末端アミノ酸を指し、一方、「
LAGLIDADGモチーフの終わり」は、LAGLIDADGモチーフを含むペプチド
配列中のC最末端アミノ酸を指す。
【0049】
本明細書で使用される用語「合理的に設計された」は、非天然由来のおよび/または遺
伝子操作された、を意味する。本発明の合理的に設計されたメガヌクレアーゼは、野生型
または天然由来のメガヌクレアーゼと、それらのアミノ酸配列または一次構造が異なり、
それらの第二、第三、第四次構造も異なる場合もある。さらに、本発明の合理的に設計さ
れたメガヌクレアーゼは、野生型または天然由来のメガヌクレアーゼと、認識配列特異性
および/または活性においても異なる。
【0050】
タンパク質に関して、本明細書で使用される用語「組換え」は、タンパク質をエンコー
ドする核酸、およびタンパク質を発現する細胞または生物に対する遺伝子操作技術の適用
の結果、変化したアミノ酸配列を有することを意味する。核酸に関し、用語「組換え」は
、遺伝子操作技術の適用の結果、変化した核酸配列を有することを意味する。遺伝子操作
技術として、PCRおよびDNAクローニング技術、トランスフェクション、トランスフ
ォーメーションおよび他の遺伝子転移技術、相同組換え、部位特異的変異誘発および遺伝
子融合が挙げられるが、これらに限定されない。この定義によれば、天然由来のタンパク
質と同一のアミノ酸配列を有するが、異種宿主におけるクローニングおよび発現によって
製造されたタンパク質は、組換えとみなされない。
【0051】
組換えタンパク質に関し、本明細書で使用される用語「修飾」は、基準配列(たとえば
、野生型)に対する組換え配列において、アミノ酸残基の挿入、欠失または置換のいずれ
かを意味する。
【0052】
本明細書で使用される用語「遺伝子組換え」は、ゲノムDNA配列が、組換え技術によ
って計画的に修飾されている細胞または生物、またはこれらの原種が修飾されているもの
を指す。本明細書で使用される用語「遺伝子組換え」は、用語「遺伝子導入」を包含する
。
【0053】
本明細書で使用される用語「野生型」は、メガヌクレアーゼの任意の天然由来の形態を
指す。用語「野生型」は、自然の酵素の最も一般的な対立遺伝子変異体を意味するのでは
なく、自然に見出される全ての対立遺伝子変異体を意味するものである。野生型メガヌク
レアーゼは、組換えまたは非天然由来のメガヌクレアーゼとは区別される。
【0054】
本明細書で使用される用語「認識配列半部位」、または単純に「半部位」は、モノ-L
AGLIDADGメガヌクレアーゼの単量体、またはジ-LAGLIDADGメガヌクレ
アーゼの一つのLAGLIDADGサブユニットによって認識される二本鎖DNA分子中
の核酸配列を意味する。
【0055】
本明細書で使用される用語「認識配列」は、モノ-LAGLIDADGメガヌクレアー
ゼ二量体またはジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ単量体のどちらかによって、結
合および切断される半部位の一対を言う。二つの半部位は、酵素によって特異的に認識さ
れない塩基対によって分離されても、されなくてもよい。I-CreI、I-MsoIお
よびI-CeuIの場合、各単量体の認識配列半部位は、9塩基対に広がり、二つの半部
位は、酵素の結合により直接接触していないが、実際の切断部位(4塩基対オーバーハン
グを有する)を構築する四つの塩基対によって分離される。したがって、I-CreI、
I-MsoIおよびI-CeuIメガヌクレアーゼ二量体の組合わされた認識配列は、通
常、4塩基対切断部位の横に位置する、二つの9塩基対半部位を含む22塩基対に広がる
。ジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ単量体であるI-SceIメガヌクレアーゼ
の場合、認識配列は、約18bp非パリンドローム配列であり、特異的に認識されない中
心塩基対は存在しない。慣例により、二本のストランドの一本を「センス」鎖といい、も
う一本を「アンチセンス」鎖と言うが、どちらの鎖もタンパク質をエンコードしていなく
てよい。
【0056】
本明細書で使用される用語「特異性」は、認識配列と言われる塩基対の特定の配列のみ
で、または認識配列の特定の一組のみで、二本鎖DNA分子を認識、切断する、メガヌク
レアーゼの能力を意味する。認識配列の組みは、ある保存位置または配列モチーフを共有
するが、一つ以上の位置で縮重していてもよい。高度に特異的なメガヌクレアーゼは、一
つだけまたは非常に少ない数の認識配列を切断することができる。特異性は、実施例1で
記載するような切断アッセイによって測定することができる。本明細書で使用されるメガ
ヌクレアーゼは、生理的条件下で、基準メガヌクレアーゼ(たとえば、野生型)によって
、結合されるのではなく切断される認識配列を、結合し切断する場合、あるいは認識配列
の切断速度が、標準メガヌクレアーゼに対して生理学的に相当な量(たとえば、少なくと
も2倍、または2倍~10倍)によって増加または減少する場合、「変化した」特異性を
有する。
【0057】
本明細書で使用される用語「パリンドローム性」は、同一の半部位の逆方向反復を構成
する認識配列を指す。しかし、パリンドローム性配列は、酵素の結合によって直接接触し
ていない中心塩基対(たとえば、I-CreI認識部位の四つの中心塩基対)に関して、
パリンドローム性である必要はない。天然由来の二量体メガヌクレアーゼの場合、パリン
ドローム性DNA配列は、二つの単量体が同一の半部位と接触しているホモ二量体によっ
て認識される。
【0058】
本明細書で使用される用語「擬似パリンドローム性」は、同一でないまたは不完全なパ
リンドローム性半部位の逆方向反復を構成する認識配列を指す。酵素の結合により直接接
触していない中心塩基対の他に、擬似パリンドローム性配列は、二つの半部位のそれぞれ
において、1~3塩基対で、二つの認識半部位の間のパリンドローム性配列から逸脱する
可能性がある。擬似パリンドローム性DNA配列は、二つの同一の酵素単量体が僅かに異
なる半部位に接触する野生型ホモ二量体メガヌクレアーゼによって認識される天然DNA
部位に特有のものである。
【0059】
本明細書で使用される用語「非パリンドローム」は、メガヌクレアーゼの二つの無関係
な半部位で構成された認識配列を指す。この場合、非パリンドローム配列は、二つの半部
位のそれぞれで、中心塩基対または4以上の塩基対のいずれかに関して、パリンドローム
性である必要はない。非パリンドロームDNA配列は、ジ-LAGLIDADGメガヌク
レアーゼ、高縮重モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ(たとえば、I-CeuI
)によって、または同一でない半部位を認識するモノ-LAGLIDADGメガヌクレア
ーゼ単量体のヘテロ二量体によって認識される。後者の場合、二つの異なるモノ-LAG
LIDADG単量体のヘテロ二量体は、これらが単鎖ポリペプチドに融合していてもして
いなくても、各単量体によって認識される一つの半部位を含む認識配列を切断するので、
非パリンドローム認識配列を「ハイブリッド配列」と言ってもよい。したがって、ヘテロ
二量体認識配列は、二つのホモ二量体認識配列のハイブリッドである。
【0060】
本明細書で使用される用語「リンカ」は、二つのLAGLIDADGサブユニットを単
鎖ポリペプチドに結合するために使用される外因性ペプチド配列を言う。リンカは、天然
のタンパク質中に見出される配列を有してもよいし、またはいかなる天然のタンパク質中
にも見出されない人工的な配列であってもよい。リンカは、可撓性で二次構造が欠けてい
てもよいし、または生理的条件下で特異的な三次元構造を形成する傾向を有してもよい。
【0061】
本明細書で使用される用語「融合ポイント」は、LAGLIDADGサブユニットとリ
ンカとの間の接合点を指す。具体的には、「N末端融合ポイント」は、リンカ配列の前の
、N末端LAGLIDADGサブユニットの最終の(C最末端)アミノ酸であり、「C末
端融合ポイント」は、リンカ配列の後の、C末端LAGLIDADGサブユニットの最初
の(N最末端)アミノ酸である。
【0062】
本明細書で使用される用語「単鎖メガヌクレアーゼ」は、リンカによって結合された、
一対のLAGLIDADGサブユニットを含むポリペプチドを指す。単鎖メガヌクレアー
ゼは、組織:N末端サブユニット-リンカ-C末端サブユニットを有する。単鎖メガヌク
レアーゼは、N末端サブユニットがモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼから由来
していなければならない点において、天然のジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼと
区別され、したがって、リンカは、N末端サブユニットに対して外因性でなければならな
い。
【0063】
本明細書で使用される用語「相同組換え」は、修復テンプレートとして相同DNA配列
を用いて、二本鎖DNA切断が修復される自然の細胞内プロセスを指す(たとえば、非特
許文献27参照)。相同DNA配列は、内因性の染色体配列であっても、または細胞に送
達された外因性核酸であってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、合理的に設
計されたメガヌクレアーゼは、標的配列内の認識配列を切断するために使用され、標的配
列に対し相同性を持つまたは実質的な配列類似性を持つ外因性核酸が細胞に送達され、相
同組換えによって修復のためのテンプレートとして使用される。これによって、標的配列
と大きく相違するかもしれない外因性核酸のDNA配列が、染色体の配列に導入される。
相同組換えのプロセスは、主として、真核生物の生物において起こる。用語「相同性」は
、本明細書では、「配列類似性」と同等のものとして使用され、血統または系統的な関連
性による同一性は必要とされないものである。
【0064】
本明細書で使用される用語「非相同的末端結合」は、二本鎖DNA切断が二つの非相同
性DNAセグメントの直接結合によって修復される、自然の細胞内プロセスを指す(たと
えば、Cahillら(2006),Front.Biosci.11:1958-19
76参照)。非相同的末端結合によるDNA修復は、エラーを起こしがちで、しばしば、
修復部位で非テンプレート付加またはDNA配列の欠失を起こす結果となる。したがって
、ある実施形態では、非相同的末端結合によって、遺伝子を混乱させる(たとえば、塩基
挿入、塩基欠失またはフレームシフト突然変異を導入することによって)ように標的配列
内のメガヌクレアーゼ認識配列で、二本鎖切断端を製造するために、合理的に設計された
メガヌクレアーゼを使用することができる。他の実施形態では、標的配列に対する相同性
、または実質的な配列類似性を欠く外因性核酸を、非相同的末端結合によって、メガヌク
レアーゼで刺激された二本鎖DNA切断の部位で捕獲してもよい(たとえば、Salom
onら(1998),EMBOJ.17:6086-6095参照)。非相同的末端結合
のプロセスは、真核生物および細菌のような原核生物の両方において起こる。
【0065】
本明細書で使用される用語「関心のある配列」は、タンパク質、RNAまたは調節エレ
メント(たとえば、エンハンサ、サイレンサまたはプロモータ配列)をコードする場合、
