(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029902
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】結核菌シャペロニン60.1ペプチドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20230228BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230228BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230228BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230228BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230228BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230228BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230228BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230228BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230228BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20230228BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230228BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230228BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20230228BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230228BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230228BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20230228BHJP
C07K 14/35 20060101ALN20230228BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230228BHJP
【FI】
C07K7/08
A61P29/00
A61P37/08
A61P17/00
A61P31/04
A61P9/10
A61P13/12
A61P11/06
A61P11/02
A61P11/00
A61P1/04
A61P37/06
A61P21/04
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P7/06
A61P9/10 101
A61P5/14
A61P37/02
A61P27/02
A61K45/00
A61K38/10
C07K14/35 ZNA
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022188982
(22)【出願日】2022-11-28
(62)【分割の表示】P 2019538337の分割
【原出願日】2018-01-11
(31)【優先権主張番号】1700557.0
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】519251209
【氏名又は名称】レボロ バイオセラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライトフット,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】クーパー,ニコラ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】結核菌(Mycobacterium tuberculosis)ポリペプチド・シャペロニン60.1から誘導される新規ペプチド、ならびに医学分野における、たとえば炎症性疾患の予防および/または治療のための、それらの使用を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなる、単離もしくは組換えペプチド分子、または機能的に同等なその断片もしくはバリアント、並びに該ペプチド分子、および1つもしくは複数の製薬上許容される添加剤を含有する医薬組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のグループ(i)から(ix)の1つから選択されるアミノ酸配列からなる、単離もしくは組換えペプチド分子:
(i) XHGLNVNTLSYGD (配列番号2)であって、配列中Xは存在しないか、もしくはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される、配列番号2の配列;
またはi(i)からi(iii)のうち1つもしくは2つ以上を含んでなるそのバリアント;
i(i) 1つもしくは複数のアミノ酸残基がD型である、
i(ii) GLNVNTLSYGD(配列番号26)が逆さになっている、もしくは
i(iii) カルボキシ末端アミノ酸残基が第一級カルボキサミド基に変換されている;
(ii) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(iii) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4):
(iv) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(v) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(vi) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(vii) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(viii) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);ならびに
(ix) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10)
または機能的に同等なその断片もしくはバリアント。
【請求項2】
以下のグループ(a)~(n)の1つから選択されるアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の単離もしくは組換えペプチド分子であって:
(a) XHGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号11);
(b) XdGysltnvnlGh-NH2 (配列番号12);
(c) XhGlnvntlsyGd-NH2 (配列番号13);
(d) hGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号14);
(e) HGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号15);
(f) hGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号16);
(g) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(h) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4);
(i) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(j) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(k) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(l) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(m) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);および
(n) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10);
式中、大文字はL-アミノ酸残基、小文字はD-アミノ酸残基を示し、Xは存在しないか、またはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される、前記ペプチド分子。
【請求項3】
アミノ酸配列HGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号17)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項4】
アミノ酸配列bAla-HGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号18)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項5】
アミノ酸配列Ac-dGysltnvnlGh-NH2 (配列番号19)、Ac-hGlnvntlsyGd-NH2 (配列番号20)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項6】
アミノ酸配列hGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号14)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項7】
アミノ酸配列HGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号15)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項8】
アミノ酸配列hGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号16)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項9】
アミノ酸配列DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項10】
医学および獣医学分野で使用するための、請求項1~9のいずれか1つに記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項11】
急性および/または慢性炎症性疾患の治療および/または予防に使用するための、請求項10に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項12】
炎症性疾患が好酸球増加症および/または好中球増加症と関連している請求項11にしたがって使用するための、請求項11に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項13】
炎症性疾患が、感染症に伴う炎症(敗血症性ショック、敗血症、または全身性炎症反応症候群(SIRS)など)、虚血再灌流傷害、エンドトキシン致死、関節炎、補体関連型超急性拒絶反応、腎炎、サイトカインもしくはケモカイン誘導型肺損傷、非アレルギー性喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、嚢胞性線維症、肺線維症、炎症性腸疾患、クローン病、および潰瘍性大腸炎からなる1群から選択される、請求項11または12にしたがって使用するための、請求項11または12に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項14】
炎症性疾患が、心臓手術、冠動脈バイパス、大動脈瘤、弁手術、腎臓病、冠動脈バイパス術、大動脈基部および上行大動脈瘤修復手術を含むがそれらに限定されない胸部手術などの、外科的介入に関連する、急性腎損傷、急性呼吸促拍症候群のような、外科手術に伴う急性臓器不全である、請求項11または12にしたがって使用するための、請求項11または12に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項15】
慢性閉塞性肺疾患の治療および/または予防に用いるための、請求項10に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項16】
自己免疫疾患の治療および/または予防に用いるための、請求項10に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項17】
自己免疫疾患が、溶血性貧血、血小板減少症、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、アテローム性動脈硬化、自己免疫性脳炎、結合組織病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、自己免疫性肺炎症、ギランバレー症候群、自己免疫性甲状腺炎、重症筋無力症、移植片対宿主病、および自己免疫性炎症性眼疾患からなる1群から選択される、請求項16にしたがって使用するための、請求項16に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項18】
アレルギー性疾患の治療および/または予防に用いるための、請求項10に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項19】
アレルギー性疾患が、湿疹、皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性気道疾患、好酸球増加症候群、接触皮膚炎;好酸球性気道炎症および気道過敏性を特徴とする、アレルギー喘息および内因性喘息を含めた喘息のような呼吸器疾患、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、好酸球性肺炎、アレルギー性気管支炎気管支拡張症、職業性喘息、気道過敏症症候群、間質性肺疾患、好酸球増加症候群、肺寄生虫症;アナフィラキシー、血清病、薬物反応、食物アレルギー、昆虫毒アレルギー、肥満細胞症、過敏性肺炎、蕁麻疹、血管性浮腫、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、多形性紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群、アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、性病性角結膜炎、ならびに巨大乳頭結膜炎からなる1群から選択される、請求項18にしたがって使用するための、請求項18に記載の単離もしくは組換えペプチド分子。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか1つに記載のペプチド分子、および1つもしくは複数の製薬上許容される添加剤を含有する医薬組成物。