メガヌクレアーゼタンパク質を使用して、ゲノムに挿入されうる、またはゲノムDNA配
列の置換えに使用されうる任意の核酸配列を意味する。関心のある配列は、該関心のある
配列から発現されるタンパク質またはRNAにタグをつけることを可能にする異種DNA
配列を有する可能性がある。たとえば、エピトープ(たとえば、c-myc、FLAG)
または他のリガンド(たとえば、ポリ-His)(これらに限定されない)を始めとする
タグで、タンパク質にタグをつけることができる。さらに、関心のある配列は、当該分野
で公知の技術に従って融合タンパク質をエンコードすることができる(たとえば、Aus
ubelら,Current Protocols in Molecular Bio
logy,Wiley 1999参照)。いくつかの実施形態では、関心のある配列は、
切断用の組換えメガヌクレアーゼに認識されるDNA配列の横に配置されている。したが
って、フランキング配列は切断され、関心のある配列が組換えメガヌクレアーゼによって
切断されたゲノム認識配列へ正しく挿入される。いくつかの実施形態では、相同組換えに
より標的配列が関心のある配列に効率的に置き換わるように、関心のある配列全体が、ゲ
ノム中の標的配列に相同性があるか、あるいは実質的な配列類似性を有する。他の実施形
態では、相同組換えによりゲノム内の関心のある配列が標的配列の遺伝子座で挿入される
ように、関心のある配列は、標的配列と相同性であるか、あるいは実質的に配列類似性の
あるDNA配列に挟まれている。いくつかの実施形態では、メガヌクレアーゼが関心のあ
る配列によって修飾された後、標的配列を切断できないように、関心のある配列は、メガ
ヌクレアーゼ認識配列において、突然変異または他の修飾以外の標的配列に対し実質的に
同一である。
【0066】
アミノ酸配列および核酸配列の両方に関して、本明細書で使用される用語「類似性百分
率」および「配列類似性」は、整列アミノ酸残基またはヌクレオチド間の類似性を最大に
し、配列アラインメントにおける、同一または類似する残基またはヌクレオチドの数、残
基またはヌクレオチド総数、およびギャップの存在および長さの関数である、配列のアラ
インメントに基づく二つの配列が類似する程度の測定値を言う。標準パラメータを使用し
て配列類似性を測定するために、種々のアルゴリズムおよびコンピュータプログラムが入
手可能である。本明細書で使用される配列類似性は、どちらも、National Ce
nter for Biotechnology Information(www.n
cbi.nlm.nih.gov/)より入手可能であり、アミノ酸配列用のBLAST
pプログラムおよび核酸配列用のBLASTnプログラムを使用して測定され、たとえば
、Altschulら(1990),J.Mol.Biol.215:403-410、
GishおよびStates(1993),Nature Genet.3:266-2
72、Maddenら(1996),Meth.Enzymol.266:131-14
1、Altschulら(1997),Nucleic Acids Res.25:3
3 89-3402)、Zhangら(2000),J.Comput.Biol.7(
l-2):203-14に記載されている。本明細書で使用される二つのアミノ酸配列の
類似性百分率は、BLASTpアルゴリズム用の以下のパラメータ:語長=3、ギャップ
・オープニング・ペナルティ=-11、ギャップ・エクステンション・ペナルティ=-1
、およびスコアマトリックス=BLOSUM62に基づくスコアである。本明細書で使用
される二つの核酸配列の類似性百分率は、BLASTnアルゴリズム用の以下のパラメー
タ:語長=11、ギャップ・オープニング・ペナルティ=-5、ギャップ・エクステンシ
ョン・ペナルティ=-2、マッチリワード=1、およびミスマッチペナルティ=-3に基
づくスコアである。
【0067】
二つのタンパク質またはアミノ酸配列の修飾に関して、本明細書で使用される用語「に
対応する」は、第1タンパク質の特定の修飾が、第2のタンパク質の修飾と同じアミノ酸
残基の置換であり、二つのタンパク質を、標準配列アラインメント(たとえば、BLAS
Tpプログラムを使用して)に供した場合、第1タンパク質の修飾のアミノ酸の位置が、
第2のタンパク質の修飾のアミノ酸位置に対応するまたは一致することを示すために使用
される。したがって、もし、配列アラインメントにおいて残基XおよびYが互いに対応す
れば、XおよびYが異なる数であっても、第1タンパク質における残基「X」のアミノ酸
「A」への修飾は、第2のタンパク質における残基「Y」のアミノ酸「A」への修飾に対
応することになる。
【0068】
本明細書で使用される変数に関する数字の範囲の記述は、本発明が、その範囲内の任意
の値に等しい変数を用いて実施できることを伝えるものである。したがって、本質的に不
連続な変数に関して、該変数は、その範囲の終点を含む数字の範囲内の任意の整数と同一
でありうる。同様に、本質的に連続した変数に関して、該変数は、その範囲の終点を含む
数字の範囲内の任意の実数値と同一でありうる。限定ではない、例示として、もし変数が
本質的に不連続であれば、0と2との間の値を持つと記載された変数は、0、1または2
の値をとることができ、変数が本質的に連続であれば、変数は、0.0、0.1、0.0
1、0.001、または≧0および≦2の他の任意の実数をとりうる。
【0069】
他に特定の示唆がない限り、本明細書で使用される用語「または」は、「および/また
は」を含む意味で使用され、「どちらか/または」の意味は含まない。
【0070】
2.LAGLIDADGサブユニットに由来する単鎖メガヌクレアーゼ
天然のモノ-およびジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼの構造比較は、ジ-LA
GLIDADGメガヌクレアーゼのN末端サブユニットが、モノ-LAGLIDADG単
量体より小さい傾向にあることを明らかにする。この結果は、ジ-LAGLIDADGメ
ガヌクレアーゼの場合、N末端サブユニットの終点(C末端)は、C末端サブユニットの
始点(N末端)に非常に近いということである。これは、比較的短い(たとえば、5~2
0アミノ酸)リンカは、二つのサブユニットを結合するのに十分であることを意味する。
モノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼの場合、一つの単量体のC末端は、一般的に
、第2単量体のN末端から非常に遠い(I-CreIの場合、約48Å)。したがって、
一対のモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼを単鎖ポリペプチドに融合するには、
この距離に広がることができるより長い(たとえば、>20アミノ酸)ペプチドリンカが
必要である。N末端サブユニットをC末端サブユニットの始点に空間的により近い点でト
ランケートする代替方法は、先に報告されている(非特許文献17、特許文献19)が、
以下の実施例1に示すように、この方法では、どのような機能的へテロ二量体も殆ど製造
されない。I-CreIに由来する機能的単鎖メガヌクレアーゼの製造に関する難しさに
ついての広範な検討は、非特許文献25に見出すことができる。
【0071】
2.1 I-CreIに関する融合ポイント
野生型I-CreI、またはそのDNA切断部位優先度に関して変更されたI-Cre
Iの操作された変異体(「CCR2」と示される、配列番号31、特許文献12参照)の
どちらかを、天然C末端アミノ酸、Pro163の前で停止させた、一連のトランケーシ
ョン変異体を作った(表1)。変異体ホモ二量体がE.coli中で発現し、これを精製
し、野生型認識配列(配列番号34~35)またはCCR2認識配列(配列番号32~3
3)のどちらかで培養して、切断活性の試験を行った。
【表1】
【0072】
野生型I-CreIは、残基148以上のC末端残基でトランケートされた場合は活性
であるが、残基141以上のN末端残基でトランケートされた場合は不活性であることが
わかった。したがって、野生型活性のためには、残基141から147の少なくともいく
つかの残基、またはそれらの残基の保存的置換が必要である。同様に、CCR2は、残基
151以上のC末端残基でトランケートされた場合は活性であるが、残基148以上のN
末端残基で停止された場合は不活性であることがわかった。したがって、CCR2活性の
ためには、残基148から150の少なくともいくつかの残基、またはそれらの残基の保
存的置換が必要である。野生型I-CreIと合理的に設計されたCCR2メガヌクレア
ーゼとの間の違いは、おそらく、未成熟C末端トランケーションによりさらなる不安定化
に対してより敏感になるように、CCR2メガヌクレアーゼの構造的安定性における減少
によるものであろう。これらのトランケーションの結果は、I-CreIのC末端ループ
(アミノ酸138-142)は、切断活性に必須であることが発見されたというPrie
toらの刊行物(Prietoら(2007),Nucl.Acids Res.35:
3262-3271)と一致する。まとめると、これらの結果は、I-CreIのC末端
に近傍のいくつかの残基は、DNA結合および/または触媒活性に必須であり、残基14
2のほぼ前のI-CreIサブユニットをトランケートする単鎖メガヌクレアーゼの製造
方法(たとえば、Epinatら(2003),Nucl.Acids Res.31:
2952-62、国際公開公報第2003/078619号)によって、両LAGLID
ADGサブユニットが触媒的に活性な単鎖メガヌクレアーゼを得ることは見込みがないこ
とを示す。
【0073】
したがって、本発明によれば、位置142~151の任意の位置、または残基151に
対するC末端の任意の位置を含む、N末端融合ポイント(すなわち、N末端I-CreI
サブユニットとリンカとの間)は、N末端サブユニットの残基142に対するC末端にあ
るべきである。I-CreIの残基154-163は、非構造的であり(Juricaら
(1998),MoI.Cell2:469-476)、したがって、これらの残基を含
むことにより可撓性が増し、得られる単鎖メガヌクレアーゼの構造の不安定性もおそらく
増すであろう。逆に、可撓性を少なくし、構造安定性を強めることが望ましいまたは必要
であると決めた場合は、残基142-153の融合ポイントを選択することができる。
【0074】
単鎖メガヌクレアーゼのC末端LAGLIDADGサブユニットがI-CreIに由来
するという条件下で、リンカのC末端融合ポイントは、I-CreI配列のN末端に向い
ている。残基7、8および9は、(1)LAGLIDADGメガヌクレアーゼファミリメ
ンバの間に構造的に保存され、したがって、ヘテロ二量体の形成において、他のLAGL
IDADGファミリメンバとの大きな適合性を提供でき、(2)触媒機能に関与する保存
LAGLIDADGモチーフを含むαへリックスを開始するという理由で、I-CreI
中のC末端融合ポイントとして特に関心がもたれる。しかし、残基1-6の任意の残基を
含む残基7に対する融合ポイントN末端も、本発明に従って使用することができる。
【0075】
以下のI-CreI N末端およびC末端融合ポイントは、さらなる実験のために選択
したが、本発明の範囲を限定するように考えるべきではない。
【表2】
【0076】
2.2 I-CreIに由来する単鎖メガヌクレアーゼ用のリンカ