【請求項21】
患者において請求項11~19のいずれか1つに記載の疾患を予防および/または治療するための医薬の製造における、請求項1~19のいずれか1つに記載の単離もしくは組換えペプチド分子の使用。
【請求項22】
前記単離もしくは組換えペプチド分子が、1つもしくは複数の治療薬と併用される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
治療薬が、疾患修飾薬、鎮痛薬、気管支拡張薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬、アレルゲン免疫療法薬、抗ウイルス薬、抗生物質、抗体、およびステロイドから選択される、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
治療薬が気管支拡張薬である、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
治療薬が、副腎皮質ステロイド、抗ロイコトリエン、サイトカインモノクローナル抗体、およびテオフィリンから選択される、請求項22に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)ポリペプチド・シャペロニン60.1から誘導される新規ペプチド、ならびに医学分野における、たとえば炎症性疾患の予防および/または治療のための、それらの使用に関する。
【0002】
国際特許出願、公開番号WO02/040037は、結核菌由来Cpn60.1(MtCpn60.1)を含有する医薬組成物、ならびにMtCpn60.1をコードする核酸分子を開示する。この出願はまた、全長ポリペプチドから誘導することができる、類似した生物活性を有するいくつかの具体的なペプチド断片を開示する。これらの分子のさまざまな治療上の使用も開示されるが、それには自己免疫疾患、アレルギー疾患、Th2型免疫応答を特徴とする疾患、および好酸球増加症関連疾患の治療および/または予防が含まれる。
【0003】
国際特許出願、公開番号WO2009/106819は、MtCpn60.1から誘導された一連の新規ペプチドを開示しており、これにはアミノ酸配列:DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD(配列番号1)を有する「ペプチド4」と命名されたペプチドが含まれる。配列番号1は抗炎症活性を示し、アレルギー性気道炎症の動物モデルにおいて好酸球の動員を有意に減少させることが示された。
【0004】
WO2013057499は、生物活性を有することが判明している配列番号1のいくつかの小断片を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/040037号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/106819号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2013/057499号パンフレット
【発明の概要】
【0006】
本発明は、配列番号1(DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD)の特定の新規小断片およびバリアントが生物活性、ならびに改善された薬物動態特性を示すという予想外の発見に基づいている。本発明の新規ペプチドは、高収率での調製および単離に好都合となる比較的短いアミノ酸鎖長を有するため、医薬品としての開発に特に適している。そうしたペプチドはまた、MtCpn60.1および既知のそのペプチド断片と比べて、改善されたin vivoでの生物学的安定性を有することが示されている。より詳細には、本明細書の請求項に関わるペプチドは、改善された半減期を有する。
【0007】
したがって、本発明のある態様において、本出願は、単離もしくは組換えペプチド分子を与えるが、これはグループ(i)から(ix)のうち1つから選択されるアミノ酸配列からなるものであるか、または機能的に同等なそれらの断片もしくはバリアントである:
(i) XHGLNVNTLSYGD (配列番号2)であって、配列中Xは存在しないか、もしくはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される、配列番号2の配列;
またはi(i)からi(iii)のうち1つもしくは2つ以上を含んでなるそのバリアント;
i(i) 1つもしくは複数のアミノ酸残基がD型である、
i(ii) GLNVNTLSYGDが逆さになっている、もしくは
i(iii) カルボキシ末端アミノ酸残基が第一級カルボキサミド基に変換されている;
(ii) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(iii) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4):
(iv) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(v) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(vi) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(vii) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(viii) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);ならびに
(ix) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10)。
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、上記ペプチドが、上記シャペロニン60.1に由来する既知のペプチドと比べて有意に向上した血漿中の半減期を有すると同時に、抗炎症薬として有効であることを見出した。
【0009】
本発明のペプチドは、化学的に、または組換えにより合成され、全長シャペロニン60.1とは異なる化学的、構造的、および機能的特性をいくつか有している。
【0010】
「機能的に同等な」とは、定義されたアミノ酸配列(i)から(ix)のうち1つもしくは複数の配列が示す任意の機能、またはそれらの配列に起因する任意の機能と、同一であるか、または実質的に類似した機能(たとえば生物学的活性)を有する、任意のペプチドおよび/またはそのバリアントもしくは断片を意味する。たとえば、(i)から(ix)で定義されたアミノ酸配列からなるペプチドは、好酸球および/または好中球の、炎症部位への輸送を減少させるので、喘息、多発性硬化症、クローン病、関節リウマチ、および炎症性腸疾患などの、さまざまな疾患および障害の予防および/または治療にそれを使用することができる。特定の生物学的活性に関する機能的同等性は、従来のモデルおよび方法を用いて;たとえば、炎症原(inflammogen)に誘導された好酸球もしくは好中球の肺への流入を、感作された(炎症原 - オボアルブミン)、またはナイーブな(炎症原 - LPS)動物において測定することによって、評価することができる。
【0011】
「バリアント」とは、上記の配列(i)~(ix)に対して66%以上、たとえば70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。したがって、「バリアント」という用語は、たとえば組換えDNA技術を用いて作製される、アミノ酸挿入、欠失、および置換によって天然に存在する分子とは異なっているポリペプチドおよびペプチドを指す。目的の活性をなくさずに、どのアミノ酸残基を置換し、付加し、または欠失させることができるかを決定することに関する指針は、個別のポリペプチドの配列を相同ペプチドの配列と比較して、相同性の高い領域(保存領域)に起こるアミノ酸配列変化の数を最小化することによって、またはアミノ酸をコンセンサス配列と置き換えることによって、見出すことができる。
【0012】
あるいはまた、これらの同一もしくは類似のポリペプチドをコードする組換えバリアントは、遺伝暗号の「冗長性」を利用して合成または選択することができる。さまざまなコドン置換、たとえばさまざまな制限酵素部位を生じるサイレントな変化などを導入して、プラスミドもしくはウイルスベクターへのクローニング、または、特定の原核もしくは真核細胞系における発現を最適化することができる。ポリヌクレオチドにおける変異はポリペプチドに反映されるが、ポリペプチドの任意の部分の特性を改変し、リガンド結合親和性、鎖間親和性、もしくは分解/代謝回転速度などの特性を変化させるために、他のペプチドのドメインをポリペプチドに付加することもできる。
【0013】
好ましくは、アミノ酸「置換」は、あるアミノ酸を、類似した構造的および/または化学的性質を有する別のアミノ酸で置き換えた結果であり、すなわち保存的アミノ酸置換である。「保存的」アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて、行うことができる。たとえば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンがある;極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンがある;正電荷を持つ(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジンおよびヒスチジンがある;負電荷を持つ(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸がある。「挿入」および「欠失」は、約1~10アミノ酸の範囲であることが好ましいが、1~5アミノ酸、たとえば1、2、3、4または5アミノ酸であることがより好ましい。許容される変異は、組換えDNA技術を用いて、系統的に、ポリペプチド分子にアミノ酸の挿入、欠失、または置換を行い、その結果得られた組換えバリアントの生物学的活性をアッセイすることによって、実験で確認することができる。
【0014】
あるいはまた、機能の変更が望ましい場合には、挿入、欠失、または非保存的変異を設計して、改変ポリペプチドを作製することができる。このような変異は、たとえば、本発明のポリペプチドの1つもしくは複数の生物学的機能または生化学的性質を変化させる可能性がある。たとえば、このような変異は、リガンド結合親和性、鎖間親和性、または分解/代謝回転速度などの、ポリペプチドの性質をへんかさせることができる。さらに、このような変異は、発現用に選択された宿主細胞での発現、スケールアップなどに、よりよく適合したポリペプチドを生成するように、選択することができる。
【0015】
生物学的活性を示すことができる本発明のペプチドの断片もまた、本発明に含まれる。このような断片は直鎖状であってもよいが、既知の方法を用いて環化されていてもよく、たとえば、H. U. Saragovi, et al., Bio/Technology 10, 773-778 (1992) およびR. S. McDowell, et al., J. Amer. Chem. Soc. 114, 9245-9253 (1992)に記載の通りであって、これら2つの文献は参考として本明細書に含まれる。このような断片を、タンパク質結合部位の結合価の増加を含めて、さまざまな用途に応じて、免疫グロブリンなどのキャリア分子に融合することもできる。
【0016】
「同一性」とは、配列をアラインして、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要であればギャップを導入した後に、当該配列のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基の数またはパーセンテージ(結果の表示に応じて)を意味しており、保存的置換を配列同一性の一部とはみなさない。
【0017】
2つのポリペプチド間のパーセンテージ配列同一性は、たとえば、University of Wisconsin Genetic Computing Group のGAPプログラムなどの、適当なコンピュータープログラムを用いて求めることができるが、当然のことながら、パーセント同一性は、配列を最適にアラインしたポリペプチドに対して計算される。アラインメントはまた、Clustal W プログラム(Thompson et al., (1994) Nucleic Acids Res. 22, 4673-80)を用いて行うこともできる。使用するパラメーターは次の通りとすることができる:Fast Pairwise Alignmentパラメーター:K-tuple(word) size; 1、window size; 5、gap penalty; 3、number of top diagonals; 5。スコアリング法:xパーセント;多重アラインメントパラメーター:gap open penalty; 10、gap extension penalty; 0.05。スコアリング行列:BLOSUM。
【0018】
配列同一性はたとえば、Jotun Hein法(Hein, J. (1990) Methods Enzymol. 183:626-645)を用いて求めることができる。配列間の同一性はまた、当技術分野で公知の他の方法によって、たとえば、ハイブリダイゼーション条件をさまざまに変化させることによって、求めることもできる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、グループ(a)~(n)の1つから選択されるアミノ酸配列からなる単離もしくは組換えペプチド分子に関するが:
(a) XHGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号11);
(b) XdGysltnvnlGh-NH2 (配列番号12);
(c) XhGlnvntlsyGd-NH2 (配列番号13);
(d) hGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号14);
(e) HGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号15);
(f) hGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号16);
(g) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(h) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4);