一対のI-CreI単量体を単鎖ポリペプチドに結合する目的で、二つの一般的なクラ
スのリンカ、(1)二次構造を欠く非構造化リンカ、および(2)二次構造を有する構造
化リンカについて考慮した。非構造化リンカの例は、当該分野で周知であり、GIyおよ
びSer含有率が高い、または反復を含む人工配列が挙げられる。構造化リンカも当該分
野で周知であり、タンパク質ホールディングの基本的な原理を使用して設計されたもの(
たとえば、AuroraおよびRose(1998),Protein Sci.7:2
1-38、Fersht,Structure and Mechanism in P
rotein Science,W.H.Freeman 1998)が挙げられる。
【0077】
「LAMl」(配列番号36)および「LAM2」(配列番号37)と呼ばれる一対の
合理的に設計されたI-CreI単量体を使用して、本発明を検証した。これらの合理的
に設計されたエンドヌクレアーゼは、国際公開公報第2007/047859号に記載さ
れた方法を使用して製造され、該公報で特徴付けられている。しかし、当業者には明らか
であろうが、LAM1およびLAM2単量体は、野生型モノ-LAGLIDADGサブユ
ニット、N末端および/またはC-末端がトランケートされた野生型モノ-LAGLID
ADGサブユニット、N末端および/またはC末端がトランケートされた野生型ジ-LA
GLIDADGサブユニットおよび先に記載した任意のものの合理的に設計された修飾形
態を始めとする、使用することができる多くの単量体の単なる例示である。
【0078】
単量体の一例であるLAM1は、野生型I-CreIとは7つのアミノ酸が異なり、半
部位:
5’-TGCGGTGTC-3’(配列番号38)
3’-ACGCCACAG-5’(配列番号39)
を認識する。したがって、LAM1ホモ二量体は、パリンドローム性認識配列(ここで、
各Nは非拘束型である):
5’-TGCGGTGTCNNNNGACACCGCA-3’(配列番号40)
3’-ACGCCACAGNNNNCTGTGGCGT-5’(配列番号41)
を認識する。
【0079】
他の単量体の例示であるLAM2は、野生型I-CreIとは5個のアミノ酸が異なり
、半部位:
5’-CAGGCTGTC-3’(配列番号42)
3’-GTCCGACAG-5’(配列番号43)
を認識する。したがって、LAM2ホモ二量体は、パリンドローム性認識配列(ここで、
各Nは非拘束型である):
5’-CAGGCTGTCNNNNGACAGCCTG-3’(配列番号44)
3’-GTCCGACAGNNNNCTGTCGGAC-5’(配列番号45)
を認識する。
【0080】
一つのLAM1単量体と一つのLAM2単量体とを含む(「LAM1/LAM2ヘテロ
二量体」)ヘテロ二量体は、そのため、ハイブリッド認識配列:
5’-TGCGGTGTCNNNNGACAGCCTG-3’(配列番号40)
3’-ACGCCACAGNNNNCTGTCGGAC-5’(配列番号41)
を認識する。
【0081】
2.2.1 単鎖メガヌクレアーゼ用の可撓性リンカ
種々の高可撓性ペプチドリンカは当該分野で公知であり、本発明に従って使用すること
ができる。たとえば、限定ではないが、Gly-Ser-Ser反復単位を含むペプチド
リンカは、非構造的で、可撓性であることが知られている(Fersht,Struct
ure and Mechanism in Protein Science,W.H
.Freeman 1998)。この組成および類似する組成を持つリンカは、たとえば
、単鎖抗体(Mackら(1995),Proc.Nat.Acad.Sci 92:7
021-7025)、成長因子受容体(Uedaら(2000),J.Immunol.
Methods 241:159-170)、酵素(Brodeliusら(2002)
,269:3570-3577)、およびDNA結合およびヌクレアーゼドメイン(Ki
mら(1996),Proc.Nat.Acad.Sci.93:1156-1160)
と一緒に、タンパク質ドメインを融合するために、しばしば使用される。
【0082】
一般的事項として、可撓性リンカは、生理的条件下で安定な二次構造を形成しない任意
のポリペプチド配列を含みうる。いくつかの実施形態では、リンカは、高い割合(たとえ
ば、>50%、60%、70%、80%または90%、あるいは一般的には、50%~1
00%)で、極性非荷電残基(すなわち、Gly、Ser、Cys、Asn、GIn、T
yr、Thr)を含有する。さらに、いくつかの実施形態では、リンカは、大きな疎水性
残基(すなわち、Phe、Trp、Met)を含有する割合が低い。リンカは、種々の長
さの繰返し(たとえば、(SG)n、(GSS)n、(SGGS)n)、ランダム配列、
またはこれらの二つの組合せを含んでもよい。
【0083】
したがって、本発明に従って、Val-151またはAsp-153をN末端融合ポイ
ントとして、およびPhe-9をC末端融合ポイントとして使用して、高可撓性ペプチド
リンカがN末端(LAM1)サブユニットをC末端(LAM2)サブユニットに共有結合
した一組の単鎖融合を、LAM1とLAM2との間に製造した。単鎖タンパク質は、E.
coliで発現し、これを精製し、一つのLAM1半部位と一つのLAM2半部位と(配
列番号46および47)を含むハイブリッドDNA部位を切断する能力に関して、試験し
た。切断活性を、-:活性は検出不能、+:最小活性、++:中程度の活性、+++:エ
ンドヌクレアーゼ精製前のE.coli中の二つの単量体の共発現により製造されたLA
M1/LAM2ヘテロ二量体に匹敵する活性の四点スケールで評価した。また、発現また
は精製中にリンカ領域がタンパク分解され、二つのサブユニットを遊離する程度を測定す
るSDS-PAGEによっても、該タンパク質を評価した。
【表3】
【0084】
結果は、表3中のGly-Serリンカのような可撓性リンカは、長さが正しければ、
単鎖メガヌクレアーゼ製造に適することを示した(実施例2も参照)。たとえば、表3に
関して、それぞれ合計22個および25個のアミノ酸を含むリンカ1および2を含有する
単鎖メガヌクレアーゼは、試験された融合ポイントに関して、いかなる検出可能な切断活
性も発揮しなかった。SDS-PAGEによれば、これらのメガヌクレアーゼは未変化で
、プロテアーゼによって分解されなかったことが示され、つまり、これらの単鎖メガヌク
レアーゼは、構造的には安定であるが、機能的には、あまりに短すぎて個々のLAGLI
DADGサブユニットに、DNA結合および/または触媒作用のために必要な立体配座を
適用できないリンカによって制約されているという結論に達した。それぞれ28、29、
30および28個のアミノ酸を含むリンカ3、6、7および8は、全て、低い切断活性の
レベルを示した。SDS-PAGEによれば、それぞれ、少量(5%~10%)は、個々
のサブユニットにタンパク分解されるが、一方、大部分は、完全長単鎖メガヌクレアーゼ
(約40キロダルトン)に対応する分子量を持つことが示された。3および8は、同じリ
ンカ配列を有するが、N末端融合ポイントは、それぞれ、Val-151およびAsp-
153であった。両単鎖メガヌクレアーゼは、同等の活性を示し、この場合、正確な融合
ポイントは重大な意味を持つものではないことを示した。最後に、E.coliから精製
した場合、それぞれ、31個および34個のアミノ酸を含むリンカ4および5からは、検
出しうる単鎖メガヌクレアーゼが得られなかった。SDS-PAGEによって検出された
ように、これらのリンカは、個々のLAM1および/またはLAM2サブユニットに完全
にタンパク分解され、したがって、これらのメガヌクレアーゼの切断活性は、これ以上調
べなかった。
【0085】
これらの結果により、本発明者らは、リンカの長さが、25アミノ酸より長く31アミ
ノ酸より短ければ、Gly-Serリンカは、モノ-LAGLIDADGメガヌクレアー
ゼI-CreIおよび使用した特定の融合ポイントのLAGLIDADGサブユニットに
基づく単鎖メガヌクレアーゼの製造にふさわしいと結論付けた。これらの融合ポイントを
持つI-CreI系単鎖メガヌクレアーゼに関しては、より短いリンカは触媒作用を妨げ
るが、より長いリンカは、不安定で、プロテアーゼによってクリッピングする傾向がある
。
【0086】
ふさわしいリンカの長さにおける融合ポイントの変化の効果は、日常的な実験により経
験的に測定することができおよび/またはタンパク質構造の三次元モデル化に基づいて予
測することができる。融合ポイントはN末端またはC末端を移動させるので、融合ポイン
トに近いタンパク質の第二および第三次構造に依存して、他の融合ポイントにより近くに
、あるいは該ポイントからより遠くに動きうるということは重要である。したがって、た
とえば、C末端方向へ(たとえば、残基150から残基155へN末端融合ポイントを)
動かすが、物理的にC末端融合ポイントに近いN末端融合ポイントとなる結果には必ずし
もならない。なぜなら、たとえば、その領域内のN末端残基は、C末端融合ポイントに向
かう、あるいは該ポイントから離れる方向を指す第二/第三次構造の一部であるかもしれ
ないからである。したがって、N末端融合ポイントをN末端またはC末端方向に動かす、
またはC末端融合ポイントをN末端またはC末端方向に動かすことによって、ふさわしい
リンカ長さの範囲内で、より長いまたはより短いリンカに向かってシフトすることになる
可能性がある。しかし、該シフトは、本明細書で報告されている実験例、日常の実験およ
び/または三次元モデル化によって示されるように、簡単に測定される。
【0087】
したがって、いくつかの実施形態では、単鎖メガヌクレアーゼ系の二つのI-CreI
LAGLIDADGサブユニットに関して、有用な可撓性リンカは、表3に示すように
、25残基を超え、31残基未満(間の全ての値を含む)の長さを有する。しかし、他の
実施形態では、リンカが広範囲にタンパク分解されず、単鎖メガヌクレアーゼが、本明細
書に記載する簡単なアッセイによって測定されるDNA結合および切断活性を保持すると
いう条件下で、有用な可撓性リンカは、異なるLAGLIDADGサブユニットおよび/
または異なる融合ポイントを使用して、15を超えおよび40未満の残基(間の全ての値
を含む)の長さを有することができる。
【0088】
2.2.2 単鎖メガヌクレアーゼ用に設計、構造化されたリンカ
長期間にわたって保存が十分安定でかつタンパク分解に対して十分な耐性がある、天然
の二量体酵素に匹敵するヌクレアーゼ活性を持つ単鎖I-CreI系メガヌクレアーゼを
製造することを目的として、サブユニットを共有結合するために、安定な二次構造を有す
るリンカを使用することができる。タンパク質データバンク(www.rcsb.org
)検索では、I-CreI中で認識されたNおよびC末端融合ポイント間の長い距離(約
48Å)にわたって広がるのに適したリンカを持つ、任意の構造的に特徴付けられたLA
GLIDADGタンパク質は、明らかにされなかった。したがって、二つのサブユニット
を結合するのに適した構造要素を持つことが期待される一組のリンカを製造するために、
タンパク質構造を管理する公知の最初の原理(たとえば、AuroraおよびRose(
1998),Protein Sci.7:21-38、Fersht,Structu
re and Mechanism in Protein Science,W.H.