(i) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(j) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(k) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(l) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(m) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);および
(n) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10);
式中、大文字はL-アミノ酸残基、小文字はD-アミノ酸残基を示し、Xは存在しないか、またはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される。
【0020】
アミノ酸およびペプチド誘導体の命名法は、IUPAC-IUB規則に従う(J. Peptide Sci. 1999, 5, 465-471)。D-アミノ酸は小文字の略号で表され、たとえばL-アラニンはAlaまたはAで、D-アラニンはalaまたはaで表される。
【0021】
本発明のペプチドは、5~40アミノ酸残基からなることが好ましく、5~30、または5~20アミノ酸残基からなることが好ましい。
【0022】
好ましい実施形態において、単離もしくは組換えペプチド分子は、アミノ酸配列HGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号17)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる。
【0023】
好ましい実施形態において、単離もしくは組換えペプチド分子は、アミノ酸配列bAla-HGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号18)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる。
【0024】
別の好ましい実施形態において、単離もしくは組換えペプチド分子は、アミノ酸配列Ac-dGysltnvnlGh-NH2 (配列番号19)、Ac-hGlnvntlsyGd-NH2 (配列番号20)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる。
【0025】
他の好ましい実施形態において、本発明は、アミノ酸配列hGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号14)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離もしくは組換えペプチド分子を提供する。
【0026】
さらに他の好ましい実施形態において、本発明は、アミノ酸配列HGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号15);またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離もしくは組換えペプチド分子を提供する。
【0027】
さらに他の好ましい実施形態において、アミノ酸配列hGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号16);またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離もしくは組換えペプチド分子が与えられる。
【0028】
別の好ましい実施形態において、アミノ酸配列DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離もしくは組換えペプチド分子が与えられる。
【0029】
MtCpn60.1は、T.H. Kong et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 1993, 90, 2608-2612、およびJ.C. Lewthwaite et al, Infection and Immunity, 2001, 69(12), 7349-7355に記載の方法を用いて、クローニングして発現させることができる。MtCpn60.1はまた、Lionex (Germany)から市販されている。
【0030】
本発明のペプチドは、当技術分野で公知の従来法を用いて調製および/または単離することができる。たとえば、従来法を用いた液相もしくは固相合成法によって、または自動固相合成装置を用いて、たとえば、I. Coin, Nature Protocols, 2007, 2, 3247-3256に記載のように。好ましくは、本発明のペプチドは、G.B. Fields and R.L. Noble, Int. J. Peptide Protein Res., 1990, 35(3), 161-214に記載の方法に類似した方法を用いて、Fmoc固相合成法により調製される。ペプチドは、たとえば、H. U. Saragovi, et al., Bio/Technology 10, 773-778 (1992)、およびR. S. McDowell, et al., J. Amer. Chem. Soc. 114, 9245-9253 (1992)に記載の既知の方法によって環化させることが可能であって、これら2つの文献は参考として本明細書に含められる。このようなペプチドは、タンパク質の結合部位の価数を増やすことを含めて、多くの目的のために、免疫グロブリンなどのキャリア分子と融合させることができる。
【0031】
本発明の化合物には塩を含めると理解される。代謝産物およびプロドラッグも含まれる。本発明による化合物は、任意の同位体誘導体も含む。
【0032】
患者が他に1つもしくは複数の治療薬の投与を受けている場合、またはペプチドが1つもしくは複数の治療薬と併用して与えられる場合に、本発明にしたがってペプチドを使用することができる。治療薬は、生体免疫調節薬などの疾患修飾薬、鎮痛薬、気管支拡張薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬、アレルゲン免疫療法薬、抗ウイルス薬、抗生物質、抗体、ステロイド、ならびに本発明にしたがって慢性の再発寛解型疾患のいずれかの治療に通例使用される薬物から選択することができるがそれに限定されない。
【0033】
疾患修飾薬にはたとえば、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、レフルノミド、メトトレキサート、およびミノサイクリン、ならびにTNFαを標的とする生物製剤、たとえばアバタセプト、アダリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブおよびゴリムマブなど、または免疫調節薬、たとえばアレムツズマブ、インターフェロンβ-1b、βインターフェロン-1a、フマル酸ジメチル、コパキソン、ナタリズマブおよびテリフルノミドなど、がある。鎮痛薬には、パラセタモール、非ステロイド性抗炎症薬、たとえばイブプロフェンおよびアスピリンなど、コデイン、トラマドール、モルヒネ、アミトリプチリン、ガバペンチン、ならびにアヘン薬がある。
【0034】