Freeman 1998)を使用した。具体的には、適切なリンカは、以下(N末端融
合ポイントからC末端融合ポイントまでを挙げる)を含むと仮定した。
【0089】
(1)ループ1.この構造要素は、N末端融合ポイントから始まり、それ自身の上でペ
プチド鎖の方向を逆転させる(180°ターン)。配列は、3~8アミノ酸が可能であり
、少なくとも一つのグリシン残基、いくつかの実施形態では、2~3グリシンを含みうる
。この構造要素は、「Cキャッピング」モチーフを導入することによって安定化すること
ができ、I-CreIのC末端αへリックスを終わらせ、後続のターンを開始する。へリ
ックス・キャップ・モチーフは、普通、へリックスの最終ターン中の疎水性アミノ酸で始
まるように記載される(AuroraおよびRose(1998),Protein S
ci.7:21-38)。Cキャップは、表4に挙げる形態の任意のものをとることがで
きる。
【表4】
表中、h=疎水性アミノ酸(Ala、Val、Leu、Ile、Met、Phe、Trp
、Thr、またはCys)、p=極性アミノ酸(Gly、Ser、Thr、Asn、Gl
n、Asp、Glu、Lys、Arg)、n=β分岐していないアミノ酸(Val、Il
e、ThrまたはProではない)、x=hまたはp基からの任意のアミノ酸、G=グリ
シン、およびP=プロリンである。Thrは、その側鎖に、疎水性(メチル基)および極
性(水酸基)官能基の両方を持つので、h基およびp基の両方に現れることに注意すべき
である。ハイフンは、αへリックスの末端を示し、h
1は、へリックスの最終ターンにお
ける疎水性アミノ酸(すなわち、N末端融合ポイントの前の疎水性アミノ酸、0~4個の
アミノ酸)である。I-CreIの場合、h
1は、普通、Val-151またはLeu-
152である。したがって、モチーフ7の例は、配列:V
151L
152D
153S-P
GSVである(たとえば、表6、リンカ9参照)。
【0090】
(2)αへリックス1.ループ1の後、リンカ中のこの最初のαへリックスが、約30
Åの距離でタンパク質の外面上をI-CreI中のC末端へリックス(アミノ酸144~
153)に対し逆平行に走るように設計される。このセグメントは、長さが10-20ア
ミノ酸であるべきで、NおよびCキャッピングモチーフ(下方)の外側にグリシンアミノ
酸もプロリンアミノ酸も含むべきではなく、一つのへリックス面(疎水性面)はN末端I
-CreIサブユニットの面に対して埋められ、一方他の面は溶剤に触れるように、3~
4アミノ酸周期性を持つ疎水性および極性アミノ酸が交互に並んでいる。たとえば、該へ
リックスは、形態:pphpphhpphpp(ここで、pは任意の極性アミノ酸であり
、hは任意の疎水性アミノ酸である)をとることができるが、配列:SQASSAASS
ASSのようなグリシンでもプロリンでもない(たとえば、表6、リンカ9参照)。ペプ
チド配列の螺旋性向を測定するために、複数のアルゴリズムが利用可能であり(たとえば
、BMERC-PSA,http://bmerc-www.bu.edu/psa/、
NNPREDICT,http://alexander.compbio.ucsf.
edu/~nomi/nnpredict.html、PredictProtein,
http://www.predictprotein.org)、αヘリカル二次構造
への適用が期待できる適正な長さの配列を作るために、これらのどれでも使用することが
できる。あるいは、このへリックス配列は、既存の天然または設計されたタンパク質にお
いてαヘリカル二次構造を適用することが知られているペプチド配列に由来しうる。その
ようなペプチド配列の数多くの例が、タンパク質データバンク(www.rcsb.or
g)にある。
【0091】
さらに、その構造を安定化するために、Nキャッピングモチーフを持つαへリックスか
ら開始することが望ましいこともある(AuroraおよびRose(1998),Pr
otein Sci.7:21-38)。このモチーフは、ループ-αへリックス接合点
に広がり、普通、表5に示される形態の一つを有する。
【表5】
表中、記号は、先の表4と同じであり、ハイフンは、ループとへリックスとの間の接合
点を表わす。モチーフ番号2の例は、配列:L-SPSQAである(たとえば、表6、リ
ンカ9参照)。
【0092】
(3)ターン1.αへリックス1の後、ペプチド鎖の全配向を、αへリックス1の配向
に対して約90°曲げるために、短い、可撓性ペプチド配列が導入される。この配列は、
長さが3~8アミノ酸であってもよく、1、またはいくつかの実施形態では、2~3グリ
シンを含みうる。また、この配列は、αへリックス1を安定化し、ターンを開始するため
に、表4のモチーフの1つのようなCキャップを含むこともできる。例示として、Cキャ
ッピングモチーフ番号6に一致する配列:ASSS-PGSGIがある(たとえば、表6
、リンカ9参照)。この場合、配列:ASSSは、αへリックス1の最終ターンであり、
一方配列:PGSGIはターン1である。
【0093】
(4)αへリックス2.このヘリックスは、ターン1の後に続き、LAGLIDADG
サブユニット間の境界面に作られた溝中のI-CreIの面に存在するように設計される
。この溝の面は、本質的に、N末端サブユニットのアミノ酸94~100および134~
139、ならびにC末端サブユニットのアミノ酸48~61を含む。
【0094】
αへリックス2は、αへリックス1より短くなるように設計することができ、該へリッ
クス(4~12個のアミノ酸)のターンを1~3つ含むことができる。αへリックス2は
、αへリックス1と同じ全アミノ酸組成を有することができ、表5のNキャッピングモチ
ーフの追加によって安定化することもできる。配列:I-SEALRは、Nキャッピング
モチーフ番号1と一致する例(たとえば、表6、リンカ9)である。リンカ9は、約二つ
のターンを作ることが予測される配列:SEALRAを含む、比較的短いαへリックス2
を取込む。異なるリンカαへリックス2配列に関する実験により、リンカのこの領域での
ヘリカルレジスタの重要性が実証されている。グリシンアミノ酸を用いてαへリックス2
の停止前の単一アミノ酸(たとえば、A、リンカ11)、二つのアミノ酸(たとえば、A
S、リンカ12)、あるいは三つのアミノ酸(たとえば、ASS、リンカ13)を付加す
ることにより、不安定で、E.coliからの精製ですぐに析出する単鎖I-CreIタ
ンパク質(表6)となる可能性がある。対照的に、一つの追加の完全ターンを作り、ヘリ
カルレジスタをリンカ1のものに回復することが予測される、四つのアミノ酸(たとえば
、ASSA、リンカ14)の付加は、安定で活性である。
【0095】
(5)ループ2.このループは、αへリックス2を停止し、C末端融合ポイントで、C
末端I-CreIサブユニットと結合するために、ペプチド鎖をそれ自身の上で逆転させ
る。ループ1のように、この配列は、長さが3~8アミノ酸とすることができ、一つ以上
のグリシンを含みうる。また、αへリックス2を安定化するために、表4のCキャッピン
グモチーフを含みうる。たとえば、リンカ9からの配列:ALRA-GAは、Cキャッピ
ングモチーフ番号1と一致する。さらに、このセグメントは、C末端I-CreIサブユ
ニットのN末端αへリックス(アミノ酸7~20)上で、Nキャップを開始することがで
きる。たとえば、リンカ9からの配列:T-KSK7E8F9は、Nキャッピングモチー
フ番号2と一致する。この場合、C末端融合ポイントはLys-7である。他の場合、融
合ポイントを第2サブユニット(たとえば、アミノ酸8または9)にさらに移動させるこ
とができ、場合によっては、1~2アミノ酸をループ2に付加することで、C末端融合ポ
イントを移動させるように、ヘリカルレジスタの変化を補う。たとえば、以下の表6のリ
ンカ15~23は、C末端融合ポイントとしてGlu-8を有し、全て、リンカ1~6に
対しループ2内に追加のアミノ酸を有する。
【0096】
先に記載した原理を使用して、表6に概要を述べたリンカの組を発現させた。LAM1
サブユニットとLAM2サブユニットとの間にリンカを取込む一組の単鎖I-CreIメ
ガヌクレアーゼを構築し、それぞれについて、LAM1/LAM2ハイブリッド認識配列
に対する活性を試験した。全ての場合で、N末端融合ポイントはLAM1のAsp-15
3であり、C末端融合ポイントは、LAM2のLys-7またはGlu-8(「CFP」
カラム中で表示される)のどちらかであった。切断活性を、-:活性は検出不能、+:最
小活性、++:中程度の活性、+++:エンドヌクレアーゼ精製前にE.coli中で二
つの単量体を共発現することにより製造したLAM1/LAM2ヘテロ二量体に匹敵する
活性の四点スケールで評価した。精製直後、単鎖メガヌクレアーゼを遠心(2100g1
0分間)し、沈殿したタンパク質(構造不安定性を示す)をペレット化し、観測した沈殿
物の量(ppt)をスコア化した。-:沈殿なし、+:僅かに沈殿、++:有意に沈殿。
有意な程度まで沈殿したタンパク質サンプルは、切断活性に関してアッセイできなかった
。
【表6】
【0097】
単鎖メガヌクレアーゼでは、11~13および23(これらは調べなかった)以外のこ
れらのリンカのそれぞれは、SDS-PAGEゲル上で所望の分子量(約40キロダルト
ン)の単一バンドとして走り、リンカ配列のタンパク質分解切断に対して抵抗性があるこ
とを示していた。少なくとも一つのケース(リンカ9)では、単鎖LAMメガヌクレアー
ゼを、切断活性の劣化または喪失のいかなる証拠もなしに、4℃で4週間を超えて保存す
ることができた。さらに、数多くの単鎖LAMエンドヌクレアーゼ(9、10および14
)は、精製LAM1/LAM2ヘテロ二量体に匹敵する効率で、ハイブリッドLAM1/
LAM2認識配列を切断し、これらのリンカを使用してI-CreIサブユニットを融合
することで、エンドヌクレアーゼ活性は大きく損なわれないことが示された(実施例2参
照)。
【0098】
精製LAM1/LAM2ヘテロ二量体(これは、実際、ホモおよびヘテロ二量体の混合
物)とは全く対照的に、表6のリンカを導入する単鎖LAMメガヌクレアーゼは、パリン
ドローム性配列のどれよりも、ハイブリッド部位をより高い効率で切断する(実施例2参
照)。パリンドローム性配列は、普通、ハイブリッド部位に対して<5%の効率で切断さ
れる。この予想外のパリンドローム性DNA部位の切断は、(1)一対の異なる単鎖タン
パク質からのLAM1またはLAM2サブユニットのホモ二量体化、(2)単鎖メガヌク
レアーゼ内の単一サブユニット(LAM1またはLAM2)によるパリンドローム性配列