抗炎症薬には、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリンおよびPDE4阻害薬、たとえばロフルミラストなど、吸入、皮下、筋肉内、舌下、静脈内および経口投与用の低用量、中用量および高用量副腎皮質ステロイド薬がある。抗ウイルス薬にはオセルタミビルがある。抗生物質にはアモキシシリンがある。抗体としては、抗IgE抗体(たとえばオマリズマブ)、サイトカインシグナル伝達系を修正する抗体(たとえば抗IL-5モノクローナル抗体メポリズマブ)が挙げられる。ステロイドには、フルチカゾンプロピオン酸エステルおよびフルチカゾンフロ酸エステル、ベクロメタゾンジプロピオン酸エステル、ブデソニド、シクレソニド、フルニソリド、およびモメタゾンがある。本発明の使用は、追加の1つもしくは複数の治療薬が副腎皮質ステロイド、抗ロイコトリエン、サイトカインモノクローナル抗体、またはテオフィリンから選択されるならば、好ましいといえる。追加の薬剤が気管支拡張薬であるならば、使用はやはり好ましいといえる。好ましい気管支拡張薬には、短時間作用型β2刺激薬、たとえばサルブタモールなど、長時間作用型β2刺激薬、たとえばサルメテロール、ホルモテロール、オロダテロールおよびビランテロールなど、短時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬、たとえばイプラトロピウム臭化物など、ならびに長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬、たとえばアクリジニウム臭化物、チオトロピウム臭化物、およびグリコピロニウム臭化物など、がある。
【0035】
ペプチドの使用
本発明のさらに別の態様によれば、医学もしくは獣医学において使用するために本明細書に記載のペプチドが与えられる。
【0036】
本発明のペプチドは、ヒトまたは非ヒト動物、典型的には哺乳動物に使用するためのものとすることができる。
【0037】
好ましくは、本発明のペプチドは、急性および/または慢性炎症性疾患の治療および/または予防のために使用される。急性および/または慢性炎症性疾患の好ましい例には、感染症に伴う炎症(敗血症性ショック、敗血症、または全身性炎症反応症候群(SIRS)など)、冠動脈血栓および大脳動脈閉塞などの虚血再灌流傷害、ショック肺症候群、エンドトキシン致死、関節炎(特に関節リウマチまたは慢性炎症性関節炎)、補体関連型超急性拒絶反応、腎炎、サイトカインもしくはケモカイン誘導型肺損傷、非アレルギー性喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、嚢胞性線維症、肺線維症、炎症性腸疾患、クローン病、および潰瘍性大腸炎などがある。
【0038】
他に好ましい炎症性疾患としては;外科手術に伴う(関連する)急性臓器不全、たとえば以下の外科的介入(網羅的なリストではない);心臓手術、冠動脈バイパス、大動脈瘤、弁手術、食道切除術、腎臓病、冠動脈バイパス術、大動脈基部および上行大動脈瘤修復手術に関連する、急性腎損傷、急性呼吸促拍症候群などが挙げられる。
【0039】
他の実施形態において、本発明は、慢性閉塞性肺疾患の予防および/または治療のための、本明細書に記載のペプチドの使用を提供する。
【0040】
また他の実施形態において、本発明は、自己免疫疾患の予防および/または治療のための、本明細書に記載のペプチドの使用を提供する。
【0041】
本明細書で使用される「自己免疫疾患」という用語には、自己免疫プロセスが疾患の発病機序の一因となっていることが証明されうる疾患が含まれる。このような疾患は典型的にはヘルパーTリンパ球-1(Th-1)型免疫反応と関係している。
【0042】
本発明のペプチド分子によって予防および/または治療することができる自己免疫疾患の例には、溶血性貧血、血小板減少症、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、アテローム性動脈硬化、自己免疫性脳炎、結合組織病、多発性硬化症、自己免疫性肺炎症、ギランバレー症候群、自己免疫性甲状腺炎、移植片対宿主病、および自己免疫性炎症性眼疾患などの自己免疫疾患が挙げられる。好ましい自己免疫疾患としては、関節リウマチおよび多発性硬化症がある。
【0043】
他の実施形態において、本発明は、アレルギー性疾患の予防および/または治療のための、本明細書に記載のペプチドの使用を提供する。本発明のペプチド分子によって予防および/または治療することができるアレルギー性疾患の例には、湿疹、皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性気道疾患、好酸球増加症候群、接触皮膚炎;好酸球性気道炎症および気道過敏性を特徴とする、アレルギー喘息および内因性喘息を含めた喘息のような呼吸器疾患、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、好酸球性肺炎、アレルギー性気管支炎気管支拡張症、職業性喘息、気道過敏症症候群、間質性肺疾患、好酸球増加症候群、肺寄生虫症;アナフィラキシー、血清病、薬物反応、食物アレルギー、昆虫毒アレルギー、肥満細胞症、過敏性肺炎、蕁麻疹、血管性浮腫、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、多形性紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群、アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、性病性角結膜炎、ならびに巨大乳頭結膜炎がある。免疫修飾が望ましい他の疾患(たとえば臓器移植を含める)もまた、本発明のペプチド分子を用いて治療可能である。好ましいアレルギー性疾患としては、喘息、アレルギー性鼻炎、およびアトピー性皮膚炎が挙げられる。
【0044】
本明細書で使用される「アレルギー性疾患」および「アレルギー症状(状態)」という用語には、ヘルパーTリンパ球-2(Th-2)型免疫反応に関連する状態が含まれる。アレルギー反応において、高いIgEレベルが生じ、Th-1反応を越えてTh-2反応が優位となった結果、炎症反応が生じる。
【0045】
WO2013057499は評価に適したアッセイを開示する;
(a) アレルギー反応に及ぼすポリペプチドまたはそのアンタゴニストの治療的効果、
(b) 胸腺細胞または脾細胞の細胞傷害性
(c) T細胞依存性免疫グロブリン反応およびアイソタイプスイッチ(これは、特に、T細胞依存性抗体反応を修飾し、Th1/Th2プロファイルに影響を及ぼすタンパク質を同定するものである)、
(d) 混合リンパ球反応(MLR)アッセイ(これは、特に、主としてTh1およびCTL反応を生じるタンパク質を同定するものである)
(e) 樹状細胞依存性アッセイ(これは特に、ナイーブT細胞を活性化する樹状細胞によって発現されるタンパク質を同定するものである)
(f) リンパ球生存/アポトーシス(これは特に、スーパー抗原誘導後のアポトーシスを防止するタンパク質、およびリンパ球恒常性を制御するタンパク質を同定するものである)(g) T細胞のコミットメントおよび発生の初期段階に影響を及ぼすタンパク質
(h) 関節リウマチに対する本発明のペプチド分子の免疫修飾効果は、実験動物モデル系で判定することができる。
【0046】
本明細書で使用される「治療(処置)」という用語は、治療中の疾患の1つもしくは複数の症状を、治療前の症状と比較して、減少、軽減、もしくは除去することを意味する。たとえば、作用を受ける可能性のある症状としては、好酸球増加症、特定のサイトカインの分泌低下、Th2に基づく免疫反応、アレルギー反応、および自己抗体の存在がある。
【0047】
本明細書で使用される「予防」という用語は、前記疾患の1つもしくは複数の症状の発現または程度で評価され、疾患の発症を遅らせるかもしくは防止すること、またはその重症度を軽減することを意味する。
【0048】
本発明はさらに、ヒトを含めた哺乳動物に、本明細書に記載のペプチドを投与することを含む、上記疾患を予防および/または治療する方法を提供する。
【0049】