の両鎖の逐次ニッキング、または(3)単鎖メガヌクレアーゼをその個々のサブユニット
にタンパク質分解切断された後に形成される、僅かな量のホモ二量体LAM1またはLA
M2のためであろう(SDS-PAGE結果は、この後の説明をなさそうにするが)。単
鎖I-CreIメガヌクレアーゼは、パリンドローム性DNA部位に対するある活性を維
持するが、該活性は、ハイブリッド部位のほうに非常に大きく偏り、この取組みは今ある
方法を超えて、非常に大きな重要性を示す。
【0099】
3.I-MsoIに由来する単鎖メガヌクレアーゼ
I-MsoIは、I-CreIに近い構造的同族体であり、このメガヌクレアーゼのD
NA結合特異性を再設計するために、類似の方法が存在している(国際公開公報第200
7/047859号)。先に挙げた単鎖I-CreIメガヌクレアーゼの製造方法は、I
-MsoIに直接適用することができる。I-MsoIのアミノ酸Phe-160、Le
u-161およびLys-162は、それぞれ、I-CreIのVal-151、Leu
-152およびAsp-153と、構造的に相同性がある。したがって、これらのアミノ
酸を、I-MsoI用のN末端融合ポイントとして選択することができる。さらに、I-
MsoIのX線結晶構造により、アミノ酸161~166は、自然にC-キャップとして
作用し、ペプチド鎖の方向を逆転するタンパク質のC末端でターンを開始することが明ら
かである。したがって、ループ1のCキャップ部分を取除くために、リンカをそのN末端
で縮められれば、Ile-66を、N末端融合ポイントとして選択することができる。I
-MsoIのPro-9、Thr-10およびGlu-11は、それぞれ、I-CreI
のLys-7、Glu-8およびPhe-9と、構造的に相同性があり、I-MsoIに
関するC末端融合ポイントとして選択することができる(表7)。さらに、I-MsoI
の配列:L
7Q
8P
9T
10E
11A
12は、天然N-キャップ(表5のモチーフ2)を
形成するので、Leu-7を、融合ポイントとして挙げることができる。
【表7】
【0100】
表3または6中のリンカはどれも、単鎖I-MsoIエンドヌクレアーゼの製造に使用
することができる。たとえば、Lys-162およびPro-9を融合ポイントとして使
用して一対のI-MsoIサブユニットを機能的単鎖メガヌクレアーゼに結合するために
、表6のリンカ9を使用してもよい。一実施形態では、プロリンは構造的に制約されてい
るので、Pro-9を異なるアミノ酸(たとえば、アラニンまたはグリシン)に変える。
これは、Thr-10をC末端融合ポイントとして選択すること、および表3または6に
列挙されたリンカのC末端への付加的アミノ酸を付加することと類似している。たとえば
、表8のリンカ26および27は、C末端での単一アミノ酸の付加を除いて表6のリンカ
9と同一であり、C末端融合ポイントにおいてPro-9(I-CreI Lys-7と
構造的に相同性のある)からThr-10(I-CreI Glu-8に構造的に相同性
のある)への変化する原因となる。
【0101】
別の実施形態では、実施例4に記載するように、I-166がN末端融合ポイントとし
て選択され、Leu-7がC末端融合ポイントとして選択される、表8のリンカ28~3
0から選択されるリンカ配列を使用して、I-Msoに由来する単鎖メガヌクレアーゼの
製造を成功させることもできる。I-166がN末端融合ポイントとして選択されるので
、ループ1のCキャップ部分(表6の各リンカの最初の6個のアミノ酸に対応する)を移
動させることができる。さらに、リンカ28-30のαへリックス1は、表6に挙げられ
るリンカに対して、へリックスの追加の1ターンに対応する3個のアミノ酸(AAS、表
8中の下線部)で延長される。リンカ28-30および特定の融合ポイントを使用して、
一対のI-Mso-由来サブユニットを含む、プロテアーゼ-耐性型の高活性単鎖メガヌ
クレアーゼを製造することが可能である(実施例4参照)。
【表8】
【0102】
4.I-CeuIに由来する単鎖メガヌクレアーゼ
I-CeuIは、I-CreIに構造的に近い同族体であり、このメガヌクレアーゼの
DNA結合特異性を再設計する類似の方法が存在している(国際公開公報第2007/0
47859号)。先に挙げた単鎖I-CreIメガヌクレアーゼの製造方法は、I-Ce
uIに直接適用することができる。I-CeuIのアミノ酸Ala-210、Arg-2
11およびAsn-212は、それぞれ、I-CreIのVal-151、Leu-15
2およびAsp-153と構造的に相同性がある。したがって、これらのアミノ酸を、I
-CeuI用のN末端融合ポイントとして選択することができる。I-CeuIのSer
-53、Glu-54およびSer-55は、それぞれ、I-CreIのLys-7、G
lu-8およびPhe-9と構造的に相同性があり、I-CeuI用のC末端融合ポイン
トとして選択しうる(表9)。
【表9】
【0103】
表3または6中のいずれのリンカも、単鎖I-CeuIエンドヌクレアーゼの製造に効
果的である可能性がある。たとえば、I-CeuIサブユニットは、Asn-212をN
末端融合ポイントとして、Ser-53をC末端融合ポイントとして使用して、表6のリ
ンカ9によって結合しうる。
【0104】
I-CeuI用に選択されたC末端融合ポイントは、アミノ酸1~52をC末端I-C
euIサブユニットから除去する結果となる。構造分析(Spiegelら(2006)
,Structure14:869-880)は、これらのアミノ酸が、I-CeuIの
面に静止し、アミノ酸94~123により提供される疎水性表面積の相当量を埋める、構
造ドメインを形成することを明らかにする。したがって、このN末端ドメインの除去によ
り、単鎖メガヌクレアーゼ中のC末端I-CeuIサブユニットが不安定化される可能性
がある。この可能性を軽減するため、このN末端ドメインの除去によって、曝される疎水
性アミノ酸を極性アミノ酸に突然変異させることができる(たとえば、β分岐状ではない
疎水性アミノ酸をSerに突然変異させることができ、一方β分岐状の疎水性アミノ酸を
Thrに突然変異させることができる)。たとえば、Leu-101、Tyr-102、
Leu-105、Ala-121およびLeu-123をSerに突然変異させることが
でき、一方、Val-95、Val-98およびIle-113をThrに突然変異させ
ることができる。
【0105】
あるいは、C末端I-CeuIサブユニットのN末端ドメインを、大部分、無処理のま
ま残し、トランケートされたリンカを介してN末端サブユニットに結合することができる
。これは、C末端融合ポイントとしてLys-7、Pro-8、Gly-9またはGlu
-10を使用して、達成することができる。該リンカは、その長さ(すなわち、(GSS
)4Gまたは(GSS)5G)の約50%までトランケートされた、可撓性Gly-Se
rリンカ(たとえば、表3のリンカ)でありえる。あるいは、該リンカは、ターン1内で
トランケートされた表6のリンカのいずれであってもよい。したがって、例として、表6
のリンカ9を使用して、単鎖I-CeuIメガヌクレアーゼを以下の組成で作ることがで
きる。
N末端サブユニットN2I2-SLPGSVGGLSPSQASSAASSASSSP
GS-G9C末端サブユニット
【0106】
5.二種の異なるLAGLIDADGファミリメンバに由来する単鎖メガヌクレアーゼ
また、本発明により、サブユニットのそれぞれが異なる天然LAGLIDADGドメイ
ンに由来する単鎖メガヌクレアーゼの製造も可能になる。本明細書で記載される「異なる
」は、同じ天然LAGLIDADGファミリメンバに由来しないLAGLIDADGサブ
ユニットを言う。したがって、本明細書で使用されるように、同じファミリメンバから合
理的に設計されたLAGLIDADGサブユニット(たとえば、DNA切断特異性に関し
て遺伝子操作されている、二つのI-CreIサブユニット)は、「異なる」とは考えな
い。具体的には、本発明は、異なるモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ、または
ジ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼの二つのLAGLIDADGドメインのどちら
かに由来するC末端サブユニットに結合するモノ-LAGLIDADGメガヌクレアーゼ
(たとえば、I-CreI、I-MsoIまたはI-CeuI)に由来するN末端サブユ
ニットを含む、単鎖メガヌクレアーゼの製造を可能にする。たとえば、DNA認識部位特
異性に関して合理的に設計されていても、されていなくてもよいC末端I-MsoIサブ
ユニットに結合するN末端I-CreIサブユニット(これも、DNA認識部位特異性に
関して合理的に設計されていても、されていなくてもよい)を含む単鎖メガヌクレアーゼ
を製造することができる。
【0107】
I-CreI、I-MsoIおよびI-CeuIの場合、望ましい融合ポイントおよび
リンカは先に記載した通りである。たとえば、単鎖I-CreIからI-MsoI融合は
、I-CreI Asp-153をI-MsoI Thr-10に結合するため、表6の
リンカ9を使用して製造することができる。表9は、ジ-LAGLIDADGメガヌクレ
アーゼI-SceI、I-DmoIおよびI-AniIからの個々のLAGLIDADG
ドメイン用の可能性のあるC末端融合ポイントを列挙する。
【表10】
【0108】
表7、9および10に列挙された融合ポイントは、問題になっているメガヌクレアーゼ
と、I-CreI融合ポイントに構造的に相同性のあるアミノ酸位置が同定されたI-C
reIとの間の構造比較に基づいている。また、融合ポイントは、I-CreIに対する
タンパク質配列アラインメントを使用して、構造的に特徴付けられていないLAGLID
ADGサブユニットにおいても同定することができる。これは、保存LAGLIDADG
モチーフの位置に基づき、任意のLAGLIDADGサブユニットにおいて簡単に同定す
ることができるC末端融合ポイントに特に当てはまることである。LAGLIDADGモ
チーフの始点の4~6残基N末端であるアミノ酸は、許容可能なC末端融合ポイントであ
る。
【0109】
異なるLAGLIDADGエンドヌクレアーゼからのサブユニット間の二量体化の境界
面は変化するので、該サブユニットは、単鎖ポリペプチドとして共有結合されたとしても
、機能的「ヘテロ二量体」に会合しないかもしれない。会合を促進するために、二つのサ
ブユニットの間の境界面を国際公開公報第2007/047859号に記載するように、
合理的に設計することができる。最も簡単には、これは、境界面残基を一つのサブユニッ
トから他へ置換することを含む。たとえば、I-CreIおよびI-MsoIは、本質的
に、I-CreI Glu-8(これは、I-MsoIの相同位置におけるThr、アミ
ノ酸10である)、およびLeu-11(これは、I-MsoIの相同位置におけるAl
a、アミノ酸13である)での界面領域において相違する。したがって、I-CreIお
よびI-MsoIサブユニットは、I-CreIサブユニットのGlu-8およびLeu
-11を、それぞれ、ThrおよびAlaに変えることによって、あるいはI-MsoI
サブユニットのThr-10およびAla-13を、それぞれ、GluおよびLeuに変
えることによって、効率的に相互作用させることができる。
【0110】
また、コンピュータによるタンパク質設計アルゴリズムのような技術も、サブユニット
境界面を合理的に設計するために使用することができる。該方法は、当該分野で公知であ
る。たとえば、Chevalierらは、I-CreIおよびI-DmoIのN末端LA
GLIDADGドメインの間の境界面を再設計するために、コンピュータによるアルゴリ
ズムを使用して、該二つが相互作用することを可能にした(Chevalierら(20
02),Mol.Cell 10:895-905)。これらの結果を考慮に入れれば、
I-CreIに由来するN末端サブユニットと、I-DmoIのN末端LAGALIDA
DGドメインに由来するC末端サブユニットとを含む単鎖メガヌクレアーゼは、(1)表
2のI-CreI中のN末端融合ポイントを選択し、(2)表10のI-DmoI中のC
末端融合ポイントを選択し、(3)表6のリンカを選択し(または、規定される規則に基
づいて類似するリンカを設計し)、および(4)Chevalierらが提案するように
、突然変異L11A、F16I、K96NおよびL97FをI-CreIサブユニットに
、および突然変異I19W、H51FおよびL55RをI-DmoIサブユニットに取り
込むことによって製造することができる。
【0111】
あるいは、定向進化のような実験的な方法を、二つの異なるLAGLIDADGサブユ
ニットの間の境界面を操作するために使用することができる。該方法は当該分野で公知で
ある。たとえば、サブユニット境界面中の特異的なアミノ酸が無作為化された遺伝子ライ
ブラリを作ることができ、該二つのサブユニット間の相互作用を可能にするライブラリメ
ンバを、実験的にスクリーニングすることができる。そのようなスクリーニング方法は、
当該分野で公知であり(たとえば、Sussmanら(2004),J.Mol.Bio
l.342:31-41、Chamesら(2005),Nucl.Acids Res
.33:el78、Seligmanら(2002),Nucl.Acids Res.
30:3870-9,Arnouldら(2006),J.Mol.Biol.355:
443-58)、そして酵母または細菌の細胞内でハイブリッドDNA部位を切断する、
二つの異なるLAGLIDADGサブユニットを含む単鎖メガヌクレアーゼの能力に関し
て、試験を行うことができる。
【0112】
6.変更されたDNA切断特異性、活性および/またはDNA結合親和性を持つ単鎖メガ
ヌクレアーゼ
本発明は、種々の方法を使用して、DNA切断特異性に関して遺伝子操作されている、
個々のLAGLIDADGサブユニットを含む単鎖メガヌクレアーゼを製造するために使
用することができる。該方法として、合理的な設計(たとえば、国際公開公報第2007
/047859号)、コンピュータを用いる設計(たとえば、Ashworthら(20
06),Nature 441:656-659)、および遺伝子選択(Sussman
ら(2004),J.Mol.Biol.342:31-41、Chamesら(200
5),Nucl.Acids Res.33:el78、Seligmanら(2002
),Nucl.Acids Res.30:3870-9,Arnouldら(2006
),J.Mol.Biol.355:443-58)が挙げられる。そのようなメガヌク
レアーゼは、野生型メガヌクレアーゼによって認識される部位とは異なるDNA部位に的
を絞ることができる。また、本発明は、合理的に設計され、変更した活性(たとえば、国
際公開公報第2007/047859号、Arnouldら(2007),J.Mol.
Biol371(1):49-65)、または国際公開公報第2007/047859号
に記載されるようなDNA結合親和性を有するLAGLIDADGサブユニットを結合す
るためにも、使用することができる。
【0113】
7.組換え細胞および生物の製造方法
本発明の態様は、さらに、単鎖メガヌクレアーゼを使用して、組換え、遺伝子導入また
はその他、遺伝子組換え細胞および生物を産生する方法も提供する。したがって、ある実
施形態では、細胞または生物のゲノムDNA中の単一部位または比較的少ない部位で、二
本鎖切断端を特異的に起こすように、組換え単鎖メガヌクレアーゼを成長させ、相同組換
えにより関心のある配列を正確に挿入すること(複数を含む)を可能にする。他の実施形
態では、細胞または生物のゲノムDNA中の単一部位または比較的少ない部位で、二本鎖
切断端を特異的に起こすように、組換えメガヌクレアーゼを成長させ、(a)非相同的末
端結合による関心のある配列の挿入を殆ど起こさせないようにすること、あるいは(b)
非相同的末端結合により標的配列を混乱することを可能にする。関心のある配列の相同組
換えまたは非相同的末端結合に関して、本明細書で使用される用語「挿入」は、関心のあ
る配列が染色体に組み込まれるように、関心のある配列を染色体に連結することを意味す
る。相同組換えの場合、本来のDNAが、該DNAと同じ長さであるが、変更されたヌク
レオチド配列を持つ外因性DNAによって置き換えられるように、挿入された配列は、内
因性配列を置き換えることができる。あるいは、挿入された配列は、それが置き換える配
列よりも多いまたは少ない塩基を含みうる。
【0114】
したがって、本発明のこの態様によれば、組換え生物として、コメ、コムギ、コーン(
トウモロコシ)およびライムギのような単子葉植物種、およびマメ科植物(たとえば、イ
ンゲンマメ、ダイズ、レンズマメ、ピーナッツ、エンドウマメ)、アルファルファ、クロ
ーバ、タバコ、およびアラビドプシスのような双子葉植物種が挙げられるが、これらに限
定されない。さらに、組換え生物として、ヒトおよびヒトではない霊長類、ウマ、ウシ、
ヤギ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、トカゲ、サカナ、およ
びショウジョウバエ種のような昆虫を挙げることができるが、これらに限定されない。他
の実施形態では、生物は、カンジダ、パンカビまたは酵母類のような真菌類である。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、関心のある配列を、成熟組換え生物になり
うる、または得られた遺伝子組換え生物がそのゲノム中に挿入された関心のある配列を持
つ子孫を生じさせる生殖細胞または幹細胞のような細胞に導入することを含む。
【0116】
メガヌクレアーゼタンパク質は、細胞に送達され、ゲノムDNAを切断することができ
、これによって、当該分野で公知の種々の異なるメカニズムにより、該切断部位で、関心
のある配列を相同組換えまたは非相同的末端結合させる。たとえば、組換えメガヌクレア
ーゼタンパク質は、マイクロインジェクションまたはリポソームトランスフェクション(
たとえば、Lipofectamine(商標),Invitrogen社,Carls
bad,CA)(これらに限定されない)を始めとする技術によって、細胞に導入するこ
とができる。リポソーム形成は、標的細胞を持つ脂質二重膜融合を促進するために使用す
ることができ、これによって、その表面と会合しているリポソームまたはタンパク質の内
容物を、細胞中に持ち込むことが可能になる。あるいは、酵素を融合し、細胞摂取を指示
するHIV TATタンパク質からの摂取ペプチドのような、適正な摂取ペプチドとする
ことができる(たとえば、Hudeczら(2005),Med.Res.Rev.25
:679-736参照)。
【0117】
あるいは、当該分野で公知の技術を使用して、メガヌクレアーゼタンパク質をエンコー
ドする遺伝子配列をベクタに挿入し、真核細胞にトランスフェクトする(たとえば、Au
subelら,Current Protocols in Molecular Bi
ology,Wiley1 999参照)。関心のある配列を、同じベクタ、異なるベク
タに、または当該分野で公知の他の方法によって、導入することができる。
【0118】
DNAトランスフェクション用のベクタの限定ではない例示として、ウィルス性ベクタ
、プラスミド、コスミドおよびYACベクタが挙げられる。DNA配列のトランスフェク
ションは、当業者に公知の種々の方法によって達成することができる。たとえば、リポソ
ームおよび免疫リポソームは、DNA配列を細胞に送達するために使用される(たとえば
、Lasicら(1995),Science 267:1275-76参照)。さらに
、ベクタを細胞に導入するために、ウィルスを利用することができる(たとえば、米国特
許第7,037,492号参照)。あるいは、トランスフェクション手法は、ベクタをネ
イキッドDNAとして導入するように、利用することができる(たとえば、Ruiら(2
002),Life Sci.71(15):1771-8参照)。
【0119】
核酸を細胞に送達する一般的方法として、(1)化学的方法(Grahamら(197
3),Virology54(2):536-539、Zatloukalら(1992
),Ann.N.Y.Acad.Sci.,660:136-153、(2)マイクロイ
ンジェクション(Capecchi(1980),Cell 22(2):479-48
8)、エレクトロポレーション(Wongら(1982),Biochim.Bioph
ys.Res.Commun.107(2):584-587、Frommら(1985
),Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 82(17):5824-58
28、米国特許第5,384,253号)、およびバリスティックインジェクション(J
ohnstonら(1994),Methods Cell.Biol.43(A):3
53-365、Fynanら(1993),Proc.Nat’l Acad.Sci.