本発明はさらに、上記疾患の予防および/または治療のための薬剤の製造における、本明細書に記載のペプチドの使用を提供する。
【0050】
医薬組成物
さらに他の態様において、本発明は、上記の方法で使用するための、上記ペプチド分子および1つもしくは複数の製薬上許容される添加剤を含有する医薬組成物を提供する。
【0051】
本明細書に記載の化合物は、便利な方法で投与するために調剤することができる。本発明は、上記の方法に使用するための、上記のペプチド分子、および1つまたは複数の製薬上許容される添加剤を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0052】
任意の適当な投与経路を用いることができる。たとえば、経口、局所、非経口、眼内、直腸内、膣内、吸入、頬側、舌下、および鼻腔内の投与経路はいずれも適している考えられる。
【0053】
本発明のペプチド分子および医薬組成物は、非経口で、たとえば、静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、脳室内、大槽内、頭蓋内、筋肉内、または皮下に、投与することができるが、点滴の手法によって投与してもよい。それらは滅菌水溶液の形で最適に使用されるが、その水溶液は他の物質、たとえば、溶液を血液と等張にするのに十分な塩またはブドウ糖を含有してもよい。水溶液は、必要に応じて(好ましくはpH 3~9となるように)適切に緩衝化されるべきである。適当な非経口製剤を滅菌条件下で調製することは、当業者によく知られている標準的な調剤技術によって達成される。
【0054】
非経口投与に適した薬剤および医薬組成物には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を所定のレシピエントの血液と等張にする溶質を含有する、滅菌注射水溶液および非水溶液;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含有する滅菌水性懸濁液および非水性懸濁液がある。薬剤および組成物は、単回投与または複数回投与分の容器、たとえば密封されたアンプルおよびバイアルなどで与えられ、使用の直前に注射用蒸留水などの滅菌液体キャリアを添加するだけでよい、凍結乾燥された状態で保管することができる。その場で注射用溶液および懸濁液を、既述のような滅菌された粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
【0055】
本発明の分子、薬剤、および医薬組成物は、鼻腔内に、または吸入によって投与することも可能であって、ドライパウダー吸入器の形で、または加圧容器、ポンプ、スプレーもしくはネブライザーからのエアゾールスプレーの形で、適当な噴霧剤として、たとえばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、たとえば1,1,1,2-テトラフルオロエタン (HFA 134A3)もしくは1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA3)など、二酸化炭素、または他の適当なガスを使用して、便利に投与される。加圧エアゾールの場合、投与単位は、バルブを装備することによって測定され、計量された量を投与することができる。加圧容器、ポンプ、スプレーまたはネブライザーには、たとえば、エタノールおよび噴霧剤の混合物を溶媒として用いた、活性薬物の溶液もしくは懸濁液が入っており、追加してソルビタントリオレアートなどの滑沢剤を含んでいてもよい。吸入器用のカプセルおよびカートリッジ(たとえばゼラチン製)は、本発明の薬物、および乳糖もしくはデンプンなどの適当な粉末基剤の混合粉末を含有するように製剤することができる。
【0056】
エアゾール製剤またはドライパウダー製剤は、それぞれの計量された用量または「ひと吹き」が、患者に投与するために、少なくとも200pgの本発明の分子を含有するように準備されることが好ましい。当然のことながら、エアゾールの全体としての1日用量は患者ごとにさまざまであり、単回投与で投与されることもあるが、より一般的には、終日にわたって分割された用量で投与される。
【0057】
本発明のペプチド分子および医薬組成物は、経口で投与することもできる。そのプロセスは、体内でビタミンB12および/またはビタミンDを経口摂取するための自然のプロセスを使用し、タンパク質およびペプチドを同時に送達することができる。ビタミンB12および/またはビタミンD取り込み系に乗ることによって、本発明の核酸、分子、および医薬組成物は、腸壁を通り抜けることができる。ビタミンB12アナログおよび/またはビタミンDアナログと薬物との間で複合体が合成されるが、その複合体は、複合体のビタミンB12部分/ビタミンD部分における内因子(IF)に対する有意な親和性、ならびに複合体の活性物質の有意な生物活性の両方を保持するものである。
【0058】
本発明のペプチド分子および医薬組成物は、活性成分を含有する医薬組成物の形で、通常は、任意の非経口経路で、または鼻腔内に投与されるが、実施形態によっては経口で投与されることもある。治療される疾患および患者、ならびに投与経路に応じて、組成物はさまざまな用量で投与される。
【0059】
ヒトの治療において、本発明のペプチド分子および医薬組成物は、単独で投与することもできるが、ほとんどの場合、予定の投与経路および標準的な医薬実務に関して選択される、適当な医薬品添加物、希釈剤もしくは基剤と混合して投与される。
【0060】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、活性成分の、1日分の用量もしくは単位量、1日分を分割した用量、またはその適当な小部分を含有する、単位となる調剤である。
【0061】
たとえば、本発明のペプチド分子および医薬組成物は、即時放出、遅延放出、または制御放出で適用するために、錠剤、カプセル、坐剤、エリキシル剤、溶液剤または懸濁液剤(香料もしくは着色剤を含有してもよい)の形で、経口、頬側、または舌下投与することができる。本発明のペプチド分子および医薬組成物は、陰茎海綿体内注射で投与することもできる。
【0062】
このような錠剤は、微結晶セルロース、乳糖、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびグリシンなどの添加剤、デンプン(コーン、ジャガイモ、またはタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウムおよび複合ケイ酸塩などの崩壊剤、ならびにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ショ糖、ゼラチンおよびアラビアゴムなどの造粒結合剤を含有することができる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、およびベヘン酸グリセリルなどの滑沢剤が含まれていてもよい。
【0063】
これに類する固体組成物は、ゼラチンカプセルの賦形剤として使用されてもよい。これに関する好ましい添加剤には、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖もしくは高分子量ポリエチレングリコールがある。水性懸濁剤および/またはエリキシル剤用には、本発明の薬物は、さまざまな甘味剤もしくは香味剤、着色物質もしくは色素と混和され、乳化剤および/または懸濁剤と混和され、水、エタノール、プロピレングリコール、およびグリセリンなどの希釈剤、ならびにそれらの組み合わせと混和されることもある。
【0064】