USA 90(24):11478-11482)のような物理的方法、(3)ウィルス
性ベクタ(Clapp(1993),Clin.Perinatol.20(1):15
5-168、Luら(1993),J.Exp.Med.178(6):2089-20
96、Eglitisら(1988),Avd.Exp.Med.Biol.241:1
9-27、Eglitisら(1988),Biotechniques 6(7):6
08-614)、および(4)受容体介在性メカニズム(Curielら(1991),
Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 88(19):8850-8854
、Curielら(1992),Hum.Gen.Ther.3(2):147-154
、Wagnerら(1992),Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 8
9(13):6099-6103)が挙げられる。
【0120】
ある実施形態では、ゲノムに挿入された関心のある配列を含有する、遺伝子組換え植物
を産生する。ある実施形態では、植物細胞に、組換えメガヌクレアーゼおよび関心のある
配列に対応するDNA配列であって、メガヌクレアーゼ認識配列および/または標的配列
に実質的に同一の配列によって挟まれていても、あるいは挟まれていなくてもよいDNA
配列をトランスフェクトすることによって、遺伝子組換え植物を産生する。他の実施形態
では、植物細胞に、切断により非相同的末端結合が促進され、認識配列を含有する標的配
列を混乱させるような、組換えメガヌクレアーゼだけに対応するDNA配列をトランスフ
ェクトすることによって、遺伝子組換え植物を産生する。そのような実施形態では、メガ
ヌクレアーゼ配列は、宿主植物細胞においてメガヌクレアーゼの発現を可能にする調節配
列のコントロール下にある。これらの調節配列として、NOSプロモータのような構成植
物プロモータ、デキサメタゾン誘導性プロモータ(たとえば、Gremillonら(2
004),Plant J.37:218-228参照)のような化学的誘導性遺伝子プ
ロモータ、およびLGC1プロモータ(たとえば、Singhら(2003),FEBS
Lett.542:47-52参照)のような植物組織特異的プロモータが挙げられる
が、これらに限定されない。
【0121】
植物細胞にDNAを導入する適切な方法としては、DNAを細胞に導入することができ
る実質的にいかなる方法も挙げられ、たとえば、アグロバクテリウム感染、プロトプラス
トのPEG介在形質転換(Omirullehら(1993),Plant Molec
ular Biology,21:415-428)、乾燥/抑制介在DNA摂取、エレ
クトロポレーション、シリコンカーバイド繊維による攪拌、バリスティックインジェクシ
ョン、または微粒子銃などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
他の実施形態では、組換えメガヌクレアーゼを使用して遺伝子組換え動物を産生する。
植物細胞と同様に、核酸配列を、生殖細胞または最終的に遺伝子導入生物になる細胞に導
入する。いくつかの実施形態では、細胞は受精卵であり、外因性DNA分子を受精卵の前
核に注入することができる。次いで、マイクロインジェクトされた卵を、偽妊娠仮親の卵
管に移し、成長させる。組換えメガヌクレアーゼは受精卵中で発現し(たとえば、3-ホ
スホグリセリン酸キナーゼのような、構成プロモータのコントロール下で)、ゲノム中の
1個または数個の別々の部位への関心のある配列の相同組換えを容易にする。あるいは、
Gosslerら(1986),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83
:9065 9069によって記載されているように、遺伝子導入発生用の組換え胚幹(
「ES」)細胞を利用することによって、遺伝子組換え動物を得ることができる。
【0123】
ある実施形態では、組換え哺乳類発現ベクタは、特定の細胞型において、核酸の組織特
異的発現を優先的に導くことができる。組織特異的調節エレメントは、当該分野で公知で
ある。適切な組織特異的プロモータの限定ではない例示として、アルブミンプロモータ(
肝臓特異的なもの、Pinkertら(1987),Genes Dev.1:268-
277)、リンパ系特異的プロモータ(CalameおよびEaton(1988),A
dv.Immunol.43:235-275)、特に、T細胞受容体のプロモータ(W
inotoおよびBaltimore(1989),EMBO J.8:729-733
)および免疫グロブリン(Banerjiら(1983),Cell 33:729-7
40、QueenおよびBaltimore(1983),Cell 33:741-7
48)、神経特異的プロモータ(たとえば、神経フィラメントプロモータ、Byrneお
よびRuddle(1989),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86
:5473-5477)、膵臓特異的プロモータ(Edlundら(1985),Sci
ence 230:912-916)、および乳腺特異的プロモータ(たとえば、乳漿プ
ロモータ、米国特許第4,873,316号および欧州特許公報第0264166号)が
挙げられる。また、発育的に調節されたプロモータも包含され、たとえば、マウスhox
プロモータ(KesselおよびGruss(1990),Science249:37
4-379)およびα胎児タンパク質プロモータ(CampesおよびTilghman
(1989),Genes Dev.3:537-546)がある。
【0124】
ある実施形態では、単鎖メガヌクレアーゼに、ペプチドエピトープ(たとえば、HA、
FLAGまたはMycエピトープ)でタグを付け、発現レベルや局在化をモニターしても
よい。いくつかの実施形態では、メガヌクレアーゼは、核局在化シグナル(たとえば、S
V40からの核局在化シグナル)のようなサブ細胞局在化シグナル、あるいは葉緑体また
はミトコンドリア局在化シグナルに融合してもよい。他の実施形態では、メガヌクレアー
ゼを、核外移行シグナルに融合し、これを細胞質に局在化してもよい。また、メガヌクレ
アーゼを、DNA修復または相同組換えを刺激するタンパク質(たとえば、recA、R
AD51、RAD52、RAD54、RAD57またはBRCA2)のような無関係のタ
ンパク質またはタンパク質ドメインに融合してもよい。
【0125】
8.遺伝子治療の方法
本発明の態様は、遺伝子治療のために組換えメガヌクレアーゼを使用することを可能に
する。本明細書で使用される「遺伝子治療」は、少なくとも一つの遺伝子または遺伝子調
節配列、たとえば、プロモータ、エンハンサまたはサイレンサの機能コピーを患者に導入
し、その構造および/または機能に欠陥のある遺伝子または遺伝子調節領域を置き換える
ことを含む、治療的処置を意味する。また、用語「遺伝子治療」は、遺伝子の発現を減ら
すまたは消す、有害な遺伝子または調節エレメント(たとえば、癌遺伝子)に対してなさ
れる修飾を指すこともできる。遺伝子治療は、先天的な状態、突然変異または患者の生涯
にわたる特異的な遺伝子座に対する障害に起因する状態、または感染性生物に起因する状
態を治療するために行うことができる。
【0126】
本発明のいくつかの態様では、遺伝子発現に影響を及ぼすゲノムの領域に外因性核酸配
列を挿入することによって、機能障害性遺伝子を、置換えまたは無能にする。ある実施形
態では、状態を緩和するように、組換えメガヌクレアーゼを、修飾されるべきゲノムの領
域内の特定の配列に標的化する。配列は、エクソン、イントロン、プロモータまたは遺伝
子の機能障害性発現を起こしている他の調節領域内の領域が可能である。本明細書で使用
される用語「機能障害性発現」は、遺伝子産物をあまりにも少なく、遺伝子産物をあまり
にも多く産生する細胞による、あるいは必要な機能のない、または必要以上の機能を持つ
異なる機能を有する遺伝子産物を産生することによる、遺伝子産物の異常な発現を意味す
る。
【0127】
修飾領域に挿入された外因性核酸配列は、遺伝子を正常化する「修復された」配列を提
供するために使用することができる。遺伝子修復は、正しい遺伝子配列を、再構築される
べき正しい機能を可能にする遺伝子に導入することによって、達成することができる。こ
れらの実施形態では、挿入されるべき核酸配列は、タンパク質の完全コード配列が可能で
あり、またはある実施形態では、修復されるべき領域だけを含む遺伝子のフラグメントが
可能である。他の実施形態では、挿入されるべき核酸配列は、異常な発現または調節を起
こす突然変異が修復されているプロモータ配列または他の調節エレメントを含む。他の実
施形態では、挿入されるべき核酸配列は、変異遺伝子中にはない適正な翻訳停止コドンを
含有する。また、核酸配列は、適正な翻訳停止シグナルのない組換え遺伝子において、翻
訳を停止するための配列を有することもできる。
【0128】
あるいは、核酸配列は、遺伝子の調節配列を混乱させることにより、または遺伝子機能
を排除するサイレンサを提供することにより、遺伝子機能を一斉に除去することができる
。いくつかの実施形態では、外因性核酸配列は、翻訳停止コドンを提供し、遺伝子産物の
発現を阻止する。他の実施形態では、外因性核酸配列は、転写停止要素を提供し、完全長
RNA分子の発現を阻止する。さらに他の実施形態では、遺伝子機能を、塩基挿入、塩基
欠失および/または非相同的末端結合によるフレームシフト突然変異を導入することによ
って、メガヌクレアーゼで直接混乱させる。
【0129】
多くの場合、正しい遺伝子配列を、標的細胞または疾患状態の原因である細胞集団に導
くことが望ましい。そのような治療上の標的化は、健康な細胞が治療による標的となるこ
とを回避する。これにより、治療の効率は増加し、一方、治療による健康な細胞へ与える
可能性のある潜在的な副作用は減少する。
【0130】
ゲノムに挿入されるべき組換えメガヌクレアーゼ遺伝子および関心のある配列を、関心
のある細胞に送達することは、種々のメカニズムによって達成することができる。いくつ
かの実施形態では、ウィルスの複製を阻止するために不活性化した、特別のウィルス性遺
伝子を持つウィルスによって、核酸を細胞に送達する。したがって、標的細胞内のみへ送
達および維持することができるが、標的細胞または組織内で複製する能力は保持しないよ
うに、ウィルスを変更することができる。一つ以上のDNA配列を、ベクタのように作用
するウィルス性ゲノムを産生するように、変更されたウィルス性ゲノムに導入することが
でき、これを宿主ゲノムに挿入し次いでこれを発現させてもよいし、しなくてもよい。よ
り具体的には、ある実施形態は、MFGまたはpLJベクタ(これらに限定されない)の
ようなレトロウィルス性ベクタを使用することを含む。MFGベクタは、polおよびe
nvタンパク質をエンコードするDNA配列が欠失し、複製欠損になっている、単純化さ
れたモロニーマウス白血病ウィルスベクタ(MoMLV)である。また、pLJレトロウ
ィルス性ベクタは、MoMLVの形態でもある(たとえば、Kormanら(1987)
,Proc.Nat’l Acad.Sci.,84:2150-2154参照)。他の
実施形態では、組換えアデノウィルスまたはアデノ関連ウィルスを、送達ベクタとして使
用することができる。
【0131】
他の実施形態では、組換えメガヌクレアーゼタンパク質および/または組換えメガヌク
レアーゼ遺伝子配列の標的細胞への送達を、リポソームを使用することによって達成する
。核酸および/またはタンパク質カーゴを含有するリポソームの製造は、当該分野で公知
である(たとえば、Lasicら(1995),Science 267:1275-7
6参照)。免疫リポソームは、細胞関連抗原に対する抗体をリポソームに取込み、メガヌ
クレアーゼ用のDNA配列、またはメガヌクレアーゼそれ自体を特異的な細胞型に送達す
ることができる(たとえば、Lasicら(1995),Science 267:12
75-76、Youngら(2005),J.Calif.Dent.Assoc.33
(12):967-71、Pfeifferら(2006),J.Vace.Surg.