ヒト患者への経口および非経口投与のための、本発明の分子、薬剤および医薬組成物の1日投与量レベルは、通常、成人1日あたり200pg~100mgであって、単回投与または分割された投与量で投与される。
【0065】
したがって、たとえば、本発明の分子のバイアル、錠剤またはカプセルは、適宜、一度に1つずつ、または2つずつ、または3つ以上の個数ずつ投与するために200pg~100mgの活性薬剤を含有する。いずれにしても医師は、個別の患者に最も適した正確な投与量を決定するが、それは個々の患者の年齢、体重および反応によって異なってくる。上記の投与量は、平均的な症例の例示である。もっと高いか、または低い投与量範囲がふさわしい独特の事例ももちろん存在する可能性があり、そうしたことは本発明の範囲に含まれる。
【0066】
あるいはまた、本発明の分子、薬剤および医薬組成物は、坐剤もしくは膣坐剤として投与されることがあるが、ローション、液剤、クリーム、ジェル、軟膏、または散剤として局所に適用されることもある。本発明の分子、薬剤および医薬組成物はまた、たとえば皮膚パッチを使用することによって、経皮的に投与されてもよい。それらは、特に眼の疾患を治療するために、眼内経路で投与されることもある。
【0067】
眼科用には、本発明の分子、薬剤および医薬組成物を、pH調整された滅菌等張食塩水中の微細化懸濁液として、または好ましくは、pH調整された滅菌等張食塩水中の溶液として製剤することができるが、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤と組み合わせてもよい。あるいはまた、ワセリンなどの軟膏剤中で製剤されてもよい。
【0068】
局所的な皮膚への塗布のために、本発明の分子、薬剤および医薬組成物は、例えば、以下の、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン剤、乳化ろう、および水のうち1つもしくは複数と混合して懸濁または溶解させた活性薬物を含有する適当な軟膏として製剤することができる。あるいはまた、例えば、以下の、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水のうち1つもしくは複数と混合して懸濁または溶解させた、適当なローションまたはクリームとして製剤することができる。
【0069】
口腔内の局所投与に適した製剤には、味付きの基剤、通常はショ糖およびアラビアゴムまたはトラガカント中に活性成分を含有するトローチ剤;ゼラチンおよびグリセリン、またはショ糖およびアラビアゴムなどの不活性基剤中に活性成分を含有する薬用ドロップ;ならびに適当な液体基剤中に活性成分を含有するマウスウォッシュがある。
【0070】
獣医学用には、本発明の分子、薬剤および医薬組成物は、通常の獣医学診療にしたがって適切に受け入れられる製剤として投与され、獣医は個別の動物に最適となる投与計画および投与経路を決定することができる。
【0071】
製剤は好都合にも、医薬製剤である。製剤は有利なことに、動物用製剤である。
【0072】
有利なことに、本発明によると、1日投与量レベルは、10pg~100mgである。好ましくは、1日投与量レベルは、20pg~50mg、20pg~10mg、または20pg~8mgで、単回投与、または分割投与で、投与される。
【0073】
好ましい医薬製剤としては、重量比で0.000001%以上5%以下の活性成分が存在する製剤が挙げられる。換言すると、医薬組成物の他の構成成分(すなわち補助剤、希釈剤および基剤の添加)に対する活性成分の割合は、重量比で少なくとも1:99(たとえば、少なくとも10:90、好ましくは少なくとも30:70、もっとも好ましくは少なくとも50:50)である。
【0074】
好ましくは、本発明の医薬組成物もしくは薬剤は、鼻腔内;経口;非経口;局所;点眼;坐剤;膣坐剤;または吸入経路を含んでなる、またはそれらからなる1群から選択される、少なくとも1つの経路での投与を可能にするように調剤される。このような投与経路に適した製剤は薬学および医学分野の当業者によく知られており、典型的な製剤は、上記および添付の実施例に記載される。
【0075】
典型的には、患者への投与間隔は、6時間から12時間の間である;好ましい実施形態において、患者への投与間隔は、前回投与後9時間から12時間の間である;より好ましくは患者への投与間隔は、12時間から12日の間である;さらにより好ましくは、患者への投与間隔は12日から6か月の間である。
【0076】
本発明の医薬組成物もしくは薬剤は、少なくとも1つの経路による投与を可能にするように製剤されることが好ましく、その経路は、鼻腔内;舌下、経口;非経口;局所;眼;坐剤;膣坐剤;または吸入経路を含むか、またはそれらからなる1群から選択されるものである。このような投与経路に適した製剤は薬学および医学分野の当業者によく知られており、典型的な製剤を上記および添付の実施例に記載する。
【0077】
図面の説明
以下の図面に関して、非限定的な実例をここに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】
図1は、LPS投与の0、30、および60分前に配列番号1が投与される場合に、マウスにおいて配列番号1(0.5 pg/マウス i.v)のLPS誘導性肺好中球流入に及ぼす影響を示す。
【
図2】
図2は、LPS投与の0、30、および60分前に配列番号3が投与される場合に、マウスにおいて配列番号3(50 pg/マウス i.v)のLPS誘導性肺好中球流入に及ぼす影響を示す。
【
図3】
図3は、LPS投与の0、30、60、および120分後に配列番号3が投与される場合に、マウスにおいて配列番号3(50 pg/マウス i.v)のLPS誘導性肺好中球流入に及ぼす影響を示す。
【
図4】
図4は、LPS投与の0、30、60、および120分後に配列番号1が投与される場合に、マウスにおいて配列番号1(50 pg/マウス i.v)のLPS誘導性肺好中球流入に及ぼす影響を示す。
【
図5】
図5は、配列番号17(0.05、0.5、および5 pg/用量)の、マウス肺へのLPS誘導性好中球流入に及ぼす影響を示す。
【
図6】
図6は、配列番号21、22、および18(50 pg/マウス)の、マウス肺へのLPS誘導性好中球流入に及ぼす影響を示す。
【
図7】
図7は、配列番号4(0.5、5、および500 pg/用量)の、マウス肺へのLPS誘導性好中球流入に及ぼす影響を示す。実施例
【実施例0079】
合成
合成および精製は、自動化フルオレニルメチルオキシカルボニル固相ペプチド合成法(Fmoc SPSS)を用いた。ペプチドは、数多くの切断可能なリンカーの1つにより誘導体化された2-クロロトリチルまたはTentaGelレジン上で、Fmoc/t-ブチル固相合成法を用いて合成された。一時的なN-アミノ基保護は、Fmoc基によって与えられ、t-ブチルエーテルがチロシン、セリン、およびスレオニンのヒドロキシル側鎖の保護のために使用されるが、t-ブチルエステルはアスパラギン酸およびグルタミン酸残基の側鎖を保護した。ヒスチジンおよびリジン側鎖はそれぞれ、N-トリチルおよびN-Boc誘導体として保護され、システインはS-トリチル誘導体、そしてアルギニンのグアニジン部分はPbf誘導体として保護された。
【0080】
合成が完了したらただちに、ペプチドは固体担体から切断され、スカベンジャーとしてトリイソブチルシランおよび水を含有するトリフルオロ酢酸(TEA)による処理によって、側鎖の保護基が除去された。蒸発によってTFAおよびスカベンジャーを除去し、ジエチルエーテル中でトリチュレートした後、調製用逆相HPLCによってペプチドの精製を行い、次いで凍結乾燥した。精製産物をその後、逆相HPLCおよび質量分析法により分析した。