43(5):1021-7参照)。リポソーム製剤を製造し使用する方法は、当該分野に
おいて周知である(たとえば、米国特許第6,316,024号、米国特許第6,379
,699号、米国特許第6,387,397号、米国特許第6,511,676号および
米国特許第6,593,308号、およびこれらに挙げてある参考文献を参照)。いくつ
かの実施形態では、関心のある配列、および組換えメガヌクレアーゼタンパク質または組
換えメガヌクレアーゼ遺伝子配列を送達するために、リポソームを使用する。
【0132】
9.病原体感染を治療する方法
また、本発明の態様は、病原体による感染を治療する方法も提供する。病原体生物とし
て、単純ヘルペスウィルス1、単純ヘルペスウィルス2、ヒト免疫不全ウィルス1、ヒト
免疫不全ウィルス2、痘瘡ウィルス、ポリオウィルス、エプスタイン・バー・ウィルス、
およびヒトパピローマウィルス(これらに限定されない)のようなウィルス、およびバシ
ラスアンスラシス、ヘモフィルス種、肺炎球菌種、黄色ブドウ球菌、ストレプトコッカス
種、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌およびマイコプラスマ結核病原体(これらに限定され
ない)のような細菌生物が挙げられる。また、病原体生物として、カンジダ、ブラストミ
セス、クリプトコッカスおよびヒストプラズマ種(これらに限定されない)のような真菌
生物が挙げられる。
【0133】
いくつかの実施形態では、単鎖メガヌクレアーゼは、病原体ゲノム内の認識配列、たと
えば、成長、複製、または病原体の毒性に必須の遺伝子または調節エレメントに、標的化
されうる。ある実施形態では、認識配列は、細菌プラスミド中にあってもよい。病原体ゲ
ノムにおける認識配列のメガヌクレアーゼ介在切断は、非相同的末端結合を刺激すること
によって、標的化された必須遺伝子内で、挿入、欠失またはフレームシフトの形態で、突
然変異を刺激することができる。あるいは、細菌プラスミドの切断により、プラスミドと
ともにそこにエンコードされていた全ての遺伝子、たとえば、毒性遺伝子(たとえば、炭
疽菌致死因子遺伝子)または抗生物質耐性遺伝子も消滅する結果となりうる。先に記載し
たように、メガヌクレアーゼを、当該分野で一般的な技術を使用して、タンパク質あるい
は核酸の形態で、感染した患者、動物または植物に送達してもよい。ある実施形態では、
メガヌクレアーゼ遺伝子を、病原体細菌に送達するバクテリオファージゲノムに取込んで
もよい。
【0134】
また、本発明の態様は、ある形態の癌を処置するための治療を提供する。ヒトウィルス
は、しばしば、腫瘍形成(たとえば、エプスタイン・バー・ウィルスと上咽頭癌、ヒトパ
ピローマウィルスと子宮頸癌)と関連するので、これらのウィルス性病原体の不活性化に
より、癌の発現および進行を阻止してもよい。あるいは、単鎖メガヌクレアーゼを使用し
て、これらの腫瘍関連ウィルスのゲノムに標的化された二本鎖切断端に対して、DNA損
傷応答経路によりアポトーシスを開始させるように使用してもよい。この方法では、ウィ
ルス性ゲノムを内部に持つ腫瘍細胞に、アポトーシスを選択的に誘導することが可能であ
るかもしれない。
【0135】
10.遺伝子型同定および病原体同定方法
また、本発明の態様は、インビトロでの分子生物学研究開発のためのツールも提供する
。真核生物および原核細胞系生物から、プラスミド、PCR産生物、BAC配列、YAC
配列、ウィルスおよびゲノム配列のような核酸を、単離、クローニングおよび操作するた
めに、部位特異的なエンドヌクレアーゼ(たとえば、制限酵素)を使用することは、当該
分野ではよくあることである(たとえば、Ausubelら,Current Prot
ocols in Molecular Biology,Wiley 1999参照)
。したがって、いくつかの実施形態では、単鎖メガヌクレアーゼを、核酸配列をインビト
ロで操作するために使用する。たとえば、同じDNA分子内の一対の認識配列を認識する
単鎖メガヌクレアーゼを、細菌プラスミド、BACまたはYACへの連結のような後続の
操作のために、介在DNAセグメントを単離するために使用することができる。
【0136】
他の態様では、本発明は、病原体遺伝子および生物を同定するツールを提供する。一実
施形態では、単鎖メガヌクレアーゼを、疾患を起こす対立遺伝子を健康な対立遺伝子から
区別するために、疾患と相関関係がある多形性遺伝子領域に対応する認識部位を切断する
のに使用することができる(たとえば、ヒトCFTR遺伝子のΔF-508対立遺伝子を
認識する単鎖メガヌクレアーゼ、実施例4参照)。この実施形態では、ヒト患者または他
の生物から単離されたDNA配列を、可能であれば追加の部位特異的なヌクレアーゼとと
もに、単鎖メガヌクレアーゼで消化し、得られたDNAフラグメントパターンを、ゲル電
気泳動法、キャピラリ電気泳動法、質量分析法、または当該分野で公知の他の方法によっ
て分析する。この細分化パターンおよび、具体的には、単鎖メガヌクレアーゼによる切断
の存在または不存在は、認識配列がゲノム中に存在するか否かを明らかにすることにより
、生物の遺伝子型を示す。別の実施形態では、単鎖メガヌクレアーゼを、病原体ウィルス
、真菌または細菌のゲノム中の多形領域に対して標的化し、生物を同定するために使用す
る。この実施形態では、単鎖メガヌクレアーゼは、病原体に固有の認識配列を切断し(た
とえば、バクテリア中の16Sおよび23S rRNA遺伝子間のスペーサー領域、たと
えば、van der Giessenら(1994),Microbiology 1
40:1103-1108参照)、ゲノムのエンドヌクレアーゼ消化後の他の密接に関連
した生物から病原体を区別し、電気泳動、質量分析、または当該分野で公知の他の方法に
よるその後の細分化パターンの分析のために使用することができる。
【0137】
11.カスタムDNA結合ドメインの製造方法
他の態様では、本発明は、エンドヌクレアーゼ切断活性のない単鎖DNA結合タンパク
質を提供する。単鎖メガヌクレアーゼの触媒活性は、触媒作用(たとえば、I-CreI
におけるQ47のEへの突然変異、Chevalierら(2001),Biochem
istry.43:14015-14026参照)、I-SceIにおけるD44または
D145のNへの突然変異、I-CeuIにおけるE66のQへの突然変異、I-Mso
IにおけるD22のNへの突然変異)に関与するアミノ酸に突然変異を起こすことによっ
て、除去することができる。次いで、不活性化されたメガヌクレアーゼを、転写アクチベ
ータ(たとえば、GAL4トランス活性化ドメインまたはVP16トランス活性化ドメイ
ン)、転写抑制因子(たとえば、クルッペルタンパク質からのKRABドメイン)、DN
Aメチラーゼドメイン(たとえば、M.CviPIまたはM.SssI)、またはヒスト
ンアセチル基転移酵素ドメイン(たとえば、HDAC1またはHDAC2)(これらに限
定されない)を始めとする他のタンパク質から効果ドメインに融合することができる。操
作されたDNA結合ドメイン、いわゆる操作されたZnフィンガドメイン、および効果ド
メインを構成するキメラタンパク質は、当該分野で公知である(たとえば、Papwor
thら(2006),Gene 366:27-38参照)。
【実施例0138】
本発明を、以下の実施例によってされに説明するが、これらの実施例を、限定として解
釈すべきではない。当業者は単なる日常の実験、本明細書に記載の特定の物質および手段
と数多くの同等のものを使用することで、認識し、あるいは確認することができるであろ
う。そのような同等のものとは、以下の実施例に続く、請求項の範囲に包含されるもので
ある。実施例1では、先に記載した単鎖I-CreIメガヌクレアーゼの製造方法(Ep
inatら(2003),Nucleic Acids Res.31:2952-62
、国際公開公報第2003/078619号)が、非パリンドロームDNA部位を認識す
るメガヌクレアーゼの製造としては十分ではないという証拠を示す。実施例2および3で
は、可撓性Gly-Serリンカ(実施例2)または設計された構造化リンカ(実施例3
)を使用する、本明細書に記載された方法が、非パリンドロームDNA部位を認識する単
鎖I-CreIメガヌクレアーゼを製造するのに十分であるという証拠を示す。実施例2
および3は、以下で、特にI-CreIに基づく単鎖メガヌクレアーゼについて記載する
が、I-SceI、I-MsoI、I-CeuI、I-AniIに由来するサブユニット
で構成される単鎖メガヌクレアーゼおよび他のLAGLIDADGメガヌクレアーゼも本
明細書で記載されるのと同様に製造および使用することができる。